▶ 竹本油脂株式会社の特許一覧
特開2022-54691アクリル樹脂繊維用処理剤、及びアクリル樹脂繊維
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054691
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】アクリル樹脂繊維用処理剤、及びアクリル樹脂繊維
(51)【国際特許分類】
D06M 13/224 20060101AFI20220331BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20220331BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
D06M13/224
D06M15/643
D06M15/53
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161860
(22)【出願日】2020-09-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】本田 浩気
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA04
4L033AB01
4L033AC05
4L033AC09
4L033BA21
4L033CA48
4L033CA64
(57)【要約】
【課題】合成繊維の毛羽を抑制する。
【解決手段】合成繊維用処理剤は、酸価が60mgKOH/g以下のカルボン酸化合物を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価が60mgKOH/g以下のカルボン酸化合物を含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
【請求項2】
前記カルボン酸化合物が、分子中にエステル結合を有する化合物である請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記カルボン酸化合物が、分子中にエステル結合を2個以上有する化合物である請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記カルボン酸化合物が、分子中にヒドロキシ基を有する化合物である請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記カルボン酸化合物の酸価が、10~50mgKOH/gである請求項1~4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
更に、平滑剤を含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
前記平滑剤が、アミノ変性シリコーンを含有する請求項6に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
前記アミノ変性シリコーンの25℃での動粘度が、50~7000mm2/sである請求項7に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
更に、非イオン界面活性剤を含有する請求項1~8のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項10】
更に、非イオン界面活性剤を含有し、
前記カルボン酸化合物、前記平滑剤、及び前記非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記カルボン酸化合物の含有割合が0.1~15質量%である請求項6~8のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項11】
前記合成繊維が、炭素繊維前駆体である請求項1~10のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤、及び合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、炭素繊維は、アクリル樹脂等を紡糸する紡糸工程、紡糸された繊維を乾燥して緻密化する乾燥緻密化工程、乾燥緻密化した繊維を延伸して合成繊維である炭素繊維前駆体を製造する延伸工程、炭素繊維前駆体を耐炎化する耐炎化処理工程、及び耐炎化繊維を炭素化する炭素化処理工程を行なうことにより製造される。
【0003】
合成繊維には、合成繊維の製造工程において毛羽を抑制するために、合成繊維用処理剤が用いられることがある。
特許文献1には、窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーンと分岐脂肪酸を含有する炭素繊維製造用アクリル繊維油剤が開示されている。特許文献2には、アミノ変性ポリシロキサンを含有するシリコーン油剤と、ジカルボン酸のモノエステルと、乳化剤と、アミノカルボン酸物質を含むアミノ変性シリコーン油剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-184842号公報
【特許文献2】特開平8-209543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、合成繊維用処理剤には、合成繊維の製造工程における毛羽を抑制する効果のさらなる性能向上が求められている。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、合成繊維の製造工程における毛羽の抑制効果が好適に向上した合成繊維用処理剤を提供することにある。また、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための合成繊維用処理剤は、酸価が60mgKOH/g以下のカルボン酸化合物を含有することを要旨とする。
上記合成繊維用処理剤について、前記カルボン酸化合物が、分子中にエステル結合を有する化合物であることが好ましい。
【0007】
上記合成繊維用処理剤について、前記カルボン酸化合物が、分子中にエステル結合を2個以上有する化合物であることが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、前記カルボン酸化合物が、分子中にヒドロキシ基を有する化合物であることが好ましい。
【0008】
上記合成繊維用処理剤について、前記カルボン酸化合物の酸価が、10~50mgKOH/gであることが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、更に、平滑剤を含有することが好ましい。
【0009】
上記合成繊維用処理剤について、前記平滑剤が、アミノ変性シリコーンを含有することが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、前記アミノ変性シリコーンの25℃での動粘度が、50~7000mm2/sであることが好ましい。
【0010】
上記合成繊維用処理剤について、更に、非イオン界面活性剤を含有することが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、更に、非イオン界面活性剤を含有し、前記カルボン酸化合物、前記平滑剤、及び前記非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記カルボン酸化合物の含有割合が0.1~15質量%であることが好ましい。
【0011】
上記合成繊維用処理剤について、前記合成繊維が、炭素繊維前駆体であることが好ましい。
上記課題を解決するための合成繊維は、上記合成繊維用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、合成繊維の毛羽を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
本発明に係る合成繊維用処理剤(以下、単に処理剤ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態の処理剤は、酸価が60mgKOH/g以下のカルボン酸化合物を含有する。
上記カルボン酸化合物を含有することにより、処理剤の毛羽抑制効果を向上させることができる。
【0015】
上記のカルボン酸化合物の具体例としては、例えば、12-ヒドロキシステアリン酸の5量体縮合物、ヒマシ油脂肪酸の6量体縮合物、12-ヒドロキシステアリン酸の13量体縮合物、12-ヒドロキシステアリン酸の4量体縮合物、12-ヒドロキシステアリン酸の30量体縮合物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド10モル付加物とアジピン酸を3:4のモル比で反応させたエステル化合物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド15モル付加物とアジピン酸を1:1のモル比で反応させたエステル化合物、ポリオキシエチレン(25モル)ラウリルエーテル酢酸等が挙げられる。
【0016】
上記のカルボン酸化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記カルボン酸化合物は、市販品であってもよいし、公知の方法により製造したものであってもよい。公知の方法により製造する場合は、例えば、原料物質に含まれるヒドロキシ基とカルボキシル基との脱水縮合反応により製造することができる。
【0017】
また、上記カルボン酸化合物は、処理剤中で他のアミンや金属等の塩基性成分と塩を形成していてもよい。
上記カルボン酸の酸価は、10~50mgKOH/gであることが好ましい。
【0018】
カルボン酸化合物の酸価が上記数値範囲であることにより、処理剤の毛羽抑制効果をより向上させることができる。
カルボン酸化合物の酸価は、JISK0070に準拠して測定することができる。
【0019】
また、カルボン酸化合物が、分子中にエステル結合を有する化合物であることが好ましい。
カルボン酸化合物における分子中のエステル結合の数は特に限定されず、例えば、分子中にエステル結合を2個以上有することが好ましい。
【0020】
エステル結合の数は、下記の式によって算出することができる。
エステル結合の数=(ケン化価-酸価)/(酸価)
上記ケン化価は、JISK0070に準拠して測定することができる。
【0021】
また、カルボン酸化合物は、分子中にヒドロキシ基を有する化合物であることが好ましい。
また、本実施形態の処理剤は、平滑剤を含有することが好ましい。
【0022】
平滑剤としては、例えば、シリコーン、エステル等が挙げられる。
平滑剤として使用されるシリコーンとしては、特に制限はなく、例えば、ジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン等が挙げられる。
【0023】
平滑剤として使用されるエステルとしては、特に制限はなく、例えば、(1)オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート、イソテトラコシルオレート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカネート、グリセリントリオレート、トリメチロールプロパントリラウレート、ペンタエリスリトールテトラオクタネート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオレイルアゼレート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレート、ベンジルラウレート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウレート、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジラウレート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタレート、ジイソステアリルイソフタレート、トリオクチルトリメリテート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。その他、合成繊維用処理剤に採用されている公知の平滑剤等を使用してもよい。
【0024】
平滑剤の具体例としては、例えば25℃における動粘度が650mm2/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が90mm2/s、アミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が4500mm2/s、アミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が40mm2/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が8000mm2/s、アミノ当量が1000g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が1700mm2/s、シリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=20/80(質量比)、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(モル比)のポリエーテル変性シリコーン、25℃における動粘度が17000mm2/s、エポキシ当量:3800g/molであるエポキシ変性シリコーン、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジラウリルエステル等が挙げられる。
【0025】
平滑剤は、変性シリコーンを含有することが好ましく、アミノ変性シリコーンを含有することがより好ましい。さらに、アミノ変性シリコーンの25℃での動粘度が、50~7000mm2/sであることが好ましい。
【0026】
平滑剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、本実施形態の処理剤は、非イオン界面活性剤を含有することが好ましい。
本実施形態の処理剤に含有される非イオン界面活性剤としては、特に制限はなく、例えば、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させたもの、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物等が挙げられる。
【0027】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0028】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。
【0029】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1~60モル、より好ましくは1~40モル、さらに好ましくは2~30モルである。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。
【0030】
非イオン界面活性剤の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0031】
非イオン界面活性剤の具体例としては、例えばイソデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物、イソオクタデシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物、へキシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物、テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド8モル付加物等が挙げられる。
【0032】
非イオン界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記カルボン酸化合物、平滑剤、非イオン界面活性剤の含有量に制限はない。カルボン酸化合物、平滑剤、非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、カルボン酸化合物の含有割合が0.1~15質量%であることが好ましく、0.3~13質量%であることがより好ましい。かかる配合割合に規定することにより、処理剤の毛羽抑制効果をより向上させることができる。
【0033】
(第2実施形態)
本発明に係る合成繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、(5)セルロース系繊維、(6)リグニン系繊維等が挙げられる。合成繊維としては、後述する炭素化処理工程を経ることにより炭素繊維となる樹脂製の炭素繊維前駆体が好ましい。炭素繊維前駆体を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、セルロース樹脂、リグニン樹脂、ピッチ等を挙げることができる。
【0034】
第1実施形態の処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤(溶媒を含まない)を合成繊維に対し0.1~2質量%となるように付着させることが好ましく、0.3~1.2質量%となるように付着させることがより好ましい。
【0035】
第1実施形態の処理剤を繊維に付着させる際の形態としては、例えば有機溶媒溶液、水性液等が挙げられる。
処理剤を合成繊維に付着させる方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤、及び水を含有する水性液又はさらに希釈した水溶液を用いて、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。
【0036】
本発明に係る処理剤、及びこの処理剤が付着した合成繊維を用いた炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の製造方法は、下記の工程1~3を経ることが好ましい。
【0037】
工程1:第1実施形態の処理剤を合成繊維に付着させて製糸する製糸工程。
工程2:前記工程1で得られた合成繊維を200~300℃、好ましくは230~270℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程。
【0038】
工程3:前記工程2で得られた耐炎化繊維をさらに300~2000℃、好ましくは300~1300℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程。
製糸工程は、さらに、樹脂を溶媒に溶解して紡糸する湿式紡糸工程、湿式紡糸された合成繊維を乾燥して緻密化する乾燥緻密化工程、及び乾燥緻密化した合成繊維を延伸する延伸工程を有していることが好ましい。
【0039】
乾燥緻密化工程の温度は特に限定されないが、湿式紡糸工程を経た合成繊維を、例えば、70~200℃で加熱することが好ましい。処理剤を合成繊維に付着させるタイミングは特に限定されないが、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間であることが好ましい。
【0040】
耐炎化処理工程における酸化性雰囲気は、特に限定されず、例えば、空気雰囲気を採用することができる。
炭素化処理工程における不活性雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空雰囲気等を採用することができる。
【0041】
本実施形態の処理剤、及び合成繊維によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の処理剤は、所定の酸価を有するカルボン酸化合物を含有している。したがって、合成繊維の毛羽を抑制することができる。また、処理剤の耐熱性を向上させることができるため、合成繊維の耐炎化処理工程における繊維同士の融着を抑制する効果(融着抑制効果)を向上させることができる。
【0042】
(2)湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間において、処理剤を合成繊維に付着させている。乾燥緻密化工程、及び延伸工程を経た合成繊維の集束性を向上させたり、耐炎化処理工程を経た耐炎化繊維の集束性を向上させたりすることができるため、炭素繊維の製造工程中の繊維の巻き付けや、毛羽の発生を抑制することができる。したがって、炭素繊維の外観を良好にしたり、炭素繊維の強度を向上させたりすることができる。
【0043】
上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態では、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間において、処理剤を合成繊維に付着させていたが、この態様に限定されない。乾燥緻密化工程と延伸工程の間において処理剤を合成繊維に付着させても良いし、延伸工程と耐炎化処理工程の間において処理剤を合成繊維に付着させても良い。
【0044】
・本実施形態において、合成繊維用処理剤は、変性シリコーンと非イオン界面活性剤とを含有していたが、この態様に限定されない。変性シリコーンと非イオン界面活性剤の少なくともいずれか一方が省略されていてもよい。
【0045】
・本実施形態において、例えば、合成繊維が、耐炎化処理工程を行なうものの、炭素化処理工程までは行わない繊維であってもよい。
・本実施形態の処理剤又は水性液には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤又は水性液の品質保持のための安定化剤や制電剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤又は水性液に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0046】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、%は質量%を意味する。
【0047】
試験区分1(合成繊維用処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示される各成分を使用し、カルボン酸化合物(A-1)が5%、平滑剤(B-1)が60%、平滑剤(B-6)が20%、非イオン界面活性剤(C-1)が15%の配合割合となるようにビーカーに加えた。これらを撹拌してよく混合した。撹拌を続けながら固形分濃度が25%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで実施例1の合成繊維用処理剤の25%水性液を調製した。
【0048】
(実施例2~19及び比較例1~4)
実施例2~19及び比較例1~4の各合成繊維用処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0049】
なお、各例の処理剤中におけるカルボン酸化合物の種類と含有量、平滑剤の種類と含有量、及び界面活性剤の種類と含有量は、表1の「(A)カルボン酸化合物」欄、「(B)平滑剤」欄、及び「(C)非イオン界面活性剤」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0050】
【表1】
表1の記号欄に記載するA-1~A-8、rA1~rA-3、B-1~B-8、C-1~C-4の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0051】
(カルボン酸化合物)
A-1:12-ヒドロキシステアリン酸の5量体縮合物
A-2:ヒマシ油脂肪酸の6量体縮合物
A-3:12-ヒドロキシステアリン酸の13量体縮合物
A-4:12-ヒドロキシステアリン酸の4量体縮合物
A-5:12-ヒドロキシステアリン酸の30量体縮合物
A-6:ビスフェノールAのエチレンオキサイド10モル付加物とアジピン酸を3:4のモル比で反応させたエステル化合物
A-7:ビスフェノールAのエチレンオキサイド15モル付加物とアジピン酸を1:1のモル比で反応させたエステル化合物
A-8:ポリオキシエチレン(25モル)ラウリルエーテル酢酸
rA-1:ヒマシ油脂肪酸
rA-2:ノニルフェノールのエチレンオキサイド12モル付加物とコハク酸のモノエステル
rA-3:イソステアリン酸
上記カルボン酸化合物に用いられるカルボン酸化合物の種類、酸価、ケン化価、及び分子中のエステル結合の数について、表2の「(A)カルボン酸化合物」欄、「酸価(mgKOH/g)」欄、「ケン化価(mgKOH/g)」欄、及び「分子中のエステル結合の数」欄にそれぞれ示す。
【0052】
【表2】
(平滑剤)
B-1:25℃における動粘度が650mm
2/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン
B-2:25℃における動粘度が90mm
2/s、アミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン
B-3:25℃における動粘度が4500mm
2/s、アミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン
B-4:25℃における動粘度が40mm
2/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン
B-5:25℃における動粘度が8000mm
2/s、アミノ当量が1000g/molであるアミノ変性シリコーン
B-6:25℃における動粘度が1700mm
2/s、シリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=20/80(質量比)、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(モル比)のポリエーテル変性シリコーン
B-7:25℃における動粘度が17000mm
2/s、エポキシ当量:3800g/molであるエポキシ変性シリコーン
B-8:ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジラウリルエステル
(非イオン界面活性剤)
C-1:イソデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物
C-2:イソオクタデシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物
C-3:へキシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物
C-4:テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド8モル付加物
試験区分2(合成繊維、及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した合成繊維用処理剤を用いて、合成繊維、及び炭素繊維を製造した。
【0053】
まず、工程1として、アクリル樹脂を湿式紡糸した。具体的には、アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0054】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(原料繊維)を作成した。このアクリル繊維ストランドに対して、固形分付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように、試験区分1で調製した合成繊維用処理剤を給油した。合成繊維用処理剤の給油は、合成繊維用処理剤の4%イオン交換水溶液を用いた浸漬法により実施した。その後、アクリル繊維ストランドに対して、130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、更に170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に巻き取り装置を用いて糸管に巻き取った。
【0055】
次に、工程2として、巻き取られた合成繊維から糸を解舒し、230~270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間、耐炎化処理した後に糸管に巻き取ることで耐炎化糸(耐炎化繊維)を得た。
【0056】
次に、工程3として、巻き取られた耐炎化糸から糸を解舒し、窒素雰囲気下で300~1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0057】
試験区分3(評価)
実施例1~19及び比較例1~4の処理剤について、合成繊維の毛羽の有無、耐炎化繊維の繊維集束性、及び耐炎化繊維の繊維融着を評価した。各試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表1の“毛羽”、“耐炎化集束性”、及び“耐炎化融着”欄に示す。
【0058】
(毛羽)
試験区分2の工程1において、合成繊維を巻き取る巻き取り装置の直前に設置した毛羽計数装置により測定した1時間当たりの毛羽数を以下の基準で評価した。
【0059】
・毛羽の評価基準
◎(良好):毛羽数が0~5個
〇(可):毛羽数が6~10個
×(不良):毛羽数が11個以上
(耐炎化集束性)
試験区分2の工程2において耐炎化処理を行った耐炎化繊維に対して、巻き取り前の耐炎化糸の集束状態を目視で観察して、以下の基準で耐炎化集束性の評価を行った。
【0060】
・耐炎化集束性の評価基準
◎(良好):集束しており、トウ幅が一定である場合
〇(可):集束しているが、トウ幅が一定ではない場合
×(不良):繊維束中に空間があり、集束していない場合
(耐炎化融着)
試験区分2の工程2において耐炎化処理を行った耐炎化繊維を長さ10mmに切断し、ポリオキシエチレン(10)ラウリルエーテルの水溶液中に分散させた。10分間撹拌した後、繊維の分散状態を目視し、以下の基準で評価した。
【0061】
・耐炎化融着の評価基準
◎(良好):繊維が完全に均一に分散しており、短繊維束が存在しない場合
〇(可):繊維が概ね均一に分散しているが、短繊維束が存在している場合
×(不良):繊維の分散状態が不均一で、多数の短繊維束が存在している場合
表1の結果から、本発明によれば、合成繊維用処理剤の耐熱性を向上させて、繊維同士の融着抑制効果を向上させることができる。また、耐炎化繊維の繊維集束性を向上させることができる。また、合成繊維の毛羽の発生を抑制することができる。
【手続補正書】
【提出日】2020-12-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価が60mgKOH/g以下のカルボン酸化合物を含有することを特徴とするアクリル樹脂繊維用処理剤。
【請求項2】
前記カルボン酸化合物が、分子中にエステル結合を有する化合物である請求項1に記載のアクリル樹脂繊維用処理剤。
【請求項3】
前記カルボン酸化合物が、分子中にエステル結合を2個以上有する化合物である請求項1又は2に記載のアクリル樹脂繊維用処理剤。
【請求項4】
前記カルボン酸化合物が、分子中にヒドロキシ基を有する化合物である請求項1~3のいずれか一項に記載のアクリル樹脂繊維用処理剤。
【請求項5】
前記カルボン酸化合物の酸価が、10~50mgKOH/gである請求項1~4のいずれか一項に記載のアクリル樹脂繊維用処理剤。
【請求項6】
更に、平滑剤を含有する請求項1~5のいずれか一項に記載のアクリル樹脂繊維用処理剤。
【請求項7】
前記平滑剤が、アミノ変性シリコーンを含有する請求項6に記載のアクリル樹脂繊維用処理剤。
【請求項8】
前記アミノ変性シリコーンの25℃での動粘度が、50~7000mm2/sである請求項7に記載のアクリル樹脂繊維用処理剤。
【請求項9】
更に、非イオン界面活性剤を含有する請求項1~8のいずれか一項に記載のアクリル樹脂繊維用処理剤。
【請求項10】
更に、非イオン界面活性剤を含有し、
前記カルボン酸化合物、前記平滑剤、及び前記非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記カルボン酸化合物の含有割合が0.1~15質量%である請求項6~8のいずれか一項に記載のアクリル樹脂繊維用処理剤。
【請求項11】
前記アクリル樹脂繊維が、炭素繊維前駆体である請求項1~10のいずれか一項に記載のアクリル樹脂繊維用処理剤。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載のアクリル樹脂繊維用処理剤が付着していることを特徴とするアクリル樹脂繊維。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂繊維用処理剤、及びアクリル樹脂繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、炭素繊維は、アクリル樹脂等を紡糸する紡糸工程、紡糸された繊維を乾燥して緻密化する乾燥緻密化工程、乾燥緻密化した繊維を延伸して合成繊維である炭素繊維前駆体を製造する延伸工程、炭素繊維前駆体を耐炎化する耐炎化処理工程、及び耐炎化繊維を炭素化する炭素化処理工程を行なうことにより製造される。
【0003】
合成繊維には、合成繊維の製造工程において毛羽を抑制するために、合成繊維用処理剤が用いられることがある。
特許文献1には、窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーンと分岐脂肪酸を含有する炭素繊維製造用アクリル繊維油剤が開示されている。特許文献2には、アミノ変性ポリシロキサンを含有するシリコーン油剤と、ジカルボン酸のモノエステルと、乳化剤と、アミノカルボン酸物質を含むアミノ変性シリコーン油剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-184842号公報
【特許文献2】特開平8-209543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アクリル樹脂繊維用処理剤には、アクリル樹脂繊維の製造工程における毛羽を抑制する効果のさらなる性能向上が求められている。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アクリル樹脂繊維の製造工程における毛羽の抑制効果が好適に向上したアクリル樹脂繊維用処理剤を提供することにある。また、このアクリル樹脂繊維用処理剤が付着したアクリル樹脂繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのアクリル樹脂繊維用処理剤は、酸価が60mgKOH/g以下のカルボン酸化合物を含有することを要旨とする。
上記アクリル樹脂繊維用処理剤について、前記カルボン酸化合物が、分子中にエステル結合を有する化合物であることが好ましい。
【0007】
上記アクリル樹脂繊維用処理剤について、前記カルボン酸化合物が、分子中にエステル結合を2個以上有する化合物であることが好ましい。
上記アクリル樹脂繊維用処理剤について、前記カルボン酸化合物が、分子中にヒドロキシ基を有する化合物であることが好ましい。
【0008】
上記アクリル樹脂繊維用処理剤について、前記カルボン酸化合物の酸価が、10~50mgKOH/gであることが好ましい。
上記アクリル樹脂繊維用処理剤について、更に、平滑剤を含有することが好ましい。
【0009】
上記アクリル樹脂繊維用処理剤について、前記平滑剤が、アミノ変性シリコーンを含有することが好ましい。
上記アクリル樹脂繊維用処理剤について、前記アミノ変性シリコーンの25℃での動粘度が、50~7000mm2/sであることが好ましい。
【0010】
上記アクリル樹脂繊維用処理剤について、更に、非イオン界面活性剤を含有することが好ましい。
上記アクリル樹脂繊維用処理剤について、更に、非イオン界面活性剤を含有し、前記カルボン酸化合物、前記平滑剤、及び前記非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記カルボン酸化合物の含有割合が0.1~15質量%であることが好ましい。
【0011】
上記アクリル樹脂繊維用処理剤について、前記アクリル樹脂繊維が、炭素繊維前駆体であることが好ましい。
上記課題を解決するためのアクリル樹脂繊維は、上記アクリル樹脂繊維用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、アクリル樹脂繊維の毛羽を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
本発明に係るアクリル樹脂繊維用処理剤(以下、単に処理剤ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態の処理剤は、酸価が60mgKOH/g以下のカルボン酸化合物を含有する。
上記カルボン酸化合物を含有することにより、処理剤の毛羽抑制効果を向上させることができる。
【0015】
上記のカルボン酸化合物の具体例としては、例えば、12-ヒドロキシステアリン酸の5量体縮合物、ヒマシ油脂肪酸の6量体縮合物、12-ヒドロキシステアリン酸の13量体縮合物、12-ヒドロキシステアリン酸の4量体縮合物、12-ヒドロキシステアリン酸の30量体縮合物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド10モル付加物とアジピン酸を3:4のモル比で反応させたエステル化合物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド15モル付加物とアジピン酸を1:1のモル比で反応させたエステル化合物、ポリオキシエチレン(25モル)ラウリルエーテル酢酸等が挙げられる。
【0016】
上記のカルボン酸化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記カルボン酸化合物は、市販品であってもよいし、公知の方法により製造したものであってもよい。公知の方法により製造する場合は、例えば、原料物質に含まれるヒドロキシ基とカルボキシル基との脱水縮合反応により製造することができる。
【0017】
また、上記カルボン酸化合物は、処理剤中で他のアミンや金属等の塩基性成分と塩を形成していてもよい。
上記カルボン酸の酸価は、10~50mgKOH/gであることが好ましい。
【0018】
カルボン酸化合物の酸価が上記数値範囲であることにより、処理剤の毛羽抑制効果をより向上させることができる。
カルボン酸化合物の酸価は、JISK0070に準拠して測定することができる。
【0019】
また、カルボン酸化合物が、分子中にエステル結合を有する化合物であることが好ましい。
カルボン酸化合物における分子中のエステル結合の数は特に限定されず、例えば、分子中にエステル結合を2個以上有することが好ましい。
【0020】
エステル結合の数は、下記の式によって算出することができる。
エステル結合の数=(ケン化価-酸価)/(酸価)
上記ケン化価は、JISK0070に準拠して測定することができる。
【0021】
また、カルボン酸化合物は、分子中にヒドロキシ基を有する化合物であることが好ましい。
また、本実施形態の処理剤は、平滑剤を含有することが好ましい。
【0022】
平滑剤としては、例えば、シリコーン、エステル等が挙げられる。
平滑剤として使用されるシリコーンとしては、特に制限はなく、例えば、ジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン等が挙げられる。
【0023】
平滑剤として使用されるエステルとしては、特に制限はなく、例えば、(1)オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート、イソテトラコシルオレート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカネート、グリセリントリオレート、トリメチロールプロパントリラウレート、ペンタエリスリトールテトラオクタネート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオレイルアゼレート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレート、ベンジルラウレート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウレート、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジラウレート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタレート、ジイソステアリルイソフタレート、トリオクチルトリメリテート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。その他、合成繊維用処理剤に採用されている公知の平滑剤等を使用してもよい。
【0024】
平滑剤の具体例としては、例えば25℃における動粘度が650mm2/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が90mm2/s、アミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が4500mm2/s、アミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が40mm2/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が8000mm2/s、アミノ当量が1000g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が1700mm2/s、シリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=20/80(質量比)、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(モル比)のポリエーテル変性シリコーン、25℃における動粘度が17000mm2/s、エポキシ当量:3800g/molであるエポキシ変性シリコーン、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジラウリルエステル等が挙げられる。
【0025】
平滑剤は、変性シリコーンを含有することが好ましく、アミノ変性シリコーンを含有することがより好ましい。さらに、アミノ変性シリコーンの25℃での動粘度が、50~7000mm2/sであることが好ましい。
【0026】
平滑剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、本実施形態の処理剤は、非イオン界面活性剤を含有することが好ましい。
本実施形態の処理剤に含有される非イオン界面活性剤としては、特に制限はなく、例えば、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させたもの、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物等が挙げられる。
【0027】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0028】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。
【0029】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1~60モル、より好ましくは1~40モル、さらに好ましくは2~30モルである。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。
【0030】
非イオン界面活性剤の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0031】
非イオン界面活性剤の具体例としては、例えばイソデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物、イソオクタデシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物、へキシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物、テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド8モル付加物等が挙げられる。
【0032】
非イオン界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記カルボン酸化合物、平滑剤、非イオン界面活性剤の含有量に制限はない。カルボン酸化合物、平滑剤、非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、カルボン酸化合物の含有割合が0.1~15質量%であることが好ましく、0.3~13質量%であることがより好ましい。かかる配合割合に規定することにより、処理剤の毛羽抑制効果をより向上させることができる。
【0033】
(第2実施形態)
本発明に係るアクリル樹脂繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態のアクリル樹脂繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している。アクリル樹脂繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えばポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維が挙げられる。アクリル樹脂繊維としては、後述する炭素化処理工程を経ることにより炭素繊維となる樹脂製の炭素繊維前駆体が好ましい。炭素繊維前駆体を構成する樹脂としては、アクリル樹脂を挙げることができる。
【0034】
第1実施形態の処理剤をアクリル樹脂繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤(溶媒を含まない)をアクリル樹脂繊維に対し0.1~2質量%となるように付着させることが好ましく、0.3~1.2質量%となるように付着させることがより好ましい。
【0035】
第1実施形態の処理剤を繊維に付着させる際の形態としては、例えば有機溶媒溶液、水性液等が挙げられる。
処理剤をアクリル樹脂繊維に付着させる方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤、及び水を含有する水性液又はさらに希釈した水溶液を用いて、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。
【0036】
本発明に係る処理剤、及びこの処理剤が付着したアクリル樹脂繊維を用いた炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の製造方法は、下記の工程1~3を経ることが好ましい。
【0037】
工程1:第1実施形態の処理剤をアクリル樹脂繊維に付着させて製糸する製糸工程。
工程2:前記工程1で得られたアクリル樹脂繊維を200~300℃、好ましくは230~270℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程。
【0038】
工程3:前記工程2で得られた耐炎化繊維をさらに300~2000℃、好ましくは300~1300℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程。
製糸工程は、さらに、樹脂を溶媒に溶解して紡糸する湿式紡糸工程、湿式紡糸されたアクリル樹脂繊維を乾燥して緻密化する乾燥緻密化工程、及び乾燥緻密化したアクリル樹脂繊維を延伸する延伸工程を有していることが好ましい。
【0039】
乾燥緻密化工程の温度は特に限定されないが、湿式紡糸工程を経たアクリル樹脂繊維を、例えば、70~200℃で加熱することが好ましい。処理剤をアクリル樹脂繊維に付着させるタイミングは特に限定されないが、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間であることが好ましい。
【0040】
耐炎化処理工程における酸化性雰囲気は、特に限定されず、例えば、空気雰囲気を採用することができる。
炭素化処理工程における不活性雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空雰囲気等を採用することができる。
【0041】
本実施形態の処理剤、及びアクリル樹脂繊維によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の処理剤は、所定の酸価を有するカルボン酸化合物を含有している。したがって、アクリル樹脂繊維の毛羽を抑制することができる。また、処理剤の耐熱性を向上させることができるため、アクリル樹脂繊維の耐炎化処理工程における繊維同士の融着を抑制する効果(融着抑制効果)を向上させることができる。
【0042】
(2)湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間において、処理剤をアクリル樹脂繊維に付着させている。乾燥緻密化工程、及び延伸工程を経たアクリル樹脂繊維の集束性を向上させたり、耐炎化処理工程を経た耐炎化繊維の集束性を向上させたりすることができるため、炭素繊維の製造工程中の繊維の巻き付けや、毛羽の発生を抑制することができる。したがって、炭素繊維の外観を良好にしたり、炭素繊維の強度を向上させたりすることができる。
【0043】
上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態では、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間において、処理剤をアクリル樹脂繊維に付着させていたが、この態様に限定されない。乾燥緻密化工程と延伸工程の間において処理剤をアクリル樹脂繊維に付着させても良いし、延伸工程と耐炎化処理工程の間において処理剤をアクリル樹脂繊維に付着させても良い。
【0044】
・本実施形態において、アクリル樹脂繊維用処理剤は、変性シリコーンと非イオン界面活性剤とを含有していたが、この態様に限定されない。変性シリコーンと非イオン界面活性剤の少なくともいずれか一方が省略されていてもよい。
【0045】
・本実施形態において、例えば、アクリル樹脂繊維が、耐炎化処理工程を行なうものの、炭素化処理工程までは行わない繊維であってもよい。
・本実施形態の処理剤又は水性液には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤又は水性液の品質保持のための安定化剤や制電剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤又は水性液に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0046】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、%は質量%を意味する。
【0047】
試験区分1(アクリル樹脂繊維用処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示される各成分を使用し、カルボン酸化合物(A-1)が5%、平滑剤(B-1)が60%、平滑剤(B-6)が20%、非イオン界面活性剤(C-1)が15%の配合割合となるようにビーカーに加えた。これらを撹拌してよく混合した。撹拌を続けながら固形分濃度が25%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで実施例1のアクリル樹脂繊維用処理剤の25%水性液を調製した。
【0048】
(実施例2~19及び比較例1~4)
実施例2~19及び比較例1~4の各アクリル樹脂繊維用処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0049】
なお、各例の処理剤中におけるカルボン酸化合物の種類と含有量、平滑剤の種類と含有量、及び界面活性剤の種類と含有量は、表1の「(A)カルボン酸化合物」欄、「(B)平滑剤」欄、及び「(C)非イオン界面活性剤」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0050】
【表1】
表1の記号欄に記載するA-1~A-8、rA1~rA-3、B-1~B-8、C-1~C-4の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0051】
(カルボン酸化合物)
A-1:12-ヒドロキシステアリン酸の5量体縮合物
A-2:ヒマシ油脂肪酸の6量体縮合物
A-3:12-ヒドロキシステアリン酸の13量体縮合物
A-4:12-ヒドロキシステアリン酸の4量体縮合物
A-5:12-ヒドロキシステアリン酸の30量体縮合物
A-6:ビスフェノールAのエチレンオキサイド10モル付加物とアジピン酸を3:4のモル比で反応させたエステル化合物
A-7:ビスフェノールAのエチレンオキサイド15モル付加物とアジピン酸を1:1のモル比で反応させたエステル化合物
A-8:ポリオキシエチレン(25モル)ラウリルエーテル酢酸
rA-1:ヒマシ油脂肪酸
rA-2:ノニルフェノールのエチレンオキサイド12モル付加物とコハク酸のモノエステル
rA-3:イソステアリン酸
上記カルボン酸化合物に用いられるカルボン酸化合物の種類、酸価、ケン化価、及び分子中のエステル結合の数について、表2の「(A)カルボン酸化合物」欄、「酸価(mgKOH/g)」欄、「ケン化価(mgKOH/g)」欄、及び「分子中のエステル結合の数」欄にそれぞれ示す。
【0052】
【表2】
(平滑剤)
B-1:25℃における動粘度が650mm
2/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン
B-2:25℃における動粘度が90mm
2/s、アミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン
B-3:25℃における動粘度が4500mm
2/s、アミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン
B-4:25℃における動粘度が40mm
2/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン
B-5:25℃における動粘度が8000mm
2/s、アミノ当量が1000g/molであるアミノ変性シリコーン
B-6:25℃における動粘度が1700mm
2/s、シリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=20/80(質量比)、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(モル比)のポリエーテル変性シリコーン
B-7:25℃における動粘度が17000mm
2/s、エポキシ当量:3800g/molであるエポキシ変性シリコーン
B-8:ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジラウリルエステル
(非イオン界面活性剤)
C-1:イソデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物
C-2:イソオクタデシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物
C-3:へキシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物
C-4:テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド8モル付加物
試験区分2(
アクリル樹脂繊維、及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した
アクリル樹脂繊維用処理剤を用いて、
アクリル樹脂繊維、及び炭素繊維を製造した。
【0053】
まず、工程1として、アクリル樹脂を湿式紡糸した。具体的には、アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0054】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(原料繊維)を作成した。このアクリル繊維ストランドに対して、固形分付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように、試験区分1で調製したアクリル樹脂繊維用処理剤を給油した。アクリル樹脂繊維用処理剤の給油は、アクリル樹脂繊維用処理剤の4%イオン交換水溶液を用いた浸漬法により実施した。その後、アクリル繊維ストランドに対して、130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、更に170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に巻き取り装置を用いて糸管に巻き取った。
【0055】
次に、工程2として、巻き取られたアクリル樹脂繊維から糸を解舒し、230~270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間、耐炎化処理した後に糸管に巻き取ることで耐炎化糸(耐炎化繊維)を得た。
【0056】
次に、工程3として、巻き取られた耐炎化糸から糸を解舒し、窒素雰囲気下で300~1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0057】
試験区分3(評価)
実施例1~19及び比較例1~4の処理剤について、アクリル樹脂繊維の毛羽の有無、耐炎化繊維の繊維集束性、及び耐炎化繊維の繊維融着を評価した。各試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表1の“毛羽”、“耐炎化集束性”、及び“耐炎化融着”欄に示す。
【0058】
(毛羽)
試験区分2の工程1において、アクリル樹脂繊維を巻き取る巻き取り装置の直前に設置した毛羽計数装置により測定した1時間当たりの毛羽数を以下の基準で評価した。
【0059】
・毛羽の評価基準
◎(良好):毛羽数が0~5個
〇(可):毛羽数が6~10個
×(不良):毛羽数が11個以上
(耐炎化集束性)
試験区分2の工程2において耐炎化処理を行った耐炎化繊維に対して、巻き取り前の耐炎化糸の集束状態を目視で観察して、以下の基準で耐炎化集束性の評価を行った。
【0060】
・耐炎化集束性の評価基準
◎(良好):集束しており、トウ幅が一定である場合
〇(可):集束しているが、トウ幅が一定ではない場合
×(不良):繊維束中に空間があり、集束していない場合
(耐炎化融着)
試験区分2の工程2において耐炎化処理を行った耐炎化繊維を長さ10mmに切断し、ポリオキシエチレン(10)ラウリルエーテルの水溶液中に分散させた。10分間撹拌した後、繊維の分散状態を目視し、以下の基準で評価した。
【0061】
・耐炎化融着の評価基準
◎(良好):繊維が完全に均一に分散しており、短繊維束が存在しない場合
〇(可):繊維が概ね均一に分散しているが、短繊維束が存在している場合
×(不良):繊維の分散状態が不均一で、多数の短繊維束が存在している場合
表1の結果から、本発明によれば、アクリル樹脂繊維用処理剤の耐熱性を向上させて、繊維同士の融着抑制効果を向上させることができる。また、耐炎化繊維の繊維集束性を向上させることができる。また、アクリル樹脂繊維の毛羽の発生を抑制することができる。