(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054862
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】電動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H02K 7/06 20060101AFI20220331BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20220331BHJP
F16C 19/12 20060101ALI20220331BHJP
F16C 19/30 20060101ALI20220331BHJP
F16C 31/02 20060101ALI20220331BHJP
F16C 23/06 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
H02K7/06 A
F16C19/06
F16C19/12
F16C19/30
F16C31/02
F16C23/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162109
(22)【出願日】2020-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆英
(72)【発明者】
【氏名】石川 慎太朗
【テーマコード(参考)】
3J012
3J104
3J701
5H607
【Fターム(参考)】
3J012BB02
3J012DB20
3J012GB10
3J104AA41
3J104DA14
3J104EA10
3J701AA03
3J701AA13
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA53
3J701AA62
3J701BA77
3J701FA31
3J701GA01
3J701GA11
5H607BB01
5H607BB04
5H607BB07
5H607BB09
5H607BB14
5H607BB26
5H607CC01
5H607CC03
5H607DD02
5H607DD03
5H607DD19
5H607EE52
(57)【要約】
【課題】電動アクチュエータの耐久性および作動安定性を向上させる。
【解決手段】電動アクチュエータ1は、電動モータ2と、電動モータの出力で回転駆動されるねじ軸7、および、ねじ軸と螺合したナット8を備える。ねじ軸7の回転運動はナット8の直線運動に変換される。電動モータ2に対する電力供給の開始から停止への切り替えは、電力供給の開始からの経過時間に基づいて行う。直線運動を行うナット8は、ねじ軸7に支持された第一スラスト軸受50のうち、ねじ軸7に対する相対回転が許容された領域と当接させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、前記電動モータの出力で回転駆動される回転部材、および、前記回転部材と螺合した直動部材を備え、前記回転部材の回転運動を前記直動部材の直線運動に変換する運動変換機構と、前記回転部材を支持する静止部材とを有する電動アクチュエータにおいて、
前記電動モータに対する電力供給の開始から停止への切り替えが、前記電力供給の開始からの経過時間に基づいて行われ、
前記直線運動を行う直動部材が、前記回転部材に支持された第一スラスト軸受のうち、前記回転部材に対する相対回転が許容された領域と当接することを特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
前記第一スラスト軸受として、複数の転動体を有する転がり軸受を用いた請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記静止部材と前記回転部材の間に、第二スラスト軸受を介在させた請求項1または2に記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
前記第一スラスト軸受の回転側の軌道輪と、前記第二スラスト軸受の回転側の軌道輪とを軸方向で接触させ、もしくは両軌道輪を一体化した請求項3に記載の電動アクチュエータ。
【請求項5】
前記直動部材が前記第一スラスト軸受と当接した後で、前記電動モータへの電力供給を停止する請求項1~4何れか1項に記載の電動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両などの省力化又は低燃費化のために電動化が進んでいる。例えば、自動車においては、自動変速機、ブレーキ、又はステアリングなどの操作を電動機の力で行うシステムが開発され、市場に投入されている。
【0003】
このような用途に使用されるアクチュエータの一つとして、下記特許文献1には、電動モータの出力を直動部材の直線運動に変換する電動アクチュエータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電動アクチュエータでは、直動部材であるナットの軸方向両側の端面に突出部を設け、これらの端面と軸方向で対向するスラスト軸受の軌道輪の端面に突出部を設けている。これら突出部を回転方向で係合させることにより、ねじ軸の回転を規制し、それ以上のナットの軸方向移動を規制している。
【0006】
しかしながら、ナットの突出部と軌道輪の突出部が回転方向で係合した際に衝突荷重が発生する。従って、この衝撃荷重で運動変換機構や電動モータの構成要素が損傷もしくは変形するおそれがある。また、突出部同士の係合直後にナットに大きな回転トルクが作用するため、ナットの雌ねじにねじ軸の雄ねじが噛み込むおそれがある。この噛み込みが生じると、電動モータを逆転駆動してもナットを反転移動させることができず、電動アクチュエータの作動安定性が低下する。
【0007】
そこで、本発明は、電動アクチュエータの耐久性および作動安定性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、電動モータと、前記電動モータの出力で回転駆動される回転部材、および、前記回転部材と螺合した直動部材を備え、前記回転部材の回転運動を前記直動部材の直線運動に変換する運動変換機構と、前記回転部材を支持する静止部材とを有する電動アクチュエータにおいて、前記電動モータに対する電力供給の開始から停止への切り替えが、前記電力供給の開始からの経過時間に基づいて行われ、前記直線運動を行う直動部材が、前記回転部材に支持された第一スラスト軸受のうち、前記回転部材に対する相対回転が許容された領域と当接することを特徴とする。
【0009】
このように、直動部材を、回転部材に支持された第一スラスト軸受のうち、回転部材に対する相対回転が許容された領域と当接させることにより、当接直後も回転部材に対する直動部材の相対回転が許容される。従って、当接直後に回転部材や直動部材に作用する衝撃荷重を小さくすることができ、電動アクチュエータ各部の変形や損傷を回避することができる。また、当接直後に直動部材に作用する回転トルクが小さくなるので、直動部材と回転部材の間でのねじ同士の噛み込みを防止することができる。従って、その後、電動モータを逆転駆動する際にも、確実に直動部材を逆方向に直線運動させることができる。
【0010】
第一スラスト軸受として、複数の転動体を有する転がり軸受を用いるのが好ましい。このように第一スラスト軸受として転がり軸受を使用することで、直動部材と第一スラスト軸受の当接直後に直動部材に作用する回転トルクを小さくすることでき、衝撃荷重の低減や直動部材と回転部材の間のねじ同士の噛み込みの防止をより効果的に達成することができる。
【0011】
静止部材と回転部材の間に、第二スラスト軸受を介在させるのが好ましい。
【0012】
この場合、第一スラスト軸受の回転側の軌道輪と、第二スラスト軸受の回転側の軌道輪とを軸方向で接触させ、もしくは両軌道輪を一体化するのが好ましい。
【0013】
これにより、直動部材と第一スラスト軸受とが当接した際に、直動部材の軸力の多くは、回転部材を介さずに第一スラスト軸受から第二スラスト軸受に直接伝播し、静止部材によって支持される。この場合、直動部材からの軸力が殆ど回転部材に作用しないため、軸力が回転部材に作用することによる電動アクチュエータ各部の変形や損傷を回避することができる。
【0014】
直動部材のストローク端の位置を厳密に管理するため、直動部材が第一スラスト軸受と当接した後で、電動モータへの電力供給を停止するのが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、本発明は、電動アクチュエータの耐久性および作動安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態に係る電動アクチュエータの内部構造を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る電動アクチュエータの断面図である。
【
図3】第2実施形態に係る電動アクチュエータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材又は構成部品などの構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付す。このため、一度説明した構成要素については、その説明を省略する。
【0018】
図1は、本発明の第一の実施形態に係る電動アクチュエータの内部構造を示す斜視図、
図2は、当該電動アクチュエータの断面図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る電動アクチュエータ1は、電動モータ2と、減速機3と、すべりねじ機構4と、揺動機構5と、出力軸14と、回路基板30と、ハウジング6とを備えている。
【0020】
静止部材としてのハウジング6は、電動モータ2、減速機3、すべりねじ機構4、揺動機構5、出力軸14、回路基板30などの各種内部部品を収容する外装部材である。本実施形態において、ハウジング6は、ねじ軸7の軸線と平行な平面で2つに分割されている。2つのハウジング分割体60を、それぞれの合わせ面同士を突合せた状態で連結することで、ハウジング6が形成される。ハウジング分割体60同士は、それぞれの合わせ面間にシール部材(図示省略)を介して組み付けられる。これにより、ハウジング6の内部空間が密閉され、ハウジング6内への粉塵や水などの異物の侵入が防止される。
【0021】
特に、本実施形態のように、ハウジング分割体60の合わせ面(
図2におけるクロスハッチング部分)が段差の無い平面である場合は、組み付け時に、ハウジング分割体60の合わせ面同士の間において多少の位置ずれが生じても、合わせ面同士の間に隙間が生じにくく、密閉性を確保しやすい。ハウジング6を密閉するシール部材は、Oリング、ゴムシート、樹脂シート、ジョイントシート、又はメタルガスケットなどの固体のシール材でもよいし、液状ガスケットなどの液体のシール部材でもよい。
【0022】
電動モータ2は、ブラシ付きモータ又はブラシレスモータなどの小型のDCモータである。電動モータ2は、電動モータ2と減速機3との間に配置されるモータホルダ16によって保持される。本実施形態においては、電動モータ2とモータホルダ16とが、固定部材としての複数のボルト17(
図2参照)によって固定される。電動モータ2の減速機3側とは反対側の端部には、一対のモータ端子2bが突出している。各モータ端子2bは、リード線32を介して回路基板30が有する一対の基板端子31に接続されている。電動モータ2の減速機3側とは反対側の端部には、ハウジング6に固定した保持部材40が当接している。モータホルダ16と保持部材40によって、電動モータ2が軸方向で位置決めされる。
【0023】
回路基板30は、電動モータ2の駆動を制御する制御基板である。回路基板30には、外部電源から電動モータ2への電力供給のON/OFFと給電回路の切り換えを行うスイッチング素子(図示省略)が設けられている。スイッチング素子が図示しない制御部からの信号に基づいて給電回路の切り換えを行うことにより、電動モータ2が正回転したり逆回転したりする。
【0024】
すべりねじ機構4は、減速機3を介して伝達された電動モータ2の回転運動を直線運動に変換する第1の運動変換機構である。
図2に示すように、すべりねじ機構4は、回転部材としてのねじ軸7と、直動部材としてのナット8とを有している。ねじ軸7の外周面とナット8の内周面には、互いに螺合するねじ溝(雄ねじおよび雌ねじ)が形成されている。このため、ねじ軸7が回転すると、これに伴ってナット8がねじ軸7の軸方向へ直線運動する。ナット8とハウジング6の間には、ナット8の回転を規制する図示しない回り止め機構が設けられている。ねじ軸7の軸方向両端部は、一対の軸受ユニット19によりハウジング6に対して回転可能に支持されている。
【0025】
揺動機構5は、すべりねじ機構4の直線運動を電動モータ2の軸方向とは異なる軸回りの揺動運動又は回転運動に変換する第2の運動変換機構である。
図1に示すように、揺動機構5は、出力軸14に設けられた揺動部材11と、すべりねじ機構4のナット8に設けられた円柱状の突起12とを有している。本実施形態においては、突起12及び揺動部材11が、それぞれナット8を挟んで両側に1つずつ設けられている。揺動部材11は、出力軸14に対して一体的に取り付けられている。従って、揺動部材11が揺動又は回転すると、揺動部材11と一緒に出力軸14も揺動又は回転する。突起12は、揺動部材11とナット8とを連動可能に連結する連結部である。突起12は、揺動部材11に設けられた長孔11c内に挿入されている。
【0026】
出力軸14には、内周面に複数の凹凸(スプライン)が形成された連結孔14aが設けられている。この連結孔14aは、図示しない操作対象に設けられた操作軸を挿入するための孔である。操作軸が連結孔14aに挿入されて、操作軸と連結孔14aがスプライン嵌合することにより、操作軸と出力軸14が一体的に回転可能に連結される。
【0027】
減速機3は、電動モータ2の回転を減速する減速機構である。本実施形態では、減速機3として二段の遊星減速機20が用いられている。具体的に、遊星減速機20は、
図2に示すように、第1太陽ギヤ21と、第1遊星ギヤ22と、第1キャリア23と、第2遊星ギヤ24と、第2キャリア25と、リングギヤ26とを有している。
【0028】
リングギヤ26は、内周面に複数の歯を有する環状の内歯車であり、第1遊星ギヤ22及び第2遊星ギヤ24を案内する一段目及び二段目の軌道リングとして機能する部材である。リングギヤ26のうち、第1遊星ギヤ22と噛み合う部分が一段目の軌道リングとして機能する部分であり、第2遊星ギヤ24と噛み合う部分が二段目の軌道リングとして機能する部分である。なお、一段目の軌道リングと二段目の軌道リングは、別体であってもよい。
【0029】
第1太陽ギヤ21は、外周面に複数の歯を有する外歯車であり、電動モータ2からの駆動力が入力される一段目の入力回転体として機能する部材である。第1太陽ギヤ21は、電動モータ2の回転軸2aに取り付けられている。電動モータ2が回転すると、第1太陽ギヤ21も電動モータ2の回転軸2aと一緒に回転する。
【0030】
第1遊星ギヤ22は、外周面に複数の歯を有する外歯車であり、一段目の遊星回転体として機能する部材である。第1遊星ギヤ22は、第1太陽ギヤ21とリングギヤ26との間に複数介在し、第1太陽ギヤ21とリングギヤ26に対して噛み合うように配置されている。また、各第1遊星ギヤ22は、第1キャリア23に回転可能に取り付けられている。
【0031】
第1キャリア23は、一段目の出力回転体及び二段目の入力回転体を兼ねる部材である。本実施形態においては、第1キャリア23が、円筒部23aと、円筒部23aから外径方向に突出するフランジ部23bとを有している。フランジ部23bには、第1遊星ギヤ22が回転可能に取り付けられている。一方、円筒部23aには、第2遊星ギヤ24と噛み合うギヤ部23cが設けられている。なお、一段目の出力回転体として機能する部分(フランジ部23b)と、二段目の入力回転体として機能する部分(円筒部23a)は互いに連結した別体であってもよい。
【0032】
また、本実施形態においては、第1キャリア23の径方向の位置ずれ(振れ)を防止するため、第1キャリア23の円筒部23a内に電動モータ2の回転軸2aが挿入されている。すなわち、本実施形態において、電動モータ2の回転軸2aは、第1キャリア23を回転可能に支持する軸受としての役割も兼ねる。
【0033】
第2遊星ギヤ24は、外周面に複数の歯を有する外歯車であり、二段目の遊星回転体として機能する部材である。第2遊星ギヤ24は、第1キャリア23の円筒部23aとリングギヤ26との間に複数介在し、円筒部23aのギヤ部23cとリングギヤ26に対して噛み合うように配置されている。
【0034】
第2キャリア25は、二段目の出力回転体として機能する部材である。本実施形態に係る第2キャリア25は、第1キャリア23と同様に、円筒部25aと、円筒部25aから外径方向に突出するフランジ部25bとを有している。ただし、第2キャリア25の円筒部25aの外周面にはギヤ部は設けられていない。その代わりに、第2キャリア25の円筒部25aの外周面には、ねじ軸7を支持する軸受ユニット19のラジアル軸受9が装着されている。第2キャリア25のフランジ部25bには、第2遊星ギヤ24が回転可能に取り付けられている。
【0035】
また、第2キャリア25には、ねじ軸7の軸方向一端部が連結されている。本実施形態においては、第2キャリア25の円筒部25aの内周面と、ねじ軸7の一端部側の外周面に、それぞれ軸方向に伸びるスプラインが形成されている。これらのスプライン同士が嵌合することにより、ねじ軸7と第2キャリア25とが一体回転可能に連結されている。
【0036】
各軸受ユニット19は、ラジアル軸受9と、スラスト軸受10(第二スラスト軸受)と、これらの軸受9、10を支持する軸受ホルダ18とを有している。軸受ホルダ18はハウジング6に固定された静止部材である。以下、ラジアル軸受9および第二スラスト軸受10の構成を説明する。なお、以下では、
図2の図面右側(電動モータ2から離れる側)に位置するラジアル軸受9および第二スラスト軸受10の構造を例に挙げて説明しているが、特に説明しない限り、図面左側に位置するラジアル軸受9および第二スラスト軸受10も同じ構成を有する。
【0037】
本実施形態のラジアル軸受9は、深溝玉軸受等の転がり軸受で構成される。ラジアル軸受9は、内輪9aと、外輪9cと、内輪9aと外輪9cの間に配置された複数の転動体(玉)9bとを備える。内輪9aがねじ軸7の外周面に圧入等の手段で固定され、外輪9cが、軸受ホルダ18の内周面に圧入等の手段で固定されている。このラジアル軸受9により、ねじ軸7が、静止部材としてのハウジング6に対してラジアル方向で回転自在に支持される。
【0038】
本実施形態の第二スラスト軸受10は、針状ころ軸受で構成される。第二スラスト軸受10は、第一軌道輪10aと、第二軌道輪10bと、両軌道輪10a,10bの間に配置された複数の転動体(針状ころ)10cとを備えている。第一軌道輪10aは、ねじ軸7に固定されて回転部材を構成する。第二軌道輪10bは、静止部材としての軸受ホルダ18に固定されている。この第二スラスト軸受10により、ねじ軸7がハウジング6に対してスラスト方向で回転自在に支持される。
【0039】
続いて、本実施形態に係る電動アクチュエータの動作について説明する。
【0040】
外部電源から電動モータ2へ電力が供給されると、電動モータ2が正回転又は逆回転することにより、電動モータ2から遊星減速機20(減速機3)へ回転運動が伝達される。すなわち、電動モータ2の回転軸2aが回転すると、その回転軸2aに連結された第1太陽ギヤ21が一体的に回転する。これより、第1太陽ギヤ21と噛み合う各第1遊星ギヤ22が回転を開始する。そして、各第1遊星ギヤ22は、自転しながらリングギヤ26に沿って公転する。このとき、各第1遊星ギヤ22の公転運動が第1キャリア23の回転運動として出力されることにより、回転が減速される。
【0041】
また、第1キャリア23の回転に伴い、第1キャリア23に噛み合う各第2遊星ギヤ24が回転を開始する。これにより、各第2遊星ギヤ24は、自転しながらリングギヤ26に沿って公転する。このとき、各第2遊星ギヤ24の公転運動が第2キャリア25の回転運動として出力されることにより、回転がさらに減速される。
【0042】
上記の如く減速された回転は、減速機3からすべりねじ機構4へ伝達される。すなわち、遊星減速機20の第2キャリア25が回転することにより、すべりねじ機構4のねじ軸7が第2キャリア25と一体的に回転する。ねじ軸7が回転すると、ねじ軸7の回転に伴ってナット8が直線運動する。本実施形態においては、電動モータ2が正回転すると、ナット8が
図2中の矢印A1方向に前進し、反対に電動モータ2が逆回転するすると、ナット8が
図2中の矢印A2方向に後退する。
【0043】
ナット8が前進又は後退すると、ナット8に設けられている突起12(
図1参照)が揺動部材11を押し動かし、揺動部材11が
図2中の矢印B1方向又は矢印B2方向に揺動又は回転する。そして、揺動部材11と一体的に出力軸14が揺動又は回転することにより、ナット8の直線運動が電動モータ2の回転軸2aとは異なる方向の軸回り(出力軸14の軸回り)の揺動運動又は回転運動として出力される。本実施形態においては、出力軸14が、電動モータ2の回転軸2aと直交する方向に配置されているため、電動モータ2の回転運動は、電動モータ2の回転軸2aとは直交する軸回りの回転運動として出力される。
【0044】
電動モータ2に対する電力供給の開始から電力供給の停止への切り替えは、電力供給の開始時点からの経過時間に基づいて行われる。すなわち、電動モータ2への電力供給が開始されると(モータON)、その電力供給開始のタイミングと同時にカウントを開始し、予め定めた一定時間が経過した時に電動モータ2への電力供給が停止される(モータOFF)。電力供給の開始から停止までの時間は、ナット8が一方のストローク端から他方のストローク端まで移動するまでの所要時間とする。電動モータ2を正方向に回転させる場合(ナット8はA1方向に移動する)のみならず、電動モータを逆方向に回転させる場合(ナット8はA2方向に移動する)も同じ制御が行われる。
【0045】
従って、本実施形態の電動アクチュエータ1では、予め定めた二つのストローク端の間のみをナット8が往復移動し、二つのストローク端の間の何れかの中間位置でナット8が停止することはない。以上に述べた電動モータ2の制御は、基板30に設けた制御回路で行う。
【0046】
このようにナット8を往復移動させる場合、ナットが二つのストローク端にそれぞれ達したことをセンサで検知し、この検知信号の受信と同時に電動モータへの給電を停止することも考えられる。しかしながら、このような構造では、センサが必要となるため、電動アクチュエータが高コスト化する。本実施形態では、ナット8の軸方向位置を検知するセンサを省略しているため、電動アクチュエータ1の低コスト化を図ることができる。
【0047】
このように電動モータ2に対する電力供給の開始と停止だけでは、ナット8のストローク端の位置が正確に定まらないため、機械的にナット8のストローク端を定めるのが好ましい。本実施形態では、ストローク端の位置を機械的に定めるため、ナット8の往復移動を規制するストッパを設けており、このストッパとして第一スラスト軸受50を使用している。
【0048】
第一スラスト軸受50は、複数の転動体を有する転がり軸受、例えば転動体として針状ころを用いた保持器付き針状ころ軸受で構成される。第一スラスト軸受50は、ねじ軸7に支持される。具体的には、ねじ軸7に固定された第一軌道輪10aが第一スラスト軸受50の軸方向一方側(ナット8との対向側とは軸方向反対側)の軌道輪として使用される。つまり第一スラスト軸受50と第二スラスト軸受10では、回転側の軌道輪が一体形成されている。第一スラスト軸受50のうち、軸方向他方側(ナット8との対向側)の軌道輪は省略されている。
【0049】
なお、
図2に示すように、電動モータ2側の第一スラスト軸受50では、ねじ軸7に外径方向へ延びるフランジ部7aを設け、このフランジ部7aを一方側(ナット8との対向側とは軸方向反対側)の軌道輪として用いている。フランジ部7aは、ねじ軸7と一体に形成する他、ねじ軸7に固定した別部材で構成することもできる。この場合、ねじ軸7aとは別部材のフランジ部7aも回転部材となる。
【0050】
第一スラスト軸受50においては、第一軌道輪10aおよびフランジ部7aがねじ軸7と一体に回転する回転側となる。一方、第一軌道輪10aから軸方向で最も離れた位置にある針状ころの外周面、換言すれば、ねじ軸7の軸心と直交する方向の仮想平面と、第一スラスト軸受50の各針状ころの外周面のうち、第一軌道輪10aと非接触の外周面との接点は、ねじ軸7に対する相対回転が許容された領域となる。従って、この領域(針状ころの外周面)にナット8を当接させることで、当接直後もナット8に対するねじ軸7の相対回転が許容される。
【0051】
この場合、ナット8と第一スラスト軸受50が当接した際にも、ねじ軸7やナット8に衝撃荷重は作用せず、これにより電動モータ2、減速機3、揺動機構5といった電動アクチュエータ1各部の損傷や変形を防止することができる。また、ナット8と第一スラスト軸受50の当接時に、ナット8に作用する回転トルクが小さくなるので、ナット8の雌ねじに対するねじ軸7の雄ねじの噛み込みを防止することができる。従って、その後、電動モータ2を逆転駆動する際にも、確実にナット8を逆方向に直線運動させることができる。
【0052】
なお、ナット8が第一スラスト軸受50と確実に当接できるように、ナット8が第一スラスト軸受50と当接した後で電動モータ2への電力供給を停止するように電動モータに対する電力供給時間を設定するのが好ましい。
【0053】
この場合、ナット8と第一スラスト軸受50が当接した時点で、電動モータ2に電力が継続して供給された状態(モータONの状態)となるため、ナット8と第一スラスト軸受50の衝突速度は高速となるが、そのような高速での衝突時にも、既に述べた構成により、電動アクチュエータ1各部の損傷・変形、あるいは動作不良を回避できるという効果を得ることができる。
【0054】
これに対し、既に述べた特許文献1は、本実施形態における第二スラスト軸受10の第一軌道輪10aの端面とナット8の端面にそれぞれ突出部を設け、突出部同士を回転方向で係合させる構造を開示している。この場合、第一軌道輪とナットの当接時(突出部同士の係合時)には、大きな衝撃荷重がナット及びねじ軸に作用する。また、この当接時には、第一軌道輪とナットの間の相対回転が許容されないため、突出部同士が係合した瞬間に、ナットに大きな回転トルクが作用する。そのため、ナットの雌ねじとねじ軸の雄ねじが噛み込むおそれがある。
【0055】
また、本実施形態では、第一スラスト軸受50の回転側の軌道輪と第二スラスト軸受10の回転側の軌道輪10aを一体化している。そのため、ナット8と第一スラスト軸受50とが当接した際に、ナット8の軸力の多くは、ねじ軸7を介さずに第一スラスト軸受50から第二スラスト軸受10に直接伝播し、軸受ホルダ18を介してハウジング6に支持される。この場合、ナット8からの軸力が殆どねじ軸7に作用しないため、軸力がねじ軸7に作用することによる減速機3や電動モータ2の変形や損傷を防止することができる。この効果は、第一スラスト軸受50の回転側の軌道輪と第二スラスト軸受10の回転側の軌道輪10aを別部材とし、かつ両軌道輪を軸方向で接触させた場合(
図2の電動モータ2側の第一スラスト軸受50および第二スラスト軸受10を参照)にも同様に得ることができる。
【0056】
図3に本発明の第二の実施形態を示す。この第二実施形態では、第一スラスト軸受50として、保持器付き玉軸受を使用している。これ例外の他の構成は、
図1および
図2に示す第一の実施形態と共通するので、重複説明を省略する。
【0057】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0058】
例えば、電動モータの回転を減速する減速機3は、上記のような二段の遊星減速機20に限らず、一段の遊星減速機であってもよい。さらに、減速機3は、ギヤを介して駆動力を伝達する遊星ギヤ減速機に限らず、ローラを介して駆動力を伝達する、いわゆるトラクションドライブ式の遊星減速機などであってもよい。この他、減速機3として、平行軸減速機を使用することもできる。
【0059】
また、電動モータ2の回転運動を直線運動に変換する第1の運動変換機構は、上記のようなすべりねじ機構4に限らず、ボールねじ機構などであってもよい。また、第1の運動変換機構の直線運動を電動モータの軸方向とは異なる軸回りの揺動運動又は回転運動に変換する第2の運動変換機構は、上記のような揺動機構5に限らず、ラックアンドピニオン機構などであってもよい。
【0060】
また、本発明に係る電動アクチュエータは、減速機3及び第2の運動変換機構の少なくとも一方を有しないものであってもよい。
【0061】
また、以上の実施形態では、第一スラスト軸受50の軸方向他方側(ナット8と軸方向で対向する側)の軌道輪を省略しているが、この軌道輪を使用しても上記と同様の効果を得ることができる。この軌道輪は、ねじ軸7および第一軌道輪10aを含む回転部材、並びにハウジング6および軸受ホルダ18を含む静止部材の何れにも固定されず、回転部材および静止部材の双方に対して回転フリーの状態にある。
【0062】
また、以上の実施形態では、第一スラスト軸受40、第二スラスト軸受10、およびラジアル軸受9として、複数の転動体を有する転がり軸受を使用する場合を例示したが、これらの各軸受は、低摩擦材料で形成した滑り軸受で構成することもできる。
【符号の説明】
【0063】
1 電動アクチュエータ
2 電動モータ
4 すべりねじ機構(運動変換機構)
6 ハウジング(静止部材)
7 ねじ軸(回転部材)
8 ナット(直動部材)
10 第二スラスト軸受
10a 第一軌道輪(回転側の軌道輪)
50 第一スラスト軸受