(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054568
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】印刷画像決定装置および方法並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/21 20060101AFI20220331BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220331BHJP
B41J 29/38 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
B41J2/21
B41J2/01 451
B41J2/01 123
B41J29/38 202
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161684
(22)【出願日】2020-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128451
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】山本 寛峰
(72)【発明者】
【氏名】中田 安美
【テーマコード(参考)】
2C056
2C061
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EB13
2C056EB29
2C056EB45
2C056EC07
2C056EC14
2C056EC28
2C056EC72
2C056HA42
2C061AQ05
2C061AQ06
2C061AR01
2C061AS11
2C061HH03
2C061HJ07
2C061HK05
2C061HK06
2C061HK11
2C061HN04
2C061HN08
2C061HN15
2C061HX01
(57)【要約】
【課題】基材の質感に合った印刷画像を即座に決定する印刷画像決定装置および方法並びにプログラムを提供する。
【解決手段】印刷対象の基材の情報を取得する基材情報取得部11と、基材の情報に応じた複数の印刷画像が予め記憶された印刷画像記憶部12と、基材の情報に基づいて、印刷画像記憶部12に記憶された複数の印刷画像の中から印刷処理を行う印刷画像を選択する印刷画像選択部13とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷対象の基材の情報を取得する基材情報取得部と、
前記基材の情報に応じた複数の印刷画像が予め記憶された印刷画像記憶部と、
前記基材の情報に基づいて、前記印刷画像記憶部に記憶された複数の印刷画像の中から印刷処理を行う印刷画像を選択する印刷画像選択部とを備えた印刷画像決定装置。
【請求項2】
前記基材情報取得部が、前記基材の質感に関する情報として、前記基材の密度を取得する請求項1記載の印刷画像決定装置。
【請求項3】
前記印刷画像記憶部が、前記基材の質感毎に前記印刷画像を分類して記憶する請求項2記載の印刷画像決定装置。
【請求項4】
前記基材の密度に基づいて、前記印刷処理の際に用いるインク量を決定するインク量決定部を備える請求項2または3記載の印刷画像決定装置。
【請求項5】
前記インク量決定部が、前記基材の密度および吸水性に基づいて、前記インク量を決定する請求項4記載の印刷画像決定装置。
【請求項6】
前記基材の密度に基づいて、前記印刷処理の前処理の際に用いる前処理液の量を決定する前処理液量決定部を備える請求項2から5いずれか1項記載の印刷画像決定装置。
【請求項7】
前記前処理液量決定部が、前記基材の密度および吸水性に基づいて、前記前処理液の量を決定する請求項6記載の印刷画像決定装置。
【請求項8】
印刷対象の基材の情報を取得し、その取得した基材の情報に基づいて、予め記憶された複数の印刷画像の中から印刷処理を行う印刷画像を選択する印刷画像決定方法。
【請求項9】
印刷対象の基材の情報を取得するステップと、
前記取得した基材の情報に基づいて、予め記憶された複数の印刷画像の中から印刷処理を行う印刷画像を選択するステップとをコンピュータに実行させる印刷画像決定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷画像決定装置および方法並びにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、紙やフィルムだけでなく、建材や化粧パネルなどの種々の基材に対して印刷処理を施す印刷装置が提案されている。
【0003】
また、このような印刷装置を用いて、これまで印刷対象として用いられていなかった基材に対しても印刷処理を施すような新しい試みも行われようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、このように新しい基材に対して印刷処理を施す場合、紙に対して任意の印刷画像を印刷する場合とは異なり、その基材の質感に合った印刷画像を印刷したいという要望がある。
【0006】
具体的には、たとえば基材が建材である場合には、その建材の質感を生かすような印刷画像を印刷したいという要望がある。基材の質感とは、基材の材質などが持つ視覚的および触覚的な感じであり、たとえばグラスウールからなる断熱材の場合、軽くてふわふわした感じの軽量感を有し、安山岩の場合、重くてどっしりとした感じの重厚感を有する。
【0007】
しかしながら、ユーザが基材の質感を把握し、その質感に合った印刷画像を印刷するためには、既にフリー素材として配布されている膨大な印刷画像の中から選択したり、新たに印刷画像を作成したりする必要があり、即座に入手して印刷することは非常に困難である。
【0008】
なお、特許文献1には、基材上に印刷されたテストパターンを解析して、その基材の印刷特性を評価する方法が提案されているが、上述したように、基材の質感に合った印刷画像に関する記載は一切ない。
【0009】
本発明は、基材の質感に合った印刷画像を即座に決定することができる印刷画像決定装置および方法並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の印刷画像決定装置は、印刷対象の基材の情報を取得する基材情報取得部と、基材の情報に応じた複数の印刷画像が予め記憶された印刷画像記憶部と、基材の情報に基づいて、印刷画像記憶部に記憶された複数の印刷画像の中から印刷処理を行う印刷画像を選択する印刷画像選択部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の印刷画像決定装置によれば、印刷対象の基材の情報を取得し、その基材の情報に基づいて、予め記憶された複数の印刷画像の中から印刷処理を行う印刷画像を選択するようにしたので、基材の質感に合った印刷画像を即座に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の印刷画像決定装置の一実施形態を用いたインクジェット印刷システムの概略構成を示すブロック図
【
図2】基材の質感および色毎に分類された印刷画像の一覧を示す図
【
図5】
図1に示すインクジェット印刷システムの処理を説明するためのフローチャート
【
図6】インクジェット印刷装置の具体的な構成を示す外観図
【
図8】インクジェット印刷装置の制御対象の構成を示すブロック図
【
図9】
図6に示すインクジェット印刷装置の動作を説明するための説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の印刷画像決定装置の一実施形態を用いたインクジェット印刷システムについて詳細に説明する。
図1は、本実施形態のインクジェット印刷システム1の概略構成を示すブロック図である。
【0014】
本実施形態のインクジェット印刷システム1は、
図1に示すように、印刷制御装置10と、インクジェット印刷装置20とを備えている。
【0015】
印刷制御装置10とインクジェット印刷装置20とは、有線またはLAN(Local Area Network)などの無線によって接続されており、互いに通信可能に構成されている。また、印刷制御装置10とインクジェット印刷装置20とをインターネット回線を介して接続するようにしてもよい。
【0016】
印刷制御装置10は、インクジェット印刷装置20に対して、印刷処理に関する種々の制御情報を出力する。印刷制御装置10は、
図1に示すように、基材情報取得部11、印刷画像記憶部12、印刷画像選択部13、インク量決定部14、前処理液量決定部15、乾燥条件決定部16および印刷制御部17を備えている。
【0017】
印刷制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)、半導体メモリおよびハードディスクなどを備えたコンピュータから構成される。印刷制御装置10は、半導体メモリまたはハードディスクなどの記憶媒体に予め記憶された本発明の印刷画像決定プログラムの一実施形態を含む制御プログラムを実行し、かつ電気回路を動作させることによって
図1に示す各部を制御する。
【0018】
基材情報取得部11は、インクジェット印刷装置20における印刷対象の基材の情報を取得する。基材情報取得部11は、基材の情報として、基材の質感に関する情報である基材の密度を取得する。
【0019】
基材の質感とは、基材の素材の質感であり、たとえば基材がグラスウールからなる断熱材である場合には、質感としては軽い感じであり、軽量感を有する。また、基材が、コルクなどの場合には、質感としては柔らかい感じであり、軟質感を有する。また、基材が軽カル板である場合には、質感としては硬い感じであり、硬質感を有する。また、基材が安山岩である場合には、質感としては、ずっしりとした重厚感を有する。
【0020】
そして、上述したような基材の質感は、基材の密度と相関関係があるため、本実施形態の基材情報取得部11は、基材の質感の情報として、基材の密度を取得する。
【0021】
基材の密度は、基材の面積、厚みおよび重量から算出される。本実施形態の基材情報取得部11は、上述した基材の面積、厚みおよび重量の情報を取得し、これらから基材の密度=重量/(面積×厚み)を算出する。
【0022】
また、本実施形態の基材情報取得部11は、基材の情報として、基材の印刷面の色、基材の印刷面の形状および基材の吸収性を取得する。
【0023】
基材の面積、厚みおよび重量、並びに基材の印刷面の色および基材の印刷面の形状は、インクジェット印刷装置20において計測され、インクジェット印刷装置20から印刷制御装置10に出力されるが、その詳細は、後で述べる。また、基材の吸収性は、ユーザによって設定入力されるが、その詳細も、後で述べる。
【0024】
印刷画像記憶部12は、上述した基材の密度および色に応じた複数の印刷画像が予め記憶されている。上記印刷画像は、印刷対象の基材に印刷される印刷画像であって、たとえば初めて印刷対象として使用する基材に対して印刷処理を施した場合に、どのような仕上がりとなるか確認するための印刷画像である。
【0025】
印刷画像記憶部12は、基材の質感および色毎に印刷画像を分類して記憶する。
図2A~
図2Dは、基材の質感および色毎に分類された印刷画像の一覧を示す図である。なお、
図2A~
図2Dにおいては、色の情報として、印刷画像の色の情報(L、a*、b*)を示している。後述する印刷画像選択部13では、基材の色に最も近い色の情報(L、a*、b*)を有する印刷画像を選択するので、実質的に、印刷画像記憶部12は、基材の色毎に分類された印刷画像を記憶していると言える。
【0026】
図2Aは、基材の質感が軽量感である場合、具体的には基材の密度が0.1g/cm
3以下の場合における基材の色毎に分類された印刷画像を示すテーブルである。素材の質感が軽量感である場合の印刷画像としては、和紙(麻紙)、ニット、毛皮およびタオルなどがある。これらの印刷画像は、基材が持つ軽量感をより際立たせる画像である。なお、
図2Aに示すキャンバスは、綿や麻で織られた平織りの厚手生地の表面柄である。
【0027】
図2Bは、基材の質感が軟質感である場合、具体的には基材の密度が0.1g/cm
3超~0.3g/cm
3以下の場合における基材の色毎に分類された印刷画像を示すテーブルである。素材の質感が軟質感である場合の印刷画像としては、和紙(檀紙)、布(帆布)、皮(スウェード)およびデニムなどがある。これらの印刷画像は、基材が持つ軟質感をより際立たせる画像である。
【0028】
図2Cは、基材の質感が硬質感である場合、具体的には基材の密度が0.3g/cm
3超~1.1g/cm
3未満の場合における基材の色毎に分類された印刷画像を示すテーブルである。素材の質感が硬質感である場合の印刷画像としては、ステンレス、アルミ、木材および凝塊岩などがある。これらの印刷画像は、基材が持つ硬質感をより際立たせる画像である。
【0029】
図2Dは、基材の質感が重厚感である場合、具体的には基材の密度が1.1g/cm
3以上の場合における基材の色毎に分類された印刷画像を示すテーブルである。素材の質感が重厚感である場合の印刷画像としては、リン酸亜鉛処理金属、アコンクリート、大理石およびアスファルトなどがある。これらの印刷画像は、基材が持つ重厚感をより際立たせる画像である。
【0030】
印刷画像選択部13は、基材情報取得部11によって取得された基材の密度および色の情報に基づいて、印刷画像記憶部12に予め記憶された複数の印刷画像の中から実際に印刷処理を行う印刷画像を選択する。
【0031】
具体的には、印刷画像選択部13は、基材の密度に基づいて、
図2A~
図2Dのうちのいずれかの質感のテーブルを選択する。次いで、印刷画像選択部13は、選択された質感に分類された複数の印刷画像のうち、基材の色に最も近い色の情報(L、a*、b*)を有する1つの印刷画像を選択する。印刷画像選択部13は、その選択した印刷画像を印刷制御部17に出力する。なお、基材の色に最も近い色の印刷画像を求める方法としては、たとえば基材のL、a*およびb*と、各印刷画像のL、a*およびb*との差をそれぞれ算出し、その差の合計が最も小さい印刷画像を選択するようにすればよい。
【0032】
インク量決定部14は、基材情報取得部11によって取得された基材の密度および吸収性に基づいて、印刷処理の際に用いるインク量を決定する。
【0033】
ここで、出願人の実験によれば、基材の密度が小さくなるほど、その基材に印刷画像を印刷した際に、基材の質感が出にくいことが分かった。密度が小さい軽量感・軟質感の基材に、その対応する印刷画像を印刷した場合、印刷画像の軽量感は、重量感の印刷画像を印刷した場合に比べて目立ちにくくなる。そこで、本実施形態では、印刷画像が印刷された場合に、基材の質感をより際立たせるため、基材の密度が小さくなるほど印刷画像を印刷する際に用いるインク量を多くする。これにより、基材の密度が小さい場合でも、印刷画像が印刷された場合に、基材の質感をより際立たせることができる。
【0034】
また、出願人の実験によれば、インクを吸収し難い基材ほどその基材に印刷画像を印刷した際に、基材の質感が出にくいことが分かった。インクを吸収しない場合、基材上の印刷画像が表面にとどまり、基材の質感と絡んだ状態ではなく、その基材の質感に対応した印字状態を現しにくいためである。そこで、本実施形態では、印刷画像が印刷された場合に、基材の質感をより際立たせるため、インクを吸収し難い基材ほど印刷画像を印刷する際に用いるインク量を多くして、質感を現す印刷画像をはっきりと印字させる。
【0035】
具体的には、インク量決定部14には、
図3に示すようなインク量テーブルが予め記憶されている。インク量決定部14は、基材情報取得部11によって取得された印刷対象の基材の密度と吸収性を取得し、これらに基づいて、
図3に示すインク量テーブルを参照してインク量を決定する。
【0036】
図3に示すインク量テーブルの「小」のモードとは、720×720dpiで、1ドットに対して2ドロップを吐出するモードであり、「大」のモードとは、1080×1080dpiで、1ドットに対して3ドロップを吐出するモードである。なお、ここでは、印刷画像がベタ画像であることを想定して1ドットに対するドロップ数を規定しているが、ベタ画像でない場合には、たとえば「大」モードの1ドロップのインク量を「小」モードの1ドロップのインク量の1.5倍~2倍に設定するようにすればよい。
【0037】
また、
図3に示す基材の吸収性については、基材を45°に傾けて全長135mm、内径×外形が1.7mm×3.1mmのスポイントで水を2滴垂らして2秒経過後の水滴の移動距離を測定し、その測定値を吸水性の値とした。ここで、吸水しやすい基材は、水が基材に吸収されるスピードが速いため、基材上を水がほとんど流れることなく吸収されるので、吸水性の測定値は短くなる傾向となる。一方、吸水し難い基材は、水が基材に吸収されるスピードが遅いため、水が転がるように基材上を流れるので、吸水性の測定値は長くなる傾向となる。すなわち、基材の吸水性の値が大きいほど水を吸収し難いことになる。
【0038】
また、基材の吸収性は、後述する入力部18において、ユーザが設定入力する値である。
【0039】
また、
図3に示すインク量テーブルについては、基材の密度および吸水性の各組み合わせに対して、インク量および印刷解像度を変化させ、基材の各密度(質感)に対応する印刷画像を印字し、にじみ、発色等の画像品位を評価した。その評価結果から、質感を表す印刷画像を基材に適切に再現するための適切なインク量を導き出し、インク量テーブルを作成した。
【0040】
また、インクとしては、水、水分散性樹脂、色材、並びに、アセチレングリコール系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤を含む水性インクジェットインクを用いることが好ましい。具体的には、たとえば特許第6507021号公報に記載のインクを用いることができる。このようなインクを用いた場合、インクが基材に吐出された際に、溶媒である水が速やかに基材内部に浸透し、水分散性樹脂と色材を基材の表面に良好に定着させることができる。特に、シリコーン系界面活性剤は、非常に高い表面張力低下能と接触角低下能を持つため、基材表面にインクが着弾した際の、基材内部へのインクの溶媒の浸透速度を高くすることができると考えられる。その結果、インクの色材及び樹脂粒子は、インクの溶媒から素早く離脱して基材表面に留まり易くなるため、印刷濃度が高く、滲みが少ない印刷画像が得られるものと考えられる。
【0041】
また、インクとしては、色材、水分散性樹脂及び水を少なくとも含有し、水分散性樹脂として、水分散性ウレタン樹脂と、水分散性(メタ)アクリル樹脂又は水分散性スチレン/(メタ)アクリル樹脂とをそれぞれ少なくとも1種含有する水性インクジェットインクを用いることが好ましい。具体的には、たとえば特許第6600483号公報に記載のインクを用いることができる。このようなインクを用いた場合、両水分散性樹脂を含むことで、基材にインクジェット印刷した場合、柔軟性及び光沢性に優れた印刷画像を得ることができる。
【0042】
また、本実施形態では、インク量として「大」と「小」の2段階としたが、これに限らず、たとえば「大」、「中」および「小」の3段階としてもよい。この場合、たとえば「小」のモードの場合は、540×540dpiで、1ドットに対して1ドロップを吐出するモードとし、「中」のモードの場合は、720×720dpiで、1ドットに対して2ドロップを吐出するモードとし、「大」のモードの場合は、1080×1080dpiで、1ドットに対して3ドロップを吐出するモードとすればよい。
【0043】
このようにインク量を変更することによって、印刷画像の画像品位(にじみ、発色)が変わり、印刷画像による基材の質感の表現に影響を与えることができる。
【0044】
また、上記の例では、主走査方向と副走査方向の解像度を同じにしたが、これに限らず、主走査方向と副走査方向の解像度を異なるものとしてもよい。
【0045】
また、上記の例では、「大」、「中」および「小」の各モードにおけるインク量を解像度とドロップ数で規定するようにしたが、基材の印刷面の単位面積当たりのインク量で規定することもできる。この場合、たとえば「大」、「中」および「小」の各モードのインク量の比は、12:4:1とすることができる。なお、「小」モードの「1」のインク量は、約20.3g/m2とする。インクの種類によっては、上記比は多少変わるが、比の大小関係は変わらない。
【0046】
次に、前処理液量決定部15は、基材情報取得部11によって取得された基材の密度および吸収性に基づいて、前処理液の量を決定する。前処理液とは、基材に対して印刷処理を施す前に、基材の印刷面に対して施される前処理で用いられる液のことである。
【0047】
前処理液は、少なくとも水、色材定着成分および表面張力調整剤を含むことが好ましい。また、上記色材定着成分は、カチオン性の水分散性樹脂であることが好ましく、動的光散乱法により測定されるメジアン径が1μm以上10μm以下の大粒子を含むことが好ましい。さらに、動的光散乱法により測定されるメジアン径が1μm未満の小粒子を含むことがより好ましい。具体的には、前処理液として、たとえば特開2018-070758号および国際公開第2016-175167号公報に記載のものを用いることができる。
【0048】
ここで、出願人の実験によれば、上述したように基材の密度が小さくなるほど、その基材に印刷画像を印刷した際に、基材の質感が出にくいことが分かった。そこで、本実施形態では、基材の質感をより際立たせるため、基材の密度が小さくなるほど印刷画像を印刷する際に用いるインク量を多くするが、さらにインクの発色性を良くしたり、にじみを抑制したりすることによって、質感をより際立たせるため、前処理液の量も多くする。
【0049】
また、出願人の実験によれば、上述したようにインクを吸収し難い基材ほどその基材に印刷画像を印刷した際に、基材の質感が出にくいことが分かった。そこで、本実施形態では、基材の質感をより際立たせるため、インクを吸収し難い基材(吸収性の値が大きい基材)ほど、インクの発色性を良くしたり、にじみを抑制したりすることによって、質感をより際立たせるため、前処理液の量を多くする。
【0050】
前処理液量決定部15には、
図4示すような前処理液量テーブルが予め記憶されている。前処理液量決定部15は、基材情報取得部11によって取得された印刷対象の基材の密度と吸収性を取得し、これらに基づいて、
図4に示す前処理液量テーブルを参照して前処理液の量を決定する。
【0051】
図4に示す前処理液量テーブルにおける「35」および「70」は、前処理液の量を示しており、単位はg/m
2である。前処理液の量が「0」の場合には、前処理を行わないことを意味する。
【0052】
また、
図4に示す前処理液量テーブルについては、基材の密度および吸水性の各組み合わせに対して、前処理液の量を変化させ、基材の各密度(質感)に対応する印刷画像を印字し、にじみ、発色等の画像品位を評価した。その評価結果から、質感を表す印刷画像を基材に適切に再現するために必要な前処理液量を導き出し、前処理液量テーブルを作成した。
【0053】
乾燥条件決定部16は、基材の耐熱温度に基づいて、基材の前処理液の乾燥条件およびインクの乾燥条件を決定する。
【0054】
具体的には、乾燥条件決定部16は、基材の耐熱温度に基づいて、前処理液の乾燥温度を決定する。基材の耐熱温度と前処理液の乾燥温度との関係は、予め設定されているものとする。また、基材の耐熱温度については、後述する入力部18において、ユーザによって設定入力される。
【0055】
そして、乾燥条件決定部16には、乾燥温度と前処理液の量の組み合わせ毎の乾燥時間が予め設定された前処理液乾燥時間テーブルが記憶されている。乾燥条件決定部16は、基材の耐熱温度から決定した乾燥温度と、前処理液量決定部15において決定された前処理液の量に基づいて、上述した前処理液乾燥時間テーブルを参照し、前処理液の乾燥時間を決定する。
【0056】
乾燥条件決定部16は、決定した前処理液の乾燥温度と乾燥時間とを後述する表示部19に出力して表示させ、ユーザに提示する。
【0057】
また、乾燥条件決定部16には、乾燥温度とインク量の組み合わせ毎の乾燥時間が予め設定されたインク乾燥時間テーブルが記憶されている。乾燥条件決定部16は、基材の耐熱温度から決定した乾燥温度と、インク量決定部14において決定されたインク量に基づいて、上述したインク乾燥時間テーブルを参照し、インクの乾燥時間を決定する。
【0058】
乾燥条件決定部16は、決定したインクの乾燥温度と乾燥時間とを後述する表示部19に出力して表示させ、ユーザに提示する。
【0059】
印刷制御部17は、印刷画像選択部13によって選択された印刷画像、インク量決定部14によって決定されたインク量および前処理液量決定部15によって決定された前処理液の量に基づいて制御信号を生成し、その生成した制御信号をインクジェット印刷装置20に出力する。
【0060】
インクジェット印刷装置20は、印刷制御部17から出力された制御信号に基づいて、前処理液を塗布し、その後、印刷画像に応じたインク吐出制御を行うことによって、基材上に印刷画像を印刷する。
【0061】
次に、インクジェット印刷装置20について説明する。インクジェット印刷装置20は、
図1に示すように、前処理部21、印刷処理部22、厚さ検出部23、基材撮像部24および重量計測部25を備えている。
【0062】
前処理部21は、印刷制御装置10から出力された制御信号に基づいて、基材上に前処理液を塗布することによって前処理を行う。この前処理の際の前処理液の量は、印刷制御装置10の前処理液量決定部15によって決定された前処理液の量に制御される。
【0063】
印刷処理部22は、複数のインクジェットヘッドを備え、印刷制御装置10から出力された制御信号に基づいて、インクジェットヘッドからインクを吐出することによって、基材上に、印刷画像選択部13によって選択された印刷画像を印刷する。この印刷処理の際のインク量は、印刷制御装置10のインク量決定部14によって決定されたインク量に制御される。また、印刷範囲は、印刷制御装置10の基材情報取得部11によって取得された基材の印刷面の形状に基づいて制御される。
【0064】
厚さ検出部23は、基材の厚さを検出する。具体的には、厚さ検出部23は、レーザ型センサを用いて基材の厚さを検出する。厚さ検出部23によって検出された基材の厚さは、印刷制御装置10の基材情報取得部11に出力される。
【0065】
基材撮像部24は、基材の印刷面を撮像し、その撮像信号を印刷制御装置10に出力する。具体的には、基材撮像部24は、たとえばCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサを用いて基材の印刷面を撮像する。基材撮像部24によって撮像された撮像信号は、印刷制御装置10の基材情報取得部11に出力される。基材情報取得部11は、入力された撮像信号に基づいて、基材の面積、基材の印刷面の色および形状を取得する。
【0066】
重量計測部25は、たとえば重量センサを用いて印刷対象の基材の重量を計測する。重量計測部25によって計測された基材の重量は、印刷制御装置10の基材情報取得部11に出力される。
【0067】
また、印刷制御装置10には、
図1に示すように、入力部18および表示部19が接続されている。入力部18は、マウスやキーボードなどの入力デバイスを備えており、上述した基材の吸収性や耐熱温度などの種々の情報のユーザによる設定入力を受け付ける。表示部19は、液晶ディスプレイなどの表示デバイスを備えており、上述した前処理液の乾燥温度および乾燥時間並びにインクの乾燥温度および乾燥時間などを表示し、ユーザに対して提示する。
【0068】
次に、本実施形態のインクジェット印刷システム1の処理について、
図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0069】
まず、インクジェット印刷装置20に対して、印刷対象の基材が設置される(S10)。そして、ユーザが、入力部18を用いて基材の吸収性および耐熱温度を設定入力し、この基材の情報が基材情報取得部11によって取得される(S12)。
【0070】
次いで、重量計測部25によって基材の重量が計測され、基材情報取得部11によって取得される(S14)。
【0071】
そして、基材撮像部24によって基材の表面が撮像されるともに、厚さ検出部23によって基材の厚さが検出され、基材の表面の撮像信号と厚さが、基材情報取得部11によって取得される(S16)。
【0072】
次に、基材情報取得部11は、基材の撮像信号に基づいて、基材の面積を算出し、基材の重量、面積および厚みから密度を算出するとともに、基材の撮像信号に基づいて、基材の印刷面の色および形状を取得する(S18)。
【0073】
そして、インク量決定部14および前処理液量決定部15が、基材情報取得部11により取得された基材の吸収性および密度に基づいて、インク量および前処理液の量を決定する(S20)。
【0074】
また、印刷画像選択部13が、基材情報取得部11により取得された基材の密度および色の情報に基づいて、印刷画像記憶部12に予め記憶された複数の印刷画像の中から実際に印刷処理を行う印刷画像を選択する(S22)。
【0075】
さらに、乾燥条件決定部16が、ユーザによって設定入力された基材の耐熱温度と、インク量決定部14によって決定されたインク量と、前処理液量決定部15によって決定された前処理液の量とに基づいて、前処理液の乾燥温度および乾燥時間並びにインクの乾燥温度および乾燥時間を決定し、これらを表示部19に表示することによってユーザに提示する(S24)。
【0076】
そして、インクジェット印刷装置20の前処理部21が、基材に対して前処理を行う(S26)。前処理が終了した後、ユーザが、インクジェット印刷装置20から図示省略した乾燥装置に基材を移し、乾燥装置において、基材に塗布された前処理液の乾燥処理が行われる(S28)。この際、ユーザは、表示部19に表示された前処理液の乾燥温度および乾燥時間を乾燥装置に設定する。
【0077】
前処理液の乾燥が終了した後、ユーザが、乾燥装置から基材を取り出し、インクジェット印刷装置20に再び設置する。そして、印刷処理部22が、基材上に、印刷画像選択部13によって選択された印刷画像を印刷する(S30)。
【0078】
印刷処理が終了した後、ユーザが、インクジェット印刷装置20から乾燥装置に基材を移し、乾燥装置において、基材に吐出されたインクの乾燥処理が行われる(S32)。この際、ユーザは、表示部19に表示されたインクの乾燥温度および乾燥時間を乾燥装置に設定する。
【0079】
以上が、本実施形態のインクジェット印刷システム1の処理の説明である。
【0080】
上記実施形態のインクジェット印刷システム1によれば、印刷対象の基材の情報を取得し、その基材の情報に基づいて、予め記憶された複数の印刷画像の中から印刷処理を行う印刷画像を選択するようにしたので、基材の質感に合った印刷画像を即座に決定することができる。
【0081】
また、上記実施形態のインクジェット印刷システム1においては、印刷画像記憶部12が、基材の質感および色毎に印刷画像を分類して記憶するようにしたので、基材の質感および色にあった印刷画像をより簡易な構成で管理することができる。
【0082】
また、上記実施形態のインクジェット印刷システム1においては、基材の密度に基づいて、印刷処理の際のインク量を決定するようにしたので、基材の質感をより際立たせることができる。また、基材の密度だけでなく、吸収性も考慮してインク量を決定することによって、さらに基材の質感をより際立たせることができる。
【0083】
また、上記実施形態のインクジェット印刷システム1においては、基材の密度に基づいて、印刷処理の際の前処理液の量を決定するようにしたので、基材の質感をより際立たせることができる。また、基材の密度だけでなく、吸収性も考慮して前処理液の量を決定することによって、さらに基材の質感をより際立たせることができる。
【0084】
なお、本実施形態では、基材の密度および吸収性に基づいて、インク量と前処理液の量を変更しているが、インク量と前処理液の量とでは、インク量の変更の方が優先度が高い。これは、前処理よりもインク量の方が基材の質感の表現に対する影響が大きいからである。したがって、たとえば前処理液の量は固定とするもしくは前処理は行わないものとして、インク量のみを変更するようにしてもよい。
【0085】
次に、上述したインクジェット印刷装置20のより具体的な構成について説明する。
図6は、本実施形態のインクジェット印刷装置20の構成図である。以下に示す実施形態の説明では、
図6に矢印で示す上下左右前後を、本実施形態のインクジェット印刷装置20の上下左右前後方向とする。
【0086】
本実施形態のインクジェット印刷装置20は、
図6に示すように、シャトルベースユニット2と、フラットベッドユニット3と、シャトルユニット4と、前処理ユニット6とを備えている。
【0087】
シャトルベースユニット2は、シャトルユニット4および前処理ユニット6を支持するとともに、前後方向(副走査方向)にシャトルユニット4および前処理ユニット6を移動させるものである。シャトルベースユニット2は、具体的には、架台部31と、副走査駆動ガイド33A,33Bと、副走査駆動モータ32(
図8参照)とを備えている。
【0088】
架台部31は、矩形枠状に形成されたものであり、シャトルユニット4および前処理ユニット6を支持するものである。架台部31の左右の枠上には、前後方向に延びる副走査駆動ガイド33A,33Bがそれぞれ形成されている。副走査駆動ガイド33A,33Bは、シャトルユニット4および前処理ユニット6を前後方向に移動するようにガイドするものである。副走査駆動モータ32は、シャトルユニット4および前処理ユニット6を前後方向に移動させるものである。
【0089】
フラットベッドユニット3は、上述した基材5を支持するものである。フラットベッドユニット3は、シャトルベースユニット2の架台部31の内側に形成された直方体形状の凹部内に配置されている。フラットベッドユニット3は、基材5が載置される水平面である媒体載置面3aを有している。フラットベッドユニット3は、図示省略した油圧駆動機構などを有し、これにより媒体載置面3aの高さを調整できるように構成されている。
【0090】
シャトルユニット4は、基材5に対して印刷処理を施すものであり、
図1に示す印刷処理部22に相当するものである。
図7は、シャトルユニット4の概略構成を示す図である。
【0091】
シャトルユニット4は、
図7に示すように、筐体41と、主走査駆動ガイド42と、主走査駆動モータ43(
図8参照)と、ヘッド昇降ガイド44と、ヘッド昇降モータ45(
図8参照)と、ヘッドユニット46とを備えている。
【0092】
筐体41は、ヘッドユニット46などの各部を収納するものである。筐体41は、フラットベッドユニット3を左右方向に跨ぐような門型に形成されている。筐体41は、シャトルベースユニット2の架台部31に支持され、副走査駆動ガイド33A,33Bに沿って移動可能に構成されている。
【0093】
主走査駆動ガイド42は、ヘッドユニット46を左右方向(主走査方向)に移動するようにガイドするものである。主走査駆動ガイド42は、左右方向に延びる長尺状の部材によって形成されている。ヘッドユニット46は、主走査駆動モータ43によって左右方向に移動する。
【0094】
ヘッド昇降ガイド44は、ヘッドユニット46を上下方向に移動するようガイドするものである。ヘッド昇降ガイド44は、上下方向に細長い形状の部材から形成されている。ヘッド昇降ガイド44は、ヘッドユニット46とともに主走査駆動ガイド42に沿って左右方向に移動可能に構成されている。ヘッドユニット46は、ヘッド昇降モータ45によって上下方向に昇降する。
【0095】
ヘッドユニット46は、上述したように主走査駆動ガイド42に沿って左右方向に移動しながら、基材にインクを吐出することによって印刷処理を施すものである。ヘッドユニット46は、
図7に示すように、4つのインクジェットヘッド51を有している。
【0096】
4つのインクジェットヘッド51は、左右方向に並列して配置されている。4つのインクジェットヘッド51は、それぞれ異なる色(たとえばシアン、ブラック、マゼンダおよびイエロー)のインクを吐出するものである。4つのインクジェットヘッド51には、それぞれインクを供給するインク供給管53が接続されている。
【0097】
また、シャトルユニット4は、上述した厚さ検出部23および基材撮像部24を備えている。基材撮像部24は、主走査方向に延設されたラインセンサから構成されている。基材撮像部24は、シャトルユニット4の副走査方向への移動とともに、基材5の印刷面を走査し、基材5の印刷面全体を撮像する。
【0098】
また、厚さ検出部23は、透過型の光学センサを備えたものであり、
図7に示すように、センサ光を出射する発光部23aと、発光部23aから出射されたセンサ光を受光する受光部23bとを備えている。発光部23aと受光部23bは、
図7に示すように、同じ高さであって、左右方向について基材5の両外側に配置されている。
【0099】
また、厚さ検出部23は、発光部23aおよび受光部23bを上下方向(鉛直方向)に移動させるセンサ昇降モータ(図示省略)を備えている。厚さ検出部23は、発光部23aおよび受光部23bの上下方向への移動を繰り返し行って基材5の表面の検出することによって、基材5の厚さを検出する。基材5の厚さ検出は、シャトルユニット4が、基材5上の所定の位置に配置されたときに行うようにしてもよいし、シャトルユニット4を副走査方向に移動させつつ、基材5の複数個所で検出し、その平均値や最大値を算出するようにしてもよい。
【0100】
図6に戻り、前処理ユニット6は、基材5に対して前処理液を塗布して前処理を行うものである。基材5に対して前処理を塗布する構成としては、たとえばシャトルユニット4内に設けられたヘッドユニット46および主走査駆動ガイド42などと同様の構成を設け、ヘッドユニット46にインクを供給する代わりに、前処理液を供給することによって、基材5に対して前処理を吐出するようにすればよい。または、前処理液が塗布された刷毛またはブレードを左右方向(主走査方向)に移動させることによって、基材5上に前処理液を塗布する構成としてもよい。
【0101】
そして、前処理ユニット6は、シャトルベースユニット2の架台部31に支持され、副走査駆動ガイド33A,33Bに沿って移動可能に構成されている。前処理ユニット6は、副走査方向への移動によって、その下方の基材5上の所定範囲に前処理液を順次塗布するものである。
【0102】
図8は、本実施形態のインクジェット印刷装置20の制御対象の構成を示すブロック図である。インクジェット印刷装置20は、上述したように印刷制御装置10からの制御信号に応じて、
図8に示す制御対象の各部を動作させる。
【0103】
次に、本実施形態のインクジェット印刷装置20の動作について、
図9A~
図9Dを参照しながら説明する。なお、
図9A~
図9Dは、
図6に示すインクジェット印刷装置20を左側から見た図である。
【0104】
まず、
図9Aに示すように、フラットベッドユニット3上に基材5が載置される。この際、シャトルユニット4および前処理ユニット6は、
図9Aに示すように、最も前側の初期位置に配置されている。そして、印刷制御装置10は、副走査駆動モータ32を駆動し、これによりシャトルユニット4および前処理ユニット6が、
図9Aに示す初期位置から後方向(
図9Aに示す矢印方向)に移動を開始し、
図9Bに示す印刷開始位置まで移動する。
【0105】
シャトルユニット4および前処理ユニット6が、初期位置から印刷開始位置まで移動する間、基材5の印刷面がシャトルユニット4内の基材撮像部24(ラインセンサ)によって撮像されるとともに、厚さ検出部23によって基材5の厚さが検出される。
【0106】
次に、印刷制御装置10は、
図9Cに示すように、前処理ユニット6を前方向(
図10Cに示す矢印方向)に移動させるとともに、前処理ユニット6を動作させ、基材5に前処理液を塗布して前処理を行う。
【0107】
そして、前処理ユニット6によって基材5に前処理液が塗布された後、上述した乾燥処理が行われる。乾燥処理が終了した後、基材5が再び設置され、印刷制御装置10は、副走査駆動モータ32を制御して、
図9Dに示すようにシャトルユニット4を前方向(
図9Dに示す矢印方向)に移動させながら印刷処理を行う。
【0108】
具体的には、印刷制御装置10は、まず、シャトルユニット4が印刷開始位置に配置された状態において、主走査駆動モータ43を制御してヘッドユニット46を主走査方向に移動させる。そして、ヘッドユニット46のインクジェットヘッド51が、印刷画像に基づく制御信号に応じてインクを吐出させることによって、1パス分の印刷が行われる。
【0109】
1パス分の印刷が終了した後、印刷制御装置10は、副走査駆動モータ32を制御してシャトルユニット4を次のパスの印刷位置まで前方向に移動させる。印刷制御装置10は、この1パス分の印刷とシャトルユニット4の移動とを交互に繰り返すことにより、基材5に印刷画像を形成する。
【0110】
そして、1枚分の印刷処理が終了した時点において、シャトルユニット4および前処理ユニット6は、
図9Dに示すように、再び初期位置に配置された状態となる。その後、上述した乾燥処理が行われる。
【0111】
なお、上記実施形態のインクジェット印刷装置20においては、乾燥装置を別の構成としたが、前処理ユニット6のように、インクジェット印刷装置20に乾燥ユニットを設け、乾燥ユニットで基材を走査することによって乾燥処理を行うようにしてもよい。
【0112】
また、上記実施形態のインクジェット印刷装置20においては、前処理ユニット6を設けるようにしたが、前処理ユニット6は、インクジェット印刷装置20と別体で構成するようにしてもよい。
【0113】
また、上記実施形態のインクジェット印刷システム1においては、基材の質感(密度)と色に応じた複数の印刷画像を予め記憶し、印刷対象の基材の質感(密度)と色に応じて印刷画像を選択するようにしたが、これに限らず、たとえば基材の種類の情報と印刷画像とを対応付けたテーブルを予め記憶しておき、印刷対象の基材の種類に応じて上記テーブルを参照して印刷画像を選択するようにしてもよい。
【0114】
また、上記実施形態のインクジェット印刷システム1においては、基材の質感に関する情報として基材の密度を用いているが、これに限らず、基材の密度および重量の両方を考慮し、密度が相対的に小さくかつ重量が相対的に軽い基材を、軽量感を有する基材とし、密度が相対的に大きくかつ重量が相対的に重い基材を、重量感を有する基材としてもよい。さらに、重量感を有する基材の密度および重量に対して、密度のみが相対的に大きい基材を、硬質感を有する基材としてもよい。
【0115】
また、上記実施形態は、本発明の印刷画像決定装置をインクジェット印刷システム1に適用した例であるが、印刷装置としては、インクジェット方式に限らず、たとえばレーザ方式の印刷装置を用いるようにしてもよい。
【実施例0116】
次に、上記本実施形態のインクジェット印刷システム1の実施例および比較例を下表1に示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。表1では、基材種類、色、面積(サイズ)、吸水性および密度、基材の吸水性および密度に応じた前処理液とインクの量および乾燥処理条件、並びに基材の密度(質感)および色に応じて選択された印刷画像を示している。なお、形状変更の有無とは、基材の印刷面の形状に応じて印刷画像の形状を変更したか否かを示している。
【0117】
ここでは、印刷画像が印刷された基材を肉眼で観察し、「柄マッチング性(色)」、「柄マッチング性(質感)」、「画像品位(にじみ)」および「画像品位(発色)」を評価した。
【0118】
「柄マッチング性(色)」については、基材の全体の色感と印刷画像の全体の色感が近い場合には「A」とし、基材の全体の色感と印刷画像の全体の色感が近い傾向である場合には「B」とし、基材の全体の色感と印刷画像の全体の色感が全く異なる場合には「C」とした。
【0119】
「柄マッチング性(質感)」については、基材の持つ質感と印刷画像の持つ質感が近い場合には「A」とし、基材の持つ質感と印刷画像の持つ質感が近い傾向である場合には「B」とし、基材の持つ質感と印刷画像の持つ質感が全く異なる場合には「C」とした。
【0120】
「画像品位(にじみ)」については、基材と人(顔)との距離を変化させ、印刷画像の細部が再現できているかを確認することによって評価を行った。上記距離が短いほど「にじみ」による画質の劣化が分かりやすくなるので、上記距離が短く、かつ画像が再現できていることが分かる状態が画像品位「にじみ」としては評価が高いということになる。
【0121】
具体的には、上記距離が30cm程度の場合に、基材上に印刷画像の細部が再現できていることが分かる場合には「A」とし、上記距離が60cm程度の場合に、基材上に印刷画像の細部が再現できていることが分かる場合には「B」とし、上記距離が60cm程度の場合でも、基材上に印刷画像の細部が再現できていることが分からない場合には「C」とした。
【0122】
「画像品位(発色)」については、印刷画像の色合いが鮮やかに再現できている場合には「A」とし、印刷画像の色合いが再現できている場合には「B」とし、印刷画像の色合いが再現できていない場合には「C」とした。
【0123】
そして、上述した4つの評価結果を踏まえて、印刷処理後の基材が、その基材の質感をどの程度表現できているかを質感の総合評価として評価した。質感の総合評価としては、「優良」、「良」、「可」および「不可」の4段階で評価した。
【0124】
実施例1~実施例4については、「柄マッチング性(色)」、「柄マッチング性(質感)」、「画像品位(にじみ)」および「画像品位(発色)」の全ての評価結果が「A」であった。この場合には、基材の質感が印刷画像によって非常に良く表現できており、質感の総合評価は「優良」であった。
【0125】
実施例5、6および比較例1は、実施例1と同じ断熱材を基材とした場合であるが、実施例5については、前処理を行わなかったため、「画像品位(にじみ)」および「画像品位(発色)」が「B」であった。この場合には、印刷画像とインク量は適切であるため、基材の質感をある程度表現できており、質感の総合評価は「良」であった。
【0126】
また、実施例6については、基材の密度が0.033g/cm
3であり、かつ吸収性が5cm/s以上である場合には、
図3に示すインク量テーブルではインク量「大」モードであるが、実施例6ではインク量を「小」モードとしたので、「画像品位(発色)」が「C」であった。この場合には、印刷画像は適切であるため、基材の質感をある程度表現できているものの、インク量が不適切であるため、前処理を行っていないがインク量が適切である実施例5と比較すると、質感の総合評価は低く、「可」であった。
【0127】
比較例1については、軽量感に分類される印刷画像ではなく、重厚感に分類される印刷画像を印刷したため、「柄マッチング性(色)」および「柄マッチング性(質感)」が「C」であった。この場合には、基材の質感が印刷画像によって表現できておらず、質感の総合評価は「不可」であった。
【0128】
なお、質感の総合評価については、ここでは実施例、比較例として示していないが、たとえば印刷画像の選択が不適切であって、4つの評価項目のうちの、「柄マッチング性(質感)」が「C」の場合には、その他の3つの評価項目が「A」でも質の総合評価としては「不可」であった。「柄マッチング性(質感)」および「柄マッチング性(色)」のうち、質の総合評価に影響が大きいのは、「柄マッチング性(質感)」であり、「柄マッチング性(色)」は、基材の質感をより際立たせるものであった。
【0129】
また、たとえば印刷画像の選択が適切であり、4つの評価項目のうちの「柄マッチング性(質感)」が「A」であり、その他の3つの評価項目のうちの少なくとも1つが「B」かつそれ以外が「A」の場合には、質の総合評価は「良」または「可」であった。
【0130】
また、たとえば印刷画像の選択が適切であり、4つの評価項目のうちの「柄マッチング性(質感)」が「A」であり、その他の3つの評価項目のうちの少なくとも1つが「C」である場合も、質の総合評価は「良」または「可」であった。
【表1】
【0131】
本発明に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記)
【0132】
本発明の印刷画像決定装置において、基材情報取得部は、基材の質感に関する情報として、基材の密度を取得することができる。
【0133】
また、本発明の印刷画像決定装置において、印刷画像記憶部は、基材の質感毎に印刷画像を分類して記憶することができる。
【0134】
また、本発明の印刷画像決定装置において、印刷画像記憶部は、基材の質感および色毎に印刷画像を分類して記憶することができる。
【0135】
また、本発明の印刷画像決定装置においては、基材の密度に基づいて、印刷処理の際に用いるインク量を決定するインク量決定部を備えることができる。
【0136】
また、本発明の印刷画像決定装置において、インク量決定部は、基材の密度および吸水性に基づいて、インク量を決定することができる。
【0137】
また、本発明の印刷画像決定装置においては、基材の密度に基づいて、印刷処理の前処理の際に用いる前処理液の量を決定する前処理液量決定部を備えることができる。
【0138】
また、本発明の印刷画像決定装置において、前処理液量決定部は、基材の密度および吸水性に基づいて、前処理液の量を決定することができる。
【0139】
本発明の印刷画像決定方法は、印刷対象の基材の情報を取得し、その基材の情報に基づいて、予め記憶された複数の印刷画像の中から印刷処理を行う印刷画像を選択する。
【0140】
本発明の印刷画像決定プログラムは、印刷対象の基材の情報を取得するステップと、その取得した基材の情報に基づいて、予め記憶された複数の印刷画像の中から印刷処理を行う印刷画像を選択するステップとをコンピュータに実行させる。