(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054257
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】プール検査の前処理方法と部材
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/70 20060101AFI20220330BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20220330BHJP
C12Q 1/24 20060101ALI20220330BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220330BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20220330BHJP
G01N 1/40 20060101ALI20220330BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20220330BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220330BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20220330BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
C12Q1/70
C12Q1/06
C12Q1/24
C12M1/00 A
C12Q1/6806 Z
G01N1/40
G01N1/28 J
G01N33/48 S
G01N33/569 G
G01N33/50 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161337
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】508120400
【氏名又は名称】有限会社エコルネサンス・エンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100104237
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】後藤 義明
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 武
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA28
2G045BA13
2G045BB05
2G045CB21
2G045DA12
2G045DA13
2G045DA14
2G045HA01
2G052AA28
2G052AB20
2G052BA19
2G052EA01
2G052ED17
2G052GA27
4B029AA23
4B029BB13
4B029BB20
4B029GB01
4B063QA18
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR39
4B063QR79
4B063QS10
4B063QS13
4B063QS25
4B063QS28
4B063QS39
(57)【要約】 (修正有)
【課題】プール検査において、多検体に対する効率的且つ体系的な試料収集や集約化に関する技術や部材を提供する。
【解決手段】一定数で構成されるサブグループの構成数:Nを実施単位とし、同一の検体に対し、プール検査の偽判定率を受忍レベル以下に保つ検査を実施する前提において、同一の検体由来の試料数をM個とし、前記NのM分の1乗の値を切り上げて整数としたPを求め、架空の(P,M)型の行列概念の下、PとMの組合せから規定されるQ個の収集容器が、該行列の格子点に存在する仮定において、M個の試料を該Q個の収集容器に一定の規則に従って分けて纏め、該収集容器内の集約化試料に含まれる液体物をQ個回収した後に、特定ウイルスの存在確定に用いられる公定法での濃縮率にQ分のNを乗じた値以上で該濃縮操作における正味の濃縮率を設定して、該液体物:Q個に対する濃縮操作をプール検査の前処理操作として実施する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全検査対象数:Hで構成される母集団に対し、一定数で構成されるサブグループの構成数:Nを実施単位として特定ウイルスの有無をスクリーニングする目的から、少なくともウイルス又はウイルスの核酸のいずれか一方の濃縮操作を実施する、ヒト或いは物に対するプール検査において、
前記濃縮操作の初期操作として、同一の検体に対しM回の検査を実施する前提で、前記NのM分の1乗の値を切り上げて整数としたPを求め、架空の(P,M)型の行列概念の下、PとMの組合せから規定されるQ個の収集容器が、該行列の格子点に存在する仮定において、同一の検体由来の試料:M個をQ個の収集容器に一定の規則に従って分けて纏め、該収集容器内の集約化試料に含まれる液体物をQ個回収した後に、特定ウイルスの存在確定に用いられる公定法での濃縮率にQ分のNを乗じた値以上で該濃縮操作における正味の濃縮率:Lnを設定して、該液体物:Q個に対し濃縮操作を実施する前記プール検査の前処理方法であって、
前記特定ウイルスの有無をスクリーニングする目的が、陰性者或いは陰性物のスクリーニングである操作、
又は、前記濃縮操作の初期操作として、前記プール検査における検査条件とベイズの定理に基づいて求められる偽判定率をXとし、前記公定法に規定される繰り返し検査回数をYとし、前記全検査対象数:Hの逆数をZとした場合に、任意の繰り返し検査回数における偽判定率を求めた後、XのY乗の値とZの積を求めてSを算出し、該偽判定率がS以下となる繰り返し検査回数:Tを求め、前記MをT個以上とする試料集約に係る設計操作、
又は、前記濃縮操作の初期操作として、前記Pに前記Mを乗じた値:Qを任意のMで求めて、PとMの組合せを求め、更にNをQで除して得た値を切り上げて整数とし前記収集容器内に集約される最大試料数:Rを求めて、N,Q,M,P,Rの組合せをあらかじめ求めておき、続いて、任意に設定した前記正味の濃縮率:Lnに対し、Ln≧RとなるRを選択して、該当するN,Q,M,Pの組合せを確定する試料集約に係る設計操作、
又は、前記濃縮操作の初期操作として、前記同一検体由来の試料に対し半定量的採取や分取を可能とする担体と前記収集容器として蓋ネジ付容器を用いて、前記M個の試料を、異なる該蓋ネジ付容器に一定の規則に従って分けて纏めた後、集約化試料が含まれる該蓋ネジ付容器の本体にろ過ユニットを装着して反転させ、遠心ろ過操作を実施し、該集約化試料に含まれる液体物を該蓋ネジ付容器外へ分離する該液体物の集約的回収操作、の少なくともいずれか一つの操作を実施するプール検査の前処理方法。
【請求項2】
前記偽判定率が、少なくとも偽陽性率又は偽陰性率のいずれか一方であること、又は、前記任意のMの設定が、Mが前記T個以上であり、Qが最低数となる様にPとMの組合せを確定することの、少なくともいずれか一方を実施する請求項1に記載のプール検査の前処理方法。
【請求項3】
前記濃縮操作における初期操作で試料集約において、前記該当するN,Q,M,Pの組合せに基づいて、前記架空の(P,M)型の行列概念の下、少なくとも各行に対し記号を付与する作業と、各列にて該記号を任意に選択し直列に連結させてPのM乗通りの検体用ID番号を作成して、検体毎にID番号を割り振る作業を実施した後に、任意のID番号に該当する検体由来の試料をM個用意し、該任意のID番号が呈示する各列にて該当する記号に応じた該格子点に存在する蓋ネジ付容器内に、各々の列にて該M個の試料から1試料のみを納める一連の試料集約作業を実施し、続いて、他のID番号が割り振られた検体に対し、該一連の試料集約作業を施す、前記一定の規則を設けて集約化試料を作成する請求項1または請求項2に記載のプール検査の前処理方法。
【請求項4】
前記集約化試料由来の濃縮試料の分析において、偽陰性率に対応する前記TをTnと置き、前記(P,M)型の行列概念でのM個の列の中から該Tn個の列を任意に選択し、該Tn個の列に由来する集約化試料由来の濃縮試料を全て分析し、陰性判定のみで構成される濃縮試料群に該当するID番号を有する検体を陰性と確定する一次スクリーニングを実施し、以後、必要に応じて、陽性判定となった濃縮試料に対し、該選択から外れた残りの列に由来する集約化試料由来の濃縮試料を全て分析して陽性対象を特定する二次スクリーニングを実施する請求項3に記載のプール検査の前処理方法。
【請求項5】
前記プール検査が、PCR操作を検出手段とする請求項1から請求項4の少なくとも1項に記載のプール検査の前処理方法。
【請求項6】
全検査対象数:Hで構成される母集団に対し、一定数で構成されるサブグループの構成数:Nを実施単位として特定ウイルスの有無をスクリーニングする目的から、少なくともウイルス又はウイルスの核酸のいずれか一方の濃縮操作を実施する、ヒト或いは物に対するプール検査において、
濃縮操作の初期操作として、同一の検体に対しM回の検査を実施する前提で、前記NのM分の1乗の値を切り上げて整数としたPを求め、架空の(P,M)型の行列概念の下、PとMの組合せから規定されるQ個の収集容器が、該行列の格子点に存在する仮定において、同一の検体由来の試料:M個をQ個の収集容器に一定の規則に従って分けて纏め、該収集容器内の集約化試料に含まれる液体物をQ個回収した後に、特定ウイルスの存在確定に用いられる公定法での濃縮率にQ分のNを乗じた値以上で該濃縮操作における正味の濃縮率:Lnを設定して、該液体物:Q個に対し濃縮操作を実施する前記プール検査であって、
前記濃縮操作の初期操作として、前記同一検体由来の試料に対し半定量的採取や分取を可能とする担体と蓋ネジ付容器を用いて、前記M個の試料を、異なる該蓋ネジ付容器に一定の規則に従って分けて纏めた後、集約化試料が含まれる該蓋ネジ付容器の本体に装着するろ過ユニットが、該蓋ネジ付容器の雄ネジに合致する雌ネジを有する蓋様構造部と、該蓋様構造部の背面に位置し液体物の回収を担う容器と接する遠沈管接触部と、前記蓋様構造部と前記遠沈管接触部を貫通する多孔構造部より構成されることを特徴とし、
前記ろ過ユニットを前記蓋ネジ付容器に装着後、容器全体を反転させ、遠心ろ過操作を実施し、前記集約化試料に含まれる液体物を前記蓋ネジ付容器外へ分離する液体物の集約的回収に係る操作に用いられる前記プール検査の前処理部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト或いは物に対し、特定ウイルスの存在の有無をスクリーニングする目的で実施する多検体集約型のプール検査における濃縮操作の前処理方法と部材に関する。
【背景技術】
【0002】
プール検査は、複数の検体を集約して1検体とし、その集約検体の陰性を確認することで、纏められた全ての検体が陰性であることを少ない検査数で効率的に確定できること、また、個々の検体に対して検査するよりも少ない検査数で、陽性対象をスクリーニングできることから、今般のCOVID-19パンデミックにおける不顕性感染者に対するスクリーニングやCOVID-19が付着する感染物のスクリーニング検査にて利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mallapaty, Smriti. The mathematical strategy that could transform coronavirus testing. Nature ; 583(7817):504-505, 2020 Jul.
【非特許文献2】Kitajima M, et al. SARS-CoV-2 in wastewater: State of the knowledge and research needs. Science of the TotalEnvironment (2020), Volume 739, 139076.
【非特許文献3】安倍1強にも医系の「聖域」PCR・アビガンで溝 首相「検査なぜ増えぬ」/厚労省「誤判定もある」,日本経済新聞 朝刊,2020年4月11日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
少数の検体を集約して実施する従来のプール検査は、対象毎に検査を実施するよりも、陰性或いは陽性対象を効率良くスクリーニングする特徴を有する。
しかしながら、集約検体数をNと置くと、陽性の検体が陰性の検体によりN倍以内に希釈されるが故に、検出感度が低下する問題点を孕んでおり、検出感度を担保する観点から、自ずと検体集約数が少数に限定される欠点を有していた。
【0006】
実際、世界各国の公定法等に規定されるCOVID-19感染判定に用いるプール検査での集約検体数は、中国/国務院改訂版ガイドラインでは、5検体以下、韓国/疾病管理本部プロトコルでは、10検体以下、インド/厚生労働省ガイドラインでは、25検体以下(実運用では、5検体を推奨)、米国/FDA承認事例では、4検体(クエスト・ダイアグノスティクス社)或いは8検体(スタンフォード大学)であり、概ね10検体以下にて運用されている。
一方、関連する学術研究においては、集約検体数の多検体化や陽性者のスクリーニング方法の数学的な最適化方法の検討が積極的に試みられているが、多検体になるにつれ前処理方法が煩雑になる懸念(非特許文献1)等、単に検出感度低下の問題のみならず、多検体化に伴って生じる問題点が、試料採取からの検査全般に亘って指摘される状況にある。
【0007】
ここで、COVID-19感染者判定で用いられるプール検査における、従来法での試料採取と試料集約化方法の一連の概略を
図1に示し説明する。
従来法での試料採取と集約化は、検出操作(f)の前段操作として、試料採取場所と検査場所にまたがって実施され、試料採取場所では、検体毎の試料採取(a)と専用容器内に納める梱包(b)が実施され、検査場所への採取試料の輸送(c)を経て、検査場所にて、採取試料が開梱(d)され、採取試料毎にピペット類を用いた試料の定量的集約(e)が必要となる。
【0008】
具体的には、従来法での試料採取(a)は、医師による専用スワブ(綿棒)を用いた鼻咽頭拭液等の採取が一般的であり、鼻腔の奥にスワブを挿入して試料を採取する。そのため、くしゃみや咳が誘発されやすく、医師は常に飛沫感染の恐れがあり、感染防止の観点から防護服や防護面等の厳重装備を必要とする、極めて非効率で手間の掛かる試料採取を実施しなければならなかった。
この採取方法の改良として、検査対象者自身での採取が可能な唾液を採取する方法が提案され、現在、普及が始まっているが、こちらも専用容器への少なくとも1-2ml程度の唾液を採取することが要求され、医師の飛沫感染のリスクは回避されたものの、5-10分程度の時間の掛かる非効率的な試料採取を実施しなければならなかった。
【0009】
また、採取された試料の梱包(b)は、1試料毎に専用容器内に梱包され、専用容器の外側を、消毒液を含ませたペーパーで拭った後に、ネジ蓋部分はパラフィルム等でシールされ、続いて梱包材と共にボトルタイプ又はパウチタイプの2次梱包容器に収納される。更に、2次梱包容器は、保冷剤と共に3次梱包容器に収納され、緩衝材で固定された後に梱包される。
採取された試料の梱包(b)は、この様な極めて手間と時間の掛かる作業が公定法マニュアルによって規定されている。
【0010】
更に、3重梱包が施された後に、梱包物は検査場所へ輸送(c)され、検査場に到着後、3重梱包物は開梱(d)され、採取試料毎にピペット類を用いた試料の定量的集約(e)が図られる。
試料の定量的集約(e)操作では、採取試料毎にピペット類を用いて一定量を量り取る必要があり、こちらもまた、手間や時間の掛かる非効率的な作業を実施しなければならなかった。
即ち、三重に包装された試料を開梱してサンプル容器を取り出し、サンプル容器を集約グループ毎に系統的に並べた後に、サンプル容器を手に取り、サンプル中のスワブに残る採取試料を十分に保存溶液中に溶出させる。
続いて、サンプルを開蓋し、収集容器を開蓋した後に、ピペット類にチップを取り付けて、サンプル容器から一定量の試料を量り取って収集容器に試料を注入する。
注入後、ピペット類の使用済チップを所定の容器に捨て、収集容器の口に蓋を被せ、続いてサンプル容器を閉蓋する。
上記、一連のバッチ作業を、手狭な安全キャビネット内にて、防護服、防護面、防護マスク着用下で、試料集約数に応じて繰り返し実施し、試料の集約化を図らなければならなかった。
【0011】
この様に、従来法での試料採取と集約化方法には、二次感染防止策を講じるが故に、多くの複雑な工程が存在するが、この従来法を踏襲して多検体に対し同様の操作を実施すると、極めて効率性の悪い前処理作業となることが容易に想像されるところであった。
【0012】
ところで、多検体を対象としたマス検査を実施した場合に、検査の種類を問わず、ベイズの定理から、検査の固有条件に応じて、一定の偽判定が確率的に生じることが知られている。
【0013】
一例として
図3を挙げる。
図3は、COVID-19感染に対する公定法のPCR検査条件に基づき、1万人を検査対象とした場合の、ベイズの定理から求めた、各種判定者数と偽判定率の計算結果である。
1万人を対象とした場合、係る検査条件では、真の陽性者:7人よりも多い偽陽性者:10人が確率的に少なからず生じる計算となる。また真の陰性者:9980人に対し、偽陰性者:3人を確率的に生じる計算となる。
【0014】
ところで、我が国においては、COVID-19感染に対するPCR検査の実施が他国に比べて、極端に少ない施策が採られているが、数多くのPCR検査を実施して第2波の感染増大の抑え込みに成功している東アジア諸国の施策とは、対照的な状況にある。
我が国が、このPCR検査を極端に少ない数に抑制している理由(非特許文献3)として、マス検査の実施によって、大量の偽陽性者をアーティファクトとして発生させ、その結果、実際は感染していない偽陽性者が、一定期間隔離されるという人権問題を生じる虞を、厚労省の医系技官を中心とする関係者が強く懸念しており、市井における医療関係者の一部にも同様の考え方が根強く存在することから、我が国における積極的なPCRを用いたマス検査の議論が一向に進まないとの指摘がある。
【0015】
係るマス検査を伴う多検体を対象としたプール検査技術の上市には、この偽陽性者の発生を十分に抑制した、公衆受容を得るための前提を、併せて構築する必要があった。
【0016】
検査の前処理にて特定ウイルス等の濃縮を実施しない、従来のプール検査では、自ずと集約検体数は限定され、概ね10検体以下が運用の限界であった。
従って、従来の慣例的な検体数の天井を突破する為には、集約検体数に応じて生じる希釈を相殺する、特定ウイルス等に対する濃縮操作を実施する次世代型プール検査への転換を図る必要がある。
加えて、偽判定の発生を十分に抑制する検討、多検体に対する効率的且つ体系的な試料収集と集約化に関する検討、その他、使用部材に関する最適化の検討が必要であった。
【0017】
前者の次世代型プール検査での前提たる、集約化試料中のウイルス等に対する濃縮方法に関しては、河川や海水を由来とする自然試料や下水等の人工試料を用いた高度ウイルス濃縮技術が既に存在し(非特許文献2)、また特許文献1に示される様に、試料中に含まれるウイルス核酸の自動濃縮装置や係る自動濃縮機能を備えた全自動PCR装置も存在し、基本的にプール検査技術以外の分野にて、ウイルス濃度、或いはウイルスの核酸濃度を、ほぼ自在に濃縮することが可能であり、濃縮に関する技術基盤は、既に従来技術によって確立されている。
【0018】
一方、後者の、多検体を対象とした場合に、一定で生じる偽判定の発生を十分に抑制する検討、多検体に対する効率的且つ体系的な試料収集と集約化に関する方法や使用部材に関する最適化の検討は、従来のプール検査技術には存在せず、これらの多検体に対する最適化検討は、未だ手つかずの状況にあった。
【0019】
なお、物を対象とした多検体型のプール検査は、基本的にヒトを対象としたプール検査の課題と同様の課題を有する。昨今では、コールドチェーンに特化されたCOVID-19検出事例等が蓄積される中で、物の分野においても、多検体型のプール検査の態勢強化による大量検査が一層望まれる状況にある。
【0020】
総じて、濃縮作業の前段作業にて、一定で生じる偽判定の発生を十分に抑制する検討、多検体に対する効率的且つ体系的な試料収集と集約化に関する方法や使用部材に関する最適化の検討を、多検体への適用が困難な従来のプール検査技術から次世代型プール検査への飛躍における技術的課題として挙げる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前述の課題を解決するための本発明の要旨とするところは、次の発明に存する。
全検査対象数:Hで構成される母集団に対し、一定数で構成されるサブグループの構成数:Nを実施単位として特定ウイルスの有無をスクリーニングする目的から、少なくともウイルス又はウイルスの核酸のいずれか一方の濃縮操作を実施する、ヒト或いは物に対するプール検査において、
前記濃縮操作の初期操作として、同一の検体に対しM回の検査を実施する前提で、前記NのM分の1乗の値を切り上げて整数としたPを求め、架空の(P,M)型の行列概念の下、PとMの組合せから規定されるQ個の収集容器が、該行列の格子点に存在する仮定において、同一の検体由来の試料:M個をQ個の収集容器に一定の規則に従って分けて纏め、該収集容器内の集約化試料に含まれる液体物をQ個回収した後に、特定ウイルスの存在確定に用いられる公定法での濃縮率にQ分のNを乗じた値以上で該濃縮操作における正味の濃縮率:Lnを設定して、該液体物:Q個に対し濃縮操作を実施する前記プール検査の前処理方法であって、
前記特定ウイルスの有無をスクリーニングする目的が、陰性者或いは陰性物のスクリーニングである操作、
又は、前記濃縮操作の初期操作として、前記プール検査における検査条件とベイズの定理に基づいて求められる偽判定率をXとし、前記公定法に規定される繰り返し検査回数をYとし、前記全検査対象数:Hの逆数をZとした場合に、任意の繰り返し検査回数における偽判定率を求めた後、XのY乗の値とZの積を求めてSを算出し、該偽判定率がS以下となる繰り返し検査回数:Tを求め、前記MをT個以上とする試料集約に係る設計操作、
又は、前記濃縮操作の初期操作として、前記Pに前記Mを乗じた値:Qを任意のMで求めて、PとMの組合せを求め、更にNをQで除して得た値を切り上げて整数とし前記収集容器内に集約される最大試料数:Rを求めて、N,Q,M,P,Rの組合せをあらかじめ求めておき、続いて、任意に設定した前記正味の濃縮率:Lnに対し、Ln≧RとなるRを選択して、該当するN,Q,M,Pの組合せを確定する試料集約に係る設計操作、
又は、前記濃縮操作の初期操作として、前記同一検体由来の試料に対し半定量的採取や分取を可能とする担体と前記収集容器として蓋ネジ付容器を用いて、前記M個の試料を、異なる該蓋ネジ付容器に一定の規則に従って分けて纏めた後、集約化試料が含まれる該蓋ネジ付容器の本体にろ過ユニットを装着して反転させ、遠心ろ過操作を実施し、該集約化試料に含まれる液体物を該蓋ネジ付容器外へ分離する該液体物の集約的回収操作、の少なくともいずれか一つの操作を実施するプール検査の前処理方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る、集約化試料中のウイルス等に対し、集約検体数に応じて生じた希釈を超える濃縮を実施すると共に、多検体に対する効率的且つ体系的な試料収集や集約化に関する技術や部材と、多検体を対象とした場合に、一定で生じる偽判定の発生を十分に抑制する技術によれば、従前のプール検査での、集約検体数の制限や偽判定の発生の問題等を解消して、多検体への適用における検査の効率化や費用対効果の飛躍的向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】従来法における少数検体を対象としたプール検査法における前処理操作の概略を示した図である。
【
図2】本発明であるところの多検体を対象としたプール検査法における前処理操作の概略を示した図である。
【
図3】公定法でのPCR検査を用いてマス検査を実施した場合における、ベイズ定理で規定される偽判定者数と偽判定者率の模擬計算結果を示した図である。
【
図4】本発明であるところのプール検査法における試料集約に関する設計手段を示した図である。
【
図5】本発明であるところのプール検査法における濃縮操作の前段で実施する試料集約操作の概略を示した図である。
【
図6】前記試料集約操作における、スワブを用いた試料採取(分取)の定量性を確認した結果を示した図である。
【
図7】前記試料集約操作における、遠心操作による試料に含まれる液体物の回収方法の回収精度を確認した結果を示した図である。
【
図8】従来法での試料集約操作と本発明であるところの試料集約操作を構成する各作業の所用時間を集計した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明であるところの多検体に対する効率的且つ体系的な試料収集/集約化に対する方法等と、多検体を対象とした場合に、一定で生じる偽判定の発生を十分に抑制する方法を代表する実施の形態と実施事例を示し説明する。
【0025】
なお、本発明は、ヒト或いは物に対するプール検査に関する発明であるが、物に対する発明を実施するための形態は、ほぼ、ヒトに対する発明を実施するための形態と一致する。従って、以下、特に断りの無い限り、ヒトに対する操作を中心に説明することとする。
【0026】
本発明による前処理方法の概略を
図2に示す。本発明による前処理方法もまた、
図1に示す従来法と同様に、試料採取場所と検査場所にまたがった前処理が実施され、それぞれの作業が衛生概念の下で適切に実施される点を共通とする。
一方、新旧技術の相違点、即ち、本発明の作用によって生じた新たな作業として、試料採取場所で実施する半定量的な試料分取(g)と試料の集約(h)と、検査場所で実施する集約物からの液体物の遠心回収(i)と濃縮操作(j)を挙げる。
【0027】
前者の試料採取場所で実施する半定量的な試料分取と採取試料の集約では、試料担持部が、空隙率の高い保水性を有する成形物で構成され、その素材は吸水性の無い樹脂製であり、同一規格で大量生産される綿棒様、或いは綿球様の試料保持担体等を用いて、唾液等の液体を対象として、分取量の誤差が少ない一定数の分取試料を作成する。
続いて、作成した一定数の分取試料を、試料担持部も含めて、一定の規則に従って複数の蓋ネジ付容器内に回収し、一定数の試料の半定量的集約化を、この試料分取時に実施する。
試料採取場所での集約化作業の完了後、集約化された試料を、公定法に沿って梱包して検査場所に送る。検査場所では、遠心操作によって蓋ネジ付容器内の集約物から液体物の分離と回収を図り、回収された液体物を濃縮操作に供する。
【0028】
なお、上記では、検体からの試料採取対象が唾液等の液体である場合を述べたが、ヒト由来の喀痰や便等の固体が採取対象の場合は、これらの固体物の一定量を適切な液体に良く懸濁して抽出液を作成し、この抽出液から試料保持担体等を用いて、試料分取量の誤差が少ない分取試料を作成する。また物に対しその表面を拭き取ったスワブ等も固体物として上記同様に取り扱う。
【0029】
ところで、一定の規則に従った試料の集約化に関する数量の設計は、正味の濃縮率の設定より始まり、この正味の濃縮率が単位収集容器あたりの試料の集約数の上限となる。
また、収集容器数に応じたサブグループの構成数と、同一の検体から採取する試料数と、収集容器への試料の集約数の組合せパターンをあらかじめ、別途で求めておき、同一の検体由来の試料数を頼りに、上記の各数量を決定する。なお、係る同一の検体由来の試料数は、偽判定の出現を十分に抑制する条件からも規定されるので、これらの条件を勘案して数量を決定する。
続いて、上記から、全体の検査対象の一部を括ったサブグループでの構成数が定まり、全体の検査対象数とサブグループでの構成数から、サブグループ数が定まる。
この様に、各種の設計緒元を決定し、本発明であるところのプーリング試験計画を立案すると共に、必要検査部材や試薬を、各数量に従って準備する。なお、具体的な計算方法や考え方の詳細は、後述する。
【0030】
ところで、ヒトに対して実施する従来のプール検査は、陰性者のスクリーニングを主たる目的として実施する検査と、陽性者のスクリーニングを主たる目的として実施する検査に大別される。
【0031】
前者の陰性者のスクリーニングを主たる目的として実施する検査は、いわゆる「安全・安心」を得るための検査であり、主として感染流行時における陰性者による社会活動の継続化の為に活用される。不顕性者を中心とした集団に対して実施される特徴を有するので、ヘルスケア検査とも呼ばれ、陽性判定をもって感染の「確定」を行う行政検査(医事行為としての検査を広義として含む)とは異なり、明確に区別される。
適用としては、プロスポーツ選手、老人ケア施設や病院等の施設関係者に対する定期的な検査や、海外渡航や事業活動で求められる陰性証明検査等が該当する。
【0032】
陰性者のスクリーニングを主たる目的として実施するプール検査を、
図3に示すベイズの定理から算出される各種の指標を用いて説明する。
図3では、COVID-19に対する公定法のPCR検査条件に基づき、1万人を対象として検査を実施した場合の計算結果を示している。
陰性者のスクリーニングを主たる目的として実施するプール検査では、検査結果で陰性と判定された者の内、真の陰性者と偽陰性者の割合に注意する。
図3に示すスクリーニング条件において、1回の検査結果では、真の陰性者:9980人と偽陰性者:3人が陰性者としてスクリーニングされ、2回の検査では、偽陰性者は整数以下となる。
我が国における公定法による1人に対する検査では、試験回数は2回と定められているが、1万人を対象としたプール検査を実施した想定においても、試験回数が2回では、偽陰性者の発生は1人未満で実施される計算となり、基本的に真の陰性者数に対し十分に少ない偽陰性者数の出現が期待され、真の陰性者を効果的にスクリーニング可能であることが分かる。
【0033】
一方、後者の陽性者のスクリーニングを主たる目的として実施するプール検査は、感染の「確定」を行う行政検査の実施が後段で計画されていることを前提に、事前に陽性の疑いを有する者を抽出することを目的に実施するスクリーニング検査と位置付けられる。
図3に示される様に、我が国における公定法による検査では、真の陽性者と偽陽性者が混交した陽性判定者を併せて生じるが、この偽陽性者の発生を十分に抑制したスクリーニング検査が求められる。
【0034】
なお、上述した様に、陽性者と陰性者のスクリーニングを主たる目的として実施するプール検査を、感染者の「確定」を行う行政検査と明確に区別する理由は、あくまでも感染者の「確定」は、感染症関係法体系に基づく措置であることを理由とする。
少なくとも本発明であるところのプール検査は、偽判定者たるアーティファクトの出現を極めて高精度で抑制する検出精度をもって、真の陽性者や真の陰性者に限ってスクリーニングする迄の、感染症関係法体系外で実施する作業であって、感染者の「確定」を行わないことを注記する。感染者の「確定」が必要であれば、法に則って行政検査を後段で実施する必要がある。
【0035】
さて、陽性者のスクリーニングを主たる目的として実施するプール検査も、
図3が示す様に、公定法を用いた検査の結果で陽性と判定された者の内、真の陽性者と偽陽性者の割合や人数に注意する。
図3に示すスクリーニング条件下、1回の検査結果として、真の陽性者:7人に対し偽陽性者:10人が陽性者としてスクリーニングされ、陰性者をスクリーニングする場合とは異なり、真の陽性者数を超える偽陽性者をアーティファクトとして生じる恐れが指摘される状況にある。
【0036】
但し、この偽陽性者の発生は、
図3の表に示す様に、繰り返し試験によって抑制することが可能である。
本発明であるところの陽性者のスクリーニングを主たる目的として実施するプール検査では、大量検査を前提とするので、偽陽性者の発生を十分に抑制するために、繰り返し検査回数を適切にコントロールして、偽陽性者の発生を排除し、実質的に真の陽性者のみをスクリーニングする以下の様な設計が必要となる。
まず、同一の検体に対する繰り返し検査回数(=同一の検体由来の試料数:M)と集約試料数の関係から、次の様な検査精度管理に関する設計緒元を得る。
まず、全検査対象数:Hに対し、同一の検体由来の試料数をM個とした場合に、プール検査における検査条件とベイズの定理に基づいて求められる1回の検査を実施した際の偽判定率をXとし、任意の繰り返し検査回数における偽判定率を求める。
続いて、公定法に規定される繰り返し検査回数をYとし、全検査対象数:Hの逆数をZとして、XのY乗を求めて、これを公衆受容における受忍レベルの値とし、一方、偽判定は、全検査対象数に比例することから、XのY乗の値とZの積を求めてSを算出する。
更に、該偽判定率がS以下となる繰り返し検査回数:Tを、あらかじめ求めておいた任意の繰り返し検査回数における偽判定率から求める。
同一の検体由来の試料数と繰り返し試験数は同義・同数のMなので、MをT個以上とする、該偽判定の出現頻度を公定法と同等以下の受忍レベル以下とする検査精度での検査を設計する。なお、この設計は、物もヒトと同様に考える。また、この設計の全部または一部(各種の設計操作や具体的な計算等)がコンピュータによって行われることは、言うまでもない。
【0037】
ここで、ベイズの定理に基づいて求められる偽陽性率について
図3を用いてヒトの場合を例に具体的に説明する。
【0038】
この偽陽性率は、検査における罹患率、感度、特異度によって各繰り返し検査数に対し固有値が与えられる。
我が国における行政検査による感染の確定検査では、M=2で試験を実施することが規定されており、
図3に示す検査条件では、繰り返し検査数:2回の場合、偽陽性率は1x10
-6となる。即ち、検査対象者1人に対し、偽陽性と判定される確率が1x10
-6である検査であることが分かる。
これを、全検査対象数:Hにおける検査にて公衆受容を取得可能な偽陽性率を、公定法(n=2)における検査対象者1人に対する偽陽性と判定される確率:1x10
-6と同等と考えると、全検査対象数:Hにおける検査での偽陽性者数は、公定法のH倍数となるので、全検査対象数:Hにおける検査で受忍される偽陽性率は、公定法における検査対象者1人に対する偽陽性と判定される確率:1x10
-6に、Hの逆数を乗じた値となる。
例えば、公定法における繰り返し検査数:2回の場合の偽陽性率:1x10
-6に、H=1万人を対象とした検査において、全検査対象数:Hにおける検査で受忍される偽陽性率を求めると、1x10
-6に1x10
-4を乗じて1x10
-10の値が得られる。この1x10
-10に該当する繰り返し検査数は、
図3の表から4回と分かり、繰り返し検査回数:Mを4回以上と置く、といった操作によって設計緒元を得る。
【0039】
また、同一の検体由来の試料数:Mが求まると、以下の計算から自ずと収集容器数、検体数等が定まるので、次の様な試料の集約化作業における各種数量に関する設計緒元を得る。
サブグループの構成数:Nが10<N個であって、同一の検体由来の試料数をM個とした場合に、NのM分の1乗の値を切り上げて整数としたPを求め、PにMを乗じた値Qを任意のMで求めて、PとMの組合せを求め、更にNを該Qで除して得た値を切り上げて整数とし前記収集容器内に集約される最大試料数:Rを求めて、N,Q,M,P,Rの組合せをあらかじめ求めておき、続いて、任意に設定した前記正味の濃縮率:Lnに対し、Ln≧RとなるRを選択して、該当するN,Q,M,Pの組合せを確定する。
なお、NのM分の1乗の値を切り上げて整数とする操作は、Pから求められるQが常に整数であることを理由とする。また、この設計は、物もヒトと同様に考える。また、この設計の全部または一部(各種の設計操作や具体的な計算等)がコンピュータによって行われることは、言うまでもない。
【0040】
上記の設計を、ヒトに対するマス検査を想定したサブグループの構成数の区間別に
図4の表に整理した。
図4は、全検査対象数:H=1万人に対する本発明であるところのプール検査の設計緒元をまとめたものである。
濃縮方法や前処理方法の調整を図って獲得した正味の濃縮率:Lnが250倍であった場合、表から蓋ネジ付容器内に集約される試料数:Rが、R=250に該当するN,Q,M,P,Rの組合せを選択する。R=250の場合、複数の組合せが該当するが、作業の効率性を考慮して、よりNの値が大きく、検査精度の管理に関する設計緒元でのT>4を満たすMにて、より小さい数量の組合せとなる(N,Q,M,P,R)=(1000,20,5,4,250)を選択する。結果、サブグループの構成数:Nは、N=1000となり、全検査対象数:H=1万人に対し、サブグループ数が10個と設定される。
【0041】
続いて、(N,Q,M,P,R)=(1000,20,5,4,250)における検体識別番号(ID)を設計する。(P,M)=(4,5)の条件であれば、MのP乗個、即ち4
5=1024通りのIDの発行が可能である。
このIDの発行方法は、基本的に任意であるが、採取試料を収納すべき容器が明確に分かる様なIDの発行が好ましい。
図4では、架空の(P,M)型の行列を作成し、P行に記号として数字を付与して、採取試料を収納すべき容器記号を直列に並べて「ID:3-2-4-1」のごとく、ID発行を行う一例を示した。
更に、より明確に収納すべき容器を示すのであれば、M列に対しても記号を付与し、例えば「ID:A3-B2-C4-D1」のごとく、架空行列の格子点を具体的に示す様な設定としても良い。
【0042】
この様な試験設計と試験準備を行って、陽性者(物)のスクリーニングを主たる目的として実施するプール検査に臨む。
【0043】
なお、上述した試験設計と試験準備の事例は、陽性者(物)のスクリーニングを例に挙げて説明したが、陰性者(物)のスクリーニングも同様の試験設計と試験準備にて実施可能である。
但し、陰性者(物)のスクリーニングの場合は、一般に偽陰性率が偽陽性率よりも小さくなるので、所定の全検査対象数:Hにおける検査にて、受忍される偽陰性率は、偽陽性率のそれよりも低くなり、より少ないMにて判定される。
なお、陰性者(物)のスクリーニングでは、その主たる目的が陰性者(物)のスクリーニングではあるものの、併せて、スクリーニングで排除された中から、更に陽性者(物)のスクリーニングを実施するなどの、ハイブリッドなスクリーニングが求められることも想定される。
【0044】
ハイブリッド型を考慮する場合は、以下の様な検査を設計して、陰性者(物)のスクリーニング単独、或いは、陰性と陽性の両者を組み合わせたスクリーニングを計画/実施する。
偽陰性率に対応する前記TをTnと置き、架空の(P,M)型の行列概念でのM個の列の中からTn個の列を任意に選択し、Tn個の列に由来する集約化試料由来の濃縮試料を全て分析し、陰性判定のみで構成される濃縮試料群に該当するID番号を有する検体を陰性と判定する一次スクリーニングを実施する。
以後、陽性者(物)に対するスクリーニングを実施する場合は、一次スクリーニングで陰性判定から漏れた集約化試料に限定して、先の選択から外れた残りの列に由来する集約化試料由来の濃縮試料を全て分析して陽性者(物)を判定する二次スクリーニングを実施する。
【0045】
続いて、
図5を用いて、試料集約方法と使用部材の詳細を説明する。
検体からの試料の採取は、試料採取場所にて、ヒトの場合は公定法にて採取試料種として規定される試料に対し、物の場合はウイルスの存在のおそれのある試料に対し実施する。
試料が唾液等の液体物であれば、そのまま試料保持担体9を用いて半定量的に採取する。一方、ヒト由来の喀痰や便等の固体が採取対象の場合は、これらの固体物を適切な液体に良く懸濁して抽出液を作成し、この抽出液から試料保持担体9を用いて、試料分取量の誤差が少ない分取試料を作成する。また物に対し、その表面を拭き取ったスワブ等も同様に処置する。
同一の検体由来の試料数は、設計により求めたM個として、M個の試料を用意し、上述した設計による検体のIDを参考に、試料のそれぞれを収集容器である所定の蓋ネジ付容器2に集約する。
集約後、蓋ネジ付容器2の蓋をしっかりと閉じて、公定法に規定された梱包を施して、検査場所に輸送する。
検査場所に到着後、開梱して、試料保持担体9を内包する蓋ネジ付容器2を取り出し、蓋ネジ付容器2の蓋を外して、この蓋ネジ付容器2に、ろ過ユニット1を装着する。
【0046】
このろ過ユニット1は、試料集約に用いた蓋ネジ付容器2の蓋固定機構3に合致する蓋ネジ付容器固定機構4を有する蓋様構造部5と、この蓋様構造部5の反対面に位置し、液体物回収用遠沈管6との接点となる遠沈管接触部7と、この蓋様構造部5と遠沈管接触部7の接合面に配置する多孔構造部8から成る。
なお、ろ過ユニット1の形状は、多様な構造を呈する遠沈管接触部7によってバラエティに富む構造を採るので、材質は、それぞれの遠沈管接触部7の形状や必要強度に応じて、その都度、適切な素材を選択する。
但し、試料と接する全ての器具は、核酸切断酵素のコンタミネーションが無いことが好ましく、これらの酵素を失活させるための事前処理で、変性・変質が無き素材であることを確認しておく。
また、ろ過ユニット1を使い捨てとせず、繰り返し利用する場合は、上記操作を行う前に、残存するウイルスやウイルスの核酸に対し適切な事前処置を実施し、選択の際には、係る処理にて変性・変質が無き素材で構成されていることを確認しておく。
【0047】
このろ過ユニット1を装着した後、液体物回収用遠沈管6を被せて、反転11させた後に、遠心ろ過操作12を実施し、ろ過ユニット1の多孔構造部8を通じて集約物等を有した蓋ネジ付容器2から液体物13を分離し、液体物回収用遠沈管6への液体物13の回収を図る操作を実施する。
なお、前記の液体物回収用遠沈管6と装着物10の合体物の長さは、より短い方が蓋ネジ付容器2内の集約物に対し、より強い遠心力が働くので、できるだけ短くなる様に心掛ける。
【0048】
一方、液体物回収用遠沈管6の管径が、蓋ネジ付容器2と同等の容器、又は一回り小さな容器であれば、ろ過ユニット1の遠沈管接触部7の形状を工夫して、同径用遠沈管接触部14、又は小径用遠沈管接触部15として、漏れや飛散の無い液体物13の回収を実施する。
この際、前記合体物の長さをできるだけ短くする為に、試料保持担体9の先端の試料担持部や綿球等の集約物16に変更して集約物の減容を図り、また、蓋ネジ付容器2を浅底蓋ネジ付容器17に変更し、更に液体物回収用遠沈管6も浅底蓋付遠沈管18に変更する。
また、遠沈管接触部7の内側形状を蓋様構造部5のごとくの蓋付遠沈管固定機構19を付与して固定を確実として、加えて遠心操作時の安定性を確保するための遠沈管アダプター20等を利用する等の工夫を図り、漏れの無い液体物13の回収を実施する。
【0049】
なお、蓋ネジ付容器2、液体物回収用遠沈管6、浅底蓋ネジ付容器17、浅底蓋付遠沈管18等、直接に試料保持担体9や液体物13に触れる部材は、核酸切断酵素のコンタミネーションが無い、できるだけディスポーザルな汎用のプラスチック製品を用いることが好ましい。
【0050】
液体物13の遠心回収後、液体物13が入った遠沈管を、濃縮操作まで適切に保管する。その他の試料を含む器具類を、ウイルスやウイルス核酸の飛散を伴わない適切な処置を施した後に、関連法規に規定される方法に則って廃棄する。
【0051】
なお、ここまでの一連の操作では、感染性を有する試料が少なからず存在する可能性があり、それが故に、試料の集約から液体物13の回収迄の一連に、同一の蓋ネジ付容器2を用いて、できるだけ密閉して試料の散逸が無い様に心掛ける操作としているが、蓋やろ過ユニット1の開閉操作時には、容器内や蓋等に付着した試料との接触には十分注意する。
より安全な作業のためには、試料集約時の蓋ネジ付容器2内に適量のウイルス(+核酸分解酵素)不活化溶液を加える操作を実施して、集約化と同時にウイルスの不活化を図って、以後の感染リスクを最少とする様な、感染管理を十分に図る。
但し、ウイルス(+核酸分解酵素)不活化溶液を加える操作は、試料の希釈を伴うので、正味の濃縮率に少し余裕を持たせるか、容器に集約する試料数を減らす等、この希釈を相殺する為の設計変更を実施する。
【0052】
上記の液体物13の回収までの一連の操作に関し、ろ過ユニット1を用いた試料の遠心操作による回収精度の検定を行った結果を
図6と
図7に、各工程での必要時間数の計測を行った結果を
図8に示す。
【実施例0053】
ろ過ユニット1を用いた試料の遠心操作による液体物13の回収精度の検定は、同一規格のスワブにおける繰り返し採取(分取)精度に関する評価と、遠心回収における集約スワブからの液体物13の回収のばらつきに関する評価を実施した。
前者の同一規格のスワブにおける繰り返し採取(分取)精度に関する評価は、FLOQスワブ 534CS01-E(日本ベクトン・ディッキンソン社製)を5本用いて、唾液試料に浸漬する前後での重量を測定し、繰り返し採取(分取)精度を評価した。結果を
図6に示す。
【0054】
結果、5本のスワブに採取されたそれぞれの唾液試料の重量は、平均値:0.139g、標準偏差:0.003であり、またGRUBBSの棄却検定により、過誤確率5%(信頼区間:95%)とした場合に、全ての標本は棄却されず、スワブによる唾液を対象とした繰り返し採取精度は、その採取量に関し、ばらつきが少なく、本発明であるところ試料採取(分取)方法により、唾液等の液体試料の半定量的な採取(分取)が可能であることが示された。
結果、5種の陰イオン濃度は、平均値:2.00mg/L、標準偏差:0.276であり、またGRUBBSの棄却検定により、過誤確率5%(信頼区間:95%)とした場合に、全ての標本は棄却されなかった。本発明であるところの、遠心法による集約スワブからの液体物13の回収は、その回収の均一性に関し、ばらつきの少ない、極めて効率的な回収・集約方法であることが示された。