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特開2022-55423ヒーターガラスの電気抵抗の設定方法、その設定方法を用いた製造方法及びその製造方法で製造したヒーターガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055423
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】ヒーターガラスの電気抵抗の設定方法、その設定方法を用いた製造方法及びその製造方法で製造したヒーターガラス
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20220401BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20220401BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220401BHJP
   H01C 17/24 20060101ALI20220401BHJP
   H05B 3/16 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
H05B3/20 326A
H01B5/14 A
H01B13/00 503B
H01C17/24
H05B3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162840
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】片桐 徹
【テーマコード(参考)】
3K034
3K092
5E032
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
3K034AA04
3K034AA15
3K034BB05
3K034BC14
3K034CA33
3K034HA09
3K034JA01
3K034JA10
3K092PP15
3K092QA05
3K092QB71
3K092QB80
5E032TA13
5E032TA15
5E032TB02
5G307FA01
5G307FB01
5G307FC10
5G323BA02
5G323BB04
(57)【要約】
【課題】視野領域を確保しながら電極間に所定の電気抵抗を設定するためのヒーターガラスの電気抵抗の設定方法、その設定方法を用いた製造方法及びその製造方法で製造したヒーターガラスを提供すること。
【解決手段】ガラス基板1の表面にITO膜2を成膜し、ITO膜2上に固着した一対の導電領域3間に所定の電気抵抗を設定するために、ITO膜2をトリミング加工するようにしたヒーターガラスの電気抵抗の設定方法であって、ITO膜2の中央領域を視野確保領域5として残した状態で、視野確保領域5と導電領域3の間に補助電極領域6を設け、補助電極領域6に所定の電気抵抗を設定するためのトリミング加工を施すようにした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過性を持つ基板の表面に透明な導電性薄膜を成膜し、前記導電性薄膜上に固着した一対の電極間に所定の電気抵抗を設定するために、前記導電性薄膜をトリミング加工するようにしたヒーターガラスの電気抵抗の設定方法であって、
前記導電性薄膜上の外側領域に前記電極を配置させるとともに、前記導電性薄膜の中央領域をトリミング加工を施さない視野確保領域として残した状態で、前記視野確保領域と前記電極の間の接続領域において所定の電気抵抗を設定するためのトリミング加工を施すようにしたことを特徴とするヒーターガラスの電気抵抗の設定方法。
【請求項2】
前記電極は前記導電性薄膜に比較して電気抵抗が小さく、電気抵抗による発熱が期待されていない導電性薄膜を成膜させて構成するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のヒーターガラスの電気抵抗の設定方法。
【請求項3】
前記導電性薄膜に比較して電気抵抗が小さく、電気抵抗による発熱が期待されていない補助電極領域を前記導電性薄膜上に成膜させ、前記電極をそれぞれ前記補助電極領域と電気的に接続させるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のヒーターガラスの電気抵抗の設定方法。
【請求項4】
前記電極又は前記補助電極領域を長尺に構成し、前記視野確保領域と前記補助電極領域との間の前記接続領域の前記電極の長手方向に沿った長さをトリミング加工において変更することで前記導電性薄膜の電気抵抗を調整するようにしたことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のヒーターガラスの電気抵抗の設定方法。
【請求項5】
前記電極又は前記補助電極領域を長尺に構成し、前記視野確保領域と前記補助電極領域との間の前記接続領域の幅をトリミング加工において変更することで前記導電性薄膜の電気抵抗を調整するようにしたことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のヒーターガラスの電気抵抗の設定方法。
【請求項6】
長尺に構成された一対の前記補助電極領域は平行に配置され、一対の前記電極はそれぞれ前記補助電極領域上の互いに遠い側となる端又は端付近に配置されることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のヒーターガラスの電気抵抗の設定方法。
【請求項7】
前記接続領域は前記視野確保領域から前記補助電極領域に至る経路をつづら折り状に屈曲させて構成した領域であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のヒーターガラスの電気抵抗の設定方法。
【請求項8】
前記視野確保領域とその両側の前記接続領域で構成される領域は鏡像対称となるように配置されていることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のヒーターガラスの電気抵抗の設定方法。
【請求項9】
前記導電性薄膜はITO膜であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のヒーターガラスの電気抵抗の設定方法。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれかの方法で前記導電性薄膜に電気抵抗を設定しヒーターガラスを製造するようにしたことを特徴とするヒーターガラスの製造方法。
【請求項11】
請求項10の製造方法で製造したヒーターガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明なガラス基板の表面に透明な導電性薄膜を成膜し、前記導電性薄膜上に固着した電極間に所定の電気抵抗を設定するために、前記導電性薄膜をトリミング加工するようにしたヒーターガラスの電気抵抗の設定方法、その設定方法を用いた製造方法及びその製造方法で製造したヒーターガラス等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば屋外監視用カメラやセンサ等の外光を取得する必要のある光学装置において、カバーガラスが曇らないようにヒーターガラスが用いられている。
このようなヒーターガラスはかつては細線をガラスに貼ったりガラス内部に封入したりし、通電した際の電気抵抗によるジュール熱を利用して発熱させていたが、近年ではガラス基板上に透明な導電性薄膜を成膜させ、この導電性薄膜に通電して同様に発熱させるタイプのヒーターガラスが主流である。このような導電性薄膜によるヒーターガラスについての公知技術として特許文献1と非特許文献1を示す。
ヒーターガラスとしてガラス基板上に透明な導電性薄膜を成膜させるメリットの1つに、導電性薄膜が透明で見えないため、撮影やセンサ等の検知の支障にならないことがある。導電性薄膜の電気抵抗は導電性薄膜の面積や長さによって調整される。例えば図10(a)に示すような単純な外周絶縁のみの方形形状の導電性薄膜50では、その方形形状の端子間抵抗値がクライアント先の希望に沿うものであればそのまま使用できるが、そうでないケースはそのままでは使用できないので導電性薄膜50の形状の裕度は少ない。そのため、図10(b)のように導電性薄膜50に縦方向にトリミング加工でスリット51を形成させて電極52間の経路を長くしたり、更に図10(c)のように電極52間の経路をより狭くかつ長くすることで導電性薄膜50の電気抵抗をより大きくすることでクライアント先の希望する端子間抵抗値に設計することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-98212号公報
【非特許文献1】東海光学株式会社、『ヒーターガラス(デフロスタガラス)』[令和2年9月18日検索]、インターネット<https://www.tokaioptical.com/jp/product11/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図10(b)や図10(c)のようにトリミングすると視野内にトリミング加工痕が残ってしまう。従来ではトリミング加工痕は見えにくいため、クライアントに許容されてきた。しかし、例えば、LiDARセンサなどによる物体検知や距離計測などの技術が製品に搭載されている場合ではレーザー光照射に対する散乱光を測定するため、センサ視野内での特性の一様化が重要とされる。この事例に限らず視野内からこのようなトリミング加工痕が残らないようにしてほしいという要望がある。
本発明は、これらのような問題点に鑑み、視野領域を確保しながら電極間に所定の電気抵抗を設定するためのヒーターガラスの電気抵抗の設定方法、その設定方法を用いた製造方法及びその製造方法で製造したヒーターガラスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために第1の手段では、透過性を持つ基板の表面に透明な導電性薄膜を成膜し、前記導電性薄膜上に固着した一対の電極間に所定の電気抵抗を設定するために、前記導電性薄膜をトリミング加工するようにしたヒーターガラスの電気抵抗の設定方法であって、前記導電性薄膜上の外側領域に前記電極を配置させるとともに、前記導電性薄膜の中央領域をトリミング加工を施さない視野確保領域として残した状態で、前記視野確保領域と前記電極の間の接続領域において所定の電気抵抗を設定するためのトリミング加工を施すようにした。
これによって、中央の視野確保領域にトリミング加工がされないため、用途を問わずヒーターガラス使用時のトリミング加工に起因した視野内の特性の一様化がないことについての不具合が解消され、視野確保領域にトリミング加工をしなくとも電極間に所定の電気抵抗を設定することが可能となる。
「透過性を持つ基板」は、例えばガラス基板である。ガラス基板は透明で傷付きにくい硬度を有していればよく、無機ガラスではケイ酸ガラス以外に、例えば石英ガラス、カルコゲン化物ガラス、サファイアガラス、金属ガラス等がよい。また、例えばアクリルガラス、や硬質ポリカ樹脂等の有機ガラスもよい。基板は透過性があれば透明でなく、例えば半透明であってもよい。例えば赤外線を透過させる場合には基板は透明でなくともよいからである。
「導電性薄膜」は透明で導電性で不溶性で、かつ通電することで十分な発熱をすることができればよい。金属膜や有機・無機の透明導電膜が使用可能である。例えばITO(酸化インジウムスズ)、FTO(フッ素ドープ酸化錫)、AZO(アルミニウム添加酸化亜鉛)、有機透明導電膜(PEDOT)等がよい。導電性薄膜は、例えば蒸着、スパッタ、大気下気相化学成長(Chemical Vapor Deposition:CVD法)、液相コート層の焼結等によって成膜させることができる。液相コート層はスピン法、ディップ法、スプレー法、スクリーン印刷等で成膜させることができる。導電性薄膜は種類によってそれぞれシート抵抗値(Ω/□:任意の正方形における抵抗値)は異なるが、例えば蒸着で安定的に成膜されるITO膜であれば(10~50Ω/□)程度となる。
導電性薄膜を発熱させるために必要な電力はヒーターガラスの用途や使用環境やサイズによって一様ではない。一般的なカメラやセンサの用途のヒーターガラスでは消費電力は例えば、1W~5W程度がよく、印加電圧は例えば、5~200V程度がよい。得られる発熱は温度上昇量として20~50度くらいを目標として設計される。これらは一般的な数値であり用途、使用環境、サイズによってこれら数値範囲を越えることもある。
「トリミング加工」は導電性薄膜の必要な部分だけを残す加工であり、例えば、レーザーによる物理的な破壊による膜剥離、例えばフォトレジストなど使用し、必要な部分をレジストで保護して不要な部分を薬液処理したり、逆に不必要な部分のみレジストして全面成膜しレジスト部を除去したりするリフトオフ処理、例えばマスク治具を使用したマスク成膜、物理的にカッターで薄膜をカットする等の様々な手段が取り得る。
「一対の電極」とあるのは+極と-極の一対という意味であり、例えばリード線を遠くに誘導するためにジャンパー線を使用したり、例えば複数のヒーターガラスを直列に連結するような特殊なケースであってもそのヒーターガラスについての電極としては一対と解釈する。
これらの用語の定義は以下の手段でも同様である。
【0006】
また、第2の手段として、前記電極は前記導電性薄膜に比較して電気抵抗が小さく、電気抵抗による発熱が期待されていない導電性薄膜を成膜させて構成するようにした。
固体の電極を直接導電性薄膜の上に形成させることは技術的に煩雑であるため、まず導薄膜を成膜させその上に端子等を接続させるようにした。
「電気抵抗による発熱が期待されていない」とは、良好な導電性であり電気抵抗が導電性薄膜と比較して極めて低く、ジュール熱の発生がほとんどないか、もし電気抵抗が発生しても導電性薄膜の通電による発熱量が大きいため無視できる程度のものであることである。
導電性薄膜は、例えば導電性接着剤や導電性テープ等がよい。例えば導電性接着剤であれば、電極自体の形状の裕度も発揮される。導電性接着剤は塗布あるいは印刷し、熱硬化させて形成することがよい。熱硬化は必須ではない。導電性接着剤は熱硬化性接着剤(例えばエポキシ樹脂系)と導電性材料を混合した接着剤である。接着剤に使用される導電性材料としては極めて導電性の高い金属、例えば銀、銅、金等を主体とすることがよい。これらの金属は導電性が高いため、導電性薄膜を発熱させる程度の電力では発熱しない。導電性の点では銀系がもっともよく、はんだ付けする場合には銅系を用いることがよい。導電性テープは例えば銅箔テープ、銀箔テープ等がよい。導電性テープはカットして導電性薄膜上に貼着するだけでよいため作業性がよい。
また、例えば超音波はんだ装置で直接導電性薄膜の上にはんだ電極帯を形成したり、例えばめっきなどで銅などの金属薄膜を直接析出させたりして導電性薄膜を成膜させるようにしてもよい。
また、第3の手段として、前記導電性薄膜に比較して電気抵抗が小さく、電気抵抗による発熱が期待されていない補助電極領域を前記導電性薄膜上に成膜させ、前記電極をそれぞれ前記補助電極領域と電気的に接続させるようにした。
電極から流れる電気を効率よく導電性薄膜に導くためにこのような補助電極領域を設けることがよい。「電気的に接続」は、例えば電極に隣接して補助電極領域を設けたり、補助電極領域の一部を電極としたり等することがよい。「電気抵抗による発熱が期待されていない」は上記と同様である。
【0007】
また、第4の手段として、前記電極又は前記補助電極領域を長尺に構成し、前記視野確保領域と前記補助電極領域との間の、前記接続領域の前記電極の長手方向に沿った長さをトリミング加工において変更することで前記導電性薄膜の電気抵抗を調整するようにした
電極又は補助電極領域を長尺に構成し、その長尺の長手方向に沿って接続領域の長さを適宜変更することで視野確保領域を狭めることなく電気抵抗を調整することができる。
また、第5の手段として、前記電極又は前記補助電極領域を長尺に構成し、前記視野確保領域と前記補助電極領域との間の、前記接続領域の幅をトリミング加工において変更することで前記導電性薄膜の電気抵抗を調整するようにした。
電極又は補助電極領域を長尺に構成し、電極(又は補助電極領域)と視野確保領域との間の接続領域の幅を調整することで電気抵抗を調整することができる。特に接続領域の長さ方向と組み合わせて接続領域の幅を調整することで様々な大きさの電気抵抗を創出することができる。
また、第6の手段として、長尺に構成された一対の前記補助電極領域は平行に配置され、一対の前記電極はそれぞれ前記補助電極領域上の互いに遠い側となる端又は端付近に配置されるようにした。
例えば図9(a)のように一対の電極をより近い位置(図9(a)では正対位置)に配置する場合では中心付近が電気が通りやすくなる(太い矢印方向)。しかし、それよりも、図9(b)に示すように、一対の電極を補助電極領域上の最も遠くなる位置に配置させることで、様々な経路で電気が流れることとなるため、より導電性薄膜の発熱の均一化が期待できる。
また、第7の手段として、前記接続領域は前記視野確保領域から前記電極に至る経路をつづら折り状に屈曲させて構成した領域であるようにした。
このようにつづら折り状に屈曲させることで接続領域の経路を長くすることができるため、接続領域の幅があまりなくとも電気抵抗を調整することができる。
【0008】
また、第8の手段として、前記視野確保領域とその両側の前記接続領域で構成される領域は鏡像対称となるように配置されているようにした。
このように対称形状にトリミング加工すると、電気抵抗値の計算がしやすく、また導電性薄膜上での抵抗の差が出にくくなる。
また、第9の手段として、前記導電性薄膜はITO膜であるようにした。
ITO(酸化インジウムスズ)膜は、透明で成膜しやすくトリミング加工した際の電気抵抗も安定的であるためヒーターガラスの導電性薄膜のとして好適だからである。
また、第10の手段は、第1の手段~第9の手段のいずれかの方法で前記導電性薄膜に電気抵抗を設定しヒーターガラスを製造するようにした。
また、第11の手段は、第10の手段の製造方法で製造したヒーターガラスである。
上述した第1~第11の手段の各発明は、任意に組み合わせることができる。特に、第1の手段の構成、第10の手段の構成、第11の手段のいずれかの構成を備えて、第2~第9の手段の各発明の少なくともいずれか1つの構成との組み合わせを備えるとよい。第1~第11の手段の各発明の任意の構成要素を抽出し、他の構成要素と組み合わせてもよい。
【発明の効果】
【0009】
上記発明では、中央の視野確保領域にトリミング加工がされないため、用途を問わずヒーターガラス使用時のトリミング加工に起因した視野内の特性の一様化がないことについての不具合が解消され、視野確保領域にトリミング加工をしなくとも電極間に所定の電気抵抗を設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態のヒーターガラスの製造方法を説明するための模式的な図であって(a)はガラス基板の正面図と平面図、(b)は(a)のガラス基板の上にITO膜を成膜した状態の正面図と平面図、(c)は(b)のITO膜の上に導電領域と端子接続領域を形成した状態の正面図と平面図。
図2】同じ実施の形態のヒーターガラスの製造方法を説明するための模式的な図であって(a)は図1(c)の状態からトリミング加工をした状態の正面図と平面図、(b)は(a)の上にSiOの薄膜を成膜した状態の正面図と平面図、(c)は(b)の状態で端子接続領域にリード線をはんだ付けしてヒーターガラスが完成した状態の正面図と平面図。
図3】本発明の実施例1のITO膜を成膜させた状態のヒーターガラス前躯体であって(a)は接続領域が最も幅広に構成された状態の平面図、(b)は(a)よりも接続領域の幅が狭く構成された状態の平面図、(c)は(b)よりも接続領域が狭く構成された状態の平面図。
図4】本発明の実施例2のITO膜を成膜させた状態のヒーターガラス前躯体であって(a)は接続領域が最も短く構成された状態の平面図、(b)は(a)よりも接続領域が長く構成された状態の平面図、(c)は(b)よりも接続領域が長く構成された状態の平面図。
図5】本発明の他の実施例のITO膜を成膜させた状態のヒーターガラス前躯体の平面図。
図6】本発明の他の実施例のITO膜を成膜させた状態のヒーターガラス前躯体の平面図。
図7】本発明の他の実施例のITO膜を成膜させた状態のヒーターガラス前躯体の平面図。
図8】ITO膜をトリミング加工する際に接続領域のカット領域がどのように変動するかを説明する説明図。
図9】(a)は電極を補助電極領域の対向する中央位置に配置した場合の電気の流れを説明する説明図、(b)は電極を補助電極領域の基板の対角となる位置に配置した場合の電気の流れを説明する説明図。
図10】(a)は従来の透明なガラス基板の表面に透明な導電性薄膜を成膜したヒーターガラスの模式図、(b)及び(c)は(a)のヒーターガラスをトリミング加工して電気抵抗を変動させたヒーターガラスの模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の具体的な実施の形態と実施例について図面や表に基づいて説明する。
まず図1及び図2に基づいて、実施の形態のヒーターガラスの製造方法について説明する。尚、図1及び図2は模式的な図であり厚み方向の構造の厚さ比率は実際の製品を反映するものではない。
一例として図1(a)のような70mm角サイズのガラス基板1上にITO膜2を成膜させるものとする。例えば、蒸着によって、図1(b)に示すように基板1の片方の面(表面)に均一な厚さでITO膜2を成膜する。次いで、図1(c)に示すようにITO膜2の上から一対の導電領域3をスクリーン印刷し、熱硬化させる。各導電領域3はITO膜2が成膜された基板1の最も離間した対向する端縁部に沿って長尺の同形状の平行な長方形形状として構成される。補助電極領域としての導電領域3はまず下層となるITO膜2上の形成領域に銀ペーストを塗布し熱硬化させ、その上にはんだ付け用の領域として銅ペーストを楕円状に塗布し熱硬化させて端子配置領域4を形成させる。端子配置領域4は平行に配置された導電領域3の互いに相手側が逆側の端位置となるように(つまりガラス基板1の対角線方向)配置される。そして、端子配置領域4を除いて導電領域3に絶縁用UV硬化インキをスクリーン印刷する。これによって、導電領域3は端子配置領域4のみが露出して電極領域となり端子が接続される領域となる。
【0012】
次いで、端子配置領域4間の抵抗値を測定しながら公知のレーザー加工機によるレーザー光によってITO膜2の一部を除去(トリミング加工)し、抵抗値の調整を実行する。図2(a)にある実行結果の例を示す。トリミング加工によって十字形状のITO膜2の領域が残されている。本実施の形態では、この加工によって長方形形状の視野確保領域5と視野確保領域5の左右位置に張り出し、導電領域3に接続される扁平な長方形形状の接続領域6が作製されることとなる。主として接続領域6の形状の変更によってITO膜2の電気抵抗を調整する。本実施の形態では視野確保領域5の上下幅は一定であるが左右の距離(間隔)は接続領域6の形状が変化することで増減することとなる。
ITO膜2は高屈折材料であるため低屈折材料の透明な薄膜を成膜することが反射防止となるためよく、さらにITO膜2の保護にもなる。そのため、ここでは図2(b)のように端子配置領域4を除いてSiOの薄膜7を成膜する。次いで、端子配置領域4に端子となるリード線8を図2(c)のようにはんだ付けしてヒーターガラス9が完成する。リード線8が不要なケースであれば図2(b)の段階で完成である。
【0013】
次に、上記のようにヒーターガラス9の具体的な実施例について説明する。上記のような薄膜7やリード線を施工する前のヒーターガラス9の前躯体10の状態で説明する。
(実施例1)
図3(a)~(c)に示す前躯体10は視野確保領域5を一定にし、接続領域6の幅によってITO膜2の電気抵抗を調整している。図3(a)は導電領域3に面している接続領域6が最も幅広に構成され、図3(a)→図3(b)→図3(c)の順に接続領域6の幅が狭く構成された例である。視野確保領域5と接続領域6で構成される領域は鏡像対称(線対称)に構成されている。接続領域6の幅が広いほど抵抗が小さく電気が通りやすいためトリミング前に比べて抵抗値の変動は小さい。この例では図3(c)が最もトリミング前に比べて抵抗値の変動は大きくなる。
(実施例2)
図4(a)~(c)に示す前躯体10は接続領域6の幅を一定にし、導電領域3と視野確保領域5との間の接続領域6の長さによってITO膜2の電気抵抗を調整している。この例では接続領域6の幅は一定である。視野確保領域5と接続領域6で構成される領域は鏡像対称(線対称)に構成されている。図4(a)は接続領域6が最も短く構成され、図4(a)→図4(b)→図4(c)の順に接続領域6が長くなるように狭く構成された例である。接続領域6が長いほど抵抗が大きくなって電気が通りにくくなりトリミング前に比べて抵抗値の変動は大きい。この例では図4(c)が最もトリミング前に比べて抵抗値の変動は大きくなる。
【0014】
次に、上記のような抵抗値の変動理論に基づいて接続領域6を変動させた際に実測された抵抗値と、接続領域6を変動させた際の抵抗値の推定方法について説明する。電気抵抗は種々の要因で決まるためトリミングした面積だけで正確に算出はできないが、トリミング後の形状と抵抗値との大まかな相関性を予測することが可能となる。
70mm角のガラス基板の表面全面にITO膜2を成膜させこれをトリミング加工した。実験的な実施であるため電極を上記のような導電領域3と端子配置領域4を導電性接着剤で構成せず、導電領域3と同様の導電性を備えた銅箔テープをITO膜2上に貼着して使用した。図8に示すように、ITO膜2をトリミング加工した際の接続領域6の開口幅Wと接続長さLを変動させる。
接続領域6の開口幅Wを10mm、20mm、30mm、40mmに設定した4種類の見本について、それぞれ中央の視野確保領域5への接続長さLを5mm、10mm、15mm、20mmとなるように徐々に長さLを変動させた場合の端子間抵抗値を測定した。その結果を表1に示す。
【0015】
【表1】
【0016】
70mm角のガラス基板の表面全面にITO膜を成膜させ、銅箔テープで電極を形成し、4種類の異なる開口幅WのITO膜2のシート抵抗値を測定した。その結果を表1に示す。表1では開口幅W10mm、20mm、30mm、40mmの順に28.0Ω/□、27.0Ω/□、27.4Ω/□、26.9Ω/□となった。尚、開口幅Wの制限がない場合の全面にITO膜を成膜させ際の端子間抵抗値は約25Ωであった。開口幅は広いほど電気が通りやすいため電気抵抗(端子間抵抗値)は小さくなることがわかる。そしてそれぞれの開口幅Wについて接続長さLを5mm、10mm、15mm、20mmの結果を見ると接続長さLが短いほど電気が通りやすいため電気抵抗(端子間抵抗値)は小さくなっていることがわかる。この結果から上記実施例1や実施例2の設計の正しさがわかる。
次に接続領域6を変動させる際の抵抗値の推定方法について説明する。
まず、表1で示した実験結果から、最終的に接続長さLが20mmになった段階の数値を例に推定値を算出し表1の実測値と比べて表2に示す。
この表2の算出値は次のように計算される。
左側の接続領域6、視野確保領域5、右側の接続領域6が直列に接続されていると見なし、それぞれの箇所においてシート抵抗値、成膜長さ、成膜幅からその領域に成膜されているITO膜の持つ抵抗値を算出して、合計し端子間抵抗値の推定値とする計算手法を採用した。
表2の開口幅W10mmのケースに基づいて行った具体的な計算方法に基づいて計算方法を説明する。
【0017】
端子間抵抗値は次の式で示される。
端子間抵抗値[Ω]=シート抵抗値[Ω/□]×電極間距離[mm]/電極幅[mm]
開口幅W10mmのケースについて、実測しこの式に基づいて計算する。このケースでの実測は視野確保領域5の左右の距離(間隔)30mm、上下幅56mmであり、また、左右の接続領域6は接続長さL20mm、開口幅W10mmであった。
すると、
視野確保領域5の抵抗値
シート抵抗値は28[Ω/□]なので、上記の左右の距離(間隔)30mm、上下幅56mmという数値から、
28×30/56=15[Ω]
また、
接続領域6の抵抗値
同じく、シート抵抗値は28[Ω/□]である。
接続領域6は接続長さL20mm、開口幅W10mmなので、1つの接続領域6の抵抗値は、
28×20/10=56[Ω]と算出できる。
上記ケースでは同じ形状の接続領域6が視野確保領域5の左右にあるため、左右の接続領域6の持つ抵抗値は同一とした。
そのため、全体の端子間抵抗値=左の接続領域6の抵抗値+視野確保領域5の抵抗値+右の接続領域6の抵抗値となり、
56+15+56=127[Ω]と算出できる。
表2の結果から多少の誤差はあるものの、算出した抵抗値と実測した抵抗値は近い数値が得られ、大まかではあるが抵抗値の予想が可能であることがわかる。表3に表1のすべての実測した抵抗値に対応する推定値を示す。
【0018】
【表2】
【0019】
【表3】
【0020】
このようなヒーターガラス、ヒーターガラスの電気抵抗設定方法及びヒーターガラスの製造方法においては、次のような効果が奏される。
(1)視野確保領域5にトリミング加工を施さずにヒーターガラスに所定の電気抵抗を設定できるため、中央付近の視野が確保され、トリミング加工を施すことに起因する不具合が解消される。
(2)長尺の導電領域3を設け、この導電領域3に接続領域6を接続させるようにしているため、接続領域6を長くしなくとも電気抵抗の調整が可能となり、視野確保領域5を確保することができる。
(3)端子配置領域4から流れる電気は抵抗の低い導電領域3にまず流れ、その後に接続領域6に流れるようになるため、端子配置領域4がガラス基板1の角位置に配置されていても、視野確保領域5全体に均等な抵抗による発熱をさせることができる。
【0021】
上記実施の形態は本発明の原理およびその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
図5は、接続領域6の視野確保領域5から導電領域3に至る経路についてつづら折り状に屈曲するようにカット部11を入れて前躯体10を構成した例である。視野確保領域5と接続領域6で構成される領域は鏡像対称(線対称)に構成されている。また、この例では上記と異なり導電領域3を長尺にせず端子配置領域4周辺だけに成膜させている。このように屈曲させることで接続領域6の幅に比して経路を非常に長くすることができる。これによって電気抵抗を大きく設定することが可能である。
図6は、接続領域6の視野確保領域5から導電領域3に至る経路について端子配置領域4に面したごく狭い部分だけとして前躯体10を構成した例である。視野確保領域5と接続領域6で構成される領域は対称にはならない例である。また、この例では接続領域6を端子配置領域4に隣接させずにオフセットさせた遠い導電領域3に接続させている。接続領域6の導電領域3に対する接続位置を導電領域3の長手方向に沿って移動させるようにしてもよい。
図7は、接続領域6の視野確保領域5から導電領域3に至る経路について複数の(この例では3つ)独立した経路12a~12cとしたものである。視野確保領域5と接続領域6で構成される領域は鏡像対称(線対称)に構成されている。また、導電領域3の外方までトリミングを施している。このように構成することで経路12a~12cの数や太さや長さを適宜変更して電気抵抗を大きく設定することが可能である。
【0022】
・製造されるヒーターガラス9の大きさ・形状・層構造について上記は一例である。例えば以下のように実施することも可能である。
・上記実施の形態では導電領域3と端子配置領域4は塗布で成膜させたが、これらを印刷で形成するようにしてもよい。
・実施の形態では導電領域3を絶縁用UV硬化インキで端子配置領域4を残して絶縁するようにしていたが、絶縁せずに使用してもよい。その場合に導電領域3を銅ペーストだけで構成すれば導電領域3が電極であり、端子を接続する領域となる。
・リード線をはんだ付けしたが、例えばリード線をFPCに代替したり、はんだ付け部分を導電性ペースト、導電性接着剤、異方性導電フィルム(ACF)等で代替してもよい。
・端子配置領域4にリード線をはんだ付けせずに、端子配置領域4自体を端子として給電側端子を接地させるようにしてもよい。
・導電領域3を長尺に構成したが、端子形成ように一部分だけに導電領域3を形成するようにしてもよい。
・上記実施例では視野確保領域5と接続領域6で構成される領域は概ね左右が対称となるように設計されていた。これは一様な電気抵抗とすることで発熱の温度分布のばらつきを小さくするためには有効であるが、視野確保領域5と左右の接続領域6で構成される領域の左右の形状、バランスが違ってもよい。例えば左右の接続領域6の幅や長さや視野確保領域5に対する接続位置を対称ではなく異なるように構成してもよい。
本願発明は上述した実施の形態に記載の構成に限定されない。上述した各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
また、意匠出願への変更出願により、全体意匠または部分意匠について権利取得する意思を有する。図面は本装置の全体を実線で描画しているが、全体意匠のみならず当該装置の一部の部分に対して請求する部分意匠も包含した図面である。例えば当該装置の一部の部材を部分意匠とすることはもちろんのこと、部材と関係なく当該装置の一部の部分を部分意匠として包含した図面である。当該装置の一部の部分としては、装置の一部の部材としてもよいし、その部材の部分としてもよい。
【符号の説明】
【0023】
1…透過性を持つ基板としてのガラス基板、2…導電性薄膜であるITO膜、3…電極としての導電領域、5…視野確保領域、9…ヒーターガラス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10