(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053948
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】ガラス繊維の製造装置、及びガラス繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/083 20060101AFI20220330BHJP
D01D 5/08 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
C03B37/083
D01D5/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160855
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松浦 禅
【テーマコード(参考)】
4G021
4L045
【Fターム(参考)】
4G021MA02
4L045AA05
4L045BA03
4L045CB18
4L045CB40
4L045DA48
(57)【要約】
【課題】扁平形状の断面を有するガラスフィラメントの捻じれを抑えた高品位のガラス繊維を製造することが可能となるガラス繊維の製造装置、及びガラス繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス繊維の製造装置11は、ブッシング12と塗布用ローラー13とを備える。ブッシング12は、ベースプレート12bとベースプレート12bの底面に設けられるノズル群とを有する。塗布用ローラー13は、ブッシング12のノズル群の各ノズルNから引き出されたガラスフィラメントに集束剤を塗布する。ガラス繊維の製造装置11におけるノズル群の各ノズルNは、長径と短径とを有する扁平形状のノズル孔NHを有する。ノズル孔NHは、鉛直方向下方から見た場合、ノズル孔NHの長径方向が、塗布用ローラー13の軸線方向に対して平行な状態又は傾斜した状態となるように配置される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースプレートと前記ベースプレートの底面に設けられるノズル群とを有するブッシングと、
前記ノズル群の各ノズルから引き出されたガラスフィラメントに集束剤を塗布する塗布用ローラーと、を備えるガラス繊維の製造装置であって、
前記ノズル群の各ノズルは、長径と短径とを有する扁平形状のノズル孔を有し、
前記ノズル孔は、鉛直方向下方から見た場合、前記ノズル孔の長径方向が前記塗布用ローラーの軸線方向に対して平行な状態又は傾斜した状態となるように配置される、ガラス繊維の製造装置。
【請求項2】
鉛直方向下方から見た場合、前記塗布用ローラーの軸線に対する前記ノズル孔の長径方向のなす角度は、0°以上、45°以下の範囲内である、請求項1に記載のガラス繊維の製造装置。
【請求項3】
前記ノズルの本数は、500本以上、10000本以下の範囲内である、請求項1又は請求項2に記載のガラス繊維の製造装置。
【請求項4】
前記ノズル孔の短径寸法D1に対する長径寸法D2の比率R1(R1=D2/D1)は、2以上、10以下の範囲内である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のガラス繊維の製造装置。
【請求項5】
前記塗布用ローラーは、前記ガラスフィラメントに接触可能な外周面を有するローラー本体と、
前記ローラー本体の内部に設けられ、前記集束剤を流通する流路と、を有し、
前記ローラー本体は、前記流路内の前記集束剤を前記ローラー本体の外周に吐出する吐出孔を有する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のガラス繊維の製造装置。
【請求項6】
ブッシングにおけるベースプレートの底面に設けられるノズル群の各ノズルから引き出されたガラスフィラメントに塗布用ローラーを用いて集束剤を塗布する塗布工程を備えるガラス繊維の製造方法であって、
前記ノズル群の各ノズルは、長径と短径とを有する扁平形状のノズル孔を有し、
前記ノズル孔は、鉛直方向下方から見た場合、前記ノズル孔の長径方向が前記塗布用ローラーの軸線方向に対して平行な状態又は傾斜した状態となるように配置される、ガラス繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維の製造装置、及びガラス繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラスフィラメントの中でも、非円形の断面、すなわち異形断面を有するガラスフィラメントが知られている。例えば、特許文献1には、扁平形状の断面を有するガラスフィラメントと、複数本のガラスフィラメントから得られるガラスストランドが開示されている。ガラスストランドは、複数本のガラスフィラメントに塗布用ローラーを用いて集束剤を塗布した後、複数本のガラスフィラメントを集束させることで得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような異形断面を有するガラスフィラメントの中でも、扁平形状の断面を有する複数本のガラスフィラメントからガラスストランドを形成する場合、ガラスフィラメントの捻じれの度合いが大きくなる場合があった。ガラスフィラメントの捻じれの度合いが大きくなると、例えば、扁平形状の断面に基づく性能が発揮され難くなる等、ガラスフィラメントの品位の低下を招くおそれがあった。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、扁平形状の断面を有するガラスフィラメントの捻じれを抑えた高品位のガラス繊維を製造することを可能にしたガラス繊維の製造装置、及びガラス繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するガラス繊維の製造装置は、ベースプレートと前記ベースプレートの底面に設けられるノズル群とを有するブッシングと、前記ノズル群の各ノズルから引き出されたガラスフィラメントに集束剤を塗布する塗布用ローラーと、を備えるガラス繊維の製造装置であって、前記ノズル群の各ノズルは、長径と短径とを有する扁平形状のノズル孔を有し、前記ノズル孔は、鉛直方向下方から見た場合、前記ノズル孔の長径方向が前記塗布用ローラーの軸線方向に対して平行な状態又は傾斜した状態となるように配置される。
【0007】
上記ブッシングのノズル孔から引き出されるガラスフィラメントは、扁平形状の断面を有するとともに、長さ方向に延びる両主面を有する。ここで、上記のようにノズル孔は、鉛直方向下方から見た場合、ノズル孔の長径方向が塗布用ローラーの軸線方向に対して平行な状態又は傾斜した状態となるように配置されている。これにより、鉛直方向下方から見た場合、ガラスフィラメントの主面が塗布用ローラーの軸線方向に対して平行な状態又は傾斜した状態のガラスフィラメントをノズル孔から引き出すことができる。このため、ノズル孔と塗布用ローラーとの間においてガラスフィラメントの捻じれを抑えつつ、ガラスフィラメントの主面を塗布用ローラーの外周面に沿うように接触させて集束剤を塗布することが可能となる。
【0008】
上記ガラス繊維の製造装置において、鉛直方向下方から見た場合、前記塗布用ローラーの軸線に対する前記ノズル孔の長径方向のなす角度は、0°以上、45°以下の範囲内であることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、ノズル孔と塗布用ローラーとの間においてガラスフィラメントの捻じれをより抑えつつ、ガラスフィラメントの主面を塗布用ローラーの外周面に沿うように接触させることが可能となる。
【0010】
上記ガラス繊維の製造装置において、前記ノズルの本数は、500本以上、10000本以下の範囲内であることが好ましい。この構成によれば、ガラスフィラメントの品位を維持しつつ、ガラスストランドの生産性を高めることができる。
【0011】
上記ガラス繊維の製造装置において、前記ノズル孔の短径寸法D1に対する長径寸法D2の比率R1(R1=D2/D1)は、2以上、10以下の範囲内であることが好ましい。この構成によれば、例えば、ノズル孔から扁平形状の断面を有するガラスフィラメントを安定して引き出すことが可能となる。
【0012】
上記ガラス繊維の製造装置において、前記塗布用ローラーは、前記ガラスフィラメントに接触可能な外周面を有するローラー本体と、前記ローラー本体の内部に設けられ、前記集束剤を流通する流路と、を有し、前記ローラー本体は、前記流路内の前記集束剤を前記ローラー本体の外周に吐出する吐出孔を有することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、例えば、塗布用ローラーに供給する集束剤の圧力を調整することで、塗布用ローラーの外周に吐出させる集束剤の吐出量を容易に調整することができる。これにより、ガラスフィラメントに塗布する集束剤の塗布量を容易に調整することができる。
【0014】
ガラス繊維の製造方法は、ブッシングにおけるベースプレートの底面に設けられるノズル群の各ノズルから引き出されたガラスフィラメントに塗布用ローラーを用いて集束剤を塗布する塗布工程を備えるガラス繊維の製造方法であって、前記ノズル群の各ノズルは、長径と短径とを有する扁平形状のノズル孔を有し、前記ノズル孔は、鉛直方向下方から見た場合、前記ノズル孔の長径方向が前記塗布用ローラーの軸線方向に対して平行な状態又は傾斜した状態となるように配置される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、扁平形状の断面を有するガラスフィラメントの捻じれを抑えた高品位のガラス繊維を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態におけるガラス繊維の製造装置を示す概略図である。
【
図2】ガラス繊維の製造装置の要部を示す底面図である。
【
図3】(a)は、ブッシングを拡大して示す底面図であり、(b)は、ノズルの変更例を示す底面図である。
【
図4】ガラス繊維の製造方法を説明する概略図である。
【
図5】製造例1のガラスフィラメントを示す顕微鏡写真である。
【
図6】製造例2のガラス繊維の製造装置の要部を示す底面図である。
【
図7】製造例2のガラス繊維の製造方法を説明する概略図である。
【
図8】製造例2のガラスフィラメントを示す顕微鏡写真である。
【
図9】(a)は、ノズルの変更例を示す底面図であり、(b)は、ノズルの使用状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、ガラス繊維の製造装置、及びガラス繊維の製造方法の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0018】
図1に示すように、ガラス繊維の製造装置11は、ブッシング12と、ブッシング12から引き出される複数のガラスフィラメントF1に集束剤SAを塗布する塗布用ローラー13とを備えている。
【0019】
ガラス繊維の製造装置11は、集束剤SAが塗布された複数のガラスフィラメントF1を集束させることで、ガラスストランドGSを形成するギャザリングシュー14と、ガラスストランドGSを巻き取るコレット15とを備えている。また、図示を省略するが、ガラス繊維の製造装置11は、ガラスストランドGSを往復移動させるトラバースを備え、トラバースを通過したガラスストランドGSがコレット15に巻き取られる。
【0020】
<ブッシング12>
ブッシング12は、溶融ガラスMGが供給されるブッシング本体12aと、ブッシング本体12aの底部に設けられたベースプレート12bとを備えている。なお、図示を省略するが、ブッシング本体12aは、溶融ガラスMGが供給される供給口、ベースプレート12b上に異物が堆積するのを抑制するスクリーン、抵抗加熱用のターミナル等を有している。
【0021】
ブッシング12は、ベースプレート12bの底面に設けられるノズル群を有している。ノズル群の各ノズルNには、溶融ガラスMGが供給され、各ノズルNからガラスフィラメントF1が引き出される。図面では、ブッシング12のノズル群を簡略化して示しているが、ノズル数は、500本以上、10000本以下の範囲内であることが好ましい。
【0022】
図2及び
図3(a)に示すように、ブッシング12のノズル群の各ノズルNは、長径と短径とを有する扁平形状のノズル孔NHを有している。鉛直方向下方から見た場合、ノズル孔NHの長径方向は、
図2及び
図3(a)においてY軸方向に沿った水平方向であり、ノズル孔NHの短径方向は、
図2及び
図3(a)においてY軸方向と直交するX軸方向に沿った水平方向である。
【0023】
各ノズルNは、扁平形状の断面を有するガラスフィラメントF1を成形する。ノズル孔NHの短径寸法D1に対する長径寸法D2の比率R1(R1=D2/D1)は、2以上、10以下の範囲内であることが好ましい。
【0024】
ブッシング本体12a、ベースプレート12b、及びノズルNの材料としては、例えば、貴金属又は貴金属合金が挙げられる。貴金属は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、又はオスミウムである。ブッシング本体12a、ベースプレート12b、及びノズルNの材料は、耐久性を高めるという観点から、白金、又は白金合金であることが好ましい。白金合金としては、例えば、白金ロジウム合金が挙げられる。
【0025】
<塗布用ローラー13>
図2に示すように、塗布用ローラー13は、ガラスフィラメントF1に接触可能な外周面を有するローラー本体16と、ローラー本体16の内部に設けられ、集束剤SAを流通する流路17とを有している。ローラー本体16は、流路17内の集束剤SAをローラー本体16の外周に吐出する吐出孔16aを有している。ローラー本体16は、例えば、金属材料からなる筒状部材から構成される。鉛直方向下方から見た場合、塗布用ローラー13の軸線方向は、
図2に示すY軸方向に沿った方向である。
【0026】
ローラー本体16において、ガラスフィラメントF1に集束剤SAを塗布する部分の横断面は、軸線方向にわたって同径となる円形状を有していることが好ましい。ローラー本体16において、ガラスフィラメントF1に集束剤SAを塗布する部分の外周面は、平滑面であることが好ましい。
【0027】
ローラー本体16は、図示を省略した支持台に回転可能に支持されている。本実施形態のガラス繊維の製造装置11は、ローラー本体16を回転駆動させる駆動部18を備えている。駆動部18は、ガラスフィラメントF1を下方に送り出すようにローラー本体16を回転駆動させる。
【0028】
<ノズル孔NHと塗布用ローラー13との位置関係>
図2、
図3(a)に示すように、ブッシング12における各ノズルNのノズル孔NHは、鉛直方向下方から見た場合、ノズル孔NHの長径方向が塗布用ローラー13の軸線方向に対して平行な状態となるように配置されている。なお、
図3(b)に示すように、ブッシング12における各ノズルNのノズル孔NHは、鉛直方向下方から見た場合、ノズル孔NHの長径方向が塗布用ローラー13の軸線方向に対して傾斜した状態となるように配置されてもよい。鉛直方向下方から見た場合、塗布用ローラー13の軸線L1に対するノズル孔NHの長径方向のなす角度θは、0°以上、45°以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、30°以下であり、さらに好ましくは、10°以下である。
【0029】
<集束剤SA>
集束剤SAは、例えば、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含有する。集束剤SAには、ガラスフィラメントF1の表面を改質するために、シランカップリング剤等のカップリング剤を含有させることもできる。また、集束剤SAには、必要に応じて、例えば、ワックス成分、界面活性剤成分、帯電防止剤、防腐剤、消泡剤等を含有させることもできる。
【0030】
<ガラス繊維の製造方法>
次に、ガラス繊維の製造方法について、ガラス繊維の製造装置11の主な作用とともに説明する。
【0031】
図2に示すように、ガラス繊維の製造方法は、各ノズルNから引き出されたガラスフィラメントF1に塗布用ローラー13を用いて集束剤SAを塗布する塗布工程を備えている。
【0032】
図4に示すように、ブッシング12のノズル孔NHから引き出されるガラスフィラメントF1は、扁平形状の断面を有するとともに、長さ方向に延びる両主面Faを有している。
【0033】
ガラスフィラメントF1のガラスとしては、例えば、Eガラス(アルカリ含有量2%以下のガラス)、Dガラス(低誘電率ガラス)、ARガラス(耐アルカリ性ガラス)、Cガラス(耐酸性のガラス)、Mガラス(高弾性率のガラス)、Sガラス(高強度、高弾性率のガラス)、Tガラス(高強度、高弾性率のガラス)、Hガラス(高誘電率のガラス)、NEガラス(低誘電率ガラス)が挙げられる。ガラスフィラメントF1の密度は、例えば、2.0~3.0g/cm3である。
【0034】
本実施形態の塗布用ローラー13は、流路17内に供給された集束剤SAをローラー本体16の吐出孔16aを通じてローラー本体16の外周に吐出する。塗布工程では、ガラスフィラメントF1をローラー本体16の外周面に接触するように送ることで、ローラー本体16の外周に吐出された集束剤SAをガラスフィラメントF1に連続的に塗布することができる。
【0035】
本実施形態のガラス繊維の製造方法の塗布工程において、ブッシング12のノズル孔NHは、鉛直方向下方から見た場合、ノズル孔NHの長径方向が塗布用ローラー13の軸線方向に対して平行な状態となるように配置されている。これにより、鉛直方向下方から見た場合、ガラスフィラメントF1の主面Faが塗布用ローラー13の軸線方向に対して平行な状態のガラスフィラメントF1をノズル孔NHから引き出すことができる。
【0036】
なお、
図3(b)に示すように、ガラス繊維の製造方法の塗布工程において、ブッシング12のノズル孔NHは、鉛直方向下方から見た場合、ノズル孔NHの長径方向が塗布用ローラー13の軸線方向に対して傾斜した状態となるように配置されていてもよい。これにより、鉛直方向下方から見た場合、ガラスフィラメントF1の主面Faが塗布用ローラー13の軸線方向に対して傾斜した状態のガラスフィラメントF1をノズル孔NHから引き出すことができる。
【0037】
以上のように、鉛直方向下方から見た場合、ガラスフィラメントF1の主面Faが塗布用ローラー13の軸線方向に対して平行な状態又は傾斜した状態のガラスフィラメントF1をノズル孔NHから引き出すことができる。このため、ノズル孔NHと塗布用ローラー13との間においてガラスフィラメントF1の捻じれを抑えつつ、ガラスフィラメントF1の主面Faを塗布用ローラー13の外周面に沿うように接触させて集束剤SAを塗布することが可能となる。
【0038】
図1に示すように、塗布工程により集束剤SAが塗布された複数のガラスフィラメントF1がギャザリングシュー14により集束されることでガラスストランドGSが得られる。ガラス繊維の製造方法で得られるガラス繊維の形態としては、例えば、ガラスストランドGSがコレット15に巻き取られることで得られるケーキCAが挙げられる。
【0039】
ガラスストランドGSは、集束剤SA中の樹脂から形成された被膜を有している。被膜の材料としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0040】
ガラスストランドGSは、例えば、チョップドストランド、ミルドファイバ、ロービング、ヤーン、マット、クロス、テープ、又は組布等として利用することができる。ガラス繊維の用途としては、例えば、車両用途、電子材料用途、建材用途、土木用途、航空機関連用途、造船用途、物流用途、産業機械用途、及び日用品用途が挙げられる。
【0041】
次に、製造例について説明する。
製造例1では、
図2、
図3(a)、及び
図4に示されるガラス繊維の製造装置11を用いてケーキCAを製造した。
【0042】
図5には、製造例1で得られたケーキCAを構成するガラスストランドGSをモノフィラメントに解繊したガラスフィラメントF1の顕微鏡写真を示す。この顕微鏡写真に示されるように、製造例1では、捻じれを抑えた品位の高いガラスフィラメントF1が得られることが分かる。
【0043】
製造例2では、
図6に示されるガラス繊維の製造装置111を用いてケーキCAを製造した。このガラス繊維の製造装置111におけるブッシング12のノズル孔NHは、鉛直方向下方から見た場合、ノズル孔NHの長径方向が塗布用ローラー13の軸線方向に対して直交した状態となるように配置されている。このため、
図7に示すように、鉛直方向下方から見た場合、ノズル孔NHから引き出されるガラスフィラメントF2の主面Faは、塗布用ローラー13の軸線方向に対して直交した状態となる。このような配置関係においてガラスフィラメントF2をノズル孔NHから引き出すと、ローラー本体16とガラスフィラメントF2とが接触した際に、ガラスフィラメントF2に捻じれが発生する。これは、ローラー本体16とガラスフィラメントF2の主面Faとが接触した方が安定するためである。
【0044】
図8には、製造例2で得られたケーキCAを構成するガラスストランドGSをモノフィラメントに解繊したガラスフィラメントF2の顕微鏡写真を示す。この顕微鏡写真に示されるように、製造例2では、捻じれの度合いが大きいガラスフィラメントF2が得られることが分かる。
【0045】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)ガラス繊維の製造装置11は、ブッシング12と塗布用ローラー13とを備えている。ブッシング12は、ベースプレート12bとベースプレート12bの底面に設けられるノズル群とを有している。塗布用ローラー13は、ノズル群の各ノズルNから引き出されたガラスフィラメントF1に集束剤SAを塗布する。ノズル群の各ノズルNは、長径と短径とを有する扁平形状のノズル孔NHを有する。ノズルNのノズル孔NHは、鉛直方向下方から見た場合、ノズル孔NHの長径方向が、塗布用ローラー13の軸線方向に対して平行な状態又は傾斜した状態となるように配置されている。
【0046】
この構成によれば、上述したように、ノズル孔NHと塗布用ローラー13との間においてガラスフィラメントF1の捻じれを抑えつつ、ガラスフィラメントF1の主面Faを塗布用ローラー13の外周面に沿うように接触させて集束剤SAを塗布することが可能となる。従って、扁平形状の断面を有するガラスフィラメントF1の捻じれを抑えた高品位のガラス繊維を製造することが可能となる。
【0047】
(2)ガラス繊維の製造装置11において、鉛直方向下方から見た場合、塗布用ローラー13の軸線L1に対するノズル孔NHの長径方向のなす角度θは、0°以上、45°以下の範囲内であることが好ましい。この場合、ノズル孔NHと塗布用ローラー13との間においてガラスフィラメントF1の捻じれをより抑えつつ、ガラスフィラメントF1の主面Faを塗布用ローラー13の外周面に沿うように接触させることが可能となる。従って、扁平形状の断面を有するガラスフィラメントF1の捻じれをより抑えた高品位のガラス繊維を製造することが可能となる。
【0048】
(3)ブッシング12のノズルNの本数は、500本以上、10000本以下の範囲内であることが好ましい。この場合、ガラスフィラメントF1の品位を維持しつつ、ガラスストランドGSの生産性を高めることができる。
【0049】
(4)ブッシング12のノズル孔NHの短径寸法D1に対する長径寸法D2の比率は、2以上、10以下の範囲内であることが好ましい。この場合、例えば、ノズル孔NHから扁平形状の断面を有するガラスフィラメントF1を安定して引き出すことが可能となる。
【0050】
(5)塗布用ローラー13は、ガラスフィラメントF1に接触可能な外周面を有するローラー本体16と、ローラー本体16の内部に設けられ、集束剤SAを流通する流路17とを有している。塗布用ローラー13のローラー本体16は、塗布用ローラー13の流路17内の集束剤SAをローラー本体16の外周に吐出する吐出孔16aを有している。この場合、例えば、塗布用ローラー13に供給する集束剤SAの圧力を調整することで、塗布用ローラー13の外周に吐出させる集束剤SAの吐出量を容易に調整することができる。これにより、ガラスフィラメントF1に塗布する集束剤SAの塗布量を容易に調整することができる。
【0051】
(変更例)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0052】
・上記実施形態の塗布用ローラー13の流路17及び吐出孔16aを省略することもできる。例えば、貯留槽に貯留された集束剤に塗布用ローラーの外周面を接触させることで、集束剤を外周面に付着させた塗布用ローラーを用いて、ガラスフィラメントF1に集束剤を塗布することもできる。
【0053】
・上記実施形態のブッシング12では、一つのノズル孔NHから1本のガラスフィラメントF1を紡糸するように構成されているが、
図9(a)及び
図9(b)に示すように、複数のノズル孔NHから1本のガラスフィラメントF1を紡糸するように構成することもできる。この場合、各ノズル孔NHの長径寸法D2aと、各ノズル孔NHの間隔D2bの合計が、上記実施形態のノズル孔NHの長径寸法D2に相当する。
【0054】
・上記ノズル孔NHの形状は、角丸長方形であるが、例えば、楕円形、長方形、菱形等に変更することもできる。
・上記ガラス繊維の製造装置11を、複数のガラスストランドGSを引き揃えて巻き取ることでダイレクトロービングを製造するように変更することもできる。
【符号の説明】
【0055】
11…ガラス繊維の製造装置
12…ブッシング
12b…ベースプレート
13…塗布用ローラー
16…ローラー本体
16a…吐出孔
17…流路
CA…ケーキ
D1…短径寸法
D2…長径寸法
F1…ガラスフィラメント
L1…軸線
N…ノズル
NH…ノズル孔
SA…集束剤
GS…ガラスストランド
θ…角度