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特開2022-54981ゲル化性組成物、ゲル化物および立体構造物の製造方法
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  • 特開-ゲル化性組成物、ゲル化物および立体構造物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054981
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】ゲル化性組成物、ゲル化物および立体構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/238 20160101AFI20220331BHJP
【FI】
A23L29/238
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162295
(22)【出願日】2020-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】川野 有加
(72)【発明者】
【氏名】高塒 春樹
(72)【発明者】
【氏名】小里 建喬
【テーマコード(参考)】
4B041
【Fターム(参考)】
4B041LC05
4B041LC10
4B041LE06
4B041LH07
4B041LK07
4B041LK24
4B041LP01
4B041LP03
4B041LP05
4B041LP07
4B041LP12
4B041LP16
4B041LP25
(57)【要約】
【課題】ナタマメから抽出されたゲル化剤を含むゲル化性組成物においてゲル化作用を促進する。
【解決手段】本実施形態は、ナタマメから抽出されたゲル化剤と水を含み、25℃でのpHが4.4以下であるゲル化性組成物に関する。本実施形態はまた、上記ゲル化性組成物をゲル化させてなるゲル化物に関する。本実施形態はまた、該ゲル化性組成物を吐出口から吐出し冷却によりゲル化させて立体構造物を形成する立体構造物の製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナタマメから抽出されたゲル化剤と水を含み、25℃でのpHが4.4以下である、ゲル化性組成物。
【請求項2】
クエン酸、酢酸、フマル酸、乳酸、リンゴ酸、グルコン酸、酒石酸、コハク酸およびアジピン酸、並びにこれらのアルカリ金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項1に記載のゲル化性組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゲル化性組成物をゲル化させてなるゲル化物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のゲル化性組成物を吐出口から吐出し冷却によりゲル化させて立体構造物を形成する、立体構造物の製造方法。
【請求項5】
3Dプリンタを用いて、前記ゲル化性組成物を前記3Dプリンタの吐出口から吐出して積層することにより前記立体構造物を形成する、請求項4に記載の立体構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化性組成物、およびそれを用いたゲル化物、立体構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゲル化剤としては、例えば、寒天、カラギーナン、ゼラチン、ペクチンなどが用いられている。これに対し、特許文献1には、ナタマメから抽出されたゲル化物質が開示されており、0℃より高くかつ10℃以下の温度でゲル化することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-37174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ナタマメから抽出されたゲル化剤は、例えばその濃度が薄い場合にゲル化能が必ずしも高いとはいえないことがあり、ゲル化を促進することが求められる。
【0005】
本発明は、ナタマメから抽出されたゲル化剤を含むゲル化性組成物においてゲル化作用を促進することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係るゲル化性組成物は、ナタマメから抽出されたゲル化剤と水を含み、25℃でのpHが4.4以下のものである。
【0007】
該ゲル化性組成物は、クエン酸、酢酸、フマル酸、乳酸、リンゴ酸、グルコン酸、酒石酸、コハク酸およびアジピン酸、並びにこれらのアルカリ金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種をさらに含んでもよい。
【0008】
本発明の実施形態に係るゲル化物は、上記ゲル化性組成物をゲル化させてなるものである。
【0009】
本発明の実施形態に係る立体構造物の製造方法は、上記ゲル化性組成物を吐出口から吐出し冷却によりゲル化させて立体構造物を形成するものである。一実施形態において、3Dプリンタを用いて、前記ゲル化性組成物を前記3Dプリンタの吐出口から吐出して積層することにより前記立体構造物を形成してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、pHを4.4以下にしたことにより、ナタマメから抽出されたゲル化剤を含むゲル化性組成物のゲル化作用を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る立体構造物の製造工程を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
[ゲル化性組成物]
本実施形態に係るゲル化性組成物は、ナタマメから抽出されたゲル化剤と水を含み、pH(25℃)が4.4以下であることを特徴とする。
【0014】
ゲル化剤とは、液体を分散媒とする分散系をゲル化させる物質をいい、本実施形態ではかかるゲル化剤として、ナタマメから抽出されたもの、即ちゲル化能を持つナタマメ抽出物を用いる。ここで、「ゲル」とは、上記分散系が流動性を失って固化した状態をいい、一般に(但しこれに限定することを意図しないが)、多少の弾性と固さを持ってゼリー状に固化した状態をいう。「流動性」とは、一定しないで流れ動く性質をいう。「ゲル化能」とは、分散系をゲル化させることができる性能をいう。
【0015】
ナタマメとは、ナタマメ属に属するものであり、例えば、タカナタマメ(Canavalia cathartica Thouars)、タチナタマメ(Canavaliaensiformis (L.) DC)、アカナタマメ(Canavalia gladiata)、シロナタマメ(Canavalia gladiata (Jacq.) DC. f. alba (Makino) Ohashi)、ハマナタマメ(Canavalia lineata (Thunb.) DC)、ナガミハマナタマメ(Canavalia rosea (Sw.) DC))などが挙げられ、これらのいずれか1種または2種以上を用いることができる。これらの中でもシロナタマメを用いることが好ましい。
【0016】
ゲル化剤としては、ナタマメの豆果または種子(即ち、豆)から抽出される水溶性成分が好ましく用いられる。より詳細には、特許文献1(特開2019-37174号公報)に記載されたナタマメ抽出物が好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
【0017】
ゲル化剤であるナタマメ抽出物は、特許文献1の段落0019に記載されているようにタンパク質を含まないことが好ましい。また、該ナタマメ抽出物は、特許文献1の段落0020に記載されているように多糖類からなることが好ましい。
【0018】
ゲル化剤であるナタマメ抽出物の製造方法は、特に限定されない。例えば、(A)ナタマメの破砕物を含む液を沸騰させる工程と、沸騰後の液を濾過してろ液を得る工程とを含む製法でもよく、(B)ナタマメの破砕物を含む液を濾過した残渣を含む液を沸騰させる工程と、沸騰後の液を濾過してろ液を得る工程とを含む製法でもよい。これらの製法により得られたろ液は、ナタマメから抽出されたゲル化剤としての水溶性成分と水を含むので、当該ろ液を用いてもよい。あるいはまた、上記ろ液を、凍結乾燥や噴霧乾燥等により水を蒸発させて、固体のゲル化剤を得てもよい。一実施例として、製法(A)については特許文献1の段落0037及び0038に記載されており、また製法(B)については特許文献1の段落0051及び0054に記載されており、それらの製法により得られたナタマメ抽出物を用いることができる。
【0019】
本実施形態に係るゲル化性組成物は、ナタマメから抽出されたゲル化剤とともに水を含む。ゲル化性組成物とは、ゲル化する性質を持つ組成物であり、ゾルないしゾル状組成物ということもできる。ナタマメから抽出されたゲル化剤を含む水溶液は、冷却することでゲル化するため、ゲル化性組成物である。
【0020】
ゲル化性組成物は、室温で流動性を持つものであり、ペースト状のように粘性の高い液状でもよく、粘性の低い液状でもよい。このように室温で流動性を持つことにより、ゲル化性組成物を室温で流通および保存することができ、輸送や保存などの取り扱い性に優れる。また、ゲル化性組成物を用いてゲル化物を所定形状に成型する際に、ゲル化性組成物を加温せずに用いることができ、加温を不要ないし最小限にしながら、ゲル化物を成型することができる。
【0021】
本実施形態に係るゲル化性組成物は、20℃で流動性を持つことが好ましい。ゲル化性組成物がゲル化する温度、即ちゲル化温度は、0℃よりも高くかつ15℃未満であることが好ましく、より好ましくは0℃よりも高くかつ13℃以下であり、更に好ましくは1℃以上12℃以下である。
【0022】
ここで、ゲル化性組成物のゲル化温度は、流動性を持つゲル化性組成物20gを直径30mmの試験管に入れ、例えば0~20℃の範囲内で1℃ずつ間をあけて雰囲気温度を設定して48時間静置した後、当該試験管を45度の角度に1分間傾けることにより流動性の有無を確認し、流動性がなくなる最高温度として求められる。
【0023】
ゲル化性組成物におけるゲル化剤の含有量(固形分)は、冷却により当該組成物をゲル化させることができる量であれば特に限定されず、例えば、ゲル化性組成物の質量100質量%に対して、1~30質量%でもよく、4~25質量%でもよく、8~20質量%でもよく、10~15質量%でもよい。
【0024】
ゲル化性組成物における水の含有量も、特に限定されず、例えば、ゲル化性組成物の質量100質量%に対して、30~95質量%でもよく、40~92質量%でもよく、60~90質量%でもよい。
【0025】
本実施形態に係るゲル化性組成物は25℃でのpHが4.4以下である。ナタマメから抽出された上記ろ液はそのままでは中性域にある。本発明者は、ゲル化性組成物のpHを4.4以下に調整することにより、ゲル化作用を促進することができ、より詳細には、そのまま中性域で用いる場合よりも、短時間でゲル化させたり、ゲル強度を向上させたりする効果が得られることを見い出した。ゲル化性組成物のpHは4.3以下であることが好ましく、より好ましくは4.0以下である。ゲル化性組成物のpHの下限は特に限定されないが、経口用組成物として用いる場合、2.0以上であることが好ましく、より好ましくは3.0以上であり、3.5以上でもよい。
【0026】
ゲル化性組成物には、pHを4.4以下に調整するために、pH調整剤を含んでもよい。pH調整剤としては、特に限定されないが、例えば、クエン酸、酢酸、フマル酸、乳酸、リンゴ酸、グルコン酸、酒石酸、コハク酸およびアジピン酸、並びにこれらのアルカリ金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
【0027】
ゲル化性組成物における上記pH調整剤の含有量は、ゲル化性組成物のpHを4.4以下の所望の値に調整可能な量であれば、特に限定されず、例えば、ゲル化性組成物の質量100質量%に対して、0.001~5質量%でもよく、0.005~1質量%でもよく、0.01~0.5質量%でもよく、0.1~0.3質量%でもよい。
【0028】
ゲル化性組成物の用途は、特に限定されない。一実施形態として、ゲル化性組成物は、口を通して摂取可能な経口用組成物でもよく、より詳細には食品の原料となる食品用組成物や、医薬品(医薬部外品も含む)の原料となる医薬品用組成物が挙げられる。食品としては、例えば、特別用途食品(例えば、えん下困難者用食品など)や保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品など)などの健康食品の他、菓子類などの健康食品以外の各種加工食品が挙げられる。
【0029】
ゲル化性組成物には、ナタマメから抽出されたゲル化剤および水のほか、用途に応じて様々な成分を配合することができる。例えば、食品用の場合、食材の他、増粘剤、乳化剤、安定剤、抗菌・静菌剤、フレーバー、色素、調味料、機能性成分などのいずれか1種または2種以上が挙げられ、特に限定されない。食材としては、特に限定されず、例えば、肉、魚、野菜、果物などをすりつぶしたもの、タンパク質、デンプンなどが挙げられる。
【0030】
ゲル化性組成物の製造方法は、特に限定されず、例えば、食品用組成物の場合、食材に水および各種添加剤とともにゲル化剤を添加し、混合することにより調製することができる。混合後、加熱殺菌してもよい。
【0031】
[ゲル化物]
本実施形態に係るゲル化物は、上記ゲル化性組成物をゲル化させてなるものである。上記のように、ゲル化性組成物はゲル化温度以下、例えば15℃未満(好ましくは5℃以下)に冷却することによりゲル化させることができ、様々な形状のゲル化物を得ることができる。
【0032】
該ゲル化物は、ゲル化性組成物を容器に入れて冷却することによりゲル化させた容器付きのゲル化物でもよく、あるいはまた、所定形状の成形型にゲル化性組成物を注入し冷却によりゲル化させた後、成形型から取り出して得られる成形体でもよく、あるいはまた、後述する立体構造物でもよい。
【0033】
一実施形態において、該ゲル化物は、65℃以上の温度で融解するものであること、即ちゲル融解温度が65℃以上であることが好ましい。このようにゲル融解温度が高いことにより、仮にゲル化物が流通時に室温ないし65℃以下の比較的高温の雰囲気下におかれた場合でも、ゲル化物の形状を維持することができる。ゲル融解温度の上限は特に限定されず、100℃以下であればよい。
【0034】
ここで、ゲル融解温度は、20~100℃の間の温度で、5℃ずつ間をあけて設定した温度雰囲気にそれぞれ5分間静置した後に、沈殿率を測定し、沈殿率と温度の相関が急激に変化した温度として得られる。なお、沈殿率は、温度雰囲気下に静置する前のゲル化物質を含む液の質量に対する遠心分離(20℃、9,100×gで10分間)後の沈殿物の質量の割合である。(特許文献1の段落0021,0043参照)
【0035】
ゲル化物におけるゲル化剤、pH調整剤および水の含有量は、特に限定されず、通常は上記ゲル化性組成物における各含有量と同じである。そのため、ゲル化剤の含有量は、ゲル化物の質量100質量%に対して、1~30質量%でもよく、4~25質量%でもよく、8~20質量%でもよく、10~15質量%でもよい。pH調整剤の含有量は、ゲル化物の質量100質量%に対して、0.001~5質量%でもよく、0.005~1質量%でもよく、0.01~0.5質量%でもよく、0.1~0.3質量%でもよい。水の含有量は、ゲル化物の質量100質量%に対して、30~95質量%でもよく、40~92質量%でもよく、60~90質量%でもよい。
【0036】
本実施形態に係るゲル化物は、以下のような製造方法で製造してもよい。すなわち、一実施形態に係るゲル化物の製造方法は、(a)ナタマメから抽出されたゲル化剤と水を含みpHが4.4よりも大きい組成物を配置し、(b)当該配置した組成物に上記pH調整剤を含む水溶液を噴霧または塗布することにより上記組成物の少なくとも表面のpH(25℃)を4.4以下とし、(c)冷却によりゲル化させるものである。この場合、酸性のpH調整剤の水溶液を噴霧または塗布することにより、上記組成物の少なくとも表面には、ゲル化剤と水を含みかつpH(25℃)が4.4以下であるゲル化性組成物が形成され、該ゲル化性組成物が冷却によりゲル化する。このようにゲル化させる直前に酸性水溶液を加えることでpHを4.4以下にしてもよい。
【0037】
上記(a)では、ゲル化剤と水を含む組成物を、例えば、容器や成形型内に配置してもよく、ゲル化物を形成するための台上に上記組成物を吐出して配置してもよい。例えば、後述する立体構造物の製造方法を利用して、ゲル化物と水を含む組成物を吐出口から吐出して台上に配置した後、該台上に配置された組成物に対してpH調整剤を含む水溶液を噴霧したり塗布したりしてもよく、上記組成物の配置と上記水溶液の噴霧または塗布を順次実施しながら積層することで立体構造物を製造してもよい。
【0038】
[立体構造物の製造方法]
本実施形態に係る立体構造物の製造方法は、上記ゲル化性組成物を吐出口から吐出し冷却によりゲル化させて立体構造物を形成するものである。該製造方法は、吐出口からゲル化性組成物を吐出して所定の立体形状に成形することができる方法であれば、特に限定されないが、好ましくは3Dプリンタを用いた積層造形法を利用することである。3Dプリンタを用いる場合、上記ゲル化性組成物は3Dプリンタ用インクである。
【0039】
一般に、3Dプリンタは、CADやCGなどの3Dデータを元に立体構造物を造形する機器であり、積層造形法の場合、流動性を有した材料を吐出ヘッドの吐出口からテーブル上に吐出して積層し、積層物を硬化させることで立体構造物を形成する。本実施形態の場合、室温で流動性を持つ上記ゲル化性組成物を3Dプリンタ用インクとして、3Dプリンタの吐出口からテーブル上に該ゲル化性組成物を吐出して積層し、冷却によりゲル化させることでテーブル上にゲル化性組成物からなる立体構造物を形成することができる。
【0040】
図1は、一実施形態に係る立体構造物の製造工程を示したものであり、3Dプリンタ1を用いた一例を示している。図1に示す3Dプリンタ1は、テーブル2と、吐出ヘッド3と、インクタンク4と、移動機構5,6とを備える。
【0041】
吐出ヘッド3は、ゲル化性組成物Mをテーブル2上に順次供給して当該ゲル化性組成物Mからなる層10を形成する部材であり、ゲル化性組成物Mを吐出する吐出口3Aを下端に備える。吐出ヘッド3にはゲル化性組成物Mを収容するインクタンク4が接続されており、インクタンク4から吐出ヘッド3にゲル化性組成物Mが供給される。吐出ヘッド3は、移動機構6により水平方向(前後方向および左右方向)に移動可能に構成されている。
【0042】
テーブル2は、ゲル化性組成物Mからなる層10を順次積層させる平板状の載置台である。テーブル2は移動機構5により鉛直方向(上下方向)に移動可能に構成されている。なお、このようにテーブル2を鉛直方向、吐出ヘッド3を水平方向に移動可能に構成する代わりに、テーブル2を水平方向、吐出ヘッド3を鉛直方向に移動可能に構成してもよく、あるいはまた、テーブル2と吐出ヘッド3のいずれか一方を固定した上で、他方のみを鉛直方向および水平方向に移動可能に構成してもよい。
【0043】
テーブル2および吐出ヘッド3は冷却室7内に設置されている。冷却室7の内部温度はゲル化性組成物Mのゲル化温度以下に設定されており、これにより吐出口3Aから吐出されたゲル化性組成物Mがゲル化温度以下に冷却されてゲル化する。このように冷却室7を設ける代わりにまたは冷却室7とともに、テーブル2に冷却装置(不図示)を設けることにより、テーブル2上に吐出されたゲル化性組成物Mがゲル化温度以下になるように冷却してもよい。あるいはまた、吐出口3Aから吐出されたゲル化性組成物Mに冷気を吹き当てることにより冷却してもよく、この方法を上記各冷却方法と適宜組み合わせてもよい。
【0044】
3Dプリンタでは、インクタンク4から供給されるゲル化性組成物Mを吐出ヘッド3の吐出口3Aから吐出してテーブル2上に配置させながら、移動機構6により吐出ヘッド3を水平方向に移動させてテーブル2上にゲル化性組成物Mからなる層10を形成する。テーブル2上に配置されたゲル化性組成物Mからなる層10は冷却されてゲル化していく。また、移動機構5によりテーブル2を鉛直方向に移動させることで、層10の上に別の層10が積み重ねられるようにし、これを繰り返すことにより所定の立体形状を持つ立体構造物が形成される。
【0045】
本実施形態においては、ゲル化性組成物を吐出口からの吐出前に流動性を維持しつつ冷却する予備冷却工程を設けてもよい。具体的に、図1に示す例では、吐出ヘッド3に冷却装置8が設けられている。冷却装置8により吐出ヘッド3内を通るゲル化性組成物Mが冷却され、このように予備冷却された状態で吐出口3Aから吐出される。予備冷却することにより、吐出後におけるゲル化を促進することができる。予備冷却温度としては、流動性を維持しながらゲル化性組成物を冷却することができる温度であれば特に限定されない。吐出ヘッド3を通過する時間は短いことに鑑みると、直ちにゲル化しないのであれば、予備冷却温度はゲル化温度以下に設定してもよい。
【0046】
吐出口3Aから吐出されたゲル化性組成物Mをゲル化させるためには、ゲル化温度以下に冷却すればよく、例えばゲル化温度よりも2℃以上低い温度に冷却してもよく、ゲル化温度よりも5℃以上低い温度に冷却してもよい。冷却温度の下限は、ゲル化性組成物が凍らない限り、特に限定されず、例えば-20℃以上でもよく、-10℃以上でもよく、0℃以上でもよい。
【0047】
吐出口3Aから吐出されたゲル化性組成物Mはテーブル2上に配置されてからゲル化温度以下に冷却されてもよく、配置される前にゲル化温度以下に冷却されてもよい。また、ゲル化性組成物Mがゲル化するタイミングは、所定の立体形状が形成可能であれば特に限定されず、例えば、テーブル2上に各層10が配置され次の層10が積層するまでの段階でゲル化してもよく、複数の層10が積層されていく段階でゲル化してもよく、複数の層10が積層されて所定の立体形状を形成した後に更に冷却を続けることでゲル化が完了するものでもよい。
【0048】
なお、このようにして形成される立体構造物の形状は、立体状、即ち3次元の形状を有していれば、特に限定されず、用途に応じて種々の形状を採用することができる。
【実施例0049】
以下、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0050】
[pHの測定]
卓上型pHメーター(LAQUA、株式会社堀場製作所)にて、25℃におけるゲル化性組成物(水溶液)のpHを測定した。
【0051】
[ゲル化剤の調製]
シロナタマメの乾燥豆の質量を電子天秤(HR-120、株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて測定し、アルミニウムの蓋を設けていないガラスビーカー中、乾燥豆を、その質量の10倍量の蒸留水に20℃で18時間浸漬した。その後、一旦水を廃棄した後、浸漬したナタマメに、アルミニウムの蓋をしないまま、乾燥豆質量の8倍量の蒸留水を加え、氷上でハンドブレンダー(CSB-77JBSTRW、コンエアー社)を用いて5分間破砕し、シロナタマメの破砕物を含む液の試料を調製した。
【0052】
シロナタマメの破砕物を含む液を、ヒートスターラーで加熱し、スターラーバーを用いて攪拌しながら3分間沸騰させた。その後、沸騰させたシロナタマメの破砕物を含む液を、さらしで濾過してろ液を得た。得られたろ液は、シロナタマメの抽出物の水溶液(固形分濃度:4.8質量%)である。得られたろ液から、凍結乾燥により水を蒸発させて、粉末状のゲル化剤を得た後、該ゲル化剤を蒸留水に溶解させて固形分濃度21質量%のゲル化剤水溶液を得た。得られたゲル化剤水溶液のpH(25℃)は6.2であった。
【0053】
[実施例1~4および比較例1~7]
固形分濃度21質量%のゲル化剤水溶液に、1質量%もしくは10質量%クエン酸水溶液、1質量%もしくは10質量%酢酸水溶液、または1質量%もしくは10質量%重曹水溶液を用いて、下記表1~3に示すようにpHを4~9に調整し、蒸留水を用いて、最終的にゲル化剤の濃度(ナタマメ固形分)が12質量%の実施例1~4および比較例1~7のゲル化性組成物(水溶液)を調製した。なお、ゲル化性組成物におけるpH調整剤の濃度(質量%)は表1~3に示すとおりである。
【0054】
実施例1~4のゲル化性組成物のゲル化温度を測定したところ、いずれも12℃であった。
【0055】
実施例1~4および比較例1~7のゲル化性組成物を用いて以下の方法によりゲル化試験を実施した。
【0056】
室温(25℃)雰囲気下で、直径30mm高さ20mmの円柱容器に組成物を高さが7mmとなるように注入し、4℃の恒温槽内に所定時間静置した。静置時間は表1~3に示すとおりである。所定時間経過後、円柱容器を恒温槽から取り出し、室温雰囲気下に10分間静置した後、円柱容器内の組成物についてゲル強度を測定した。なお、静置時間0時間は、組成物を円柱容器に注入後、恒温槽内に静置せずに評価したものである。
【0057】
ゲル強度の測定は、組成物の上面に直径8mmの円形底面を持つ15gの重さを載せ、1分経過後に組成物がどれだけ歪むか(組成物の上面が下降した距離)で評価した。歪み(mm)が小さいほどゲル強度が強いことを示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
結果は表1~3に示すとおりである。静置時間0時間ではいずれの組成物もゲル化しておらず、ゾルのままであった。pHを調整していない比較例5では、1時間静置することでゲル化していたが、緩いゲルであり4時間静置後も十分な強度は得られなかった。また、重曹水溶液を用いてpHを高くした比較例6,7では、未調整の比較例5に対してゲル化作用の向上効果は見られず、むしろゲル化作用が低下した。比較例1~4では、pHの低下が不十分であり、未調整の比較例5に対してゲル化作用の向上効果は見られなかった。
【0062】
これに対し、クエン酸や酢酸を用いてpHを十分に下げた実施例1~4では、未調整の比較例5に対し、短時間でゲル化しており、十分な強度を持つゲルが得られた。
【0063】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0064】
1…3Dプリンタ、2…テーブル、3…吐出ヘッド、3A…吐出口、4…インクタンク、5,6…移動機構、7…冷却室、8…冷却装置、10…ゲル化性組成物からなる層、M…ゲル化性組成物
図1