(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055384
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】継目無鋼管の製造方法並びに製造設備およびビレット加工用工具
(51)【国際特許分類】
B21B 19/04 20060101AFI20220401BHJP
B21B 23/00 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
B21B19/04
B21B23/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162785
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】八窪 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】石井 一真
(72)【発明者】
【氏名】石川 和俊
(72)【発明者】
【氏名】小川 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】趙 笑宇
(57)【要約】
【課題】ビレットの穿孔圧延において素管に管周方向での偏肉が発生することを抑え、高精度な肉厚寸法を有する継目無鋼管を製造する。
【解決手段】ビレットの穿孔圧延に先立って熱間のビレットの先端面の中央部に凸型のポンチを押し込んで窪みxを形成し、ビレットの穿孔圧延では、この窪みx内に穿孔プラグの先端部を位置させた状態で穿孔圧延を開始する。これにより、穿孔プラグ中心とビレット中心を一致させることができるため、素管の管周方向での偏肉が抑えられ、高精度な肉厚寸法を有する継目無鋼管を製造することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビレットの穿孔圧延工程前の予備工程として、熱間のビレットの先端面の中央部に凸型のポンチ(1)を押し込んで窪み(x)を形成する加工工程を有し、
ビレットの穿孔圧延工程では、窪み(x)内に穿孔プラグの先端部を位置させた状態で穿孔圧延を開始することを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
【請求項2】
窪み(x)の深さが50mm超であることを特徴とする請求項1に記載の継目無鋼管の製造方法。
【請求項3】
ビレット先端面における窪み(x)の径dとビレット径Dの比率d/Dが0.3~0.8を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の継目無鋼管の製造方法。
【請求項4】
穿孔圧延工程では、穿孔圧延開始時における穿孔プラグの先端と窪み(x)の底部との距離Lを50mm以上とすることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の継目無鋼管の製造方法。
【請求項5】
ポンチ(1)の本体部(10)は、略円錐形または略円錐台形であって先端が凸曲面状であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の継目無鋼管の製造方法。
【請求項6】
ポンチ(1)の本体部(10)は、先端が凸曲面状のポンチ頭部(10a)と、該ポンチ頭部(10a)に連なるテーパー状基体部(10b)からなり、
ポンチ頭部(10a)とテーパー状基体部(10b)の境界は谷状の折曲部(10c)を構成し、
テーパー状基体部(10b)の斜面傾斜角度θが50~60°であることを特徴とする請求項5に記載の継目無鋼管の製造方法。
【請求項7】
ポンチ頭部(10a)の先端の凸曲面は曲率半径Rが30mm以上であることを特徴とする請求項6に記載の継目無鋼管の製造方法。
【請求項8】
ビレットの穿孔圧延工程前の予備工程において熱間のビレットの先端面の中央部に窪み(x)を形成するための加工装置(A)を備え、
該加工装置(A)は、ビレットの先端面に押し込まれることで窪み(x)を形成するための凸型のポンチ(1)と、該ポンチ(1)を進退可能に保持し、ポンチ(1)をビレット先端面の中央部に押し込むポンチ保持手段(2)と、ポンチ(1)によるビレット先端面の加工時にビレットをクランプして拘束するクランプ手段(3)を備えることを特徴とする継目無鋼管の製造設備。
【請求項9】
ポンチ(1)の本体部(10)は、略円錐形または略円錐台形であって先端が凸曲面状であることを特徴とする請求項8に記載の継目無鋼管の製造設備。
【請求項10】
ポンチ(1)の本体部(10)は、先端が凸曲面状のポンチ頭部(10a)と、該ポンチ頭部(10a)に連なるテーパー状基体部(10b)からなり、
ポンチ頭部(10a)とテーパー状基体部(10b)の境界は谷状の折曲部(10c)を構成し、
テーパー状基体部(10b)の斜面傾斜角度θが50~60°であることを特徴とする請求項9に記載の継目無鋼管の製造設備。
【請求項11】
ポンチ頭部(10a)の先端の凸曲面は曲率半径Rが30mm以上であることを特徴とする請求項10に記載の継目無鋼管の製造設備。
【請求項12】
さらに、設備内に搬入されたビレットを保持するビレット保持手段(4)と、該ビレット保持手段(4)に保持されたビレットの後端を押して、ビレットを加工装置(A)による加工位置までスライド移動させるビレット移動手段(5)を備えることを特徴とする請求項8~11のいずれかに記載の継目無鋼管の製造設備。
【請求項13】
加工装置(A)は、さらに、ビレット移動手段(5)に押されて移動してきたビレットの先端部が突き当たることでビレットを加工位置に停止させるリング状のビレットストッパ(6)を備え、
加工装置(A)によるビレット先端面の加工時には、ビレットストッパ(6)のリングの穴を通してポンチ(1)の先端部がビレット先端面に押し込まれるようにしたことを特徴とする請求項12に記載の継目無鋼管の製造設備。
【請求項14】
ポンチ保持手段(2)はシリンダ装置(20)で構成され、該シリンダ装置(20)の作動ロッド(22)の先端に、ポンチホルダ(23)を介してポンチ(1)が脱着可能に保持され、
クランプ手段(3)は、長手方向の中間部を介して支持フレーム(9)に回動可能に支持され、先端にビレットを両側から挟んでクランプするためのクランプ金具(32a),(32b)を備えた1対のクランプアーム(30a),(30b)と、該1対のクランプアーム(30a),(30b)の後端間に連結され、その伸縮によりクランプアーム(30a),(30b)を開閉動作させる油圧シリンダ(33)を備えることを特徴とする請求項8~13のいずれかに記載の継目無鋼管の製造設備。
【請求項15】
熱間のビレットの端面に押し込んで窪みを形成するためのポンチであって、
その本体部(10)は、略円錐形または略円錐台形であって先端が凸曲面状であることを特徴とするビレット加工用工具。
【請求項16】
本体部(10)は、先端が凸曲面状のポンチ頭部(10a)と、該ポンチ頭部(10a)に連なるテーパー状基体部(10b)からなり、
ポンチ頭部(10a)とテーパー状基体部(10b)の境界は谷状の折曲部(10c)を構成し、
テーパー状基体部(10b)の斜面傾斜角度θが50~60°であることを特徴とする請求項15に記載のビレット加工用工具。
【請求項17】
ポンチ頭部(10a)の先端の凸曲面は曲率半径Rが30mm以上であることを特徴とする請求項16に記載のビレット加工用工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビレットの穿孔圧延に先立って行われる予備工程を有する点に特徴がある継目無鋼管の製造方法並びにその実施に供される製造設備およびビレット加工用工具に関する。
【背景技術】
【0002】
油井管などに使用される継目無鋼管は、ビレットと呼ばれる鋼鋳片(断面が丸形又は角形鋼鋳片)を素材にして製造される。継目無鋼管の製造工程では、加熱炉で加熱されたビレット(例えば丸ビレット)を、ピアサーミル(穿孔圧延機)で傾斜圧延ロールと穿孔プラグを用いて穿孔圧延して素管とし、引き続き、この素管をエロンゲータ、プラグミルおよびリーラで構成される圧延機群またはマンドレルミルなどで管体形状にまで延伸圧延する。このようにして得られた管体を、再加熱炉で加熱した後、サイジングミルまたはストレッチレデューサーで外径と肉厚を所定寸法まで絞り込む加工をし、製品鋼管とする(例えば、特許文献1)。
ピアサーミルによるビレットの穿孔圧延では、傾斜圧延ロールにより熱間のビレットに先進力を与えながら、ビレットの進行方向に穿孔プラグと呼ばれる専用の圧延工具を配置し、傾斜圧延ロールと穿孔プラグの空隙でビレットに塑性変形に至るような歪を導入し、ビレットを貫通させることで素管の形状に加工する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピアサーミル(穿孔圧延機)によるビレットの穿孔圧延では、穿孔圧延の直前に穿孔プラグとビレットが接触し始める際に、穿孔プラグの中心とビレットの中心が不一致であると、素管に製品肉厚に影響を及ぼすような偏肉(管周方向での偏肉)が発生するという問題があり、高精度な肉厚寸法を有する製品鋼管の製造を阻害する要因となる。
【0005】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、ビレットの穿孔圧延における素管の偏肉を低減させ、高精度な肉厚寸法を有する鋼管を製造することができる継目無鋼管の製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、そのような継目無鋼管の製造方法の実施に好適な製造設備およびビレット加工用工具(ポンチ)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、ビレットの穿孔圧延に先立ってビレット先端面の中央部にポンチを押し込んで窪みを形成しておき、この窪みに穿孔プラグの先端部を位置させた状態で穿孔圧延を開始することにより、穿孔プラグの中心とビレットの中心を一致させることができ、これにより素管の管周方向での偏肉を効果的に低減できることが判った。さらに、窪みを形成するためのポンチの形状を最適化することにより、そのポンチによる窪みの加工を特に適正化・効率化でき、ポンチの寿命も向上することが判った。
【0007】
本発明は、以上のような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]ビレットの穿孔圧延工程前の予備工程として、熱間のビレットの先端面の中央部に凸型のポンチ(1)を押し込んで窪み(x)を形成する加工工程を有し、
ビレットの穿孔圧延工程では、窪み(x)内に穿孔プラグの先端部を位置させた状態で穿孔圧延を開始することを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
[2]上記[1]の製造方法において、窪み(x)の深さが50mm超であることを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
[3]上記[1]または[2]の製造方法において、ビレット先端面における窪み(x)の径dとビレット径Dの比率d/Dが0.3~0.8を満足することを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
【0008】
[4]上記[1]~[3]のいずれかの製造方法において、穿孔圧延工程では、穿孔圧延開始時における穿孔プラグの先端と窪み(x)の底部との距離Lを50mm以上とすることを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
[5]上記[1]~[4]のいずれかの製造方法において、ポンチ(1)の本体部(10)は、略円錐形または略円錐台形であって先端が凸曲面状であることを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
[6]上記[5]の製造方法において、ポンチ(1)の本体部(10)は、先端が凸曲面状のポンチ頭部(10a)と、該ポンチ頭部(10a)に連なるテーパー状基体部(10b)からなり、
ポンチ頭部(10a)とテーパー状基体部(10b)の境界は谷状の折曲部(10c)を構成し、
テーパー状基体部(10b)の斜面傾斜角度θが50~60°であることを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
[7]上記[6]の製造方法において、ポンチ頭部(10a)の先端の凸曲面は曲率半径Rが30mm以上であることを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
【0009】
[8]ビレットの穿孔圧延工程前の予備工程において熱間のビレットの先端面の中央部に窪み(x)を形成するための加工装置(A)を備え、
該加工装置(A)は、ビレットの先端面に押し込まれることで窪み(x)を形成するための凸型のポンチ(1)と、該ポンチ(1)を進退可能に保持し、ポンチ(1)をビレット先端面の中央部に押し込むポンチ保持手段(2)と、ポンチ(1)によるビレット先端面の加工時にビレットをクランプして拘束するクランプ手段(3)を備えることを特徴とする継目無鋼管の製造設備。
[9]上記[8]の製造設備において、ポンチ(1)の本体部(10)は、略円錐形または略円錐台形であって先端が凸曲面状であることを特徴とする継目無鋼管の製造設備。
【0010】
[10]上記[9]の製造設備において、ポンチ(1)の本体部(10)は、先端が凸曲面状のポンチ頭部(10a)と、該ポンチ頭部(10a)に連なるテーパー状基体部(10b)からなり、
ポンチ頭部(10a)とテーパー状基体部(10b)の境界は谷状の折曲部(10c)を構成し、
テーパー状基体部(10b)の斜面傾斜角度θが50~60°であることを特徴とする継目無鋼管の製造設備。
[11]上記[10]の製造設備において、ポンチ頭部(10a)の先端の凸曲面は曲率半径Rが30mm以上であることを特徴とする継目無鋼管の製造設備。
【0011】
[12]上記[8]~[11]のいずれかの製造設備において、さらに、設備内に搬入されたビレットを保持するビレット保持手段(4)と、該ビレット保持手段(4)に保持されたビレットの後端を押して、ビレットを加工装置(A)による加工位置までスライド移動させるビレット移動手段(5)を備えることを特徴とする継目無鋼管の製造設備。
[13]上記[12]の製造設備において、加工装置(A)は、さらに、ビレット移動手段(5)に押されて移動してきたビレットの先端部が突き当たることでビレットを加工位置に停止させるリング状のビレットストッパ(6)を備え、
加工装置(A)によるビレット先端面の加工時には、ビレットストッパ(6)のリングの穴を通してポンチ(1)の先端部がビレット先端面に押し込まれるようにしたことを特徴とする継目無鋼管の製造設備。
【0012】
[14]上記[8]~[13]のいずれかの製造設備において、ポンチ保持手段(2)はシリンダ装置(20)で構成され、該シリンダ装置(20)の作動ロッド(22)の先端に、ポンチホルダ(23)を介してポンチ(1)が脱着可能に保持され、
クランプ手段(3)は、長手方向の中間部を介して支持フレーム(9)に回動可能に支持され、先端にビレットを両側から挟んでクランプするためのクランプ金具(32a),(32b)を備えた1対のクランプアーム(30a),(30b)と、該1対のクランプアーム(30a),(30b)の後端間に連結され、その伸縮によりクランプアーム(30a),(30b)を開閉動作させる油圧シリンダ(33)を備えることを特徴とする継目無鋼管の製造設備。
【0013】
[15]熱間のビレットの端面に押し込んで窪みを形成するためのポンチであって、
その本体部(10)は、略円錐形または略円錐台形であって先端が凸曲面状であることを特徴とするビレット加工用工具。
[16]上記[15]のビレット加工用工具において、本体部(10)は、先端が凸曲面状のポンチ頭部(10a)と、該ポンチ頭部(10a)に連なるテーパー状基体部(10b)からなり、
ポンチ頭部(10a)とテーパー状基体部(10b)の境界は谷状の折曲部(10c)を構成し、
テーパー状基体部(10b)の斜面傾斜角度θが50~60°であることを特徴とするビレット加工用工具。
[17]上記[16]のビレット加工用工具において、ポンチ頭部(10a)の先端の凸曲面は曲率半径Rが30mm以上であることを特徴とするビレット加工用工具。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ビレットの穿孔圧延に先立ってビレット先端面の中央部にポンチを押し込んで窪みxを形成しておき、この窪みx内に穿孔プラグの先端部を位置させた状態で穿孔圧延を開始することにより、穿孔圧延で得られる素管の管周方向での偏肉を低減させることができ、これにより偏肉の少ない高精度な肉厚寸法を有する継目無鋼管を製造することができる。
また、ビレット先端面に窪みを形成するためのポンチの形状を最適化することにより、そのポンチによる窪みの加工を、トラブルを生じさせることなく特に適正かつ効率的に実施でき、ポンチの寿命も向上させることができる。このため、特に高い生産性で低コストに本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明の製造方法における穿孔圧延工程前の予備工程(ビレット先端面に窪みxを形成する加工工程)の実施状況を模式的に示す説明図
【
図3】本発明の製造方法において、穿孔圧延開始時におけるビレットに対する穿孔プラグの位置を模式的に示す説明図
【
図4】本発明の製造方法において窪みxが形成されたビレット先端部を示すもので、
図4(A)は縦断面、
図4(B)は正面図
【
図5】本発明の製造方法において、窪みxの径dとビレット径Dの比率d/Dと製品鋼管の偏肉率との関係(一例)を示すグラフ
【
図6】本発明の製造方法の実施に供される製造設備の一実施形態と、この製造設備における本発明の製造方法の実施状況を模式的に示すもので、製造設備全体を示す側面図
【
図7】
図6の実施形態において、ビレット移動手段の一部(台車など)を部分的に示す側面図
【
図8】
図6の実施形態において、ビレット移動手段の一部(台車など)を部分的に示す平面図
【
図9】
図6の実施形態における加工装置A(ビレット先端面に窪みxを形成するための加工装置)を部分的に示すもので、装置全体を示す側面図
【
図10】
図6の実施形態における加工装置Aの一部(ポンチ、ポンチストッパなど)を示す側面図
【
図11】
図6の実施形態における加工装置Aの一部(ポンチ、クランプ手段、ポンチストッパなど)を示す斜視図
【
図13】本発明の製造方法を実施した場合における、1本目のビレットの加工後と2本目のビレットの加工後のポンチのサーモグラフィ
【
図14】本発明の製造方法を実施した場合において、ポンチ表面に発生する皺や割れを模式的に示す説明図
【
図15】本発明の製造方法で使用する最適形状のポンチの一実施形態を示す説明図
【
図16】本発明の製造方法で使用する他の形状のポンチの実施形態を示す説明図
【
図17】本発明の製造方法の一実施形態における加工装置Aでのビレットの加工手順を示す説明図
【
図18】実施例において製造された鋼管の偏肉率を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の継目無鋼管の製造方法は、
図1のフロー図に示すように、ビレットの穿孔圧延工程前の予備工程として、熱間のビレットの先端面(ビレットの穿孔圧延工程における穿孔開始側の端面)の中央部に凸型のポンチ(工具)を押し込んで窪みxを形成する加工工程を有し、ビレットの穿孔圧延工程では、その窪みx内に穿孔プラグの先端部を位置させた状態で穿孔圧延を開始するものである。
図2は、前記予備工程(ビレット先端面に窪みxを形成する加工工程)の実施状況を模式的に示すものであり、この予備工程では、同図(a),(b)に示すように、熱間のビレット100を所定の加工位置で拘束した状態で、その先端面f(ビレット100の穿孔圧延工程における穿孔開始側の端面)の中央部に凸型のポンチ1(主にポンチ先端部)を押し込んで窪みxを形成する。しかる後、同図(c)に示すようにポンチ1を後退させて窪みxから引き抜き、予備工程を完了する。
【0017】
この予備工程(加工工程)を経た熱間ビレットは、そのまま穿孔圧延工程に送られ、ピアサーミル(穿孔圧延機)により穿孔圧延されるが、この穿孔圧延では、ビレット100の先端面fに形成された窪みx内に穿孔プラグの先端部を位置させた状態で圧延が開始される。これにより、穿孔プラグの中心とビレットの中心を一致させることができ、穿孔プラグの先端中心がビレット中心に位置した状態で穿孔圧延が行われることになるため、素管の管周方向での偏肉の発生が抑えられ、最終的に高精度な肉厚寸法を有する継目無鋼管を製造することができる。
【0018】
図3は、穿孔圧延工程の圧延開始時における、ビレット100に対する穿孔プラグ200の位置を模式的に示したものである。
穿孔圧延開始時にビレット100の先端面fの窪みx内に穿孔プラグ200の先端部を位置させる態様としては、穿孔プラグ200の一部が窪みxの内面の一部に係合(接触)した状態でもよいし、
図3のように穿孔プラグ200が窪みxの内面と係合(接触)しない状態であってもよい。
ここで、穿孔圧延工程では、穿孔圧延開始時における穿孔プラグ200の先端と窪みxの底部との距離L(
図3)を50mm以上とすることが好ましい。穿孔圧延では、ビレット100の中央部に割れが生成することで穿孔が進行するが、距離Lを50mm以上とすることにより、そのようなビレット100の中央部の割れが適切に生じ、穿孔が円滑に進行する。
【0019】
図4は窪みxが形成されたビレット先端部を示すものであり、
図4(A)は縦断面、
図4(B)は正面図である。図において、tは窪みxの深さ(ビレット100の先端面fを起点としてポンチ先端が到達する最大距離)、dはビレット100の先端面fにおける窪みxの径、Dはビレット径である。
ここで、窪みxの深さtが小さすぎると穿孔圧延における偏肉抑制効果が低下し、しかも穿孔圧延における噛み込み性も悪化しやすく、また、穿孔圧延時に穿孔プラグ先端と被圧延材が接触しやすくなるので、穿孔しにくくなるにおそれがある。このため、窪みxの深さtはある程度の大きさが必要であり、特に、上記のように穿孔圧延開始時における穿孔プラグ先端と窪みxの底部との距離Lを50mm以上確保することが好ましいことから、窪みxの深さtは50mm超であることが好ましい。ここで、穿孔圧延において噛み込み性が悪化するとは、ビレットが上下の圧延ロールに駆動されて前進し始め、プラグに接触する際に、負荷が過大となり穿孔が進まない状態となることを指す。窪みxの深さtが小さすぎるとビレット先端のマンネスマン割れの進展が十分ではなく、穿孔するための負荷が過大となってしまう。一方、窪みxの深さtが大きすぎると、穿孔圧延時に管端部に内面疵(カブレ疵)が発生するおそれがあり、このような内面疵が発生した管端部は切断除去しなければならず、製品歩留が低下するので、窪みxの深さtは120mm以下とすることが好ましい。
【0020】
窪みxの形状は、ビレット先端面に押し込まれるポンチ部分の形状で決まるが、後述するようにポンチ1の本体部10(ポンチ保持手段2に対する取付部11よりも先端側の部分)は、先端が凸曲面状の略円錐形状または略円錐台形状であることが好ましいことから、通常、窪みxは底部が凹曲面状のすり鉢形状となる。
また、ビレット先端面における窪みxの径dは、ビレット径Dに対して小さすぎても、大きすぎても穿孔圧延における偏肉防止効果が低下するので、ビレット径Dに応じた大きさにすることが好ましい。
図5は、窪みxの径dとビレット径Dの比率d/Dと製品鋼管の偏肉率との関係(一例)を示したもので、偏肉率とは後述する実施例に記載の通りのものである。この
図5の試験(製造)条件は、ビレット材質:炭素鋼、ビレット径:300~350mm、ビレット加熱温度:1230~1290℃、製品径:316~432mmである。
図5の結果からして、比率d/Dは0.3~0.8程度を満足することが好ましく、0.4~0.6程度を満足することがより好ましい。
なお、ポンチ1で窪みxを加工することによる肉の移動によって、ビレット先端面が若干盛り上がるなどの変形を生じる場合もあるが、上述した窪みxの深さtや径dは、その加工後のビレット先端面を基準としたものである。
【0021】
図6~
図12は、本発明の製造方法の実施に供される製造設備の一実施形態と、この製造設備における本発明の製造方法の実施状況を模式的に示したものであり、
図6は製造設備全体を示す側面図、
図7はビレット移動手段5の一部(台車50など)を部分的に示す側面図、
図8は同じく平面図である。また、
図9~
図12は製造設備の一部を構成する加工装置A(ビレットの先端面fに窪みxを形成するための加工装置)を部分的に示したものであり、
図9は加工装置全体を示す側面図、
図10は加工装置の一部(ポンチ1、ポンチストッパ6など)を部分的に示す側面図、
図11は同じく加工装置の一部(ポンチ1、クランプ手段3、ポンチストッパ6など)を部分的に示す斜視図、
図12は
図9中のX-X線に沿う断面図である。なお、
図6は加工装置Aの構成の一部(ポンチ1、ポンチ保持手段2、アーム13a,13b、油圧シリンダ53、アーム保持体55など)を省略して表わしており、
図11はビレットストッパ6の支持部材12を省略して表わしている。
【0022】
この製造設備は、ビレット100の穿孔圧延工程前の予備工程において熱間のビレット100の先端面fの中央部に窪みxを形成するための加工装置Aと、設備内に搬入されたビレット100を保持するビレット保持手段4と、このビレット保持手段4に保持されたビレット100の後端を押して、ビレット100を加工装置Aによる加工位置までスライド移動させるビレット移動手段5などを備えている。
加工装置Aは、ビレット100の先端面fに押し込まれることで窪みxを形成するための凸型のポンチ1と、このポンチ1を進退可能に保持し、ポンチ1をビレット先端面の中央部に押し込むポンチ保持手段2と、ポンチ1によるビレットの加工時にビレット100をクランプして拘束するクランプ手段3などで構成されており、装置全体が支持構造部である支持フレーム9に支持されている。この加工装置Aの具体的な構造については、後に詳述する。
【0023】
ビレット保持手段4は、本実施形態では昇降トラフ40で構成されており、この昇降トラフ40は、ビレット100を保持した状態で昇降可能であり、加熱炉から搬送手段(例えば、V字型のコンベアやチェーンドッグ、キッカーなど)で搬送され、設備内に搬入(装入)されたビレット100を受け取って保持し、ビレット100を加工装置Aで加工できる高さまで持ち上げる。
ビレット移動手段5は、ビレット保持手段4の上方に架設されたガイドレール8(加工装置A方向に架設されたガイドレール)に沿って移動(走行)可能な台車50と、この台車50を移動させる駆動機構52と、台車50から垂下したビレット押圧用のプッシャーアーム51と、このプッシャーアーム51を台車50に対してスライド移動させることでビレット方向に移動させる油圧シリンダ53などで構成されており、台車50を移動させることにより、ビレット保持手段4(昇降トラフ40)に保持されたビレット100の後端にプッシャーアーム51を当接させ、この状態から油圧シリンダ53を作動させることにより、プッシャーアーム51がビレット100を押し、ビレット100を昇降トラフ40上で加工装置A方向にスライド移動させることができるようにしている。
【0024】
ビレット移動手段5の構成をより詳細に説明すると、ビレット保持手段4の上方には架台フレーム7が架設され、この架台フレーム7に加工装置A方向に向かってガイドレール8が設置され、このガイドレール8に沿って台車50(57は台車50の車輪)が移動できるようになっている。台車50の駆動機構52は、本実施形態ではボールねじ(スライドスクリュー)機構で構成されている。すなわち、この駆動機構52は、架台フレーム7上にガイドレール8と平行に配置され、支持部材524に回転可能に支持されたネジ軸520と、台車50に固定されるとともに、ネジ軸520のネジ部に外装されるナット部材521と、ネジ軸520を回転させるモータ522および減速機523などで構成され、モータ522および減速機523でネジ軸520を回転させることにより、台車50に固定されたナット部材521がネジ軸520の長手方向で移動することにより、台車50がガイドレール8に沿って移動できるようになっている。
【0025】
台車50は、スライドガイド54(例えば、被ガイド体がスライド移動できる溝状のガイドレール)と、プッシャーアーム51を保持し、スライドガイド54に沿って台車移動方向にスライド移動可能なアーム保持体55と、このアーム保持体55をスライド移動させる油圧シリンダ53などを備えている。
油圧シリンダ53は、その作動ロッド56がアーム保持体5に連結58され、アーム保持体55を台車移動方向(加工装置A方向)にスライド移動させる。
アーム保持体55にプッシャーアーム51の上端が固定され、アーム保持体55の上記スライド移動により、プッシャーアーム51がビレット100を押し、ビレット100を加工装置A方向にスライド移動させることができる。
【0026】
次に、加工装置Aについて説明する。
この加工装置Aが備える凸型のポンチ1の構成については、後に詳述する。
ポンチ保持手段2は、油圧シリンダなどのシリンダ装置20で構成され、そのシリンダ本体21が支持フレーム9に水平状態に支持されている。このシリンダ装置20の作動ロッド22の先端には、ポンチホルダ23を介してポンチ1が脱着可能に保持される。そして、このシリンダ装置20(ポンチ保持手段2)に保持されたポンチ1は、
図10および
図11に示すように、昇降トラフ40(ビレット保持手段4)に保持されたビレット100の先端面fに相対することになる。
【0027】
クランプ手段3は、ビレット先端面に窪みxを形成する加工中にビレット100をしっかりとクランプして動かないように拘束できるものであればその構成は問わないが、本実施形態では、上下からビレット100の先端部をクランプする上下1対のクランプアーム30a,30bを備えている。クランプアーム30a,30bは、その中間部を介して支持フレーム9に上下回動可能に枢支31されている。各クランプアーム30a,30bは、その先端にクランプ金具32a,32bを備えている。各クランプ金具32a,32bは半割円筒状のクランプ面320を有している。一方、両クランプアーム30a,30bの後端は、クランプアーム30a,30bを開閉動作させるための油圧シリンダ33で連結されている。すなわち、油圧シリンダ33のシリンダ本体34の端部がクランプアーム30bの後端に、油圧シリンダ33の作動ロッド35の先端がクランプアーム30aの後端に、それぞれ連結(枢着)36され、この油圧シリンダ33が伸縮することでクランプアーム30a,30bが上下に開閉し、クランプ金具32a,32bにより上下からビレット100の先端部をクランプできるようにしている。
【0028】
加工装置Aは、さらに、ビレット移動手段5に押されて移動してきたビレット100の先端部が突き当たることでビレット100を加工位置に停止させるリング状のビレットストッパ6を備えている。このリング状のビレットストッパ6は、ポンチ1の先端部に相対するように配置され、支持部材12により支持フレーム9の側部に支持されている。ポンチ1によるビレット先端面の加工時には、このビレットストッパ6のリングの穴60を通してポンチ1の先端部がビレット100の先端面fに押し込まれるようにしてある。
【0029】
加工装置Aは、さらに、クランプアーム30a,30bの開閉(回動)範囲を規制するとともに、油圧シリンダ33の負荷を軽減するために、クランプアーム30a,30bが閉じた状態(ビレット100をクランプした状態)で機械的に保持されるようにした機構を備えている。
すなわち、上下のクランプアーム30a,30bの枢支部31には、2方向に延出したアーム部130,131を有する平面略L字形の板状のアーム13a,13bが、そのアーム部130,131の基端部(付け根)の部分で枢支されている。これらのアーム13a,13bは、それぞれクランプアーム30a,30bに係止(固定)され、クランプアーム30a,30bと一体で回動するように構成されている。なお、板状のアーム13a,13bは、クランプアーム30a,30bの両側に設けられている。
【0030】
支持フレーム9には、クランプアーム30a,30bと一体に回動するアーム13a,13bの各アーム部130をガイドするための長さの短いガイド穴14(短い円弧形状のガイド穴)が設けられている。アーム13a,13bの各アーム部130の先端にはピン15が支持され、このピン15がガイド穴14内に挿入され、アーム部130の回動に伴ってガイド穴14内を移動できるようにしてある。そして、ガイド穴14の両端がピン15のストッパとなり、アーム13a,13bと一体に回動するクランプアーム30a,30bの開閉範囲を規制している。すなわち、ピン15がガイド穴14の一端に係合する(
図9の状態)ことにより、クランプアーム30a,30bは閉じた状態(ビレット100のクランプ状態)での所定回動位置に停止し、一方、ピン15がガイド穴14の他端に係合することにより、クランプアーム30a,30bは開いた状態(ビレットの非クランプ状態)での所定回動位置に停止する。また、上記のようにピン15がガイド穴14の一端に係合する(
図9の状態)ことにより、クランプアーム30a,30bが閉じた状態(ビレットのクランプ状態)での所定回動位置に停止した際に、アーム13a,13bの両アーム部131が上下で縦一直線になるように、ガイド穴14の一端側の位置が決められている。このようにアーム13a,13bの両アーム部131が上下で縦一直線になることにより、油圧シリンダ33の駆動力で閉じた状態にあるクランプアーム30a,30bをその状態に機械的に保持する作用が得られるため、油圧シリンダ33の負荷を軽減することができる。
【0031】
一方、両アーム13a,13bのアーム部131の先端どうしはピン16で連結されているが、各アーム13a,13bがクランプアーム30a,30bと一体で回動(ガイド穴14の短い長さ範囲で回動)できるようにするため、
図12に示されるように、アーム13aのアーム部131の端部には、アーム13bのアーム部131の端部を挿入し、ピン16で軸支するための1対の板状部170からなるブラケット部17が設けられ、このブラケット部17にピン16が固定されている。アーム13bのアーム部131の端部には、長孔状のピン挿通孔18(上下方向に長いピン挿通孔)が設けられており、アーム13bのアーム部131の端部をブラケット部17に挿入した状態で、そのピン挿通孔18にピン16が挿通することで、アーム13a,13bの両アーム部131が連結されている。そして、アーム13bのアーム部131のピン挿通孔18内をアーム13aのアーム部131のピン16が移動できることにより、各アーム13a,13bはクランプアーム30a,30bと一体で回動(ガイド穴14の短い長さ範囲で回動)することができる。
なお、ビレット保持手段4やビレット移動手段5、加工装置Aを構成するポンチ保持手段2やクランプ手段3などは、本実施形態のものに限定されるものではなく、それぞれの機能を果たすことができる適宜な具体的手段で構成することができる。
【0032】
次に、ビレット加工用工具であるポンチ1の構成について説明する。
ポンチ1は、ビレット加工を担う本体部10と、ポンチ保持手段2(ポンチホルダ23)と連結するために本体部10の端部に連成される取付部11で構成される。
ポンチ1は、基本的に凸型の形状であればよく、そのなかでも特に、ポンチ1の本体部10が略円錐形または略円錐台形であって、先端が凸曲面状であることが好ましい。ここで、略円錐形または略円錐台形とは、本発明で使用するポンチ1の本体部10は、円錐形または円錐台形の傾斜面(テーパー面)の軸方向の途中に谷状の折曲部(谷状凹部)を有する場合や、傾斜面の一部または全部が軸方向で湾曲している場合などがあることから、通常の円錐形や円錐台形以外に、そのような形状のものも含まれることを意味する。
さらに、本発明者らによる検討の結果、ポンチの本体部10をより限定的な形状に最適化することにより、そのポンチによる窪みxの加工を特に適正化・効率化でき、ポンチの寿命も向上できることが判った。
【0033】
本発明を実施する場合、加工装置Aのポンチ1によるビレット先端面の加工(窪みxを形成する加工)は、短い時間間隔で何本ものビレットに対して連続して行われるが、このように連続的に行われる加工中、ポンチ1の先端温度は500℃前後にまで上昇する。
図13は、1本目(1回目)のビレットの加工後と2本目(2回目)のビレットの加工後のポンチ1のサーモグラフィであり、2本目のビレットの加工後のポンチ1の先端温度は、ビレット側からの入熱により500℃前後にまで上昇していることが判る。一方、ポンチの基端部(根元部分)の温度は200℃程度であり、先端部と大きな温度差を生じていることが判る。なお、
図13において、上部画像のポンチ1の上下に、また下部画像のポンチ1の右側に、それぞれ写っている上下1対の部材は、クランプアーム30a,30bである。
【0034】
そして、このように高温状態でビレットを連続加工すると、ポンチによっては、その表面に
図14に示すような皺や割れが発生して比較的早期に交換する必要が生じ(寿命が比較的短い)、また、この皺や割れが起点となってポンチ表面に凹凸が生じ、このポンチ表面の凹凸によって、ビレット先端面に押し込んだポンチ先端が引き抜けなくなる現象(その結果、ポンチ1がビレット100を加工装置A側に引き込むことになるので、以下、この現象を「ビレット引き込み」という)が生じてしまうことが判った。このようなビレット引き込みが生じると、操作を手動に切り替えてオペレーターによる手作業によりポンチを前進・後退させ、引き込みが解消するための操作を行う必要があり、その時間が長引くと当該ビレットや待機している次の熱間ビレットの温度低下が避けられず、予定していた圧延が不可能になるなど、生産性を大幅に低下させる事態となる。
【0035】
ポンチ表面に上記のような皺や割れが生じる理由は必ずしも明らかではないが、ポンチ1の先端部がビレット先端面に押し込まれたときに、
図13に示されるように、ビレット側からの入熱によりポンチ1の最先端近傍のみが昇温し、その部分が膨張すること、ビレットと接触していないポンチ部分との間で大きな温度差を生じること、ビレットに押し込まれたポンチ部分についても窪みxの深さ方向で温度勾配生じること、操業中は連続使用で高温状態になる一方で、ツール替えなどが発生した場合はその間操業が止まってポンチ先端が冷えてしまい、このような熱膨張と収縮が繰り返し作用すること、などが関係している可能性がある。
このような課題を解決すべく検討を重ねた結果、ポンチ1を特定の形状とすることにより、連続加工しても表面の皺や割れが生じにくく、高い耐用性(高寿命)が得られ、ビレット引き込みの発生も抑えられることが判った。
【0036】
図15は、そのような形状を有するポンチの一実施形態を示している。この最適形状のポンチ1の本体部10は、先端が凸曲面状(好ましくは球面状)のポンチ頭部10aと、このポンチ頭部10aに連なるテーパー状基体部10bからなる2段型であり、ポンチ頭部10aとテーパー状基体部10bの境界は谷状の折曲部10c(谷状凹部)を構成する。また、テーパー状基体部10bの斜面傾斜角度θが50~60°である構成を有する(
図15の実施形態は約56°)。
本発明者らによる試験の結果では、ビレット引き込みは特にビレット径300~350mmのビレットを加工した場合に生じやすく、したがって、上記のような最適形状のポンチ1は、そのようなサイズのビレットを加工する場合に特に有用である。
【0037】
ポンチ頭部10aの先端部は凸曲面状であればよいが、一般には球面状に構成するのが好ましい。本実施形態のポンチ頭部10aは、先端側の曲面部a1とこれに連なるテーパー部a2からなるが、テーパー部a2は無くてもよい。
また、溶損や損耗を抑えるためにポンチ頭部10aはある程度のボリュームを有することが好ましく、この観点から、ポンチ頭部10aの先端の凸曲面(好ましくは球面)は曲率半径Rが30mm以上であることが好ましい。
ポンチの硬度や材質(成分組成)は特に制限はないが、熱間で使用される加工工具に適した硬度や材質が用いられる。具体的には、硬度(HS)は65以上が好ましく、材質としては、例えばSCM435、SKD61などが用いられる。
【0038】
図15に示すポンチ1と他の形状のポンチ1を用いて本発明法を実施し、ポンチ1の平均寿命とビレット引き込みの有無を調べた結果を表1に示す。表1において、ポンチ(iv)が
図15に示す最適形状のポンチであり、ポンチ(i)~(iii)が
図16に示す形状のポンチである。
ポンチ(iv)は、テーパー状基体部10bの斜面傾斜角度θが約56°である。
ポンチ(i)~(iii)は、ポンチ(iv)のようなポンチ頭部10a・テーパー状基体部10bという区別がなく(したがって谷状の折曲部10cも無い)、そのテーパー部の斜面傾斜角度は、ポンチ(i)は約70°、ポンチ(ii)およびポンチ(iii)は約65°である。また、ポンチ(i)~(iii)によって、テーパー部の下側部分の形状がそれぞれ異なっている。
この製造試験では、ビレット径が260~350mmのビレット(炭素鋼)を対象とし、ポンチ1の打ち込み時間を5秒とした。また、窪みxの深さtは67mmとした。
【0039】
【0040】
表1によれば、ポンチ(i)~(iii)は、表面に生じた皺や割れによりビレット引き込みが生じ、平均寿命(交換までに1つのポンチで加工できたビレット本数の1年間当たりの平均値)は最大でも約8000本強である。これに対して、ポンチ(iv)は平均寿命が8300本以上であり、ビレット引き込みも生じていない。
この結果、ポンチ(i)~(iii)は損傷(皺や割れなど)により平均15日程度が使用限界であったのに対して、ポンチ(iv)では使用限界を平均70日にまで向上させることができた。また、ポンチ(iv)では、ポンチ先端の皺や割れの発生が生じにくいことから、ビレット引き込みの発生頻度も、ポンチ(i)~(iii)が20回/年であったのに対して、0回/年にまで改善することができた。このようにトラブルの発生回数を低減できることで、生産性を1Hr/月向上することができた。また、工具寿命の向上により、工具コストも低減することができた。
【0041】
次に、
図6~
図12の製造設備の使用方法(本発明法の一実施形態)を説明する。
図17(a)~(f)は加工装置Aによるビレット100の加工手順を示す説明図である。
熱間(通常、1200~1300℃程度)のビレット100は製造設備の側方から設備内に搬入され、昇降トラフ40(ビレット保持手段4)の上に載せられる。この昇降トラフ40を上昇させて、ビレット100を加工装置A(ポンチ1)による加工位置の高さまで持ち上げ(上昇させ)た後、プッシャーアーム51でビレット後端を押してビレット100を加工装置A方向に移動させる(
図17(a))。移動したビレット100の先端がビレットストッパ6に突き当たることでビレット100が停止し(
図17(b))、この位置でビレット100の加工が行われる。
【0042】
開放した状態にあるクランプアーム30a,30bを油圧シリンダ33で閉じ、クランプ金具32a,32bによりビレット100の先端側部分をクランプする(
図17(c))。この状態でシリンダ装置20(ポンチ保持手段2)を駆動させてポンチ1を前進させ、ポンチ1の先端部をビレットストッパ6の内側(リングの穴60)を通過させてビレット100の先端面fに押し込むことで窪みxを形成(加工)する(
図17(d))。ビレット100の先端面fへのポンチ1の押込み(打ち込み)は、例えば、0.4~0.7m/sec程度の速度でなされる。その後、ポンチ1を後退させ、ポンチ1の先端部をビレット100の先端面f(形成された窪みx)から引き抜き(
図17(e))、さらに、クランプ金具32a,32bによるビレット100のクランプ状態を解除する(
図17(f))ことで加工が完了する。この加工されたビレット100を保持する昇降トラフ40を下降させた後、ビレット100を設備外に搬出する。このビレット100は穿孔圧延工程に送られて穿孔圧延されるが、その際、
図3に示すようにビレット100の先端面fに形成された窪みx内に穿孔プラグ200の先端を位置させた状態で圧延を開始する。ビレット100は穿孔圧延で素管に加工され、その後、この素管は延伸圧延工程などの一連の工程を経て製品鋼管となる。
【実施例0043】
図6~
図12に示すような設備において本発明法によりビレットを加工し、次いで穿孔圧延した後、一連の工程を経て継目無鋼管を製造した。このようにして製造された鋼管と、従来法(ビレット先端端面に窪みxを形成する予備工程なし穿孔圧延を行う方法)で製造された鋼管の偏肉率を測定した。その結果を
図18に示す。なお、偏肉率とは、製品鋼管の周方向での最大肉厚、最小肉厚、平均肉厚に基づき、下式で求められるものである。
偏肉率=[(最大肉厚-最小肉厚)/平均肉厚]×100
図18は製品鋼管の先端位置と、管長手方向で管先端から15mm、30mm、45mmの各位置での偏肉率を示している。
【0044】
本発明法(本発明例)では、加工装置Aのポンチ1として
図15に示す形状のもの(テーパー状基体部10bの斜面傾斜角度θ:56°)を使用し、このポンチ1により深さが67mmの窪みxを形成し、穿孔圧延時には、穿孔プラグ200の先端を
図18の(a)に示すような態様で窪みx内に位置させた状態で圧延を開始した。一方、従来法(従来例)では、穿孔プラグ200の先端を
図18の(b)に示すような態様で位置させた状態で圧延を開始した。
ビレットの材質は炭素鋼、ビレット径は300~350mm、ビレット加熱温度は1230~1290℃であり、製品径は316~432mmであった。
図18に示されるように、本発明例では従来例に較べて製品鋼管の偏肉が効果的に低減されていることが判る。
なお、本発明法(本発明例)ではd/D=0.24で試験したが、
図5に示す通りd/Dを0.3~0.8、好ましくは0.4~0.6とすれば、偏肉率はより低減するものと考えられる。