IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士フイルムヘルスケア株式会社の特許一覧

特開2022-54813高周波コイルユニットおよび磁気共鳴イメージング装置
<>
  • 特開-高周波コイルユニットおよび磁気共鳴イメージング装置 図1
  • 特開-高周波コイルユニットおよび磁気共鳴イメージング装置 図2
  • 特開-高周波コイルユニットおよび磁気共鳴イメージング装置 図3
  • 特開-高周波コイルユニットおよび磁気共鳴イメージング装置 図4
  • 特開-高周波コイルユニットおよび磁気共鳴イメージング装置 図5
  • 特開-高周波コイルユニットおよび磁気共鳴イメージング装置 図6
  • 特開-高周波コイルユニットおよび磁気共鳴イメージング装置 図7
  • 特開-高周波コイルユニットおよび磁気共鳴イメージング装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054813
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】高周波コイルユニットおよび磁気共鳴イメージング装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20220331BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
A61B5/055 350
G01N24/00 560F
G01N24/00 560Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162034
(22)【出願日】2020-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】羽原 秀太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸一郎
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB34
4C096AC01
4C096AD10
4C096CA62
4C096CC05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】照射磁場の空間的な均一度の低下を抑制しつつ、照射効率とリング導体による電磁界の影響とのバランスのとれたRFコイルを提供する。
【解決手段】静磁場中に配置された被検体への高周波信号の送信及び被検体から発生する核磁気共鳴信号の受信の少なくともいずれか一方をおこなう高周波コイルユニットであって、第1のリング導体223と、第2のリング導体213と、第1のリング導体と第2のリング導体とを互いに電気的に接続する複数のラング導体と、複数のキャパシタとを有する高周波コイルと、高周波コイルを囲繞する円筒状のシールド導体301とを有し、第2のリング導体とシールド導体との距離ε213は、第1のリング導体とシールド導体との距離ε223よりも短く、第2のリング導体の幅w213は第1のリング導体の幅w223よりも狭い。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場中に配置された被検体への高周波信号の送信及び前記被検体から発生する核磁気共鳴信号の受信の少なくともいずれか一方をおこなう高周波コイルユニットであって、
第1のリング導体と、第2のリング導体と、前記第1のリング導体と前記第2のリング導体とを互いに電気的に接続する複数のラング導体と、複数のキャパシタとを有する高周波コイルと、
前記高周波コイルを囲繞する円筒状のシールド導体とを有し、
前記第1のリング導体、前記第2のリング導体、前記ラング導体が配置される円筒面及び前記シールド導体は、それぞれの中心軸が一致するように配置され、
前記第1のリング導体及び前記第2のリング導体にはそれぞれ、その周方向に等間隔に第1のギャップが設けられ、前記第1のギャップで区切られた前記第1のリング導体の部分と前記第1のギャップで区切られた前記第2のリング導体の部分とを電気的に接続するように前記ラング導体が前記円筒面上に等間隔に配置され、
前記第1のギャップで区切られた前記第1のリング導体の部分の間及び前記第1のギャップで区切られた前記第2のリング導体の部分の間に前記キャパシタが接続され、
前記第2のリング導体と前記シールド導体との距離は、前記第1のリング導体と前記シールド導体との距離よりも短く、前記第2のリング導体の幅は前記第1のリング導体の幅よりも狭い高周波コイルユニット。
【請求項2】
請求項1において、
前記ラング導体は、第2のギャップによって前記第1のリング導体に接続される部分と前記第2のリング導体に接続される部分とに区切られ、
前記第2のギャップで区切られた前記ラング導体の部分の間にダイオードが接続される高周波コイルユニット。
【請求項3】
請求項1において、
前記高周波コイルの発生する高周波磁場は、磁場中心を中心とした人体頭部撮像相当の領域における磁場強度の標準偏差が0.055以下である高周波コイルユニット。
【請求項4】
請求項3において、
前記高周波磁場は、水素核スピンを励起する方向の円偏波磁場である高周波コイルユニット。
【請求項5】
請求項4において、
前記人体頭部撮像相当の領域を、前記磁場中心から前記高周波コイルの半径方向に±0.2m、中心軸方向に±0.1mの領域とする高周波コイルユニット。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の高周波コイルユニットと、
前記静磁場を発生させるマグネットと、
前記静磁場に所定の方向の磁場勾配を与える傾斜磁場コイルとを備え、
前記高周波コイルユニットは、前記傾斜磁場コイルの内円筒面に設置され、その中心軸が、前記マグネットの発生する前記静磁場の向きと一致するように配置される磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記高周波コイルユニットの内側に前記被検体の入る円筒ボアが形成され、
前記円筒ボアは、前記被検体が前記円筒ボアに入る第1の開口を有し、
前記高周波コイルユニットの前記第1のリング導体は、前記円筒ボアの前記第1の開口側に配置される磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波コイルユニット及び高周波コイルユニットを用いる磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(Magnetic Resonance Imaging)装置(以下、「MRI装置」という)では、静磁場マグネットが発生する均一な静磁場中に配置された被検体に電磁波である高周波信号(以下「RF(Radio Frequency)信号」という)を照射し、被検体内の核スピンを励起するとともに、核スピンが発生する電磁波であるNMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)信号を受信して信号処理することにより、被検体の磁気共鳴画像を取得する。
【0003】
このように、MRI装置では被検体にRF信号を照射する。ここで、RF信号の照射とNMR信号の受信とは、ラジオ周波数の電磁波を送信あるいは受信するRFアンテナもしくはRFコイル等のアンテナ装置によって行われる。このようなアンテナ装置として、バードケージ型(鳥かご型)コイルを用いる高周波コイルユニットが知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
通常、バードケージ型コイルは、図2に示すように、円環状の2つのリング導体203、直線状の複数のラング(横木)導体204、キャパシタ、ダイオード、給電ケーブル(図示せず)等を有し、円筒面上に等間隔に配置されたラング導体の端部とリング導体とが接続され、キャパシタがリング導体203に等間隔で設けられたギャップ201に挿入され、ダイオードがラング導体204のギャップ202に挿入されて構成されている。
【0005】
また、図2の円筒形バードケージ型コイル200は、RFシールド(図示せず)と呼ばれる円筒形状の導体によって囲繞される。そして、バードケージ型コイル200に設けられるキャパシタは、RFシールドとラング導体とリング導体とにより、MRI装置における特定の周波数で共振するように調整される。なお、通常RFシールドは、高周波コイルユニットの外部に存在する円筒形の傾斜磁場コイルの内円筒面に設置されている。
【0006】
バードケージ型コイルでは、照射するRF信号が作るRF磁場(「照射磁場」ともいう)の均一空間の広がりが、単純なループコイルやサドル(鞍型)コイルに比べて高いことが特徴である。この特徴により、現在、バードケージ型コイルはトンネル型水平磁場MRI装置における送信コイルの標準型となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7688070号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
バードケージ型コイルを用いた高周波コイルユニットにおいて、RFシールドの直径Aと、前後2つのリング導体203の直径B,C、2つのリング導体203を接続するラング導体204が表面に位置する円筒の直径Dは、設計上重要なパラメータである。それらに加えて、患者が入る空間である円筒ボアの直径Eも、患者の快適さにつながる重要なパラメータである。
【0009】
製品として成立させるため、これらの直径の大きさの関係は、E<(B,C,D)<Aを満たす必要がある。直径Aを大きくすることはRF信号を発生させる照射コイルの性能を高め、また、直径Aを大きくすることで直径Eも大きくできるので患者の快適性を増すことができるという利点がある。しかしながら、MRI装置としては、静磁場を発生させる静磁場マグネットの大きさ、および、傾斜磁場コイルの大きさにしたがって直径Aの大きさが決まる。静磁場マグネットの大きさは製品コストに直結するのであまり大きくすることは望ましくない。
【0010】
一方、リング導体、あるいはラング導体が配置される円筒面とRFシールドの内円筒面との距離(すなわち、直径(B,C,D)と直径Aとの差分)は、RF信号の照射効率の観点からは大きいほうが望ましいが、上記距離を大きくすることは、直径Eを小さくすることになるため、患者の快適性とのトレードオフになる。このとき、円筒ボアとリング導体、あるいはラング導体が配置される円筒面との距離(すなわち、直径(B,C,D)と直径Eとの差分)を小さくすることで、患者の快適性の低下を抑えることは可能である。しかしながら、当該部分の構造は、FRP(Fiber Reinforced Plastics)のような材料でつくられた円筒構造物に対して、その内円筒面で区画される空間が円筒ボアとなり、その外円筒面にリング導体やラング導体が配置される構造となっている。このため、直径(B,C,D)と直径Eとの差分を小さくすることは、円筒構造物の肉厚を薄くすることを意味し、機械的強度を低下させることにつながるため限界がある。
【0011】
前後のリング導体203の直径及びラング導体204の位置する円筒の直径(すなわち、ラング導体204が配置された部分における円筒構造物の外径)については、同じである場合(B=C=D)が一般的であるが、リング導体203の直径をラング導体204が配置される円筒面の直径よりも大きくした例も知られている(すなわち、(B=C)>D)。このような構造は、円筒構造物の外径をリング導体203の配置される領域とラング導体204が配置される領域とで異ならせることによって実現できる。
【0012】
(B=C=D)とする場合に比べて、((B=C)>D)とする場合には、メリットとデメリットとがある。メリットは、リング導体203から生じる強い電界や磁界が、患者空間(円筒ボアの内部空間)に及ぼす影響を小さくできる点である。患者空間には、受信コイルのケーブル導体が存在し、そのケーブル導体とリング導体203から生じる磁界がカップリングを起こすとケーブルが発熱するおそれがある。リング導体の径を大きくすることで、そのようなリスクを低減できる。デメリットはリング導体203がRFシールドに接近することにより、RF信号の照射効率が低下することである。
【0013】
このため、発明者らは、前側のリング導体の直径と奥側のリング導体の直径を変えることを検討した。例えば、患者が接近する可能性が高く、受信ケーブルがそばを通りやすい円筒ボアの手前側(患者が円筒ボアに入る際の入り口側)のリング導体の直径を大きくし、奥側のリング導体の直径は手前側のリング導体の直径よりも小さくしてRF信号の照射効率を維持または向上させることにより、リング導体の直径を大きくすることのデメリットを緩和することが期待できる。しかし、2つのリング導体の直径を異ならせることにより、高周波コイルユニットの照射磁場の空間的な均一度が悪くなってしまう。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、照射磁場の空間的な均一度の低下を抑制しつつ、照射効率とリング導体による電磁界の影響とのバランスのとれたRFコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一実施の形態である高周波コイルユニットは、静磁場中に配置された被検体への高周波信号の送信及び被検体から発生する核磁気共鳴信号の受信の少なくともいずれか一方をおこなう高周波コイルユニットであって、第1のリング導体と、第2のリング導体と、第1のリング導体と第2のリング導体とを互いに電気的に接続する複数のラング導体と、複数のキャパシタとを有する高周波コイルと、高周波コイルを囲繞する円筒状のシールド導体とを有し、第1のリング導体、第2のリング導体、ラング導体が配置される円筒面及びシールド導体は、それぞれの中心軸が一致するように配置され、第1のリング導体及び第2のリング導体にはそれぞれ、その周方向に等間隔に第1のギャップが設けられ、第1のギャップで区切られた第1のリング導体の部分と第1のギャップで区切られた第2のリング導体の部分とを電気的に接続するようにラング導体が円筒面上に等間隔に配置され、第1のギャップで区切られた第1のリング導体の部分の間及び第1のギャップで区切られた第2のリング導体の部分の間にキャパシタが接続され、第2のリング導体とシールド導体との距離は、第1のリング導体とシールド導体との距離よりも短く、第2のリング導体の幅は第1のリング導体の幅よりも狭い。
【発明の効果】
【0016】
照射磁場の空間的な均一度の低下を抑制しつつ、照射効率とリング導体による電磁界の影響とのバランスのとれたRFコイルを提供する。
【0017】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】MRI装置の概略構成図である。
図2】従来のバードケージ型コイルの斜視図である。
図3】実施例のバードケージ型コイルの斜視図である。
図4】高周波コイルユニットの中心軸に垂直な面での模式断面図である。
図5】高周波コイルユニットの中心軸を含む面での模式断面図である。
図6】実施例のRFコイルによって生成されるRF磁場の磁場強度マップである。
図7】比較例のRFコイルによって生成されるRF磁場の磁場強度マップである。
図8】RFコイルの中心軸と平行な線上における、実施例と比較例の磁場強度のラインプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る高周波コイルユニット、それが適用されるMRI装置について図面を参照して説明する。
【0020】
[MRI装置の全体構成]
MRI装置100の概略構成図を図1に示す。MRI装置100は、被検体112が配置される計測空間に静磁場を形成するマグネット101と、静磁場に所定の方向の磁場勾配を与える傾斜磁場コイル102と、高周波信号(RF信号)を被検体112に送信するとともに被検体112から発生する核磁気共鳴信号(NMR信号)を受信するRFアンテナ103と、RF信号(RF波)のパルス波形を生成してRFアンテナ103に送信するとともに、RFアンテナ103が受信したNMR信号に対し信号処理を行う送受信機104と、傾斜磁場コイル102に電流を供給する傾斜磁場電源109と、送受信機104及び傾斜磁場電源109の駆動を制御するとともに、種々の情報処理及びオペレータによる操作を受け付けるデータ処理部105と、データ処理部105の処理結果を表示するための表示装置108と、被検体112を載置するベッド111と、を備える。
【0021】
傾斜磁場電源109と傾斜磁場コイル102とは傾斜磁場制御ケーブル107で接続される。また、RFアンテナ103と送受信機104とは送受信ケーブル106で接続される。送受信機104は、シンセサイザ、パワーアンプ、受信ミキサ、アナログデジタルコンバータ、送受信切り替えスイッチ等(いずれも図示せず)を備える。
【0022】
RFアンテナ103は、所定の周波数で共振し、2以上のチャンネルを有するマルチチャンネル送信アンテナあるいは送受信アンテナを含む。
【0023】
なお、図1に示す例では、RF信号の送信とNMR信号の受信とを行なうRFアンテナ103として、単一のRFアンテナが示されているが、これに限られない。例えば、広範囲撮影用のRFアンテナと局所用のRFアンテナとを組み合わせるなど、複数のアンテナから構成されるRFアンテナをRFアンテナ103として用いてもよい。
【0024】
特に、人体の各部位を詳細に撮影する場合においては、送信のアンテナと受信のアンテナに異なるものを用いる場合がほとんどである。送信には、体全体を覆う、傾斜磁場コイル内部に据付けられた大きな照射アンテナを用い、受信には人体表面近くに設置した局所アンテナを用いることが多い。この場合、局所アンテナは受信専用である場合がほとんどである。
【0025】
MRI装置100は、マグネット101が形成する静磁場の方向によって、水平磁場方式と垂直磁場方式とに区別される。本実施形態に係るRFコイルユニットが適用される水平磁場方式のMRI装置では、一般的に、マグネット101は円筒状のボア(中心空間)を有し、図1において左右方向(RFコイルユニットの中心軸と一致する方向)の静磁場を発生し、トンネル型MRI装置と呼ばれる。
【0026】
データ処理部105は、送受信機104及び傾斜磁場電源109を制御し、静磁場中に配置された被検体112に対し、RFアンテナ103及び傾斜磁場コイル102から、断続的にRF信号を照射するとともに、傾斜磁場を印加する。また、そのRF信号に共鳴して被検体112から発せられるNMR信号をRFアンテナ103にて受信し、信号処理を行い、画像を再構成する。被検体112は、例えば、人体の所定の部位である。
【0027】
[RF送受信系の構成]
本実施例のRFアンテナ103として、図3に示すバードケージ型コイル(以下、単に「RFコイル」という)210を適用する。RFコイル210は、シート状の導体を筒状に形成したRFシールドによって囲繞されることにより、高周波コイルユニットを構成する。図3に示されるRFコイル210は、円環状の2つのリング導体213,223、直線状の複数のラング導体204、キャパシタ、ダイオード、給電ケーブル(図示せず)等を有している。
【0028】
エンドリングとなるようにRFコイルの両端に配置されたリング導体213,223それぞれの中心軸、及びラング導体204が配置される円筒面の中心軸は一致するように配置されている。リング導体213,223にはそれぞれ周方向に等間隔にギャップ201が設けられ、ラング導体204は、ラング導体が配置される円筒面に沿って等間隔に配置され、ラング導体204の両端部にはそれぞれギャップ201で区切られたリング導体213の部分、ギャップ201で区切られたリング導体223の部分が接続されている。
【0029】
さらに、キャパシタがリング導体213,223それぞれに等間隔で設けられたギャップ201に挿入されて、ギャップ201で区切られたリング導体の部分同士の間に接続され、ダイオードがラング導体204のギャップ202に挿入されて、ギャップ202で区切られたラング導体の部分同士の間に接続されている。キャパシタは、リング導体213,223とラング導体204とRFシールドとにより高周波信号または核磁気共鳴信号の周波数で共振するよう調整されている。
【0030】
図3に示すRFコイル210は、2つのリング導体213,223の直径が異なる点で、図2に示した従来のバードケージ型コイル200と相違している。
【0031】
図4に高周波コイルユニットの模式断面図を示す。本断面図は高周波コイルユニットの中心軸Oに垂直な面での断面図である。RFコイル210の中心軸と円筒状のRFシールドの中心軸とは一致しており、中心軸Oとして示している。断面図には直径の小さいリング導体223、直径の大きいリング導体213、RFシールドを構成するシールド導体301の断面が示されている。リング導体213の直径d213、リング導体223の直径d223、及びシールド導体の直径d301の間には、d223<d213<d301の関係がある。
【0032】
図5に、中心軸Oを含む断面における高周波コイルユニットの模式断面図を示す。リング導体213とリング導体223の直径が異なるため、リング導体213とシールド導体301との距離ε213とリング導体223とシールド導体301との距離ε223との間には、ε213<ε223の関係がある。この距離の違いは、RFコイル210が照射するRF信号の照射磁場の空間的な均一性を低下させる原因となる。これに対して、発明者らはリング導体213とリング導体223の幅を調整することにより、RF信号の照射磁場の空間的な均一度の低下を抑制できることを見出した。
【0033】
具体的には、リング導体213の幅w213とリング導体223の幅w223との間には、w213<w223の関係をもたせる。このように、RFシールドのシールド導体とリング導体間の距離を比べて、距離が短い方のリング導体の幅を狭くすることにより、照射磁場の空間的な均一度を大幅に悪化させることなく、照射効率とリング導体による電磁界の影響とのバランスのとれた高周波コイルユニットを実現し、高画質のMRI画像を取得することが可能になる。
【0034】
以下、RFコイルによって生成される磁場分布について説明する。現在の計算技術ではMRI装置に使用されるRFコイルの磁場分布を実際とほぼ同じようにシミュレーションによって算出することができる。以下、シミュレーションによって算出した磁場分布を示す。
【0035】
図6は、図3に示したRFコイル210によって生成されるRF磁場(B 円偏波磁場)の円筒軸を含む断面におけるRF磁場マップを示す。なお、B 円偏波磁場とは、RFコイルが発生させる磁場Bのうち、水素核スピンを励起する方向の円偏波をもつ磁場である。
【0036】
図6のRF磁場マップの中心部に撮像したい部分が配置され、MRI装置によって撮像される。横軸縦軸の単位はメートルであり、撮像可能範囲は静磁場マグネットの作る均一磁場領域で限定され、通常中心から半径0.25m程度までである。それ以上中心から離れると、像がゆがんだり、結像しなかったりするため、画像を取得できない。このため、RFコイルに求められる性能として、中心から250mmの球体の内部で生成されるRF磁場の均一性が求められる。図6において、中心から縦横250mmの距離を白い四角の枠で囲って表示した領域を撮像可能領域601という。
【0037】
図6は、RFコイル210の中心軸が図の上下方向に配置され、リング導体223が図の上側、リング導体213が図の下側となるように配置され、2つの入力端子におよそ12ワットずつ、合計およそ24ワット入力した際に生成される磁場をグレースケールで表した磁場マップである。グレースケールはおよそ0~2[A/m]の強度を示している。磁場中心には何もおかずに、無負荷で生成される磁場を示している。
【0038】
図7は、比較例のRFコイルについて同様のシミュレーションによって算出した磁場分布を示すRF磁場マップである。比較例のRFコイルは、図6のシミュレーションを行った図3~5に示したRFコイルに対して、リング導体213の幅w213とリング導体223の幅w223とを等しくしたものである。通常のバードケージ型コイルでは前後のリング導体の幅は同じなので、従来のバードケージ型コイルにおいて、一方のリング導体の直径だけ大きくしてRFシールドのシールド導体との距離を近づけたものともいえる。この場合も、RFコイルの中心軸が図の上下方向に配置され、図の下側に配置されたリング導体とシールド導体との距離は、図の上側に配置されたリング導体とシールド導体との距離よりも狭くされている。
【0039】
図6図7ともに、撮像可能領域601の四隅のそばにそれぞれ4つの白い部分(磁場強度が2を超えた部分)があることが分かる。図7の場合、図の上側の2つの白い部分702が、図の下側の2つの白い部分703よりも範囲の広がりが大きいことがみてとれる。これに対して、図6の場合、図の上側の2つの白い部分602の広がりと図の下側の2つの白い部分603の広がりの差は図7の場合に比べて小さくなっていることが分かる。すなわち、図7では図の上下における均一度の違いが顕著であるが、図6においてはその差が抑制されている。
【0040】
図8に、図6、7中の白い点線に沿った磁場分布を、ラインプロファイルとして示す。横軸がRFコイルの中心軸と平行な方向の座標であり、縦軸が磁場強度である。実線801が本実施例のRFコイルのラインプロファイルで、点線802が比較例のRFコイルのラインプロファイルである。磁場中心に最も近い位置が横軸の値が0の位置である。磁場中心でのラインプロファイルの傾きが点線802(比較例)では右肩上がりで急になっているのに対し、実線801(実施例)では傾きが緩和され、横軸がおよそ-0.1m~0.1mの範囲において、均一度が向上していることがわかる。
【0041】
表1は、半径方向(図6,7の横方向)±0.2m、中心軸方向(図6,7の縦方向)±0.1mの範囲における磁場強度の最大値と最小値、標準偏差を、磁場中心を1に規格化して実施例(図6)、比較例(図7)についてそれぞれ示したものである。
【0042】
【表1】
【0043】
とりわけ頭部撮像などの照射磁場強度の均一度の要求される領域の撮像では、最大値、最小値ともに1に近くなることが望ましく、したがって、標準偏差は小さいことが望ましい。実施例では、リング導体213の幅をリング導体223の幅よりも狭くすることでバランスをとっているが、さらに狭くすると逆の方向にバランスを崩し、性能が低下する。実施例の標準偏差と比較例の標準偏差はそれぞれ0.053と0.056であり、実施例では比較例よりもおよそ6%小さくできている。このように、人体の頭部撮像相当の領域(表1を算出した領域)における磁場強度の標準偏差が0.055以下となるように、リング導体の幅を調整することが望ましい。
【0044】
本実施例のRFコイル210の仕様の一例を示すと、直径がおよそ710mm、全長がおよそ550mmであり、リング導体部分にのみキャパシタを設置するハイパス型と呼ばれるバードケージ型コイルである。ラング導体の数は24本で各ラング導体の中央の切り欠きにはダイオードが設置され、RF信号を照射しない時間には、受信コイルとのカップリングを防止するため、ダイオードに逆バイアスをかけてコイルの共振を生じさせないようにする。このRFコイルは、1.5テスラのトンネル型のMRI装置に使用することができ、円筒の両端に配置された各リング導体のそれぞれに24箇所設置されるキャパシタの値はおよそ200pFとした場合、1.5テスラのMRI装置のRF共振周波数である63.8MHzに共振する。
【符号の説明】
【0045】
100:MRI装置、101:マグネット、102:傾斜磁場コイル、103:RFアンテナ、104:送受信機、105:データ処理部、106:送受信ケーブル、107:傾斜磁場制御ケーブル、108:表示装置、109:傾斜磁場電源、111:ベッド、112:被検体、200,210:バードケージ型コイル、201,202:ギャップ、203,213,223:リング導体、204:ラング導体、301:シールド導体、601:撮像可能領域、602,603,702,703:磁場の強い部分、801,802:ラインプロファイル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8