(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054340
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】加飾フィルム、加飾フィルムの製造方法、加飾成形体及び加飾成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220330BHJP
B29C 51/10 20060101ALI20220330BHJP
B29C 51/14 20060101ALI20220330BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B29C51/10
B29C51/14
B32B27/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161484
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】390023009
【氏名又は名称】共和レザー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】室伏 翼
(72)【発明者】
【氏名】坂本 拓己
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】江ノ上 美穂子
【テーマコード(参考)】
4F100
4F208
【Fターム(参考)】
4F100AK07D
4F100AK15A
4F100AK15B
4F100AK15E
4F100AK17A
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK41C
4F100AK51C
4F100AK74B
4F100AK74E
4F100AT00B
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10E
4F100CB00C
4F100DC13E
4F100EJ19
4F100EJ39
4F100EJ42
4F100EJ59
4F100JL01
4F100JL05
4F100YY00E
4F208AA13
4F208AA15
4F208AA20
4F208AG03
4F208MA01
4F208MB01
4F208MG04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】成形体に貼り付ける際の作業性が向上する加飾フィルム及び加飾フィルムの製造方法、並びに、それを用いて製造される加飾成形体及び加飾成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】表皮層12と、基材層14と、接着層18と、接着層保護シート20と、カット部28Aを含む切り取り線を有する形状保持層22と、をこの順で含み、成形体の加飾に用いられる加飾フィルム10、加飾フィルム10の製造方法、加飾成形体及び加飾成形体の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮層と、
基材層と、
接着層と、
接着層保護シートと、
カット部を含む切り取り線を有する形状保持層と、
をこの順で含み、
成形体の加飾に用いられる加飾フィルム。
【請求項2】
前記カット部の深さが150μm~300μmである、
請求項1に記載の加飾フィルム。
【請求項3】
前記切り取り線は、前記カット部と非カット部とが交互に配置されてなり、
前記非カット部の長さが1.5mm以下である、
請求項1又は請求項2に記載の加飾フィルム。
【請求項4】
前記切り取り線は、前記カット部と非カット部とが交互に配置されてなり、
前記カット部の長さが0.5mm~2.5mmである、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の加飾フィルム。
【請求項5】
前記基材層が、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、及びABS樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、
前記表皮層が、フッ素樹脂、アクリル樹脂、及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、
前記形状保持層が、ABS樹脂及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む、
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の加飾フィルム。
【請求項6】
基材層の一方の面側に、表皮層を積層する工程と、
前記基材層の他方の面側に接着層を形成する工程と、
前記接着層を接着層保護シートにより被覆する工程と、
前記接着層保護シートの前記接着層側とは反対側に、形状保持層を接着剤を介して積層する工程と、
前記形状保持層にカット部を含む切り取り線を形成する工程と、
を含む、
成形体の加飾に用いられる加飾フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記基材層が、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、及びABS樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、
前記表皮層が、フッ素樹脂、アクリル樹脂、及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、
前記形状保持層が、ABS樹脂及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む、
請求項6に記載の加飾フィルムの製造方法。
【請求項8】
成形体と、
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の加飾フィルムから前記接着層保護シート及び前記形状保持層が剥離された加飾積層体であって、前記接着層により前記成形体に接着されている加飾積層体と、
を含む加飾成形体。
【請求項9】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の加飾フィルムを、成形体に適合する形状に真空成形法により予備成形する予備成形工程と、
前記予備成形した加飾フィルムから、前記切り取り線を境目として前記接着層保護シート及び前記形状保持層を部分的に剥離して前記接着層の一部を露出させる部分剥離工程と、
前記予備成形した加飾フィルムから、前記切り取り線を境目として前記形状保持層及び前記接着層保護シートを部分的に剥離して露出した前記接着層の一部を前記成形体の表面に接着させる部分接着工程と、
を含み、
前記部分剥離工程と前記部分接着工程とを交互に繰り返して前記形状保持層及び前記接着層保護シートが剥離された加飾積層体を、前記成形体の表面に段階的に貼り付ける加飾成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加飾フィルム、加飾フィルムの製造方法、加飾成形体及び加飾成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の外観を変えたり、車両に所望の意匠を付与したりするための加飾フィルムが知られている。加飾フィルムを、自動車のルーフ、ボディ側面などに貼り付けることで、塗装などを施すことなく、容易に意匠を付与することができ、車両外観の変更も容易に行なうことができるため注目されている。
車両の外装用加飾フィルムは種々提案され、市販品も存在する。しかし、車両の外装用加飾フィルムの殆どは可撓性の加飾フィルムを車両の形状に追従させながら貼り付けるフィルムであり、このようなフィルムを車両の形状に適合させ、外観を損なわないように貼り付けるには熟練を要していた。
【0003】
そこで、車両外装への貼り付け作業性を向上させる目的で、剥離層と、粘着層と、表皮層とを有し、前記剥離層が形状保持層を備える加飾フィルムが提案されている(特許文献1及び特許文献2参照)。加飾フィルムの剥離層が形状保持層を備えることで、予め被着体の形状に合わせて加飾フィルムを予備成形することができ、予備成形された加飾フィルムは、平面状の加飾フィルムに比較して、被着体の表面の凹凸に対し、位置合わせが容易となるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-198900号公報
【特許文献2】特開2016-203434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
予備成形が可能な加飾フィルムは、車両外装などの被着体に貼り付ける際に、予備成形及びトリミングを行い、予備成形された加飾フィルムから剥離層を剥離した加飾積層体の粘着層全面を露出させた後、粘着層を被着体へ押圧して貼り付ける。このとき、粘着層全面が露出するため貼り付け位置の位置決めが難しくなる。加飾積層体を被着体に一旦貼り付けた後、貼り付け位置を修正すると、加飾積層体に係った応力に起因して僅かなシワが生じ、被着体の表面に加飾積層体の微細なシワによるツヤムラが生じて外観不良となる。
【0006】
そこで、予備成形後に剥離層に対して分割線を施し、この分割線に沿って剥離層を剥がして粘着層を部分的に露出させ、被着体に段階的に貼り付けることが考えられる。
しかしながら、予備成形された加飾フィルムは立体形状であることより、正確に分割線を施すことは困難である。
【0007】
本開示は、成形体に貼り付ける際の作業性が向上する加飾フィルム及び加飾フィルムの製造方法、並びに、それを用いて製造される加飾成形体及び加飾成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための手段は以下の実施形態を含む。
<1> 表皮層と、
基材層と、
接着層と、
接着層保護シートと、
カット部を含む切り取り線を有する形状保持層と、
をこの順で含み、
成形体の加飾に用いられる加飾フィルム。
<2> 前記カット部の深さが150μm~300μmである、
<1>に記載の加飾フィルム。
<3> 前記切り取り線は、前記カット部と非カット部とが交互に配置されてなり、
前記非カット部の長さが1.5mm以下である、
<1>又は<2>に記載の加飾フィルム。
<4> 前記切り取り線は、前記カット部と非カット部とが交互に配置されてなり、
前記カット部の長さが0.5mm~2.5mmである、
<1>~<3>のいずれか1つに記載の加飾フィルム。
<5> 前記基材層が、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、及びABS樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、
前記表皮層が、フッ素樹脂、アクリル樹脂、及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、
前記形状保持層が、ABS樹脂及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む、
<1>~<4>のいずれか1つに記載の加飾フィルム。
<6> 基材層の一方の面側に、表皮層を積層する工程と、
前記基材層の他方の面側に接着層を形成する工程と、
前記接着層を接着層保護シートにより被覆する工程と、
前記接着層保護シートの前記接着層側とは反対側に、形状保持層を接着剤を介して積層する工程と、
前記形状保持層にカット部を含む切り取り線を形成する工程と、
を含む、
成形体の加飾に用いられる加飾フィルムの製造方法。
<7> 前記基材層が、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、及びABS樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、
前記表皮層が、フッ素樹脂、アクリル樹脂、及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、
前記形状保持層が、ABS樹脂及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む、
<6>に記載の加飾フィルムの製造方法。
<8> 成形体と、
<1>~<5>のいずれか1つに記載の加飾フィルムから前記接着層保護シート及び前記形状保持層が剥離された加飾積層体であって、前記接着層により前記成形体に接着されている加飾積層体と、
を含む加飾成形体。
<9> <1>~<5>のいずれか1つに記載の加飾フィルムを、成形体に適合する形状に真空成形法により予備成形する予備成形工程と、
前記予備成形した加飾フィルムから、前記切り取り線を境目として前記接着層保護シート及び前記形状保持層を部分的に剥離して前記接着層の一部を露出させる部分剥離工程と、
前記予備成形した加飾フィルムから、前記切り取り線を境目として前記形状保持層及び前記接着層保護シートを部分的に剥離して露出した前記接着層の一部を前記成形体の表面に接着させる部分接着工程と、
を含み、
前記部分剥離工程と前記部分接着工程とを交互に繰り返して前記形状保持層及び前記接着層保護シートが剥離された加飾積層体を、前記成形体の表面に段階的に貼り付ける加飾成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のある実施形態によれば、成形体に貼り付ける際の作業性が向上する加飾フィルム及び加飾フィルムの製造方法、並びに、それを用いて製造される加飾成形体及び加飾成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の加飾フィルムの一態様を示す概略断面図である。
【
図2】本開示の加飾成形体の一態様を示す概略断面図である。
【
図3】実施例1-4における加飾フィルムの形状保持層に形成した切り取り線の一態様を示す概略図である。
【
図4】実施例5-8における加飾フィルムの形状保持層に形成した切り取り線を示す概略図である。
【
図5】実施例9-12における加飾フィルムの形状保持層に形成した切り取り線を示す概略図である。
【
図6】実施例13-16における加飾フィルムの形状保持層に形成した切り取り線を示す概略図である。
【
図7】実施例17-20における加飾フィルムの形状保持層に形成した切り取り線を示す概略図である。
【
図8】比較例1における加飾フィルム(切り取り線無し)を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の加飾フィルム、加飾フィルムの製造方法、加飾成形体の製造方法及び加飾成形体について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示は以下の実施態様に限定されない。
なお、本開示において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値は他の段階的な記載の数値範囲の上限値に、又は一つの数値範囲で記載された下限値は他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えてもよい。
また、本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0012】
本開示における「樹脂を含む層」とは、「当該層の主成分である樹脂を含んで形成された層」を指す。即ち、本開示における「樹脂を含む層」は、樹脂のみを含む樹脂層、及び、主成分である樹脂に加え、可塑剤、着色剤、紫外線吸収剤等の任意成分をさらに含む樹脂組成物により形成された層の双方を包含する意味で用いられる。
なお、本開示における「主成分である樹脂」とは、当該成分が含まれる樹脂組成物の全量に対し、60質量%以上含有される樹脂を指す。
本開示では、塩化ビニル樹脂をPVC樹脂と称することがある。また、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体をABS樹脂と称することがある。
本開示において「立体形状を有する成形体」又は「成形体」とは、加飾前の成形体を指し、「加飾成形体」とは、本開示の加飾フィルムを用いて加飾された成形体を指す。また、成形体が有する「立体形状」とは、成形体に対し、加飾フィルムを貼り付ける面が平面でないことを意味する。
加飾フィルムから接着層保護シート及び形状保持層を剥離した、被着体への貼り付けに用いる、表皮層、基材層及び接着層を含む積層体を、加飾積層体と称する。
【0013】
本開示の加飾フィルムは、加飾フィルムにおいて、接着層保護シートの接着層側とは反対側に設けられた形状保持層により、加飾フィルムが成形体の加飾に用いられる際に、加飾フィルムが真空成形等による予備成形時に、接着層保護シートの収縮が抑制され、設計通りの予備成形を行なうことに寄与する。さらに、加飾フィルムは、予備成形時の加圧が除かれた後においても、形状保持層の機能により、予備成形時の形状が維持されやすい。
【0014】
加飾積層体を被着体である成形体に貼付する場合、加飾積層体は、被着体である成形体に適合する形状に予備成形がなされ、位置決めが容易である。
本開示の加飾フィルムを用いることで、貼り付け作業性が向上し、例えば、自動車などの車両の外観を容易に変更することができ、各種の成形体の表面に様々な意匠が施され、外観に優れた加飾成形体を簡易に製造することが可能となる。
【0015】
以下、本開示の加飾フィルム、加飾フィルムの製造方法、加飾成形体の製造方法及び加飾成形体の好ましい実施形態を挙げて詳細に説明する。しかし、本開示は、以下の実施形態に何ら制限されない。
【0016】
<加飾フィルム>
本開示の加飾フィルムは、表皮層と、基材層と、接着層と、接着層保護シートと、カット部を含む切り取り線を有する形状保持層と、をこの順で含み、成形体の加飾に用いられる加飾フィルムである。
【0017】
本開示の加飾フィルムについて、図面を参照して説明する。
図1は、本開示の加飾フィルム10の層構成の好適な一態様を示す概略断面図である。
図2は、本開示の加飾フィルム10から接着層保護シート20及び形状保持層22を剥離した加飾積層体24を成形体26に貼り付けた加飾成形体30の一態様を示す概略断面図である。
加飾フィルム10は、表皮層12と、基材層14と、接着層18と、接着層18を被覆する接着層保護シート20と、形状保持層22と、をこの順で配置されている。形状保持層22には、カット部28Aを含む切り取り線28が設けられている。
各層が「この順で配置されている」とは、加飾フィルム10の厚さ方向にそれぞれの層が記載した順に配置されていることを意味し、必要に応じてさらに設けられる任意の層を排除するものではない。
例えば、基材層14と接着層18との間に、両者の接着性を向上させる樹脂層であるプライマー層が配置されていてもよい。
【0018】
図1に示す加飾フィルム10の一実施形態では、表皮層12と、基材層14と、接着層18とを順次有する積層体(
図2における加飾積層体24)に対し、接着層保護シート20と、形状保持層22とを含む積層構造を有する。表皮層12の基材層14側とは反対側の面には、シボ模様とも称される凹凸模様を有してもよい。
表皮層の凹凸模様を有する側は、加飾フィルム10から接着層保護シート20及び形状保持層22を剥離した加飾積層体24を後述する成形体に配置し、加飾成形体とした際に最表面に位置することから、以下、表面と称することがある。凹凸模様は、天然皮革様の凹凸模様に代表される、加飾フィルムによる成形体の表面の外観を特徴付ける模様であり、必要に応じて設けられる。
また、基材層14は、例えば、着色剤を含むことで、加飾フィルム10に任意の色相を付与することができる。このため、本開示の加飾フィルム10が適用される加飾成形体に所望の色相を容易に付与することができる。
なお、
図1及び
図2において、同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。
【0019】
以下、加飾フィルムについて、これを構成する材料とその製造方法とともに順次説明する。
【0020】
(1.表皮層)
加飾フィルムの表皮層は、樹脂を含んで形成される。表皮層は、耐久性の観点から、フッ素樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することが好ましい。表皮層がフッ素樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことで、加飾フィルムの耐久性、さらに成形体に貼り付けられた加飾積層体の耐久性が向上する。
【0021】
表皮層に用い得るフッ素樹脂としては、フッ素原子を含む単量体の少なくとも1種を重合成分として、重合して得られる樹脂であれば、特に制限はないが、フッ素原子を含むオレフィンを重合して得られる樹脂が好ましい。
フッ素樹脂としては、例えば、4フッ化エチレン、3フッ化塩化エチレン、フッ化ビニル、及びフッ化ビニリデンから選ばれる重合成分を含んで構成される樹脂が挙げられる。より具体的には、4フッ化エチレン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素原子を含む重合成分の単独重合体、及び前記重合成分を含む共重合体である、3フッ化塩化エチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン-4フッ化エチレン共重合体などが挙げられる。なかでも、3フッ化塩化エチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体、及び、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン-4フッ化エチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含むことが好ましい。
【0022】
表皮層がフッ素樹脂を含む場合、フッ素樹脂を1種のみを含有してもよく、2種以上を併用してもよい。
表皮層が、2種以上のフッ素樹脂を含む場合、例えば、フッ化ビニリデン樹脂、3フッ化塩化エチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体、及び、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン-4フッ化エチレン共重合体からなる群より選択される2種以上の樹脂の混合物などを用いることも好ましい態様である。
【0023】
表皮層が2種以上の樹脂を含む場合、既述のように2種以上の樹脂の混合物である態様に加え、2種以上の樹脂の積層構造の態様をとることもできる。例えば、表皮層として、最表面、即ち、成形体上に加飾積層体を配置した場合の外側に当たる面を、フッ素樹脂を含む層とし、表皮層と、基材層との接着性をより向上させる目的で、表皮層を、フッ素樹脂を含む層と、アクリル樹脂を含む層との2層構造として、アクリル樹脂を含む層側を基材層と接する面に位置させることができる。
【0024】
表皮層は、公知のシート成形方法、例えば、Tダイなどで押し出し成形する押出し法、カレンダー法、キャスティング法等により形成してもよいし、市販のフィルムを適用して形成してもよい。
【0025】
表皮層は、外観となる表面側(すなわち基材層とは反対側)に凹凸模様が施されていてもよい。
表皮層の厚みは、強度及び凹凸模様を形成した際の凹凸模様保持性の観点から、5μm~100μmの範囲であることが好ましく、10μm~60μmの範囲がより好ましい。
ここで、表皮層の厚みとは、凹凸模様が施されている場合は、凸部の頂部から、表皮層の底面までの距離を指す。
表皮層の厚みは、表皮層の基材層側の面とは反対側に形成される凹凸模様の保持性の観点から、凹凸模様の凹部の最深部における底部と凸部の頂部との距離よりも大きいことが好ましい。例えば、凹部の深さが1μm以下である如き凹凸模様を形成する際には、表皮層の厚みは5μm程度とすることができ、天然皮革様の模様の如く、浅い凹部と深い凹部とを有し、深い凹部が2μm~5μmである場合には、表皮層の厚みは10μm以上であることが好ましい。
なお、表皮層が既述のように2層以上の積層構造をとる場合の表皮層の厚みは、複数の層の総厚みを指す。
本開示の加飾フィルムにおける各層の厚みは、加飾フィルムを面方向に垂直に切断した切断面を観察することで測定することができる。従って、本開示における加飾フィルムにおける各層の膜厚は、乾燥後の膜厚を指す。
【0026】
基材層の、形状保持層側の面とは反対側の面に表皮層を形成する方法は任意である。例えば、予め成形した表皮層と基材層とを接着させてもよく、表皮層を形成後、表皮層の一方の面に基材層を形成してもよい。
【0027】
また、表皮層の、基材層側の面とは反対側の面に凹凸模様を形成する方法には特に制限はなく、公知の方法を適用することができる。公知の方法としては、凹凸模様を有する離型紙上に表皮層を形成する方法、まず、表面が平滑な表皮層を形成し、その後、絞ロールを用いてエンボス加工する方法等が挙げられる。
【0028】
(2.基材層)
基材層は、樹脂を含んで形成される。基材層は、PVC樹脂、アクリル樹脂、及びABS樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。
基材層がPVC樹脂、アクリル樹脂、及びABS樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことで、表皮層に係る熱応力が緩和され、表皮層に所望により形成される凹凸模様の保持性がより良好となる。
PVC樹脂、アクリル樹脂、及びABS樹脂としては、特に制限はなく、公知のフィルム形成性のPVC樹脂、アクリル樹脂、及びABS樹脂を適宜選択して使用することができる。
【0029】
基材層は、樹脂に加え、その他の成分を含んでもよい。基材層が含み得るその他の成分としては、着色剤、可塑剤、充填剤、滑剤、加工助剤等が挙げられる。なお、その他の成分は、基材層の熱加工性を低下させない範囲で用いることができる。
【0030】
基材層は着色剤を含むことができる。
基材層が着色剤を含むことで、加飾成形体の製造に際して、加飾積層体を貼付した領域において、被着体である成形体が本来有する色相、意匠等が、加飾成形体の外観に影響を与えることを抑制し、加飾積層体を貼り付けてなる加飾成形体に任意の色相を付与することができる。
表皮層の透明性が良好である場合、基材層に着色剤を含むことで、基材層の色相が加飾フィルムの外観を特徴付けることができる。
例えば、成形体としての赤色の車両の屋根部分のみに、銀色の着色剤を含む基材層を有する加飾フィルムを用いて加飾積層体を貼り付けて加飾することで、車体が赤色で、加飾積層体を貼り付けた屋根のみが銀色の車両となり、加飾積層体を貼り付けた箇所は、成形体の本来の色相である赤色が隠蔽される。
基材層が着色剤を含む場合の着色剤には特に制限はなく、染料、顔料などを適宜選択して使用することができる。
また、基材層には、必要に応じて、炭酸カルシウム、シリカ(二酸化硅素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、硫酸バリウム等の体質顔料(充填剤)を含有してもよい。
【0031】
基材層の厚みは50μm~400μmの範囲であることが好ましく、100μm~350μmの範囲であることがより好ましい。厚みが上記範囲にあることで、加飾フィルムを真空成形法などにより予備成形する際の、加飾フィルムの溶融による破断が効果的に抑制され、さらに、被着体である成形体の隠蔽性がより良好となる。
【0032】
基材層の形成方法には特に制限はなく、公知のシート成形方法、例えば、Tダイなどで押し出し成形する押出し法、カレンダー法、キャスティング法等を適用することができる。
なかでも、カレンダー法が製造の簡易性、装置のメンテナンスが容易である点で好ましい。特に、基材層が着色剤を含有する場合、軟化した樹脂と固体状の着色剤とをカレンダーロールに供給し、シート又はフィルム状に成形することができるため、種々の着色剤を含有する基材層を簡易に製造することができる。
また、カレンダー法を適用することにより、押出し法等の成形法に比較して、着色剤の種類や添加量を変更する際に必要な装置内の清掃を、より容易に行うことができる。このため、基材層として着色剤を含む層を形成する際にカレンダー法を適用することで、所望の色相を有する様々な基材層を簡易に製造することができ、加飾フィルムの小ロット生産にも適する。
【0033】
(3.接着層)
加飾フィルムは、基材層の表皮層側とは反対側の面に、成形体との接着性を向上させるための接着層を備える。
接着層は、基材層の表皮層側とは反対側の面に、公知の接着剤及び粘着剤の少なくとも一方を付与することで形成することができる。
接着層の形成に使用される接着剤としては特に制限はなく、成形体の種類により適宜選択される。接着剤としては、例えば(1)ポリエステル系接着剤又は粘着剤、(2)ウレタン系接着剤又は粘着剤、(3)アクリル系接着剤又は粘着剤などが好適に使用される。
接着層の厚さは、20μm~80μmの範囲であることが好ましく、30μm~60μmの範囲であることがより好ましい。
【0034】
なお、基材層の面上に接着層を形成する場合、基材層と接着層との間に、接着性を向上させる目的で、後述するプライマー層を形成し、形成したプライマー層表面に、接着剤及び粘着剤の少なくとも一方を付与することで接着層を形成することができる。
基材層又はプライマー層上に接着層を付与する方法としては、転写法、塗布法など公知の方法をいずれも使用できる。均一な厚みの接着層を簡易に形成し得るという観点からは、転写法を用いることが好ましい。
【0035】
(4.接着層保護シート)
接着層の形成後に、接着層の表面保護を目的として、接着層表面を接着層保護シートで被覆する。
接着層保護シートの素材としては、予備成形性の観点から、樹脂フィルム、樹脂をラミネートした紙などが好ましく、予備成形性がより良好であるという観点からは、樹脂フィルムがより好ましい。
樹脂フィルムとしては、PPフィルム、PETフィルムなどが挙げられ、PPフィルムが好ましい。
接着層保護シートの厚みには特に制限はないが、予備成形性が良好であるという観点からは、5μm~100μmの範囲であることが好ましく、40μm~70μmの範囲であることがより好ましく、45μm~60μmの範囲であることがより好ましい。
接着層保護シートは、後述する加飾フィルムの予備成形後、成形体に適用する際に剥離される。
【0036】
(5.形状保持層)
接着層保護シートの、接着層側とは反対側の面には、形状保持層が配置されている。形状保持層には、接着層保護シートとは反対側の面においてカット部を含む切り取り線が設けられている。
加熱を伴う予備成形後において、加飾フィルムが予備成形された形状を保持する機能を与える層を本開示における形状保持層と称する。すなわち、形状保持層は、予備成形時の加飾フィルムの形状を保持する層としての機能を有する。加飾フィルムが形状保持層を有することで、加飾フィルムを80℃~150℃の温度条件で、真空成形法などの手段により予備成形し、その後、常温(25℃)まで降温した場合でも、加飾フィルム全体は、形状保持層の機能に起因して予備成形された形状が保持される。ここで、「形状が保持される」とは、予備成形した50cm四方の加飾フィルムを、正方形の隅部の1点で固定した場合、固定されていない部分が重力により固定点から変形して垂れ下がるなどの変形を起こさないことを意味する。
【0037】
形状保持層は樹脂により形成される。形状保持層は、予備成形による形状保持性が良好である観点から、ABS樹脂及びPVC樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することが好ましい。
形状保持層がABS樹脂及びPVC樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことで、加飾フィルムを、真空成形法等により予備成形した場合、積層される接着層保護シートの収縮が抑制され、且つ、予備成形された形状の維持性が良好となり、さらに、予備成形時における局所的な延伸部分の、延伸による破断等が効果的に抑制される。
ABS樹脂及びPVC樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、AS樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)等と混合して用いてもよい。また、ABS樹脂とPVC樹脂とを併用してもよい。
なかでも、樹脂として、ABS樹脂又はPVC樹脂を単独で用いるか、PCとABS樹脂との混合物(PC/ABS)を用いることが好ましく、樹脂として、ABS樹脂又はPVC樹脂を単独で用いることがより好ましい。
ABS樹脂は、1種のみを用いてもよく、互いに共重合比が異なる2種以上のABS樹脂を併用してもよい。
PVC樹脂としては、特に制限はなく、公知のフィルム形成性のPVC樹脂を適宜選択して使用することができる。
【0038】
形状保持層は、ABS樹脂及びPVC樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂に加え、効果を損なわない限り、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。形状保持層が含み得るその他の成分としては、可塑剤、充填剤、滑剤、加工助剤等が挙げられる。
また、良好な形状保持性を発揮する観点から、形状保持層は、厚さが100μm~800μmの範囲であることが好ましく、200μm~600μmの範囲であることがより好ましい。厚みが上記範囲にあることで、加飾フィルムを予備成形した際の、形状保持性がより良好となる。
【0039】
なお、基材層に含まれる樹脂、基材層の厚みなどを選択することで、基材層に形状保持機能を与えることも可能ではあるが、基材層に形状保持の機能を与える場合、基材層の厚み及び剛性を所定の範囲に維持する必要が生じる。しかしながら、厚みを厚くしたり、剛性を付与したりするためには基材層の配合に制限が生じ、顔料の分散性などに起因する外観品質等に影響を与えることがある。
一方、本開示の加飾フィルムは、基材層とは別に、基材層の表皮層側とは反対の側に形状保持層を設けることで、主に基材層による外観品質を確保しながら、加飾フィルムに形状保持の機能を与えることができる。このため、本開示の加飾フィルムでは、基材層とは別層として、形状保持層を備える。
従って、本開示の加飾フィルムは、加熱成形可能であり、予備成形性に優れる。
【0040】
そして、本開示の加飾フィルムは、形状保持層にカット部を含む切り取り線が設けられている。カット部とは、形状保持層の厚さ方向に切り込まれた部分であり、切り取り線に沿って面内方向にカット部が断続的又は連続的に形成されている。形状保持層にカット部を含む切り取り線が設けられていることで、後述するように、成形体に貼り付けて加飾成形体を製造する際の作業性を大きく向上させることができる。
切り取り線は全てカット部で構成されていてもよいが、カット部と非カット部とが交互に配置されて切り取り線が形成されていることが好ましい。切り取り線のパターン形状(「カット部の長さ」と「非カット部の長さ」で規定)は、作業性の観点から、非カット部の長さが1.5mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましい。
一方、カット部の長さは0.5mm~2.5mmであることが好ましい。
また、切り取り線のカット部の深さは、形状保持層の厚みにもよるが、形状保持層の厚みが上記した100μm~800μmの範囲である場合、切り取り線のカット部の深さは、貼り付け作業性の観点から、150μm~300μmが好ましい。
【0041】
(6.その他の層)
加飾フィルムは、既述の表皮層、基材層、接着層、接着層保護シート及び形状保持層に加え、効果を損なわない限り、その他の層をさらに有していてもよい。
その他の層としては、プライマー層、意匠層等が挙げられる。
【0042】
(6-1.プライマー層)
加飾フィルムは、基材層に隣接して設けられる接着層と基材層との密着性向上を目的として、さらにプライマー層としての樹脂層を基材層と接着層との間に有していてもよい。
プライマー層は塗布法により形成することができる。即ち、プライマー層を形成するための樹脂を適切な溶媒で溶解し、基材層の、表皮側とは反対側の面に塗布し、乾燥することでプライマー層を形成することができる。
プライマー層に含まれる樹脂は、基材層に含まれる熱可塑性樹脂、及び、隣接して設けられる接着層に含まれる接着剤等との親和性が良好であるという観点から、ポリエステル樹脂などの樹脂を用いて形成されることが好ましい。
プライマー層としての樹脂層の塗布量には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。一般的には、接着性向上効果の観点から、1g/m2~5g/m2の範囲であることが好ましく、2g/m2~3g/m2の範囲であることがさらに好ましい。
【0043】
(6-2.意匠層)
本開示の加飾フィルムは、表皮層と基材層との間にさらに意匠層を有してもよい。意匠層は加飾フィルムに意匠を付与する層であり、印刷により形成される印刷層であってもよく、着色剤を含む着色層であってもよく、これらを併用した層であってもよい。
本開示の加飾フィルムに意匠層を設けることで、所望により加飾フィルムの用途に応じた種々の意匠を成形体に付与することができ、成形体に意匠性に優れた外観を付与することができる。
【0044】
意匠層は、例えば、表皮層又は基材層の面上に印刷法により形成された印刷層であってもよい。印刷層としては、樹脂を含む印刷インクにより公知の印刷法により形成された層が挙げられる。樹脂を含む印刷インクとしては、クリアな印刷画像の形成が可能であるという観点から、アクリル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等を含む印刷インクが好ましい。
印刷方法には特に制限はなく、グラビア印刷(凹版印刷)、凸版印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷など、任意の印刷方法を適用することができる。
意匠層としては、アクリル樹脂又は塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種を含む印刷インク層が好ましい。
【0045】
意匠層は、着色層であってもよい。着色層としては、任意の着色剤を含有する樹脂組成物により形成された層が挙げられる。例えば、アクリル樹脂に、既述の基材層に用い得る着色剤として挙げたものから選択した着色剤を含有させた樹脂組成物を、カレンダー法、押出し法、キャスティング法などによりフィルム状に成形した意匠層等が挙げられる。
【0046】
意匠層の形成に用い得るアクリル樹脂としては、具体的には、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル酸又はメタクリル酸エステルの重合体或いは共重合体、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとスチレンの共重合体などが挙げられ、成形性の観点からは、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとスチレンの共重合体及びメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合体の混合物が好ましい。
【0047】
アクリル樹脂は、耐候性、及び延伸性に優れ、隣接して設けられる他の樹脂層との密着性が良好である。
また、アクリル樹脂は透明性が良好であることから、アクリル樹脂に着色剤等を添加したり、金属光沢を有する顔料、パール顔料等の光散乱性の着色剤を添加したりすることにより、加飾フィルムに所望の良好な色相、光沢に優れた意匠等を任意に付与することができる。
また、アクリル樹脂を含む印刷インクを用いて印刷インク層を形成する場合、文字、画像等を印刷することで、加飾フィルムにさらに複雑な任意の意匠を付与することができる。
【0048】
本開示の加飾フィルムが意匠層を有する場合の意匠層の厚みは1μm~15μmの範囲であることが好ましく、2μm~10μmの範囲であることがより好ましく、2μm~5μmの範囲であることがさらに好ましい。厚みが上記範囲にあることで、所望の意匠を加飾フィルムに付与することができ、且つ、加飾フィルムを予備成形する際における、表皮層と基材層との良好な相関性が維持され、表皮層の凹凸模様の保持性がより良好となる。
【0049】
本開示の加飾フィルムの好ましい態様としては、表皮層として、一方の面に凹凸模様を有し、且つ、フッ素樹脂を含有する耐熱性が良好な層を有する態様が挙げられる。フッ素樹脂を含有する表皮層においては、所望により一方の面に形成された凹凸模様が加熱により変形し難い。さらに、表皮層は、好ましくは、PVC樹脂を含む基材層と積層される。また、接着層保護シートは、予備成形に好適なPP、PET、PEN及びPEから選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、接着層保護シートに隣接して、好ましくは、ABS樹脂及びPVC樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む形状保持層を有する。これらの層を有する加飾フィルムは、真空成形法等により予備成形した場合、形状保持性がより良好となる。
好ましい態様では、表皮層と隣接するPVC樹脂を含む基材層とが、いずれも柔軟で変形しやすく、さらに、接着層保護シートに隣接して形成されるABS樹脂及びPVC樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む形状保持層を有するため、これらの層に起因して、真空成形時における接着層保護シートの収縮が抑制され、設計通りの予備成形を行なうことかできる。
従って、真空成形後、接着層保護シートを剥離して、加飾積層体とした後も、表皮層、基材層、及び接着層を有する加飾積層体は、貼付しようとする被着体である成形体に適合する形状がより良好に維持され、容易に成形体に貼付することができる。
【0050】
本開示の加飾フィルムは、最表面に、透明性、及び耐久性に優れ、加熱時の凹凸模様の維持性が良好な表皮層を有しており、且つ、熱加工性に優れた基材層、接着層保護シート及び予備成形時の形状保持性に優れた形状保持層を有している。このため、加飾フィルムを、成形体に適合した形状に予備成形した後、接着層保護シートと形状保持層とを剥離して得られる加飾積層体は、ある程度の柔軟性を有しながら、予備成形された形状の保持性が良好である。従って、例えば、立体形状を有する成形体の表面に予備成形された加飾積層体を貼り付ける場合に、容易に位置決めができ、加飾積層体により成形体に任意の意匠を簡易に形成することができる。
加飾積層体を表面に貼り付けて得られた加飾成形体は、加飾フィルムの意匠性が反映されて外観に優れ、耐溶剤性等の耐久性にも優れたものとなる。
従って、本開示の加飾フィルムは、成形体の表面に意匠性を付与する加飾フィルムとして、種々の用途に適用し得る。
【0051】
<加飾フィルムの製造方法>
既述の本開示の加飾フィルムの製造方法には特に制限はなく、公知の製造方法を適宜採用することができる。
なかでも、後述の本開示の加飾フィルムの製造方法により製造されることが好ましい。すなわち、本開示の加飾フィルムの製造方法は、
基材層の一方の面側に、表皮層を積層する工程と、
前記基材層の他方の面側に接着層を形成する工程と、
前記接着層を接着層保護シートにより被覆する工程と、
前記接着層保護シートの前記接着層側とは反対側に、形状保持層を接着剤を介して積層する工程と、
前記形状保持層にカット部を含む切り取り線を形成する工程と、
を含む。
【0052】
さらに、本開示の加飾フィルムの製造方法の具体的な一例として、以下の工程(I)~(X)を含む方法が挙げられる。
工程(I)フッ素樹脂、アクリル樹脂、及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む表皮層を準備する工程
工程(II)塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、及びABS樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む基材層を準備する工程
工程(III)前記基材層の一方の面側に、前記表皮層を積層する工程
工程(IV)前記基材層の他方の面側に接着層を形成する工程
工程(V)接着層保護シートを準備する工程
工程(VI)前記接着層を前記接着層保護シートにより被覆する工程
工程(VII)ABS樹脂及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む形状保持層を準備する工程
工程(VIII)前記接着層保護シートの前記接着層側とは反対側に、前記形状保持層を接着剤を介して積層して加飾フィルムとする工程
工程(IX)前記加飾フィルムを所望の形状に裁断する工程
工程(X)前記形状保持層にカット部を含む切り取り線を形成する工程
上記工程(I)~工程(X)に加え、他の工程を含むことができる。
例えば、工程(III)において、基材層と表皮層とを積層する際に、前記表皮層側に、絞ロールを接触させてラミネートエンボス加工を施し、前記表皮層の前記基材層側とは反対側の面に凹凸模様を形成する工程(工程(III-2))をさらに含むことができる。
また、例えば、前記基材層と前記接着層との間に、プライマー層を形成する工程(工程(XI))、表皮層と基材層の間に意匠層を形成する工程(工程(XII))を含むこともできる。
【0053】
工程(I)
工程(I)では、フッ素樹脂、アクリル樹脂、及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む表皮層を準備する。表皮層の準備は、表皮層を形成してもよいし、市販の表皮層を調達してもよい。
表皮層は、カレンダー法、押出し法、キャスティング法などにより形成することができる。
積層構造を有する表皮層を形成する場合には、2種以上の樹脂を共押出し法等により、積層フィルムを成形することができる。
【0054】
工程(II)
工程(II)では、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、及びABS樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有する基材層を準備する。
例えば、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、及びABS樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有する樹脂組成物を用いてカレンダー法、押出し法、キャスティング法等の公知の方法により基材層を形成する。なかでも、加工性の観点からカレンダー法により基材層を形成することが好ましい。基材層をカレンダー法により形成することで、例えば、押出し法等に比較して、簡易に、均一な膜厚の基材層を形成することができる。また、基材層に着色剤を含有させる際にも、カレンダー法を適用することで、基材層に使用する着色剤の種類や添加量を変更する際に必要な装置内の清掃を容易に行うことができる。
例えば、PVC樹脂と着色剤としての顔料を用いて基材層を形成する方法の一例としては、PVC樹脂に対して、顔料を所定量投入し、熱ミキシングロールで加熱混合することにより着色されたPVC樹脂を得ること、得られた着色されたPVC樹脂を用いて基材層をカレンダー法により形成すること、を含む方法が挙げられる。着色剤を用いない場合には、顔料の投入工程を省いて同様にして行なうことができる。
なお、前記工程(I)と本工程(II)はいずれを先に行なってもよく、それぞれの工程は並行して実施することもできる。
【0055】
(工程(III))
工程(III)では、工程(II)で得られた基材層の一方の面側に、工程(I)で準備した表皮層を積層する。
工程(III)では、表皮層の一方の面上に、基材層を積層し、その後、積層体に対し、一対のロールを用いてラミネート加工を行い、表皮層と基材層とを加熱加圧接着することができる。
ラミネート加工における加熱温度は、100℃~190℃が好適である。本開示において、ラミネート加工の加熱温度は、ロールの表面温度を指す。
本開示におけるラミネート加工とは、一対のロールを用いて、複数の層の積層体を加熱圧着し、複数の樹脂含有フィルムを熱圧着により貼り合わせる加工を指す。
なお、工程(III)では、表皮層と基材層との積層に加え、表皮層側に、絞ロールを用いてラミネートエンボス加工を施し、表皮層の基材層側とは反対側の面に凹凸模様を形成する工程(工程(III-2))を行うこともできる。
工程(III-2)を行うことにより、表皮層と基材層との積層と、表皮層の一方の面への凹凸模様の形成とを同時に行なうことができる。即ち、表皮層の一方の面上に、基材層を積層し、その後、積層体に対し、絞ロールを用いてラミネートエンボスを行い、各層の加熱加圧接着と、表皮層の面上における所望の凹凸模様の形成を同時に行なうことができる。
本開示の工程(III-2)におけるラミネートエンボスとは、加熱圧着を行う一対のエンボスロールの一方に絞ロールを用いてエンボスし、複数の樹脂含有フィルムを熱圧着により貼り合わせ、且つ、樹脂含有フィルムの絞ロールと接する面に絞ロールによる絞押しを行って表面に凹凸を形成することを指す。工程(III-2)では、表皮層側に絞ロール、基材層側に平滑なロールが位置する配置にてラミネートエンボスする。この方法によれば、2層の積層と表皮層における凹凸模様の形成が逐次又は同時に一工程で実施できる。
【0056】
表皮層の面上に、所望により予め天然皮革様の凹凸模様などの任意の凹凸模様を形成した絞ロールを用いてラミネートエンボスすることにより、基材層との貼り合わせと表皮層の絞押し(凹凸形成)とが一工程で行われ、形成された加飾フィルムにおいて表皮層の最表面に天然皮革様の凹凸など、任意の意匠の凹凸模様が転写される。
絞ロールに形成する凹凸模様の形状を選択することで、加飾フィルムの表面に、天然皮革様の模様のみならず、任意の凹凸形状を有する模様を形成することができる。
ラミネートエンボスにおける加熱温度は、100℃~190℃が好適である。
【0057】
なお、表皮層の一方の面に凹凸を形成する方法はこれに限定されず、例えば、表皮層を塗布法で形成する場合、予め凹凸が形成された離型紙上に表皮層形成用組成物を付与して、離型紙上の凹凸を表皮層に転写することで形成する方法をとることもできる。
【0058】
(工程(IV))
工程(IV)では、工程(II)で形成された基材層の、表皮層を有する側とは反対側の面に接着層を形成する。
接着層は、基材層の表皮層を有する側とは反対側の面に、公知の接着剤及び粘着剤の少なくとも一方を付与することで形成することができる。
接着層の形成に使用される接着剤としては特に制限はなく、成形体の種類により適宜選択される。接着剤としては、例えば(1)ポリエステル系接着剤又は粘着剤、(2)ウレタン系接着剤又は粘着剤、(3)アクリル系接着剤又は粘着剤などが好適に使用される。
接着層の厚さは、20μm~80μmの範囲であることが好ましい。
【0059】
(工程(V))
工程(V)では、接着層を保護する接着層保護シートを準備する。
接着層保護シートとしては、樹脂フィルムが好ましく用いられる。
樹脂フィルムとしては、PPフィルム、PETフィルムなどが挙げられ、PPフィルムが好ましい。
接着層保護シートの厚みには特に制限はないが、予備成形性が良好であるという観点からは、5μm~100μmの範囲であることが好ましく、40μm~70μmの範囲であることがより好ましい。
【0060】
接着層保護シートは、後述する加飾フィルムの予備成形後、成形体に適用する際に、形状保持層の切り取り線を境にして、隣接する形状保持層と共に部分的に剥離され、かつ、全体が段階的に剥離される。
【0061】
(工程(VI))
工程(VI)では、工程(V)で準備した接着層保護シートを、工程(IV)で形成された接着層に接触させて、接着層保護シートにより接着層を被覆する。
接着層保護シートとしては、既述のように易剥離性の樹脂フィルム、例えばPPフィルムがより好ましい。
工程(VI)は、基材層上に、好ましくは接着剤を付与することで接着層を形成し(工程(IV))、接着層が未硬化の状態で、接着層の表面に接着層保護シートを適用して被覆する工程を含むことができる。
【0062】
(工程(VII))
工程(VII)では、ABS樹脂及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む形状保持層を準備する。例えば、ABS樹脂及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む樹脂組成物を用いて形状保持層を形成する。形状保持層の形成方法としては、カレンダー法、押出し法、キャスティング法等の公知の方法が挙げられる。なかでも、加工性の観点からカレンダー法により形状保持層を形成することが好ましい。
カレンダー法による形状保持層の形成方法は、用いる樹脂が異なる他は、工程(II)における基材層の形成方法と同様にして行なうことができる。
【0063】
(工程(VIII))
工程(VIII)では、接着層保護シートの接着層側とは反対側の面に、接着剤を介して、工程(VII)で得た形状保持層を貼り合わせる。
接着剤としては、シリコーン樹脂系の接着剤が好ましい。また、接着層の形成に用いられる接着剤を同様に使用することができる。
接着剤の塗布量は、20g/m2~70g/m2の範囲であることが好ましい。
【0064】
上記工程を経て、表皮層、基材層、接着層、接着層保護シート及び形状保持層をこの順に有する加飾フィルムを得る。
【0065】
(工程(IX))
工程(IX)では、加飾フィルムを所望の形状に裁断する。
工程(VIII)で得た加飾フィルムを裁断機を用いて被着体である成形体に適合する形状となるように裁断する。裁断する形状は、適用する被着体の形状に応じて選択すればよい。
【0066】
(工程(X))
工程(X)では、形状保持層にカット部を含む切り取り線を形成する。
形状保持層にカット部を含む切り取り線を形成する方法は特に限定されず、例えば、カッティング装置を使用して切り取り線を形成することができる。
カッティング装置は、形状保持層に切り取り線の形成が可能であれば、使用する装置に制限は無い。例えば、市販のカッティング装置を使用して、加飾フィルムの形状保持層の接着層保護シート側とは反対側に、カット部を含む切り取り線を形成することができる。
カッティング装置において使用する刃種は偏芯カッターが好ましい。例えば、カッターヘッドに把持した偏芯カッターを上下動可能に押接させながら、カッターヘッドを加飾フィルムに対してX-Y方向に移動させるとともに、押接させる偏芯カッターの圧力を一定時間間隔ごとに低下させる。これにより、形状保持層が面内方向に点線状に(すなわち、断続的に)所望の深さに切り込まれ、カット部と非カット部からなる切り取り線を加飾フィルムに形成する。
【0067】
加飾フィルムを用いて加飾積層体を成形体に貼り付ける場合には、加飾フィルムから、接着層保護シートと形状保持層とを、形状保持層の切り取り線を境にして部分的に剥離し、露出した接着層の一部を成形体に接触させた後、接着層保護シートと形状保持層の残りの部分も剥離して露出した接着層を成形体に貼り付ける。
【0068】
本開示の加飾フィルムの製造方法は、さらにその他の工程を含むことができる。
例えば、加飾フィルムの製造方法は、基材層と接着層との間に、プライマー層を形成する工程(工程(XI))、表皮層と基材層の間に意匠層を形成する工程(工程(XII))をさらに含むことができる。
【0069】
(工程(XI))
工程(XI)において、プライマー層の形成は、塗布法により行なうことができる。即ち、プライマー層を形成するための樹脂を適切な溶媒で溶解し、基材層の、表皮層側とは反対側の面に塗布し、乾燥することでプライマー層を形成することができる。
プライマー層を形成する場合、工程(XI)の後に、既述の工程(IV)を実施して、プライマー層上に、接着層を形成すればよい。
【0070】
(工程(XII))
工程(XII)は、加飾フィルムの製造方法において、さらに意匠層を形成する任意の工程である。
工程(XII)では、工程(I)で準備した表皮層又は工程(II)で準備した基材層の片面に、意匠層を形成することができる。
意匠層を形成する方法としては、例えば、表皮層又は基材層の片面に、予め形成した意匠層を接着する方法、表皮層又は基材層の片面に、アクリル樹脂又は塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含む印刷インクを用いて印刷を行なう方法などが挙げられる。
なかでも、印刷により意匠層を形成することが、意匠の自由度が高いため好ましい。意匠層の形成方法としては、図柄を含む意匠層では、印刷法を適用することが挙げられ、着色層としての意匠層であれば、着色剤を含有させた樹脂組成物を、公知の方法によりフィルム状に成形して意匠層とする方法などが適用できる。
【0071】
印刷法は、樹脂を含む印刷インクにより公知の図柄を印刷する方法であり、樹脂を含む印刷インク、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等を含む印刷インクを、公知の印刷方法、例えば、グラビア印刷(凹版印刷)、凸版印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷などにより印刷して形成する方法が挙げられる。
印刷法としては、具体的には、表皮層の片面に、グラビア印刷により、アクリル樹脂を含む印刷インクを用いて印刷を行なうことなどが挙げられる。グラビア印刷に用いるプリントロールの彫刻の大きさを調整することで、印刷インクの塗布量を調整しながら印刷を行なうことができ、種々の意匠を形成できる。
任意の層である意匠層は、表皮層又は基材層の一方の面上に所望により独立して形成することができることから、任意の色相、任意の意匠で所望の意匠を有する層が形成できる。従って、意匠層を設けることで、加飾フィルムに種々の意匠を付与することができる。
【0072】
<加飾成形体>
本開示の加飾成形体は、成形体と、既述の本開示の加飾フィルムから前記接着層保護シート及び前記形状保持層が剥離された加飾積層体であって、前記接着層により前記成形体に接着されている加飾積層体と、を含む。
図2に示すように、加飾成形体30は、加飾される成形体26と、成形体の表面に配置された、本開示の加飾フィルムから接着層保護シートと形状保持層とを剥離した加飾積層体24とを有する。加飾積層体24は、接着層保護シート及び形状保持層を有しない以外は、既述の本開示の加飾フィルムと同じ層構成を有する。即ち、
図2に示すように、加飾積層体24は、表皮層12、基材層14、及び接着層18を有する。
図2において、基材層14と接着層18との密着性向上のために、任意のプライマー層が設けられていてもよい。
【0073】
<加飾成形体の製造方法>
既述の本開示の加飾フィルムは、加熱成形による成形体を作製する際に、成形体表面に意匠を付与する目的で好適に使用される。
本開示の加飾成形体の製造方法は、既述の本開示の加飾フィルムを、成形体に適合する形状に真空成形法により予備成形する予備成形工程(A)と、前記予備成形した加飾フィルムから、前記切り取り線を境目として前記接着層保護シート及び前記形状保持層を部分的に剥離して前記接着層の一部を露出させる部分剥離工程(B)と、前記予備成形した加飾フィルムから、前記切り取り線を境目として前記形状保持層及び前記接着層保護シートを部分的に剥離して露出した前記接着層の一部を前記成形体の表面に接着させる部分接着工程(C)と、を含み、前記部分剥離工程(B)と前記部分接着工程(C)とを交互に繰り返して前記形状保持層及び前記接着層保護シートが剥離された加飾積層体を、前記成形体の表面に段階的に貼り付ける。
【0074】
工程(A)では、本開示の加飾フィルムを、被着体としての成形体の形状に適合する型を用いて真空成形法により予備成形する。
予備成形する方法として、予備成形された加飾フィルム(加飾フィルムの予備成形体)の形状保持性の観点から、真空成形法を適用する。真空成形法は、公知の方法を適用できる。加飾フィルムを真空成形にて予備成形する際の加熱条件は、既述のように、80℃~150℃の温度範囲であることが好ましい。
工程(A)では、成形体に即した形状の成形型の面上に加飾フィルム10を配置し、常法により真空引きして成形型に沿わせて予備成形し、加飾フィルムの予備成形体を得る。
本開示の加飾フィルムは、上記した層構成を有するため、真空成形法により、速やかに予備成形され、得られた予備成形体は、形状保持性が良好となる。
【0075】
工程(B)では、前記予備成形した加飾フィルムから前記切り取り線を境目として前記接着層保護シートと前記形状保持層とを部分的に剥離して前記接着層の一部を露出させ、工程(C)では、前記予備成形した加飾フィルムから、前記切り取り線を境目として前記形状保持層及び前記接着層保護シートを部分的に剥離して露出した前記接着層の一部を前記成形体の表面に接着させる。
そして、工程(B)及び工程(C)は、作業者の手作業により、交互に実施される。例えば、
図3に示すように長方形状の加飾フィルム10が、成形体に適合する形状32に裁断され、1本の切り取り線28が直線状に形成された加飾フィルム32の場合、切り取り線28を境目として領域を分けて、接着層保護シート及び形状保持層の剥離と接着層による貼り付けを段階的に行う。具体的には、以下の(1)~(4)のように貼り付け作業を行う。
(1)工程(B)
加飾フィルムの面積が小さい「A部分」の接着層保護シート及び形状保持層を剥離して加飾積層体を部分的に形成し、加飾積層体の接着層を部分的に露出させる。ここで、形状保持層には、面内方向に点線状に切り込まれた切り取り線が設けられているため、「A部分」は、切り取り線に沿って形状保持層が切り取り易く、接着層保護シートを剥離し易い。
(2)工程(C)
(1)で露出させた加飾積層体の「A部分」の接着層を成形体の表面に対向させ、加飾積層体を押圧し、その接着層によって成形体の表面に貼り付ける。
(3)工程(B)
面積が大きい残りの「B部分」の接着層保護シート及び形状保持層を剥離して全体を加飾積層体として、加飾積層体の残りの接着層を露出させる。
(4)工程(C)
(3)で露出させた加飾積層体の接着層を成形体の表面に対向させ、加飾積層体を押圧し、その接着層によって成形体の表面に貼り付ける。
これにより、加飾積層体の段階的な貼付が可能となり、貼り付け作業性が向上する。
なお、本開示の加飾積層体成形体の製造方法は、上記工程順に限定されず、例えば、裁断前の加飾フィルム10の形状保持層に切り取り線28を設けた後、適用する成形体に適合する形状に裁断してもよい。
また、切り取り線28を境にして小さいA部分を先に剥離して成形体に貼り付けた方が作業性がよいが、大きいB部分を先に剥離して貼り付けてもよい。
【0076】
本開示の加飾成形体は、既述のように、加飾積層体の成形体への貼り付け作業が容易であり、簡易な方法で製造することができる。同じ成形体に、異なる色相、意匠等を、容易に付与し得るため、種々の用途に適用することができる。また、予備成形され、接着層保護シート及び形状保持層を剥離されて得られる加飾積層体は、柔軟であり、簡易な方法により種々の意匠の、外観が良好な加飾成形体を得ることができる。従って、本開示の加飾成形体の製造方法は、デザインの異なる加飾成形体の小ロット生産にも適する。
そして、形状保持層にはカット部を含む切り取り線が付与されているため、成形体への貼り付け作業性が向上し、貼り付けミスによるロス、貼り直しによる外観不良などを効果的に抑制することができる。
本開示の加飾積層体を適用し得る成形体の分野は特に限定されず、自動車、鉄道等の車輌、家具、航空機、船舶、建装、壁装などが挙げられ、本開示の加飾フィルム及び加飾積層体は、種々の成形体の加飾に好適に使用し得る。
【実施例0077】
以下、実施例を挙げて本開示の加飾フィルムについて具体的に説明するが、本開示はこれらに制限されるものではない。
【0078】
<加飾フィルムの製造>
工程(I)表皮層の準備
表皮層として、KFCフィルム FT-50Y(商品名)、クレハエクステック(株)(フッ素樹脂であるポリフッ化ビニリデン含有層とアクリル樹脂であるポリメチルメタクリレート含有層との積層体、厚み:50μm)を準備した。
【0079】
工程(II)基材層形成
PVC樹脂〔TH800(商品名)、大洋塩ビ(株)〕100kgに、顔料〔PV MAF 725(商品名)、大日精化工業(株)〕2kgを投入し、カレンダー法により、乾燥後の厚みが150μmになるようにシート状に成形して基材層を得た。
【0080】
工程(III)基材層と表皮層の積層
表皮層におけるポリメチルメタクリレート含有層側に、基材層を積層し、一対のロール間に通過させて、ラミネート温度150℃でラミネート加工を行い、積層体とした。
【0081】
工程(XI)プライマー層形成
前記積層体の基材層の表皮層側とは反対側の面に、ウレタン系樹脂〔レザロイド(商品名)、大日精化工業(株)〕を塗布し、乾燥膜厚が3μmのプライマー層を形成した。
【0082】
工程(IV)接着層形成
プライマー層上に、アクリル系粘着剤〔オリバインBPS(商品名)、トーヨーケム(株)〕を、乾燥後の膜厚が55μmとなる量で塗布し、乾燥させて厚さ55μmの接着層を形成した。
【0083】
工程(V)接着層保護シート準備
接着層保護シートの基材として、平らな樹脂シート(PP(フジコー(株)、BK0A(商品名)、厚さ:60μm)を準備した。
【0084】
工程(VI)接着層保護シートにより接着層を被覆
工程(VI)で形成した接着層の表面を、工程(V)で準備した接着層保護シートで被覆した。
【0085】
工程(VII)形状保持層形成
ABS樹脂〔TM-30G6(商品名)、UMG-ABS(株)〕100kgを、カレンダー法により、乾燥後の厚みが500μmになるようにシート状に成形して、形状保持層を形成した。
【0086】
工程(VIII)形状保持層と接着層保護シートを積層
工程(VI)で接着層を被覆した接着層保護シートと、工程(VII)で得た形状保持層とを、シリコーン樹脂系接着剤〔セメダインPM165-R(商品名)、セメダイン(株)、塗布量5g/m2〕を介して貼り合せて加飾フィルムを得た。
【0087】
工程(IX)加飾フィルムの裁断
加飾フィルムを裁断して、1260mm(L方向)×810mm(W方向)の大きさとした。
この加飾フィルムを用いて、形状保持層に切り取り線の形状(カット長、非カット長)及びカット部深さを下記のように変更して実施例1~20の加飾フィルムを製造した。
【0088】
〔実施例1〕
工程(X)形状保持層に切り取り線を形成
カッティング装置(コングスバーグ社、刃種:偏芯カッター)を用い、加飾フィルムの形状保持層側と、カッティング装置のカット部とが対向するように加飾フィルムをカッティング装置の所定位置に載置した。
図3に示す形状(カット長:0.5mm、非カット長:0.5mm)の切り取り線(カット部深さ:150μm)を形成した。これにより、実施例1の加飾フィルムを得た。
【0089】
〔実施例2〕
実施例1における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを200μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の加飾フィルムを得た。
【0090】
〔実施例3〕
実施例1における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを250μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の加飾フィルムを得た。
【0091】
〔実施例4〕
実施例1における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを300μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の加飾フィルムを得た。
【0092】
〔実施例5〕
実施例1における工程(X)で形成した切り取り線を
図4に示す形状(カット長:2.5mm、非カット長:0.5mm)の切り取り線(カット部深さ:150μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の加飾フィルムを得た。
【0093】
〔実施例6〕
実施例5における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを200μmに変更した以外は、実施例5と同様にして、実施例6の加飾フィルムを得た。
【0094】
〔実施例7〕
実施例5における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを250μmに変更した以外は、実施例5と同様にして、実施例7の加飾フィルムを得た。
【0095】
〔実施例8〕
実施例5における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを300μmに変更した以外は、実施例5と同様にして、実施例8の加飾フィルムを得た。
【0096】
〔実施例9〕
実施例1における工程(X)で形成した切り取り線を
図5に示す形状(カット長:1.5mm、非カット長:1.5mm)の切り取り線(カット部深さ:150μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例9の加飾フィルムを得た。
【0097】
〔実施例10〕
実施例9における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを200μmに変更した以外は、実施例9と同様にして、実施例10の加飾フィルムを得た。
【0098】
〔実施例11〕
実施例9における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを250μmに変更した以外は、実施例9と同様にして、実施例11の加飾フィルムを得た。
【0099】
〔実施例12〕
実施例9における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを300μmに変更した以外は、実施例9と同様にして、実施例12の加飾フィルムを得た。
【0100】
〔実施例13〕
実施例1における工程(X)で形成した切り取り線を
図6に示す形状(カット長:0.5mm、非カット長:2.5mm)の切り取り線(カット部深さ:150μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例13の加飾フィルムを得た。
【0101】
〔実施例14〕
実施例13における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを200μmに変更した以外は、実施例13と同様にして、実施例14の加飾フィルムを得た。
【0102】
〔実施例15〕
実施例13における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを250μmに変更した以外は、実施例13と同様にして、実施例15の加飾フィルムを得た。
【0103】
〔実施例16〕
実施例13における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを300μmに変更した以外は、実施例13と同様にして、実施例16の加飾フィルムを得た。
【0104】
〔実施例17〕
実施例1における工程(X)で形成した切り取り線を
図7に示す形状(カット長:2.5mm、非カット長:2.5mm)の切り取り線(カット部深さ:150μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例17の加飾フィルムを得た。
【0105】
〔実施例18〕
実施例17における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを200μmに変更した以外は、実施例17と同様にして、実施例18の加飾フィルムを得た。
【0106】
〔実施例19〕
実施例17における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを250μmに変更した以外は、実施例17と同様にして、実施例19の加飾フィルムを得た。
【0107】
〔実施例20〕
実施例17における工程(X)で形成した切り取り線のカット部深さを300μmに変更した以外は、実施例17と同様にして、実施例20の加飾フィルムを得た。
【0108】
〔比較例1〕
図8に示すように、加飾フィルムの形状保持層に切り取り線を形成しないもの(カット長:0mm、非カット長:0mm)を比較例1の加飾フィルムとした。
【0109】
<加飾成形体の製造>
実施例及び比較例のそれぞれの加飾フィルムを、真空成形装置を用いて、被着体である成形体の形状に合わせて予備成形した。成形体として、車両のサイドルーフを適用した。予備成形後の加飾フィルムの接着層保護シート及び形状保持層を形状保持層の切り取り線を境目として部分的に剥離し(「切り取り作業性」を評価)、接着層側を成形体に貼り付け(「貼り付け作業性」を評価)、加飾成形体を製造した
【0110】
[加飾フィルムの評価]
モニターとしての作業者10名が、予備成形後の加飾フィルムを成形体に貼り付ける際の接着層保護シート及び形状保持層の切り取り作業性、並びに成形体に対する貼り付け作業性について、実作業を行なって以下の基準で評価した。10名の作業者のうち、一番多かった評価を採用した。評価結果が同数である場合には、より良好な結果を記載した。
【0111】
<切り取り作業性>
A:接着層保護シート及び形状保持層の切り取り作業が極めて容易であり、問題なし
B:接着層保護シート及び形状保持層の切り取り作業が容易であり、問題なし
C:接着層保護シート及び形状保持層の切り取り作業が僅かに困難であるが、問題なし
D:接着層保護シート及び形状保持層の切り取り作業が不可能であり、問題あり
切り取り作業性は、A、B及びCが実用上問題のない評価である。
【0112】
<貼り付け作業性>
A:加飾積層体の成形体への貼り付け作業が容易であり、問題なし
B:加飾積層体の成形体への貼り付け作業性が困難であり、問題あり
貼り付け作業性は、Aが実用上問題のない評価である。
【0113】
結果を下記表1に示す。
【0114】
【0115】
実施例の各加飾フィルムは、比較例の加飾フィルムに比べ、切り取り作業性及び貼り付け作業性のいずれも評価が高かった。
特に
図3、4、5に示す形状の切り取り線、すなわち、カット長が0.5mm~2.5mm、かつ、非カット長が1.5mm以下の場合に良好である。