(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055439
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】ミルペーシング制御方法
(51)【国際特許分類】
B21B 37/00 20060101AFI20220401BHJP
B21B 39/00 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
B21B37/00 250
B21B39/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162863
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】仮屋 広望
(72)【発明者】
【氏名】石川 智也
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124BB18
4E124EE11
4E124FF10
(57)【要約】
【課題】待機時間を延長することなく故障等が発生した巻取り機に圧延材が進入することを確実に防止するミルペーシング制御方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るミルペーシング制御方法は、複数の巻取り機7の故障情報及び巻取り実行情報に基づいて圧延材19の巻取り可否を判断し、巻取り可能と判断される巻取り機7がない場合には少なくとも一つの巻取り機7が巻取り可能と判断されるまで、圧延材19を仕上圧延機5の入側で待機させる巻取り可否判断ステップS1と、圧延材19を巻き取る巻取り機7を選択する巻取り機選択ステップS3と、巻取り機7及び先行圧延材との干渉有無を予測し、巻取り機干渉回避時間、先行圧延材干渉回避時間をそれぞれ算出し、両干渉回避時間から待機時間を算出する待機時間算出ステップS5と、待機時間に基づいて圧延材19が仕上圧延機5に進入するタイミングを制御する進入制御ステップS7とを備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉から抽出されて粗圧延機によって粗圧延された圧延材を圧延する仕上圧延機と、該仕上圧延機によって圧延された前記圧延材を巻き取る複数の巻取り機とを有する熱間圧延ラインにおいて、前記圧延材を前記仕上圧延機に進入させるタイミングを制御するミルペーシング制御方法であって、
前記複数の巻取り機の故障情報、及び、巻取りの実行状態に関する巻取り実行情報を取得し、該取得情報に基づいて、各巻取り機における前記圧延材の巻取り可否を判断し、巻取り可能と判断される巻取り機がない場合には、少なくとも一つの巻取り機が巻取り可能と判断されるまで、前記圧延材を前記仕上圧延機の入側で待機させる巻取り可否判断ステップと、
該巻取り可否判断ステップで巻取り可能と判断された巻取り機の中から、前記圧延材を巻き取る巻取り機を選択する巻取り機選択ステップと、
該巻取り機選択ステップで選択された巻取り機及び前記圧延材に先行する先行圧延材との干渉有無を予測し、干渉が有ると予測される場合には、巻取り機との干渉を回避する巻取り機干渉回避時間、先行圧延材との干渉を回避する先行圧延材干渉回避時間をそれぞれ算出し、両干渉回避時間から待機時間を算出する待機時間算出ステップと、
該待機時間算出ステップで算出した待機時間に基づいて前記圧延材が前記仕上圧延機に進入するタイミングを制御する進入制御ステップと、を備えることを特徴とするミルペーシング制御方法。
【請求項2】
前記巻取り可否判断ステップは、前記取得情報に加えて、各巻取り機が巻取りを可能とする前記圧延材の板厚及び板幅範囲に関する巻取可能範囲情報をさらに取得し、該取得した巻取可能範囲情報に基づいて巻取り可否を判断することを特徴とする請求項1記載のミルペーシング制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材等の圧延対象の金属材(以下、圧延材という)を圧延する熱間圧延ラインにおけるミルペーシング制御方法に関するものであり、特に、圧延材を仕上圧延機に進入させるタイミングを制御するミルペーシング制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図6に一例を示す熱間圧延ライン1では、圧延材19が加熱炉4で加熱されて(加熱工程)、ライン上に抽出され、複数のミルから構成される粗圧延機3で鋼帯寸法を粗く整えられた後(粗圧延工程)、複数のミルから構成される仕上圧延機5で所定の寸法の鋼帯に加工される(仕上圧延工程)。圧延された鋼帯は、温度が調整されて(冷却工程)、巻取り機7によって巻取られてコイル状にされた後(巻取り工程)、ライン外に搬出される。
【0003】
通常、このような熱間圧延ライン1では、ライン上に複数の圧延材19が存在しているので、圧延材19同士の衝突を回避するため、加熱炉4からの抽出間隔を調整して、圧延材19同士の間隔が適切なものとなるように制御している。
また、上述した加熱炉4からの抽出間隔は、抽出時点での各圧延材19の搬送予測をもとに決定しているため、搬送途中に予測との誤差が生じる場合があり、このような誤差によって圧延材19同士の衝突が予測される場合には、ラインの途中で後行する圧延材19を所定のポイントで一時待機させて、先行する圧延材19との間に適切な間隔が設けられるように制御している。
【0004】
さらに、上記圧延材19の間隔を、圧延材19同士を衝突させない最短ピッチとなるように制御することで熱間圧延ライン1における圧延能率及び製品生産性が向上する。
このような、圧延材19同士の衝突を回避しつつ、圧延材19の間隔が最短となるように、加熱炉4からの抽出間隔を調整したり、ライン途中の所定のポイントで圧延材19を待機させるなどして圧延材19の間隔を調整したりする制御をミルペーシング制御という。
【0005】
上述したようなミルペーシング制御に関する技術として、例えば、特許文献1には、粗圧延機に進入する直前の圧延材を対象に、先行する圧延材との干渉をチェックし、干渉する時間だけ粗圧延機の進入時刻を修正して、粗圧延機前で待機させる例が開示されている。
また、特許文献2には、先行する圧延材の仕上圧延工程及び巻取り工程に要する時間と、後行する圧延材を巻取り工程へ進めるのに必要な巻取り機側の準備に要する準備時間を予測し、該予測時間を元に待機時間を算出して、仕上圧延機前で待機させる例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-225702号公報
【特許文献2】特開2013-180324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように、粗圧延機3手前の所定ポイントに到達した時点で先行する圧延材19との干渉を予測する場合、粗圧延工程の後段工程である仕上圧延工程や巻取り工程に関する予測に誤差が生じやすい。
【0008】
これに対し、特許文献2のように、仕上圧延機5手前の所定ポイントに到達した時点で、先行する圧延材19との干渉や、巻取り機7の準備時間を予測することで、仕上圧延工程や巻取り工程に関しても精度よく予測することができる。しかし、例えば巻取り機7側で故障が発生した場合など、不測の事態が生じた場合、従来技術ではこれを感知することなく所定の待機時間経過後に仕上圧延機5に圧延材19が進入し、さらに故障した巻取り機7に進入してしまうので設備トラブルを起こす可能性があった。
【0009】
そこで、従来では、各圧延材19の待機時間をそれぞれ延長して予備待機時間を設けることで、圧延材19が仕上圧延機5に進入するタイミングを一定時間遅らせて、巻取り機7側で急な故障が発生した場合でも対処を可能としていた。
しかしながら、上述したように圧延材19の間隔は先行する圧延材19と衝突しない最短ピッチであることが圧延能率の観点では好ましく、待機時間の延長によって製品生産性の向上を阻害するという課題があった。
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、待機時間を延長することなく、故障等が発生した巻取り機に圧延材が進入することを確実に防止するミルペーシング制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係るミルペーシング制御方法は、加熱炉から抽出されて粗圧延機によって粗圧延された圧延材を圧延する仕上圧延機と、該仕上圧延機によって圧延された前記圧延材を巻き取る複数の巻取り機とを有する熱間圧延ラインにおいて、前記圧延材を前記仕上圧延機に進入させるタイミングを制御するものであって、前記複数の巻取り機の故障情報、及び、巻取りの実行状態に関する巻取り実行情報を取得し、該取得情報に基づいて、各巻取り機における前記圧延材の巻取り可否を判断し、巻取り可能と判断される巻取り機がない場合には、少なくとも一つの巻取り機が巻取り可能と判断されるまで、前記圧延材を前記仕上圧延機の入側で待機させる巻取り可否判断ステップと、該巻取り可否判断ステップで巻取り可能と判断された巻取り機の中から、前記圧延材を巻き取る巻取り機を選択する巻取り機選択ステップと、該巻取り機選択ステップで選択された巻取り機及び前記圧延材に先行する先行圧延材との干渉有無を予測し、干渉が有ると予測される場合には、巻取り機との干渉を回避する巻取り機干渉回避時間、先行圧延材との干渉を回避する先行圧延材干渉回避時間をそれぞれ算出し、両干渉回避時間から待機時間を算出する待機時間算出ステップと、該待機時間算出ステップで算出した待機時間に基づいて前記圧延材が前記仕上圧延機に進入するタイミングを制御する進入制御ステップと、を備えることを特徴とするものである。
【0012】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記巻取り可否判断ステップは、前記取得情報に加えて、各巻取り機が巻取りを可能とする前記圧延材の板厚及び板幅範囲に関する巻取可能範囲情報をさらに取得し、該取得した巻取可能範囲情報に基づいて巻取り可否を判断することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、複数の巻取り機の故障情報、及び、巻取りの実行状態に関する巻取り実行情報を取得し、該取得情報に基づいて、各巻取り機における圧延材の巻取り可否を判断し、巻取り可能と判断される巻取り機がない場合には、少なくとも一つの巻取り機が巻取り可能と判断されるまで、圧延材を仕上圧延機の入側で待機させる巻取り可否判断ステップを備えたことにより、故障等が発生した巻取り機に圧延材が進入することを確実に防止することができる。
【0014】
また、圧延材が故障した巻取り機に進入するのを防止したことで、従来、故障発生時の対処用に設けていた予備待機時間を設ける必要がなくなり、待機時間を最短化することができるので生産能率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係るミルペーシング制御方法を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施の形態に係る熱間圧延ラインにおいて粗圧延機から巻取り機までを示す模式図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る巻取り機の巻取可能範囲を説明する説明図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るミルペーシング制御方法の制御例を説明する説明図である。
【
図5】本発明の実施例に係る生産性の向上効果を示す図である。
【
図6】本発明を適用する熱間圧延ラインの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施の形態に係るミルペーシング制御方法は、熱間圧延ラインにおいて、圧延材を仕上圧延機に進入させるタイミングを制御するものである。
上記ミルペーシング制御方法を説明するのに先立ち、まずは、本実施の形態のミルペーシング制御方法を適用する熱間圧延ラインの一例を
図2に基づいて説明する。
図2は、本実施の形態に係る熱間圧延ライン1における粗圧延機3から下流部分の主要構成のみを模式的に図示したものである。
図2において、
図6と同じ、又は、相当する部分については同じ符号を付してある。
【0017】
図2に示した熱間圧延ライン1は、加熱炉4(
図6参照)、複数のミルから構成される粗圧延機3(最下流のミルのみ図示)、複数のミルから構成される仕上圧延機5、主ラインからそれぞれ分岐して設置されている3台の巻取り機7(一般巻取り機7a、7b、極厚材専用巻取り機7c)と、ミルペーシング制御を実行するための制御及び各種演算処理を行う制御部9と、巻取り機7の制御及び状態を監視する巻取り機制御部11を有している。
本例において、一般巻取り機7a、7b及び極厚材専用巻取り機7cの上流のそれぞれ主ラインから分岐するポイントを第1ポイント13、第2ポイント15、第3ポイント17とする。
【0018】
圧延材19が加熱炉から抽出されると、搬送装置(図示なし)によって圧延材19が搬送され、粗圧延機3で厚みを粗く整えられ、仕上圧延機5で所定の厚みに仕上圧延されながら、いずれかの巻取り機7によってコイル状に巻取られる。これらの制御は、圧延材19毎の製品要求を示すオーダー情報21に基づいて、制御部9及び巻取り機制御部11によって行われる。
【0019】
コイル状に巻取られた圧延材19(以下、コイル23という)は巻取り機7から取り外されて、ライン外に搬出される。コイル23が取り外された巻取り機7は、巻取り機制御部11によって次に巻き取りを行う圧延材19に合わせた設定変更がなされ、設定変更が正しく完了することによって、次の圧延材19を巻取り可能な状態となる。
このような、先行して巻き取った圧延材19のコイル23の搬出や、次に巻き取る圧延材19に合わせて行う設定変更に要する時間を、巻取り機7の準備時間という。
【0020】
通常、熱間圧延ライン1では、仕上圧延された圧延材19の先端側を巻取り機7によって巻き取りながら、尾端側の仕上圧延が同時に行われるので(
図2参照)、先行する圧延材19との衝突の観点のみならず、上述した巻取り機7の準備時間も考慮に入れて、後行する圧延材19を仕上圧延機5に進入させる必要がある。
【0021】
この点、本例のように、巻取り機7を複数設けることで、先行する圧延材19が1つの巻取り機7で巻取り完了した後、コイル23の搬出を待つことなく他の巻取り機7で次の圧延材19を巻き取ることができるので、準備時間を短縮できて効率的である。
【0022】
また、本例における3台の巻取り機7のうち1台(図中網掛けで示したもの)は、他の2台(一般巻取り機7a、7b)とは巻取りを可能とする板厚範囲が異なる極厚材専用巻取り機7cである。一般巻取り機7a、7bと極厚材専用巻取り機7cの巻取可能範囲の違いについて、
図3を用いて以下に説明する。
【0023】
図3は、本実施の形態における熱間圧延ライン1で製造する鋼帯の製造範囲、及び、これに対する一般巻取り機7a、7bと極厚材専用巻取り機7cの巻取可能範囲を示したものである。
上記製造範囲とは、仕上圧延機5で仕上圧延する際に設定される最終的な鋼帯寸法の範囲である。ここでは、製造範囲における板厚の最小値をTmin、最大値をTmax、板幅の最小値をWmin、最大値をWmaxとする。
【0024】
一般巻取り機7a、7bは、板幅Wmin~Wmax、板厚Tmin~Tbの範囲内の圧延材19を巻き取ることが可能である。また、極厚材専用巻取り機7cは、板幅Wmin~Wmax、板厚Ta~Tmaxの範囲内の圧延材19を巻き取ることが可能である。
よって、本実施の形態における製造範囲において、板厚がTmin~Taのもの(
図3の右上がり斜線で示す範囲)は、一般巻取り機7a、7bでのみ巻取りが可能であり、板厚がTa~Tbのもの(
図3の右上がり斜線と右下がり斜線が交差する範囲)は、一般巻取り機7a、7b、極厚材専用巻取り機7cのいずれの巻取り機7でも巻取りが可能であり、板厚がTb~Tmaxのもの(
図3の右下がり斜線で示す範囲)は極厚材専用巻取り機7cでのみ巻取りが可能である。
このように巻取可能範囲の異なる巻取り機7を備えることで、製造範囲を広く網羅することができるが、巻取可能範囲を超えた圧延材19が誤って巻取り機7に進入すると、設備故障等のトラブルが発生する原因になるので留意する必要がある。巻取り機制御部11は、一般巻取り機7a、7b及び極厚材専用巻取り機7cの巻取可能範囲に関する情報を有しており、巻取可能範囲情報に基づいて、巻取り機7を制御している。
【0025】
次に、上述した熱間圧延ライン1に適用するミルペーシング制御方法について説明する。
本実施の形態に係るミルペーシング制御方法は、従来から行われていたミルペーシング制御に対し、以下に説明する仕上圧延機進入制御25を付加するものである。
仕上圧延機進入制御25は、制御部9によって仕上圧延機5に到達する手前の圧延材19を仕上圧延機5に進入させるタイミングを制御するものであって(
図2参照)、
図1に示すように、各巻取り機7における圧延材19の巻取り可否を判断する巻取り可否判断ステップS1と、圧延材19を巻き取る巻取り機7を選択する巻取り機選択ステップS3と、仕上圧延機5の入側における圧延材19の待機時間を算出する待機時間算出ステップS5と、圧延材19が仕上圧延機5に進入するタイミングを制御する進入制御ステップS7とを備えたものである。
上記各ステップについて、
図1~
図4を用いて、以下、具体的に説明する。
なお、以下の説明では、
図2に示した仕上圧延機5に到達する手前の圧延材19を当該材27、当該材27に先行する先行圧延材を先行材29という。
【0026】
<巻取り可否判断ステップ>
巻取り可否判断ステップS1は、巻取り機7の状態に基づいて、当該材27の巻取り可否を巻取り機7(一般巻取り機7a、7b、極厚材専用巻取り機7c)ごとに判断するものである。
粗圧延機3と仕上圧延機5の間に設けられた再計算ポイント31(
図2参照)に当該材27が到達すると制御部9はこれを検知して、巻取り機制御部11の有する故障情報、巻取り実行情報、巻取可能範囲情報を取得し、該取得情報に基づいて当該材27を巻取り可能な巻取り機7があるかを判断する(ステップS1-1)。
【0027】
《故障情報》
故障情報は、故障発生の有無等、各巻取り機7の故障状態を示す情報であり、巻取り機制御部11が巻取り機7の状態を常時監視して、リアルタイムで情報を取得している。
ステップS1-1では、故障情報に基づいて、故障が発生していない巻取り機7を「巻取り可能」、故障が発生している巻取り機7を「巻取り不可能」と判断する。なお、故障していた巻取り機7が復旧して、巻取りが可能となった場合には、巻取り可否の判断を「巻取り不可能」から「巻取り可能」に変更する。
【0028】
《巻取り実行情報》
巻取り実行情報は、巻取りが実行中かどうかを示す情報であり、巻取り機制御部11が巻取り機7の状態及び第1ポイント13に設けられたセンサー(図示なし)を常時監視して、リアルタイムで情報を取得している。
ステップS1-1では、巻取り実行情報に基づいて、先行材29の巻取りを行っていない巻取り機7を「巻取り可能」、巻き取りを行っている途中の巻取り機7を「巻取り不可能」と判断する。なお、巻取りを行っていた巻取り機7が巻取りを完了した場合には、巻取り可否の判断を「巻取り不可能」から「巻取り可能」に変更する。
【0029】
《巻取可能範囲情報》
巻取可能範囲情報は、
図3で説明した各巻取り機7の巻取可能範囲を示す情報であり、前述したように巻取り機制御部11が有している。
ステップS1-1では、巻取可能範囲情報に基づいて、当該材27の板幅及び板厚が、巻取可能範囲内の巻取り機7を「巻取り可能」、巻取可能範囲外の巻取り機7を「巻取り不可能」と判断する。
【0030】
上記3つの観点の全てにおいて「巻取り可能」と判断された巻取り機7があれば、巻取り機選択ステップS3に移行する。そのような巻取り機7がない場合には、再計算ポイント31と仕上圧延機5の間に設けられた待機ポイント33(
図2参照)で当該材27を待機させる(ステップS1-2)。
また、待機ポイント33で当該材27を待機させている間も、故障情報、巻取り実行情報、巻取可能範囲情報を定期的に取得し、ステップS1-1を継続して行い、巻取り機7の状態が変わって、少なくとも一つの巻取り機7が前述した3つの観点の全てにおいて「巻取り可能」と判断されたら、巻取り機選択ステップS3に移行する。
【0031】
<巻取り機選択ステップ>
巻取り機選択ステップS3は、巻取り可否判断ステップS1で「巻取り可能」と判断された巻取り機7の中から、当該材27を巻き取る巻取り機7を一つ選択するものである。
巻取り可否判断ステップS1で「巻取り可能」と判断された巻取り機7が複数ある場合には、例えば、上流側に配置された巻取り機7から優先的に選択するなど、予め設定された優先順位に基づいて選択する。
【0032】
<待機時間算出ステップ>
待機時間算出ステップS5は、先行材29及び巻取り機選択ステップS3で選択された巻取り機7との干渉有無を予測し(ステップS5-1、ステップS5-3)、干渉が有ると予測される場合には、先行材29との干渉を回避する先行材干渉回避時間(ステップS5-2)、巻取り機7との干渉を回避する巻取り機干渉回避時間(S5-4)をそれぞれ算出し、両干渉回避時間から仕上圧延機5の入側における当該材27の待機時間を算出する(ステップS5-5)ものである。上記待機時間の算出方法については、後述にて具体的な例をあげて説明する。
【0033】
<進入制御ステップ>
進入制御ステップS7は、待機時間算出ステップS5で算出した待機時間に基づいて当該材27が仕上圧延機5に進入するタイミングを制御するものである。
進入制御ステップS7では、ステップS5-5で算出した待機時間を参照し(ステップS7-1)、待機時間=0の場合には、当該材27を仕上圧延機5に進入させる(ステップS7-2)。
また、待機時間=0でない場合には、待機ポイント33で当該材27を待機させ(ステップS7-3)、待機時間が経過したら、当該材27を仕上圧延機5に進入させる(ステップS7-2)。
【0034】
上述した仕上圧延機進入制御25について、
図2に示した状態を例に、具体的な制御例を説明する。
図2において、一般巻取り機7aは先行材29を巻き取っている途中の状態であり、一般巻取り機7bは故障が発生している状態である。
【0035】
当該材27が再計算ポイント31に到達すると制御部9はこれを検知して、巻取り可否判断ステップS1により各巻取り機7における当該材27の巻取り可否を判断する(ステップS1-1)。
一般巻取り機7aは先行材29を巻き取っている途中であるので、巻取り実行情報に基づき、「巻取り不可能」と判断する。
また、一般巻取り機7bは故障が発生している状態なので、故障情報に基づき、「巻取り不可能」と判断する。
【0036】
極厚材専用巻取り機7cは先行材を巻き取っておらず、故障も発生していないので、巻取可能範囲情報に基づいて巻取り可否を判断する。即ち、当該材27の板厚が、Tmin<Taの範囲内であれば「巻取り不可能」、Ta≦Tmaxの範囲内であれば「巻取り可能」と判断する。
【0037】
極厚材専用巻取り機7cを「巻取り可能」と判断した場合には、巻取り機選択ステップS3により、極厚材専用巻取り機7cを、当該材27を巻き取る巻取り機7として選択する。
【0038】
極厚材専用巻取り機7cを「巻取り不可能」と判断した場合は、当該材27を巻取り可能な巻取り機7がないと判断し、待機ポイント33で当該材27を待機させる(ステップS1-2)。
制御部9は、待機ポイント33で当該材27を待機させている間も、故障情報、巻取り実行情報、巻取可能範囲情報を定期的に取得し、ステップS1-1を継続して行う。
例えば、一般巻取り機7aが先行材29の巻取りを完了(具体的には、前述したセンサーによって先行材29の尾端が第1ポイント13を通過したことを検知)すれば、巻取り実行情報に基づいた一般巻取り機7aに対する巻取り可否の判断を「巻取り不可能」から「巻取り可能」に変更する。一般巻取り機7aが故障情報、巻取可能範囲情報に基づいても「巻取り可能」と判断されれば、巻取り機選択ステップS3によって、一般巻取り機7aを、当該材27を巻き取る巻取り機7として選択する。
【0039】
また、例えば、一般巻取り機7bが故障状態から復旧して、正常に稼働できる状態になった場合には、故障情報に基づいた一般巻取り機7bに対する巻取り可否の判断を「巻取り不可能」から「巻取り可能」に変更し、一般巻取り機7bが巻取可能範囲情報に基づいても「巻取り可能」と判断されれば、巻取り機選択ステップS3によって、一般巻取り機7bを、当該材27を巻き取る巻取り機7として選択する。
本例では、巻取り機選択ステップS3で極厚材専用巻取り機7cが選択されたものとして以降説明する。
【0040】
巻取り機選択ステップS3で極厚材専用巻取り機7cが選択されると、待機時間算出ステップS5は、極厚材専用巻取り機7c及び先行材29との干渉有無を予測する。この点について、
図4を用いて説明する。
図4は、先行材29及び当該材27のミルペーシング制御例を示したものであり、相関線L1は、粗圧延機3より下流の各ポイントと、先行材29の尾端が各ポイントに到達する時間との相関関係を示し、相関線L2は、粗圧延機3より下流の各ポイントと、当該材27の先端が各ポイントに到達する時間との相関関係を示している。
【0041】
待機時間算出ステップS5は、仕上圧延速度等の諸条件に基づいて、当該材27が待機ポイント33で待機せずに仕上圧延機5に進入した場合(図中破線参照)に当該材27の先端が第1ポイント13に到達するまでに要する時間Aを予測する。さらに、仕上圧延速度、巻取り速度等の諸条件に基づいて、先行材29の尾端が第1ポイント13に到達するまでに要する時間Bを予測する。当該材27の先端が先行材29の尾端と同じか、または先行材29の尾端より先に第1ポイント13に到達する場合(A≦B)には、「先行材29との干渉あり」と判断し、そうでない場合(A>B)には、「先行材29との干渉なし」と判断する(ステップS5-1)。
【0042】
図4に示した例では、当該材27の先端が先行材29の尾端より先に第1ポイント13に到達すると予測されるので、先行材29との干渉を回避する先行材干渉回避時間t1を算出する(ステップS5-2)。先行材干渉回避時間t1は、t1=B-Aで求められる。なお、「先行材29との干渉なし」と判断した場合には、先行材干渉回避時間t1は算出せず、ステップS5-5に移行する。
【0043】
また、待機時間算出ステップS5は、当該材27が待機ポイント33で待機せずに仕上圧延機5に進入した場合(図中破線参照)に当該材27の先端が第3ポイント17に到達するまでに要する時間Cを予測する。さらに、極厚材専用巻取り機7cの準備時間Dを算出する。「準備時間」は前述したように、当該材27に合わせて行う設定変更に要する時間である。また、極厚材専用巻取り機7cに先行材29よりさらに先行して巻き取られている圧延材(先々行材)のコイル(図示なし)が残っている場合には、これを取り外して搬出するのに要する時間も含む。
【0044】
極厚材専用巻取り機7cの準備が完了する時刻(図中×印で示す)と同じか、またはこれより先に当該材27の先端が第3ポイント17に到達する場合(C≦D)には、「巻取り機7(極厚材専用巻取り機7c)との干渉あり」と判断し、そうでない場合(C>D)には、「巻取り機7(極厚材専用巻取り機7c)との干渉なし」と判断する(ステップS5-3)。
【0045】
図4に示した例では、当該材27の先端が極厚材専用巻取り機7cの準備が完了する時刻より先に第3ポイント17に到達すると予測されるので、巻取り機7との干渉を回避する巻取り機干渉回避時間t2を算出する(ステップS5-4)。巻取り機干渉回避時間t2は、t2=D-Cで求められる。なお、「巻取り機7(極厚材専用巻取り機7c)との干渉なし」と判断した場合には、巻取り機干渉回避時間t2は算出せず、ステップS5-5に移行する。
【0046】
先行材干渉回避時間t1と巻取り機干渉回避時間t2を比較して、大きい方の値を待機時間t3とする(ステップ5-5)。
図4に示した例では、t1<t2であるので、t3=t2とする。先行材干渉回避時間t1と巻取り機干渉回避時間t2のいずれか一方しか算出していない場合には、算出した方の値を待機時間t3とすればよい。また、先行材干渉回避時間t1と巻取り機干渉回避時間t2のどちらも算出していない場合には、待機時間t3=0とする。
【0047】
待機時間を算出するにあたり、従来では、本来必要な待機時間t3を延長して予備待機時間t4を設けることで、巻取り機7側で急な故障が発生した場合でも対処を可能とするようにしていた(相関線L3参照)。この点、本実施の形態では、巻取り可否判断ステップS1において、当該材27が再計算ポイント31に到達した時点の故障情報を取得して、巻取り機7の巻取り可否を判断しているので、故障対処用の予備待機時間t4を設ける必要がなく、待機時間を最短化することができる。
【0048】
待機時間算出ステップS5で待機時間t3を算出すると、進入制御ステップS7は、当該材27を待機ポイント33で待機させて(ステップS7-3)、待機時間t3が経過後に仕上圧延機5に進入させる(ステップS7-2)。当該材27を待機させることで、
図4の相関線L2に示すように、当該材27が第1ポイント13に到達する時点では、先行材29の尾端が第1ポイント13を通過しており、当該材27が先行材29に衝突することがない。また、当該材27が第3ポイント17に到達する時点では、極厚材専用巻取り機7cの準備が完了しており、極厚材専用巻取り機7cによって当該材27が巻き取られる。
【0049】
なお、本実施の形態では、ステップS1-1で巻取可能範囲情報を取得して巻取り可否を判断しているが、例えば、製造範囲内の全ての鋼帯が、すべての巻取り機7の巻取可能範囲を超えることがない場合などには、この判断は必須ではない。
【0050】
以上のように、本実施の形態におけるミルペーシング制御方法では、故障が発生している巻取り機7を当該材27を巻き取る巻取り機7として選択することがないので、不測の事態によって巻取り機7に故障が発生した場合にも、圧延材19(当該材27)が故障した巻取り機に進入することがなく、設備トラブルを確実に防止できる。
【0051】
また、圧延材19が故障した巻取り機7に進入する可能性がなくなったことで、従来、故障発生時の対処用に設けていた予備待機時間を設ける必要がなくなり、待機時間を最短化することができるので生産能率向上の効果を奏する。
【0052】
なお、実操業における運用では、本発明のミルペーシング制御方法を導入する以前は、巻取り不可能な状態(故障発生や、巻取可能範囲外など)の巻取り機に圧延材が進入したことを原因とする設備トラブルが、年1回程度発生していたのに対し、導入後は、同様の設備トラブルは発生していない。
さらに導入後には、生産性の向上効果を確認できた。導入前と導入後における生産性の比較結果を
図5に示す。
図5は、先行材の仕上圧延速度が遅く、当該材の仕上圧延速度が速いことにより仕上圧延機手前の待機時間がボトルネックとなっていた圧延材(主に、板厚が1.0mm~3.5mm、板幅が800mm~1300mm、鋼種が低炭及び中炭であるもの)を対象に、導入前と導入後の生産性を比較したものである。
図5に示すように、本発明のミルペーシング制御方法の導入後においては、導入前に比べて、生産能率が約1割(11.9%)向上した。
【0053】
なお、上記で説明した本実施の形態では、巻取り機を3台設けた例を示したが、本発明における巻取り機は複数であればよく、2台または4台以上でもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 熱間圧延ライン
3 粗圧延機
4 加熱炉
5 仕上圧延機
7 巻取り機
7a 一般巻取り機
7b 一般巻取り機
7c 極厚材専用巻取り機
9 制御部
11 巻取り機制御部
13 第1ポイント
15 第2ポイント
17 第3ポイント
19 圧延材
21 オーダー情報
23 コイル
25 仕上圧延機進入制御
27 当該材
29 先行材
31 再計算ポイント
33 待機ポイント