(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053947
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】加熱装置及びガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H05B 3/06 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
H05B3/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160854
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】百々 大介
(72)【発明者】
【氏名】岸 典生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信吾
【テーマコード(参考)】
3K092
【Fターム(参考)】
3K092PP10
3K092QA01
3K092QB02
3K092QB03
3K092QB14
3K092QB24
3K092SS12
3K092SS13
3K092SS14
3K092TT16
3K092VV21
3K092VV28
(57)【要約】
【課題】支持体との接触部分における発熱体の溶損を抑制することにより、発熱体が有する発熱性能をより広範囲で利用する。
【解決手段】加熱装置10は、電気抵抗により発熱する発熱体20と、発熱体20が載置され、発熱体20を下方から支持する支持体30とを備えている。支持体30の熱伝導率は、発熱体20における支持体30に接触する部分である発熱側接触部20aの熱伝導率よりも高い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気抵抗により発熱する発熱体と、前記発熱体が載置され、前記発熱体を下方から支持する支持体とを備える加熱装置であって、
前記支持体の熱伝導率は、前記発熱体における前記支持体に接触する部分である発熱側接触部の熱伝導率よりも高いことを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記支持体の熱伝導率は、前記発熱側接触部の熱伝導率の1.1倍以上である請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記発熱体は、二珪化モリブデンにより構成されている請求項1又は請求項2に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記支持体は、点接触又は線接触により前記発熱体を支持する請求項1~3のいずれか一項に記載の加熱装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の加熱装置を含むガラス製造装置によりガラスを製造するガラスの製造方法であって、
前記発熱体の発熱温度を1000℃以上にしてガラスを加熱する加熱処理を行うことを特徴とするガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱装置及び加熱装置を使用したガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体装置やガラスなどの製造に用いられる加熱装置が開示されている。特許文献1の加熱装置は、電気抵抗により発熱する長尺状の発熱体と、発熱体を下方から支持する支持体とを備えている。特許文献1の加熱装置では、発熱体、及び支持体における発熱体との接触部分とを、二珪化モリブデン系セラミックにより形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の加熱装置は、発熱体に設定されている最高使用温度よりも低い温度で発熱体を使用している場合であっても、支持体との接触部分において発熱体が溶損により折れることがあった。溶損による発熱体の折れを防止するためには、発熱体の発熱温度を低く調整して使用することが考えられるが、この場合には、発熱体の発熱性能を十分に発揮させることができないという問題がある。
【0005】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、支持体との接触部分における発熱体の溶損を抑制することにより、発熱体が有する発熱性能をより広範囲で利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する加熱装置は、電気抵抗により発熱する発熱体と、前記発熱体が載置され、前記発熱体を下方から支持する支持体とを備える加熱装置であって、前記支持体の熱伝導率は、前記発熱体における前記支持体に接触する部分である発熱側接触部の熱伝導率よりも高い。
【0007】
前記支持体の熱伝導率は、例えば、前記発熱側接触部の熱伝導率の1.1倍以上である。前記発熱体は、例えば、二珪化モリブデンにより構成されている。
上記構成によれば、発熱体と支持体との接触部分において発熱体から支持体へ熱が移動しやすくなることにより、発熱体の発熱側接触部に熱が留まることが抑制される。その結果、発熱体の発熱側接触部の局所的な温度上昇が抑制されて、発熱側接触部に溶損が生じ難くなる。これにより、加熱装置を使用する際に、発熱体の発熱温度を最高発熱温度又は最高発熱温度により近い温度まで高めることができるようになり、発熱体が有する発熱性能をより広範囲で利用できる。
【0008】
上記加熱装置において、前記支持体は、点接触又は線接触により前記発熱体を支持することが好ましい。
この場合には、発熱体の発熱側接触部の面積を大きくすることで、支持体へ多くの熱を伝えることができる。
【0009】
上記課題を解決するガラスの製造方法は、上述の加熱装置を含むガラス製造装置によりガラスを製造するガラスの製造方法であって、前記発熱体の発熱温度を1000℃以上にしてガラスを加熱する加熱処理を行う。
【0010】
上記構成によれば、発熱体の発熱側接触部の局所的な温度上昇が抑制されて、発熱側接触部に溶損が生じ難くなる。そのため、安定してガラスを製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、支持体との接触部分における発熱体の溶損を抑制することにより、発熱体が有する発熱性能をより広範囲で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】シミュレーションにおける発熱体及び支持体の配置を示す説明図。
【
図4】(a)、(b)は、シミュレーション結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
図1に示すように、加熱装置10は、電気抵抗により発熱する発熱体20と、発熱体20が載置され、発熱体20を支持する支持体30とを備えている。
【0014】
発熱体20の形状は、特に限定されるものではないが、棒状であることが好ましい。棒状の発熱体20は、例えば、直線状の棒状であってもよいし、曲線状の棒状であってもよいし、直線状の部分と曲線状の部分とが組み合わされた棒状であってもよい。発熱体20の断面形状は、円形状であってもよいし、多角形状であってもよいし、その他の形状であってもよい。
【0015】
図1においては、一例として、U字状に延びる棒状であるとともに断面形状が円形状である発熱体20を図示している。
図1に示す発熱体20の両端部には、発熱体20に通電するための電極端子21が設けられている。
【0016】
発熱体20の種類は特に限定されるものではなく、公知の発熱体を用いることができる。発熱体20としては、例えば、二珪化モリブデン(MoSi2)、炭化ケイ素(SiC)、炭化タングステン(WC)、ジルコニア(ZrO2)、炭素(C)等の導電性セラミック材料により構成されるセラミック発熱体が挙げられる。
【0017】
導電性セラミック材料により構成される発熱体20は、導電性セラミック材料以外の成分を含有していてもよい。例えば、二珪化モリブデンにより構成される発熱体20は、二珪化モリブデン50~95体積%と、シリカ系酸化物相又はガラス相5~50体積%とからなる。他にも、二珪化モリブデンにより構成される発熱体20は、これらの成分の全体容量に対して、さらに、例えば、50体積%以下の他元素を添加したり、これらの成分に熱処理を施したりすることで、高温や雰囲気に耐性を有する。また、このような二珪化モリブデンと他のセラミックス又はガラスなどとの複合材料であっても、二珪化モリブデンに基づく発熱体としての機能を有する場合、二珪化モリブデンにより構成される発熱体20に含まれる。
【0018】
発熱体20の種類は、加熱装置10に要求される発熱温度に応じて適宜、選択することができる。加熱装置10に要求される発熱温度は、使用時における発熱体20の発熱部分の表面温度である。発熱温度は、例えば、800℃以上であり、1000℃以上であることが好ましい。また、発熱温度は、例えば、2500℃以下である。従来の加熱装置の場合、発熱体の最高発熱温度が1000℃以上であると、支持体との接触部分における発熱体の溶損が生じやすい。発熱体20の最高発熱温度は、例えば、製造元により発熱体20に設定されている最高使用温度である。
【0019】
なお、加熱装置10に要求される発熱温度は、加熱対象に応じて適宜設定できる。一例として、ガラス製造装置に用いる加熱装置10である場合、発熱温度は、例えば、1000~1800℃である。
【0020】
加熱装置10を備えるガラス製造装置は、例えば、ガラスを加熱する加熱処理を伴う工程を有するガラスの製造方法に用いられる。加熱処理において加熱の対象となるガラスとしては、例えば、ガラス原料、溶融ガラス、一旦成形されたガラスが挙げられる。
【0021】
図2に、ガラスの加熱処理を行うガラス製造装置40の一例を示す。ガラス製造装置40において、加熱装置10は、溶融炉本体Fの上部に備え付けられ、溶融炉本体Fに投入されるガラス原料M、及び溶融炉本体Fに貯留される溶融ガラスGを加熱するために用いられる。
【0022】
また、ガラスの加熱処理を行う場合、加熱装置10の発熱体20の発熱温度を1000℃以上にする。これにより、ガラス原料Mや溶融ガラスG等のガラスを十分に加熱できるとともに、ガラスの加熱処理を効率的に行える。
【0023】
支持体30は、その上部に発熱体20が載置されて、発熱体20を下方から支持するための構成である。
支持体30の形状は特に限定されるものではなく、棒状、板状、ブロック状などのいずれの形状であってもよい。なお、支持体30の形状は、発熱体20との接触面積が小さくなる形状であること、例えば、発熱体20との接触状態が点接触又は線接触になる形状であることが好ましい。
【0024】
例えば、発熱体20が断面円形状の棒状である場合、支持体30を断面形状が円形状である直線状の棒状として、発熱体20に対して交差する方向に延びるように支持体30を配置すると、発熱体20との接触状態が点接触になる。また、発熱体20が断面円形状の棒状である場合、支持体30を、断面形状が多角形状である棒状、平板状などの平面状の上面を有する形状として、平面状の上面が載置面となるように支持体30を配置すると、発熱体20との接触状態が線接触になる。
【0025】
支持体30は、発熱体20における支持体30との接触部分である発熱側接触部20aの熱伝導率よりも熱伝導率が高い材料により構成されている。ここで、発熱体20の発熱側接触部20aの熱伝導率及び支持体30の熱伝導率を導出する際の温度範囲は、特に限定されないが、発熱体20の使用温度範囲内の特定温度であることが好ましい。なお、発熱体20の発熱側接触部20aの熱伝導率及び支持体30の熱伝導率を導出する際の温度条件は等しくする必要がある。
【0026】
支持体30の熱伝導率Yは、例えば、発熱体20の発熱側接触部20aの熱伝導率Xの1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることが好ましい。また、支持体30の熱伝導率Yは、例えば、発熱体20の発熱側接触部20aの熱伝導率Xの5倍以下である。
【0027】
また、支持体30の熱伝導率Yは、例えば、発熱体20の発熱側接触部20aの熱伝導率Xとの差(=Y-X)が10W/mK以上であることが好ましく、30W/mK以上であることがより好ましい。また、上記差は、例えば、100W/mK以下である。
【0028】
支持体30を構成する材料としては、例えば、炭化ケイ素(SiC)、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、二珪化モリブデン(MoSi2)、炭化タングステン(WC)、炭素(C)等のセラミック材料、ムライト、ジルコン、アルミナ系電鋳耐火物等の耐火物などの公知の支持体に適用される材料が挙げられる。
【0029】
支持体30は、発熱体20の発熱側接触部20aの熱伝導率Xよりも熱伝導率が高く、発熱体20の発熱温度よりも耐熱温度が高い性質を有するように構成される。なお、支持体30の熱伝導率及び耐熱温度は、支持体30を構成する材料のみならず、支持体30の密度などの物性によっても変化する。
【0030】
支持体30の個数及び配置は特に限定されるものではなく、発熱体20を下方から支持することのできる個数及び配置であればよい。
図1においては、一例として、5本の直線棒状の支持体30を等間隔に平行に配置した場合を図示している。各支持体30は、図示しない保持部材に固定されている。
【0031】
次に、本実施形態の作用について説明する。
従来の加熱装置において、最高発熱温度よりも低い温度で使用している場合であっても、支持体との接触部分において発熱体が溶損する大きな原因は、発熱体から支持体への熱伝導にある。発熱体と支持体との接触部分において発熱体から支持体へ熱が移動せずに、発熱体の発熱側接触部に熱が留まることにより、発熱側接触部の温度が局所的に上昇する。発熱側接触部の温度が発熱体に設定されている最高発熱温度を超えると、発熱側接触部が溶損する。
【0032】
本実施形態の加熱装置10では、発熱体20の発熱側接触部20aよりも熱伝導性の高い支持体30を用いている。これにより、発熱体20と支持体30との接触部分において発熱体20から支持体30へ熱が移動しやすくなり、発熱体20の発熱側接触部20aに熱が留まることが抑制される。その結果、発熱体20の発熱側接触部20aの局所的な温度上昇が抑制されて、発熱側接触部20aに溶損が生じ難くなる。
【0033】
図3に示すように、断面が円形状である棒状の支持体30を平行かつ等間隔に5本、配置し、その上に直線状に延びる断面円形状の棒状の発熱体20を載置した状態において、発熱体20を発熱させた場合の発熱体20の表面温度の分布のシミュレーションを行った。シミュレーションの条件は以下のとおりである。
【0034】
発熱温度:1600℃
発熱体の接触部分の1600℃における熱伝導率:15W/mK
支持体の1600℃における熱伝導率:1W/mK又は30W/mK
図4に、シミュレーションの結果を示す。
図4(a)に示すように、支持体30の熱伝導率が1W/mKであり、発熱体20の発熱側接触部20aの熱伝導率よりも低い場合、発熱体20の発熱側接触部20a(位置A~E)において局所的に温度が上昇する。一方、
図4(b)に示すように、支持体30の熱伝導率が30W/mKであり、発熱体20の発熱側接触部20aの熱伝導率よりも高い場合、発熱体20の発熱側接触部20aにおいて局所的に温度が低下する。
【0035】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)加熱装置10は、電気抵抗により発熱する発熱体20と、発熱体20が載置され、発熱体20を下方から支持する支持体30とを備えている。支持体30の熱伝導率Yは、発熱体20における支持体30に接触する部分である発熱側接触部20aの熱伝導率Xよりも高い。
【0036】
上記構成によれば、発熱体20と支持体30との接触部分において発熱体20から支持体30へ熱が移動しやすくなることにより、発熱体20の発熱側接触部20aに熱が留まることが抑制される。その結果、発熱体20の発熱側接触部20aの局所的な温度上昇が抑制されて、発熱側接触部20aに溶損が生じ難くなる。これにより、加熱装置10を使用する際に、発熱体20の発熱温度を最高発熱温度又は最高発熱温度により近い温度まで高めることができるようになり、発熱体20が有する発熱性能をより広範囲で利用できる。
【0037】
(2)支持体30の熱伝導率Yは、発熱側接触部20aの熱伝導率Xの1.1倍以上である、又は支持体30の熱伝導率Yと熱伝導率Xとの差(=Y-X)は、10W/mK以上である。この場合には、上記(1)の効果をより顕著に得ることができる。
【0038】
(3)支持体30は、点接触又は線接触により発熱体20を支持している。
この場合には、発熱体20の発熱側接触部20aの面積を大きくできる。そのため、より多くの熱を支持体に伝えることができる。
【0039】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・一つの支持体30における発熱体20との接触部分である支持側接触部の数は単数であってもよいし、複数であってもよい。なお、一つの支持体30に複数の支持側接触部が設けられ、かつ支持側接触部が炭化ケイ素などの導電性を有する材質により構成されている場合には、隣接する支持側接触部の間を絶縁する絶縁構造を設けることが好ましい。絶縁構造としては、例えば、隣接する支持側接触部の間に絶縁性の材質からなる絶縁部分を設けることが挙げられる。
【実施例0040】
以下に実施例及び比較例を挙げ、上記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下に記載する熱伝導率は、400℃における熱伝導率である。
【0041】
(実施例1)
図1に示す形状及び配置の発熱体及び支持体を備える加熱装置を作製した。発熱体には、二珪化モリブデンにより構成される熱伝導率15W/mKの発熱体を用いた。支持体には、炭化ケイ素により構成される支持体(サンゴバン社製Hexoloy(登録商標))を用いた。支持体の熱伝導率及び耐熱温度は、表1に示すとおりである。また、表1に記載の熱伝導率比は、発熱体の熱伝導率Xに対する支持体の熱伝導率Yの比(Y/X)を示す。
【0042】
次に、作製した加熱装置の発熱体に発熱温度1600℃となるように通電し、72時間、通電状態を維持した後、発熱体への通電を停止した。通電停止後の発熱体の状態を目視にて観察することにより、発熱体に溶損による折れが発生しているか否かを確認した。その結果を表1に示す。
【0043】
(比較例1~3)
支持体を下記の支持体に変更した点を除いて実施例1と同様に試験を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
比較例1:ジルコニア(ニッカトー社製ZR-11)
比較例2:焼成ジルコン(ヨータイ社製ZETA-AH)
比較例3:電鋳アルミナ(サンゴバンティーエム社製SCIMOS-M)
【0045】
【表1】
表1に示すように、発熱体の熱伝導率よりも低い熱伝導率の支持体を用いた比較例1~3では、発熱体に溶損による折れが確認された。一方、発熱体の熱伝導率よりも高い熱伝導率の支持体を用いた実施例1では、発熱体に折れは確認されなかった。