(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053952
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】体液吸収パッド
(51)【国際特許分類】
A61F 13/511 20060101AFI20220330BHJP
A61F 13/15 20060101ALI20220330BHJP
A61F 13/51 20060101ALI20220330BHJP
A61F 13/514 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
A61F13/511 200
A61F13/15 141
A61F13/15 142
A61F13/51 100
A61F13/514 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160862
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】520218730
【氏名又は名称】山田 俊介
(71)【出願人】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】久保川 博夫
(72)【発明者】
【氏名】高田 彩加
【テーマコード(参考)】
3B200
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BA01
3B200BA07
3B200BB22
3B200BB24
3B200DC02
3B200DD02
3B200DD04
(57)【要約】
【課題】おりもの、経血、汗、尿およびリンパ浮腫における創傷からの滲出液などの体液の吸収に利用でき、繰返し利用することが可能な体液吸収パッドを提供すること。
【解決手段】本発明の体液吸収パッド1は、体液を吸収する吸収体3と、前記吸収体3の片面に設けられる体液透過性のトップシート2と、前記トップシート2とは反対側の前記吸収体3の面に設けられるバックシート4と、前記バックシート4を覆って設けられるカバーシート5を少なくとも備え、前記トップシート2及び/又は前記吸収体3が不溶性アルギン酸塩を成分とする膜で被覆されており、前記バックシート4が撥水剤を含有する撥水層を表面に形成した布帛であり、前記カバーシート5が塩基性臭気及び酸性臭気に対する吸着部位を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液を吸収する吸収体と、前記吸収体の片面に設けられる体液透過性のトップシートと、前記トップシートとは反対側の前記吸収体の面に設けられるバックシートを少なくとも備え、前記トップシート及び/又は前記吸収体が不溶性アルギン酸塩を成分とする膜で被覆されており、前記バックシートが撥水剤を含有する撥水層を表面に形成した布帛であることを特徴とする体液吸収パッド。
【請求項2】
体液を吸収する吸収体と、前記吸収体の片面に設けられる体液透過性のトップシートと、前記トップシートとは反対側の前記吸収体の面に設けられるバックシートと、前記バックシートを覆って設けられるカバーシートを少なくとも備え、前記トップシート及び/又は前記吸収体が不溶性アルギン酸塩を成分とする膜で被覆されており、前記バックシートが撥水剤を含有する撥水層を表面に形成した布帛であり、前記カバーシートが塩基性臭気及び酸性臭気に対する吸着部位を備えていることを特徴とする体液吸収パッド。
【請求項3】
前記トップシート及び前記吸収体が、JIS L 1907に準拠する1秒以内の吸水速度を備えていることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の体液吸収パッド。
【請求項4】
前記バックシートが、JIS L 1092に準拠する200ミリメートル以上の耐水度、及びJIS L 1096に準拠する毎秒毎平方センチメートル当たり2立方センチメートル以上の通気性を備えていることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の体液吸収パッド。
【請求項5】
前記トップシート及び/又は前記吸収体に、第四級アンモニウムカチオン若しくは銀ナノ粒子を含有する抗菌成分が固定されていることを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載の体液吸収パッド。
【請求項6】
前記トップシート及び/又は前記吸収体が、塩基性臭気及び酸性臭気に対する吸着部位を備えていることを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の体液吸収パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰返し利用することができる体液吸収パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、おりもの、経血、汗、尿などの体液を吸収するため、体液吸収パッドが使用されている。体液吸収パッドは、体液透過性のトップシートと体液不透過性のバックシートとの間に吸収体を挟んだ構造であり、トップシートを皮膚に接触させ、トップシートを透過した体液を吸収体で吸収するものである。
【0003】
体液吸収パッドの一つとして、生理時に出てくる経血を吸収する紙製ナプキンが知られている。この紙製ナプキンは多くの場合、一回使っただけでトイレなどの所定の場所に捨てるため、経血から発生する異臭や細菌を地肌に滞留させることなく、地肌を清潔な状態に保つことができる。しかし、装着後ある程度時間が経過した後に、定期的に紙製ナプキンを交換する必要があるため、月経期には多くの紙製ナプキンを使用し廃棄しなければならなかった。
【0004】
そこで、この問題を解決するために、繰返し使用することができ、肌にやさしく、且つ吸収した体液の漏洩を効果的に防止する体液吸収パッドが考案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
吸収する体液の種類としては、従来のおりもの、経血、汗、尿などに加えて、リンパ浮腫における創傷からの滲出液もある。創傷からの滲出液については、症状の特殊性と身体の広範囲な部分での対応の必要性から、従来の体液吸収パッドには無い下記の機能が要求され、これらに応えることが課題として残されていた。
【0007】
第一の課題は、トップシートからの吸収速度の向上である。足などで利用する場合、トップシートからの吸収速度が不十分だと、吸収しきれないで重力で流れてしまうことが問題となる。第二の課題は、体液の外部への流出を防止するバックシートの通気性である。特に広範囲で使用する場合、通気性が無いと蒸れが問題となる。また、繰り返しの使用には速乾性であることが好ましく、そのためには通気性に優れる方が有利となる。第三の課題は、トップシートと吸収体への抗菌性の付与である。繰返し使用する場合、特に肌に接触するトップシートとその下の吸収体で雑菌の繁殖を抑制し、衛生的に使用できることが重要となる。第四の課題は消臭機能の付与である。リンパ浮腫における創傷では、細菌が発生させるアンモニアや硫化水素等の悪臭が患者にとって大きな精神的苦痛となるため、これらを吸着除去できる機能が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の体液吸収パッドは、体液を吸収する吸収体と、前記吸収体の片面に設けられる体液透過性のトップシートと、前記トップシートとは反対側の前記吸収体の面に設けられるバックシートを少なくとも備え、前記トップシート及び/又は前記吸収体が不溶性アルギン酸塩を成分とする膜で被覆されており、前記バックシートが撥水剤を含有する撥水層を表面に形成した布帛である。
【0009】
本発明の体液吸収パッドは、体液を吸収する吸収体と、前記吸収体の片面に設けられる体液透過性のトップシートと、前記トップシートとは反対側の前記吸収体の面に設けられるバックシートと、前記バックシートを覆って設けられるカバーシートを少なくとも備え、前記トップシート及び/又は前記吸収体が不溶性アルギン酸塩を成分とする膜で被覆されており、前記バックシートが撥水剤を含有する撥水層を表面に形成した布帛であり、前記カバーシートが塩基性臭気及び酸性臭気に対する吸着部位を備える。
【0010】
本発明の体液吸収パッドは、トップシート及び吸収体が、JIS L 1907に準拠する1秒以内の吸水速度を備える。
【0011】
本発明の体液吸収パッドは、バックシートがJIS L 1092に準拠する200ミリメートル以上の耐水度、及びJIS L 1096に準拠する毎秒毎平方センチメートル当たり2立方センチメートル以上の通気性を備える。
【0012】
本発明の体液吸収パッドは、トップシート及び/又は吸収体に、第四級アンモニウムカチオン若しくは銀ナノ粒子を含有する抗菌成分が固定されている。
【0013】
本発明の体液吸収パッドは、トップシート及び/又は吸収体が、塩基性臭気および酸性臭気に対する吸着部位を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の体液吸収パッドによれば、おりもの、経血、汗、尿などに加えて、リンパ浮腫における創傷からの滲出液などの体液を吸収することができる。特に創傷からの滲出液の吸収では、本発明によって従来の体液吸収パッドにはない下記の効果が得られる。トップシートおよび吸収体への吸収速度が早いことにより、足などに利用する場合でも重力で流れることなく吸収できる。バックシートに通気性があることにより、広範囲で使用する場合でも蒸れにくく、繰返しの使用でも洗濯後に乾きやすい。トップシートと吸収体に抗菌性を付与することにより、繰返し使用する場合に雑菌の繁殖を抑制して衛生的に使用できる。消臭機能を付与することにより、細菌が発生させるアンモニアや硫化水素等の悪臭を吸着除去し、患者の精神的苦痛を和らげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】請求項1の体液吸収パッドに関する本実施形態の断面図である。
【
図2】請求項2の体液吸収パッドに関する本実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の体液吸収パッド1に関する実施の形態を説明する。本発明の体液吸収パッド1は、トップシート2、吸収体3およびバックシート4からなる複数層構造、若しくはトップシート2、吸収体3、バックシート4およびカバーシート5からなる複数層構造を有しており、使用者の下着などの衣類や直接皮膚に装着されて、おりもの、経血、汗、尿、リンパ浮腫における創傷からの滲出液などの体液を吸収するために使用されるものである。
【0017】
図1及び
図2は、それぞれに本発明の体液吸収パッドの一実施形態を示す。
図1に示す本実施形態の体液吸収パッド1は、使用者の皮膚に接する側(表側)から、トップシート2、吸収体3及びバックシート4がこの順で積層された主に3層からなる構造である。
図2に示す本実施形態の体液吸収パッド1は、使用者の皮膚に接する側(表側)から、トップシート2、吸収体3、バックシート4及びカバーシート5がこの順で積層された主に4層からなる構造である。
【0018】
体液吸収パッド1の厚み及び大きさは、特に限定されるものではなく、装着部位に応じて厚み及び大きさを適宜設定することができる。また、体液吸収パッド1の形状も、特に限定されるものではなく、装着部位と使用目的に合わせて、長方形状、正方形状、円形状、楕円形状、小判形状、多角形状などの種々の形状とすることができる。
【0019】
トップシート2は、使用者の皮膚に接触して体液を通過させることで、下層の吸収体3に体液を浸透させる液透過性を有している。トップシート2の形状は特に限定されないが、例えば織物、編物、不織布、フェルトなどを用いることができる。その中でも、繰り返し使用する際の耐久性の点から、織物若しくは編物が好ましい。
【0020】
また、トップシート2を構成する素材も、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン/ポリエステル複合繊維、ポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維などの合成繊維、綿、シルク、パルプ、羊毛、麻などの天然繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維などの半合成繊維及び各種繊維を混ぜた繊維(混紡品、混繊品)を挙げることができるが、肌触りと吸収性を良好とするためには天然繊維が好ましく、特に綿が好ましい。トップシート2は、単層に限らず、複数層以上の積層体で構成されていてもよい。
【0021】
吸収体3の素材は、特に限定されるものではなく、一般に生理用ナプキンやパンティライナー、おしめ、汗取りシートなどに用いられている、例えば吸水性パルプ、吸水性ポリマーなどの公知の吸収材や、織物、編物、不織布又はパルプ製品などから構成される繊維構造物を用いることができる。
【0022】
トップシート2及び/又は吸収体3は、体液を素早く吸収させるために、不溶性アルギン酸塩を成分とする膜で被覆する。前記被覆の方法は特に限定されないが、例えばアルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カリウムを含有するアルギン酸塩水溶液を塗布し、続いてカルシウムイオンなどの二価金属イオンを含有する水溶液を塗布することによって実施できる。また、特開2020-122236に開示されている方法を利用して、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カリウムを含有するアルギン酸塩水溶液にトップシート2及び/又は吸収体3の材料を浸漬し、続いて前記アルギン酸塩水溶液に二価金属イオンを含有する水溶液を添加することにより、前記材料の表面に二価金属イオンによるイオン結合で架橋されたアルギン酸塩膜を形成させることができる。このように形成されたアルギン酸カルシウムなどのアルギン酸塩膜は、不溶性であるとともに優れた吸水性を示すため、トップシート2及び吸収体3への体液の吸収速度を向上できる。
【0023】
トップシート2及び吸収体3の吸収速度については、JIS L 1907に準拠する吸水速度によって評価できる。体液吸収パッド1が、例えば生理用ナプキンのように下方で吸収する製品であれば、前記吸水速度が2~3秒であっても使用可能である。創傷からの滲出液の吸収を目的とする体液吸収パッド1では、トップシート2及び吸収体3の吸水速度が1秒以内であることが好ましく、吸水速度が早いことにより、足などに利用する場合でも重力で流れることなく吸収できる。
【0024】
バックシート4の布帛の形態は特に限定されず、例えば、織物、編物又は不織布などが採用できるが、防水性により優れる観点から織物であることが好ましい。織物の組織は特に限定されないが、例えば、平織、綾織、朱子織などの三原組織及びその変化組織、並びに、経二重織、緯二重織等の片二重組織及び経緯二重織などが挙げられる。特に、耐水度を高めるためには、高密度織物であることが好ましい。バックシート4を構成する繊維は特に限定されないが、耐水性及び速乾性の観点から、ポリエステル繊維及び/又はポリアミド繊維であることが好ましい。
【0025】
バックシート4の形態が織物の場合、高密度織物であることの指標としては、例えばカバーファクター(CF)が1500以上3000以下であることが好ましい。織物のCFが1500以上であると密度の低下を抑制できるため、織物組織の拘束力が強くなり空隙が低減し、撥水性がより向上する。また、CFが3000を超えると、織物は過度に密に詰まってしまう。
なお、織物のカバーファクター(CF)は下記式より求めることができる。
CF=X√D1+Y√D2
X:織物1インチ当りの経糸本数
Y:織物1インチ当りの緯糸本数
D1:織物構成経糸の繊度(dtex)
D2:織物構成緯糸の繊度(dtex)
【0026】
バックシート4は、耐水度を高めるために、表面に撥水剤を含有する撥水層を形成させる。撥水層に含有される撥水剤としては、例えば、シリコーン系撥水剤又はフッ素系撥水剤などが挙げられる。なかでも、撥水性により優れる観点からはフッ素系撥水剤が好ましく、環境配慮の観点から、炭素数が6以下のフルオロアルキルアクリレート基を有するフッ素系撥水剤がより好ましい。フッ素系撥水剤の市販品としては、例えば、アサヒガードEシリーズ(旭硝子株式会社製)、NKガードSシリーズ(日華化学株式会社製)、ユニダインマルチシリーズ(ダイキン工業株式会社製)などが挙げられる。さらに、撥水層の耐久性を向上させるためには、架橋剤が含有されていることが好ましい。架橋剤としては、トリアジン化合物架橋剤又はブロックイソシアネート架橋剤が利用可能であり、主たる構成繊維がポリエステル繊維又はポリアミド繊維である場合はトリアジン化合物架橋剤がより好ましい。
【0027】
撥水剤を含有する撥水層を表面に形成した布帛のバックシート4は、吸収体3に吸収された体液の外部への流出を防止できる耐水度とともに通気性を有している。耐水度は、JIS L 1092に準拠した防水性試験の静水圧法で評価することが可能であり、体液の外部への流出を十分に防止するために200ミリメートル以上であることが好ましい。通気性は、JIS L 1096に準拠したフラジール形法によって評価することが可能であり、毎秒毎平方センチメートル当たり2立方センチメートル以上であることが好ましい。
【0028】
カバーシート5は、塩基性臭気及び酸性臭気の両方に対する吸着部位を備えており、形状としては織物、編物、不織布、フェルトなどを限定なく用いることができる。また、カバーシート5を構成する素材も、塩基性臭気及び酸性臭気に対する吸着部位を付加できれば特に限定されるものではなく、例えばポリエステルなどの合成繊維素材や、綿などの天然繊維素材を挙げることができる。
【0029】
カバーシート5への塩基性臭気及び酸性臭気に対する吸着部位の付加方法は特に限定されるものではないが、一般社団法人繊維評価技術協議会のSEKマーク繊維製品認証基準に準拠した消臭性試験において、アンモニア及び硫化水素の減少率が90パーセント以上となる方法が好ましく利用できる。市販の繊維用消臭加工剤を利用して実施可能であり、例えば大原パラヂウム化学株式会社製「パラファインNS-100」が利用できる。「パラファインNS-100」は、酸と塩基両方の性質を有する吸着部位を持っており、アンモニアやアミン類等の悪臭物質に対しては酸として働き、酢酸や硫化水素等の悪臭物質に対しては塩基として働くため、それぞれに対して高い吸着作用を示す。そのため、尿やリンパ浮腫における創傷から発生する、アンモニアや硫化水素の吸着除去に好ましく用いることができる。
【0030】
塩基性臭気及び酸性臭気に対する吸着部位の付加は、トップシート2及び/又は吸収体3に対しても、カバーシート5と同様に市販の繊維用消臭加工剤を利用して実施可能である。塩基性臭気及び酸性臭気に対する吸着部位の付加を、トップシート2及び/又は吸収体3にまで拡大することにより、悪臭物質を発生源の近くでより確実に吸着除去できる。
【0031】
第四級アンモニウムカチオン若しくは銀ナノ粒子を含有する抗菌成分をトップシート2及び/又は吸収体3に固定する方法は特に限定されないが、前記抗菌成分を含有する市販の加工剤を利用して実施できる。具体的な例として、第四級アンモニウムカチオンの固定は、モーリン化学工業株式会社製の堅牢度増進剤「モーリンフィックス6P」を適量溶解させた温水溶液中で浸漬処理することにより、綿などの天然繊維からなるトップシート2や吸収体3に対して実施できる。銀ナノ粒子の固定は、日本イオン株式会社製のナノ銀繊維抗菌剤「SILVIO-F」の希釈液に繊維製品を浸漬させることにより、綿などの天然繊維に限らず、合成繊維からなるトップシート2や吸収体3に対しても、数十回の洗濯に耐えられる固定ができる。
【0032】
トップシート2、吸収体3及びバックシート4を一体化する方法は特に限定されるものではなく、縫製のほかに、水溶性の接着剤(例えばアクリル系水溶性接着剤)や非水溶性接着剤(例えばゴム系ホットメルト、オレフィン系ホットメルト)などの接着剤による接着でも実施できる。
【0033】
カバーシート5は、バックシート4の外面を覆ってトップシート2、吸収体3及びバックシート4と一体化しても良いし、バックシート4の面に脱着できる構造であっても良い。トップシート2、吸収体3、バックシート4及びカバーシート5を一体化する方法は特に限定されるものではなく、縫製のほかに、水溶性の接着剤(例えばアクリル系水溶性接着剤)や非水溶性接着剤(例えばゴム系ホットメルト、オレフィン系ホットメルト)などの接着剤による接着でも実施できる。カバーシート5を、一体化したトップシート2、吸収体3及びバックシート4のバックシート4の面に脱着する機構は、特に限定されないが、面ファスナー、両面テープ及び粘着剤などを利用することにより、使用時は一時的に一体化させて使用後は取り外すことができる。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例および比較例によって限定されるものではない。
【0035】
(トップシート2の材料準備)
トップシート2に利用する素材として、鹿の子編みの綿ニット地を用意した。このニット地に、モーリン化学工業株式会社製「モーリンフィックス6P」の2グラム/リットル水溶液中、浴比1:30で摂氏60度、30分間の処理を行い、第四級アンモニウムカチオンを固定した。続いて、このニット地を水洗した後、浴比1:30相当の株式会社キミカ製のアルギン酸ナトリウム「キミカアルギンGrade.1-1」水溶液(0.5グラム/リットル)中に投入し、室温で10分間保持した後、ニット地に対して4.2重量パーセントの塩化カルシウムを含む少量の水溶液を分割添加し、生地の表面に不溶性のアルギン酸カルシウム膜を形成させた。添加完了から10分後に排液し、このニット地を水洗および乾燥してトップシート2の材料とした。
【0036】
(0035)で準備したトップシート2の材料は、JIS L 1907に準拠する吸水性試験において滴下法による吸水速度が0.3秒であり、0.5秒であった未処理ニット地より向上していた。また、トップシート2の材料について、未処理ニット地を対照試料としてJIS L 1902に準拠した菌液吸収法による抗菌性試験を行った結果、制菌加工としての効果が認められる抗菌性が確認できた。
【0037】
(吸収体3の材料準備)
吸収体3に利用する素材としては、約400パーセントの保水率を示す起毛綿織物と約1200パーセントのセルローススポンジを用意した。これらの材料のそれぞれに、モーリン化学工業株式会社製「モーリンフィックス6P」の2グラム/リットル水溶液中、浴比1:30で摂氏60度、30分間の処理を行い、第四級アンモニウムカチオンを固定した。続いて、それぞれの材料を水洗した後、浴比1:30相当の株式会社キミカ製のアルギン酸ナトリウム「キミカアルギンGrade.1-1」水溶液(0.5グラム/リットル)中に投入し、室温で10分間保持した後、各材料に対して4.2重量パーセントの塩化カルシウムを含む少量の水溶液を分割添加し、材料の表面に不溶性のアルギン酸カルシウム膜を形成させた。添加完了から10分後に排液し、それぞれの材料を水洗および乾燥して吸収体3の材料2種とした。
【0038】
(0037)で準備した起毛綿織物を素材とする吸収体3の材料は、JIS L 1907に準拠する吸水性試験において滴下法による吸水速度が0.6秒であり、30分以上経過しても吸水しなかった未処理材料と比べて劇的に向上していた。また、セルローススポンジを素材とする吸収体3の材料では、吸水速度が0.4秒であり、2.3秒であった未処理材料より向上していた。これら2種類の吸収体3の材料について、未処理材料を対照試料としてJIS L 1902に準拠した菌液吸収法による抗菌性試験を行った結果、いずれの材料についても制菌加工としての効果が認められる抗菌性が確認できた。
【0039】
(バックシート4の材料準備)
バックシート4に利用する素材として、密度が異なるポリエステル織物2種を用意した。密度大のポリエステル織物は、経糸に83dtex72フィラメントのマルチフィラメント、緯糸に83dtex72フィラメントのマルチフィラメントを各々配し、経密度163本/インチ、緯密度91本/インチの平織物(カバーファクター2314)を製織した。密度小のポリエステル織物は、経糸に83dtex72フィラメントのマルチフィラメント、緯糸に167dtex48フィラメントのマルチフィラメントを各々配し、経密度142本/インチ、緯密度86本/インチの平織物(カバーファクター2405)を製織した。前記の素材2種を、それぞれ水分散液〔組成:明成化学工業株式会社製フッ素系撥水剤「LSE-009」50グラム/リットル、DIC株式会社製トリアジン系架橋剤「ベッカミンM-3」5グラム/リットル、DIC株式会社製有機アミン系触媒「キャタリストACX」3グラム/リットル〕に浸漬し、マングルで絞り率が50パーセントとなるように絞液し、摂氏130度で2分間乾燥した後に摂氏170度で1分間熱処理した。このように撥水加工を施したポリエステル織物2種をバックシート4の材料とした。
【0040】
(0039)で準備したバックシート4の材料2種について、JIS L 1092に準拠した防水性試験において静水圧法による耐水度を測定した結果、密度大の材料が340ミリメートル、密度小の材料が200ミリメートルであった。JIS L 1096に準拠したフラジール形法による通気性を評価した結果では、密度大の材料が毎秒毎平方センチメートル当たりで2立方センチメートル、密度小の材料が33立方センチメートルであった。
【0041】
(カバーシート5の材料準備)
カバーシート5に利用する素材としては、起毛綿織物を用意した。この材料に大原パラヂウム化学株式会社製「パラファインNS-100」の10パーセント溶液を塗布し、絞り率92パーセントで絞液し、摂氏160度で3分間の熱処理を行ってカバーシート5の材料とした。
【0042】
(0041)で準備したカバーシート5の材料について、一般社団法人繊維評価技術協議会のSEKマーク繊維製品認証基準に準拠した消臭性試験を行った結果、アンモニアおよび硫化水素の減少率は両者ともに100パーセントであった。
【0043】
(体液吸収パッド1の実施例)
(0035)、(0037)、(0039)及び(0041)に記載したトップシート2、吸収体3、バックシート4及びカバーシート5の材料を組み合わせて利用し、縫製によって一体化させて、
図1又は
図2に示す構造の体液吸収パッド1を、タテ10センチメートル、ヨコ20センチメートルの大きさで作製した。実施例1~4として作製した体液吸収パッド1を構成する各種材料の組合せを表1にまとめて示す。
【0044】
【0045】
(体液吸収パッド1の比較例)
(0035)及び(0037)でトップシート2及び吸収体3の準備に利用した未処理の素材と、バックシート4として一般に布ナプキンに利用される透湿防水布を組み合わせて利用し、縫製によって一体化させて、
図1に示す構造の体液吸収パッド1をタテ10センチメートル、ヨコ20センチメートルの大きさで作製した。比較例1及び2として作製した体液吸収パッド1を構成する各種材料の組合せを表2にまとめて示す。
【0046】
【0047】
(体液吸収パッド1の性能評価)
実施例および比較例として作製した体液吸収パッド1について、リンパ浮腫患者の創傷からの体液吸収に使用し、使用感について(1)吸収速度、(2)吸収量、(3)乾燥速度および(4)臭気強度の聞き取りを実施し、その調査結果と総合評価を表3にまとめた。実施例1~4は、トップシート2ともに吸収体3の吸水速度が1秒以内であるため、吸水速度が速く吸水量も多かった。実施例3は、セルローススポンジの保水率が約1200パーセントと高く、吸収量が非常に多くなるため総合評価は高かった。実施例2も総合的に高評価となった。実施例1はバックシート4の材料の通気性が小さいために洗濯後の乾燥速度がやや遅く、実施例4はカバーシート5を備えていないため臭気強度は強かった。実施例1および4には上記の弱点はあるが、体液吸収パッド1としての基本的な性能は備えているという評価となった。一方、比較例1については吸収速度が非常に遅く、比較例2でも遅いため、体液を吸収し損ねる結果となった。さらに、バックシート4の材料として利用した透湿防水布の通気度が極めて乏しいため、乾燥速度が遅く、総合評価として体液吸収パッド1には不適となった。
【0048】