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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054692
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤、及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/224 20060101AFI20220331BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20220331BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
D06M13/224
D06M15/643
D06M15/53
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161861
(22)【出願日】2020-09-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】本田 浩気
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA04
4L033AA05
4L033AB00
4L033AC09
4L033BA21
4L033CA48
4L033CA64
(57)【要約】
【課題】合成繊維の集束性を好適に向上させる。
【解決手段】平滑剤及び非イオン界面活性剤を含有する合成繊維用処理剤であって、平滑剤が、分子中にヒドロキシ基とカルボキシ基とを有するヒドロキシ脂肪酸から縮合形成された縮合ヒドロキシ脂肪酸を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑剤及び非イオン界面活性剤を含有する合成繊維用処理剤であって、
前記平滑剤が、分子中にヒドロキシ基とカルボキシ基とを有するヒドロキシ脂肪酸から縮合形成された縮合ヒドロキシ脂肪酸を含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
【請求項2】
前記縮合ヒドロキシ脂肪酸が、ヒマシ油脂肪酸、硬化ヒマシ油脂肪酸、リシノール酸及び12-ヒドロキシステアリン酸から選ばれる少なくとも1つから縮合形成されたものである請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記縮合ヒドロキシ脂肪酸の縮合度が2~10である請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記平滑剤が、さらにアミノ変性シリコーンを含むものである請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記平滑剤及び前記非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記縮合ヒドロキシ脂肪酸の含有割合が0.1~15質量%である請求項1~4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
さらに、イオン性化合物を含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤及びイオン性化合物の含有割合の合計を100質量%とすると、前記縮合ヒドロキシ脂肪酸の含有割合が0.1~15質量%である請求項6に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
前記合成繊維が、炭素繊維前駆体である請求項1~7のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤、及び合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、炭素繊維は、アクリル樹脂等を紡糸する紡糸工程、紡糸された繊維を乾燥して緻密化する乾燥緻密化工程、乾燥緻密化した繊維を延伸して合成繊維である炭素繊維前駆体を製造する延伸工程、炭素繊維前駆体を耐炎化する耐炎化処理工程、及び耐炎化繊維を炭素化する炭素化処理工程を行なうことにより製造される。
【0003】
合成繊維の製造工程において、繊維の集束性を向上させるために、合成繊維用処理剤が用いられることがある。
特許文献1には、窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーンと分岐脂肪酸を含有する炭素繊維製造用アクリル繊維油剤が開示されている。特許文献2には、含フッ素共重合体と縮合ヒドロキシ脂肪酸を含有する表面改質剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-184842号公報
【特許文献2】特開2016-44210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、合成繊維用処理剤には、合成繊維の製造工程における集束性を向上させる効果のさらなる性能向上が求められている。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、合成繊維の製造工程における集束性を好適に向上させることを可能にした合成繊維用処理剤を提供することにある。また、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための合成繊維用処理剤は、平滑剤及び非イオン界面活性剤を含有する合成繊維用処理剤であって、前記平滑剤が、分子中にヒドロキシ基とカルボキシ基とを有するヒドロキシ脂肪酸から縮合形成された縮合ヒドロキシ脂肪酸を含有することを要旨とする。
【0007】
上記合成繊維用処理剤について、前記縮合ヒドロキシ脂肪酸が、ヒマシ油脂肪酸、硬化ヒマシ油脂肪酸、リシノール酸及び12-ヒドロキシステアリン酸から選ばれる少なくとも1つから縮合形成されたものであることが好ましい。
【0008】
上記合成繊維用処理剤について、前記縮合ヒドロキシ脂肪酸の縮合度が2~10であることが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、前記平滑剤が、さらにアミノ変性シリコーンを含むものであることが好ましい。
【0009】
上記合成繊維用処理剤について、前記平滑剤及び前記非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記縮合ヒドロキシ脂肪酸の含有割合が0.1~15質量%であることが好ましい。
【0010】
上記合成繊維用処理剤について、さらに、イオン性化合物を含有することが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤及びイオン性化合物の含有割合の合計を100質量%とすると、前記縮合ヒドロキシ脂肪酸の含有割合が0.1~15質量%であることが好ましい。
【0011】
上記合成繊維用処理剤について、前記合成繊維が、炭素繊維前駆体であることが好ましい。
上記課題を解決するための合成繊維は、上記合成繊維用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、合成繊維の集束性を好適に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
本発明に係る合成繊維用処理剤(以下、単に処理剤ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態の処理剤は、平滑剤及び非イオン界面活性剤を含有する。平滑剤は、分子中にヒドロキシ基とカルボキシ基とを有するヒドロキシ脂肪酸から縮合形成された縮合ヒドロキシ脂肪酸を含有する。
【0015】
上記縮合ヒドロキシ脂肪酸を含有することにより、合成繊維の集束性を好適に向上させることができる。
上記縮合ヒドロキシ脂肪酸の具体例としては、例えば12-ヒドロキシステアリン酸6量体縮合物、ヒマシ油脂肪酸4~5量体縮合物、ヒマシ油脂肪酸6量体縮合物、ヒマシ油脂肪酸2量体縮合物、12-ヒドロキシドデカン酸5量体縮合物等が挙げられる。
【0016】
上記縮合ヒドロキシ脂肪酸は、特に制限されないがヒマシ油脂肪酸、硬化ヒマシ油脂肪酸、リシノール酸及び12-ヒドロキシステアリン酸から選ばれる少なくとも1つから縮合形成されたものであることが好ましい。これらの縮合ヒドロキシ脂肪酸を含有することにより、後述のように、合成繊維に対する処理剤の濡れ性が向上する。
【0017】
なお、上記ヒマシ油脂肪酸、硬化ヒマシ油脂肪酸は、原料となるヒマシ油や硬化ヒマシ油から誘導される脂肪酸を意味するものとする。
上記縮合ヒドロキシ脂肪酸の縮合度が2~10であることが好ましい。
【0018】
上記縮合ヒドロキシ脂肪酸は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記縮合ヒドロキシ脂肪酸は、市販品であってもよいし、公知の方法により製造したものであってもよい。公知の方法により製造する場合は、例えば、原料物質に含まれるヒドロキシ基とカルボキシル基との脱水縮合反応により製造することができる。
【0019】
また、上記縮合ヒドロキシ脂肪酸は、処理剤中で他のアミンや金属等の塩基性成分と塩を形成していてもよい。
また、本実施形態の処理剤は、上記縮合ヒドロキシ脂肪酸以外の平滑剤を含有していることが好ましい。上記縮合ヒドロキシ脂肪酸以外の平滑剤としては、例えば、シリコーン、エステル等が挙げられる。
【0020】
平滑剤として使用されるシリコーンとしては、特に制限はなく、例えば、ジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン等が挙げられる。
【0021】
平滑剤として使用されるエステルとしては、特に制限はなく、例えば、(1)オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート、イソテトラコシルオレート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカネート、グリセリントリオレート、トリメチロールプロパントリラウレート、ペンタエリスリトールテトラオクタネート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオレイルアゼレート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレート、ベンジルラウレート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウレート、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジラウレート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタレート、ジイソステアリルイソフタレート、トリオクチルトリメリテート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。その他、合成繊維用処理剤に採用されている公知の平滑剤等を使用してもよい。
【0022】
上記縮合ヒドロキシ脂肪酸以外の平滑剤の具体例としては、例えば25℃における動粘度が650mm/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が90mm/s、アミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が4500mm/s、アミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が1700mm/s、シリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=20/80(質量比)、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(モル比)のポリエーテル変性シリコーン、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジラウリルエステル等が挙げられる。
【0023】
平滑剤は、変性シリコーンを含有することが好ましく、アミノ変性シリコーンを含有することがより好ましい。
平滑剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
また、本実施形態の処理剤に含有される非イオン界面活性剤としては、特に制限はなく、例えば、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させたもの、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物等が挙げられる。
【0025】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0026】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。
【0027】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1~60モル、より好ましくは1~40モル、さらに好ましくは2~30モルである。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。
【0028】
非イオン界面活性剤の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0029】
非イオン界面活性剤の具体例としては、例えばドデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物、テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド8モル付加物等が挙げられる。
【0030】
非イオン界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記縮合ヒドロキシ脂肪酸を含有する平滑剤、及び非イオン界面活性剤の含有量に制限はない。平滑剤、及び非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、縮合ヒドロキシ脂肪酸の含有割合が0.1~15質量%であることが好ましく、0.3~13質量%であることがより好ましい。
【0031】
本実施形態の処理剤は、さらにイオン性化合物を含有することが好ましい。イオン性化合物を含有することにより、合成繊維の集束性をより向上させることができる。
ここで、イオン性化合物とは、イオン結合性を有する化合物を意味するものとする。イオン結合性を有する化合物としては、例えばスルフォネート塩、サルフェート塩、ホスフェート塩、脂肪酸塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、イミダゾリン化合物等が挙げられる。
【0032】
イオン性化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記平滑剤、非イオン界面活性剤、及びイオン性化合物の含有量に制限はない。平滑剤、非イオン界面活性剤、及びイオン性化合物の含有割合の合計を100質量%とすると、縮合ヒドロキシ脂肪酸の含有割合が0.1~15質量%であることが好ましく、0.3~13質量%であることがより好ましい。
【0033】
(第2実施形態)
本発明に係る合成繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、(5)セルロース系繊維、(6)リグニン系繊維等が挙げられる。
【0034】
合成繊維は、疎水性の合成繊維であることが好ましい。疎水性の合成繊維であることにより、処理剤を付着させた際に、繊維表面を好適に改質して親水性を付与することができる。疎水性の合成繊維としては、例えば上記(1)~(4)、(6)の合成繊維を挙げることができる。
【0035】
合成繊維としては、後述する炭素化処理工程を経ることにより炭素繊維となる樹脂製の炭素繊維前駆体が好ましい。炭素繊維前駆体を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、セルロース樹脂、リグニン樹脂、ピッチ等を挙げることができる。
【0036】
第1実施形態の処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤(溶媒を含まない)を合成繊維に対し0.1~2質量%となるように付着させることが好ましく、0.3~1.2質量%となるように付着させることがより好ましい。
【0037】
第1実施形態の処理剤を繊維に付着させる際の形態としては、例えば有機溶媒溶液、水性液等が挙げられる。
処理剤を合成繊維に付着させる方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤、及び水を含有する水性液又はさらに希釈した水溶液を用いて、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。
【0038】
本発明に係る処理剤、及びこの処理剤が付着した合成繊維を用いた炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の製造方法は、下記の工程1~3を経ることが好ましい。
【0039】
工程1:合成繊維を紡糸するとともに、第1実施形態の処理剤を付着させる紡糸工程。
工程2:前記工程1で得られた合成繊維を200~300℃、好ましくは230~270℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程。
【0040】
工程3:前記工程2で得られた耐炎化繊維をさらに300~2000℃、好ましくは300~1300℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程。
紡糸工程は、さらに、樹脂を溶媒に溶解して紡糸する湿式紡糸工程、湿式紡糸された合成繊維を乾燥して緻密化する乾燥緻密化工程、及び乾燥緻密化した合成繊維を延伸する延伸工程を有していることが好ましい。
【0041】
乾燥緻密化工程の温度は特に限定されないが、湿式紡糸工程を経た合成繊維を、例えば、70~200℃で加熱することが好ましい。処理剤を合成繊維に付着させるタイミングは特に限定されないが、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間であることが好ましい。
【0042】
耐炎化処理工程における酸化性雰囲気は、特に限定されず、例えば、空気雰囲気を採用することができる。
炭素化処理工程における不活性雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空雰囲気等を採用することができる。
【0043】
本実施形態の処理剤、及び合成繊維によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の処理剤は、平滑剤及び非イオン界面活性剤を含有している。平滑剤は、分子中にヒドロキシ基とカルボキシ基とを有するヒドロキシ脂肪酸から縮合形成された縮合ヒドロキシ脂肪酸を含有する。したがって、合成繊維の集束性を好適に向上させることができる。
【0044】
(2)本実施形態の処理剤によれば、合成繊維に対する濡れ性が向上する。したがって、処理剤をより均一に合成繊維に付着させることができる。
(3)湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間において、処理剤を合成繊維に付着させている。したがって、紡糸工程のうち、特に乾燥緻密化工程を経た合成繊維の集束性を向上させることができる。
【0045】
上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態では、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間において、処理剤を合成繊維に付着させていたが、この態様に限定されない。乾燥緻密化工程と延伸工程の間において処理剤を合成繊維に付着させても良いし、延伸工程と耐炎化処理工程の間において処理剤を合成繊維に付着させても良い。
【0046】
・本実施形態において、合成繊維用処理剤は、縮合ヒドロキシ脂肪酸以外の平滑剤を含有していたが、この態様に限定されない。縮合ヒドロキシ脂肪酸以外の平滑剤は省略されていてもよい。
【0047】
・本実施形態において、例えば、合成繊維が、耐炎化処理工程を行なうものの、炭素化処理工程までは行わない繊維であってもよい。また、耐炎化処理工程と炭素化処理工程の両方を行わない繊維であってもよい。
【0048】
・本実施形態の処理剤又は水性液には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤又は水性液の品質保持のための安定化剤や制電剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤又は水性液に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0049】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、%は質量%を意味する。
【0050】
試験区分1(合成繊維用処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示される各成分を使用し、縮合ヒドロキシ脂肪酸(A-1)が5%、縮合ヒドロキシ脂肪酸以外の平滑剤(B-1)が78%、非イオン界面活性剤(C-1)が15%、イオン性化合物(D-1)が2%の配合割合となるようにビーカーに加えた。これらを撹拌してよく混合した。撹拌を続けながら固形分濃度が25%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで実施例1の合成繊維用処理剤の25%水性液を調製した。
【0051】
(実施例2~20及び比較例1~4)
実施例2~20及び比較例1~4の各合成繊維用処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0052】
なお、各例の処理剤中における縮合ヒドロキシ脂肪酸の種類と含有量、縮合ヒドロキシ脂肪酸以外の平滑剤の種類と含有量、非イオン界面活性剤の種類と含有量、及びイオン性化合物の種類と含有量は、表1の「縮合ヒドロキシ脂肪酸」欄、「縮合ヒドロキシ脂肪酸以外の平滑剤」欄、及び「非イオン界面活性剤」欄、及び「イオン性化合物」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0053】
【表1】
表1の記号欄に記載するA-1~A-5、ra-1~ra-3、B-1~B-5、C-1、C-2、D-1~D-3の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0054】
(縮合ヒドロキシ脂肪酸)
A-1:12-ヒドロキシステアリン酸6量体縮合物
A-2:ヒマシ油脂肪酸4~5量体縮合物
A-3:ヒマシ油脂肪酸6量体縮合物
A-4:ヒマシ油脂肪酸2量体縮合物
A-5:12-ヒドロキシドデカン酸5量体縮合物
ra-1:12-ヒドロキシステアリン酸
ra-2:ヒマシ油脂肪酸
ra-3:イソステアリン酸
(縮合ヒドロキシ脂肪酸以外の平滑剤)
B-1:25℃における動粘度が650mm/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン
B-2:25℃における動粘度が90mm/s、アミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン
B-3:25℃における動粘度が4500mm/s、アミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン
B-4:25℃における動粘度が1700mm/s、シリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=20/80(質量比)、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(モル比)のポリエーテル変性シリコーン
B-5:ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジラウリルエステル
(非イオン界面活性剤)
C-1:ドデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物
C-2:テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド8モル付加物
(イオン性化合物)
D-1:1-エチル-2-(ヘプタデセニル)-4,5-ジハイドロ-3-(2-ハイドロキシエチル)-1H-イミダゾリニウムのエチル硫酸塩
D-2:ジオクチルスルホコハク酸のナトリウム塩
D-3:ドデシルベンゼンスルホン酸のテトラブチルホスホニウム塩
試験区分2(合成繊維、及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した合成繊維用処理剤を用いて、合成繊維、及び炭素繊維を製造した。
【0055】
まず、工程1として、アクリル樹脂を湿式紡糸した。具体的には、アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0056】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(原料繊維)を作成した。このアクリル繊維ストランドに対して、固形分付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように、試験区分1で調製した合成繊維用処理剤を給油した。合成繊維用処理剤の給油は、合成繊維用処理剤の4%イオン交換水溶液を用いた浸漬法により実施した。その後、アクリル繊維ストランドに対して、130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、更に170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に巻き取り装置を用いて糸管に巻き取った。
【0057】
次に、工程2として、巻き取られた合成繊維から糸を解舒し、230~270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間、耐炎化処理した後に糸管に巻き取ることで耐炎化糸(耐炎化繊維)を得た。
【0058】
次に、工程3として、巻き取られた耐炎化糸から糸を解舒し、窒素雰囲気下で300~1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0059】
試験区分3(評価)
実施例1~20及び比較例1~4の処理剤について、合成繊維の集束性、及び濡れ性を評価した。各試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表1の“紡糸集束性”、及び“濡れ性”欄に示す。
【0060】
(紡糸集束性)
試験区分2の工程1において、合成繊維用処理剤を給油したアクリル繊維ストランドが加熱ローラーを通過する際の集束状態を目視で確認して、以下の基準で集束性の評価を行った。
【0061】
・合成繊維の集束性の評価基準
◎(良好):集束性が良く、加熱ローラーへの巻きつきもなく、操業性に全く問題ない場合
〇(可):やや糸がばらけることがあるが断糸は無く操業性に問題ない場合
×(不良):糸のばらけが多く、頻繁に断糸が発生して操業性に影響がある場合
(濡れ性)
合成繊維用処理剤の有効成分4%イオン交換水溶液(イオン交換水以外を有効成分とする)を作成し、その0.1gをアクリル板に滴下した後、1分後の最大直径(mm)を測定し、以下の基準で評価した。
【0062】
・濡れ性の評価基準
◎(良好):最大直径が12mm以上
○(可):最大直径が10mm以上、12mm未満
×(不良):最大直径が10mm未満
表1の結果から、本発明によれば、合成繊維の集束性を好適に向上させることができる。また、本発明の合成繊維用処理剤は、合成繊維に対する濡れ性が向上する。