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特開2022-55403溶接訓練システム、溶接訓練方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055403
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】溶接訓練システム、溶接訓練方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G09B 9/00 20060101AFI20220401BHJP
【FI】
G09B9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162812
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】504358148
【氏名又は名称】株式会社神鋼エンジニアリング&メンテナンス
(71)【出願人】
【識別番号】519124453
【氏名又は名称】イマクリエイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【弁理士】
【氏名又は名称】是枝 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100145609
【弁理士】
【氏名又は名称】楠屋 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100149490
【弁理士】
【氏名又は名称】羽柴 拓司
(72)【発明者】
【氏名】青山 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】大森 康生
(72)【発明者】
【氏名】大野 純一
(72)【発明者】
【氏名】小倉 英明
(72)【発明者】
【氏名】谷山 博昭
(72)【発明者】
【氏名】山本 彰洋
(72)【発明者】
【氏名】川崎 仁史
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被訓練者のスキルレベルに合わせた適切な訓練を実現する溶接訓練システム、溶接訓練方法、及びプログラムを提供する。
【解決手段】溶接訓練システムを構成する情報処理装置1は、仮想空間内における溶接面の窓部の透過度を複数段階に調節可能な透過度調節部14と、調節された透過度に応じた明るさで、仮想空間内での溶接作業の状況をHMD2の表示部に表示させる表示制御部17とを備えている。透過度調節部14は、スキルレベル判定部13によって判定された被訓練者のスキルレベルに応じて透過度を調節する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想空間内での溶接作業の状況を表示部に表示させることにより溶接作業の訓練を支援する溶接訓練システムにおいて、
前記仮想空間内における溶接面の窓部の透過度を複数段階に調節可能な調節部と、
調節した前記透過度に応じた明るさで、前記仮想空間内での溶接作業の状況を前記表示部に表示させる表示制御部と、
を備えることを特徴とする、溶接訓練システム。
【請求項2】
前記調節部は、訓練の回数が増えるにしたがって、前記透過度を段階的に下げる、
請求項1に記載の溶接訓練システム。
【請求項3】
前記調節部は、被訓練者のスキルレベルに応じて、前記透過度を調節する、
請求項1に記載の溶接訓練システム。
【請求項4】
被訓練者による前記仮想空間内でのオブジェクトの操作に基づいて当該被訓練者のスキルレベルを判定する判定部
をさらに備え、
前記調節部は、判定したスキルレベルに応じて、前記透過度を調節する、
請求項3に記載の溶接訓練システム。
【請求項5】
前記オブジェクトは、溶接作業に用いられる溶接機器に対応するオブジェクトであり、
前記判定部は、前記溶接機器に対応するオブジェクトの移動速度に基づいて前記被訓練者のスキルレベルを判定する、
請求項4に記載の溶接訓練システム。
【請求項6】
前記調節部は、溶接の種類に応じて、前記透過度を調節する、
請求項1乃至5の何れかに記載の溶接訓練システム。
【請求項7】
一の種類の溶接に対する前記透過度の段階の数と他の種類の溶接に対する前記透過度の段階の数とが異なっている、
請求項6に記載の溶接訓練システム。
【請求項8】
仮想空間内での溶接作業の状況を表示部に表示させることにより溶接作業の訓練を支援する溶接訓練方法において、
前記仮想空間内における溶接面の窓部の透過度を複数段階に調節し、
調節した前記透過度に応じた明るさで、前記仮想空間内での溶接作業の状況を前記表示部に表示させることを特徴とする、溶接訓練方法。
【請求項9】
コンピュータを、仮想空間内での溶接作業の状況を表示部に表示させることにより溶接作業の訓練を支援する溶接訓練装置として機能させるためのプログラムにおいて、
前記コンピュータを、
前記仮想空間内における溶接面の窓部の透過度を複数段階に調節可能な調節部、
及び、調節した前記透過度に応じた明るさで、前記仮想空間内での溶接作業の状況を前記表示部に表示させる表示制御部
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接作業の訓練を支援する溶接訓練システム、溶接訓練方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
バーチャルリアリティ技術の進展に伴って、当該技術を用いて溶接作業の訓練を支援するシステムが種々提案されている。例えば、特許文献1には、プログラマブルプロセッサベースのサブシステムと、そのサブシステムに作動的に接続された空間追跡装置と、その空間追跡装置が空間的に追跡可能な疑似溶接工具と、ディスプレイ装置とを備えるリアルタイム仮想現実溶接システムが開示されている。このシステムによれば、リアルタイムの溶融金属流動性及び熱放散特性を有する溶接パドル(溶融池)を仮想現実空間でシミュレートすることができ、そのシミュレートした溶接パドルをディスプレイ装置上でリアルタイムに表示することができる。被訓練者は、仮想空間内に表示されている溶接パドルの形状・色などを確認することにより様々な対応を学ぶことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-124584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来のシステムでは、ディスプレイ装置上に表示する溶接パドルを可能な限り現実に近付けることに焦点を当てている。しかしながら、被訓練者のスキルレベルが十分ではないような場合、現実に近い状況が画面上で確認できたとしても、その状況での溶接作業は難易度が高すぎるなどの理由で、適切な訓練を実現することができないおそれがある。
【0005】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、スキルレベルが十分ではないような被訓練者であっても適切な訓練が可能な溶接訓練システム、溶接訓練方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、スキルレベルが十分ではない被訓練者が訓練を受ける場合、難易度が低い訓練から開始して徐々に難易度を上げるような手法が適切であると判断し、溶接作業においては、溶接面の窓部を介して観察される溶接作業の状況の見え方を変化させることにより、そのような手法が実現可能であるとの知見を得た。この知見に基づき、本発明者等は下記の発明をした。すなわち、本発明の一の態様の溶接訓練システムは、仮想空間内での溶接作業の状況を表示部に表示させることにより溶接作業の訓練を支援する溶接訓練システムにおいて、前記仮想空間内における溶接面の窓部の透過度を複数段階に調節可能な調節部と、調節した前記透過度に応じた明るさで、前記仮想空間内での溶接作業の状況を前記表示部に表示させる表示制御部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
前記態様において、前記調節部は、訓練の回数が増えるにしたがって、前記透過度を段階的に下げてもよい。
【0008】
また、前記態様において、前記調節部は、被訓練者のスキルレベルに応じて、前記透過度を調節してもよい。
【0009】
また、前記態様において、被訓練者による前記仮想空間内でのオブジェクトの操作に基づいて当該被訓練者のスキルレベルを判定する判定部をさらに備え、前記調節部は、判定したスキルレベルに応じて、前記透過度を調節してもよい。
【0010】
また、前記態様において、前記オブジェクトは、溶接作業に用いられる溶接機器に対応するオブジェクトであり、前記判定部は、前記溶接機器に対応するオブジェクトの移動速度に基づいて前記被訓練者のスキルレベルを判定してもよい。
【0011】
また、前記態様において、前記調節部は、溶接の種類に応じて、前記透過度を調節してもよい。
【0012】
また、前記態様において、一の種類の溶接に対する前記透過度の段階の数と他の種類の溶接に対する前記透過度の段階の数とが異なっていてもよい。
【0013】
本発明の一の態様の溶接訓練方法は、仮想空間内での溶接作業の状況を表示部に表示させることにより溶接作業の訓練を支援する溶接訓練方法において、前記仮想空間内における溶接面の窓部の透過度を複数段階に調節し、調節した前記透過度に応じた明るさで、前記仮想空間内での溶接作業の状況を前記表示部に表示させることを特徴とする。
【0014】
本発明の一の態様のプログラムは、コンピュータを、仮想空間内での溶接作業の状況を表示部に表示させることにより溶接作業の訓練を支援する溶接訓練装置として機能させるためのプログラムにおいて、前記コンピュータを、前記仮想空間内における溶接面の窓部の透過度を複数段階に調節可能な調節部、及び、調節した前記透過度に応じた明るさで、前記仮想空間内での溶接作業の状況を前記表示部に表示させる表示制御部として機能させるためのものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被訓練者のスキルレベルが十分ではない場合であっても、適切な訓練を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態1の溶接訓練システムの構成を示すブロック図。
図2】情報処理装置(溶接訓練システム)の構成を示す機能ブロック図。
図3】表示される画面の一例を示す図。
図4】透過度データベースのレイアウトの一例を示す図。
図5】情報処理装置(溶接訓練システム)の動作の手順を示すフローチャート。
図6】実施の形態2の溶接訓練システムの構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す各実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための方法及び装置を例示するものであって、本発明の技術的思想は下記のものに限定されるわけではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0018】
(実施の形態1)
[システムの構成]
図1は、実施の形態1の溶接訓練システムの構成を示すブロック図である。本実施の形態の溶接訓練システム100は、情報処理装置1によって構成される。
【0019】
情報処理装置1は、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)2と通信可能に接続されており、情報処理装置1からの表示制御にしたがって、HMD2が備える表示部21に画像が表示される。また、情報処理装置1は、被訓練者が操作する入力装置3と通信可能に接続されており、入力装置3から入力される情報を用いて各種の処理を実行する。
【0020】
本実施の形態において、被訓練者は、HMD2の表示部21に表示されている画像を観察しながら、入力装置3を溶接トーチなどの溶接機器に見立てて操作する。入力装置3は、被訓練者が手で操作可能なハンドコントローラで構成されている。このハンドコントローラは、位置センサを有しており、その位置センサによる検出結果が入力装置3から情報処理装置1に対して出力される。また、HMD2も同様に位置センサを有しており、その位置センサによる検出結果がHMD2から情報処理装置1に対して出力される。
【0021】
次に、情報処理装置1の詳細な構成について説明する。情報処理装置1は、CPU、RAM、ROM、不揮発性メモリ、入出力インタフェース、及び通信インタフェース等を含むコンピュータである。情報処理装置1のCPUは、ROM又は不揮発性メモリからRAMにロードされたプログラムにしたがって情報処理を実行する。
【0022】
上記のプログラムは、例えば光ディスク又はメモリカード等の情報記憶媒体を介して情報処理装置1に供給されてもよいし、インターネット又はLAN等の通信ネットワークを介して供給されてもよい。
【0023】
図2は、情報処理装置1の構成を示す機能ブロック図である。情報処理装置1は、入力情報取得部11、位置算出部12、スキルレベル判定部13、透過度調節部14、透過度データベース(DB)15、画像生成部16、及び表示制御部17を備えている。これらの機能部は、情報処理装置1のCPUがプログラムにしたがって情報処理を実行することによって実現される。
【0024】
入力情報取得部11は、入力装置3及びHMD2から入力される各種の情報を取得する。入力装置3から入力される情報には、被訓練者によって操作される入力装置3の位置を示す位置情報、及び被訓練者が入力装置3を用いて選択した内容を示す選択情報などが含まれる。また、HMD2から入力される情報には、HMD2の位置を示す位置情報などが含まれる。
【0025】
位置算出部12は、入力装置3及びHMD2から入力された位置情報に基づいて、仮想空間内において表示される各オブジェクトの位置を算出する。
【0026】
スキルレベル判定部13は、入力情報取得部11又は位置算出部12から入力される情報に基づいて、被訓練者のスキルレベルを判定する。
【0027】
透過度調節部14は、仮想空間内における溶接面の窓部の透過度(以下、単に「透過度」と称する場合がある)を調節する。窓部の透過度が高くなるほど窓部の色は淡く透明に近づき、反対に透過度が低くなるほど窓部の色は濃く不透明に近づく。窓部の色が透明に近づくと、その窓部を通して観察される各オブジェクトは明るく表示されるため、仮想空間での溶接作業が容易になる。これに対し、窓部の色が不透明に近づくと、その窓部を通して観察される各オブジェクトは暗く表示されるため、仮想空間での溶接作業が困難になる。本実施の形態では、溶接面の窓部の透過度を調節することによって、溶接作業の難易度を変化させる。
【0028】
なお、実際の溶接時では光が発生するため、仮想空間での溶接作業においても同様の光を発生させる必要がある。本実施の形態においても、情報処理装置1はそのような光を含む画像を生成するが、その場合に溶接面の窓部を透明にすると、光が明るすぎるために溶接作業の状況を確認することができなくなってしまう。そのため、情報処理装置1は、溶接時に発生する光の明るさを現実空間のものよりも抑えた上で、仮想空間内で表示を行うようにする。これにより、仮想空間内においては、溶接面の窓部を透明にした場合であっても、溶接作業の状況を確認することが可能になる。
【0029】
透過度DB15は、上記の溶接面の窓部の透過度の設定値を格納するデータベースである。この透過度DB15の詳細については後述する。なお、透過度DB15は、情報処理装置1がアクセス可能であれば、情報処理装置1の外部に設けられていてもよい。
【0030】
画像生成部16は、位置算出部12により検出された各オブジェクトの位置、及び透過度調節部14によって調節された溶接面の窓部の透過度に基づいて、仮想空間内に表示される画像を生成する。
【0031】
表示制御部17は、画像生成部16により生成された画像の表示を、HMD2に対して指示する。その結果、画像生成部16により生成された画像が、HMD2の表示部21に表示される。
【0032】
図3は、HMD2の表示部21に表示される画面の一例を示す図である。図3に示す例では、溶接機器であるトーチに対応するトーチオブジェクト41、そのトーチに取り付けられた溶接棒に対応する溶接棒オブジェクト42、被溶接材(母材)に対応する母材オブジェクト43が、画面40に含まれている。さらに、画面40には、溶接面の窓部に対応する窓部オブジェクト44が含まれている。
【0033】
窓部オブジェクト44内は、上述した窓部の透過度に応じた明るさで表示される。図3に示す例の場合、トーチオブジェクト41、溶接棒オブジェクト42、及び母材オブジェクト43は何れも窓部オブジェクト44内に位置しているため、これらの各オブジェクト41乃至43は窓部の透過度に応じた明るさで表示されることになる。
【0034】
トーチオブジェクト41及び溶接棒オブジェクト42は、被訓練者による入力装置3の操作に応じて仮想空間内で移動する。そして、溶接棒オブジェクト42と母材オブジェクト43との位置関係に応じて溶接が実施される。このような仮想空間での溶接作業の状況が、HMD2の表示部21に表示されることになる。なお、この溶接時に発生する光は、上述したとおり、現実空間における場合と比べてその明るさが抑えられて表示される。
【0035】
窓部オブジェクト44は、被訓練者に装着されたHMD2の位置に応じて、仮想空間内の位置が決定される。仮想空間における溶接作業の状況は、この窓部オブジェクト44を通して表示されることになる。
【0036】
図4は、上述した透過度DB15のレイアウトの一例を示す図である。図4に示すとおり、溶接面の窓部の透過度は、溶接の種類毎、且つ被訓練者のスキルレベル毎に規定されている。
【0037】
本実施の形態の場合、溶接の種類として、アーク溶接、半自動溶接、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接の3つが定められている。また、被訓練者のスキルレベルは、レベル1乃至3の3段階に定められている。スキルレベルが最も低い場合がレベル1で、最も高い場合がレベル3である。
【0038】
本実施の形態において、透過度は0から1までの値で設定される。透過度が0である場合、溶接面の窓部は透明となり、透過度が1である場合、溶接面の窓部は不透明となる。
【0039】
図4に示す例では、アーク溶接に対して、0,0.3,0.6,0.9の4段階の透過度が設定されており、このうちの0はレベル1に、0.3,0.6はレベル2に、0.9はレベル3にそれぞれ紐付けられている。同様にして、半自動溶接に対しては、0,0.45,0.9の3段階の透過度が設定され、0はレベル1に、0.45はレベル2に、0.9はレベル3にそれぞれ紐付けられている。さらに、TIG溶接に対しては、0,0.18,0.36,0.54,0.72,0.9の6段階の透過度が設定され、0,0.18はレベル1に、0.36,0.54はレベル2に、0.72,0.9はレベル3にそれぞれ紐付けられている。
【0040】
本実施の形態の場合、溶接作業の難易度が比較的低い半自動溶接については、透過度の段階の数が3となっている。他方、その難易度が比較的高いTIG溶接については、その段階の数が6となっている。このように、本実施の形態では、溶接作業の難易度に応じて透過度の段階の数を異ならせている。実際の溶接作業の難易度が低い場合は訓練における難易度を大きく上げても被訓練者は対応可能であるのに対し、溶接作業の難易度が高い場合も同様にすると被訓練者は対応が困難になるため、その場合は訓練における難易度を緩やかに上げるのが適切である。そのため、難易度が低い溶接については透過度の段階数を小さくし、難易度が高い溶接については透過度の段階数を大きくすることが好ましい。
【0041】
[システムの動作]
次に、上記のように構成された溶接訓練システム100の動作について、図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。
被訓練者は、HMD2を装着し、HMD2の表示部21に表示されている訓練の種類を確認する。この訓練の種類には、溶接の種類(アーク溶接・半自動溶接・TIG溶接)、母材の種類(すみ肉・V字開先)、及び母材の置き方(下向き・縦向き・横向き)が含まれる。被訓練者は、これらの溶接、母材、及び母材の置き方のそれぞれについて所望の種類を決定し、入力装置3を用いて選択する。
【0042】
情報処理装置1は、上記のようにして行われた入力装置3による選択を受け付けると(S101)、被訓練者のスキルレベルを判定する(S102)。この場合、上記の訓練の種類と同様にして被訓練者が入力装置3を用いて選択したスキルレベルを、今回の被訓練者のスキルレベルであると判定するなどの処理が行われる。その他にも、情報処理装置1が被訓練者とスキルレベルとが対応付けられたデータベースを予め記憶しておき、そのデータベースを参照することにより今回の被訓練者のスキルレベルを自動的に判定してもよい。
【0043】
次に、情報処理装置1は、ステップS101にて取得された溶接の種類、及びステップS102にて判定された被訓練者のスキルレベルに基づいて、今回の訓練において用いられる溶接面の窓部の透過度を決定する(S103)。例えば、溶接の種類として「アーク溶接」が選択されており、被訓練者のスキルレベルがレベル1である場合、図4に示す例によれば、透過度は0に決定される。なお、同じスキルレベルについて複数の透過度が設定されている場合は、最も小さい値の透過度が採用される。
【0044】
以上により、訓練を開始するにあたっての準備処理が完了する。次に、情報処理装置1は、所定のプログラムにしたがって、溶接作業訓練処理を実行する(S104)。この溶接作業訓練処理においては、被訓練者によって操作される入力装置3の位置を示す位置情報、及び被訓練者に装着されたHMD2の位置を示す位置情報が、情報処理装置1に対して継続して入力される。情報処理装置1は、それらの位置情報に基づいて、トーチオブジェクト41、溶接棒オブジェクト42、母材オブジェクト43、及び窓部オブジェクト44等の各オブジェクトの仮想空間内での位置を算出し、その算出結果にしたがって画像を生成する。このようにして生成された画像は、情報処理装置1からHMD2に対して送信され、HMD2の表示部21に表示される。
【0045】
上記の溶接作業訓練処理において、情報処理装置1は、ステップS103にて決定された透過度を用いて、窓部オブジェクト44内の画像を生成する。具体的には、以下の式にしたがって当該画像が生成される。
displayColor = maskColor × α + backgroundColor × (1 - α)
この式におけるαが溶接面の窓部の透過度であって、上述したとおり0から1までの値をとる。また、maskColorは窓部の色である黒色を、backgroundColorは窓部を通して見える景色を、displayColorは画面上に表示される景色を、それぞれ示している。
【0046】
上記の式から明らかなとおり、情報処理装置1は、窓部オブジェクト44内における表示が透過度αに応じた明るさとなるように画像を生成する。ここで、透過度αが0に近い値である場合、窓部の色が透明に近づくことになるため、窓部オブジェクト44内はより明るく表示される。そのため、仮想空間内における溶接作業の難易度が低くなる。他方、透過度αが1に近い値である場合、窓部の色が不透明に近づくことになるため、窓部オブジェクト44内はより暗く表示される。そのため、仮想空間内における溶接作業の難易度が高くなる。
【0047】
ステップS104の溶接作業訓練処理によって一定の訓練が行われた後、情報処理装置1は、訓練を終了させるか否かを判定する(S105)。例えば、被訓練者が入力装置3を用いて訓練終了を指示した場合、または訓練の回数・時間が予め定められた回数・時間に達した場合などに、訓練終了と判定され(S105でYES)、処理が終了する。
【0048】
情報処理装置1は、訓練を終了させずに継続すると判定した場合(S105でNO)、次回の溶接作業訓練処理において溶接面の窓部の透過度を調節する必要があるか否かを判定するための透過度調節要否判定処理を実行する(S106)。この処理では、例えば、訓練の回数が所定数に達した場合、透過度を下げる必要があると判定される。このように、訓練の回数が増えるにしたがって透過度を段階的に下げることによって、訓練によってスキルが身に付いてきた被訓練者に適した難易度の訓練を実現することができる。
【0049】
また、情報処理装置1が、今回の訓練終了後の被訓練者のスキルレベルを判定し、その判定後のスキルレベルに紐付けられている透過度が今回の訓練における透過度と異なる場合に、透過度の調節が必要であると判定してもよい。例えば、トーチオブジェクト41のような被訓練者によって操作される溶接機器に対応するオブジェクトの移動速度が一定となるような場合(移動速度の分散が所定の閾値よりも小さくなる場合)、情報処理装置1は、被訓練者のスキルが向上したと判断して当該被訓練者のスキルレベルを1段階上げ、その最新のスキルレベルに紐付けられている透過度が今回の訓練における透過度と異なるとき、透過度の調節が必要であると判定する。
【0050】
また、被訓練者の操作により溶接棒オブジェクト42の位置が変化した場合に、その溶接棒オブジェクト42の母材オブジェクト43に対する角度などに基づいて、情報処理装置1が当該被訓練者のスキルが向上したと判断し、上記と同様の処理を行って透過度調節の要否を判定してもよい。その他にも、被訓練者が訓練中で設定された課題等をクリアできた場合などに、情報処理装置1が当該被訓練者のスキルが向上したと判断して透過度調節の要否を判定してもよい。
【0051】
上述したようなスキルレベルを上げる場合とは反対に、溶接作業訓練処理の結果、被訓練者のスキルレベルを下げることもあり得る。例えば、溶接機器に対応するオブジェクトの移動速度が一定とならない場合、または上記の課題等がクリアできない場合などに、情報処理装置1が当該被訓練者のスキルレベルを下げるべきと判断してもよい。その場合、下げられた後のスキルレベルと紐付けられている透過度と今回の訓練における透過度とを比較し、透過度調節の要否が判定される。
【0052】
情報処理装置1は、上記の透過度調節要否判定処理の結果、透過度の調節は必要ではないと判定した場合(S107でNO)、透過度を変更せずにステップS104に戻り、それ以降上記と同様の処理を実行する。
【0053】
他方、透過度の調節が必要であると判定した場合(S107でYES)、情報処理装置1は、ステップS103に戻り、透過度DB15に規定されている透過度の中から次回の訓練に用いられる透過度を決定する。例えば、訓練の回数が所定数に達した場合であれば、今回の訓練における透過度よりも一段階低い透過度が選ばれることになる。また、スキルレベルを上げたり下げたりする場合であれば、その最新のスキルレベルに紐付けられている透過度が選ばれることになる。その後、情報処理装置1は、ステップS104以降の処理を実行する。
【0054】
上記のとおり、本実施の形態では、溶接面の窓部の透過度を適宜調節することが可能である。これにより、仮想空間内での溶接作業の難易度を操作することができるため、被訓練者のスキルレベルに合わせた適切な訓練を実現することができる。例えば、透過度を段階的に下げることにより仮想空間内での溶接作業の難易度を徐々に上げることができ、これによって被訓練者のスキルをスムースに向上させることが可能になる。
【0055】
なお、溶接面の窓部の透過度が不透明に近い場合、訓練における溶接作業が現実空間における溶接作業よりも困難になる場合もありえる。被訓練者がこのような訓練を受けた場合、実際に現実空間にて行われる溶接作業が容易に感じられるというメリットが生じる。
【0056】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1における情報処理装置及びHMDが一つの装置で構成される。図6は、実施の形態2の溶接訓練システムの構成を示すブロック図である。図6に示すように、本実施の形態の溶接訓練システム200は、HMDで構成されており、情報処理部201及び表示部202を備えている。この情報処理部201は、実施の形態1における情報処理装置1に相当し、表示部202は、同じく表示部21に相当する。また、溶接訓練システム200は、実施の形態1の場合と同様に入力装置3と通信可能に接続される。
【0057】
情報処理部201は、実施の形態1における情報処理装置1と同様の処理を実行し、仮想空間内における溶接作業の状況を表示部202に表示させる。これにより、本実施の形態において、実施の形態1と同様の作用効果が得られる。
【0058】
(その他の実施の形態)
上記の各実施の形態では、ヘッドマウントディスプレイが用いられているが、本発明はこれに限定されるわけではなく、例えば眼鏡型ディスプレイ等の他のウェアラブルデバイスが用いられてもよい。
【0059】
また、上記の各実施の形態では、溶接面の窓部の透過度がシステム側により決定されているが、被訓練者自身が決定した上で入力装置3などを用いてそれをシステム側に通知するようにしてもよい。例えば、訓練の前後またはその途中に被訓練者が透過度を変更したいと考える場合も想定されるが、そのような場合に被訓練者が自らの判断で透過度を決定してシステム側に知らせ、これを受けたシステム側が透過度を調節した上で上記の溶接作業訓練処理を実行するようにしてもよい。
【0060】
また、上記の各実施の形態では、溶接時に発生する光の明るさを現実空間のものよりも抑えた上で、仮想空間内で表示を行うようにしているが、本発明はこれに限定されるわけではない。溶接面の窓部が透明にならない程度の値に透過度を設定すれば、溶接時に発生する光を現実空間における場合と同様の明るさで表示するようにしてもよい。
【0061】
また、上記の各実施の形態では、溶接作業の難易度に応じて透過度の段階の数を異ならせているが、同様にして、被訓練者のスキルレベルに応じて透過度の段階の数を異ならせてもよい。スキルレベルが高い場合は訓練における難易度を大きく上げても被訓練者は対応可能であるのに対し、スキルレベルが低い場合も同様にすると被訓練者は対応が困難になるため、その場合は訓練における難易度を緩やかに上げるのが適切である。そのため、スキルレベルが低い被訓練者については透過度の段階数を小さくし、高い訓練者については透過度の段階数を大きくすることが好ましい。
【符号の説明】
【0062】
1 情報処理装置
11 入力情報取得部
12 位置算出部
13 スキルレベル判定部
14 透過度調節部
15 透過度データベース
16 画像生成部
17 表示制御部
2 ヘッドマウントディスプレイ
21 表示部
3 入力装置
41 トーチオブジェクト
42 溶接棒オブジェクト
43 母材オブジェクト
44 窓部オブジェクト
100,200 溶接訓練システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6