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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054403
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】腸内環境改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/167 20060101AFI20220330BHJP
   A61K 31/166 20060101ALI20220330BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
A61K31/167
A61K31/166
A61P1/00 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123659
(22)【出願日】2021-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2020160901
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】北原 美優
(72)【発明者】
【氏名】會田 悠人
(72)【発明者】
【氏名】坂本 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】山 和馬
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA02
4C206GA07
4C206GA22
4C206GA31
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA73
(57)【要約】
【課題】薬物等による腸内環境の乱れ又は悪化を改善することができる腸内環境改善剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物(I)を含有する腸内環境改善剤。
[化1]
(式中、Rは水素原子又はアルキル基を示し、Rは水素原子、カルバモイル基、アルキル基、又はアルコキシ基を示し、Rは水素原子、アシルアミノ基又はスルホ基を示す)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物(I)を含有する腸内環境改善剤。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はアルキル基を示し、Rは水素原子、カルバモイル基、アルキル基、又はアルコキシ基を示し、Rは水素原子、アシルアミノ基又はスルホ基を示す)
【請求項2】
前記腸内環境改善が、腸内フローラ又は腸内細菌叢の改善である、請求項1に記載の腸内環境改善剤。
【請求項3】
前記腸内環境改善が、薬物投与による腸内環境の乱れ又は悪化の改善である、請求項1又は2に記載の腸内環境改善剤。
【請求項4】
前記薬物が、非ステロイド性消炎鎮痛薬である、請求項3に記載の腸内環境改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内環境改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
非ステロイド性消炎鎮痛薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs;以下、NSAIDsとも称する)は、アラキドン酸カスケードのシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することで、プロスタグランジン類の合成を抑制し、鎮痛、解熱、及び抗炎症効果を発揮する。
鎮痛薬の第一選択薬である上記NSAIDsの一つであるインドメタシンは、腸内環境の乱れ又は悪化を引き起こす可能性があることが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
このようなNSAIDsによる腸内環境の乱れ又は悪化を改善するには、プロバイオティクスなどを用いた治療方法の検討が進められているが、プロバイオティクスは長期間の服用により予防的に使用されるものであり、NSAIDsの服用による腸内環境の乱れ又は悪化の改善には十分とはいえず、単回の投与でも十分な改善効果が得られる有効な治療方法は知られていない。
【0004】
鎮痛薬として知られているアセトアミノフェンは、胃傷害を抑制することが知られている(非特許文献2、非特許文献3)が、同様に胃傷害を抑制することが知られているプロトンポンプ阻害剤は、腸内環境を悪化させることが知られており(非特許文献4)、アセトアミノフェンが腸内環境を改善することについては知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Appl. Environ. Microbiol.2006 Oct;72(10):6707-6715.
【非特許文献2】J. Pharmacol. Exp. Ther. 2014 Apr;349(1):165-173
【非特許文献3】J. Pharm. Pharmacol. 1978 Feb;30(2):84-87
【非特許文献4】Sci. Rep.2019 Nov 25;9(1):17490.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、薬物等による腸内環境の乱れ又は悪化を改善することができる腸内環境改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、薬物等による腸内環境の乱れ又は悪化を改善することができる化合物について鋭意検討した結果、アセトアミノフェン、エテンザミド等を包含する下記一般式(I)で表される化合物(I)が前記腸内環境の改善に有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
【化1】
【0009】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 下記一般式(I)で表される化合物(I)を含有する腸内環境改善剤。
【化2】
(式中、Rは水素原子又はアルキル基を示し、Rは水素原子、カルバモイル基、アルキル基、又はアルコキシ基を示し、Rは水素原子、アシルアミノ基又はスルホ基を示す)
[2] 前記腸内環境改善が、腸内フローラ又は腸内細菌叢の改善である、[1]に記載の腸内環境改善剤。
[3] 前記腸内環境改善が、薬物投与による腸内環境の乱れ又は悪化の改善である、[1]又は[2]に記載の腸内環境改善剤。
[4] 前記薬物が、非ステロイド性消炎鎮痛薬である、[3]に記載の腸内環境改善剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、薬物等による腸内環境の乱れ又は悪化を改善することができる腸内環境改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ラット小腸の分割する8つのセクションを模式的に示した図である。
図2A】実施例1のUniFrac解析におけるVehicle群内、Vehicle群とイブプロフェン(IBP)投与群との間、及び、Vehicle群と、イブプロフェンとアセトアミノフェン(IBP+APAP))投与群との間のUniFrac distanceの結果を示した図である。
図2B】実施例1のUniFrac解析におけるVehicle群内、Vehicle群とイブプロフェン投与群(IBP)との間、及び、Vehicle群と、イブプロフェンとエテンザミド投与群(IBP+ETZ)との間のUniFrac distanceの結果を示した図である。
図3】実施例2のVehicle群、イブプロフェン(IBP)投与群、及び、イブプロフェンとアセトアミノフェン投与群(IBP+APAP)における、小腸粘膜試料中のTNF-α遺伝子の発現を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の腸内環境改善剤は、下記一般式(I)で表される化合物(I)を含有する。化合物(I)は、本発明の腸内環境改善剤の有効成分として含有することが好ましい。
【0013】
【化3】
(式中、Rは水素原子又はアルキル基を示し、Rは水素原子、カルバモイル基、アルキル基、又はアルコキシ基を示し、Rは水素原子、アシルアミノ基又はスルホ基を示す)
【0014】
前記式(I)中、R及びRにおけるアルキル基は、炭素数1~6が好ましく、炭素数1~3がより好ましい。R及びRにおけるアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、具体的には、メチル、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等があげられる。
前記式(I)中、Rにおけるアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基や2,3-ジヒドロキシプロポキシ基等が挙げられ、メトキシ基、2,3-ジヒドロキシプロポキシ基が好ましい。
前記式(I)中、Rのアシルアミノ基におけるアシル基の炭素鎖長は、炭素数2~6が好ましく、炭素数2~4がより好ましい。
前記式(I)中、Rにおけるスルホ基は、医薬的に許容される塩も含み、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
前記化合物(I)としては、例えば、下記式(I)-1で表されるアセトアミノフェン、及び下記式(I)-2で表されるエテンザミド、(I)-3で表されるグアヤコールスルホン酸カリウム、(I)-4で表されるグアイフェネシン、(I)-5で表されるクレゾールスルホン酸カリウム等が挙げられる。
上記アセトアミノフェン及びエテンザミドは、発熱や頭痛等の症状を抑制する解熱鎮痛剤の主要な成分の一つとして使用される薬剤であり、グアヤコールスルホン酸カリウム、グアイフェネシン及びクレゾールスルホン酸カリウムは、痰を出しやすくする去痰成分であるが、本発明においては、腸内環境改善剤の有効成分の一つとして使用される。
前記化合物(I)としては、薬物等による腸内環境の乱れ又は悪化を効果的に改善できる点から、アセトアミノフェン及びエテンザミドがより好ましい。
【0015】
【化4】
【0016】
【化5】
【0017】
【化6】
【0018】
【化7】
【0019】
【化8】
【0020】
本発明の腸内環境改善剤が適用される腸としては、小腸、大腸が挙げられる。小腸には、十二指腸、空腸、回腸が含まれる。大腸には、盲腸、結腸、直腸が含まれる。
【0021】
ヒトには細菌が常在しており、消化管における総菌数が最も多いのは腸である。腸内では、典型的な細菌密度(回腸:10/mL、大腸:1011/mL程度)が、胃(103~4/mL)と比較して高いことに加え、細菌種も約1000種類が存在する。本発明において、「腸内フローラ又は腸内細菌叢」とは、腸内における細菌全体を意味し、「腸内環境」とは、腸内細菌間、又は、腸内細菌と宿主細胞とにより形成される腸内生態系を意味する。
【0022】
腸内環境は、腸内フローラ又は腸内細菌叢と宿主間の相互コミュニケーションによって制御されているため、腸内フローラ又は腸内細菌叢の乱れ又は悪化は、腸内環境の乱れ又は悪化を引き起こす。従って、本発明において、「腸内環境の乱れ又は悪化」とは、腸内フローラ又は腸内細菌叢の乱れによる、腸内環境の乱れ又は悪化を含む。腸内環境の乱れ又は悪化は、宿主へ悪影響を及ぼす。宿主への悪影響としては、例えば、腸粘膜において炎症が惹起されること等が挙げられる。
【0023】
本発明において、「腸内フローラ又は腸内細菌叢の乱れ」とは、正常状態と、腸内フローラ又は腸内細菌叢が異なることにより、宿主に対して悪影響がある状態を意味し、例えば、薬物を投与している場合の腸内フローラ又は腸内細菌叢が、薬物を投与していない場合の腸内フローラ又は腸内細菌叢と類似度が低くなることにより、宿主に悪影響がある状態等が挙げられる。
【0024】
本発明において、「腸内環境の改善」とは、腸内フローラ又は腸内細菌叢を改善することを含む。腸内フローラ又は腸内細菌叢の改善としては、宿主に有用な細菌(善玉菌)の数または割合を増加させることであっても、宿主に有用な細菌の数または割合の減少を抑制し、正常状態又は正常状態に近い腸内フローラ又は腸内細菌叢とし、宿主に対する悪影響を抑制することであっても、いずれであってもよい。宿主に対する悪影響を抑制することとしては、例えば、腸粘膜における炎症が抑制されること等が挙げられる。すなわち、本発明の腸内環境改善剤は、宿主に有用な細菌の数または割合を増加させる腸内環境改善剤であっても、宿主に有用な細菌の数又は割合の減少を抑制する腸内環境改善剤であってもよい。
宿主に有用な細菌としては、例えばプロバイオティクスとしても用いられるラクトバチルス属細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、ストレプトコッカス属細菌などの乳酸菌等が挙げられる。
【0025】
上記において、「正常状態に近い腸内フローラ又は腸内細菌叢」とは、正常状態の腸内フローラ又は腸内細菌叢と類似度が高い腸内フローラ又は腸内細菌叢を意味する。従って、「正常状態に近い腸内フローラ又は腸内細菌叢とする」とは、例えば、腸内フローラ又は腸内細菌叢を、正常状態の腸内フローラ又は腸内細菌叢との類似度を高くすること又は低くしないことを意味し、例えば、薬物投与により、薬物を投与していない腸内フローラ又は腸内細菌叢との類似度が低くなった腸内フローラ又は腸内細菌叢の、薬物を投与していない腸内フローラ又は腸内細菌叢との類似度を高くすること等が挙げられる。
【0026】
なお、腸内フローラ又は腸内細菌叢の乱れ又は悪化は、アレルギー、腸炎、腸管出血の増悪、腸管の透過性、肥満、糖尿病等への関与が報告されており、腸内フローラ又は腸内細菌叢の乱れ又は悪化の改善によりこれら症状への改善が期待される。
【0027】
本発明の腸内環境改善剤において、腸内環境の乱れ又は悪化の原因は特に制限はなく、例えば、食習慣、喫煙、ストレス、薬物投与等が挙げられるが、本発明の腸内環境改善剤は、薬物投与による腸内環境の乱れ又は悪化に対して好ましく適用され、NSAIDs投与による腸内環境の乱れ又は悪化に対して、より好ましく適用される。
【0028】
前記腸内環境の乱れ又は悪化の原因となる薬物としては、特に制限はないが、例えば、NSAIDsが挙げられる。前記NSAIDsとしては、ジクロフェナク、インドメタシン、エトドラク、ナプロキセン、メロキシカム、イブプロフェン、ロキソプロフェン、セレコキシブ、ケトプロフェン、アセチルサリチル酸やこれらの医薬的に許容可能な塩等が挙げられる。
【0029】
腸内環境の乱れ又は悪化の原因となる薬物投与の投与経路としては、経口投与、非経口投与(静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経鼻投与、経肺投与等)等が挙げられる。本発明の腸内環境改善剤は、これらの中でも、薬物の経口投与(内服)による腸内環境の乱れ又は悪化に対して好ましく適用される。
【0030】
本発明の腸内環境改善剤の使用において、化合物(I)の1回当たりの投与量は、化合物(I)を成人で、3~4000mgとすることが好ましく、3~2000mgとすることがより好ましく、50~1000mgとすることがさらに好ましい。
【0031】
本発明の腸内環境改善剤の使用において、化合物(I)の1日当たりの投与量は、化合物(I)を成人で、3~5000mgとすることが好ましく、10~4000mgとすることがより好ましく、150~4000mgとすることがさらに好ましい。例えば、化合物(I)として、アセトアミノフェンを用いる場合は、1日当たり150~4000mgとすることができ、化合物(I)として、エテンザミドを用いる場合には、1日当たり250~1500mgとすることができる。
【0032】
本発明の腸内環境改善剤には、必要に応じて、前記化合物(I)以外の他の薬物を含有することができる(配合剤と称する)。
前記他の薬物としては、例えば、
解熱・鎮痛・消炎薬(例えばアセチルサリチル酸、サリチル酸ナトリウム、サリチルアミド、サザピリン等のサリチル酸系薬剤、イブプロフェン、ロキソプロフェン等のプロピオン系薬剤、フルフェナム酸、メフェナム酸等のフェナム酸系薬剤、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン等のアリール酢酸系薬剤、フェニルブタゾン、オキシフェニルブタゾン等のピラゾリジン系薬剤、ブコローム等のピリミジン系薬剤、ピロキシカム等のオキシカム系薬剤、スルピリン等のピリン系薬剤、イソプロピルアンチピリン等);
抗ヒスタミン薬(例えば塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸クレマスチン、マレイン酸カルビノキサミン等);
鎮咳薬(例えば臭化水素酸デキストロメトルファン、リン酸ジヒドロコディン、リン酸コディン、ヒベンズ酸チペピジン、塩酸クロペラスチン、ベンゾナテート等);
去痰薬(例えば塩酸ノスカピン、塩酸ブロムヘキシン等);
塩酸L-システイン、塩酸L-メチルシステイン、アセチルシステイン等の粘膜溶解液;カルボシステイン等の粘液修復薬;
塩化リゾチーム等の消炎酵素剤;
グリチルリチン酸等の抗炎症剤;
アリルイソプロピルアセチル尿素等の催眠鎮静剤;
塩酸アンブロキソール等の粘液潤滑薬;
塩酸テルビナフィン等の抗真菌剤;
気管支拡張薬又は喘息治療薬(例えばシュードエフェドリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸テルブタリン、イソプロテレノール、サルブタモール、テルブタリン等のβ2-アドレナリン受容体刺激薬、テオフィリン、アミノフィリン、プロキシフィリン等のキサンチン系薬剤、クロモグリク酸等);
アミノ酸類;生薬;ビタミン類(ビタミンA,D,E,K,U等の脂溶性ビタミン類;ビタミンB,C,P等の水溶性ビタミン類);等が例示できる。
これら他の薬物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
本発明の腸内環境改善剤における前記他の薬物の含有量は、目的とする医薬製剤の用途により、有効性と安全性を鑑み各々適切な処方量で設定する。
本発明の腸内環境改善剤には、薬物投与により生じる腸内環境の乱れ又は悪化を改善することができるため、前記の他の薬物のうち、解熱・鎮痛・消炎薬(例えば、アセチルサリチル酸、サリチル酸ナトリウム、サリチルアミド、サザピリン等のサリチル酸系薬剤、イブプロフェン、ロキソプロフェン、ナプロキセン、ケトプロフェン等のプロピオン系薬剤、フルフェナム酸、メフェナム酸等のフェナム酸系薬剤、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン等のアリール酢酸系薬剤、フェニルブタゾン、オキシフェニルブタゾン等のピラゾリジン系薬剤、ブコローム等のピリミジン系薬剤、メロキシカム、ピロキシカム等のオキシカム系薬剤、スルピリン等のピリン系薬剤、イソプロピルアンチピリン、セレコキシブ等)を含有する配合薬が有用であり好ましく、NSAIDsの中でも、ジクロフェナク、インドメタシン、ナプロキセン、メロキシカム、イブプロフェン、ロキソプロフェン、セレコキシブ、ケトプロフェン、アセチルサリチル酸やこれらの医薬的に許容可能な塩が特に有用であり好ましい。
前記配合剤において、前記化合物(I)以外の他の薬物が腸内環境の乱れ又は悪化の原因となる薬物である場合、腸内環境の乱れ又は悪化の原因となる薬物に対する化合物(I)の含有質量比は、0.05~20が好ましく、0.2~10が好ましい。前記範囲内とすることで、腸内環境の乱れ又は悪化の原因となる薬物による薬効を維持しつつ、腸内環境の乱れ又は悪化の原因となる薬物による腸内環境の乱れ又は悪化が効果的に改善される。
【0033】
本発明の腸内環境改善剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の任意成分を含有することができる。前記任意成分としては、結合剤、賦形剤、滑沢剤、香料、矯味剤(甘味料、酸味料等)、色素、安定化剤、コーティング剤、可塑剤、隠蔽剤等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて適量を用いることができる。
結合剤としては、例えば、澱粉、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム末、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、プルラン、デキストリン等を用いることができる。
賦形剤としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプン、乳糖、タルク、結晶セルロース(セオラス等)、粉糖、マンニトール等の糖アルコール類、軽質無水ケイ酸等を用いることができる。
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム等が挙げられる。香料としては、メントール、リモネン、植物精油(ハッカ油、ミント油、ライチ油、オレンジ油、レモン油等)等が挙げられる。
甘味料としては例えば、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア、グリチルリチン酸二カリウム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、スクラロース等が挙げられる。
酸味料としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、乳酸又はそれらの塩等を用いることができる。
コーティング剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、「オパドライ(商品名)」(日本カラコン合同会社製)等を用いることができる。
可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、トリアセチン等を用いることができる。
隠蔽剤としては、例えば、酸化チタン、タルク等を用いることができる。
【0034】
本発明の腸内環境改善剤の投与形態は特に限定されない。例えば、経口投与(例えば、口腔内投与、舌下投与等)、非経口投与(静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経鼻投与、経肺投与等)等が挙げられる。これらの中でも侵襲性の少ない投与形態が好ましく、腸内環境の乱れ又は悪化を効果的に改善する観点から、経口投与(内服)がより好ましい。
【0035】
経口投与剤(内服剤)又は経口投与用組成物(内服用組成物)の剤形としては、例えば、液状(液剤)、シロップ状(シロップ剤)、錠剤(錠剤、タブレット)、カプセル状(カプセル剤)、粉末状(顆粒、細粒)、ソフトカプセル状(ゼラチン基剤等のソフトカプセル剤)、ハードカプセル状(ハードカプセル剤)、液状(液剤)、シロップ状(シロップ剤)、固形状、半液体状、クリーム状、ペースト状が挙げられる。
本発明の腸内環境改善剤を製剤形態とする方法は特に限定されず、製剤形態に応じ、常法により実施できる。例えば、本発明の腸内環境改善剤の有効成分である化合物(I)と他の成分とをそのまま混合し、あるいは前記成分の一部または全部に造粒やコーティングを施してから混合して粒状混合物を製造し、これを粒状剤(顆粒剤、細粒剤、散剤)とすることができる。また、前記粒状混合物を打錠し、さらに必要に応じてコーティングを行い、錠剤とすることができる。
【実施例0036】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0037】
[実施例1]
(1)動物
7週齢のSD雄性ラット(日本チャールスリバー)を4日以上検疫馴化後、健康な個体を選定した。16時間以上絶食させた(水は自由摂取)後、給餌し、1時間後試験に供した。
【0038】
(2)試料(懸濁液)
ラットに対する試料の投与量を、10mL/kg体重とし、イブプロフェン(IBP)の投与量が200mg/kg体重となる試料、イブプロフェン(IBP)とアセトアミノフェン(APAP)との投与量がそれぞれ200mg/kg体重、200mg/kg体重となる試料(IBP+APAP)、イブプロフェン(IBP)とエテンザミド(ETZ)との投与量がそれぞれ200mg/kg体重、116mg/kg体重となる試料(IBP+ETZ)の調製を行った。コントロール試料(Vehicle)としては、各薬液の懸濁溶媒である5%アラビアゴム液を試料として調製した。
【0039】
(3)試料の投与
各試料をそれぞれ、10mL/kg体重として投与した。具体的には、あらかじめ測定しておいたラットの体重にあわせた量の試料(例えば、ラット体重が200gであれば2mL)を、ラット用経口投与ゾンデを装着したディスポーザブル注射筒にとり、強制経口投与した。各例について、ラット5匹を用いた(n=5)。
【0040】
(4)試験サンプルの採取
各試料投与16時間後にイソフルラン麻酔下にて小腸を摘出した。摘出した小腸を図1に示すように8つのセクションに分割し、胃側から7番目のセクションを開き、内容物を洗浄した後に小腸粘膜を採取した。
【0041】
(5)小腸粘膜からのDNA抽出
小腸粘膜からのDNA抽出は、PowerSoil DNA Isolation Kit(QIAGEN社製)を用い、付属の使用方法に準じ、下記のように行った。
採取した小腸粘膜を、付属のPowerBead Tubeにサンプルを移し、ボルテックスミキサーで混合した後、Solution C1を60μL加え、数回反転させた。その後、Vortex Adapter tubes holderを使用して、PowerBead Tubeを水平に固定し、ボルテックスミキサーで10分間撹拌した。
次に、10,000×gで1分間遠心分離後、上清を新しい2mL Collection Tubeに移し、Solution C2を250μL添加して、ボルテックスミキサーで5秒間撹拌した。その後、Collection Tubeを4℃で5分間インキュベートし、10,000×gで1分間遠心分離した。得られた上清を新しい2mL Collection Tubeに移し、Solution C3を200μL添加し、ボルテックスミキサーで短時間撹拌した。
次に、上記Collection Tubeを4℃で5分間インキュベートした後、10,000×gで1分間遠心分離し、上清を新しい2mL Collection Tubeに移した。Solution C4をよく混合し、1.2mLを上清に加え、5秒間ボルテックスミキサーで撹拌した。その後、MB Spin Columnに675μLを添加し、MB Spin ColumnにDNAを吸着させ、10,000×gで1分間遠心分離し、ろ液は破棄した。全てのサンプルについて、上記処理を行った。
上記で得られた各サンプルについてのMB Spin ColumnにSolution C5を500μL加え、10,000×gで1分間遠心分離した後、ろ液を破棄し、さらに、10,000×gで1分間遠心分離し、残留溶液を除去した。次に、MB Spin Columnを、新しい2mL Collection Tubeに載せ、Solution C6の50μLをMB Spin Columnの中央に加えDNAを溶出した。10,000×gで1分間遠心分離し、溶出したDNAをサンプルとした。
【0042】
(6)細菌叢解析
次世代シーケンサー MiSeq(illumina社製)を用いて、次のようにして細菌叢の解析を行った。
表1に示した、16S rRNA遺伝子V1-V2領域の増幅プライマー(フォワードプライマー:配列番号1で表される塩基配列からなる27Fmod、リバースプライマー:配列番号2で表される塩基配列からなる338R)を用い、16S rRNA遺伝子を、KAPA2G Robust PCR Kit(Kapa Biosystems社製)を使用し、表2に示す組成、表3に示す条件でPCRを行うことにより増幅した。得られたPCR産物は、電気泳動を行い、目的領域の配列長の増幅を確認した。DNAの精製はAM Pure XP(Beckman Coulter社製)を用い、所定の手順に準じて行った。精製後のサンプルは、Quant-iT PicoGreen dsDNA Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製)で濃度を測定し、各サンプル同DNA量となるよう混合しライブラリを作成した。ライブラリの精製は、MinElute PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用い、所定の手順に準じて行った。ライブラリの濃度は、KAPA Library Quant Kit(Kapa Biosystems社製)を用い、リアルタイムPCRで測定した。ライブラリの配列長は、Bioanalyzer(Agilent社製)で確認した。配列情報の取得は、MiSeq Reagent Kits v3(illumina)及び次世代シーケンサーMeSeq(illumina)を用い、所定の手順に準じて行った。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
得られた配列を、Forwardプライマー、Reverseプライマーを両方含む配列、配列の信頼性を示すQuality valueが25以上の配列、データベースの遺伝子配列と比較し、アライメント長が90%以上の配列を条件にフィルタリングを行った。以降の解析には、フィルタリングをクリアした配列のみを使用した。サンプルごとに、ランダムに3000配列抽出し、データ数を統一した。97%以上の相同性を持つ配列を一つのグループとしてOperational Taxonomic Unit(OTU)を作成した。各OTUの代表配列を3つの公的なデータベース(RDP,CORE,NCBI)と照合し、細菌種を同定した。相同性が97%以上の細菌種のみを採用し、それ以外はUndefinedとした。統計解析は、統計分析フリーソフトウェアR ver 3.4.4を使用して行った。
【0047】
(7)試験結果
試料投与による細菌叢の変化を、UniFrac解析で得られた細菌叢の類似度により評価した。UniFrac解析は、各群に属する塩基配列(各OTUの代表配列)を用いて系統樹を作成し、比較するサンプル間の細菌叢の類似度(即ち、細菌叢構造全体の違い)を計算する手法である。UniFrac解析によって得られる類似度は、UniFrac distanceとして算出され、サンプル間の細菌叢の類似度が高いほど小さな値(0に近づく)を示す。すなわち、Vehicle群とIBP投与群の距離(UniFrac distance)と比較し、Vehicle群とIBP+APAP投与群の距離が統計学的に有意に小さい値であれば、IBP投与群よりIBP+APAP投与群がVehicle群と細菌叢の類似度が高いことを示す。同様に、Vehicle群とIBP投与群の距離(UniFrac distance)と比較し、Vehicle群とIBP+ETZ投与群の距離が統計学的に有意に小さい値であれば、IBP投与群よりIBP+ETZ投与群がVehicle群と細菌叢の類似度が高いことを示す。UniFrac解析(Weighted)におけるVehicle群内、及び、Vehicle群と薬剤投与群との間のUniFrac distanceの結果を図2A及び図2Bに示す。
図2Aでは、IBP投与群、IBP+APAP投与群ともに、Vehicle群内の類似度と比較すると有意に異なる細菌叢であった。しかし、IBP+APAP投与群は、IBP投与群と比較すると有意にVehicle群に近い細菌叢であった。また、図2Bでは、IBP投与群は、Vehicle群内の類似度と比較すると異なる傾向にある細菌叢であった。しかし、IBP+ETZ投与群は、IBP投与群と比較すると有意にVehicle群に近い細菌叢であった。以上の結果は、IBP投与による細菌叢の変化をAPAPもしくはETZ投与により、Vehicle群に近い細菌叢に改善できたことを示す。なお、図2A及び図2Bに示す統計検定には、Steel-Dwass検定を用いた。
【0048】
[実施例2]
実施例1の(1)~(4)と同様の方法により、ラット小腸から試験サンプルを採取した。
得られた試験サンプルから、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いRNAを抽出し、ReverTra Ace(登録商標)qPCR Master M ix with gDNA RemoverFSQ-301(東洋紡社製)を用いてcDNAを合成した。それをサンプルとしてリアルタイムPCRにてTNFαの発現を確認した。その結果を、図3に示す。なお、遺伝子発現の内在性コントロールとしては、18S rRNAを用いた。リアルタイムPCRには、表4に示す配列のプライマーを用いた。
【0049】
【表4】
【0050】
TNFαは炎症性サイトカインの1種であり、その過剰な発現は炎症反応が起こっていることを示す。図3に示す通り、Vehicle群に対しIBP投与群のみでTNFα遺伝子の有意な発現上昇を認めた(P<0.05 vs.Vehicle、Dunnett’s test)一方、IBP+APAP投与群はVehicle群と同程度の発現であった。すなわち、図2Aに示したIBP投与群における腸内細菌叢は、腸粘膜において炎症を惹起しており、腸内環境を悪化させる腸内細菌叢の変化であることが示された。また、図2Aに示したIBP+APAP投与群における腸内細菌叢は、腸粘膜において炎症が生じておらず、APAP投与により、悪化した腸内環境が正常状態に近い状態に戻っているか、或いは、IBP投与による腸内環境の悪化が抑制されていることが示された。
図1
図2A
図2B
図3
【配列表】
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