IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アサヒグループ食品株式会社の特許一覧

特開2022-55482皮膚細菌叢向上剤及び皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤
<>
  • 特開-皮膚細菌叢向上剤及び皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤 図1
  • 特開-皮膚細菌叢向上剤及び皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤 図2
  • 特開-皮膚細菌叢向上剤及び皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤 図3
  • 特開-皮膚細菌叢向上剤及び皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055482
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】皮膚細菌叢向上剤及び皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/97 20170101AFI20220401BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20220401BHJP
   A61K 35/20 20060101ALI20220401BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20220401BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20220401BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220401BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220401BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
A61K8/97
A61K35/747
A61K35/20
A61K8/99
A61Q19/08
A61P17/00
A61P29/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162935
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】715011078
【氏名又は名称】アサヒグループ食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】畑中 美咲
【テーマコード(参考)】
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
4C083AA031
4C083AA032
4C083AA071
4C083AA072
4C083AA082
4C083AA122
4C083AB032
4C083AB212
4C083AB272
4C083AB442
4C083AC012
4C083AC022
4C083AC072
4C083AC102
4C083AC182
4C083AC302
4C083AC422
4C083AC442
4C083AC582
4C083AC682
4C083AC692
4C083AC842
4C083AD042
4C083AD092
4C083AD532
4C083AD662
4C083BB51
4C083CC02
4C083CC04
4C083CC05
4C083DD22
4C083EE09
4C083EE12
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB39
4C087BC56
4C087CA07
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB11
(57)【要約】
【課題】安全性が高く、皮膚細菌叢を良好な状態とすることができる皮膚細菌叢向上剤及び皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤の提供。
【解決手段】ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)により乳を発酵させて得られる発酵乳ホエイを含む皮膚細菌叢向上剤、及び前記皮膚細菌叢向上剤を含む皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)により乳を発酵させて得られる発酵乳ホエイを含むことを特徴とする皮膚細菌叢向上剤。
【請求項2】
皮膚細菌叢の向上が、皮膚細菌叢における有用菌の割合の維持、有用菌の割合の増加、及び有害菌の割合の低減からなる群から選択される少なくとも1つである請求項1に記載の皮膚細菌叢向上剤。
【請求項3】
有害菌が、炎症を誘発する可能性を有する細菌である請求項2に記載の皮膚細菌叢向上剤。
【請求項4】
ラクトバチルス・ヘルベティカスが、ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株(受託番号:FERM BP-6060)である請求項1から3のいずれかに記載の皮膚細菌叢向上剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の皮膚細菌叢向上剤を含むことを特徴とする皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚細菌叢向上剤及び皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトには数百種・数百兆個の細菌が生息し、口腔、胃、腸、皮膚など全身におよび、それぞれ異なった菌種や組成をもった固有の細菌叢を形成している。近年、もっとも研究が進んでいる腸内細菌叢(「腸内フローラ」と称することもある)は、様々な生理作用を有していることが知られている。例えば、有用な作用として、病原菌の定着阻害、免疫系の活性化、ビタミンの産生などが挙げられ、有害な作用として、腐敗産物や発がん物質の産生、各種腸疾患へ関与などが挙げられる。そのため、腸内細菌叢は、健康と密接な関係があるといえる。
【0003】
また、皮膚細菌叢(「皮膚フローラ」、「肌細菌叢」、「肌フローラ」と称することもある。)も、近年、非常に注目が集まっており、皮膚細菌叢のバランスが良好で安定な状態であれば、肌の健康も保たれやすいと言われている。皮膚細菌叢の主要な菌属として、Corynebactrium属、Propionibacterium属、Stapylococcus属、β-Proteobacteria綱、γ-Proteobacteria綱が挙げられ、肌の状態によって、皮膚細菌叢が異なることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。γ-Proteobacteria綱の腸内細菌科に属する菌種の中で、肌での存在比率が比較的高い、Cedecea lapagei、Enterobacter asburiae、及びRaoutella ornithinolyticaといった菌種や、Pseudomonas aureuginosa、Streptococcus pyogenes、Enterococcus属の菌種は、炎症を誘発する可能性を有する有害菌(例えば、非特許文献1~5参照)が存在することが知られている。
【0004】
さらに、特定の疾患と皮膚細菌叢に関連があることも報告されており、Propionibacterium acnesにニキビの増悪作用があることや、アトピー性皮膚炎の増悪にStaphlococcus aureusが関連していることも多数報告されている(例えば、非特許文献1、5参照)。一方、Staphlococcus aureusと同じ菌属に属するStaphylococcus epidermidisは、Staphlococcus aureusに対する抗菌ペプチドを産生すること、肌バリアを強化することで保湿力を高め、肌の免疫力を上げる作用があり、皮膚細菌叢の中で、有用菌として働くことが報告されている(例えば、非特許文献1、5参照)。
【0005】
これまでに、皮膚の状態を評価する方法として、皮膚細菌叢におけるXanthomonadaceae科細菌の割合を指標とする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、安全性が高く、皮膚細菌叢を良好な状態とすることができる素材として十分満足できるものは未だ提供されておらず、その速やかな開発が強く求められているのが現状である。
【0007】
なお、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)により乳を発酵させて得られる発酵乳ホエイは、保湿剤(例えば、特許文献2参照)、表皮細胞分化及び角化促進剤(例えば、特許文献3参照)、皮膚における紫外線感受性抑制剤(例えば、特許文献4参照)などの有効成分として用いることができることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-209055号公報
【特許文献2】特開2005-206578号公報
【特許文献3】国際公開第2006/137513号
【特許文献4】国際公開第2006/095764号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Uwe Wollina.Microbiome in atopic Dermatitis、Clinical Cometic and Investigational Dermatology、(2017)、10:51-56
【非特許文献2】Chavez Herrera et al.、Death related to Cedecea lapagei in a soft tissue bullae infection: a case report、Journal of Medical Case Reports、(2018) 12:328
【非特許文献3】Jalal Mardaneh et al.、Isolation and Identification Enterobacter asburiae from Consumed Powdered Infant Formula Milk (PIF) in the Neonatal Intensive Care Unit (NICU)、Acta Medica Iranica、Vol.54、No.1(2016)、39-43
【非特許文献4】Piseth Seng et al.、Emerging role of Raoultella ornithinolytica in human infections: a series of cases and review of the literature、International Journal of Infectious Diseases、45(2016)、65-71
【非特許文献5】Elizabeth A. Grice et al.、The skin microbiome、Nat Rev Microbiol、9(2011)、244-253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、安全性が高く、皮膚細菌叢を良好な状態とすることができる皮膚細菌叢向上剤及び皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、ラクトバチルス・ヘルベティカスにより乳を発酵させて得られる発酵乳ホエイが、皮膚細菌叢を良好な状態とする作用を有することを知見した。
【0012】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> ラクトバチルス・ヘルベティカスにより乳を発酵させて得られる発酵乳ホエイを含むことを特徴とする皮膚細菌叢向上剤である。
<2> 皮膚細菌叢の向上が、皮膚細菌叢における有用菌の割合の維持、有用菌の割合の増加、及び有害菌の割合の低減からなる群から選択される少なくとも1つである前記<1>に記載の皮膚細菌叢向上剤である。
<3> 有害菌が、炎症を誘発する可能性を有する細菌である前記<2>に記載の皮膚細菌叢向上剤である。
<4> ラクトバチルス・ヘルベティカスが、ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株(受託番号:FERM BP-6060)である前記<1>から<3>のいずれかに記載の皮膚細菌叢向上剤である。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の皮膚細菌叢向上剤を含むことを特徴とする皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、安全性が高く、皮膚細菌叢を良好な状態とすることができる皮膚細菌叢向上剤及び皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、試験例1において皮膚水分量を測定した結果を示す図である。
図2図2は、試験例1においてキメ体積率を測定した結果を示す図である。
図3図3は、試験例1においてキメ個数を測定した結果を示す図である。
図4図4は、試験例2において各種乳酸菌を用いた発酵乳ホエイによる有害菌の増殖抑制作用を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(皮膚細菌叢向上剤)
本発明の皮膚細菌叢向上剤は、ラクトバチルス・ヘルベティカスにより乳を発酵させて得られる発酵乳ホエイ(以下、「LH発酵乳ホエイ」と称することがある)を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0016】
前記皮膚細菌叢向上剤は、皮膚細菌叢の状態を向上する作用を有するものである。
本明細書において、皮膚細菌叢の状態を向上するとは、皮膚細菌叢の状態を良好な状態(「健康な状態」と称することもある)とすることをいい、これには良好な状態を維持することも含まれる。
前記皮膚細菌叢向上剤は、皮膚細菌叢における有用菌の割合の維持、有用菌の割合の増加、及び有害菌の割合の低減からなる群から選択される少なくとも1つの作用を有することが好ましい。
【0017】
前記有用菌としては、肌を良好な状態とするものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Staphylococcus epidermidisなどが挙げられる。
【0018】
前記有害菌としては、肌の状態に悪影響を及ぼすものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炎症を誘発する可能性を有するγ-Proteobacteria綱の腸内細菌科に属する腸内細菌科の菌種やStaphylococcus aureus、Propionibacterium acnes、Streptococcus pyogenesなどが挙げられる。
【0019】
前記炎症を誘発する可能性を有する有害菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Staphylococcus aureus、Cedecea lapagei、Enterobacter asburiae、及びRaoultella ornithinolyticaからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0020】
前LH発酵乳ホエイが有する皮膚細菌叢の状態を向上する作用を発揮する物質の詳細については不明であるが、前記LH発酵乳ホエイがこのような優れた作用を有し、皮膚細菌叢向上剤として有用であることは、従来は全く知られておらず、本発明者らによる新たな知見である。
【0021】
<LH発酵乳ホエイ>
-ラクトバチルス・ヘルベティカス-
前記ラクトバチルス・ヘルベティカスの菌株としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、菌体外プロテイナーゼ活性の高い菌株が好ましい。例えば、Twiningらの方法(Twining, S. Anal. Biochem. 143 3410(1984))をもとにしたYamamotoらの方法(Yamamoto, N.ら J.Biochem. (1993) 114, 740)に準じて測定したU/OD590の値が400以上を示す菌株が好ましい。また、下記の菌学的性質を有するラクトバチルス・ヘルベティカス菌株を用いることができる。
【0022】
[菌学的性質]
1.形態学的性質:
1)細胞の形状;桿菌
2)運動性;なし
3)胞子の有無;なし
4)グラム染色性;陽性
2.生理学的性質:
1)カタラーゼ;陰性
2)インドール生成;陰性
3)硝酸塩の還元;陰性
4)酸素に対する態度;通性嫌気性菌
5)グルコースによりホモ乳酸発酵によりDL(-)乳酸を生成し、ガスの産生はない。
【0023】
前記ラクトバチルス・ヘルベティカスの中でも、ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株が好ましい。前記ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株は、1997年8月15日に、独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に受託番号FERM BP-6060として、寄託されている。このラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株は、特許手続上の微生物寄託の国際的承認に関するブタペスト条約に上記寄託番号で登録されており、この株は既に特許されている。
【0024】
前記LH発酵乳ホエイの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ラクトバチルス・ヘルベティカスを直接又は前記ラクトバチルス・ヘルベティカスを含む発酵乳スターターを乳に添加し、発酵温度等の発酵条件を適宜選択して発酵させることにより得ることができる。
【0025】
有効成分である前記LH発酵乳ホエイは、得られる発酵乳から遠心分離、ろ過等の常法の分離操作によりホエイを分離することにより得られるが、使用に際しては、分離せずに発酵乳の状態で、また分離したホエイを適宜、分画、濃縮、精製等して用いることができる他、該ホエイやその濃縮物を凍結乾燥、噴霧乾燥等により粉末として用いることもできる。
【0026】
前記ラクトバチルス・ヘルベティカスは、あらかじめ前培養しておいた十分に活性の高いスターターとして用いることが好ましい。初発菌数は、好ましくは10~10個/mL程度である。
【0027】
前記発酵においては、本発明の効果を損なわない限り、ラクトバチルス・ヘルベティカス以外の乳酸菌や酵母などのその他の菌が含まれていてもよい。
【0028】
原料の乳としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、牛乳、馬乳、羊乳、山羊乳等の動物乳、豆乳等の植物乳、これらの加工乳である脱脂乳、還元乳、粉乳、コンデンスミルク等が挙げられ、牛乳、豆乳、これらの加工乳が好ましく、牛乳又はその加工乳が特に好ましい。
乳の固形分濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、脱脂乳を用いる場合の無脂乳固形分濃度は、通常3~15質量%程度であり、生産性的には6~15質量%が好ましい。
【0029】
前記発酵は、通常静置若しくは撹拌培養により、例えば、発酵温度25~45℃、好ましくは30~45℃、発酵時間3~72時間、好ましくは12~36時間で、乳酸酸度が1.5以上になった時点で発酵を停止する方法により行なうことができる。
【0030】
前記LH発酵乳ホエイの皮膚細菌叢向上剤における含有量としては、特に制限はなく、前記LH発酵乳ホエイの生理活性等によって適宜調整することができる。前記皮膚細菌叢向上剤は、前記LH発酵乳ホエイのみからなるものであってもよい。
【0031】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述する皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤におけるその他の成分と同様のものなどが挙げられる。
前記その他の成分の皮膚細菌叢向上剤における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
<用途>
本発明の皮膚細菌叢向上剤の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、後述する皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤の有効成分として好適に用いることができる。
【0033】
前記皮膚細菌叢向上剤は、日常的に使用することが可能であり、有効成分であるLH発酵乳ホエイの働きによって、皮膚細菌叢の向上作用を極めて効果的に発揮させることができる。
【0034】
前記皮膚細菌叢向上剤の1日当たりの使用量としては、摂取する対象、摂取の形態等の種類、摂取の間隔等の要因に依存して変動するものであり、特に制限はないが、例えばヒト成人1人の1日当たりの顔への皮膚塗布量として、前記LH発酵乳ホエイが0.01~20質量%で配合された皮膚細菌叢向上剤0.01~5gを均一に塗布することが好ましく、0.1~0.5gを均一に塗布することがより好ましい。この1日量を、1度に摂取してもよく、複数回に分割して摂取することもできる。
【0035】
前記皮膚細菌叢向上剤の使用時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、皮膚細菌叢の向上が必要な環境等に接する前に継続的若しくは断続的に使用してもよいし、そのような環境に接した後に、継続的又は断続的に使用してもよい。
【0036】
本発明の皮膚細菌叢向上剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、その作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【0037】
また、本発明の皮膚細菌叢向上剤は、皮膚細菌叢向上作用や皮膚細菌叢に関する研究のための試薬としても用いることができる。
【0038】
(皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤)
本発明の皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤は、本発明の皮膚細菌叢向上剤を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0039】
<皮膚細菌叢向上剤>
前記皮膚細菌叢向上剤は、上述した本発明の皮膚細菌叢向上剤である。
【0040】
前記皮膚細菌叢向上剤の皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤における含有量としては、特に制限はなく、前記皮膚細菌叢向上剤に含まれるLH発酵乳ホエイの生理活性等によって適宜調整することができ、例えば、前記LH発酵乳ホエイの量として、0.01~20質量%であることが好ましく、0.05~10質量%であることがより好ましい。なお、前記LH発酵乳ホエイの量とは、乾燥し固体とした場合の質量を意味する。
前記皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤は、前記皮膚細菌叢向上剤のみからなるものであってもよい。
【0041】
<その他の成分>
前記皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤におけるその他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、前記皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤の利用形態に応じて適宜選択することができ、例えば、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤などが挙げられる。また、公知の皮膚細菌叢を良好な状態にする作用を有する物質を含んでいてもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記その他の成分の皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0042】
前記皮膚外用剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、化粧品、医薬部外品、医薬品などが挙げられる。これらの中でも、後述する試験例で示すように、前記皮膚外用剤を塗布した場合に、皮膚水分量や肌のキメが良好となることから、化粧品として好適に用いることができる。
【0043】
前記皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤の剤形としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、化粧水、クリーム、乳液、美容液、ローション、ゲル剤、エアゾール剤、軟膏、ハップ剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーションなどが挙げられる。
【0044】
前記皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤の製造方法としては、特に制限はなく、剤形等に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の方法を用いて種々の成分を混合又は乳化等を行い、製造することができる。
【0045】
前記皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤は、日常的に使用することが可能であり、有効成分であるLH発酵乳ホエイの働きによって、皮膚細菌叢の向上作用を極めて効果的に発揮させることができる。
【0046】
前記皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤の1日当たりの使用量としては、摂取する対象、摂取の形態等の種類、摂取の間隔等の要因に依存して変動するものであり、特に制限はないが、例えばヒト成人1人の1日当たりの顔への皮膚塗布量として、前記LH発酵乳ホエイが0.01~20質量%で配合された皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤0.01~5gを均一に塗布することが好ましく、0.1~0.5gを均一に塗布することがより好ましい。この1日量を、1度に摂取してもよく、複数回に分割して摂取することもできる。
【0047】
前記皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤の使用時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、皮膚細菌叢の向上が必要な環境等に接する前に継続的若しくは断続的に使用してもよいし、そのような環境に接した後に、継続的又は断続的に使用してもよい。
【0048】
前記皮膚細菌叢向上用皮膚外用剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、その作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例0049】
以下、本発明の試験例、処方例を説明するが、本発明は、これらの試験例、処方例に何ら限定されるものではない。
【0050】
(試験例1)
化粧水として、ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株(受託番号:FERM BP-6060)により乳を発酵させて得られる発酵乳ホエイを5質量%含有する化粧水(Lactina モイストローション、アサヒカルピスウェルネス株式会社製)を用意した。
【0051】
<試験方法>
45歳から59歳の平均年齢54.0±3.3歳の日本人女性15名に、朝晩の洗顔後に上記化粧水を1週間塗布してもらった。
【0052】
-皮膚細菌叢解析-
塗布試験開始前の朝と塗布1週間後の朝の洗顔前に、生理食塩水に浸した綿棒を使って額と頬を5~6回こすり、サンプルを採取した。
採取したサンプルからDNA抽出を行い、ION 16S metagenomic kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて増幅した16Sリボソームタンパク質のV2~V4及びV6~V9領域の配列を、次世代シーケンサー(Ion Personal Genome MachineTM(PGMTM)sequencer、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で解析した。
得られた配列に対してブラスト(Blast)サーチを行い、95%以上の同一性を有する株の中で最も高い相同株を各株に割り当てた。なお、低品質の塩基及び120bp以下の短い断片と、相同性が95%未満の配列は除外した。
結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示したように、ラクトバチルス・ヘルベティカスにより乳を発酵させて得られる発酵乳ホエイを含む化粧水を塗布した場合に、炎症を誘発する可能性のある有害菌である、Cedecea lapagei、Enterobacter asburiae、及びRaoultella ornithinolyticaの割合が低下することが明らかとなった(15名全員)。
また、統計的な有意差はないものの、肌の保湿作用に関連し、有害菌の増殖を抑制する作用を有し、有用菌として知られているStaphylococcus epidermidisの割合が15名中9名で増加することが確認され、有害菌として知られているStaphylococcus aureusの割合が15名中8名で減少することが確認された。
したがって、ラクトバチルス・ヘルベティカスにより乳を発酵させて得られる発酵乳ホエイが、皮膚細菌叢を健康な状態にシフトさせ、その状態を維持する可能性が示唆された。
【0055】
-皮膚水分量、皮膚のキメ(キメ体積率、キメ個数)-
塗布試験開始前と塗布1週間後に、右頬の皮膚水分量、皮膚のキメ(キメ体積率、キメ個数)の測定を行った。
皮膚水分量の測定は、コルネオメーター CM825(株式会社インテグラル社製)を用いて行った。結果を図1に示す。
皮膚のキメの測定は、皮膚のレプリカを作製し、分析システム(反射用レプリカ解析システム、アサヒバイオメッド社)を用いて行った。キメ体積率の測定結果を図2に、キメ個数の測定結果を図3に示す。
【0056】
図1図3に示したように、ラクトバチルス・ヘルベティカスにより乳を発酵させて得られる発酵乳ホエイを含む化粧水を塗布した後では、皮膚水分量、キメ体積率、キメ個数が有意に増加しており、皮膚外用剤として有用であることも確認された。
【0057】
(試験例2:培養実験による発酵乳ホエイの有害菌抑制作用)
試験例1において認められた有害菌抑制作用が、ラクトバチルス・ヘルベティカスにより乳を発酵させて得られる発酵乳ホエイの直接的な効果であるかを下記のようにしてin vitro試験で確認した。
【0058】
<発酵乳ホエイの調製>
固形率9質量%の脱脂粉乳からなる乳培地に、下記のいずれかの乳酸菌を接種して(最終植菌量:菌数1~2×10個/mL)、35℃で24時間、静置培養し、発酵乳を得た。得られた発酵乳を限外ろ過(MW<5kDa)し、各発酵乳ホエイを得た。
[乳酸菌]
下記の乳酸菌を用いた。なお、ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株以外の乳酸菌は、それぞれの基準株を用いた。
・ ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株
・ ラクトバチルス・ヘルベティカス
・ ラクトバチルス・デルブリッキィ・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii bulgaricus)
・ ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)
・ ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)
・ ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)
・ ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)
【0059】
<試験方法>
(1) ニュートリエントブロス(日本BD社製)に、Cedecea lapagei、Enterobacter asburiae、又はRaoultella ornithinolyticaを植菌し、前培養した。
(2) ニュートリエントブロスに、上記で調製した各発酵乳ホエイを5質量%添加し、上記(1)で培養した3菌種のいずれかを3%植菌し、37℃で16~24時間培養した。発酵乳ホエイを添加しない群をコントロール(Control)とした。
(3) 培養後のOD(600nm)を測定し、コントロール群のOD値を100としたときの相対値を算出した。
(4) 試験を3回行い、平均値を算出し、Studentのt検定で統計解析を実施した。結果を図4に示す。
【0060】
図4に示したように、乳酸菌の中でもラクトバチルス・ヘルベティカスにより乳を発酵させて得られる発酵乳ホエイにのみ、肌常在菌中の有害菌を抑制させる作用があることが明らかとなった。
【0061】
(処方例1:軟膏)
常法に従って下記組成の軟膏を製造した。なお、発酵乳ホエイは、試験例2において、ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株を用いて調製した発酵乳ホエイを使用した。
・ 発酵乳ホエイ ・・・ 0.05質量%
・ 塩化ベンザルコニウム ・・・ 0.1質量%
・ 尿素 ・・・ 20.0質量%
・ 白色ワセリン ・・・ 15.0質量%
・ 軽質流動パラフィン ・・・ 6.0質量%
・ セタノール ・・・ 3.0質量%
・ ステアリルアルコール ・・・ 3.0質量%
・ モノステアリン酸グリセリル ・・・ 5.0質量%
・ 香料 ・・・ 適量
・ 防腐剤 ・・・ 適量
・ 緩衝剤 ・・・ 1.0質量%
・ 精製水 ・・・ 残部
全量 100.0質量%
【0062】
(処方例2:ローション)
常法に従って下記組成のローションを製造した。なお、発酵乳ホエイは、試験例2において、ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株を用いて調製した発酵乳ホエイを使用した。
・ 発酵乳ホエイ ・・・ 5.0質量%
・ 乳酸 ・・・ 0.1質量%
・ フルーツ酸 ・・・ 0.1質量%
・ グリセリン ・・・ 4.0質量%
・ カオリン ・・・ 1.0質量%
・ カラミン ・・・ 0.7質量%
・ カンフル ・・・ 0.2質量%
・ エタノール ・・・ 14.0質量%
・ 香料 ・・・ 適量
・ 精製水 ・・・ 残部
全量 100.0質量%
【0063】
(処方例3:クリーム)
常法に従って下記組成のクリームを製造した。なお、発酵乳ホエイは、試験例2において、ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株を用いて調製した発酵乳ホエイを使用した。
・ 発酵乳ホエイ ・・・ 8.0質量%
・ 天然ビタミンE ・・・ 0.1質量%
・ カンゾウフラボノイド ・・・ 0.005質量%
・ 固形パラフィン ・・・ 5.0質量%
・ ミツロウ ・・・ 10.0質量%
・ ワセリン ・・・ 15.0質量%
・ 流動パラフィン ・・・ 41.0質量%
・ 1,3-ブチレングリコール ・・・ 4.0質量%
・ モノステアリン酸グリセリン ・・・ 2.0質量%
・ モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20) ・・・ 2.0質量%
・ 各種アミノ酸 ・・・ 1.0質量%
・ ホウ砂 ・・・ 0.2質量%
・ 防腐剤 ・・・ 適量
・ 香料 ・・・ 適量
・ 酸化防止剤 ・・・ 適量
・ 精製水 ・・・ 残部
全量 100.0質量%
【0064】
(処方例4:乳液)
常法に従って下記組成の乳液を製造した。なお、発酵乳ホエイは、試験例2において、ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株を用いて調製した発酵乳ホエイを使用した。
・ 発酵乳ホエイ ・・・ 1.0質量%
・ 乳酸 ・・・ 2.0質量%
・ ステアリルアルコール ・・・ 0.5質量%
・ 硬化パーム油 ・・・ 3.0質量%
・ 流動パラフィン ・・・ 35.0質量%
・ ジプロピレングリコール ・・・ 6.0質量%
・ ポリエチレングリコール(400) ・・・ 4.0質量%
・ セスキオレイン酸ソルビタン ・・・ 1.6質量%
・ ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル ・・・ 2.4質量%
・ カルボキシビニルポリマー ・・・ 1.5質量%
・ 水酸化カリウム ・・・ 0.1質量%
・ キレート剤 ・・・ 適量
・ 防腐剤 ・・・ 適量
・ 香料 ・・・ 適量
・ 精製水 ・・・ 残部
全量 100.0質量%
【0065】
(処方例5:美容液)
常法に従って下記組成の美容液を製造した。なお、発酵乳ホエイは、試験例2において、ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株を用いて調製した発酵乳ホエイを使用した。
・ 発酵乳ホエイ ・・・ 3.0質量%
・ フルーツ酸 ・・・ 0.5質量%
・ ジプロピレングリコール ・・・ 5.0質量%
・ ポリエチレングリコール(400) ・・・ 5.0質量%
・ エタノール ・・・10.0質量%
・ カルボキシビニルポリマー ・・・ 0.5質量%
・ アルギン酸ナトリウム ・・・ 0.5質量%
・ 水酸化カリウム ・・・ 0.2質量%
・ モノステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン ・・・ 1.0質量%
・ モノオレイン酸ソルビット ・・・ 0.5質量%
・ オレイルアルコール ・・・ 0.5質量%
・ プラセンタエキス ・・・ 0.2質量%
・ 酢酸dl-α-トコフェロール ・・・ 0.2質量%
・ 香料 ・・・ 適量
・ 防腐剤 ・・・ 適量
・ 褪色防止剤 ・・・ 適量
・ 精製水 ・・・ 残部
全量 100.0質量%
【受託番号】
【0066】
FERM BP-6060
図1
図2
図3
図4