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特開2022-54525全地球測位衛星システム用基板型アンテナ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054525
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】全地球測位衛星システム用基板型アンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 9/26 20060101AFI20220331BHJP
   H01Q 5/48 20150101ALI20220331BHJP
   H01Q 5/371 20150101ALI20220331BHJP
【FI】
H01Q9/26
H01Q5/48
H01Q5/371
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161623
(22)【出願日】2020-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000227043
【氏名又は名称】日精株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504327340
【氏名又は名称】株式会社フェイバライツ
(74)【代理人】
【識別番号】100208672
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 愼一
(72)【発明者】
【氏名】金子 勉
(72)【発明者】
【氏名】唐鎌 隆久
(57)【要約】
【課題】QZSSの精密測位を実現するために、QZSS独自のL6帯の周波数を含めた電波を受信するアンテナを提供することを目的とする。
【解決手段】基板型アンテナ1は、第1の円弧状アンテナ素子22と第2の円弧状アンテナ素子24とを含んで円弧状アンテナ素子20が構成され、第1の円弧状アンテナ素子22及び第2の円弧状アンテナ素子24は、それぞれ、円弧状アンテナ素子20の外周部から内周部に向けて、3つの周波数帯に対応する一体アンテナ素子と、一体アンテナ素子と間隔を隔てて配置される1つの周波数帯に対応する単体アンテナ素子と、を有し、第1の円弧状アンテナ素子22と第2の円弧状アンテナ素子24とがそれぞれ接合される複数の接合器34と、複数の接合器34が結合される結合部30と、を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一方の面に形成され、中心点の周囲に、2つに分割されて配置される複数の周波数帯に対応する円弧状アンテナ素子が配置される全地球測位衛星システム用基板型アンテナであって、
前記円弧状アンテナ素子は、第1の円弧状アンテナ素子と第2の円弧状アンテナ素子とを含んで構成され、
前記第1の円弧状アンテナ素子及び前記第2の円弧状アンテナ素子は、それぞれ、前記円弧状アンテナ素子の外周部から内周部に向けて、3つの周波数帯に対応する一体アンテナ素子と、前記一体アンテナ素子と間隔を隔てて配置される1つの周波数帯に対応する単体アンテナ素子と、を有し、
前記第1の円弧状アンテナ素子の一方の端部と前記第2の円弧状アンテナ素子の一方の端部とにそれぞれ接合される複数の接合器と、複数の前記接合器が結合される結合部と、を有してダイポールアンテナ型円偏波アンテナが構成される、
全地球測位衛星システム用基板型アンテナ。
【請求項2】
前記結合部は、長円形状であって複数の結合素子が間隔を隔てて形成されるとともに、複数の前記結合素子のそれぞれの一部が分断されて間隔を隔てて形成され、複数の前記接合器によって、前記結合部と前記第1の円弧状アンテナ素子と前記第2の円弧状アンテナ素子とが結合される、請求項1に記載の全地球測位衛星システム用基板型アンテナ。
【請求項3】
前記一方の面の反対側に対向して形成される他方の面に、前記結合部に対向する給電結合部を有し、受信された各周波数帯の利得が前記給電結合部で合成される、請求項1又は2に記載の全地球測位衛星システム用基板型アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全地球測位衛星システム用基板型アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、携帯電話に代表される移動体通信において、第5世代移動体通信システム(以下、「5G、又は5Gサービス」という。)により開始される高速大容量通信、信頼度の高い低遅延通信と、全地球測位衛星システム(Global Navigation
Satellite System(以下、「GNSS」という。))のひとつである、日本の準天頂衛星「みちびき」(Quasi Zenith Satellite
System(以下、「QZSS」という。))の本格的運用による移動体通信測位の誤差を数cmとする精密測位と、を組み合わせることにより、自動運転車両の自動運転、遠隔地に配置された機械設備の映像を手元で監視しながら操作を可能とする遠隔操作システム等が実現されつつある。
【0003】
特許文献1には、上部外部導体と下部外部導体との間に介在する上部絶縁層及び下部絶縁層と、前記上部外部導体の一部適宜範囲を除去して形成した開口部と、この開口部に対応する前記上部絶縁層と下部絶縁層との間に設けた渦巻き状導体より成る放射素子と、前記上部絶縁層と下部絶縁層との間に介在させると共に、前記渦巻き状導体より成る放射素子に高周波的に接続した内部導体とを備えたことを特徴とする渦巻きアンテナが記載されている。
しかしながら、特許文献1に記載された渦巻きアンテナは、アンテナ素子を二本使用するダイポールアンテナ素子形状を用いて円偏波を実現しているが、精密測位を実現するために必要な複数の周波数帯を合成するマルチバンド対応、及び各周波数帯間の位相差を無くすための対策が講じられていない。
【0004】
特許文献2には、誘電体からなる基板の上側基板面に、一箇所を分断したループ状の第一の結合部パターンを形成し、この第一の結合部パターンの分断した位置の両端部端子にそれぞれアンテナを接続し、前記基板の裏面側基板面に、第一の結合部パターンに対向する位置に形成されて給電点を有すると共に、一箇所を分断したループ状の第二の結合部パターンを形成した基板型アンテナにおいて、上記第二の結合部パターンに対向する位置に、一箇所を分断したループ状の少なくとも第三の結合部パターンを形成し、この第三の結合部パターンの分断した位置の両端部端子にそれぞれ他のアンテナを接続し、上記第一の結合部パターンに接続した上記アンテナと、上記第三の結合部パターンに接続した上記他のアンテナとは異なる共振周波数としたことを特徴とする基板型アンテナが記載されている。
しかしながら、特許文献2に記載された基板型アンテナは、マルチバンド対応のアンテナではあるものの、精密測位を実現するために必要な複数の周波数帯を合成するマルチバンド対応、及び各周波数帯間の位相差を無くすための対策が講じられていない。
【0005】
特許文献3には、ほぼ同じ共振周波数の二つのアンテナを使用して信号送受信を行う基板型アンテナにおいて、前記二つのアンテナは、給電点側結合部パターンに対向して配置したアンテナ側結合部パターンと、前記アンテナ側結合部パターンに結合した螺旋アンテナパターンを有した螺旋アンテナを使用し、前記二つのアンテナの前記螺旋アンテナパターンにおける最も近接した対向部端部の延び方向を同じ向きにせずにずらして配置したことを特徴とする基板型アンテナが記載されている。
しかしながら、特許文献3に記載された基板型アンテナは、螺旋状マルチバンド対応アンテナを用いて各アンテナ間の相互干渉を無くす対策は講じているものの、精密測位を実現するために必要な複数の周波数帯を合成するマルチバンド対応、及び各周波数帯間の位相差を無くすための対策が講じられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04-281604号公報
【特許文献2】特開2012-199878号公報
【特許文献3】特開2017-228871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
QZSSを利用するには、アメリカ合衆国によって運用される全地球測位システム(Global Positioning System(以下、「GPS」という。))におけるL1帯(1575.42MHz±15.35MHz)、L2帯(1227.60MHz±1.535MHz)、L5帯(1176.45MHz±12.45MHz)の他に、新たに、QZSS独自のL6帯(1278.75MHz±21MHz)に対応するアンテナが求められている。
【0008】
本発明は、QZSSの精密測位を実現するために、QZSS独自のL6帯の周波数を含めた電波を受信するアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1態様に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナは、基板と、前記基板の一方の面に形成され、中心点の周囲に、2つに分割されて配置される複数の周波数帯に対応する円弧状アンテナ素子が配置される全地球測位衛星システム用基板型アンテナであって、前記円弧状アンテナ素子は、第1の円弧状アンテナ素子と第2の円弧状アンテナ素子とを含んで構成され、前記第1の円弧状アンテナ素子及び前記第2の円弧状アンテナ素子は、それぞれ、前記円弧状アンテナ素子の外周部から内周部に向けて、3つの周波数帯に対応する一体アンテナ素子と、前記一体アンテナ素子と間隔を隔てて配置される1つの周波数帯に対応する単体アンテナ素子と、を有し、前記第1の円弧状アンテナ素子の一方の端部と前記第2の円弧状アンテナ素子の一方の端部とにそれぞれ接合される複数の接合器と、複数の前記接合器が結合される結合部と、を有してダイポールアンテナ型円偏波アンテナが構成される。
【0010】
第2態様に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナは、第1態様に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナにおいて、前記結合部は、長円形状であって複数の結合素子が間隔を隔てて形成されるとともに、複数の前記結合素子のそれぞれの一部が分断されて間隔を隔てて形成され、複数の前記接合器によって、前記結合部と前記第1の円弧状アンテナ素子と前記第2の円弧状アンテナ素子とが結合される。
【0011】
第3態様に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナは、第1態様又は第2態様に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナにおいて、前記一方の面の反対側に対向して形成される他方の面に、前記結合部に対向する給電結合部を有し、受信された各周波数帯の利得が前記給電結合部で合成される。
【発明の効果】
【0012】
第1態様に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナによれば、QZSSの精密測位を実行する際に、マルチパス電波の受信を排除しつつ、QZSS独自のL6帯を含めた4周波数帯の電波を合成して受信するマルチバンドアンテナとすることができる。
【0013】
第2態様に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナによれば、全地球測位衛星システム用基板型アンテナが受信した衛星からの電波の利得を1箇所の結合部にまとめて合成することができる。
【0014】
第3態様に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナによれば、全地球測位衛星システム用基板型アンテナが受信した衛星からの電波の利得を1箇所の給電点にまとめて合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナのアンテナ素子の配置を示す平面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナの結合器を示す裏面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナの電圧定在波比(VSWR値)を示すグラフである。(電圧における入射波と反射波の比)
図4】本発明の一実施形態に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナのL5帯における利得(dBic値)を示す放射特性図である。
図5】本発明の一実施形態に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナのL2帯における利得(dBic値)を示す放射特性図である。
図6】本発明の一実施形態に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナのL6帯における利得(dBic値)を示す放射特性図である。
図7】本発明の一実施形態に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナのL1帯における利得(dBic値)を示す放射特性図である。
図8】本発明の一実施形態に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナの4周波数帯における利得の最大値と平均値を示すグラフである。
図9】本発明の一実施形態に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナの衛星システムに対する4周波数帯についての利得(dBic値)と軸比(AR値)を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る全地球測位衛星システム用基板型アンテナ(以下、「基板型アンテナ」ともいう。)の一例を図1から図9に基づいて説明する。
なお、図面において、矢印Xで示す方向を基板型アンテナ又は基板の幅方向とし、矢印Yで示す方向を基板型アンテナ又は基板の奥行方向とし、矢印Zで示す方向を基板型アンテナ又は基板の厚み方向とする。
【0017】
<基板型アンテナの全体構成>
図1は、本発明の実施形態である基板型アンテナ1の構成の一例を示している。
【0018】
図1に示すように、基板型アンテナ1は、基板表面10Aと基板裏面10Bとを含む基板10と、円弧状アンテナ素子20と、アンテナ側結合器30とを含んで構成されている。
【0019】
[基板]
基板10は、図1図2に示すように、基板表面10Aと、予め定められた厚みを有して隔てられて基板表面10Aに対向して形成される基板裏面10Bと、を有する。本実施形態では、基板10は、一例として、誘電率4.2のガラスエポキシ樹脂を基材とした板状体である。本実施形態では、34mm(基板幅方向W)×34mm(基板奥行方向Y)×0.3mm(基板厚み方向Z)のガラスエポキシ樹脂板を用いている。なお、図1及び図2において、基板10は、平面視、正方形で示しているが、基板10の平面形状は正方形に限らず任意の形状としてよい。ここで、基板表面10Aは、一方の面の一例であり、基板裏面10Bは、他方の面の一例である。
【0020】
[円弧状アンテナ素子]
円弧状アンテナ素子20は、図1に示すように、基板表面10Aに形成されている。円弧状アンテナ素子20は、中心点Oを中心として同心円状に形成され、長寸円弧状アンテナ素子22と、短寸円弧状アンテナ素子24とが、互いに分割されて配置されている。
【0021】
長寸円弧状アンテナ素子22は、本実施形態では、仮想基準線Lを跨いで基板奥行方向Yの側まで延びている。この長寸円弧状アンテナ素子22は、その円弧の端部の一方である先端部22Xと、該端部の他方である接合部22Yとを有する。ここで、長寸円弧状アンテナ素子22は、第1の円弧状アンテナ素子の一例である。
【0022】
短寸円弧状アンテナ素子24は、本実施形態では、仮想基準線Lよりも基板奥行方向Yの側に形成されている。この短寸円弧状アンテナ素子24は、その円弧の端部の一方である先端部24Xと、該端部の他方である接合部24Yとを有する。そして、短寸円弧状アンテナ素子24の先端部24Xは、長寸円弧状アンテナ素子22の接合部22Yと間隔を隔てて離間して対向している。また、短寸円弧状アンテナ素子24の接合部24Yは、長寸円弧状アンテナ素子22の先端部22Xと間隔を隔てて離間して対向している。ここで、短寸円弧状アンテナ素子24は、第2の円弧状アンテナ素子の一例である。
【0023】
[周波数帯とアンテナ素子との関係]
基板型アンテナ1は、QZSSに対応して、L1帯(1575.42MHz±15.35MHz(以下、「L1」ともいう。))、L2帯(1227.60MHz±1.535MHz(以下、「L2」ともいう。))、L5帯(1176.45MHz±12.45MHz(以下、「L5」ともいう。))の他に、新たに、QZSS独自のL6帯(1278.75MHz±21MHz(以下、「L6」ともいう。))の電波を受信する。
【0024】
図1に示すように、長寸円弧状アンテナ素子22は、中心点Oに対して外側から順に、L5帯、L2帯、L6帯の3つの周波数帯に対応するL5対応素子22D、L2対応素子22C、L6対応素子22Bが一体化された一体アンテナ素子が円弧状に形成されている。また、一体アンテナ素子のうちのL6対応素子22Bよりも中心点Oの側に間隔を隔てて離間された位置に、L1帯に対応するL1対応素子22Aが形成されている。ここで、L1対応素子22Aは、単体アンテナ素子の一例である。
【0025】
短寸円弧状アンテナ素子24は、中心点Oに対して外側から順に、L5帯、L2帯、L6帯の3つの周波数帯に対応するL5対応素子24A、L2対応素子24B、L6対応素子24Cが一体化された一体アンテナ素子が円弧状に形成されている。また、一体アンテナ素子のうちのL6対応素子24Cよりも中心点Oの側に間隔を隔てて離間された位置に、L1帯に対応するL1対応素子24Dが形成されている。ここで、L1対応素子24Dは、単体アンテナ素子の一例である。
【0026】
[アンテナ側結合器]
アンテナ側結合器30は、図1に示すように、中心点Oを通る仮想基準線Lに直交する仮想基準線における基板奥行方向Yの手前側に延びる延長線上に仮想中心を有し、互いに離間して長円形状に形成される4本の素子を有する。また、4本の素子は、中心点Oの周囲に対応する部分でそれぞれが離間されてアンテナ側ギャップ32が形成されている。換言すれば、4本の素子は、長円形状に形成されつつ、その一部が仮想中心に対して基板奥行方向Yの側で分断された形状とされている。また、4本の素子は、仮想中心の外側から順に、第1素子30A、第2素子30B、第3素子30C、及び第4素子30Dとされ、それぞれがアンテナ側ギャップ32の部分で、長寸円弧状アンテナ素子22の接合部22Yと短寸円弧状アンテナ素子24の接合部24Yとが、後述する接合器34で接合されている。
【0027】
[接合器]
接合器34は、図1に示すように、アンテナ側結合器30と長寸円弧状アンテナ素子22と短寸円弧状アンテナ素子24とを接合する。具体的には、アンテナ側結合器30のアンテナ側ギャップ32が形成された部分において、第1素子30Aは、長寸円弧状アンテナ素子22のL1対応素子22Aと短寸円弧状アンテナ素子24の接合部24YにおけるL5対応素子24Aに対応する部分とが接合器34のうちの1本で接合されている。同様に、第2素子30Bは、長寸円弧状アンテナ素子22側のL6対応素子22Bと短寸円弧状アンテナ素子24の接合部24YにおけるL2対応素子24Bに対応する部分とが接合器34のうちの他の1本で接合され、また、第3素子30Cは、長寸円弧状アンテナ素子22側のL2対応素子22Cと短寸円弧状アンテナ素子24の接合部24YにおけるL6対応素子24Cに対応する部分とが接合器34のうちの他の1本で接合され、また、第4素子30Dは、長寸円弧状アンテナ素子22側のL5対応素子22Dと短寸円弧状アンテナ素子24の接合部24YにおけるL1対応素子24Dに対応する部分とが接合器34のうちの残りの1本で接合されている。
【0028】
このように、長寸円弧状アンテナ素子22と短寸円弧状アンテナ素子24とは、第1素子30A、第2素子30B、第3素子30C、及び第4素子30Dの4本の素子を有する接合器34によってアンテナ側結合器30と接合される。これにより、円弧状アンテナ素子20は、全体として、ダイポールアンテナ型円偏波アンテナとして形成される。
【0029】
なお、円弧状アンテナ素子20は、本実施形態では、銅箔を基材として用い、基板10の基板表面10Aに予め形成された銅箔をエッチング手法により形成している。図1では、長寸円弧状アンテナ素子22及び短寸円弧状アンテナ素子24に一点鎖線を記載して各周波数帯を示しているが、これは便宜上の記載であって、周波数ごとに分割された素子が一体化されたものでなく、エッチング手法により3つの周波数に対応する幅で予め一体形成されるものである。
【0030】
[給電側結合器]
給電側結合器40は、図2に示すように、基板10の基板裏面10Bに形成されている。給電側結合器40は、給電結合素子42と、結合器側ギャップ44と、給電点となる第1端子48Aと第2端子48Bと、を含んで構成されている。
【0031】
〔給電結合素子〕
給電結合素子42は、基板裏面10Bにおいて、基板表面10Aに形成されたアンテナ側結合器30の位置に対応して形成されている。給電結合素子42は、中心点Oにおいて仮想基準線Lに直交する仮想基準線における基板奥行方向Yの手前側に延びる延長線上に仮想中心を有し、仮想中心に対して中心点Oと反対側となる基板奥行方向Yの手前側が離間して結合器側ギャップ44を有する長円形状に形成された素子である。換言すれば、給電結合素子42は、長円形状に形成されつつ、その一部が仮想中心に対して基板奥行方向Yの手前側で分断された形状とされている。
【0032】
〔給電点〕
給電点は、第1端子48Aと、第2端子48Bと、を含んで構成されている。具体的には、図2に示すように、給電結合素子42は、結合器側ギャップ44が形成されていることにより、長円形状の結合器側ギャップ44の部分に、一端部42Aと他端部42Bとが形成される。この一端部42Aに、第1給電線46Aが接合され、他端部42Bに第2給電線46Bが接合されており、第1端子48Aは第1給電線46Aに接合され、第2端子48Bは第2給電線46Bに接合され、全体として、給電点が構成される。
【0033】
なお、給電側結合器40は、本実施形態では、銅箔を基材として用い、基板10の基板裏面10Bに予め形成された銅箔をエッチング手法により形成している。
【0034】
以上、説明したように、基板表面10Aに円弧状アンテナ素子20とアンテナ側結合器30が形成され、また、基板裏面10Bに給電側結合器40が形成されて、基板型アンテナ1が構成されるが、円弧状アンテナ素子20の形成に特徴的手法が用いられている。以下、アンテナ素子20の形成手法について説明する。
【0035】
<アンテナ素子の形成手法>
アンテナ素子20は、長寸円弧状アンテナ素子22と、短寸円弧状アンテナ素子24とを有することは、上述したとおりである。図1に示すように、長寸円弧状アンテナ素子22は、中心点Oを中心として、中心点Oよりも基板幅方向Xの反対側に位置する接合部22Yから、中心点Oよりも基板幅方向Xの側に位置する先端部22Xに向けて反時計まわりに延びている。また、短寸円弧状アンテナ素子24は、中心点Oを中心として、中心点Oよりも基板幅方向Xに位置する接合部24Yから、中心点Oよりも基板幅方向Xの反対側に位置する先端部24Xに向けて反時計まわりに延びている。これら、反時計回りに延びる長寸円弧状アンテナ素子22と短寸円弧状アンテナ素子24とで、全体として、左旋回の円弧状アンテナ素子20が形成され、ダイポールアンテナ型円偏波アンテナが構成される。これは、衛星からの電波が右旋偏波であることに対応するためであり、基板型アンテナ1は、換言すれば、左旋円偏波アンテナということができる。
【0036】
長寸円弧状アンテナ素子22及び短寸円弧状アンテナ素子24は、全体として、衛星からの各周波数の電波を受信するための長さ寸法が各周波数によって予め定められている。しかしながら、基板型アンテナ1は単独で使用することはなく、種々のケーシング、例えば、携帯端末のケーシング、又は自動車のアンテナケーシング等、衛星からの電波を受信して、受信した電波を用いる各種機器に内蔵されて使用される。
【0037】
各種のケーシングは、一般に、誘電率2.4程度のポリカーボネート樹脂を基材として用いることが多いが、このケーシングの基材の種類又は板厚等が異なると誘電率が変化する。このことから、長寸円弧状アンテナ素子22及び短寸円弧状アンテナ素子24の合計の長さ寸法は、ケーシングに用いられる材質が有する誘電率によって調整されなければならない。
【0038】
これを実現するには、長寸円弧状アンテナ素子22と短寸円弧状アンテナ素子24との合計の長さ寸法を、L1、L2、L5、L6の各々の周波数に対応する一波長よりも予め短く設定しておく。そして、各々の周波数ごとに、長寸円弧状アンテナ素子22又は短寸円弧状アンテナ素子24又はその両方の長さ寸法を調整しながら、後述するアンテナの楕円偏波の軸比(AR)を3以下に調整していく。これと同時に、図2に示す第1端子48A及び第2端子48Bで構成される給電点におけるL1、L2、L5、L6の各周波数帯のインピーダンスを、50Ω時において、後述する電圧定在波比(VSWR値)が1に近づくように、長寸円弧状アンテナ素子22又は短寸円弧状アンテナ素子24又はその両方の長さ寸法をさらに調整していく。この場合、接合器34のそれぞれの長さ寸法又は太さ又はその両方を調整する場合もある。こうして、各周波数帯間で位相差の無いマルチバンド型円偏波アンテナが実現される。
【0039】
本実施形態では、一例として、基板型アンテナ1の基板10を、ガラスエポキシ樹脂を基材として基板厚み方向Zの寸法(板厚)を0.3mmとし、基板型アンテナ1を取り付けるケーシングを、ポリカーボネート樹脂を基材として板厚を0.2mmとしたとき、長寸円弧状アンテナ素子22と短寸円弧状アンテナ素子24との合計の長さ寸法は、本来の一波長に対応する長さ寸法の80~90%程度の短縮率となる。
【0040】
このように、長寸円弧状アンテナ素子22と短寸円弧状アンテナ素子24との合計の長さ寸法を、衛星からの電波の受信精度をより高めるように調整することで、L1、L2、L5、L6の各々の周波数における電波が高い精度で受信され、この結果、基板型アンテナ1は、GZSS(全地球測位衛星システム)からの電波の受信に高い性能を発揮することができる。
【0041】
<要部の作用>
ここで、要部の作用について、主に図3から図9に基づいて説明する。
【0042】
基板表面10Aに形成されたアンテナ側結合器30と、基板裏面10Bに形成された給電側結合器40とは、基板10の厚みを介して対向している。これにより、アンテナ素子20が受信した各周波数帯であるL1、L2、L5、L6の電波による利得を、アンテナ側結合器30と給電側結合器40が対向する位置に1箇所に合成する。
【0043】
図3は、本発明の基板型アンテナ1による利得を1箇所に合成したときの円偏波アンテナとして実現したL1、L2、L5、L6の各周波数における電圧定在波比(Voltage Standing Wave Ratio(以下、「VSWR値」という。))の特性を示すグラフである。
【0044】
図3に示すように、横軸が周波数であり、縦軸がVSWR値である。周波数帯の低い方から順に、L5、L6、L2、L1の各周波数とVSWR値を示す。図中の四角の中の数値は、それぞれの周波数帯における周波数を左側に記載し、また、VSWR値を右側に記載したものである。これによると、L5は、周波数1.175GHzのとき、VSWR値は1.55である。また、L6は、周波数1.225GHzのとき、VSWR値は1.15である。また、L2は、周波数1.280GHzのとき、VSWR値は1.20である。そして、L1は、周波数1.575GHzのとき、VSWR値は1.12である。ここで、各周波数を5MHz単位としたのは、実験に用いた測定器の最小単位が5MHzであることから、図3では、L5、L6、L2、L1の各周波数の近似値で示している。
【0045】
このように、本実施形態における基板型アンテナ1では、L5、L6、L2、L1の各周波数のVSWR値を1に近似の値とすることができた。
【0046】
次に、図4から図7は、本実施形態におけるL5、L6、L2、L1の周波数ごとの放射特性図であり、図4は周波数L5、図5は周波数L2、図6は周波数L6、図7は周波数L1の各放射特性図である。いずれの周波数においても、放射特性はほぼ円形を示しており、周波数ごとに安定した性能を有することがわかる。
【0047】
図8は、本実施形態の4周波数帯における利得の最大値と平均値を示すグラフである。横軸は周波数であり、縦軸は円偏波における利得である。グラフの左側から順に、L5、L6、L2、L1の利得の最大値と平均値を示す。これによると、L5、L6、L2、L1の周波数における各利得に大きなバラツキがなく、全体として安定した利得の確保ができていることがわかる。
【0048】
図9は、図8で示した周波数ごとの利得の最大値と平均値を表にしたものであり、周波数ごとに軸比(Axial Ratio(以下、「AR」という。))を加えたものである。一般に、円偏波として利用するためにARは3dB以下であることが求められるが、本実施形態では、L5、L6、L2、L1の周波数ごとにそれぞれ3dB以下の数値を得ている。これによると、ARについても、良好な円偏波になっていることが見てとれる(図4から図7で示した各周波数の放射特性図も参照されたい)。
【0049】
以上、説明したように、全地球測位衛星システム用基板型アンテナ1は、基板10と、基板10の基板表面10Aに形成され、中心点Oの周囲に、2つに分割されて配置される複数の周波数帯に対応する円弧状アンテナ素子20が配置される全地球測位衛星システム用基板型アンテナ1であって、円弧状アンテナ素子20は、長寸円弧状アンテナ素子22と短寸円弧状アンテナ素子24とを含んで構成され、長寸円弧状アンテナ素子22及び短寸円弧状アンテナ素子24は、それぞれ、円弧状アンテナ素子20の外周部から内周部に向けて、3つの周波数帯に対応する一体アンテナ素子と、一体アンテナ素子と間隔を隔てて配置される1つの周波数帯に対応する単体アンテナ素子と、を有し、長寸円弧状アンテナ素子の接合部22Yと短寸円弧状アンテナ素子24の接合部24Yとにそれぞれ接合される複数の接合器34と、複数の接合器34が結合されるアンテナ側結合器30と、を有してダイポールアンテナ型円偏波アンテナが構成される。
【0050】
これにより、QZSSに対応する広帯域マルチバンド円偏波を、位相差を抑制しながら受信することができる。
【0051】
また、アンテナ側結合器30は、長円形状であって第1素子30Aから第4素子30Dが間隔を隔てて形成されるとともに、第1素子30Aから第4素子30Dのそれぞれの一部が分断されて間隔を隔てて形成され、複数の接合器34によって、アンテナ側結合器30と長寸円弧状アンテナ素子22と短寸円弧状アンテナ素子24とが結合される。
【0052】
これにより、基板型アンテナ1が受信した衛星からの4つの周波数における電波の利得を1箇所のアンテナ側結合器30にまとめて合成することができる。
【0053】
また、基板型アンテナ1は、一方の面10Aの反対側に対向して形成される他方の面10Bに、前記結合器30に対向する給電結合器40を有し、受信された各周波数帯の利得が前記給電結合器40で合成される。
【0054】
これにより、基板型アンテナ1が受信した衛星からの電波の利得を1箇所の給電結合器40にまとめて合成することができるから、QZSSの電波を精度の高い状態で利用することができる。また、1箇所にまとめられた利得は、第1端子48Aと第2端子48Bとからなる給電点に出力される。また、基板型アンテナ1と5Gとの組み合わせによって、自動運転車両の自動運転、さらには、遠隔操作システムにおいても、L6帯の電波を利用しないものに比べて、高い精度で制御を行わせることができる。
【0055】
以上、本発明のアンテナ基板1の実施形態について説明したが、この実施形態は一例であり、本発明はかかる実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に変更でき、また、本発明の権利範囲が、一例として説明した実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0056】
例えば、基板10の寸法を、34mm×34mm×0.3mmと説明したが、これに限らず、基板10は、平面視で、円形でもよく、また、長方形でもよく、円偏波アンテナとしてのアンテナ素子が形成できる形状、及び板厚であればよい。
【0057】
また、アンテナ側結合器30は、中心点Oを通る仮想基準線Lに直交する仮想基準線における基板奥行方向Yの手前側に延びる延長線上に仮想中心を有すると説明したが、これに限らず、中心点Oを通らない仮想基準線上に仮想中心を有してもよい。この場合、基板裏面10Bに形成される給電側結合器40の給電結合素子42も、移動されたアンテナ側結合器30に対応する位置に変更してよい。
【符号の説明】
【0058】
1 全地球測位衛星システム用基板型アンテナ(基板型アンテナ)
10 基板
10A 基板表面(一方の面の一例)
10B 基板裏面(他方の面の一例)
20 円弧状アンテナ素子
22 長寸円弧状アンテナ素子(第1の円弧状アンテナ素子の一例)
22A L1対応素子(単体アンテナの一例)
22B L6対応素子(L2対応素子とL5対応素子とで構成される一体アンテナ素子の一例)
22C L2対応素子(L6対応素子とL5対応素子とで構成される一体アンテナ素子の一例)
22D L5対応素子(L6対応素子とL2対応素子とで構成される一体アンテナ素子の一例)
22X 先端部
22Y 接合部
24 短寸円弧状アンテナ素子(第2の円弧状アンテナ素子の一例)
24A L5対応素子(L6対応素子とL2対応素子とで構成される一体アンテナ素子の一例)
24B L2対応素子(L6対応素子とL5対応素子とで構成される一体アンテナ素子の一例)
24C L6対応素子(L5対応素子とL2対応素子とで構成される一体アンテナ素子の一例)
24D L1対応素子(単体アンテナの一例)
24X 先端部
24Y 接合部
30 アンテナ側結合器(結合部の一例)
30A 第1素子(結合素子の一例)
30B 第2素子(結合素子の一例)
30C 第3素子(結合素子の一例)
30D 第4素子(結合素子の一例)
32 アンテナ側ギャップ
34 接合器
40 給電側結合器(給電結合部の一例)
42 給電結合素子
42A 一端部
42B 他端部
44 結合器側ギャップ
46A 第1給電線
46B 第2給電線
48A 第1端子
48B 第2端子
O 中心点
L 仮想基準線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9