(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054784
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】医療システム及び医療情報処理装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20220331BHJP
G16H 20/00 20180101ALI20220331BHJP
A61B 3/12 20060101ALI20220331BHJP
A61B 5/026 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
A61B3/10 100
G16H20/00
A61B3/12 300
A61B5/026 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161990
(22)【出願日】2020-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(71)【出願人】
【識別番号】505210115
【氏名又は名称】国立大学法人旭川医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】南出 夏奈
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 正博
(72)【発明者】
【氏名】酒井 潤
(72)【発明者】
【氏名】吉田 晃敏
【テーマコード(参考)】
4C017
4C316
5L099
【Fターム(参考)】
4C017AA11
4C017AB07
4C017AC28
4C017BC11
4C017FF05
4C316AA09
4C316AA10
4C316AB02
4C316AB11
4C316FB21
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】患者の循環器系の状態を非侵襲で検知するための新たな技術を提供する。
【解決手段】例示的な態様の医療システム1は、データ取得部10と、データ処理部20とを含む。データ取得部10は、少なくとも1つの光学的方法を用いて患者の眼底からデータを取得する。データ処理部20は、患者の循環器系に関する情報を生成するために、データ取得部10により取得されたデータを処理する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの光学的方法を用いて患者の眼底からデータを取得するデータ取得部と、
前記患者の循環器系に関する情報を生成するために、前記データ取得部により取得された前記データを処理するデータ処理部と
を含む、医療システム。
【請求項2】
前記循環器系に関する情報は、血栓形成傾向に関する情報を含む、
請求項1の医療システム。
【請求項3】
前記血栓形成傾向に関する情報は、血液性状に関する情報を含む、
請求項2の医療システム。
【請求項4】
前記血液性状に関する情報は、血液凝固線溶系の亢進による血液性状の変化を示す情報を含む、
請求項3の医療システム。
【請求項5】
前記循環器系に関する情報は、血栓症状に関する情報を含む、
請求項1の医療システム。
【請求項6】
前記血栓症状に関する情報は、血管内における血流速度の分布を示す情報を含む、
請求項5の医療システム。
【請求項7】
前記血栓症状に関する情報は、血管内に形成された構造物に関する情報を含む、
請求項5の医療システム。
【請求項8】
前記循環器系に関する情報は、感染症に随伴する循環器系の状態に関する情報を含む、
請求項1の医療システム。
【請求項9】
前記循環器系に関する情報は、敗血症に関する状態を示す情報、播種性血管内凝固症候群(DIC)に関する状態を示す情報、血栓に関する状態を示す情報、及び血管閉塞に関する状態を示す情報のうちの少なくとも1つを含む、
請求項1の医療システム。
【請求項10】
前記少なくとも1つの光学的手法は、光コヒーレンストモグラフィ血流計測(OCT血流計測)、光コヒーレンストモグラフィ血管造影(OCT-A)、及びカラー眼底撮影のうちの少なくとも1つを含む、
請求項1の医療システム。
【請求項11】
前記少なくとも1つの光学的手法は、前記OCT血流計測を含み、
前記データ処理部は、前記OCT血流計測で取得された血流データに少なくとも基づいて、血液凝固線溶系に関する情報を生成する、
請求項10の医療システム。
【請求項12】
前記データ取得部は、
前記眼底に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)スキャンを適用してデータを収集するOCT装置と、
前記OCT装置により収集された前記データに少なくとも基づいて血流速度及び血管径を算出する算出部と
を含み、
前記データ処理部は、前記算出部により算出された前記血流速度及び前記血管径に少なくとも基づいて前記血液凝固線溶系に関する情報を生成する、
請求項11の医療システム。
【請求項13】
前記データ処理部は、前記血流速度及び前記血管径に少なくとも基づいて壁せん断速度(WSR)を算出するWSR算出部を含む、
請求項12の医療システム。
【請求項14】
前記データ処理部は、
予め取得された血液粘度情報を記憶する記憶部と、
前記壁せん断速度及び前記血液粘度情報に少なくとも基づいて壁せん断応力(WSS)を算出するWSS算出部と
を更に含む、
請求項13の医療システム。
【請求項15】
前記データ取得部は、
前記眼底の所定領域に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)スキャンを繰り返し適用して時系列データを収集するOCT装置と、
前記OCT装置により収集された前記時系列データに少なくとも基づいて、血流速度の空間分布及び時間変化を表す血流情報を生成する血流情報生成部と
を含み、
前記データ処理部は、前記血流情報生成部により生成された前記血流情報に少なくとも基づいて前記血液凝固線溶系に関する情報を生成する、
請求項11の医療システム。
【請求項16】
前記データ処理部は、前記血流情報に少なくとも基づいて、血管内に形成された構造物に関する情報を生成する、
請求項15の医療システム。
【請求項17】
前記データ処理部は、前記血流情報に少なくとも基づいて、壁せん断速度(WSR)の空間分布及び時間変化を表すWSR情報を生成するWSR情報生成部を含む、
請求項15の医療システム。
【請求項18】
前記データ処理部は、前記血流情報及び前記WSR情報に少なくとも基づいて、血管内に形成された構造物に関する情報を生成する、
請求項17の医療システム。
【請求項19】
前記データ処理部は、
予め取得された血液粘度分布情報を記憶する記憶部と、
前記WSR情報及び前記血液粘度分布情報に少なくとも基づいて、壁せん断応力(WSS)の空間分布及び時間変化を表すWSS情報を生成するWSS情報生成部と
を更に含む、
請求項17の医療システム。
【請求項20】
前記データ処理部は、前記血流情報及び前記WSS情報に少なくとも基づいて、血管内に形成された構造物に関する情報を生成する、
請求項19の医療システム。
【請求項21】
前記データ処理部は、前記少なくとも1つの光学的方法を用いて眼底から取得された第1データと診断結果データとを含む第1訓練データを用いた機械学習によって構築された第1学習済みモデルを用いて、前記データ取得部により前記患者の前記眼底から取得された前記データを入力とし前記患者の循環器系に関する情報を出力とする推論処理を実行する第1推論処理部を含む、
請求項1の医療システム。
【請求項22】
前記データ処理部は、前記少なくとも1つの光学的方法を用いて眼底から取得された第1データを処理して生成された第2データと診断結果データとを含む第2訓練データを用いた機械学習によって構築された第2学習済みモデルを用いて、前記データ取得部により前記患者の前記眼底から取得された前記データを処理して生成されたデータを入力とし前記患者の循環器系に関する情報を出力とする推論処理を実行する第2推論処理部を含む、
請求項1の医療システム。
【請求項23】
前記データ取得部に対して遠隔位置にある医師端末に向けて、前記データ処理部により生成された前記循環器系に関する情報を送信する送信部を更に含む、
請求項1の医療システム。
【請求項24】
前記医師端末を更に含む、
請求項23の医療システム。
【請求項25】
前記データ取得部を遠隔操作するための操作部を更に含む、
請求項1の医療システム。
【請求項26】
少なくとも1つの光学的方法を用いて患者の眼底から取得されたデータを受け付けるデータ受付部と、
前記患者の循環器系に関する情報を生成するために、前記データ受付部により受け付けられた前記データを処理するデータ処理部と
を含む、医療情報処理装置。
【請求項27】
前記データの取得が行われた場所に対して遠隔位置にある医師端末に向けて、前記データ処理部により生成された前記循環器系に関する情報を送信する第1送信部を更に含む、
請求項26の医療情報処理装置。
【請求項28】
請求項27の医療情報処理装置と、
前記医師端末と
を含む、医療システム。
【請求項29】
前記少なくとも1つの光学的方法を用いて前記患者の前記眼底からデータを取得するデータ取得装置と、
前記データ取得装置により取得された前記データを前記医療情報処理装置に送信する第2送信部と
を更に含み、
前記データ受付部は、前記第2送信部により送信された前記データを受け付け、
前記データ処理部は、前記第2送信部により送信され前記データ受付部により受け付けられた前記データを、前記患者の循環器系に関する情報を生成するために処理する、
請求項28の医療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、医療システム及び医療情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
疾患の症状や重症化の兆候は複雑であり、これらを検知するために様々な技術が開発されてきた。例えば、特許文献1には、高度な医療知識を用いずに感染症のリスクを判定するための技術として、動脈血酸素飽和度、体温及び心拍数の各々についての異常の有無からリスク判定を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の一つの目的は、患者の循環器系の状態を非侵襲で検知するための新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
幾つかの例示的な態様に係る医療システムは、データ取得部と、データ処理部とを含む。データ取得部は、少なくとも1つの光学的方法を用いて患者の眼底からデータを取得する。データ処理部は、患者の循環器系に関する情報を生成するために、データ取得部により取得されたデータを処理する。
【0006】
幾つかの例示的な態様において、循環器系に関する情報は、血栓形成傾向に関する情報を含む。
【0007】
幾つかの例示的な態様において、血栓形成傾向に関する情報は、血液性状に関する情報を含む。
【0008】
幾つかの例示的な態様において、血液性状に関する情報は、血液凝固線溶系の亢進による血液性状の変化を示す情報を含む。
【0009】
幾つかの例示的な態様において、循環器系に関する情報は、血栓症状に関する情報を含む。
【0010】
幾つかの例示的な態様において、血栓症状に関する情報は、血管内における血流速度の分布を示す情報を含む。
【0011】
幾つかの例示的な態様において、血栓症状に関する情報は、血管内に形成された構造物に関する情報を含む。
【0012】
幾つかの例示的な態様において、循環器系に関する情報は、感染症に随伴する循環器系の状態に関する情報を含む。
【0013】
幾つかの例示的な態様において、循環器系に関する情報は、敗血症に関する状態を示す情報、播種性血管内凝固症候群(DIC)に関する状態を示す情報、血栓に関する状態を示す情報、及び血管閉塞に関する状態を示す情報のうちの少なくとも1つを含む。
【0014】
幾つかの例示的な態様において、少なくとも1つの光学的手法は、光コヒーレンストモグラフィ血流計測(OCT血流計測)、光コヒーレンストモグラフィ血管造影(OCT-A)、及びカラー眼底撮影のうちの少なくとも1つを含む。
【0015】
幾つかの例示的な態様において、少なくとも1つの光学的手法は、OCT血流計測を含み、且つ、データ処理部は、OCT血流計測で取得された血流データに少なくとも基づいて、血液凝固線溶系に関する情報を生成する。
【0016】
幾つかの例示的な態様において、データ取得部は、OCT装置と、算出部とを含む。OCT装置は、患者の眼底に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)スキャンを適用してデータを収集する。算出部は、OCT装置により収集されたデータに少なくとも基づいて血流速度及び血管径を算出する。データ処理部は、算出部により算出された血流速度及び血管径に少なくとも基づいて血液凝固線溶系に関する情報を生成する。
【0017】
幾つかの例示的な態様において、データ処理部は、WSR算出部を含む。WSR算出部は、血流速度及び血管径に少なくとも基づいて壁せん断速度(WSR)を算出する。
【0018】
幾つかの例示的な態様において、データ処理部は、記憶部と、WSS算出部とを含む。記憶部は、予め取得された血液粘度情報を記憶する。WSS算出部は、壁せん断速度及び血液粘度情報に少なくとも基づいて壁せん断応力(WSS)を算出する。
【0019】
幾つかの例示的な態様において、データ取得部は、OCT装置と、血流情報生成部とを含む。OCT装置は、患者の眼底の所定領域に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)スキャンを繰り返し適用して時系列データを収集する。血流情報生成部は、OCT装置により収集された時系列データに少なくとも基づいて、血流速度の空間分布及び時間変化を表す血流情報を生成する。データ処理部は、血流情報生成部により生成された血流情報に少なくとも基づいて血液凝固線溶系に関する情報を生成する。
【0020】
幾つかの例示的な態様において、データ処理部は、血流情報に少なくとも基づいて、血管内に形成された構造物に関する情報を生成する。
【0021】
幾つかの例示的な態様において、データ処理部は、WSR情報生成部を含む。WSR情報生成部は、血流情報に少なくとも基づいて、壁せん断速度(WSR)の空間分布及び時間変化を表すWSR情報を生成する。
【0022】
幾つかの例示的な態様において、データ処理部は、血流情報及びWSR情報に少なくとも基づいて、血管内に形成された構造物に関する情報を生成する。
【0023】
幾つかの例示的な態様において、データ処理部は、記憶部と、WSS情報生成部とを含む。記憶部は、予め取得された血液粘度分布情報を記憶する。WSS情報生成部は、WSR情報及び血液粘度分布情報に少なくとも基づいて、壁せん断応力(WSS)の空間分布及び時間変化を表すWSS情報を生成する。
【0024】
幾つかの例示的な態様において、データ処理部は、血流情報及びWSS情報に少なくとも基づいて、血管内に形成された構造物に関する情報を生成する。
【0025】
幾つかの例示的な態様において、データ処理部は、第1推論処理部を含む。第1推論処理部は、少なくとも1つの光学的方法を用いて眼底から取得された第1データと診断結果データとを含む第1訓練データを用いた機械学習によって構築された第1学習済みモデルを用いて、データ取得部により患者の眼底から取得されたデータを入力とし患者の循環器系に関する情報を出力とする推論処理を実行する。
【0026】
幾つかの例示的な態様において、データ処理部は、第2推論処理部を含む。第2推論処理部は、少なくとも1つの光学的方法を用いて眼底から取得された第1データを処理して生成された第2データと診断結果データとを含む第2訓練データを用いた機械学習によって構築された第2学習済みモデルを用いて、データ取得部により患者の眼底から取得されたデータを処理して生成されたデータを入力とし患者の循環器系に関する情報を出力とする推論処理を実行する。
【0027】
幾つかの例示的な態様に係る医療システムは、送信部を更に含む。送信部は、データ取得部に対して遠隔位置にある医師端末に向けて、データ処理部により生成された循環器系に関する情報を送信する。
【0028】
幾つかの例示的な態様に係る医療システムは、医師端末を更に含む。
【0029】
幾つかの例示的な態様に係る医療システムは、データ取得部を遠隔操作するための操作部を更に含む。
【0030】
幾つかの例示的な態様に係る医療情報処理装置は、データ受付部と、データ処理部とを含む。データ受付部は、少なくとも1つの光学的方法を用いて患者の眼底から取得されたデータを受け付ける。データ処理部は、患者の循環器系に関する情報を生成するために、データ受付部により受け付けられたデータを処理する。
【0031】
幾つかの例示的な態様に係る医療情報処理装置は、第1送信部を更に含む。第1送信部は、データの取得が行われた場所に対して遠隔位置にある医師端末に向けて、データ処理部により生成された循環器系に関する情報を送信する。
【0032】
幾つかの例示的な態様に係る医療システムは、例示的な態様に係る医療情報処理装置と、医師端末とを含む。
【0033】
幾つかの例示的な態様に係る医療システムは、データ取得装置と、第2送信部とを更に含む。データ取得装置は、少なくとも1つの光学的方法を用いて患者の眼底からデータを取得する。第2送信部は、データ取得装置により取得されたデータを医療情報処理装置に送信する。データ受付部は、第2送信部により送信されたデータを受け付ける。データ処理部は、第2送信部により送信されデータ受付部により受け付けられたデータを、患者の循環器系に関する情報を生成するために処理する。
【発明の効果】
【0034】
例示的な態様によれば、患者の循環器系の状態を非侵襲で検知するための新たな技術を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】例示的な態様に係る医療システムの構成の一例を表す概略図である。
【
図2】例示的な態様に係る医療システムにより処理されるデータの構造の一例を表す概略図である。
【
図3】例示的な態様に係る医療システムの構成の一例を表す概略図である。
【
図4】例示的な態様に係る医療システムの構成の一例を表す概略図である。
【
図5】例示的な態様に係る医療システムの構成の一例を表す概略図である。
【
図6】例示的な態様に係る医療システムの構成の一例を表す概略図である。
【
図7】例示的な態様に係る医療システムの構成の一例を表す概略図である。
【
図8】例示的な態様に係る医療システムの動作の一例を表すフローチャートである。
【
図9】例示的な態様に係る医療システムの構成の一例を表す概略図である。
【
図10】例示的な態様に係る医療システムの構成の一例を表す概略図である。
【
図11】例示的な態様に係る医療システムの構成の一例を表す概略図である。
【
図12】例示的な態様に係る医療システムの構成の一例を表す概略図である。
【
図13】例示的な態様に係る医療情報処理装置及びそれを含む医療システムの構成の一例を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本開示では、医療システム及び医療情報処理装置についての幾つかの例示的な態様を説明する。本技術分野における通常の知識を有する者であれば、本開示に係る態様が各種の変形態様や均等物を提供することや、本開示に係る態様又はその変形態様若しくは均等物が医療方法、システムの制御方法、装置の制御方法、プログラム、記録媒体など他の各種の態様を提供することを理解できるであろう。
【0037】
幾つかの例示的な態様は、少なくとも1つの光学的方法(光学的モダリティ)で患者の眼底から取得されたデータをコンピュータで処理することによって、患者の循環器系に関する情報を生成するものである。このコンピュータ処理は推論を含んでよい。この推論は、例えば、機械学習により構築された学習済みモデル(推論モデル)を用いたアルゴリズム、学習済みモデルを用いないアルゴリズム、又は、これらの組み合わせによって実行されてよい。
【0038】
幾つかの例示的な態様におけるコンピュータ処理に供されるデータは、任意の眼科検査で取得されたデータであってよく、例えば任意の眼科モダリティ装置で取得されたデータであってよい。眼科モダリティ装置は、例えば、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)装置、眼底カメラ、走査型レーザー検眼鏡、スリットランプ顕微鏡、手術用顕微鏡などであってよい。幾つかの例示的な態様において、光コヒーレンストモグラフィ装置は、例えば、光コヒーレンストモグラフィ血流計測、光コヒーレンストモグラフィ血管造影(OCT-A)などに用いられる。幾つかの例示的な態様において、眼底カメラ、走査型レーザー検眼鏡、スリットランプ顕微鏡、手術用顕微鏡などの眼底撮影装置は、例えば、カラー眼底撮影に用いられる。なお、コンピュータ処理に供されるデータはこれらに限定されず、例えば、他の種類の検査データ、電子カルテデータ、問診データ、患者背景情報(年齢、治療歴、病歴、投薬歴、手術歴など)などを更に含んでいてもよい。
【0039】
例示的な態様は、このようなデータから患者の循環器系に関する所定の情報を生成するように構成される。幾つかの例示的な態様により生成される情報は、定量的な情報及び定性的な情報の少なくとも一方を含んでいてよく、例えば以下に示す情報のいずれかを含んでいてよい:血栓形成傾向に関する情報;血栓症状に関する情報;感染症に随伴する循環器系の状態に関する情報;敗血症に関する状態を示す情報;播種性血管内凝固症候群(DIC)に関する状態を示す情報;血栓に関する状態を示す情報;血管閉塞に関する状態を示す情報。
【0040】
血栓形成傾向に関する情報は、患者の循環器系(血管内、心臓内)に血栓が形成される傾向を示す情報であり、例えば、血栓形成リスクに関する情報を含む。血栓形成傾向に関する情報は、血液性状に関する情報、及び、血液凝固線溶系の亢進による血液性状の変化を示す情報のいずれかを含んでいてよい。血液性状に関する情報は、血液の性質に関する情報及び/又は血液の状態に関する情報を含む。血液凝固線溶系の亢進による血液性状の変化を示す情報は、血液を凝固させる作用系(凝固系、血液凝固因子)の活発化に起因する血液性状の変化を示す情報、及び/又は、血栓や血餅を溶解する作用系(線維要素溶解系、線溶系)の活発化に起因する血液性状の変化を示す情報を含む。血栓形成傾向に関する情報は、例えば、粘度、壁せん断応力、壁せん断速度、特定成分の量又は割合、特定成分間の比率、これらのいずれかの変化を示す情報、これらのいずれかの分布を示す情報などを含んでいてよい。
【0041】
血栓症状に関する情報は、血栓に起因する症状に関する情報であり、例えば、血管内における血流速度の分布を示す情報、及び、血管内に形成された構造物に関する情報のいずれかを含んでいてよい。血管内における血流速度の分布は、例えば、1次元的な分布、2次元的な分布、3次元的な分布、及び、時間的な分布のいずれか1つ又はいずれか2つ以上の組み合わせであってよい。血管内に形成された構造物は、例えば、白色血栓、赤色血栓、混合血栓、硝子様血栓、これらのいずれかの形成機序に関わるもの(例えば、中間生成物)などであってよい。
【0042】
感染症に随伴する循環器系の状態に関する情報は、例えば、血管炎症、血栓形成傾向、血液凝固傾向、敗血症、DIC、肺炎、リンパ節炎、リンパ管炎など、感染症に伴う又は起因する疾患や病態に関する情報を含む。対象となる感染症は、任意のウイルス感染症、任意の細菌感染症、又は任意の真菌感染症であってよく、例えば、2020年に大流行した新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Desease 2019;COVID-19)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、インフルエンザ、感染性心内膜炎などであってよい。
【0043】
敗血症は、感染症が全身に波及したことによる非常に重篤な状態であり、循環性ショック、DIC、多臓器不全などを引き起こす。敗血症に関する状態を示す情報は、例えば、敗血症による炎症、循環不全などの症状に関する情報を含む。
【0044】
DICは、本来出血箇所のみで生じるべき血液凝固反応が全身の血管内で無秩序に起こる症候群である。DICの病態としては、全身の血管内において著しい凝固活性化が持続的に生じて微小血栓が多発する。進行すると、微小循環障害による臓器障害から消費性凝固障害を引き起こし、出血を生じる。また、凝固活性化とともに線溶活性化も呈するため血栓の過剰な線溶が生じ、出血を促進する。播種性血管内凝固症候群(DIC)に関する状態を示す情報は、例えば、DICの上記病態(凝固系の亢進、線溶系の亢進、血栓、出血など)を示す情報を含む。
【0045】
血栓に関する状態を示す情報は、循環器系(血管内、心臓内)に存在する又は存在する可能性のある血栓に関する任意の情報であってよく、例えば、血栓の有無、血栓の程度、血栓の分布、血栓の個数、血栓が形成されている確率などを含む。
【0046】
血管閉塞に関する状態を示す情報は、循環器系に発生している又は発生している可能性のある血管閉塞に関する任意の情報であってよく、例えば、血管閉塞の有無、血管閉塞の程度、血管閉塞箇所の分布、血管閉塞箇所の個数、血管閉塞が発生している確率などを含む。
【0047】
このように、例示的な態様は、例えば、上記例示のいずれかの光学的モダリティを用いて患者の眼底から取得されたデータに基づき患者の循環器系に関する情報を生成することにより、患者の循環器系の状態を非侵襲で検知することを可能にするものである。幾つかの例示的な態様は、血栓形成傾向(例えば、血液性状、及び/又は、血液凝固線溶系の亢進による血液性状の変化)、血栓症状(例えば、血流速度分布、及び/又は、血管内構造物)、感染症に随伴する循環器系の状態及び/又は状態変化、敗血症、DIC、血栓、血管閉塞、これらのいずれかに類する事項、これらのいずれかに由来する事項、及び、これらのいずれかの機序に関する事項のうち、1つ以上の事項に関する情報を生成することができる。なお、例示的な態様により生成可能な情報の種類はこれらに限定されず、採用される光学的モダリティと採用されるデータ処理との組み合わせによって生成(例えば、導出、推定など)可能な任意の種類の情報であってよい。
【0048】
幾つかの例示的な態様は、以下に説明するような背景をも考慮して考案されたものであり、これに対応した効果を奏することができる。医師や看護師等の医療従事者は、院内感染のリスクに晒されている。例えば2020年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックでは、多くの患者が殺到した医療機関においてクラスター感染が発生するなど、医療従事者への感染リスクが大きな問題となった。なお、医療従事者への感染リスクの増加は、感染症流行時に限らず、災害や大事故が発生した際にも起こり得る。一般に、感染リスクを低減するには、人と人との距離を十分に確保すること、いわゆるソーシャルディスタンシング(social distancing)が重要とされているが、標準的な医療においてこれを実現することは容易ではない。例えば、検査を行う際、医師等は患者のすぐそばに居て処置を行うことが多い。
【0049】
幾つかの例示的な態様は、光学的モダリティで取得されたデータのコンピュータ処理で生成された情報を、遠隔位置にある医師端末に提供することができるように構成されていてよい。また、幾つかの例示的な態様は、検査装置(光学的モダリティ装置)やコンピュータを遠隔位置から操作できるように構成されていてよい。これらの構成によれば、従来は患者のすぐそばに居なければ実施できなかった検査で得られたデータを診断に利用することが可能となる。換言すると、幾つかの例示的な態様によれば、患者と医療従事者との間のソーシャルディスタンシングを維持することができるとともに、症状や重症化の兆候といった複雑な生理学的イベントを非侵襲且つ高精度で検知することが可能になる。
【0050】
ここで、「遠隔位置」は、患者と医療従事者との間のソーシャルディスタンシングを確保可能な位置関係であればよい。例えば、医師端末は、検査装置とは別の部屋に設置されていてもよいし、検査装置とは別の施設に設置されていてもよい。また、検査装置を遠隔操作するための装置(操作装置、操作部)は、検査装置とは別の部屋に設置されていてもよいし、検査装置とは別の施設に設置されていてもよい。なお、完全防護服を着用する場合のように十分な感染症防護体制の下に検査が実施される場合には、ソーシャルディスタンシングを確保しなくてもよい。
【0051】
本明細書にて引用された文献に記載されている事項や、その他の任意の公知技術によって、例示的な態様に変形を施すことが可能である。この変形は、例えば、付加、組み合わせ、置換、削除、省略、及びその他の加工のいずれかであってよい。
【0052】
本開示において説明される要素の機能の少なくとも一部は、回路構成(circuitry)又は処理回路構成(processing circuitry)を用いて実装されていてよい。回路構成又は処理回路構成は、開示された機能の少なくとも一部を実行するように構成及び/又はプログラムされた、汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、従来の回路構成、及びそれらの任意の組み合わせのいずれかを含んでいてよい。プロセッサは、トランジスタ及び/又は他の回路構成を含む、処理回路構成又は回路構成とみなされ得る。本開示において、回路構成、回路、コンピュータ、プロセッサ、ユニット、手段、部、又はこれらに類する用語は、開示された機能の少なくとも一部を実行するハードウェア、及び/又は、開示された機能の少なくとも一部を実行するようにプログラムされたハードウェアを含んでいてよい。ハードウェアは、本明細書に開示されたハードウェアであってよく、或いは、開示された機能の少なくとも一部を実行するようにプログラム及び/又は構成された既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが或るタイプの回路構成とみなされ得るプロセッサである場合、回路構成、回路、コンピュータ、プロセッサ、ユニット、手段、部、又はこれらに類する用語は、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせであってよく、このソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサを構成するために使用されてよい。
【0053】
以下に説明する例示的な態様を任意に組み合わせてもよい。例えば、2つ以上の例示的な態様を少なくとも部分的に組み合わせることが可能である。
【0054】
<医療システムの構成>
例示的な態様の医療システムの構成について幾つかの例を説明する。
図1に示す例示的な医療システム1は、データ取得部10と、データ処理部20と、出力部30とを含んでいる。医療システム1は、更に操作装置2を含んでいてもよい。
【0055】
典型的な例において、データ取得部10とデータ処理部20は、通信回線を介して接続されている。この通信回線は、例えば、医療機関内にネットワークを形成していてもよく、また、複数の施設にわたるネットワークを形成していてもよい。この通信回線に適用される通信技術は任意であってよく、有線通信、無線通信、近距離通信などの様々な公知の通信技術のいずれかであってよい。データ処理部20と出力部30との間の接続態様も同様であってよい。或いは、データ処理部20と出力部30は、同じコンピュータに搭載された機能部であってもよい。
【0056】
操作装置2は、医療従事者がデータ取得部10(検査装置、光学的モダリティ装置)を遠隔操作するために使用される。また、操作装置2は、データ取得部10を用いて検査を行っている患者(被検者)に対して医療従事者(検者)が指示などを提供するために使用される。また、操作装置2は、データ処理部20を遠隔操作するために使用可能であってもよい。操作装置2は、例えば、コンピュータ、操作パネルなどを含む。
【0057】
データ取得部10は、少なくとも1つの光学的モダリティで患者の眼底からデータを取得するように構成されている。データ取得部10は、例えば、光コヒーレンストモグラフィ装置、眼底カメラ、走査型レーザー検眼鏡、スリットランプ顕微鏡、手術用顕微鏡など、任意の光学的眼底撮影モダリティ装置を含む。データ取得部10は、例えば、他の種類の検査データ、電子カルテデータ、問診データ、患者背景情報などを更に取得可能であってもよい。
【0058】
光コヒーレンストモグラフィ装置及び/又は眼底カメラは、例えば、特開2020-44027号公報に記載された、各種の撮影準備動作が自動化された装置であってよい。なお、撮影準備動作は、撮影条件を整えるために実行される動作であり、その例として、アライメント調整、フォーカス調整、光路長調整、偏光調整、光量調整などがある。また、撮影準備動作により達成された良好な撮影条件を維持するための動作を自動で実行可能であってよい。このような動作として、眼の動きに合わせた自動アライメント調整(トラッキング)や、眼の動きに合わせた自動光路長調整(Zロック)などがある。これらの自動動作は、例えば、検者が立ち会うことなく実施される検査において有効である。
【0059】
光コヒーレンストモグラフィ装置により取得されるデータ(光コヒーレンストモグラフィデータ)は、例えば、眼底に3次元スキャンを適用して得られた3次元画像データ、3次元画像データのプロジェクション画像データ、光コヒーレンストモグラフィ血管造影画像データ、光コヒーレンストモグラフィ血流データのうちの少なくとも1つであってよい。
【0060】
光コヒーレンストモグラフィ血管造影は、モーションコントラスト技術を用いて血管を描出する光学的モダリティであり、微細な血管の描出が可能である。光コヒーレンストモグラフィ血管造影画像データは、例えば特開2019-58495号公報、特開2019-154988号公報などに記載された光コヒーレンストモグラフィ装置を用いて取得される。
【0061】
光コヒーレンストモグラフィ血流計測は、血液の流通状態(血流動態)を測定する光学的モダリティである。光コヒーレンストモグラフィ血流データは、例えば、特開2019-54994号公報、特開2020-48730号公報などに記載された光コヒーレンストモグラフィ装置を用いて取得される。幾つかの例示的な態様は、光コヒーレンストモグラフィ血流計測により、光コヒーレンストモグラフィ血流データとして、血流速度、血流量、血管径、血流速度の時系列変化(時間変化、時間依存変化)を表す波形データ、血流量の時系列変化を表す波形データなどを取得することができる。波形データは、典型的には、時間を横軸とし、血流速度を縦軸とした2次元座標系によって表現された、血流速度の時系列変化グラフである。なお、眼底血流計測に用いられる光学的モダリティは、光コヒーレンストモグラフィ血流計測に限定されず、例えば、再表2008/069062号公報などに記載されたレーザースペックルフローグラフィ(LSFG)であってもよい。
【0062】
眼底カメラにより取得可能な画像データ(眼底カメラ画像データ)としては、例えば、カラー眼底画像データ、赤外眼底画像データ、蛍光造影眼底画像データ(フルオレセイン血管造影画像データ、インドシアニングリーン血管造影画像データなど)などがある。幾つかの例示的な態様では、眼底カメラを用いてカラー眼底画像データが取得される。
【0063】
走査型レーザー検眼鏡は、例えば、特開2014-226156号公報に記載された装置であってよい。走査型レーザー検眼鏡により取得可能な画像データ(走査型レーザー画像データ)としては、例えば、カラー眼底画像データ、単色眼底画像データ、蛍光造影眼底画像データなどがある。幾つかの例示的な態様では、走査型レーザー検眼鏡を用いてカラー眼底画像データが取得される。
【0064】
スリットランプ顕微鏡は、例えば、特開2019-213734号公報に記載された、遠隔撮影に有効な装置であってよい。スリットランプ顕微鏡により取得される画像データは、例えば、カラー眼底画像データ、前眼部断面画像データ、及び、前眼部3次元画像データのうちの少なくとも1つであってよい。幾つかの例示的な態様では、スリットランプ顕微鏡を用いてカラー眼底画像データが取得される。
【0065】
手術用顕微鏡は、例えば、特開2002-153487号公報に記載された、遠隔手術に有効な装置であってよい。幾つかの例示的な態様では、手術用顕微鏡を用いてカラー眼底画像データが取得される。
【0066】
本態様において、データ取得部10に含まれる検査装置(例えば、光コヒーレンストモグラフィ装置、眼底カメラなど)のうちの少なくとも1つは、遠隔操作及び/又は遠隔制御が可能であってよい。
【0067】
例えば、医療従事者への感染リスクを考慮し、検査装置を用いた検査が行われる検査室と、この検査装置の操作が行われる操作室とを分けることができる。検査室には、検査装置に加え、操作室内の操作者の指示(音声、画像、映像など)を出力するためのスピーカーやディスプレイ、検査室内の被検者(患者)を撮影するためのビデオカメラ、被検者の音声が入力されるマイクロフォン、検査装置に接続されたコンピュータなどが設けられている。
【0068】
一方、操作室には、検査装置を遠隔操作するための操作装置2が設けられている。操作装置2は、コンピュータ、操作パネル、ディスプレイ、ビデオカメラ、マイクロフォンなどが設けられている。コンピュータは、遠隔操作に対する処理を実行する。コンピュータは、検査室内の検査装置に接続されている。操作パネル、ビデオカメラ、及びマイクロフォンは、被検者への指示を入力するために用いられる。ディスプレイは、検査装置により取得されたデータや、遠隔操作のための情報(画面、検査室からの情報など)を表示する。
【0069】
このような構成により、操作室内の操作者(医療従事者)は、例えばアプリケーションプログラミングインターフェイス(API)を用いて検査室内の検査装置を遠隔操作できるとともに、テレビ電話などを用いて被検者に指示を送ることができる。これにより、被検者は、遠隔位置にいる操作者の指示にしたがって一人で検査を受けることができ、その結果、被検者から操作者への感染リスクを大幅に低減することが可能となる。
【0070】
患者(被検者)一人での検査をより好適に行うために、準備動作が自動化された検査装置(前述)を使用することができる。この場合、操作者からの指示を要することなく検査を行うことも可能になると考えられる。場合によっては、補助者(操作者など)を配置しなくてもよい。ただし、患者によっては単独での検査が困難であることも想定されるため、例えば、遠隔位置に補助者を待機させることや、遠隔位置から補助者が検査状況を監視していてもよい。なお、患者に対して指示を送る補助者(操作者など)は、擬人化されたコンピュータシステム(典型的には、人工知能技術を用いた自動応答システム)であってもよい。
【0071】
データ処理部20は、各種のデータ処理を実行する。本態様のデータ処理部20は、患者の循環器系に関する情報を生成するために、データ取得部10により取得されたデータを処理するように構成されている。
【0072】
本態様のデータ処理部20により生成される情報は、例えば、以下の情報のうちの少なくとも1つであってよい:血栓形成傾向に関する情報(血液性状に関する情報、及び/又は、血液凝固線溶系の亢進による血液性状の変化を示す情報);血栓症状に関する情報(血管内における血流速度分布を示す方法、及び/又は、血管内に形成された構造物に関する情報);感染症に随伴する循環器系の状態(及び/又は状態変化)に関する情報;敗血症に関する状態を示す情報;DICに関する状態を示す情報;血栓に関する状態を示す情報;血管閉塞に関する状態を示す情報。
【0073】
データ処理部20が実行する処理の幾つかの例を後述の態様において説明する。データ処理部20は、機械学習で構築された学習済みモデル(推論モデル)を用いてもよいし、用いなくてもよい。
【0074】
図2は、データ処理部20により生成されたデータを処理(記録、送信など)するためのデータ構造の例を示す。本例のデータ構造100は、血栓形成傾向データ部110と、血栓症状データ部120と、感染症随伴データ部130と、敗血症データ部140と、DICデータ部150と、血栓データ部160と、血管閉塞データ部170とを含んでいる。
【0075】
血栓形成傾向データ部110は、データ処理部20により生成された血栓形成傾向に関する情報が記録される領域(フォルダなど)である。血栓形成傾向データ部110は、血液性状データ部111を含んでいる。血液性状データ部111は、データ処理部20により生成された血液性状に関する情報が記録される領域である。血液性状データ部111は、血液性状変化データ部112を含んでいる。血液性状変化データ部112は、データ処理部20により生成された血液凝固線溶系の亢進による血液性状の変化を示す情報が記録される領域である。
【0076】
血栓症状データ部120は、データ処理部20により生成された血栓症状に関する情報が記録される領域である。血栓症状データ部120は、血流速度分布データ部121と、血管内構造物データ部122とを含んでいる。血流速度分布データ部121は、データ処理部20により生成された血管内における血流速度の分布を示す情報が記録される領域である。血管内構造物データ部122は、データ処理部20により生成された血管内に形成された構造物に関する情報が記録される領域である。
【0077】
感染症随伴データ部130は、データ処理部20により生成された感染症に随伴する循環器系の状態に関する情報が記録される領域である。敗血症データ部140は、データ処理部20により生成された敗血症に関する状態を示す情報が記録される領域である。DICデータ部150は、データ処理部20により生成されたDICに関する状態を示す情報が記録される領域である。血栓データ部160は、データ処理部20により生成された血栓に関する状態を示す情報が記録される領域である。血管閉塞データ部170は、データ処理部20により生成された血管閉塞に関する状態を示す情報が記録される領域である。
【0078】
幾つかの例示的な態様において、データ構造100は、上記したデータ部110~170のうちの少なくとも1つを含んでいる。幾つかの例示的な態様において、データ構造100は、上記したデータ部110~170以外のデータ部を含んでいてもよい。例えば、データ構造100は、データ取得部10により眼底から取得されたデータが記録される眼底データ部、データ取得部10により眼底から取得されたデータに所定の処理を施して得られたデータが記録される加工データ部、任意の種類のデータが記録される任意データ部などを含んでいてよい。任意データ部には、例えば、任意の検査装置により取得されたデータ、電子カルテデータ、問診データ、患者情報(例えば、患者識別子、患者背景情報)などが記録される。
【0079】
これらのデータを生成するように構成される本態様の幾つかの背景について説明する。「新型コロナ肺炎の死亡に播種性血管内凝固症候群(DIC)が関与している?」(日本医事新報社ホームページ:https://www.jmedj.co.jp/Journal/paper/detail.php?id=14500)には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に誘発されたDIC(DICによる血栓塞栓症)が重症の新型コロナ肺炎による死亡の原因の一つと考えられること、心筋炎の発生もあり得ること、密閉・密接で施行される心・血管エコー図の検査がほとんど施行されておらず深部静脈や心臓内の血栓形成については不明であること、DICに心筋炎が合併すると心臓内血栓が形成されやすくなり血栓塞栓及び多臓器不全を生じる可能性があること、新型コロナウイルスの感染で敗血症が生じる可能性があること、敗血症などに起因する微小血栓障害の画像診断は困難であること、初期の循環器の異常が微小血管であるため診断が困難であること、新型コロナ肺炎の患者に対してD-ダイマーを含めた血液凝固系の検査と心・血管エコー図の検査とが有効と考えられること、DICの診断ができれば抗凝固療法により症状の劇的な改善が期待できること、血栓症の予防が新型コロナ肺炎治療の基本になり得ること、などが指摘されている。
【0080】
「COVID-19重症患者の多くが敗血症に陥っていると推定」(日本医事新報社ホームページ:https://www.jmedj.co.jp/Journal/paper/detail.php?id=14563)には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による重篤例や死亡例の多くが敗血症を生じていることが指摘されている。本態様は、敗血症に関する情報を提供するための非侵襲な手法を提供するものである。
【0081】
「重篤副作用疾患別対応マニュアル 播種性血管内凝固(全身性凝固亢進障害、消費性凝固障害)」平成19年6月 厚生労働省には、敗血症では血液凝固と血栓溶解のバランスが破綻し、全身に血栓を生じたり微小血管での出血が生じたりする、DICと呼ばれる予後不良の症候群が発生することが指摘されている。本態様は、DIC、血液凝固、血栓溶解、血栓、出血などに関する情報を提供するための非侵襲な手法を提供するものである。
【0082】
「COVID-19 and Coagulopathy:Frequently Asked Questions」(AMERICAN SOCIETY OF HEMATOLOGYホームページ:https://www.hematology.org/covid-19-and-coagulopathy)には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者について、DICが生じると肺を中心に様々な微小血管内の血栓形成が発生する可能性があること、血液凝固の亢進を示す血液検査数値と重症化との相関がこの可能性を強く示唆していること、肺だけでなく心臓や腎臓障害が頻発することも血管内の血栓形成によると考えられること、皮膚症状として川崎病のような血管炎症状を呈した症例があること、などが指摘されている。本態様は、血栓、血液凝固、血管炎症などに関する情報を提供するための非侵襲な手法を提供するものである。
【0083】
「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 2020 19-COVID 第2版」(厚生労働省ホームページ:https://www.mhlw.go.jp/content/000631552.pdf)には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化マーカーとして、D-ダイマー、CRP(C-反応性蛋白)、LDH(血清乳酸脱水素酵素)、フェリチン、リンパ球、クレアチニンなどが有用な可能性があることが指摘されている。特に、血液凝固の亢進を示す血液検査数値と重症化との相関が指摘されている。これらの他に、心筋トポロニン(Tn)、IL-1β、IL-6、IL-8、TNFa、IFNaなどの有用性を指摘する文献もある。本態様は、これらの重症化マーカーに反映されるような血液性状変化に関する情報を提供するための非侵襲な手法を提供するものである。
【0084】
本態様のデータ処理部20は、このような背景を考慮して設計及び構成されてよい。データ処理部20の幾つかの例示的な態様については後述する。なお、他の感染症を対象とする場合においても同じ要領でデータ処理部20(及びデータ構造100)を設計及び構成することが可能である。
【0085】
本態様のデータ処理部20の構成例を
図3に示す。本例のデータ処理部20は、眼画像データ処理部21と、眼血流データ処理部22とを含んでいる。
【0086】
眼画像データ処理部21は、例えば、前述したような医学的知見に少なくとも基づき作成されたプログラムにしたがって動作するプロセッサを含んでいてよい。この場合、眼画像データ処理部21は、データ取得部10により患者の眼底から取得された画像データ(眼画像データ)を少なくともこのプロセッサで処理することによって、患者の循環器系に関する情報を生成することができる。
【0087】
プロセッサに入力される眼画像データは、例えば、光コヒーレンストモグラフィ画像データ、カラー眼底画像データなどであってよい。プロセッサから出力される情報は、例えば、前述したように、血栓形成傾向に関する情報、血栓症状に関する情報、感染症に随伴する循環器系の状態に関する情報、敗血症に関する状態を示す情報、DICに関する状態を示す情報、血栓に関する状態を示す情報、及び、血管閉塞に関する状態を示す情報のいずれかであってよい。
【0088】
眼画像データ処理部21は、例えば、前述したような医学的知見に少なくとも基づく機械学習により構築された学習済みモデルを含んでいてよい。この場合、眼画像データ処理部21は、データ取得部10により患者の眼底から取得された画像データ(眼画像データ)を少なくともこの学習済みモデルを用いて処理することによって、患者の循環器系に関する情報を生成することができる。
【0089】
学習済みモデルに入力される眼画像データは、例えば、光コヒーレンストモグラフィ画像データ、カラー眼底画像データなどであってよい。学習済みモデルから出力される情報は、例えば、前述したように、血栓形成傾向に関する情報、血栓症状に関する情報、感染症に随伴する循環器系の状態に関する情報、敗血症に関する状態を示す情報、DICに関する状態を示す情報、血栓に関する状態を示す情報、及び、血管閉塞に関する状態を示す情報のいずれかであってよい。
【0090】
機械学習を利用して構成された眼画像データ処理部21の例を
図4に示す。本例の眼画像データ処理部21は、推論処理部210を含む。推論処理部210は、臨床データ(眼画像データ及び診断結果データ)を含む訓練データを用いた機械学習によって構築された学習済みモデルを用いて、データ取得部10により取得された眼画像データから患者の循環器系に関する情報を導出する推論処理を実行するように構成されている。
【0091】
訓練データに含まれる眼画像データは、例えば、データ取得部10の光学的モダリティと同じ光学的モダリティを用いて取得された画像データであるが、他のモダリティであってもよい。他のモダリティとしては、データ取得部10の光学的モダリティと異なる光学的モダリティ、超音波モダリティ、電気的モダリティ、磁気的モダリティ、電磁的モダリティなどがある。訓練データに含まれる診断結果データは、例えば、関連する眼画像データに基づき医師又は他の推論モデル(学習済みモデル)によって得られたデータであってよい。
【0092】
このような訓練データに基づく機械学習(教師あり学習)によって、データ取得部10により取得された眼画像データを入力とし、且つ、循環器系に関する推定診断データを出力とする学習済みモデル(推論モデル)を作成することができる。機械学習に用いられる訓練データは、臨床データに基づきコンピュータが作成したデータを含んでいてもよい。機械学習は転移学習を含んでいてもよい。
【0093】
推論処理部210は、このようにして得られた学習済みモデルを含んでおり、データ取得部10により取得された眼画像データを学習済みモデルに入力し、学習済みモデルから出力された推定診断データを出力部30に送る。
【0094】
例示的な態様に使用可能な機械学習アルゴリズムは、教師あり学習に限定されず、例えば、教師なし学習、半教師あり学習、強化学習、トランスダクション、マルチタスク学習などの任意のアルゴリズムであってよく、また、任意の2つ以上のアルゴリズムの組み合わせであってもよい。
【0095】
例示的な態様に使用可能な機械学習技法は任意であり、例えば、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、決定木学習、相関ルール学習、遺伝的プログラミング、クラスタリング、ベイジアンネットワーク、表現学習、エクストリームラーニングマシンなどの任意の技法であってよく、また、任意の2つ以上の技法の組み合わせであってもよい。
【0096】
推論処理部210の構成の例を
図5に示す。本例の推論処理部210は、第1学習済みモデル211と、第2学習済みモデル212とを含んでいる。なお、幾つかの例示的な態様において、推論処理部210は、第1学習済みモデル211及び第2学習済みモデル212のいずれか一方のみを含んでいてよい。
【0097】
第1学習済みモデル211は、眼画像データ及び診断結果データを含む訓練データを用いた機械学習により構築されたものである。例えば、第1学習済みモデル211は、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を含む。この畳み込みニューラルネットワークは、例えば、眼画像データが入力される入力層と、入力された眼画像データにフィルタリング(畳み込み)を適用して特徴マップを作成する畳み込み層と、畳み込み層で得られた特徴を保持しつつデータ圧縮を行うプーリング層と、プーリング層で得られた全てのデータから特徴的所見を抽出し判定を行う全結合層と、全結合層で得られたデータを出力する出力層とを含んでいる。データ取得部10により取得された眼画像データを第1学習済みモデル211に入力することにより、所定の特徴を考慮した循環器系に関する情報が生成される。
【0098】
第1学習済みモデル211により考慮される特徴は、例えば、描出状態に関する特徴、描出対象に関する特徴などを含んでいてよい。描出状態に関する特徴としては、色調、輝度などがある。描出対象に関する特徴としては、眼底血管に関する特徴、視神経乳頭に関する特徴、黄斑に関する特徴などがある。
【0099】
本態様では、循環器系に関する情報を生成するために、特に眼底血管に関する特徴が考慮される。眼底血管に関する特徴としては、分布、太さ(血管径)、屈曲度(走行性)、出血などがある。例えば、敗血症やDICの患者の眼画像データから、網膜の微小血管の破綻、出血、走行異常などの特徴が検出される可能性がある。
【0100】
一つの態様として、光コヒーレンストモグラフィ血管造影画像データなど、眼底の形態(構造)を表す画像データが取得された場合の例を説明する。この場合、第1学習済みモデル211は、例えば、光コヒーレンストモグラフィ血管造影画像データ及び診断結果データを含む訓練データを用いた機械学習によって構築された畳み込みニューラルネットワークを含む。なお、訓練データは、蛍光造影眼底画像データなど、任意の画像データを含んでいてもよい。本態様の畳み込みニューラルネットワークは、例えば、光コヒーレンストモグラフィ血管造影画像データが入力される入力層と、入力された光コヒーレンストモグラフィ血管造影画像データにフィルタリング(畳み込み)を適用して血管構造に関する特徴マップを作成する畳み込み層と、畳み込み層で得られた血管構造の特徴を保持しつつデータ圧縮を行うプーリング層と、プーリング層で得られた全てのデータから血管構造の特徴的所見を抽出し判定を行う全結合層と、全結合層で得られたデータを出力する出力層とを含んでいる。データ取得部10により取得された光コヒーレンストモグラフィ血管造影画像データを第1学習済みモデル211に入力することにより、眼底の血管構造を考慮した循環器系に関する情報が生成される。
【0101】
他の態様として、カラー眼底画像データが取得された場合の例を説明する。この場合、第1学習済みモデル211は、例えば、カラー眼底画像データ及び診断結果データを含む訓練データを用いた機械学習によって構築された畳み込みニューラルネットワークを含む。本態様の畳み込みニューラルネットワークは、例えば、カラー眼底画像データが入力される入力層と、入力されたカラー眼底画像データにフィルタリング(畳み込み)を適用して色情報(例えば、R値、G値、B値)に関する特徴マップを作成する畳み込み層と、畳み込み層で得られた色情報の特徴を保持しつつデータ圧縮を行うプーリング層と、プーリング層で得られた全てのデータから色情報の特徴的所見を抽出し判定を行う全結合層と、全結合層で得られたデータを出力する出力層とを含んでいる。データ取得部10により取得されたカラー眼底画像データを第1学習済みモデル211に入力することにより、眼底の色調を考慮した循環器系に関する情報が生成される。
【0102】
第2学習済みモデル212は、所定のモダリティを用いて眼底から取得された眼画像データを処理して生成されたデータと診断結果データとを含む訓練データを用いた機械学習により構築されたものである。
【0103】
眼画像データを処理して生成されたデータが画像データである場合、第2学習済みモデル212は、例えば、畳み込みニューラルネットワークを含む。この畳み込みニューラルネットワークは、例えば、眼画像データを処理して生成された画像データが入力される入力層と、入力された眼画像データにフィルタリング(畳み込み)を適用して特徴マップを作成する畳み込み層と、畳み込み層で得られた特徴を保持しつつデータ圧縮を行うプーリング層と、プーリング層で得られた全てのデータから特徴的所見を抽出し判定を行う全結合層と、全結合層で得られたデータを出力する出力層とを含んでいる。データ取得部10により取得された眼画像データを処理して生成されたデータを第2学習済みモデル212に入力することにより、所定の特徴を考慮した循環器系に関する情報が生成される。第2学習済みモデル212により考慮される特徴は、第1学習済みモデル211により考慮される特徴と同じでもよいし、それとは異なっていてもよい。
【0104】
第2学習済みモデル212に入力されるデータは画像データに限定されず、例えば、数値データ、分布データ、時系列データなどであってもよい。画像データ以外の形態のデータが第2学習済みモデル212に入力される場合、第2学習済みモデル212は、入力されるデータの形態や考慮される特徴に応じて構築される。例えば、波形データや経過観察データのような時系列データを処理する場合、第2学習済みモデル212は、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)を含んでいてよい。
【0105】
推論処理部210に入力されるデータが動画データである場合、動画データを処理する学習済みモデルは、例えば、畳み込みニューラルネットワークと再帰型ニューラルネットワークとを組み合わせた構造を有していてよい。
【0106】
眼血流データ処理部22は、例えば、前述したような医学的知見に少なくとも基づき作成されたプログラムにしたがって動作するプロセッサを含んでいてよい。この場合、眼血流データ処理部22は、データ取得部10により患者の眼底から取得されたデータ(眼血流データ)を少なくともこのプロセッサで処理することによって、患者の循環器系に関する情報を生成することができる。
【0107】
プロセッサに入力される眼血流データは、例えば、光コヒーレンストモグラフィ血流計測で取得されたデータであってよい。光コヒーレンストモグラフィ血流計測で取得されるデータは、例えば、血流動態(血流速、血流量など)の時系列変化を表す波形の画像データ、血流動態の空間分布を表すマップの画像データ、血流動態の空間分布と時系列変化との双方を表す画像データ、血流動態の時系列変化を表す数値と時刻との一連の組(一連のペア)、血流動態の空間分布を表す数値と座標との一連の組(一連のペア)、血流動態の空間分布と時系列変化との双方を表す数値と座標と時刻との一連の組(一連のトリプレット)などであってよい。プロセッサから出力される情報は、例えば、前述したように、血栓形成傾向に関する情報、血栓症状に関する情報、感染症に随伴する循環器系の状態に関する情報、敗血症に関する状態を示す情報、DICに関する状態を示す情報、血栓に関する状態を示す情報、及び、血管閉塞に関する状態を示す情報のいずれかであってよい。
【0108】
眼血流データ処理部22は、例えば、前述したような医学的知見に少なくとも基づく機械学習により構築された学習済みモデルを含んでいてよい。この場合、眼血流データ処理部22は、データ取得部10により患者の眼底から取得されたデータ(眼血流データ)を少なくともこの学習済みモデルを用いて処理することによって、患者の循環器系に関する情報を生成することができる。
【0109】
学習済みモデルに入力される眼血流データは、例えば、上記したプロセッサの場合と同様に、光コヒーレンストモグラフィ血流計測で取得されたデータであってよい。学習済みモデルから出力される情報も、例えば、上記したプロセッサの場合と同様の情報であってよい。
【0110】
機械学習を利用して構成された眼血流データ処理部22の例を
図6に示す。本例の眼血流データ処理部22は、推論処理部220を含む。推論処理部220は、臨床データ(眼血流データ及び診断結果データ)を含む訓練データを用いた機械学習によって構築された学習済みモデルを用いて、データ取得部10により取得された眼血流データから患者の循環器系に関する情報を導出する推論処理を実行するように構成されている。
【0111】
訓練データに含まれる眼血流データは、例えば、データ取得部10の光学的モダリティと同じ光学的モダリティを用いて取得されたデータであるが、他のモダリティであってもよい。他のモダリティとしては、データ取得部10の光学的モダリティと異なる光学的モダリティ、超音波モダリティ、電気的モダリティ、磁気的モダリティ、電磁的モダリティなどがある。訓練データに含まれる診断結果データは、例えば、関連する眼血流データに基づき医師又は他の推論モデル(学習済みモデル)によって得られたデータであってよい。
【0112】
このような訓練データに基づく機械学習(教師あり学習)によって、データ取得部10により取得された眼血流データを入力とし、且つ、循環器系に関する推定診断データを出力とする学習済みモデル(推論モデル)を作成することができる。機械学習に用いられる訓練データは、臨床データに基づきコンピュータが作成したデータを含んでいてもよい。機械学習は転移学習を含んでいてもよい。機械学習アルゴリズムや機械学習技法については、眼画像データ処理部21の場合と同様であってよい。
【0113】
推論処理部220は、このようにして得られた学習済みモデルを含んでおり、データ取得部10により取得された眼血流データを学習済みモデルに入力し、学習済みモデルから出力された推定診断データを出力部30に送る。
【0114】
推論処理部220の構成の例を
図7に示す。本例の推論処理部220は、第1学習済みモデル221と、第2学習済みモデル222とを含んでいる。幾つかの例示的な態様において、推論処理部220は、第1学習済みモデル221及び第2学習済みモデル222のいずれか一方のみを含んでいてよい。特に言及しない限り、推論処理部220に設けられる学習モデルに関する各種の事項は、推論処理部210に設けられる学習モデルにおける対応する事項と同様であってよい。
【0115】
第1学習済みモデル221は、眼血流データ及び診断結果データを含む訓練データを用いた機械学習により構築されたものである。第1学習済みモデル221は、例えば、入力データの種類(態様)及び出力されるデータの種類(態様)に応じたモデルを含む。例えば、第1学習済みモデル221は、眼画像データ処理部21の第1学習済みモデル211と同様の畳み込みニューラルネットワークを含んでいてよい。データ取得部10により取得された眼血流データを第1学習済みモデル221に入力することにより、循環器系に関する情報が生成される。第1学習済みモデル221により考慮される特徴は、眼画像データ処理部21の第1学習済みモデル211が考慮する特徴と同じでもよいし、異なってもよい。
【0116】
第2学習済みモデル222は、所定のモダリティを用いて眼底から取得されたデータを処理して生成されたデータと診断結果データとを含む訓練データを用いた機械学習により構築されたものである。眼底から取得されたデータを処理して生成されたデータの種類は任意であってよく、例えば、画像データ、数値データ、分布データ、時系列データなどであってよい。第2学習済みモデル222は、例えば、入力データの種類(態様)及び出力されるデータの種類(態様)に応じたモデルを含む。データ取得部10により取得されたデータを処理して得られたデータを第2学習済みモデル222に入力することにより、循環器系に関する情報が生成される。第2学習済みモデル222により考慮される特徴は、眼画像データ処理部21の第2学習済みモデル212が考慮する特徴と同じでもよいし、異なってもよい。また、第2学習済みモデル222に入力されるデータは、例えば以下の種類のいずれかであってよい:所定のモダリティを用いて眼底から取得された眼血流データを処理して生成された眼血流データ;所定のモダリティを用いて眼底から取得された眼血流データを処理して生成された、眼血流データ以外の種類のデータ;所定のモダリティを用いて眼底から取得された眼血流データ以外の種類のデータを処理して生成された眼血流データ。
【0117】
出力部30は、データ処理部20により実行された処理の結果を出力する。出力処理の態様は任意であり、例えば、送信、表示、記録、及び印刷のいずれかであってよい。出力部30により出力される情報は、データ処理部20が実行した処理の結果そのもの(患者の循環器系に関する情報)でもよいし、当該処理結果を含む情報でもよいし、当該処理結果を処理して得られた情報でもよい。例えば、医療システム1は、データ処理部20により得られた循環器系に関する情報に基づいてレポートを作成するレポート作成部(図示せず)を更に含んでいてよい。この場合、出力部30は、作成されたレポートを出力することができる。
【0118】
図1に例示された出力部30は送信部31を含んでいる。送信部31は、データ処理部20により実行された処理の結果を医師端末3に向けて送信する。医師端末3は、データ取得部10に対して遠隔位置に配置されている。
【0119】
出力部30から医師端末3へのデータの送信は、直接的な送信でもよいし、間接的な送信でもよい。直接的な送信は、処理の結果(循環器系に関する情報、レポートなど)を出力部30から医師端末3に送信する態様である。また、間接的な送信は、処理の結果を医師端末3以外の装置(サーバ、データベースなど)に送信するとともに、当該装置を介して医師端末3に当該処理結果を提供する態様である。
【0120】
本例のように、データ取得部10に対して遠隔位置に医師端末3を配置するとともに、データ取得部10が患者の眼底から取得したデータに基づきデータ処理部20が生成した情報(又はこれに基づく情報)を医師端末3に提供するように構成することで、医師(医療従事者)と患者との間のソーシャルディスタンスを確保することができ、医師(医療従事者)の感染リスクを低減することが可能となる。
【0121】
<医療システムの使用形態>
例示的な態様に係る医療システム1の使用形態について説明する。
図8のフローチャートは、医療システム1の使用形態の例を示す。本例は学習済みモデルを利用しているが、学習済みモデルを利用しない例では学習済みモデルの構築及び搭載(ステップS1及びS2)は不要であり、例えば、それらの代わりに処理プログラムの作成及び搭載が行われる。
【0122】
(S1:学習済みモデルを構築する)
医療システム1の運用の準備として、データ処理部20において使用される学習済みモデルを構築する。なお、この段階で行われる処理は、既に運用されている学習済みモデルの更新(パラメータの調整・更新)であってもよい。
【0123】
(S2:学習済みモデルをデータ処理部に搭載する)
医療システム1の運用の更なる準備として、ステップS1で構築された学習済みモデルをデータ処理部20に搭載する。この工程では、例えば、ステップS1で構築された学習済みモデルが、通信回線を通じて医療システム1に送信される。
【0124】
(S3:患者の眼底からデータを取得する)
対象は、例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の確定診断がなされた患者、又は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の疑い患者であってよい。医療システム1のデータ取得部10は、少なくとも1つの光学的モダリティを用いて患者の眼底からデータを取得する。
【0125】
データ取得部10は、例えば、光コヒーレンストモグラフィ及び/又はカラー眼底撮影を眼底に適用することができる。光コヒーレンストモグラフィで取得されるデータは、例えば、3次元画像データ、プロジェクション画像データ、光コヒーレンストモグラフィ血管造影画像データ、及び、光コヒーレンストモグラフィ血流データのいずれかであってよい。カラー眼底撮影で取得されるデータは、例えば、眼底の形態を表すカラー正面画像データであってよい。
【0126】
この工程で実施される検査の少なくとも一部は、操作装置2を用いた遠隔検査であってよい。
【0127】
(S4:データ処理部にデータを入力する)
ステップS3で取得されたデータは、データ処理部20に送られる。本例では、データ処理部20に入力されたデータの少なくとも一部は、ステップS1で構築された学習済みモデルに入力される。
【0128】
(S5:循環器系に関する情報を生成する)
データ処理部20は、ステップS4で入力されたデータを処理することで、患者の循環器系に関する情報を生成する。これにより、例えば、以下の情報のうちの少なくとも1つが得られる:血栓形成傾向に関する情報(血液性状に関する情報、及び/又は、血液凝固線溶系の亢進による血液性状の変化を示す情報);血栓症状に関する情報(血管内における血流速度分布を示す方法、及び/又は、血管内に形成された構造物に関する情報);感染症に随伴する循環器系の状態(及び/又は状態変化)に関する情報;敗血症に関する状態を示す情報;DICに関する状態を示す情報;血栓に関する状態を示す情報;血管閉塞に関する状態を示す情報。
【0129】
データ処理部20により生成された情報は、例えば、
図2のデータ構造100にしたがって記録される。これにより、当該患者の循環器系に関するデータパッケージが得られる。
【0130】
(S6:レポートを作成する)
医療システム1(前述した図示しないレポート作成部)は、ステップS5で生成された患者の循環器系に関する情報に基づいてレポートを作成する。
【0131】
(S7:レポートを送信する)
出力部30の送信部31は、ステップS6で作成されたレポートを、データ取得部10に対して遠隔位置にある医師端末3に、又は、医療端末3に対する情報提供が可能なコンピュータに、送信する。医師端末3は、医師が使用するコンピュータに限定されず、医師以外の医療従事者が使用するコンピュータ(医療従事者端末)であってもよい。
【0132】
このような医療システム1によれば、医療従事者と患者との間のソーシャルディスタンスを確保し、患者から医療従事者への感染のリスクを低減することが可能となる。更に、医療システム1は、光コヒーレンストモグラフィやカラー眼底撮影のような非侵襲な光学的モダリティを用いて患者の眼底からデータを取得し、このデータから患者の循環器系に関する情報を生成するように構成されているので、患者の循環器系の状態を非侵襲で検知するための技術を提供することが可能である。これにより検知される循環器系の状態は、例えば、前述した医学的知見及び/又は他の医学的知見に基づくものであり、その例として、症状、重症化の兆候、重症化のリスクなどがある。
【0133】
<医療システムの第1の実施態様>
以上に説明した医療システム1の例示的な実施態様について説明する。本実施態様では、データ取得部10が光コヒーレンストモグラフィを行う場合、特に光コヒーレンストモグラフィ血流計測を行う場合について説明する。前述した医学的知見に基づき、本実施態様は、光コヒーレンストモグラフィ血流計測で取得された眼血流データから血液凝固線溶系に関する情報を生成するように構成されている。特に言及しない限り、本実施態様の医療システムは、上記医療システム1と同様の構成を備えていてよい。
【0134】
本実施態様に係る医療システムの構成例を
図9に示す。本例の医療システム1Aは、データ取得部10Aと、データ処理部20Aと、出力部30とを含む。出力部30及び送信部31は、それぞれ、上記医療システム1における出力部30及び送信部31と同様である。操作装置2及び医師端末3についても同様である。
【0135】
データ取得部10Aは、上記の医療システム1のデータ取得部10の例であり、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)装置11と、算出部12とを含んでいる。
【0136】
光コヒーレンストモグラフィ装置11は、患者の眼底に対して光コヒーレンストモグラフィ血流計測のためのスキャンを適用する。算出部12は、このスキャンにより光コヒーレンストモグラフィ装置11が収集したデータに基づいて眼血流データを求める。眼血流データは、スキャンが適用された位置における血流速度及び血管径を含む。光コヒーレンストモグラフィ装置11が実行するスキャンの手法及び算出部12が実行する演算の手法は、任意の公知の手法であってよく、例えば特開2020-48730号公報に記載された手法を用いることができる。
【0137】
データ処理部20Aは、血液凝固線溶系に関する情報を生成するために、データ取得部10Aにより取得された眼血流データを処理する。データ処理部20Aの構成例を
図10に示す。本例のデータ処理部20Aは、壁せん断速度(Wall Shear Rate;WSR)算出部231と、記憶部232と、壁せん断応力(Wall Shear Stress;WSS)算出部233と、情報生成部234とを含む。
【0138】
WSR算出部231は、データ取得部10Aの算出部12により算出された血流速度及び血管径に基づいて壁せん断速度(WSR)を算出する。血流速度及び血管径から壁せん断速度を算出する方法は任意であり、例えば次の文献に記載された方法を用いることができる:Taiji Nagaoka and Akitoshi Yoshida「Noninvasive Evaluation of Wall Shear Stress on Retinal Microcirculation in Humans」、IOVS.2006、Vol.47、1113-1119。なお、この文献ではレーザードップラー速度計測(LDV)を用いて血流速度及び血管径を測定しているが、本実施態様のように光コヒーレンストモグラフィを用いて得られた血流速度及び血管径にも同様の壁せん断速度算出法を適用できることは当業者にとって明らかである。
【0139】
この文献に基づき、データ取得部10Aの光コヒーレンストモグラフィ装置11は、少なくとも1心周期にわたってスキャンを適用してデータを収集する。算出部12は、血流速度として、1心周期における(中心線)血流速度の時間平均(Vmean)を算出する。また、算出部12は、上記の1心周期にわたるスキャンで収集されたデータから構築された断面画像データから血管径(D)を算出する。WSR算出部231は、次式によって壁せん断速度(WSR)を算出する:WSR=8×Vmean/D。
【0140】
算出部12は、上記の1心周期にわたるスキャンで収集されたデータから構築された断面画像データから血管断面積(Area)を算出することができる。更に、算出部12は、血流速度の時間平均(Vmean)と血管断面積(Area)とを乗算することにより血流量(BF)を算出することができる:BF=Vmean×Area。
【0141】
記憶部232は、血液粘度情報232aを記憶する。血液粘度情報232aは、血液粘度値ηを含む。血液粘度値ηは、実測値でもよいし標準値でもよい。血液粘度の測定は、例えば、円錐平板粘度計を用いて行われる。また、ヘマトクリット(Ht)、赤血球数、赤血球恒数(平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球色素量(MCH)など)などの血液検査によって得られたデータから血液粘度を推定してもよい。或いは、血漿粘度などの血液パラメータに規定値を代入することによってして血液粘度を推定してもよい。標準値としては、臨床データや実験データから得られた血液粘度の値の範囲から決定された正常値や疾患値を用いることができる。
【0142】
WSS算出部233は、WSR算出部231により算出された壁せん断速度と、血液粘度情報232aに含まれる血液粘度値とに少なくとも基づいて、壁せん断応力(WSS)を算出する。壁せん断速度及び血液粘度値から壁せん断速度を算出する方法は任意であってよい。例えば、上記文献(Nagaoka and Yoshida)に記載された方法を用いて、WSS算出部233は、次式によって壁せん断応力(WSS)を算出する:WSS=η×WSR。
【0143】
情報生成部234は、WSS算出部233により算出された壁せん断応力に少なくとも基づいて、患者の循環器系に関する情報を生成する。本実施態様では、患者の循環器系に関する情報として、血液凝固線溶系に関する情報を生成することができる。
【0144】
Michael R.Condon et al.「Appearance of an erythrocyte population with decreased deformability and hemoglobin content following sepsis」、Am J Physiol Heart Circ Physiol 284:H2177-2184、2003によれば、敗血症モデル動物の血液では赤血球の変形能が傷害され、壁せん断応力が増大していることが示されている。壁せん断応力の増大は血管内皮傷害を促進するため、血栓形成傾向と関連があると考えられている。このような背景に基づき、情報生成部234は、WSS算出部233により算出された壁せん断応力の値を評価し、その結果を含む情報を生成することが可能である。
【0145】
なお、血液粘度として標準値(既定値、デフォルト値)が採用される場合、つまり、上記の式「WSS=η×WSR」においてηは一定と仮定する場合、WSRの値とWSSの値とは一対一に対応する。したがって、この場合には、記憶部232及びWSS算出部233を設ける必要はなく、更に、情報生成部234は、WSR算出部231により算出された壁せん断速度の値に基づいて患者の循環器系に関する情報(血液凝固線溶系に関する情報)を生成するように構成されてよい。
【0146】
<医療システムの第2の実施態様>
医療システム1の他の例示的な実施態様について説明する。本実施態様は、第1の実施態様と同様に、データ取得部10は光コヒーレンストモグラフィ血流計測を実行し、それにより取得された眼血流データから血液凝固線溶系に関する情報を生成するとともに、血管内に形成された構造物に関する情報を生成する。特に言及しない限り、本実施態様の医療システムは、上記した医療システム1及び/又は1Aと同様の構成を備えていてよい。
【0147】
本実施態様に係る医療システムの構成例を
図11に示す。本例の医療システム1Bは、データ取得部10Bと、データ処理部20Bと、出力部30とを含む。出力部30及び送信部31は、それぞれ、上記医療システム1における出力部30及び送信部31と同様である。操作装置2及び医師端末3についても同様である。
【0148】
データ取得部10Bは、上記の医療システム1のデータ取得部10の例であり、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)装置13と、血流情報生成部14とを含んでいる。
【0149】
光コヒーレンストモグラフィ装置13は、患者の眼底に対して光コヒーレンストモグラフィ血流計測のためのスキャンを適用する。光コヒーレンストモグラフィ装置13は、患者の眼底の所定領域に光コヒーレンストモグラフィスキャンを繰り返し適用して時系列データを収集する。この光コヒーレンストモグラフィスキャンは、少なくとも1つの位置(Aライン)に対するAスキャンを含み、例えば、複数の位置に対するAスキャン、Bスキャン、サークルスキャンなどであってよい。これにより、それぞれのスキャン適用位置に対応する時系列データが得られる。
【0150】
血流情報生成部14は、光コヒーレンストモグラフィ装置13により収集された時系列に基づいて眼血流データを生成する。眼血流データは、血流速度の空間分布及び時間変化を表す血流情報を含む。血流速度の分布が定義される空間は、1次元空間、2次元空間、及び3次元空間のいずれでもよい。血流速度の時間変化は、空間の各点(各位置)について定義される。このように、血流情報生成部14により得られる血流情報は、光コヒーレンストモグラフィ血流計測が適用された血管の内部の1次元空間、2次元空間、又は3次元空間の各点における血流速度の時間変化を表現している。このような血流情報は、例えば、Robert S.Reneman and Arnold P.G.Hoeks「Wall shear stress as measured in vivo:consequences for the design of the arterial system」、Med Biol Eng Comput(2008) 46:499-507に記載されている。
【0151】
データ処理部20Bは、データ取得部10Aにより取得された眼血流データ(血流情報)を処理することによって、血液凝固線溶系に関する情報を生成することができる。また、データ処理部20Bは、データ取得部10Aにより取得された眼血流データ(血流情報)を処理することによって、血管内に形成された構造物に関する情報を生成することができる。
【0152】
データ処理部20Bの構成例を
図12に示す。本例のデータ処理部20Bは、壁せん断速度(WSR)情報生成部235と、記憶部236と、壁せん断応力(WSS)情報生成部237と、情報生成部238とを含む。
【0153】
WSR情報生成部235は、データ取得部10Bの血流情報生成部14により生成された血流情報に少なくとも基づいて、壁せん断速度(WSR)の空間分布及び時間変化を表すWSR情報を生成する。血流速度の空間分布及び時間変化を表す血流情報から、壁せん断速度の空間分布及び時間変化を表すWSR情報を生成する方法は任意であり、例えば上記文献(Robert S.Reneman and Arnold P.G.Hoeks)に記載された方法を用いることができる。
【0154】
記憶部236は、血液粘度情報236aを記憶する。血液粘度情報236aは、第1の実施態様の血液粘度情報232aと同様に単一の値(η)であってもよいし、少なくとも対象空間(血流速度の分布が定義される空間)における血液粘度値の分布であってもよい。なお、単一の血液粘度値(η)は、対象空間における血液粘度分布が一様(一定)である場合に相当する。
【0155】
WSS情報生成部237は、WSR情報生成部235により生成されたWSR情報と、血液粘度分布情報236aとに少なくとも基づいて、壁せん断応力(WSS)の空間分布及び時間変化を表すWSS情報を生成する。WSS情報の生成方法は任意であってよい。例えば、WSS情報生成部237は、第1の実施態様と同様に、対象空間の各点について、壁せん断速度の値と血液粘度の値とを乗算することによってWSS情報を生成することができる。
【0156】
情報生成部238は、データ取得部10Bの血流情報生成部14により生成された血流情報と、WSS情報生成部237により生成されたWSS情報とに少なくとも基づいて、血管内に形成された構造物(血栓、血栓形成傾向など)に関する情報を生成することができる。また、情報生成部238は、データ取得部10Bの血流情報生成部14により生成された血流情報と、WSR情報生成部235により生成されたWSR情報とに少なくとも基づいて、血管内に形成された構造物に関する情報を生成することができる。また、情報生成部238は、データ取得部10Bの血流情報生成部14により生成された血流情報、WSR情報生成部235により生成されたWSR情報、及び、WSS情報生成部237により生成されたWSS情報のいずれか(及び、他の情報)に基づいて、血液凝固線溶系に関する情報を生成することができる。
【0157】
<医療情報処理装置及び医療システム>
例示的な態様の医療情報処理装置及びそれを含む医療システムの例を説明する。特に言及しない限り、以下の態様に係る要素は、上記した医療システム1、1A及び1Bのいずれかの要素と同様であってよい。
【0158】
図13に示す例示的な医療情報処理装置5は、データ受付部51と、データ処理部52と、出力部53とを含んでいる。本態様の医療情報処理装置5の外部には、データ取得装置6と、操作装置7と、通信装置8と、医師端末9とが設けられている。
【0159】
データ取得装置6は、少なくとも1つの光学的方法を用いて患者の眼底からデータを取得する。操作装置7は、医療従事者がデータ取得装置6(検査装置)を操作するために使用される。幾つかの例示的な態様において、操作装置7は、データ取得装置6から離れた位置に設けられており、データ取得装置6を遠隔操作するために使用される。通信装置8は、データ取得装置6により取得されたデータを医療情報処理装置5に送信する。幾つかの例示的な態様において、医師端末9は、データ取得装置6に対して遠隔位置に配置されている。
【0160】
医療情報処理装置5のデータ受付部51は、少なくとも1つの光学的方法を用いて患者の眼底から取得されたデータを受け付ける。本態様では、データ受付部51は、データ取得装置6により取得されて通信装置8により送信されたデータを受け付ける。
図13の例では、データ取得装置6から通信装置8を介してデータ受付部51にデータが送られるが、医療情報処理装置5に対するデータ入力態様はこれに限定されない。例えば、データ取得装置6により取得されたデータをデータベースなどに保存し、このデータベースからデータ受付部51にデータが送られるように構成してもよい。データ受付部51は、例えば、通信回線に接続するための通信機器、記録媒体に記録されたデータを読み出すドライブ装置などを含んでいてよい。
【0161】
データ処理部52は、患者の循環器系に関する情報を生成するために、データ受付部51により受け付けられたデータを処理するように構成されている。出力部53は、データ処理部52により生成された患者の循環器系に関する情報を出力する。本例の出力部53は、送信部54を含む。送信部54は、データ処理部52により生成された患者の循環器系に関する情報を、データ取得装置6に対して遠隔位置にある医師端末9に向けて送信することができる。
【0162】
前述した医療システム1、1A及び1Bのいずれかについて説明された任意の事項を医療情報処理装置5又はこれを含む医療システムに組み合わせることが可能である。
【0163】
このような医療情報処理装置5及びこれを含む医療システムによれば、医療従事者と患者との間のソーシャルディスタンスを確保し、患者から医療従事者への感染のリスクを低減することが可能となる。更に、医療情報処理装置5及びこれを含む医療システムによれば、光コヒーレンストモグラフィやカラー眼底撮影のような非侵襲な光学的モダリティを用いて患者の眼底からデータを取得し、このデータから患者の循環器系に関する情報を生成するように構成されているので、患者の循環器系の状態を非侵襲で検知するための技術を提供することが可能である。これにより検知される循環器系の状態は、例えば、前述した医学的知見及び/又は他の医学的知見に基づくものであり、その例として、症状、重症化の兆候、重症化のリスクなどがある。
【0164】
<まとめ>
以上に説明したように、本開示に係る技術は、光コヒーレンストモグラフィ血流計測、光コヒーレンストモグラフィ血管造影、カラー眼底撮影などの非侵襲な光学的眼科モダリティを用いて、血管の炎症の傾向、血栓形成の傾向、敗血症の傾向、DICの傾向など、循環器系に関する状態を検知するものである。例えば、感染症などに伴う血液凝固傾向における血液性状の変化を、光コヒーレンストモグラフィ血流計測で得られた血流速や血管径から求められる壁せん断速度や壁せん断応力に基づき検知することや、血管断面における血流速の空間分布及び時間変化(血流速プロファイルの時間変化)に基づき検知することが可能である。また、機械学習により構築された学習済みモデルにこれらのデータを入力して、感染症の重症化などに関する指標を出力することが可能である。これにより、病状変化の非侵襲での早期検出や、各種診断支援情報の提供が可能となる。
【0165】
例えば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者は、肺を中心に、様々な臓器の微小血管内に血栓が生じることが指摘されている。また、血栓の一因となる血管凝固の亢進を示す各種の血管検査数値と、重症化との間の相関が指摘されている。新型コロナウイルス感染症の重症化の流れは次のようなものと考えられる:(1)感染;(2)急激な免疫反応・炎症;(3)DIC;(4)多臓器での血管形成;(5)脳梗塞・心筋梗塞・多臓器不全などによる死亡。ここで(2)~(4)が急激に進行するケースも知られている。(2)急激な免疫反応・炎症においては、血小板の減少、D-ダイマーの上昇、フィブリノゲンの低下、プロトロンビン時間(PT時間)の延長など、様々な凝固系の異常が血液検査によって検出される。
【0166】
本開示に係る技術は、網膜血管の血流動態(血流速度、血流量、血流波形の形状など)の非侵襲で検出し、そのデータから壁せん断応力や血栓(末梢血管閉塞)などを評価することによって、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化のリスクを早期に検知するものである。
【0167】
機械学習で構築された学習済みモデルを用いて評価を行う場合、例えば、各種の血液検査数値と血流動態情報(血流速度、血流量、血流波形の形状など)との相関関係が教師データとして用いられる。これにより、血流動態情報を入力とし、血液検査数値を出力とする学習済みモデルが構築される。光コヒーレンストモグラフィ血流計測を用いて患者の眼底から取得された眼血流データ(血流動態情報)をこの学習済みモデルに入力することで、血液検査数値を推定することが可能となる。
【0168】
入力データと出力データとの組み合わせは本例に限定されず、医学的知見や背景に基づいて任意に決定することが可能である。例えば、入力データは、カラー眼底画像データ、光コヒーレンストモグラフィ血管造影画像データ、他の光コヒーレンストモグラフィ画像データ(例えば、形態画像データ及び/又は機能画像データ)などであってもよい。また、出力データは、重症度、重症リスクの大きさ、血液検査以外の検査の数値などであってもよい。
【0169】
このように、本開示に係る技術は、全身に血管障害・血行障害が生じる疾患について、微小血管や血流に生じる異常を非侵襲なモダリティを用いて早期に検知することが可能である。
【符号の説明】
【0170】
1、1A、1B 医療システム
2 操作装置
3 医師端末
10、10A、10B データ取得部
11、13 光コヒーレンストモグラフィ装置
12 算出部
14 血流情報生成部
20、20A、20B データ処理部
21 眼画像データ処理部
210 推論処理部
211 第1学習済みモデル
212 第2学習済みモデル
22 眼血流データ処理部
220 推論処理部
221 第1学習済みモデル
222 第2学習済みモデル
231 WSR算出部
232 記憶部
232a 血液粘度情報
233 WSS算出部
234 情報生成部
235 WSR情報生成部
236 記憶部
236a 血液粘度情報
237 WSS情報生成部
238 情報生成部
30 出力部
31 送信部