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特開2022-54237撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法
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  • 特開-撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法 図1
  • 特開-撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054237
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20220330BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20220330BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220330BHJP
   C09D 7/48 20180101ALI20220330BHJP
   C09D 4/00 20060101ALI20220330BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220330BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220330BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20220330BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220330BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220330BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20220330BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20220330BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20220330BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
C08J9/28 CEY
C09K3/18 101
C09D7/20
C09D7/48
C09D4/00
C09D5/00 Z
C08J5/18
B32B5/18 101
B32B27/30 A
B32B27/18 A
B05D5/06 104Z
B05D3/06 Z
B05D3/02 Z
B05D7/24 303E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161310
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】増子 達也
(72)【発明者】
【氏名】星 沙耶佳
【テーマコード(参考)】
4D075
4F071
4F074
4F100
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB21Z
4D075BB42Z
4D075CA36
4D075CB21
4D075EB22
4D075EB38
4D075EC30
4D075EC47
4F071AA26
4F071AA33
4F071AA67
4F071AC06
4F071AC07
4F071AC10
4F071AC12
4F071AC19
4F071AE05
4F071AE10
4F071AE19
4F071AF04
4F071AF22
4F071AG02
4F071AG34
4F071AH03
4F071AH07
4F071AH17
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
4F071BB12
4F071BC01
4F074AA38
4F074AA48
4F074AD05
4F074AD07
4F074AD11
4F074AD13
4F074AD19
4F074AG03
4F074AG20
4F074BC05
4F074CB47
4F074CC06X
4F074CC22X
4F074CC28Y
4F074CC50X
4F074DA02
4F074DA24
4F074DA59
4F100AK17B
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK42C
4F100AK51A
4F100AT00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100CA05A
4F100CA05B
4F100CA07A
4F100CA07B
4F100DJ00A
4F100EH46A
4F100EJ05A
4F100EJ08A
4F100EJ30A
4F100EJ33A
4F100EJ55C
4F100EJ85A
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4F100GB07
4F100JB06B
4F100JB14A
4F100JB14B
4F100JK09
4F100JL09
4H020BA02
4J038FA111
4J038FA151
4J038FA161
4J038FA241
4J038FA271
4J038JA13
4J038JA25
4J038JA30
4J038JA55
4J038JB12
4J038KA04
4J038KA06
4J038KA12
4J038MA06
4J038NA03
4J038NA07
4J038NA11
4J038PA17
4J038PB05
4J038PB07
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】紫外線照射による撥水性の低下を抑制することのできる撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法を提供する。
【解決手段】撥水性多孔膜10は、膜状の多孔質部11を有する。多孔質部11は、ラジカル重合性モノマーの重合体と、ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する紫外線吸収剤、および、ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する紫外線安定剤の少なくとも一方と、を含む。さらに、撥水性多孔膜10は、撥水剤を含み、多孔質部11の表面上に位置する撥水被膜12をさらに有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜状の多孔質部を有する撥水性多孔膜であって、
前記多孔質部は、
ラジカル重合性モノマーの重合体と、
前記ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する紫外線吸収剤、および、前記ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する紫外線安定剤の少なくとも一方と、を含む
撥水性多孔膜。
【請求項2】
前記ラジカル重合性モノマーはアクリル系モノマーを含み、
前記多孔質部は、前記官能基としてアクリロイル基または(メタ)アクリロイル基を有する前記紫外線吸収剤、および、前記官能基としてアクリロイル基または(メタ)アクリロイル基を有する前記紫外線安定剤の少なくとも一方を含む
請求項1に記載の撥水性多孔膜。
【請求項3】
前記ラジカル重合性モノマーはイソシアネート基を有するアクリル系モノマーを含み、
前記多孔質部は、前記官能基としてヒドロキシ基を有する前記紫外線吸収剤、および、前記官能基としてヒドロキシ基を有する前記紫外線安定剤の少なくとも一方を含む
請求項1に記載の撥水性多孔膜。
【請求項4】
撥水剤を含み、前記多孔質部の表面上に位置する撥水被膜をさらに有する
請求項1~3のいずれか一項に記載の撥水性多孔膜。
【請求項5】
前記撥水被膜は、紫外線吸収剤、および、紫外線安定剤の少なくとも一方を含む
請求項4に記載の撥水性多孔膜。
【請求項6】
前記撥水性多孔膜の表面における水の接触角は、140°以上である
請求項1~5のいずれか一項に記載の撥水性多孔膜。
【請求項7】
JIS K 5600-7-7に規定される促進耐候試験に従って、180W/mの放射照度の紫外線を450時間照射した後の前記撥水性多孔膜の表面における水の接触角が、140°以上である
請求項1~6のいずれか一項に記載の撥水性多孔膜。
【請求項8】
ラジカル重合性モノマーと、前記ラジカル重合性モノマーに対して不活性な溶媒である細孔形成剤と、前記ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する紫外線吸収剤、および、前記ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する紫外線安定剤の少なくとも一方と、を含む塗布液を基材に塗布することにより、塗膜を形成する工程と、
前記塗膜にてラジカル重合反応を進行させる工程と、
前記ラジカル重合反応後の前記塗膜から前記細孔形成剤を除去することで、当該膜に細孔を形成して多孔質部を形成する工程と、
を含む撥水性多孔膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーの相分離現象を利用して形成される撥水性多孔膜が知られている。例えば、特許文献1には、エネルギー線の照射により重合可能なモノマーと、当該モノマーに相溶な一方で当該モノマーが重合したポリマーには非相溶な溶媒とを混合し、この混合物にエネルギー線を照射してモノマーを重合させた後に、上記溶媒を除去することで多孔性の膜を得ることが記載されている。こうした多孔性の膜である撥水性多孔膜は、水が入り込みにくい微細な凹凸構造を表面に有するため、高い撥水性を示す。さらに、撥水性多孔膜では、膜の内部にまで凹凸が連なっているため、摩耗による撥水性の低下の抑制が可能であり、また、高速かつ大面積に製造可能であるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-006666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在まで、撥水性多孔膜の耐候性については、十分な検討が為されていなかった。しかしながら、太陽光を模した紫外線照射試験により、撥水性多孔膜の撥水性が容易に低下することが確認された。
【0005】
本発明は、紫外線照射による撥水性の低下を抑制することのできる撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための撥水性多孔膜は、膜状の多孔質部を有する撥水性多孔膜であって、前記多孔質部は、ラジカル重合性モノマーの重合体と、前記ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する紫外線吸収剤、および、前記ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する紫外線安定剤の少なくとも一方と、を含む。
【0007】
上記構成によれば、多孔質部に紫外線吸収剤や紫外線安定剤が的確に導入され、多孔質部からの紫外線吸収剤や紫外線安定剤の流出が抑えられる。その結果、紫外線照射による多孔質部の劣化が抑えられるため、撥水性多孔膜の撥水性の低下を抑制することができる。これにより、撥水性多孔膜の耐候性が高められ、屋外での使用に対する適性が向上する。
【0008】
上記構成において、前記ラジカル重合性モノマーはアクリル系モノマーを含み、前記多孔質部は、前記官能基としてアクリロイル基または(メタ)アクリロイル基を有する前記紫外線吸収剤、および、前記官能基としてアクリロイル基または(メタ)アクリロイル基を有する前記紫外線安定剤の少なくとも一方を含んでもよい。
上記構成によれば、重合体と紫外線吸収剤や紫外線安定剤との化学的な結合が好適に形成される。したがって、多孔質部に紫外線吸収剤や紫外線安定剤が的確に導入される。
【0009】
上記構成において、前記ラジカル重合性モノマーはイソシアネート基を有するアクリル系モノマーを含み、前記多孔質部は、前記官能基としてヒドロキシ基を有する前記紫外線吸収剤、および、前記官能基としてヒドロキシ基を有する前記紫外線安定剤の少なくとも一方を含んでもよい。
上記構成によれば、重合体と紫外線吸収剤や紫外線安定剤との化学的な結合が好適に形成される。したがって、多孔質部に紫外線吸収剤や紫外線安定剤が的確に導入される。
【0010】
上記構成において、撥水性多孔膜は、撥水剤を含み、前記多孔質部の表面上に位置する撥水被膜をさらに有してもよい。
上記構成によれば、撥水性多孔膜の撥水性が高められる。
【0011】
上記構成において、前記撥水被膜は、紫外線吸収剤、および、紫外線安定剤の少なくとも一方を含んでもよい。
上記構成によれば、紫外線照射による撥水被膜の劣化が抑えられるため、撥水性多孔膜の撥水性の低下をさらに抑制することができる。
【0012】
上記構成において、前記撥水性多孔膜の表面における水の接触角は、140°以上であってもよい。
上記構成によれば、撥水性多孔膜において、高い撥水性が得られる。
【0013】
上記構成において、JIS K 5600-7-7に規定される促進耐候試験に従って、180W/mの放射照度の紫外線を450時間照射した後の前記撥水性多孔膜の表面における水の接触角が、140°以上であってもよい。
上記構成によれば、撥水性多孔膜において、紫外線照射による撥水性の低下が的確に抑えられる。
【0014】
上記課題を解決するための撥水性多孔膜の製造方法は、ラジカル重合性モノマーと、前記ラジカル重合性モノマーに対して不活性な溶媒である細孔形成剤と、前記ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する紫外線吸収剤、および、前記ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する紫外線安定剤の少なくとも一方と、を含む塗布液を基材に塗布することにより、塗膜を形成する工程と、前記塗膜にてラジカル重合反応を進行させる工程と、前記ラジカル重合反応後の前記塗膜から前記細孔形成剤を除去することで、当該膜に細孔を形成して多孔質部を形成する工程と、を含む。
【0015】
上記製法によれば、多孔質部に紫外線吸収剤や紫外線安定剤が的確に導入され、多孔質部からの紫外線吸収剤や紫外線安定剤の流出が抑えられる。そのため、紫外線照射による撥水性の低下が抑制された撥水性多孔膜が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、紫外線照射による撥水性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態の撥水性多孔膜の断面構造を模式的に示す図。
図2】一実施形態の撥水性多孔膜の製造方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して、撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法の一実施形態を説明する。
[撥水性多孔膜の構造]
図1が示すように、撥水性多孔膜10は、膜状の多孔質部11を有している。多孔質部11は、微小な粒状の塊が連なった構造を有する。こうした粒状の塊の連なりによって、多孔質部11は、その表面に微細な凹凸構造Rgを有し、その内部に多数の細孔Prを有している。言い換えれば、凹凸構造Rgは、多孔質部11の内部にも形成されており、凹凸構造Rgの連なりによって区画される隙間が細孔Prである。さらに、撥水性多孔膜10は、多孔質部11の凹凸構造Rgの表面に、撥水剤を含む撥水被膜12を有している。
【0019】
上記構成によれば、撥水性多孔膜10の表面は、多孔質部11の凹凸構造Rgに基づく微細な凹凸を有する。こうした微細な凹凸へは水が浸入し難いため、撥水性多孔膜10の表面に水滴が付着したとしても、表面と水滴との接触面積が非常に小さくなる。そのため、撥水性多孔膜10の表面において水滴が弾かれやすくなり、高い撥水性が得られる。そして、撥水被膜12が形成されていることにより、撥水性多孔膜10の表面の撥水性がより高められる。
【0020】
さらに、仮に撥水性多孔膜10の継続的な使用によって多孔質部11の最表面が摩耗したとしても、その下の凹凸構造Rgが最表面に露出することにより撥水性多孔膜10の表面には凹凸が位置し続ける。したがって、長期的な撥水性の持続が可能である。
【0021】
多孔質部11は、ラジカル重合性モノマーの重合体を含む。さらに、多孔質部11は、紫外線吸収剤(UVA:Ultra Violet Absorber)、および、紫外線安定剤(HALS:Hindered Amine Light Stabilizers)の少なくとも一方を含む。紫外線吸収剤と紫外線安定剤との少なくとも一方は、ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する。これにより、紫外線照射による多孔質部11の劣化が抑えられるため、撥水性多孔膜10の撥水性の低下を抑えることができる。
【0022】
また、撥水被膜12も、紫外線吸収剤、および、紫外線安定剤の少なくとも一方を含んでいることが好ましい。これにより、紫外線照射による撥水被膜12の劣化が抑えられるため、撥水性多孔膜10の撥水性の低下をさらに抑えることができる。
【0023】
なお、撥水性多孔膜10は、単独の膜として用いられてもよいし、基材に積層された状態で用いられてもよい。また、撥水被膜12は、少なくとも、撥水性多孔膜10の一方の面における多孔質部11の最表面、言い換えれば、凹凸構造Rgの最外部に形成されていればよい。撥水性多孔膜10の撥水性の持続性を高める観点では、撥水被膜12は、多孔質部11の最表面に加えて、多孔質部11の内部で細孔Prを区画している凹凸構造Rgの表面にも形成されていることが好ましい。
【0024】
多孔質部11における細孔Prの大きさおよび凹凸構造Rgの粗さは、多孔質部11の形成のための材料によって調整可能である。多孔質部11は、凹凸構造Rgの連なりからなる細孔Prを有する多孔質状であれば、微小な粒状の塊が連なった構造とは異なる構造を有していてもよい。また、撥水性多孔膜10は、少なくとも多孔質部11を有していればよく、言い換えれば、撥水性多孔膜10は、撥水被膜12を有していなくてもよい。
【0025】
[撥水性多孔膜の材料]
以下、撥水性多孔膜10の材料の詳細について説明する。
<塗布液>
撥水性多孔膜10の多孔質部11は、多孔質部11の材料を含む塗布液を基材に塗布し、重合反応を行った後、上記塗布液の溶媒を除去することによって形成される。塗布液は、ラジカル重合性モノマーと、紫外線吸収剤および紫外線安定剤の少なくとも一方と、上記溶媒である細孔形成剤とを含む。また、塗布液は、重合開始剤や各種の添加剤を含んでいてもよい。以下、塗布液に含まれる材料の詳細を説明する。
【0026】
(ラジカル重合性モノマー)
塗布液が含有するラジカル重合性モノマーは、反応速度の速さが良好である等の観点から、アクリロイル基、(メタ)アクリロイル基、α塩素置換アクリロイル基、アクリルアミド、メタクリルアミド等の構造を有するモノマーであることが好ましい。特に、アクリロイル基や(メタ)アクリロイル基を有するモノマーであれば、様々な構造のモノマーを安価に入手できることから、これらのモノマーを用いることで、多孔質部11の製造に要するコストの削減が可能である。
【0027】
塗布液が含有するラジカル重合性モノマーには、分子量が1000以下であり、かつ、下記(式1)で表される反応点価Vが500以下である低分子量モノマーが含まれることが好ましい。反応点価Vは、下記(式1)に示すように、モノマーの分子量を、モノマー1分子が有する反応点の数、すなわち、ラジカル重合反応官能基の数で除した値である。
反応点価V=分子量/分子中のラジカル重合反応官能基の数 ・・・(式1)
【0028】
なお、モノマーの構造に分布がある場合、反応点価Vの計算に際して、分子量および反応点の数については、その平均値が代表値として用いられる。
上記低分子量モノマーが重合されることにより、多孔質部11の凹凸構造Rgが好適に形成されて撥水性が高められるとともに、多孔質部11の耐摩耗性が高められる。
【0029】
上記低分子量モノマーは、例えば、硬化樹脂膜を形成する際に汎用的に用いられるモノマーのなかから、塗布液の粘度の調整、細孔形成剤との相溶性の調整、多孔質部11の硬度の調整、多孔質部11における細孔Prの形状や大きさの調整、多孔質部11の表面の濡れ性の調整等の観点に基づき適宜選択することができる。
【0030】
上記低分子量モノマーの一例は、1官能(メタ)アクリロイル基を有するモノマーである。1官能(メタ)アクリロイル基を有するモノマーとしては、例えば、市販されているモノマーとして、アルキル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリセロールアクリレートメタクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、ω-カルボキシカプロラクトンモノアクリレート、フッ素置換アルキル(メタ)アクリレート、塩素置換アルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸-2-メチルプロパン-2-アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルクロライド、(メタ)アクリルアルデヒド、シラノ基含有(メタ)アクリレート、((ジ)アルキル)アミノ基含有(メタ)アクリレート、4級((ジ)アルキル)アンモニウム基含有(メタ)アクリレート、(N-アルキル)アクリルアミド、(N,N-ジアルキル)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ポリジメチルシロキサン鎖含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
また、上記低分子量モノマーの他の例は、(メタ)アクリロイル基を有し、1分子中に2つ以上の官能基を有するモノマーである。
(メタ)アクリロイル基を有する低分子量モノマーのうち、2官能モノマーの例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、エチレングリコール3-20量体を架橋鎖として有するジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコール3-20量体を架橋鎖として有するジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2′-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、2,2′-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン、ヒドロキシジピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ビス(アクロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、N-メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0032】
(メタ)アクリロイル基を有する低分子量モノマーのうち、3官能モノマーの例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0033】
(メタ)アクリロイル基を有する低分子量モノマーのうち、4官能モノマーの例としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられ、6官能モノマーの例としては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
また、塗布液が含有するラジカル重合性モノマーには、分子量が10000以上であり、かつ、上記(式1)で表される反応点価Vが250以上である高分子量多官能モノマーが含まれていてもよい。ラジカル重合性モノマーに高分子量多官能モノマーが含まれることにより、多孔質部11の耐摩耗性が高められる。また、上記高分子量多官能モノマーの分子量が25000以上であれば、多孔質部11の耐摩耗性がより高められる。
【0035】
塗布液が、上記低分子量モノマーに加えて上記高分子量多官能モノマーを含む場合、高分子量多官能モノマーとしては、低分子量モノマーと相溶性を有するモノマーが選択される。本実施形態において、低分子量モノマーと相溶性を有するモノマーとは、低分子量モノマーと、対象のモノマーとを1対1の質量比で混合した際に、透明な均一液体になるモノマーである。
【0036】
高分子量多官能モノマーは、例えば、ポリエチレングリコールである軸分子と、ラジカル重合性反応基を有するシクロデキストリンである環状分子とを有するポリロタキサン分子である。当該ポリロタキサン分子は、環状分子であるシクロデキストリンに、軸分子であるポリエチレングリコール鎖が包摂された構造を有する。こうした構造では、環状分子が軸分子に共有結合していないため、環状分子が軸分子に沿って自由に移動できる。このため、多孔質部11の変形に対する耐性を高めることができる。
【0037】
こうしたポリロタキサン分子の例としては、アドバンスト・ソフトマテリアル社製のSREMシリーズ(SM1303P、SM2403P、SM3403P、SA1303P、SA2403P、SA3403P)が挙げられる。その他、高分子量多官能モノマーの例としては、共栄社化学社製のSMPシリーズ(SMP-250A、SMP-360A、SMP-550A、SMP-1500A)、根上工業社製のTPMAP-6003、TPMAP-6001、ダイセル・オルネクス社製のサイクロマPZ200M、サイクロマPZ230AA、ACA-Z251、ACA-Z320が挙げられる。
【0038】
塗布液が高分子量多官能モノマーを含む場合、塗布液が含有するラジカル重合性モノマー全体に対する高分子量多官能モノマーの質量割合は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。当該範囲内の添加量で高分子量多官能モノマーを加えることによって、多孔質部11の耐摩耗性を好適に高めることができる。
なお、塗布液が含有するラジカル重合性モノマーには、上記低分子量モノマーおよび上記高分子量多官能モノマー以外のモノマーが含まれてもよい。
【0039】
(紫外線吸収剤・紫外線安定剤)
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系またはトリアジン系の紫外線吸収剤が、可視領域の光の吸収が小さく、多孔質部11の着色を抑えられるため、好適に用いられる。ラジカル重合性モノマーの重合体である樹脂からのブリードアウトを抑える観点から、紫外線吸収剤の分子量は、300以上であることが好ましい。
【0040】
塗布液におけるラジカル重合性モノマーに対する紫外線吸収剤の質量割合は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がより好ましい。紫外線吸収剤の添加量が上記範囲内であれば、塗布液への紫外線吸収剤の溶解性が良好に得られるとともに、多孔質部11の形成のための重合反応を紫外線吸収剤が阻害することを抑えられる。
【0041】
紫外線吸収剤は、塗布液が含有するラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有することが好ましい。例えば、ラジカル重合性モノマーが、アクリロイル基または(メタ)アクリロイル基を有するアクリル系モノマーである場合、アクリロイル基または(メタ)アクリロイル基を有する紫外線吸収剤が用いられる。また例えば、ラジカル重合性モノマーが、上記アクリル系モノマーであって、かつ、イソシアネート基を有する場合には、アクリロイル基または(メタ)アクリロイル基を有する紫外線吸収剤の他、ヒドロキシ基を有する紫外線吸収剤を用いることができる。
【0042】
紫外線吸収剤の具体例としては、大塚化学社製のRUVA-93、BASF社製のTinuvin384-2、Tinuvin400、Tinuvin405、Tinuvin460、Tinuvin477が挙げられる。このうち、(メタ)アクリロイル基を有する紫外線吸収剤としては、RUVA-93が好適に用いられ、ヒドロキシ基を有する紫外線吸収剤としては、Tinuvin400およびTinuvin405が好適に用いられる。
【0043】
なお、RUVA-93は、下記構造式(1)で示す化合物である。また、Tinuvin384-2は、下記構造式(2)で示す化合物を約95%、1-メトキシ-2-プロピルアセタートを約5%の割合で含む。また、Tinuvin400は、下記構造式(3)で示す化合物を約85%、1-メトキシ-2-プロパノールを約15%の割合で含む。また、Tinuvin405は、下記構造式(4)で示す化合物である。また、Tinuvin460は、下記構造式(5)で示す化合物である。また、Tinuvin477は、ヒドロキシフェニルトリアジン系の紫外線吸収剤を約80%、1-メトキシ-2-プロピルアセタートを約20%の割合で含む。
【0044】
【化1】
【0045】
【化2】
【0046】
【化3】
【0047】
【化4】
【0048】
【化5】
【0049】
紫外線安定剤は、ヒンダードアミン骨格を有する。ラジカル重合性モノマーの重合体である樹脂からのブリードアウトを抑える観点から、紫外線安定剤の分子量は、300以上であることが好ましい。
【0050】
塗布液におけるラジカル重合性モノマーに対する紫外線安定剤の質量割合は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がより好ましい。紫外線安定剤の含有量が上記範囲内であれば、塗布液への紫外線安定剤の溶解性が良好に得られるとともに、多孔質部11の形成のための重合反応を紫外線安定剤が阻害することを抑えられる。
【0051】
紫外線安定剤は、塗布液が含有するラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有することが好ましい。例えば、ラジカル重合性モノマーが、アクリロイル基または(メタ)アクリロイル基を有するアクリル系モノマーである場合、アクリロイル基または(メタ)アクリロイル基を有する紫外線安定剤が用いられる。また例えば、ラジカル重合性モノマーが、上記アクリル系モノマーであって、かつ、イソシアネート基を有する場合には、アクリロイル基または(メタ)アクリロイル基を有する紫外線安定剤の他、ヒドロキシ基を有する紫外線安定剤を用いることができる。
【0052】
紫外線安定剤の具体例としては、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニルメタクリレート(例えば、アデカ社製のアデカスタブLA-82、日立化成社製のFA-712HM等)、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニルメタクリレート(例えば、アデカ社製のアデカスタブLA-87、日立化成社製のFA-711MM等)、BASF社製のTinuvin123、Tinuvin292、Tinuvin152、Tinuvin144が挙げられる。このうち、(メタ)アクリロイル基を有する紫外線安定剤としては、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニルメタクリレートまたは2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニルメタクリレートが好適に用いられ、ヒドロキシ基を有する紫外線安定剤としては、Tinuvin152が好適に用いられる。
【0053】
なお、アデカスタブLA-82は、下記構造式(6)で示す化合物であり、アデカスタブLA-87は、下記構造式(7)で示す化合物である。また、Tinuvin123は、下記構造式(8)で示す化合物であり、Tinuvin292は、下記構造式(9)で示す化合物と下記構造式(10)で示す化合物との混合物である。また、Tinuvin152は、下記構造式(11)で示す化合物であり、Tinuvin144は、下記構造式(12)で示す化合物である。
【0054】
【化6】
【0055】
【化7】
【0056】
【化8】
【0057】
【化9】
【0058】
【化10】
【0059】
【化11】
【0060】
塗布液は、上記官能基を有する紫外線吸収剤と、上記官能基を有する紫外線安定剤とのうちの少なくとも一方を含む。塗布液が、紫外線吸収剤と紫外線安定剤との双方を含む場合、紫外線吸収剤と紫外線安定剤との少なくとも一方が、上記官能基を有していればよい。紫外線照射による撥水性多孔膜10の撥水性の低下を抑える効果を高めるためには、塗布液が、紫外線吸収剤と紫外線安定剤との双方を含み、かつ、紫外線吸収剤と紫外線安定剤との各々が、上記官能基を有していることが好ましい。
【0061】
樹脂が紫外線を受けると、ラジカル種が発生し、このラジカル種を経由した樹脂成分の酸化や分解が生じる。紫外線吸収剤は、樹脂よりも優先的に紫外線を吸収し、ラジカル種の発生を抑える機能を有する。紫外線安定剤は、樹脂に発生したラジカル種を補足する機能を有する。したがって、樹脂への紫外線吸収剤や紫外線安定剤の添加によって、樹脂成分の酸化や分解が抑えられるため、樹脂の劣化が抑えられる。
【0062】
ここで、多孔質部11は、上述のように、塗布液を基材に塗布し、重合反応を行った後、溶媒である細孔形成剤を除去することによって形成される。この際、多孔質部11を構成するラジカル重合性モノマーの重合体と紫外線吸収剤や紫外線安定剤とが結合していないと、細孔形成剤を除去する工程等において、紫外線吸収剤や紫外線安定剤が流出し、多孔質部11に紫外線吸収剤や紫外線安定剤が導入されにくいことが、本願の発明者による解析の結果、判明した。
【0063】
すなわち、ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する紫外線吸収剤および紫外線安定剤の少なくとも一方を塗布液に添加することで、形成される多孔質部11に、紫外線吸収剤・紫外線安定剤を好適に導入することができる。その結果、紫外線照射による多孔質部11の酸化や分解が抑えられ、こうした化学反応に起因した凹凸構造Rgの崩れが抑えられるため、撥水性多孔膜10の撥水性の低下を抑えることができる。
【0064】
また、多孔質部11を構成するラジカル重合性モノマーの重合体と紫外線吸収剤や紫外線安定剤とが結合しているため、屋外において撥水性多孔膜10が雨に曝された場合にも、多孔質部11から紫外線吸収剤や紫外線安定剤が流出することが抑えられる。したがって、紫外線照射に起因した撥水性多孔膜10の撥水性の低下を抑える効果が長期的に得られる。
【0065】
紫外線に対する耐性が求められる撥水性多孔膜10の使用環境は、屋外である場合が多いため、撥水性多孔膜10は雨に曝されやすく、また、撥水性が求められる撥水性多孔膜10の使用環境では、撥水性多孔膜10は水に接することが多い。したがって、水によって多孔質部11から紫外線吸収剤や紫外線安定剤が洗い流され難いことの有益性は高い。
【0066】
(細孔形成剤)
細孔形成剤は、塗膜に細孔Prを形成するための溶媒であり、ラジカル重合性モノマーに対して不活性である。細孔形成剤は、ラジカル重合反応である付加重合反応を阻害しない溶媒であって、塗布液の全ての成分が混合された後に、経時で不均一化しない相溶状態を形成するとともに、ラジカル重合反応の完了後に除去されることで細孔Prを形成可能な組成を有していればよい。
【0067】
細孔Prの形成に適した細孔形成剤は、塗布液に含まれるラジカル重合性モノマーの組成によって異なる。このため、細孔形成剤は、ラジカル重合性モノマーとして用いられる各種のモノマーに応じて適切に選択される必要がある。例えば、塗布液が、ラジカル重合性モノマーとして親水性の官能基を有するモノマーを多く含む場合には、ミリスチン酸メチル等のように、長い炭化水素鎖を有する極性の低い分子からなる溶媒を細孔形成剤として用いると、発達した相分離構造が形成される傾向があるため好ましい。
【0068】
また、ラジカル重合反応を開放環境で行う場合には、少なくともラジカル重合反応の進行期間における細孔形成剤の揮発量の割合が小さいことが求められる。このため、細孔形成剤としては、揮発性の小さい分子からなる溶媒を使用することが望ましい。
【0069】
開放環境においてラジカル重合反応を行う場合に適した細孔形成剤としては、例えば、ジエチルカーボネート、キシレン、ジメチルアセトアミド、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、オルトクレゾール、パラクレゾール、デカン酸メチル、ミリスチン酸メチル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエキシルエーテル、ジイソペンチルエーテル、酢酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル、酢酸2-(2ブトキシエトキシ)エチル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0070】
なお、塗布液に高分子量多官能モノマーを添加する場合には、高分子量多官能モノマーを溶解するために、例えばジエチレングリコールジブチルエーテル等のように、極性の高い分子からなる溶媒を、細孔形成剤として用いる、あるいは、細孔形成剤に添加することが好ましい。
【0071】
(重合開始剤)
ラジカル重合性モノマーの重合に活性エネルギー線の照射を利用する場合、重合開始剤としては、活性エネルギー線の照射によりラジカル重合反応を開始させることが可能な化合物であれば、特に制限なく用いることができる。
【0072】
例えば、重合開始剤としては、p-tert-ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2′-ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等のアセトフェノン類、ベンゾフェノン、4,4′-ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン等のケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のベンジルケタール類、N-アジドスルフォニルフェニルマレイミド等のアジドが挙げられる。こうした重合開始剤を塗布液に添加することで、塗布液に活性エネルギー線を照射することによってラジカル重合反応を開始させることができる。
【0073】
また、活性エネルギー線の照射に代えて、塗布液を加熱することによりラジカル重合反応を開始させる場合は、重合開始剤として、アゾ-ビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物や、過酸化ベンゾイル等の過酸化物を用いればよい。こうした重合開始剤を塗布液に添加することで、塗布液の加熱によってラジカル重合反応を開始させることができる。
重合反応の好適な進行のためには、塗布液への重合開始剤の添加量は、ラジカル重合性モノマー全体の質量に対して0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0074】
(添加剤)
塗布液には、細孔形成剤として用いられる溶媒に溶解可能な増粘剤が添加されてもよい。増粘剤の添加量は、塗布液の均一性が保持される範囲内とされる。例えば、塗布液には、増粘剤として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールの誘導体、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等が加えられてもよい。多孔質部11における細孔Prの形状は、塗布液の粘度によって変化する。細孔形成剤の除去工程において、洗浄によって細孔形成剤を除去する場合には、塗布液に添加される増粘剤の質量割合が、塗布液全体の質量に対して2質量%以下であると、細孔形成剤の除去が容易であるため好ましい。
【0075】
また、塗布液には、塗布適正の調整のために表面調整剤が添加されてもよい。例えば、塗布液には、表面調整剤として、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン化合物等の低表面張力化合物が添加されてもよい。表面調整剤の添加は少量でよく、塗布液全体の質量に対して0.1質量%以下の量の表面調整剤を加えることで、表面調整剤は十分に機能する。
【0076】
<撥水剤>
撥水被膜12の形成に用いる撥水剤としては、例えば、フッ素化アルキル基含有アクリレート重合体を含むポリマー、パーフルオロポリエーテル基を有するポリマー、ポリジメチルシロキサン部分を含むポリマー、C4以上のアルキル基を有するポリマー等が挙げられる。撥水剤が、凹凸構造Rgの表面との共有結合を形成可能な官能基を有していると、塗布された撥水剤と凹凸構造Rgの表面との間に共有結合が形成されて撥水被膜12が凹凸構造Rgの表面から脱落しにくくなるため、好ましい。
【0077】
撥水剤を所定の溶媒を用いて希釈することにより、撥水被膜12の形成のための溶液である撥水被膜形成液が生成される。撥水被膜形成液は、紫外線吸収剤、および、紫外線安定剤の少なくとも一方を含むことが好ましい。紫外線吸収剤、および、紫外線安定剤としては、多孔質部11の形成のための塗布液に含有させる紫外線吸収剤および紫外線安定剤として上述した化合物を用いることができる。
【0078】
撥水被膜形成液が紫外線吸収剤を含む場合、撥水被膜形成液における撥水剤に対する紫外線吸収剤の質量割合は、0.2質量%以上2質量%以下が好ましい。撥水被膜形成液が紫外線安定剤を含む場合、撥水被膜形成液における撥水剤に対する紫外線安定剤の質量割合は、0.2質量%以上2質量%以下が好ましい。
また、撥水被膜形成液には、撥水被膜12の着色のための染料が含有されていてもよい。
【0079】
[撥水性多孔膜の製造方法]
図2が示すように、撥水性多孔膜10の製造方法は、塗布液の塗布工程(ステップS10)と、ラジカル重合反応工程(ステップS11)と、細孔形成剤の除去工程(ステップS12)と、撥水被膜の形成工程(ステップS13)とを含む。ステップS10~ステップS13の工程が順に行われることにより、撥水性多孔膜10が製造される。なお、撥水性多孔膜10が撥水被膜12を有さない場合には、撥水被膜の形成工程は行われない。以下、各工程について説明する。
【0080】
<塗布液の塗布工程>
塗布液の塗布工程では、上述の各材料を含むように調整した塗布液を、基材に塗布する。基材としては、ラジカル重合性モノマーや細孔形成剤によって侵食されにくく、また、ラジカル重合反応を開始するための活性エネルギー線の照射や加熱によっても侵食されにくい材料からなる基材が用いられる。例えば、基材の材料は、ガラス、金属、金属酸化物、樹脂等である。基材の透明性や汎用性が高められる観点からは、ガラスや、ポリオレフィン、ポリエステル等の樹脂からなる基材を用いることが好ましい。基材の形状は特に制限されないが、例えば、基材が柔軟性を有するフィルム状を有していれば、基材上に成膜された撥水性多孔膜10を巻き取ることで、大面積かつ高速に撥水性多孔膜10の製造が可能であるため、好ましい。
【0081】
撥水性多孔膜10を、基材に積層された状態で使用する場合、基材の表面には、基材と撥水性多孔膜10との密着性を高めるための前処理が施されていてもよい。前処理は、例えば、コロナ処理等による濡れ性の向上のための処理や、基材と撥水性多孔膜10との間に化学結合を形成するためのラジカル重合性官能基の導入の処理である。また、樹脂製の基材を用いる場合、延伸やラビング処理等、基材の表面の結晶性を制御するための処理を、前処理として行ってもよい。
【0082】
塗布液の基材への塗布方法は、特に限定されず、グラビアコート、ダイコート、スプレーコート、ディップコート、スピンコート等の公知の塗布方法が用いられる。大面積かつ高速な塗布が可能であるという観点からは、グラビアコート、ダイコート、スプレーコートの各塗布方法が用いられることが好ましい。
【0083】
<ラジカル重合反応工程>
ラジカル重合反応工程では、上記塗膜に対して、活性エネルギー線の照射または加熱を行うことにより、ラジカル重合反応を進行させる。
【0084】
重合反応の開始に活性エネルギーの線の照射を利用する場合、例えば、重合開始剤として光ラジカル発生剤あるいは光酸発生剤を用い、塗膜の表面に紫外線を照射することで、重合反応を開始させる。塗膜に照射される紫外線の波長は、塗布液に含まれる重合開始剤が効率的にエネルギーを吸収して分解可能な波長であればよい。また、紫外線の照射に用いる光源は、所望の波長の紫外線を照射可能な光源であればよい。光源としては、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を用いることができる。ラジカル重合反応工程において、塗膜の表面に酸素分子が存在するとラジカル重合反応が阻害される。これを避けるために、紫外線は、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で照射されてもよい。
【0085】
また、重合反応の開始に加熱を利用する場合には、塗膜の表面を加熱することで重合反応を開始させる。塗膜表面の加熱温度は、塗布液に含まれる重合開始剤の分解温度に基づいて決定すればよい。
【0086】
なお、ラジカル重合反応工程では、重合反応の進行が可能であれば、上記とは異なる方法が用いられてもよい。例えば、塗膜の表面に電子線を照射することでラジカル重合反応を開始させてもよい。この場合、重合開始剤を塗布液に添加せずともラジカル重合反応を進めることが可能である。
【0087】
<細孔形成剤の除去工程>
細孔形成剤の除去工程では、ラジカル重合反応工程を経た塗膜から、細孔形成剤を除去する。細孔形成剤を除去することで、細孔形成剤が存在していた領域に細孔Prが形成される。これにより、膜状の多孔質部11が形成される。
【0088】
細孔形成剤の除去方法としては、例えば、細孔形成剤を溶出させる溶媒を用いて塗膜を洗浄する方法や、加熱または減圧によって塗膜を乾燥させることにより細孔形成剤を除去する方法を用いることができる。
【0089】
<撥水被膜の形成工程>
撥水被膜12の形成工程では、多孔質部11に上述した撥水被膜形成液を塗布することにより、多孔質部11における凹凸構造Rgの表面を被覆する撥水被膜12を形成する。
【0090】
撥水被膜形成液は、グラビアコート、ダイコート、スプレーコート、ディップコート、スピンコート等の公知の塗布方法によって多孔質部11に塗布される。撥水剤と凹凸構造Rgの表面との間に共有結合を形成するために、撥水被膜形成液が塗布された多孔質部11に対して、加熱や活性エネルギー線の照射が行われてもよい。
【0091】
細孔Prを通じて多孔質部11の内部にも撥水剤が浸透するように、撥水被膜形成液を多孔質部11に塗布することで、多孔質部11の内部で細孔Prを区画している凹凸構造Rgの表面にも撥水被膜12が形成される。
【0092】
[撥水性多孔膜の特性]
<膜厚>
多孔質部11の膜厚は、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0093】
多孔質部11の膜厚が上記下限値以上であれば、多孔質部11の耐久性が高められ、また、撥水性多孔膜10の撥水性が摩耗によって低下し難くなる。一方で、多孔質部11の膜厚が上記上限値以下であれば、重合工程での膜表面と膜底部との硬化状態にばらつきが生じることが抑えられる、細孔形成剤が除去されやすくなる、表面にクラックが生じ難くなる、製造コストや製造に要する時間が低減される、といった利点がある。
【0094】
多孔質部11の膜厚は、塗布液の塗布工程で形成される塗膜の厚みの調整によって、調整することができる。なお、撥水性多孔膜10において、摩耗による撥水性の低下の抑制よりも透明性を重視する場合、多孔質部11の膜厚は5μmよりも小さくてもよく、例えば、塗膜の厚みを3μm以下に設定してもよい。
【0095】
<空隙率>
多孔質部11の空隙率は、多孔質部11の断面において単位面積あたりに占める細孔Prの面積割合である。多孔質部11の空隙率は、30%以上60%以下であることが好ましい。空隙率が30%以上であれば、好適な凹凸構造Rgが形成されるため、良好な撥水性が得られる。空隙率が60%以下であれば、多孔質部11の耐摩耗性が高められる。
空隙率は、塗布液におけるラジカル重合性モノマーと細孔形成剤との混合比の調整によって、調整することができる。
【0096】
空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いた多孔質部11の断面観察によって算出できる。具体的には、撥水性多孔膜10の断面のSEM画像を所定の条件で2値化した画像を作製し、細孔Pr内の領域に対応する部分の比率を算出することにより、空隙率が求められる。
【0097】
<撥水性>
撥水性多孔膜10の撥水性は、撥水性多孔膜10の表面における水の接触角によって評価できる。高い撥水性を得るためには、撥水性多孔膜10の表面における水の接触角は、140°以上であることが好ましい。水の接触角は、JIS R 3257(1999)に規定される静滴法に従って測定される。なお、撥水性多孔膜10の撥水性は、凹凸構造Rgの粗さの調整によって、調整することができる。
【0098】
また、紫外線照射による耐候試験後においても、撥水性多孔膜10の表面における水の接触角は、140°以上であることが好ましい。本実施形態の撥水性多孔膜10によれば、紫外線吸収剤および紫外線安定剤の作用により、耐候試験後においても140°以上の接触角を得ることができる。耐候試験では、JIS K 5600-7-7に規定される促進耐候試験に従って、180W/mの放射照度の紫外線が450時間、撥水性多孔膜10に照射される。紫外線の波長は、300nm以上400nm以下である。
【0099】
上記耐候試験での紫外線照射量は、日本における1年間の紫外線量に相当する。したがって、着雪防止のためのシートのように、1年間のうちの特定のシーズンに機能を発揮するシートに撥水性多孔膜10が用いられる場合、当該シーズンの前にシートを貼り替えることで、シーズン中、撥水性多孔膜10の撥水性に基づく着雪防止等の効果が好適に得られる。それゆえ、シートの機能維持のための管理が容易である。
【0100】
[実施例]
上述した撥水性多孔膜およびその製造方法について、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。
【0101】
(塗布液および撥水被膜形成液の調整)
多孔質部形成用の塗布液の生成に用いられる基本溶液として、下記の4種類の溶液を調整した。また、撥水被膜形成液の生成に用いられる撥水剤希釈液を、下記のように調整した。
【0102】
<基本溶液1>
ラジカル重合性モノマーとして、4.0gのポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業社製、A-200)と、細孔形成剤として、4.0gのデカン酸メチル(富士フィルム和光純薬社製)とを混合して、基本溶液1を調整した。基本溶液1には、0.16gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)と、0.004gの表面調整剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK-378)とを添加した。
【0103】
<基本溶液2>
ラジカル重合性モノマーとして、3.9gのポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業社製、A-200)、および、0.1gの2-イソシアナトエチルアクリレート(昭和電工社製、カレンズAOI)と、細孔形成剤として、4.0gのデカン酸メチル(富士フィルム和光純薬社製)とを混合して、基本溶液2を調整した。2-イソシアナトエチルアクリラートは、イソシアネート基を有する。基本溶液2には、0.16gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)と、0.004gの表面調整剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK-378)とを添加した。
【0104】
<基本溶液3>
ラジカル重合性モノマーとして、3.0gのトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(新中村化学工業社製、A-DCP)、0.8gのn-ヘキシルアクリレート(富士フィルム和光純薬社製)、および、0.2gの1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルメタクリレート(富士フィルム和光純薬社製)と、細孔形成剤として、6.0gのデカン酸メチル(富士フィルム和光純薬社製)とを混合して、基本溶液3を調整した。基本溶液3には、0.16gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)と、0.004gの表面調整剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK-378)とを添加した。
【0105】
<基本溶液4>
ラジカル重合性モノマーとして、3.6gのポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業社製、A-200)、および、0.8gのSM1303P(アドバンスト・ソフトマテリアル社製)と、細孔形成剤として、3.5gのミリスチン酸メチルとを混合して、基本溶液4を調整した。SM1303Pは、ポリロタキサン分子を含み、0.8gのSM1303Pにおける固形分の重量は0.4gである。基本溶液4には、0.16gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)と、0.004gの表面調整剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK-378)とを添加した。
【0106】
<撥水剤希釈液>
撥水剤としてパーフルオロポリエーテル含有アクリレート(信越化学工業社製、KY-1203(有効成分濃度20wt%))を用い、3.0gの撥水剤と、6.0gの酢酸プロピルとを混合して、撥水剤希釈液を調整した。撥水剤希釈液には、0.03gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)を添加した。
【0107】
(実施例1)
基本溶液1に、紫外線吸収剤として大塚化学社製のRUVA-93を30mg、紫外線安定剤としてアデカ社製のアデカスタブLA-82を40mg、混合して、実施例1の多孔質部形成用の塗布液を生成した。これらの紫外線吸収剤および紫外線安定剤は、アクリル系のラジカル重合性モノマーと結合する(メタ)アクリロイル基を有している。
【0108】
また、撥水剤希釈液に、紫外線吸収剤として上記RUVA-93を6mg、紫外線安定剤として上記アデカスタブLA-82を6mg、混合して、実施例1の撥水被膜形成液を生成した。
【0109】
コロナ処理を施した表面を有するPETフィルムを基材として用い、A4サイズ(縦297mm×横210mm)に切り出した基材に、ワイヤーバー(番手#9)を利用して、多孔質部形成用の塗布液を塗布した。塗膜に対して、UV照射装置(アイグラフィックス社製、ECS-401XN2-6)を用いて、300nm以上400nm以下の波長域での紫外線照射量が計500mJ/cmとなるように紫外線を照射した。その後、80℃のオーブンで3分間、塗膜を乾燥し、細孔形成剤を除去した。これにより、多孔質部からなる膜が形成された。
【0110】
続いて、上記多孔質部からなる膜の表面に、ワイヤーバー(番手#20)を利用して、撥水被膜形成液を塗布した。撥水被膜形成液の塗布後の膜を、80℃のオーブンで30秒間、乾燥した後、当該膜に、UV照射装置(アイグラフィックス社製、ECS-401XN2-6)を用いて、300nm以上400nm以下の波長域での紫外線照射量が計500mJ/cmとなるように紫外線を照射した。以上により、実施例1の撥水性多孔膜を得た。
【0111】
(実施例2)
基本溶液1に、紫外線吸収剤として上記RUVA-93を30mg、紫外線安定剤として上記アデカスタブLA-82を40mg、混合して、実施例2の多孔質部形成用の塗布液を生成した。
【0112】
また、撥水剤希釈液に対する紫外線吸収剤および紫外線安定剤の添加は行わずに、実施例2の撥水被膜形成液とした。
上記多孔質部形成用の塗布液および撥水被膜形成液を用い、実施例1と同様の工程によって、実施例2の撥水性多孔膜を得た。
【0113】
(実施例3)
基本溶液1に、紫外線吸収剤としてBASF社製のTinuvin477を30mg、紫外線安定剤として上記アデカスタブLA-82を40mg、混合して、実施例3の多孔質部形成用の塗布液を生成した。実施例3においては、紫外線安定剤のみが、アクリル系のラジカル重合性モノマーと結合する(メタ)アクリロイル基を有している。
【0114】
また、撥水剤希釈液に、紫外線吸収剤として上記RUVA-93を6mg、紫外線安定剤として上記アデカスタブLA-82を6mg、混合して、実施例3の撥水被膜形成液を生成した。
上記多孔質部形成用の塗布液および撥水被膜形成液を用い、実施例1と同様の工程によって、実施例3の撥水性多孔膜を得た。
【0115】
(実施例4)
基本溶液1に、紫外線吸収剤として上記RUVA-93を30mg、紫外線安定剤としてBASF社製のTinuvin123を40mg、混合して、実施例4の多孔質部形成用の塗布液を生成した。実施例4においては、紫外線吸収剤のみが、アクリル系のラジカル重合性モノマーと結合する(メタ)アクリロイル基を有している。
【0116】
また、撥水剤希釈液に、紫外線吸収剤として上記RUVA-93を6mg、紫外線安定剤として上記アデカスタブLA-82を6mg、混合して、実施例4の撥水被膜形成液を生成した。
上記多孔質部形成用の塗布液および撥水被膜形成液を用い、実施例1と同様の工程によって、実施例4の撥水性多孔膜を得た。
【0117】
(実施例5)
基本溶液2に、紫外線吸収剤としてBASF社製のTinuvin405を40mg、紫外線安定剤としてBASF社製のTinuvin152を40mg、混合し、この混合液を、室温環境で48時間、マグネチックスターラーを用いて撹拌して、実施例5の多孔質部形成用の塗布液を生成した。実施例5の紫外線吸収剤および紫外線安定剤は、イソシアネート基を有するアクリル系のラジカル重合性モノマーと結合するヒドロキシ基を有している。
【0118】
また、撥水剤希釈液に、紫外線吸収剤として上記RUVA-93を6mg、紫外線安定剤として上記アデカスタブLA-82を6mg、混合して、実施例5の撥水被膜形成液を生成した。
上記多孔質部形成用の塗布液および撥水被膜形成液を用い、実施例1と同様の工程によって、実施例5の撥水性多孔膜を得た。
【0119】
(実施例6)
基本溶液3に、紫外線吸収剤として上記RUVA-93を40mg、紫外線安定剤として上記アデカスタブLA-82を40mg、混合して、実施例6の多孔質部形成用の塗布液を生成した。
上記多孔質部形成用の塗布液を用い、撥水被膜の形成を行わなかったこと以外は実施例1と同様の工程によって、実施例6の撥水性多孔膜を得た。
【0120】
(実施例7)
基本溶液4に、紫外線吸収剤として上記RUVA-93を30mg、紫外線安定剤として上記アデカスタブLA-82を40mg、混合して、実施例7の多孔質部形成用の塗布液を生成した。
【0121】
また、撥水剤希釈液に、紫外線吸収剤として上記RUVA-93を6mg、紫外線安定剤として上記アデカスタブLA-82を6mg、混合して、実施例7の撥水被膜形成液を生成した。
上記多孔質部形成用の塗布液および撥水被膜形成液を用い、実施例1と同様の工程によって、実施例7の撥水性多孔膜を得た。
【0122】
(比較例1)
基本溶液1に対する紫外線吸収剤および紫外線安定剤の添加は行わずに、比較例1の多孔質部形成用の塗布液とした。
【0123】
また、撥水剤希釈液に対する紫外線吸収剤および紫外線安定剤の添加は行わずに、比較例1の撥水被膜形成液とした。
上記多孔質部形成用の塗布液および撥水被膜形成液を用い、実施例1と同様の工程によって、比較例1の撥水性多孔膜を得た。
【0124】
(比較例2)
基本溶液1に対する紫外線吸収剤および紫外線安定剤の添加は行わずに、比較例2の多孔質部形成用の塗布液とした。
【0125】
また、撥水剤希釈液に、紫外線吸収剤として上記RUVA-93を6mg、紫外線安定剤として上記アデカスタブLA-82を6mg、混合して、比較例2の撥水被膜形成液を生成した。
上記多孔質部形成用の塗布液および撥水被膜形成液を用い、実施例1と同様の工程によって、比較例2の撥水性多孔膜を得た。
【0126】
(比較例3)
基本溶液1に、紫外線吸収剤として上記Tinuvin477を30mg、紫外線安定剤として上記Tinuvin123を40mg、混合して、比較例3の多孔質部形成用の塗布液を生成した。比較例3においては、紫外線吸収剤および紫外線安定剤の双方が、アクリル系ラジカル重合性モノマーと結合する官能基を有していない。
【0127】
また、撥水剤希釈液に、紫外線吸収剤として上記RUVA-93を6mg、紫外線安定剤として上記アデカスタブLA-82を6mg、混合して、比較例3の撥水被膜形成液を生成した。
上記多孔質部形成用の塗布液および撥水被膜形成液を用い、実施例1と同様の工程によって、比較例3の撥水性多孔膜を得た。
【0128】
(比較例4)
基本溶液2に対する紫外線吸収剤および紫外線安定剤の添加は行わずに、比較例4の多孔質部形成用の塗布液とした。
【0129】
また、撥水剤希釈液に対する紫外線吸収剤および紫外線安定剤の添加は行わずに、比較例4の撥水被膜形成液とした。
上記多孔質部形成用の塗布液および撥水被膜形成液を用い、実施例1と同様の工程によって、比較例4の撥水性多孔膜を得た。
【0130】
(比較例5)
基本溶液2に対する紫外線吸収剤および紫外線安定剤の添加は行わずに、比較例5の多孔質部形成用の塗布液とした。
【0131】
また、撥水剤希釈液に、紫外線吸収剤として上記RUVA-93を6mg、紫外線安定剤として上記アデカスタブLA-82を6mg、混合して、比較例5の撥水被膜形成液を生成した。
上記多孔質部形成用の塗布液および撥水被膜形成液を用い、実施例1と同様の工程によって、比較例5の撥水性多孔膜を得た。
【0132】
(比較例6)
基本溶液2に、紫外線吸収剤として上記Tinuvin477を30mg、紫外線安定剤として上記Tinuvin123を40mg、混合して、比較例6の多孔質部形成用の塗布液を生成した。比較例6においては、紫外線吸収剤および紫外線安定剤の双方が、アクリル系ラジカル重合性モノマーと結合する官能基を有していない。
【0133】
また、撥水剤希釈液に、紫外線吸収剤として上記RUVA-93を6mg、紫外線安定剤として上記アデカスタブLA-82を6mg、混合して、比較例6の撥水被膜形成液を生成した。
上記多孔質部形成用の塗布液および撥水被膜形成液を用い、実施例1と同様の工程によって、比較例6の撥水性多孔膜を得た。
【0134】
(比較例7)
基本溶液3に対する紫外線吸収剤および紫外線安定剤の添加は行わずに、比較例7の多孔質部形成用の塗布液とした。
上記多孔質部形成用の塗布液を用い、撥水被膜の形成を行わなかったこと以外は実施例1と同様の工程によって、比較例7の撥水性多孔膜を得た。
【0135】
(比較例8)
基本溶液3に、紫外線吸収剤として上記Tinuvin477を40mg、紫外線安定剤として上記Tinuvin123を40mg、混合して、比較例8の多孔質部形成用の塗布液を生成した。比較例8においては、紫外線吸収剤および紫外線安定剤の双方が、アクリル系ラジカル重合性モノマーと結合する官能基を有していない。
上記多孔質部形成用の塗布液を用い、撥水被膜の形成を行わなかったこと以外は実施例1と同様の工程によって、比較例8の撥水性多孔膜を得た。
【0136】
(耐摩耗性評価)
各実施例および各比較例の撥水性多孔膜の表面に、250g/cmの荷重で不織布を押し当てた状態で、当該不織布を100往復させる摩耗試験を行った。そして、摩耗試験前の撥水性多孔膜に対する、摩耗試験後の撥水性多孔膜の膜厚の減少量を計測した。なお、摩耗試験に用いる不織布としては、例えば、旭化成株式会社製のベンコット(登録商標)や、日本製紙クレシア製のキムタオル等が挙げられる。本摩耗試験においては、不織布として、旭化成株式会社製のベンコットM3を使用した。
【0137】
耐摩耗性評価では、摩耗試験後の膜厚の減少が1μm以内である場合を「A+」、摩耗試験後の膜厚の減少が1μmを超え3μm以内である場合を「A」、摩耗試験後の膜厚の減少が3μmを超える場合を「C」とした。
【0138】
(撥水性評価)
各実施例および各比較例の撥水性多孔膜に対し、JISK5600-7-7に規定される促進耐候試験に従って、180W/mの放射照度の紫外線を450時間照射する耐候試験を行った。紫外線の波長は、300nm以上400nm以下である。耐候試験には、東洋精機製作所社製のアトラス・ウエザオメータCi4000を用いた。
【0139】
耐候試験前と耐候試験後との各々について、撥水性多孔膜の表面の純水の接触角を測定した。測定は、協和界面化学社製の接触角測定システム(DropMaster300)を用い、水滴サイズを2μL以上3μL以下として行った。
【0140】
撥水性評価として、耐候試験前と耐候試験後との各々について、接触角が150°以上である場合を「A」、接触角が135°以上150°未満である場合を「B」、接触角が120°以上135°未満である場合を「C」、接触角が120°未満である場合を「D」とした。
【0141】
(評価結果)
表1に、各実施例および各比較例の撥水性多孔膜における上述した多孔質部と撥水被膜との形成条件を示す。また、表2に、各実施例および各比較例の撥水性多孔膜に対する耐摩耗性評価と撥水性評価との評価結果を示す。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】
【0144】
表1,2が示すように、実施例1~8のいずれにおいても、多孔質部形成用の塗布液は、ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する紫外線吸収剤、および、上記官能基を有する紫外線安定剤の少なくとも一方を含む。こうした実施例1~8は、良好な耐摩耗性が得られるとともに、耐候試験前と耐候試験後とのいずれにおいても、良好な撥水性を示す。すなわち、紫外線照射による撥水性の低下が小さい。
【0145】
以下、各実施例および各比較例を詳細に考察する。
実施例1は、多孔質部形成用の塗布液に含まれる紫外線吸収剤と紫外安定剤との双方が、上記官能基として(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、撥水被膜形成液が、紫外線吸収剤と紫外安定剤との双方を含む。実施例1では、耐候試験前と耐候試験後とのいずれにおいても、高い撥水性が得られている。
【0146】
実施例2は、実施例1と比較して、撥水被膜形成液が、紫外線吸収剤および紫外安定剤を含んでいない点が異なる。実施例2でも、耐候試験前と耐候試験後とのいずれにおいても、高い撥水性が得られている。実施例2の撥水被膜は、フッ素系の撥水剤を含んでおり、フッ素系の撥水剤は、紫外線照射による劣化が小さい。そのため、撥水被膜が、紫外線吸収剤および紫外安定剤を含まないことの影響が小さく、耐候試験後でも高い撥水性が得られたと考えられる。ただし、上記撥水性評価のために実施した耐候試験よりも、紫外線の照射時間を長くした場合、実施例1よりも実施例2の方が、撥水性の低下が大きいことが確認された。したがって、撥水性の低下をより長期的に抑える観点では、撥水被膜が、紫外線吸収剤および紫外安定剤を含むことが好ましいことが確認された。
【0147】
実施例3は、実施例1と比較して、多孔質部形成用の塗布液に含まれる紫外線安定剤のみが、上記官能基を有する点が異なる。実施例3では、実施例1と比較すると、耐候試験後の撥水性の低下がやや大きいものの、耐候試験後でも良好な撥水性が得られている。
【0148】
実施例4は、実施例1と比較して、多孔質部形成用の塗布液に含まれる紫外線吸収剤のみが、上記官能基を有する点が異なる。実施例4でも、耐候試験前と耐候試験後とのいずれにおいても、高い撥水性が得られている。ただし、上記撥水性評価のために実施した耐候試験よりも、紫外線の照射時間を長くした場合、実施例1よりも実施例4の方が、撥水性の低下が大きいことが確認された。したがって、撥水性の低下をより長期的に抑える観点では、紫外線吸収剤および紫外安定剤の双方が、上記官能基を有することが好ましいことが確認された。
【0149】
実施例5は、実施例1と比較して、多孔質部形成用の塗布液に、イソシアネート基を有するラジカル重合性モノマーが含まれるとともに、当該塗布液に含まれる紫外線吸収剤および紫外安定剤が、上記官能基としてヒドロキシ基を有している点が異なる。実施例5でも、耐候試験前と耐候試験後とのいずれにおいても、高い撥水性が得られており、実施例5のラジカル重合性モノマーと紫外線吸収剤および紫外線安定剤との組み合わせでも、紫外線照射による撥水性の低下を抑えることができることが確認された。
【0150】
実施例6は、実施例1と比較して、多孔質部形成用の塗布液に含まれるラジカル重合性モノマーが異なり、さらに、撥水被膜を有していない点が異なる。実施例6でも、耐候試験前と耐候試験後とのいずれにおいても、高い撥水性が得られている。なお、実施例6で用いた基本溶液3に含まれるモノマーは、すべて撥水性を有しており、特に、n-ヘキシルアクリレート、および、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルメタクリレートは、高い撥水性を有する。こうした撥水成分の含有が、実施例6にて撥水被膜がなくとも良好な撥水性が得られる一因である。ただし、上記撥水性評価のために実施した耐候試験よりも、紫外線の照射時間を長くした場合、実施例1よりも実施例6の方が、撥水性の低下が大きいことが確認された。したがって、撥水性の低下をより長期的に抑える観点では、撥水被膜が形成されることが好ましいことが確認された。
【0151】
実施例7は、実施例1と比較して、多孔質部形成用の塗布液に、ラジカル重合性モノマーとして高分子量多官能モノマーが含まれる点が異なる。多孔質部用塗布液に高分子量多官能モノマーが含まれることにより、多孔質部の耐摩耗性が高められる。それゆえ、実施例7では、実施例1よりも高い耐摩耗性が得られている。そして、実施例7でも、耐候試験前と耐候試験後とのいずれにおいても、高い撥水性が得られている。
【0152】
比較例1は、実施例1と比較して、多孔質部形成用の塗布液および撥水被膜形成液のいずれにも、紫外線吸収剤および紫外線安定剤が含まれていない点が異なる。その結果、比較例1では、耐候試験後の撥水性の低下が大きく、耐候試験後の撥水性が不十分である。
【0153】
比較例2は、実施例1と比較して、多孔質部形成用の塗布液には紫外線吸収剤および紫外線安定剤が含まれておらず、撥水被膜形成液にのみ、紫外線吸収剤および紫外線安定剤が含まれている点が異なる。比較例2では、比較例1と比べると、耐候試験後の撥水性の低下は小さいものの、実施例1と比べると、耐候試験後の撥水性の低下が大きく、耐候試験後の撥水性が不十分である。紫外線照射による多孔質部の劣化の一因は、紫外線照射に起因した樹脂成分の酸化であるが、撥水被膜における酸素の透過を抑える機能は高くはないため、多孔質部そのものに紫外線吸収剤や紫外線安定剤が導入されていないと、紫外線照射に起因した多孔質部での酸化反応の抑制は困難であると考えられる。すなわち、紫外線吸収剤および紫外線安定剤の含有により撥水被膜の劣化が抑えられたとしても、多孔質部の劣化が撥水性に与える影響が大きいため、比較例2では、耐候試験後の撥水性の低下が大きくなっていると考えられる。したがって、撥水性の低下を抑えるためには、多孔質部への紫外線吸収剤や紫外線安定剤の導入が必要であることが示唆される。
【0154】
比較例3は、実施例1と比較して、多孔質部形成用の塗布液に含まれる紫外線吸収剤および紫外線安定剤が、上記官能基を有していない点が異なる。比較例3でも、比較例1と比べると、耐候試験後の撥水性の低下は小さいものの、実施例1と比べると、耐候試験後の撥水性の低下が大きく、耐候試験後の撥水性が不十分である。したがって、撥水性の低下を抑えるためには、紫外線吸収剤または紫外線安定剤が上記官能基を有して重合体に結合していることが必要であることが示唆される。
【0155】
比較例4は、実施例5と比較して、多孔質部形成用の塗布液および撥水被膜形成液のいずれにも、紫外線吸収剤および紫外線安定剤が含まれていない点が異なる。その結果、比較例4では、耐候試験後の撥水性の低下が大きく、耐候試験後の撥水性が不十分である。
【0156】
比較例5は、実施例5と比較して、多孔質部形成用の塗布液には紫外線吸収剤および紫外線安定剤が含まれておらず、撥水被膜形成液にのみ、紫外線吸収剤および紫外線安定剤が含まれている点が異なる。比較例5でも、耐候試験後の撥水性の低下が大きく、比較例2と同様、撥水性の低下を抑えるためには、多孔質部への紫外線吸収剤や紫外線安定剤の導入が必要であることが示唆される。
【0157】
比較例6は、実施例5と比較して、多孔質部形成用の塗布液に含まれる紫外線吸収剤および紫外線安定剤が、上記官能基を有していない点が異なる。比較例6でも、耐候試験後の撥水性の低下が大きく、比較例3と同様、撥水性の低下を抑えるためには、紫外線吸収剤または紫外線安定剤が上記官能基を有して重合体に結合していることが必要であることが示唆される。
【0158】
比較例7は、実施例6と比較して、多孔質部形成用の塗布液に紫外線吸収剤および紫外線安定剤が含まれていない点が異なる。その結果、比較例7では、耐候試験後の撥水性の低下が大きく、耐候試験後の撥水性が不十分である。
【0159】
比較例8は、実施例6と比較して、多孔質部形成用の塗布液に含まれる紫外線吸収剤および紫外線安定剤が、上記官能基を有していない点が異なる。比較例8でも、耐候試験後の撥水性の低下が大きく、比較例3と同様、撥水性の低下を抑えるためには、紫外線吸収剤または紫外線安定剤が上記官能基を有して重合体に結合していることが必要であることが示唆される。
【0160】
以上、実施形態および実施例にて説明したように、上記撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)多孔質部11が、ラジカル重合性モノマーの重合体と、ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する紫外線吸収剤、および、ラジカル重合性モノマーと化学的に結合可能な官能基を有する紫外線安定剤の少なくとも一方と、を含む。これにより、多孔質部11に紫外線吸収剤や紫外線安定剤が的確に導入され、多孔質部11からの紫外線吸収剤や紫外線安定剤の流出が抑えられる。その結果、紫外線照射による多孔質部11の劣化が抑えられるため、撥水性多孔膜10の撥水性の低下を抑制することができる。これにより、屋外での使用に適した、耐候性の高い撥水性多孔膜10が得られる。
【0161】
(2)ラジカル重合性モノマーがアクリル系モノマーを含み、多孔質部11は、アクリロイル基または(メタ)アクリロイル基を有する紫外線吸収剤、および、アクリロイル基または(メタ)アクリロイル基を有する紫外線安定剤の少なくとも一方を含む。あるいは、ラジカル重合性モノマーがイソシアネート基を有するアクリル系モノマーを含み、多孔質部11は、ヒドロキシ基を有する紫外線吸収剤、および、ヒドロキシ基を有する紫外線安定剤の少なくとも一方を含む。こうした構成によれば、ラジカル重合性モノマーの重合体と紫外線吸収剤や紫外線安定剤との化学的な結合が好適に形成される。したがって、多孔質部11に紫外線吸収剤や紫外線安定剤が的確に導入される。
【0162】
(3)撥水性多孔膜10が、多孔質部11の表面上に位置する撥水被膜12を有するため、撥水性多孔膜10の撥水性が高められる。さらに、撥水被膜12が、紫外線吸収剤、および、紫外線安定剤の少なくとも一方を含むことにより、紫外線照射による撥水被膜12の劣化が抑えられるため、撥水性多孔膜10の撥水性の低下をさらに抑制することができる。
【0163】
(4)撥水性多孔膜10の表面における水の接触角が140°以上であれば、高い撥水性が得られる。また、JIS K 5600-7-7に規定される促進耐候試験に従って、180W/mの紫外線を450時間照射した後の撥水性多孔膜10の表面における水の接触角が140°以上であれば、紫外線照射による撥水性の低下が的確に抑えられる。
【0164】
(5)撥水性多孔膜10の製造方法において、多孔質部11の形成のための塗布液として、ラジカル重合性モノマーと、細孔形成剤と、上記官能基を有する紫外線吸収剤、および、上記官能基を有する紫外線安定剤の少なくとも一方と、を含む塗布液が用いられる。そして、塗布液を基材に塗布することにより塗膜を形成する工程と、塗膜にてラジカル重合反応を進行させる工程と、ラジカル重合反応後の塗膜から細孔形成剤を除去することで、当該膜に細孔Prを形成して多孔質部11を形成する工程とが行われることによって、撥水性多孔膜10が製造される。これにより、多孔質部11に紫外線吸収剤や紫外線安定剤が的確に導入され、多孔質部11からの紫外線吸収剤や紫外線安定剤の流出が抑えられる。そのため、紫外線照射による撥水性の低下が抑制された撥水性多孔膜10が得られる。
【符号の説明】
【0165】
Pr…細孔
Rg…凹凸構造
10…撥水性多孔膜
11…多孔質部
12…撥水被膜
図1
図2