(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053981
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】自己組織化剤
(51)【国際特許分類】
C07C 275/28 20060101AFI20220330BHJP
C07C 273/02 20060101ALI20220330BHJP
C07C 53/126 20060101ALI20220330BHJP
C07C 59/01 20060101ALI20220330BHJP
A41D 13/11 20060101ALI20220330BHJP
B01D 39/04 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
C07C275/28
C07C273/02
C07C53/126
C07C59/01
A41D13/11 Z
B01D39/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160909
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 賀東
(72)【発明者】
【氏名】塚本 眞幸
【テーマコード(参考)】
4D019
4H006
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019AA02
4D019BA11
4D019BB07
4D019DA01
4D019DA03
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB46
4H006AB81
4H006AC47
4H006AC57
4H006BB14
4H006BC10
4H006BN10
4H006BS10
(57)【要約】
【課題】不織布フィルタを使用せずに、簡便に、繊維径の小さいフィルタを製造する。
【解決手段】自己組織化によってナノ繊維網目構造体を形成するための自己組織化剤であって、
一般式(1)又は(2):
[式中、R
1は2価の炭化水素基を示す。R
2及びR
3は同一又は異なって、1価の炭化水素基を示す。R
4は同一又は異なって、置換又は非置換1価の炭化水素基を示す。Y
1及びY
2は同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子を示す。Zは1価の非金属カチオンを示す。]
で表される化合物を含有する、自己組織化剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己組織化によってナノ繊維網目構造体を形成するための自己組織化剤であって、
一般式(1)又は(2):
【化1】
[式中、R
1は2価の炭化水素基を示す。R
2及びR
3は同一又は異なって、1価の炭化水素基を示す。R
4は同一又は異なって、置換又は非置換1価の炭化水素基を示す。Y
1及びY
2は同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子を示す。Zは1価の非金属カチオンを示す。]
で表される化合物を含有する、自己組織化剤。
【請求項2】
前記Y1及びY2が酸素原子である、請求項1に記載の自己組織化剤。
【請求項3】
前記R1が2価の直鎖状炭化水素基である、請求項1又は2に記載の自己組織化剤。
【請求項4】
前記R1が2価の直鎖状芳香族炭化水素基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の自己組織化剤。
【請求項5】
前記R2及びR3が1価の直鎖状炭化水素基である、請求項1~4のいずれか1項に記載の自己組織化剤。
【請求項6】
さらに、油を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の自己組織化剤。
【請求項7】
ナノ繊維網目構造体の製造方法であって、請求項1~6のいずれか1項に記載の自己組織化剤に対して加熱及び冷却を繰り返す工程
を備える、製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の自己組織化剤によって形成されたナノ繊維網目構造体。
【請求項9】
請求項8に記載のナノ繊維網目構造体を含有する、ナノ繊維網目構造体懸濁液。
【請求項10】
前記懸濁液の溶媒がアルコール水溶液である、請求項9に記載のナノ繊維網目構造体懸濁液。
【請求項11】
スプレー剤である、請求項9又は10に記載のナノ繊維網目構造体懸濁液。
【請求項12】
フィルタを有する製品の製造方法であって、
請求項9~11のいずれか1項に記載のナノ繊維網目構造体懸濁液を噴霧する工程
を備える、製造方法。
【請求項13】
前記フィルタを有する製品がマスクである、請求項12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己組織化によってナノ繊維網目構造体を形成するための自己組織化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
感染症流行によるマスクの世界的不足は今後も予想されており、マスクの不足解消のためのボトルネックは捕集機能を担う不織布フィルタにある。このフィルタは、通常、ポリプロピレンを直径数μmの繊維状に延伸し、積層させるメルトブロー法により製造されている。この方法によれば、繊維の直径が数μm程度と大きいため、表面積が小さく、捕集能力が不十分であるため、繊維を帯電させ、静電気力により捕集能力を補っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の製造方法では、大規模生産設備を必要であることに加え、メルトフローレートの高いポリプロピレン材料の不足や、帯電性の付与、保持等の製造ノウハウの欠如が、フィルタ増産を阻害している。このため、マスク不足解消のためには、現状の不織布フィルタへの依存から脱却することが不可欠である。
【0004】
以上から、本発明は、不織布フィルタを使用せずに、簡便に、繊維径の小さいフィルタを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために検討を重ねてきた結果、特定の化合物を用いて、油中の分子自己組織化によってナノ繊維網目構造体を形成し、このナノ繊維網目構造体を含む懸濁液を、例えば網目が大きく捕集性能が低いマスク(布マスク等)に噴霧すれば、簡便に高性能マスクのフィルタ機能を実現できることを見出した。この際、得られるフィルタは、繊維径を10~100nmオーダーで制御することが可能であり、不織布フィルタと比較して表面積を104~106倍程度大きくすることが可能であるため、帯電操作も不要である。また、分子への官能基配置により、ウイルス捕捉能力のさらなる向上も見込むことができる。このため、本発明によれば、簡便に、高性能マスクのフィルタ機能を実現することができ、また、エンドユーザーが自身で噴霧することにより高性能マスクを実現することも可能である。本発明者らは、以上の知見をもとにさらに検討を重ね、本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0006】
項1.自己組織化によってナノ繊維網目構造体を形成するための自己組織化剤であって、
一般式(1)又は(2):
【0007】
【0008】
[式中、R1は2価の炭化水素基を示す。R2及びR3は同一又は異なって、1価の炭化水素基を示す。R4は同一又は異なって、置換又は非置換1価の炭化水素基を示す。Y1及びY2は同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子を示す。Zは1価の非金属カチオンを示す。]
で表される化合物を含有する、自己組織化剤。
【0009】
項2.前記Y1及びY2が酸素原子である、項1に記載の自己組織化剤。
【0010】
項3.前記R1が2価の直鎖状炭化水素基である、項1又は2に記載の自己組織化剤。
【0011】
項4.前記R1が2価の直鎖状芳香族炭化水素基である、項1~3のいずれか1項に記載の自己組織化剤。
【0012】
項5.前記R2及びR3が1価の直鎖状炭化水素基である、項1~4のいずれか1項に記載の自己組織化剤。
【0013】
項6.さらに、油を含有する、項1~5のいずれか1項に記載の自己組織化剤。
【0014】
項7.ナノ繊維網目構造体の製造方法であって、項1~6のいずれか1項に記載の自己組織化剤に対して加熱及び冷却を繰り返す工程
を備える、製造方法。
【0015】
項8.項1~6のいずれか1項に記載の自己組織化剤によって形成されたナノ繊維網目構造体。
【0016】
項9.項8に記載のナノ繊維網目構造体を含有する、ナノ繊維網目構造体懸濁液。
【0017】
項10.前記懸濁液の溶媒がアルコール水溶液である、項9に記載のナノ繊維網目構造体懸濁液。
【0018】
項11.スプレー剤である、項9又は10に記載のナノ繊維網目構造体懸濁液。
【0019】
項12.フィルタを有する製品の製造方法であって、
項9~11のいずれか1項に記載のナノ繊維網目構造体懸濁液を噴霧する工程
を備える、製造方法。
【0020】
項13.前記フィルタを有する製品がマスクである、項12に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、不織布フィルタを使用せずに、簡便に、繊維径の小さいフィルタを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0023】
1.自己組織化剤
本発明の自己組織化剤は、自己組織化によってナノ繊維網目構造体を形成するための自己組織化剤であって、
一般式(1)又は(2):
【0024】
【0025】
[式中、R1は2価の炭化水素基を示す。R2及びR3は同一又は異なって、1価の炭化水素基を示す。R4は同一又は異なって、置換又は非置換1価の炭化水素基を示す。Y1及びY2は同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子を示す。Zは1価の非金属カチオンを示す。]
で表される化合物を含有する。
【0026】
分子間の水素結合に基づく水中の自己組織化に関しては、生命科学分野で精力的に研究されてきた。しかしながら、本発明の対象であるファンデルワールス力による油中の自己組織化は、グリースの増ちょう剤や潤滑油の摩擦調整添加剤等が関与する現象として知られているものの、メカニズムや制御方法に関する報告はほとんどない。本発明では、このようななか、特定の化合物を用いて、油中の分子自己組織化によってナノ繊維網目構造体を形成し、このナノ繊維網目構造体を含む懸濁液を、例えば網目が大きく捕集性能が低いマスク(布マスク等)に噴霧すれば、簡便に高性能マスクのフィルタ機能を実現できることを見出したものである。この際、得られるフィルタは、繊維径を10~100nmオーダーで制御することが可能であり、不織布フィルタと比較して表面積を104~106倍程度大きくすることが可能であるため、帯電操作も不要である。また、分子への官能基配置により、ウイルス捕捉能力のさらなる向上も見込むことができる。このため、本発明によれば、簡便に、高性能マスクのフィルタ機能を実現することができ、また、エンドユーザーが自身で噴霧することにより高性能マスクを実現することも可能である。
【0027】
上記した一般式(1)及び(2)で表される化合物のなかでも、一般式(1)で表される(チオ)ウレア化合物は、人体に無害な生分解性化合物であり、且つ、ウイルスのエンベロープを構成する脂質分子と相互作用する官能基を有する点において特に有効である.
一般式(1)において、R1で示される2価の炭化水素基としては、特に制限はなく、様々なものを使用できる。なかでも、ファンデルワールス力をより高めて油中の自己組織化が起こりやすく所望のナノ繊維網目構造体を形成しやすく、所望の高性能マスクのフィルタ機能を実現しやすい観点から、2価の直鎖状炭化水素基が好ましい。さらには、π-πスタッキング効果により油中の自己組織化が起こりやすく所望のナノ繊維網目構造体を形成しやすく、所望の高性能マスクのフィルタ機能を実現しやすい観点から、2価の直鎖状芳香族炭化水素基が好ましい。
【0028】
このような2価の直鎖状芳香族炭化水素基としては、特に制限されないが、一般式(3):
【0029】
【0030】
[式中、R5は2価の炭化水素基を示す。nは0以上の整数を示す。]
で表される2価の直鎖状芳香族炭化水素基が好ましい。
【0031】
一般式(3)において、R5で示される炭化水素基としては、特に制限はなく、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基等が挙げられる。
【0032】
一般式(3)において、R5で示される炭化水素基としてのアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等の炭素数1~6(特に炭素数1~4)のアルキレン基が挙げられる。
【0033】
一般式(3)において、R5で示される炭化水素基としてのアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基等の炭素数2~6、特に炭素数2~4のアルケニレン基等が挙げられる。
【0034】
一般式(3)において、R5で示される炭化水素基としてのアルキニレン基としては、例えば、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基等の炭素数2~6、特に炭素数2~4のアルキニレン基等が挙げられる。
【0035】
一般式(3)において、nは0以上の整数であり、合成の容易さ、油中の自己組織化の起こりやすさ、得られるナノ繊維網目構造体の繊維径、得られるフィルタ機能等の観点から、0~10の整数が好ましく、1~5の整数がより好ましい。
【0036】
以上のような条件を満たす2価の直鎖状芳香族炭化水素基としては、例えば、
【0037】
【0038】
等が挙げられる。
【0039】
一般式(1)において、R1で示される2価の炭化水素基としては、上記の2価の直鎖状芳香族炭化水素基のみに限定されることはなく、2価の直鎖状脂肪族炭化水素基も採用することができる。このような2価の直鎖状脂肪族炭化水素基としては、例えば、上記したアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基等が挙げられる。
【0040】
一般式(1)において、R2及びR3で示される1価の炭化水素基としては、特に制限はなく、直鎖状炭化水素基が好ましく、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。
【0041】
一般式(1)において、R2及びR3で示される1価の炭化水素基としてのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基等)、ブチル基(n-ブチル基等)、ペンチル基(n-ペンチル基等)、ヘキシル基(n-ヘキシル基等)等の直鎖状の炭素数1~6のアルキル基等が挙げられる。
【0042】
一般式(1)において、R2及びR3で示される1価の炭化水素基としてのシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の炭素数3~8のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0043】
一般式(1)において、R2及びR3で示される1価の炭化水素基としてのアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基(o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基)、エチルフェニル基(2-エチルフェニル基、3-エチルフェニル基、4-エチルフェニル基)、ナフチル基、アントラセニル基等の炭素数6~20のアリール基等が挙げられる。
【0044】
一般式(1)において、R2及びR3で示される1価の炭化水素基としてのアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、1-ブテニル基、1-ペンテニル基、1-ヘキセニル基等の直鎖状の炭素数2~10のアルケニル基が挙げられる。また、二重結合の位置及び数は任意であり、適宜調整することができる。
【0045】
一般式(1)において、R2及びR3で示される1価の炭化水素基としてのアルキニル基としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、1-ブチニル基、1-ペンチニル基、1-ヘキシニル基等の直鎖状の炭素数2~10のアルキニル基が挙げられる。また、三重結合の位置及び数は任意であり、適宜調整することができる。
【0046】
一般式(1)において、Y1及びY2は、酸素原子又は硫黄原子であり、ファンデルワールス力をより高めて油中の自己組織化が起こりやすく所望のナノ繊維網目構造体を形成しやすく、所望の高性能マスクのフィルタ機能を実現しやすい観点から、酸素原子が好ましい。
【0047】
以上のような条件を満たす一般式(1)で表される化合物としては、具体的には、
【0048】
【0049】
等が挙げられる。
【0050】
一般式(2)において、R4で示される1価の炭化水素基としては、特に制限はなく、直鎖状炭化水素基が好ましく、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。
【0051】
一般式(2)において、R4で示される1価の炭化水素基としてのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、イソプロピル基等)、ブチル基(n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等)、ペンチル基(n-ペンチル基、ネオペンチル基等)、ヘキシル基(n-ヘキシル基等)等の炭素数1~6の鎖状又は分岐鎖状のアルキル基等が挙げられる。
【0052】
一般式(2)において、R4で示される1価の炭化水素基としてのシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の炭素数3~8のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0053】
一般式(2)において、R4で示される1価の炭化水素基としてのアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基(o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基)、エチルフェニル基(2-エチルフェニル基、3-エチルフェニル基、4-エチルフェニル基)、ナフチル基、アントラセニル基等の炭素数6~20のアリール基等が挙げられる。
【0054】
一般式(2)において、R4で示される1価の炭化水素基としてのアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、2-エチル-1-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、4-メチル-3-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基等の直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2~10のアルケニル基が挙げられる。また、二重結合の位置及び数は任意であり、適宜調整することができる。
【0055】
一般式(2)において、R4で示される1価の炭化水素基としてのアルキニル基としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-ペンチニル基、2-ペンチニル基、3-ペンチニル基、4-ペンチニル基、1-ヘキシニル基、2-ヘキシニル基、3-ヘキシニル基、4-ヘキシニル基、5-ヘキシニル基等の直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2~10のアルキニル基が挙げられる。また、三重結合の位置及び数は任意であり、適宜調整することができる。
【0056】
一般式(2)において、R4で示される1価の炭化水素基としてのアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基及びアルキニル基は、置換基を有することもできる。このような置換基としては、特に制限されないが、例えば、水酸基、ハロゲン原子、上記した直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、上記したシクロアルキル基、上記したアリール基、上記した直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基、上記した直鎖状又は分岐鎖状のアルキニル基等が挙げられる。このような置換基の数は、特に制限されず、例えば、1~6個程度(特に1~3個程度)有することもできる。
【0057】
一般式(2)において、Zで示される1価の非金属カチオンとしては、特に制限されず、種々多様なカチオンを採用することができ、例えば、水素イオン、アンモニウムイオン、含窒素有機化合物のオニウムイオン等が挙げられる。含窒素有機化合物のオニウムカチオンとしては、例えば、(モノ、ジ、トリ又はテトラ)アルキルアンモニウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、キノリニウム、イミダゾリウム、トリアゾリウム、アミジニウム、グアニジニウム、アニリニウム、アミノホスホニウム等が挙げられる。アルキルアンモニウム及びアルキルアミンにおけるアルキル基は上記した直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を採用することができる。
【0058】
以上のような条件を満たす一般式(2)で表される化合物としては、具体的には、
【0059】
【0060】
等が挙げられる。
【0061】
上記した一般式(1)及び(2)で表される化合物は、公知又は市販品を使用することができる。また、常法により合成することも可能である。
【0062】
本発明の自己組織化剤は、上記した一般式(1)又は(2)で表される化合物を含有している。本発明の自己組織化剤は、一般式(1)で表される化合物又は一般式(2)で表される化合物のいずれかを含んでいてもよいし、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物とを双方含有していてもよい。
【0063】
また、本発明の自己組織化剤は、上記した一般式(1)又は(2)で表される化合物のみからなる構成とすることもできるが、油中の分子自己組織化によってナノ繊維網目構造体を形成するものであることから、本発明の自己組織化剤は、さらに、油を含有することが好ましい。油を含有している場合、本発明の自己組織化剤は、油溶液となることが多い。
【0064】
このような油としては、特に制限はなく、種々多様なものを使用することができるが、ファンデルワールス力をより高めて油中の自己組織化が起こりやすく所望のナノ繊維網目構造体を形成しやすく、所望の高性能マスクのフィルタ機能を実現しやすい観点から、鉱物油(パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油等)、合成油(アルファオレフィンオリゴマー、ポリブデン、アルキルベンゼン、シクロアルカン等の炭化水素系合成油;モノエステル、ジエステル、ポリオールエステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル等のエステル系合成油;ポリグリコール、フェニルエーテル等のエーテル系合成油;ポリシロキサン、シリケートエステル等のシリコーン系合成油;パーフルオロポリエーテル、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系合成油等)等の各種潤滑油が好ましい。
【0065】
本発明の自己組織化剤が油を含有している場合、上記した一般式(1)又は(2)で表される化合物の含有量は特に制限されないが、ファンデルワールス力をより高めて油中の自己組織化が起こりやすく所望のナノ繊維網目構造体を形成しやすく、所望の高性能マスクのフィルタ機能を実現しやすい観点から、本発明の自己組織化剤の総量を100質量%として、1~50質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましい。
【0066】
特に、本発明の自己組織化剤をグリースとして使用する場合には、本発明の自己組織化剤には、他にも、酸化防止剤(ヒンダードフェノール化合物、芳香族2級アミン化合物等)、粘度指数向上剤(ポリブテン、ポリイソブテン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリメタクリレート等)、油性向上剤(オレイン酸等の長鎖脂肪酸化合物若しくはそのエステル、オレイルアミン等の長鎖アミン化合物若しくはそのエステル等)、極圧剤(モノスルフィド、ジスルフィド、スルホキシド、硫黄ホスファイド等の硫黄含有化合物;塩素化パラフィン等の塩素含有化合物等)、固体潤滑剤(二硫化モリブデン、グラファイト、窒化ホウ素、メラミンシアヌレート、ポリテトラフルオロエチレン等)、防錆剤(酸化パラフィン、カルボン酸金属塩、スルホン酸金属塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル等)、流動降下剤(ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート等)等の添加剤を含有することもできる。この場合、各添加剤の含有量は、従来から通常使用される量とすることができる。
【0067】
2.ナノ繊維網目構造体及びその製造方法
本発明のナノ繊維網目構造体は、上記した本発明の自己組織化剤が自己組織化し、ナノ繊維を形成しつつ、このナノ繊維が絡み合って製造されるものである。
【0068】
この際、形成されるナノ繊維の平均繊維径は、特に制限されないが、所望の高性能マスクのフィルタ機能を実現しやすい観点から、5~200nm程度が好ましく、10~100nm程度がより好ましい。
【0069】
この際、形成されるナノ繊維の平均繊維長は、特に制限されないが、所望の高性能マスクのフィルタ機能を実現しやすい観点から、平均繊維径の5~10000倍以上が好ましく、10~5000倍程度がより好ましい。
【0070】
また、この際、ナノ繊維により形成されるフィルタが有する平均孔径は、特に制限されないが、所望の高性能マスクのフィルタ機能を実現しやすい観点から、1~1000nm程度が好ましく、2~500nm程度がより好ましい。
【0071】
以上のような本発明のナノ繊維網目構造体は、本発明の自己組織化剤に対して加熱及び冷却を繰り返す工程により製造することができる。具体的には、本発明の自己組織化剤が有する一般式(1)又は(2)で表される化合物の相転移温度近傍で、加熱及び冷却を繰り返すことにより、本発明のナノ繊維網目構造体を製造することができる。例えば、本発明の自己組織化剤が有する一般式(1)又は(2)で表される化合物の相転移温度より高い温度への加熱と、本発明の自己組織化剤が有する一般式(1)又は(2)で表される化合物の相転移温度より低い温度への冷却とを繰り返すことができる。この際、加熱及び冷却の温度範囲及び温度変化速度、本発明の自己組織化剤が有する一般式(1)又は(2)で表される化合物の濃度、油の粘度等については、適宜設定することができる。
【0072】
3.ナノ繊維網目構造体懸濁液及びフィルタを有する製品の製造方法
上記のようにして得られた本発明のナノ繊維網目構造体は、油中に分散していることが多い。このため、溶媒によって油を除去することが好ましい。
【0073】
この際使用できる溶媒は、特に制限されないが、本発明のナノ繊維網目構造体を効果的に抽出することが可能であることから、ヘキサン等に代表される炭化水素溶媒等が挙げられる。
【0074】
上記のように、本発明のナノ繊維網目構造体を抽出した後、好ましくはアルコール水溶液等の水性溶媒に懸濁させ、ナノ繊維網目構造体懸濁液を得ることが好ましい。
【0075】
この際、ナノ繊維網目構造体懸濁液中の本発明のナノ繊維網目構造体の濃度は特に制限されないが、所望のフィルタ機能を得やすい観点から、5~60質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましい。
【0076】
このようにして得られた本発明のナノ繊維網目構造体懸濁液は、特に制限されないが、簡便であるため、スプレー剤等として使用することができる。
【0077】
具体的には、本発明のナノ繊維網目構造体懸濁液をスプレー剤等として使用し、噴霧することにより、所望のフィルタ機能を形成することが可能である。この際、噴霧する対象は特に制限されず、種々様々な基材に対して噴霧することができる。例えば、マスクに対して本発明のナノ繊維網目構造体懸濁液をスプレー剤等として使用して噴霧すれば、不織布フィルタに依存せずとも、簡便に高性能マスクのフィルタ機能を実現することが可能である。