(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054721
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】紫外線照射装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20220331BHJP
A61L 9/20 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
A61L2/10 ZAB
A61L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161899
(22)【出願日】2020-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】寺田 庄一
【テーマコード(参考)】
4C058
4C180
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058AA30
4C058BB06
4C058KK02
4C058KK26
4C058KK33
4C058KK50
4C180AA07
4C180DD03
4C180HH11
4C180HH17
4C180HH19
4C180LL04
(57)【要約】
【課題】人の眼で感じ取れない短波長の紫外線(例えばUVC波)を含む光を放射する携帯型の紫外線照射装置において、より安全性が確保された装置構成を有する紫外線照射装置を提供する。
【解決手段】紫外線照射装置100は、波長300nm以下の紫外線を含む光を放射する光源部を備えた携帯型の紫外線照射装置である。光源部は、紫外線を放射する第一発光体と、第一発光体を内部に収容し、第一発光体から発せられる紫外線を放射する光出射窓を有する筐体と、光出射窓または光出射窓の近傍から可視光を放射する第二発光体と、を備える。第二発光体は、輝度が1000cd/m
2以上の可視光線を放射する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長300nm以下の紫外線を含む光を放射する光源部を備えた携帯型の紫外線照射装置であって、
前記光源部は、
前記紫外線を放射する第一発光体と、
前記第一発光体を内部に収容し、前記第一発光体から発せられる前記紫外線を放射する光出射窓を有する筐体と、
前記光出射窓または前記光出射窓の近傍から可視光を放射する第二発光体と、を備え、
前記第二発光体は、輝度が1000cd/m2以上の可視光線を放射することを特徴とする紫外線照射装置。
【請求項2】
前記第二発光体は、輝度が60000cd/m2以下の可視光線を放射することを特徴とする請求項1に記載の紫外線照射装置。
【請求項3】
前記第二発光体は、輝度が20000cd/m2以下の可視光線を放射することを特徴とする請求項1に記載の紫外線照射装置。
【請求項4】
波長300nm以下の紫外線を含む光を放射する光源部を備えた携帯型の紫外線照射装置であって、
前記光源部は、
前記紫外線を放射する第一発光体と、
前記第一発光体を内部に収容し、前記第一発光体から発せられる前記紫外線を放射する光出射窓を有する筐体と、
前記光出射窓または前記光出射窓の近傍から可視光を放射する第二発光体と、を備え、
前記第二発光体は、UGR値が25以上となる可視光線を放射することを特徴とする紫外線照射装置。
【請求項5】
前記第二発光体は、UGR値が28以上となる可視光線を放射することを特徴とする請求項4に記載の紫外線照射装置。
【請求項6】
前記第一発光体は、190nm~235nmの波長域にピーク波長を有する光を放射することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の紫外線照射装置。
【請求項7】
前記光出射窓には、235nmよりも長波長側の紫外線の透過を阻止する光学フィルタが設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の紫外線照射装置。
【請求項8】
前記第二発光体は、前記筐体の外表面における前記光出射窓の近傍に配置されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の紫外線照射装置。
【請求項9】
前記第二発光体は、前記筐体の外表面における前記光出射窓の外周の四隅に配置されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の紫外線照射装置。
【請求項10】
前記第二発光体は、前記筐体の外表面における前記光出射窓の外周を取り囲むように配置されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の紫外線照射装置。
【請求項11】
前記第二発光体は、前記筐体の内部において前記第一発光体の近傍に配置されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の紫外線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線を照射する紫外線照射装置に関し、特に、持ち運び可能な紫外線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空間中または物体表面に存在する微生物(細菌や真菌等)やウイルスは、人や人以外の動物に対して感染症を引き起こすことがあり、感染症の拡大によって生活が脅かされることが懸念される。特に、医療施設、学校、役所等の施設や、自動車、電車、バス、飛行機、船等の乗物等、頻繁に人が集まる場所や、人の往来が激しい場所において、感染症が蔓延しやすい。
感染症対策として、微生物やウイルスの感染経路を遮断することは重要である。特に、ドアノブ、手すり、スイッチ等の共用物を介した接触感染は、主要な感染経路の一つであり、効果的な対策が望まれている。
【0003】
従来、空間中または物体表面に存在する微生物やウイルスを、紫外線を照射して不活化させることが行われている。
例えば特許文献1には、持ち運び可能な携帯型の殺菌照明装置が開示されている。この殺菌照明装置は、紫外線を照射可能な殺菌ランプユニットと、手持ちを可能とするグリップ部とを備え、目的の対象物を即座に殺菌することができる。
また、例えば特許文献2には、殺菌の用途に利用される紫外線照射装置として、紫外線を発する第一放電ランプと、第一放電ランプの点灯確認のために可視光を発する第二放電ランプと、を備える紫外線照射装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-085739号公報
【特許文献2】特開2020-099524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の技術では、使用者の眼に紫外線が照射されないように、筐体が通常位置に対して所定角度に回されたときに電源を遮断する安全装置を設けている。しかしながら、通常位置の状態で使用者が紫外線ランプを覗き見ることも可能であり、安全対策として十分ではない。また、殺菌対象に対して様々な角度から紫外線を照射することができないため、殺菌できる場所(物)が限られてしまう。
【0006】
また、上記特許文献2に記載の技術では、可視光を視認することで紫外線が照射されているか否かを容易に確認することができるが、意図せず紫外線が眼に照射された場合に咄嗟の忌避行動をとることができず、紫外線を見続けてしまうおそれがある。
人に対する有害性が少ない紫外線であっても、光の強度(照度)が高くなるにつれて眼に対する刺激量は多くなるため、長時間にわたり当該光が眼に照射され続けることは好ましくない。
【0007】
そこで、本発明は、人の眼で感じ取れない短波長の紫外線を放射する携帯型の紫外線照射装置において、より安全性が確保された装置構成を有する紫外線照射装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る紫外線照射装置の一態様は、波長300nm以下の紫外線を含む光を放射する光源部を備えた携帯型の紫外線照射装置であって、前記光源部は、前記紫外線を放射する第一発光体と、前記第一発光体を内部に収容し、前記第一発光体から発せられる前記紫外線を放射する光出射窓を有する筐体と、前記光出射窓または前記光出射窓の近傍から可視光を放射する第二発光体と、を備え、前記第二発光体は、輝度が1000cd/m2以上の可視光線を放射する。
【0009】
このように、人の眼で感じ取ることが困難な波長300nm以下の紫外線を放射する光出射窓またはその近傍から、人が眩しいと感じ取ることができる輝度の可視光線を放射する。これにより、この携帯型の紫外線照射装置の使用者が、例えば光出射窓を任意の方向に向けた際に、人の眼に可視光が照射されると、その人は咄嗟に忌避行動をとることができる。したがって、光出射窓から放射される紫外線を長時間にわたり見続けてしまうことを防止することができる。
【0010】
また、上記の紫外線照射装置において、前記第二発光体は、輝度が60000cd/m2以下の可視光線を放射してもよい。この場合、第二発光体としてLEDを用いて可視光線を放射することができるので、小型の紫外線照射装置とすることができる。
さらに、上記の紫外線照射装置において、前記第二発光体は、輝度が20000cd/m2以下の可視光線を放射してもよい。この場合、明るい環境下でも十分に人が眩しいと感じ取れる光を放射することができ、適切に忌避行動をとらせることができる。
【0011】
また、本発明に係る紫外線照射装置の一態様は、波長300nm以下の紫外線を含む光を放射する光源部を備えた携帯型の紫外線照射装置であって、前記光源部は、前記紫外線を放射する第一発光体と、前記第一発光体を内部に収容し、前記第一発光体から発せられる前記紫外線を放射する光出射窓を有する筐体と、前記光出射窓または前記光出射窓の近傍から可視光を放射する第二発光体と、を備え、前記第二発光体は、UGR値が25以上となる可視光線を放射する。
【0012】
このように、人の眼で感じ取ることが困難な波長300nm以下の紫外線を放射する光出射窓またはその近傍から、人が不快であると感じることができる輝度の可視光線を放射する。これにより、この携帯型の紫外線照射装置の使用者が、例えば光出射窓を任意の方向に向けた際に、人の眼に可視光が照射されると、その人は咄嗟に忌避行動をとることができる。したがって、光出射窓から放射される紫外線を長時間にわたり見続けてしまうことを防止することができる。
【0013】
また、上記の紫外線照射装置において、前記第二発光体は、UGR値が28以上となる可視光線を放射してもよい。
この場合、光出射窓またはその近傍から、人がひどく不快に感じる光を放射することができる。したがって、より確実に忌避行動をとらせることができる。
【0014】
さらに、上記の紫外線照射装置において、前記第一発光体は、190nm~235nmの波長域にピーク波長を有する光を放射してもよい。
この場合、紫外線照射による人体への悪影響を抑制しつつ、微生物やウイルスを効果的に不活化することができる。
【0015】
また、上記の紫外線照射装置において、前記光出射窓には、235nmよりも長波長側の紫外線の透過を阻止する光学フィルタが設けられていてもよい。
この場合、人体への悪影響の少ない波長域の光のみを放射する紫外線照射装置とすることができる。
【0016】
さらに、上記の紫外線照射装置において、前記第二発光体は、前記筐体の外表面における前記光出射窓の近傍に配置されていてもよい。
この場合、光出射窓の近傍から可視光線を放射することができる。可視光線を紫外線とは異なる光出射窓から放射するので、例えば紫外線用の光出射窓に設けられた光学フィルタ等を介さずに可視光線を放射することができる。
【0017】
また、上記の紫外線照射装置において、前記第二発光体は、前記筐体の外表面における前記光出射窓の外周の四隅に配置されていてもよい。
この場合、使用者は、四点の可視光を結ぶ四角形領域の内側に紫外線の照射領域が存在することを容易に認識することができる。
【0018】
さらにまた、上記の紫外線照射装置において、前記第二発光体は、前記筐体の外表面における前記光出射窓の外周を取り囲むように配置されていてもよい。
この場合、使用者は、可視光によって囲まれた領域が紫外線の照射領域であることを容易に認識することができる。
【0019】
また、上記の紫外線照射装置において、前記第二発光体は、前記筐体の内部において前記第一発光体の近傍に配置されていてもよい。
この場合、第二発光体を第一発光体とともに筐体内部に収容するので、筐体に第二発光体専用の光出射窓を別途設ける必要がない。また、光出射窓から輝度の高い可視光線を放射することができるので、適切に光出射窓を視認させないようにすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一つの態様によれば、人の眼で感じ取れない短波長の紫外線を放射する携帯型の紫外線照射装置において、より安全性が確保された装置構成を有する紫外線照射装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態の紫外線照射装置の外観イメージ図である。
【
図2】本実施形態の紫外線照射装置の把持イメージ図である。
【
図3】紫外線照射装置が備える光源部の内部構造の模式図である。
【
図4】紫外線照射装置の別の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における紫外線照射装置100の外観イメージ図である。また、
図2は、紫外線照射装置100の把持イメージ図である。
紫外線照射装置100は、波長300nm以下の紫外線を含む光を放射する光源部を備えた携帯型の照射装置である。例えば、紫外線照射装置100は、微生物および/またはウイルスを不活化する波長の紫外線を、施設や乗物内の表面や空間に対して照射して、少なくとも当該施設や乗物内の表面や空間に存在する人体又は動物に対して有害な微生物やウイルスを不活化する携帯型の不活化装置とすることができる。
【0023】
なお、ここでいう「携帯」は、可搬さえできればよいというものではなく、使用者200が容易に片手で持ち運ぶことが可能な構成(ハンドヘルドタイプの構成)であることを意味する。
また、「不活化」とは、微生物やウイルスを死滅させる(又は感染力や毒性を失わせる)ことを指すものである。
【0024】
微生物やウイルスが保有するDNA(デオキシリボ核酸)は、波長260nm付近に紫外線の吸収帯を持っており、この波長の光を照射することにより、DNAは水和現象、ダイマー形成、分解等の光化学反応を引き起こし、微生物(バクテリアやカビ)やウイルスを不活化することができることが知られている。一方で、波長300nmを超える紫外線に対するDNAの吸収係数は0となる。つまり、波長300nmを超える紫外線にはDNAの光吸収による不活化効果がないとされている。そのため、不活化用途には300nm以下の紫外線が広く用いられている。
【0025】
図1に示すように、紫外線照射装置100は、筐体11を備える。筐体11には、紫外線を放射する光出射窓となる開口部11aが形成されている。この開口部11aには、例えば石英ガラスからなる窓部材12が設けられている。また、この開口部11aには、不要な光を遮断する光学フィルタ等を設けることもできる。
筐体11には、使用者200が光源部の点灯を指示するための指示部(始動ボタン)13が設けられている。指示部13は、
図2に示すように、使用者200が筐体11を握っている手の親指で操作できるように、例えば筐体11の側面に配置されている。
【0026】
また、筐体11からは、不図示の電源部と電気的に接続される接続線(コード)14が伸びている。上記電源部は、筐体11の内部に収容された後述する第一発光体20(
図3参照)や、筐体11の外表面における光出射窓の近傍に設けられた第二発光体30に対して、接続線14を介して電力を供給する。
【0027】
図3に示すように、筐体11の内部には、第一発光体20が収容されている。なお、
図3では、説明の都合上、窓部材12の図示を省略している。
第一発光体20は、波長300nm以下の紫外線を含む光、例えば、190nm~235nmの波長域にピーク波長を有する光を放射する。第一発光体20は、例えばエキシマランプとすることができる。
【0028】
UV放射線は、波長によって細胞の貫通力が異なり、低波長ほど当該貫通力が小さい。例えば、約200nmといった低波長のUV放射線は、非常に効率良く水を通過するものの、ヒト細胞の外側部分(細胞質)による吸収が大きく、放射線に敏感なDNAを含む細胞核に到達するのに十分なエネルギーを有さない場合がある。そのため、上記の低波長のUV放射は、ヒト細胞に対する悪影響が少ない。一方で、波長240nmを超える紫外線は、ヒトの細胞核中のDNAにダメージを与えうる。また、波長190nm未満の紫外線は、オゾンを発生させることが知られている。
そこで、本実施形態では、第一発光体20として、人体への悪影響が少なく、不活化効果が得られる波長域190nm~235nmにピーク波長を有する紫外線を放射する紫外線光源を用いる。
【0029】
エキシマランプ20は、両端が気密に封止された直管状の放電容器21を備える。放電容器21は、例えば石英ガラスにより構成することができる。また、放電容器21の内部には、発光ガスとして希ガスとハロゲンとが封入されている。本実施形態では、塩化クリプトン(KrCl)ガスを用いたKrClエキシマランプを用いる。この場合、得られる放射光の中心波長は222nmである。
なお、発光ガスは上記に限定されない。例えば、発光ガスとして臭化クリプトン(KrBr)ガス等を用いることもできる。KrBrエキシマランプの場合、得られる放射光の中心波長は207nmである。
また、
図3では、紫外線照射装置100が複数(3本)のエキシマランプを備えているが、エキシマランプの数は特に限定されない。
【0030】
放電容器21の外表面には、一対の電極(第一電極22、第二電極23)が当接するように配置されている。第一電極22および第二電極23は、放電容器21における光取出し面とは反対側の側面(-Z方向の面)に、放電容器21の管軸方向(Y方向)に互いに離間して配置されている。
そして、放電容器21は、これら2つの電極22、22に接触しながら跨るように配置されている。具体的には、2つの電極22、23には凹溝が形成されており、放電容器21は、電極22、23の凹溝に嵌め込まれている。
【0031】
この一対の電極のうち、一方の電極(例えば第一電極22)が高圧側電極であり、他方の電極(例えば第二電極23)が低圧側電極(接地電極)である。第一電極22および第二電極23の間に高周波電圧を印加することで、放電容器21の内部空間において励起二量体が生成され、中心波長222nmのエキシマ光がエキシマランプ20の光取出し面から放射される。
【0032】
エキシマランプ20の光取出し面は、光出射窓に対向して配置される。そのため、エキシマランプ20から放射された光は、光出射窓を介して紫外線照射装置100から出射される。
ここで、電極22、23は、エキシマランプ21から放射される光に対して反射性を有する金属部材により構成されていてもよい。この場合、放電容器21から-Z方向に放射された光を反射して+Z方向に進行させることができる。
【0033】
光出射窓となる開口部11aには、上述したように光学フィルタを設けることができる。光学フィルタは、例えば、人体への悪影響の少ない波長域190nm~235nmの光(より好ましくは、波長域200nm~230nmの光)を透過し、それ以外の紫外線(UVC波長域の光)をカットする波長選択フィルタとすることができる。
波長選択フィルタとしては、例えば、HfO2層およびSiO2層による誘電体多層膜を有する光学フィルタを用いることができる。
【0034】
なお、波長選択フィルタとしては、SiO2層およびAl2O3層による誘電体多層膜を有する光学フィルタを用いることもできる。
しかしながら、波長選択フィルタとしてHfO2層およびSiO2層による誘電体多層膜を有する光学フィルタを用いた場合には、SiO2層およびAl2O3層による誘電体多層膜を有する光学フィルタを用いた場合と比較して、層の総数を少なくすることができる。そのため、入射角が0°のときの紫外線の透過率を高めることができる。
このように、光出射窓に光学フィルタを設けることで、エキシマランプ20から人に有害な光が僅かに放射されている場合であっても、当該光が筐体11の外に漏洩することをより確実に抑えることができる。
【0035】
なお、本実施形態では、
図1~
図3に示すように、外部電源から光源部へ接続線14を介して電力が供給される場合について説明したが、バッテリー内蔵型の紫外線照射装置であってもよい。この場合、
図4に示す紫外線照射装置100Aのように、筐体11にバッテリー収容部15を設け、筐体11内部に収容されたバッテリーから第一発光体20や第二発光体30等へ電力を供給するようにしてもよい。
【0036】
上記のように、本実施形態における紫外線照射装置100は、190nm~235nmの波長域の紫外線を放射する。この波長域の紫外線は、人体への悪影響の少ない光である。しかしながら、人に対する有害性が無い光であっても、光の強度(照度)が高くなるにつれて眼に対する刺激量は多くなるため、当該光が眼に照射され続けることは好ましくない。
【0037】
また、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)やJIS Z 8812(有害紫外放射の測定方法)によれば、人体への1日(8時間)あたりの紫外線照射量は、波長ごとに許容限界値(TLV:Threshold Limit Value)が定められている。この許容限界値は、今後は改定されてゆく可能性もあるが、紫外線の照射量が当該許容限界値を超えないようにすることが重要である。
【0038】
本実施形態の紫外線照射装置100は、使用者200が手で持ち、所望の空間や表面(床、天井、ドアノブ、手すり、スイッチ等)に対して紫外線照射を行うことができる。一方で、使用者200が自由に扱えることから、光出射窓の近傍をのぞき込むような動作を制限することができない。ここで、強い可視光であれば、視認すると眩しいと感じることができるが、微生物やウイルスを効果的に不活化可能な紫外線(UVC波)は、人の視感度から外れる波長域であり、強いUV強度でも人の眼では感知することができない。そのため、使用者200は、不活化作業中に上記紫外線が眼に照射されたとしても、咄嗟に忌避行動がとれず、強いUV光でも見続けてしまうおそれがある。
【0039】
そこで、本実施形態における紫外線照射装置100は、
図1および
図3に示すように、光出射窓(紫外線照射面)の近傍に輝度の高い可視光源である第二発光体30を備える。第二発光体30は、少なくとも第一発光体20が紫外線を放射している間に可視光線を放射するように制御される。
なお、第一発光体20と第二発光体30とは、共通の配線系統を使用して駆動されてもよいし、個別の配線系統を使用して駆動されてもよい。また、例えば第二発光体30の異常を検知する異常検知部を設け、第二発光体30の異常を検知した場合には第一発光体20の点灯を規制するようにしてもよい。
【0040】
ここで、第二発光体30は、例えばLEDであって、例えば輝度が1000cd/m2以上の可視光線を放射する。
輝度が1000cd/m2以上である可視光線は、一般的な明るさの室内でも人が眩しい光として感じ取ることができる。このように、輝度の高い可視光を紫外線照射面の近傍から放射することで、使用者は紫外線照射面を視認し続けないように忌避行動をとることができる。その結果、使用者の眼に対して長時間紫外線が照射されてしまうことを防止することができる。
【0041】
また、不快グレア(眩しさにより生じる不快感)を評価する指標として、CIE(国際照明委員会)が推奨しているUGR(Unified Glare Rating)という指標がある。
なお、UGR値の計算方法の詳細は、CIE117:1995に規定されている。
【0042】
【0043】
ここで、Lbは背景輝度(cd/m2)、Lは、観測者が受ける各照明器具の発光部分の輝度(測定値)、ωは、観測者から見た各照明器具の発光部分の立体角(Sr)、Pは、各照明器具のグスのポジションインデックス(Guth position index)である。また、対象となる発光部分が複数存在する場合は、各発光部分の位置における算出値が足し合わせられ、UGR値が定められる。
また、ポジションインデックスPは、視線からの水平方向変位をT、視線からの垂直方向変位をH、および観測者の眼との距離をRとして、パラメータT/R、H/Rを用いて算定することができる。
【0044】
そして、単体の携帯型(持ち運び型)の灯具を想定した場合、上記(1)式のUGR算定式は、以下のように書き換えられる。
【0045】
【0046】
ここで、ポジションインデックスは、P=7とした。
図5に示すように、本実施形態の紫外線照射装置100の使用場面においては、視線からの水平方向変位T、つまり、使用者の眼201から手202に持つ紫外線照射装置100までの変位可能範囲300内での水平方向の最大距離は、1mとすることができる。また、視線からの垂直方法変位H、つまり、使用者の眼201から手202に持つ紫外線照射装置100までの変位可能範囲300内での垂直方向の最大距離は、1mとすることができる。また、観測者の眼との距離R、すなわち、注視点Pと観測者の眼201との距離は、1mとすることができる。
上記の条件から、T/R=1、H/R=1とすることができる。これらのパラメータT/R、H/Rを用いて、CIE117:1995に規定されている算定表を参照してポジションインデックスを読み取ると、P=7となる。
【0047】
また、立体角ωは、
図6に示すように、紫外線照射装置100の発光面(窓部材12、第二発光体22)から45度(θ=45度)の位置における眩しさを基準とし、観測者の眼の位置からみた灯具の立体角(Sr)として、下記のように定めた。
ω=2π(1-cosθ)=1.84
【0048】
そして、国際照明委員会(CIE)は、UGR段階とグレア感との関係として、以下のような基準を提示している。
【0049】
【0050】
したがって、上記(2)式により算出されるUGRが25以上、好ましくは28以上となるように、第二発光体30の輝度Lを決定してもよい。これにより、人にとって眩しい状況を作り出すことができる。
なお、携帯型の紫外線照射装置100の場合、使用者が殺菌・不活化対象の領域を選択して紫外線照射を行うこととなるため、明るい環境下での利用が想定される。
そのため、一般的に可視光照明された環境を考えて、背景輝度Lb=20cd/m2としてUGR値が25以上となるように第二発光体30の輝度Lを決定することが望ましい。この場合、UGR算定式は、UGR=8log[(4.70×10-4)・L2]とすることができ、その場合にUGR値が25以上となるように第二発光体30の輝度Lを決定することが望ましい。そのため、第二発光体30の輝度Lは1685cd/m2以上とすることが望ましい。
【0051】
また、より明るい環境下でもUGR値25以上を満たせることが望ましく、背景輝度Lbが20cd/m2以上の場合を基準としてもよい。
例えば、背景輝度Lb=50cd/m2とした場合のUGR値が25以上となるように第二発光体30の輝度Lを決定してもよい。この場合、UGR算定式は、UGR=8log[(1.88×10-4)・L2]とすることができ、その場合にUGR値が25以上となるように第二発光体30の輝度Lを決定することが望ましい。そのため、第二発光体30の輝度Lは2665cd/m2以上とすることが望ましい。
また更に、背景輝度Lb=100cd/m2とした場合のUGR値が25以上となるように第二発光体30の輝度Lを決定してもよい。この場合、UGR算定式は、UGR=8log[(9.39×10-5)・L2]とすることができ、その場合にUGR値が25以上となるように第二発光体30の輝度Lを決定することが望ましい。そのため、第二発光体30の輝度Lは3769cd/m2以上とすることが望ましい。
【0052】
また、背景輝度Lbの上限としては400cd/m2を想定しておけばよく、また、UGR値の上限は31に設定してもよい。背景輝度Lb=400cd/m2でUGR値が31となるときの第二発光体30の輝度Lは、17873cd/m2である。したがって、第二発光体30の輝度Lの上限値は、2万cd/m2としてもよい。これにより、より明るい環境下でも十分に人が眩しいと感じ取れる光を放射することができ、適切に忌避行動をとらせることができる。
なお、高輝度LEDとしては、輝度が6万cd/cm2のものも存在する。したがって、第二発光体30の輝度の上限値は、6万cd/cm2とすることもできる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態における紫外線照射装置100は、波長300nm以下の紫外線を含む光を放射する光源部を備える。ここで、光源部は、波長300nm以下の紫外線を放射する第一発光体20と、第一発光体20を内部に収容する筐体11と、筐体11に設けられた光出射窓の近傍から可視光を放射する第二発光体30と、を備える。具体的には、第一発光体20は、190nm~235nmの波長域にピーク波長を有する光を放射する。また、第二発光体30は、輝度が1000cd/m2以上、または、UGR値が25以上の可視光線を放射する。
【0054】
このように、紫外線照射装置100は、人の眼で感じ取ることが困難な波長300nm以下の紫外線を放射する光出射窓の近傍に、人が眩しいと感じ取ることができ、眩しさにより生じる不快感を与えることができる輝度の高い可視光線を放射する可視光源を併設する。
そのため、使用者が紫外線照射装置100を持ち運び、光出射窓を任意の方向に向けて紫外線を照射した際に、人の眼に可視光が照射されると、その人は咄嗟に忌避行動をとることができる。したがって、光出射窓から放射される紫外線を長時間にわたり見続けてしまうことを防止することができる。
また、上記のように人に忌避行動をとらせる手段が設けられているため、例えば人の眼に紫外線が照射されないように紫外線照射装置の姿勢(使用角度)を規制する手段等を設ける必要がない。そのため、利便性が損なわれることもない。
【0055】
また、本実施形態の紫外線照射装置100において、第一発光体20は、190nm~235nmの波長域にピーク波長を有する光を放射することができる。したがって、紫外線照射による人体への悪影響を抑制しつつ、微生物やウイルスを効果的に不活化することができる。
ここで、光出射窓に、235nmよりも長波長側の紫外線の透過を阻止する光学フィルタを設ければ、人体への悪影響の少ない波長域の光のみを放射する紫外線照射装置とすることができる。この場合、使用者またはその周囲に存在する人が可視光線を視認してから忌避行動をおこすまでの反応時間に、その人に光出射窓から放射される紫外線が照射された場合であっても、人体に対するダメージを低減することができる。
【0056】
以上のように、本実施形態における紫外線照射装置100は、より安全性が確保された装置構成を有する紫外線照射装置とすることができる。
【0057】
(変形例)
上記実施形態において、第二発光体30は、
図1に示すように、筐体11の外表面における光出射窓の近傍に1つのみ配置する場合について説明した。しかしながら、第二発光体30の配置は上記に限定されるものではない。
例えば
図7に示す紫外線照射装置100Bのように、第二発光体30は、筐体11の外表面における光出射窓の外周の四隅に1つずつ配置されていてもよい。この場合、紫外線照射装置100Bの使用者は、四点の可視光を結ぶ四角形領域の内側に紫外線の照射領域が存在することを容易に認識することができる。
なお、第二発光体30を複数配置する場合、これら複数の第二発光体30の合計輝度が1000cd/m
2以上であるか、または複数の第二発光体30の合計輝度から算定されるUGR値が25以上であるものとする。
【0058】
また、
図8に示す紫外線照射装置100Cのように、第二発光体30は、筐体11の外表面における光出射窓の外周を取り囲むように配置されていてもよい。この場合、紫外線照射装置100Cの使用者は、可視光によって囲まれた領域が紫外線の照射領域であることを容易に認識することができる。
さらに、
図9に示す紫外線照射装置100Dのように、第二発光体30は、筐体11の内部において第一発光体20の近傍に配置されていてもよい。例えば第二発光体30は、第一発光体(エキシマランプ)20の複数の放電容器21の間で、且つ、第一電極22と第二電極23との間に配置することができる。この場合、紫外線照射装置100Dの光出射窓から紫外線と可視光線とが放射される。第二発光体30を第一発光体20とともに筐体11内部に収容するので、筐体11に第二発光体30専用の光出射窓を別途設ける必要がない。
【0059】
また、上記実施形態においては、第一発光体20であるエキシマランプは、
図3に示すように放電容器21の一方の側面に一対の電極22、23を配置した構成である場合について説明した。しかしながら、エキシマランプの構成は上記に限定されるものではない。
例えば、長尺な放電容器の両端部に、一対の環状の電極(第一電極、第二電極)が配置された構成であってもよい。また、長尺な放電容器の内部に内側電極(第一電極)を有し、放電容器の外壁面にメッシュ状(網目形状)または線形状の外側電極(第二電極)を有する構成であってもよい。さらに、別の例として、扁平状の放電容器の向かい合う2つの外側面上に、それぞれ第一電極および第二電極を有してなる、いわゆる「扁平管構造」を採用してもよい。また、円筒状の外側管と円筒状の内側管とからなる、いわゆる「二重管構造」を採用してもよい。この場合、外側管の外側面および内側管の内側面に、それぞれ網状の第一電極(外部電極)および膜状の第二電極(内部電極)が配置された構成とすることができる。
【0060】
また、上記実施形態においては、第一発光体20としてエキシマランプを用いる場合について説明したが、第一発光体20としてLEDを用いることもできる。
LEDとしては、例えば窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系LED、窒化アルミニウム(AlN)系LED等を採用することができる。ここで、AlGaN系LEDとしては、中心波長が190~235nmの範囲内となるようにAlの組成を調整することが好ましい。AlN系LEDは、ピーク波長210nmの紫外線を放出する。
【0061】
さらに、上記実施形態においては、第二発光体30としてLEDを用いる場合について説明したが、第二発光体30は可視光線を放射可能な光源であればよく、ランプ光源やレーザ光源、EL光源であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
11…筐体、12…窓部材、13…指示部、14…接続部、15…バッテリー収容部、20…第一発光体、21…放電容器、22…第一電極、23…第二電極、30…第二発光体、100…紫外線照射装置、200…使用者