(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053958
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】異常検出装置、異常検出方法、及び異常検出プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/72 20060101AFI20220330BHJP
G01J 5/48 20220101ALI20220330BHJP
【FI】
G01N25/72 Y
G01J5/48 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160869
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】515086908
【氏名又は名称】株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】特許業務法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄貴
【テーマコード(参考)】
2G040
2G066
【Fターム(参考)】
2G040AA06
2G040BA08
2G040BA27
2G040CA02
2G040CA23
2G040DA06
2G040EA01
2G040HA11
2G066AC11
2G066BA04
2G066BA13
2G066CA02
2G066CA04
(57)【要約】
【課題】誘導加熱コイルに代わる高周波電流を用いた金属部材の加熱により金属部材の表面に生じた異常部位の検出装置を提供する。
【解決手段】金属部材に第1周波数電流とこれよりも高周波の第2周波数電流を供給する電流供給部と、表面温度を計測する温度計測部と、計測された表面温度から異常部位の位置を推定する制御部を備え、制御部は、金属部材に対し第1周波数電流を供給した際の表面温度を計測して第1発熱分布を取得する第1発熱分布取得部と、第2周波数電流を供給した際の表面温度を計測して第2発熱分布を取得する第2発熱分布取得部と、第1発熱分布または第2発熱分布のいずれか、もしくは双方において金属部材の周囲の温度よりも低温度を示す部位を異常部位として検出する検出部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材に対し、少なくとも第1周波数電流及び前記第1周波数電流よりも高周波の第2周波数電流を供給する電流供給部と、
前記金属部材の表面温度を計測する温度計測部と、
前記計測された表面温度から前記金属部材における異常部位の位置を推定する制御部と、を備える前記金属部材の異常部位を検出する異常検出装置であって、
前記制御部は、
前記金属部材に対し前記第1周波数電流を供給した際の前記金属部材の表面温度を前記温度計測部により計測して前記金属部材における第1発熱分布を取得する第1発熱分布取得部と、
前記金属部材に対し前記第2周波数電流を供給した際の前記金属部材の表面温度を前記温度計測部により計測して前記金属部材における第2発熱分布を取得する第2発熱分布取得部と、
前記金属部材における、前記第1発熱分布または前記第2発熱分布のいずれか、もしくは前記第1発熱分布及び前記第2発熱分布の双方において、前記金属部材の周囲の温度よりも低温度を示す部位を前記異常部位として検出する検出部と、を備える、
ことを特徴とする異常検出装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1発熱分布として計測された第1温度と前記第2発熱分布として計測された第2温度との温度差を算出する温度差算出部と、
前記温度差により、前記金属部材の前記異常部位における深さ方向の亀裂深さを推定する推定部と、を備える請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記金属部材の種類に応じた前記温度差と前記亀裂深さを対応させた対応テーブルを記憶する対応テーブル記憶部を備える請求項2に記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記第2周波数電流が複数種類であり、それぞれの前記第2周波数電流の種類ごとにおいて前記第2発熱分布が取得される請求項1ないし3のいずれか1項に記載の異常検出装置。
【請求項5】
金属部材に対し、少なくとも第1周波数電流及び前記第1周波数電流よりも高周波の第2周波数電流を供給する電流供給部と、
前記金属部材の表面温度を計測する温度計測部と、
前記計測された表面温度から前記金属部材における異常部位の位置を推定する制御部と、を備える前記金属部材の異常部位を検出する異常検出装置における異常検出方法であって、
前記制御部は、
前記金属部材に対し前記第1周波数電流を供給した際の前記金属部材の表面温度を前記温度計測部により計測して前記金属部材における第1発熱分布を取得する第1発熱分布取得ステップと、
前記金属部材に対し前記第2周波数電流を供給した際の前記金属部材の表面温度を前記温度計測部により計測して前記金属部材における第2発熱分布を取得する第2発熱分布取得ステップと、
前記金属部材における、前記第1発熱分布または前記第2発熱分布のいずれか、もしくは前記第1発熱分布及び前記第2発熱分布の双方において、前記金属部材の周囲の温度よりも低温度を示す部位を前記異常部位として検出する検出ステップと、を実行する、
ことを特徴とする異常検出方法。
【請求項6】
金属部材に対し、少なくとも第1周波数電流及び前記第1周波数電流よりも高周波の第2周波数電流を供給する電流供給部と、
前記金属部材の表面温度を計測する温度計測部と、
前記計測された表面温度から前記金属部材における異常部位の位置を推定する制御部と、を備える前記金属部材の異常部位を検出する異常検出装置における異常検出プログラムであって、
前記制御部は、
前記金属部材に対し前記第1周波数電流を供給した際の前記金属部材の表面温度を前記温度計測部により計測して前記金属部材における第1発熱分布を取得する第1発熱分布取得機能と、
前記金属部材に対し前記第2周波数電流を供給した際の前記金属部材の表面温度を前記温度計測部により計測して前記金属部材における第2発熱分布を取得する第2発熱分布取得機能と、
前記金属部材における、前記第1発熱分布または前記第2発熱分布のいずれか、もしくは前記第1発熱分布及び前記第2発熱分布の双方において、前記金属部材の周囲の温度よりも低温度を示す部位を前記異常部位として検出する検出機能と、を発揮する、
ことを特徴とする異常検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異常検出装置、異常検出方法、及び異常検出プログラムに関し、特に金属部材に生じた亀裂等の異常部位を検出するための装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板、鋼材等の金属部材の表面に生じた亀裂等の異常部位の検出においては、誘導加熱コイルから発生する誘導電流により加熱される金属部材(誘電体)の加熱のパターンから当該金属部材の内部の亀裂等の異常部位は検出されていた(特許文献1参照)。
【0003】
従前の誘導加熱コイルを使用する際の問題点として、次の点が挙げられる。誘導加熱コイルは加熱の対象物である金属部材に近接させる必要がある。誘導加熱コイルの形状、距離の影響から金属部材に対する加熱にむらが生じやすい。誘導加熱コイルが金属部材に近い存在のため、直ちに加熱のパターンを赤外線撮影することができない。電磁誘導現象を利用するため、検査に使用できる周波数に制限がある。これらの点から誘導加熱コイルを使用した金属部材の異常検出には限界がある。
【0004】
誘導加熱コイルを用いる方法以外として、高周波電源から直接金属部材に高周波電流を供給する方法、装置がある(特許文献2参照)。高周波電流が供給される測定点において健全時(正常時)と位相差が生じている場合、測定点と電源共有点の間に亀裂の存在が検出される。
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示の方法、装置によると、測定点が5ないし6箇所しかない場合、詳細な亀裂箇所の特定は困難である。また、亀裂箇所を詳細に特定しようとすると、測定点を増やす必要が生じて測定が複雑化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-174722号公報
【特許文献2】特開平5-288706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一連の経緯から、発明者は誘導加熱コイルの使用に代わる高周波電流を用いた加熱による検出手法について鋭意検討を重ね、従前の高周波電流を用いた方法、装置よりも感度良く異常箇所の検出をすることが可能となった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、誘導加熱コイルに代わる高周波電流を用いた金属部材の加熱により金属部材の表面に生じた異常部位の検出であって、測定に要する測定点を過剰に増やすことなく、異常部位の検出を可能とする異常検出装置とその方法及びそのプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、金属部材に対し、少なくとも第1周波数電流及び第1周波数電流よりも高周波の第2周波数電流を供給する電流供給部と、金属部材の表面温度を計測する温度計測部と、計測された表面温度から金属部材における異常部位の位置を推定する制御部とを備える金属部材の異常部位を検出する異常検出装置であって、制御部は、金属部材に対し第1周波数電流を供給した際の金属部材の表面温度を温度計測部により計測して金属部材における第1発熱分布を取得する第1発熱分布取得部と、金属部材に対し第2周波数電流を供給した際の金属部材の表面温度を温度計測部により計測して金属部材における第2発熱分布を取得する第2発熱分布取得部と、金属部材における、前記第1発熱分布または前記第2発熱分布のいずれか、もしくは前記第1発熱分布及び前記第2発熱分布の双方において、金属部材の周囲の温度よりも低温度を示す部位を異常部位として検出する検出部とを備えることを特徴とする。
【0010】
さらに、実施形態の異常検出装置では、制御部は、第1発熱分布として計測された第1温度と第2発熱分布として計測された第2温度との温度差を算出する温度差算出部と、温度差により、金属部材の異常部位における深さ方向の亀裂深さを推定する推定部とを備えてもよい。
【0011】
さらに、実施形態の異常検出装置では、制御部は、金属部材の種類に応じた温度差と亀裂深さを対応させた対応テーブルを記憶する対応テーブル記憶部を備えてもよい。
【0012】
さらに、実施形態の異常検出装置では、第2周波数電流が複数種類であり、それぞれの第2周波数電流の種類ごとにおいて第2発熱分布が取得されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の異常検出装置によると、金属部材に対し、少なくとも第1周波数電流及び第1周波数電流よりも高周波の第2周波数電流を供給する電流供給部と、金属部材の表面温度を計測する温度計測部と、計測された表面温度から金属部材における異常部位の位置を推定する制御部とを備える金属部材の異常部位を検出する異常検出装置であって、制御部は、金属部材に対し第1周波数電流を供給した際の金属部材の表面温度を温度計測部により計測して金属部材における第1発熱分布を取得する第1発熱分布取得部と、金属部材に対し第2周波数電流を供給した際の金属部材の表面温度を温度計測部により計測して金属部材における第2発熱分布を取得する第2発熱分布取得部と、金属部材における、前記第1発熱分布または前記第2発熱分布のいずれか、もしくは前記第1発熱分布及び前記第2発熱分布の双方において、金属部材の周囲の温度よりも低温度を示す部位を異常部位として検出する検出部とを備えるため、誘導加熱コイルに代わる高周波電流を用いた金属部材の加熱により金属部材の表面に生じた異常部位の検出であり、しかも、測定に要する測定点を過剰に増やすことなく、異常部位の検出を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態の異常検出装置の構成を示す概略図である。
【
図2】(A)金属部材の通電時の第1縦断面模式図、(B)同通電時の第2縦断面模式図、(C)同通電時の第3縦断面模式図である。
【
図4】(A)金属部材の通電時の第1縦断面模式図及び上面図、(B)同通電時の第2縦断面模式図及び上面図である。
【
図5】(A)金属部材の通電時の第3縦断面模式図及び上面図、(B)同通電時の第4縦断面模式図及び上面図である。
【
図7】異常検出方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態の異常検出装置は、導電体である金属部材に周波数の異なる交流電流を通電することにより、当該金属部材に生じた抵抗発熱の発熱部位の偏りから、金属部材に生じた亀裂等の異常部位を検出するための装置である。
図1は検査対象である金属部材Wを検査する異常検出装置1の概略図である。以降、図面に従って、実施形態の異常検出装置1を説明する。
【0016】
図1の実施形態の異常検出装置1には、検査対象である金属部材Wに電流を供給する電流供給部2(電流印加装置)と、検査対象である金属部材Wの温度を計測する温度計測部3(サーモカメラ)と、各種の演算を実行する制御部4とが備えられる。また、実施形態の異常検出装置1では、電流の周波数を制御するための映像処理部5が備えられている。そして、図示のとおり各機器同士は有線接続される。むろん、機器同士は無線接続としても良い。
【0017】
電流供給部2(電流印加装置)は、異常検出装置1の設置された施設へ供給される電圧を検査対象である金属部材Wの検査に必要な電圧に降圧し、また、電流量の調整、周波数の変更の機能を備える。具体的には、各種のトランス、インバータ等の機器類を備える。電流供給部2(電流印加装置)には電極(端子)6,7が接続される。電流供給部2は、後出の制御部4の制御下において、金属部材Wに対し、少なくとも第1周波数電流(E1)と、当該第1周波数電流(E1)よりも高周波の第2周波数電流(E2)の正弦波電流を供給(印加)する。さらに、第2周波数電流(E2)は、異なる複数種類の周波数が設定される。具体的には、第1周波数電流(E1)の周波数は1000Hz未満であり、第2周波数電流(E2)の周波数はおよそ1000ないし10000Hzの範囲から選択される。
【0018】
温度測定部3は、金属部材Wの表面温度を計測する機器であり、公知のサーモカメラ、サーモグラフィ等である。電流供給部2から第1周波数電流(E1)及び第2周波数電流(E2)が供給された際、金属部材Wにジュール熱(抵抗発熱)が生じ、放射される赤外線の量が発熱量に伴い上昇する。そこで、温度測定部3は赤外線量から金属部材Wの表面温度を計測する。実施形態においては、温度測定部3に映像処理部5が接続される。映像処理部5には演算用のマイクロコンピュータ等が実装され、赤外線量の強弱、分布から金属部材Wの表面温度と表面温度の分布が計測される。従って、温度測定部3は映像処理部5を含む構成である。
【0019】
正弦波電流を供給(印加)とジュール熱(抵抗発熱)の関係は、表皮効果を利用した原理に基づく。表皮効果は、S=(ρ/π・μ・f)^(1/2)の関係式として示され、Sは深さ、ρは電気抵抗、μは絶対透磁率、fは周波数である。そこで、想定される検査対象の金属部材の亀裂(傷)の深さを跨ぐように2点以上のSの値が定義される。そして、高い側、低い側に対応してf(周波数)が規定される。つまり、浅い亀裂では高周波側の電流が規定され、深い亀裂では低周波側の電流が規定される。
【0020】
金属部材の表面の表皮深さが、傷(亀裂)を無視できるほど深ければ、温度差は発生しない。これに対し、表皮深さ自体が薄く(浅く)、傷(亀裂)によって電流の迂回が発生する領域になると、ジュール発熱に起因する温度差が発生する。
【0021】
金属部材が一般的な鉄の場合、例えば、検査する亀裂(走査傷)の深さの最大値が1mmとすると、低周波数側の交流電流の周波数は90Hzより低く設定される。そして、検査する亀裂(走査傷)の深さの最小値が0.1mmとすると、高周波数側の交流電流の周波数は9kHz(9000Hz)より高く設定される。なお、交流電流の低周波数から高周波数の範囲は、金属部材の材質の電気抵抗率、絶対透磁率、走査したい傷の深さにより変化する。
【0022】
検査対象の金属部材は、鋼板(鉄)、アルミニウム板、鋳造品(鉄、アルミニウム合金、マグネシウム合金)、鍛造品(鉄、アルミニウム合金、マグネシウム合金)である。板材の場合、厚みは0.5ないし5mmの範囲が一般的である。傷(亀裂)の大きさは、その幅が0.01ないし1mm程度のごく微小のものを対象とする。傷(亀裂)の長さに関しては、場合によるものの0.1ないし10mmであり、幅と比較すると長い。
【0023】
図2の断面模式図を用い、第1周波数電流(E1)と、より高周波側の第2周波数電流(E2)の正弦波電流を供給(印加)とジュール熱(抵抗発熱)の関係を説明する。
図2は検査対象の金属部材Wの断面の模式図であり、同金属部材Wの中央部分に異常部位として亀裂が生じている状態である。
【0024】
図2(A)では、亀裂Wx(異常部位)のある金属部材Wに対し、低周波数側の第1周波数電流(E1)が印加されている状態である。低周波数側の第1周波数電流(E1)の印加時、金属部材Wの表面Sfに接触する電極6,7の間は通電の伴いジュール熱(抵抗発熱)を生じる。このとき、低周波数側の第1周波数電流(E1)の印加時、電極6,7の間では、電流は亀裂Wxに阻害されることなく、概ね金属部材Wは均等に発熱する。すなわち、低周波数側の第1周波数電流(E1)の印加時、電流は亀裂Wxを迂回するためである。図中の矢印線は第1周波数電流(E1)の電流の流れである。
【0025】
図2(B)では、亀裂Wxのある金属部材Wに対し、第1周波数電流(E1)よりも高周波側の第2周波数電流(E2)が印加されている状態である。高周波側の第2周波数電流(E2)であっても、第2周波数電流(E2)の印加時、金属部材Wの表面Sfに接触する電極6,7の間は通電の伴いジュール熱(抵抗発熱)を生じる。しかしながら、前述の
図2(A)と異なり、高周波数側の第2周波数電流(E2)の印加時、電極6,7の間では、電流は亀裂Wxに阻害される。亀裂Wxにより迂回した電流は図示の紙面手前側または紙面奥側に逃げる。結果、高周波数側の第2周波数電流(E2)の印加時、金属部材Wの亀裂Wxの部分と周囲では、第2周波数電流(E2)が遮られ、発熱量は他の正常部位と比較して発熱量は低下する。そのため、金属部材Wの亀裂Wxの部分を中心に低温度の領域が発現する。特に、金属部材Wの亀裂Wxが深くなるに従って、当該亀裂Wxの部分を迂回する電流量が増え、他の正常部位と比較して温度差が顕著となる。図中の矢印線は第2周波数電流(E2)の電流の流れである。
【0026】
図2(C)は金属部材Wの亀裂Wyの断面模式図である。
図2(B)と比較して、亀裂Wyは亀裂Wxよりも浅い。この場合、
図2(A)と同様に低周波数側の第1周波数電流(E1)の印加時、電極6,7の間では、電流は亀裂Wyに阻害されることなく、概ね金属部材Wは均等に発熱する。高周波数側の第2周波数電流(E2)の印加時、電極6,7の間では、電流は亀裂Wyに阻害される、金属部材Wの亀裂Wyの部分と周囲の発熱量は他の正常部位と比較して発熱量は低下する。ただし、亀裂Wy自体は浅いため、電流の阻害の程度は
図2(B)よりも少なく、温度低下の程度は低い。図中の矢印線は第2周波数電流(E2)の電流の流れである。
【0027】
そこで、
図2(C)の例では、
図2(B)よりもさらに高周波数側の第2周波数電流(E2)が印加される。すると、図示のような浅い亀裂Wyであっても高周波数側の周波数に応じて温度差が発現する。従って、低周波数側の第1周波数電流(E1)の印加と、複数種類の高周波数側の第2周波数電流(E2)の印加からジュール熱(抵抗発熱)の発熱量(温度差)を通じて亀裂(異常部位)の位置、さらには亀裂の場合には深さまでも検出可能である。特に、検査対象の金属部材の表面への直接交流電流の印加(供給)と表面の発熱量を検出するため、検査対象の金属部材表面の微細な凹凸は無視可能である。
【0028】
図1の概略図に戻り、制御部4は、温度測定部3により計測された金属部材Wの表面温度から当該金属部材における異常部位(亀裂)Wx(
図2等参照)の位置を推定する。制御部4は温度測定部3の計測結果に基づいて、計測された金属部材Wの表面温度と、その温度分布から、金属部材Wに存在する亀裂等の異常部位の位置、さらには深さを推定するための演算を実行する。詳細は後述する。
【0029】
図3は制御部4の構成を示すブロック図である。制御部4は、ハードウェア的にCPU11、ROM12、RAM13、記憶部14により構成される。その他にメインメモリ、LSI等も含まれる。またソフトウェア的に、メインメモリにロードされた異常検出プログラム等により実現される。制御部4は、パーソナルコンピュータ(PC)、メインフレーム、ワークステーション、クラウドコンピューティングシステム等、種々の電子計算機(計算リソース)を用いて実現できる。
【0030】
制御部4の各機能部をソフトウェアにより実現する場合、制御部4は各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行することで実現される。このプログラムを格納する記録媒体は、「一時的でない有形の媒体」、例えば、CD、DVD、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、このプログラムは、当該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワーク、放送波等)を介して制御部4等のコンピュータに供給されてもよい。
【0031】
制御部4における各種の記憶部はROM12、RAM13であり、さらに記憶部14はHDDまたはSSD等の公知の記憶装置(図示せず)である。また、演算処理を実行する各機能部はCPU11等の演算素子である。制御部4は、詳細には、第1発熱分布取得部110、第2発熱分布取得部120、検出部130、温度差算出部140、推定部150等の機能部を備える(
図2参照)。さらに、制御部4はI/O(イン・アウトインターフェース)15、公知のディスプレイ(液晶表示装置、有機EL表示装置等)の表示部(図示せず)等を備える。
【0032】
I/O15は通信(送受信)用のインターフェース、バッファ等である。I/O15は、電流供給部2に対する第1周波数電流(E1)及び第2周波数電流(E2)の電流量、周波数の指示、及び映像処理部5から伝送される信号の受信、表示部(図示せず)への信号の送信に介在される。
【0033】
制御部4のCPU11の機能部である第1発熱分布取得部110は、金属部材Wに対し第1周波数電流(E1)を供給した際の金属部材Wの表面温度を温度計測部3(映像処理部5)により計測して金属部材Wにおける第1発熱分布(Td1)を取得する。取得された第1発熱分布(Td1)のデータは制御部4のRAM13、記憶部14に格納される。
【0034】
第2発熱分布取得部120は、金属部材Wに対し第2周波数電流(E2)を供給した際の金属部材Wの表面温度を温度計測部3(映像処理部5)により計測して金属部材Wにおける第2発熱分布(Td2)を取得する。取得された第2発熱分布(Td2)のデータは制御部4のRAM13、記憶部14に格納される。
【0035】
さらに、第2周波数電流(E2)は複数種類設定可能であり、それぞれの第2周波数電流の種類ごとに(周波数ごとに)第2発熱分布(Td2)が取得される。つまり、第2周波数電流の周波数が複数設定されているときには、各周波数のときの第2発熱分布が取得される。前出の
図2の説明のとおり、金属部材Wの亀裂の深さが異なるため、第2周波数電流(E2)は周波数に応じて複数種類設定され供給される。
【0036】
検出部130は、金属部材Wにおける、第1発熱分布(Td1)または第2発熱分布(Td2)のいずれか、もしくは第1発熱分布(Td1)及び第2発熱分布(Td2)の双方において、周囲の温度(表面温度)よりも低温度を示す部位を異常部位として検出する。すなわち、検出部130における異常部位の検出に際しては、第1発熱分布(Td1)または第2発熱分布(Td2)のいずれかの検出から低温度を示す部位を検出してもよく、あるいは、第1発熱分布(Td1)と第2発熱分布(Td2)の両方において低温度を示す部位を確認して検出してもよい。
【0037】
温度差算出部140は、第1発熱分布(Td1)として計測された第1温度(Tm1)と、第2発熱分布(Td2)として計測された第2温度(Tm2)との温度差(Dt)を算出する。
【0038】
推定部150は、温度差(Dt)に基づいて金属部材Wの異常部位Wxにおける深さ方向の亀裂深さを推定する。
【0039】
加えて、制御部4の記憶部14には、対応テーブル記憶部160が含まれる。対応テーブル記憶部160は、金属部材Wの種類に応じた温度差(Dt)と亀裂深さを対応させた対応テーブル160を記憶する。対応テーブル160については、後に説明する。
【0040】
異常部位の検出までの流れについて、
図4及び
図5を用いて説明する。
図4(A)の紙面左側は低周波側の第1周波数電流(E1)が印加(供給)された状態の金属部材Wの断面図である。図示では深い亀裂Wxaと浅い亀裂Wxbの2箇所が存在している。第1周波数電流(E1)は金属部材Wの表面から内部にも回り込み亀裂WxaとWxbの両方とも深さに応じて迂回しながら通電している。図中の矢印線は第1周波数電流(E1)の電流の流れである。
【0041】
同
図4(A)の紙面右側は金属部材Wの表面を温度計測部3のサーモカメラにより撮影し映像処理部5を介して処理した画像(金属部材Wの上面)であり、第1発熱分布(Td1)に相当する。第1周波数電流(E1)の印加時(供給時)、亀裂Wxaを中心に金属部材Wの表面Sfの温度よりも低温度の領域Spaにおいて第1温度として(Tma1)、亀裂Wxbを中心に他の金属部材Wの表面よりも低温度の領域Spbにおいて第1温度として(Tmb1)が発現する。
【0042】
図4(B)の紙面左側は高周波側の第2周波数電流(E2)が印加(供給)された状態の金属部材Wの断面図である。第2周波数電流(E2)は浅い亀裂Wxbを迂回しながら流れている(矢印線の実線参照)。しかし、第2周波数電流(E2)は深い側の亀裂Wxaにより遮られる(矢印線の破線参照)。
【0043】
図4(B)の紙面右側は金属部材Wの表面を温度計測部3のサーモカメラにより撮影し映像処理部5を介して処理した画像(金属部材Wの上面)であり、第2発熱分布(Td2)に相当する。高周波側の第2周波数電流(E2)の印加時、第2周波数電流(E2)は亀裂Wxaの深さにより阻害されやすくなり、電流減少分、ジュール熱の発熱量は低下する。これに対し、浅い側の亀裂Wxbでは第2周波数電流(E2)は一部阻害されるものの、大半は迂回しながら流れている。そのため、ジュール熱の発熱量の低下は少ない。結果、亀裂Wxaを中心に金属部材Wの表面Sfよりも、より低温度の領域Spa(その第2温度:Tma2)が発現する。これに対し、亀裂Wxbを中心とする領域Spb(その第2温度:Tmb2)は、金属部材Wの表面Sfの温度(St)よりも低温度ではあるものの温度差は少ない。
【0044】
図4(A)と
図4(B)の比較から、亀裂Wxaにおける温度差(Dta=Tma1-Tma2)は、亀裂Wxbにおける温度差(Dtb=Tmb1-Tmb2)よりも大きい(Dta>Dtb)。
【0045】
続く
図5は第2周波数電流の種類を高周波側にさらに増やして印加した際の状況である。
図5(A)は
図4(B)よりも周波数を高めた第2周波数電流(E21)の状況であり、
図5(B)は
図5(A)よりもさらに周波数を高めた第2周波数電流(E22)の状況である。
【0046】
図5(A)の紙面左側は高周波側の第2周波数電流(E21)が印加(供給)された状態の金属部材Wの断面図である。第2周波数電流(E21)は浅い亀裂Wxbに遮られつつも迂回しながら流れている(矢印線の実線参照)。しかし、第2周波数電流(E21)は深い側の亀裂Wxaにより大半が遮られる(矢印線の破線参照)。
【0047】
図5(A)の紙面右側は金属部材Wの表面を温度計測部3のサーモカメラにより撮影し映像処理部5を介して処理した画像(金属部材Wの上面)であり、第2発熱分布(Td2)に相当する。高周波側の第2周波数電流(E21)の印加時、第2周波数電流(E21)は亀裂Wxaと亀裂Wxbの両方により阻害されやすくなる。ただし、亀裂Wxaは亀裂Wxbよりも深いため、第2周波数電流(E21)は多く阻害される。浅い側の亀裂Wxbでは、第2周波数電流(E21)は一部迂回しながら流れている。このため、深い側の亀裂Wxaの電流減少分、亀裂Wxbと比較してジュール熱の発熱量低下は顕著となる。結果、亀裂Wxaを中心に金属部材Wの表面Sfよりも、より低温度の領域Spa(その第2温度:Tma21)が発現する。これに対し、亀裂Wxbを中心とする領域Spb(その第2温度:Tmb21)は、金属部材Wの表面Sfの温度(St)よりも低温度ではあるものの金属部材Wの表面Sfの温度(St)からの温度差は少ない。
【0048】
図5(B)の紙面左側は高周波側の第2周波数電流(E22)が印加(供給)された状態の金属部材Wの断面図である。第2周波数電流(E22)まで交流電流の周波数が高められると、電流は亀裂Wxaと亀裂Wxbの両方により遮られる(矢印線の破線参照)。
【0049】
図5(B)の紙面右側は金属部材Wの表面を温度計測部3のサーモカメラにより撮影し映像処理部5を介して処理した画像(金属部材Wの上面)であり、第2発熱分布(Td2)に相当する。高周波側の第2周波数電流(E22)の印加時、第2周波数電流(E21)は亀裂Wxaと亀裂Wxbの両方により阻害されやすくなる。ここで、深い側の亀裂Wxaでは、
図4(A)、(B)、及び
図5(A)の一連の印加の経緯からジュール熱の発熱量は相対的に少なく、亀裂Wxaを中心に金属部材Wの表面Sfよりも、より低温度の領域Spa(その第2温度:Tma22)が発現する。これに対し、亀裂Wxbを中心とする領域Spb(その第2温度:Tmb22)は、金属部材Wの表面Sfの温度よりも低温度ではあるものの温度差は少ない。
【0050】
図4(A)と
図5(A)の比較から、亀裂Wxaにおける温度差(Dta1=Tma1-Tma21)は、亀裂Wxbにおける温度差(Dtb1=Tmb1-Tmb21)よりも大きい(Dta1>Dtb1)。同様に、
図4(A)と
図5(B)の比較から、亀裂Wxaにおける温度差(Dta2=Tma1-Tma22)は、亀裂Wxbにおける温度差(Dtb2=Tmb1-Tmb22)よりも大きい(Dta2>Dtb2)。
【0051】
図4及び
図5の模式図と説明を踏まえ、検出部130が金属部材Wの異常部位Wxを検出する処理では、金属部材Wにおける第1発熱分布(Td1)の第1温度として(Tma1)と、第2発熱分布(Td2)の第2温度として(Tma2)の双方の温度が検出される。そして、両方とも金属部材Wの表面Sfの温度(St)よりも低温度を示していれば、当該部位は異常部位として検出される。この段階では、異常部位は金属部材における部位、場所として検出、特定される。むろん、第2温度の検出に際し、第2周波数電流は、周波数を変更して複数種類の印加としても良い。さらに加えると、金属部材Wにおける第1発熱分布(Td1)の第1温度として(Tma1)、または第2発熱分布(Td2)の第2温度として(Tma2)のいずれか片方の検出とすることができる。片方の温度検出で足りる場合には、処理の簡略化の点から片方の検出となる。
【0052】
さらに、異常部位の亀裂の深さの同定に際しては、温度差算出部140と推定部150が用いられる。温度差算出部140の処理では、第1発熱分布(Td1)として計測された第1温度(Tm1)と第2発熱分布(Td2)として計測された第2温度(Tm2)との温度差(Dta、Dtb等)が求められる。温度差は異常部位の亀裂の深さと相関する分布となること、検出された温度差に基づいて当該異常部位における深さ方向の亀裂深さが推定される。
【0053】
異常部位における深さ方向の亀裂深さの推定に際しては、
図6の模式図に示す対応テーブル160が予め用意(作成)され、記憶部14内に格納されている。対応テーブル160は、金属部材の材質毎に用意される。例えば、温度差(℃)と周波数(低周波数側と高周波数側)との関係から、異常部位における深さ方向の亀裂深さが一覧にまとめ上げられている。推定部150は対応テーブル160を使用することにより、的確に温度差から異常部位における深さ方向の亀裂深さが近似値として推定することができる。
【0054】
続いて、実施形態の異常検出方法を異常検出プログラムとともに説明する。実施形態の異常検出方法は、異常検出プログラムに基づいて、制御部4により実行される。異常検出プログラムは、制御部4(CPU11)に対して、第1発熱分布取得機能、第2発熱分布取得機能、検出機能、温度差算出機能、推定機能を実行させる。各機能は前述の異常検出装置1の説明と重複するため、詳細は省略する。
【0055】
図7のフローチャートは制御部4における異常検出方法の全体の流れであり、第1発熱分布取得ステップ(S110)、第2発熱分布取得ステップ(S120)、検出ステップ(S130)、温度差算出ステップ(S140)、推定ステップ(S150)の各種ステップを備える。その他、異常検出方法は、記憶、格納、呼び出し、演算、比較等の各種の図示しないステップも備える。
【0056】
制御部4において、第1発熱分布取得ステップ(S110)における処理は第1発熱分布取得部110の説明に対応する。第2発熱分布取得ステップ(S120)における処理は第2発熱分布取得部120の説明に対応する。検出ステップ(S130)における処理は検出部130の説明に対応する。温度差算出ステップ(S140)における処理は温度差算出部140の説明に対応する。推定ステップ(S150)における処理は推定部150の説明に対応する。各ステップにおける具体的な処理は、前述の各機能部の説明のとおりであるため、詳細を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の異常検出装置、及びその方法、プログラムは、周波数の相違に起因した表皮効果に伴う発熱量の差異から金属部材の異常部位の検出を可能とし、検出効率を向上させることができる。そこで、従前の誘導加熱コイルの使用、さらには、測定点を増加させることなく異常部位を検出でき、代替として有望である。
【符号の説明】
【0058】
1 異常検出装置
2 電流供給部(電流印加装置)
3 温度測定部(サーモカメラ)
4 制御部
5 映像処理部
11 CPU
12 ROM
13 RAM
14 記憶部
15 I/O
110 第1発熱分布取得部
120 第2発熱分布取得部
130 検出部
140 温度差算出部
150 推定部
160 対応テーブル
W 金属部材
Wx 異常部位(亀裂)
Sf 表面