(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054974
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】加圧分析用構造体、X線回折装置及び加圧分析システム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20025 20180101AFI20220331BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20220331BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220331BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220331BHJP
H01M 10/0585 20100101ALN20220331BHJP
【FI】
G01N23/20025
H01M10/48 A
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0585
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162284
(22)【出願日】2020-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100101867
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 寿武
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸一郎
【テーマコード(参考)】
2G001
5H029
5H030
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001JA14
2G001KA08
2G001LA11
2G001PA06
2G001PA07
2G001QA02
5H029AJ00
5H029AM12
5H029BJ03
5H029BJ12
5H029CJ03
5H029CJ11
5H030AS00
5H030FF51
(57)【要約】
【課題】 大きな圧力で全固体電池S(試料)を均一に加圧した状態での分析評価を実現する。
【解決手段】 全固体電池Sを収容する試料収容ユニット10と、全固体電池Sに圧力を作用させるための加圧機構を含む加圧ユニット30とを備えている。全固体電池Sは、試料収容ユニット10の内部で、圧受け部材21と押圧部材22に挟まれた状態で加圧される。また、加圧ユニット30からの圧力の作用方向に直交する外径方向にX線窓14を設けてあり、このX線窓14を通して反射式のX線回折測定を実行することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収容して配置するための試料室が内部に形成された試料収容ユニットと、前記試料収容ユニットに装着され、前記試料室内の試料に圧力を作用させるための加圧機構を含む加圧ユニットと、を備え、
前記試料収容ユニットは、前記加圧ユニットからの圧力を前記試料室内の試料を挟む対向位置で受ける圧受け部と、前記加圧ユニットからの圧力の作用方向と交差する方向に設けたX線窓と、を有し、
X線を前記X線窓から取り込んで前記試料室内の試料に照射するとともに、試料から反射してくる回折X線を当該X線窓から外部へ出射する構成としたことを特徴とする加圧分析用構造体。
【請求項2】
前記試料収容ユニットは、
一端面が開口する有底筒状の収容ユニット本体を備え、前記収容ユニット本体の内部に前記試料室が形成され、前記収容ユニット本体の開口する一端面側から前記試料室内の試料に向けて前記加圧ユニットの圧力を受けるとともに、当該開口する一端面と対向する内底部に前記圧受け部が形成してあり、
さらに、前記収容ユニット本体の外周面に向けて前記X線窓を設け、且つX線を透過する材料で形成した密閉部材により当該X線窓を閉塞したことを特徴とする請求項1に記載の加圧分析用構造体。
【請求項3】
前記収容ユニット本体の外周面から内部に貫通する段付きの切欠き溝を形成するとともに、当該切欠き溝の段部から外周面までの空間の開口幅を、当該段部から内部までの空間の開口幅よりも広く形成し、当該段部に前記X線窓を設けたことを特徴とする請求項2に記載の加圧分析用構造体。
【請求項4】
前記試料収容ユニットは、前記試料室内に配置された試料の温度を調整するための温度調整部材と、当該試料の温度を測定するための温度測定部材と、を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の加圧分析用構造体。
【請求項5】
複数の要素を積層して構成される試料を分析対象とする加圧分析用構造体であって、
前記試料収容ユニットの内部に嵌め込んで装着する試料ホルダを備え、
前記試料ホルダには、前記試料を収容するとともに、当該試料における複数の要素の積層状態が観察できる外面を前記X線窓に対して露出せしめる切欠き部が形成してあることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の加圧分析用構造体。
【請求項6】
一方の端面が前記試料配置部に配置した試料の一端面に接触し、かつ他方の端面が前記圧受け部に接触する圧受け部材を、前記試料室内に有することを特徴とする請求項5に記載の加圧分析用構造体。
【請求項7】
電解質層の両端側に電極活物質層が配置され、さらに各電極活物質層の外側にそれぞれ集電体層が配置された全固体電池を前記試料とする加圧分析用構造体であって、
前記一方の集電体層と電気的に導通する第1電極端子と、前記他方の集電体層と電気的に導通する第2電極端子と、を備えたことを特徴とする請求項5又は6に記載の加圧分析用構造体。
【請求項8】
前記第1電極端子は、前記試料収容ユニットの外部に設けてあり、
前記試料収容ユニットは、導電性を有する構成要素を含み、当該導電性を有する構成要素を介して前記一方の集電体層と前記第1電極端子とが電気的に導通することを特徴とする請求項7に記載の加圧分析用構造体。
【請求項9】
前記加圧機構は、導電性を有する金属部材で構成され、当該加圧機構を介して前記他方の集電体層と前記第2電極端子とが電気的に導通することを特徴とする請求項7又は8に記載の加圧分析用構造体。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の加圧分析用構造体と、当該加圧分析用構造体を配置するための試料ステージと、前記試料室内の試料に向けてX線を照射するためのX線源と、当該試料から反射してきた回折X線を検出するX線検出器と、を含むX線回折装置であって、
前記試料ステージは、前記試料室内の試料の中心軸および同中心軸に直交する軸を含む測定基準平面が水平配置となるように、前記加圧分析用構造体を支持する支持部と、前記測定基準平面が水平配置された状態で、前記試料室内の試料を前記X線源からのX線の照射位置へ位置決めするための移動調整機構と、を備えたことを特徴とするX線回折装置。
【請求項11】
前記支持部は、前記気密ケースユニットを支持する第1支持部と、前記試料収容ユニットを支持する第2支持部とを有し、これら第1,第2支持部により前記試料室内の試料の中心軸を水平配置し、かつ前記第2支持部により当該試料の中心軸と直交する軸を水平配置する構成であることを特徴とする請求項10に記載のX線回折装置。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のX線回折装置と、前記加圧分析用構造体を収納して大気から遮断する気密装置と、前記加圧分析用構造体に収容した試料の圧力及び電気化学特性を前記気密装置の外部で計測するための計測機器と、を備えたことを特徴とする加圧分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加圧下にある試料の分析評価に用いられ、特に全固体電池の分析評価に好適な加圧分析用構造体、X線回折装置及び加圧分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、電解質層の両端側に電極活物質層を有する構成となっており、充放電サイクル時に容量劣化や抵抗上昇を引き起こす。例えば、全固体リチウムイオン電池ではリチウムイオン(Li)の挿入・脱離に伴い、結晶構造に変化を生じやすい。そのため、劣化機構の解明にあたって、充放電に伴う結晶構造の変化をX線回折測定により評価することが行われている。
特許文献1及び2には、X線回折測定による試料電池の評価に用いられる、従来の電池分析用構造体(加圧分析用構造体)が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されたX線測定用電池構造体は、電池要素(2)を負極側カバー(5a)と正極側カバー(5b)とで挟み込み、多くのナット(22)を使用してこれら各カバー(5a、5b)を締め付けて電池要素(2)を密封し、大気と遮断する構成を備えている。なお、ナット(22)による締め付け構造は、電池要素(2)の気密性を確保するためのものである(同文献1の明細書段落「0020」を参照)。
【0004】
また、特許文献2に開示された分析用セルは、第1部材(11)、第2部材(21)、第3部材(31)を含む筐体(10)を備えており、この筐体(10)内に試料電池(100)を収容して、X線回折測定により評価を行う構成を備えている。筐体(10)を構成する各部材(11,21,31)は、それら各部材に設けられた多数の貫通孔(12、22、32)にボルトを挿入し、ナットで締め付けることで組み立てられる(同文献2の明細書段落「0053」を参照)。
なお、カッコ内の符号は、各特許文献において、それぞれ各構成要素に付されていたものである(以下、同様)。
【0005】
さて、全固体電池では、電解質層に固体の電解質が用いられている。全固体電池の内部では、充放電に伴い、各要素となる電極活物質層、固体電解質層、導電材等が膨張収縮し、粒子間の空隙や固体電解質層と電極活物質層との界面の剥離、又は内部クラックなどの現象が生じやすく、これらの現象が生じた場合に電池として正常に機能しなくなってしまう。そこで、この種の全固体電池を試料電池として分析評価を実施する場合には、試料電池を均一な加圧状態で保持し、導電パスの確保や充放電に伴う膨張収縮を抑制する必要がある。
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1及び2に開示された従来の電池分析用構造体(分析用セル)は、いずれも試料電池を均一な加圧状態に保持して、導電パスの確保や充放電に伴う試料電池の膨張収縮を抑制できる構成を備えていない。
【0007】
ちなみに、特許文献1に開示されたナット(22)による締め付け構造は、電池要素(2)の気密性を確保するためのものであり、しかも弾性部材(4a,4b)が介在するため、ナット(22)を締め付けても、導電パスの確保や膨張収縮を抑制できる程の大きな圧力を試料電池に均一に作用させることができない。
【0008】
また、特許文献2には、押し棒で構成された加圧機構(46)が開示されているが、この加圧機構(46)は、試料電池の要素である電極活物質(112)、試料電極(110)及び窓部材(51)の一部を、筐体(10)の窓部(13)から突出させるためのものである(同文献2の明細書段落「0042」と
図3を参照)。
【0009】
このように電極活物質(112)、試料電極(110)及び窓部材(51)の一部を、筐体(10)の窓部(13)から突出させることで、電極活物質(112)と試料電極(110)の周囲を窓部材(51)により被覆し、試料電極(110)と窓部材(51)との間への電解液の侵入防止と、試料電池の密閉性向上が図られる(同文献2の明細書段落「0054」を参照)。
【0010】
しかしながら、同文献2の加圧機構(46)では、押し棒と対向する側に押し棒の押圧力を受ける部材が配置されてなく、窓部材(51)が引き延ばされながらその押圧力を受ける構造となっているので、かかる加圧機構(46)によっても、導電パスの確保や膨張収縮を抑制できる程の大きな圧力を試料電池へ均一に作用させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012-159311号公報
【特許文献2】特開2017-72530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、大きな圧力で試料を均一に加圧した状態での分析評価の実現を目的とする。なお、本発明は、全固体電池の分析に限定されず、各種の試料に対する加圧した状態での分析評価に適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る加圧分析用構造体は、試料を収容して配置するための試料室が内部に形成された試料収容ユニットと、試料収容ユニットに装着され、試料室内の試料に圧力を作用させるための加圧機構を含む加圧ユニットと、を備えている。試料収容ユニットは、加圧ユニットからの圧力を試料室内の試料を挟む対向位置で受ける圧受け部と、加圧ユニットからの圧力の作用方向と交差する方向に設けたX線窓と、を有している。そして、X線をX線窓から取り込んで試料室内の試料に照射するとともに、試料から反射してくる回折X線を当該X線窓から外部へ出射する構成としてある。これにより、X線窓を通して反射式のX線回折測定を実行することができる。
【0014】
かかる構成の本発明は、試料収容ユニットの内部に収容された試料を、加圧ユニットで加圧することができる。このとき、加圧ユニットからの圧力を、試料収容ユニットの圧受け部が試料室内の試料を挟む対向位置で受ける。したがって、十分に大きな圧力を試料に作用させることができる。しかも、圧受け部により圧力を受ける部位には、X線窓が設けられていないので、圧力が偏ることなく均一に試料を加圧することができる。
【0015】
ここで、試料収容ユニットは、一端面が開口する有底筒状の収容ユニット本体を備え、収容ユニット本体の内部に試料室が形成され、収容ユニット本体の開口する一端面側から試料室内の試料に向けて加圧ユニットの圧力を受けるとともに、当該開口する一端面と対向する内底部に圧受け部を形成した構成とすることができる。
さらに、収容ユニット本体の外周面に向けてX線窓を設け、且つX線を透過する材料で形成した密閉部材により当該X線窓を閉塞した構成とすることができる。
【0016】
また、収容ユニット本体の外周面から内部に貫通する段付きの切欠き溝を形成するとともに、当該切欠き溝の段部から外周面までの空間の開口幅を、当該段部から内部までの空間の開口幅よりも広く形成し、当該段部にX線窓を設けた構成とすることができる。
【0017】
また、試料収容ユニットは、試料室内に配置された試料の温度を調整するための温度調整部材と、当該試料の温度を測定するための温度測定部材と、を含む構成とすることもできる。このように構成することで、適宜の圧力及び温度条件下で試料を分析評価することができる。
【0018】
さらに、本発明に係る加圧分析用構造体は、軸方向に複数の要素を積層して構成される試料を分析対象として、次のように構成することもできる。
すなわち、試料収容ユニットの内部に嵌め込んで装着する試料ホルダを備え、試料ホルダには、試料を収容するとともに、当該試料における複数の要素の積層状態が観察できる外面をX線窓に対して露出せしめる切欠き部を形成する。
この構成によれば、試料における複数の要素を測定できる外面にX線を照射して、それら各要素を個別に、またはそれら各一括して分析評価することが可能となる。
【0019】
ここで、一方の端面が試料配置部に配置した試料の一端面に接触し、かつ他方の端面が圧受け部に接触する圧受け部材を、試料室内に有する構成とすることが好ましい。これにより、試料の外面をX線窓と対して露出させ、当該試料の外面にX線を照射することが可能となる。
【0020】
また、本発明に係る加圧分析用構造体は、電解質層の両端側に電極活物質層が配置され、さらに各電極活物質層の外側にそれぞれ集電体層が配置された全固体電池を試料とする場合は、次の構成を取り入れることが好ましい。
すなわち、一方の集電体層と電気的に導通する第1電極端子と、他方の集電体層と電気的に導通する第2電極端子と、を備えた構成とする。これにより、第1電極端子及び第2電極端子を介して、全固体電池を充放電することができる。
ここで、第1電極端子は、試料収容ユニットの外部に設けるとともに、試料収容ユニットは、導電性を有する構成要素を含み、当該導電性を有する構成要素を介して一方の集電体層と第1電極端子とを電気的に導通することができる。
また、加圧機構は、導電性を有する金属部材で構成し、当該加圧機構を介して他方の集電体層と第2電極端子とを電気的に導通することができる。
【0021】
次に、本発明に係るX線回折装置は、上述した構成の加圧分析用構造体と、当該加圧分析用構造体を配置するための試料ステージと、試料室内の試料に向けてX線を照射するためのX線源と、当該試料から反射してきた回折X線を検出するX線検出器と、を含んでいる。
さらに、試料ステージは、試料室内の試料の中心軸および同中心軸に直交する軸を含む測定基準平面が水平配置となるように、加圧分析用構造体を支持する支持部と、測定基準平面が水平配置された状態で、前記試料室内の試料を前記X線源からのX線の照射位置へ位置決めするための移動調整機構と、を備えた構成としてある。
【0022】
ここで、支持部は、気密ケースユニットを支持する第1支持部と、試料収容ユニットを支持する第2支持部とを有し、これら第1,第2支持部により試料室内の試料の中心軸を水平配置し、かつ第2支持部により当該試料の中心軸と直交する軸を水平配置する構成とすることができる。
【0023】
次に、本発明に係る加圧分析システムは、上述した構成のX線回折装置と、加圧分析用構造体を収納して大気から遮断する気密装置と、加圧分析用構造体に収容した試料の圧力及び電気化学特性を気密装置の外部で計測するための計測機器と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、大きな圧力で試料を均一に加圧した状態での分析評価を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る加圧分析用構造体の外観を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る加圧分析用構造体の全体構造を示す
図1のA-A線断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る加圧分析用構造体の分解斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る加圧分析用構造体を分解して示す
図1のA-A線断面図である。
【
図5】試料収容ユニットの構成を示す分解斜視図である。
【
図6】(a)(b)は圧受け部材及び押圧部材の外径寸法と試料ホルダの内径寸法を全固体電池の外径寸法に合わせる構成を示す正面断面図である。
【
図7】(a)(b)はX線窓の周囲の切欠き構造とその作用効果を模式的に示す断面図である。
【
図8】(a)(b)はそれぞれ全固体電池の外側面へのX線の照射方法を示す模式図である。
【
図9】本発明の実施形態に係るX線回折装置の外観を示す斜視図である。
【
図10】(a)は本発明の実施形態に係るX線回折装置の試料ステージに設けた支持台を示す斜視図、(b)は支持台により加圧分析用構造体を支持した状態を示す斜視図である。
【
図11】本発明の実施形態に係る加圧分析システムの全体構造を模式的に示す構成図である。
【
図12】(a)は温度調整・計測用セルを搭載した試料収容ユニットの外観を示す斜視図、(b)は同じくC-C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態では、分析対象となる試料を全固体電池とした場合の構成を示す。全固体電池は、電解質層の両端側に電極活物質層が配置され、さらに各電極活物質層の外側に集電体層が配置された構成となっている。
本実施形態で試料とする全固体電池は、円柱状に加工してあり、その軸方向に圧力を受けた状態で分析される。なお、試料となる全固体電池は、円柱状に限らず、ブロック形状など他の形状に加工されていてもよい。いずれの形状であっても、圧力の作用方向に構成要素の各層が積層され、それら各層を外面(具体的には、外側面又は外周面)から測定できるようにしてある。
【0027】
リチウムイオン電池等の従来の電池は、電解質層が液状の電解質が用いられていたが、近年開発が進む全固体電池では、電解質層に固体の電解質が用いられている。全固体電池の内部では、充放電に伴う膨張収縮により、粒子間の空隙や固体電解質層と電極活物質層との界面の剥離、または内部クラックなどが生じやすく、これらの現象が生じた場合に電池として正常に機能をしなくなってしまう。そこで、この種の全固体電池を試料として分析評価を実施する場合には、全固体電池を加圧状態で保持し、充放電に伴う導電パスの確保や、膨張収縮を抑制する必要がある。
【0028】
また、全固体電池を構成する各要素は、水分や空気に反応する材料である。そこで、一般に、加圧分析用構造体を組み立てる作業は、高純度のアルゴンガス(不活性ガス)雰囲気下にしたグローブボックス(GB)の内部空間などで行われる。
そして、加圧分析用構造体の内部に密閉状態で収容した全固体電池に対し、大気中でX線回折装置を用いて、分析評価が実行される。ここで、X線回折装置は、汎用性が高い反射型X線回折装置を用いて、分析評価できることが好ましい。
以下に説明する本実施形態に係る加圧分析用構造体は、上述したこれらの条件をすべて満足する構成となっている。
【0029】
まず、本実施形態に係る加圧分析用構造体について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本実施形態に係る加圧分析用構造体の外観を示す斜視図、
図2は同じく加圧分析用構造体の全体構造を示す
図1のA-A線断面図である。さらに、
図3は本実施形態に係る加圧分析用構造体の分解斜視図、
図4は同じく
図1のA-A線分解断面図である。
【0030】
加圧分析用構造体は、
図3及び
図4に示すように、試料収容ユニット10、加圧ユニット30、気密ケースユニット40の各ユニットを構成要素に含んでいる。加圧ユニット30は、試料収容ユニット10の開口する一端面側(図の下端面側)に装着される。
分析対象となる全固体電池S(試料)は、試料収容ユニット10内に収容され、密閉状態で大気から遮断される。
【0031】
図5は試料収容ユニットの構成を示す分解斜視図である。
図2乃至
図5に示すように、試料収容ユニット10は、収容ユニット本体11、圧受け部材21、押圧部材22、試料ホルダ23の各構成要素を含んでいる。収容ユニット本体11は、一端が開口し、他端が閉塞した有底円筒状に形成してある。収容ユニット本体11の内部は、開口する一端面から中心軸に沿って横断面円形状の中空部となっている。この中空部は、全固体電池Sを収容して配置するため試料室を形成する。この中空部の内底部(すなわち、他端の内壁部)は、後述する加圧ユニット30からの圧力を受ける圧受け部12を構成する。この圧受け部12は凹溝により形成してあり、この圧受け部12(凹溝)に圧受け部材21が挿脱自在に嵌め込まれる。
【0032】
押圧部材22は、後述する加圧ユニット30からの圧力を全固体電池Sに作用させるための圧力伝達手段としての機能を有している。この押圧部材22は、後述する加圧ユニット30の加圧機構を構成する要素として扱うこともできる。
【0033】
試料ホルダ23は、円筒形状に形成してあり、収容ユニット本体11の中空部に嵌め込んだ状態で、締結具を用いて収容ユニット本体11に装着される。試料ホルダ23の内部には、
図4に示すように、中心軸に沿って伸びる横断面円形状の中空部23aが形成してあり、この中空部23aの内壁が全固体電池Sを収容ユニット本体11の内部に収容して配置する際の案内経路を構成する。さらに、試料ホルダ23の中空部23a内において、後述するX線窓14と対向する位置が試料配置部23bとなっており、全固体電池Sはこの試料配置部23bに配置される。
【0034】
図2に示すように、円柱状の全固体電池Sは、試料ホルダ23の内壁に沿ってその中空部23a内に挿入され、その内部で圧受け部材21と押圧部材22とに挟まれて試料配置部23bに配置される。そして、押圧部材22を介して加圧ユニット30からの圧力が全固体電池Sに作用する。圧受け部材21は、押圧部材22の対向位置でこの圧力を受け止める。すなわち、全固体電池Sは、圧受け部材21と押圧部材22に挟まれた状態で加圧される。この構成により、大きな圧力を全固体電池Sに作用させることができる。
【0035】
ここで、圧受け部材21とこれを内底部で支持する収容ユニット本体11は、加圧ユニット30からの圧力に十分耐え得る硬度と剛性を備えた金属材料で製作してあり、全固体電池Sを偏りなく均一に加圧できる構造となっている。同様に、押圧部材22も加圧ユニット30からの圧力に十分耐え得る硬度と剛性を備えた金属材料で製作してある。
また、収容ユニット本体11、圧受け部材21、押圧部材22を形成する金属材料は、全固体電池Sを充放電するために導電性を有するものを選定する。なお、全固体電池Sを充放電する構造については後述する。
一方、試料ホルダ23は、全固体電池Sを構成する各要素間の短絡を防止するために絶縁材料で構成してある。
【0036】
さらに、圧受け部材21は、段付きの円柱形状に加工され、その一端面が全固体電池Sの一端面と面接触する平坦な圧受け面を形成している。また、押圧部材22は円柱状に加工され、その一端面が全固体電池Sの他端面と面接触する平坦な押圧面を形成している。
これにより、圧受け部材21と押圧部材22が、全固体電池Sの両端面にそれぞれ面接触して、いっそう偏りなく均一に全固体電池Sを加圧することができる。
【0037】
また、圧受け部材21、押圧部材22、試料ホルダ23は、円柱状に加工された全固体電池Sの外径寸法に合わせた外径寸法や内径寸法に製作してある。試料ホルダ23の内径を全固体電池Sの外径寸法に合わせることで、全固体電池Sをずれることなく(偏心することなく)試料配置部23bへ配置することができる。
【0038】
外形寸法の異なる二種類の全固体電池Sを分析対象とする場合は、圧受け部材21を段付きの円柱形状とし、一方の端面の外径寸法を一方の全固体電池Sの外径寸法に合わせるとともに、他方の端面の外径寸法を他方の全固体電池Sの外径寸法に合わせて形成することが好ましい。この圧受け部材21は、試料収容ユニット10の内壁に形成した凹溝の圧受け部12は、圧受け部材21の全長よりも浅い深さに形成し、いずれの端面を外向きにしても当該外側の端面が圧受け部12の凹溝から露出して嵌め込むことができる構成とする。
【0039】
また、圧受け部材21は、分析対象となる全固体電池Sの長さ寸法に合わせて、全固体電池Sの全体が後述するX線窓14に対向して試料配置部23bに配置されるように、長さ寸法を調整してある。圧受け部材21にいずれの端面21a又は21bを全固体電池Sに接触させても、全固体電池Sは試料配置部23bに配置される。
【0040】
このように構成すれば、圧受け部材21の向きを変えて圧受け部12の凹溝に嵌め込むだけで、外径寸法の異なる二種類の全固体電池Sを、1つの圧受け部材21により支持して試料配置部23bに配置することが可能となる。
【0041】
例えば、
図6(a)に示すように、外径寸法の大きい一つ目の試料電池Sに対しては、その外径寸法D1に合わせて、圧受け部材21の一方の端面21aの外径を加工するとともに、当該外径寸法D1に合わせて外径を加工した押圧部材22と、当該外径寸法D1に合わせて中空部23aの内径を加工した試料ホルダ23とを用意すればよい。
また、
図6(b)に示すように、外径寸法の小さい二つ目の試料電池Sに対しては、その外径寸法D2に合わせて、圧受け部材21の他方の端面21bの外径を加工するとともに、当該外径寸法D2に合わせて外径を加工した押圧部材22と、当該外径寸法D2に合わせて中空部23aの内径を加工した試料ホルダ23とを用意すればよい。
なお、試料ホルダ23の中空部23aの内径寸法は、試料電池Sが滑らかに挿入できるように寸法公差を考慮すべきことは勿論である。
【0042】
なお、複数の異なる厚みの圧受け部材21を用意しておき、全個体電池Sの厚みや、その測定箇所に応じて、適宜付け替えて使用する構成としてもよい。
【0043】
収容ユニット本体11には、
図1乃至
図5に示すように、全固体電池Sへの圧力の作用方向(全固体電池Sの軸方向)と交差する方向(具体的には、直交する径方向)に、X線窓14が設けてある。具体的には、収容ユニット本体11には、外周面から内部に貫通する段付きの切欠き溝13が形成してある。この切欠き溝13は、段部から外周面までの幅を、段部から内部までの幅よりも広く形成してある。そして、切欠き溝13内の段部にX線窓14を設けた構成となっている。
【0044】
このように構成することで、試料電池SとX線窓14の距離を短くすることができ、全固体電池SからのX線回折線をX線検出器で効率的に検出し、高強度測定が可能になる。すなわち、X線回折測定に際して、全固体電池Sの外側面(外周面)に向けてX線が入射される。このとき、全固体電池SとX線窓14との間の距離の関係により、測定で得られるX線の強度に影響が生じる。
例えば、
図7(a)に示すように、全固体電池Sの外側面(外周面)とX線窓14との間の距離が短い場合は、例えば全固体電池Sの所定の点から反射してきた回折X線を取り出し可能な角度Aを大きく確保でき、よって全固体電池Sから反射してきた回折X線をX線検出器102で効率的に検出し、高強度測定が可能になる。
一方、
図7(b)に示すように、全固体電池Sの外側面(外周面)とX線窓14との間の距離が長い場合は、全固体電池Sの同じ所定の点から反射してきた回折X線を取り出し可能な角度Aが小さくなってしまい、X線検出器102に入射する回折X線の強度が低下する。
ここで、
図7(a)(b)は、
図1におけるB-B線断面を模式的に描いた図であり、試料ホルダ23等の構成要素は省略してある。また、図中の回折X線は、全固体電池Sの外側面(外周面)におけるX線の照射点から反射してきた回折X線を模式的に示してしている。
【0045】
また、切欠き溝13内の段部にX線窓14を設けて密閉部材15を配置することで、オペレーターが作業時に誤って密閉部材15に触れてしまう不都合を回避し、密閉部材15の破損を有効に防止することができる。
さらに、切欠き溝13内の段部の面を利用して密閉部材15を貼り付けることで、X線窓14を容易且つ確実に閉塞することができ、組立て作業の容易化を図ることができる。
【0046】
既述した試料ホルダ23において、この切欠き溝13(すなわち、X線窓14)と対向する部位には、
図5に示すように中空部23aに至る切欠き部23cを形成してあり、中空部23aに設定した試料配置部23bがこの切欠き部23cを通してX線窓14と対向するようにしてある。これにより、試料配置部23bに配置した全固体電池Sの外側面(外周面)をX線窓14に対して露出させることができる。
【0047】
ここで、X線窓14は、X線回折装置によるX線回折測定の実施を前提として、外部に設けたX線源からのX線を取り込み全固体電池Sに照射するとともに、全固体電池Sから反射してくる回折X線を、外部に設けたX線検出器に向けて出射することができるように、広い角度範囲に延在して形成してある。これにより、反射式のX線回折測定を実行することが可能となる。
なお、X線窓14は、X線源からのX線を取り込み全固体電池Sに照射するためのX線窓と、全固体電池Sから反射してくる回折X線を、外部に設けたX線検出器に向けて出射するためのX線窓とを、別々に設けてもよい。
【0048】
また、X線窓14は、密閉部材15により閉塞してある。密閉部材15は、X線を透過率が高く、空気等の気体の透過が小さい材料(例えば、ベリリウム)で形成してある。この密閉部材15により収容ユニット本体11の内部を気密状態とし、X線窓14からの大気の侵入を防止することができる。
【0049】
X線窓14は、試料配置部23bに配置された全固体電池Sの外側面(外周面)に対向して設けてあるので、全固体電池Sの外側面(外周面)に向けてX線が照射される。ここで、全固体電池Sの外側面(外周面)は、全固体電池Sを構成する複数の要素の積層状態を観察できる外面である。よって、X線窓14を通して、当該複数の要素の積層状態を観察できる外面にX線を照射することができる。
これにより、
図8(a)に示すように、全固体電池Sを構成する複数の要素(例えば、電解質層S1、電極活物質層S2、集電体層S3)の全体にX線を照射する光学条件で、これら各要素を一括して分析評価することが可能となる。また、
図8(b)に示すように、全固体電池Sを構成する一部の要素にのみX線を照射する光学条件で、当該一部の要素を個別に分析評価することもできる。
【0050】
ここで、既述した圧受け部材21は、X線窓14との関係において、全固体電池Sの全体(厚さ方向の全体)がX線窓14と対向して配置されるように、少なくとも圧受け部材21の端面がX線窓14と対向する位置に突き出して配置することが好ましい。また、全固体電池Sの厚さ方向の中心部が、X線窓14の中心と対向する位置に配置されるよう圧受け部材21の厚さ寸法を調整することが好ましい。このように調整することで、全固体電池Sから反射してくる回折X線の取出し角度を最大化することができる。
【0051】
図2乃至
図4に戻り、加圧ユニット30は、試料収容ユニット10の中空部内(詳しくは、試料ホルダ23の中空部23a内)に収容された全固体電池Sに圧力を作用させる機能を有している。
この加圧ユニット30は、円筒状の胴体部を有している。胴体部は、外側胴体部30Aと内側胴体部30Bとで構成してあり、円筒状の外側胴体部30Aの内部(中空部内)に、同じく円筒状の内側胴体部30Bを嵌め込み、ボルト等の締結具50によって固定することで一体化してある(
図4参照)。
【0052】
ここで、外側胴体部30Aは、電気的な絶縁性を有し、かつ加圧力の反作用に耐え得る強度と気密性を有した合成樹脂材料(例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリエスチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メタクル・スチレン共重合体(MS)、ポリカーボネイト(PC)、三フッ化塩化エチレン(PCTFE)、四フッ化エチレン(PTFE)などで形成してある。一方、内側胴体部30Bは、加圧力の反作用に耐え得る強度を有した金属材料で形成してある。
【0053】
内側胴体部30Bの内周面は、
図4に示すように段付き形状に形成してあり、内径の小さい後部の内周面にナット部31が形成してある。このナット部31には、一本のボルト部材32が螺合する。ボルト部材32は、試料収容ユニット10の中空部内に収容された全固体電池Sに圧力を作用させるための加圧機構を構成する。また、このボルト部材32は、後述するように全固体電池Sへの充電及び放電を行うための導通経路を形成する。そのため、全固体電池Sに高い圧力を加圧する強度を有し、かつ導電性を有した金属材料で形成してある。
【0054】
内側胴体部30Bにおける内径の大きな前部の内周面には、圧力伝達部材33が摺動自在に嵌め込んであり、この圧力伝達部材33に圧力測定手段としてのロードセル34が組み込んである。ロードセル34は、ボルト部材32のねじ込みによって生じた圧力を計測して、その計測値を示す電気信号を出力棒34a(出力部)に経由して、図示しない圧力表示器に出力する。このようにして圧力を計測することで、全固体電池Sに作用する圧力と、全固体電池Sの充放電に伴う結晶構造の変化との相関関係を分析・評価することが可能となる。
この圧力伝達部材33とロードセル34も、後述するように全固体電池Sへの充電及び放電を行うための導通経路を形成する。そのため、導電性を有した金属材料で形成してある。
なお、圧力測定手段としては、ロードセルに限定されるものではなく、例えば、ロードセルの代わりにトルクレンチを用いて、ボルト部材32に作用するトルクから圧力を求めることもできる。
【0055】
図2に示すように、加圧ユニット30は、試料収容ユニット10の一端面側(図の下端面側)に装着する。そして、試料収容ユニット10の中空部内(詳しくは、試料ホルダ23の中空部23a内)には、円柱状に形成された押圧部材22を挿入する。
この押圧部材22は、ロードセル34と全固体電池Sの間に介在し、ボルト部材32からの押圧力をもって全固体電池Sを圧受け部材21の方向へ押圧する機能を有している。すなわち、ボルト部材32のねじ込み操作に伴い、圧力伝達部材33、ロードセル34及び押圧部材22を介して、全固体電池Sに押圧力が作用して、全固体電池Sが圧受け部材21に押し付けられる。
これにより、全固体電池Sを加圧することができる。その加圧値は、圧力表示器(図示せず)の表示を参照しながら、ボルト部材32のねじ込み量を調整することで、任意に設定することができる。
【0056】
ここで、押圧部材22も、後述するように全固体電池Sへの充電及び放電を行うための導通経路を形成する。そのため、既述したように導電性を有した金属材料で形成してある。
【0057】
図2乃至
図4に示すように、気密ケースユニット40は、有底円筒状に形成してあり、開口する一端面側(図の上端面側)が、加圧ユニット30の他端面側(図の下端面側)に装着される。このように、加圧ユニット30の他端面側に気密ケースユニット40を装着することで、当該他端面側の周囲が、気密ケースユニット40により密閉されて大気と遮断される。
【0058】
加圧ユニット30に設けたボルト部材32の頭部は、同ユニット30の他端面側に露出しており、気密ケースユニット40の中空部内に配置される。気密ケースユニット40の中空部内は密閉空間となっているので、ボルト部材32とナット部31が噛み合う部分の僅かな隙間を経由しての、試料収容ユニット10内への空気の侵入を阻止することができる。
【0059】
気密ケースユニット40は、電気的な絶縁性を有する合成樹脂材料(例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリエスチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メタクル・スチレン共重合体(MS)、ポリカーボネイト(PC)、三フッ化塩化エチレン(PCTFE)、四フッ化エチレン(PTFE)などで形成してある。
【0060】
さて、上述した試料収容ユニット10の開口する一端面側(図の下端面側)には雄ねじ部16が設けてあり、一方、この一端面側に装着される加圧ユニット30の一端面側(図の上端面側)には雌ねじ部35が設けてある。そして、これら雄ねじ部16と雌ねじ部35とを螺合し、ねじ込み操作することによって、加圧ユニット30の一端面側を試料収容ユニット10の一端面側に装着する構造となっている。
【0061】
また、上述した加圧ユニット30の他端面側(図の下端面側)には第2雄ねじ部37が設けてあり、一方、この他端面側に装着される気密ケースユニット40の一端面側(図の上端面側)には第2雌ねじ部41が設けてある。そして、これら第2雄ねじ部37と第2雌ねじ部41とを螺合し、ねじ込み操作することによって、気密ケースユニット40の一端面側を加圧ユニット30の他端面側に装着する構造となっている。
【0062】
このように、雌雄一対のねじ部をねじ込み操作するだけの簡単な作業で、加圧ユニット30を試料収容ユニット10に装着して、全固体電池Sを収容した試料収容ユニット10と加圧ユニット30との間を密閉することができる。同様に、雌雄一対のねじ部をねじ込み操作するだけの簡単な作業で、気密ケースユニット40を加圧ユニット30に装着して、ボルト部材32(加圧機構)が露出する加圧ユニット30の他端面側の周囲を密閉することができる。
したがって、作業者は、グローブを介したグローブボックス外部からの組み立て作業であっても、容易にその作業を行うことができる。
【0063】
これらのねじ込み操作に特別な工具は必要とせず、例えば、ねじ込み対象となる一方のユニットを固定しておき、他方のユニットを把持して人力で容易にねじ込み操作をすることができる。
なお、本実施形態では、
図3に示すように、試料収容ユニット10、加圧ユニット30、気密ケースユニット40の各外周面に、ねじ込み操作用の操作棒52を設けてある。この操作棒52は、180°隔てて外径方向に2本突き出して設けてある。作業員はこの操作棒52を手で回すだけで、上記の各ねじ込み操作をいっそう容易に行うことが可能となる。
【0064】
なお、雄ねじ部16は、金属製の試料収容ユニット10に形成してあるので、これに螺合する雌ねじ部35も、
図3に示すように、金属環36の内周面に形成し、この金属環36を合成樹脂製の加圧ユニット30の外側胴体部30Aにボルト等の締結具50により取り付けた構成としてある。これにより、雄ねじ部16と同等の耐摩耗性や強度等を雌ねじ部35に付与することができる。
【0065】
また、加圧ユニット30の一端面側に密着する試料収容ユニット10一端面には、Oリング51が設けてある。さらに、加圧ユニット30の他端面側に密着する気密ケースユニット40の一端面にも、密閉部材15としてのOリング51が設けてある。これらのOリング51を介在させることで、人手によるねじ込み操作だけでも、各ユニットの相互間を容易に密閉することが可能となる。
【0066】
図1に戻り、本実施形態の加圧分析用構造体は、外部に第1電極端子26と第2電極端子42を備えている。
【0067】
第1電極端子26は、収容ユニット本体11の外面にボルト等の締結具50によって固定してある。既述したように、収容ユニット本体11及び圧受け部材21は、導電性を有する金属材料で形成してある。したがって、
図2に示すように、収容ユニット本体11及び圧受け部材21を介して、第1電極端子26が全固体電池Sの一方の集電体層と電気的に導通した状態となる。
【0068】
第2電極端子42は、気密ケースユニット40の外周面にボルト等の締結具50によって固定してある。気密ケースユニット40の内部には、この第2電極端子42と電気的に導通する導電部材43が配置してある。この導電部材43は、ばね性を有する金属板で形成してあり、気密ケースユニット40を加圧ユニット30に装着したとき、ボルト部材32の頭部が、この導電部材43に当接するように位置決めしてある。
【0069】
したがって、
図2に示すように、第2電極端子42は、導電部材43、ボルト部材32(又は内側胴体部30B)、圧力伝達部材33、ロードセル34、押圧部材22で形成した導通経路を介して、全固体電池Sの他方の電極活物質層と電気的に導通した状態となる。
【0070】
よって、これらの第1電極端子26と第2電極端子42の間に電気を流すことで、試料収容ユニット10の内部に収容された全固体電池Sを充電することができ、またこれらの電極端子の間を、抵抗を介在させて導通することで、全固体電池Sを放電することができる。
【0071】
図2に示すように、第1電極端子26と第2電極端子42の間は、加圧ユニット30における合成樹脂製の外側胴体部30Aと、同じく合成樹脂製の気密ケースユニット40とによって絶縁されている。
【0072】
次に、本発明の実施形態に係るX線回折装置について説明する。
図9は本実施形態に係るX線回折装置の外観を示す斜視図であり、
図10はそのX線回折装置に設けた試料ステージの構成を示す斜視図である。
X線回折装置は、X線源101から放射されたX線を試料(全固体電池S)の表面に照射したとき、試料の結晶構造に応じて所定の角度に反射してくる回折X線をX線検出器102で検出することにより、試料を分析する装置である。かかるX線回折装置の基本構造は、既に周知であるため詳細な説明は省略する。
【0073】
図9に示すように、本実施形態に係るX線回折装置は、X線源101及びX線検出器102に加え、上述した構成の加圧分析用構造体1と、この加圧分析用構造体1を配置するための試料ステージ103と、を構成要素に含んでいる。
試料ステージ103には、加圧分析用構造体1の外面を配置する支持台104が固定してある。支持台104は、
図10(a)に示すように、V字形状(又は円弧状)の支持溝105aが形成された支持脚105(第1支持部)と、支持溝106aが形成された左右一対の支持脚106(第2支持部)とを備えている。これらの支持脚105,106が、加圧分析用構造体1を支持するための支持部を構成している。
【0074】
また、試料収容ユニット10に設けた一対の操作棒52は、一対の支持溝106aに配置する被支持部として機能している。そして、
図10(b)に示すように、加圧分析用構造体1の後端部分(気密ケースユニット40部分)を支持溝105aの上に配置するとともに、X線窓14が形成される試料収納ユニット10の2本の操作棒52を、それぞれ支持溝106aの上に配置することで、試料収容ユニット10内に収容支持されている全個体電池Sの中心軸が水平配置される。さらに、試料収容ユニット10に設けた一対の操作棒52を、一対の支持溝106aにより支持することで、試料収容ユニット10内に収容支持されている全個体電池Sの中心軸と直交する軸が水平配置される。この全個体電池Sの中心軸とそれに直交する軸を含む仮想平面が測定基準平面となり、水平配置されたこの測定基準平面に対してθ-2θの関係をもってX線回折測定が続行される。
【0075】
試料ステージ103は、支持台104を水平面上の2方向(X-Y方向)と高さ方向(Z方向)に移動させる移動調整機構107を搭載している。この移動調整機構107により、加圧分析用構造体1内の全固体電池Sが、X線源101からのX線の照射位置へ位置決めされる。
加圧分析用構造体1のX線窓14は、支持台104上で上向きに配置され、X線源101からのX線がこのX線窓14を通して全固体電池Sに照射される。そして、全固体電池Sから反射してきた回折X線が、X線窓14を通してX線検出器102で検出される。
【0076】
次に、本発明の実施形態に係る加圧分析システムについて説明する。
図11は本実施形態に係る加圧分析システムの全体構造を模式的に示す構成図である。
加圧分析システムは、上述したX線回折装置2と、加圧分析用構造体1を収納して長期間大気から遮断する気密装置3と、加圧分析用構造体1に収容した全固体電池S(試料)の圧力及び電気化学特性を気密装置3の外部で計測するための計測機器4とを構成要素に含んでいる。
【0077】
気密装置3は、加圧分析用構造体1を収納できる内部空間3aを有している。その内部空間3aは大気を遮断する密閉空間を形成している。内部空間3aは、配管3bを介して真空ポンプ(図示せず)に連通し、真空ポンプの稼働により真空引きされる構成となっている。気密装置3には真空計3cが組み込まれ、この真空計3cにより、内部空間3a内の真空度を常時測定している。
なお、気密装置3は、加圧分析用構造体1に設置している全固体電池Sを少なくとも測定を継続している間、大気を遮断できる程度の真空度にする機能か、高純度のアルゴンガス(不活性ガス)を充填する機能を備えていればよい。
【0078】
計測機器4は、加圧分析用構造体1が備えるロードセル34からの信号を入力して、全固体電池Sの加圧状態を計測する機能を有している。また、第1電極端子26及び第2電極端子42に接続されて、全固体電池Sが充放電される状況を計測する機能も有している。さらに、後述する温度センサ202に接続されて、全固体電池Sの温度を計測する機能を設けることも可能である。
【0079】
加圧分析用構造体1を気密装置3の内部空間3aに収納し、計測機器4により全固体電池Sの圧力及び電気化学特性を計測する。そして、計測値に変化が現れたときに、加圧分析用構造体1を気密装置3から取り出して、X線回折装置2の試料ステージ103に配置し、X線回折測定を実行する。このような手順で全固体電池Sを分析することで、X線回折装置2を長時間占有する必要がなくなり、効率的に分析評価を進めることが可能となる。
【0080】
次に、本発明に係る加圧分析用構造体の他の実施形態について説明する。
図12は温度調整・計測用セルを搭載した試料収容ユニットの構成を示す図である。同図に示すように、試料収容ユニット10に温度調整・計測用セル200を搭載してもよい。温度調整・計測用セル200は、ヒータ201と温度センサ202を含んでいる。ヒータ201は、試料収容ユニット10内に収容された全固体電池Sの温度を調整するための温度調整部材として機能し、温度センサ202は、その全固体電池Sの温度を測定するための温度測定部材として機能する。
【0081】
ヒータ201は、収容ユニット本体11における外部に露出する端面に重ねて配置し、その表面を断熱材からなる押え部材203で被覆して、ボルト等の締結具50により収容ユニット本体11に固定されている。
また、温度センサ202は、収容ユニット本体11の中央部に設けた軸方向のねじ溝204に埋め込み、圧受け部12の近傍に先端を配置してある。
図12(b)では、圧受け部材を用いず、圧受け部12を中空部23a側に突き出して、この圧付け部12に全個体電池Sを接触させているが、先の実施形態と同様に、圧受け部材21を介在させてもよい。
【0082】
ヒータ201からの熱は、収容ユニット本体11の圧受け部12を経由して、全固体電池Sの一端面に伝わっていく。室温でイオン導電率が低い全固体電池S等は、加圧しただけでは導電パスが確保できないことがある。その場合は、ヒータ201により全固体電池Sを加熱することで、充放電に伴う導電パスを確保することができる。全固体電池Sの温度は、温度センサ202により計測され、その計測値に基づいて、図示しない温度制御装置によりヒータ201が制御されて、全固体電池Sを所望の温度に調整する。
【0083】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施や応用実施が可能なことはもちろんである。
例えば、本発明の加圧分析用構造体は、電解質に固体あるいはゲル状の電解質を用いた各種電池の分析評価に適用することができる。さらには、既述したとおり、各種の試料に対する加圧した状態での分析評価に適用することができる。
【0084】
また、本発明の加圧分析用構造体を構成する各要素の形状は、上述した実施形態に示した形状に限定されるものではない。例えば、試料収容ユニット10は有底円筒状に限定されず、加圧ユニット30は円筒状に限定されず、気密ケースユニット40は有底円筒状に限定されるものではなく、それぞれ必要に応じて他の形状に製作してもよい。
【0085】
また、上述した実施形態では圧受け部材21を備えていたが、これを省略して、収容ユニット本体11の圧受け部12を凸形状に形成し、当該圧受け部12により全固体電池Sを支持する構成としてもよい。
図12(b)に示した他の実施形態では、圧受け部材21を省略した構造としてある。
【0086】
また、本発明に係る加圧分析用構造体の組み立てに、グローブボックスは必須ではなく、全固体電池の種類によってはグローブボックスを使用しない組み立ても可能である。
【0087】
試料収容ユニット、加圧ユニット、気密ケースユニットや、それらの構成要素は、上述した実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、各構成要素のいずれの部位を導電性又は絶縁性を有する材料で構成するかは、各電極端子の設置個所などに応じて、適宜設計変更することができる。
【符号の説明】
【0088】
S:全固体電池(試料)、1:加圧分析用構造体、2:X線回折装置、3:気密装置、3a:内部空間、3b:配管、3c:真空計、4:計測機器、
10:試料収容ユニット、11:収容ユニット本体、12:圧受け部、13:切欠き溝、14:X線窓、15:密閉部材、16:雄ねじ部、21:圧受け部材、22:押圧部材、23:試料ホルダ、23a:中空部、23b:試料配置部、23c:切欠き部、24:ヒータ、25:熱電対、26:第1電極端子、
30:加圧ユニット、30A:外側胴体部、30B:内側胴体部、31:ナット部、32:ボルト部材、33:圧力伝達部材、34:ロードセル、34a:出力棒(出力部)、35:雌ねじ部、36:金属環、37:第2雄ねじ部、
40:気密ケースユニット、41:第2雌ねじ部、42:第2電極端子、43:導電部材、
50:締結具、51:Oリング、52:操作棒、
101:X線源、102:X線検出器、103:試料ステージ、104:支持台、105,106:支持脚、105a,106a:支持溝、107:移動調整機構、
200:温度調整・計測用セル、201:ヒータ、202:温度センサ、203:押え部材、204:ねじ溝