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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054928
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】可塑性グラウト材
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20220331BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20220331BHJP
   C04B 14/10 20060101ALI20220331BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20220331BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20220331BHJP
   C04B 111/70 20060101ALN20220331BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/10
C04B14/10 B
C04B24/38 D
C04B24/26 E
C04B111:70
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162207
(22)【出願日】2020-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】特許業務法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智彦
(72)【発明者】
【氏名】エギ クリスタル ソエシロ
(72)【発明者】
【氏名】西田昂平
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB06
4G112PA06
4G112PB31
4G112PB40
(57)【要約】
【課題】フロー値が施工に際して定められた基準を充足しており、可塑性グラウト材に要求される強度及び一般的なコンクリート構造物等に要求される程度の高い強度を発現することが出来て、しかも、劇物指定されているアルミン酸ナトリウムを可塑剤として使用する必要が無い可塑性グラウト材の提供。
【解決手段】本発明の可塑性グラウト材は、地盤や構造物の空隙や地盤と構造物との間に生じた隙間に注入するための空洞充填用の注入材料であって、結合材(セメント、セメントとシリカヒューム或いはフライアッシュとの混合物、その他)と水を含む可塑性グラウト材において、結合材(B)対する水(W)の比率(W/B)が40%~65%であり、炭酸ナトリウムを0.2重量%以上含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤や構造物の空隙や地盤と構造物との間に生じた隙間に注入するための空洞充填用の注入材料であって、結合材と水を含む可塑性グラウト材において、結合材に対する水の比率が40%~65%であり、炭酸ナトリウムを含むことを特徴とする可塑性グラウト材。
【請求項2】
地盤や構造物の空隙や地盤と構造物との間に生じた隙間に注入するための空洞充填用の注入材料であって、結合材と水を含む可塑性グラウト材において、結合材に対する水の比率が40%~65%であり、炭酸ナトリウムと高分子系可塑剤を含むことを特徴とする可塑性グラウト材。
【請求項3】
ベントナイトを含有する請求項1、請求項2の何れかの可塑性グラウト材。
【請求項4】
水溶性セルロースと、減水剤を含有する請求項1~請求項3の何れか1項の可塑性グラウト材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、地盤や構造物の空隙、目地、ひび割れ、または地盤と構造物の間に生じた隙間等に注入する空洞充填用の注入材料である可塑性グラウト材に関する。特に、高強度(18N/mm以上)が求められる工事全般に適用可能な可塑性グラウト材に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような可塑性グラウト材料として従来提案されているものの多くは圧縮強度が1.5N/mmの低強度の材料であり、一般的なコンクリート構造物等に要求される様な高強度が求められる工事には不適切である。
一般的なコンクリート構造物等に要求される様な高強度が達成できる可塑性グラウト材も提案されているが(特許文献1参照)、係る従来技術では可塑剤である水和反応促進剤としてアルミン酸ナトリウムを用いており、アルミン酸ナトリウムは劇物指定されており、現場での取り扱い(保管、管理)には注意が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5697228号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、フロー値が施工に際して定められた基準を充足しており、可塑性グラウト材に要求される強度は勿論、一般的なコンクリート構造物等に要求される程度の高い強度を発現することが出来て、しかも、劇物指定されているアルミン酸ナトリウムを可塑剤として使用する必要が無い可塑性グラウト材の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の可塑性グラウト材は、地盤や構造物の空隙や地盤と構造物との間に生じた隙間に注入するための空洞充填用の注入材料であって、結合材(セメント、セメントとシリカヒューム或いはフライアッシュとの混合物、その他)と水を含む可塑性グラウト材において、結合材(B)対する水(W)の比率(W/B)が40%~65%であり、炭酸ナトリウムを含む(例えば、セメントの重量に対して0.2重量%以上)ことを特徴としている。
ここで、炭酸ナトリウム含有量はセメントの重量に対して0.5重量%未満であることが好ましい。
【0006】
また本発明の可塑性グラウト材は、地盤や構造物の空隙や地盤と構造物との間に生じた隙間に注入するための空洞充填用の注入材料であって、結合材(セメント、セメントとシリカヒューム或いはフライアッシュとの混合物、その他)と水を含む可塑性グラウト材において、結合材(B)に対する水(W)の比率(W/B)が40%~65%であり、炭酸ナトリウム(例えば、セメント重量に対して0.1重量%以上)と高分子系可塑剤(例えばセメント重量に対して0.05重量%以上)を含むことを特徴としている。
【0007】
本発明の可塑性グラウト材において、(好ましくはセメント重量に対して8重量%未満の)ベントナイトを含有することが好ましい。
また本発明の可塑性グラウト材において、水溶性セルロース(例えば、水の重量に対して0.2重量%以上1重量%未満:好ましくは0.25重量%)と、減水剤(例えば、セメント重量に対して0.2重量%~2重量%:好ましくは0.5重量%)を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
上述の構成を具備する本発明では、劇物指定されているアルミン酸ナトリウムは含有せず、炭酸ナトリウムを含有している。ここで、炭酸ナトリウムは、例えば粉せっけんや合成洗剤にも含有されており、安全性の高い化合物である。
そして本発明では、セメント(結合材)に対する水の比率が40%~65%であり、炭酸ナトリウムを(例えばセメントに対して0.2重量%以上)含み、そのフロー値は、可塑性グラウト材としての所定の範囲である80~155mmとすることが出来る。そのため、可塑性グラウト材として要求される流動性、すなわち隙間に注入可能な程度の流動性を有しており、且つ、注入された箇所に滞留することが出来る。
また本発明によれば、可塑性グラウト材として要求される強度(1.5N/mm以上:添加後(混合後)28日経過後の一軸圧縮強度σ28)を満足することは勿論、一般的なコンクリート構造物等に要求される強度(σ28≧18N/mm)を満足することが出来る。そのため、高い強度を必要としない空洞・空隙充填の用途だけではなく、高強度が求められる工事においても使用することが可能である。
【0009】
本発明において、炭酸ナトリウム含有量が少量(例えば0.2重量%未満)であっても、高分子系可塑剤(例えばセメントに対して0.05重量%以上)を含むことにより、そのフロー値を、可塑性グラウト材としての所定の範囲である80~155mmにすることが出来る。そのため、可塑性グラウト材として隙間に注入することが可能な程度の流動性を有しており、且つ、注入された箇所に滞留することが出来る。それと共に、可塑性グラウト材として要求される強度(1.5N/mm以上)を満足すると共に、一般的なコンクリート構造物等に要求される強度(σ28≧18N/mm)を満足することが出来るので、高い強度を必要としない空洞・空隙充填の用途に加えて、高強度が求められる工事においても使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実験例1において、結合材中にシリカフュームを混合せず、W/B=50%の結果を示す特性図である。
図2】実験例1において、結合材中にシリカフュームを混合せず、W/B=55%の結果を示す特性図である。
図3】実験例1において、結合材中にシリカフューム5%を混合し、W/B=55%の結果を示す特性図である。
図4】実験例1において、結合材中にシリカフューム5%を混合し、W/B=60%の結果を示す特性図である。
図5】実験例1において、結合材中にシリカフューム10%を混合し、W/B=60%の結果を示す特性図である。
図6】実験例1において、結合材中にシリカフューム10%を混合し、W/B=65%の結果を示す特性図である。
図7】実験例2の結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について説明する。
第1実施形態の可塑性グラウト材は、炭酸ナトリウムを0.2重量%(セメントの重量に対する重量比を%で示している:本明細書において共通)以上含有するが、高分子系可塑剤、ベントナイトを包含していない。
結合材としては、セメント単体、或いはセメントにシリカフューム或いはフライアッシュを混合した混合物を用いており、セメントとシリカフューム或いはフライアッシュとの比率は100:0~90:10となっている。
【0012】
第1実施形態によれば、可塑性グラウト材として要求される流動性を獲得することが出来る。すなわちフロー値を可塑性グラウト材としての所定の範囲である80~155mmにすることが出来る。
また、第1実施形態によれば、可塑性グラウト材として要求される強度(1.5N/mm以上:添加後(混合後)28日経過後の一軸圧縮強度σ28)を満たし、且つ、一般的なコンクリート構造物等に要求される強度以上の強度(σ28≧18N/mm)を有するグラウト材を得られる。
ここで、可塑性グラウト材としての規格(NEXCOの「矢板工法トンネルの背面空洞注入工 設計・施工要領」)においては、フロー値80~155mm、混合後28日経過したときに一軸圧縮強度(σ28)≧1.5N/mmが規定されている。また、上述した様に、一般的なコンクリート構造物等に要求される強度(σ28)は18N/mm以上である。炭酸ナトリウムを含有した高強度の可塑性グラウト材に係る本発明では、フロー値80~155mm、一軸圧縮強度(σ28)18N/mm以上を目標としている。
【0013】
本発明の第2実施形態に係る可塑性グラウト材は、第1実施形態と同様に、炭酸ナトリウムを0.2重量%以上含有し、加えてベントナイトを包含している。ベントナイトの含有量は、好ましくはセメントに対して8重量%未満である。
W/Bについては第1実施形態と同様であり、結合材は、セメント単体、或いはセメントにシリカフューム或いはフライアッシュを混合した混合物であり、セメントとシリカフューム或いはフライアッシュとの比率は、100:0~90:10の範囲内である。W/Bは50%~65%である。
第2実施形態の可塑性グラウト材では、ベントナイトを添加した結果、同一のW/Bで同一の結合材及び炭酸ナトリウムを含有した第1実施形態の可塑性グラウト材に比較してフロー値は小さくなる。
【0014】
第3実施形態の可塑性グラウト材は、炭酸ナトリウムと高分子系可塑剤を包含しており、ベントナイトは含有していない。炭酸ナトリウムの含有量はセメントに対して0.1重量%以上であり、高分子系可塑剤の含有量はセメントに対して0.05重量%以上である。
W/Bについては、第1実施形態、第2実施形態と同様である。
第3実施形態の可塑性グラウト材では、高分子系可塑剤を包含ことにより、W/B及び結合材が同一の第1実施形態に係る可塑性グラウト材と同様に、フロー値の範囲が80~155mmになる。
また、可塑性グラウト材として要求される強度(σ28≧1.5N/mm以上)を満たし、且つ、一般的なコンクリート構造物等に要求される強度以上の強度(σ28≧18N/mm)を有するグラウト材を得ることが出来る。
【0015】
第1実施形態~第3実施形態の可塑性グラウト材において、水溶性セルロース(含有量は、例えば水に対する重量比が0.25重量%)、高性能AE減水剤(含有量は、例えばセメントに対する重量比が0.5%重量)を含有させることが出来る。
水溶性セルロースを含有することにより、水中不分離性、すなわち水中で結合材の粒子の拡散を抑制する性状を獲得することが出来る。また、高性能AE減水剤を含有することで、可塑性グラウト材を混合してから流動性を保持させる時間を長くすることが出来る。
【0016】
以下、発明者による実験について説明する。
実験に際して、セメント、シリカフューム、高分子系可塑剤、ベントナイト、炭酸ナトリウム、水溶性セルロース、高性能AE減水剤は、以下の市販品を用いた。
セメント:太平洋セメント株式会社製造の商品名「普通ポルトランドセメント」、
シリカフューム:SKWイーストアジア株式会社販売の商品名「SILICA FUME SILICIUM」、
高分子系可塑剤:緑興産株式会社販売の商品名「パフェハード」、
ベントナイト:株式会社ホージュン製造の商品名「白馬」、
炭酸ナトリウム:昭和化学株式会社製造の商品名「炭酸ナトリウム(無水)」、
水溶性セルロース:巴工業株式会社販売の商品名「HECELLOSE」、
高性能AE減水剤:ポゾリスソリューションズ株式会社製造の商品名「マスターグレニウムSP8SV」。
そして、水としては水道水を用いた。
【0017】
[実験例1]
炭酸ナトリウムとベントナイトの含有量を変動して、可塑性グラウト材のフロー値(mm)を計測した。
フロー値の計測に際しては、NEXCO試験法313-1999「エアモルタル及びエアミルクの試験方法」における「シリンダー法」に準拠して、内径80mm、高さ80mmのシリンダーに可塑性グラウト材を充填し、シリンダーを引き上げた際に可塑性グラウト材がどの程度広がるかを計測した。
一軸圧縮強度試験については、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠し、φ50×100mmの供試体を用い、σ7、σ28を計測した。
実験例1及び後述する実験例2、実験例3において、水溶性セルロースは水の重量に対して0.25重量%、高性能AE減水剤はセメントの重量に対して0.5重量%を含有させている。
【0018】
実験例1では、炭酸ナトリウムの含有量を、0重量%、0.1重量%、0.2重量%、0.3重量%、0.4重量%に変動させた。また、ベントナイトの含有量はセメントの重量に対する重量%であり、0重量%、0.5重量%、1重量%、2重量%に変動させた。
本明細書において、含有しない旨を表現する際には「0重量%」と記載する。
実験例1の結果を、表1-1~表1-6と図1図6で示す。
表1-1~表1-6の各々にける左上の部分には、W/Bの値、シリカフュームSFの含有量が示されている。
【0019】
表1-1
【0020】
表1-2
【0021】
表1-3
【0022】
表1-4
【0023】
表1-5
【0024】
表1-6
【0025】
表1-1~表1-6で示す実験例1の結果から、必要なフロー値(80~155mm)を充足する組成が明らかになった。
表1-1~表1-6において、フロー値が80~155mmの範囲内となった組成の試料を適宜選択して供試体を作成し、一軸圧縮強度を測定した。表1-1~表1-6において、ハッチングを付して示すのが、供試体を作成して一軸圧縮強度を測定した試料であり、測定された一軸圧縮強度が表3に示されている。換言すれば、表1-1~表1-6においてハッチングを付して示す試料が表3(実験例3)で示されている。
【0026】
表1-1~表1-6において、フロー値が80~155mmの範囲内となった組成の試料であって、ハッチングを付していない組成の試料で作成された供試体の一軸圧縮強度は、表3には示されていない。
しかし、発明者は別途の実験により、表1-1~表1-6において、フロー値が80~155mmの範囲内であるがハッチングを付していない組成の試料で供試体を作成し、一軸圧縮試験を行った。当該発明者の実験によれば(表3では示されていないが)、その様な試料で作成された供試体は、全て、18N/mm以上の一軸圧縮強度(σ28)を有していることが判明した。すなわち、表1-1~表1-6で示す組成において、フロー値が80~155mmの範囲内の組成であれば、全て、一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度となる(σ28≧18N/mm)ことが、前記発明者の実験と後述の実験例3で確認された。
表1-1においてフロー値をハッチングで示さない組成(表3に含まれない組成)のグラウト材でも、フロー値が80~155mmの範囲であるものが存在する。炭酸ナトリウムの含有量が0.2重量%でベントナイトの含有量が1重量%の試料、炭酸ナトリウムの含有量が0.2重量%でベントナイトの含有量が2重量%の試料、炭酸ナトリウムの含有量が0.3重量%でベントナイトの含有量が0重量%の試料、炭酸ナトリウムの含有量が0.3重量%でベントナイトの含有量が0.5重量%の試料、炭酸ナトリウムの含有量が0.4重量%でベントナイトの含有量が0.5重量%の試料が該当する。前述したように、それ等についても、表や図面で示されていない発明者の実験により、一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(σ28≧18N/mm)であることが確認されている。
【0027】
表1-2において、フロー値をハッチングで示さない組成(表3に含まれない組成)の試料でも、炭酸ナトリウムの含有量が0.2重量%でベントナイトの含有量が2重量%の試料、炭酸ナトリウムの含有量が0.3重量%でベントナイトの含有量が0.5重量%の試料、炭酸ナトリウムの含有量が0.4重量%でベントナイトの含有量が0.5重量%の試料は、そのフロー値が80~155mmの範囲である。前述した通り、発明者による実験により、係る試料の何れにおいても、一軸圧縮強度は一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上(σ28≧18N/mm)であることが確認されている。
また表1-3においてフロー値をハッチングで示さない組成(表3に含まれない組成)の試料でも、炭酸ナトリウムの含有量が0.2重量%でベントナイトの含有量が0重量%、0.5重量%、1重量%或いは2重量%の試料、炭酸ナトリウムの含有量が0.3重量%でベントナイトの含有量が0.5重量%の試料のフロー値は80~155mmの範囲である。そして、前述した発明者による実験により、係る試料の何れにおいても、一軸圧縮強度は一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度となる(σ28≧18N/mm)ことが確認されている。
表1-4において、フロー値をハッチングで示さない組成(表3に含まれない組成)の試料でも、炭酸ナトリウムの含有量が0.2重量%でベントナイトの含有量が2重量%の試料、炭酸ナトリウムの含有量が0.3重量%でベントナイトの含有量が0重量%或いは0.5重量%の試料、炭酸ナトリウムの含有量が0.4重量%でベントナイトの含有量が0.5重量%の試料は、そのフロー値が80~155mmの範囲である。そして、発明者による前述の実験により、当該試料の何れにおいても、一軸圧縮強度は一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(σ28≧18N/mm)であることが確認された。
【0028】
表1-5において、フロー値をハッチングで示さない組成(表3に含まれない組成)の試料でも、炭酸ナトリウムの含有量が0.2重量%でベントナイトの含有量が0重量%、0.5重量%、1重量%或いは2重量%の試料、炭酸ナトリウムの含有量が0.3重量%でベントナイトの含有量が0.5重量%の試料は、そのフロー値が80~155mmの範囲である。そして、発明者による前述の実験により、これ等の試料の何れにおいても、一軸圧縮強度は一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(σ28≧18N/mm)であることが確認されている。
表1-6においても、フロー値をハッチングで示さない組成(表3に含まれない組成)の試料でも、炭酸ナトリウムの含有量が0.2重量%でベントナイトの含有量が0.5重量%、1重量%或いは2重量%の試料、炭酸ナトリウムの含有量が0.3重量%でベントナイトの含有量が0重量%或いは0.5重量%の試料は、そのフロー値が80~155mmの範囲である。そして、発明者による前述の実験では、これ等の試料は、何れも一軸圧縮強度が一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(σ28≧18N/mm)であった。
【0029】
図1図6は実験例1の結果を示しており、それぞれ表1-1~表1-6に対応している。
図1図6において、左上部分には結合材(B)に対する水(W)の割合(W/B)及びシリカフューム(SF)の含有量が示されており、ベントナイトの含有量(セメントに対する重量%)が異なる複数の試料の各々について、炭酸ナトリウムの含有量とフロー値(mm)の特性が示されている。
【0030】
図1において、表1-1においてフロー値をハッチングで示す組成、すなわち、ベントナイト0重量%で炭酸ナトリウム0.4重量%のプロット(表3の試料No1)、ベントナイト1重量%で炭酸ナトリウム0.3重量%のプロット(表3の試料No2)、ベントナイト2重量%で炭酸ナトリウム0.3重量%のプロット(表3の試料No3)については、そのフロー値は何れも80~155mmの範囲である。
【0031】
図2において、表1-2でハッチングを付して示す組成、すなわち、ベントナイト0重量%で炭酸ナトリウム0.4重量%のプロット(表3の試料No4)、ベントナイト1重量%で炭酸ナトリウム0.3重量%のプロット(表3の試料No5)、ベントナイト2重量%で炭酸ナトリウム0.3重量%のプロット(表3の試料No6)は、何れも、フロー値が80~155mmの範囲である。
図3において、表1-3でフロー値をハッチングで示す組成(表1に含まれる組成)、すなわち、炭酸ナトリウム0.3重量%でベントナイト0重量%、1重量%或いは2重量%のプロット(表3の試料No7~No.9)は、何れもフロー値が80~155mmの範囲である。
図4において、表1-4でフロー値をハッチングで示す組成(表3に含まれる組成)、すなわち、ベントナイト0重量%)で炭酸ナトリウム0.4重量%のプロット(表3の試料No10)、ベントナイト1重量%で炭酸ナトリウム添加量0.3重量%のプロット(表3の試料No11)、ベントナイト2重量%で炭酸ナトリウム0.3重量%のプロット(表3の試料No12)は、何れも、フロー値が80~155mmの範囲である。
【0032】
図5において、表1-5でフロー値をハッチングで示す組成(表3に含まれる組成)、すなわち、ベントナイト0重量%で炭酸ナトリウム0.3重量%のプロット(表3の試料No13)、ベントナイト1重量%で炭酸ナトリウム0.3重量%のプロット(表3の試料No14)、ベントナイト2重量%で炭酸ナトリウム0.3重量%のプロット(表3の試料No15)は、何れも、フロー値が80~155mmの範囲である。
図6において、表1-6でフロー値をハッチングで示す組成(表3に含まれる組成)、すなわち、ベントナイト0重量%で炭酸ナトリウム添加量が0.4重量%のプロット(表3の試料No16)と、ベントナイト1重量%で炭酸ナトリウム0.3重量%のプロット(表3の試料No17)と、ベントナイト2重量%で炭酸ナトリウム0.3重量%のプロット(表3の試料No18)は、何れも、フロー値が80~155mmの範囲である。
【0033】
表1-1~表1-6、図1図6や発明者による実験から、表1-1~表1-6、図1図6で示す組成であって、フロー値が80~155mmの範囲であれば、一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(σ28≧18N/mm)が獲得できることが明らかになった。
また実験例1で確認された範囲では、炭酸ナトリウム含有量は、セメントに対して0.2重量%以上にすると、フロー値が所定の範囲内となり、一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(σ28≧18N/mm)が得られた。
なお、図表で示されていない発明者による別途実験で、炭酸ナトリウム含有量がセメント重量に対して1.0重量%を超えると、添加の効果が向上しなくなると共に、可塑性グラウト材の流動性が悪くなって、練り混ぜやポンプ圧送が困難になることが判明した。
【0034】
実験例1ではW/Bが50%~65%であり、40%≦W/B<50%については示されていないが、発明者はW/Bが45%の場合及びW/Bが40%の場合について実験を行い、28日経過後の一軸圧縮強度σ28について18N/mmよりも大きな数値であることを確認した。また、図面や表で表示していないが、発明者による実験では、W/Bが65%を超える場合には、28日経過後の一軸圧縮強度σ28が、一般的なコンクリート構造物に要求される強度である18N/mm未満となる場合があった。
したがって、実験例1と発明者の当該実験により、40%≦W/B≦65%であれば、一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(σ28≧18N/mm)になることが明らかになった。
【0035】
実験例1から、同一の炭酸ナトリウム含有量を有するグラウト材において、ベントナイトの含有量を増加させることにより、フロー値を減少させることが出来ることが明らかになった。
例えば、表1-2(図2)において、炭酸ナトリウムの含有量が0.3重量%でベントナイトの含有量が0重量%であると、フロー値160mmであり、要求範囲(80~155mm)から僅かに外れる。これに対して、炭酸ナトリウムの含有量が同じく0.3重量%でベントナイトの含有量が0.5重量%であると、フロー値は107mmとなり、要求範囲(80~155mm)内となる。同様に、炭酸ナトリウムの含有量が0.3重量%でベントナイトの含有量が1重量%(表3の試料No.5)ではフロー値は100mmであり、炭酸ナトリウムの含有量が0.3重量%でベントナイトの含有量が2重量%(表3の試料No.6)ではフロー値は99mmであり、要求範囲(80~155mm)内の数値である。
【0036】
表1-1~表1-6、図1図6には示されていないが、発明者の実験によると、ベントナイト含有量が8重量%以上では、可塑性グラウト材の流動性が悪化し(いわゆる「固い」状態となり)、混合の際に練り混ぜることが困難になり、可塑性グラウト材のポンプ圧送も難しくなることが分かった。そして、練り混ぜやポンプ圧送が困難になると、可塑性グラウト材による施工自体が困難になる。そのため、ベントナイト含有量は、セメント重量に対して8重量%未満にすることが好ましい。
また、図や表では示されていない実験(発明者による実験)では、炭酸ナトリウム添加量が1.0重量%より多く添加してもフロー値は小さくならず、添加の効果が収束してしまうことが分かった。そのため、炭酸ナトリウムの含有量は1.0重量%以下であることが好ましい。
【0037】
[実験例2]
実験例2では、炭酸ナトリウムの含有量をセメント重量に対して0重量%~0.2重量%の範囲で変動し、高分子系可塑剤をセメント重量に対して0.05重量%含有した複数種類の可塑性グラウト材の試料のフロー値(mm)の計測を行った。それと共に、当該複数種類の試料により供試体を作成して一軸圧縮強度試験を行い、一軸圧縮強度σ7、σ28を計測した。
一軸圧縮強度の計測、フロー値の計測手法は、実験例1と同様である。
実験例2では、結合材(B)はセメントのみとし、シリカフューム(SF)は含まない。W/Bは50%である。
【0038】
実験例2における、フロー値の計測結果は下表2及び図7に示されている。表2において、左から2列目はグラウト材に添加した炭酸ナトリウムをセメント重量に対する重量%で示している。そして右側から1列目は、左から2列目で示す炭酸ナトリウム含有量のグラウト材に(セメント重量に対して)0.05重量%の高分子可塑剤を添加した場合のフロー値(mm)をしめしている。
実験例2において、炭酸ナトリウム含有量が0.1重量%の場合における一軸圧縮強度試験の結果が表3に示されている。換言すれば、実験例2において、炭酸ナトリウム含有量0.1重量%の場合の一軸圧縮強度σ7、σ28が、表3の試料No19において表示されている。
【0039】
表2
【0040】
表1、図1に示すW/Bが50%でシリカフュームが0重量%の場合において、炭酸ナトリウム含有量が0重量%の場合、0.1重量%の場合、炭酸ナトリウムが0.2重量%であって、ベントナイトが0重量%、0.5重量%の場合は、フロー値が大きく、80~155mmの範囲から外れてしまう。それに対して、実験例2の結果を示す表2或いは図7によれば、W/Bが50%でシリカフュームが0重量%でも、高分子系可塑剤0.05重量%を添加することにより、炭酸ナトリウムが0.05重量%、0.1重量%、0.15重量%、0.2重量%であっても、フロー値が80~155mmの範囲内になることが明らかになった。
後述する実験例3の結果を示す表3における試料No19で示されている様に、炭酸ナトリウムが0.1重量%の場合に、一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(18N/mm:28日経過後の一軸圧縮強度σ28)を得ることが出来る。また、発明者による図示しない実験によれば、実験例2における炭酸ナトリウムが0.05重量%、0.15重量%、0.2重量%の組成の試料で作成した供試体を用いて一軸圧縮強度を計測すると、一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度以上(σ28≧18N/mm)であることが分かった。
【0041】
表2、図7には示されていないが、発明者の実験によると、高分子可塑剤の含有量がセメント重量に対して0.3重量%以上では、可塑性グラウト材の流動性が悪化し(いわゆる「固い」状態となり)、混合の際に練り混ぜることが困難になり、また、可塑性グラウト材のポンプ圧送も難しくなることが判明した。
そのため高分子可塑剤含有量は、セメント重量に対して0.3重量%未満にするべきである。
【0042】
[実験例3]
表1-1~表1-6において、フロー値にハッチングを付して示す組成の試料により供試体を作成し、一軸圧縮強度(σ7、σ28)を計測した。上述した様に、実験例3において結合材(B、セメント、セメントとシリカヒュームとの混合物)に対する水Wの比率(W/B)は、50%(試料No.1~No.3)、55%(試料No.4~No.9)、60%(試料No.10~No.15)、65%(試料No.16~No.18)の様に変化させた。その際に、結合材BにおけるシリカフュームSFの含有量は、0%(試料No.1~No.6)、5%(試料No.7~No.12)、10%(試料No.13~No.18)の様に変化させた試料により供試体を作成した。
炭酸ナトリウム含有量は0.1重量%(試料No.19)、0.3重量%(試料No.2、3、5~9、11~15、17、18)、0.4重量%(試料No.1、4、10、16)と変化させ、ベントナイト含有量を0重量%(試料No.1、4、7、10、13、16、19)、1重量%(試料No.2、5、8、11、14、17)、2重量%(試料No.3、6、9、12、15、18)と変化させた。そして上述した様に、炭酸カルシウム含有量が0.1重量%の場合(試料No.19)のみ高分子凝集剤を0.05重量%含有した試料により供試体を作成した。
ここで、炭酸カルシウム含有量が0.1重量%で、高分子凝集剤を0.05重量%含有して試料を作成して行った実験(試料N0.19)が実験例2である。換言すれば、実験例2で用いられた試料の内の一種類で作成された供試体を用いた一軸圧縮強度試験結果が下表3の試料No19の一軸圧縮強度として示されている。
実験例3の結果を下表3で示す。
【0043】
表3
【0044】
表3において、「SF」はシリカフュームを示し、「炭酸Na」は炭酸ナトリウムを示し、「高分子」は高分子系可塑剤を示している。炭酸ナトリウム、高分子系可塑剤、ベントナイトの組成はセメント重量に対する重量%である。
なお実験例3では、混合(注入)後7日経過後の一軸圧縮強度σ7についても計測したが、可塑性グラウト材料の強度として重要なのは28日経過後の一軸圧縮強度σ28である。
表3で示す組成の試料であれば、W/Bの値、シリカフューム(SF)の含有量に拘わらず、高分子系可塑剤、ベントナイトを包含していなくとも、フロー値が所定範囲の数値(80~155mm)となり、一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(σ28≧18N/mm)にすることが出来る。換言すれば、表3の試料No1~No18であれば、フロー値は80~155mmであり、σ28は一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上(σ28≧18N/mm)である。
表3で示す結果から、第1実施形態に係る組成であれば、所定のフロー値と強度を併せ持つグラウト材を得られることが明らかになった。
【0045】
表3には、W/Bが50%で且つSFが0%、W/Bが55%で且つSFが0%、W/Bが60%で且つSFが5%、W/Bが65%で且つSFが10%の各々について、作成された供試体の一軸圧縮強度は記載されていない。しかし、発明者は、表3には示されていない上述の配合の試料で作成された供試体を用いて一軸圧縮強度試験を行い、28日経過後の一軸圧縮強度σ28を計測して、一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(18N/mm以上)であることを確認している。
表3において、試料No7と試料No8におけるσ28におけるベントナイト重量0%の場合の一軸圧縮強度(σ28)がベントナイト重量1%の場合の一軸圧縮強度(σ28)に比較すると、ベントナイト重量0%の場合の一軸圧縮強度(σ28)は、ベントナイト重量1%の場合の一軸圧縮強度(σ28)に比較して低下していない。また、試料No13と試料No14におけるベントナイト重量0%の場合の一軸圧縮強度(σ28)がベントナイト重量1%の場合の一軸圧縮強度(σ28)σ28を比較すれば、ベントナイト重量0%の場合の一軸圧縮強度(σ28)は、ベントナイト重量1%の場合の一軸圧縮強度(σ28)に比較して低下していない。そのため、表3に示されていない配合においても、σ28は一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(σ28≧18N/mm)であると推定することが出来る。係る推定は、表3には示されていない発明者の上記実験結果と適合している。
【0046】
表3に示す結果から、同一のW/Bで、同一のSFの含有量で、同一の炭酸ナトリウムの含有量であれば、ベントナイトの含有量は、製造(混合、注入)後7日経過後の一軸圧縮強度σ7と、28日経過後の一軸圧縮強度σ28には影響せず、グラウト材の強度には影響しないことが明らかになった。
表3において、例えば、試料No10の一軸圧縮強度σ7、σ28と、試料No11の一軸圧縮強度σ7、σ28は同じなので、炭酸ナトリウム含有量は可塑性グラウト材の強度に一義的な影響を及ぼす訳ではないことが分かった。
【0047】
図や表では明示されていないが、発明者が別途行った実験では、シリカフュームSFの含有量は、フロー値にはさほど影響しないことが判明した。
また、シリカフュームSFの含有量は一軸圧縮強度σ7、σ28にも大きく影響しないことが確認された。
ここで、試料No5と試料No8との一軸圧縮強度σ7、σ28を比較すると大きな差異が無いこと、
試料No6と試料No9との一軸圧縮強度σ7、σ28を比較すると大きな差異が無いこと、
試料No11と試料No14との一軸圧縮強度σ7、σ28を比較すると大きな差異が無いこと、
試料No12と試料No15との一軸圧縮強度σ7、σ28を比較すると大きな差異が無いことから、シリカフュームSFの含有量は一軸圧縮強度σ7、σ28にはさほど影響せず、グラウト材の強度に大きく影響しないことが推定され、係る推定は上述した発明者の実験の結果と一致する。
【0048】
図表では示されていないが、更に別途行われた発明者の実験では、シリカフュームSFに代えてフライアッシュを用いても表3で示す試料No.1~18のフロー値と一軸圧縮強度σ7、σ28は同様な数値となり、表3で示す組成のシリカフュームをフライアッシュに変更しても、可塑性グラウト材として必要なフロー値(80~155mm)と、一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(σ28≧18N/mm)が獲得できることが確認されている。
【0049】
実験例1~3から、表3に示される試料No1~No18の組成を有する可塑性グラウト材は、可塑性グラウト材の施工に際して定められたフロー値の基準である80~155mmを満たし、且つ、可塑性グラウト材として要求される強度以上であり且つ一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(18N/mm以上:28日経過後の一軸圧縮強度σ28)を得られることが確認された。
また、図表では示されてない発明者の実験により、表1-1~表1-6において、フロー値が80~155mmとなる組成であれば、可塑性グラウト材として要求される強度(σ28≧1.5N/mm)は勿論、一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(σ28≧18N/mm)となることが確認された。
【0050】
第1実施形態~第3実施形態の可塑性グラウト材は、水溶性セルロースを含有することが可能である。水溶性セルロースとして、例えばセルロース系水溶性高分子材料を用いることが出来る。
水溶性セルロースを可塑性グラウト材に含有させることにより、水中分離抵抗性(水中において結合材の粒子の拡散を抑制する性状である水中不分離性)を獲得することが出来、同時にブリージング率を(例えば1%以下に)抑制することが出来る。また、水溶性セルロースは、材料の収縮を小さくする性質を有している。そのため、水溶性セルロースを添加することが好ましい。
【0051】
[実験例4]
実験例4では、水溶性セルロースの含有量について調べた。
実験例4では、表3で示す組成(試料1~19)について、水溶性セルロースを水の重量に対して0.2重量%以上添加するべきことが確認された。
発明者の実験では、水溶性セルロース含有量はグラウト材のフロー値、一軸圧縮強度に及ぼす影響は小さいが、水溶性セルロース含有量が水に対して0.2重量%未満では、必要な水中分離抵抗性が確保できないことが確認された。
一方、水溶性セルロースの含有量が、水に対して1%よりも多いと、可塑性グラウト材の粘性が高くなり過ぎて、練り混ぜ及びポンプ圧送に支障をきたすことが判明した。
実験例4では、水溶性セルロースの含有量については、水重量に対して0.25重量%が最適であった。
【0052】
第1実施形態~第3実施形態の可塑性グラウト材は、高性能AE減水剤を含有している。
高性能AE減水剤はグラウト材に必要な流動性を確保するために添加する薬剤であり、高性能AE減水剤を添加すると施工性が向上する。
可塑性グラウト材を製造した際に、高性能AE減水剤を含有していない場合には硬化が早くなり、流動性の保持時間が短くなる。そのため、高性能AE減水剤の添加量が少ないと、可塑性グラウト材は注入前に硬化してしまう恐れがある。それに対して、グラウト材に高性能AE減水剤は添加することにより、硬化を遅延させると同時に流動性を向上させることが出来、施工性が向上する。
【0053】
[実験例5]
実験例5では、表3で示す組成(試料1~19)について、高性能AE減水剤の含有量について調べた。
発明者の実験では、高性能AE減水剤の含有量はグラウト材のフロー値、一軸圧縮強度に及ぼす影響は小さいが、高性能AE減水剤の含有量はセメント重量に対して、0.2重量%~2重量%とするべきであり、特に0.5重量%とするのが好ましいことが分かった。
実験例5において、高性能AE減水剤の含有量が0.2重量%未満では可塑性グラウト材を製造してから注入に必要な時間が経過する以前に硬化してしまう弊害があることが判明した。一方、高性能AE減水剤の含有量が2重量%を超えると、含有量を増加しても硬化時間の遅延効果が発揮されない状態になってしまう。また、グラウト材の硬化遅延による各種弊害が生じることが判明した。
【0054】
第1実施形態~第3実施形態に係る可塑性グラウト材は、フロー値が適切な範囲(80~155mm)となり、可塑性グラウト材として要求される強度(σ28≧1.5N/mm)は勿論、一般的なコンクリート構造物に要求される強度以上の強度(σ28≧18N/mm)を得られる。そのため、空洞・空隙充填の用途に加えて、高強度が求められる工事においても使用することが出来る。
実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7