(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055167
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】医療用蛍光装置
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20220331BHJP
A61B 1/00 20060101ALI20220331BHJP
A61B 1/313 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
A61B10/00 E
A61B1/00 511
A61B1/313
A61B1/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162613
(22)【出願日】2020-09-28
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】早稲田 龍一
【テーマコード(参考)】
4C161
【Fターム(参考)】
4C161AA24
4C161BB08
4C161DD01
4C161QQ04
4C161RR04
4C161WW02
4C161WW17
(57)【要約】
【課題】蛍光物質としてビタミンB2を使用し、不可視光の波長の光を励起光として照射することで直視下手術において肉眼で患部を認識することが可能となる医療用蛍光装置を提供する。
【解決手段】蛍光物質であるビタミンB2が注入された注入部位、及び当該注入部位に隣接する非注入部位に不可視光の波長の光を励起光として照射する照射手段を備える。不可視光の波長は255nm~365nmであり、特に肺の区域同定において経気道法を用いる場合は300nm~315nmの波長を励起光とし、経血流法を用いる場合は250nm~285nm又は365nm近傍の波長を励起光とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光物質であるビタミンB2が投与されて分布する第1部位、及び当該第1部位に隣接する前記ビタミンB2が分布しない第2部位に不可視光の波長の光を励起光として照射する照射手段を備えることを特徴とする医療用蛍光装置。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用蛍光装置において、
前記励起光の波長が255nm~374nmである医療用蛍光装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の医療用蛍光装置において、
前記照射手段が、血管内に前記ビタミンB2が分布する前記第1部位、及び/又は血管内に前記ビタミンB2が分布しない前記第2部位に前記励起光を照射する医療用蛍光装置。
【請求項4】
請求項3に記載の医療用蛍光装置において、
前記照射手段が照射する励起光の波長が250nm~285nm、又は360nm~374nmである医療用蛍光装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の医療用蛍光装置において、
前記照射手段が照射する対象が肺であり、当該肺の気管支に注入された前記ビタミンB2に対して300nm~315nmの波長で励起光を照射する医療用蛍光装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の医療用蛍光装置において、
前記照射手段の先端部分に前記励起光を発光する光源を有する医療用蛍光装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の医療用蛍光装置において、
特定する対象となる部位の違いに応じて前記励起光の光特性を制御する制御手段を備える医療用蛍光装置。
【請求項8】
請求項1ないし8のいずれかに記載の医療用蛍光装置において、
照射された前記励起光の位置及び/又は照射範囲を示すガイドレーザを備える医療用蛍光装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の医療用蛍光装置を用いた医療用撮像システムであって、
前記照射手段が励起光を照射した注入部位、及び非注入部位を撮像する撮像装置と、
撮像された情報を出力するディスプレイとを備える医療用撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療において処置対象となる領域を蛍光発光で識別する医療用蛍光装置に関し、特に励起光を不可視光とする医療用蛍光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多種の臓器領域において精密で安全な手術を施行するために、多様なナビゲーション技術や機器が開発され普及してきている。例えば、患部などを含む特定部位の組織血流を術中にリアルタイムに認識する技術があり、様々な術式で利用されている。代表的な利用法として、肺や肝臓などの実質臓器の切除範囲を決めるのに利用されたり、消化管などの管状臓器の吻合においてその成否を予見すべく吻合部血流を評価するのに利用されている。
【0003】
特定部位の認識において蛍光装置を用いるものが知られており、インドシアニングリーン(ICG)と近赤外線光機器を使用したICG蛍光法がある。ICG蛍光法における蛍光の原理は、近赤外光(ピーク波長805nm,750-810nm)を励起波長とし、ICGの835nm付近の蛍光波長を観察するものとなっている。
【0004】
一方で、発明者らは長年ビタミンB2を蛍光物質とする研究を行ってきた。例えば非特許文献1において、ブタの右肺で特定の肺区域の同定をする際に、関与する区域気管支を同定した後、蛍光物質であるビタミンB2をその気管支に注入し、PDD用内視鏡システムを使用して蛍光(波長)を観察したことが開示されており、その結果、対象の肺区域を正確に同定することが可能であったことが開示されている。
【0005】
また、非特許文献2においては、上記非特許文献1の方法を生きたブタの肺を使用することで、人での使用を想定した状況で有効性や安全性を確保できるかを検証した結果が開示されており、ここでも対象とする肺区域を正確に識別することが可能であったことが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ryuichi Waseda, Makoto Oda, Isao Matsumoto, Masaya Takizawa, Mitsutaka Suzuki, Masahiro Ohsima, and Go Watanabe, “A novel fluorescence technique for identification of the pulmonary segments by using the photodynamic endoscope system: An experimental study in ex vivo porcine lung”, The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery, vol. 146, No. 1, p.222-p.227, July 2013
【非特許文献2】Masahiro Ohsima, Ryuichi Waseda, Nobuhiro Tanaka, Hideyasu Ueda, Akishi Ooi, Isao Matsumoto, “A new fluorescence anatomic pulmonary segmentectomy using PDD endoscope system and vitamin B2: evaluation in a clinical setting using living animal”, Surgical Endoscopy, 30:339-345, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年患者への負担を低減するために内視鏡による鏡視下手術が増加しているが、依然として開胸、開腹を伴って肉眼で患部などの特定部位を確認しながら処置を行う直視下手術も多く行われており、特に直視下手術における肉眼での部位の特定を正確で、且つ簡単に行う技術が望まれている。
【0008】
しかしながら、上述したようなICG蛍光法を用いた場合は、ICGの蛍光波長が835nm近傍で不可視の波長帯域となっているため肉眼で患部を識別することができない。また、励起波長と蛍光波長との値が近いことから、鏡視下手術においても励起光によるノイズが影響して蛍光が視認しづらくなり、内視鏡カメラにフィルタリング等の特殊な機能を備える必要がある。その一方で、非特許文献1及び2に示す技術についても内視鏡を使用しての観察にしか言及しておらず、励起波長(375nm~450nm)と蛍光波長との関係から肉眼で正確に患部を識別するのは困難性が高いものとなっている。
【0009】
すなわち、いずれの技術においても肉眼での患部の識別が難しく、少なくとも内視鏡システムのような専用の観察装置が必要となる。また、肉眼で直視下手術を行う場合は術野と観察装置の画面(例えば、モニタに映し出された映像やヘッドマウントディスプレイに映し出された映像)とを見比べながら処置を行う必要があり、顔の向きや視線の移動が頻繁に起こることでドクターの労力が過大になると共に、蛍光の視認と同時に患部を認識するという真にリアルタイムでの患部の特定ができないという課題を有する。
【0010】
また、ICGはヨードを含む薬剤であるためヨードアレルギーを有する患者には使用できないが、非特許文献1、2に示されたビタミンB2は、理論上アレルギーや中毒、さらに組織障害のない非常に安全な薬剤であり、あらゆる患者に対して使用可能である。また、その安全性から気道内への投与が可能であり、非特許文献1、2においては気道内投与による蛍光観察が行われているが、一方で血管内投与(血流分布)による患部特定の手法については一切言及されていない。
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、蛍光物質としてビタミンB2を使用し、不可視光の波長の光を励起光として照射することで直視下手術においても肉眼で特定部位を認識することが可能となる医療用蛍光装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る医療用蛍光装置は、蛍光物質であるビタミンB2が投与されて分布する第1部位、及び当該第1部位に隣接する前記ビタミンB2が分布しない第2部位に不可視光の波長の光を励起光として照射する照射手段を備えるものである。
【0013】
このように、本発明に係る医療用蛍光装置においては、蛍光物質であるビタミンB2が投与されて分布する第1部位、及び当該第1部位に隣接する前記ビタミンB2が分布しない第2部位に不可視光の波長の光を励起光として照射するため、蛍光波長のピークが540nm(可視光)であるビタミンB2が分布する部位は蛍光が発光し、分布しない部位は蛍光が発光しないことで、肉眼による視認でビタミンB2の分布/非分布の境界を明確にし、対象とする部位を容易に特定することが可能になるという効果を奏する。
【0014】
また、不可視光の波長の光を励起光とすることで、肉眼で視認した場合に励起光によるノイズ(例えば、干渉等)が排除され、蛍光のみを明確に視認することができるという効果を奏する。
【0015】
本発明に係る医療用蛍光装置は、前記励起光の波長を255nm~374nmとするものである。
【0016】
このように、本発明に係る医療用蛍光装置においては、励起光の波長を255nm~374nmとするため、後述する実験結果から明らかなように、特定したい患部などの部位を肉眼で明確に視認することができるという効果を奏する。また、励起光の波長が比較的短いため照射部位の表面のみを蛍光発光させることが可能となり、特に皮膚や吻合部などの表面の血流などを評価したい場合に非常に使い勝手が良いものになるという効果を奏する。
【0017】
本発明に係る医療用蛍光装置は、前記照射手段が、血管内に前記ビタミンB2が分布する前記第1部位、及び/又は血管内に前記ビタミンB2が分布しない前記第2部位に前記励起光を照射するものである。
【0018】
このように、本発明に係る医療用蛍光装置においては、血管内に前記ビタミンB2が分布する前記第1部位、及び/又は血管内に前記ビタミンB2が分布しない前記第2部位に前記励起光を照射するため、ビタミンB2の血管への投与により当該ビタミンB2が分布する組織と分布しない組織とを明確に識別することが可能となり、血流により部位を特定することができるという効果を奏する。すなわち、非特許文献1、2に示された場合ように、気道が存在しない組織や患部であっても血流に分布するビタミンB2の蛍光により肉眼で患部を特定することが可能となる。
【0019】
本発明に係る医療用蛍光装置は、前記照射手段が照射する励起光の波長を250nm~285nm又は360nm~374nmとするものである。
【0020】
このように、本発明に係る医療用蛍光装置においては、照射手段が照射する励起光の波長を250nm~285nm又は360nm~374nmとするため、後述する実験結果から明らかなように、血液中に投与された血中のビタミンB2の励起を促進して蛍光発色を得ることができるという効果を奏する。
【0021】
本発明に係る医療用蛍光装置は、前記照射手段が照射する対象が肺であり、当該肺の気管支に注入された前記ビタミンB2に対しては300nm~315nmの波長で励起光を照射するものである。
【0022】
このように、本発明に係る医療用蛍光装置においては、前記照射手段が照射する対象が肺であり、当該肺の気管支に注入された前記ビタミンB2に対して300nm~315nmの波長で励起光を照射するため、後述する実験結果から明らかなように、気管支に注入されたビタミンB2自体の励起を促進して蛍光発色することができるという効果を奏する。
【0023】
本発明に係る医療用蛍光装置は、前記照射手段の先端部分に前記励起光を発光する光源を有するものである。
【0024】
このように、本発明に係る医療用蛍光装置においては、照射手段の先端部分に前記励起光を発光する光源を有するため、励起光の波長が短く減衰しやすい場合であっても患部に近い位置で確実に励起光を照射することができるという効果を奏する。
【0025】
本発明に係る医療用蛍光装置は、特定する対象となる部位の違いに応じて前記励起光の光特性を制御する制御手段を備えるものである。
【0026】
このように、本発明に係る医療用蛍光装置においては、特定する対象となる部位の違いに応じて前記励起光の光特性を制御する制御手段を備えるため、様々な部位を特定することが可能となり、汎用的に利用することができるという効果を奏する。
【0027】
本発明に係る医療用蛍光装置は、照射された前記励起光の位置及び/又は照射範囲を示すガイドレーザを備えるものである。
【0028】
このように、本発明に係る医療用蛍光装置においては、照射された前記励起光の位置及び/又は照射範囲を示すガイドレーザを備えるため、励起光が不可視光であってもその照射位置及び/又は照射範囲を明確にして、対象となる部位を肉眼により視認することができるという効果を奏する。
【0029】
本発明に係る医療用撮像システムは、前記医療用蛍光装置を用いた医療用撮像システムであって、前記照射手段が励起光を照射した注入部位、及び非注入部位を撮像する撮像装置と、撮像された情報を出力するディスプレイとを備えるものである。
【0030】
このように、本発明に係る医療用撮像システムにおいては、前記医療用蛍光装置を用いた医療用撮像システムであって、前記照射手段が励起光を照射した注入部位、及び非注入部位を撮像する撮像装置と、撮像された情報を出力するディスプレイとを備えるため、内視鏡などによる鏡視下手術を行うような場合であっても、撮像装置を通した映像で患部を明確に認識することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】第1の実施形態に係る医療用蛍光装置の概要図である。
【
図2】肺を区域切除又は部分切除する場合の模式図である
【
図3】リボフラビンリン酸エステルナトリウム水溶液(製品名:ビスラーゼ注射薬)の励起光スペクトルを測定した結果を示す図である。
【
図4】リボフラビン水溶液の励起光スペクトルを測定した結果を示す図である。
【
図5】経気道法及び経血流法による肺の患部特定を示す図である。
【
図6】第1の実施形態に係る蛍光装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】第2の実施形態に係る医療用撮像システムのシステム構成の一例を示す図である。
【
図8】第3の実施形態に係る医療用撮像システムのシステム構成の一例を示す図である。
【
図9】実施例に係る蛍光装置を用いて310nmの励起光を照射した経気道法によるビタミンB2の蛍光発光の画像である。
【
図10】実施例に係る蛍光装置を用いて310nmの励起光を照射した経血流法によるビタミンB2の蛍光発光の画像である。
【
図11】実施例に係る蛍光装置を用いて290nmの励起光を照射した経血流法によるビタミンB2の蛍光発光の画像である。
【
図12】実施例に係る蛍光装置を用いて270nmの励起光を照射した経血流法によるビタミンB2の蛍光発光の画像である。
【
図13】実施例に係る蛍光装置を用いて365nmの励起光を照射した経血流法によるビタミンB2の蛍光発光の画像である。
【
図14】実施例に係る蛍光装置を用いて405nmの励起光を照射した経血流法によるビタミンB2の蛍光発光の画像である。
【
図15】実施例に係る蛍光装置を用いて近距離で励起光を照射した部位の組織構造の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る医療用蛍光装置について、
図1ないし
図6を用いて説明する。本実施形態に係る医療用蛍光装置は、患者に対してビタミンB2を投与することで手術や治療を行う患部又はその周辺部位にビタミンB2を分布させ、この分布領域にビタミンB2を蛍光発光させるための励起光を照射するものである。本実施形態においては、肉眼により直視下で患部領域を特定する場合について説明する。
【0033】
図1は、本実施形態に係る医療用蛍光装置の概要図である。本実施形態で手術や治療の対象となる部位としては、例えば
図1に示すように、肺、肝臓、皮膚表面、消化管吻合部位などが想定され、これらの治療対象部位に対して蛍光装置1で励起光を照射する。治療対象部位は
図1に示したもの以外にも例えば、乳腺、リンパ節なども想定される。これらの治療対象部位に対して治療行為を行う前に、患者に対してビタミンB2を含む注射薬や水溶液が投与され、患部又はその隣接する周辺部位にビタミンB2が分布する状態となっている。
【0034】
例えば肺の場合、具体的には後述するが、肺の区域を明確に視認することが可能となる。肝臓の場合も同様に区域の特定が可能となる。皮膚表面の場合は、例えば
図1に示すように臀部に褥瘡があるような場合に状況によっては壊死部分の組織を除去する必要がある。このとき、予め四肢の静脈からの全身投与または褥瘡部周辺の動脈内投与を行い、すくなくとも当該褥瘡部周辺にビタミンB2が分布された状態とし、当該褥瘡部周辺に励起光を照射することで褥瘡部の中で血流が良い部分(蛍光発光する)と悪い部分(蛍光発光しない)とを識別することが可能となる。また、消化管吻合部位の場合について、例えば大腸の腫瘍を切除後に吻合を行ったときに吻合処理が安全に施行されているかどうかを確認する際に吻合部の血流によりその成否を判断することが可能である。皮膚の場合と同様に、少なくとも当該吻合部位周囲に予めビタミンB2が分布された状態とし、当該吻合部位周囲に励起光を照射することで吻合部血流の多寡を確認する。十分に蛍光発光している場合は吻合処理が正確に成されたと判断することができる。
【0035】
後述するように、本実施形態において励起光に短波長(255nm~374nm)の光を用いる場合は、組織の深部に光が侵入しにくく、逆に組織の表面近傍のビタミンB2に対しては蛍光発光しやすくなるため、上記に示したように表面の血流が重要となる皮膚や消化管壁の血流の有無が重要となる吻合部において特に使い勝手が良いものとなる。
【0036】
ここで、肺の場合を例に具体的に説明する。
図2は、肺を区域切除又は部分切除する場合の模式図である。近年、CT等の画像診断の発達により肺癌に代表される小型の肺病変が多く発見されるようになり、これら小病変に対して、症例に応じた肺切除範囲の縮小による肺機能温存を目指した低侵襲手術、すなわち
図2に示すような肺区域切除や肺部分切除が積極的に行われるようになった。一方、肺部分切除を行う際には、特定の解剖学的構造を同定する必要はないが、確実な病変の切除を行う場合には、対象となる患部の正確な位置の特定が重要となる。そのような場合には触知することで病変の局在を認識する方法が一般的であるが、近年の小病変の中には触知が困難なほどの小病変がある。
【0037】
上述したように、対象となる患部領域を蛍光発光で区別することが従来知られているものの、直視下手術などにおいて肉眼で直接視認する場合には励起光の影響で蛍光発光を十分に視認できなかったり、そもそも蛍光発光が不可視光の波長領域であるなどの理由で実現することが難しかった。本実施形態に係る医療用蛍光装置においては、蛍光波長が可視光領域の540nmであるビタミンB2を蛍光物質として用い、励起光として不可視光領域の波長(例えば、255nm~374nm)の光を用いることで、直視下における励起光のノイズ(干渉)を排除しつつ、蛍光発光のみを明確に視認することが可能となっている。
【0038】
ビタミンB2(別名リボフラビン)として一般的に使用されているものには錠型・粉末の内服用製剤と注射用製剤とがある。本実施形態におけるビタミンB2の使用方法、すなわち水溶液として静脈内や気道内に投与することを想定した場合、注射用製剤を使用することが妥当と考えられる。そのため、市販薬品間での差異(最終的な成分は同様であるが製造工程や添加物などが異なる)の影響を考慮し、後発医薬品を含め現在国内で入手可能な注射用ビタミンB2製剤の分析を行った。また、市販されている注射用製剤ではないが、添加物を含まない研究用試薬リボフラビン末の水溶液も分析対象に加えた。分析は、ビタミンB2の蛍光波長を540nmに設定し、220nm-520nmの波長を1nm毎に分光蛍光光度計を使って測定した。これらの結果からビタミンB2を効果的に蛍光発光させるための励起光の波長を特定することができた。
【0039】
図3は、注射用ビタミンB2製剤であるリボフラビンリン酸エステルナトリウム(商品名:ビスラーゼ)注射薬の励起光スペクトルを測定した結果を示す図、
図4は、リボフラビン水溶液の励起光スペクトルを測定した結果を示す図である。
図3のビスラーゼ注射薬の場合は、310nmと517nmにそれぞれピークがある。すなわち、310nmと517nmの各波長の励起光でビタミンB2が効果的に蛍光発光する。一方、リボフラビン水溶液の場合は、270nm、365nm及び447nmにそれぞれピークが測定された。すなわち、270nm、365nm及び447nmの各波長の励起光でビタミンB2が効果的に蛍光発光する。
図3及び
図4の結果から明らかなように、同じビタミンB2であっても製剤によって異なる光特性を示すことが明確となった。つまり、患部の状態や術式の違い等に応じて製剤を使い分けることで多様な状況に対応することができると共に、適正な蛍光発色を実現することが可能となる。なお、
図3における447nmのピークと
図4における517nmのピークについては可視光の波長になるので直視下での観察を前提とする本実施形態においては励起光の波長として適さない。
【0040】
製剤の使い分けについて肺の場合を例にして具体的に説明する。肺の場合は、部位の区域を同定する方法として、対象となる気管支にビタミンB2を投与する経気道法と対象となる部位に分布する肺血管を処理した後に経静脈にビタミンB2を全身投与する経血流法とがある。
図5は、経気道法(A)及び経血流法(B)による肺の患部同定を示す図である。
図5(A)の経気道法による患部同定では特定したい患部の気管支にビタミンB2を投与し、その患部及び周辺領域に蛍光装置1で励起光を照射することで注入したビタミンB2を蛍光発光させて患部領域を特定する。すなわち、蛍光発光している領域が特定したい患部を示している。なお、この経気道法においては吸入によりビタミンB2を投与してもよい。
【0041】
一方、
図5(B)の経血流法による患部同定では特定したい患部に分布する血流を遮断し、その状態で経静脈的に全身にビタミンB2を投与し、患部及び周辺領域に蛍光装置1で励起光を照射することで血管中のビタミンB2を蛍光発光させて患部領域を特定する方法である。すなわち、血流が遮断されている患部は蛍光発光せず、隣接する部位が蛍光発光するため、周囲の蛍光発光している領域に対して蛍光発光していない領域が患部を示している。なお、特定したい患部に隣接する部位に繋がる血流を止めた場合には、
図5(A)の場合と同様に蛍光発光している領域が特定したい患部を示すこととなる。また、経血流的にビタミンB2を投与する場合は、全身ではなく患部及び周辺領域にのみ注入するようにしてもよい。
【0042】
発明者らの実験により、生体内の特に血中に投与された場合のビタミンB2の励起光スペクトルは、いずれも
図4に示すパターンであることが明らかとなった。以上のことから、経気道法においては
図3のスペクトルにしたがって300nm~315nmの励起光、より好ましくは305nm~310nmの励起光を蛍光装置1が発光して照射されるのが望ましい。また、経静脈法においては
図4のスペクトルにしたがって250nm~285nm、又は360nm~374nmの励起光、より好ましくは265nm~270nm、又は365nmの励起光を蛍光装置1が発光して照射されるのが望ましい。
【0043】
図6は、本実施形態に係る蛍光装置1の構成の一例を示すブロック図である。蛍光装置1は、懐中電灯のようなバッテリ駆動の携帯型蛍光装置であり、所定の波長の光を発光するLED光源11と、当該LED光源11(又は必要に応じて駆動電源(バッテリ等))を冷却するための冷却部12と、LED光源11や冷却部12に駆動用の電力を供給するバッテリ13と、操作者の操作を入力するための操作部14と、操作部14で入力された操作に応じて各部の駆動を制御する制御部15と、LED光源11の温度(又は電流値)を検出する温度センサ16とを備える。LED光源11は、蛍光装置1の先端部分(光が放出される部分)に配設されており、経気道法に用いる場合は波長が300nm~315nmの励起光を発光するものを用い、経血流法に用いる場合は波長が250nm~285nm又は360nm~374nmの励起光を発光するものを用いる。
【0044】
操作部14で電源がONに操作されると制御部15の制御で蛍光装置1が起動し、バッテリ13からの電力でLED光源11による発光が行われる。このとき、温度センサ16でLED光源11の温度を検出し、ある温度以上になった場合に制御部15が冷却部12を駆動する。以降、温度帯に応じて冷却部12の駆動状態が制御される。なお、温度センサ16による温度以外にもLED光源11を流れる電流値を検出してもよく、この電流値が所定値以上になった場合にLED光源11が温度上昇していると見做して冷却部12の駆動を制御してもよい。操作部14で電源がOFFに操作されるとバッテリ13からの電力供給が停止し、LED光源11による発光と冷却部12の駆動が停止する。なお、バッテリ13は一次電池でも二次電池でもよく、またバッテリ13の代わりに系統電力で駆動できるようにしてもよい。さらに、二次電池を用いる場合は系統からの電力で充電を行いなから蛍光装置1の起動ができるようにしてもよい。
【0045】
なお、LED光源11による発光は、拡散光又は平行光であることが望ましく、肺や肝臓などの特定部位をムラなく均一に照射するには平行光であることがより望ましい。また、発光部14のレンズについて、アタッチメントの交換、又は操作部14の切り替え操作により焦点距離が自在に可変できるようにしてもよい。例えば、LED光源11を環状光源とした場合に対象となる特定部位までの距離と焦点距離を一致させることで強い光で点照射が可能となり、距離を異ならせることで拡散したサークル照射が可能となる。これらは、対象となる部位や手術の状況、患者の状態に応じて切り替えて利用することが可能である。さらに、LED光源11で照射する光が不可視光であることから、照射位置及び/又は照射範囲を明確にするためにガイドレーザを備えるようにしてもよい。ガイドレーザは照射範囲となる外周を複数点又は円環状のラインで示すようにしてもよいし、照射範囲の中心位置に1点照射して照射位置を示すようにしてもよい。
【0046】
さらに、上述したように、経気道法で用いる蛍光装置1と経血流法で用いる蛍光装置1とをそれぞれ個別の別体として使用術式に応じて持ち替えるようにしてもよいが、手術中に経気道法から経血流法に切り替える必要が出来てきた場合には、持ち替えに手間要する場合がある。そこで、本実施形態に係る蛍光装置1においては、操作部14の切り替えにより異なる波長の励起光を照射できる構成としてもよい。例えば具体的には、蛍光装置1が、300nm~315nmの波長で励起光を照射するLED光源11と、250nm~285nmの波長で励起光を照射するLED光源11とを備える構成になっており、当初経気道法で手術を行う予定が経血流法に切り替える必要が出てきた場合、手術当初は波長が300nm~315nmの励起光を発光するLED光源11のみを発光させ、経血流法に切り替えるタイミングで操作部14の切り替えスイッチを操作し、制御部15により波長が250nm~285nmの励起光を発光するLED光源11を発光すると同時に波長が300nm~315nmの励起光を発光するLED光源11の駆動を停止する。
【0047】
さらにまた、治療対象となる部位に応じてLED光源11の波長や発光状態を切り替えるようにしてもよい。例えば、治療対象が肺の場合と肝臓の場合とで使用するLED光源11や焦点深度を変えたり、外環境に応じて光の強度を切り替えるようにしてもよい。
【0048】
なお、蛍光装置1の光源はLED光源11に限られるものではなく、例えばキセノンランプのように上述した波長の光を発光できる光源であればよい。また、本実施形態においてはバッテリ駆動の携帯型の蛍光装置1として説明したが、系統からの電力で駆動し、本体に備えられた光源の光をライトガイドなどで操作者の手元まで届ける据置型の蛍光装置1であってもよい。
【0049】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態では、上記第1の実施形態で説明した医療用蛍光装置を用いた医療用撮像システムについて説明する。本実施形態に係る医療用撮像システムは、前記第1の実施形態における医療用蛍光装置を用いた撮像システムであり、直視下での肉眼による部位の特定を可能にすると共に、当該部位の撮像を行うことで、例えば患部などの領域を画像や動画でモニタリングしたり治療状況をレコーディングすることを可能とするものである。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0050】
図7は、本実施形態に係る医療用撮像システムのシステム構成の一例を示す図である。医療用撮像システム2は、カメラ付きの蛍光装置1と、当該蛍光装置1のカメラで撮像された撮像情報をモニタリングするモニタ21と、蛍光装置1のカメラで撮像された撮像情報を記憶するレコーダ22と、システム全体の操作を行うための操作リモコン23と、上記各機器に接続してそれぞれの動作を管理・制御する制御装置25とを備える。
【0051】
蛍光装置1は、第1の実施形態に場合と同様に波長が250nm~374nmの励起光を発光する機能を有すると共に、励起光が照射された患部領域を撮像するカメラ機能が備えられている。このカメラで撮像された情報はモニタ21にリアルタイムに映し出すことで、例えば手術において携わっている人全員での情報を共有したり、皮膚表面の診察において患者と情報を共有することが可能となる。また、レコーダ22に記憶しておくことで、手術後のレビューやフィードバック、検証などに利用することが可能となる。
【0052】
操作リモコン23は、蛍光装置1の操作者以外の人によりシステムを操作するような場合に特に利用勝手が良くなる。
【0053】
なお、蛍光装置1のカメラ又は制御装置25には、ビタミンB2の蛍光波長である540nm近傍以外の光を遮断するフィルタを備えるようにしてもよい。
【0054】
(本発明の第3の実施形態)
本実施形態では、上記第1の実施形態で説明した医療用蛍光装置を内視鏡システムに適用した医療用撮像システムについて説明する。前記第1の実施形態に係る蛍光装置1で励起光を照射した患部領域は、その励起光の波長とビタミンB2の蛍光波長の関係から肉眼でも十分に特定することが可能であるため、直視下手術において特に有効利用ができるものであるが、手術方法として内視鏡システムを使用する方法が選択された場合であっても蛍光装置1を内視鏡システムに適用することで、蛍光装置1を利用した治療が可能となる。なお、本実施形態において前記各実施形態と重複する説明は省略する。
【0055】
図8は、本実施形態に係る医療用撮像システムのシステム構成の一例を示す図である。
図7の場合と異なるのは、内視鏡カメラ31を新たに備える代わりに蛍光装置1のカメラ機能がない構成となっている。また、蛍光装置1は体内に挿入されるため小型化する必要があり、光源装置32とライトガイド33とから構成される。なお、内視鏡カメラ31と蛍光装置1とは一体的に構成されてもよいが、ここでは別体として構成され、励起光の照射に対して自由度を高くしている。例えば、
図8の構成を用いることで励起光を体腔内(胸腔や腹腔)に入れて蛍光灯のように広く照射できる構造にして蛍光を認識することで、患部を広く確実に特定することが可能となる。また、先端部分だけが光るライトガイド33以外にも、例えば直線的に長く広範囲を光らせたり、放射状に全方位を広く照射することも可能となる。その他の構成や機能は、前記第2の実施形態の場合と同様である。なお、励起光の波長の切り替えなどは光源装置32で制御される。
【0056】
このように、内視鏡手術のような鏡視下手術に使用する場合、これまでのICG蛍光法やPDD内視鏡を使用したビタミンB2蛍光法では、発光する光が可視蛍光では無かったり、蛍光発光と励起光との波長が比較的近かったりすることから、蛍光認識にフィルタリングなどの特殊な認識が必要となり、励起光源と受像器とが一体になっている必要があったが、本実施形態においては励起光源と受像器とを別体とすることで上述したような照射する光の自由度を高くすることが可能となっている。
【実施例0057】
本発明に係る医療用蛍光装置について以下の実験を行った。ブタの肺を使って経気道法によるビタミンB2の蛍光発光による肉眼での区域同定と、経血流法によるビタミンB2の蛍光発光による肉眼での区域同定を行った。
【0058】
(1)ブタ摘出肺を使った経気道法による検証
摘出臓器であるブタ心肺ブロックを利用し、気管支からビタミンB2水溶液を投与して標識・同定したい区域を蛍光で認識する経気道法を行った。評価は励起光発光装置(波長:310nm)を用い、右前区域の経気道的同定を行った。使用したビタミンB2水溶液は、ビスラーゼ注射液の生理食塩液での50倍希釈水溶液を用い、肉眼による蛍光の認識の可否を確認し、動画撮影により記憶した。
【0059】
図9は、本実施例に係る蛍光装置を用いて310nmの励起光を照射した経気道法によるビタミンB2の蛍光発光の画像である。
図9において、点線部分で示すように標的とする区域が十分に蛍光を発色しており、肉眼で認識することが可能であった。すなわち、ビスラーゼの経気道投与に対して310nmの励起光を照射すると極めて良好な蛍光を発しており、適した励起波長であることが確認できた。
【0060】
(2)ブタ生体を使った経静脈法による検証
現在の肺区域同定において主流となっている経血流法(肺動脈血流を遮断したのちに、ビタミンB2水溶液を経静脈的に全身投与を行い、標識・同定したい区域を蛍光欠損部として認識する手法)による区域同定を血液循環のあるブタ生体(25-30kg)を使用して行った。評価は励起光発光装置(波長:270nm、290nm、310nm、365nm、405nm)を用い、右前区域の経静脈的同定を行った。使用したビタミンB2水溶液は、ビスラーゼ注射液(10mg/ml)2Aを経静脈に投与し、肉眼による蛍光の認識の可否を確認し、動画撮影により記憶した。また、安全性の評価として肺表面より5cmの近接距離より励起光を10分間連続照射を行った場合の肉眼的な所見および病理学的所見を得た。さらに、追加評価としてビタミンB2製剤をリボフラビン末水溶液に変更して検証を行った。
【0061】
図10は、本実施例に係る蛍光装置を用いて310nmの励起光を照射した経血流法によるビタミンB2の蛍光発光の画像である。
図10において、蛍光はほとんど認識できず肉眼による区域同定は困難であった。このとき、励起光自体の光強度はさほど強くなく、励起光によるノイズは軽度であると考えられる。
【0062】
図11は、本実施例に係る蛍光装置を用いて290nmの励起光を照射した経血流法によるビタミンB2の蛍光発光の画像である。
図11において、
図10と同様に蛍光はほとんど認識できず肉眼による区域同定は困難であった。また、励起光によるノイズも軽度であった。
【0063】
図12は、本実施例に係る蛍光装置を用いて270nmの励起光を照射した経血流法によるビタミンB2の蛍光発光の画像である。
図12において、点線で示す部分が蛍光領域、破線で示す部分が非蛍光領域であり、標的とする区域が極めて良好に蛍光発光しており、また励起光によるノイズが少ないため肉眼での区域同定が非常に容易であった。すなわち、ビスラーゼの経血流投与に対して270nmの励起光を照射すると極めて良好な蛍光を発しており、適した励起波長であることが確認できた。
【0064】
図13は、本実施例に係る蛍光装置を用いて365nmの励起光を照射した経血流法によるビタミンB2の蛍光発光の画像である。
図13において、点線で示す部分が蛍光領域、破線で示す部分が非蛍光領域であり、標的とする区域に十分な蛍光が認められ、肉眼による区域同定が可能である。しかしながら、
図12の場合と比較して励起光によるノイズが多少強くなっていた。すなわち、ビスラーゼの経血流投与に対して365nmの励起光を照射すると十分な蛍光を発しており、適した励起波長の範囲内であることが確認できた。
【0065】
図14は、本実施例に係る蛍光装置を用いて405nmの励起光を照射した経血流法によるビタミンB2の蛍光発光の画像である。
図14において点線で示す部分は蛍光発光しておらず励起光の反射部分である。すなわち標的とする区域の蛍光が乏しく、また励起光のノイズが強いため、区域同定は困難であった。
【0066】
ここで、ビタミンB2製剤をリボフラビン末水溶液に変更して同様の実験を行ったところ、励起波長365nm、270nmの励起光で良好な蛍光を発しており、310nmの励起光ではほとんど蛍光を認めなかった。つまり、ビスラーゼ注射液投与時と同様の結果であった。しかしながら、蛍光の分布が小葉間隔壁に集中しており、肺表面に均一な蛍光は認められず、この点に関しては、粉末のリボフラビンが小葉間隔壁の静脈に滞留しているためにこのような所見となったと考えられる。したがって、ビタミンB2製剤としては、粉末製剤でも使用可能であるがビスラーゼ注射液のようなビタミンB2が溶解したものがより適正であることわかった。
【0067】
次に、安全性の評価結果を説明する。まずは肉眼的な照射部位の変化について評価した
。肺表面より5cmの近距離で各種励起光(波長:270nm、310nm、365nm)を10分間連続照射を行った。いずれの条件においても肉眼での明らかな変化は認められなかった。ただし、365nmに使用した装置のみが照射強度及び照射範囲を調整可能であったため、強度を最強にして範囲を極小にした場合にのみ、わずかな胸膜の変化が確認された。しかしながら、通常使用においては安全性に問題ないと判断できる。
【0068】
次に、安全性評価についての病理学的検討結果を説明する。前述の照射部位に関して肉眼的評価後に組織構造が損傷しないように摘出し、直ちにホルマリン固定を行った。パラフィン処理を行い薄切り後にHE染色を施行した。
図15は該当部位の画像である。
図15(A)が非照射部、
図15(B)が270nm、
図15(C)が310nm、
図15(D)が365nmの場合の結果である。
図15(D)のみ臓側胸膜の肥厚と炎症細胞の浸潤を認めたが、上述したように照射強度と照射範囲を調整しているためであり、他の波長帯と同強度の照射では問題なく実験結果からは通常使用においては病理学的にも安全であると判断できる。
【0069】
以上の実験結果から、経血流法を行う場合は波長を270nm又は365nmとする励起光を設定するのが望ましく、経気道法であれば波長を310nmとする励起光を設定するのが望ましいことが明らかとなった。また、経血流法での至適励起光を考えた場合には、励起光ノイズが弱くて蛍光強度が強い270nmの方が理想的であることがわかった。
【0070】
さらに、発明者らが実際に動物実験を行った実感として、励起光発生装置は小型で携帯可能なタイプが使いやすいことが痛感された。すなわち、
図1や
図6で説明したような携帯型の蛍光装置が実際の手術に使用する上で非常に使い勝手がいいことが明らかとなった。