(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054100
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】はんだ組成物および電子基板
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20220330BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20220330BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20220330BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20220330BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/363 E
H05K3/34 505B
B23K35/26 310A
C22C13/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161098
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】下石 龍太朗
(72)【発明者】
【氏名】杉山 功
(72)【発明者】
【氏名】市川 大悟
【テーマコード(参考)】
5E319
【Fターム(参考)】
5E319AA03
5E319BB05
5E319BB08
5E319BB09
5E319BB10
5E319CC36
5E319CC46
5E319GG03
(57)【要約】
【課題】ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプであるにも拘わらず、ぬれ性と粘度安定性の両方が優れるはんだ組成物を提供すること。
【解決手段】本発明のはんだ組成物は、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)フェニル基を有するイミダゾリン化合物、および(D)酸化防止剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、前記(B)成分が、(B1)有機酸を含有し、前記(B1)成分が、(B11)1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、および1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、前記(C)成分が、2-フェニルイミダゾリン、および2-ベンジルイミダゾリンからなる群から選択される少なくとも1つである、ことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)フェニル基を有するイミダゾリン化合物、および(D)酸化防止剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、
前記(B)成分が、(B1)有機酸を含有し、
前記(B1)成分が、(B11)1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、および1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記(C)成分が、2-フェニルイミダゾリン、および2-ベンジルイミダゾリンからなる群から選択される少なくとも1つである、
はんだ組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のはんだ組成物において、
前記(B1)成分が、(B12)コハク酸およびグルタル酸からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、
はんだ組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のはんだ組成物において、
前記(D)成分が、ヒンダードフェノール化合物、3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシル、および1,2,3-ベンゾトリアゾールからなる群から選択される少なくとも1つを含有する、
はんだ組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のはんだ組成物において、
前記ヒンダードフェノール化合物が、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、N,N’-ビス[2-[2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ]エチル]オキサミド、および、N,N’-ビス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジンからなる群から選択される少なくとも1つである、
はんだ組成物。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備える、電子基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ組成物および電子基板に関する。
【背景技術】
【0002】
はんだ組成物は、はんだ粉末にフラックス組成物(ロジン系樹脂、活性剤および溶剤など)を混練してペースト状にした混合物である(特許文献1参照)。近年、はんだとしては、環境問題に配慮して、鉛(Pb)を含有しない鉛フリーはんだが広く使用されている。また、フラックス組成物としては、環境問題に配慮して、ハロゲンを削減したハロゲンフリーや、ハロゲンを全く含有しないノンハロゲンが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプのはんだ組成物では、はんだのぬれ性の点で十分なものが得られなかった。また、ハロゲン系以外の活性剤として、アミン系の活性剤を使用した場合には、ぬれ性と粘度安定性の両立に問題がある。
【0005】
本発明は、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプであるにも拘わらず、ぬれ性と粘度安定性の両方が優れるはんだ組成物、並びに、これを用いた電子基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)フェニル基を有するイミダゾリン化合物、および(D)酸化防止剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、前記(B)成分が、(B1)有機酸を含有し、前記(B1)成分が、(B11)1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、および1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、前記(C)成分が、2-フェニルイミダゾリン、および2-ベンジルイミダゾリンからなる群から選択される少なくとも1つであるはんだ組成物が提供される。
【0007】
本発明の一態様に係るはんだ組成物においては、前記(B1)成分が、(B12)コハク酸およびグルタル酸からなる群から選択される少なくとも1つを含有することが好ましい。
本発明の一態様に係るはんだ組成物においては、前記(D)成分が、ヒンダードフェノール化合物、3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシル、および1,2,3-ベンゾトリアゾールからなる群から選択される少なくとも1つを含有することが好ましい。
本発明の一態様に係るはんだ組成物においては、前記ヒンダードフェノール化合物が、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、N,N’-ビス[2-[2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ]エチル]オキサミド、および、N,N’-ビス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジンからなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0008】
本発明の一態様に係る電子基板は、前記本発明の一態様に係るはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプであるにも拘わらず、ぬれ性と粘度安定性の両方が優れるはんだ組成物、並びに、これを用いた電子基板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[フラックス組成物]
まず、本実施形態に用いるフラックス組成物について説明する。本実施形態に用いるフラックス組成物は、はんだ組成物におけるはんだ粉末以外の成分であり、以下説明する(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)フェニル基を有するイミダゾリン化合物、および(D)酸化防止剤を含有するものである。
【0011】
[(A)成分]
本実施形態に用いる(A)ロジン系樹脂としては、ロジン類およびロジン系変性樹脂が挙げられる。ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジンなどが挙げられる。ロジン系変性樹脂としては、不均化ロジン、重合ロジン、水素添加ロジンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。水素添加ロジンとしては、完全水添ロジン、部分水添ロジン、並びに、不飽和有機酸((メタ)アクリル酸などの脂肪族の不飽和一塩基酸、フマル酸、マレイン酸などのα,β-不飽和カルボン酸などの脂肪族不飽和二塩基酸、桂皮酸などの芳香族環を有する不飽和カルボン酸など)の変性ロジンである不飽和有機酸変性ロジンの水素添加物(「水添酸変性ロジン」ともいう)などが挙げられる。これらのロジン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0012】
(A)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、20質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。(A)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだ付ランドの銅箔面の酸化を防止してその表面に溶融はんだを濡れやすくする、いわゆるはんだ付け性を向上でき、はんだボールを十分に抑制できる。また、(A)成分の配合量が前記上限以下であれば、フラックス残さ量を十分に抑制できる。
【0013】
[(B)成分]
本実施形態に用いる(B)活性剤は、(B1)有機酸を含有する。また、(B1)成分は、(B1)1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、および1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる群から選択される少なくとも1つを含有する。これらの中でも、はんだ溶融性の観点から、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が好ましい。この(B11)成分により、ハロゲン系活性剤を用いずとも、粘度安定性を維持しつつ、ぬれ性を向上できる。
【0014】
(B1)成分は、ぬれ性の観点から、(B11)成分以外に、(B12)コハク酸およびグルタル酸からなる群から選択される少なくとも1つを含有することが好ましい。
(B1)成分としては、(B11)成分および(B12)成分以外に、モノカルボン酸、ジカルボン酸、その他の有機酸(以下、場合により(B13)成分という)を含有していてもよい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブチリック酸、バレリック酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、およびグリコール酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、エイコサン二酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、およびジグリコール酸などが挙げられる。
その他の有機酸としては、ダイマー酸、トリマー酸、レブリン酸、乳酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、およびピコリン酸などが挙げられる。
(B1)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが特に好ましい。
【0015】
(B)成分は、本発明の課題を達成できる範囲において、(B1)成分以外に、その他の活性剤((B2)ハロゲン系活性剤、および(B3)有機酸アミンなど)をさらに含有してもよい。ただし、ハロゲンフリーの観点からは、前記(B)成分は、(B1)成分のみからなることが好ましい。また、(B1)成分の配合量の合計は、(B)成分100質量%に対して、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0016】
(B)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、3質量%以上35質量%以下であることが好ましく、5質量%以上22質量%以下であることがより好ましく、7質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。(B)成分の配合量が前記下限以上であれば、活性作用を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0017】
[(C)成分]
本実施形態に用いる(C)フェニル基を有するイミダゾリン化合物としては、2-フェニルイミダゾリン、および2-ベンジルイミダゾリンなどが挙げられる。この(C)成分により、粘度安定性を維持しつつ、ぬれ性を向上できる。また、これらの中でも、粘度安定性の観点から、2-ベンジルイミダゾリンがより好ましい。
【0018】
(C)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上8質量%以下であることが特に好ましい。(C)成分の配合量が前記範囲内であれば、粘度安定性を維持しつつ、ぬれ性を向上できる。
【0019】
[(D)成分]
本実施形態に用いる(D)酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤を適宜用いることができる。この(D)成分により、(B)成分による銅腐食を抑制できる。すなわち、ノンハロゲン系の活性剤を用いる場合には、(B)成分による銅腐食が発生しやすいが、(B)成分と(D)成分を併用することで、銅腐食を抑制しつつ、ぬれ性を向上できる。酸化防止剤としては、硫黄化合物(3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシルなど)、ベンゾトリアゾール化合物(1,2,3-ベンゾトリアゾールなど)、ヒンダードフェノール化合物、およびホスファイト化合物などが挙げられる。これらの中でも、ヒンダードフェノール化合物、3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシル、および1,2,3-ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0020】
ヒンダードフェノール化合物としては、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、N,N’-ビス[2-[2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ]エチル]オキサミド、および、N,N’-ビス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジンなどが挙げられる。
【0021】
(D)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上7質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。(D)成分の配合量が前記範囲内であれば、はんだ溶融性を向上できる。
【0022】
[溶剤]
本実施形態のフラックス組成物においては、印刷性などの観点から、さらに溶剤を含有することが好ましい。ここで用いる溶剤としては、公知の溶剤を適宜用いることができる。このような溶剤としては、沸点170℃以上の溶剤を用いることが好ましい。
このような溶剤としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキシルジグリコール、1,5-ペンタンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、オクタンジオール、フェニルグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびジブチルマレイン酸などが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
溶剤を用いる場合、その配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。溶剤の配合量が前記範囲内であれば、得られるはんだ組成物の粘度を適正な範囲に適宜調整できる。
【0024】
[チクソ剤]
本実施形態のフラックス組成物においては、印刷性などの観点から、さらにチクソ剤を含有することが好ましい。ここで用いるチクソ剤としては、硬化ひまし油、アミド類、カオリン、コロイダルシリカ、有機ベントナイト、およびガラスフリットなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
チクソ剤の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上12質量%以下であることがより好ましい。配合量が前記下限未満では、チクソ性が得られず、ダレが生じやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、チクソ性が高すぎて、印刷不良となりやすい傾向にある。
【0026】
[他の成分]
本実施形態に用いるフラックス組成物には、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、溶剤、およびチクソ剤の他に、必要に応じて、その他の添加剤、更には、その他の樹脂を加えることができる。その他の添加剤としては、消泡剤、改質剤、つや消し剤、および発泡剤などが挙げられる。これらの添加剤の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。その他の樹脂としては、アクリル系樹脂、およびポリブタジエンなどが挙げられる。
【0027】
[はんだ組成物]
次に、本実施形態のはんだ組成物について説明する。本実施形態のはんだ組成物は、前述の本実施形態のフラックス組成物と、以下説明する(E)はんだ粉末とを含有するものである。
フラックス組成物の配合量は、はんだ組成物100質量%に対して、5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、7質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。フラックス組成物の配合量が5質量%未満の場合(はんだ粉末の配合量が95質量%を超える場合)には、バインダーとしてのフラックス組成物が足りないため、フラックス組成物とはんだ粉末とを混合しにくくなる傾向にあり、他方、フラックス組成物の配合量が35質量%を超える場合(はんだ粉末の配合量が65質量%未満の場合)には、得られるはんだ組成物を用いた場合に、十分なはんだ接合を形成できにくくなる傾向にある。
【0028】
本実施形態のはんだ組成物は、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプであるにも拘わらず、ぬれ性と保管時の粘度安定性の両方が優れる。そして、プリント配線基板のハロゲンフリーに対応可能なはんだ組成物であっても、ハロゲン系の活性剤を用いる場合と同等のはんだぬれ性を確保できることから、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプのはんだ組成物として特に好適に用いることができる。
ハロゲンフリーのはんだ組成物は、塩素濃度が900質量ppm以下(より好ましくは、100質量ppm以下、特に好ましくは、0質量ppm)であり、臭素濃度が900質量ppm以下(より好ましくは、100質量ppm以下、特に好ましくは、0質量ppm)であり、ヨウ素濃度が900質量ppm以下(より好ましくは、100質量ppm以下、特に好ましくは、0質量ppm)であり、かつ、ハロゲン濃度が1500質量ppm以下(より好ましくは、300質量ppm以下、特に好ましくは、0質量ppm)であるものであることが好ましい。なお、ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素などが挙げられる。
なお、はんだ組成物中の塩素濃度、臭素濃度およびハロゲン濃度は、JEITA ET-7304Aに記載の方法に準じて測定できる。また、簡易的には、はんだ組成物の配合成分およびその配合量から算出できる。
【0029】
[(E)成分]
本発明に用いる(E)はんだ粉末は、鉛フリーはんだ粉末のみからなることが好ましいが、有鉛のはんだ粉末であってもよい。また、このはんだ粉末におけるはんだ合金は、スズ(Sn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
このはんだ粉末におけるはんだ合金としては、スズを主成分とする合金が好ましい。また、このはんだ合金は、スズ、銀および銅を含有することがより好ましい。さらに、このはんだ合金は、添加元素として、アンチモン、ビスマスおよびニッケルのうちの少なくとも1つを含有してもよい。本実施形態のフラックス組成物によれば、アンチモン、ビスマスおよびニッケルなどの酸化しやすい添加元素を含むはんだ合金を用いた場合でも、ボイドの発生を抑制できる。
ここで、鉛フリーはんだ粉末とは、鉛を添加しないはんだ金属または合金の粉末のことをいう。ただし、鉛フリーはんだ粉末中に、不可避的不純物として鉛が存在することは許容されるが、この場合に、鉛の量は、300質量ppm以下であることが好ましい。
【0030】
鉛フリーのはんだ粉末の合金系としては、具体的には、Sn-Ag-Cu系、Sn-Cu系、Sn-Ag系、Sn-Bi系、Sn-Ag-Bi系、Sn-Ag-Cu-Bi系、Sn-Ag-Cu-Ni系、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb系、Sn-Ag-Bi-In系、Sn-Ag-Cu-Bi-In-Sb系などが挙げられる。
【0031】
(E)成分の平均粒子径は、通常1μm以上40μm以下であるが、はんだ付けパッドのピッチが狭い電子基板にも対応するという観点から、1μm以上35μm以下であることがより好ましく、2μm以上35μm以下であることがさらにより好ましく、3μm以上32μm以下であることが特に好ましい。なお、平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定できる。
【0032】
[はんだ組成物の製造方法]
本実施形態のはんだ組成物は、上記説明したフラックス組成物と上記説明した(E)はんだ粉末とを上記所定の割合で配合し、撹拌混合することで製造できる。
【0033】
[電子基板]
次に、本実施形態の電子基板について説明する。本実施形態の電子基板は、以上説明したはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備えることを特徴とするものである。本発明の電子基板は、前記はんだ組成物を用いて電子部品を電子基板(プリント配線基板など)に実装することで製造できる。
前述した本実施形態のはんだ組成物は、ぬれ性が優れている。そのため、電子部品の電極の材質が、洋白やスズメッキなどであっても、適切にはんだ付けができる。
ここで用いる塗布装置としては、スクリーン印刷機、メタルマスク印刷機、ディスペンサー、およびジェットディスペンサーなどが挙げられる。
また、前記塗布装置にて塗布したはんだ組成物上に電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品をプリント配線基板に実装するリフロー工程により、電子部品を電子基板に実装できる。
【0034】
リフロー工程においては、前記はんだ組成物上に前記電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱する。このリフロー工程により、電子部品およびプリント配線基板の間に十分なはんだ接合を行うことができる。その結果、前記電子部品を前記プリント配線基板に実装することができる。
リフロー条件は、はんだの融点に応じて適宜設定すればよい。例えば、プリヒート温度は、140℃以上200℃以下であることが好ましく、150℃以上160℃以下であることがより好ましい。プリヒート時間は、60秒間以上120秒間以下であることが好ましい。ピーク温度は、230℃以上270℃以下であることが好ましく、240℃以上255℃以下であることがより好ましい。また、220℃以上の温度の保持時間は、20秒間以上60秒間以下であることが好ましい。
【0035】
また、本実施形態のはんだ組成物および電子基板は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
例えば、前記電子基板では、リフロー工程により、プリント配線基板と電子部品とを接着しているが、これに限定されない。例えば、リフロー工程に代えて、レーザー光を用いてはんだ組成物を加熱する工程(レーザー加熱工程)により、プリント配線基板と電子部品とを接着してもよい。この場合、レーザー光源としては、特に限定されず、金属の吸収帯に合わせた波長に応じて適宜採用できる。レーザー光源としては、例えば、固体レーザー(ルビー、ガラス、YAGなど)、半導体レーザー(GaAs、およびInGaAsPなど)、液体レーザー(色素など)、並びに、気体レーザー(He-Ne、Ar、CO2、およびエキシマーなど)が挙げられる。
【実施例0036】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A)成分)
ロジン系樹脂:水添酸変性ロジン、商品名「パインクリスタルKE-604」、荒川化学工業社製
((B12)成分)
有機酸A:コハク酸
有機酸B:グルタル酸
((B13)成分)
有機酸C:エイコサン二酸、商品名「SL-20」、岡本製油社製
有機酸D:セバシン酸
((B11)成分)
有機酸E:3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
((C)成分)
イミダゾリン化合物A:2-フェニルイミダゾリン
イミダゾリン化合物B:2-ベンジルイミダゾリン
((D)成分)
酸化防止剤A:N,N’-ビス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジン、商品名「イルガノックスMD1024」、BASFジャパン社製
酸化防止剤B:N,N’-ビス[2-[2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ]エチル]オキサミド、商品名「ナウガードXL-1」、白石カルシウム社製
酸化防止剤C:1,2,3-ベンゾトリアゾール、商品名「VERZONE Crysta」、大和化成社製
酸化防止剤D:3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシル、商品名「SUMILIZER TPL-R」、住友化学社製
(他の成分)
イミダゾリン化合物C:2-メチルイミダゾリン
イミダゾリン化合物D:2-プロピルイミダゾリン
イミダゾール化合物A:2-エチルイミダゾール
イミダゾール化合物B:2-エチル-4-メチルイミダゾール
イミダゾール化合物C:2-フェニル-4-メチルイミダゾール
溶剤:ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、沸点:272℃)、日本乳化剤社製
チクソ剤:商品名「ターレンVA-79」、共栄社化学社製
ポリブタジエン:商品名「BI-2000」、日本曹達社製
((E)成分)
はんだ粉末:合金組成はSn-3.0Ag-0.5Cu、粒子径分布は15~25μm、はんだ融点は217~220℃
【0037】
[実施例1]
ロジン系樹脂45質量%、有機酸A2質量%、有機酸B2質量%、有機酸C1質量%、有機酸D1質量%、有機酸E1質量%、イミダゾリン化合物A5質量%、溶剤31質量%、酸化防止剤3質量%、ポリブタジエン2質量%、およびチクソ剤7質量%を容器に投入し、プラネタリーミキサーを用いて混合してフラックス組成物を得た。
その後、得られたフラックス組成物12質量%およびはんだ粉末88質量%(合計で100質量%)を容器に投入し、プラネタリーミキサーにて混合することではんだ組成物を調製した。
【0038】
[実施例2~5]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
[比較例1~8]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
【0039】
<はんだ組成物の評価>
はんだ組成物の評価(性状、粘度安定性、ぬれ性、銅腐食)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1に示す。なお、性状に問題があったはんだ組成物については、粘度安定性およびぬれ性についての評価を、一部省略した。
(1)性状
作製後のはんだ組成物を用いて、印刷を試み、以下の基準に従って、性状を評価した。
〇:はんだ組成物が印刷可能である。
×:はんだ組成物がボソリ傾向にあり、印刷できない状態である。
(2)粘度安定性
はんだ組成物を容器に入れ、これを25℃の温度下で2~3時間放置した。その後、容器の蓋をあけ、容器中のはんだ組成物を、スパチュラを用いて空気の混入を避けるようにして1~2分間かき混ぜた。次いで、この容器を粘度計(商品名:PCU105、マルコム社製)に入れ、回転速度10rpmにて25℃の温度下にて約3分間攪拌した。その後回転を停止させ、温度が一定になるまで待った後、温度を調節した上で回転速度10rpmにて3分間攪拌し、その粘度を測定した。
その後、25℃の温度下で回転速度10rpmにて24時間攪拌後、再度粘度を測定した。
そして、粘度値の差(攪拌後粘度-初期粘度)の結果に基づいて、下記の基準に従って、粘度安定性を評価した。
◎:粘度値の差が、-5Pa・s以上5Pa・s以下である。
○:粘度値の差が、-15Pa・s以上-5Pa・s未満、或いは、5Pa・s超15Pa・s以下である。
×:粘度値の差が、-30Pa・s未満、或いは、30Pa・s超である。
(3)ぬれ性
メニスコグラフ法を用い(試験装置:ソルダチェッカーSAT-5100、試験片:130℃20分間の酸化劣化後の基板(スズメッキ銅板および洋白基板))、ゼロクロス時間(ぬれ作用力がゼロになるまでの時間)を測定した。なお、ゼロクロス時間は、短いほど、ぬれ性が優れることを示す。
(4)銅腐食(銅鏡腐食試験)
J-STD-004Bに記載の方法に準拠して、銅鏡腐食試験を行い、銅腐食を評価した。そして、銅鏡腐食試験後の結果が、「No Breakthrough」となる場合には「○」と判定し、それ以外の場合には「×」と判定した。
【0040】
【0041】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明のはんだ組成物(実施例1~5)は、性状、粘度安定性、ぬれ性、および銅腐食の全ての結果が良好であることが確認された。なお、実施例1~5のはんだ組成物には、ハロゲン系活性剤が配合されていないので、ノンハロゲンタイプのはんだ組成物である。
従って、本発明のはんだ組成物によれば、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプであるにも拘わらず、ぬれ性と粘度安定性の両方が優れることが確認された。