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特開2022-54601床版の継手構造および床版の更新または拡幅方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054601
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】床版の継手構造および床版の更新または拡幅方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20220331BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20220331BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D22/00 A
E01D21/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161735
(22)【出願日】2020-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】509200613
【氏名又は名称】株式会社横河NSエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】岡部 健
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA07
2D059AA17
2D059GG39
2D059GG55
(57)【要約】      (修正有)
【課題】サンドイッチ型複合床版の補修、取替や拡幅などを容易かつ迅速に行うことができる床版の継手構造および床版の更新または拡幅方法を提供する。
【解決手段】サンドイッチ型複合床版1によって構成される橋梁の床版の更新または拡幅のための床版の継手構造であって、床版の更新位置または拡幅位置に位置するサンドイッチ型複合床版1の鋼殻パネルの端部の内側に仕切り板7を設ける。鋼殻パネルの端部に仕切り板7と上鋼板の張出部と下鋼板の張出部と形鋼の張出部とで囲まれる中空部5を形成し、中空部5を橋梁の床版の更新または拡幅のためのボルト接合用の継手配置区間とする。橋梁の床版の更新または拡幅の際には、継手配置区間において隣り合う鋼殻パネルの上鋼板張出部どうし、下鋼板張出部どうし、および形鋼張出部どうしをボルト接合する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上鋼板と下鋼板と前記上鋼板および下鋼板間をつなぐ形鋼を備えた鋼殻パネルと、前記鋼殻パネル内に充填される中詰めコンクリートと、からなるサンドイッチ型複合床版によって構成される橋梁の床版の更新または拡幅のための床版の継手構造であって、前記床版の更新位置または拡幅位置に位置するサンドイッチ型複合床版の前記鋼殻パネルの端部の内側に仕切り板が設けられ、前記鋼殻パネルの端部に前記仕切り板と前記上鋼板の張出部と前記下鋼板の張出部と前記形鋼の張出部とで囲まれる中空部が形成されており、前記中空部を橋梁の床版の更新または拡幅のためのボルト接合用の継手配置区間とし、前記橋梁の床版の更新または拡幅の際には、前記継手配置区間において隣り合う鋼殻パネルの上鋼板張出部どうし、下鋼板張出部どうし、および形鋼張出部どうしがボルト接合されるようにしたことを特徴とする橋梁の床版の更新または拡幅のための床版の継手構造。
【請求項2】
請求項1記載の床版の継手構造において、前記中空部には中詰めコンクリートが充填されていないことを特徴とする床版の継手構造。
【請求項3】
請求項1記載の床版の継手構造において、前記中空部には中詰めコンクリートが充填されていることを特徴とする床版の継手構造。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の床版の継手構造において、前記継手配置区間を道路の中央分離帯の位置に設けるようにしたことを特徴とする床版の継手構造。
【請求項5】
上鋼板と下鋼板と前記上鋼板および下鋼板間をつなぐ形鋼を備えた鋼殻パネルと、前記鋼殻パネル内に充填される中詰めコンクリートと、からなるサンドイッチ型複合床版によって構成される橋梁の既設床版を新設床版に取り替える床版の更新方法であって、前記床版の更新位置に位置する継手は、サンドイッチ型複合床版の前記鋼殻パネルの端部の内側に仕切り板が設けられ、前記鋼殻パネルの端部に前記仕切り板と前記上鋼板の張出部と前記下鋼板の張出部と前記形鋼の張出部とで囲まれる中空部が形成されており、前記中空部を橋梁の床版の更新のためのボルト接合用の継手配置区間とし、前記継手配置区間において隣り合う鋼殻パネルの上鋼板張出部どうし、下鋼板張出部どうし、および形鋼張出部どうしをボルト接合する継手構造となっており、前記橋梁の床版の更新の際には、前記継手配置区間において隣り合う鋼殻パネルの上鋼板張出部どうし、下鋼板張出部どうし、および形鋼張出部どうしを接合しているボルトを外して、既設のサンドイッチ型複合床版を取り外し、前記既設のサンドイッチ型複合床版を取り外した位置に新設のサンドイッチ型複合床版を設置し、新設のサンドイッチ型複合床版の鋼殻パネルの上鋼板張出部、下鋼板張出部、および形鋼張出部をボルト接合することを特徴とする床版の更新構造。
【請求項6】
上鋼板と下鋼板と前記上鋼板および下鋼板間をつなぐ形鋼を備えた鋼殻パネルと、前記鋼殻パネル内に充填される中詰めコンクリートと、からなるサンドイッチ型複合床版によって構成される橋梁の床版を拡幅する床版の拡幅方法であって、
前記床版の拡幅位置に位置する継手は、サンドイッチ型複合床版の前記鋼殻パネルの端部の内側に仕切り板が設けられ、前記鋼殻パネルの端部に前記仕切り板と前記上鋼板の張出部と前記下鋼板の張出部と前記形鋼の張出部とで囲まれる中空部が形成されており、前記中空部を橋梁の床版の拡幅のためのボルト接合用の継手配置区間とし、前記継手配置区間において鋼殻パネルの上鋼板張出部、下鋼板張出部、および形鋼張出部と壁高欄とをボルト接合する継手構造となっており、前記橋梁の床版の拡幅の際には、前記継手配置区間において、前記上鋼板張出部、下鋼板張出部、および形鋼張出部と前記壁高欄を取り外し、前記既設の壁高欄を取り外した位置に拡幅用サンドイッチ型複合床版を設置し、既設のサンドイッチ型複合床版と拡幅用サンドイッチ型複合床版の鋼殻パネルの上鋼板張出部どうし、下鋼板張出部どうし、および形鋼張出部どうしをボルト接合し、前記拡幅用サンドイッチ型複合床版の鋼殻パネルの端部に新設の壁高欄を接合することを特徴とする橋梁の床版の拡幅方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の橋梁などに敷設されている床版(特に、サンドイッチ型複合床版)において補修や張替えが容易かつ迅速に行える床版の継手構造および床版の更新または拡幅方法に関するものである。
【0002】
橋梁などにおいては、従来から鉄筋コンクリート床版(以下、RC床版)、プレストレスコンクリート床版(以下、PC床版)、鋼・コンクリート合成床版などが用いられている。しかし、古くから用いられている床版に対して、老朽化や経年劣化、交通量の増加に伴う劣化から床版の補修や張替えが必要となっており、例えば特許文献1~3、非特許文献1~3に示すものがある。
【0003】
特許文献1には、既設橋梁の床版および橋桁が撤去された既設の橋脚の上面に、プレキャスト合成床版パネルユニットを架設して合成パネル橋梁を形成する橋梁の架け替え方法であって、前記プレキャスト合成床版パネルユニットは、上下フランジとウェブまたは下フランジとウェブを備えた橋軸方向の主桁と、前記主桁の上面に固定された底鋼板と、前記底鋼板の上面に橋軸方向に間隔をおいて配置された複数の形鋼と、前記底鋼板の上面にあらかじめ一体化された床版コンクリートを構成要素とし、前記プレキャスト合成床版パネルユニットを構成する主桁の少なくとも一端は該主桁の上フランジ側の一部が突出部として残された形で切欠かれた形状となっており、前記既設橋梁の床版および橋桁を撤去する工程と、前記床版および橋桁が撤去された既設の橋脚の上面に複数の支承を介して橋軸直角方向の横桁を設置する工程と、前記プレキャスト合成床版パネルユニットを、前記突出部を前記横桁の上面に載置する形で橋脚間または橋脚と橋台との間に順次橋軸直角方向に複数並列させて架設する工程と、橋軸直角方向に並列させて架設された前記複数のプレキャスト合成床版パネルユニットどうしを接続する工程と、前記横桁を挟んで隣接する径間の橋軸方向に連続するプレキャスト合成床版パネルユニットの主桁の突出部どうしをスプライスプレートを介してボルト接合により連結する工程と、を有することを特徴とする橋梁の架け替え方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、既設のコンクリート桁に接合された既設床版に替えて接合されるPC合成桁用取替用プレキャスト床版であって、前記コンクリート桁の上端に一部が埋設された鉄筋が配置される接合空間を有する、ことを特徴とするPC合成桁用取替用プレキャスト床版が記載されている。
【0005】
特許文献3には、鋼橋の既設床版を撤去し、撤去跡に新設床版を設置し、当該新設床版を鋼橋の既設鋼主桁に接合する床版更新工法において、新設床版を既設鋼主桁に接合する前に、既設鋼主桁を当該既設鋼主桁自身によるたわみを打ち消す量と同等あるいはそれ以上に、鋼主桁を下方より上方に向けてジャッキアップして当該既設鋼主桁に蓄積されているひずみを緩和して応力状態を低減してから、既設床版を橋軸方向と橋軸直角方向に任意サイズに切断して区画し、区画された床版を個別に撤去して撤去跡に新設床版を設置し、その新設床版を既設鋼主桁と接合し、少なくとも当該接合後に前記ジャッキアップを解放する、ことを特徴とする床版更新工法が記載されている。
【0006】
非特許文献1には、首都高速道路・9号深川線枝川ランプに採用された鋼板とコンクリートの合成床版の桁端部に着目し、実施された調査・非破壊検査について記載されている。
【0007】
非特許文献2には、鋼・コンクリート合成床版を用いた少数I桁橋で、万一の損傷を考慮する場合の部分打ち替えの施工概要が記載されている。
【0008】
非特許文献3には、鋼・コンクリート合成床版の維持管理に関する方法や点検および調査の方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6425848号公報
【特許文献2】特開2019-132070号公報
【特許文献3】特開2018-104970号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】野田清人、「鋼・コンクリート合成床版の維持管理-供用後27年を経た首都高速道路・枝川ランプ橋の現地調査-」、技術短信、社団法人日本橋梁建設協会、2008年7月31日、No.7
【非特許文献2】出嶋慶司、「鋼・コンクリート合成床版を用いた少数I桁橋は、万一損傷した場合でも片側交互交通を確保しながら確実に床版補修ができます。」、技術短信、社団法人日本橋梁建設協会、2013年9月20日、No.13
【非特許文献3】技術委員会 床版小委員会、「3.合成床版の最新の知見-鋼・コンクリート合成床版の維持管理計画-」、鋼・コンクリート合成床版 維持管理の計画資料、一般社団法人日本橋梁建設協会、平成19年3月、p.1-14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
RC床版は、耐用年数が比較的短く、床版のコンクリート部分を打ち換える必要が出てくる。他の床版に比べて、自重が大きい。
【0012】
特許文献1は、合成桁のRC床版のはつりによる撤去が困難であること、道路橋示方書改訂による設計計算法が現在と異なることや桁の劣化まで考慮して、桁ごと床版を撤去し、桁と床版が一体化となったパネルユニットを使用している。
【0013】
特許文献2は、既設のコンクリート桁から既設の床版を鉄筋を残して取り外すのにも手間がかかり、取替用プレキャスト床版と桁との接合空間に鋼製板やPC鋼材を設けなくてはならず、施工手順も多い。
【0014】
特許文献3は、鋼橋において床版を更新する際に、鋼主桁の応力改善を行うものである。鋼床版は、コンクリート系床版に比べて重量を軽くすることができるが、輪荷重を直接支持し、かつたわみ易いため、疲労損傷に留意する必要がある。
【0015】
非特許文献1~3で述べられているように、古くから用いられている鋼・コンクリート合成床版の維持管理が必要となってきている。
【0016】
従来形式のコンクリート系床版を部分的に張り替える場合や拡幅する場合、床版の継手部に配筋、型枠の設置、コンクリート打設、養生が必要となる。コンクリートの強度が発現した後には隣り合う既設床版と新設床版の全体を横締めする必要があり、施工に相当の時間を要する。
【0017】
また、先行架設部分の床版の張出長には設計上制約がある。先行架設部分の主桁配置等の制約から、ある長さ以上の床版張出長の確保が必要な場合には先行架設部分の張出床版の張り出し先端部に縦桁を配置するなどの対応が必要である。
【0018】
以上のような課題が挙げられ、近年ではサンドイッチ型複合床版を用いられることが増えており、将来的にサンドイッチ型複合床版を補修や張替えが必要になった場合には手間をかけずに行うことが重要である。また、特定の部分だけを補修することができたり、部分的に床版を張り替えられたりする構造であるとよい。
【0019】
本発明は、サンドイッチ型複合床版の補修、取替や拡幅を容易かつ迅速に行うことができる床版の継手構造および床版の更新または拡幅方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上鋼板と下鋼板と前記上鋼板および下鋼板間をつなぐ形鋼を備えた鋼殻パネルと前記鋼殻パネル内に充填される中詰めコンクリートとからなるサンドイッチ型複合床版によって構成される橋梁の床版の更新または拡幅のための床版の継手構造であって、前記床版の更新位置または拡幅位置に位置するサンドイッチ型複合床版の前記鋼殻パネルの端部の内側に仕切り板が設けられ、前記鋼殻パネルの端部に前記仕切り板と前記上鋼板の張出部と前記下鋼板の張出部と前記形鋼の張出部とで囲まれる中空部が形成されており、前記中空部を橋梁の床版の更新または拡幅のためのボルト接合用の継手配置区間とし、前記橋梁の床版の更新または拡幅の際には、前記継手配置区間において隣り合う鋼殻パネルの上鋼板張出部どうし、下鋼板張出部どうし、および形鋼張出部どうしがボルト接合されるようにしたことを特徴とするものである。
【0021】
供用中の床版補修に際し、従来型の合成床版などでは、床版を切断できる主桁からの張出しの長さはせいぜい1.5m程度までであり、補修部分で床版パネル切断・撤去する場合、主桁側に床版を一時的に支持する縦桁や張り出しブラケット等が必要になる。それに対し、サンドイッチ型複合床版の場合は張出部を比較的大きくとることも可能であり、切断位置の自由度も高く、縦桁や張り出しブラケット等が不要となる。また、部分的に床版を切断・撤去した構造系でも不安定にならないため、切断位置の自由度も高い。
【0022】
サンドイッチ型複合床版の鋼殻パネルの端部の内側に仕切り板を設けることで、隣り合う鋼殻パネルの端部に、上鋼板、下鋼板、形鋼、仕切り板とで囲まれる中空部を形成することができる。この中空部は、床版を更新または拡幅するためのボルト接合用の継手配置区間(縦継手)となり、継手配置区間の位置を比較的自由に選ぶことができる。
【0023】
また、隣り合う床版の仕切り板の間隔を必要最小限とすることで、継手施工に要する施工帯幅を最小限とできるため、架設に用いる重機などが継手の近くまで行くことができる。すなわち、橋面を一部交通規制・交通開放しながらの床版工事の際の交通規制による社会的影響を最小限にすることができる。
【0024】
隣り合う鋼殻パネルの上鋼板の張出部どうし、下鋼板の張出部どうし、形鋼の張出部どうしをボルト接合して連結すれば、連続した床版として構造的に成立し、施工に要する時間が短く、急速施工に資する。
【0025】
先行架設部分の床版を施工する場合、床版継手を連結する前の状態は、継手部近傍の床版は張出床版となる。サンドイッチ型複合床版の床版パネル剛性が高いため、床版支間方向のどの位置に継手を配置するのかの自由度が高い。後から架設する床版の部分までを見越した最適桁配置などの検討に当たり、設計上の自由度が高い。本発明の継手構造では、継手の下部には桁を設けても設けなくてもよい。
【0026】
本発明の床版の継手構造において、中空部には中詰めコンクリートが充填されていなくてもよい。中空部は鋼殻パネルの端部に設けた仕切り板と上鋼板の張出部と下鋼板の張出部と形鋼の張出部とで囲んで形成しており、中空部に中詰めコンクリートを充填しなくても構造上成立する。
【0027】
中空部に中詰めコンクリートを充填する必要がなくなれば、コンクリートを打設する手間を省くことができる。将来的に床版を張り替える際にも、継手配置区間のコンクリートをはつる作業が発生しない。
【0028】
もちろん、中空部には中詰めコンクリートが充填されていてもよい。隣り合う床版の仕切り板の間隔を必要最小限とすれば、充填するコンクリート量を小さくすることができる。中空部に中詰めコンクリートを充填する場合、コンクリートの種類は問わないが、今後床版を張り替える際にコンクリートをはつる作業を考慮し、例えば低強度コンクリートを充填しておいてもよい。
【0029】
また、床版の継手構造において、継手配置区間を道路の中央分離帯の位置に設けておくとよい。継手配置区間の位置を中央分離帯位置に設けることで、継手部のボルト頭(ナット)等の突起物は中央分離帯地覆コンクリート内におさめることができ、舗装に対する悪影響がない。施工帯、走行帯に分けた分割施工も可能になるなど、補修施工計画の自由度が高い。
【0030】
本発明は、上鋼板と下鋼板と前記上鋼板および下鋼板間をつなぐ形鋼を備えた鋼殻パネルと前記鋼殻パネル内に充填される中詰めコンクリートとからなるサンドイッチ型複合床版によって構成される橋梁の既設床版を新設床版に取り替える床版の更新方法であって、前記床版の更新位置に位置する継手は、サンドイッチ型複合床版の前記鋼殻パネルの端部の内側に仕切り板が設けられ、前記鋼殻パネルの端部に前記仕切り板と前記上鋼板の張出部と前記下鋼板の張出部と前記形鋼の張出部とで囲まれる中空部が形成されており、前記中空部を橋梁の床版の更新のためのボルト接合用の継手配置区間とし、前記継手配置区間において隣り合う鋼殻パネルの上鋼板張出部どうし、下鋼板張出部どうし、および形鋼張出部どうしをボルト接合する継手構造となっており、前記橋梁の床版の更新の際には、前記継手配置区間において隣り合う鋼殻パネルの上鋼板張出部どうし、下鋼板張出部どうし、および形鋼張出部どうしを接合しているボルトを外して、既設のサンドイッチ型複合床版を取り外し、前記既設のサンドイッチ型複合床版を取り外した位置に新設のサンドイッチ型複合床版を設置し、新設のサンドイッチ型複合床版の鋼殻パネルの上鋼板張出部、下鋼板張出部、および形鋼張出部をボルト接合することを特徴とするものである。
【0031】
床版の更新位置に位置する継手は、サンドイッチ型複合床版の鋼殻パネル端部に仕切り板を設けることによって、仕切り板と上鋼板の張出部と下鋼板の張出部と形鋼の張出部とで囲い、中空部を形成する。
【0032】
床版の更新位置に隣接する上鋼板の張出部どうし、下鋼板の張出部どうし、形鋼の張出部どうしをボルト接合することで構造的に成立し、施工に要する時間が短く急速施工に資する。
【0033】
継手配置区間の中空部にはコンクリートを充填しなくてもよいため、床版更新の際にコンクリートをはつる処理が不要になる。また機械的な継手のみで連結しているため、更新時には、上鋼板の張出部どうし、下鋼板の張出部どうし、形鋼の張出部どうしを接合しているボルトを外すだけで、既設のサンドイッチ型複合床版を取り外すことができ、容易且つ迅速に床版を更新することができる。
【0034】
なお、隣接する既設床版の鋼殻パネル端部に仕切り板がない場合は、新たに仕切り板を設ければよい。本発明の床版の更新方法であれば、補修しなければならない一部分のみの床版を張り替えることも容易に行うことができる。
【0035】
また、本発明は、上鋼板と下鋼板と前記上鋼板および下鋼板間をつなぐ形鋼を備えた鋼殻パネルと前記鋼殻パネル内に充填される中詰めコンクリートとからなるサンドイッチ型複合床版によって構成される橋梁の床版を拡幅する床版の拡幅方法であって、前記床版の拡幅位置に位置する継手は、サンドイッチ型複合床版の前記鋼殻パネルの端部の内側に仕切り板が設けられ、前記鋼殻パネルの端部に前記仕切り板と前記上鋼板の張出部と前記下鋼板の張出部と前記形鋼の張出部とで囲まれる中空部が形成されており、前記中空部を橋梁の床版の拡幅のためのボルト接合用の継手配置区間とし、前記継手配置区間において鋼殻パネルの上鋼板張出部、下鋼板張出部、および形鋼張出部と壁高欄とをボルト接合する継手構造となっており、前記橋梁の床版の拡幅の際には、前記継手配置区間において、前記上鋼板張出部、下鋼板張出部、および形鋼張出部と前記壁高欄を取り外し、前記既設の壁高欄を取り外した位置に拡幅用サンドイッチ型複合床版を設置し、既設のサンドイッチ型複合床版と拡幅用サンドイッチ型複合床版の鋼殻パネルの上鋼板張出部どうし、下鋼板張出部どうし、および形鋼張出部どうしをボルト接合し、前記拡幅用サンドイッチ型複合床版の鋼殻パネルの端部に新設の壁高欄をボルト接合することを特徴とするものである。
【0036】
拡幅位置に位置する拡幅用サンドイッチ型複合床版の鋼殻パネル端部に仕切り板を設けることによって、仕切り板と上鋼板の張出部と下鋼板の張出部と形鋼の張出部とで囲い、中空部を形成し、橋梁の床版の拡幅のためのボルト接合用の継手配置区間とする。継手配置区間の中空部にはコンクリートを充填しなくてもよいため、床版拡幅の際にコンクリートをはつる処理が不要になる。
【0037】
継手配置区間において鋼殻パネルの上鋼板張出部、下鋼板張出部、および形鋼張出部と壁高欄とをボルト接合しておけば、床版の拡幅の際にボルトを取り外すだけで、壁高欄を取り外すことができる。
【0038】
壁高欄を取り外した位置に拡幅用サンドイッチ型複合床版を設置し、拡幅用サンドイッチ型複合床版と既設のサンドイッチ型複合床版の上鋼板の張出部どうし、下鋼板の張出部どうし、形鋼の張出部どうしをボルト接合することで構造的に成立させることができ、施工に要する時間が短く、急速施工に資する。また、拡幅用サンドイッチ型複合床版の鋼殻パネルの端部には新しい壁高欄を取り付ければよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明は、以上のような構成からなるので、次のような効果が得られる。
(1) 本発明の継手構造は、継手配置区間にコンクリートを充填せずに、上鋼板の張出部どうし、下鋼板の張出部どうし、形鋼の張出部どうしをボルト接合することで構造的に成立させることができるため、施工に要する時間が短くて済み、急速施工に繋がる。架設に用いる重機などが継手の近くまで行くことができるため、順番に床版を交換していくことも可能である。
【0040】
(2) 補修や張替の際、中空部にコンクリートを充填していない場合は継手配置区間のコンクリートをはつる作業がなく、機械的な継手のみで連結されているため、補修が必要な部分の床版だけを部分的に容易に張り替えることができる。
【0041】
(3) 従来の合成床版では補修の際に補修対象の合成床版を仮支持するためのブラケットや縦桁が必要であったが、本発明の継手構造では鋼殻パネルの端部に仕切り板を設けて、仕切り板どうしの間隔を小さくすることで、継手配置区間の幅を小さくし、補修の際にブラケットや縦桁をなくす、もしくは最小限にすることができる。
【0042】
(4) 仕切り板間隔を必要最小限とすることで、継手施工に要する施工帯幅を最小限にすることができる。すなわち、橋面を一部交通規制・交通開放しながらの床版拡幅工事の際の交通規制による社会的影響を最小限とすることができる。
【0043】
(5) 補修工事に伴う交通規制期間も最小化することができ、社会的影響を必要最小限とできる。また、工事区間に交通規制が必要な場合には、施工帯と走行帯に分けた分割施工も可能である。
【0044】
(6) 継手配置区間の位置を中央分離帯位置に設けることで、継手部のボルト頭(ナット)等の突起物は中央分離帯地覆コンクリート内におさめることができ、舗装に対する悪影響がない。
【0045】
(7) 幅員拡幅の場合でも、鋼殻パネルの端部に仕切り板を設けて、張出長を短くして、仕切り板の間隔を必要最小限として、拡幅のための継手配置区間の幅を小さくすることで、拡幅の際に主桁を増設せずに容易に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明に係る床版の継手構造を概略的に示した平面図であり、(a)は先行架設部分、(b)は先行架設部分に床版を接合した状態を示したものである。
図2】本発明に係るサンドイッチ型複合床版の継手構造の一実施形態を示した断面図である。
図3図2の実施形態におけるA-A断面図である。
図4図2の実施形態におけるB-B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明を添付した図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下に示される実施形態に限定されるものではない。
【0048】
〔実施例1〕
図1は、本発明に係る床版1の継手構造について概略的に示した平面図である。図1(a)は先行架設部分として主桁10を3か所に設置し、3車線を施工した状態である。床版1はサンドイッチ型複合床版とし、上鋼板2、下鋼板3と上鋼板2および下鋼板3間をつなぐ形鋼4を備えた鋼殻パネルとする。床版1を構成する鋼殻パネルの端部は上鋼板2、下鋼板3、形鋼4がそれぞれ張出した張出部6となっており、鋼殻パネルの内側に仕切り板7を設けている。
【0049】
先行架設部分の床版において、床版継手を連結する前の状態は、継手部近傍の床版が張出床版となる。従来、先行架設部分の主桁配置等の制約から、ある長さ以上の床版張出長の確保が必要な場合には、張出床版の張り出し先端部に縦桁を配置する等の対応が必要となっていた。しかし本発明では、鋼殻パネルの端部に仕切り板7を設けて、隣り合う鋼殻パネルとの上鋼板、下鋼板、形鋼、仕切り板7からなる張出部6によって、継手配置区間に隣接してすぐそばまで車両を走らせることができる。
【0050】
図1(b)は、図1(a)の先行架設部分の床版を施工した後、次の床版を施工した状態を概略的に示したものである。次の床版の2か所に主桁10を設けており、鋼殻パネルの端部の内側に仕切り板7を設けている。
【0051】
床版1どうしを連結する本発明の継手構造は、隣り合う床版1にそれぞれ設けた仕切り板7と、上鋼板2の張出部と下鋼板3の張出部と形鋼4の張出部とで囲み、中空部5を形成する。中空部5は、コンクリートを充填しない中詰めコンクリート非充填部5としてもよい。この中空部5は、床版の更新または拡幅のためのボルト接合用の継手配置区間として形成したものである。
【0052】
継手配置区間において隣り合う床版1の張出部6どうしをスプライスプレート8を介してボルト接合する。先行架設部分の床版と後から架設した部分の床版どうしを高力ボルト継手などの機械的な継手で連結すれば、連続した床版として構造的に成立し、施工に要する時間が短く、急速施工に資する。
【0053】
継手配置区間は、例えば中央分離帯のように、その直上に直接輪荷重が作用しなければ、あるいは一時的であれば中詰めコンクリートを充填しなくてもよいため、隣り合う床版の仕切り板7の間隔を必要最小限とするのが好ましい。また、従来の継手構造と比べると、継手配置区間にコンクリートを打つ手間を省くことができ、将来的に床版を更新する場合や拡幅する場合にも継手配置区間のコンクリートをはつる作業が発生せずに済む。
【0054】
また、継手配置区間には主桁10を設けても設けなくてもよく、図1(b)に示したように、主桁10を設けなくても構造上は問題がない。
【0055】
中空部5にはコンクリートを充填してもよく、充填する場合は将来床版を取り替える際にはつる作業が発生するため、例えば低強度コンクリートを充填しておくと壊しやすい。
【0056】
また、継手配置区間の位置を中央分離帯の位置に設ければ、継手配置区間のボルト頭(ナット)等の突起物は中央分離帯地覆コンクリート内におさめることができ、舗装に対しても影響がない。
【0057】
仕切り板7は、将来的に床版1の更新位置または拡幅位置になる位置に設けておくとよい。床版1を張り替える場合には、中空部5にコンクリートを充填されていないと継手配置区間のコンクリートをはつる作業がなく、スプライスプレート4を固定しているボルト5を外すだけで床版1を取り外すことができる。また、床版1の端部に仕切り板7を設けて壁高欄を取り付けておけば、将来的に拡幅する場合、新たなに拡幅用の床版を取り付けるのも容易に行うことができる。
【0058】
図2は、本発明におけるサンドイッチ型複合床版1の継手構造における一実施形態を示した断面図であり、図3図2におけるA-A断面図、図4図2におけるB-B断面図である。床版1はサンドイッチ型複合床版であり、上鋼板2と下鋼板3、上鋼板2および下鋼板3間をつなぐ形鋼4を備えた鋼殻パネルからなっている。
【0059】
鋼殻パネルの張出部6の内側には仕切り板7を設けている。隣り合う鋼殻パネルの上鋼板2の張出部どうし、下鋼板3の張出部どうし、形鋼4の張出部どうしにスプライスプレート8を介して、ボルト9で固定して接合している。仕切り板7の外側には、床版1内部のコンクリートを打設するための打設孔が設けられている。
【0060】
図3は上鋼板2面の添接の様子を示したものである。床版1には、一定の間隔で形鋼4が配置されており、形鋼4の上部に位置する上鋼板2にほぼ正方形の切欠き範囲2aを設けている。
【0061】
上鋼板2の切欠き範囲2aについて、設計上主桁作用正曲げモーメントに対しては、上鋼板2は抵抗断面として考慮しない。主桁作用負曲げモーメントに対しては、抵抗断面として考慮するが、切欠き幅が全幅に対して小さく、上鋼板2の応力度に及ぼす影響は小さいと思われる。なお、応力度がオーバーする場合は、上鋼板2の材質アップなどで対応可能である。
【0062】
上鋼板2の切欠き範囲2aの中心部には正方形のスプライスプレート8を設けて、4か所でボルト接合している。また、上鋼板2の切欠き範囲2aに挟まれた部分にも長方形のスプライスプレート8を設けて、ボルト9で8か所を固定している。
【0063】
図4は下鋼板3面の添接の様子を示したものである。下鋼板3には切欠き範囲を設けず、長方形のスプライスプレート8を連続して設けており、1枚のスプライスプレート8に対してボルト9で8か所を固定している。また、橋軸直角方向(横方向)の床版1どうしを突き合わせる部分には、比較的大きなスプライスプレート8を用いて、1枚のスプライスプレート8につき32か所をボルト9で固定する。
【0064】
スプライスプレート8の形状は、上鋼板2どうし、下鋼板3どうし、形鋼4どうしを確実に接合できるものであればよく、ボルト9の本数や固定箇所もスプライスプレート8の大きさや形状に合わせればよい。
【0065】
〔実施例2〕
次に、本発明の継手構造を用いた既設のサンドイッチ型複合床版1を新設のサンドイッチ型複合床版1に取り替える場合の手順を以下に説明する。
【0066】
(1) 取り外す既設のサンドイッチ型複合床版1が接合されている継手配置区間の上鋼板2の張出部どうし、下鋼板3の張出部どうし、形鋼4の張出部どうしをそれぞれ接合しているボルト9を外し、スプライスプレート8を取り外す。
【0067】
(2) 既設のサンドイッチ型複合床版1と主桁10との接合部分を取り外す。
(3) 既設のサンドイッチ型複合床版1を取り外し、新設のサンドイッチ型複合床版1を主桁10の上に設置し、主桁10と新設のサンドイッチ型複合床版1を接合する。
【0068】
(4) 新設のサンドイッチ型複合床版1の鋼殻パネルの端部の内側に設けた仕切り板7と、上鋼板2の張出部と下鋼板3の張出部と形鋼4の張出部とで囲まれる中空部5を形成し、橋梁の床版の更新のためのボルト接合用の継手配置区間とする。継手配置区間である中空部5の直上に、例えば中央分離帯のように、直接輪荷重が作用しなければ、あるいは一時的であれば、中空部5にはコンクリートを充填してもしなくてもよい。
【0069】
(5) 継手配置区間において隣り合う鋼殻パネルの上鋼板2張出部どうし、下鋼板3張出部どうし、および形鋼4張出部どうしをスプライスプレート8を介してボルト9で接合する。
【0070】
本発明の継手構造は、床版1どうしが継手配置区間の機械的な継手のみで連結されており、継手配置区間にコンクリートが充填しなくてもよいため、補修や張替の際、継手配置区間のコンクリートをはつる作業がなく、従来よりも床版取替工事に要する時間が短くて済む。また、補修が必要な床版や劣化した床版だけを部分的に取り替えることも容易に行うことができる。床版1を端から順番に床版1を交換していくことも可能であり、重機が施工部分の近くまで行くことができる。
【0071】
補修や取替工事に要する時間が短くて済むため、それに伴う交通規制期間も最小化することができ、社会的影響を必要最小限にできる。また、工事区間に交通規制が必要な場合には、施工帯と走行帯に分けた分割施工も可能である。
【0072】
〔実施例3〕
本発明の継手構造を用いたサンドイッチ型複合床版1を拡幅する場合の手順を以下に説明する。
【0073】
(1) 既設のサンドイッチ型複合床版1に接合されている壁高欄を取り外す。
(2) 拡幅位置に新設の主桁10を設ける。
【0074】
(3) 主桁10の上に拡幅用サンドイッチ型複合床版1を設置し、主桁10と床版1を接合する。
(4) 拡幅用サンドイッチ型複合床版1の鋼殻パネルの端部の内側に仕切り板7を設ける。
(5) 既設のサンドイッチ型複合床版1の鋼殻パネルの端部と拡幅用サンドイッチ型複合床版1の鋼殻パネルの端部に、仕切り板7、上鋼板2の張出部、下鋼板3の張出部、形鋼4の張出部とで囲まれる中空部5を形成して、拡幅のためのボルト接合用の継手配置区間とする。
【0075】
(6) 継手配置区間において隣り合う鋼殻パネルの上鋼板2張出部どうし、下鋼板3張出部どうし、および形鋼4張出部どうしをスプライスプレート8を介してボルト9で接合する。
(7) 拡幅用サンドイッチ型複合床版1の端部に新たな壁高欄を設置する。
【0076】
本発明の継手構造を用いたサンドイッチ型複合床版1を拡幅する場合は、予めサンドイッチ型複合床版1を設置した際に壁高欄と連結する鋼殻パネルの内側に仕切り板7を設けておくのがよい。最初に床版1を設置する時に鋼殻パネルの内側に仕切り板7を設けておけば、拡幅する場合に、鋼殻パネルの張出部6に接合した壁高欄を取り外し、予め設けておいた鋼殻パネルの張出部6と仕切り板7の部分に拡幅するための新設床版を接合すればよい。
【0077】
上記(2)において、幅員拡幅の場合でも、鋼殻パネルの端部に仕切り板7を設けているため、張出長を短くして、仕切り板7の間隔を必要最小限として、主桁10を増設せずに容易に対応することもできる。仕切り板7間隔を必要最小限とすることで、継手施工に要する施工帯幅を最小限にすることができる。すなわち、橋面を一部交通規制・交通開放しながらの床版拡幅工事の際の交通規制による社会的影響を最小限とすることができる。
【符号の説明】
【0078】
1:床版(サンドイッチ型複合床版)
2:上鋼板
2a:切欠き範囲
3:下鋼板
4:形鋼
5:中空部(中詰めコンクリート非充填部)
6:張出部
7:仕切り板
8:スプライスプレート
9:ボルト
10:主桁
11:コンクリート打設孔
図1
図2
図3
図4