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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055295
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】断熱材用組成物および断熱材
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20220331BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20220331BHJP
   F16L 59/147 20060101ALI20220331BHJP
   A24F 40/46 20200101ALI20220331BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220331BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20220331BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20220331BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20220331BHJP
   C08L 3/02 20060101ALI20220331BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
C08L101/12
F16L59/02
F16L59/147
A24F40/46
C08K3/36
C08L1/08
C08L29/04
C08L71/02
C08L3/02
C01B33/18 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057912
(22)【出願日】2021-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2020161811
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】伊東 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】田口 祐太朗
【テーマコード(参考)】
3H036
4B162
4G072
4J002
【Fターム(参考)】
3H036AB13
3H036AB15
3H036AB18
3H036AB23
3H036AB24
4B162AA03
4B162AA22
4B162AB12
4B162AC10
4B162AC22
4G072AA28
4G072CC08
4G072CC13
4G072UU30
4J002AB03W
4J002AB05X
4J002AC07Y
4J002AC08Y
4J002BE02W
4J002BG04Y
4J002CH02X
4J002CK02Y
4J002CP03Y
4J002DJ016
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 シリカエアロゲルの分散性が良好で比較的短時間で調製可能な断熱材用組成物を提供する。当該断熱材用組成物を用いて、ひび割れが生じにくく断熱性に優れた断熱材を提供する。
【解決手段】 断熱材用組成物は、シリカエアロゲルと、水性バインダーと、増粘剤と、を有し、前記増粘剤は、重量平均分子量が5万以上80万以下の第一増粘剤と、重量平均分子量が90万以上600万以下の第二増粘剤と、を有する。断熱材は、当該断熱材用組成物の硬化物を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカエアロゲルと、水性バインダーと、増粘剤と、を有し、
前記増粘剤は、重量平均分子量が5万以上80万以下の第一増粘剤と、重量平均分子量が90万以上600万以下の第二増粘剤と、を有することを特徴とする断熱材用組成物。
【請求項2】
前記第一増粘剤の含有量は、組成物中の固形分全体を100質量%とした場合の0.1質量%以上20質量%以下である請求項1に記載の断熱材用組成物。
【請求項3】
前記第二増粘剤の含有量は、組成物中の固形分全体を100質量%とした場合の0.1質量%以上20質量%以下である請求項1または請求項2に記載の断熱材用組成物。
【請求項4】
前記第一増粘剤は、カルボキシメチルセルロースおよびポリビニルアルコールの少なくとも一方を有する請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の断熱材用組成物。
【請求項5】
前記第二増粘剤は、ポリエチレンオキサイドおよびグルコマンナンの少なくとも一方を有する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の断熱材用組成物。
【請求項6】
前記水性バインダーは、樹脂またはゴムをバインダー成分とする有機バインダーを有する請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の断熱材用組成物。
【請求項7】
前記水性バインダーは、金属酸化物のナノ粒子をバインダー成分とする無機バインダーを有する請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の断熱材用組成物。
【請求項8】
前記金属酸化物のナノ粒子は、シリカ粒子である請求項7に記載の断熱材用組成物。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の断熱材用組成物の硬化物を有する断熱材。
【請求項10】
前記硬化物は、基材の表面および内部の少なくとも一部に配置される請求項9に記載の断熱材。
【請求項11】
前記基材は、樹脂または布からなる請求項10に記載の断熱材。
【請求項12】
スマートフォンに使用される請求項11に記載の断熱材。
【請求項13】
円筒状を呈する請求項9に記載の断熱材。
【請求項14】
加熱式タバコに使用される請求項13に記載の断熱材。
【請求項15】
前記基材は、ガラス繊維、ロックウール、セラミックファイバー、ポリイミド、およびポリフェニレンサルファイドから選ばれる一種以上を用いて製造される請求項10に記載の断熱材。
【請求項16】
前記基材は、ガラス繊維不織布、ガラスクロス、アルミガラスクロス、AESウールペーパー、またはポリイミド繊維不織布である請求項15に記載の断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカエアロゲルを用いた断熱材用組成物および断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカエアロゲルは、シリカ微粒子が連結して骨格をなし10~50nm程度の大きさの細孔構造を有する多孔質材料である。シリカエアロゲルの熱伝導率は、空気のそれよりも小さい。このため、シリカエアロゲルの高い断熱性を活かした断熱材の開発が進んでいる。
【0003】
例えば特許文献1には、水分散性ポリウレタンによって結合されたシリカエアロゲルを含み、熱伝導率が0.025W/m・K以下の物品が記載されている。当該物品においては、シリカエアロゲルを固定するために、ウレタンバインダーが使用されている。また、特許文献2には、シリカエアロゲル、水性エマルジョン系バインダー、および多糖類を有する塗料の硬化物と、基材と、を備える断熱材が記載されている。同文献には、水性エマルジョン系バインダーとしてウレタン樹脂エマルジョンが、多糖類としてカルボキシメチルセルロースが挙げられている。
【0004】
ウレタンバインダーを有する断熱材を500℃程度の高温雰囲気で使用すると、有機成分が分解、劣化して、ガスが発生したり、クラックが生じるおそれがある。また、ウレタンバインダーは比較的軟質であるため、圧縮されると断熱材が潰れやすく、用途によっては断熱構造を維持することが難しい場合がある。よって、耐熱性などの観点から、バインダー成分として樹脂ではなくケイ酸塩などの無機化合物を用いた断熱材が開発されている。例えば特許文献3には、シリカエアロゲルと、有機または無機のバインダーと、ガラス繊維と、を有する複合材料が記載されており、無機バインダーとしては水ガラス(ケイ酸ナトリウム)が挙げられている。特許文献4には、エアロゲルと、界面活性剤と、無機バインダーと、を有する組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2013-534958号公報
【特許文献2】特開2020-29528号公報
【特許文献3】特表平11-513349号公報
【特許文献4】特表2012-525290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリカエアロゲルを用いた従来の断熱材においては、断熱性を高めるため、シリカエアロゲルの含有量を多くする。結果、断熱材が硬くなり、変形に追従することができず、湾曲させるなどの変形時にひび割れが生じやすい。特に、バインダー成分が無機材料である無機バインダーを用いた場合には、断熱材が硬く、脆くなりやすい。また、断熱材を製造する過程においても、所定の材料を溶媒に分散させた組成物を乾燥して固化させる際に収縮し、ひび割れが生じやすい。例えば加熱式タバコなどの用途において、断熱材が円筒状に製造される場合には、製造時に内径側と外径側とで収縮差が生じやすいため、表面にひび割れが生じやすい。また、断熱材が薄膜状を呈する場合には、変形しやすくなるため、ひび割れが生じやすい。
【0007】
上記特許文献4に記載されている組成物においては、界面活性剤が配合されている。しかしながら、界面活性剤を配合しても、断熱材に柔軟性を付与することはできず、ひび割れを抑制することは難しい。また、上記特許文献3に記載されているように、ガラス繊維を配合すると、その補強効果によりひび割れの発生が抑制されるかもしれないが、変形への追従性を向上させる効果は小さい。また、ガラス繊維が熱の伝達経路になり断熱性の低下を招くおそれがある。
【0008】
シリカエアロゲルは、内部に水分などが浸入して細孔を潰さないように、表面に疎水部位を有するものが多い。このため、断熱材を製造するための組成物(断熱材用組成物)の分散媒として疎水性溶媒を用いると、当該溶媒がシリカエアロゲルの細孔に浸入してしまう。よって、断熱材用組成物は、疎水性溶媒ではなく、水などの親水性溶媒を分散媒として調製される。しかしながら、シリカエアロゲルは、表面に疎水部位を有するため、水になじみにくい。加えて、比重が小さいため、水に浮きやすい。よって、水およびバインダーを有するバインダー液にシリカエアロゲルを均一に分散させるのは難しく、組成物の調製に時間を要していた。
【0009】
この点、上記特許文献2に記載されている断熱材用塗料においては、多糖類を配合し、その増粘効果によりシリカエアロゲルの分散性を向上させている。しかしながら、特許文献2においては、増粘剤における分子量の効果については検討されていない。よって、単に多糖類を配合するだけでは、組成物の調製時間の短縮は充分ではなく、組成物におけるシリカエアロゲルの分散性向上と、断熱材への柔軟性の付与と、の両方を実現することも難しい。また、上記特許文献4に記載されている組成物においては、界面活性剤が配合されている。しかしながら、界面活性剤を配合しても増粘効果は小さいため、シリカエアロゲルの分散性を向上させることは難しく、前述したように、断熱材への柔軟性の付与も難しい。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、シリカエアロゲルの分散性が良好で比較的短時間で調製可能な断熱材用組成物を提供することを課題とする。また、当該断熱材用組成物を用いて、ひび割れが生じにくく断熱性に優れた断熱材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記課題を解決するため、本発明の断熱材用組成物は、シリカエアロゲルと、水性バインダーと、増粘剤と、を有し、前記増粘剤は、重量平均分子量が5万以上80万以下の第一増粘剤と、重量平均分子量が90万以上600万以下の第二増粘剤と、を有することを特徴とする。
【0012】
(2)上記課題を解決するため、本発明の断熱材は、上記(1)に記載した本発明の断熱材用組成物の硬化物を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
(1)本発明の断熱材用組成物は、重量平均分子量が異なる二種類の増粘剤を有する。以下、特にことわりがない限り、「分子量」は「重量平均分子量」を意味する。分子量が小さい方の第一増粘剤は、水との相溶性が高く、組成物中に均一に分散しやすい。よって、組成物の硬化物全体に均一に柔軟性を付与することができる。これにより、組成物の乾燥時や湾曲などによる変形時においても、ひび割れが生じにくくなる。このように、第一増粘剤は、主に硬化物における変形への追従性向上、ひび割れ発生の抑制に寄与する。分子量が大きい方の第二増粘剤は、組成物を高粘度化する。すなわち、組成物の粘性を高めて、シリカエアロゲルを分散媒から分離しにくくし、分散しやすくする。これにより、シリカエアロゲルの分散に要する時間を短縮することができ、組成物の調製が容易になる。このように、第二増粘剤は、主に組成物の調製時間の短縮化に寄与する。なお、増粘剤を配合しても、ファイバー状の物質とは異なり、熱の伝達経路が形成されにくい。よって、増粘剤を配合しても断熱性への影響は小さい。以上より、本発明の断熱材用組成物によると、組成物の調製時間を短縮することができ、断熱材の製造コストを低減して生産性を高めることができる。また、柔軟性を有し断熱性に優れた断熱材を製造することができる。
【0014】
(2)本発明の断熱材は、本発明の断熱材用組成物の硬化物を有するため、柔軟性を有し、変形への追従性が高く、変形時にひび割れが生じにくい。例えば、断熱材が円筒状を呈する場合や薄膜状を呈する場合においても、ひび割れが生じにくい。ひび割れが生じにくいため、断熱性が低下しにくく、シリカエアロゲルの脱落(いわゆる粉落ち)も抑制される。また、硬化物は、熱伝導率が小さいシリカエアロゲルを有する他、ファイバー状の物質と比較して熱の伝達経路が形成されにくい増粘剤を有する。よって、硬化物の熱伝導率を小さく維持することができ、柔軟性および断熱性の両方を満足する断熱材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第一実施形態の断熱材の厚さ方向断面図である。
図2】第二実施形態の断熱材を備える加熱式タバコの加熱部の斜視図である。
図3】同加熱部の軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の断熱材用組成物および断熱材の実施の形態について説明する。なお、本発明の断熱材用組成物および断熱材は、以下の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0017】
<断熱材用組成物>
本発明の断熱材用組成物は、シリカエアロゲルと、水性バインダーと、増粘剤と、を有し、増粘剤は、重量平均分子量が5万以上80万以下の第一増粘剤と、重量平均分子量が90万以上600万以下の第二増粘剤と、を有する。
【0018】
[シリカエアロゲル]
シリカエアロゲルの構造、形状、大きさなどは、特に限定されない。例えば、シリカエアロゲルの骨格をなすシリカ微粒子(一次粒子)の直径は2~5nm程度、骨格と骨格との間に形成される細孔の大きさは、10~50nm程度であることが望ましい。細孔の多くは、50nm以下のいわゆるメソ孔である。メソ孔は、空気の平均自由行程よりも小さいため、空気の対流が制限され熱の移動が阻害される。これにより、シリカエアロゲルは高い断熱性を有する。
【0019】
シリカエアロゲルの形状としては、球状、異形状の塊状などがあるが、球状が望ましい。球状の場合、分散性が向上するため組成物の調製がより容易になる。また、最密充填しやすいため充填量を多くすることができ、断熱性を高める効果が大きくなる。また、表面積が小さくなるため、熱伝導率が比較的大きいバインダーの量を低減することができ、断熱性の向上につながる。
【0020】
シリカエアロゲルの最大長さを粒子径とした場合、平均粒子径は1~200μm程度が望ましい。シリカエアロゲルの粒子径が大きいほど、表面積が小さくなり細孔(空隙)容積が大きくなるため、断熱性を高める効果は大きくなる。例えば、平均粒子径が10μm以上のものが好適である。一方、組成物の安定性や塗工のしやすさを考慮すると、平均粒子径が100μm以下のものが好適である。また、粒子径が異なる二種類以上を併用すると、小径のシリカエアロゲルが大径のシリカエアロゲル間の隙間に入りこむため、充填量を多くすることができ、断熱性を高める効果が大きくなる。
【0021】
シリカエアロゲルは、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有するものが望ましい。この種のシリカエアロゲルは、製造過程において、疎水基を付与するなどの疎水化処理を施して製造することができる。少なくとも表面に疎水部位を有すると、水分などの染み込みを抑制することができるため、細孔構造が維持され、断熱性が損なわれにくい。シリカエアロゲルの製造方法は、特に限定されず、乾燥工程を常圧で行ったものでも、超臨界で行ったものでも構わない。例えば、疎水化処理を乾燥工程前に行うと、超臨界で乾燥する必要がなくなる、すなわち常圧で乾燥すればよいため、より容易かつ低コストに製造することができる。エアロゲルを製造する際の乾燥方法の違いにより、常圧で乾燥したものを「キセロゲル」、超臨界で乾燥したものを「エアロゲル」と呼び分けることがあるが、本明細書においては、その両方を含めて「エアロゲル」と称す。
【0022】
[水性バインダー]
水性バインダーは、水(純水、水道水などを含む)を溶媒とするバインダーであり、バインダー成分は有機材料でも無機材料でも構わない。バインダー成分が有機材料である有機バインダーとしては、水溶性のバインダー、エマルジョン状のバインダーがあるが、なかでもエマルジョン状のバインダー(水性エマルジョン系バインダー)が好適である。水性エマルジョン系バインダーは、界面活性剤または親水基の導入により乳化されている。水性エマルジョン系バインダーによると、乾燥時に界面活性剤や親水基が揮発することにより親水性が低下し、水に溶解しにくくなるため、組成物の硬化後にべたつきが生じにくいと考えられる。エマルジョン化する方法としては、界面活性剤を乳化剤として使用した強制乳化型でも、親水基が導入された自己乳化型でも構わない。
【0023】
バインダー成分の有機材料は、樹脂でもゴムでもよい。シリカエアロゲルに対する粘着性が高く、組成物の硬化物(断熱材)を柔軟にしてひび割れしにくくするという観点から、バインダー成分のガラス転移温度(Tg)は-5℃以下、さらには-20℃以下であることが望ましい。例えば、水性エマルジョン系バインダーの場合、樹脂エマルジョンでもゴムエマルジョンでもよい。樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂とウレタン樹脂との混合物などが挙げられる。ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴムなどが挙げられる。断熱層を柔軟にするという観点から、ウレタン樹脂、スチレンブタジエンゴムなどが好適である。バインダー部分の強度を高めて硬化物の強度を向上させるという観点から、架橋剤などを併用してバインダー成分を架橋させてもよい。
【0024】
バインダー成分が無機材料である無機バインダーとしては、シリカ、チタニア、酸化亜鉛、ジルコニアなどの金属酸化物を有するものが挙げられる。なかでも、シリカエアロゲルと相溶しやすく、安価で入手しやすいという理由から、シリカを有するバインダーが好適である。また、金属酸化物がナノ粒子(ナノメートルオーダーの粒子)である場合には、硬化物において、無機材料を有することによる硬さや脆さの欠点を改善することができる。例えば、シリカのナノ粒子を有するバインダーとして、ケイ酸ナトリウム溶液、水を分散媒とするコロイダルシリカなどを用いればよい。チタニアのナノ粒子を有するバインダーとして、チタニアの水分散液などを用いればよい。
【0025】
[増粘剤]
増粘剤は、重量平均分子量が所定の範囲に特定された第一増粘剤および第二増粘剤を有する。但し、本発明の断熱材用組成物は、重量平均分子量がこれらの範囲外である他の増粘剤の含有を排除するものではない。
【0026】
(1)第一増粘剤
第一増粘剤の重量平均分子量は、5万以上80万以下である。重量平均分子量の測定は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により行えばよい。分子量が小さい方の第一増粘剤において、分子量が5万未満になると、柔軟性を付与する効果が小さくなる。このため、組成物の硬化物において、変形への追従性を充分に向上させることができず、組成物の乾燥時の収縮などによるひび割れの発生も充分に抑制することはできない。他方、分子量が80万を超えると粘性が増加するため、第一増粘剤が組成物中に均一に分散しにくくなる。これにより、組成物の硬化物全体に均一に柔軟性を付与することができなくなり、ひび割れが発生する。
【0027】
第一増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールなどを用いればよい。第一増粘剤の含有量は、柔軟性付与などの所望の効果を発揮させるため、組成物中の固形分全体を100質量%とした場合の0.1質量%以上であることが望ましい。0.5質量%以上であるとより好適である。また、分散媒に対する溶解性および高粘度化による塗工性の悪化などを考慮すると、20質量%以下であることが望ましい。10質量%以下であるとより好適である。
【0028】
(2)第二増粘剤
第二増粘剤の重量平均分子量は、90万以上600万以下である。分子量が大きい方の第二増粘剤において、分子量が90万未満になると、組成物の増粘効果が小さくなる。このため、組成物の粘着性による分散媒中へのシリカエアロゲルの取り込み効果を充分に向上させることができず、組成物の調製時間の短縮化は難しい。他方、分子量が600万を超えると、組成物の粘度が上昇しすぎるため、攪拌が難しくなり、成分が均一に混合された組成物を調製することができない。
【0029】
第二増粘剤としては、ポリエチレンオキサイド、グルコマンナンなどを用いればよい。第二増粘剤の含有量は、増粘効果を発揮させるため、組成物中の固形分全体を100質量%とした場合の0.1質量%以上であることが望ましい。0.5質量%以上であるとより好適である。また、組成物の粘度を考慮すると、20質量%以下であることが望ましい。10質量%以下であるとより好適である。
【0030】
[その他の成分]
本発明の断熱材用組成物は、シリカエアロゲル、水性バインダー、増粘剤の他に、架橋剤、補強繊維などの他の成分を含んでいてもよい。補強繊維は、シリカエアロゲルの周りに物理的に絡み合って存在し、組成物の硬化物においてシリカエアロゲルの脱落を抑制すると共に耐圧縮性を向上させる。補強繊維の種類は特に限定されないが、高温雰囲気で使用した場合における有機成分の分解、劣化を回避するという観点から、無機系の繊維材料が望ましい。例えば、ガラス繊維、アルミナ繊維などのセラミック繊維が好適である。
【0031】
[調製方法]
本発明の断熱材用組成物は、シリカエアロゲル、水性バインダー、増粘剤、および必要に応じて添加される成分を配合し、撹拌して調製すればよい。水性バインダーが水を有しないものの場合には、適宜、水を加えて調製すればよい。シリカエアロゲルの分散性を考慮すると、水性バインダー、または水に水性バインダーを加えた液体に、増粘剤を加えて液の粘度を高めてから、シリカエアロゲルを添加することが望ましい。撹拌は、羽根撹拌でもよいが、積極的にせん断力を加えたり、超音波を加えたりしてもよい。自転公転撹拌装置や、メディア型撹拌装置を用いてもよい。
【0032】
<断熱材>
本発明の断熱材は、前述した本発明の断熱材用組成物の硬化物を有する。硬化物とは、組成物を乾燥して固化した形態を含む。硬化物は、断熱材用組成物を塗布、成形型を用いるなどして所定の形状にした後、室温~150℃程度の温度下で所定時間乾燥させて製造される。
【0033】
水性バインダーとして無機バインダーを採用すると、圧縮されても硬化物が潰れにくく、断熱構造を維持することができる。すなわち、耐圧縮性が向上する。また、断熱材を高温雰囲気で使用しても、バインダー成分の分解、劣化によるガスやクラックが生じない。すなわち、耐熱性が向上する。
【0034】
硬化物におけるシリカエアロゲルの含有量は、硬化物の断熱性を向上させるという観点から、硬化物全体の質量を100質量%とした場合の40質量%以上であることが望ましい。50質量%以上、65質量%以上であるとより好適である。一方、シリカエアロゲルが多すぎると脱落しやすくなるため、シリカエアロゲルの含有量は、硬化物全体の質量を100質量%とした場合の75質量%以下であることが望ましい。
【0035】
本発明の断熱材は、本発明の断熱材用組成物の硬化物のみから構成されても、硬化物と他の部材とを組み合わせて構成されてもよい。後者の一例として、硬化物が、基材の表面および内部の少なくとも一部に配置される形態が挙げられる。硬化物と基材とを組み合わせることにより、断熱材の強度が向上すると共に、シリカエアロゲルの脱落抑制効果が向上する。
【0036】
基材の材質は、不織布などの布、樹脂などが挙げられる。布を構成する繊維としては、ガラス繊維、ロックウール、セラミックファイバー、アルミナ繊維、シリカ繊維、炭素繊維、金属繊維、ポリイミド繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維などが挙げられる。セラミックファイバーとしては、リフラクトリーセラミックファイバー(RCF)、多結晶質アルミナファイバー(Polycrystalline Wool:PCW)、アルカリアースシリケート(AES)ファイバーが知られている。なかでも、AESファイバーは、生体溶解性を有するためより安全性が高い。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、ポリアミド、PPSなどが挙げられる。基材の形状は特に限定されず、織布、不織布、ブランケット、フィルム、シート、成形体などが挙げられる。基材は、一層からなるものでも、同じ材料または異なる材料が二層以上に積層された積層体でもよい。積層体としては、アルミ蒸着フィルム、アルミガラスクロスなどが挙げられる。
【0037】
例えば、ガラスクロスなど、ガラス繊維や金属繊維などの無機繊維から製造される布帛(織布)、不織布は、熱伝導率が比較的小さく、高温雰囲気においても形状保持性が高い。また、耐熱性が高い基材を採用すると、高い耐熱性が要求される用途にも適用することができるため、本発明の断熱材の用途が広がる。さらに、耐火性を有する基材を採用すると、炎から硬化物を保護することも可能になる。耐熱性が高い基材は、ガラス繊維、ロックウール、セラミックファイバー、ポリイミド、PPSなどから製造すればよく、具体的には、ガラス繊維不織布、ガラスクロス、アルミガラスクロス、AESウールペーパー、ポリイミド繊維不織布などが挙げられる。
【0038】
硬化物が基材の表面および内部の少なくとも一部に配置される形態の断熱材は、本発明の断熱材用組成物を基材の表面に塗布し、塗膜を乾燥して製造することができる。あるいは、本発明の断熱材用組成物に基材を浸漬した後、乾燥させてもよい。塗布、浸漬のいずれの方法においても、基材が布や多孔質な材料からなる場合には、組成物の一部が基材の内部に含浸する。これにより、硬化物が基材の表面だけでなく内部にも配置される。この場合、断熱材の曲げ性が向上し、湾曲などの変形に追従しやすくなる。よって、配管などの曲面を有する部材にも適用しやすい。塗布には、バーコーター、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、ロールコーターなどの塗工機や、スプレーなどを使用すればよい。また、基材と硬化物との接着性を向上させるため、基材の表面にカップリング処理などの下処理を施しておいてもよい。
【0039】
以下、本発明の断熱材の適用例を説明する。第一実施形態としてスマートフォンのカメラ部品に使用される形態を説明し、第二実施形態として加熱用タバコの加熱部に使用される形態を説明する。
【0040】
(1)第一実施形態
図1に、本実施形態の断熱材の厚さ方向断面図を示す。図1に示すように、断熱材10は、基材11と硬化物12とを備えている。基材11は、厚さ0.1mmのガラスクロスからなる。硬化物12は、厚さ0.2mmのシート状を呈している。硬化物12は、基材11の上面に配置されている。硬化物12は、シリカエアロゲルと、水性バインダーとしてのシリカ粒子と、第一増粘剤としてのカルボキシルメチルセルロース(重量平均分子量:9万)と、第二増粘剤としてのポリエチレンオキサイド(重量平均分子量:500万)と、を有している。シリカ粒子は、平均粒子径が12nmのナノ粒子である。硬化物12は、断熱材用組成物を基材11に塗布した後、乾燥して製造されている。硬化物12の下側の一部は、基材11の上面近傍の網目に含浸されており、これにより、基材11と硬化物12とは接着されている。
【0041】
(2)第二実施形態
図2に、本実施形態の断熱材を備える加熱式タバコの加熱部の斜視図を示す。図3に、同加熱部の軸方向断面図を示す。図3においては、説明の便宜上、タバコのハッチングを省略して示す。図2図3に示すように、加熱部2は、断熱材20と、ヒーター21と、カバー部材22と、を備えている。加熱部2は、加熱式タバコの加熱装置(図略)に収容されている。
【0042】
断熱材20は、断熱材用組成物の硬化物であり、厚さ3mmの円筒状(スリーブ状)を呈している。断熱材20は、シリカエアロゲルと、水性バインダーとしてのシリカ粒子と、第一増粘剤としてのポリビニルアルコール(重量平均分子量:14万)と、第二増粘剤としてのグルコマンナン(重量平均分子量:200万)と、を有している。シリカ粒子は、平均粒子径が12nmのナノ粒子である。断熱材20の製造方法は、次のとおりである。まず、回転する金属製の棒状部材に断熱材用組成物をへらで塗り、回転させながらスクレーパーを用いて形状を整えて、所定厚さの塗膜を形成する。そして、80℃で6時間乾燥させた後、硬化物を棒状部材から取り外す。
【0043】
ヒーター21は、発熱体をポリイミドフィルムで被覆したポリイミドフィルムヒーターであり、厚さ0.5mmの円筒状を呈している。ヒーター21は、断熱材20の内側に配置されている。ヒーター21の内側には、タバコ23の一部が挿入される。カバー部材22は、金属製であり、厚さ0.2mmの円筒状を呈している。カバー部材22は、ヒーター21の外側に配置されている。
【0044】
加熱部2においては、タバコ23はヒーター21の内側に挿入されて加熱される。この際、ヒーター21から外側への熱の伝達は、断熱材20およびカバー部材22により抑制される。結果、熱損失が少なくなり、効率良くタバコ23を加熱できると共に、加熱装置の温度上昇を抑制することができる。本実施形態においては、断熱材20として、予め円筒状に成形した硬化物を使用した。しかし、断熱材20は、シート状に成形した硬化物をヒーター21に巻き付けたものでもよい。カバー部材22の材質は、特に限定されず、樹脂製でもよい。また、カバー部材22を使用しなくてもよい。この場合、断熱材20を、硬化物と、該硬化物の表面を被覆する被覆層と、から構成すると、シリカエアロゲルの脱落などを防止することができる。
【実施例0045】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0046】
(1)第一例
<断熱材サンプルの製造>
まず、後出の表1に示す組成(単位は質量部)の断熱材を製造するための組成物(断熱材用組成物)を調製した。次に、調製した組成物を、厚さ1mmのガラス繊維不織布の表面に、塗膜厚さ0.5mm狙いでブレードコーティングし、それを熱風オーブンに入れて80℃で1時間保持した後、100℃に昇温して質量減少がなくなる状態まで追加乾燥した。このようにして、不織布の表面に組成物の硬化物が配置されたシート状の断熱材サンプル(以下、単にサンプルと称す場合がある)を製造した。硬化物の一部は、不織布の表層部分に含浸している。ここで、ガラス繊維不織布は、本発明における基材の概念に含まれる。表1中、実施例1~9のサンプルは、本発明の断熱材の概念に含まれる。以下、各サンプルを製造した組成物の調製方法について説明する。
【0047】
[実施例1~4、6~9]
まず、水性バインダーとしてのコロイダルシリカ(シリカ粒子の水分散液;シグマアルドリッチ社製「LUDOX(登録商標) LS」)に、第一増粘剤としてのカルボキシルメチルセルロース(CMC)またはポリビニルアルコール(PVA)と、第二増粘剤としてのポリエチレンオキサイド(PEO)またはグルコマンナンと、を添加して撹拌した。そこに、シリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製「P200」)を添加して攪拌し、組成物を調製した。表1には、断熱材における第一増粘剤の含有量および第二増粘剤の含有量が示されているが、それらは組成物において組成物中の固形分全体を100質量%とした場合の各々の含有量に相当する(全ての実施例および比較例において同じ)。
【0048】
CMCとしては、シグマアルドリッチ社製のカルボキシルメチルセルロースナトリウム塩のうち、重量平均分子量が9万、25万、70万のいずれか一つを使用した。PVAとしては、日本酢ビ・ポバール(株)製の「JM33」(重量平均分子量14万)を使用した。PEOとしては、シグマアルドリッチ社製のPEOのうち、重量平均分子量が90万、200万、500万のいずれか一つを使用した。グルコマンナンとしては、清水化学(株)製の「プロポール(登録商標)A」(重量平均分子量200万)を使用した。
【0049】
[実施例5]
まず、水に、水性バインダーとしてのウレタン樹脂エマルジョン(三洋化成工業(株)製「パーマリン(登録商標)UA-368」、固形分50質量%)を添加し、続いて第一増粘剤としてのCMC(同上、重量平均分子量9万)および第二増粘剤としてのPEO(同上、重量平均分子量500万)を添加して攪拌した。そこに、シリカエアロゲル(同上)を添加して攪拌し、組成物を調製した。
【0050】
[比較例1]
増粘剤として第二増粘剤を配合せず、第一増粘剤としてのCMC(同上、重量平均分子量25万)のみを配合した点以外は、実施例2と同様にして、断熱層用組成物を調製した。第一増粘剤の配合量は、実施例2における第一増粘剤および第二増粘剤の合計配合量と同じにした。
【0051】
[比較例2]
増粘剤として第一増粘剤を配合せず、第二増粘剤としてのPEO(同上、重量平均分子量200万)のみを配合した点以外は、実施例3と同様にして、断熱層用組成物を調製した。第二増粘剤の配合量は、実施例3における第一増粘剤および第二増粘剤の合計配合量と同じにした。
【0052】
[比較例3]
増粘剤として第一増粘剤を配合せず、第二増粘剤としてのCMC(同上、重量平均分子量90万)と、その他の増粘剤としてのPEO(シグマアルドリッチ社製、重量平均分子量800万)と、を配合した点以外は、実施例2と同様にして、断熱層用組成物を調製した。第二増粘剤の配合量は、実施例2における第二増粘剤の配合量と同じにし、その他の増粘剤の配合量は、実施例2における第一増粘剤の配合量と同じにした。
【0053】
[比較例4]
増粘剤として第二増粘剤を配合せず、第一増粘剤としてのPEO(シグマアルドリッチ社製、重量平均分子量60万)と、その他の増粘剤としてのPEO(シグマアルドリッチ社製、重量平均分子量1万)と、を配合した点以外は、実施例1~4と同様にして、断熱層用組成物を調製した。第一増粘剤の配合量は、実施例1~4における第一増粘剤の配合量と同じにし、その他の増粘剤の配合量は、実施例1~4における第二増粘剤の配合量と同じにした。
【表1】
【0054】
<断熱材用組成物の評価>
調製した組成物におけるシリカエアロゲルの分散性を、次の方法により評価した。評価結果を先の表1にまとめて示す。まず、1Lの容器中に、シリカエアロゲルを除く成分(水、水性バインダー、増粘剤)を投入して攪拌し、そこにシリカエアロゲルを添加して攪拌を続けて、目視でシリカエアロゲルが均一に分散したと判断できるまでの時間(すなわち、均一な分散液が得られるまでの時間)を計測した。そして、均一な分散液が得られるまでの時間が30分以内の場合を分散性非常に良好(表1の判定欄に◎印で示す)、30分を超え60分以内の場合を分散性良好(同欄に○印で示す)、均一な分散液が得られなかった場合を分散性不良(同欄に×印で示す)と評価した。
【0055】
表1に示すように、第一増粘剤および第二増粘剤の両方を含む実施例1~9の組成物においては、シリカエアロゲルの分散性は良好で、実用的な攪拌時間にて均一な分散液を得ることができた。また、第二増粘剤の配合量が多い場合には、分散に要する時間が短くなった。この結果は、第二増粘剤による分散性の向上効果を示している。他方、第二増粘剤を含まない比較例1、4の組成物においては、シリカエアロゲルが混合されず、攪拌し続けてもシリカエアロゲルが液体から分離した状態(液体とシリカエアロゲルとが二層に分離した状態)のままであり、均一な分散液を得ることはできなかった。
【0056】
<断熱材の評価>
[柔軟性]
製造したシート状の断熱材サンプルの柔軟性を、次の方法により評価した。評価結果を先の表1にまとめて示す。サンプルを、不織布側を内側にして、直径180mmの樹脂製パイプの外周面に巻き付けて、目視にて組成物の硬化物におけるひび割れ発生の有無を確認した。そして、ひび割れが発生しなかった場合を柔軟性あり(表1の判定欄に〇印で示す)、発生した場合を柔軟性なし(同欄に×印で示す)と評価した。
【0057】
表1に示すように、第一増粘剤および第二増粘剤の両方を含む実施例1~9のサンプルにおいては、ひび割れは発生せず、硬化物は柔軟性を有し変形への追従性が高いことが確認された。これに対して、第一増粘剤を含まない比較例2、3の組成物においては、ひび割れが発生し、硬化物は柔軟性に乏しく変形に追従しにくいことが確認された。この結果は、第一増粘剤による柔軟性の付与効果を示している。
【0058】
[断熱性]
製造したシート状の断熱材サンプルの熱伝導率を、JIS A1412-2(1999)の熱流計法に準拠した、英弘精機(株)製の熱流束計「HC-074」を用いて測定した。結果を先の表1にまとめて示す。
【0059】
表1に示すように、製造したサンプルにおいて熱伝導率の違いはなく、いずれも40℃の空気(熱伝導率は0.0272W/m・K程度)よりも高い断熱性を有することが確認された。
【0060】
(2)第二例
<断熱材サンプルの製造>
四種類の基材の表面に、先の実施例1の組成物と同じ組成物を、塗膜厚さ0.5mm狙いでブレードコーティングした。それを熱風オーブンに入れて80℃で1時間保持した後、100℃に昇温して質量減少がなくなる状態まで追加乾燥した。このようにして、各々の基材の表面に、実施例1の組成物の硬化物が配置されたシート状の断熱材サンプルを製造した。各々の断熱材サンプルにおいて、硬化物の一部は、基材の表層部分に含浸している。表2に、製造した断熱材サンプルの構成を示す。表2中、実施例10~13のサンプルは、本発明の断熱材の概念に含まれる。
【表2】
【0061】
<断熱材の評価>
製造した断熱材サンプルの耐熱性および曲げ性を次の方法により評価した。評価結果を先の表2にまとめて示す。
【0062】
[耐熱性]
断熱材サンプルを、200℃、400℃の各温度に維持されたオーブンに2時間静置して、加熱後の状態を目視にて観察した。そして、断熱材サンプルの耐熱性を、外観が全く変わっていなかった場合を「優」(表2中、◎印で示す)、変色したものの形状は維持されていた場合を「良」(同表中、○印で示す)、材料の溶解や、シートが反ったり丸くなるなどして形状が維持されなかった場合を「不良」(同表中、×印で示す)と評価した。
【0063】
表2に示すように、実施例10~12のサンプルは耐熱性に優れることが確認された。他方、実施例13のサンプルは、基材が耐熱温度が低いポリエステル繊維不織布であるため、耐熱性という点では劣る結果となった。
【0064】
[曲げ性]
先の第一例における柔軟性の評価方法と同様に、断熱材サンプルを基材側を内側にして、直径180mmの樹脂製パイプの外周面に巻き付けた。そして、巻き付けやすさや巻き付け状態に応じて、断熱材サンプルの曲げ性を評価した。具体的には、パイプの外周面に力を要さず隙間なく巻き付けられた場合を「優」(表2中、◎印で示す)、パイプの外周面に追従するが反発がやや強く、巻き付ける際に若干力を要した場合を「良」(同表中、○印で示す)、巻き付けられたがパイプとの間に部分的に隙間が生じた場合を「可」(同表中、△印で示す)と評価した。
【0065】
表2に示すように、いずれのサンプルも曲げ性を有し、曲面を有する部材にも取り付け可能であることが確認された。特に実施例13のサンプルにおいては、基材が柔軟なポリエステル繊維不織布であるため、曲げ性が最も優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の断熱材は、自動車分野、航空分野、船舶分野、物流分野、住宅分野、産業機器分野、情報通信機器分野、家電分野、アパレル分野などにおける様々な部品、部材に適用することができる。自動車分野としては、ドアトリム、天井材、インストルメントパネル、コンソールボックス、アームレストなどの内装部品が挙げられる。航空分野としては各種ホース類、船舶分野としては船底などに配置される断熱部材が挙げられる。物流分野としては、食品、医薬品などを搬送する際に使用される断熱容器が挙げられる。住宅分野としては、建材、壁材、屋根裏材、窓のサッシなどが挙げられる。産業機器分野としては、モーター部、センサ部などに使用される断熱部材が挙げられる。情報通信機器分野としては、パソコンやスマートフォンに用いられる断熱部材が挙げられる。家電分野としては、冷蔵庫、クーラー、オーブン、カメラなどに使用される断熱部材が挙げられる。アパレル分野としては、ジャケット、ズボン、靴下、帽子などに使用される断熱部材が挙げられる。これ以外にも、ドローンに使用される断熱部材、インソールなどの靴用の断熱部材、テント、シートマットなどのアウトドア用品やレジャー用品の断熱部材、クーラーボックスなどの日用品にも好適である。また、耐熱性が高い基材を備えると、建材の鉄骨耐火用断熱材、工場やプラントなどの屋根や壁に用いられる断熱材、工場やプラントなどで使用される配管、シール部材、さらにはプレス機、切削機、乾燥炉などの各種設備にも好適である。
【符号の説明】
【0067】
10:断熱材、11:基材、12:硬化物、2:加熱部、20:断熱材、21:ヒーター、22:カバー部材、23:タバコ。
図1
図2
図3