(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054054
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】浄化槽及び浄化槽の運転方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/00 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
C02F3/00 B
C02F3/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161028
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】301050924
【氏名又は名称】株式会社ハウステック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(72)【発明者】
【氏名】日比野 淳
(72)【発明者】
【氏名】黒永 見吾
【テーマコード(参考)】
4D027
【Fターム(参考)】
4D027AB06
4D027AB07
4D027AB14
4D027CA01
(57)【要約】
【課題】トイレの使用頻度が極端に多い浄化槽において、スカム生成量が想定以上に多くなる場合があり、運転を続けると、嫌気処理槽第1室の上部がスカムで塞がれ、建屋内の各排出点からの排水が流れにくくなる課題を生じる。そこで、嫌気処理槽第1室のスカム発生量低減のため、循環水量を少なく設定し直すと、処理水質が悪化する課題が生じる。
【解決手段】本発明は、上流側から嫌気処理槽、好気処理槽、沈殿槽、消毒槽の配列で構成され、さらに前記嫌気処理槽が仕切壁によって少なくとも第1室と第2室の2室以上に分割され、前記好気処理槽の槽内、あるいは、前記沈殿槽の槽内にポンプが配置された浄化槽であって、前記ポンプの流出口が前記嫌気処理槽の前記第1室から前記第2室への移流部以降に開口された構造を採用した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側から嫌気処理槽、好気処理槽、沈殿槽、消毒槽の配列で構成され、さらに前記嫌気処理槽が仕切壁によって少なくとも第1室と第2室を有する2室以上に分割され、前記好気処理槽の槽内、あるいは、前記沈殿槽の槽内にポンプが配置された浄化槽であって、前記ポンプの流出口が前記嫌気処理槽の前記第1室から前記第2室への移流部以降に開口されたことを特徴とする浄化槽。
【請求項2】
前記第1室と前記第2室の境界部に前記第1室の上部から前記第2室の上部に連通する移流部が設けられ、該移流部の上部に前記ポンプの流出口が開口されたことを特徴とする請求項1に記載の浄化槽。
【請求項3】
前記第1室と前記第2室を仕切る仕切壁に沿って前記第1室の下部側から前記仕切壁の上部側に達する隔壁により画成され、前記仕切壁上部に設けられた移流口を介して前記第2室に連通する移流部が設けられ、この移流部の水位より上方に開口部が形成され、この開口部に前記ポンプの流出口が接続された請求項1に記載の浄化槽。
【請求項4】
前記第1室と前記第2室が各々沈殿分離槽、固液分離槽、嫌気濾床槽の何れかであることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の浄化槽。
【請求項5】
上流側から嫌気処理槽、好気処理槽、沈殿槽、消毒槽の配列で構成され、さらに前記嫌気処理槽が仕切壁によって少なくとも第1室と第2室を有する2室以上に分割され、前記好気処理槽の槽内、あるいは、前記沈殿槽の槽内にポンプが配置され、前記ポンプの流出口が前記嫌気処理槽の第1室の移流部以降に開口された浄化槽を運転する方法であり、前記好気処理槽の槽内、あるいは、前記沈殿槽の槽内に配置した前記ポンプから揚水し、前記嫌気処理槽の第1室から第2室への移流部以降に戻すことを特徴とする浄化槽の運転方法。
【請求項6】
前記浄化槽として、前記第1室と前記第2室の境界部に前記第1室の上部から前記第2室の上部に連通する移流部が設けられ、該移流部の上部に前記ポンプの流出口が開口された浄化槽を用いることを特徴とする請求項5に記載の浄化槽の運転方法。
【請求項7】
前記浄化槽として、前記第1室と前記第2室を仕切る仕切壁に沿って前記第1室の下部側から前記仕切壁の上部側に達する隔壁により画成され、前記仕切壁上部に設けられた移流口を介して前記第2室に連通する移流部が設けられ、この移流部の水位より上方に開口部が形成され、この開口部に前記ポンプの流出口が接続された浄化槽を用いることを特徴とする請求項5に記載の浄化槽の運転方法。
【請求項8】
前記第1室と前記第2室が各々沈殿分離槽、固液分離槽、嫌気濾床槽の何れかであることを特徴とする請求項5~請求項7のいずれか一項に記載の浄化槽の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、戸建住宅、集合住宅、商業施設等から排出される排水を処理する浄化槽のうち、仕切壁で複数の槽に区切る浄化槽に関し、より詳しくは、好気処理槽で処理を受けた後の水の一部を前段処理の嫌気処理槽に循環する浄化槽及び浄化槽の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
戸建住宅、集合住宅、商業施設等から排出される排水を処理する浄化槽は、特許文献1で示されるように、上流側から嫌気処理槽、好気処理槽、沈殿槽または処理水槽の順番で各処理槽が配列されており、さらに嫌気処理槽が2室に区分されている。
特許文献1では、嫌気処理槽として嫌気濾床槽を採用しており、好気処理槽として接触ばっ気槽を採用している。いずれも、好気処理槽で処理した水の一部を嫌気処理槽の2室に区分された上流側の嫌気処理槽第1室に循環している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コンビニエンスストアに設置した浄化槽では、トイレの使用頻度が極端に多くなりやすく、流入水にトイレットペーパーが多くなる。さらに窒素濃度(アンモニア性窒素濃度)が高く、かつ、おでんの汁や牛乳などの排水によって生物化学的酸素要求量(BOD、有機汚濁量の指標)が高い場合がある。このような場合、嫌気処理槽第1室での脱窒反応が活発に進行する状況となり、脱窒反応に伴うスカム形成にトイレットペーパーが加わるので、スカム生成量が想定以上に多くなる場合がある。
このような状況で浄化槽の運転を続けると、嫌気処理槽第1室の上部がスカムで塞がれてしまい、建屋内の各排出点からの排水が流れにくくなるという課題が生じる。
そこで、嫌気処理槽第1室でのスカム発生量を低減させるために、循環水量を少なく設定し直すと、今度は処理水質が悪化してしまうという新たな課題を生じる。
【0005】
また、物品販売に特化し、店舗内で調理等を行わないような店舗形態のコンビニエンスストアでは、トイレ使用以外の使用水量が極端に少なくなり、浄化槽の容量に比べて、流入する総排水量が計画よりも少なくなる。
この場合、嫌気処理槽第1室への循環水量と流入する総排水量とのバランスが崩れ、循環水に含まれるDO(溶存酸素)により、嫌気処理槽第1室が好気化し、嫌気処理槽第1室の本来の目的である嫌気処理を阻害してしまう。
そこで、循環水量を少なく設定し直すと、後段から循環水と共に戻されるSS(浮遊物質)等が少なくなる等、処理水質が悪化してしまうという新たな課題を生じる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、嫌気処理槽第1室でのスカム発生量を抑制しつつ、循環により脱窒反応を含めた生物処理を進行させ、所定の処理水質を確保できる浄化槽及び浄化槽の運転方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決する手段として、以下の構成を有する。
(1)本発明の浄化槽は、上流側から嫌気処理槽、好気処理槽、沈殿槽、消毒槽の配列で構成され、さらに前記嫌気処理槽が仕切壁によって少なくとも第1室と第2室を有する2室以上に分割され、前記好気処理槽の槽内、あるいは、前記沈殿槽の槽内にポンプが配置された浄化槽であって、前記ポンプの流出口が前記嫌気処理槽の前記第1室から前記第2室への移流部以降に開口されたことを特徴とする。
【0008】
(2)本発明の浄化槽において、前記第1室と前記第2室の境界部に前記第1室の上部から前記第2室の上部に連通する移流部が設けられ、該移流部の上部に前記ポンプの流出口が開口された構成を採用できる。
(3)本発明の浄化槽において、前記第1室と前記第2室を仕切る仕切壁に沿って前記第1室の下部側から前記仕切壁の上部側に達する隔壁により画成され、前記仕切壁上部に設けられた移流口を介して前記第2室に連通する移流部が設けられ、この移流部の水位より上方に開口部が形成され、この開口部に前記ポンプの流出口が接続された構成を採用できる。
(4)本発明の浄化槽において、前記第1室と前記第2室が各々沈殿分離槽、固液分離槽、嫌気濾床槽の何れかである構成を採用できる。
【0009】
(5)本発明に係る浄化槽の運転方法は、上流側から嫌気処理槽、好気処理槽、沈殿槽、消毒槽の配列で構成され、さらに前記嫌気処理槽が仕切壁によって少なくとも第1室と第2室を有する2室以上に分割され、前記好気処理槽の槽内、あるいは、前記沈殿槽の槽内にポンプが配置され、前記ポンプの流出口が前記嫌気処理槽の第1室の移流部以降に開口された浄化槽を運転する方法であり、前記好気処理槽の槽内、あるいは、前記沈殿槽の槽内に配置した前記ポンプから揚水し、前記嫌気処理槽の第1室から第2室への移流部以降に戻すことを特徴とする。
【0010】
(6)本発明に係る浄化槽の運転方法において、前記浄化槽として、前記第1室と前記第2室の境界部に前記第1室の上部から前記第2室の上部に連通する移流部が設けられ、該移流部の上部に前記ポンプの流出口が開口された浄化槽を用いることができる。
(7)本発明に係る浄化槽の運転方法において、前記浄化槽として、前記第1室と前記第2室を仕切る仕切壁に沿って前記第1室の下部側から前記仕切壁の上部側に達する隔壁により画成され、前記仕切壁上部に設けられた移流口を介して前記第2室に連通する移流部が設けられ、この移流部の水位より上方に開口部が形成され、この開口部に前記ポンプの流出口が接続された浄化槽を用いることができる。
(8)本発明に係る浄化槽の運転方法において、前記第1室と前記第2室が各々沈殿分離槽、固液分離槽、嫌気濾床槽の何れかである構成を採用できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、好気処理槽から、あるいは、沈殿槽から、ポンプにより循環水を嫌気処理槽の第1室から第2室への移流部以降に循環させることにより、嫌気処理槽第1室での脱窒反応の抑制により、スカム発生量を抑制しつつ、嫌気処理槽第1室での沈殿分離機能を向上させることができる。
さらに、好気処理槽から、あるいは、沈殿槽から、ポンプにより循環水を嫌気処理槽第1室から第2室への移流部以降に循環させることにより、嫌気処理槽第2室における脱窒機能を発揮させることができる。
このため、コンビニエンスストアの汚水浄化槽などのように窒素濃度が高く、トイレットペーパーなどの異物を多く含む排水を処理する場合であっても、嫌気処理槽第1室の上部をスカムで閉塞することがなく、所定の処理水質を確保できる浄化槽を提供することができる。
【0012】
また、嫌気処理槽第1室から第2室への移流部以降に送る循環水の水量を確保することで、嫌気処理槽第1室の脱窒機能の抑制に加え、各槽間での被処理水の常時移流分を確保し、処理進行を図るので、有機物の除去、硝化作用も向上させることができ、循環水によって浄化槽全体の処理機能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る第一実施形態の浄化槽を示すもので、(a)は内部構造の概略を示す平面図、(b)は縦断面図である。
【
図2】
図1で示した浄化槽を運転する場合のフローシートの一例を示す図である。
【
図3】本発明に係る別の実施形態の浄化槽を示すもので、(a)は内部構造の概略を示す平面図、(b)は縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「第一実施形態」
以下、本発明の第一実施形態に係る浄化槽について
図1、
図2に示すように汚水浄化装置に適用した一例に基づき説明する。
図1(a)、(b)に示す浄化槽1は、周壁1Aと底壁1Bと天井壁1Cにより構成された槽構造体の内部に、上流側から順に嫌気処理槽第1室2と嫌気処理槽第2室3と好気処理槽4と沈殿槽5と消毒槽6が配置されている。
【0015】
本実施形態の嫌気処理槽第1室2と嫌気処理槽第2室3は、空気を供給せずに処理を行う槽、すなわち、嫌気性処理を行う槽であれば良く、沈殿分離槽、固液分離槽、嫌気濾床槽等を適宜採用することができる。また、嫌気処理槽第1室2と嫌気処理槽第2室3には、同じ種類の槽を採用することができるが、第1室に沈殿分離槽、第2室に嫌気濾床槽というように違う種類の槽を組み合わせることも可能である。また、嫌気処理槽については、第1室と第2室に加え、3室以上に分割しても良く、その場合に、上述の沈殿分離槽、固液分離槽、嫌気濾床槽等を適宜採用することができる。
【0016】
本実施形態の好気処理槽4は、空気を供給して処理を行う槽、すなわち、好気性処理を行う槽であれば良く、接触ばっ気槽、担体流動槽、生物濾過槽等を採用することができる。
本実施形態の沈殿槽5は、処理水を貯留できる槽であれば良く、沈殿槽、固液分離槽、処理水槽等を適宜採用することができる。
【0017】
浄化槽1においてその入口側の一端上部(
図1では左端上部)に流入口23が形成され、出口側の一端上部(
図1では右端上部)に流出口24が形成され、浄化槽1の内部には、流入口23側から流出口24側にかけて順次間隔をあけて仕切壁1D、1E、1F、1Gが形成されている。
仕切壁1Dによって、嫌気処理槽第1室2と嫌気処理槽第2室3が区分され、仕切壁1Eによって、嫌気処理槽第2室3と好気処理槽4が区分されている。仕切壁1Fによって、好気処理槽4と沈殿槽5が区分され、仕切壁1Gによって沈殿槽5と消毒槽6が区分されている。
【0018】
以下、浄化槽1において、嫌気処理槽第1室2と嫌気処理槽第2室3と好気処理槽4が整列されている方向を浄化槽1の長さ方向(X方向)と規定し、浄化槽1の長さ方向に直交する水平方向を浄化槽1の幅方向(Y方向)と規定し、X方向とY方向に直交する方向を浄化槽1の高さ方向(Z方向)と規定し、適宜説明する。
【0019】
浄化槽1において、仕切壁1D、1E、1Fは浄化槽1の内底部から天井部1Cの近くまで形成され、嫌気処理槽第1室2と嫌気処理槽第2室3と好気処理槽4は浄化槽1の底部から天井部近くまで形成されている。これらに対し仕切壁1Gは、浄化槽1の高さ方向中央部より若干高い位置に形成されているので、沈殿槽5は好気処理槽4に隣接する位置に形成され、消毒槽6は沈殿槽5の上部側に形成されている。
【0020】
仕切壁1D、1E、1Fは、浄化槽1の天井壁1Cまでは到達されていないので、嫌気処理槽第1室2と嫌気処理槽第2室3と好気処理槽4の上方には空間が形成され、これらの空間は相互に連通されている。また、仕切壁1D、1E、1Fの上端より若干下方位置となるように運転時の水位Lが設定されている。
図1(a)では浄化槽1の天井壁1Cを略し、嫌気処理槽第1室2と嫌気処理槽第2室3と好気処理槽4と沈殿槽5と消毒槽6の平面視的配置のみを示している。なお、
図1(a)に破線で円形状に記載したのは浄化槽1の天井壁1Cに形成されているマンホール取付部の概形を示す。
【0021】
嫌気処理槽第1室2において仕切壁1Dに沿って上下方向に延在する第1の移流部25が形成され、嫌気処理槽第2室3において仕切壁1Eに沿って上下方向に延在する第2の移流部26が形成されている。
第1の移流部25は、水平断面コ字型の隔壁25Aと該隔壁25Aに接する仕切壁1Dにより画成され、隔壁25Aの下端部は嫌気処理槽第1室2の底部側に開口されている。隔壁25Aの上端部は仕切壁1Dの上端部近くまで延在され、上端に流入口25aが開口されている。
同様に、第2の移流部26は、水平断面コ字型の隔壁26Aと該隔壁26Aに接する仕切壁1Eによって画成され、隔壁26Aの下端部は嫌気処理槽第2室3の底部側に開口されている。隔壁26Aの上端部は仕切壁1Eの上端部近くまで延在されている。
【0022】
第1の移流部25の上端部であって仕切壁1Dの上端部近くに移流口27が形成され、第2の移流部26の上端部であって仕切壁1Eの上端部近くに移流口28が形成されている。
図1の構造では仕切壁1Dに2つの移流口27が同じ高さ位置にY方向に並んで形成されている。第1の移流部25のY方向幅はマンホールの直径程度に形成され、第1の移流部25は仕切壁1Dに沿って仕切壁1Dの左右両側に同等幅の空間部をあけるように配置されている。第1の移流部25を画成する隔壁25Aは、X方向に沿う奥行きが嫌気処理槽第1室2の数分の一程度であり、第1の移流部25は、仕切壁1Dの幅方向中央部に設置されている。
これらの構造により、嫌気処理槽第1室2で処理した被処理水を嫌気処理槽第2室3に第1の移流部25と2つの移流口27を介し移送でき、嫌気処理槽第2室3で処理した被処理水を好気処理槽4に第2の移流部26を介し移送することができる。
【0023】
仕切壁1Fの底部は浄化槽1の底壁1Bより若干高い位置まで延在され、仕切壁1Fの底部側に移流口29が形成されている。このため、好気処理槽4において処理された処理水は移流口29を介し沈殿槽5の底部側に移流される。
仕切壁1Gにおいて仕切壁1Fに近い側が上方に向かうように折曲され、この折曲部30の上端が仕切壁1Fに沿って仕切壁1Fの上端部近くまで延出されている。また、折曲部30は、流出口24に相対する面の一部の上端を水位Lと同じ高さになるように設定され、折曲部30と仕切壁1Fとの間に移流部31が形成されているので、沈殿槽5において処理された処理水は移流部31を介し消毒槽6に所定の水位Lで移流される。
【0024】
以上の構成に従い、流入口23から
図1(b)の下向き矢印に示すように流入水が嫌気処理槽第1室2に移流され、移流口27から下向き矢印に示すように被処理水が嫌気処理槽第2室3に移流され、移流口28から下向きの矢印に示すように被処理水が好気処理槽4に移流される。次いで、好気処理槽4で処理された被処理水は移流口29から
図1(b)の上向き矢印で示すように沈殿槽5の底部に移流され、沈殿槽5で処理された処理水は移流部31の上端から下向き矢印で示すように消毒槽6に移流され、流出口24から系外に排出される。
【0025】
浄化槽1において、嫌気処理槽第1室2には図示略の濾材等を配して濾床32が形成され、嫌気処理槽第2室3に図示略の濾材等を配して濾床33が形成されるとともに、好気処理槽4にも図示略の濾材等を配して濾床34が形成されている。なお、好気処理槽4の底部には、一例として、散気管などのばっ気装置35が設けられている。
【0026】
次に、沈殿槽5の底部側から、移流部31を通過して沈殿槽5の上部空間に至るようにエアリフトポンプ7の揚水管8が設置されている。
揚水管8の上端部から横向きにように、好気処理槽4の上部空間と嫌気処理槽第2室3の上部空間と嫌気処理槽第1室2の上部空間を通過する移送管9が設けられている。この移送管9の先端部は、嫌気処理槽第1室2の上部側空間であって移流部25の上端の流入口25aまで延在され、移送管9の先端には流出口15が形成されている。
【0027】
移送管9の基端側は浄化槽1の天井壁1Cに近い位置において揚水管8に接続されているが、移送管9の先端側は天井壁1Cよりも下方であって、流入口23の下端に近い位置に配置され、移送管9には下り勾配が付けられている。また、
図1(a)に示すように移送管9は、浄化槽1の幅方向中央部(Y方向中央部)より若干幅方向端部側よりに配置されているので、移送管9の流出口15は第1の移流部25のY方向(幅方向)一側端部に開口されている。
【0028】
前記揚水管8と移送管9によりポンプ7が構成されている。
ポンプ7は、安価であること、保守作業性が容易であることから、エアリフトポンプを採用することが好ましい。ポンプ7には流量調整機構が必要であるため、エアリフトポンプ7に接続される管にはバルブ(図示省略)が設けられている。このバルブは、空気量の増減によって揚水量を調整できるように構成されており、揚水した全水量を循環水量として設定することができる。
【0029】
エアリフトポンプの一例として揚水管8の下部に送気管を接続し、送気管から揚水管8に向かって空気を流出させる構成を採用することができる。
図1に示す浄化槽1では、沈澱槽5から被処理水を移送しても、嫌気処理槽第2室3から、好気処理槽4、沈澱槽5への移流(循環)が生じるので、沈澱槽5の水位は変わらず、エアリフトポンプ7による移送は連続で行われる。
嫌気処理槽第1室2の移流部25以降に流量調整装置が設置される場合がある(図示略)が、この場合でも、エアリフトポンプ7による移送は連続で行われることになる。
【0030】
移送管9の先端は嫌気処理槽第1室2の移流部25上方まで延在されているので、移送管9に流入した処理水の一部は嫌気処理槽第1室2の移流部25の上方に移送管先端の流出口15から循環水として戻すことができるようになっている。
【0031】
ここで
図1を用いて、水の流れについて説明する。
図1(b)に示すように浄化槽1において嫌気処理槽第1室2と嫌気処理槽第2室3と好気処理槽4と沈殿槽5に各々水位線Lで示すように個々に槽内水が満たされている。
嫌気処理槽第1室2と嫌気処理槽第2室3において嫌気処理がなされ、好気処理槽4において好気処理がなされる。例えば、好気処理槽4ではアンモニア性窒素が亜硝酸性窒素および硝酸性窒素に変化される。
【0032】
エアリフトポンプなどのポンプ7で揚水された沈殿槽底部の水(循環水)は、揚水管8から移送管9に移行する。
移送管9には流出口15が設けられている。流出口15が嫌気処理槽第1室2に設けられている移流部25上に開口されている。
【0033】
本実施形態で示した浄化槽1であれば、好気処理槽4で好気処理した水の一部を循環水として嫌気処理槽第1室2の移流部25の上方に所定の水量に調整して戻し、循環させることができる。
このため、トイレットペーパー等の固形物が多く、計画よりも総排水量が少ないにもかかわらず、窒素濃度の高い流入水で浄化槽1を運転した場合であっても、嫌気処理槽第1室2の移流部25の後段の嫌気処理槽第2室3の上流側への循環水量を必要量確保できる。これは例えば、嫌気処理槽第1室2で脱窒反応に伴うスカム形成にトイレットペーパーが加わり、スカム生成量が想定以上に多くなる環境であって、浄化槽1を設置した建屋が物品販売に特化し、店舗内で調理等を行わないような排水の少ない形態のコンビニエンスストアなどに適用した場合に相当する。
以上の説明のように、嫌気処理槽第1室2での脱窒を抑制することによりスカム発生量を低減することができ、かつ、嫌気処理槽第2室3での窒素除去と、さらには浄化槽1全体での処理水質の向上を図ることができる。
【0034】
例えば、従来構造の浄化槽では、好気処理槽で処理した水を循環水として嫌気処理槽の上流側に一定量循環させる運転を行うことがある。この構造の場合に循環水の全量を好気処理槽の上流側に戻すと、上述のようにスカム発生量が増加する。このスカム発生を抑制するために循環水量を低減すると、処理水質が悪化する。
ここで、上述のように嫌気処理槽第1室2の移流部25の上方に望ましい量の循環水を供給すると、嫌気処理槽第1室2でのスカム発生を抑制しつつ処理水質の向上をなし得る。
【0035】
本実施形態において、移流部25は水平断面コ字型の隔壁25Aによって区画されているため、嫌気処理槽第1室2の移流部25の上方に循環水を戻すことで、嫌気処理槽第1室2において移流部25を除く領域の上部に発生したスカムを破壊することがなく、処理性能が安定する。
また、移流部25の隔壁25Aの下端部は嫌気処理槽第1室2の底部側に開口されているため、後段から送水されてきた循環水に含まれるSSは、移流部25内で分離されて嫌気処理槽第1室2の底部に貯留されるため、処理性能が安定する。
【0036】
なお、移送管9は使用しているうちに、内面に生物膜が付着する。本実施形態の人槽クラスでは3ヶ月に1回の維持管理が一般的であるが、水温が高い時期には、生物膜の生成が早く、移送管9の先端部分の流出口15に近づくほど生物膜が多く付着する。このため、維持管理の際に生物膜を除去しても、次回の3ヶ月後には設定した循環水量(多くは流入水量の3倍に設定)が得られないおそれがあるという課題がある。
更に、嫌気処理槽第1室2のスカムによって、移送管9が持ち上げられて移送管9の下り勾配が緩くなり、前述の生物膜の肥厚と相まって、循環が止まってしまうおそれもある。
【0037】
本実施形態では、移送管9が従来の2/3程度の長さになり、生物膜の付着はあるものの付着総量が減るため、3ヶ月経過しても、ほぼ設定した循環水量が得られると言う効果が得られる。更には、嫌気処理槽第1室2の上部に移送管9が存在しないため、嫌気処理槽第1室2のスカムによって、移送管9が持ち上げられることがなく、循環が止まるおそれもない。
また、維持管理時に流出口15からワイヤーブラシを差し込んで移送管9の管内を掃除するが、本実施形態では、その手間が2/3になり、管内掃除の時間短縮を図ることができる。
【0038】
図2は以上説明した浄化槽1における処理水の流れと循環水の流れについてフローシートの一例を示すもので、流入口23からの流入水は嫌気処理槽第1室2、嫌気処理槽第2室3、好気処理槽4、沈殿槽5の順に移送され、各槽において嫌気処理、好気処理、沈殿処理がなされる。
【0039】
なお、
図1に示した浄化槽1の構造では、揚水管8の吸込口13(換言するとエアリフトポンプ7の吸込口13)を沈殿槽5に設置しているが、吸込口13は好気処理槽4の下流側に設置しても良い。いずれにしても好気処理槽4で処理された後の硝酸性窒素、亜硝酸性窒素を含む水を循環水として嫌気処理槽第1室2の移流部25、すなわち嫌気処理槽第2室3の上流側に移送することが重要である。
【0040】
本実施形態の別形態として、
図3に示すように、エアリフトポンプ7の移送管9の先端を嫌気処理槽第2室3の上流側の移流口27の近傍上方まで延在させ、移送管9に流入した処理水の一部を、嫌気処理槽第2室3の上流側に移送管先端の流出口15から循環水として戻すことができるようにしてもよい。
図3の構成では、流出口15から流下する循環水を移流口27から嫌気処理槽第2室3に流下する処理水とほぼ同じ位置に流下できる。このため、流出口15は実質的に移流部25の上部に開口されているとみなすことができる。
【0041】
図3に示す別形態の場合においても、嫌気処理槽第1室2の上部に発生したスカムを破壊することがなく処理水の循環処理ができ、また、後段から送水されてきた循環水に含まれるSSは、嫌気処理槽第2室3の濾床33で捕捉されるため、処理性能が安定する。
【実施例0042】
コンビニエンスストアに設置された株式会社ハウステック製KGRN型の既設浄化槽(30人槽)での実施例を以下に示す。
この浄化槽は、上流側から、嫌気濾床槽第1室(下向流方式:嫌気処理槽第1室)、嫌気濾床槽第2室(下向流方式:嫌気処理槽第2室)、担体流動槽(好気処理槽)、沈殿槽、消毒槽の配列であり、担体流動槽(好気処理槽)の底部に循環エアリフトポンプの吸込口が配置されており、担体流動槽で処理した水の一部を循環エアリフトポンプを用いて該エアリフトポンプの移送管を用いて嫌気濾床槽第1室の上流側に循環している構成である。
【0043】
この浄化槽を備えた施設は、顧客によるトイレ利用が多いため、トイレットペーパーの使用量が多く、アンモニア性窒素濃度も高い状態であった。
3ヶ月間の使用水量から実際の流入水量を計算すると、計画流入水量6m3に対して1日当たり3m3であり、計画水量の50%程度でしかなかった。
通常、浄化槽における循環水量は、効率的な硝化反応と脱窒反応が進むように、流入水量に対する循環水量の比(循環比)を3として標準的に設定されていることが多く、この施設でも同様に循環比を3(1日当たり9m3)として運転されていた。
【0044】
この状態における処理過程では、担体流動槽で高濃度のアンモニア性窒素が亜硝酸性窒素、および、硝酸性窒素に変化し、嫌気濾床槽第1室に循環水として移送されるので、嫌気濾床槽第1室における脱窒反応が予想以上に進行した。この結果、貯留汚泥のスカム化が盛んになることに加え、トイレットペーパーも一緒にスカム化するので、多量のスカムが形成され、嫌気濾床槽第1室の上部がスカムで閉塞している状況であった。
【0045】
このような状況に対して、循環水量を循環比1(1日当たり3m3)に減じて運転したところ、嫌気濾床槽第1室の上流側に循環される亜硝酸性窒素、および、硝酸性窒素が少なくなり、脱窒反応の進行が抑えられるので、スカムの発生量を抑制することができたが、3ヶ月後に処理水の透視度が法定検査の指標となる20cm以下になってしまった。
【0046】
処理水の透視度が悪化した原因は、以下の通りと考えられる。
循環機能のない浄化槽では、流入のない時間帯に、被処理水が各槽(嫌気濾床槽第1室、嫌気濾床槽第2室、担体流動槽)に滞った状態になり、流入のある時間帯にだけ、各槽での移流が生じて、被処理水の処理が進行する。
【0047】
一方、循環機能のある浄化槽では、流入のない時間帯でも、常に各槽での移流が生じているので、被処理水が各槽で順次処理が連続的に行われるため、処理性能が向上する。
以上のことを踏まえると、循環水量が停止すると、あるいは、極端に少なくなると(循環比1以下)、処理性能が低下することになる。
【0048】
そこで、本実施例では、
図1で示した構成を採用した。
図1に示す構成は、嫌気濾床槽第2室の上方にあるエアリフトポンプの移送管を、嫌気濾床槽第1室の移流部の上方で切断し、移送管の流出口を嫌気濾床槽第1室の移流部の上方に設置したものである。
これにより、循環水は嫌気濾床槽第1室の濾床を経由せず、嫌気濾床槽第2室へ移流することができる。
【0049】
ここで、循環水量を循環比が3(1日当たり9m3)になるようにエアリフトポンプに供給する空気量の調整を行った。
この結果、嫌気濾床槽第1室上流への循環は無くなり、嫌気濾床槽第2室への循環比が3(1日当たり9m3)となり、この状態で浄化槽の運転を3ヶ月間実施した。
【0050】
3ヶ月経過後の状態は、嫌気濾床槽第1室への循環水量を無くしたことにより、脱窒によるガス化が無くなり、嫌気性ガスによるスカムだけになり、スカム発生量を抑制できたため、嫌気濾床槽第1室の上部での閉塞が発生せず、また、嫌気濾床槽第1室に、循環水に含まれるDOが持ち込まれず、本来の嫌気処理が安定した。
さらに、嫌気濾床槽第2室以降では、適切な循環水量を確保できたため、嫌気濾床槽第2室の脱窒や担体流動槽での有機物の再処理などによって、処理水の透視度が30cm以上となり、所定の処理水質を満足させることができた。
【0051】
従って、汚水浄化槽において、担体流動槽(好気処理槽)の底部に設けた循環エアリフトポンプの吸込口から処理水を吸引し、担体流動槽で処理した水の一部を嫌気濾床槽第1室の移流部に適量戻して循環することにより、トイレットペーパーの使用量が多く、スカム発生量が多くなる使用状態の浄化槽であっても、スカム発生量を抑制できると同時に処理水の透過度を向上させることができた。
【0052】
本実施例では、計画流入水量に対し、実水量が50%程度しかないが、流入水の排水濃度は計画の2倍以上高い施設であった。
このため、嫌気濾床槽第1室2は嫌気処理、嫌気濾床槽第2室3は脱窒処理、と処理工程を明確化することにより、処理が安定化できた。
通常、嫌気処理や脱窒処理には、排水濃度と流入水量に対応する容量が計画されるが、本実施例では、計画に対し排水濃度は高いが、実水量が少ないために、嫌気濾床槽第1室の容量と、嫌気濾床槽第2室の容量が、それぞれの処理に十分に耐えうる容量であったため、良好な結果を得ることができた。
言い換えれば、本発明は、高濃度少排水量限定の処理方式と呼称することができる。