(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054349
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】土壌の固化方法及び土壌固化装置並びに土砂災害防止方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/11 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
E02D3/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161501
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】519118407
【氏名又は名称】仲谷 伸人
(71)【出願人】
【識別番号】519118418
【氏名又は名称】名井 純子
(71)【出願人】
【識別番号】519118429
【氏名又は名称】名井 憲
(71)【出願人】
【識別番号】519118441
【氏名又は名称】名井 肇
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】名井 肇
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 伸人
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043CA13
2D043CA20
(57)【要約】
【課題】土砂災害の予防保全対策に有用な土壌の固化方法及び土壌固化装置並びに土砂災害防止方法を提供すること。
【解決手段】本発明の土壌の固化方法では、土壌中に一対の電極2,3を配置し、一方の電極2に直流電源装置4の陰極を接続して埋設陰極2とするとともに、他方の電極3に直流電源装置4の陽極を接続して埋設陽極3とし、埋設陰極2と埋設陽極3との間に直流電圧を印加して埋設陽極3を溶解させ、その溶解物により土壌を固化する。埋設陽極3が、亜鉛及びインジウムを含有するアルミニウム合金を含んで構成され、埋設陽極3の周囲に、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層10が配されている。土砂災害の発生が想定される区域の土壌を斯かる方法により固化することで、土砂災害が防止され得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌中に一対の電極を配置し、該一対の電極の一方に直流電源装置の陰極を接続して埋設陰極とするとともに、該一対の電極の他方に該直流電源装置の陽極を接続して埋設陽極とし、該埋設陰極と該埋設陽極との間に直流電圧を印加して該埋設陽極を溶解させ、その溶解物により土壌を固化する、土壌の固化方法であって、
前記埋設陽極が、亜鉛及びインジウムを含有するアルミニウム合金を含んで構成され、
前記埋設陽極の周囲に、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層が配されている、土壌の固化方法。
【請求項2】
土壌中に一対の電極を配置し、該一対の電極の一方に直流電源装置の陰極を接続して埋設陰極とするとともに、該一対の電極の他方に該直流電源装置の陽極を接続して埋設陽極とし、該埋設陰極と該埋設陽極との間に直流電圧を印加して該埋設陽極を溶解させ、その溶解物により土壌を固化する、土壌の固化方法であって、
極性変換手段により、前記埋設陰極及び前記埋設陽極を一定の間隔で極性変換し、
前記一対の電極が、それぞれ、亜鉛及びインジウムを含有するアルミニウム合金を含んで構成され、
前記一対の電極のうちの少なくとも一方の周囲に、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層が配されている、土壌の固化方法。
【請求項3】
土壌中に、第1の金属材料を含んで構成される埋設陰極と、該第1の金属材料に対して電気化学的序列が卑となる第2の金属材料を含んで構成される埋設陽極とを配置し、両極どうしを接続して、両極の電位差を起電力として該埋設陽極から該埋設陰極に直流電流を流入させることにより該埋設陽極を溶解させ、その溶解物により土壌を固化する、土壌の固化方法であって、
前記埋設陽極が、前記第2の金属材料として、亜鉛及びインジウムを含有するアルミニウム合金を含み、
前記埋設陽極の周囲に、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層が配されている、土壌の固化方法。
【請求項4】
前記電解液における電解質の濃度が5質量%~飽和濃度の範囲内である、請求項1~3の何れか1項に記載の土壌の固化方法。
【請求項5】
前記電解液における電解質が塩化マグネシウムを含み、前記液保持材がベントナイトを含む、請求項1~4の何れか1項に記載の土壌の固化方法。
【請求項6】
前記アルミニウム合金が、亜鉛を1.0~3.5質量%及びインジウムを0.015~0.030質量%含有する、請求項1~5の何れか1項に記載の土壌の固化方法。
【請求項7】
前記アルミニウム合金が、更にマグネシウムを1.0~4.0質量%含有する、請求項1~6の何れか1項に記載の土壌の固化方法。
【請求項8】
土壌中に埋設された金属体を前記埋設陰極とし、該金属体の表面に前記埋設陽極を設置する、請求項1~7の何れか1項に記載の土壌の固化方法。
【請求項9】
前記土壌は、粒径が0.02mm以上の土壌成分を主体とするか、又は電気抵抗率が5~100kΩ・mである、請求項1~8の何れか1項に記載の土壌の固化方法。
【請求項10】
土砂災害の発生が想定される区域の土壌を、請求項1~9の何れか1項に記載の方法により固化する土砂災害防止方法。
【請求項11】
請求項1に記載の土壌の固化方法に使用される土壌固化装置であって、
一対の電極と、該一対の電極に電気的に接続される直流電源装置とを備え、
前記一対の電極のうち、前記埋設陽極とされる電極が、亜鉛及びインジウムを含有するアルミニウム合金を含んで構成され、
前記埋設陽極の周囲に、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層が配されている、土壌固化装置。
【請求項12】
請求項2に記載の土壌の固化方法に使用される土壌固化装置であって、
一対の電極と、該一対の電極に電気的に接続される直流電源装置と、該一対の電極の極性を切り替える極性変換手段とを備え、
前記一対の電極が、それぞれ、亜鉛及びインジウムを含有するアルミニウム合金を含んで構成され、
前記一対の電極のうちの少なくとも一方の周囲に、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層が配されている、土壌固化装置。
【請求項13】
請求項3に記載の土壌の固化方法に使用される土壌固化装置であって、
第1の金属材料を含んで構成される埋設陰極と、該第1の金属材料に対して電気化学的序列が卑となる第2の金属材料を含んで構成される埋設陽極とを備え、
前記埋設陽極が、前記第2の金属材料として、亜鉛及びインジウムを含有するアルミニウム合金を含み、
前記埋設陽極の周囲に、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層が配されている、土壌固化装置。
【請求項14】
前記電解液における電解質の濃度が5質量%~飽和濃度の範囲内である、請求項11~13の何れか1項に記載の土壌固化装置。
【請求項15】
前記電解液における電解質が塩化マグネシウムを含み、前記液保持材がベントナイトを含む、請求項11~14の何れか1項に記載の土壌固化装置。
【請求項16】
前記アルミニウム合金が、亜鉛を1.0~3.5質量%及びインジウムを0.015~0.030質量%含有する、請求項11~15の何れか1項に記載の土壌固化装置。
【請求項17】
前記アルミニウム合金が、更にマグネシウムを1.0~4.0質量%含有する、請求項11~16の何れか1項に記載の土壌固化装置。
【請求項18】
土壌中に埋設された金属体を前記埋設陰極とし、該金属体の表面に前記埋設陽極が設置されている、請求項11~17の何れか1項に記載の土壌固化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌の固化方法及びそれを用いた土砂災害防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水分を多く含む土壌からなる地盤は軟弱であり、がけ崩れ(急傾斜地の崩壊)、土石流、地すべりなどの土砂災害を引き起こすおそれがある。従来、このような軟弱な地盤を強化する方法として、該地盤の土壌を掘削し、その掘削土に石灰系材料などの固化材を添加・混合してから該地盤に埋め戻す方法が知られている。しかしながら、この方法は、土壌の掘削及び埋め戻しという、比較的大掛かりで手間のかかる作業を要することもあって、広い区域には適用し難く、基本的には、土砂災害が起きた後にその災害地に対して行われる、いわゆる事後保全対策であり、緊急時の対応は困難である。そのため、土砂災害が想定される区域に対して事前に行われ、土砂災害を未然に防止し、あるいは土砂災害による被害を最小限に抑え得る、いわゆる予防保全対策が望まれている。
【0003】
軟弱地盤の強化方法に関し、特許文献1には、土壌中に電極を挿入し、直流を通電することにより土壌中に固結層を形成する従来の公知の方法では、土壌の性質等によっては該固結層が形成されないことに鑑み、その改良技術として、土壌中に配置された一対の電極より直流を土壌中に通電しつつ、地表における各電極の周囲から土壌中に電解質を添加することにより、該一対の電極間に固結層を形成する方法が記載され、また、電極としてアルミニウム板を用いることが記載されている。また、特許文献2には、透水係数が比較的小さい軟弱地盤の適当な位置に陰極及び陽極を配置して両極間に電流を流すことにより、該地盤を改良する方法が記載され、陰極及び/又は陽極としてアルミニウム製のものを用いることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭28-3864号公報
【特許文献2】特開平7-180135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2記載の技術は、軟弱地盤の強化に一定の効果を奏するものの、依然として改良の余地があった。
【0006】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る技術を提供することであり、詳細には、土砂災害の予防保全対策に有用な、土壌の固化方法及び土壌固化装置並びに土砂災害防止方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(第1発明)は、土壌中に一対の電極を配置し、該一対の電極の一方に直流電源装置の陰極を接続して埋設陰極とするとともに、該一対の電極の他方に該直流電源装置の陽極を接続して埋設陽極とし、該埋設陰極と該埋設陽極との間に直流電圧を印加して該埋設陽極を溶解させ、その溶解物により土壌を固化する、土壌の固化方法であって、前記埋設陽極が、亜鉛及びインジウムを含有するアルミニウム合金を含んで構成され、前記埋設陽極の周囲に、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層が配されている、土壌の固化方法である。
【0008】
また本発明(第2発明)は、土壌中に一対の電極を配置し、該一対の電極の一方に直流電源装置の陰極を接続して埋設陰極とするとともに、該一対の電極の他方に該直流電源装置の陽極を接続して埋設陽極とし、該埋設陰極と該埋設陽極との間に直流電圧を印加して該埋設陽極を溶解させ、その溶解物により土壌を固化する、土壌の固化方法であって、極性変換手段により、前記埋設陰極及び前記埋設陽極を一定の間隔で極性変換し、前記一対の電極が、それぞれ、亜鉛及びインジウムを含有するアルミニウム合金を含んで構成され、前記一対の電極のうちの少なくとも一方の周囲に、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層が配されている、土壌の固化方法である。
【0009】
また本発明(第3発明)は、土壌中に、第1の金属材料を含んで構成される埋設陰極と、該第1の金属材料に対して電気化学的序列が卑となる第2の金属材料を含んで構成される埋設陽極とを配置し、両極どうしを接続して、両極の電位差を起電力として該埋設陽極から該埋設陰極に直流電流を流入させることにより該埋設陽極を溶解させ、その溶解物により土壌を固化する、土壌の固化方法であって、前記埋設陽極が、前記第2の金属材料として、亜鉛及びインジウムを含有するアルミニウム合金を含み、前記埋設陽極の周囲に、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層が配されている、土壌の固化方法である。
【0010】
また本発明は、土砂災害の発生が想定される区域の土壌を、前記の本発明(第1~3発明)の土壌の固化方法により固化する土砂災害防止方法である。
【0011】
また本発明は、前記の第1発明の土壌の固化方法に使用される土壌固化装置であって、一対の電極と、該一対の電極に電気的に接続される直流電源装置とを備え、前記一対の電極のうち、前記埋設陽極とされる電極が、亜鉛及びインジウムを含有するアルミニウム合金を含んで構成され、前記埋設陽極の周囲に、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層が配されている、土壌固化装置である。
【0012】
また本発明は、前記の第2発明の土壌の固化方法に使用される土壌固化装置であって、一対の電極と、該一対の電極に電気的に接続される直流電源装置と、該一対の電極の極性を切り替える極性変換手段とを備え、前記一対の電極が、それぞれ、亜鉛及びインジウムを含有するアルミニウム合金を含んで構成され、前記一対の電極のうちの少なくとも一方の周囲に、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層が配されている、土壌固化装置である。
【0013】
また本発明は、前記の第3発明の土壌の固化方法に使用される土壌固化装置であって、第1の金属材料を含んで構成される埋設陰極と、該第1の金属材料に対して電気化学的序列が卑となる第2の金属材料を含んで構成される埋設陽極とを備え、前記埋設陽極が、前記第2の金属材料として、亜鉛及びインジウムを含有するアルミニウム合金を含み、前記埋設陽極の周囲に、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層が配されている、土壌固化装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、土砂災害の予防保全対策に有用な土壌の固化方法及び土壌固化装置並びに土砂災害防止方法が提供される。本発明の土壌の固化方法及び土砂災害防止方法によれば、土壌を電気化学的に固化するため、土壌を掘削し、その掘削土に石灰系材料などの固化材を添加・混合してから該地盤に埋め戻す作業が不要であり、広い区域に対して土砂災害の予防保全対策を図ることができる。本発明は、電極の周囲に配された保水層の作用により、幅広い土壌に適用可能であり、保水力のある一般土壌のみならず、砂土や礫土のような保水力の乏しい土壌であっても、電気化学的に固化することができる。本発明の土壌固化装置によれば、本発明の土壌の固化方法及び土砂災害防止方法を効率良く実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の土壌の固化方法の一実施形態(第1実施形態)の施工状態を示す図であり、土壌固化装置の土壌の深さ方向に沿う断面を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す土壌固化装置における埋設陽極及び保水層の模式的な斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の土壌の固化方法の他の実施形態(第2実施形態)の施工状態を示す図であり、土壌固化装置の土壌の深さ方向に沿う断面を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の土壌の固化方法の更に他の実施形態(第3実施形態)の施工状態を示す図であり、土壌固化装置の土壌の深さ方向に沿う断面を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の土壌の固化方法の更に他の実施形態(第4実施形態)の施工状態を示す図であり、土壌固化装置の土壌の深さ方向に沿う断面を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の土壌の固化方法の更に他の実施形態(第5実施形態)の施工状態を示す図であり、土壌固化装置の土壌の深さ方向に沿う断面を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は、各参考例及び比較例において、通電期間と土壌の透水係数との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例及び参考例の陽極分極曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき図面を参照して説明する。なお、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。図面は基本的に模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なる場合がある。
【0017】
図1には、本発明の土壌の固化方法の第1実施形態の施工状態が示されている。第1実施形態の固化方法で用いる土壌固化装置1Aは、
図1に示すように、一対の電極2,3と、該一対の電極2,3に電気的に接続される1台の直流電源装置4とを備える。
図1の施工状態においては、一対の電極2,3は、それらの全体が土壌100中に埋設されているのに対し、直流電源装置4は、土壌100中に埋設されずに、地面100Sよりも上方に配置されている。一対の電極2,3及び直流電源装置4は、リード線5を介して互いに電気的に接続されており、電気回路を構成している。土壌100中に配置された一対の電極2,3のうち、一方の電極2と直流電源装置4の陰極とがリード線5を介して接続され、また、他方の電極3と直流電源装置4の陽極とがリード線5を介して接続されており、これにより、電極2が埋設陰極とされ、電極3が埋設陽極とされている。両電極2,3は土壌100中において所定間隔を置いて並列に配置されている。直流電源装置4及びリード線5としては、当該技術分野において通常用いられるものを特に制限なく用いることができる。
【0018】
第1実施形態の土壌の固化方法(土壌固化装置1A)の主たる特徴の1つとして、埋設陽極、すなわち土壌固化装置1Aが備える一対の電極2,3のうち直流電源装置4の陽極と接続される電極3が、亜鉛(Zn)及びインジウム(In)を含有するアルミニウム合金を含んで構成される点が挙げられる。電極3(埋設陽極)が斯かる特定のアルミニウム合金を含んで構成されることにより、土壌100における電極2,3の周辺部を安定的に固化させることができる。
【0019】
電極3(埋設陽極)における亜鉛の含有量は、電極3の全質量に対して、好ましくは1.0~3.5質量%、より好ましくは2.0~3.2質量%である。
電極3(埋設陽極)におけるインジウムの含有量は、電極3の全質量に対して、好ましくは0.015~0.030質量%、より好ましくは0.018~0.023質量%である。
【0020】
土壌をより一層安定的に固化させる観点から、電極3(埋設陽極)を構成するアルミニウム合金は、亜鉛及びインジウムに加えて更に、マグネシウム(Mg)を含有することが好ましい。電極3(埋設陽極)におけるマグネシウムの含有量は、電極3の全質量に対して、好ましくは1.0~4.0質量%、より好ましくは2.5~3.8質量%である。
【0021】
電極3(埋設陽極)を構成するアルミニウム合金は、亜鉛、インジウム及びマグネシウム以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、シリカ(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)が挙げられ、電極3(埋設陽極)を構成するアルミニウム合金は、これらの1種又は2種以上を含有してもよい。
【0022】
電極3(埋設陽極)を構成するアルミニウム合金の好ましい組成の一例として、下記を例示できる。なお、下記組成では各成分の合計含有量は100質量%である。
・亜鉛(Zn):好ましくは1.0~3.5質量%、より好ましくは2.0~3.2質量%
・インジウム(In):好ましくは0.015~0.030質量%、より好ましくは0.018~0.023質量%
・マグネシウム(Mg):好ましくは1.0~4.0質量%、より好ましくは1.2~3.8質量%
・シリカ(Si):好ましくは0.01~0.7質量%、より好ましくは0.02~0.2質量%
・鉄(Fe):好ましくは0.02~0.11質量%、より好ましくは0.06~0.10質量%
・銅(Cu):好ましくは0.001~0.004質量%、より好ましくは0.002~0.004質量%
・アルミニウム(Al):残部
【0023】
第1実施形態の土壌の固化方法(土壌固化装置1A)の主たる特徴の他の1つとして、
図2に示すように、電極3(埋設陽極)の周囲に、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層10が配されている点が挙げられる。
図2に示す形態では、円筒状の電極3の周面の全体を所定の厚みの保水層10が覆っており、電極3と保水層10とが接触している。
保水層10無しでも土壌固化効果は得られるが、電極3の周囲に保水層10を配置することで、土壌固化効果の及ぶ範囲が飛躍的に拡大する。これは、保水層10に含まれる電解液が電極3と接することで、電極3に含まれるアルミニウムの溶解が促進されたことによるものと推察される。電極3に含まれるアルミニウムの溶解が促進されると、電極3から土壌中へのアルミニウムイオンの溶出量が増加し、それに伴って、溶出したアルミニウムイオンの到達範囲が拡大する。土壌固化の主なメカニズムの一つは、電極3から溶出したアルミニウムイオンがシリカ等の土壌成分と電気的に結びついて凝集することであるので、アルミニウムイオンの到達範囲が拡大することで、土壌固化効果の及ぶ範囲が拡大することになる。
【0024】
保水層10に含まれる電解液は、少なくとも電解質及び溶媒を含有する。前記溶媒は、典型的には水である。前記電解質としては、例えば、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化リチウム等の潮解性塩;塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ナトリウム、酢酸マグネシウム、水酸化ナトリウム等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
保水層10の電解液における電解質濃度は特に制限されない。一般に、電解質濃度が高いほど、保水層10による作用効果(埋設陽極中のアルミニウムの溶解促進効果)が長期間にわたって持続可能となるので、それを望む場合は電解質濃度を飽和濃度に設定すればよい。ただ、軟弱地盤の改良を目的とした土壌固化においては通常、埋設陽極から溶出したアルミニウムイオンの到達範囲の拡大が重要なのであって、埋設陽極からのアルミニウムイオンの溶出が長期間にわたって持続することは必ずしも必要ではないので、電解質濃度を低く設定しても特に問題はない。電解質濃度を低く設定できる(飽和濃度の電解液を使用する必要が無い)ことのメリットとして、電解質濃度が比較的高い場合に比べて電極3(埋設陽極)の溶解特性が向上し、これにより電極3の局部溶解が抑制され、電極3が均一に溶解しやすくなる点が挙げられる。
保水層10の電解液における電解質濃度は、好ましくは5質量%~飽和濃度の範囲内、より好ましくは5~30質量%の範囲内である。
【0026】
保水層10に含まれる液保持材としては、電解液を保持し得るものであればよく、例えば、セメント、ベントナイト等の硬化性素材(土壌固化装置の設置時は流動性を有するが、経時的にその流動性が失われ、土壌固化装置の設置後は硬化した状態となる素材);カラギーナン、アクリル酸ナトリウム-アクリルアミド共重合体、アクリル酸ナトリウム-アクリルアミド共重合体、ポリビニルアルコール-ポリアクリル酸共重合体等の吸水性樹脂;吸水シートが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記吸水シートは、典型的には、吸水性繊維を主体とする繊維集合体からなり、該繊維集合体の形態としては、例えば、不織布、紙、あるいはこれらの2種以上を積層してなる複合シートが挙げられる。前記吸水性繊維としては、天然セルロース系繊維、あるいは天然セルロース系繊維にエステル化やエーテル化等の処理を施して得られたセルロース誘導体が好ましく、より具体的には例えば、綿、麻、レーヨン、ポリノジック、リヨセル、キュプラ、パルプ等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。前記吸水シートとしては市販品を用いることもでき、例えば、パルプを主体とする吸水シートとして、王子キノクロス株式会社製の商品名「ハトシートXCA」、株式会社セリア発売の「セルロース水切りマット」を例示できる。
【0027】
保水層10は、電解液及び液保持材以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分の一例として、炭素質材料を挙げられる。保水層10に炭素質材料を含有させることで、保水層10の電極3(埋設陽極)との接触面積が増加し、保水層10による作用効果がより一層確実に奏されることが期待できる。炭素質材料としては、例えば、コークス、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。炭素質材料の形態は特に制限されず、繊維状でも良く、粉体でもよい。炭素質材料の含有量は、保水層10の全質量に対して、好ましくは40~60質量%、更に好ましくは45~55質量%である。
【0028】
保水層10の好ましい構成の一例として、電解液における電解質が塩化マグネシウムを含み、液保持材がベントナイトを含むものが挙げられる。より具体的には、電解質が塩化マグネシウムであり、液保持材がベントナイトであるものが挙げられる。
ベントナイトとしては、カルシウム型、ナトリウム型のどちらも用いることができるが、カルシウム型よりも膨潤度の大きいナトリウム型のベントナイトが有利である。このナトリウム型のベントナイトとは、モンモリロナイトのシート状結晶の層間にナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属類を吸着しているベントナイトである。
【0029】
保水層10による作用効果をより一層確実に奏させるようにする観点から、保水層10における電解液の単位体積当たりの保持量は、好ましくは0.5~10g/cm3、より好ましくは1~5g/cm3である。斯かる電解液の保持量が達成されるように、前記液保持材の種類、坪量、厚み等を設定することが好ましい。
【0030】
本発明では、
図2に示すように、保水層10の全体が露出し、土壌中に設置したときに保水層10の全体が土壌と接触するようになっていてもよいが、
図3に示すように、保水層10の外面が保護カバー11で覆われていてもよい。
図3に示す形態では、円筒状の電極3(埋設陽極)の周面の全体を覆うように保水層10が配され、その保水層10の周面の全体を覆うように保護カバー11が配されている。保護カバー11は、該保護カバー11を厚み方向に貫通する開口部12を複数有している。開口部12は、電極3から溶出されるアルミニウムイオンの排出口として機能し得る。保護カバー11の材質は特に制限されず、典型的にはプラスチックが用いられる。
【0031】
一方、埋設陰極、すなわち土壌固化装置1Aが備える一対の電極2,3のうち直流電源装置4の陰極と接続される電極2を構成する金属材料としては、電極3(埋設陽極)を構成する金属材料に対して電気化学的序列が貴となる金属材料を用いることができる。電極2(埋設陰極)として使用可能な金属材料としては、例えば、鉄(Fe)、ステンレス、チタンが挙げられ、電極2(埋設陰極)はこれらの1種又は2種以上を含有することができる。好ましい電極2(埋設陰極)として、鉄(Fe)を例示できる。
【0032】
電極2,3の形状は特に限定されず、棒状、板状、球状など、所望の形状を採用することができる。電極2と電極3とで形状及び大きさが同じでもよく、異なっていてもよい。また、電極2,3の土壌100中における配置、すなわち埋設陰極及び埋設陽極の位置も特に限定されない。典型的には、電極2,3それぞれは、地面100Sからの離間距離D(
図1参照)が0~100mの範囲に設置される。また、
図1に示す如くに、電極2,3を並列に配置する場合の両者の間隔G(
図1参照)は通常1~10mである。
【0033】
第1実施形態の土壌の固化方法を実施するには、
図1に示す施工状態において、土壌100中に配置された電極2,3間、すなわち埋設陰極と埋設陽極との間に直流電圧を印加すればよい。これにより、直流電源装置4から両極2,3間に直流電流が供給され、該直流電流が、土壌100中に含まれる水分などの電解質により、電極3(埋設陽極)から電極2(埋設陰極)に向かって土壌100中を流れる。斯かる土壌固化装置1Aの電気回路の通電中においては電極3が溶解し、その溶解物(アルミニウムイオン等)が土壌100中に溶出され、土壌100の構成成分である粒子どうしの隙間に入り込みつつ周辺に拡散していき、最終的には、電極3を中心とする一定の範囲に存在するようになる。こうして土壌100中に拡散した電極3(埋設陽極)由来の溶解物は、そのまま放置しておくことでやがて乾燥し、土壌100の構成成分である粒子を含む固化物を形成する。このように、第1実施形態の土壌の固化方法によれば、土壌に電極2,3を埋設して直流電源装置4から両極2,3間に直流電流を供給するだけの比較的簡単な作業で、電極2,3の周辺の土壌を固化することが可能であるから、例えば、土砂災害の発生が想定される区域に対して、土砂災害の予防保全を図ることができる。
【0034】
第1実施形態の土壌の固化方法(土壌固化装置1A)が適用可能な土質環境は特に制限されない。
第1実施形態の土壌の固化方法(土壌固化装置1A)が有用な土質環境の一例として、水分を多く含む軟弱地盤、具体的には例えば、電気抵抗率が好ましくは200Ω・m以下、より好ましくは50Ω・m以下、塩素イオン(Cl-)濃度が好ましくは500ppm以上、含水率が好ましくは10~20質量%である土質環境を例示できる。このような水分を多く含む軟弱地盤は、がけ崩れ(急傾斜地の崩壊)、土石流、地すべりなどの土砂災害を引き起こすおそれがあるが、第1実施形態の土壌の固化方法によれば、軟弱地盤を強化して土砂災害を未然に防止し、あるいは土砂災害による被害を最小限に抑え得る。
第1実施形態の土壌の固化方法(土壌固化装置1A)が有用な軟弱地盤の具体例として、粘土層や砂層が多い地盤(例えば埋め立て地)を例示できる。また、傾斜や段差のある基礎地盤に、盛土及び/又は擁壁を含む人工地盤が設置され、該人工地盤の上に建物や道路などの人工構造物が設置されている場合に、該基礎地盤に対して、第1実施形態の土壌の固化方法を適用することができる。
【0035】
第1実施形態の土壌の固化方法(土壌固化装置1A)は、1)粒径が0.02mm以上の土壌成分を主体とする土壌、又は2)電気抵抗率が5~100kΩ・mの範囲にある土壌にも適用できる。
前記1)の土壌は、保水力に乏しく、毛管孔隙に水分を保持し得る土壌(例えば、粒径が0.02mm未満の土壌成分を主体とする土壌)に比べて電気化学的に固化し難い傾向があるが、第1実施形態の土壌の固化方法(土壌固化装置1A)は、電極3の周囲に保水層10が配されているので、前記1)の土壌でも固化することができる。
前記1)の土壌は、典型的には、石分(粒径が75mm以上の土壌成分)、礫分(粒径が2mm以上75mm未満の土壌成分)、砂分(粒径が75μm以上2mm未満の土壌成分)及びシルト分(粒径が5μm以上75μm未満の土壌成分)を含み、特に、石分、礫分及び砂分の含有比率が高い。前記の各粒径はJIS A 1204(土の粒度試験方法)に規定する方法に基づいて定まるものである。前記の「主体とする」とは、土壌の全質量に対し、粒径が0.02mm以上の土壌成分の合計質量の割合が50質量%以上であることを指す。
前記2)の土壌は、電気抵抗率(土壌抵抗率)が比較的高く電気が流れにくい土質環境であるが、第1実施形態の土壌の固化方法(土壌固化装置1A)は、電極3の周囲に保水層10が配されているので、前記2)の土壌でも固化することができる。
【0036】
図4~
図7には、本発明の土壌の固化方法の他の実施形態が示されている。後述する他の実施形態については、前述した第1実施形態と異なる構成を主として説明し、同様の構成は同一の符号を付して説明を省略する。特に説明しない構成は、第1実施形態についての説明が適宜適用される。
【0037】
図4には、本発明の土壌の固化方法の第2実施形態の施工状態が示されている。第2実施形態の固化方法で用いる土壌固化装置1Bは、
図4に示すように、電極2,3を二対備える。ただし、一方の電極2,3の対と他方の電極2,3の対とで電極2を共有しており、電極の数としては3個である。土壌100中では、複数の電極対にて共有される電極2を挟んでその両側それぞれに電極3が配置され、各電極2,3,3は間隔Gを置いて等間隔に並列に配置されている。各電極3の周囲には、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層10が配されている。
【0038】
第2実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果が奏される。特に第2実施形態によれば、土壌固化装置1Bの電気回路の通電中に溶解物を溶出する埋設陽極、すなわち土壌固化装置1Bが備える一対の電極2,3のうち直流電源装置4の陽極と接続される電極3を複数(2個)備えるため、埋設陽極を1個だけ備える第1実施形態に比して、より広い区域の土壌を固化させることが可能であり、土砂災害の予防保全をより一層確実に図ることが可能である。
【0039】
図5には、本発明の土壌の固化方法の第3実施形態の施工状態が示されている。第3実施形態の固化方法で用いる土壌固化装置1Cは、
図5に示すように、一対の電極7,7及び直流電源装置4に加えて更に、一対の電極7,7の極性を切り替える極性変換手段6を備える。一対の電極7,7、直流電源装置4及び極性変換手段6は、リード線5を介して互いに電気的に接続されている。極性変換手段6としては、当該技術分野において通常用いられるものを特に制限なく用いることができる。
【0040】
土壌固化装置1Cにおいては、一対の電極7,7がそれぞれ、亜鉛(Zn)及びインジウム(In)を含有するアルミニウム合金を含んで構成されている。各電極7が斯かる特定のアルミニウム合金を含んで構成されることにより、土壌100における電極7の周辺部を安定的に固化させることができる。一対の電極7,7のうちの少なくとも一方、好ましくは両方の周囲には、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層10が配されている。一対の電極7,7どうしは通常、互いに同一材料から構成され、形状も互いに同一である。土壌固化装置1Cの電極7は、土壌固化装置1Aの電極3(埋設陽極)と同様の組成、形状とすることができる。
【0041】
第3実施形態の土壌の固化方法においては、その実施中すなわち土壌固化装置1Cの電気回路の通電中に、極性変換手段6により、土壌100中に配置された一対の電極7,7を一定の間隔で極性変換する。これにより、全通電期間中の一部の期間では一方の電極7が埋設陰極、他方の電極7が埋設陽極とされ、他の期間ではこれとは逆の関係とされ、両期間が交互に繰り返される。すなわち各電極7は、ある時は埋設陰極として機能し、またある時は埋設陽極として機能する。したがって、第3実施形態の土壌の固化方法によれば、土壌100中における異なる2箇所に設置された埋設陽極7からその溶解物が溶出されるため、1箇所に設置された埋設陽極7から溶解物が溶出される形態に比して、より広い範囲の土壌を固化させることが可能である。極性変換手段6による一対の電極7,7の極性変換は、タイマーによって所定時間毎に交互に実施されるようにしてもよい。
【0042】
図6には、本発明の土壌の固化方法の第4実施形態の施工状態が示されている。第4実施形態の固化方法で用いる土壌固化装置1Dは、
図6に示すように、第1の金属材料を含んで構成される埋設陰極8と、該第1の金属材料に対して電気化学的序列が卑となる第2の金属材料を含んで構成される埋設陽極9とを備える。一対の埋設電極8,9は、土壌100中に配置され、リード線5を介して互いに電気的に接続されている。土壌固化装置1Dを用いた第4実施形態の土壌の固化方法においては、土壌固化装置1Dの電気回路の通電中に、埋設陽極9を溶解させ、その溶解物により周辺の土壌を固化する。
【0043】
埋設陰極8を構成する第1の金属材料としては、例えば、鉄(Fe)、ステンレス、チタンが挙げられ、埋設陰極8はこれらの1種又は2種以上を含有することができる。好ましい埋設陰極8として、鉄(Fe)を例示できる。土壌固化装置1Dの埋設陰極8は、土壌固化装置1Aの電極2(埋設陰極)と同様の組成、形状とすることができる。
【0044】
埋設陽極9は、第2の金属材料として、亜鉛及びインジウムを含有するアルミニウム合金を含む。埋設陽極9が斯かる特定のアルミニウム合金を含んで構成されることにより、土壌100における埋設陽極9の周辺部を安定的に固化させることができる。土壌固化装置1Dの埋設陽極9は、土壌固化装置1Aの電極3(埋設陽極)と同様の組成、形状とすることができる。埋設陽極9の周囲には、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層10が配されている。
【0045】
前述した土壌固化装置1A~1Cが何れも直流電源装置4を備え、直流電源装置4の出力電圧をこれに接続された電極間に印加することで埋設陽極から埋設陰極に直流電流を流入させるようになされているのに対し、土壌固化装置1Dは、そのような外部電源を備えておらず、第1の金属材料を含んで構成される埋設陰極8と、該第1の金属材料に対して電気化学的序列が卑となる第2の金属材料を含んで構成される埋設陽極9との間の電位差を起電力として、埋設陽極9から埋設陰極8に直流電流を流入させるようになされている。
【0046】
第4実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果が奏される。特に第4実施形態は、その実施に用いる土壌固化装置1Dが直流電源装置4の如き外部電源を必要としないため、施工及びメンテナンスが容易で、経済性に優れるというメリットを有する。
【0047】
図7には、本発明の土壌の固化方法の第4実施形態の施工状態が示されている。第4実施形態の固化方法で用いる土壌固化装置1Eにおいては、
図7に示すように、土壌100中に埋設された金属体20を埋設陰極2とし、該金属体20の表面に埋設陽極3が設置されている。第4実施形態は、土壌固化機能に加えて更に、地中に埋設された金属体20の電気防食機能を有し、金属体20は、土壌固化機能を発現するための埋設陰極2として機能するとともに、電気防食の被防食体でもある。金属体20は、土壌固化のために設置されたものではなく、別の目的で土壌中に既設されたものであり、具体的に例えば、埋設配管、鋼管杭、H形鋼、山形鋼等の鋼材であり、典型的には鉄(Fe)製である。
【0048】
図7に示す形態では、土壌100中に複数(具体的には2個)の金属体20が並列に埋設されている。複数の金属体20は、それぞれ、一方向に長い形状をなし、典型的には、円柱の如き棒状をなし、その軸線方向を鉛直方向(
図7の上下方向)に一致させて、土壌100中に埋設されている。各金属体20の軸線方向の一端部(上端部)は、地面100Sから地上に延出している。埋設陽極3は、金属体20の表面に設置され、より具体的には
図7に示すように、棒状の金属体20の周面の一部を被覆するように設置されている。つまり、土壌固化装置1Eにおける埋設陽極3は、軸線方向に延びる中空部を有し、該中空部に金属体20が挿通されている。
図7に示す形態では、1個の金属体20に対し、複数(具体的には2個)の埋設陽極3が設置されており、複数の埋設陽極3は、金属体20の軸線方向に間欠配置されている。埋設陽極3は、金属体20の表面に対して、両者間での導通が阻害されないように固定されており、具体的には例えば、圧着、嵌合などによって固定されている。各埋設陽極3の周囲(金属体20との接触面とは反対側の面)には、電解液と該電解液を保持する液保持材とを含む保水層10が配されている。金属体20は、リード線5を介して直流電源装置4の陰極と電気的に接続され、金属体20の表面に設置された埋設陽極3は、リード線5を介して直流電源装置4の陽極と電気的に接続されており、金属体20すなわち埋設陰極2、埋設陽極3及び直流電源装置4がリード線5を介して電気回路を構成している。
【0049】
第4実施形態の土壌の固化方法を実施するには、土壌固化装置1Eの電気回路に通電すればよい。これにより、直流電源装置4から両極2,3間に直流電流Aが供給され、該直流電流Aが、土壌100中に含まれる水分などの電解質により、埋設陽極3から埋設陰極2に向かって土壌100中を流れる。この埋設陽極3から周辺の土壌100中を通って埋設陰極2に向かって流れる直流電流Aによって、両極2,3の周辺の土壌が固化されるとともに、直流電流Aが防食電流として、埋設陽極3(金属体20)における埋設陽極3の近傍に位置する部分に流入し、これにより該部分の腐食が防止される。
【0050】
図7に示す形態では、土壌100が、土質環境の異なる複数の地層の積層構造を有し、金属体20(埋設陰極2)が、その積層構造を一方向(鉛直方向)に跨いで延在している。そして、前記積層構造を構成する一部の地層101が、いわゆる軟弱地盤(例えば砂層)であって土壌固化の対象となるべきものであるところ、埋設陽極3はこの地層101中に選択的に配置されている。
【0051】
また、
図7に示す形態では、複数(2個)の埋設陽極3が1個の金属体20(埋設陰極2)の軸線方向に間欠配置されているので、金属体20における、該軸線方向に隣り合う2個の埋設陽極3,3間に挟まれた部分には、その軸線方向の両端側それぞれから防食電流が流入することになる。したがって
図7に示す形態によれば、金属体20の腐食が長期にわたって安定的に防止され得る。
【0052】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。
例えば、第4実施形態(土壌固化装置1E)に関し、
図7に示す土壌固化装置1Eは直流電源装置4を備えていたが、直流電源装置4は無くてもよく、すなわち土壌固化装置1Eは、土壌中に埋設された金属体20を埋設陰極2とし、該金属体20の表面に、周囲に保水層10が配された埋設陽極3が設置されただけのシンプルな構成でもよい。また、土壌固化装置1Eにおいて、金属体20(埋設陰極2)が延在する方向は特に限定されず、例えば水平方向(
図7の左右方向)でもよい。
前述した一の実施形態のみが有する部分は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜相互に利用できる。
【実施例0053】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、斯かる実施例に制限されない。
【0054】
〔参考例1〕
図1に示す土壌固化装置1Aにおいて電極3(埋設陽極)の周囲に保水層10が配されていない点以外は土壌固化装置1Aと同様の構成の土壌固化装置を作製した。作製した土壌固化装置において、埋設陰極(土壌固化装置1Aの電極2に相当)は、円筒状をなし、外径100mm、軸線方向の長さ100mmであった。埋設陽極(土壌固化装置1Aの電極3に相当)は、AI-Zn-In系合金製で、円筒状をなし、外径20mm、軸線方向の長さ60mmであった。両極の組成は下記のとおりであった。なお、下記組成において各成分の合計含有量は100質量%である。
・参考例1の埋設陰極の組成:Fe(100質量%)
・参考例1の埋設陽極の組成:Zn(3.2質量%)、In(0.023質量%)、Si(0.20質量%)、Fe(0.06質量%)、Cu(0.002質量%)、Al(残部)
【0055】
〔参考例2〕
埋設陽極を下記組成のもの(AI-Zn-In-Mg系合金)に変更した以外は、参考例1と同様にして土壌固化装置を作製した。
・参考例2の埋設陽極の組成:Zn(3.2質量%)、In(0.023質量%)、Mg(3.8質量%)、Si(0.02質量%)、Fe(0.02質量%)、Cu(0.002質量%)、Al(残部)
【0056】
〔比較例1〕
埋設陽極を下記の金属酸化物被覆チタン(MMO)に変更した以外は、参考例1と同様にして土壌固化装置を作製した。
・比較例1の埋設陽極:チタン(Ti)製の基材の表面に酸化イリジウム(IrO2)を固形分換算で10~20g/m2塗布することによって製造されたMMO
【0057】
〔比較例2〕
埋設陽極を下記組成のものに変更した以外は、参考例1と同様にして土壌固化装置を作製した。
・比較例2の埋設陽極の組成:Fe(100質量%)
【0058】
〔比較例3〕
埋設陽極を下記組成のものに変更した以外は、参考例1と同様にして土壌固化装置を作製した。
・比較例3の埋設陽極の組成:Al(100質量%)
【0059】
〔性能評価:透水性試験〕
各参考例及び比較例の土壌固化装置を用いて、土壌の固化を実施した。具体的には、JIS A 1218(2010年)に準拠した透水性試験を行い、その試験中に供試体である土壌に対して、土壌固化装置を用いて固化を実施した。斯かる透水性試験では、内径10cm、高さ12cmの円筒内に供試体の土壌が収容されるところ、該土壌中に、評価対象の土壌固化装置の陰極及び陽極を、
図1に示すように、その軸線方向を垂直方向に一致させて水平方向に並列に埋設した。埋設された陰極及び陽極それぞれの土壌表面からの離間距離(
図1の符号Dで示す距離に相当)は1cm、該陰極及び該陽極どうしの間隔(
図1の符号Gで示す距離に相当)は4cmであった。埋設された陰極及び陽極どうし間に直流電流を一定期間にわたって供給し、その通電期間中に逐次、供試体である土壌の透水係数を算出した。また、対照例(コントロール)として、供試体である土壌の固化を実施せずに透水性試験を実施した。透水性試験では水温25℃の水を用いた。
【0060】
図8には、透水性試験の結果として、通電期間と供試体である土壌の透水係数との関係を示すグラフが示されている。グラフの縦軸である透水係数は、土中における間隙水(自由水)の移動のしやすさ(透水性)の指標となるもので、透水係数の値が小さいほど、間隙水が移動し難く、土壌の固化が促進されていると評価できる。なお、比較例2及び3は、通電期間が128日を超えた時点で、埋設陽極の局部消耗により、透水性試験の実施が不可能となった。
図8によれば、参考例の土壌固化装置を用いることで、土壌の固化が大いに促進されることが明白である。
【0061】
〔実施例1〕
図1に示す土壌固化装置1Aと同様の構成の土壌固化装置を作製した。実施例1の土壌固化装置は、埋設陽極の周囲に保水層を配置した点以外は、参考例1の土壌固化装置と同様の構成であった。保水層の構成は下記のとおりであった。
・電解液:塩化マグネシウム水溶液(塩化マグネシウムの濃度5.4質量%)
・液保持材:ベントナイト
・保水層中の各成分の含有質量比率
水:ベントナイト:塩化マグネシウム=63.3:33.3:3.4
【0062】
〔性能評価:通電試験〕
実施例1及び参考例1の土壌固化装置を土壌中に埋めて通電試験を行った。試験環境として、「屋外」及び「水槽内」の2種類を用意した。通電試験に供した土壌は、粒径0.02mm以上の土壌成分の合計質量の割合が50質量%以上、より具体的には、粒径0.02mm未満の土壌成分(主にシルト分)が50質量%、粒径0.02mm以上2mm未満の土壌成分(主に砂分)が45質量%、粒径2mm以上の土壌成分(主に礫分)が5質量%)であり、また、電気抵抗率(四電極法にて測定)が10~100kΩ・mの範囲であった。
屋外の通電試験の場合、屋外の土壌における縦1.5m、横0.7m、深さ0.8mの領域を掘削し、該領域に評価対象の土壌固化装置の陰極及び陽極を配置するとともに、土壌約500kgを投入した。こうして屋外の土壌中に埋設された陰極及び陽極は、
図1に示すように、その軸線方向が垂直方向に一致し、水平方向に並列に配置された。埋設された陰極及び陽極それぞれの土壌表面からの離間距離(
図1の符号Dで示す距離に相当)は10cm、該陰極及び該陽極どうしの間隔(
図1の符号Gで示す距離に相当し、陽極の周囲に保水層が配されている場合は、陰極と該保水層との間隔。)は120cmであった。
水槽内の通電試験の場合、縦45cm、横29.5cm、高さ30cmの直方体形状のガラス製の水槽内に、評価対象の土壌固化装置の陰極及び陽極を配置するとともに、該水槽の容積の70%に相当する量の土壌(約30kg)を投入した。こうして水槽内の土壌中に埋設された陰極及び陽極は、
図1に示すように、その軸線方向が垂直方向に一致し、水平方向に並列に配置された。埋設された陰極及び陽極それぞれの土壌表面からの離間距離(
図1の符号Dで示す距離に相当し、陽極の周囲に保水層が配されている場合は、陰極と該保水層との間隔。)は2cm、該陰極及び該陽極どうしの間隔(
図1の符号Gで示す距離に相当)は35cmであった。前記水槽は、通電試験中は雰囲気温度25℃の室内に静置した。
前記の屋外及び屋内の何れの場合も、埋設された陰極及び陽極どうし間に直流電流を一定期間にわたって供給し、その通電期間中、陽極電位及び通電電圧をそれぞれ任意の時間間隔で測定した。陽極電位は、照合電極として飽和塩化銀電極と高抵抗電位差計(内部抵抗100MΩ以上)とを用いてインスタントオフ電位(IRドロップを除いた電位)として測定した。また、斯かるインスタントオフ電位の測定時に陽極と陰極との間の極間電圧(浴電圧)を電圧計にて測定した。
【0063】
図9には、通電試験を開始してから1~5日目の各実施例及び参考例の陽極分極曲線、
図10には、各実施例及び参考例の浴電圧曲線がそれぞれ示されている。
図9に示すとおり、参考例1は、電流密度を大きくするとそれに伴って陽極電位も上昇しているのに対し、実施例1は、電流密度を大きくしても陽極電位の上昇が少なく、低い値で安定しており、陽極特性がよい。このことから、実施例1は、参考例1に比べて、埋設陽極(アルミニウム)が溶解しやすく、したがって、土壌中へのアルミニウムイオンの溶出量が多く、より広い範囲の土壌を固化できることがわかる。
図10の浴電圧曲線からも同様の傾向が見て取れる。