(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055114
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】衣類
(51)【国際特許分類】
A41D 31/00 20190101AFI20220331BHJP
D04B 21/18 20060101ALI20220331BHJP
D04B 21/00 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
A41D31/00 502D
D04B21/18
D04B21/00 A
A41D31/00 503Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162521
(22)【出願日】2020-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】592117623
【氏名又は名称】ウラベ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神川 健夫
(72)【発明者】
【氏名】藤内 寿志
【テーマコード(参考)】
4L002
【Fターム(参考)】
4L002AA02
4L002AA05
4L002AA06
4L002AA07
4L002AB02
4L002AB04
4L002AC01
4L002AC07
4L002CA00
4L002CA03
4L002CA04
4L002EA00
4L002EA06
4L002FA01
(57)【要約】
【課題】機能性繊維の混率を低くしつつ、肌当たりがよく、機能性繊維の所望の接触特性を十分に得る。
【解決手段】伸縮性経編地は、地組織11と挿入組織12とを備える。地組織11は、非弾性糸1で構成された全てのコースでニードルループを有する第1編成組織と弾性糸3で構成された第2編成組織とによって構成されている。挿入組織12は、機能性繊維2で構成されている。弾性糸3は、機能性繊維2よりニードルループ面側に位置している。機能性繊維2と非弾性糸1とが交わっている交絡点D1,D2同士のコース方向の間隔は、1コース以上である。交絡点D1,D2において非弾性糸1は、機能性繊維2よりシンカーループ面側に位置している。交絡点D1,D2同士の間に位置する機能性繊維2は、地組織11よりシンカーループ面側に位置している。衣類においては、伸縮性経編地10のシンカーループ面が肌側に位置している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンカーループ面および該シンカーループ面とは反対側のニードルループ面を有する伸縮性経編地から一部または全部が形成された衣類であって、
前記伸縮性経編地は、
非弾性糸で構成された全てのコースでニードルループを有する第1編成組織と弾性糸で構成された第2編成組織とによって構成されている地組織と、
機能性繊維で構成された挿入組織とを備え、
前記弾性糸は、前記機能性繊維よりニードルループ面側に位置しており、
前記機能性繊維と前記非弾性糸とが交わっている交絡点同士のコース方向の間隔は、1コース以上であり、
前記交絡点において前記非弾性糸は、前記機能性繊維よりシンカーループ面側に位置しており、
前記交絡点同士の間に位置する前記機能性繊維は、前記地組織よりシンカーループ面側に位置しており、
前記伸縮性経編地の前記シンカーループ面が肌側に位置している、衣類。
【請求項2】
前記弾性糸の収縮により前記地組織および前記挿入組織が変形した状態において、前記交絡点における、前記非弾性糸および前記機能性繊維の各々のウェール方向の進行方向が互いに同じである、請求項1に記載の衣類。
【請求項3】
前記機能性繊維は、基本動作が同一ウェール上に位置する編成組織によって編成されている、請求項1または請求項2に記載の衣類。
【請求項4】
前記第1編成組織を変化させることにより、前記挿入組織が前記シンカーループ面側に表出する部分と表出しない部分とが任意に編み分けられている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
衣類などに使用される経編地には、吸湿性、吸汗性または保湿性などの機能性を有する繊維が用いられることがある。これらの機能性繊維を、衣類が着用された際に肌側に位置するよう、生地の一方面側に配置することにより、これら機能性繊維の機能を得やすくした素材が、広く使用されている。
【0003】
生地の一方面側に機能性繊維を配置する手法として、経編地のニードルループ面にパイル組織を形成する手法が広く用いられている。ニードルループ面とは、経編地のニードルループが露出している面のことであり、反対に、シンカーループが露出している面は、シンカーループ面と呼ばれる。この手法を用いることで、生地のニードルループ面に機能性繊維を嵩高に配置させることができ、機能性繊維を肌に接触させやすくなり、機能性繊維の機能を発揮させやすくすることができる。
【0004】
一方、機能性繊維をシンカーループ面に配置した経編地の構成を開示した先行文献として、特開2003-55868号公報(特許文献1)および特開2019-116700号公報(特許文献2)がある。特許文献1に記載された伸縮性経編地は、筬L1に吸湿性紡績糸、筬L2に合成繊維糸、筬L3に合成繊維糸、筬L4に弾性糸、筬L5に弾性糸を用いて編成される6コースパワーネットの伸縮性経編地である。筬L1の吸湿性紡績糸は、3コースごとに一度、編目を形成している。特許文献2に記載された伸縮性経編地においては、機能性繊維が一定コースごとにニードルループを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-55868号公報
【特許文献2】特開2019-116700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ニードルループ面にパイル組織を形成する手法では、パイル組織を1ウェール間の範囲を超えて形成することができず、地組織のニードルループの列が、パイルとパイルとの間で露出しており、パイル組織を高密度に構成することができないため、機能性繊維の機能を十分に発揮させて肌との所望の接触特性を得るには不十分である。また、機能性繊維を肌側に多く配置しようとすると、嵩高なパイルを形成することになり、生地がごわついた状態になって、肌当たりがよくなくなるとともに、生地の通気性が低下する。また、特許文献1に記載の手法も同様に、吸湿性紡績糸のパイル組織の形成範囲は1ウェール間に限られており、上記のニードルループ面にパイル組織を形成する手法と同様の課題がある。
【0007】
特許文献2に記載された伸縮性経編地のように、機能性繊維が一定コースごとにニードルループを形成している場合、機能性繊維の給糸量が多くなり、機能性繊維の混率がたかくなる。一般的に機能性繊維は高価であるため、機能性繊維の混率が高くなることにより伸縮性経編地の製造コストが高くなる。また、ループ部と挿入部とにおける機能性繊維の張力差が大きくなり、編み立て中の張力管理が難しく、編み立て難易度が高い。さらに、機能性繊維のニードルループがニードルループ面に表出するため、地組織の繊維および機能性繊維の両方がニードルループ面に表出することになり、色合いの管理が難しい。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであって、機能性繊維の混率を低くしつつ、肌当たりがよく、生産効率が良好であり、機能性繊維の所望の接触特性を十分に得ることができる、経編地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に基づく衣類は、シンカーループ面およびシンカーループ面とは反対側のニードルループ面を有する伸縮性経編地から一部または全部が形成された衣類である。伸縮性経編地は、地組織と挿入組織とを備える。地組織は、非弾性糸で構成された全てのコースでニードルループを有するように編み込まれた第1編成組織と弾性糸で構成された第2編成組織とによって構成されている。挿入組織は、機能性繊維で構成されている。上記弾性糸は、上記機能性繊維よりニードルループ面側に位置している。上記機能性繊維と上記非弾性糸とが交わっている交絡点同士のコース方向の間隔は、1コース以上である。交絡点において上記非弾性糸は、上記機能性繊維よりシンカーループ面側に位置している。交絡点同士の間に位置する上記機能性繊維は、地組織よりシンカーループ面側に位置している。衣類においては、伸縮性経編地のシンカーループ面が肌側に位置している。
【0010】
本発明の一形態においては、上記弾性糸の収縮により地組織および挿入組織が変形した状態において、交絡点における、上記非弾性糸および上記機能性繊維の各々のウェール方向の進行方向が互いに同じである。
【0011】
本発明の一形態においては、上記機能性繊維は、基本動作が同一ウェール上に位置する編成組織によって編成されている。
【0012】
本発明の一形態においては、上記第1編成組織を変化させることにより、上記挿入組織がシンカーループ面側に表出する部分と表出しない部分とが任意に編み分けられている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、機能性繊維の混率を低くしつつ、従来よりも生産難易度を低減でき、肌当たりがよく、機能性繊維の所望の接触特性を十分に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態1に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地の編成組織図である。
【
図3】本発明の実施形態2に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。
【
図4】本発明の実施形態2に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地の編成組織図である。
【
図5】本発明の実施形態3に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。
【
図6】本発明の実施形態3に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地の編成組織図である。
【
図7】比較例に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。
【
図8】比較例に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地の編成組織図である。
【
図9】実施例1に係る伸縮性経編地のシンカーループ面を拡大して示す写真である。
【
図10】実施例1に係る伸縮性経編地のニードルループ面を拡大して示す写真である。
【
図11】実施例2に係る伸縮性経編地のシンカーループ面を拡大して示す写真である。
【
図12】実施例2に係る伸縮性経編地のニードルループ面を拡大して示す写真である。
【
図13】実施例3に係る伸縮性経編地のシンカーループ面を拡大して示す写真である。
【
図14】実施例3に係る伸縮性経編地のニードルループ面を拡大して示す写真である。
【
図15】比較例に係る伸縮性経編地のシンカーループ面を拡大して示す写真である。
【
図16】比較例に係る伸縮性経編地のニードルループ面を拡大して示す写真である。
【
図17】実施例1に係る伸縮性経編地のシンカーループ面の交絡点における非弾性糸と機能性繊維の進行方向を示す写真である。
【
図18】実施例2に係る伸縮性経編地のシンカーループ面の交絡点における非弾性糸と機能性繊維の進行方向を示す写真である。
【
図19】実施例3に係る伸縮性経編地のシンカーループ面の交絡点における非弾性糸と機能性繊維の進行方向を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の各実施形態に係る衣類について図を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰返さない。
【0016】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。
図2は、本発明の実施形態1に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地の編成組織図である。
【0017】
本発明の実施形態1に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地を編成する編成装置としては、たとえば、カールマイヤー社製のRSE4N3Kラッシェル機を用いることができる。ただし、編成装置は、カールマイヤー社製のRSE4N3Kに限られず、編成装置が備える制御機構および筬振り機構の各々の構成は、特に制限されない。給糸量などの編立条件、および、加工条件についても、特に制限されない。
【0018】
図1および
図2に示すように、本発明の実施形態1に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地10は、第1筬、第2筬および第3筬の3枚の筬を用いて編成される。ただし、伸縮性経編地10の編成に用いられる筬の数は、3枚に限られず、3枚以上であってもよい。
【0019】
伸縮性経編地10は、地組織11と挿入組織12とを備える。地組織11は、第1筬にフルセットで糸通しされた非弾性糸1と、第3筬にフルセットで糸通しされた弾性糸3とから構成されている。挿入組織12は、第2筬にフルセットで糸通しされた機能性繊維2で構成されている。
【0020】
第1筬の基本動作は、
図1(A)に示すように、12/21/12/10/01/10//の繰り返し単位を有する。第2筬の基本動作は、
図1(B)に示すように、11/22/22/11/00/00//の繰り返し単位を有する。第3筬の基本動作は、
図1(C)に示すように、22/11/33/11/22/00//の繰り返し単位を有する。
【0021】
非弾性糸1は、材料がナイロン6、太さが33dtex/24fの繊維からなる。ただし、非弾性糸1の材料は、ナイロン6に限られず、他のナイロン若しくはポリエステルなどの合成繊維、レーヨン若しくはアセテートなどの再生繊維、または、綿などの天然繊維でもよい。非弾性糸1は、フィラメント糸に限られず、紡績糸、交撚糸または加工糸などでもよい。非弾性糸1の太さは、特に制限されない。
【0022】
弾性糸3は、材料がポリウレタン、太さが310dtexである、クリアタイプの繊維からなる。ただし、弾性糸3の材料は、ポリウレタンに限られず、他の弾性繊維でもよい。弾性糸3の太さは、特に制限されない。
【0023】
機能性繊維とは、肌との接触特性を所望のものとすることを可能とする、たとえば、吸湿性、吸汗性、保湿性、密着性、または、平滑性などの機能性を有する繊維である。
【0024】
本実施形態においては、機能性繊維2は、材料が綿、太さが60番手である。ただし、機能性繊維2の材料は、綿に限られず、麻などの他の天然繊維、ナイロン若しくはポリエステルなどの合成繊維、キュプラ、レーヨン若しくはアセテートなどの再生繊維でもよい。機能性繊維2は、紡績糸に限られず、フィラメント糸、交撚糸または加工糸などでもよい。機能性繊維2は、弾性糸および非弾性糸のいずれでもよい。機能性繊維2の太さは、特に制限されない。
【0025】
伸縮性経編地10は、シンカーループ面およびシンカーループ面とは反対側のニードルループ面を有している。
図2の紙面手前側の面がシンカーループ面であり、
図2の紙面奥側の面がニードルループ面である。衣類においては、伸縮性経編地10のシンカーループ面が肌側に位置している。
【0026】
図1および
図2に示すように、本発明の実施形態1に係る伸縮性経編地10における地組織11は、非弾性糸1で構成された全てのコースでニードルループを有する第1編成組織と弾性糸3で構成された第2編成組織とによって構成されている。ニードルループN同士の間が、シンカーループSである。挿入組織12は、機能性繊維2で構成されている。なお、挿入組織とは、ニードルループを有さない組織である。
【0027】
機能性繊維2と非弾性糸1とが交わっている交絡点D1,D2同士のコース方向の間隔は、1コース以上である。本実施形態においては、交絡点D1,D2同士のコース方向の間隔は、2コースである。また、弾性糸3は、機能性繊維2よりもニードルループ面側に配置されており、機能性繊維2がシンカーループ面から表出するのを妨げない。これにより、機能性繊維2をシンカーループ面から表出させることが可能となる。
【0028】
機能性繊維2は、交絡点D1,D2において、非弾性糸1と交わりながら編み込まれることにより地組織11に保持され、伸縮性経編地10の構成要素となっている。仮に、機能性繊維2が交絡点D1,D2のような交絡点を有さない場合、機能性繊維2は地組織11から抜け落ちて、伸縮性経編地10の構成要素となることができない。
【0029】
交絡点D1,D2において非弾性糸1は、機能性繊維2よりシンカーループ面側に位置している。交絡点D1,D2同士の間に位置する機能性繊維2は、地組織11よりシンカーループ面側に位置している。弾性糸3は、機能性繊維2よりニードルループ面側に位置している。
【0030】
伸縮性経編地は、編成組織による程度差はあるものの、弾性糸の収縮により編み目の変形が生ずる。伸縮性経編地10も同様に、
図1および
図2に示すように、伸長した状態で編み込まれた弾性糸3は収縮して矢印で示すようにウェール方向に移動する。この弾性糸3の収縮により地組織11および挿入組織12が変形する。
【0031】
図2に示すように、弾性糸3の収縮により、機能性繊維2はウェール方向に交互に蛇行するように変形する。したがって、伸縮性経編地10においては、交絡点D1,D2同士の間に位置する機能性繊維2がシンカーループ面を被覆する割合が高くなる。弾性糸3の収縮による機能性繊維2の変形は、必ずしも起こらなくてもよいが、弾性糸3の収縮によって機能性繊維2が変形することにより、機能性繊維2の接触特性をさらに得やすくすることが可能となる。
【0032】
(実施形態2)
以下、本発明の実施形態2に係る衣類について図を参照して説明する。なお、本発明の実施形態2に係る衣類は、伸縮性経編地の構成が、本発明の実施形態1に係る衣類と異なるため、本発明の実施形態1に係る衣類と同様である構成については説明を繰り返さない。
【0033】
図3は、本発明の実施形態2に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。
図4は、本発明の実施形態2に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地の編成組織図である。
【0034】
図3および
図4に示すように、本発明の実施形態2に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地20は、第1筬、第2筬および第3筬の3枚の筬を用いて編成される。ただし、伸縮性経編地20の編成に用いられる筬の数は、3枚に限られず、3枚以上であってもよい。
【0035】
伸縮性経編地20は、地組織21と挿入組織22とを備える。地組織21は、第1筬にフルセットで糸通しされた非弾性糸1と、第3筬にフルセットで糸通しされた弾性糸3とから構成されている。挿入組織22は、第2筬にフルセットで糸通しされた機能性繊維2で構成されている。
【0036】
第1筬の基本動作は、
図3(A)に示すように、12/21/12/10/01/10//の繰り返し単位を有する。第2筬の基本動作は、
図3(B)に示すように、00//の繰り返し単位を有する。第3筬の基本動作は、
図3(C)に示すように、22/11/33/11/22/00//の繰り返し単位を有する。
【0037】
図3および
図4に示すように、本発明の実施形態2に係る伸縮性経編地20における地組織21は、全てのコースでニードルループNを有するように編み込まれた非弾性糸1および挿入された弾性糸3で構成されている。挿入組織22は、機能性繊維2で構成されている。機能性繊維2は、基本動作が同一ウェール上に位置する編成組織によって編成されている。
【0038】
機能性繊維2と非弾性糸1とが交わっている交絡点D1,D2同士のコース方向の間隔は、1コース以上である。本実施形態においては、交絡点D1,D2同士のコース方向の間隔は、2コースである。また、弾性糸3は、機能性繊維2よりもニードルループ面側に配置されており、機能性繊維2がシンカーループ面から表出するのを妨げない。これにより、機能性繊維2をシンカーループ面から表出させることが可能となる。
【0039】
機能性繊維2は、交絡点D1,D2において、非弾性糸1と交わりながら編み込まれることにより地組織21に保持され、伸縮性経編地20の構成要素となっている。仮に、機能性繊維2が交絡点D1,D2のような交絡点を有さない場合、機能性繊維2は地組織21から抜け落ちて、伸縮性経編地20の構成要素となることができない。
【0040】
交絡点D1,D2において非弾性糸1は、機能性繊維2よりシンカーループ面側に位置している。交絡点D1,D2同士の間に位置する機能性繊維2は、地組織21よりシンカーループ面側に位置している。弾性糸3は、機能性繊維2よりニードルループ面側に位置している。
【0041】
図3および
図4に示すように、伸長した状態で編み込まれた弾性糸3は収縮して矢印で示すようにウェール方向に移動する。この弾性糸3の収縮により地組織21および挿入組織22が変形する。
【0042】
図4に示すように、弾性糸3の収縮により、機能性繊維2はウェール方向に交互に蛇行するように変形する。したがって、伸縮性経編地20においては、交絡点D1,D2同士の間に位置する機能性繊維2がシンカーループ面を被覆する割合を高くすることができる。
【0043】
機能性繊維2は、基本動作が同一ウェール上に位置する編成組織によって編成されていることにより、機能性繊維2の給糸量を最大限低減することができ、機能性繊維2の混率を効果的に低くすることができる。
【0044】
(実施形態3)
以下、本発明の実施形態3に係る衣類について図を参照して説明する。なお、本発明の実施形態3に係る衣類は、伸縮性経編地の構成が、本発明の実施形態1に係る衣類と異なるため、本発明の実施形態1に係る衣類と同様である構成については説明を繰り返さない。
【0045】
図5は、本発明の実施形態3に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。
図6は、本発明の実施形態3に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地の編成組織図である。
【0046】
図5および
図6に示すように、本発明の実施形態3に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地30は、第1筬、第2筬および第3筬の3枚の筬を用いて編成される。ただし、伸縮性経編地30の編成に用いられる筬の数は、3枚に限られず、3枚以上であってもよい。
【0047】
伸縮性経編地30は、地組織31と挿入組織32とを備える。地組織31は、第1筬にフルセットで糸通しされた非弾性糸1と、第3筬にフルセットで糸通しされた弾性糸3とから構成されている。挿入組織32は、第2筬にフルセットで糸通しされた機能性繊維2で構成されている。
【0048】
第1筬の基本動作は、
図5(A)に示すように、12/21/12/10/01/10//の繰り返し単位を有する。第2筬の基本動作は、
図5(B)に示すように、22/22/22/00/00/00//の繰り返し単位を有する。第3筬の基本動作は、
図5(C)に示すように、22/11/33/11/22/00//の繰り返し単位を有する。
【0049】
図5および
図6に示すように、本発明の実施形態3に係る伸縮性経編地30における地組織31は、全てのコースでニードルループNを有するように編み込まれた非弾性糸1および挿入された弾性糸3で構成されている。挿入組織32は、機能性繊維2で構成されている。
【0050】
機能性繊維2と非弾性糸1とが交わっている交絡点D1,D2同士のコース方向の間隔は、1コース以上である。本実施形態においては、交絡点D1,D2同士のコース方向の間隔は、2コースである。また、弾性糸3は、機能性繊維2よりもニードルループ面側に配置されており、機能性繊維2がシンカーループ面から表出するのを妨げない。これにより、機能性繊維2をシンカーループ面から表出させることが可能となる。
【0051】
機能性繊維2は、交絡点D1,D2において、非弾性糸1と交わりながら編み込まれることにより地組織31に保持され、伸縮性経編地30の構成要素となっている。仮に、機能性繊維2が交絡点D1,D2のような交絡点を有さない場合、機能性繊維2は地組織31から抜け落ちて、伸縮性経編地30の構成要素となることができない。
【0052】
交絡点D1,D2において非弾性糸1は、機能性繊維2よりシンカーループ面側に位置している。交絡点D1,D2同士の間に位置する機能性繊維2は、地組織31よりシンカーループ面側に位置している。弾性糸3は、機能性繊維2よりニードルループ面側に位置している。
【0053】
図5および
図6に示すように、伸長した状態で編み込まれた弾性糸3は収縮して矢印で示すようにウェール方向に移動する。この弾性糸3の収縮により地組織31および挿入組織32が変形する。
【0054】
図6に示すように、弾性糸3の収縮により、機能性繊維2は、ウェール方向に交互に蛇行するように変形する。したがって、伸縮性経編地30においては、交絡点D1,D2同士の間に位置する機能性繊維2がシンカーループ面を被覆する割合を高くすることができる。
【0055】
(比較例)
以下、比較例に係る衣類について図を参照して説明する。なお、比較例に係る衣類は、伸縮性経編地の構成が、本発明の実施形態1に係る衣類と異なるため、本発明の実施形態1に係る衣類と同様である構成については説明を繰り返さない。
【0056】
図7は、比較例に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地を編成する筬の各々の基本動作を示す編成組織図である。
図8は、比較例に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地の編成組織図である。
【0057】
図7および
図8に示すように、比較例に係る衣類の一部または全部を構成する伸縮性経編地40は、第1筬、第2筬および第3筬の3枚の筬を用いて編成される。
【0058】
伸縮性経編地40は、第2筬にフルセットで糸通しされた非弾性糸1と、第3筬にフルセットで糸通しされた弾性糸3と、第1筬にフルセットで糸通しされた機能性繊維2で構成されている。
【0059】
第1筬の基本動作は、
図7(A)に示すように、23/22/11/10/11/22//の繰り返し単位を有する。第2筬の基本動作は、
図7(B)に示すように、12/21/12/10/01/10//の繰り返し単位を有する。第3筬の基本動作は、
図7(C)に示すように、22/11/33/11/22/00//の繰り返し単位を有する。
【0060】
図7および
図8に示すように、比較例に係る伸縮性経編地40における地組織41は、全てのコースでニードルループNを有するように編み込まれた非弾性糸1および挿入された弾性糸3で構成されている。
【0061】
比較例に係る伸縮性経編地40における機能性繊維2は、6コースの繰り返し組織の中で第1コース目および第4コース目のみでニードルループNを有するように編み込まれている。
【0062】
機能性繊維2がニードルループNを有するように編み込まれていることにより、機能性繊維2の給糸量が多く、機能性繊維2の混率が高い。また、機能性繊維2が6コースの繰り返し組織の中で第1コース目および第4コース目のみでニードルループNを有するように編み込まれていることにより、編み立て時の機能性繊維2の張力が、第1コース目および第4コース目で高くなり、第2コース目、第3コース目、第5コース目および第6コース目で低くなる。このため、機能性繊維2は、コース方向において、緊張と弛緩を交互に繰り返すことになり、糸の挙動が安定せず、糸切れが生じやすくなり、生産難易度が高いものとなる。
【0063】
(実験例)
以下、本発明の実施形態1に係る伸縮性経編地10の構成を有する実施例1に係る伸縮性経編地、本発明の実施形態2に係る伸縮性経編地20の構成を有する実施例2に係る伸縮性経編地、本発明の実施形態3に係る伸縮性経編地30の構成を有する実施例3に係る伸縮性経編地、および、比較例に係る伸縮性経編地40について、シンカーループ面およびニードルループ面の各々を撮像して観察した実験例について説明する。
【0064】
表1は、機能性繊維の給糸量と混率をまとめたものである。
【0065】
【0066】
図9は、実施例1に係る伸縮性経編地のシンカーループ面を拡大して示す写真である。
図10は、実施例1に係る伸縮性経編地のニードルループ面を拡大して示す写真である。
図11は、実施例2に係る伸縮性経編地のシンカーループ面を拡大して示す写真である。
図12は、実施例2に係る伸縮性経編地のニードルループ面を拡大して示す写真である。
図13は、実施例3に係る伸縮性経編地のシンカーループ面を拡大して示す写真である。
図14は、実施例3に係る伸縮性経編地のニードルループ面を拡大して示す写真である。
図15は、比較例に係る伸縮性経編地のシンカーループ面を拡大して示す写真である。
図16は、比較例に係る伸縮性経編地のニードルループ面を拡大して示す写真である。
【0067】
図9、
図11および
図13に示すように、実施例1~3に係る伸縮性経編地においては、交絡点D1,D2同士の間に位置する機能性繊維2は、地組織11,21,31よりシンカーループ面側に位置しており、交絡点D1,D2において非弾性糸1は、機能性繊維2よりシンカーループ面側に位置している。これにより、衣類の肌側となるシンカーループ面に機能性繊維2を集中させることができ、機能性繊維2の機能を発揮させやすくすることができる。
【0068】
図10、
図12および
図14に示すように、実施例1~3に係る伸縮性経編地においては、機能性繊維2は、ニードルループ面に表出しておらず、非弾性糸1のニードルループのみがニードルループ面に表出している。これにより、衣類の肌側とは反対の表側となるニードルループ面の色合いを非弾性糸1のみの色によって調整することが可能となるため、色合いの管理が容易となるとともに発色をよくすることができる。
【0069】
図16に示すように、比較例に係る伸縮性経編地においては、ニードルループ面に機能性繊維2のニードルループと非弾性糸1のニードルループとが表出しているため、機能性繊維2と非弾性糸1とを目的とする色合いに均一に染色しなければならず、色合いの管理が難しい。また、機能性繊維2がニードルループNを有するように編み込まれていることにより、機能性繊維2の混率が高く、伸縮性経編地の生産コストが高くなる。
【0070】
実施例1~3に係る伸縮性経編地においては、機能性繊維2がニードルループを形成しないように挿入されているため、編み立て時の機能性繊維2の張力が安定し、糸切れなどの不具合が生じにくくなり、生産効率を向上することができる。
【0071】
実施例2に係る伸縮性経編地においては、機能性繊維2は、基本動作が同一ウェール上に位置する編成組織によって編成されていることにより、機能性繊維2の混率を効果的に低くして伸縮性経編地の生産コストを低減しつつ、シンカーループ面に機能性繊維2を集中させることで機能性繊維2の機能を十分に発揮させることができる。
【0072】
実施例1~3に係る伸縮性経編地においては、弾性糸3の収縮により、機能性繊維2はウェール方向に交互に蛇行するように変形するため、機能性繊維2によってシンカーループ面を効果的に被覆することができる。
【0073】
図15に示すように、比較例に係る伸縮性経編地においては、機能性繊維2が6コースの繰り返し組織の中で第1コース目および第4コース目のみでニードルループNを有するように編み込まれていることにより、機能性繊維2は、コース方向において緊張と弛緩を交互に繰り返すことになり、糸の挙動が安定せず、糸切れが生じやすくなり、生産難易度が高いものとなる。
【0074】
図17は、実施例1に係る伸縮性経編地のシンカーループ面の交絡点における非弾性糸と機能性繊維の進行方向を示す写真である。
図18は、実施例2に係る伸縮性経編地のシンカーループ面の交絡点における非弾性糸と機能性繊維の進行方向を示す写真である。
図19は、実施例3に係る伸縮性経編地のシンカーループ面の交絡点における非弾性糸と機能性繊維の進行方向を示す写真である。
図17~
図19において、ウェール方向は、図の左右方向である。
【0075】
図17および
図18に示すように、実施例1および実施例2に係る伸縮性経編地においては、弾性糸3の収縮により地組織11,21および挿入組織12,22が変形した状態において、交絡点における非弾性糸1のウェール方向の進行方向S1と、機能性繊維2のウェール方向の進行方向S2とが、いずれも図中左側から右側に進行しており、互いに同じである。これにより、機能性繊維2にねじれが生じ、シンカーループ面に表出した機能性繊維2は、伸縮性経編地の厚み方向に盛り上がるように変形する。その結果、シンカーループ面に機能性繊維2のパイルが形成されて被覆量が増加し、機能性繊維2の機能を発揮しやすくなるとともに肌当たりがソフトになる。
【0076】
図19に示すように、実施例3に係る伸縮性経編地においては、弾性糸3の収縮により地組織31および挿入組織32が変形した状態において、交絡点における非弾性糸1のウェール方向の進行方向S1と、機能性繊維2のウェール方向の進行方向S2とが、S1は図中左側から右側に進行しており、S2は図中右側から左側に進行しており、互いに異なる。これにより、機能性繊維2にねじれが生じにくく、シンカーループ面に表出した機能性繊維2は、伸縮性経編地の生地平面上に留まる。その結果、伸縮性経編地を薄地に維持しつつ、機能性繊維2の機能を発揮させることができる。
【0077】
なお、非弾性糸1の第1編成組織を変化させることにより、交絡点が生じる頻度を変化させてもよい。これにより、機能性繊維2が表出するコース数を変化させたり、機能性繊維2が表出する部分と表出しない部分とを編み分けたりすることが可能となる。すなわち、第1編成組織を変化させることにより、挿入組織12,22,32がシンカーループ面側に表出する部分と表出しない部分とを任意に編み分けることができる。たとえば、保温性のある機能性繊維2を使用し、衣類の腹部にあたる部分では、多くの機能性繊維2を表出させるなどして、衣類が肌に接触する部位に対応してより高い機能性を発揮するようにすることが可能となる。
【0078】
非弾性糸1の第1編成組織を変化させる方法としては、ジャカード機構を有する筬を使用してジャカードガイドを任意に変位させる方法、または、EL機構を有する筬を使用して、第1編成組織を変化させる方法などがある。
【0079】
なお、今回開示した上記実施形態および実施例はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態および実施例のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1 非弾性糸、2 機能性繊維、3 弾性糸、10,20,30,40 伸縮性経編地、11,21,31,41 地組織、12,22,32 挿入組織、D1,D2 交絡点、N ニードルループ、S シンカーループ。