(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054441
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】シアニン化合物及び光電変換素子
(51)【国際特許分類】
C07D 307/30 20060101AFI20220330BHJP
H01L 51/42 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
C07D307/30 CSP
H01L31/08 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152499
(22)【出願日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2020161368
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 崇史
(72)【発明者】
【氏名】船曳 一正
(72)【発明者】
【氏名】有澤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】青谷 賢優
【テーマコード(参考)】
5F849
【Fターム(参考)】
5F849AB11
5F849BA09
5F849BA21
5F849BB03
5F849BB07
5F849CB05
5F849CB15
5F849FA02
5F849LA01
5F849LA02
5F849XA01
5F849XA46
5F849XA47
5F849XA53
(57)【要約】
【課題】800nmを超える入射光をより選択的に吸収し、かつ耐光性及び耐熱性にも優れる新規なシアニン化合物を提供する。
【解決手段】アニオンとカチオンとからなる対イオン結合体であるシアニン化合物であって、前記アニオンが下記式(I-1)で表される、シアニン化合物。
(式(I-1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に水素原子又は1価の有機基を示し、R
3及びR
4はそれぞれ独立にフェニル基等の1価の基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基を示し、Yはn-プロペニル基等の2価の基を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオンとカチオンとからなる対イオン結合体であるシアニン化合物であって、前記アニオンが下記式(I-1)で表される、シアニン化合物。
【化1】
(式(I-1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に水素原子又は1価の有機基を示し、R
3及びR
4はそれぞれ独立に下記式(I-1-1)で表される1価の基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基を示し、Yは下記式(I-1-2)又は(I-1-3)で表される2価の基を示す。)
【化2】
(式(I-1-1)中、R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eはそれぞれ独立に水素原子、1価の炭化水素基又は1価の電子求引性基を示し、R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eのうち1つ以上は前記1価の電子求引性基を示し、R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eのうち1つがハロゲン原子である場合、それ以外のR
a、R
b、R
c、R
d及びR
eのうち1つ以上が前記1価の炭化水素基又は前記1価の電子求引性基を示す。)
【化3】
(式(I-1-2)中、R
f、R
g、R
h、R
i、R
j及びR
kは、それぞれ独立に、水素原子、又は、酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。)
【化4】
(式(I-1-3)中、R
l、R
m、R
n及びR
oは、それぞれ独立に、水素原子、又は、酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。)
【請求項2】
前記カチオンは、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ホスホニウムカチオン及びカチオン性シアニンからなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項1記載のシアニン化合物。
【請求項3】
前記カチオンは、アルカリ金属カチオン、アンモニウムカチオン及びカチオン性シアニンからなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項2記載のシアニン化合物。
【請求項4】
前記カチオン性シアニンは、下記式(I-2-1)、(I-2-2)、(I-2-3)又は(I-2-4)で表されるカチオンである、請求項3記載のシアニン化合物。
【化5】
(式(I-2-1)、(I-2-2)、(I-2-3)及び(I-2-4)中、Eはそれぞれ独立に炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を示し、
R
p、R
q、R
r、R
s、R
t、R
u、R
v、R
w及びR
xはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1、-S-L
2、-SS-L
2、-SO
2-L
3、-N=N-L
4、又は、R
qとR
r、R
sとR
t、R
tとR
u、R
uとR
v、R
vとR
w及びR
wとR
xのうち1つ以上の組み合わせが結合した、下記式(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)及び(H)で表される基からなる群より選ばれる1種以上の基を示し、
前記アミノ基、アミド基、イミド基及びシリル基は、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基及び炭素数3~14の1価の複素環基からなる群より選ばれる1種以上の基Lで更に置換されていてもよく、
前記L
1及びL
4は、前記基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基又は炭素数3~14の複素環基であり、
前記L
2は、水素原子、又は、前記基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基若しくは炭素数3~14の複素環基であり、
前記L
3は、水酸基、又は、前記基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基若しくは炭素数3~14の複素環基であり、
Q
1はアセチル基を示し、Q
2は下記式(q1)、(q2)又は(q3)で表される構造を示す。)
【化6】
(式(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)及び(H)中、RxとRyの組み合わせは、R
qとR
r、R
sとR
t、R
tとR
u、R
uとR
v、R
vとR
w又はR
wとR
xの組み合わせであり、
R
A、R
B、R
C、R
D、R
E、R
F、R
G、R
H、R
I、R
J、R
K及びR
Lは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1、-S-L
2、-SS-L
2、-SO
2-L
3又は-N=N-L
4を示し、L
1、L
2、L
3及びL
4は、前記式(I-2-1)及び(I-2-2)におけるL
1、L
2、L
3及びL
4と同義であり、前記アミノ基、アミド基、イミド基及びシリル基は、前記基Lで置換されていてもよい。)
-C
mH
m+1 (q1)
-C
aH
a+1-OC
bH
b+1 (q2)
(式(q1)中、mは1~5の整数を示し、式(q2)中、a及びbはそれぞれ1~5の整数を示す。)
【化7】
(式(q3)中、nは1~5の整数を示し、T
1、T
2、T
3、T
4及びT
5はそれぞれ独立に水素原子又は-OC
pH
p+1を示し、pは1~5の整数を示す。)
【請求項5】
前記R1及びR2における前記1価の有機基は、1価の炭化水素基又は1価の電子求引性基で更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基又は炭素数3~14の複素環基である、請求項1~4のいずれか1項に記載のシアニン化合物。
【請求項6】
前記R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3の1価の脂肪族炭化水素基又は前記式(I-1-1)で表される1価の基である、請求項5記載のシアニン化合物。
【請求項7】
前記Xにおける前記1価の有機基は、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L1、-S-L2、-SS-L3、-SO2-L3、又は-N=N-L4を示し、
前記アミノ基、アミド基、イミド基及びシリル基は、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基及び炭素数3~14の1価の複素環基からなる群より選ばれる1種以上の基Lで更に置換されていてもよく、
前記L1及びL4は、前記基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基又は炭素数3~14の複素環基であり、
前記L2は、水素原子、又は、前記基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基若しくは炭素数3~14の複素環基であり、
前記L3は、水酸基、又は、前記基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基若しくは炭素数3~14の複素環基である、
請求項1~6のいずれか1項に記載のシアニン化合物。
【請求項8】
前記Xは、ハロゲン原子である、請求項7記載のシアニン化合物。
【請求項9】
前記Ra、Rb、Rc、Rd及びReにおける前記1価の炭化水素基は、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基及び炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる1種以上の基で更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基又は炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基である、請求項1~8のいずれか1項に記載のシアニン化合物。
【請求項10】
前記Ra、Rb、Rc、Rd及びReにおける前記1価の電子求引性基は、ハロゲン原子、カルボキシ基、ニトロ基、シアノ基、-CORで表される基、-CONR2で表される基、-SO2Rで表される基又は-SO3Rで表される基であり、前記Rは前記1価の炭化水素基と同義若しくは水素原子である、請求項1~9のいずれか1項に記載のシアニン化合物。
【請求項11】
前記Ra、Rb、Rc、Rd及びReはそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を示し、Ra、Rb、Rc、Rd及びReのうち2つ以上がハロゲン原子である、請求項10記載のシアニン化合物。
【請求項12】
前記Rf、Rg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm、Rn及びRoにおける前記酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい1価の炭化水素基は、酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基及び炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる1種以上の基で更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基又は炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基である、請求項1~11のいずれか1項に記載のシアニン化合物。
【請求項13】
Rf、Rg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm、Rn及びRoは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基を示す、請求項12記載のシアニン化合物。
【請求項14】
一対の電極と、前記一対の電極間に設けられた有機赤外光電変換膜と、を含む赤外光電変換部を備える光電変換素子であって、
前記有機赤外光電変換膜は、請求項1~13のいずれか1項に記載のシアニン化合物を含む、光電変換素子。
【請求項15】
前記有機赤外光電変換膜が、有機n型半導体及び/又は有機p型半導体を含有する、請求項14に記載の光電変換素子。
【請求項16】
前記赤外光電変換部において、電極と有機赤外光電変換膜の間に、正孔輸送層、電子輸送層、正孔ブロッキング層、電子ブロッキング層からなる群より選ばれる1つ以上を含有する、請求項14又は15に記載の光電変換素子。
【請求項17】
前記赤外光電変換部における、赤外域における光吸収スペクトルの吸収極大波長かつ吸収最大波長が800nm以上2500nm以下である、請求項14~16のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項18】
前記光電変換素子が、さらに可視域の光に感度を有する可視光電変換部を備える、請求項14~17のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアニン化合物、及びこれを用いた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可視光を光電変換して電気信号ないし電気エネルギーに変換する技術が知られている。そのうち前者は撮像素子、後者は太陽電池等として広く利用されている。また、近赤外光を光電変換する技術も、暗所カメラ、距離計測などの各種センサ、通信用途、分析装置等に利用されている。
【0003】
一方、可視光は透過するが近赤外光を選択的に光電変換する素子を用いることで、従来技術に新たな価値を付与させ得ることが期待されている。例えば、撮像素子の受光前面に対してそのような光電変換素子を配置することで、撮像とセンシング(例えば三次元計測等)を同一素子・同一タイミングで利用することができる。その結果、撮像素子の機能複合化、小型化、あるいはコストダウンが可能となる。あるいはディスプレイ前面へそのような光電変換素子を配置することで、屋外等では画像表示と同時に電気エネルギーを補助的に付与し、省電力やバッテリーレスを実現することができる。
【0004】
前述の近赤外光を選択的に光電変換する光電変換素子としては、有機材料の設計自由度、膜厚の薄さ、及び感度(量子効率)の高さの面で、積層有機薄膜型の素子が有望である。このような積層有機薄膜型の光電変換素子には、感光部に近赤外光のみを吸収しかつ可視光域には極力吸収を有しない材料を用いることが肝要となる。なお、このような近赤外吸収材料は、前述以外にも光情報記録媒体、有機太陽電池、フラッシュトナー定着の感光材、熱遮断フィルム、赤外カットフィルター、偽造防止用インク、又はプラスチックボトル向けプリフォーム加熱補助剤としても利用できる。
【0005】
近赤外光のみを吸収し、可視光の一部を透過する積層有機薄膜型の素子の例として、例えば、特許文献1では、金属ナフタロシアニン誘導体を使用して、600~800nmに吸収極大波長を持つ材料により選択的に光吸収させる例が報告されている。特許文献2~4には、可視光と近赤外光を併せた範囲における吸収極大波長が700nm付近である光電変換素子について記載されている。そのうち特許文献3には、400~550nmでの吸収強度が、近赤外領域における吸収強度の1/10以下であるような材料を提供すると記載されている。非特許文献1では、近赤外光に特異的な吸収を持つシアニン色素を感光層に用いた光電変換素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-186251号公報
【特許文献2】特許第5270114号公報
【特許文献3】特開2012-169676号公報
【特許文献4】特開2017-34112号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Org. Lett., Vol. 11, No. 21, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、600~800nmの波長付近では代表的な光電変換素子の材料であるシリコン金属も赤外光の感度を有しているため、特許文献1~4の光電変換素子は既存技術に対してこれらの優位性を判断しづらくしている。さらに、光電変換素子を、暗所の撮像や三次元距離計測などに用いる赤外LEDや赤外レーザー発光に対する受光素子として利用する場合、発光装置の波長は、800nm以上の波長であることが一般的である。そのため、特許文献1~4の素子を用いる場合、特殊な発光装置を利用する必要がある等のコストアップ要因につながる。また、非特許文献5の材料及び光電変換素子では、極大波長として800nm以上のシアニン色素を用い、非特許文献5にはその量子効率に関することが記載されている。しかしながら、非特許文献5では、光電変換素子の製造プロセスや素子自体の耐性に大きく影響する色素の耐久性能(例えば耐光性及び耐熱性)に関して記載されておらず、実用可能性の程度が不明である。
【0009】
本発明は、上記事情の少なくとも一部に鑑みてなされたものであり、800nmを超える入射光をより選択的に吸収し、かつ耐光性及び耐熱性にも優れる新規なシアニン化合物、及びそのシアニン化合物を用いた光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、800nmを超える吸収極大波長を有する新規のシアニン化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]アニオンとカチオンとからなる対イオン結合体であるシアニン化合物であって、前記アニオンが下記式(I-1)で表される、シアニン化合物。
【化1】
(式(I-1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に水素原子又は1価の有機基を示し、R
3及びR
4はそれぞれ独立に下記式(I-1-1)で表される1価の基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基を示し、Yは下記式(I-1-2)又は(I-1-3)で表される2価の基を示す。)
【化2】
(式(I-1-1)中、R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eはそれぞれ独立に水素原子、1価の炭化水素基又は1価の電子求引性基を示し、R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eのうち1つ以上は前記1価の電子求引性基を示し、R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eのうち1つがハロゲン原子である場合、それ以外のR
a、R
b、R
c、R
d及びR
eのうち1つ以上が前記1価の炭化水素基又は前記1価の電子求引性基を示す。)
【化3】
(式(I-1-2)中、R
f、R
g、R
h、R
i、R
j及びR
kは、それぞれ独立に、水素原子、又は、酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。)
【化4】
(式(I-1-3)中、R
l、R
m、R
n及びR
oは、それぞれ独立に、水素原子、又は、酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。)
[2]前記カチオンは、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ホスホニウムカチオン及びカチオン性シアニンからなる群より選ばれる1種以上を含む、上記のシアニン化合物。
[3]前記カチオンは、アルカリ金属カチオン、アンモニウムカチオン及びカチオン性シアニンからなる群より選ばれる1種以上を含む、上記のシアニン化合物。
[4]前記カチオン性シアニンは、下記式(I-2-1)、(I-2-2)、(I-2-3)又は(I-2-4)で表されるカチオンである、上記のシアニン化合物。
【化5】
(式(I-2-1)、(I-2-2)、(I-2-3)及び(I-2-4)中、Eはそれぞれ独立に炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を示し、
R
p、R
q、R
r、R
s、R
t、R
u、R
v、R
w及びR
xはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1、-S-L
2、-SS-L
2、-SO
2-L
3、-N=N-L
4、又は、R
qとR
r、R
sとR
t、R
tとR
u、R
uとR
v、R
vとR
w及びR
wとR
xのうち1つ以上の組み合わせが結合した、下記式(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)及び(H)で表される基からなる群より選ばれる1種以上の基を示し、
前記アミノ基、アミド基、イミド基及びシリル基は、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基及び炭素数3~14の1価の複素環基からなる群より選ばれる1種以上の基Lで更に置換されていてもよく、
前記L
1及びL
4は、前記基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基又は炭素数3~14の複素環基であり、
前記L
2は、水素原子、又は、前記基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基若しくは炭素数3~14の複素環基であり、
前記L
3は、水酸基、又は、前記基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基若しくは炭素数3~14の複素環基であり、
Q
1はアセチル基を示し、Q
2は下記式(q1)、(q2)又は(q3)で表される構造を示す。)
【化6】
(式(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)及び(H)中、RxとRyの組み合わせは、R
qとR
r、R
sとR
t、R
tとR
u、R
uとR
v、R
vとR
w又はR
wとR
xの組み合わせであり、
R
A、R
B、R
C、R
D、R
E、R
F、R
G、R
H、R
I、R
J、R
K及びR
Lは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1、-S-L
2、-SS-L
2、-SO
2-L
3又は-N=N-L
4を示し、L
1、L
2、L
3及びL
4は、前記式(I-2-1)及び(I-2-2)におけるL
1、L
2、L
3及びL
4と同義であり、前記アミノ基、アミド基、イミド基及びシリル基は、前記基Lで置換されていてもよい。)
-C
mH
m+1 (q1)
-C
aH
a+1-OC
bH
b+1 (q2)
(式(q1)中、mは1~5の整数を示し、式(q2)中、a及びbはそれぞれ1~5の整数を示す。)
【化7】
(式(q3)中、nは1~5の整数を示し、T
1、T
2、T
3、T
4及びT
5はそれぞれ独立に水素原子又は-OC
pH
p+1を示し、pは1~5の整数を示す。)
[5]前記R
1及びR
2における前記1価の有機基は、1価の炭化水素基又は1価の電子求引性基で更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基又は炭素数3~14の複素環基である、上記のシアニン化合物。
[6]前記R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3の1価の脂肪族炭化水素基又は前記式(I-1-1)で表される1価の基である、上記のシアニン化合物。
[7]前記Xにおける前記1価の有機基は、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1、-S-L
2、-SS-L
3、-SO
2-L
3、又は-N=N-L
4を示し、
前記アミノ基、アミド基、イミド基及びシリル基は、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基及び炭素数3~14の1価の複素環基からなる群より選ばれる1種以上の基Lで更に置換されていてもよく、
前記L
1及びL
4は、前記基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基又は炭素数3~14の複素環基であり、
前記L
2は、水素原子、又は、前記基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基若しくは炭素数3~14の複素環基であり、
前記L
3は、水酸基、又は、前記基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基若しくは炭素数3~14の複素環基である、
上記のシアニン化合物。
[8]前記Xは、ハロゲン原子である、上記のシアニン化合物。
[9]前記R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eにおける前記1価の炭化水素基は、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基及び炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる1種以上の基で更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基又は炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基である、上記のシアニン化合物。
[10]前記R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eにおける前記1価の電子求引性基は、ハロゲン原子、カルボキシ基、ニトロ基、シアノ基、-CORで表される基、-CONR
2で表される基、-SO
2Rで表される基又は-SO
3Rで表される基であり、前記Rは前記1価の炭化水素基と同義若しくは水素原子である、上記のシアニン化合物。
[11]前記R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eはそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を示し、R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eのうち2つ以上がハロゲン原子である、上記のシアニン化合物。
[12]前記R
f、R
g、R
h、R
i、R
j、R
k、R
l、R
m、R
n及びR
oにおける前記酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい1価の炭化水素基は、酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基及び炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる1種以上の基で更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基又は炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基である、上記のシアニン化合物。
[13]R
f、R
g、R
h、R
i、R
j、R
k、R
l、R
m、R
n及びR
oは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基を示す、上記のシアニン化合物。
[14]一対の電極と、前記一対の電極間に設けられた有機赤外光電変換膜と、を含む赤外光電変換部を備える光電変換素子であって、
前記有機赤外光電変換膜は、上記のシアニン化合物を含む、光電変換素子。
[15]前記有機赤外光電変換膜が、有機n型半導体及び/又は有機p型半導体を含有する、上記の光電変換素子。
[16]前記赤外光電変換部において、電極と有機赤外光電変換膜の間に、正孔輸送層、電子輸送層、正孔ブロッキング層、電子ブロッキング層からなる群より選ばれる1つ以上を含有する、上記の光電変換素子。
[17]前記赤外光電変換部における、赤外域における光吸収スペクトルの吸収極大波長かつ吸収最大波長が800nm以上2500nm以下である、上記の光電変換素子。
[18]前記光電変換素子が、さらに可視域の光に感度を有する可視光電変換部を備える、上記の光電変換素子。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、800nmを超える入射光をより選択的に吸収し、かつ耐光性及び耐熱性にも優れるシアニン化合物、及びそのシアニン化合物を用いた光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の光電変換部の一例を部分的に示す断面模式図である。
【
図2】本発明のシアニン化合物の一例についての吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0015】
(シアニン化合物)
本実施形態のシアニン化合物は、アニオンとカチオンとからなる対イオン結合体であるシアニン化合物であって、アニオンが下記式(I-1)で表されるものである。
【化8】
ここで、式(I-1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に水素原子又は1価の有機基を示し、R
3及びR
4はそれぞれ独立に下記式(I-1-1)で表される1価の基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基を示し、Yは下記式(I-1-2)又は(I-1-3)で表される2価の基を示す。
【化9】
ここで、式(I-1-1)中、R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eはそれぞれ独立に水素原子、1価の炭化水素基又は1価の電子求引性基を示し、R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eのうち1つ以上は上記1価の電子求引性基を示し、R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eのうち1つがハロゲン原子である場合、それ以外のR
a、R
b、R
c、R
d及びR
eのうち1つ以上が上記1価の炭化水素基又は上記1価の電子求引性基を示す。
【化10】
ここで、式(I-1-2)中、R
f、R
g、R
h、R
i、R
j及びR
kは、それぞれ独立に、水素原子、又は、酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。
【化11】
ここで、式(I-1-3)中、R
l、R
m、R
n及びR
oは、それぞれ独立に、水素原子、又は、酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。
【0016】
(アニオン)
本実施形態におけるアニオンは上記式(I-1)で表されるものである。R1、R2、R3、R4、X及びYは、置換基を含めた炭素数の合計が、それぞれ60以下であることが好ましく、炭素数50以下であることが更に好ましく、炭素数40以下であることが特に好ましい。炭素数がこの範囲内であることにより、シアニン化合物の合成がより容易になると共に、単位重量あたりの吸収強度が高くなる傾向にある。
【0017】
R1及びR2における1価の有機基は特に限定されず、例えば、1価の炭化水素基又は1価の電子求引性基で更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基又は炭素数3~14の複素環基が挙げられる。
【0018】
炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基(Me)、エチル基(Et)、n-プロピル基(n-Pr)、イソプロピル基(i-Pr)、n-ブチル基(n-Bu)、sec-ブチル基(s-Bu)、tert-ブチル基(t-Bu)、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基及びドデシル基等のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-ペンテニル基、ヘキセニル基及びオクテニル基等のアルケニル基;並びに、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、2-メチル-1-プロピニル基、ヘキシニル基及びオクチニル基等のアルキニル基が挙げられる。これらの中では、炭素数1~3の1価の脂肪族炭化水素基が好ましく、具体的には、メチル基(Me)、エチル基(Et)、n-プロピル基(n-Pr)及びイソプロピル基(i-Pr)のような炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
【0019】
炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基としては、例えば、炭素数1~3の1価のハロゲン置換アルキル基が挙げられる。そのようなハロゲン置換アルキル基のより具体的な例としては、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、1,1-ジクロロエチル基、ペンタクロロエチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタクロロプロピル基及びヘプタフルオロプロピル基が挙げられる。
【0020】
炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、炭素数4~10の1価の脂環式炭化水素基が挙げられる。そのような脂環式炭化水素基のより具体的な例としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及びシクロオクチル基等のシクロアルキル基;並びに、ノルボルナン基及びアダマンタン基等の多環脂環式基が挙げられる。
【0021】
炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、アセナフチル基、フェナレニル基、テトラヒドロナフチル基、インダニル基及びビフェニリル基が挙げられる。また、この芳香族炭化水素基は、後に詳述する式(I-1-1)で表される1価の基であってもよく、その場合、R1及びR3あるいはR2及びR4が互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0022】
炭素数3~14の複素環基としては、例えば、フラン、チオフェン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアゾール、チアジアゾール、インドール、インドリン、インドレニン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、モルホリンおよびフェナジン等の複素環からなる基が挙げられる。
【0023】
置換基である1価の炭化水素基としては、特に限定されず、例えば、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、及び炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基が挙げられる。これらの例や好ましい態様としては、それぞれ上記と同様のものが挙げられるので、ここでの説明は省略する。
【0024】
置換基である1価の電子求引性基は、本実施形態におけるアニオンにおいて電子求引性を示す1価の基であれば特に限定されない。ここで、当該置換基が「電子求引性基」であるか否かは、下記のようにして判断することができる。すなわち、当該置換基を持つアニオン分子について、密度汎関数法を用いた分子シミュレーション(例えば、Gaussian社製量子化学計算プログラムGaussianを用いた分子シミュレーション)により構造最適化を行い、電子親和力又はイオン化エネルギーを求める。これを置換前の電子親和力又はイオン化エネルギーという。次いで、上記アニオン分子に対して上記置換基を水素原子又は1価の炭化水素基で置換したアニオン分子について、同様にして電子親和力又はイオン化エネルギーを求める。これを置換後の電子親和力又はイオン化エネルギーという。置換後の電子親和力又はイオン化エネルギーが置換前の電子親和力又はイオン化エネルギーよりも大きい場合、当該置換基は電子求引性基であると判断する。このような1価の電子求引性基については、後に詳述するので、ここでの説明は省略する。
【0025】
上記式(I-1-1)で表される1価の基において、Ra、Rb、Rc、Rd及びRe(以下、単に「Ra~Re」と表記する。)はそれぞれ独立に水素原子、1価の炭化水素基又は1価の電子求引性基を示す。Ra~Reのうち1つ以上は上記1価の電子求引性基を示し、すなわち、上記式(I-1-1)で表される1価の基は、必ず1価の電子求引性基を有する。また、Ra~Reのうち1つがハロゲン原子である場合、それ以外のRa~Reのうち1つ以上が上記1価の炭化水素基又は上記1価の電子求引性基を示す。すなわち、Ra~Reのうち1つがハロゲン原子である場合、それ以外のRa~Reが全て水素原子という態様はない。1価の炭化水素基としては、上記と同様のものが挙げられるので、ここでの説明は省略する。
【0026】
1価の電子求引性基としては、本実施形態におけるアニオンにおいて電子求引性を示す1価の基であれば特に限定されない。このような1価の電子求引性基としては、例えば、ハロゲン原子、カルボキシ基(-COOH)、ニトロ基(-NO2)、シアノ基(-CN)、-CORで表される基、-CONR2で表される基、-SO2Rで表される基又は-SO3Rで表される基が挙げられる。ここで、Rは、水素原子又は1価の炭化水素基であり、1価の炭化水素基は、上記1価の炭化水素基と同義であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0027】
ハロゲン原子としては、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)及びヨウ素原子(I)が挙げられる。
【0028】
-CORで表される基(アシル基)としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ベンゾイル基、アクリロイル基及びメタクリロイル基が挙げられる。ここで、Rにおける炭素数は、1~6であってもよい。
【0029】
-CONR2で表される基(アミド基)としては、例えば、アミド基、メチルアミド基、ジメチルアミド基、ジエチルアミド基、ジプロピルアミド基、ジイソプロピルアミド基、及びジブチルアミド基が挙げられる。ここでの-CONR2で表される基は、Rの一方がカルボキシ基の炭素原子と結合したラクタムであってもよい。ラクタムとしては、例えば、α-ラクタム基、β-ラクタム基、γ-ラクタム基、及びδ-ラクタム基が挙げられる。ここで、Rにおける炭素数は、1~4であってもよい。
【0030】
-SO2Rで表される基としては、例えば、メシル基、エチルスルホニル基、n-ブチルスルホニル基、フェニルスルホニル基及びp-トルエンスルホニル基が挙げられる。ここで、Rにおける炭素数は、1~7であってもよい。
【0031】
-SO3Rで表される基としては、例えば、スルホ基(-SO3H)、メチルスルホン酸基(-SO3CH3)、エチルスルホン酸基(-SO3C2H5)、n-ブチルスルホン酸基(-SO3C3H7)、及びフェニルスルホン酸基(-SO3C6H5)が挙げられる。ここで、Rにおける炭素数は、1~6であってもよい。
【0032】
本実施形態において、800nmを超える入射光を更により選択的に吸収する観点から、アニオンにおけるRa~Reのうち2つ以上が電子求引性基であると好ましく、3つ以上の電子求引性基であるとより好ましく、全てが電子求引性基であると特に好ましい。また、同様の観点から、電子求引性基はハロゲン原子であると好ましく、Ra~Reのうち2つ以上が電子求引性基である場合は、その全てがハロゲン原子であるとより好ましい。
【0033】
上記式(I-1-1)におけるRa~Reの組み合わせについて、Ra~Reのうち1つ以上は上記1価の電子求引性基を示し、かつRa~Reのうち1つがハロゲン原子である場合は、それ以外のRa~Reのうち1つ以上が上記1価の炭化水素基又は上記1価の電子求引性基を示す組み合わせであれば、上記例示した置換基のいずれの組み合わせであってもよい。
【0034】
Xは、水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基を示すが、これらの中ではハロゲン原子が好ましい。ハロゲン原子としては、上記と同様のものが挙げられるので、ここでの説明は省略する。
【0035】
Xにおける1価の有機基としては特に限定されないが、例えば、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L1、-S-L2、-SS-L3、-SO2-L3、又は-N=N-L4が挙げられる。アミノ基、アミド基、イミド基及びシリル基は、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基及び炭素数3~14の1価の複素環基からなる群より選ばれる1種以上の基Lで更に置換されていてもよい。
【0036】
また、L1及びL4は、基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基又は炭素数3~14の複素環基である。L2は、水素原子、又は、基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基若しくは炭素数3~14の複素環基である。L3は、水酸基、又は、基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基若しくは炭素数3~14の1価の複素環基である。
【0037】
炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基及び炭素数3~14の1価の複素環基としては、上記と同様のものが挙げられるので、ここでの説明は省略する。
【0038】
基Lで更に置換されていてもよい炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、4-フェニルブチル基、及び2-シクロヘキシルエチルが好ましく、より好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、及びヘキシル基がより好ましい。
【0039】
基Lで更に置換されていてもよい炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基としては、トリクロロメチル基、ペンタクロロエチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、及び5-シクロヘキシル-2,2,3,3-テトラフルオロペンチル基が好ましく、トリクロロメチル基、ペンタクロロエチル基、トリフルオロメチル基、及びペンタフルオロエチル基がより好ましい。
【0040】
基Lで更に置換されていてもよい炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4-エチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基、及び4-フェニルシクロヘプチル基が好ましく、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及び4-エチルシクロヘキシル基がより好ましい。
【0041】
基Lで更に置換されていてもよい炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、3,5-ジ-tert-ブチルフェニル基、4-シクロペンチルフェニル基、2,3,6-トリフェニルフェニル基、及び2,3,4,5,6-ペンタフェニルフェニル基が好ましく、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、及び2,3,4,5,6-ペンタフェニルフェニル基がより好ましい。
【0042】
基Lで更に置換されていてもよい炭素数3~14の1価の複素環基としては、フラン、チオフェン、ピロール、インドール、インドリン、インドレニン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、又はモルホリンからなる基が好ましく、フラン、チオフェン、ピロール、又はモルホリンからなる基がより好ましい。
【0043】
基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基又は炭素数3~14の複素環基は、更に、ハロゲン原子、スルホ基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、リン酸基及びアミノ基からなる群より選ばれる1種以上を有していてもよい。これらの例としては、4-スルホブチル基、4-シアノブチル基、5-カルボキシペンチル基、5-アミノペンチル基、3-ヒドロキシプロピル基、2-ホスホリルエチル基、6-アミノ-2,2-ジクロロヘキシル基、2-クロロ-4-ヒドロキシブチル基、2-シアノシクロブチル基、3-ヒドロキシシクロペンチル基、3-カルボキシシクロペンチル基、4-アミノシクロヘキシル基、4-ヒドロキシシクロヘキシル基、4-ヒドロキシフェニル基、2-ヒドロキシナフチル基、4-アミノフェニル基、2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニル基、4-ニトロフェニル基、3-メチルピロールからなる基、2-ヒドロキシエトキシ基、3-シアノプロポキシ基、4-フルオロベンゾイル基、2-ヒドロキシエトキシカルボニル基、及び4-シアノブトキシカルボニル基が挙げられる。
【0044】
基Lを有してもよいアミノ基としては、例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、及びジイソプロピルアミノ基が挙げられる。
【0045】
基Lを有してもよいアミド基としては、例えば、アミド基、メチルアミド基、ジメチルアミド基、ジエチルアミド基、ジプロピルアミド基、ジイソプロピルアミド基、ジブチルアミド基、α-ラクタム基、β-ラクタム基、γ-ラクタム基、及びδ-ラクタム基が挙げられる。
【0046】
基Lを有してもよいイミド基としては、例えば、イミド基、メチルイミド基、エチルイミド基、ジエチルイミド基、ジプロピルイミド基、ジイソプロピルイミド基、及びジブチルイミド基が挙げられる。
【0047】
基Lを有してもよいシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基、及びトリエチルシリル基が挙げられる。
【0048】
Yは、上記式(I-1-2)又は(I-1-3)で表される2価の基を示す。式(I-1-2)中、Rf、Rg、Rh、Ri、Rj及びRk(以下、単に「Rf~Rk」と表記する。)は、それぞれ独立に、水素原子、又は、酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。また、式(I-1-3)中、Rl、Rm、Rn及びRo(以下、単に「Rl~Ro」と表記する。)は、それぞれ独立に、水素原子、又は、酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。
【0049】
酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい1価の炭化水素基としては、例えば、酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基及び炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる1種以上の基で更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基又は炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0050】
酸素原子、窒素原子及び硫黄原子を有しない場合の1価の炭化水素基、より詳細には、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基及び炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基、並びに、置換基としての炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基及び炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基としては、上記の1価の炭化水素基と同様のものが挙げられるので、ここでの説明は省略する。
【0051】
酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有する場合の1価の炭化水素基としては、例えば、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群より選ばれる1種以上を有する、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基及び炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる1種以上の基(以下、Yの説明において、単に「置換基」と表記する。)で更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基又は炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基が挙げられる。酸素原子を有する場合としては、例えば、水酸基、エーテル基、カルボニル基又はカルボキシ基を有する場合が挙げられる、窒素原子を有する場合としては、例えば、シアノ基又はアミノ基を有する場合が挙げられる。硫黄原子を有する場合としては、例えば、チオエーテル基を有する場合が挙げられる。酸素原子及び窒素原子を有する場合としては、例えばニトロ基を有する場合が挙げられる。酸素原子及び硫黄原子を有する場合としては、例えばスルホ基を有する場合が挙げられる。
【0052】
水素原子、又は、酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい1価の炭化水素基としては、水素原子、又は炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基は、炭素数1~6の1価の脂肪族炭化水素基がより好ましく、炭素数1~4の1価の脂肪族炭化水素基が更に好ましい。
【0053】
R
f~R
k及びR
l~R
oの好ましい組み合わせとしては、例えば、下記表に示す組み合わせが挙げられる。
【表1】
【0054】
(カチオン)
本実施形態におけるカチオンは、特に限定されないが、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ホスホニウムカチオン及びカチオン性シアニンからなる群より選ばれる1種以上を含むと好ましい。カチオンは、アルカリ金属カチオン、アンモニウムカチオン及びカチオン性シアニンからなる群より選ばれる1種以上を含むとより好ましい。
【0055】
アルカリ金属カチオンとしては、例えば、リチウムカチオン(Li+)、ナトリウムカチオン(Na+)、カリウムカチオン(K+)、ルビジウムカチオン(Rb+)及びセシウムカチオン(Cs+)が挙げられる。
【0056】
アルカリ土類金属カチオンとしては、例えば、ベリリウムカチオン(Be2+)、マグネシウムカチオン(Mg2+)、カルシウムカチオン(Ca2+)、ストロンチウムカチオン(Sr2+)及びバリウムカチオン(Ba2+)が挙げられる。
【0057】
アンモニウムカチオンとしては、アンモニウムイオン(NH4
+)、第1級アンモニウムカチオン(NH3R+)、第2級アンモニウムカチオン(NH2R2
+)、第3級アンモニウムカチオン(NHR3
+)及びテトラブチルアンモニウムカチオンに代表されるテトラアルキルアンモニウムカチオンのような第4級アンモニウムカチオン(HR4
+)が挙げられる。ここで、Rは、炭素数1~12のアルキル基のような炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、又は炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基を示す。
【0058】
スルホニウムカチオンとしては、スルホニウムイオン(SH3
+)、第1級スルホニウムカチオン(SH2R+)、第2級スルホニウムカチオン(SHR2
+)及び第3級スフホニウムカチオン(SR3
+)が挙げられる。ここで、Rは、炭素数1~12のアルキル基のような炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、又は炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基を示す。
【0059】
ホスホニウムカチオンとしては、ホスホニウムイオン(PH4
+)、第1級ホスホニウムカチオン(PH3R+)、第2級ホスホニウムカチオン(PH2R2
+)、第3級ホスホニウムカチオン(PHR3
+)及び第4級ホスホニウムカチオン(PR4
+)が挙げられる。ここで、Rは、炭素数1~12のアルキル基のような炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、又は炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基を示す。
【0060】
カチオン性シアニンとしては、例えば、下記式(I-2-1)、(I-2-2)、(I-2-3)又は(I-2-4)で表されるカチオンが挙げられる。
【化12】
ここで、式(I-2-1)、(I-2-2)、(I-2-3)及び(I-2-4)中、Eはそれぞれ独立に炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を示す。R
p、R
q、R
r、R
s、R
t、R
u、R
v、R
w及びR
xはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1、-S-L
2、-SS-L
2、-SO
2-L
3、-N=N-L
4、又は、R
qとR
r、R
sとR
t、R
tとR
u、R
uとR
v、R
vとR
w及びR
wとR
xのうち1つ以上の組み合わせが結合した、下記式(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)及び(H)で表される基からなる群より選ばれる1種以上の基を示す。
【0061】
アミノ基、アミド基、イミド基及びシリル基は、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基及び炭素数3~14の1価の複素環基からなる群より選ばれる1種以上の基Lで更に置換されていてもよい。
【0062】
L1及びL4は、基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基又は炭素数3~14の複素環基である。
【0063】
L2は、水素原子、又は、基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基若しくは炭素数3~14の複素環基である。
【0064】
L3は、水酸基、又は、基Lで更に置換されていてもよい、炭素数1~12の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12の1価のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の1価の芳香族炭化水素基若しくは炭素数3~14の複素環基である。
【0065】
Q
1はアセチル基を示し、Q
2は下記式(q1)、(q2)又は(q3)で表される構造を示す。
【化13】
ここで、式(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)及び(H)中、RxとRyの組み合わせは、R
qとR
r、R
sとR
t、R
tとR
u、R
uとR
v、R
vとR
w又はR
wとR
xの組み合わせである。
【0066】
R
A、R
B、R
C、R
D、R
E、R
F、R
G、R
H、R
I、R
J、R
K及びR
Lは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1、-S-L
2、-SS-L
2、-SO
2-L
3又は-N=N-L
4を示す。L
1、L
2、L
3及びL
4は、上記式(I-2-1)及び(I-2-2)におけるL
1、L
2、L
3及びL
4と同義であるので、ここでは詳細な説明を省略する。アミノ基、アミド基、イミド基及びシリル基は、基Lで置換されていてもよい。
-C
mH
m+1 (q1)
-C
aH
a+1-OC
bH
b+1 (q2)
ここで、式(q1)中、mは1~5の整数を示し、式(q2)中、a及びbはそれぞれ1~5の整数を示す。
【化14】
ここで、式(q3)中、nは1~5の整数を示し、T
1、T
2、T
3、T
4及びT
5はそれぞれ独立に水素原子又は-OC
pH
p+1を示し、pは1~5の整数を示す。
【0067】
基Lを有してもよい、炭素数1~12の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の芳香族炭化水素基、及び炭素数3~14の複素環基は、置換基を含めた炭素数の合計が、それぞれ50以下であることが好ましく、炭素数40以下であることが更に好ましく、炭素数30以下であることが特に好ましい。炭素数がこの範囲内であることにより、シアニン化合物の合成がより容易になると共に、単位重量あたりの吸収強度が高くなる傾向にある。
【0068】
炭素数1~12の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の芳香族炭化水素基、炭素数3~14の複素環基、及び基Lは、それぞれ上記と同様のものが挙げられるので、ここでの説明は省略する。
【0069】
-S-L2としては、例えば、チオール基、メチルスルフィド基、エチルスルフィド基、プロピルスルフィド基、ブチルスルフィド基、イソブチルスルフィド基、sec-ブチルスルフィド基、tert-ブチルスルフィド基、フェニルスルフィド基、2,6-ジ-tert-ブチルフェニルスルフィド基、2,6-ジフェニルフェニルスルフィド基、及び4-クミルフェニルフルフィド基が挙げられる。
【0070】
-SS-L2としては、例えば、ジスルフィド基、メチルジスルフィド基、エチルジスルフィド基、プロピルジスルフィド基、ブチルジスルフィド基、イソブチルジスルフィド基、sec-ブチルジスルフィド基、tert-ブチルジスルフィド基、フェニルジスルフィド基、2,6-ジ-tert-ブチルフェニルジスルフィド基、2,6-ジフェニルフェニルジスルフィド基、及び4-クミルフェニルジスルフィド基が挙げられる。
【0071】
-SO2-L3としては、例えば、スルホキシル基、メシル基、エチルスルホニル基、n-ブチルスルホニル基、及びp-トルエンスルホニル基が挙げられる。
【0072】
-N=N-L4としては、例えば、メチルアゾ基、フェニルアゾ基、p-メチルフェニルアゾ基、及びp-ジメチルアミノフェニルアゾ基が挙げられる。
【0073】
本実施形態のシアニン化合物におけるアニオンは、後述の実施例に記載の方法に従って、又はその方法を参照して調製することができる。また、本実施形態のシアニン化合物におけるカチオンは、従来知られている方法によって調製することができる。
【0074】
本実施形態のシアニン化合物は、特に上述のアニオンを有することによって、800nmを超える吸収極大波長を有しやすくなり、可視光の吸収を抑制しつつ、800nmを超える入射光(特に赤外光)をより選択的に吸収するのが容易となる。これは、上述のアニオンがエネルギーギャップを狭くしやすい構造を有することに起因すると考えられるが、要因はこのことに限定されない。また、本実施形態のシアニン化合物は、特に上述のアニオンを有することによって、より高い耐久性能(例えば耐光性及び耐熱性)を示しやすくなる。これは、上述のアニオンがより安定化する分子軌道を有すること、及び、特にR1~R4が嵩高い場合は、自動酸化されやすいメチン部位へ活性酸素等の近接を阻害しアニオンの劣化を抑制することに起因すると考えられるが、要因はこれらに限定されない。
【0075】
(光電変換素子)
本実施形態の光電変換素子は、赤外域の入射光量に応じた電荷を発生する光電変換部(以下、赤外光電変換部ともいう)を有し、発生した電荷蓄積のためのコンデンサ(蓄積部ともいう)や、読み出しのためのトランジスタ回路(読み出し部ともいう)等を経て光電変換素子外部へ出力するものをいう。ここで、赤外光電変換部は、対向する一対の電極間に有機赤外光電変換膜を配置したものであって、電極の上方から光が光電変換部に入射されるものをいう。また、有機赤外光電変換膜は、赤外域の入射光の少なくとも一部を吸収する材料(以下、「有機赤外吸収材料」という。)を含有した感光性の薄膜であって、光の入射の結果、正孔と電子を発生するものである。
【0076】
(有機赤外吸収材料)
本実施形態における有機赤外吸収材料は、上述のシアニン化合物を含むものである。
【0077】
本実施形態における有機赤外吸収材料は、赤外域における光吸収スペクトルの吸収極大波長かつ吸収最大波長が800nm以上2500nm以下であると好ましい。すなわち、有機赤外吸収材料を薄膜の状態である有機光電変換膜としたときに、800nm~2500nmという波長範囲において極大かつ最大を示す光の吸収のピークが存在する。その中でも、赤外光の吸収のピークの吸収率は50%以上であることが好ましい。
【0078】
さらに、本実施形態における有機赤外吸収材料は、800nm~2500nm以外の波長領域における吸収が極力ないことが好ましい。ただし、本実施形態における有機赤外吸収材料は、800nm以上2500nm以下の赤外域における光吸収スペクトルの吸収極大波長かつ吸収最大波長を示すが、光電変換素子として用いた際、固相状態において当該波長の吸収を実現すればよい。一般に光電変換素子に用いる光電変換材料は、そのモル吸光係数が高いほど、感度を向上させることができるので、モル吸光係数が高いことが好ましい。
【0079】
本実施形態における有機赤外吸収材料は、上記シアニン化合物のみで構成されていてもよいが、それ以外に公知の赤外吸収物質を含んでいてもよい。そのような化合物としては、例えば、上記以外のシアニン化合物、スクアリリウム化合物、クロコニウム化合物、インモニウム化合物、ジチオレン化合物、ビスジチオレン化合物、ポルフィリン化合物、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、BODIPY化合物、及びクワテリレンジイミドが挙げられる。
【0080】
(有機赤外光電変換膜)
本実施形態の光電変換素子に用いられる有機赤外光電変換膜は、上記有機赤外吸収材料を薄膜化等することにより得ることができる。本実施形態における有機赤外光電変換膜の形成方法には、一般的な乾式成膜法及び湿式成膜法が挙げられる。そのような形成方法として、具体的には、真空プロセスである抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、溶液プロセスであるキャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法が挙げられる。各層の成膜にはこれらの手法を複数組み合わせた方法を採用してもよい。
【0081】
例えば、乾式成膜法においては、本実施形態のシアニン化合物、及び必要に応じて光電変換素子の用途に応じた化合物を混合して組成物とし、真空下で電極や後述する有機薄膜層の上へ蒸着することにより、有機赤外光電変換膜を得ることができる。また、湿式成膜法においては、本実施形態のシアニン化合物、及び必要に応じて光電変換素子の用途に応じた化合物を溶媒と共に混合して液状の組成物とし、電極や有機薄膜の上にコーティングしたり印刷し、更に乾燥することにより、有機赤外光電変換膜を得ることができる。
【0082】
上記シアニン化合物を含むように作製された有機赤外光電変換膜の厚さは、それぞれの物質の抵抗値・電荷移動度にもよるので限定することはできないが、通常は0.5nm以上5000nm以下であり、好ましくは1nm以上1000nm以下であり、より好ましくは5nm以上500nm以下である。
【0083】
本実施形態における有機赤外光電変換膜は、上記シアニン化合物以外の有機物を含んでもよく、その中でもp型及び/又はn型の有機半導体を含むことが、入射光エネルギーをより効率よく電気信号に変換することができるので好ましい。その中でも、有機赤外吸収材料に対して、有機p型半導体であれば電子を供与しやすい(イオン化ポテンシャルが小さい)ものであるか、有機n型半導体であれば電子を受容しやすい(電子親和力の大きい)ものであることが、入射光エネルギーを更により効率よく電気信号に変換することができるので好ましい。より具体的には、イオン化ポテンシャル(HOMO準位)が、薄膜固体として-5.5eV以上であることが好ましい。また、電子親和力(LUMO準位)が、薄膜固体として-3.0eV以下であることが好ましい。ここで、イオン化ポテンシャル(HOMO準位)は大気中、光電子収量分光法にて測定した値を指す。また、電子親和力(LUMO準位)は近赤外分光スペクトルの最長波長吸収端からエネルギーバンドギャップ値を算出し、上記HOMO準位より差し引いて求めた値を指す。
【0084】
有機半導体を用いる場合、本実施形態のシアニン化合物と有機半導体とを混合させて用いる態様、並びに、本実施形態のシアニン化合物のみで作製された層(以下、「シアニン化合物層」という。)と有機半導体のみで作製された層(以下、「有機半導体層」という。)とを多層化して用いる態様の両方が採用され得る。
【0085】
有機半導体層を用いる場合、その層は1層であってもよく2層以上であってもよい。有機半導体層は、有機p型半導体膜であっても、有機n型半導体膜であっても、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)であってもよい。特に、有機半導体層は、バルクヘテロ接合構造層を有するのが好ましい。このような場合、有機赤外光電変換膜にバルクへテロ接合構造を含有させることにより、有機赤外光電変換膜のキャリア拡散長が短いという欠点を補い、光電変換効率を向上させることができる。
【0086】
上記シアニン化合物層と有機半導体層とを併用する場合、それらを積層させた積層体の厚さは、それぞれの物質の抵抗値・電荷移動度にもよるので限定することはできないが、通常は0.5nm以上5000nm以下であり、好ましくは1nm以上1000nm以下であり、より好ましくは5乃至500nmの範囲である。この場合、有機半導体層は、2層以上10層以下程度であることが好ましい。
【0087】
以下、有機半導体につき詳述する。
【0088】
(有機p型半導体)
有機p型半導体(化合物)は、ドナー性有機半導体(以下、「ドナー性有機化合物」ともいう。)であり、主に正孔輸送性有機化合物に代表され、電子を供与しやすい性質がある有機化合物をいう。さらに詳しくは、2つの有機材料を接触させて用いたときにイオン化ポテンシャルの小さい方の有機化合物をいう。したがって、ドナー性有機化合物としては、電子供与性のある有機化合物であれば、いずれの有機化合物も使用可能である。
【0089】
そのようなドナー性有機化合物としては、例えば、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、カルバゾール化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物、フタロシアニン化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、及び含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体が挙げられる。なお、これらに限らず、上記したように、アクセプター性有機化合物として用いた有機化合物よりもイオン化ポテンシャルの小さい有機化合物であれば、ドナー性有機半導体として用いられ得る。
【0090】
(有機n型半導体)
有機n型半導体(化合物)は、アクセプター性有機半導体(以下、「アクセプター性有機化合物」ともいう。)であり、主に電子輸送性有機化合物に代表され、電子を受容しやすい性質がある有機化合物をいう。さらに詳しくは、2つの有機化合物を接触させて用いたときに電子親和力の大きい方の有機化合物をいう。したがって、アクセプター性有機化合物としては、電子受容性のある有機化合物であれば、いずれの有機化合物も使用可能である。
【0091】
そのようなアクセプター性有機化合物としては、例えば、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体、フラーレン誘導体)、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5~7員のヘテロ環化合物(例えばピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピラリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピン、及びトリベンズアゼピン)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、及び含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体が挙げられる。なお、これらに限らず、上記したように、ドナー性有機化合物として用いた有機化合物よりも電子親和力の大きな有機化合物であれば、アクセプター性有機半導体として用いられる。
【0092】
(赤外光電変換部)
本実施形態における赤外光電変換部は、一対の電極と、それら一対の電極間に設けられた上記有機赤外光電変換膜とを有する。この赤外光電変換部は、一対の電極及び有機赤外光電変換膜以外に、有機薄膜層を用いてもよい。この赤外光電変換部は、有機赤外光電変換膜以外の層として、例えば、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロッキング層、正孔ブロッキング層、電子注入層、正孔注入層、結晶化防止層、及び層間接触改良層を有してもよい。特に、赤外光電変換部が、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロッキング層及び正孔ブロッキング層からなる群より選ばれる1種以上を有すると、弱い光エネルギーでもより効率よく電気信号に変換する素子が得られるため好ましい。
【0093】
図1は、本実施形態における赤外光電変換部の一例を部分的に示す断面模式図である。
図1に示す赤外光電変換部100は、有機赤外吸収材料を含む有機赤外光電変換膜110と、その有機赤外光電変換膜110を挟むように積層される正孔輸送層120及び電子輸送層130と、それらを更に挟むように積層される電極140及び150とを備える。この赤外光電変換部100は、有機赤外光電変換膜が有機赤外吸収材料を含むことを主因として、可視光と赤外光を含む入射光のうち800nm以上の赤外波長を選択的に光電変換することができる。以下、赤外光電変換部100に備えられる各部材について詳細に説明する。
【0094】
(電極)
電極は、赤外光電変換部に含まれる有機赤外光電変換膜が正孔輸送性を有する場合や、有機赤外光電変換膜以外の有機薄膜層が正孔輸送性を有する正孔輸送層である場合、該有機赤外光電変換膜やその他の有機薄膜層から正孔を取り出してこれを捕集する役割を果たす。また、電極は、赤外光電変換部に含まれる有機赤外光電変換膜が電子輸送性を有する場合や、有機赤外光電変換膜以外の有機薄膜層が電子輸送性を有する電子輸送層である場合、該有機赤外光電変換膜やその他の有機薄膜層から電子を取り出して、これを吐出する役割を果たすものである。
【0095】
電極として用い得る材料は、ある程度の導電性を有するものであれば特に限定されないが、隣接する有機赤外光電変換膜やその他の有機薄膜層との密着性、電子親和力、イオン化ポテンシャル及び安定性等を考慮して選択することが好ましい。電極として用い得る材料としては、例えば、酸化錫(NESA)、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)及び酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物;金、銀、白金、クロム、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル及びタングステン等の金属:ヨウ化銅及び硫化銅等の無機導電性物質;ポリチオフェン、ポリピロール及びポリアニリン等の導電性ポリマー;並びに炭素が挙げられる。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよく、複数種を2層以上に積層して用いてもよい。電極の厚さは導電性を考慮して任意に選択することができるが、5nm以上500nm以下であってもよく、好ましくは10nm以上300nm以下である。
【0096】
電極に用いる材料の導電性も、光電変換素子の受光を必要以上に妨げなければ特に限定されないが、光電変換素子の信号強度及び消費電力の観点からできるだけ導電性が高いことが好ましい。例えば、透明性の電極として、シート抵抗値が300Ω/□以下の導電性を有するITO膜であれば、電極として十分機能する。ただし、数Ω/□程度(例えば、5~9Ω/□)の導電性を有するITO膜を備えた基板の市販品も入手可能であり、このような高い導電性を有する基板が望ましい。
【0097】
ITO膜を用いる場合の電極の厚さは導電性を考慮して任意に選択することができるが、通常5nm以上3000nm以下、好ましくは10nm以上300nm以下である。ITOなどの膜を形成する方法としては、従来公知の蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法及び塗布法が挙げられる。基板上に設けられたITO膜には必要に応じUV-オゾン処理やプラズマ処理を施してもよい。
【0098】
また、検出する波長の異なる有機赤外光電変換膜を複数積層する場合、それぞれの有機赤外光電変換膜の間に用いられる電極の膜(これは上記の一対の電極以外の電極の膜である。)は、それぞれの有機赤外光電変換膜が検出する光以外の波長の光を透過させる必要がある。そのような観点から、その電極の膜には入射光の90%以上を透過する材料を用いることが好ましく、95%以上の光を透過する材料を用いることがより好ましい。
【0099】
また、本実施形態における赤外光電変換部の下部に更に可視光域の光を感知する光電変換部を設ける場合、上記赤外光電変換部に用いる電極は、その可視光及び赤外光の透過率が90%以上であると好ましく、95%以上であるとより好ましい。
【0100】
このような条件を満たす電極の材料としては、可視光及び赤外光に対する透過率が高く、抵抗値が小さい透明導電性酸化物(TCO;Transparent Conducting Oxide)が好ましい。電極としてAuなどの金属薄膜も用いることができるが、透過率を90%以上にしようとすると抵抗値が極端に増大する。したがって、電極としてはTCOが好ましい。TCOとして、特に、ITO、IZO、AZO、FTO、SnO2、TiO2及びZnO2が好ましい。
【0101】
電極を形成する方法は特に限定されず、電極材料との適性を考慮して適宜選択することができる。透明電極を用いる場合、その形成方法として、具体的には、印刷方式及びコーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法及びイオンプレーティング法等の物理的方式、CVD及びプラズマCVD法等の化学的方式が挙げられる。また、電極の材料がITOのような透明導電性金属酸化物である場合、その形成方法として、例えば、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、化学反応法(ゾル-ゲル法など)、及びその金属酸化物の分散物を塗布する方法が挙げられる。さらに、ITOのような透明導電性金属酸化物の膜に、UV-オゾン処理及びプラズマ処理を施すこともできる。
【0102】
次に、有機赤外光電変換膜以外の有機薄膜層について説明する。
【0103】
電子輸送層は、有機赤外光電変換膜で発生した電子を電極へ輸送する役割と、電子輸送先の電極から有機赤外光電変換膜に正孔が移動するのをブロックする役割とを果たす。
【0104】
正孔輸送層は、発生した正孔を有機赤外光電変換膜から電極へ輸送する役割と、正孔輸送先の電極から有機赤外光電変換膜に電子が移動するのをブロックする役割とを果たす。
【0105】
電子ブロッキング層は、電極から有機赤外光電変換膜への電子の移動を妨げ、有機赤外光電変換膜内での再結合を防ぎ、暗電流を低減し、ノイズを低減しダイナミックレンジを拡大する役割を果たす。
【0106】
正孔ブロッキング層は、電極から有機赤外光電変換膜への正孔の移動を妨げ、有機赤外光電変換膜内での再結合を防ぎ、暗電流を低減し、ノイズを低減しダイナミックレンジを拡大する機能を有する。
【0107】
(正孔輸送層)
正孔輸送層の材料としては、固体撮像素子などの光電変換素子における正孔輸送層として知られているものであれば特に限定されず、例えば、ポリアニリン及びそのドープ材料、国際公開第2006/019270号に記載のシアン化合物が挙げられる。
【0108】
正孔輸送層を構成する材料として、より具体的には、セレン、ヨウ化銅(CuI)等のヨウ化物、層状コバルト酸化物等のコバルト錯体、CuSCN、酸化モリブデン(MoO3等)、酸化ニッケル(NiO等)、4CuBr・3S(C4H9)及び有機正孔輸送材が挙げられる。これらのうち、ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化銅(CuI)が挙げられる。層状コバルト酸化物としては、例えば、AxCoO2(ここで、Aは、Li、Na、K、Ca、Sr又はBaを示し、0≦X≦1である。)が挙げられる。また、有機正孔輸送材としては、例えば、ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、(PEDOT;例えば、スタルクヴイテック社製の商品名「BaytronP」)等のポリチオフェン誘導体、2,2’,7,7’-テトラキス-(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレン(spiro-MeO-TAD)等のフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ジフェニルアミン誘導体、ポリシラン誘導体、及びポリアニリン誘導体が挙げられる。さらには、正孔輸送層の材料として、例えば、CuInSe2及び硫化銅(CuS)等の1価の銅を有する化合物半導体、リン化ガリウム(GaP)、酸化ニッケル(NiO)、酸化コバルト(CoO)、酸化鉄(FeO)、酸化ビスマス(Bi2O3)、酸化モリブデン(MoO2)、及び酸化クロム(Cr2O3)が挙げられる。
【0109】
また、正孔輸送層が、有機赤外光電変換膜のLUMO準位よりも浅いLUMO準位を有するものであると、有機赤外光電変換膜で生成した電子の電極側への移動を抑制する整流効果を有する、電子ブロッキング機能が付与されるので好ましい。このような正孔輸送層は電子ブロッキング層とも呼ばれる。
【0110】
電子ブロッキング層を構成する材料のうち、低分子の有機化合物としては、例えば、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン(TPD)及び4,4’-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)等の芳香族ジアミン化合物、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、4,4’,4”トリス(N-(3-メチルフェニル)N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、ポルフィリン、テトラフェニルポルフィリン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニン及びチタニウムフタロシアニンオキサイド等のポルフィリン化合物、トリアゾール誘導体、オキサジザゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、並びにシラザン誘導体が挙げられる。また、高分子の有機化合物としては、例えば、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン及びジアセチレン等の重合体、並びにその誘導体が挙げられる。電子供与性化合物でなくとも、十分な正孔輸送性を有する化合物であれば、電子ブロッキング層を構成する材料として用いることは可能である。さらに、電子ブロッキング層を構成する材料のうち、無機化合物としては、例えば、酸化カルシウム、酸化クロム、酸化クロム銅、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ガリウム銅、酸化ストロンチウム銅、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化インジウム銅、酸化インジウム銀及び酸化イリジウム等の金属酸化物、セレン、テルル及び硫化アンチモンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0111】
正孔輸送層の厚さは、暗電流を抑制し、かつ、光電変換効率の低下を防止する観点から、10nm以上300nm以下であると好ましく、30nm以上250nm以下であるとより好ましく、50nm以上200nm以下であると更に好ましい。
【0112】
正孔輸送層を形成する方法としては従来知られているものであってもよく、真空蒸着法のような乾式成膜法、及び溶液塗布法のような湿式成膜法のいずれであってもよいが、塗布面をレベリングできる観点から、好ましくは湿式成膜法である。乾式製膜法としては、例えば、真空蒸着法のような蒸着法及びスパッタ法が挙げられる。蒸着は、物理蒸着(PVD)及び化学蒸着(CVD)のいずれでもよいが、真空蒸着等の物理蒸着が好ましい。湿式成膜法としては、例えば、インクジェット法、スプレー法、ノズルプリント法、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、ダイコート法、ロールコート法、バーコート法及びグラビアコート法が挙げられる。
【0113】
(電子輸送層)
電子輸送層を構成する材料としては、固体撮像素子などの光電変換素子における電子輸送層として知られているものであれば特に限定されず、例えば、オクタアザポルフィリン、及びp型半導体のパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)、フラーレン、フラーレン誘導体(例えば[6,6]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester;PCBMなど)、ペリレン、インデノインデン及びインデノインデン誘導体のような有機化合物、酸化チタン(TiO2等)、酸化ニッケル(NiO)、酸化スズ(SnO2)、酸化タングステン(WO2、WO3、W2O3等)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb2O5等)、酸化タンタル(Ta2O5等)、酸化イットリウム(Y2O3等)、及びチタン酸ストロンチウム(SrTiO3等)のような無機酸化物が挙げられる。電子輸送層は、多孔質のものであってもよく、緻密なものであってもよく、それらを積層する場合は、有機赤外光電変換膜の側から多孔質の電子輸送層及び緻密な電子輸送層の順に積層して設けられると好ましい。
【0114】
また、電子輸送層が、有機赤外光電変換膜のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有するものであると、有機赤外光電変換膜で生成した正孔の対向電極側への移動を抑制する整流効果を有する、正孔ブロッキング機能が付与されるので好ましい。このような電子輸送層は正孔ブロッキング層とも呼ばれる。
【0115】
正孔ブロッキング層を構成する材料としては、例えば、1,3-ビス(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾリル)フェニレン(OXD-7)等のオキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、バソクプロイン、バソフェナントロリン、及びこれらの誘導体、トリアゾール化合物、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、ビス(4-メチル-8-キノリナート)アルミニウム錯体、シロール化合物、ポルフィリン系化合物、DCM(4-ジシアノメチレン-2-メチル-6-(4-(ジメチルアミノスチリル))-4Hピラン)等のスチリル系化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等のn型半導体材料、酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化ガリウム等のn型無機酸化物、並びに、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム及びフッ化セシウム等のアルカリ金属フッ化物が挙げられる。さらには、アルカリ金属化合物に有機半導体分子をドープしたものも、対向電極との電気的接合を改善する機能を有するので好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0116】
電子輸送層の厚さは、暗電流を抑制し、かつ、光電変換効率の低下を防止する観点から、10nm以上300nm以下であると好ましく、30nm以上250nm以下であるとより好ましく、50nm以上200nm以下であると更に好ましい。
【0117】
電子輸送層を形成する方法としては従来知られているものであってもよく、真空蒸着法のような乾式成膜法、及び溶液塗布法のような湿式成膜法のいずれであってもよいが、塗布面をレベリングできる観点から、好ましくは湿式成膜法である。乾式製膜法としては、例えば、真空蒸着法のような蒸着法及びスパッタ法が挙げられる。蒸着は、物理蒸着(PVD)及び化学蒸着(CVD)のいずれでもよいが、真空蒸着等の物理蒸着が好ましい。湿式成膜法としては、例えば、インクジェット法、スプレー法、ノズルプリント法、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、ダイコート法、ロールコート法、バーコート法及びグラビアコート法が挙げられる。
【0118】
(層間接触改良層)
層間接触改良層は、上部側の電極の成膜時にその直近下部の膜、例えば有機赤外光電変換膜、に与えられるダメージを軽減する機能を果たす。特に上部に形成する電極の成膜に用いる装置中に存在する高エネルギー粒子、例えばスパッタ法ならば、スパッタ粒子や2次電子、Ar粒子、酸素負イオンなどが直近下部の膜に衝突することで変質し、リーク電流の増大や感度の低下など性能劣化が生じる場合がある。これを防止する一つの方法として、直近下部の膜の上層に層間接触改良層を設けることが好ましい。層間接触改良層の材料は、銅フタロシアニン、PTCDA、アセチルアセトネート錯体、BCPなどの有機物、有機-金属化合物や、MgAg、MgOなどの無機物が好ましく用いられる。層間接触改良層の厚さは、光電変換膜の構成、電極の膜厚などにより適切な範囲が異なるが、特に可視域に吸収をもたない材料を選択すること、あるいは極薄い厚さで用いる観点から、2nm以上50nmであると好ましい。
【0119】
本実施形態の光電変換素子は、赤外域の入射光量に応じた電荷を発生する赤外光電変換部を有する。発生した電荷は、半導体により電荷量に応じた信号として読み出される。そのため光電変換素子には、発生した電荷蓄積のためのコンデンサ(以下、「蓄積部」ともいう。)や、読み出しのためのトランジスタ回路(以下、「読み出し部」ともいう。)が導電材料からなる接続部を介して接続される。また、必要に応じて、光電変換素子は、強度保持のための基板や集光のためのマイクロレンズ等を含む。
【0120】
(蓄積部、読み出し部、及び接続部)
読み出し部は、有機赤外光電変換膜で発生した電荷に応じた信号を読み出すために設けられる。読み出し部は、例えばCCD、CMOS回路、又はTFT回路等で構成されており、好ましくは絶縁層内に配置された遮光層によって遮光されている。読み出し回路は、それに対応する電極と接続部を介して電気的に接続されている。なお、読み出しに必要な量の電荷を確保するため、コンデンサ等で構成する蓄積部を電極と接続部との間に介してもよい。接続部は、絶縁層に埋設されており、電極(例えば透明電極又は対向電極)と読み出し部とを電気的に接続するためのプラグ等である。このように構成された部材が固体撮像素子である場合、光が入射すると、この光が有機赤外光電変換膜に入射し、ここで電荷が発生する。発生した電荷のうちの電子は、一方の電極で捕集(及び蓄積)され、その量に応じた電圧信号が読み出し部によって固体撮像素子外部に出力される。
【0121】
(可視光電変換部)
本実施形態の光電変換素子は、可視光域に吸収スペクトルを有する可視光電変化部を有することが、光電変換の感度を向上させる観点、及び、赤外イメージングや赤外光を用いた位置情報と可視イメージングを併用して用いた時の画像処理速度を向上させる観点から好ましい。この可視光電変化部は、本実施形態の光電変換素子が透明電極を有する場合など、赤外光電変換部が可視域の光を透過する場合には、透過した可視光域の光を光電変換して可視光と赤外光とを同時に感知させるため、赤外光電変換部の下部に設けることができる。
【0122】
可視光電変換部では、従来知られるシリコンフォトダイオード、あるいは可視光に感度のある有機光電変換材料を有するデバイス(例えば、特開2013-258168号公報に記載のもの)を用いて、可視光域の光を感知してもよい。また、カラー撮像のため、可視光電変換部の上にカラーフィルタ等を設けたり、可視光波長感度の異なる有機光電変換層を積層してもよい。
【0123】
本実施形態の光電変換素子は、特に有機赤外光電変換膜が上述のアニオンを有するシアニン化合物を含むことによって、800nmを超える入射光(特に赤外光)をより選択的に吸収するのが容易となる結果、光電変換効率に優れたものとなる。これは、上述のアニオンがエネルギーギャップを狭くしやすい構造を有することに起因すると考えられるが、要因はこのことに限定されない。また、本実施形態の光電変換素子は、特に有機赤外光電変換膜が上述のアニオンを有するシアニン化合物を含むことによって、より高い耐久性能(例えば耐光性及び耐熱性)を示しやすくなる。これは、上述のアニオンがより安定化する分子軌道を有することに起因すると考えられるが、要因はこのことに限定されない。
【0124】
(固体撮像素子)
本実施形態の固体撮像素子は、本実施形態の光電変換素子をアレイ状に多数配置して備えるものである。すなわち、光電変換素子をアレイ状に多数配置することによって、入射光量に加え入射位置情報をも示す固体撮像素子を構成する。
【0125】
固体撮像素子において、より光源近くに配置された赤外光電変換部が、光源側から見てその背後に配置された別の光電変換部(可視光電変換部等)の吸収波長を遮蔽しない(透過する)場合、複数の光電変換部を積層してもよい。
【0126】
固体撮像素子において、赤外光電変換部又は可視光電変換部は、成形容易さの観点から、隣り合う各光電変換素子同士の間で構造的な区切りを持たない同一平面上の薄膜として、一部が構成されていてもよい。
【0127】
本実施形態の固体撮像素子は、さらに基板を含んでいてもよい。基板は、その上に各層を積層して固体撮像素子を製造するために用いられたり、固体撮像素子の機械的強度を高めるために用いられたりする。基板の種類は特に制限されず、例えば、半導体基板、ガラス基板及びプラスチック基板が挙げられる。
【実施例0128】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0129】
(実施例1)
まず、下記スキームに従って、化合物1aを合成した。
【化15】
【0130】
イソプロピルマグネシウムクロリド-塩化リチウム錯体の乾燥テトラヒドロフラン溶液(約14%)に、ブロモペンタフルオロベンゼンを、上記錯体とブロモペンタフルオロベンゼンとのモル比が1.05:1.00となるように添加し、-78℃で45分間攪拌して反応させた。得られた生成物に対して2,3-ブタンジオンを、生成物と2,3-ブタンジオンとのモル比が1.0:1.1となるように添加して、室温で2.5時間攪拌して反応させて化合物1aを得た。得られた化合物1aを精製して、その収率を測定したところ53%であった。
【0131】
次に、下記スキームに従って、フッ素化トリシアノフラン2aを合成した。フッ素化トリシアノフラン2aは、Chem. Mater. 2002, 14, p2393-2400を参照して合成した。
【化16】
【0132】
5mol%のリチウムエトキシドを添加した1Mのエタノール溶液とマロノニトリルとを、乾燥テトラヒドロフランに添加し、更にそこに化合物1aをマロノニトリルと化合物1aとのモル比が2:1となるように添加し、一晩中、還流して反応させてフッ素化トリシアノフラン2aを得た。得られたフッ素化トリシアノフラン2aを精製して、その収率を測定したところ10%であった。
【0133】
また、下記スキームに従って、公知のジアルデヒド3を合成した。
【化17】
【0134】
過剰のジメチルホルムアミドとシクロヘキサノンに対して4等量の塩化ホスホリルを混合し、0℃で30分間反応させた。得られた生成物に対してシクロヘキサノンを添加して、更に55℃で3.5時間攪拌して反応させてジアルデヒド3を得た。得られたジアルデヒド3を精製して、その収率を測定したところ52%であった。
【0135】
そして、下記スキームに従って、パーフルオロフェニル基を有するシアニン化合物4aを合成した。
【化18】
【0136】
ジアルデヒド3とフッ素化トリシアノフラン2aとを、酢酸ナトリウムを添加した無水酢酸中に、ジアルデヒド3とフッ素化トリシアノフラン2aと酢酸ナトリウムとのモル比が1.0:2.1:2.2となるように添加し、120℃で4時間攪拌して反応させてシアニン化合物4aを合成した。得られたシアニン化合物4aを精製して、その収率を測定したところ40%であった。そのNMR測定(測定装置製品名:JTM-ECS400、日本電子株式会社製。以下同様。)の結果を下記に示す。
【化19】
【0137】
(実施例2)
下記スキームに従って、パーフルオロフェニル基を有するシアニン化合物5aを合成した。
【化20】
【0138】
実施例1で得られたシアニン化合物4aを、ヨウ化テトラブチルアンモニウムを添加したアセトン溶液中に、シアニン化合物4aとヨウ化テトラブチルアンモニウムとのモル比が1.0:1.1となるように添加し、室温で1時間攪拌して反応させてシアニン化合物5aを合成した。得られたシアニン化合物5aを精製して、その収率を測定したところ69%であった。そのNMR測定の結果を下記に示す。
【化21】
【0139】
(参考例1)
下記スキームに従って、公知の化合物1bを合成した。化合物1bは、Angew.Chem.Int.Ed., 2017, 56, p2478-2481を参照して合成した。
【化22】
【0140】
フェニルマグネシウムブロミドの乾燥テトラヒドロフラン溶液に、2,3-ブタンジオンを、フェニルマグネシウムブロミドと2,3-ブタンジオンとのモル比が1.05:1.00となるように0℃で添加した後、室温で3時間攪拌して反応させて化合物1bを得た。得られた化合物1bの粗収率を測定したところ87%であった。
【0141】
次に、下記スキームに従って、トリシアノフラン2bを合成した。
【化23】
【0142】
5mol%のリチウムエトキシドを添加した1Mのエタノール溶液とマロノニトリルとを、乾燥テトラヒドロフランに添加し、更にそこに上記のようにして得られた化合物1bを精製せずにそのままマロノニトリルと化合物1bとのモル比が2:1となるように添加し、一晩中、還流して反応させてトリシアノフラン2bを得た。得られたトリシアノフラン2bを精製して、その収率を測定したところ25%であった。
【0143】
そして、下記スキームに従って、シアニン化合物4bを合成した。
【化24】
【0144】
ジアルデヒド3とトリシアノフラン2bとを、酢酸ナトリウムを添加した無水酢酸中に、ジアルデヒド3とトリシアノフラン2bと酢酸ナトリウムとのモル比が1.0:2.1:2.2となるように添加し、120℃で4時間攪拌して反応させてシアニン化合物4bを合成した。得られたシアニン化合物4bを精製して、その収率を測定したところ38%であった。そのNMR測定の結果を下記に示す。
【化25】
【0145】
(参考例2)
下記スキームに従って、シアニン化合物5bを合成した。
【化26】
【0146】
参考例1で得られたシアニン化合物4bを、ヨウ化テトラブチルアンモニウムを添加したアセトン溶液中に、シアニン化合物4bとヨウ化テトラブチルアンモニウムとのモル比が1.0:1.1となるように添加し、室温で1時間攪拌して反応させてシアニン化合物5bを合成した。得られたシアニン化合物5bを精製して、その収率を測定したところ65%であった。そのNMR測定の結果を下記に示す。
【化27】
【0147】
(比較例1)
下記式で表される化合物を公知の方法により合成した。
【化28】
【0148】
実施例2、参考例2及び比較例1において得られた各化合物のジクロロメタン溶液(1×10
-6M)における吸収極大、及び各波長域における透過率を、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の分光光度計(製品名:U-4100)を用いて測定した。その一例として、実施例2の化合物の吸収スペクトルを
図2に示す。得られた吸収スペクトルにおいて、吸収極大波長は、実施例2で934nm、参考例2で920nm、比較例1で906nmであった。
【0149】
<耐光性>
25℃の恒温槽中で、実施例2、参考例2及び比較例1において得られた各化合物の脱水ジクロロメタン溶液(1×10-6M)に白色LEDライト(L-711)を継続的に照射して、溶液における化合物の残存率(照射直前の溶液中の化合物の濃度を100%とする。)を調べた。照射開始から13日後、実施例2の化合物の残存率は69%であったのに対して、参考例2の化合物の残存率は45%であった。また、比較例1の化合物の残存率は、照射開始から12日後に検出限界以下となった。
【0150】
<耐熱性>
実施例2、参考例2及び比較例1において得られた各化合物の分解温度を、TG-DTA(装置名:EXSTAR-6000 TG/DTA 6300、セイコーインスツル株式会社製)にて測定した。測定に用いた試料に対して、予め加熱減圧乾燥処理(80℃、3×102Pa、一晩中)を施した。また、測定は、窒素雰囲気下で温度を30℃から400℃まで上昇させて2%重量減少時の温度を測定した。実施例2の化合物の2%重量減少時の温度は約207℃であったのに対して、参考例2の化合物の2%重量減少時の温度は約200℃、比較例1の化合物の2%重量減少時の温度は約198℃であった。
本発明のシアニン化合物は、800nmを超える近赤外光の吸収を有し、また、可視光に対する感度がないか若しくは極めて小さい。また、本発明のシアニン化合物は、耐光性及び耐熱性のような耐久性能にも優れる。そのため、本発明のシアニン化合物は、透明かつ近赤外光に応じた電荷を発生する耐久性に優れた光電変換素子の材料として用いることができる。したがって、本発明のシアニン化合物及び光電変換素子は、それらの特性が要求される分野において、産業上の利用可能性がある。具体的には、固体撮像素子として、セキュリティ用カメラ、車載用カメラ、無人航空機用カメラ、農業用カメラ、産業用カメラ、内視鏡用カメラのような医療用カメラ、ゲーム機用カメラ、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話用カメラ、上記以外のモバイル機器用カメラにおける撮像素子;ファクシミリ、スキャナー及びコピー機等における画像読み取り素子;並びに、バイオ及び化学センサ等における光センサ等に産業上の利用可能性がある。また、ディスプレイとして、テレビモニター、タッチモニター、デジタルサイネージ、ウェアラブルディスプレイ、電子ペーパー、モビリティ用途におけるヘッドアップディスプレイ等に産業上の利用可能性がある。なお、本発明のシアニン化合物は、上記以外にも光情報記録媒体、フラッシュトナー定着の感光材、熱遮断フィルム、赤外カットフィルター、偽造防止用インク等の材料、又はプラスチックボトル向けプリフォーム加熱補助剤としても産業上の利用可能性がある。