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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054244
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/58 20060101AFI20220330BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20220330BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20220330BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/18
F16C33/64
F16C33/78 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161321
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】大平 晃也
【テーマコード(参考)】
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA02
3J216CA04
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA55
3J701BA64
3J701BA65
3J701EA02
3J701EA14
3J701FA51
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】コスト高になることを抑制しつつ軽量化を図ることができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】外側軌道面2c、2dを有する外輪2と、小径段部3aを有したハブ輪3、及びハブ輪3の小径段部3aに圧入された内輪4からなり、複列の外側軌道面2c、2dに対向する複列の内側軌道面3c、4aを有する内方部材と、外輪2と内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列のボール7と、外輪2と内方部材とによって形成された環状空間のアウター側開口端およびインナー側開口端に嵌合されるシール部材9、10とを備え、ハブ輪3は、鋼材で形成された第1部31と軽合金材料で形成された第2部32とを有し、ハブ輪3の内側軌道面3cが第1部31に形成される車輪用軸受装置1であって、ハブ輪2のインナー側端部に、第1部31と第2部32とが共に塑性変形された塑性変形部であるかしめ部3hを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周に軸方向に延びる小径段部を有したハブ輪、及び前記ハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間のアウター側開口端およびインナー側開口端に嵌合されるシール部材とを備え、
前記ハブ輪は、鋼材で形成された第1部と鋼材よりも低密度の軽合金材料で形成された第2部とを有し、
前記ハブ輪における前記内側軌道面が前記第1部に形成されている車輪用軸受装置であって、
前記ハブ輪のインナー側端部に、前記第1部と前記第2部とが共に塑性変形された塑性変形部を有する、
ことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記塑性変形部は、前記第1部と前記第2部とが共に端部が周方向外方に揺動かしめされたかしめ部である、
ことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記ハブ輪は、前記第1部および前記第2部を貫通する貫通孔が形成されるフランジを有し、
前記貫通孔にはボルトが圧入されている、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記第2部は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、またはチタン合金により形成される、
ことを特徴とする請求項1~請求項3の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー消費量の削減や二酸化炭素排出量の削減は国際的な共通課題となっている。その中で、自動車から排出される二酸化炭素を削減することは、この課題解決に大きく貢献する。自動車における二酸化炭素排出量削減には燃費向上が欠かせないが、その方法の一つとして車両の軽量化が挙げられ、自動車を取り巻く企業の大きな技術課題の一つである。
【0003】
その中で、サスペンションからタイヤにかけてのいわゆる「足回り部品」は、軽量化による燃費向上の効果が大きいと言われている。このため、「足回り部品」の一つである車輪用軸受装置についてもこれまで多数の軽量化に関する提案がなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1および特許文献2においては、車輪用軸受装置を構成するハブ輪を鋼材と軽合金材料とで形成することにより車輪用軸受装置の軽量化を図っている。特許文献1では、ハブ輪を形成する鋼材と軽合金材料とを摩擦圧接により接合している。また、特許文献2では、鋼材に凸部を形成し、軽合金材料を半凝固プロセスにて鋼材に接合することでハブ輪が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-25966号公報
【特許文献2】欧州特許第2373896号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、鋼材と軽合金材料とを摩擦圧接により接合しているが、摩擦圧接にて両者を接合すると、接合面の周辺にバリが発生し、発生したバリを取り除く工程を追加する必要があり、コスト高につながるおそれがある。また、特許文献2では、予め鋼材に凸部を形成しているが、凸部を形成する工程を追加する必要があり、コスト高につながるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明においては、コスト高になることを抑制しつつ軽量化を図ることができる車輪用軸受装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、外周に軸方向に延びる小径段部を有したハブ輪、及び前記ハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間のアウター側開口端およびインナー側開口端に嵌合されるシール部材とを備え、前記ハブ輪は、鋼材で形成された第1部と鋼材よりも低密度の軽合金材料で形成された第2部とを有し、前記ハブ輪における前記内側軌道面が前記第1部に形成されている車輪用軸受装置であって、前記ハブ輪のインナー側端部に、前記第1部と前記第2部とが共に塑性変形された塑性変形部を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コスト高になることを抑制しつつ車輪用軸受装置の軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図2】車輪用軸受装置の製造方法のフローを示す図である。
図3】支持台に載置された状態のハブ輪を示す側面断面図である。
図4】内輪がハブ輪の小径段部に圧入された状態の車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図5】ハブ輪の小径段部に揺動かしめ加工を施している状態の車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[車輪用軸受装置の全体構成]
以下に、図1を用いて、車輪用軸受装置の一実施形態である車輪用軸受装置1の構成について説明する。
【0012】
図1に示す車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3及び内輪4と、転動列である二列のインナー側ボール列5及びアウター側ボール列6と、インナー側シール部材9及びアウター側シール部材10とを具備する。ここで、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、軸方向とは、車輪用軸受装置1の回転軸に沿った方向を表す。
【0013】
外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材9が嵌合可能なインナー側開口部2aが形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材10が嵌合可能なアウター側開口部2bが形成されている。外輪2の内周面には、インナー側の外側軌道面2cと、アウター側の外側軌道面2dとが形成されている。
【0014】
外輪2の外周面には、外輪2を車体側部材に取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体的に形成されている。車体取り付けフランジ2eには、車体側部材と外輪2とを締結する締結部材(ここでは、ボルト)が挿入されるボルト孔2gが設けられている。
【0015】
ハブ輪3のインナー側端部には、外周面にアウター側端部よりも縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3における小径段部3aのアウター側端部には肩部3eが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、複数のボルト孔3fが形成されている。ボルト孔3fには、ハブ輪3と車輪又はブレーキ部品とを締結するためのハブボルト3eが圧入されている。
【0016】
ハブ輪3の外周面には、外輪2のアウター側の外側軌道面2dに対向するようにアウター側の内側軌道面3cが設けられている。つまり、内方部材のアウター側には、ハブ輪3によって内側軌道面3cが構成されている。ハブ輪3における車輪取り付けフランジ3bの基部側には、アウター側シール部材10が摺接する摺接面3dが形成されている。アウター側シール部材10は、外輪2とハブ輪3とによって形成された環状空間のアウター側開口端に嵌合されている。ハブ輪3は、車輪取り付けフランジ3bよりもアウター側の端部にアウター側端面3gを有している。
【0017】
ハブ輪3の小径段部3aには、内輪4が設けられている。内輪4は、圧入及び加締加工によりハブ輪3の小径段部3aに固定されている。内輪4は、転動列であるインナー側ボール列5及びアウター側ボール列6に予圧を付与している。内輪4は、インナー側端部にインナー側端面4bを有しており、アウター側端部にアウター側端面4cを有している。ハブ輪3のインナー側端部には、内輪4のインナー側端面4bにかしめられたかしめ部3hが形成されている。
【0018】
内輪4の外周面には、外輪2のインナー側の外側軌道面2cと対向するようにインナー側の内側軌道面4aが設けられている。つまり、内方部材のインナー側には、内輪4によって内側軌道面4aが構成されている。
【0019】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール7が保持器8によって保持されることにより構成されている。インナー側ボール列5は、内輪4の内側軌道面4aと、外輪2のインナー側の外側軌道面2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、ハブ輪3の内側軌道面3cと、外輪2のアウター側の外側軌道面2dとの間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、外方部材と内方部材との両軌道面間に転動自在に収容されている。
【0020】
車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3及び内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、車輪用軸受装置1は複列アンギュラ玉軸受に替えて複列円錐ころ軸受を構成していてもよい。
【0021】
[ハブ輪]
ハブ輪3は、第1部31と第2部32とを有している。第1部31は、鋼材により形成されている。第1部31を形成する鋼材としては、例えばS55C等の炭素鋼、およびSUJ2等の軸受鋼を用いることができる。
【0022】
第2部32は、鋼材よりも低密度の軽合金材料により形成されている。第2部32を形成する軽合金材料としては、例えばアルミニウム合金、マグネシウム合金、およびチタン合金を用いることができる。つまり、第2部32は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、またはチタン合金により形成することができる。
【0023】
アルミニウム合金としては、例えば伸展材であるA6061等のAl-Mg-Si系合金、および鋳物材であるAC4CH等のAl-Mg-Si系合金を用いることができる。アルミニウム合金に対しては、強度や硬さを増すためにT6処理等の熱処理を適宜施すことができる。マグネシウム合金としては、例えばAZ91D等のAl-Zn系合金を用いることができる。マグネシウム合金に対しては、強度や硬さを増すためにT6処理等の熱処理を適宜施すことができる。チタン合金としては、例えばTi-6Al-4V等のα-β合金を用いることができる。
【0024】
なお、上記の軽合金材料は、いずれも高い強度に加えて耐食性を有しており、自動車部品材料として広く用いられている。従って、第2部32をアルミニウム合金、マグネシウム合金、またはチタン合金により形成することで、車輪用軸受装置1の軽量化を図るとともに、長寿命化を図ることが可能となっている。
【0025】
第1部31は、中空の筒形状を有する筒部31Aと、筒部31Aのアウター側端部に形成されるフランジ部31Bとを備えている。ハブ輪3の内側軌道面3cは、筒部31Aの外周面に形成されている。第2部32は、軸形状を有する軸部32Aと、軸部32Aのアウター側端部に形成されるフランジ部32Bとを備えている。
【0026】
筒部31Aは軸部32Aに嵌装されており、フランジ部31Bとフランジ部32Bとは軸方向において重なるように接触している。フランジ部31Bはフランジ部32Bよりもインナー側に位置している。第1部31の筒部31Aと、第2部32の軸部32Aとは、共にハブ輪3のインナー側端まで存在している。
【0027】
第1部31と第2部32とは、はめ合いにより篏合されることで互いに接合されている。第1部31と第2部32とのはめ合いは、機械加工により目的寸法を出してはめ合わせる方法がある。また、第1部31に対して第2部32をインサート鋳造することにより、第1部31と第2部32とをはめ合わせる方法、および第1部31に対して第2部32をインサート鍛造することにより、第1部31と第2部32とをはめ合わせる方法等がある。
【0028】
インサート鋳造およびインサート鍛造によるはめ合わせは、機械加工によるはめ合わせと比較して、第1部31と第2部32との界面の密着性が良好であるという特性を有している。
【0029】
ハブ輪3のインナー側端部に形成されているかしめ部3hにおいては、第1部31と第2部32との端部が共に周方向外側にかしめられている。かしめ部3hにおいては、第1部31と第2部32とは例えば揺動かしめされている。第1部31と第2部32とは、かしめ部3hにおいて共にかしめられて塑性変形することにより締結されている。かしめ部3hは、第1部31と第2部32とが共に塑性変形された塑性変形部である。
【0030】
かしめ部3hにおいて第1部31と第2部32とが共にかしめられることにより、第1部31を構成する鋼材と第2部32を構成する軽合金材料との界面は凝着すること等によって摩擦係数が増大している。これにより、第1部31と第2部32とは容易に離脱することができなくなっている。
【0031】
また、かしめ部3hにおいて第1部31と第2部32とが共にかしめられて締結されることにより、第1部31と第2部32との接合をより強固にすることができ、例えば第1部31と第2部32との一方が他方に対して回転することを抑制できる。
【0032】
さらに、第1部31と第2部32とが共にかしめられるかしめ部3hは、ハブ輪3のインナー側端部を内輪4のインナー側端面4bにかしめる際に形成されるものである。従って、第1部31と第2部32とを締結するための工程を別途設けることなく、第1部31と第2部32とを締結することができる。これにより、鋼材により形成された第1部31と軽合金材料により形成された第2部32とを有する軽量なハブ輪3を、工程を増やすことなく製造することが可能となり、コスト高になることを抑制しつつ車輪用軸受装置1の軽量化を図ることができる。
【0033】
また、ハブ輪3の車輪取り付けフランジ3bは、第1部31のフランジ部31Bと第2部32のフランジ部32Bとにより形成されている。フランジ部31Bは軸方向に貫通する第1貫通孔31fを有しており、フランジ部32Bは軸方向に貫通する第2貫通孔32fを有している。第1貫通孔31fと第2貫通孔32fとは連通しており、車輪取り付けフランジ3bのボルト孔3fは、第1貫通孔31fと第2貫通孔32fとにより形成されている。ボルト孔3fは、第1部31および第2部32を貫通する貫通孔である。また、車輪取り付けフランジ3bは、第1部31および第2部32を貫通する貫通孔が形成されるフランジである。
【0034】
ボルト孔3f(第1貫通孔31fおよび第2貫通孔32f)にはハブボルト3eが圧入されており、ボルト孔3fにハブボルト3eが圧入されることにより、フランジ3bにおける第1部31と第2部32とが締結されている。ハブボルト3eは、貫通孔に圧入されるボルトである。
【0035】
このように、ハブ輪3においては、ボルト孔3fにハブボルト3eを圧入することにより第1部31と第2部32とが締結されており、第1部31と第2部32とがより強固に接合されている。
【0036】
[車輪用軸受装置の製造方法]
次に、車輪用軸受装置1の製造方法について説明する。図2に示すように、本実施形態における車輪用軸受装置1の製造方法は、外輪装着工程(S01)、内輪圧入工程(S02)、かしめ工程(S03)、インナー側シール部材装着工程(S04)、およびハブボルト圧入工程(S05)を備えている。各工程について、以下に説明する。
【0037】
外輪装着工程(S01)においては、図3に示すように、ハブ輪3を、軸方向が垂直方向となり、アウター側端面3gが下方に位置する姿勢で、支持台11に載置する。続いて、インナー側ボール列5、アウター側ボール列6及びアウター側シール部材10が組み付けられた外輪2を、上方からハブ輪3に装着する。このとき、ハブ輪3と外輪2との間にはグリースが充填される。
【0038】
外輪装着工程(S01)の後に内輪圧入工程(S02)を実施する。図4に示すように、内輪圧入工程(S02)においては、ハブ輪3の小径段部3aに、内輪4を圧入する。内輪4を圧入した後には、内輪4が圧入されたハブ輪3と、外輪2とを相対的に回転させることにより、ハブ輪3と外輪2との間に充填されているグリースをインナー側ボール列5及びアウター側ボール列6のボール7になじませる。
【0039】
内輪圧入工程(S02)の後に、かしめ工程(S03)を実施する。かしめ工程(S03)においては、ハブ輪3における小径段部3aのインナー側端部を内輪4のインナー側端面4bにかしめるための、かしめ加工を行う。図5に示すように、かしめ加工は、例えばかしめパンチ14等のかしめ具を用いた揺動かしめ加工により行うことができる。
【0040】
揺動かしめ加工は、例えば、ハブ輪3における小径段部3aの上方に配置されたかしめパンチ14を下降させて小径段部3aのインナー側端部に当接させ、小径段部3aに当接した状態のかしめパンチ14を揺動させることにより行う。
【0041】
揺動かしめ加工が行われることで、ハブ輪3のインナー側端部における第1部31と第2部32とが同時に塑性変形してかしめられ、かしめ部3hが形成される。かしめ部3hは、第1部31と第2部32とが、共に端部が周方向外方に揺動かしめされたかしめ部である。かしめ部3hにおいては、第1部31と第2部32とが締結される。つまり、ハブ輪3のインナー側端部において第1部31と第2部32とを共に塑性変形させることにより、第1部31と第2部32とを締結することができる。揺動かしめ加工が完了すると、かしめパンチ14を上昇させて小径段部3aから離間させる。
【0042】
揺動かしめ加工においては、ハブ輪3のインナー側端部における第1部31と第2部32とが、同時かつ一体的にかしめられる。第1部31と第2部32とが同時にかしめられることで、第1部31と第2部32との界面は溶着等によって摩擦係数が増大し、第1部31と第2部32とは容易に離脱できなくなる。なお、ハブ輪3のインナー側端部においては、かしめ部3hを形成した際における第1部31と第2部32との界面の接合力を増すために、第1部31が第2部32によって覆われる構成とすることができる。
【0043】
このように、ハブ輪3のインナー側端部において第1部31と第2部32とを塑性変形させることにより、第1部31と第2部32とを締結することで、第1部31と第2部32との接合をより強固にすることができる。この場合、ハブ輪3のインナー側端部に第1部31と第2部32とを塑性変形させる加工を施しても、第1部31と第2部32との界面にバリ等が発生することはなく、発生したバリを取り除く等の余分な工程を追加する必要がない。
【0044】
これにより、鋼材により形成された第1部31と軽合金材料により形成された第2部32とを有するハブ輪3を、余分な工程を増やすことなく製造することが可能となり、コスト高になることを抑制しつつ車輪用軸受装置1の軽量化を図ることが可能である。
【0045】
また、第1部31と第2部32と塑性変形させるための加工である揺動かしめ加工は、ハブ輪3のインナー側端部を内輪4のインナー側端面4bにかしめるための加工である。従って、第1部31と第2部32とを締結するための工程を別途設けることなく、第1部31と第2部32とを締結することができる。これにより、さらにコスト高になることを抑制しつつ車輪用軸受装置1の軽量化を図ることができる。
【0046】
かしめ工程(S03)の後に、インナー側シール部材装着工程(S04)を実施する。インナー側シール部材装着工程(S04)外輪2のインナー側開口部2aにインナー側シール部材9を嵌合することにより、外輪2のインナー側端部と内輪4のインナー側端部との間にインナー側シール部材9を装着する。
【0047】
インナー側シール部材装着工程(S04)の後に、ハブボルト圧入工程(S05)を実施する。ハブボルト圧入工程(S05)においては、車輪取り付けフランジ3bのボルト孔3fにハブボルト3eを圧入する。ボルト孔3fにハブボルト3eを圧入することにより、フランジ3bにおける第1部31と第2部32とが締結される。
【0048】
このように、ボルト孔3fにハブボルト3eを圧入することにより、フランジ3bにおける第1部31と第2部32とが締結されることとなり、第1部31と第2部32との接合をより強固にすることが可能となる。
【0049】
ハブボルト圧入工程(S05)を実施することにより、図1に示す車輪用軸受装置1が構成され、車輪用軸受装置1の製造方法が終了する。
【0050】
なお、本実施形態においては従動輪用の車輪用軸受装置1について説明したが、本製造方法は、駆動輪用の車輪用軸受装置にも適用することができる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、及び範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0052】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2c 外側軌道面
2d 外側軌道面
3 ハブ輪
3a 小径段部
3b フランジ
3c 内側軌道面
3e ハブボルト
3f ボルト孔
3h かしめ部
4 内輪
4a 内側軌道面
5 インナー側ボール
6 アウター側ボール列
7 ボール
9 アウター側シール部材(シール部材)
31 第1部
31f 第1貫通孔
32 第2部
32f 第2貫通孔
S03 かしめ工程
S05 ハブボルト圧入工程
図1
図2
図3
図4
図5