(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054158
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】統合失調症の発症リスクを試験する方法、該方法に用いるキット、及び統合失調症のモデル哺乳動物
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6883 20180101AFI20220330BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220330BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20220330BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220330BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220330BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220330BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220330BHJP
C12Q 1/6827 20180101ALI20220330BHJP
【FI】
C12Q1/6883 Z ZNA
C12N15/12
A01K67/027
C12N15/09 110
G01N33/53 M
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/6827 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161198
(22)【出願日】2020-09-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼令和2年8月21日 https://www.c-linkage.co.jp/jspn116/pdf/program_all.pdf を通じて発表 ▲2▼令和2年9月14日 https://www.jspn.or.jp/modules/basicauth/index.php?file=activity/R2/116_day2.pdf を通じて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】吉浦 孝一郎
(72)【発明者】
【氏名】森本 芳郎
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA29
2G045AA40
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR42
4B063QR72
4B063QS03
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】EP400遺伝子の変異を指標にして統合失調症にかかりやすさの評価を行う方法を提供すること、及び統合失調症のモデルとなる哺乳動物を作製する方法の提供。
【解決手段】被験者由来の試料中のDNAにおけるEP400遺伝子の変異の有無を検出し、当該EP400遺伝子に変異を有する場合には統合失調症を発症しやすいという基準により、被験者の統合失調症の発症しやすさを試験する方法、及びヒトEP400遺伝子のオルソログに変異が導入され、ヒトの統合失調症様の行動異常を示す統合失調症のモデルとなる哺乳動物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者由来の試料中のDNAにおけるヒトEP400遺伝子における変異の有無を検出し、当該変異を有する場合には統合失調症を発症しやすいという基準により、被験者の統合失調症の発症しやすさを試験する方法。
【請求項2】
被験者由来の試料中のDNAにおけるヒトEP400遺伝子のエクソン48における変異の有無を検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験者由来の試料中のDNAにおけるヒトEP400遺伝子の8414番目のシトシンのチミンへの変異の有無を検出する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ヒトEP400タンパク質の2805番目のプロリンのロイシンへの変異の有無を検出する、請
求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記被験者が、統合失調症を発症している疑いがあるヒトである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ヒトEP400遺伝子の全コーディング領域の領域のヌクレオチドを増幅し得るPCRプライマーセットを含む、統合失調症の診断用キット。
【請求項7】
ヒトEP400遺伝子の8414の番目のシトシンを含む領域を増幅し得るPCRプライマーセットを含む、請求項6に記載の統合失調症の診断用キット。
【請求項8】
ヒトEP400遺伝子由来のヌクレオチド配列であって、当該遺伝子の8414番目のヌクレオ
チドがチミンに変異したヌクレオチド配列に特異的にハイブリダイズし得るプローブ、及びヒトEP400遺伝子由来のヌクレオチド配列であって、当該EP400遺伝子の8414番目のヌクレオチドがシトシンのままであるヌクレオチド配列に特異的にハイブリダイズし得るプローブを更に含む、請求項6又は7に記載のキット。
【請求項9】
EP400遺伝子に変異を有し、且つヒトの統合失調症の指標となる行動異常を示す、統合
失調症のモデル哺乳動物。
【請求項10】
Ep400遺伝子の、ヒトEP400遺伝子のエクソン48に相当する領域内に変異を有する、請求項9に記載の統合失調症のモデル哺乳動物。
【請求項11】
前記モデル哺乳動物の、ヒトEP400遺伝子の8414番目のシトシンに相当するヌクレオチ
ドがチミンに変異している、請求項9又は10に記載の統合失調症のモデル哺乳動物。
【請求項12】
前記モデル哺乳動物が、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヤギ、ミニブタ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルおよびチンパンジーからなる群から選択される哺乳動物である、請求項9~11のいずれか1項に記載のモデル哺乳動物。
【請求項13】
前記モデル哺乳動物がマウスであり、マウスEp400遺伝子の8144番目のシトシンがチミ
ンへ変異している、請求項9~12のいずれか1項に記載のモデル哺乳動物。
【請求項14】
前記モデル哺乳動物がマウスであり、マウスEp400タンパク質の2715番目のプロリンが
ロイシンへ変異している、請求項9~12のいずれか1項に記載のモデル哺乳動物。
【請求項15】
前記行動異常として不安行動を示す、請求項9~14のいずれか1項に記載のモデル哺
乳動物。
【請求項16】
Ep400遺伝子に変異を導入することにより、ヒトの統合失調症の指標となる行動異常を
示す統合失調症のモデル哺乳動物を作製する方法。
【請求項17】
Ep400遺伝子の、ヒトEP400遺伝子のエクソン48に相当する領域に変異を導入する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記変異を導入することにより、前記モデル哺乳動物のヒトEP400遺伝子の8414番目の
シトシンに相当するヌクレオチドがチミンへ変異している、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記変異を導入することにより、前記モデル哺乳動物のヒトEP400タンパク質の2805番
目のプロリンに相当するアミノ酸がロイシンに変異している、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項20】
前記変異の導入をCrispr/CAS-9を用いた遺伝子編集法により行う、請求項16~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記モデル哺乳動物が、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヤギ、ミニブタ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルおよびチンパンジーからなる群から選択される哺乳動物である、請求項16~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記モデル哺乳動物がマウスである、請求項16~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記行動異常として不安行動を示す、請求項16~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
請求項9~15のいずれか1項に記載のモデル哺乳動物を用いて統合失調症の治療又は予防薬をスクリーニングする方法であって、以下の工程;
(1)前記モデル哺乳動物に被験物質を投与する工程、及び
(2)被験物質を投与しなかった対照群と比較して、前記行動異常が改善した場合に、該被験物質を統合失調症の治療又は予防薬の候補物質として選別する工程、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者から採取した試料由来のDNAにおいて、EP400(E1A binding protein p400)遺伝子の変異の有無を基準として、統合失調症の発症しやすさを試験する方法に関する。更に本発明は該方法に使用することができる、統合失調症の発症しやすさを評価するためのキットに関する。更に本発明は、統合失調症のモデル哺乳動物、該モデル動物の作製方法、及び該モデル動物の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
統合失調症は思考/行動、感情/情動を一つの目的に沿ってまとめる能力が長期間に亘って低下する状態が続く精神疾患であり、その病態は脳の機能の障害に由来すると考えられている。統合失調症を発症する頻度は人口比の0.8~1.2%程度であり、稀な疾患ではない。
【0003】
一般的に統合失調症の症状としては、陽性症状、陰性症状、及び認知機能障害が知られている。陽性症状の代表的な症状には妄想、幻覚、及び思考障害等があり、統合失調症の急性期に主として現れる。一方陰性症状の代表的な症状には、感情の平板化、思考の貧困、意欲の欠如、及び自閉等があり、急性期の治療により陽性症状が緩和しても陰性症状が残ることが多い。認知機能障害の症状には、記憶力の低下、注意、集中力の低下、判断力の低下がある。本明細書において「統合失調症」の定義は本技術分野で一般的に使用されているものに従う。汎用されている統合失調症の診断基準としては、WHO(世界保健機構)の国際疾病分類である「ICD-10」や、米国精神医学会の「DSM-5」などがあり、臨床
的に使用されている。
【0004】
統合失調症が発症する原因や機序は不明であるが、遺伝的要因によるという説、脳の神経伝達物質のバランスの崩れが関係しているという説、環境的要因によるという説がある。それらに加えて妊娠中のウイルス感染が関連しているという説、エピジュネティクスの異常が関連しているという説や、神経系の慢性的な炎症が関連しているという説もある。しかしながら統合失調症が発症する原因や機序について統一された見解は未だない。
【0005】
統合失調症の発症における遺伝学的バックグラウンドの重要性は従来から指摘されており、双生児研究や家族研究などが行われている。近年では多数のサンプルを用いた全エキソームシークエンシング(WES)により、統合失調症の発症に有意な関連を示すゲノムが
報告されている。しかしWESにより同定されるそれらの領域(Common risk variants)は
疾患リスクへの貢献度(オッズ比)が低く、統合失調症の病態に与える影響に関しては不明な点が多く残されている(非特許文献1)。
【0006】
その一方で、オッズ比が高く、統合失調症の発症に大きな影響を与えると予想される遺伝子変異(Rare risk variants)に関する報告は存在するが(非特許文献2等)、その数は極めて少ない。よって統合失調症の発症に関与している遺伝的要因に関する知見は未だ十分ではない。
【0007】
また統合失調症の治療薬の開発を行うのには、動物実験によりその薬効を評価するために統合失調症のモデル動物が必要とされる。これまでに統合失調症のモデルマウスとして、メタンフェタミンやアンフェタミンを投与した薬理学的動物モデル(非特許文献3)や、周産期感染を模倣した神経発達動物モデル(非特許文献4)等が提唱されているが、その科学的・臨床的な妥当性に関しては議論の余地がある。
【0008】
これまでに報告されてきた統合失調症のモデル動物の多くは薬物投与により作製されるものである。現時点でコンセンサスのある統合失調症の遺伝学的バックグラウンドは見つかっておらず、遺伝子改変から作成した統合失調症モデルマウスに関しての報告の例として非特許文献5が挙げられるものの、そのような報告も乏しい。よって遺伝学的なアプローチにより作製された統合失調症のモデル動物に対する需要は未だにある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Prata DP et al. Unravelling the genetic basis of schizophrenia and bipolar disorder with GWAS: A systematic review. J Psychiatr Res. 2019 Jul;114:178-207.
【非特許文献2】Takata A et al. Loss-of-function variants in schizophrenia risk and SETD1A as a candidate susceptibility gene. Neuron. 2014 May 21;82(4):773-80.
【非特許文献3】嶋津奈, 西川徹. モノアミン障害・アンフェタミンモデル. 分子精神医学 2005 5 : 58-63.
【非特許文献4】河合正好, 武井教使. 統合失調症のウイルス感染説. 分子精神医学 2004 4 : 56-64.
【非特許文献5】Tsuboi D et al. Disrupted-in-schizophrenia 1 regulates transport of ITPR1 mRNA for synaptic plasticity. Nat Neurosci. 2015 May;18(5):698-707
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、統合失調症の発症のしやすさと関連する遺伝子を同定し、更にはその知見に基づき、統合失調症の診断方法や統合失調症の発症しやすさを評価する方法を提供することである。更に本発明は統合失調症の薬剤の開発に有用な統合失調症のモデル動物を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、多数の統合失調症の患者が3世代に亘って存在する家系に注目し、統合失調症の発症しやすさと関連する遺伝子の検討を行った。その家系については下記の実施例において詳細に述べる。具体的には上記の家系から数人の被験者(統合失調症を発症している被験者及び統合失調症を発症していない被験者)を選択し、被験者から採集した試料(血液)を用いて、疾患の原因となる単一の遺伝子を検出するための強力なツールである、全エキソームシークエンシング(WES)(Funayama M et al., Lancet, 2015, 14: 274-282、Kim HJ et al., Nature, 2013, 495: 467-473)を行った。その結果本発明者らは、EP400遺伝子の2,805番目のプロリンがロイシンに変異することが統合失調症の発症と関連していることを見出した。
【0012】
更に本発明者らは、この変異(EP400: p.Pro2715Leu)を模して、EP400に変異を持つマウスを、遺伝子編集手法(CRISPR/CAS9)を用いて作製した。そのマウスについて行動解析を行ったところ、ヒトの統合失調症様の行動異常を示した。更にそのマウスの脳軸索の免疫組織染色を行ったところ、中枢神経系における神経細胞の形態学的変化が確認された。よって、そのような変異を有するマウスは、ヒト統合失調症のモデル動物として使用することができることが見出された。
【0013】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
被験者由来の試料中のDNAにおけるヒトEP400遺伝子における変異の有無を検出し、当該
変異を有する場合には統合失調症を発症しやすいという基準により、被験者の統合失調症の発症しやすさを試験する方法。
[1’]
被験者由来の試料中のDNAにおけるヒトEP400遺伝子における変異の有無を検出し、当該変異を有する場合には統合失調症を発症しやすいと診断する方法、又は当該診断を補助する方法。
[2]
被験者由来の試料中のDNAにおけるヒトEP400遺伝子のエクソン48における変異の有無を検出する、[1]に記載の方法。
[2’]
被験者由来の試料中のDNAにおけるヒトEP400遺伝子のエクソン48における変異の有無を検出する、[1’]に記載の方法。
[3]
被験者由来の試料中のDNAにおけるヒトEP400遺伝子の8414番目のシトシンのチミンへの変異の有無を検出する、[1]又は[2]に記載の方法。
[3’]
被験者由来の試料中のDNAにおけるヒトEP400遺伝子の8414番目のシトシンのチミンへの変異の有無を検出する、[1’]又は[2’]に記載の方法。
[4]
ヒトEP400タンパク質の2805番目のプロリンのロイシンへの変異の有無を検出する、[
1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[4’]
ヒトEP400タンパク質の2805番目のプロリンのロイシンへの変異の有無を検出する、[
1’]~[3’]のいずれかに記載の方法。
[5]
前記被験者が、統合失調症を発症している疑いがあるヒトである、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
ヒトEP400遺伝子の全コーディング領域のヌクレオチドを増幅し得るPCRプライマーセットを含む、統合失調症の診断用キット。
[7]
ヒトEP400遺伝子の8414の番目のシトシンを含む領域を増幅し得るPCRプライマーセットを含む、[6]に記載の統合失調症の診断用キット。
[8]
ヒトEP400遺伝子由来のヌクレオチド配列であって、当該遺伝子の8414番目のヌクレオ
チドがチミンに変異したヌクレオチド配列に特異的にハイブリダイズし得るプローブ、及びヒトEP400遺伝子由来のヌクレオチド配列であって、当該EP400遺伝子の8414番目のヌクレオチドがシトシンのままであるヌクレオチド配列に特異的にハイブリダイズし得るプローブを更に含む、[6]又は[7]に記載のキット。
[9]
Ep400遺伝子に変異を有し、且つヒトの統合失調症の指標となる行動異常を示す、統合
失調症の非ヒト哺乳動物モデル。
[10]
Ep400遺伝子の、ヒトEP400遺伝子のエクソン48に相当する領域内に変異を有する、[9]に記載のモデル。
[11]
前記モデル哺乳動物の、ヒトEP400遺伝子の8414番目のシトシンに相当するヌクレオチ
ドがチミンに変異している、[9]又は[10]に記載の統合失調症のモデル哺乳動物。[12]
前記モデル哺乳動物が、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネ
コ、ヤギ、ミニブタ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルおよびチンパンジーからなる群から選択される哺乳動物である、[9]~[11]のいずれかに記載のモデル哺乳動物。
[13]
前記モデル哺乳動物がマウスであり、マウスEp400遺伝子の8144番目のシトシンがチミ
ンへ変異している、[9]~[12]のいずれかに記載のモデル哺乳動物。
[14]
前記モデル哺乳動物がマウスであり、マウスEp400タンパク質の2715番目のプロリンが
ロイシンへ変異している、[9]~[12]のいずれかに記載のモデル哺乳動物。
[15]
前記行動異常として不安行動を示す、[9]~[14]のいずれかに記載のモデル哺乳動物。
[16]
Ep400遺伝子に変異を導入することにより、ヒトの統合失調症の指標となる行動異常を
示す統合失調症のモデル哺乳動物を作製する方法。
[17]
Ep400遺伝子の、ヒトEP400遺伝子のエクソン48に相当する領域に変異を導入する、[16]に記載の方法。
[18]
前記変異を導入することにより、前記モデル哺乳動物のヒトEP400遺伝子の8414番目の
シトシンに相当するヌクレオチドがチミンへ変異している、[16]又は[17]に記載の方法。
[19]
前記変異を導入することにより、前記モデル哺乳動物のヒトEP400タンパク質の2805番
目のプロリンに相当するアミノ酸がロイシンに変異している、[16]又は[17]に記載の方法。
[20]
前記変異の導入をCrispr/CAS-9を用いた遺伝子編集法により行う、[16]~[19]のいずれかに記載の方法。
[21]
前記モデル哺乳動物が、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヤギ、ミニブタ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルおよびチンパンジーからなる群から選択される哺乳動物である、[16]~[20]のいずれかに記載の方法。
[22]
前記モデル哺乳動物がマウスである、[16]~[21]のいずれかに記載の方法。
[23]
前記行動異常として不安行動を示す、[16]~[22]のいずれかに記載の方法。
[24]
[9]~[15]のいずれかに記載のモデル哺乳動物を用いて統合失調症の治療又は予防薬をスクリーニングする方法であって、以下の工程;
(1)前記モデル哺乳動物に被験物質を投与する工程、及び
(2)被験物質を投与しなかった対照群と比較して、前記行動異常が改善した場合に、該被験物質を統合失調症の治療又は予防薬の候補物質として選別する工程、
を含む方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被験者由来の試料中のDNAにおけるヒトEP400遺伝子における変異、好ましくはヒトEP400遺伝子エクソン48における変異の有無、特に好ましくはヒトEP400遺伝子の8414番目(エクソン48の80番目)のシトシンのチミンへの変異の有無を検出することにより、該被験者の統合失調症の発症しやすさを評価することができる。また、被験者のヒトEP400遺伝子における変異の有無、好ましくはヒトEP400遺伝子エクソン48における変
異の有無、特に好ましくはヒトEP400遺伝子の8414番目のシトシンのチミンへの変異の有
無を検出することにより、他の統合失調症に特有な臨床症状(上記で述べた陽性症状、陰性症状、及び認知機能障害等)の有無と併せて、該被験者が統合失調症を発症しやすさを判断し得る。なおヒトEP400遺伝子の8414番目のシトシンのチミンへの変異は、ヒトEP400タンパク質の2805番目のプロリンのロイシンへの変異をもたらす。またヒトEP400遺伝子
における該変異を検出することができるキットは、統合失調症の発症しやすさの評価や診断補助に有用である。
【0015】
更に本発明によれば、EP400遺伝子が変異しており、且つヒトの統合失調症の指標とな
る行動異常を示す統合失調症のモデル哺乳動物が提供される。当該統合失調症のモデル哺乳動物においては、好ましくは該哺乳動物のヒトEP400遺伝子のエクソン48に相当する領
域のヌクレオチドが変異しており、特に好ましくは該哺乳動物のヒトEP400遺伝子の8414
番目(エクソン48の80番目)のシトシンに相当するヌクレオチドがチミンに変異している。下記の実施例においてはマウスEP400遺伝子の8144番目(エクソン47の80番目)のシト
シンをチミンに変異させた統合失調症のモデルマウスを作製しており、該統合失調症のモデルマウスではマウスEP400タンパク質の2715番目のプロリンがロイシンに変異している
。更にかかる統合失調症のモデル哺乳動物を用いて、統合失調症の治療又は予防薬をスクリーニングすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1aは、統合失調症が多発している家系の3世代の家系図である。
図1aにおいて、四角のシンボルは男性であり、丸のシンボルは女性であり、黒色のシンボルは統合失調症と診断された被験者(
図1aのI-3、I-4、I-9、II-2、II-3、II-5、II-10、II-12、II-13、II-17、III-2、III-3)である。
図1b:統合失調症とともに分離したEP400のミスセンス変異(chr12:132064747; hg38のC> T、ENST00000389561.7のp.P2805L)。
図1c:哺乳類の間で高度に保存されたdisorder結合領域内にあるEP400遺伝子のエクソン48における家族性ミスセンス変異の位置。
図1d:PONDRのCaN-XTアルゴリズムは、p.P2805LがEP400タンパク質のdisorder領域の伸長を引き起こすと予測した。
【
図2】変異導入マウス(Ep400-p.P2715L#1及びEp400-p.P2715L#2)の遺伝子型と後肢の握り締め。 Ep400のミスセンス変異(p.P2715L、赤矢印)とプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM;緑矢印)を破壊するサイレント変異を、サンガーシーケンスにより確認した。 いずれの変異導入マウスも、3月齢から後肢の握り締め(黄矢印)を示しました。
【
図3】
図3a:Ep400-p.P2715L#1マウス(n=6)及び野生型(WT)同腹仔(n=6)のオープンフィールドテスト。3月齢では、野生型マウスと比較して、中心滞在時間(center time)に有意差はなかったが、6月齢では、中心滞在時間が有意に減少した。
図3b:Ep400-p.P2715L#1マウス(n=6)及び野生型(WT)同腹仔(n=6)のソーシャルインタラクションテスト。3月齢では、野生型マウスと比較して、首を伸ばして後からケージに入れられた刺激マウスの確認をする行動(Stretched Approach)の回数に有意差はなかったが、6月齢では、Stretched Approachの回数が有意に増加した。
【
図4】変異導入マウス(Ep400-p.P2715L#1)の脳の組織学的分析結果を示す。
図4a:脳組織のHE染色。変異導入マウス脳は、野生型(WT)同腹仔と比較して顕著な変化を示さなかった。CS=冠状断面。 SS=矢状断面。 DG=海馬歯状回。 白ボックス:神経細胞体の形態異常はなかった。緑色のスケールバー=1000 μm。白色のスケールバー=50 μm。
図4b:海馬歯状回の免疫蛍光染色。白ボックス:Ep400の発現は神経細胞の核で広く観察され、発現パターンは野生型マウスと比べて祭はなかった。赤:Ep400。 緑:Map2(神経細胞マーカー)。青:DAPI。 白色のスケールバー=50 μm。
【
図5】変異導入マウス(Ep400-p.P2715L#1)の脊髄の組織学的分析結果を示す。
図5a:3月齢のEp400-p.P2715L#1マウスは、HE染色では野生型(WT)同腹仔と比較して明らかな違いを示さなかったが、KB及びTB染色により軸索径の減少を示した。HE=ヘマトキシリン-エオシン染色。 KB=クルーバー-バレラ染色。 TB=トルイジンブルー染色。黄色のスケールバー=200 μm。白色のスケールバー=50 μm。オレンジ色のスケールバー=10 μm。
図5b:TEM分析。Ep400-p.P2715L#1マウス(n=2)は、ミエリン鞘の形態異常を示さず、野生型(WT)同腹仔と比較してG比に有意差はなかったが、軸索径の有意な減少はTEM分析によっても確認された。オレンジ色のスケールバー=10 μm。赤色のスケールバー=1 μm。
【
図6】変異導入マウス(Ep400-p.P2715L#2)の脊髄の組織学的分析結果を示す。
図6a:3月齢のEp400-p.P2715L#2マウスは、KB及びTB染色により野生型(WT)同腹仔と比較して軸索径の減少を示した。KB=クルーバー-バレラ染色。 TB=トルイジンブルー染色。黄色のスケールバー=200 μm。白色のスケールバー=50 μm。オレンジ色のスケールバー=10 μm。
図6b:TEM分析。Ep400-p.P2715L#2マウス(n=2)は、ミエリン鞘の形態異常を示さず、野生型(WT)同腹仔と比較してG比に有意差はなかったが、軸索径の有意な減少はTEM分析によっても確認された。オレンジ色のスケールバー=10 μm。赤色のスケールバー=1 μm。
【
図7】日本人(統合失調症患者及びコントロール)において検出されたEP400の有害バリアント。レアバリアントはロリポップで表され、統合失調症患者(上部パネル)とコントロール(下部パネル)のバリアントを持つアレルの数を表示している。レアバリアント=任意のデータベースで0.001<MAF<0.005のバリアント。超レアバリアント=すべてのデータベースでMAF<0.001のバリアント。 新規バリアント=すべてのデータベースに登録されていないバリアント。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.本発明の試験方法及び診断方法
本発明は、被験者のヒトEP400遺伝子における変異の有無を検出することで、被験者の
統合失調症の発症しやすさを試験する方法(以下、「本発明の試験方法」ともいう。)を提供する。好ましくは本発明の試験方法は、被験者由来の試料中のDNAにおけるヒトEP400遺伝子のエクソン48における変異の有無、特に好ましくはヒトEP400遺伝子の8414番目(
エクソン48の80番目)のシトシンのチミンへの変異の有無を検出し、変異を有する場合には統合失調症を発症しやすいという基準により行うことができる。本明細書において、「EP400遺伝子のX番目」とは、コーディング配列(CDS)の最初のヌクレオチドから数えてX番目のヌクレオチドであることを意味する。また、本明細書において「EP400タンパク
質のY番目」とは、該タンパク質の開始メチオニンから数えてY番目のアミノ酸であることを意味する。
【0018】
さらに本発明は、被験者のヒトEP400遺伝子における変異の有無を検出することで、被
験者の統合失調症の発症しやすさを診断する方法、又は該診断の補助をする方法(これらを纏めて「本発明の診断方法」と称する。)を提供する。好ましくは本発明の診断方法は、被験者由来の試料中のDNAにおけるヒトEP400遺伝子のエクソン48における変異の有無、特に好ましくはヒトEP400遺伝子の8414番目(エクソン48の80番目)のシトシンのチミン
への変異の有無を検出し、変異を有する場合には統合失調症を発症しやすいと診断するにより行うことができる。
【0019】
EP400(E1A binding protein p400)はNuA4ヒストンアセチルトランスフェラーゼ複合
体の成分であり、NuA4ヒストンアセチルトランスフェラーゼ複合体はヌクレオソームのヒストンH4とH2Aのアセチル化により選択遺伝子の転写活性化に関与している。この修飾は
ヌクレオソーム-DNAの相互作用を変え、修飾されたヒストンと転写を正に制御する他の
タンパク質との相互作用を促進し得る。EP400は細胞増殖の間にE2F1とMYC標的遺伝子の転写活性化に必要とされるかもしれない。NuA4複合体ATPアーゼとヘリケースの活性には、
少なくとも部分的には、RUVBL1及びRUVBL2の、EP400との会合が寄与していると考えられ
る。またEP400は、ZNF42転写活性も制御し得る。EP400はヌクレオソームからヒストンH2A、Z/H2AFZのヌクレオソームからの除去を特異的に仲介するSWR-1様複合体の成分でもある
。しかしながらこれまでに、EP400と統合失調症との関連性を示唆する報告は存在しない
。
【0020】
ヒトEP400タンパク質は3123アミノ酸残基からなり、9372ヌクレオチドからなる核酸に
よりコードされている。ヒトEP400のcDNAのヌクレオチド配列はGenBank Accession No. NM_015409(参照配列hg38)を参照することができ、そのヌクレオチド配列を配列番号1として示す。また該CDSにコードされるEP400のアミノ酸配列を配列番号2として示す。非ヒト哺乳動物のEP400のcDNAの配列も、同様に公知である。例えば、マウスEP400のcDNAの配列はGenBank Accession No. NM_029337(参照配列mm10)を参照することができ、該配列
を配列番号3として示す。また該CDSにコードされるマウスEP400のアミノ酸配列を配列番号4として示す。また、本明細書では、特に断らない限り(「マウスEP400」と記載する
等)、ヒトEP400 cDNAのヌクレオチド配列に基づいて、ヌクレオチドの位置等を記載するが、非ヒト哺乳動物オルソログにおける対応するヌクレオチド配列やヌクレオチドの位置等も、当該記載内容に包含されるものである。
【0021】
下述の実施例において示すように統合失調症の発症が多発している家系の、統合失調症に罹患している被験者を解析したところ、該被験者のEP400遺伝子の8414番目(エクソン48の80番目)のシトシンがチミンに変異していることが示された。よって本発明の方法の
最も重要な特徴は、被験者のEP400遺伝子における変異の有無、好ましくはエクソン48に
おける変異の有無、特に好ましくはEP400遺伝子の8414番目のシトシンのチミンへの変異
の有無を検出することにより、統合失調症リスク評価に資する点にある。なお、該遺伝子変異は、コードするヒトEP400タンパク質において、2805番目のプロリンがロイシンに置
換する変異をもたらす。
【0022】
本発明において試験対象となる「被験者」は統合失調症が疑われるヒトであってもよいし、統合失調症の症状を全く示さないヒトであってもよい。検査の時点で統合失調症の症状を示さない者であっても、将来において統合失調症の発症しやすさを予測できるため、統合失調症リスクを評価する遺伝子診断の手段として本発明を利用することができる。
【0023】
本明細書で「統合失調症を発症しやすい」とは、検査の時点で統合失調症の症状を全く示さない被験者又は発症を疑われれていても診断が確定していない被験者において、将来において統合失調症を発症する可能性が、一般集団の被験者と比較して高いことを意味する。
【0024】
本発明の診断方法は、統合失調症の発症を疑われれている被験者において、統合失調症の確定診断を補助する目的においても使用することができる。既に述べたように統合失調症の診断は主として、陽性症状、陰性症状、及び認知機能障害などの精神症状の有無を基準にして行われる。そのような診断は熟練した精神科の医師により慎重に行われるが、精神症状を基準としたそのような診断方法は客観性に欠けている。本発明の診断方法はヒトEP400遺伝子の変異の有無を検出することにより行われために、統合失調症を客観的且つ
簡便に診断することに資する。本発明の診断方法と、前記精神症状の有無と組み合わせて、診断結果の精度を向上させることもできる。
【0025】
統合失調症の診断が確定した被験者については、統合失調症の治療を行うことが好ましい。統合失調症の治療は薬物治療が主となる。統合失調症の治療として使用される薬剤として、クロルプロマジン、ハロペリドール、レボメプロマジン、スルピリド、チミペロン、プロペリシアジン、及びゾテピン等の第一世代の向精神薬、並びにリスペリドン、オランザピン、クエチアピン、ペロスピリン、アリピプラゾール、ブロナンセリン、クロザピン、パリペリドン、アセナピン、及びブレクスピプラゾール等の第二世代の向精神薬を挙げることができる。よって本発明はまた、統合失調症であると診断された被験者において
、薬物治療を行うことを含む、統合失調症の診断および治療方法も提供する。
【0026】
更に本発明は、被験者から採取した試料由来のDNAにおけるヒトEP400遺伝子の変異の有無、好ましくはヒトEP400遺伝子のエクソン48における変異の有無、特に好ましくはヒトEP400遺伝子の8414番目のシトシンのチミンへの変異の有無を検出する工程を含む、統合失調症の発症しやすさ評価するためのデータを収集する方法も提供する。データの収集は、自体公知の方法により行うことができる。
【0027】
本発明で用いる試料としては、被験者から採取した試料であれば特に限定されず、例えば、血液、血漿、血清、唾液、尿、皮膚、爪、毛髪、骨髄液、口腔粘膜、臓器等が挙げられる。好ましくは、血液、血漿、血清又は唾液である。これらの試料は、自体公知の方法により得ることができ、例えば、血清や血漿は、常法に従って被験者から採血し、液性成分を分離することにより調製することができる。試料中のDNAは、該試料からゲノムDNAを抽出して得ることができ、例えば、通常の採血により被験者から採取した血液からフェノール抽出法などによりゲノムDNAを単離することができる。その際、例えば、QIAmp Circulating Nucleic Acid Kitなどの市販のゲノムDNA抽出キットや装置を用いてもよい。
【0028】
ヒトEP400遺伝子における変異の検出は、例えば、ヒトEP400遺伝子の全コーディング領域、好ましくはヒトEP400遺伝子のエクソン48の領域、特に好ましくはヒトEP400遺伝子の8414番目のシトシンを含む領域を特異的に増幅し得るプライマーセットを用いたPCRによ
り、前記領域を増幅させ、得られた増幅産物を、自体公知の方法により塩基配列を決定することにより、変異を検出することができる。前記プライマーセットについては、下記2.で詳細に説明する。かかる塩基配列を決定する方法としては、例えば、サンガー法や、次世代シークエンサー(NGS)を用いた方法などが挙げられる。次世代シークエンスを用
いた方法は、例えば、実験医学別冊「次世代シークエンス解析スタンダード」、2014年(羊土社)等を参照することができる。このような目的に用いられるNGSとしては、イルミ
ナ(illumina)社製の装置(例:MiSeq、HiSeq2500)、ライフテクノロジーズ(Life Technologies)社製の装置(例:Ion Proton、Ion PGM)、ロッシュ ダイアグノスティック
ス(Roche Diagnostic)社製の装置(例:GS FLX+、GS Junior)などを挙げることができるが、これらの装置に限定されない。
【0029】
NGSを用いた塩基配列決定の方法は、NGSの種類によって異なり、例えば、各社のマニュアル(例:NexteraR XT DNA Library Prep Reference Guide)に準じて実施することができる。また、得られたサンプルのシークエンシングには、好ましくはペアエンド解析が用いられる。
【0030】
あるいは、ヒトEP400遺伝子における変異の有無は、当分野で公知の任意の多型解析方
法によって行うことができ、例えば、PCR法を用いた方法が挙げられる。PCR法を用いた方法としては、分析対象である核酸をPCR法により増幅し、増幅産物の変異を蛍光又は発光
によって検出する方法、PCR-RFLP(restriction fragment length polymorphism:制限酵
素断片長多型)法、PCR-SSCP(single strand conformation polymorphism:単鎖高次構造
多型)法(Orita,M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 86, 2766-2770(1989)等)
、PCR-SSO(specific sequence oligonucleotide:特異的配列オリゴヌクレオチド)法、PCR-SSO法とドットハイブリダイゼーション法を組み合わせたASO(allele specific oligonucleotide:アレル特異的オリゴヌクレオチド)ハイブリダイゼーション法(Saiki, Nature,
324, 163-166(1986)等)、TaqMan(登録商標、Roche Molecular Systems社)-PCR法(Livak, KJ, Genet Anal,14,143(1999),Morris, T. et al., J. Clin. Microbiol.,34,2933(1996))に代表されるリアルタイムPCR法、デジタルPCR法(例:droplet digital PCR(ddPCR)法、微細孔分配式デジタルPCR法等)などが挙げられる。
【0031】
その他の方法として、サイクリングプローブ法、Invader(登録商標、Third Wave Technologies社)法(Lyamichev V et al., Nat Biotechnol,17,292(1999))、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)を利用した方法(Heller, Academic Press Inc, pp. 245-256(1985)、Cardullo et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8790-8794(1988)、国際公開第99/28500号公報、特開2004-121232号公報など)、DNAチップ又はマイクロアレイを用いた方法(Wang DG et al., Science 280,1077(1998)等)、サザンブロットハイブリダイゼーション法、ドットハイブリダイゼーション法(Southern,E., J. Mol. Biol. 98,
503-517(1975))などが挙げられる。
【0032】
微量な変異DNAを検出するためには、簡便性や感度の点からPCR法を用いた方法が好ましい。また、従来のリアルタイムPCRとは異なり、増幅効率を気にしなくてよく、絶対定量
が可能で、高精度・高感度で処理性能にも優れた次世代PCRであるデジタルPCR(例:ddPCR)が特に好ましい。
【0033】
2.統合失調症の診断用キット
本発明は、統合失調症の発症リスクの評価用キット又は統合失調症の診断用キット(これらを纏めて「本発明のキット」と称することがある。)を提供する。該キットは、上記1.の本発明の試験方法又は本発明の診断方法を実施するのに適したキットであり、ヒトEP400遺伝子の全コーディング領域のヌクレオチド、好ましくはヒトEP400遺伝子の8414番目(エクソン48の80番目)のシトシンを含む領域を増幅し得るPCRプライマーセットを含
む。そのようなPCRプライマーセットは、EP400遺伝子の8414番目のヌクレオチドを含む領域を特異的に増幅し得る、約15~約30塩基のフォワードプライマー及びリバースプライマーからなるセットである。かかるプライマーは、自体公知の方法により設計することができる。例えば、EP400遺伝子の配列情報に基づき、PCRプライマー設計ツール(例:Primer3等)を用いて設計することができ、具体例として、5’-TCATCAAAATGCAGAAGCAGA-3’(配列番号5)からなるフォワードプライマー、及び5’-TGCTGCTTTTGGAAAACAAA-3’(配列番号6)からなるリバースプライマーからなるプライマーセットを挙げることができるが、これに限定されない。
【0034】
上記のPCRプライマーセットの各プライマーは核酸からなるが、該核酸は一本鎖核酸で
あることが好ましい。上記核酸としては、例えば、DNA、RNA及びRNAとDNAが混合した重合体が挙げられるが、RNAを含む場合には、その塩基配列はDNA配列における「T(チミン)
」を「U(ウラシル)」に読み替えるものとする。上記プライマーは、当業者に周知の任
意の化学合成法により作製することができ、例えば、ヌクレアーゼ等の酵素を用いて作製することもできるし、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベ
ックマン社等)を用いて作製することもできる。これらのプライマーは、構成する核酸にさらに任意の修飾が施されたものでもよい。例えば上記プライマーは、その5'末端又は3'末端に当該プライマーの検出や増幅を容易にするための標識物質(例えば、蛍光分子、色素分子、放射性同位元素、ジゴキシゲニンやビオチン等の有機化合物など)及び/又は付加配列(LAMP法で用いるループプライマー部分等)を含んでいてもよい。上記プライマーは、5'末端でリン酸化又はアミン化されていてもよい。また、上記プライマーは、天然塩基のみを含んでもよいし、修飾塩基を含んでもよい。修飾塩基としては、デオキシイノシン、デオキシウラシル、S化塩基などが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、
上記プライマーは、ホスホロチオエート結合やホスホロアミデート結合などを含む任意の誘導体オリゴヌクレオチドを含むものであってもよいし、ペプチド核酸結合を含むペプチド-核酸(PNA)を含んでいてもよい。
【0035】
これらのプライマーは、乾燥した状態又はアルコール沈澱の状態で、固体として提供することもできるし、水又は適当な緩衝液(例:TE緩衝液等)中に溶解した状態で提供することもできる。
【0036】
本発明のキットは、EP400遺伝子の変異を検出するためのプローブセットを更に含んで
もよい。かかるプローブセットは、(a)EP400遺伝子の8414番目のシトシンがチミンに
変異したものに特異的にハイブリダイズし得るプローブ、及び(b)該位置のヌクレオチドが変異していない(すなわちシトシンのままである)ものに特異的にハイブリダイズし得るプローブを含む。そのようなプローブセットとしては、EP400遺伝子の8414番目のヌ
クレオチドを含む部分ヌクレオチド配列とハイブリダイズする約5~約30塩基、好ましく
は約7~約20塩基の連続したヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドが用いられる
。
【0037】
プローブの配列は、標的配列により適宜設計することができる。例えば、上述のEP400
遺伝子の8414番目のシトシンの変異を検出するための5又は7ヌクレオチドからなる配列としては、表1のボックスで囲まれた配列、及びその配列に相補的な配列が挙げられる。表中、太字のTは変異ヌクレオチドを示し、該変異によりプロリンをコードするコドン(CCG)がロイシン(CTG)に変わる。また、前記プローブの対となる、対応する位置のヌクレオ
チドが正常なものに特異的にハイブリダイズし得るプローブとしては、表2のボックスで囲まれた配列、及びその配列に相補的な配列が挙げられる。従って、一態様において、プローブセットとして、表1に記載のいずれかの配列若しくは該配列に相補的な配列を含む(若しくは、該配列からなる)プローブ、及び表2に記載のいずれかの配列又は該配列に相補的な配列を含む(若しくは、該配列からなる)プローブからなるプローブセットが挙げられるが、該プローブセットはあくまで一例であり、標的配列やその長さ等を考慮して、適宜プローブを設計することができる。
【0038】
【0039】
【0040】
各プローブには標識物質を結合させることができる。該標識物質は、例えば、蛍光色素等が挙げられる。かかる蛍光色素は、種々のものが市販されており、例えば、6-FAM(フ
ルオレセイン)、HEX、TE、Quasar 670、Quasar 570、Quasar 705、Pulsar 650、TET、HEX、VIC、JOE、CAL Fluor Orenge、CAL Fluor Gold、CAL Fluor Red、Texas Red、Cy、Cy5などが挙げられる。正常型プローブに結合される蛍光色素と、変異型プローブに結合される蛍光色素とは、異なるものであることが好ましい。この構成をとることにより、正常な(変異していない)ヌクレオチドを含むEP400遺伝子断片には正常型プローブが、変異し
たヌクレオチドを含むEP400遺伝子断片には変異型プローブがそれぞれハイブリダイズす
ることで、各プローブの蛍光色素に由来する2種類の蛍光が検出される。
【0041】
各プローブは、さらに蛍光物質からの蛍光を消光できるクエンチャーが結合されていることが好ましい。クエンチャーとしては、蛍光色素からの蛍光を消光できるものであれば特に制限されず、蛍光色素であっても非蛍光色素であってもよいが、検出の精度の観点から非蛍光色素が好ましい場合があり得る。具体的なクエンチャーとしては、例えば、6-カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、Eclipse Dark Quencher、Iowa black FQ(IBFQ)、minor groove binder(MGB)、非蛍光クエ
ンチャー(NFQ)などが挙げられる。
【0042】
プローブの構成単位としては、例えば、リボヌクレオチド及びデオキシリボヌクレオチドが挙げられる。前記ヌクレオチド残基は、構成要素として、糖、塩基及びリン酸を含む。リボヌクレオチドは、糖としてリボース残基を有し、塩基として、アデニン(A)、グ
アニン(G)、シトシン(C)及びウラシル(U)(チミン(T)に置き換えることもできる)を有し、デオキシリボヌクレオチド残基は、糖としてデオキシリボース残基を有し、塩基として、アデニン(dA)、グアニン(dG)、シトシン(dC)及びチミン(dT)(ウラシル(dU)に置き換えることもできる)を有する。
【0043】
本発明のキットは、前記のプライマーセットと、必要に応じて、上記の正常型プローブ及び上記の変異型プローブからなるプローブセットとに加えて、上記の本発明の検出方法におけるPCR反応に使用される試薬類、例えば、DNA抽出用試薬、DNAポリメラーゼ、dNTPs、反応緩衝液、PCRの陽性コントロールとなる標的領域を含む核酸等、さらには、容器、
器具、説明書などを含むことができる。また、上記プライマーセット又はプローブセットは、各プライマー又は各プローブを共存状態で保存することにより、反応に悪影響を及ぼさない限り、それらを混合したプローブセット及び/又はプライマーセットとして、キットに含めることができる。
【0044】
3.本発明の統合失調症のモデル哺乳動物及びそれを作製する方法
本発明は、EP400遺伝子に変異を有し、且つヒトの統合失調症の指標となる行動異常を
示す、統合失調症のモデル哺乳動物(以下、「本発明の統合失調症のモデル哺乳動物」ともいう。)を提供する。本発明の統合失調症のモデル哺乳動物は、好ましくは該モデルマウスのヒトEP400遺伝子のエクソン48に相当するヌクレオチド変異しており、特に好まし
くは該モデルマウスの、ヒトEP400遺伝子の8414番目のシトシンに相当するヌクレオチド
はチミンに変異している。
【0045】
本明細書において「ヒトの統合失調症の指標となる行動異常」は、不安行動を包含するが、それに限定されるものではない。本発明の統合失調症のモデル哺乳動物が示す不安行動は、ヒト統合失調症の症状で必ず見られる不安傾向を反映しているものと考えられる。本発明の統合失調症のモデル哺乳動物は、ヒトの統合失調症の特徴に相当する行動異常を示すという点でとりわけ優れている。
【0046】
下述の実施例で示す通り本発明者らは、マウスEP400遺伝子の8144番目のシトシン(ヒ
トEP400遺伝子の8414番目のシトシンに相当する)をチミンに変異させたモデルマウスを
作製した。その変異が該モデルマウスのEP400タンパク質の2175番目のプロリンがロイシ
ンに変異している。
【0047】
実施例で作製された統合失調症のモデルマウスは、中枢神経系の異常兆候であるHind-Limbclasping signを示した。本発明の統合失調症のモデル哺乳動物は、生後すぐにHind-Limbclasping signを示すことはなく、該所見は生後3か月以降に見られる。マウスは生後2か月ほどで妊娠可能となることを考えると、その時期はヒトが統合失調症を発症やすい年齢とほぼ合致している。更に該モデルマウスの行動解析をおこなったところ、不安が亢進しているという所見(オープンフィールド試験における中心滞在時間の短縮、ソーシャルインタラクション試験におけるNo of Stretched Approach(刺激マウスに首を伸ばして存在を確認する行動の回数)の増加が得られた。加えて当該モデルマウスの中枢神経系を組織学的に解析したところ、中枢神経系における神経細胞の形態学的変化(神経軸索径の短縮)が観察された。
【0048】
よって本発明で作製された統合失調症のモデル哺乳動物には、ヒト統合失調症様の行動異常を示す。既に述べたように不安傾向は、ヒトの統合失調症においても必ずといって良い程に見られるものである。更に中枢神経系における神経細胞の神経軸索径の短縮は、ヒト統合失調症において繰り返し示唆されている軸索と髄鞘における微細構造異常を反映している。本発明の統合失調症のモデル哺乳動物は中枢神経系の長期的ではあるが穏和な異常を示し、中枢神経系の異常により死ぬことはない。ヒトの統合失調症においても、中枢神経系の異常そのもので患者が死亡することは殆どなく、統合失調症に伴うセルフケアの欠如による生活習慣病等が寿命に影響すると言われている。そのような点においても本発明の統合失調症のモデル哺乳動物は、ヒトの統合失調症を模倣している可能性が示唆される。
【0049】
また本発明の統合失調症のモデル哺乳動物はヒトの統合失調症に類似した行動異常を示すため、統合失調症の発症メカニズムや、該疾患の症状の進展状況などの研究に用いることもできる。
【0050】
本発明の統合失調症のモデル哺乳動物の元となる動物種としては、ヒト以外の哺乳動物であって、その哺乳動物においてEP400遺伝子に変異を導入すること、好ましくはヒトEP400遺伝子のエクソン48に相当する領域に変異を導入すること、特に好ましくは当該哺乳動物において、ヒトEP400遺伝子の8414番目のシトシンに相当するヌクレオチドに変異を導
入することができる哺乳動物であれば特に制限されないが、例えば、マウス、ラット、ハ
ムスター、モルモットなどのげっ歯類動物、アカゲザル、カニクイザル、ニホンザル、チンパンジーなどの霊長類動物、ウシ、ウマ、イヌ、ネコなどが挙げられる。取り扱いの容易さの観点からは、げっ歯類動物が好ましく、中でもマウスがより好ましい。
【0051】
本発明のモデル哺乳動物の作製方法としては、以下の方法が挙げられる。例えば、CRISPR-Cas9をコードするRNAと、EP400遺伝子を標的とするガイドRNAを受精卵に注入し、非相同末端結合に際して生じる欠失、挿入又は置換、好ましくは置換により、当該哺乳動物のEP400遺伝子に、好ましくは当該哺乳動物の、ヒトEP400遺伝子のエクソン48に相当する領域のヌクレオチドに、特に好ましくは当該哺乳動物の、ヒトEP400遺伝子の8414番目のシ
トシンに相当するヌクレオチドに変異を導入することができる。また、受精卵に、上記RNAに加えて、予め変異を導入したドナーDNAを導入し、該ドナーDNAとゲノムDNAとの間での相同組み換えにより、EP400遺伝子に変異を導入することができる。このようにして得ら
れた受精卵を偽妊娠したメス動物の子宮に移植することにより、当該動物のEP400遺伝子
に変異が導入された、好ましくは当該当物の、ヒトEP400遺伝子のエクソン48に相当する
領域に変異が導入された、特に好ましくは当該動物の、ヒトEP400遺伝子の8414番目のシ
トシンに相当するヌクレオチドに変異が導入された、統合失調症のモデル哺乳動物を得ることができる。あるいは、上記ドナーDNAをES細胞に導入し、該ドナーDNAとゲノムDNAと
の間での相同組み換えにより、EP400遺伝子に上記変異を導入されたES細胞を作製する。
該ES細をマウスの胚盤胞に注入してキメラ動物を作製し、該キメラ動物を野生型動物と交配すること(必要により、さらに子孫同士を交配すること)で、当該動物のヒトEP400遺
伝子に変異が導入された、好ましくは当該動物のヒトEP400遺伝子のエクソン48に相当す
る領域に変異が導入された、特に好ましくは当該動物の、ヒトEP400遺伝子の8414番目の
シトシンに相当するヌクレオチドに変異が導入された統合失調症のモデル哺乳動物が作製される。
【0052】
以上のようにして作製された本発明の統合失調症のモデル哺乳動物は、例えば、統合失調症の治療及び/又は予防薬のスクリーニングに用いることができる。統合失調症の治療及び/又は予防薬のスクリーニングに用いることができる点で、本発明の統合失調症のモデル哺乳動物は非常に有用である。即ち、本発明は、統合失調症の治療又は予防薬のスクリーニング方法であって、
(1)本発明の統合失調症のモデル哺乳動物に被験物質を投与する工程、及び
(2)被験物質を投与しなかった対照群と比較して、ヒトの統合失調症の指標となる行動異常が改善した場合に、該被験物質を統合失調症の治療又は予防薬の候補物質として選別する工程を含む、方法を提供する。
【0053】
工程(1)における統合失調症のモデル哺乳動物への被験物質の投与は、経口的に又は非経口的(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入(例:脳室内投与)、腹腔内投与など)に行うことが可能である。被験物質は、常套手段に従って医薬上許容される担体と混合するなどして、注射剤、懸濁剤、点滴剤等の非経口製剤として製造してもよい。当該非経口製剤に含まれ得る医薬上許容される担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などの注射用の水性液などが挙げられる。
【0054】
非経口的な投与に好適な製剤としては、水性及び非水性の等張な無菌の注射液剤が挙げられ、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性及び非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分及び医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0055】
経口投与される被験物質は、粉剤、錠剤、顆粒剤、被覆錠剤、散剤、若しくはカプセル剤などの固形製剤、又は液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤などの液体製剤として製造してもよい。被験物質は、賦形剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、希釈剤、保存剤、安定化剤、矯味剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って調製することができる。
【0056】
工程(2)において、「被験物質を投与しなかった」には、例えば、被験物質を製剤の形態で投与する場合には、該被験物質以外は同一成分を含む製剤を投与すること、該被験物質とは異なる、統合失調症の治療又は予防効果のないことが既知の物質を含む製剤を投与すること、あるいはこれらの剤のいずれも投与しないことなどが包含される。また、工程(2)で対照として用いる被検物質を投与していないモデル動物としては、同様の方法により作製した別個のモデル動物を使用してもよいし、被験物質の投与前の同一のモデル動物を使用してもよい。工程(2)における比較の結果、ヒトの統合失調症様の指標となる行動異常が改善した場合に、当該被験物質を、統合失調症の治療又は予防薬の候補物質として選別することができる。ヒトの統合失調症の指標となる行動異常としては、それに限定されるものではないが、不安行動等がある。
【0057】
かかる症状の進行の遅延、又は症状の改善の評価は、行動実験(例:オープンフィールド試験、ソーシャルインタラクション試験、Y字迷路試験、新奇物体探索試験等)などの動物を用いた実験に基づき行ってもよく、あるいは、中枢神経の組織学的解析に基づき行ってもよい。
【0058】
上記スクリーニングに用いる被験物質としては、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、海洋生物由来の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質又は粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、天然化合物などが挙げられる。
【0059】
上記被験物質はまた、(1)生物学的ライブラリー、(2)デコンヴォルーションを用いる合成ライブラリー法、(3)「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、及び(4)アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する合成ライブラリー法を
含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多くのアプローチのいずれかを使用して得ることができる。アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、その他の4つのアプロー
チはペプチド、非ペプチドオリゴマー、又は化合物の低分子化合物ライブラリーに適用できる(Lam(1997)Anticancer Drug Des. 12:145-67)。分子ライブラリーの合成方法の
例は、当技術分野において見出され得る(DeWitt et al.(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909-13; Erb et al.(1994)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422-6; Zuckermann et al.(1994)J. Med. Chem. 37:2678-85; Cho et al.(1993)Science 261:1303-5; Carell et al.(1994)Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059; Carell et al.(1994)Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061; Gallop et al.(1994)J. Med. Chem. 37:1233-51)。化合物ライブラリーは、溶液(Houghten(1992)Bio/Techniques 13:412-21を
参照のこと)又はビーズ(Lam(1991)Nature 354:82-4)、チップ(Fodor(1993)Nature 364:555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、及び同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al.(1992)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1865-9)若しくはファージ(Scott and Smith(1990)Science 249:386-90; Devlin(1990)Science 249:404-6; Cwirla et al.(1990)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6378-82; Felici(1991)J. Mol. Biol. 222:301-10; 米国特許出願第2002103360号)として作製され得る。
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定
されるものではない。
【実施例0061】
実施例1:統合失調症多発の家系における遺伝子変異の解析
【0062】
実施例1:統合失調症患者の多発家系における遺伝子変異の解析
1.本発明で解析を行った統合失調症の家系
本発明は我が国で最大級の統合失調症多発家系の発見に端を発する。その患者の家系では多数の統合失調症患者が存在しており、その家系図を
図1aに示す。
図1aにおいて四
角のシンボルは男性であり、丸のシンボルは女性であり、黒色のシンボルは統合失調症と診断された被験者(
図1aのI-3、I-4、I-9、II-2、II-3、II-5、II-10、II-12、II-13、II-17、III-2、III-3)である。
【0063】
上記被験者(
図1aのI-3、I-4、I-9、II-2、II-3、II-5、II-10、II-12、II-13、II-17、III-2、III-3)は統合失調症主要症状である幻覚、妄想、思考障害等の陽性症状、及
びに無為、自閉、意欲の喪失等の陰性症状を示し、精神科疾患の国際的診断基準 (ICD-10並びにDSM-5)により統合失調症であると診断された。
【0064】
2.DNA抽出のための試料
全エキソームシークエンシング(WES)とサンガーシ-クエンシングのために、この家系の患者7名(I-9、II-3、II-5、II-12、II-17、III-2、III-3)、及び非罹患者3名(I-13、II-11、II-20)を対象として解析した。各被験者から全10mLの末梢血を採取し、QIAamp DNA Midiキット(Qiagen社)を用いて血液リンパ球からゲノムDNAを抽出した。
【0065】
3.全エキソームシークエンシング
この家系の10人の被験者(I-9、II-3、II-5、II-12、II-17、III-2、III-3、I-13、II-11、II-20)について、SureSelect Exome Target Enrichment System v5キット(Agilent Technologies社)を用いてライブラリ調製を行い、HiSeq 2500(Illumina 社)を用いて、WESを行った。
【0066】
4.病因となる変異の選択
WESのデータからこの家系の病因となる置換を検出するために、下記の基準に該当する
有害なバリアントを病因の候補遺伝子とした。
(1)UCSCゲノムブラウザーからダウンロードしたGENCODEベーシックバージョン19にお
いて、ストップゲイン変異、ストップロス変異、非表現突然変異、又はスプライス部位変異をもたらすバリアント
(2)以下のデータベースにおいてバリアント遺伝子座でのオルタナティブアレルの頻度が0.1%以下であるもの
・2014年10月に発表された全人口に関する1000ゲノムプロジェクトのデータ
・NIH国立心肺血液研究所の6515のエキソームデータ(evs.gs.washington.edu/EVS)
・エキソーム・アグリゲーション・コンソーシアム(ExAC)のエキソームデータ
・ヒトゲノミック・バリエーションデータベース(HGVD)の日本で採取された1208個体のエキソームデータ
・2049人の健康な被験者の全ゲノムシークエンシングから採取されたSNVアレル頻度(2KJPN)(ijgvd.megabank.tohoku.ac.jp)
(3)UCSCセグメント重複領域に含まれない変異
(4)機能アノテーションプログラム(Polyhen_2, SIFT, PROVEN又はMutation Taster)により有害であると規定された稀なSNV
この基準で選択した後に、候補として1個の遺伝子座が残った。
【0067】
5.サンガーシークエンシング
10人の被験者(I-9、II-3、II-5、II-12、II-17、III-2、III-3、I-13、II-11、II-20)において、1個の候補遺伝子座のサンガーシークエンシングを行った。全てのプライ
マーはPrimer3を用いて設計した 。配列番号5: forward、5’-TCATCAAAATGCAGAAGCAGA-3で示されるヌクレオチド配列からなるプライマーと、配列番号6: reverse、5’-TGCTGCTTTTGGAAAACAAA-3’で示されるヌクレオチド配列からなるプライマーは、ここで設計され
たプライマーの1つである。KOD FX Neoポリメラーゼ(東洋紡社)を用いて20μL反応液
中のPCRで、ゲノムDNA(5ng)を増幅した。BigDye Terminator Cycle Sequencingキットv3.1(Applied Biosystems社)を用いて、メーカーの説明書に従い、シークエンス反応を
行った。CleanSEQ(Agen Court社)を用いて洗浄した後に、産物をABI Genetic Analyzer
3130(Applied Biosystems社)上で分離し、4Peaksソフトウェア(nucleobytes.com/4peaks/)を用いて、電気流動図を視覚的に評価した(
図1b)。
【0068】
6.病因となる変異の同定
サンガーシークエンシングの結果、疾患を呈する被験者7人全員から、同じ変異(EP400, chr12:132064747; C>T)を見出した。一方、疾患を呈しない被験者3人は、全員とも
この変異を認めなかった。そのためこの家系の統合失調症を有する被験者におけるEP400
の機能異常が病因の背後にある可能性が高いと考えられた。この塩基配列の変異はEP400
のアミノ酸残基の変異(Pro2805Leu)を引き起こすために、統合失調症の病因に関連していることが強く示唆された。
【0069】
7.EP400変異(Pro2805Leu)のin silico機能評価
同定されたヒトEP400タンパク質の変異部位とその近傍のアミノ酸配列を他の哺乳動物
、鳥類及び魚類の対応するアミノ酸配列と比較した。その結果、当該変異部位は哺乳動物の間で高度に保存されるdisorder領域内に位置していた(
図1c)。
そこで、EP400タンパク質の変異による機能変化の可能性を調べるべく、変異の重要性
を各種予測プログラム(SIFT、PROVEN、Mutation Taster、M-CAP)を用いてスコア化した。その結果、すべてのプログラムにおいて、当該変異は「damaging」(SIFT score=0.007;
deleterious, PROVEN score=?2.67; deleterious, MutationTaster score=0.994; disease-causing, M-CAP score=0.254; damaging) であると評価された。また、Predictor of Natural Disordered Regions (PONDR) プログラムを用いてdisorder領域を予測したとこ
ろ、PONDR中のCaN-XTアルゴリズムは、当該変異によりdisorder領域が延長されると予測
した(
図1d)。
【0070】
実施例2:Ep400ノックアウトマウスの作製とその特性解析
1.CRISPR-Cas9遺伝子編集システムを用いたノックアウトマウスの作製
ヒトEP400遺伝子のマウスオルソログ(Ep400)において、実施例1で同定された家系変異部位に相当するエクソン47中の領域にガイドRNAを設計し、マウスEp400遺伝子の変異を導入した。必要な遺伝子変異を安定的に導入するためにはCRISPR-Cas9がゲノム認識する
際に必要であるPAM配列の遺伝子改変が必要であったために、タンパク質置換を生じない
変異を2つ(c.8130C>G、c.8142C>T)設計し、それぞれをLine 1(5′-CCACCACAGCCCCCACCACCGCAGGCGCAGCCAGGTCCCCTACAGCAACCAGCGCAAGTGCAAGTACAGACTCCACAGCC-3′: 配列番号9)、Line 2(5′-GATGCAGCTGCCACCACAGCCCCCACCACCGCAGGCCCAGCCAGGTCCTCTACAGCAACCAGCGCAAGTGCAAGTACAGACTCCACAGCCCCCACAGCAA-3′: 配列番号10)として1本鎖オリゴヌクレオチドを合成した。
【0071】
ATUM gRNA設計ツール(atum.bio/eCommerce/cas9/input)を用いて、シングルガイドRNAを設計した(5′-CACTTGCGCTGGTTGCTGTG-3′:配列番号11)。1本鎖オリゴヌクレオチ
ド、シングルガイドRNA、crRNA、及びtracrRNA(FASMAC社)を、顕微注入システムを用いて野生型受精卵に注入した。RNAを注入した後に、受精卵を胞胚の段階までインビトロで
培養し、偽妊娠したレシピエントのメスの子宮に移植した。マウスの遺伝子型を確認するためにマウス由来のKOD FXネオポリメラーゼ(東洋紡社)を用いてPCR増幅を行い、配列
解析のために、産物をTベクター(タカラバイオ社)中にクローン化した。PCRのプライマーは、forwardが5′-TGGAGGGTGGCTTATGGTTA-3′(配列番号12)であり、reverseが5′-GTCACTGTGGTGCCTGTGAG-3′(配列番号13)であった。
【0072】
2.変異導入マウスにおける変異導入の確認
図2の上段の電気流動図は、作製された変異導入マウスであるLine 1(Ep400-p.P2715L#1)とLine 2(Ep400-p.P2715L#2)において、Ep400遺伝子のエクソン47において遺伝子
改変の際に必要な、それぞれc.8130C>Gとc.8142C>Tのアミノ酸置換を生じない変異が導入されていることを示している(緑矢印)。また
図2の上段は、c.8144C>T変異の導入によ
りPro2715Leuのアミノ酸置換を有するタンパク質が合成されることを示している(赤矢印)。なお、上記の操作により作製された変異導入マウスは、ホモ接合性のPro2715Leu変異を(Ep400
p.P2715L/ p.P2715L)有する。
【0073】
また
図2の下段のマウスの写真に示されているように、Pro2715Leu変異が導入されたLine1とLine2のマウスは3月齢の時点から、Hind-limb clasping sign(黄矢印)を示した
。Hind-limb clasping signとはげっ歯類が後肢を握りしめる行動である。このHind-limb
clasping signは、小脳、大脳基底核、及び新皮質に障害を有するマウスでしばしば観察され、中枢神経系の異常の兆候を示す。マウスは生後2か月ほどで妊娠可能となることを考慮すると、ヒトでの統合失調症の発症時期と概ね合致している。
【0074】
3.行動試験
6匹の変異導入マウス(Ep400p.P2715L/ p.P2715L)Line 1(Ep400-p.P2715L#1)と6
匹の野生型マウス(Ep400WT)を使用して行動試験(オープンフィールド試験、ソーシャ
ル・インタラクション試験)を行なった。マウスが3月齢の時点で最初の試験を行ない、6月齢の時点で再試験を行った。
【0075】
オープンフィールド試験を行って、不安様行動(anxiety-like behavior)を評価した
結果を
図3に示す。マウスを50cm×50cm×40cmのクリーンボックスの中に置いた。中心60%の範囲を中心範囲と規定した。15分間の休止時間の後、マウスを、外側に向けて周辺範囲に穏やかに置いた。ビデオ・トラッキングをしながら、マウスを10分間観察した。ビデオのデータをBara Baby X、LNSOFT及びイメージJソフトウェア(米国国立衛生研究所)を用いて解析し、中心滞在時間(center time)を計算した。マウスの位置を2秒毎に
2フレームで追跡した。中心滞在時間は、全移動時間に対する中心範囲における移動の比として計算した。
【0076】
図3aに見られるように、3月齢では、変異導入マウス(Ep400-p.P2715L#1)と野生型マウス(Ep400
p.WT)との間で中心滞在時間に有意差は認められなかったが、6月齢の変
異導入マウスにおいては、野生型マウスと比較して中心滞在時間が短くなった。この結果は、変異を導入したマウスはいつまでもゲージ内の探索行動をしており、不安が持続しているという傾向を示している。このように、生後3カ月でははっきりしなかった所見が6カ月で有意差を示すことは、該変異導入マウスがヒト統合失調症の進行性の特徴を再現し得ることを示唆している。
【0077】
社会性を評価するためにソーシャル・インタラクション試験を行った。準備として被験マウスを7日間ケージ中に入れた。その後ビデオでモニターしながら、刺激マウスを被験マウスと同じケージの中に入れた。15分間の刺激時間の後に刺激マウスを除き、ビデオのモニターを中止した。これらの映像をBORISソフトウェア4.1.4を使用して解析した。
【0078】
結果を
図3bに示す。Stretched Approachの数は、後からケージに入れられた刺激マウスに首を伸ばして確認する行動をする行動の回数を示している。3月齢では、変異導入マウスと野生型マウスとの間でStretched Approachの数に有意差は認められなかったが、6月齢では、野生型マウスと比較して、変異導入マウスにおけるStretched Approachの回数が有意に増え、不安傾向の亢進を示している。変異導入マウスで観察された不安傾向の亢進は、ヒトの統合失調症の陽性症状において見られる不安感を模倣していると考えられる。また、生後3カ月でははっきりしなかった所見が6カ月で有意差を示すことは、該変異導入マウスがヒト統合失調症の進行性の特徴を再現し得ることを示唆している。
【0079】
4.マウス中枢神経組織の組織学的解析
新鮮なマウス(3月齢)の脳及び脊髄を10%ホルマリンで72時間固定し、パラフィン包
埋して、5μm間隔で切片化した。脱パラフィン後、組織スライドをヘマトキシリンーエオシン(HE)染色して構造を可視化した。また、脳組織切片について免疫組織化学染色を行い、Ep400と神経細胞マーカーであるMap2の発現を調べた。組織スライドを脱パラフィン
・再水和し、Tris緩衝生理食塩水(TBS)で洗浄した。抗原回復のために、組織切片を20
分間マイクロ波処理した。室温で1時間ブロッキングした後、一次抗体及び二次抗体と室
温で1時間インキュベートした。一次抗体として、ポリクローナル抗EP400(HPA016704、Atlas Antibodies)及びポリクローナル抗MAP2(ab5392、Abcam)を、二次抗体として、ヤギ抗ニワトリIgY H&L Alexa Fluor 488(ab150169、Abcam)及びヤギ抗ウサギIgG H&L Alexa Fluor 555(ab150078、Abcam)を、それぞれ用いた。核はDAPI染色した。BZ-9000
オールインワン蛍光顕微鏡(キーエンス社)を用いて蛍光染色像を撮影した。
【0080】
結果を
図4及び
図5aに示す。HE染色の結果、冠状切片(CS)、矢状切片(SS)及び海馬歯状回(DG)のいずれの脳組織(
図4a)、並びに脊髄組織(
図5a左上)においても、変異導入マウス(Ep400-p.P2715L#1)と野生型マウス(WT)の間に形態学的な差異は認められなかった。免疫蛍光染色の結果、3月齢のマウス脳では、特に神経細胞核におけるEp400の発現が示された(
図4b)。Ep400タンパク質の発現パターンは、変異導入マウスと野生型マウスの間で差はなかった(
図4b)。
【0081】
次に、ミエリン鞘の構造を検出するために、脊髄切片をクリューバー・バレラ(KB)及びトルイジンブルー(TB)で染色した。BZ-9000オールインワン蛍光顕微鏡(キーエンス
社)を使用して、切片を観察し、写真撮影した。
【0082】
2系統の変異導入マウス(Ep400-p.P2715L#1及びEp400-p.P2715L#2)の結果を、それぞ
れ
図5a及び
図6aに示す。KB染色(各図の右上及び中)及びTB染色(各図の下)により、いずれの変異導入マウスでも、ミエリン鞘に形態学的異常はなかったが、野生型マウスと比較して軸索径の減少が認められた。
【0083】
5.透過電子顕微鏡法(TEM)
1 mMのCaCl2と1 mMのMgCl2を含む0.1 Mカコジル酸ナトリウム緩衝液(カコジル酸緩衝
液pH 7.4)中の2%グルタルアルデヒド(ナカライテスク社)で、室温で72時間サンプルを固定化した。サンプルをカコジル酸緩衝液で洗浄し、その後、カコジル酸緩衝液中の1% OsO4(ナカライテスク社)中で4℃で60分間、後固定(post-fix)した。次にそれらをカコジル酸緩衝液で洗浄し、エタノールとアセトンのgraded seriesで脱水し、Quetol651エポキシ樹脂(日新EM社)の中に包埋した。樹脂中に包埋されたサンプルを、ウルトラミクロト-ム(リヒャルト-ユング社)上で、ダイアモンドナイフを使用して切り取り切片とし
た。超薄切片をグリッド上に収集し、酢酸ウラニルとクエン酸鉛により染色した。透過型電子顕微鏡(JEM-1230、日本電子社)の下で80 kVでサンプルを試験した。脊髄白質にお
いてランダムに選択された軸索の軸索径とG比(裸の軸索の径/有髄軸索の径)を、ImageJを使用して測定した(軸索径; n = 100、G比; n = 30)。正規分布データを確認するため
にF検定を適用した。スチューデントt検定とウェルチt検定を比較のために適用した。有
意閾値を0.05に設定した。
【0084】
2系統の変異導入マウス(Ep400-p.P2715L#1及びEp400-p.P2715L#2)の結果を、それぞ
れ
図5b及び
図6bに示す。TEM分析の結果、いずれの変異導入マウスもミエリン鞘の形
態学的異常を示さず、G比も正常であったが、軸索径の有意な減少が確認された。そのよ
うな変化は、ヒト統合失調症において繰り返し示唆されている軸索と髄鞘の微細構造異常を反映している。それから考えても本発明の変異導入マウスは、ヒトの統合失調症患者の幾つかの臨床的及び生物学的な特徴を模倣していると考えられる。
【0085】
実施例3:ヒトEP400遺伝子のレアバリアントと統合失調症との相関解析
統合失調症と相関するEP400のユニークな有害バリアントを識別するため、ターゲット
シーケンスによって識別された23の有害バリアントの蓄積をテストした。P値を推定する
ために、フィッシャーの直接検定を使用した。Bonferroni補正を行い、有意閾値は0.002174であった。
【0086】
23のバリアントのうち、6種はいずれのデータベース(HGVD2.30、4.7KJPN、gnomADexome)にも登録されていない新規なバリアントであり、10種のバリアントは少なくとも1つのデータベースにMAF<0.001で登録された超レアバリアントであり、7種は少なくとも1つの
データベースに0.001<MAF<0.005で登録されたレアバリアントであった。これらのバリア
ントのEP400遺伝子上の位置を
図7に模式的に示した。試験した範囲で有意差はないもの
の、統合失調症患者のみで検出されたEP400バリアントが13種あった。
【0087】
ヒトEP400遺伝子の負荷の違いをテストするために、Efficient and Parallelizable Association Container Toolbox (EPACTS)アルゴリズムを採用して、3つの異なる分析(CMC、Madsen-Browning、及びSKAT-O)を行った。公共データベース(1000ゲノムプロジェク
ト、すべての人口データが2014年10月にリリースされている; NIH NHLBI 6515エクソームデータ(http://evs.gs.washington.edu/EVS/);エクソーム集計コンソーシアム65000エ
クソームデータ;日本の1208人のHGVDエクソームデータ; 2049人の健康な日本人の全ゲノ
ムシーケンスデータにおけるSNVアレル頻度(https://ijgvd.megabank.tohoku.ac.jp))において、マイナーアレル頻度(MAF)が0.005を超える一般的なバリアント及びインハウスコントロールサンプルにおいて0.005を超えるもの、コールレートが90%以下又はジェ
ノタイピングクオリティが99以下のものを除外した。有意閾値を0.05に設定した。
【0088】
統合失調症の参加者は、対照(3.15%(445例中14例))と比較して有害な変異(7.37%(285例中21例))の頻度が高かった。EPACTSアルゴリズムを用いたレアバリアントの相関テストの結果、レアバリアントの蓄積がSKAT-Oアルゴリズムによって確認された。