(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054059
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】ラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵を生産するための養鶏用飼料組成物及びラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法。
(51)【国際特許分類】
A23K 50/75 20160101AFI20220330BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20220330BHJP
【FI】
A23K50/75
A23K20/158
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161040
(22)【出願日】2020-09-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】520373305
【氏名又は名称】株式会社トコフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100095740
【弁理士】
【氏名又は名称】開口 宗昭
(72)【発明者】
【氏名】床鍋 嘉昭
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005DA02
2B150AA05
2B150AB08
2B150DA36
(57)【要約】 (修正有)
【課題】通常の配合飼料では鶏卵中に移行することのないラウリン酸等の中鎖脂肪酸成分を鶏卵へ移行させるための養鶏用飼料組成物及びラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法を提供する。
【解決手段】生産方法は、ラウリン酸系油脂を融点付近以下に加温し、ラウリン酸系油脂を溶解させる溶解工程、液体状態のラウリン酸系油脂と一般配合飼料を混合撹拌して養鶏用飼料組成物を得る混合攪拌工程、得られた養鶏用飼料組成物を採卵鶏に給餌する給餌工程、ラウリン酸系油脂中の成分が鶏卵に移行する移行工程、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の工程を含むことを特徴とするラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法であって、
得られたラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵中のラウリン酸の含量が34~69(mg/100g)であることを特徴とするラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法。
・ラウリン酸系油脂を融点付近以下に加温し、ラウリン酸系油脂を溶解させる溶解工程
・養鶏用飼料組成物100質量部に対して、5質量部以上10質量部以下の範囲の液体状態のラウリン酸系油脂と一般配合飼料を混合撹拌して養鶏用飼料組成物を得る混合攪拌工程
・得られた養鶏用飼料組成物を採卵鶏に10日以上15日以下の期間、給餌する給餌工程
・ラウリン酸系油脂中の成分が鶏卵に移行する移行工程
【請求項2】
請求項1に記載の機能性鶏卵の生産方法によって得られた鶏卵は、
HbA1c(ヘモグロビンA1c)を低下させる機能性を有することを特徴とするラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法。
【請求項3】
請求項1に記載の機能性鶏卵の生産方法によって得られた鶏卵は、
HbA1c(ヘモグロビンA1c)の2月当たりの低下率が3.1%以上であることを特徴とするラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法。
【請求項4】
請求項1に記載の機能性鶏卵の生産方法によって得られた鶏卵は、
中性脂肪量を低下させる機能性を有することを特徴とするラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法。
【請求項5】
請求項1に記載の機能性鶏卵の生産方法によって得られた鶏卵は、
悪玉コレステロール(LDL)を低下させる機能性を有することを特徴とするラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法。
【請求項6】
請求項1に記載の機能性鶏卵の生産方法によって得られた鶏卵は、
悪玉コレステロール(LDL)の3月当たりの低下率が4.6%以上であることを特徴とするラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6に記載のラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法に使用される養鶏用飼料組成物であって、
少なくとも、液体状態のラウリン酸系油脂を養鶏用飼料組成物100質量部に対して、5質量部以上10質量部以下の範囲において含むことを特徴とするラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵を生産するための養鶏用飼料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ラウリン酸系油脂に含まれているラウリン酸等の中鎖脂肪酸は、一般的な植物油として使用されている長鎖脂肪酸と比較して炭素数が略半分であり、消化・吸収のために胆汁酸を必要とせず、そのまま小腸の細胞に吸収され、直接肝臓へと運ばれるという特性を持つ。この特性から中鎖脂肪酸は、エネルギーとして分解されやすいことから、手術後の流動食や未熟児の栄養補給など医療用にも使用されている。また、分解の速さから、体内に脂肪を付きにくくすることが知られている。他にも、中鎖脂肪酸には、糖尿病を予防する働きがあるホルモンを増加させる働きがあること等が知られている。
【0003】
一方、近年の養鶏業界においては、鶏卵の付加価値を高めるため、特定成分を強化した鶏卵の生産が行われている。また、一般消費者の健康志向の高まりもあってこのような栄養強化卵の売上は堅実な伸びを示している。特定成分としては、脂溶性ビタミン、各種ミネラル等が知られている。
【0004】
一般に養鶏用飼料は、大きく分類すると、配合飼料と自家配合飼料に分類される。配合飼料とは、トウモロコシやマイロ、麦、ふすま、脱脂米ぬか、大豆粕類、魚粉、アルアルファミール、カルシウムなど、種々の原料を配合・加工して、栄養素が調整された飼料である。また、自家配合飼料とは、自家産や地場産の原料を有効活用して自社で配合した飼料のことである。
いずれの飼料を選択するかは各養鶏業者の経営方針等による。双方にメリットがあり、配合飼料を選択した場合のメリットとしては、栄養価のバラつきが少ないことや、保存性が高い点があげられる。一方、自家配合飼料を選択した場合のメリットとしては、特定成分を飼料に配合し、鶏に摂取させることにより、その特定成分を卵に移行させることができる点があげられる。もちろん、配合飼料に特定成分を混合して養鶏用飼料とすることも広く一般的に行われている。
【0005】
このようなメリットを有する自家配合飼料を利用して様々な有効な特定成分を鶏卵へ移行させることができることが知られているが、その特定成分の中でも中鎖脂肪酸を鶏卵へ移行・含有させることを目的として養鶏用飼料に中鎖脂肪酸を配合する下記の発明が開示されている。
【0006】
特許文献1には、栄養改善、飼料効率改善に優れた効果を有し、産卵鶏においては産卵率の向上、卵重の増加効果を有し、ブロイラーにおいては体脂肪の形成を抑制する鶏用飼料の発明が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、ココナッツの果実胚乳およびその果皮を養鶏用の飼料中に含有させ、鶏に投与することによりココナッツ脂質中に含まれる中鎖脂肪酸を鶏卵に移行させ、更に鶏卵中のコレステロールを低減させるための養鶏用飼料組成物に関する発明が開示されている。
【0008】
特許文献1に記載されている鶏用飼料の発明及び特許文献2に記載されている養鶏用飼料組成物に関する発明は、中鎖脂肪酸を鶏卵へ移行させるという観点からは役に立ちうる発明である。しかしながら、特許文献2においては、ココナッツの果実胚乳そのもの若しくは胚乳果皮部分を使用し、これをあらかじめ粉末化したものを使用しており、中鎖脂肪酸の鶏卵への移行率は低いものとなっている。また、ラウリン酸系油脂は常温で固体であるため、単に養鶏用飼料へ配合することはできない。より効率的に鶏卵へ移行させるための有効な手段や方法は確立されているとはいえないのが現状である。
【0009】
【特許文献1】特開2006-288362号公報
【特許文献2】特開平3-198748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵を生産するための養鶏用飼料組成物及びラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、ラウリン酸系油脂の融点に着目した。すなわち、ラウリン酸系油脂を融点付近まで加熱して液体状としたラウリン酸系油脂を養鶏用飼料へ特定量配合し、養鶏用飼料と液体状のラウリン酸系油脂とを混合攪拌し、これを採卵鶏に与えることによって、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明に係るラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法は、少なくとも以下の工程を含むことを特徴とする。
・ラウリン酸系油脂を融点付近以下に加温し、ラウリン酸系油脂を溶解させる溶解工程
・養鶏用飼料組成物100質量部に対して、5質量部以上10質量部以下の範囲の液体状態のラウリン酸系油脂と一般配合飼料を混合撹拌して養鶏用飼料組成物を得る混合攪拌工程
・得られた養鶏用飼料組成物を採卵鶏に10日以上15日以下の期間、給餌する給餌工程
・ラウリン酸系油脂中の成分が鶏卵に移行する移行工程
得られたラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵中のラウリン酸の含量が34~69(mg/100g)である
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵を生産するための養鶏用飼料組成物及びラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本願発明に係るラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施例に基づき、より具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0016】
本発明においてラウリン系油脂とは、油脂の構成脂肪酸組成において炭素数12の飽和脂肪酸であるラウリン酸含量が40質量%以上であって、融点が30℃以上40℃以下である油脂をいい、具体的には精製ヤシ油、パーム核油、さらには、これらの油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を挙げることができる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いても良く、又は2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0017】
本発明に係るラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵の生産方法について
図1を参照して説明する。
図1に示すように、まず、ラウリン酸系油脂を融点付近まで加温し、ラウリン酸系油脂を溶解させる溶解工程により、ラウリン酸系油脂を液体状態とする。次いで、得られた液状のラウリン酸系油脂と一般配合飼料を混合撹拌する混合攪拌工程を得て、本願発明に係る養鶏用飼料組成物を得る。
次いで、得られた養鶏用飼料組成物を使用して採卵鶏に給餌する給餌工程及びラウリン酸系油脂中の成分が鶏卵に移行する移行工程を得てラウリン酸系油脂を含有する機能性鶏卵が得られる。
【0018】
ここで「一般配合飼料」とは一般に使用される鶏用の配合飼料であって、穀類、蛋白源、油脂、ビタミン・ミネラル類が原料として用い、その組成としては、トウモロコシ約60%、大豆粕約20%、菜種粕約5%、魚粉約1~3%、動物性油脂約1~3%、カルシウム約8%、その他数%の組成が一般的である。また、本発明において使用する鶏用一般飼料はこれらに限定されるものではなく種々の原料を使用するものや採卵用鶏を飼育する一般家庭で使用される飼料であってもよい。
【0019】
溶解工程においては、本発明ではラウリン酸系油脂を恒温器やヒーター等の加熱手段を用いて加熱し、ラウリン酸系油脂を融点付近以下の温度において溶解する。ここで、融点付近以下とは、融点付近以下の温度とは融点+10℃未満温度をいう。この溶解工程は、固体のままのラウリン酸系油脂では、一般配合飼料に均一に混合させることが困難であるし、固体のままのラウリン酸系油脂を剪断等して粒状物等にするには労力・時間が掛かりすぎる。そこで、ラウリン酸系油脂を液体状態とし、均一に一般配合飼料と混合させるために実施するものである。
【0020】
混合撹拌工程においては、前記溶解工程で得られた液状のラウリン酸系油脂を一般配合飼料質量部100に対して、3.0~11.0質量部、好ましくは5.0~10.0質量部を配合し、混合撹拌することで、養鶏用飼料組成物が得られる。3.0質量部以下であると、ラウリン酸系油脂中のラウリン酸等が鶏卵へ移行せず、11.0質量部以上であると、ラウリン酸系油脂が一般配合飼料と混合した後、固化してしまい混合撹拌することができないからである。なお、混合撹拌する手段は、ミキサー等の公知のものを使用することができる。
【0021】
給餌工程においては、前記養鶏用飼料組成物を採卵鶏に対して100~120g/日として、採卵鶏に給餌する。また、給餌工程は、連続して10日以上、15日以下の間投与する必要がある。配合量や投与期間が上記範囲より少なすぎると十分な効果が期待できず、また上記範囲より投与量が多すぎた場合は消化不良などの副作用を生じることがあるからである。
【0022】
移行工程において、原料の給餌開始に伴ってラウリン酸系油脂中の中鎖脂肪酸が鶏卵中に移行すると共に、ラウリン酸系油脂中の成分に起因したラウリン酸等が鶏卵中に含まれる。前記養鶏用飼料組成物を10~15日間、毎日継続して給餌することにより、鶏卵中にラウリン酸が含まれるようになる。
【実施例0023】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1~6)
<材料及び方法>
(1) 試験期間
令和2年4月1日~令和2年4月30日
【0025】
(2) 産卵鶏
ボリスブラウン、100羽
【0026】
(3) 供試飼料
精製ヤシ油(不二製油株式会社製:ラウリン酸含量50質量%)5kgを金属製容器に入れ、IHヒーターを使用して、加熱して液体状態の精製ヤシ油とした。次いで、表1に示す一般配合飼料と、この一般配合飼料を用いて飼料中の液体状態の精製ヤシ油を表2に示す量に調整して混合撹拌し、養鶏用飼料組成物(実施例1~6)を準備した。また、比較例として一般配合飼料を用いて飼料中のラウリン酸系油脂を表3に示す量に調整した配合飼料(比較例1~4)を準備した。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
(4) 供試鶏卵
10区分(実施例1~6、比較例1~4)に分けた産卵鶏(ボリスブラウン、100羽、300日齢)に、表2及び表3の養鶏用飼料組成物を10日間、110g/日/羽の定量給餌、不断給水し、ラウリン酸系油脂中の成分が鶏卵に移行する移行工程を得て鶏卵を得た。次いで、富山県農林水産総合技術センター食品研究所に鶏卵中のラウリン酸の分析を依頼した。
その分析結果を表4、表5に示す。
【0031】
【0032】
【0033】
(実施例7~12、比較例5~8)
実施例1(4)供試鶏卵において、給餌期間を15日としたこと以外は、実施例1~6、比較例1~4と同様にして、得られた鶏卵中のラウリン酸を分析した。
その分析結果を表6、表7に示す。
【0034】
【0035】
【0036】
上記した分析結果から、5質量部以上10質量部以下のラウリン酸系油脂を含有させた本願発明に係る養鶏用飼料組成物を産卵鶏に10日以上15日以下の期間、給餌することにより、(34mg~69mg)/100gのラウリン酸を含有する鶏卵が得られることが明らかとなった。
また、ラウリン酸系油脂の含有率が3質量部以下である場合には、鶏卵にラウリン酸が移行しないことがわかった。さらに、ラウリン酸系油脂の含量が11質量部以上であると、油分が固化してしまい、飼料として用いることができないことが分かった。
【0037】
実施例3~5で得られた鶏卵(39~51mg/100g)を以下の6名のモニターに2ヶ月間、2(個/日)食してもらい、2ヶ月後のHbA1c(ヘモグロビンA1c)を測定した。モニターの属性と測定結果を以下の表8に示す。
【0038】
【0039】
実施例3~5で得られた鶏卵(39~51mg/100g)を以下の3名のモニターに2ヶ月間、2(個/日)食してもらい、2ヶ月後の中性脂肪値を測定した。モニターの属性と測定結果を以下の表9に示す。
【0040】
【0041】
実施例3~5で得られた鶏卵(39~51mg/100g)を以下の6名のモニターに3ヶ月間、2(個/日)食してもらい、3ヶ月後のLDL(悪玉コレステロール)を測定した。モニターの属性と測定結果を以下の表10に示す。
【0042】
【0043】
表8、表9及び表10の測定結果により、本発明に係る生産方法によって得られた鶏卵は、HbA1c(ヘモグロビンA1c)の値、中性脂肪値及び悪玉コレステロールを下げる機能を有していることが明らかとなった。