(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054223
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】位置推定装置
(51)【国際特許分類】
G01C 21/28 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
G01C21/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161289
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】石丸 和寿
(72)【発明者】
【氏名】北原 元貴
【テーマコード(参考)】
2F129
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB02
2F129BB03
2F129BB15
2F129BB20
2F129BB22
2F129BB26
2F129BB33
2F129BB53
2F129GG17
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、車両の位置の推定精度を向上することができる位置推定装置を提供する。
【解決手段】位置推定装置10は、履歴点24を用いて区画線21との相対位置を推定し、相対位置を用いて車両位置を推定する。位置推定装置10は、区画線検出部15によって検出される区画線21の位置情報を自車の運動を考慮して履歴点化する。そして自車位置推定部17は、地図情報、履歴点24およびその履歴点24と地図情報における区画線21の位置情報に基づき、自己位置を推定する。区画線記憶部162に記憶されている履歴点24は過去の情報であるが、より車両100に近接した情報が含まれる。このような区画線記憶部162に記憶されている車両100に近接した履歴点24と、地図情報における区画線21の位置とを用いることで、より高精度に車両100の位置を推定することができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(100)の位置を推定する位置推定装置であって、
前記車両の前方の路面画像から道路の区画線を検出する区画線検出部(15)と、
衛星測位システムを用いて前記車両の位置を示す座標情報を取得する座標情報取得部(172)と、
前記道路の位置情報および前記道路の前記区画線の位置を含む地図情報を取得する地図情報取得部(171)と、
前記座標情報と前記地図情報とを用いて前記車両の地図上の位置を特定する地図位置特定部(174)と、
前記区画線検出部によって検出された前記区画線の情報を定期的に記憶する区画線記憶部(162)と、
前記地図位置特定部によって特定された特定位置、前記地図情報における前記特定位置の前記区画線の位置、および前記区画線記憶部に記憶されている前記区画線の位置を用いて、前記車両の位置を推定する自車位置推定部(17)と、を含む位置推定装置。
【請求項2】
前記車両の走行状態を示す状態量を取得する状態量取得部(161)と、
現在の前記車両の左右方向における前記区画線の前記車両に対する相対位置を前記区画線記憶部から特定する左右位置特定部(163)と、をさらに含み、
前記区画線記憶部は、前記区画線検出部によって検出された前記区画線の情報を、前記区画線を検出したときに前記状態量取得部によって取得された前記状態量と関連付けて定期的に記憶し、
前記自車位置推定部は、前記地図位置特定部によって特定された前記特定位置、および前記地図情報における前記特定位置に対する前記区画線の相対位置と前記左右位置特定部によって特定された前記区画線の相対位置との差を用いて、前記車両の位置を推定する請求項1に記載の位置推定装置。
【請求項3】
前記状態量取得部は、前記車両の走行状態を示す状態量として、少なくとも車速と回転角速度とを取得し、
前記左右位置特定部は、前記車両の車速と回転角速度との時系列の変化と、前記区画線記憶部に記憶されている過去に取得された前記区画線の情報から、現在の前記車両の左右方向における前記区画線の前記車両に対する前記相対位置を特定する請求項2に記載の位置推定装置。
【請求項4】
前記区画線記憶部に記憶される前記区画線の情報を更新する更新部(164)をさらに含む請求項1~3のいずれか1つに記載の位置推定装置。
【請求項5】
前記更新部は、前記区画線記憶部に記憶される前記区画線の情報のうち、前記車両の前後方向の所定範囲外にある前記区画線の情報は削除し、
前記所定範囲の前記前後方向における中心は、前記車両の重心、前記車両の回転中心、および前記車両の後輪車軸の左右方向中心のいずれかである請求項4に記載の位置推定装置。
【請求項6】
前記更新部は、前記区画線記憶部に記憶される前記区画線の情報のうち、前記車両の前後方向の所定範囲外の前記区画線の情報を削除し、
前記所定範囲のうち前記車両の後方の範囲は、前記車両の前方の範囲の80%以上である請求項4に記載の位置推定装置。
【請求項7】
前記自車位置推定部は、前記区画線記憶部に記憶されている前記区画線の記憶情報の正確度合いが大きいほど前記記憶情報に重みを付けて前記車両の位置を推定し、
前記正確度合いは、
前記区画線検出部の前回の検出時と今回の検出時の検出間で、道路勾配の変化の大きさが大きくなると、小さくなり、
前記検出間で前記車両の姿勢の変化の大きさが大きくなると、小さくなり、
前記記憶情報の記憶時間が長くなると、小さくなるように設定されている請求項1~6のいずれか1つに記載の位置推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、車両の位置を推定する位置推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の自己位置を推定する自己位置推定装置が開示されている。特許文献1に記載の自己位置推定装置は、パターン光を自車前方に投光する投光器を備え、カメラによって撮像された路面上のパターン光の位置および時間変化を用いて、車両の移動量を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の特許文献1に記載の自己位置推定装置では、投光器が必要である。したがって投光器を設置する設置スペースが必要となるという問題がある。また投光器が必要であるので、部品点数が増加するという問題もある。
【0005】
そこで、開示される目的は前述の問題点を鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、車両の位置の推定精度を向上することができる位置推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は前述の目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0007】
ここに開示された自己位置推定装置は、車両(100)の位置を推定する位置推定装置であって、車両の前方の路面画像から道路の区画線を検出する区画線検出部(15)と、衛星測位システムを用いて車両の位置を示す座標情報を取得する座標情報取得部(172)と、道路の位置情報および道路の区画線の位置を含む地図情報を取得する地図情報取得部(171)と、座標情報と地図情報とを用いて車両の地図上の位置を特定する地図位置特定部(174)と、区画線検出部によって検出された区画線の情報を定期的に記憶する区画線記憶部(162)と、地図位置特定部によって特定された特定位置、地図情報における特定位置の区画線の位置、および区画線記憶部に記憶されている区画線の位置を用いて、車両の位置を推定する自車位置推定部(17)と、を含む位置推定装置である。
【0008】
このような位置推定装置に従えば、区画線検出部が検出した車両の前方の区画線は、車両の姿勢および道路の傾斜によって位置が変化する。したがって車両の前方の区画線を用いて車両の位置を特定すると、誤差が発生するおそれがある。そこで区画線記憶部に記憶されている区画線の位置を用いて車両の位置を推定する。区画線記憶部に記憶されている区画線の位置は過去の情報であるが、より車両に近接した情報が含まれる。このような区画線記憶部に記憶されている車両に近接した区画線の位置と、地図情報における区画線の位置とを用いることで、より高精度に車両の位置を推定することができる。これによって簡単な構成で車両の位置の推定精度を向上することができる。
【0009】
なお、前述の各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図5】履歴点24の生成のための判断処理を説明する図。
【
図7】履歴点24の生成処理を示すフローチャート。
【
図11】横誤差の変化のさらに他の例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
本開示の第1実施形態に関して、
図1~
図12を用いて説明する。位置推定装置10は、車両100に搭載され、自己位置を推定する。位置推定装置10は、例えば、ナビゲーションシステムが設けられた車両100、あるいは自動運転機能を備える車両100に搭載されている。位置推定装置10は、車両100が実際に走行する中で、地図上のどの位置、つまりどの道路のどの車線を走行しているかを推定する装置である。位置推定装置10は、
図1に示すように、撮像部11、運動計測部12、地図情報DB13、自車位置計測部14、区画線検出部15、履歴点生成部16および自車位置推定部17を含んで構成される。
【0012】
運動計測部12は、車両100の走行状態を示す状態量を取得する。車両100の走行状態を示す状態量は、たとえば車速、加速度および回転角速度であるヨーレートである。運動計測部12は、たとえば車速センサ、加速度センサおよびヨーレートセンサによって実現される。運動計測部12は、取得した状態量を区画線検出部15、履歴点生成部16および自車位置推定部17に与える。
【0013】
撮像部11は、車両100前方を所定の画角で撮像する。撮像部11は、車両100前方の路面画像を撮像する。撮像部11は、例えばフロントガラスの車室内側の上端部等に配置されている。撮像部11は、撮像した画像の画像フレームを生成し、生成した画像フレームを区画線検出部15に与える。
【0014】
区画線検出部15は、撮像部11が与えられた画像フレームに対して認識処理を行う。区画線検出部15は、撮像した画像の特徴量ベクトルに基づき、物体の種別を識別する。区画線検出部15は、車両100の前方の路面画像から道路の区画線21を検出する。区画線21は、
図3に示すように、道路の構造の保全や交通の流れを適切に誘導する目的で設置されている。区画線21は、道路中央部の白色の破線である車道中央線、道路の外側に設けられる白線である車道外側線などであり、道路交通法によって定められている。
【0015】
区画線検出部15は、色、輝度、色や輝度に関するコントラスト等を含む画像情報に基づいて、路面画像から背景と区画線21とを分離して抽出する。区画線検出部15は、検出した区画線21を複数の座標データとして抽出し、抽出した座標データを区画線データとして履歴点生成部16に与える。また区画線検出部15は、区画線データと共に、抽出した時点における状態量も合わせて履歴点生成部16に与える。換言すると、区画線データと状態量とが関連付けられて、履歴点生成部16に与えられる。
【0016】
履歴点生成部16は、区画線検出部15から与えられる区画線データと、運動計測部12から与えられる状態量を用いて、区画線21の位置を示す白線認識点22を生成する。白線認識点22は、自車に対する区画線21の位置示す相対位置情報である。白線認識点22は、
図3に示すように、路面画像の区画線21の上に重複するような点である。白線認識点22は、現在検出した瞬時点23と過去に検出した履歴点24とを含む。路面画像は、車両100の前方を撮像するので、
図3で示す実線の長方形枠内の実線の丸印が、現在検出した瞬時点23になる。また
図3で示す破線の長方形枠内の破線の丸印が、過去に検出した履歴点24になる。履歴点生成部16の具体的な処理については、後述する。
【0017】
自車位置計測部14は、衛星測位システムを用いて車両100の位置を示す座標情報を検出する。自車位置計測部14は、具体的にはGNSS(Global Navigation Satellite System)を構成する測位衛星から送信される航法信号を受信し、現在位置を逐次検出する。現在位置は、緯度と経度と含まれる座標情報によって示される。自車位置計測部14は、検出した座標情報を自車位置推定部17に与える。
【0018】
地図情報DB13は、地図データを記憶している不揮発性メモリである。地図データは、道路の位置情報および道路の区画線21の情報を含む。具体的には、道路の位置情報として、道路構造、および道路沿いに配置されている地物についての位置座標等が含まれる。道路の位置情報は、例えば、道路の形状データや、レーンデータ、地物データ等を備える。道路の形状データには、複数の道路が交差、合流、分岐するノードに関するノードデータと、その地点間を結ぶリンクに関するリンクデータが含まれる。
【0019】
リンクデータには、道路端の位置座標を示す道路端情報や、道路の幅員などを示すデータが含まれる。またリンクデータには、自動車専用道路であるか、一般道路であるかといった、道路種別を示すデータも含まれる。
【0020】
レーンデータには、レーン数や、レーンごとの区画線21の位置情報、レーンごとの進行方向、レーンレベルでの分岐/合流地点を示すデータが含まれる。レーンデータには、区画線21が実線、破線、ボッツドッツのいずれのパターンによって実現されているかを示す情報が含まれる。区画線21および道路端の位置情報は、区画線21および道路端が形成されている地点の座標群として記憶されている。
【0021】
自車位置推定部17は、車両100の現在位置を推定する。自車位置推定部17は、プロセッサ、RAM、ストレージ、通信インターフェース、及びこれらを接続するバス等を備えたコンピュータを主体として構成されている。プロセッサは、RAMと結合された演算処理のためのハードウェアである。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)等の演算コアを少なくとも一つ含む構成である。プロセッサは、RAMへのアクセスにより、種々の処理を実行する。ストレージは、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含む構成である。ストレージには、プロセッサによって実行されるプログラムが格納されている。通信インターフェースは、車両内ネットワークを介して他の装置と通信するための回路である。通信インターフェースは、アナログ回路素子やICなどを用いて実現されればよい。自車位置推定部17の詳細については、後述する。
【0022】
次に、履歴点生成部16に関してさらに説明する。履歴点生成部16は、
図2に示すように、機能ブロックとして状態量取得部161、区画線記憶部162、左右位置特定部163および更新部164を有する。
【0023】
状態量取得部161は、運動計測部12から車両100の走行状態を示す状態量を取得する。区画線記憶部162は、区画線検出部15によって検出された区画線21の情報を、区画線21を検出したときに状態量取得部161によって取得された状態量と関連付けて定期的に記憶する。
図3に示すように、区画線検出部15によって検出された区画線21の情報を、複数の点座標である履歴点24として記憶する。
【0024】
更新部164は、区画線記憶部162に記憶される区画線21の情報を最新の情報に定期的に更新する。更新部164は、区画線記憶部162に記憶される区画線21の情報の内、車両100の前後方向の所定範囲外の位置ある区画線21の情報を削除する。区画線記憶部162の容量を低減するためである。所定範囲の前後方向における中心は、たとえば車両100の重心、車両100の回転中心、および車両100の後輪車軸の左右方向中心のいずれかである。本実施形態では、
図3に示すように、車両100の重心を所定範囲の前後方向の中心としている。所定範囲のうち車両100の前方の範囲と後方の範囲とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。車両100の前方の範囲は、車両100の前方端部からの前方に延びる範囲である。車両100の後方の範囲は、車両100の後方端部からの後方に延びる範囲である。所定範囲のうち車両100の後方の範囲は、たとえば車両100の前方の範囲の80%以上に設定される。
【0025】
また更新部164は、区画線検出部15によって検出された区画線21の情報と、区画線記憶部162に記憶されている過去の区画線21の情報とを定期的に比較する。そして更新部164は、区画線検出部15によって検出された区画線21の位置の所定範囲内に、区画線記憶部162に記憶される区画線21の位置がある場合は、区画線検出部15によって検出された区画線21の位置に更新する。換言すると、新しく検出した区画線21の位置、すなわち瞬時点23の近くに古い区画線21の位置、すなわち履歴点24があると、古い区画線21を示す履歴点24を削除して、瞬時点23を新たな履歴点24として記憶する。車両100が走行して位置が変わるので、最新の区画線21の位置を正しい情報とするためである。
【0026】
具体的には、
図4に示すように、時刻tにて区画線検出部15によって検出された瞬時点23は区画線記憶部162に状態量に関連付けて記憶される。そしてΔt時間が経過後の時刻t+Δtになると、車両100は走行しているの時刻tとは自車位置が異なる。区画線検出部15は、定期的に区画線21を検出している。そして時刻t+Δtにて区画線検出部15によって検出された瞬時点23は、区画線記憶部162に状態量に関連付けて記憶される。
図4では、時刻t+Δtのときの、実線の長方形枠内の実線の丸印が、時刻t+Δtにて検出した瞬時点23になる。
【0027】
時刻t+Δtにて検出した瞬時点23は、経過時間Δtだけ車両100が走行しているので、座標変換する必要がある。具体的には、経過時間Δtの間、車両100が移動した距離は、次式(1)、(2)で表すことができる。
【0028】
【0029】
【数2】
そして、今回の座標系にするためヨー角でアフィン変換し今回座標系(x’’、y’’)で履歴点24を生成すると、次式(5)、(6)で表すことができる。
【0030】
【数3】
このとき、更新部164は、区画線検出部15によって検出された区画線21の位置、すなわち各瞬時点23の所定範囲内に、区画線記憶部162に記憶されている履歴点24がある場合は、区画線検出部15によって検出された瞬時点23の位置に更新する。
【0031】
具体的には、
図5を用いて説明する。
図5では、実線の長方形枠内の実線の丸印が、今回検出した瞬時点23であり、破線の長方形枠内の破線の丸印が、過去に検出した履歴点24である。今回検出した瞬時点23の近くに過去に検出された履歴点24がある場合は、履歴点24を削除して瞬時点23を残すように処理する。たとえば、
図5で示すように、履歴点24を囲む仮想円の中に瞬時点23がある場合は、履歴点24を削除する。仮想円の直径は、たとえば30cmである。この結果、判定後のような白線認識点22が区画線記憶部162に残ることになる。そして、
図6に示すような白線認識点22となる。
図6は、
図4における時刻t+Δtにおいて区画線記憶部162に記憶されている履歴点24である。
【0032】
左右位置特定部163は、現在の車両100の左右方向における区画線21の車両100に対する相対位置を区画線記憶部162から特定する。左右位置特定部163は、車両100の車速とヨーレートとの時系列の変化を用いて、区画線記憶部162に記憶されている過去に取得された区画線21の情報から、現在の車両100の左右方向における区画線21の車両100に対する相対位置を特定する。
【0033】
具体的には、
図4の時刻tにおける車両100の前方の履歴点24だけであると、現在の車両100の左右方向の履歴点24がないので、高精度に区画線21との相対位置を特定すること困難である。そこで
図6に示すように、区画線記憶部162に記憶されている履歴点24は、車両100の走行を考慮した履歴点24であるので、現在の車両100の左右方向における区画線21の位置を高精度に特定することができる。
図6では、車両100の中心から左側の履歴点24までの距離、および右側の履歴点24までの距離を特定する。
【0034】
次に、
図7のフローチャートを用いて履歴点生成部16の処理に関して説明する。
図7に示す処理は、短時間に繰り返し実行される。現在時刻は、t+Δtとする。
【0035】
ステップS1では、現在時刻における瞬時データを取得し、ステップS2に移る。瞬時データは、区画線検出部15から与えられた現在時刻の区画線21の検出データである。ステップS2では、現在時刻までの経過時間Δtにおける車両100の挙動を計算し、ステップS3に移る。したがってステップS3では、現在時刻tから経過時間Δtだけ遡った過去から現在時刻までの車両100の挙動を計算する。
図4に示すように、経過時間Δt前の位置と現在時刻tの位置との差を車速およびヨーレートから算出する。
【0036】
ステップS3では、瞬時データから瞬時点23を生成し、ステップS4に移る。瞬時点23は、瞬時データから生成される現在時刻tの白線認識点22である。ステップS4では、
図5を用いて説明したように、瞬時点23毎に、瞬時点23の近くに履歴点24があるか否かを判断し、近くに履歴点24がある場合は、ステップS5に移り、近くに履歴点24がない場合は、ステップS6に移る。ステップS4の処理は、各瞬時点23で実施される。
【0037】
ステップS5では、瞬時点23の近くに履歴点24がないので、区画線記憶部162が瞬時点23を履歴点24として追加して記憶し、本フローを終了する。ステップS6では、瞬時点23の近くに履歴点24があるので、区画線記憶部162に記憶されている履歴点24を削除し、瞬時点23を新たな履歴点24として追加し、本フローを終了する。
【0038】
次に、自車位置推定部17に関してさらに説明する。自車位置推定部17は、
図8に示すように、機能ブロックとして地図情報取得部171、座標情報取得部172、自己位置推定部173および地図位置特定部174を有する。
【0039】
座標情報取得部172は、自車位置計測部14が計測した車両100の位置を示す座標情報を取得する。地図情報取得部171は、地図情報DB13から、道路の位置情報および道路の区画線21の情報を含む地図情報を取得する。地図位置特定部174は、座標情報と地図情報とを用いて車両100の地図上の位置を特定する。車両100の地図上の位置は、車両100が走行している走行レーンも特定する。たとえば2本以上のレーンがある多レーン道路の場合、どの走行レーンを走行しているかは、座標情報と地図情報とによって特定することができる。
【0040】
自己位置推定部173は、さらに精度を向上するため、地図位置特定部174によって特定された特定位置、地図情報における特定位置の区画線21の位置、および区画線記憶部162に記憶されている区画線21の位置を用いて車両100の位置を推定する。具体的には、自車位置推定部17は、地図位置特定部174によって特定された特定位置、および地図情報における特定位置に対する区画線21の相対位置と左右位置特定部163によって特定された区画線21の相対位置との差を用いて、車両100の位置を推定する。
【0041】
これによって自車位置推定部17は、車両100が走行している走行レーン内での自車位置を推定する。左右位置特定部163によって、走行レーンの左側の区画線21との距離と右側の区画線21との距離に基づいて、走行レーンの中心から左右方向へのオフセット量を算出する。左右位置特定部163で特定されたレーン中心からのオフセット量を用いて、走行レーンにおける車両100の横位置を特定する。
【0042】
自車位置推定部17は、区画線記憶部162に記憶されている区画線21の記憶情報の正確度合いが大きいほど記憶情報を重要視して、正確度の大きい記憶情報に重みを付けて車両100の位置を推定する。正確度合いは、種々の要因によって変動する。区画線検出部15の前回の検出時と今回の検出時との検出間に、道路勾配の変化の大きさが大きくなると、正確度合いは小さくなるように設定される。また検出間で車両100の姿勢の変化の大きさが大きくなると、正確度合いは小さくなるように設定される。さらに記憶情報の記憶時間が長くなると、正確度合いは小さくなるように設定される。このような正確度合いによって、位置推定における履歴点24の重要性を判断する。
【0043】
次に
図9~
図12を用いて、履歴点24を用いた実施例と履歴点24を用いない比較例と実験結果に関して説明する。
図9~
図11では、横位置は時間を示し、縦軸は真値からの横位置の誤差を示している。誤差がないときは、0となる。誤差は、適正範囲内、たとえば25cm以内が好ましい。また
図9~
図12では、時刻t01までは直進しており、時刻t01にてカーブに突入し、その後はカーブを走行している。
【0044】
比較例は、履歴点24のない、いわゆる前方の白線認識点22を用いて区画線21との相対位置を推定している。白線認識点22の範囲は、車両100の前方の20mから10mの間である。実施例は、前述のように履歴点24を用いて区画線21との相対位置を推定している。履歴点24の範囲は、車両100の前方12mから車両100の後方10mまでである。
図9に示すように、比較例では、カーブを走行する前は、誤差は適正範囲内に収まっているが、カーブに突入後は横誤差が大きり、適正範囲を超えている時間が長い。これに対して、実施例では比較例よりも誤差が小さくなっており、適正範囲を超えている時間もわずかである。したがって履歴点24を用いた位置推定の精度が高いことがわかる。
【0045】
次に、
図10では履歴点24の後方の範囲を変えた場合の実験結果を示している。
図10に示す実施例では、履歴点24の範囲を車両100の前方の範囲は12mで固定し、車両100の後方をマイナスで表し、-10m、-12m、-15m、-5m、0m、3mと後方の範囲を変えた結果を示している。この結果によると履歴点24の範囲によって誤差が異なるので、最適な履歴点24の範囲に設定することが好ましい。具体的には、車両100の後方の範囲を前方の範囲の80%以上である-10m、-12m、-15mの範囲まで含めると、適正範囲内に収まる時間が長いことがわかる。したがって車両100の後方は、前方の範囲の80%以上200%以下などのある程度の距離に渡る範囲の履歴点24が必要なことがわかる。
【0046】
さらに、
図11では履歴点24の前方の範囲を変えた場合の実験結果を示している。
図11に示す実施例では、履歴点24の範囲を車両100の後方は10mで固定し、車両100の前方を、10m、12m、15m、20mと変えた結果を示している。この結果によると後方と同様に、前方も履歴点24の範囲によって誤差が異なるので、最適な履歴点24の範囲に設定することが好ましい。具体的には、適正範囲に含まれる時間で評価すると、車両100の前方10mが最も好ましく、次に、12mが好ましいことがわかる。したがって車両100の前方も、比較的近い距離に渡る範囲の履歴点24が必要なことがわかる。
【0047】
次に、
図12をヨーレートとの関係に関して説明する。
図12では横位置は時間を示し、縦軸は真値からのヨー角の誤差を示している。また
図12に示す実施例では、履歴点24の範囲を12m~-10m、12m~-12m、12m~-15m、12m~-5m、12m~0m、12m~3m、10m~-10m、10m~-15mと変えた結果を示している。カーブに入る時刻t01までは、比較例と実施例との差は小さく、カーブに入ると比較例の誤差が少ないときと、実施例の誤差が少ないときとが混在する。これはヨー角の誤差に関しては、車両100の前方の白線認識点22の有効性が高いためである。
【0048】
以上説明したように本実施形態の位置推定装置10は、履歴点24を用いて区画線21との相対位置を推定し、相対位置を用いて車両位置を推定する。換言すると、位置推定装置10は、区画線検出部15によって検出される区画線21の位置情報を自車の運動を考慮して履歴点化する。そして自車位置推定部17は、地図情報、履歴点24およびその履歴点24と地図情報における区画線21の位置情報に基づき、自己位置を推定する。区画線検出部15が検出した車両100の前方の区画線21は、車両100の姿勢および道路の傾斜によって位置が変化する。したがって車両100の前方の区画線21を用いて車両100の位置を特定すると、誤差が発生するおそれがある。そこで区画線記憶部162に記憶されている区画線21の位置である履歴点24を用いて車両100の位置を推定する。区画線記憶部162に記憶されている履歴点24は過去の情報であるが、より車両100に近接した情報が含まれる。このような区画線記憶部162に記憶されている車両100に近接した履歴点24と、地図情報における区画線21の位置とを用いることで、より高精度に車両100の位置を推定することができる。これによって簡単な構成で車両100の位置の推定精度を向上することができる。
【0049】
また本実施形態では、現在の車両100の左右方向における区画線21の車両100に対する相対位置を区画線記憶部162から特定する左右位置特定部163をさらに含む。左右位置特定部163は、区画線記憶部162に記憶されている履歴点24を用いて、左右位置を特定する。これによって高精度に車両100の走行レーンにおける位置を特定することができる。
【0050】
換言すると、車両100の横位置差の計算のため、瞬時で認識した白線認識点22の履歴を自車運動にもとづいて作成し、履歴結果により自己位置推定の横位置を観測する。自車から離れたところで白線を認識すると誤差が大きくなるため、できるだけ自車から近いところで白線認識点22を取得し、精度を向上できるレベルの白線の認識点数を確保する。このような白線認識の履歴点24を用いることで、急カーブだけでなくゆるいカーブなどでも横位置誤差を低減することができる。
【0051】
さらに本実施形態では、状態量取得部161は、車両100の走行状態を示す状態量として、少なくとも車速と回転角速度とを取得する。そして左右位置特定部163は、車両100の車速と回転角速度との時系列の変化を用いて、区画線記憶部162に記憶されている過去に取得された区画線21の情報から、現在の車両100の左右方向における区画線21の車両100に対する相対位置を特定する。換言すると、運動計測部12から得られる車速と、ヨーレートセンサまたはステアリングセンサ少なくともいずれか一方から得られるヨー角とを用いて、並進と回転を時系列で補正して、自車から見た区画線21の相対位置を計算する。車速センサおよびヨーレートセンサは精度が高く、履歴点化に用いても精度が確保することができる。
【0052】
また本実施形態では、更新部164は、区画線検出部15によって検出された区画線21の情報と、区画線記憶部162に記憶されている過去の区画線21の情報とを定期的に比較する。そして更新部164は、区画線検出部15によって検出された区画線21の位置の所定範囲内に、区画線記憶部162に記憶される区画線21の位置がある場合は、区画線検出部15によって検出された区画線21の位置に更新する。換言すると、更新部164は、履歴点24の周辺に現在時刻の認識点が存在するか探索し、存在する場合に履歴点24を削除する。現在取得した白線認識点22は、履歴化された点より誤差の累積がないので、高精度化につながる。
【0053】
さらに本実施形態では、更新部164は、区画線記憶部162に記憶される区画線21の情報を、車両100の前後方向の所定範囲外に区画線21の位置ある区画線21の情報は削除する。そして所定範囲の前後方向における中心は、車両100の重心、車両100の回転中心、および車両100の後輪車軸の左右方向中心のいずれかである。車両100前方だけでは、車両100の向きを推定しづらくなるため、前述の所定範囲で設定すると向きの精度向上にも繋がる。
【0054】
また本実施形態では、自車位置推定部17は、区画線記憶部162に記憶されている区画線21の記憶情報の正確度合い大きいほど記憶情報を重要視して、車両100の位置を推定する。そして正確度合いは、区画線検出部15の前回の検出時と今回の検出時の検出間で、道路勾配の変化の大きさが大きくなると、小さくなるように設定される。また正確度合いは、検出間で車両100の姿勢の変化の大きさが大きくなると、小さくなるように設定される。さらに正確度合いは、記憶情報の記憶時間が長くなると、小さくなるように設定されている。換言すると、履歴点24は、道路勾配の変化や車両姿勢の変化が大きいときの点、経過時間の長い履歴点24ほど重要性の重みを軽くして推定する。これによって正しい位置にありそうな認識点および履歴点24を重視することで、より高精度化を実現することができる。
【0055】
(その他の実施形態)
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は前述した実施形態に何ら制限されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0056】
前述の実施形態の構造は、あくまで例示であって、本開示の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本開示の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0057】
前述の第1実施形態では、検出された区画線21は、履歴点24として区画線記憶部162に記憶されるが、履歴点24に限るものではない。履歴点24のような座標群でなく、線形近似曲線など他のデータ形式によって保存してもよい。
【0058】
前述の第1実施形態では、左右位置特定部163によって車両100に対する区画線21の位置を特定しているが、左右位置特定部163を用いない構成であってもよい。瞬時点23よりも車両100に近い履歴点24を用いることで、位置推定精度を向上することができる。したがって区画線記憶部162に記憶されている区画線21の位置が真横の位置でなくても、区画線検出部15が検出した瞬時点23よりも近い履歴点24であれば、瞬時点23よりも車両100に近いので区画線21の車両100に対する相対位置の精度が向上している。このような履歴点24と地図情報DB13に記憶される区画線21の位置を比較して、車両100の現在位置を補正することで推定精度を向上することができる。
【0059】
前述の第1実施形態では、更新部164によって区画線記憶部162に記憶される情報を更新しているが、更新部164を用いない構成であってもよい。瞬時点23を随時、区画線記憶部162に履歴点24として追加記憶して、車両100に近い複数の履歴点24から車両100の位置を推定しても、瞬時点23だけを用いる比較例よりも高精度に位置を推定することができる。
【0060】
前述の第1実施形態において、履歴点生成部16および自車位置推定部17によって実現されていた機能は、前述のものとは異なるハードウェアおよびソフトウェア、またはこれらの組み合わせによって実現してもよい。履歴点生成部16および自車位置推定部17は、たとえば他の制御装置と通信し、他の制御装置が処理の一部または全部を実行してもよい。履歴点生成部16および自車位置推定部17が電子回路によって実現される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、またはアナログ回路によって実現することができる。
【符号の説明】
【0061】
10…位置推定装置 11…撮像部 12…運動計測部 13…地図情報DB
14…自車位置計測部 15…区画線検出部 16…履歴点生成部 17…自車位置推定部 21…区画線 22…白線認識点 23…瞬時点 24…履歴点 100…車両
161…状態量取得部 162…区画線記憶部 163…左右位置特定部
164…更新部 171…地図情報取得部 172…座標情報取得部
173…自己位置推定部 174…地図位置特定部