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特開2022-54238撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法
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  • 特開-撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054238
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20220330BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20220330BHJP
   C09D 4/00 20060101ALI20220330BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220330BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220330BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
C08J9/28 CEY
C09K3/18 101
C09D4/00
C09D7/20
C09D5/00 Z
C08J5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161311
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】増子 達也
(72)【発明者】
【氏名】星 沙耶佳
【テーマコード(参考)】
4F071
4F074
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4F071AA26
4F071AA33
4F071AA67
4F071AC06
4F071AC07
4F071AC10
4F071AC12
4F071AC19
4F071AE05
4F071AE10
4F071AE19
4F071AF04
4F071AF22
4F071AG02
4F071AG34
4F071AH03
4F071AH07
4F071AH17
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
4F071BB12
4F071BC01
4F074AA38
4F074AA48
4F074AD05
4F074AD07
4F074AD11
4F074AG20
4F074BC05
4F074CB47
4F074CC06X
4F074CC22X
4F074CC28Y
4F074CC50X
4F074DA02
4F074DA24
4F074DA59
4H020BA02
4J038FA111
4J038FA151
4J038FA241
4J038FA271
4J038JA13
4J038JA25
4J038JA30
4J038JA55
4J038JB12
4J038KA04
4J038KA06
4J038MA06
4J038NA07
4J038NA11
4J038PA17
4J038PB05
4J038PB06
4J038PB07
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】撥水性の向上と耐摩耗性の低下の抑制とを可能とした撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法を提供する。
【解決手段】撥水性多孔膜10の第1面11Fでは、多孔質部12の多孔構造に基づく凹凸である微小凹凸20が、上記多孔構造による段差よりも大きな段差を含む凹凸である表面凹凸30に沿って並ぶ。第1面11Fにおける最大谷深さSvは、1μm以上5μm以下であり、第1面11Fにおける要素平均長さRSmは、5μm以上50μm以下である。撥水性多孔膜10の空隙率は、40%以上60%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性モノマーの重合体を含む膜状の多孔質部を有する撥水性多孔膜であって、
前記撥水性多孔膜の表面では、前記多孔質部の多孔構造に基づく凹凸である微小凹凸が、前記多孔構造による段差よりも大きな段差を含む凹凸である表面凹凸に沿って並び、
前記表面における最大谷深さSvは、1μm以上5μm以下であり、前記表面における要素平均長さRSmは、5μm以上50μm以下であり、
前記撥水性多孔膜の空隙率は、40%以上60%以下である
撥水性多孔膜。
【請求項2】
前記表面は第1面であり、
前記撥水性多孔膜は、前記第1面と、前記第1面とは反対側の面である第2面とを有し、前記第2面では、前記多孔質部の多孔構造に基づく凹凸が平坦面に沿って並ぶ
請求項1に記載の撥水性多孔膜。
【請求項3】
前記表面凹凸は、凸部を含み、
前記凸部の頂部では、前記微小凹凸が平坦面に沿って並ぶ
請求項1または2に記載の撥水性多孔膜。
【請求項4】
撥水剤を含み、前記多孔質部の表面上に位置する撥水被膜をさらに有する
請求項1~3のいずれか一項に記載の撥水性多孔膜。
【請求項5】
前記撥水性多孔膜の前記表面における水の接触角は、140°以上である
請求項1~4のいずれか一項に記載の撥水性多孔膜。
【請求項6】
膜状の多孔質部を有する撥水性多孔膜の製造方法であって、
ラジカル重合性モノマーと、前記ラジカル重合性モノマーに対して不活性な溶媒である細孔形成剤とを含む塗布液を基材の上面に塗布することにより、塗膜を形成する工程と、
表面に凹凸を有するシート状のモールドの前記表面を前記塗膜の上面に接触させた状態で、前記塗膜にてラジカル重合反応を進行させる工程と、
前記ラジカル重合反応後の前記塗膜から前記モールドを剥離し、前記塗膜から前記細孔形成剤を除去することで、当該膜に細孔を形成して前記多孔質部を形成する工程と、
を含み、
前記撥水性多孔膜の表面は、前記塗膜の前記上面に対応する面であり、前記モールドの前記凹凸に由来する凹凸であって、前記多孔質部の多孔構造による段差よりも大きな段差を含む表面凹凸を有し、
前記撥水性多孔膜の前記表面における最大谷深さSvが、1μm以上5μm以下となり、前記表面における要素平均長さRSmが、5μm以上50μm以下となるように、前記表面凹凸を形成し、
前記撥水性多孔膜の空隙率が40%以上60%以下となるように、前記多孔質部を形成する
撥水性多孔膜の製造方法。
【請求項7】
前記モールドの前記凹凸は、複数の凹部を区画する1つの連続した凸部を含む
請求項6に記載の撥水性多孔膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な凹凸構造を有する表面は、水滴との接触面積を小さくできることから、高い撥水性を示すことが知られている。それゆえ、こうした表面構造について、建築物や自動車外装の外観維持や着氷防止、船舶底面の流体抵抗の低減、航空機の翼部分の凍結による不具合防止、熱交換機の結露の高速除去、霜防止による効率向上等、様々な用途への活用が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、マイクロサイズの凹凸構造を表面に有する基材上に、疎水性の微粒子膜を形成することにより、高い撥水性を示す表面を有した構造体が得られることが記載されている。しかしながら、上記構造体には、特に基材の凸部の頂部上の部分で微粒子膜が摩耗しやすいという問題がある。
【0004】
一方、微細な凹凸構造を表面に有する構造体の他の形成方法として、ポリマーの相分離現象を利用する方法が提案されている。例えば、特許文献2には、エネルギー線の照射により重合可能なモノマーと、当該モノマーに相溶な一方で当該モノマーが重合したポリマーには非相溶な溶媒とを混合し、この混合物にエネルギー線を照射してモノマーを重合させた後に上記溶媒を除去することで、表面から内部にまで凹凸が連なった多孔性の膜が形成できることが記載されている。こうした多孔性の膜である撥水性多孔膜では、微粒子膜と比較して高い膜強度が得られるため、耐摩耗性の向上が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5296675号公報
【特許文献2】特許第4616414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
構造体の表面の撥水性をより高めるためには、表面の凹凸構造がより複雑であること、具体的には、互いに異なるサイズの凹凸構造が表面に混在していることが好ましい。それゆえ、撥水性多孔膜の表面に、多孔構造による凹凸よりも大きなサイズの凹凸を付与することが検討されている。しかしながら、表面への大きな凹凸の付与は、撥水性多孔膜の膜強度の低下、すなわち、耐摩耗性の低下を招く場合がある。したがって、耐摩耗性の低下を抑制しつつ撥水性の向上が可能な撥水性多孔膜の表面構造が望まれている。
【0007】
本発明は、撥水性の向上と耐摩耗性の低下の抑制とを可能とした撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための撥水性多孔膜は、ラジカル重合性モノマーの重合体を含む膜状の多孔質部を有する撥水性多孔膜であって、前記撥水性多孔膜の表面では、前記多孔質部の多孔構造に基づく凹凸である微小凹凸が、前記多孔構造による段差よりも大きな段差を含む凹凸である表面凹凸に沿って並び、前記表面における最大谷深さSvは、1μm以上5μm以下であり、前記表面における要素平均長さRSmは、5μm以上50μm以下であり、前記撥水性多孔膜の空隙率は、40%以上60%以下である。
【0009】
上記構成によれば、撥水性多孔膜の表面が、微小凹凸と表面凹凸とを組み合わせた凹凸を有するため、撥水性が高められる。そして、最大谷深さSvおよび要素平均長さRSmが上記範囲であることにより、表面凹凸の起伏が撥水性の向上のために十分に得られる一方で、当該起伏が過剰になることが抑えられるため、耐摩耗性の低下を抑えることができる。また、空隙率が上記範囲であることにより、微小凹凸の起伏が撥水性の向上のために十分に得られるとともに、空隙が過剰になることが抑えられるため、耐摩耗性の低下を抑えることができる。これにより、撥水性多孔膜において、耐摩耗性の低下を抑制しつつ撥水性を高めることができる。
【0010】
上記構成において、前記表面は第1面であり、前記撥水性多孔膜は、前記第1面と、前記第1面とは反対側の面である第2面とを有し、前記第2面では、前記多孔質部の多孔構造に基づく凹凸が平坦面に沿って並んでもよい。
【0011】
上記構成によれば、撥水性多孔膜が、多孔構造による段差よりも大きな段差を含む凹凸を第2面にも有する場合、例えば、断面が波形の形状を有する場合と比較して、表面凹凸の強度を高めることが可能である。したがって、撥水性多孔膜の耐摩耗性を高めることができる。
【0012】
上記構成において、前記表面凹凸は、凸部を含み、前記凸部の頂部では、前記微小凹凸が平坦面に沿って並んでもよい。
上記構成によれば、凸部が尖った頂部を有する場合と比較して、表面凹凸の強度が高められるため、撥水性多孔膜の耐摩耗性の向上が可能である。
【0013】
上記構成において、撥水性多孔膜は、撥水剤を含み、前記多孔質部の表面上に位置する撥水被膜をさらに有してもよい。
上記構成によれば、撥水性多孔膜の撥水性がより高められる。
【0014】
上記構成において、前記撥水性多孔膜の前記表面における水の接触角は、140°以上であってもよい。
上記構成によれば、撥水性多孔膜において、高い撥水性が得られる。
【0015】
上記課題を解決するための撥水性多孔膜の製造方法は、膜状の多孔質部を有する撥水性多孔膜の製造方法であって、ラジカル重合性モノマーと、前記ラジカル重合性モノマーに対して不活性な溶媒である細孔形成剤とを含む塗布液を基材の上面に塗布することにより、塗膜を形成する工程と、表面に凹凸を有するシート状のモールドの前記表面を前記塗膜の上面に接触させた状態で、前記塗膜にてラジカル重合反応を進行させる工程と、前記ラジカル重合反応後の前記塗膜から前記モールドを剥離し、前記塗膜から前記細孔形成剤を除去することで、当該膜に細孔を形成して前記多孔質部を形成する工程と、を含み、前記撥水性多孔膜の表面は、前記塗膜の前記上面に対応する面であり、前記モールドの前記凹凸に由来する凹凸であって、前記多孔質部の多孔構造による段差よりも大きな段差を含む表面凹凸を有し、前記撥水性多孔膜の前記表面における最大谷深さSvが、1μm以上5μm以下となり、前記表面における要素平均長さRSmが、5μm以上50μm以下となるように、前記表面凹凸を形成し、前記撥水性多孔膜の空隙率が40%以上60%以下となるように、前記多孔質部を形成する。
【0016】
上記製法によれば、微小凹凸と表面凹凸とを組み合わせた凹凸を有する撥水性多孔膜が製造されるため、撥水性の向上と耐摩耗性の低下の抑制とが可能な撥水性多孔膜が得られる。そして、上記製法では、モールドの凹凸を塗膜の上面に接触させた状態で、塗膜にてラジカル重合反応を進行させることにより、表面凹凸となる凹凸を塗膜に形成する。これにより、塗膜の形成のための塗布液の粘度が低い場合にも、塗膜の上面に好適に凹凸を形成することができる。
【0017】
上記製法において、前記モールドの前記凹凸は、複数の凹部を区画する1つの連続した凸部を含んでもよい。
上記製法によれば、塗膜からのモールドの剥離を円滑に進めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、撥水性多孔膜において、耐摩耗性の低下を抑制しつつ撥水性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施形態の撥水性多孔膜の断面構造を示す図。
図2】一実施形態の撥水性多孔膜の平面構造を示す図。
図3】一実施形態の撥水性多孔膜の製造に用いられるモールドの断面構造および平面構造を示す図。
図4】一実施形態の撥水性多孔膜の製造工程を示す図であって、塗布液の塗布により基材上に形成された塗膜を示す図。
図5】一実施形態の撥水性多孔膜の製造工程を示す図であって、塗膜上に配置したモールドを示す図。
図6】一実施形態の撥水性多孔膜の製造工程を示す図であって、活性エネルギー線の照射工程を示す図。
図7】一実施形態の撥水性多孔膜の製造工程を示す図であって、細孔形成剤の除去により形成された多孔質部を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照して、撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法の一実施形態を説明する。
[撥水性多孔膜の構造]
図1が示すように、撥水性多孔膜10は、巨視的に見て凹凸を有する第1面11Fと、第1面11Fとは反対側の面であって、巨視的に見て平坦な第2面11Rとを有している。撥水性多孔膜10は、主として膜状の多孔質部12から構成されており、第1面11Fおよび第2面11Rの各々は、微視的には、多孔質部12の多孔構造に基づく凹凸を有している。
【0021】
多孔質部12は、ラジカル重合性モノマーの重合体を含み、微小な粒状の塊が連なった構造を有する。言い換えれば、多孔質部12は、粒状のドメインが三次元的に連結した構造を有している。こうしたドメインの連なりによって、多孔質部12は、その表面に微細な凹凸構造である微小凹凸20を有し、その内部に多数の細孔21を有している。換言すれば、微小凹凸20は、多孔質部12の内部にも形成されており、微小凹凸20の連なりによって区画される隙間が細孔21である。さらに、撥水性多孔膜10は、多孔質部12の微小凹凸20の表面に、撥水剤を含む撥水被膜13を有している。
【0022】
第1面11Fは、上記ドメインの連なりによる微小凹凸20での段差よりも大きい段差からなる凹凸構造である表面凹凸30を有している。そして、第1面11Fにおいては、表面凹凸30に沿って、微小凹凸20が並んでいる。微小凹凸20での段差は例えばナノサイズであり、表面凹凸30での段差は例えばマイクロサイズである。
【0023】
表面凹凸30における段差の大きさは、第1面11Fにおける最大谷深さSvおよび要素平均長さRSmに反映される。第1面11Fの最大谷深さSvは、1μm以上5μm以下であり、第1面11Fの要素平均長さRSmは、5μm以上50μm以下である。最大谷深さSvは、ISO 25178に準拠して、また、要素平均長さRSmは、JIS B 0601:2013に準拠して測定される。
【0024】
最大谷深さSvおよび要素平均長さRSmは、第1面11Fの平面視にて0.16mmの面積を有する正方形領域に対して測定される。測定には、共焦点レーザー顕微鏡が用いられる。なお、測定の方向によって要素平均長さRSmが異なる場合には、上記正方形領域の中心を通る縦方向、横方向、および、2つの対角線方向について要素平均長さRSmを測定し、最も小さい値を第1面11Fの要素平均長さRSmとする。
【0025】
第2面11Rは、上記範囲の最大谷深さSvおよび要素平均長さRSmを生じさせる段差を有していない。言い換えれば、第2面11Rは、微小凹凸20での段差よりも大きい段差を有しておらず、第2面11Rにおいては、平坦面に沿って、微小凹凸20が並んでいる。第2面11Rの最大谷深さSvは1μm未満であり、第2面11Rの要素平均長さRSmは50μmよりも大きい。なお、撥水性多孔膜10は、単独の膜として用いられてもよいし、第2面11Rが基材に支持された状態で用いられてもよい。
【0026】
上記構成によれば、撥水性多孔膜10の第1面11Fおよび第2面11Rは、多孔質部12の多孔構造に基づく凹凸を有する。こうした微細な凹凸へは水が浸入し難いため、撥水性多孔膜10の表面に水滴が付着したとしても、表面と水滴との接触面積が非常に小さくなる。そのため、撥水性多孔膜10の表面において水滴が弾かれやすくなり、高い撥水性が得られる。そして、撥水被膜13が形成されていることにより、撥水性多孔膜10の表面の撥水性がより高められる。
【0027】
さらに、第1面11Fは、多孔質部12の多孔構造による微小凹凸20よりも大きな表面凹凸30を有する。このように、第1面11Fが、サイズの異なる2種類の凹凸が重なった構造を有することにより、第1面11Fの凹凸に水がより浸入し難くなるため、第1面11Fの撥水性がより高められる。
【0028】
第1面11Fにおいて、最大谷深さSvが1μm以上であることにより、表面凹凸30における起伏の大きさが十分に得られるため、撥水性の向上効果が好適に得られる。また、要素平均長さRSmが50μm以下であることにより、表面凹凸30において起伏が十分に多く得られるため、撥水性の向上効果が好適に得られる。
【0029】
一方、表面凹凸30における起伏が大きすぎると、第1面11Fが布等の擦過体によって擦られたときに、起伏に擦過体が引っ掛かりやすくなる。起伏に擦過体が引っ掛かると、起伏の付近で表面凹凸30が大きな外力を受けて崩れやすくなる。第1面11Fの最大谷深さSvが5μm以下であれば、表面凹凸30における起伏が大きくなりすぎないため、擦過体が引っ掛かりにくくなる。それゆえ、表面凹凸30の崩れが生じ難くなり、すなわち、第1面11Fの耐摩耗性の低下が抑えられる。また、表面凹凸30における起伏が多すぎると、表面凹凸30にて擦過体が引っ掛かり得る箇所が多くなるため、表面凹凸30に擦過体が引っ掛かりやすくなる。第1面11Fの要素平均長さRSmが5μm以上であれば、表面凹凸30における起伏が多くなりすぎないため、表面凹凸30に擦過体が引っ掛かりにくくなる。それゆえ、表面凹凸30の崩れが生じ難くなり、これによっても、第1面11Fにおける耐摩耗性の低下が抑えられる。
【0030】
また、第2面11Rでは、微小凹凸20が平坦面に沿って並ぶため、撥水性多孔膜10が、表面凹凸30を第2面11Rにも有する場合、例えば、断面が波形の形状を有する場合と比較して、表面凹凸30の強度を高めることが可能であり、また、撥水性多孔膜10の膜厚を大きく確保しやすい。したがって、撥水性多孔膜10の耐摩耗性を高めることが可能である。
【0031】
なお、仮に撥水性多孔膜10の継続的な使用によって多孔質部12の最表面が摩耗したとしても、その下の微小凹凸20が最表面に露出することにより撥水性多孔膜10の表面には凹凸が位置し続ける。したがって、撥水性多孔膜10においては、長期的な撥水性の持続が可能である。
【0032】
第1面11Fの最大谷深さSvおよび要素平均長さRSmが上記範囲内であれば、表面凹凸30が含む凸部や凹部の形状は特に限定されない。
第1面11Fの耐摩耗性の低下を抑える観点では、表面凹凸30が含む凸部は、外力によって崩れにくい形状を有していることが好ましい。例えば、図1が示すように、凸部31が巨視的に平坦な頂面を有していると、凸部31が尖った頂部を有する場合と比較して、外力に対して凸部31が崩れにくくなる。言い換えれば、凸部31の頂部においては、平坦面に沿って微小凹凸20が並んでいることが好ましい。また、凸部31の幅が、凸部31の頂面から基部に向けて大きくなっていることにより、外力に対して凸部31が崩れにくくなる。具体的には、凸部31は、円錐台状や角錘台状を有し、すなわち、撥水性多孔膜10の厚さ方向に沿った断面において台形形状を有することが好ましい。
【0033】
また、第1面11Fの最大谷深さSvおよび要素平均長さRSmが上記範囲内であれば、表面凹凸30が含む凸部や凹部は、規則的に配置されていてもよいし、不規則に並んでいてもよい。
【0034】
図2は、第1面11Fと対向する位置から見た表面凹凸30の一例であり、四角錘台状の凸部31が、正方格子状に並ぶ例を示す。凸部31の頂面は正方形である。この場合、互いに隣り合う凸部31の間に形成される凹部32は、第1面11Fと対向する位置から見て格子状に延びる1つの連続した凹部である。凸部31が正方格子状のように規則的に並ぶ形態であれば、第1面11Fの最大谷深さSvおよび要素平均長さRSmが上記範囲内となるように、表面凹凸30を設計することが容易である。
【0035】
ここで、帯状に延びる複数の凸部が所定の間隔で平行に配置される場合のように、表面凹凸30が含む凸部や凹部が1つの方向に沿って並ぶ場合、言い換えれば、表面凹凸30のパターンが異方性を有する場合、第1面11Fで弾かれた水滴が第1面11F上で表面凹凸30の配列に依存した特定の方向に転がりやすくなる。撥水性多孔膜10の用途に応じて、第1面11F上での水滴の転がる方向が特定の方向となることが望まれる場合には、凸部や凹部が1つの方向に沿って並ぶように、その配列が設定されることが好ましい。一方、第1面11F上での水滴の転がる方向が特定の方向に限定されないことが望まれる場合には、凸部や凹部が正方格子のように2以上の方向の各々に沿って並ぶように、その配列が設定されることが好ましい。
【0036】
なお、多孔質部12における細孔21の大きさおよび微小凹凸20の粗さは、多孔質部12の形成のための材料によって調整可能である。多孔質部12は、微小凹凸20の連なりからなる細孔21を有する多孔質状であれば、粒状のドメインが連なった構造とは異なる構造を有していてもよい。
【0037】
また、撥水被膜13は、少なくとも、第1面11Fにおける多孔質部12の最表面、言い換えれば、微小凹凸20の最外部に形成されていればよい。撥水性多孔膜10の撥水性の持続性を高める観点では、撥水被膜13は、多孔質部12の最表面に加えて、多孔質部12の内部で細孔21を区画している微小凹凸20の表面にも形成されていることが好ましい。
さらに、撥水性多孔膜10は、少なくとも多孔質部12を有していればよく、言い換えれば、撥水性多孔膜10は、撥水被膜13を有していなくてもよい。
【0038】
[撥水性多孔膜の材料]
以下、撥水性多孔膜10の材料の詳細について説明する。
【0039】
<塗布液>
撥水性多孔膜10の多孔質部12は、多孔質部12の材料を含む塗布液を基材に塗布し、重合反応を行った後、上記塗布液の溶媒を除去することによって形成される。塗布液は、ラジカル重合性モノマーと、上記溶媒である細孔形成剤とを含む。また、塗布液は、重合開始剤や各種の添加剤を含んでいてもよい。以下、塗布液に含まれる材料の詳細を説明する。
【0040】
(ラジカル重合性モノマー)
塗布液が含有するラジカル重合性モノマーは、反応速度の速さが良好である等の観点から、アクリロイル基、(メタ)アクリロイル基、α塩素置換アクリロイル基、アクリルアミド、メタクリルアミド等の構造を有するモノマーであることが好ましい。特に、アクリロイル基や(メタ)アクリロイル基を有するモノマーであれば、様々な構造のモノマーを安価に入手できることから、これらのモノマーを用いることで、多孔質部12の製造に要するコストの削減が可能である。
【0041】
塗布液が含有するラジカル重合性モノマーには、分子量が1000以下であり、かつ、下記(式1)で表される反応点価Vが500以下である低分子量モノマーが含まれることが好ましい。反応点価Vは、下記(式1)に示すように、モノマーの分子量を、モノマー1分子が有する反応点の数、すなわち、ラジカル重合反応官能基の数で除した値である。
反応点価V=分子量/分子中のラジカル重合反応官能基の数 ・・・(式1)
【0042】
なお、モノマーの構造に分布がある場合、反応点価Vの計算に際して、分子量および反応点の数については、その平均値が代表値として用いられる。
上記低分子量モノマーが重合されることにより、多孔質部12の微小凹凸20が好適に形成されて撥水性が高められるとともに、多孔質部12の耐摩耗性が高められる。
【0043】
上記低分子量モノマーは、例えば、硬化樹脂膜を形成する際に汎用的に用いられるモノマーのなかから、塗布液の粘度の調整、細孔形成剤との相溶性の調整、多孔質部12の硬度の調整、多孔質部12における細孔21の形状や大きさの調整、多孔質部12の表面の濡れ性の調整等の観点に基づき適宜選択することができる。
【0044】
上記低分子量モノマーの一例は、1官能(メタ)アクリロイル基を有するモノマーである。1官能(メタ)アクリロイル基を有するモノマーとしては、例えば、市販されているモノマーとして、アルキル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリセロールアクリレートメタクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、ω-カルボキシカプロラクトンモノアクリレート、フッ素置換アルキル(メタ)アクリレート、塩素置換アルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸-2-メチルプロパン-2-アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルクロライド、(メタ)アクリルアルデヒド、シラノ基含有(メタ)アクリレート、((ジ)アルキル)アミノ基含有(メタ)アクリレート、4級((ジ)アルキル)アンモニウム基含有(メタ)アクリレート、(N-アルキル)アクリルアミド、(N,N-ジアルキル)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ポリジメチルシロキサン鎖含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
また、上記低分子量モノマーの他の例は、(メタ)アクリロイル基を有し、1分子中に2つ以上の官能基を有するモノマーである。
(メタ)アクリロイル基を有する低分子量モノマーのうち、2官能モノマーの例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、エチレングリコール3-20量体を架橋鎖として有するジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコール3-20量体を架橋鎖として有するジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2′-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、2,2′-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン、ヒドロキシジピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ビス(アクロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、N-メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0046】
(メタ)アクリロイル基を有する低分子量モノマーのうち、3官能モノマーの例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0047】
(メタ)アクリロイル基を有する低分子量モノマーのうち、4官能モノマーの例としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられ、6官能モノマーの例としては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0048】
また、塗布液が含有するラジカル重合性モノマーには、分子量が10000以上であり、かつ、上記(式1)で表される反応点価Vが250以上である高分子量多官能モノマーが含まれていてもよい。ラジカル重合性モノマーに高分子量多官能モノマーが含まれることにより、多孔質部12の耐摩耗性が高められる。また、上記高分子量多官能モノマーの分子量が25000以上であれば、多孔質部12の耐摩耗性がより高められる。
【0049】
塗布液が、上記低分子量モノマーに加えて上記高分子量多官能モノマーを含む場合、高分子量多官能モノマーとしては、低分子量モノマーと相溶性を有するモノマーが選択される。本実施形態において、低分子量モノマーと相溶性を有するモノマーとは、低分子量モノマーと、対象のモノマーとを1対1の質量比で混合した際に、透明な均一液体になるモノマーである。
【0050】
高分子量多官能モノマーは、例えば、ポリエチレングリコールである軸分子と、ラジカル重合性反応基を有するシクロデキストリンである環状分子とを有するポリロタキサン分子である。当該ポリロタキサン分子は、環状分子であるシクロデキストリンに、軸分子であるポリエチレングリコール鎖が包摂された構造を有する。こうした構造では、環状分子が軸分子に共有結合していないため、環状分子が軸分子に沿って自由に移動できる。このため、多孔質部12の変形に対する耐性を高めることができる。
【0051】
こうしたポリロタキサン分子の例としては、アドバンスト・ソフトマテリアル社製のSREMシリーズ(SM1303P、SM2403P、SM3403P、SA1303P、SA2403P、SA3403P)が挙げられる。その他、高分子量多官能モノマーの例としては、共栄社化学社製のSMPシリーズ(SMP-250A、SMP-360A、SMP-550A、SMP-1500A)、根上工業社製のTPMAP-6003、TPMAP-6001、ダイセル・オルネクス社製のサイクロマPZ200M、サイクロマPZ230AA、ACA-Z251、ACA-Z320が挙げられる。
【0052】
塗布液が高分子量多官能モノマーを含む場合、塗布液が含有するラジカル重合性モノマー全体に対する高分子量多官能モノマーの質量割合は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。当該範囲内の添加量で高分子量多官能モノマーを加えることによって、多孔質部12の耐摩耗性を好適に高めることができる。
なお、塗布液が含有するラジカル重合性モノマーには、上記低分子量モノマーおよび上記高分子量多官能モノマー以外のモノマーが含まれてもよい。
【0053】
(細孔形成剤)
細孔形成剤は、塗膜に細孔21を形成するための溶媒であり、ラジカル重合性モノマーに対して不活性である。細孔形成剤は、ラジカル重合反応である付加重合反応を阻害しない溶媒であって、塗布液の全ての成分が混合された後に、経時で不均一化しない相溶状態を形成するとともに、ラジカル重合反応の完了後に除去されることで細孔21を形成可能な組成を有していればよい。
【0054】
細孔21の形成に適した細孔形成剤は、塗布液に含まれるラジカル重合性モノマーの組成によって異なる。このため、細孔形成剤は、ラジカル重合性モノマーとして用いられる各種のモノマーに応じて適切に選択される必要がある。例えば、塗布液が、ラジカル重合性モノマーとして親水性の官能基を有するモノマーを多く含む場合には、ミリスチン酸メチル等のように、長い炭化水素鎖を有する極性の低い分子からなる溶媒を細孔形成剤として用いると、発達した相分離構造が形成される傾向があるため好ましい。
【0055】
また、ラジカル重合反応を開放環境で行う場合には、少なくともラジカル重合反応の進行期間における細孔形成剤の揮発量の割合が小さいことが求められる。このため、細孔形成剤としては、揮発性の小さい分子からなる溶媒を使用することが望ましい。
【0056】
開放環境においてラジカル重合反応を行う場合に適した細孔形成剤としては、例えば、ジエチルカーボネート、キシレン、ジメチルアセトアミド、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、オルトクレゾール、パラクレゾール、デカン酸メチル、ミリスチン酸メチル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエキシルエーテル、ジイソペンチルエーテル、酢酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル、酢酸2-(2ブトキシエトキシ)エチル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0057】
なお、塗布液に高分子量多官能モノマーを添加する場合には、高分子量多官能モノマーを溶解するために、例えばジエチレングリコールジブチルエーテル等のように、極性の高い分子からなる溶媒を、細孔形成剤として用いる、あるいは、細孔形成剤に添加することが好ましい。
【0058】
(重合開始剤)
ラジカル重合性モノマーの重合に活性エネルギー線の照射を利用する場合、重合開始剤としては、活性エネルギー線の照射によりラジカル重合反応を開始させることが可能な化合物であれば、特に制限なく用いることができる。
【0059】
例えば、重合開始剤としては、p-tert-ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2′-ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等のアセトフェノン類、ベンゾフェノン、4,4′-ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン等のケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のベンジルケタール類、N-アジドスルフォニルフェニルマレイミド等のアジドが挙げられる。こうした重合開始剤を塗布液に添加することで、塗布液に活性エネルギー線を照射することによってラジカル重合反応を開始させることができる。
【0060】
また、活性エネルギー線の照射に代えて、塗布液を加熱することによりラジカル重合反応を開始させる場合は、重合開始剤として、アゾ-ビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物や、過酸化ベンゾイル等の過酸化物を用いればよい。こうした重合開始剤を塗布液に添加することで、塗布液の加熱によってラジカル重合反応を開始させることができる。
重合反応の好適な進行のためには、塗布液への重合開始剤の添加量は、ラジカル重合性モノマー全体の質量に対して0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0061】
(添加剤)
塗布液には、細孔形成剤として用いられる溶媒に溶解可能な増粘剤が添加されてもよい。増粘剤の添加量は、塗布液の均一性が保持される範囲内とされる。例えば、塗布液には、増粘剤として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールの誘導体、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等が加えられてもよい。多孔質部12における細孔21の形状は、塗布液の粘度によって変化する。細孔形成剤の除去工程において、洗浄によって細孔形成剤を除去する場合には、塗布液に添加される増粘剤の質量割合が、塗布液全体の質量に対して2質量%以下であると、細孔形成剤の除去が容易であるため好ましい。
【0062】
また、塗布液には、塗布適性の調整のために表面調整剤が添加されてもよい。例えば、塗布液には、表面調整剤として、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン化合物等の低表面張力化合物が添加されてもよい。表面調整剤の添加は少量でよく、塗布液全体の質量に対して0.1質量%以下の量の表面調整剤を加えることで、表面調整剤は十分に機能する。
【0063】
また、塗布液には、多孔質部12の表面の撥水性の向上のために、撥水剤が添加されてもよい。撥水剤としては、炭素数6以上のアルキル基やフッ素化アルキル基を含む化合物等が用いられる。
【0064】
<撥水剤>
撥水被膜13の形成に用いる撥水剤としては、例えば、フッ素化アルキル基含有アクリレート重合体を含むポリマー、パーフルオロポリエーテル基を有するポリマー、ポリジメチルシロキサン部分を含むポリマー、炭素数4以上のアルキル基を有するポリマー等が挙げられる。撥水剤が、微小凹凸20の表面との共有結合を形成可能な官能基を有していると、塗布された撥水剤と微小凹凸20の表面との間に共有結合が形成されて撥水被膜13が微小凹凸20の表面から脱落しにくくなるため、好ましい。
【0065】
撥水剤を所定の溶媒を用いて希釈することにより、撥水被膜13の形成のための溶液である撥水被膜形成液が生成される。撥水被膜形成液には、撥水被膜13の着色のための染料が含有されていてもよい。
【0066】
[撥水性多孔膜の製造方法]
撥水性多孔膜10の製造方法は、塗布液の塗布工程と、ラジカル重合反応工程と、細孔形成剤の除去工程と、撥水被膜の形成工程とを含む。これらの工程が順に行われることにより、撥水性多孔膜10が製造される。ラジカル重合反応工程では、モールドを用いて表面凹凸30の形成が行われる。なお、撥水性多孔膜10が撥水被膜13を有さない場合には、撥水被膜の形成工程は行われない。
【0067】
まず、表面凹凸30の形成に用いられるモールドの構造について説明する。
図3が示すように、モールド40は、凹凸面41Fを有するシート状の構造体である。凹凸面41Fは、凹凸構造である成形用凹凸42を有する。
【0068】
活性エネルギー線の照射によってラジカル重合性モノマーの重合を進行させる場合には、モールド40は、例えば紫外線である活性エネルギー線の吸収が小さい材料から形成される。また、加熱によってラジカル重合性モノマーの重合を進行させる場合には、モールド40は、加熱による変形が小さい材料から形成される。表面凹凸30の形成後のモールド40の剥離を容易にする観点では、モールド40は可撓性を有していることが好ましい。具体的には、モールド40は、ポリエチレンテレフタレートやアクリル樹脂等の樹脂から形成されていることが好ましい。また、モールド40における凹凸面41Fには、離型処理が施されていることが好ましい。
成形用凹凸42の形成には、例えば、熱や紫外線を利用した転写成形、射出成形、切削等の機械加工、エッチング等が用いられる。
【0069】
成形用凹凸42は、ラジカル重合性モノマーの重合および細孔形成剤の除去によって形成される多孔構造による段差よりも大きな段差を含む。撥水性多孔膜10の表面凹凸30は、成形用凹凸42に由来する凹凸であり、具体的には、表面凹凸30は、成形用凹凸42が反転された凹凸にほぼ一致する凹凸となる。成形用凹凸42の設計を通じて、表面凹凸30における起伏の大きさや頻度、すなわち、撥水性多孔膜10の第1面11Fの最大谷深さSvおよび要素平均長さRSmを制御することができる。第1面11Fの最大谷深さSvおよび要素平均長さRSmを好適な範囲とするためには、凹凸面41Fにおける最大谷深さSvは、1μm以上5μm以下であり、凹凸面41Fにおける要素平均長さRSmは、5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0070】
成形用凹凸42が含む凸部や凹部の形状や配置は、所望の表面凹凸30における凸部や凹部の形状や配置に応じて設定される。例えば、図3では、成形用凹凸42が、突条状に延びる凸部43を含む例を示している。凸部43は、モールド40の厚さ方向および凸部43の幅方向に沿った断面において三角形状を有し、凹凸面41Fと対向する位置から見て格子状に延びる1つの連続した凸部である。凸部43の高さH,幅D,凸部43からなる格子の間の長さLは、凹凸面41Fにおける所望の最大谷深さSvおよび要素平均長さRSmに応じて定められる。格子状の凸部43によって区画される凹部44は、正方形状の底面を有して、正方格子状に並ぶ。成形用凹凸42が、図3に示す構造を有する場合、図1および図2に示した表面凹凸30が形成される。
【0071】
成形用凹凸42が、複数の凹部44をそれぞれ区画する1つの連続した凸部43を有していると、凹凸面41Fに凸部が点在している場合と比較して、モールド40の剥離が円滑に進みやすい。
【0072】
以下、撥水性多孔膜10の製造方法の各工程について説明する。
<塗布液の塗布工程>
図4が示すように、塗布液の塗布工程では、上述の各材料を含むように調整した塗布液を、基材50の上面に塗布することにより、塗膜15を形成する。基材50の上面は平坦である。
【0073】
基材50は、ラジカル重合性モノマーや細孔形成剤によって侵食されにくく、また、ラジカル重合反応を開始するための活性エネルギー線の照射や加熱によっても侵食されにくい材料から形成されていればよい。例えば、基材50の材料は、ガラス、金属、金属酸化物、樹脂等である。基材50の透明性や汎用性が高められる観点からは、基材50は、ガラスや、ポリオレフィン、ポリエステル等の樹脂から形成されていることが好ましい。基材50の形状は特に制限されないが、例えば、基材50が柔軟性を有するフィルム状を有していれば、基材50上に成膜された撥水性多孔膜10を巻き取ることで、大面積かつ高速に撥水性多孔膜10の製造が可能であるため、好ましい。
【0074】
撥水性多孔膜10を、基材50に積層された状態で使用する場合、基材50の上面には、基材50と撥水性多孔膜10との密着性を高めるための前処理が施されていてもよい。前処理は、例えば、コロナ処理等による濡れ性の向上のための処理や、基材50と撥水性多孔膜10との間に化学結合を形成するためのラジカル重合性官能基の導入の処理である。また、樹脂製の基材50を用いる場合、延伸やラビング処理等、基材50の上面の結晶性を制御するための処理を、前処理として行ってもよい。
【0075】
塗布液の基材50への塗布方法は、特に限定されず、グラビアコート、ダイコート、スプレーコート、ディップコート、スピンコート等の公知の塗布方法が用いられる。大面積かつ高速な塗布が可能であるという観点からは、グラビアコート、ダイコート、スプレーコートの各塗布方法が用いられることが好ましい。
【0076】
<ラジカル重合反応工程>
図5が示すように、ラジカル重合反応工程では、まず、塗膜15の上面にモールド40の凹凸面41Fが接触するように、塗膜15にモールド40を重ねる。そして、図6が示すように、基材50と塗膜15とモールド40との積層体に対し、活性エネルギー線ERの照射を行うことにより、塗膜15にてラジカル重合反応を進行させる。図6は、塗膜15に対してモールド40の位置する側から、上記積層体に活性エネルギー線ERを照射する例を示しているが、活性エネルギー線ERは、塗膜15に対して基材50の位置する側から照射されてもよい。
【0077】
活性エネルギー線ERは、例えば、紫外線である。重合開始剤として光ラジカル発生剤あるいは光酸発生剤を用い、モールド40もしくは基材50を介して塗膜15に紫外線を照射することで、重合反応を開始させることができる。紫外線の波長は、塗布液に含まれる重合開始剤が効率的にエネルギーを吸収して分解可能な波長であればよい。また、紫外線の照射に用いる光源は、所望の波長の紫外線を照射可能な光源であればよい。光源としては、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を用いることができる。
【0078】
ラジカル重合反応工程において、塗膜15の上面に酸素分子が存在するとラジカル重合反応が阻害される。本実施形態では、塗膜15の上面がモールド40で覆われることにより、塗膜15が基材50とモールド40とに挟まれているため、塗膜15が大気と接することが抑えられる。したがって、紫外線照射雰囲気の窒素置換等を行わずとも、酸素によって塗膜15での重合反応が阻害されることを抑えることができる。
【0079】
また、活性エネルギー線ERの照射に代えて、重合反応の開始に加熱を利用してもよい。この場合、基材50と塗膜15とモールド40との積層体を加熱することにより塗膜15にて重合反応を開始させる。加熱温度は、塗布液に含まれる重合開始剤の分解温度に基づいて決定すればよい。
【0080】
なお、ラジカル重合反応工程では、重合反応の進行が可能であれば、上記とは異なる方法が用いられてもよい。例えば、基材50と塗膜15とモールド40との積層体に電子線を照射することでラジカル重合反応を開始させてもよい。この場合、重合開始剤を塗布液に添加せずともラジカル重合反応を進めることが可能である。
【0081】
<細孔形成剤の除去工程>
細孔形成剤の除去工程では、ラジカル重合反応工程を経た塗膜15から、モールド40を剥離し、細孔形成剤を除去する。細孔形成剤を除去することで、細孔形成剤が存在していた領域に細孔21が形成され、その結果、微小凹凸20が形成される。これにより、図7が示すように、多孔質部12からなる膜が形成される。上述したラジカル重合反応工程にて、塗膜15にモールド40が積層された状態で重合反応が進められることにより、塗膜15にはモールド40の成形用凹凸42が転写されており、その結果、多孔質部12の表面には、表面凹凸30が形成されている。
【0082】
細孔形成剤の除去方法としては、例えば、細孔形成剤を溶出させる溶媒を用いて塗膜を洗浄する方法や、加熱または減圧によって塗膜を乾燥させることにより細孔形成剤を除去する方法を用いることができる。
【0083】
<撥水被膜の形成工程>
撥水被膜13の形成工程では、多孔質部12に上述した撥水被膜形成液を塗布することにより、多孔質部12における微小凹凸20の表面を被覆する撥水被膜13を形成する。
【0084】
撥水被膜形成液は、グラビアコート、ダイコート、スプレーコート、ディップコート、スピンコート等の公知の塗布方法によって多孔質部12に塗布される。撥水剤と微小凹凸20の表面との間に共有結合を形成するために、撥水被膜形成液が塗布された多孔質部12に対して、加熱や活性エネルギー線の照射が行われてもよい。
【0085】
細孔21を通じて多孔質部12の内部にも撥水剤が浸透するように、撥水被膜形成液を多孔質部12に塗布することで、多孔質部12の内部で細孔21を区画している微小凹凸20の表面にも撥水被膜13が形成される。
【0086】
これにより、撥水性多孔膜10が形成される。撥水性多孔膜10のなかで、基材50に接している面が第2面11Rであり、基材50とは反対側の面であって、モールド40の成形用凹凸42に対応する凹凸が形成されている面が、第1面11Fである。すなわち、第1面11Fは、塗膜15の上面に対応する面である。
【0087】
本実施形態の撥水性多孔膜10の製造方法と比較される製造方法として、上面に凹凸を有する基材に塗布液を塗布して塗膜を形成し、ラジカル重合性モノマーの重合および細孔形成剤の除去を進める製造方法が想定される。しかしながら、こうした製造方法では、塗布液の粘度が低い場合には、基材上で塗布液が流れて塗膜の上面が平滑化されてしまうため、塗膜の上面への凹凸の形成が困難である。これに対し、本実施形態の製造方法であれば、平坦な基材50上に形成された塗膜15に対して凹凸面41Fを有するモールド40が重ねられた状態で重合が進められるため、塗布液の粘度に関わりなく、塗膜15の上面に凹凸を好適に形成することができる。
【0088】
[撥水性多孔膜の特性]
<空隙率>
撥水性多孔膜10の空隙率は、撥水性多孔膜10の断面において単位面積あたりに占める細孔21の面積割合である。撥水性多孔膜10の空隙率は、40%以上60%以下である。空隙率が40%以上であることにより、微小凹凸20が好適に形成されるため、良好な撥水性が得られる。空隙率が60%以下であることにより、撥水性多孔膜10の耐摩耗性が高められる。
空隙率は、塗布液におけるラジカル重合性モノマーと細孔形成剤との混合比の調整によって、調整することができる。
【0089】
空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いた撥水性多孔膜10の断面観察によって算出できる。具体的には、撥水性多孔膜10の断面のSEM画像を2値化した画像を作製し、細孔21内の領域に対応する部分の比率を算出することにより、空隙率が求められる。
【0090】
<膜厚>
多孔質部12の平均膜厚は、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0091】
なお、多孔質部12の平均膜厚は、以下の方法によって算出される。まず、撥水性多孔膜10における複数の箇所から、断面観察用の試料を作製する。そして、各試料について、走査型電子顕微鏡を用いて断面を観察し、100μm間隔で5点の測定点について多孔質部12の厚さを測定して、その平均値を試料ごとの厚さとする。すべての試料についての当該厚さを平均した値が、多孔質部12の平均膜厚である。
【0092】
多孔質部12の平均膜厚が上記下限値以上であれば、多孔質部12の耐久性が高められ、また、撥水性多孔膜10の撥水性が摩耗によって低下し難くなる。一方で、多孔質部12の平均膜厚が上記上限値以下であれば、重合工程での膜表層と膜底部との硬化状態にばらつきが生じることが抑えられる、細孔形成剤が除去されやすくなる、表面にクラックが生じ難くなる、製造コストや製造に要する時間が低減される、といった利点がある。
【0093】
多孔質部12の平均膜厚は、塗布液の塗布工程で形成される塗膜15の厚みの調整によって、調整することができる。なお、撥水性多孔膜10において、摩耗による撥水性の低下の抑制よりも透明性を重視する場合、多孔質部12の平均膜厚は5μmよりも小さくてもよく、例えば、塗膜15の厚みを3μm以下に設定してもよい。
【0094】
<撥水性>
撥水性多孔膜10の撥水性は、撥水性多孔膜10の表面における水の接触角によって評価できる。高い撥水性を得るためには、撥水性多孔膜10の第1面11Fにおける水の接触角は、140°以上であることが好ましい。水の接触角は、JIS R 3257(1999)に規定される静滴法に従って測定される。なお、撥水性多孔膜10の撥水性は、表面凹凸30および微小凹凸20の粗さの調整によって、調整することができる。
【0095】
[実施例]
上述した撥水性多孔膜およびその製造方法について、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。
【0096】
(塗布液および撥水被膜形成液の調整)
実施例および比較例にて用いられる多孔質部形成用の塗布液として、下記の4種類の塗布液を調整した。また、実施例および比較例にて用いられる撥水被膜形成液を、下記のように調整した。
【0097】
<塗布液1>
ラジカル重合性モノマーとして、4.0gのポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業社製、A-200)と、細孔形成剤として、4.5gのデカン酸メチル(富士フィルム和光純薬社製)とを混合して、塗布液1を調整した。塗布液1には、0.16gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)と、0.01gの表面調整剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK-378)とを添加した。
【0098】
<塗布液2>
ラジカル重合性モノマーとして、4.0gのポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業社製、A-200)と、細孔形成剤として、3.0gのデカン酸メチル(富士フィルム和光純薬社製)とを混合して、塗布液2を調整した。塗布液2には、0.16gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)と、0.01gの表面調整剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK-378)とを添加した。
【0099】
<塗布液3>
ラジカル重合性モノマーとして、4.0gのトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(新中村化学工業社製、A-DCP)と、細孔形成剤として、8.0gのジエチレングリコールジブチルエーテル(関東化学社製)とを混合して、塗布液3を調整した。塗布液3には、撥水剤として、0.8gのフッ素系ポリマー(ダイキン工業社製、TG6071(酢酸ブチル溶液、有効成分濃度20質量%))と、0.16gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)と、0.01gの表面調整剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK-378)とを添加した。
【0100】
<塗布液4>
ラジカル重合性モノマーとして、4.0gのポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業社製、A-200)と、細孔形成剤として、2.0gのデカン酸メチル(富士フィルム和光純薬社製)とを混合して、塗布液4を調整した。塗布液4には、0.16gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)と、0.01gの表面調整剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK-378)とを添加した。
【0101】
<撥水被膜形成液>
撥水剤としてパーフルオロポリエーテル含有アクリレート(信越化学工業社製、KY-1203(有効成分濃度20wt%))を用い、3.0gの撥水剤と、6.0gの酢酸プロピルとを混合して、撥水被膜形成液を調整した。撥水被膜形成液には、0.03gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)を添加した。
【0102】
(モールドの作製)
実施例および比較例にて用いられるモールドとして、互いに異なるパターンの成形用凹凸を有する8種類のモールドを作製した。モールドの材料は、PMMA(ポリメチルメタクリレート)である。各モールドの成形用凹凸は、先の図3に示したように、凹凸面と対向する位置から見て格子状に延びる1つの連続した凸部を備えている。凸部は、モールドの厚さ方向および凸部の幅方向に沿った断面において三角形状を有し、凸部によって区画される凹部は、正方形状の底面を有して、正方格子状に並ぶ。モールド1~モールド8の8種類のモールドにおける凸部の高さH、幅D、格子の間の長さLを、表1に示す。高さH、幅D、長さLは、図3に示したパラメータと同一である。
【0103】
【表1】
【0104】
(実施例1)
コロナ処理を施した表面を有するPETフィルムを基材として用い、A4サイズ(縦297mm×横210mm)に切り出した基材の上面に、塗布液1を、ワイヤーバー(番手#9)を利用して塗布し、塗膜を形成した。塗膜の上面にモールド1の凹凸面が接するようにモールドを配置し、基材と塗膜とモールドとの積層体に、モールドの位置する側から紫外線を照射した。紫外線は、UV照射装置(アイグラフィックス社製、ECS-401XN2-6)を用いて、300nm以上400nm以下の波長域での紫外線照射量が計500mJ/cmとなるように照射した。その後、モールドを剥離して、80℃のオーブンで3分間、塗膜を乾燥し、細孔形成剤を除去した。これにより、多孔質部からなる膜が形成された。
【0105】
続いて、上記多孔質部からなる膜に、ワイヤーバー(番手#12)を利用して、 撥水被膜形成液を塗布した。撥水被膜形成液の塗布後の膜を、80℃のオーブンで30秒間、乾燥した後、当該膜に、UV照射装置(アイグラフィックス社製、ECS-401XN2-6)を用いて、300nm以上400nm以下の波長域での紫外線照射量が計500mJ/cmとなるように紫外線を照射した。以上により、実施例1の撥水性多孔膜を得た。
【0106】
(実施例2)
モールド1に代えてモールド2を用いたこと以外は、実施例1と同様の工程によって、実施例2の撥水性多孔膜を得た。
【0107】
(実施例3)
モールド1に代えてモールド3を用いたこと以外は、実施例1と同様の工程によって、実施例3の撥水性多孔膜を得た。
【0108】
(実施例4)
モールド1に代えてモールド4を用いたこと以外は、実施例1と同様の工程によって、実施例4の撥水性多孔膜を得た。
【0109】
(実施例5)
塗布液1に代えて塗布液2を用いたこと以外は、実施例1と同様の工程によって、実施例5の撥水性多孔膜を得た。
【0110】
(実施例6)
塗布液1に代えて塗布液3を用いたこと、および、撥水被膜形成液の塗布を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の工程によって、実施例6の撥水性多孔膜を得た。
【0111】
(比較例1)
塗膜にモールドを積層せずに紫外線の照射を行ったこと以外は、実施例1と同様の工程によって、比較例1の撥水性多孔膜を得た。
【0112】
(比較例2)
モールド1に代えてモールド5を用いたこと以外は、実施例1と同様の工程によって、比較例2の撥水性多孔膜を得た。
【0113】
(比較例3)
モールド1に代えてモールド6を用いたこと以外は、実施例1と同様の工程によって、比較例3の撥水性多孔膜を得た。
【0114】
(比較例4)
モールド1に代えてモールド7を用いたこと以外は、実施例1と同様の工程によって、比較例4の撥水性多孔膜を得た。
【0115】
(比較例5)
塗布液1に代えて塗布液4を用いたこと以外は、実施例1と同様の工程によって、比較例5の撥水性多孔膜を得た。
【0116】
(比較例6)
モールド1に代えてモールド8を用いたこと以外は、実施例1と同様の工程によって、比較例6の撥水性多孔膜を得た。
【0117】
(表面粗さの測定)
各実施例および各比較例の撥水性多孔膜の第1面に対し、最大谷深さSvおよび要素平均長さRSmを測定した。測定は、共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス社製、OLS4100)を用いて、縦400μm×横400μmの正方形領域に対して行った。
【0118】
(空隙率の測定)
各実施例および各比較例の撥水性多孔膜について、空隙率を測定した。まず、シリコーンレジン(信越化学工業社製、KR-400)を、撥水性多孔膜の表面に含侵した後、撥水性多孔膜を室温環境下で24時間以上放置した。その後、撥水性多孔膜を可視光硬化樹脂(日本電子社製、D-800)で被覆して樹脂を光硬化することにより、ブロックを作製した。当該ブロックを、ミクロトーム(ライカ社製、ウルトラミクロトームUC7)を用いてスライスし、断面観察用の試料を作製した。スライスのための刃としては、5.0mm幅のマイクロスター社製ダイヤモンドナイフLHを用いた。
【0119】
走査型電子顕微鏡を用いて上記試料を観察し、撮影した画像から、撥水性多孔膜の厚さ方向に約6μm、かつ、撥水性多孔膜の広がる方向に約10μmの幅を有する矩形領域である対象領域の画像を切り取った。対象領域の画像のコントラストを、画像処理ソフトImageJを用いて二値化することにより、二値化画像を作製し、対象領域の全体に占めるシリコーンレジンで埋まっている領域の割合を算出し、空隙率とした。なお、シリコーンレジンで埋まっている領域は、すなわち、二値化画像における明度の高い方の領域である。
【0120】
(撥水性の評価)
各実施例および各比較例の撥水性多孔膜について、第1面の純水の接触角および転落角を測定した。測定には、協和界面化学社製の接触角測定システム(DropMaster300)を用いた。接触角の測定は、水滴サイズを2μL以上3μL以下として行った。また、転落角は、水平に設置した撥水性多孔膜の表面に10μLの水滴を滴下後、撥水性多孔膜を徐々に傾斜させ、水滴が止まることなく移動し始めた際の撥水性多孔膜の傾斜角とした。
【0121】
撥水性評価として、接触角が150°以上、かつ、転落角が5°未満である場合を「A」、接触角が150°以上、かつ、転落角が5°以上である場合を「B」、接触角が150°未満である場合を「C」とした。
【0122】
(耐摩耗性の評価)
各実施例および各比較例の撥水性多孔膜の第1面に、100g/cmの荷重で紙ウエス(日本製紙クレシア製、キムタオル)を押し当てた状態で、紙ウエスを100往復させる摩耗試験を行った。そして、摩耗試験前の撥水性多孔膜に対する、摩耗試験後の撥水性多孔膜の膜厚の減少割合を計測した。撥水性多孔膜の膜厚は、接触式の膜厚測定器(ニコン社製、DIGIMICRO MU-501A)を用いて測定した。
【0123】
耐摩耗性評価として、摩耗試験後の膜厚の減少が5%未満である場合を「A+」、摩耗試験後の膜厚の減少が5%以上10%未満である場合を「A」、摩耗試験後の膜厚の減少が10%以上である場合を「B」とした。
【0124】
(評価結果)
表2に、各実施例および各比較例について、撥水性多孔膜の形成に用いた塗布液およびモールド、撥水被膜の有無、表面粗さおよび空隙率の測定結果、撥水性と耐摩耗性との評価結果を示す。
【0125】
【表2】
【0126】
表2が示すように、実施例1~6における撥水性多孔膜の第1面の表面粗さについて、最大谷深さSvは1μm以上5μm以下であり、要素平均長さRSmは5μm以上50μm以下である。また、実施例1~6における撥水性多孔膜の空隙率は、40%以上60%以下である。これらの実施例では、撥水性および耐摩耗性の双方が良好であった。
【0127】
詳細には、実施例1~6において、最大谷深さSvが上記範囲の上限に近い実施例2~4のうちの実施例2,3では、他の実施例と比較して耐摩耗性がやや低かった。実施例2~4のなかで耐摩耗性が高い実施例4は、実施例2,3と比較して要素平均長さRSmが大きい。したがって、最大谷深さSvが小さいほど、また、要素平均長さRSmが大きいほど、耐摩耗性が高められることが示唆される。なお、実施例6は、撥水被膜を有していないが、塗布液に撥水剤が添加されていることにより、他の実施例と同様の高い撥水性が得られている。
【0128】
一方、比較例1の撥水性多孔膜は、表面凹凸を有しておらず、それゆえ、最大谷深さSvが極端に小さく、また、要素平均長さRSmが極端に大きくなっている。比較例1では、耐摩耗性は高いものの、実施例と比較して、撥水性が低くなっている。したがって、多孔質部の多孔構造よりも大きな段差を含む表面凹凸を設けることによって、撥水性多孔膜の撥水性の向上が可能であることが確認された。
【0129】
比較例2では、最大谷深さSvが5μmを超えており、撥水性は高いものの、耐摩耗性が不十分である。したがって、比較例2では、表面凹凸の起伏が大きすぎるために、表面凹凸が外力に弱くなり、耐摩耗性が低下していることが示唆される。
【0130】
比較例3では、最大谷深さSvが1μmよりも小さく、耐摩耗性は高いものの、撥水性が不十分である。したがって、比較例3では、表面凹凸の起伏が小さすぎるために、表面凹凸の付加による撥水性の向上効果が十分に得られていないことが示唆される。
【0131】
比較例4では、要素平均長さRSmが5μmよりも小さく、撥水性は高いものの、耐摩耗性が不十分である。したがって、比較例4では、表面凹凸の起伏が多すぎるために、表面凹凸が外力に弱くなり、耐摩耗性が低下していることが示唆される。
【0132】
比較例5では、空隙率が40%よりも小さく、耐摩耗性は高いものの、撥水性が不十分である。したがって、比較例5では、多孔質部の微小凹凸の起伏が十分に形成されておらず、撥水性の向上効果が得られていないことが示唆される。
【0133】
比較例6では、要素平均長さRSmが50μmよりも大きく、耐摩耗性は高いものの、撥水性が不十分である。したがって、比較例6では、表面凹凸の起伏が少なすぎるために、表面凹凸の付加による撥水性の向上効果が十分に得られていないことが示唆される。
【0134】
以上、実施形態および実施例にて説明したように、上記撥水性多孔膜、および、撥水性多孔膜の製造方法によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)撥水性多孔膜10の第1面11Fでは、多孔質部12の多孔構造に基づく微小凹凸20が、当該多孔構造による段差よりも大きな段差を含む表面凹凸30に沿って並ぶ。そして、第1面11Fにおける最大谷深さSvは、1μm以上5μm以下であり、要素平均長さRSmは、5μm以上50μm以下である。これにより、表面凹凸30の起伏が撥水性の向上のために十分に得られる一方で、当該起伏が過剰になることが抑えられるため、耐摩耗性の低下を抑えることができる。したがって、撥水性多孔膜10において、撥水性の向上と耐摩耗性の低下の抑制とが可能である。
【0135】
(2)撥水性多孔膜10の空隙率が、40%以上60%以下であることにより、微小凹凸20の起伏が撥水性の向上のために十分に得られるとともに、空隙が過剰になることが抑えられるため、耐摩耗性の低下を抑えることができる。
【0136】
(3)撥水性多孔膜10が、多孔質部12の表面上に位置する撥水被膜13をさらに有することにより、撥水性がより高められる。
(4)撥水性多孔膜10の第1面11Fにおける水の接触角が140°以上であれば、高い撥水性が得られる。
【0137】
(5)撥水性多孔膜10の第2面11Rでは、多孔質部12の多孔構造に基づく微小凹凸20が平坦面に沿って並ぶ。こうした構成によれば、撥水性多孔膜10が、多孔構造による段差よりも大きな段差を含む表面凹凸30を第2面11Rにも有する場合、例えば、断面が波形の形状を有する場合と比較して、表面凹凸30の強度を高めることが可能であり、また、撥水性多孔膜10の膜厚を大きく確保しやすい。したがって、撥水性多孔膜10の耐摩耗性を高めることが可能である。
【0138】
(6)表面凹凸30が含む凸部31の頂部にて、微小凹凸20が平坦面に沿って並ぶ形態であれば、凸部31が尖った頂部を有する場合と比較して、表面凹凸30の強度が高められる。そのため、撥水性多孔膜10の耐摩耗性を高めることができる。
【0139】
(7)撥水性多孔膜10の製造方法では、モールド40の凹凸面41Fを塗膜15の上面に接触させた状態で、塗膜15にてラジカル重合反応を進行させることにより、表面凹凸30となる凹凸を塗膜15に形成する。これにより、塗膜15の形成のための塗布液の粘度が低い場合にも、塗膜15の上面に好適に凹凸を形成することができる。
【0140】
(8)モールド40の成形用凹凸42が、複数の凹部44を区画する1つの連続した凸部43を含んでいる形態であれば、塗膜15からのモールド40の剥離を円滑に進めることができる。
【0141】
[付記]
撥水性多孔膜の表面に、多孔構造による凹凸よりも大きなサイズの凹凸を形成する方法が検討されている。例えば、ラジカル重合性モノマーを含む塗布液を、上面に凹凸を有する基材に塗布して塗膜を形成し、モノマーの重合および溶媒の除去を進める製造方法が想定される。しかしながら、こうした製造方法では、塗布液の粘度が低い場合には、基材上で塗布液が流れて塗膜の上面が平滑化されてしまうため、塗膜の上面への凹凸の形成が困難である。また、仮に塗布液の粘度が高く、基材の凹凸に沿って塗膜の上面への凹凸の形成が可能であったとしても、上記製造方法によって形成される膜は、表裏に凹凸を有する断面が波形の形状を有しているため、膜厚を確保し難く凹凸部分で膜の強度が低くなりやすい。すなわち、耐摩耗性が低くなりやすい。
したがって、耐摩耗性の低下を抑えつつ、撥水性多孔膜の表面に、多孔構造による凹凸よりも大きなサイズの凹凸を形成することのできる撥水性多孔膜の製造方法が求められている。
【0142】
上記課題を解決するための手段には、上記実施形態、および、上記変形例から導き出される技術的思想として以下が含まれる。
【0143】
ラジカル重合性モノマーと、前記ラジカル重合性モノマーに対して不活性な溶媒である細孔形成剤とを含む塗布液を、平坦な基材の上面に塗布することにより、塗膜を形成する工程と、
表面に凹凸を有するシート状のモールドの前記表面を前記塗膜の上面に接触させた状態で、前記塗膜にてラジカル重合反応を進行させる工程と、
前記ラジカル重合反応後の前記塗膜から前記モールドを剥離し、前記塗膜から前記細孔形成剤を除去することで、当該膜に細孔を形成して多孔質部を形成する工程と、
を含み、
前記モールドの前記凹凸は、前記多孔質部の多孔構造による段差よりも大きな段差を含む
撥水性多孔膜の製造方法。
【0144】
上記製法によれば、平坦な基材上に形成された塗膜に対して凹凸面を有するモールドが重ねられた状態で重合が進められ、塗膜が硬化される。したがって、塗布液の粘度に関わりなく、塗膜の上面に凹凸を好適に形成することができる。また、断面が波形の形状の膜と比較して、形成される膜の厚さを確保しやすく凹凸部分での膜の強度が高められるため、耐摩耗性の高い撥水性多孔膜が得られる。
【符号の説明】
【0145】
10…撥水性多孔膜
11F…第1面
11R…第2面
12…多孔質部
13…撥水被膜
15…塗膜
20…微小凹凸
21…細孔
30…表面凹凸
31…凸部
32…凹部
40…モールド
41F…凹凸面
42…成形用凹凸
43…凸部
44…凹部
50…基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7