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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055511
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】電気モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/36 20160101AFI20220401BHJP
【FI】
H02P21/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162973
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】堀江 勇冶
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505FF05
5H505GG02
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505KK06
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL58
5H505MM06
(57)【要約】
【課題】モータ回転角の変化を抑制しつつ、複数のコイルのうち、1つのコイルの温度が残りのコイルの温度よりも高くなりすぎることを抑制できるようにすること。
【解決手段】電気モータ制御装置10は、停止保持状態である場合に、電流指令値及び電圧指令値のうちの少なくとも一方の指令値のベクトルをベクトル制御の回転座標で変動させるベクトル変動制御を実施し、ベクトル変動制御によって得られたベクトルを基に、電流指令値及び電圧指令値のうちの少なくとも一方の指令値を導出する指令値導出部20と、指令値導出部20によって導出された指令値を基にモータ回転角θを制御する制御部30とを備える。ベクトル変動制御は、電流指令値及び電圧指令値のうちの少なくとも一方の指令値のベクトルを、所定トルク範囲内の複数の座標に対応するベクトルに変動させる制御である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相のコイルを有する電気モータを、当該電気モータのトルクの指令値であるトルク指令値を基に、前記コイルに通電する電流の指令値である電流指令値及び前記コイルに印加する電圧の指令値である電圧指令値のうちの少なくとも一方をベクトル制御する電気モータ制御装置であって、
前記電気モータにトルクを出力させつつ、当該電気モータの回転角であるモータ回転角を保持する状態である停止保持状態である場合に、前記ベクトル制御の回転座標における前記電流指令値及び前記電圧指令値のうちの少なくとも一方の指令値のベクトルを、前記トルク指令値に対応した複数の座標を含む所定トルク範囲内の複数の座標に対応するベクトルに変動させるベクトル変動制御を実施し、当該ベクトル変動制御によって得られた前記ベクトルを基に、前記電流指令値及び前記電圧指令値のうちの少なくとも一方の指令値を導出する指令値導出部と、
前記指令値導出部が導出した前記指令値を基に、前記モータ回転角を制御する制御部と、を備える
電気モータ制御装置。
【請求項2】
前記指令値導出部は、前記停止保持状態の継続時間が継続時間判定値以上である場合に、前記ベクトル変動制御を実施する
請求項1に記載の電気モータ制御装置。
【請求項3】
前記指令値導出部は、前記ベクトル変動制御では、前記電流指令値及び前記電圧指令値のうちの少なくとも一方の指令値のベクトルを、前記トルク指令値に対応した複数の座標に対応するベクトルに変動させる
請求項1又は請求項2に記載の電気モータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モータを制御する電気モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の電動制動装置が備える電気モータを制御する電気モータ制御装置の一例が記載されている。当該電動制動装置では、電気モータの回転角であるモータ回転角を保持することにより、車輪に対する制動力を保持できるようになっている。
【0003】
上記電気モータは、三相のコイルを有する電気モータである。モータ回転角を保持する際に、3つのコイルのうち、1つのコイルに流れる電流の大きさが、残りのコイルに流れる電流の大きさよりも大きく、且つ当該1つのコイルに流れる電流の大きさがピーク判定値以上である状態である特定状態になることがある。こうした特定状態が継続されると、3つのコイルのうち、1つのコイルの温度が残りのコイルの温度よりも高くなりすぎてしまう。
【0004】
そこで、上記電気モータ制御装置では、特定状態が継続しているときには、所定の変動許容範囲でモータ回転角を変化させるべく電気モータが駆動される。これにより、3つのコイルに流れる電流の大きさを変動させることができる。その結果、3つのコイルのうち、1つのコイルの温度が残りのコイルの温度よりも高くなりすぎることを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-214037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気モータに対して外部から負荷が入力されるような駆動装置にあっては、モータ回転角を保持するためには電気モータからトルクを出力させる必要がある。すなわち、各コイルに電流を流す必要がある。このように電気モータからトルクを出力させつつモータ回転角を保持する場合にあっては、モータ回転角の変化を抑制しつつ、複数のコイルのうち、1つのコイルの温度が残りのコイルの温度よりも高くなりすぎることを抑制できるようにすることが望ましい。
【0007】
なお、こうした課題は、外部から負荷が入力される状態でモータ回転角を調整する電気モータを備える駆動装置であれば、電動制動装置以外の他の駆動装置が備える電気モータを制御する場合においても同様に生じうる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための電気モータ制御装置は、複数相のコイルを有する電気モータを、当該電気モータのトルクの指令値であるトルク指令値を基に、前記コイルに通電する電流の指令値である電流指令値及び前記コイルに印加する電圧の指令値である電圧指令値のうちの少なくとも一方をベクトル制御する装置である。この電気モータ制御装置は、前記電気モータにトルクを出力させつつ、当該電気モータの回転角であるモータ回転角を保持する状態である停止保持状態である場合に、前記ベクトル制御の回転座標における前記電流指令値及び前記電圧指令値のうちの少なくとも一方の指令値のベクトルを、前記トルク指令値に対応した複数の座標を含む所定トルク範囲内の複数の座標に対応するベクトルに変動させるベクトル変動制御を実施し、当該ベクトル変動制御によって得られた前記ベクトルを基に、前記電流指令値及び前記電圧指令値のうちの少なくとも一方の指令値を導出する指令値導出部と、前記指令値導出部が導出した前記指令値を基に、前記モータ回転角を制御する制御部と、を備えている。
【0009】
ベクトル制御の回転座標において電流のベクトルを変動させ、当該ベクトルを基に電流指令値を導出し、当該電流指令値を基に電気モータを駆動させたとする。この場合、回転座標での電流のベクトルの変動に応じ、複数のコイルに流れる電流の大きさがそれぞれ変わる。
【0010】
ベクトル制御の回転座標において電圧のベクトルを変動させ、当該ベクトルを基に電圧指令値を導出し、当該電圧指令値を基に電気モータを駆動させたとする。この場合、回転座標での電圧のベクトルの変動に応じ、複数のコイルに流れる電流の大きさがそれぞれ変わる。
【0011】
上記構成によれば、停止保持状態である場合には、ベクトル変動制御によって電流指令値及び電圧指令値のうちの少なくとも一方のベクトルを上記回転座標で変動させる。そして、ベクトル変動制御によって得られたベクトルを基に電流指令値及び電圧指令値のうちの少なくとも一方の指令値が導出される。ベクトル変動制御では、電流指令値及び電圧指令値のうちの少なくとも一方のベクトルが、上記の所定トルク範囲内の複数の座標に対応するベクトルに変動される。そのため、こうしたベクトル変動制御によって得られたベクトルに基づいた指令値で電気モータを制御することにより、電気モータの出力トルクはほとんど変化しない。その結果、モータ回転角の変化を抑制できる。
【0012】
したがって、上記構成によれば、モータ回転角の変化を抑制しつつ、複数のコイルのうちの1つのコイルの温度が残りのコイルの温度よりも高くなりすぎることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の電気モータ制御装置の機能構成と、同電気モータ制御装置によって制御される電気モータの概略構成とを示す図。
図2】同電気モータ制御装置の電流指令値導出部が実行する処理ルーチンを説明するフローチャート。
図3】ベクトル制御の回転座標で電流指令値のベクトルを変動させる様子を示す作用図。
図4】変更例において、ベクトル制御の回転座標で電圧指令値のベクトルを変動させる様子を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、電気モータ制御装置の一実施形態を図1図3に従って説明する。
図1には、電気モータ制御装置10と、電気モータ制御装置10によって制御される電気モータ100とが図示されている。電気モータ100は、例えば、永久磁石埋込型の同期モータである。この場合、電気モータ100のロータ105には、永久磁石が設けられている。電気モータ100は、複数相(U相、V相及びW相)のコイル101,102,103を有している。
【0015】
電気モータ100は、例えば「特開2016-214037号公報」に開示されているように、車載のブレーキ装置の動力源として採用することができる。当該ブレーキ装置では、ロータ105の回転角であるモータ回転角に応じた制動力を車両の車輪に付与することができる。
【0016】
電気モータ制御装置10は、ベクトル制御によって電気モータ100を駆動させる。ベクトル制御の回転座標において、d軸は永久磁石の磁束軸の方向に延びる制御軸である。q軸は、トルクの方向に延びる制御軸であって、d軸とは直交している。
【0017】
電気モータ制御装置10は、ベクトル制御によって電気モータ100を駆動させるための機能部として、トルク指令値導出部11、指令値導出部20及び制御部30を備えている。
【0018】
トルク指令値導出部11は、電気モータ100のトルクの指令値であるトルク指令値TR*を導出する。例えば、トルク指令値導出部11は、電気モータ100の負荷トルクの推定値TRLd、電気モータ100のロータ回転数の指令値である回転数指令値ωm*と、ロータ回転数の推定値である推定回転数ωmとを基に、トルク指令値TR*を導出する。
【0019】
指令値導出部20は、トルク指令値導出部11によって導出されたトルク指令値TR*を基に、各コイル101~103に通電する電流の指令値である電流指令値、及び、各コイル101~103に印加する電圧の指令値である電圧指令値のうちの少なくとも一方の指令値を導出する。
【0020】
本実施形態では、指令値導出部20は、電流指令値導出部21と、電圧指令値導出部22とを有している。
電流指令値導出部21は、電流指令値としてd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を導出する。d軸指令電流Id*とは、d軸の方向の電流成分の指令値である。q軸指令電流Iq*とは、q軸の方向の電流成分の指令値である。d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*の導出処理については後述する。
【0021】
電圧指令値導出部22は、電圧指令値としてd軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*を導出する。d軸指令電圧Vd*とは、d軸の方向の電圧成分の指令値である。q軸指令電圧Vq*とは、q軸の方向の電圧成分の指令値である。例えば、電圧指令値導出部22は、d軸指令電流Id*と、d軸電流Idとに基づいたフィードバック制御によって、d軸指令電圧Vd*を算出する。d軸電流Idとは、電気モータ100への給電によって回転座標上で発生した電流ベクトルのうちの推定d軸の方向の電流成分を示す値である。また、電圧指令値導出部22は、q軸指令電流Iq*と、q軸電流Iqとに基づいたフィードバック制御によって、q軸指令電圧Vq*を算出する。q軸電流Iqとは、電気モータ100への給電によって回転座標上で発生した電流ベクトルのうちの推定q軸の方向の電流成分を示す値である。
【0022】
制御部30は、指令値導出部20によって導出された指令値を基に、モータ回転角θを制御する。
本実施形態では、制御部30は、2相/3相変換部31と、インバータ32とを有している。
【0023】
2相/3相変換部31は、モータ回転角θを基に、d軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*を、U相指令電圧VU*と、V相指令電圧VV*と、W相指令電圧VW*とに変換する。U相指令電圧VU*は、U相のコイル101に印加する電圧の指令値である。V相指令電圧VV*は、V相のコイル102に印加する電圧の指令値である。W相指令電圧VW*は、W相のコイル103に印加する電圧の指令値である。
【0024】
インバータ32は、電源から供給される電力によって動作する複数のスイッチング素子を有している。インバータ32は、2相/3相変換部31から入力されたU相指令電圧VU*に基づいたスイッチング素子のオン/オフ動作によってU相信号を生成する。インバータ32は、入力されたV相指令電圧VV*に基づいたスイッチング素子のオン/オフ動作によってV相信号を生成する。インバータ32は、入力されたW相指令電圧VW*に基づいたスイッチング素子のオン/オフ動作によってW相信号を生成する。すると、U相信号が電気モータ100のU相のコイル101に入力され、V相信号がV相のコイル102に入力され、W相信号がW相のコイル103に入力される。このようにインバータ32が生成した各信号を電気モータ100に入力させることにより、モータ回転角θが制御される。
【0025】
電気モータ制御装置10は、機能部として、3相/2相変換部41、回転角取得部42及び機械角速度生成部43をさらに備えている。
3相/2相変換部41には、電気モータ100のU相のコイル101に流れた電流であるU相電流IUが入力され、V相のコイル102に流れた電流であるV相電流IVが入力され、W相のコイル103に流れた電流であるW相電流IWが入力される。そして、3相/2相変換部41は、U相電流IU、V相電流IV及びW相電流IWを、d軸の成分の電流であるd軸電流Id及びq軸の成分の電流であるq軸電流Iqに変換する。
【0026】
回転角取得部42は、モータ回転角θを取得する。例えば回転角センサ111を電気モータ100が備えている場合、回転角取得部42は、回転角センサ111の検出信号を基にモータ回転角θを取得できる。回転角センサ111としては、例えば、ホールIC、MRセンサ及びレゾルバを挙げることができる。
【0027】
なお、回転角取得部42は、回転角センサ111の検出信号を用いずにモータ回転角θを導出することもできる。回転角取得部42は、例えば「特開2020-36498号公報」に開示されているような公知の外乱出力処理を行うことにより、モータ回転角θを取得することもできる。この場合、回転角センサを備えていない電気モータ100にも電気モータ制御装置10を適用できる。
【0028】
機械角速度生成部43は、ロータ105の機械角速度の推定値を推定回転数ωmとして導出する。例えば、機械角速度生成部43は、回転角取得部42によって取得されたモータ回転角θを微分することにより、推定回転数ωmを導出できる。
【0029】
次に、図2及び図3を参照し、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*の導出処理について説明する。電流指令値導出部21は、図2に示す処理ルーチンを所定の制御サイクル毎に繰り返し実行する。
【0030】
図2に示す処理ルーチンにおいて、ステップS11では、電流指令値導出部21は、係数nを「1」インクリメントする。続いて、ステップS12において、電流指令値導出部21は、トルク指令値導出部11が導出したトルク指令値TR*を取得する。そして、ステップS13において、電流指令値導出部21は、トルク指令値TR*に応じたd軸指令電流であるd軸指令電流基準値Id1を取得する。また、電流指令値導出部21は、トルク指令値TR*に応じたq軸指令電流であるq軸指令電流基準値Iq1を取得する。
【0031】
図3を参照し、d軸指令電流基準値Id1及びq軸指令電流基準値Iq1の取得処理の一例について説明する。図3は、ベクトル制御の回転座標を示している。当該回転座標において、縦軸はq軸電流Iqであり、横軸はd軸電流Idである。図3には、電流制限円CR1が実線で図示されるとともに、最大トルク曲線CV1が一点鎖線で図示されている。また、図3には、トルク指令値TR*の等トルク線L1が破線で図示されている。トルク指令値TR*の等トルク線L1とは、トルク指令値TR*に対応した回転座標上の複数の座標を繋いだ線である。
【0032】
d軸指令電流基準値Id1及びq軸指令電流基準値Iq1は、以下の条件(A1)及び(A2)を満たすように導出される。なお、図3に示す回転座標において、d軸指令電流基準値Id1及びq軸指令電流基準値Iq1で示される座標を、「基準座標」という。なお、図3に示すベクトルは、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*で示される座標を指す「電流指令値ベクトルBCb」である。
(A1)回転座標において、基準座標が電流制限円CR1の領域内の座標であること。
(A2)回転座標において、基準座標が等トルク線L1上の座標であること。
【0033】
こうしたd軸指令電流基準値Id1をd軸指令電流Id*として設定するとともに、q軸指令電流基準値Iq1をq軸指令電流Iq*として設定した場合、電気モータ100から出力されるトルクであるモータトルクTRを、トルク指令値TR*とほぼ等しくできる。
【0034】
本実施形態では、d軸指令電流基準値Id1及びq軸指令電流基準値Iq1は、以下の条件(A3)をさらに満たすように導出される。なお、別の実施形態では、条件(A3)を満たしていなくてもよい。
(A3)回転座標において、基準座標が、等トルク線L1と最大トルク曲線CV1との交点であること。
【0035】
条件(A1)、(A2)及び(A3)の何れをも満たすd軸指令電流基準値Id1及びq軸指令電流基準値Iq1をd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*として設定した場合、電気モータ100の電力消費の増大を抑制しつつ、モータトルクTRをトルク指令値TR*とほぼ等しくできる。
【0036】
図2に戻り、ステップS13においてd軸指令電流基準値Id1及びq軸指令電流基準値Iq1の取得が完了すると、電流指令値導出部21は、処理を次のステップS14に移行する。ステップS14において、電流指令値導出部21は、モータ回転角θを保持する状態であるか否かを判定する。例えば電気モータ100がブレーキ装置の動力源として用いられている場合、ブレーキ装置の制御モードが制動力を保持するモードである場合は、モータ回転角θを保持する状態であると見なせる。このようにモータ回転角θを保持する場合であっても、電気モータ100には外部から負荷が入力される。そのため、モータ回転角θを保持するためには、モータトルクを電気モータ100から出力させ続ける必要がある。そのため、ステップS14では、電気モータ100にモータトルクを出力させつつ、モータ回転角θを保持する状態である停止保持状態であるか否かを判定しているといえる。
【0037】
モータ回転角θを保持する状態であるとの判定がなされていない場合(S14:NO)、電流指令値導出部21は、処理をステップS15に移行する。ステップS15において、電流指令値導出部21は、q軸電流目標値の最新値Iqa(n)としてq軸指令電流基準値Iq1を設定する。続いて、ステップS16において、電流指令値導出部21は、d軸電流目標値の最新値Ida(n)としてd軸指令電流基準値Id1を設定する。そして、電流指令値導出部21は、処理を後述するステップS22に移行する。
【0038】
一方、ステップS14において、モータ回転角θを保持する状態であるとの判定がなされている場合(YES)、電流指令値導出部21は、処理をステップS17に移行する。ステップS17において、電流指令値導出部21は、電気モータ100が過熱状態になる可能性があるか否かを判定する。モータ回転角θを保持し続けている場合、各コイル101~103のうち、1つのコイルに流れる電流の大きさが残りのコイルに流れる電流の大きさよりも大きい状態が継続されることがある。こうした状態が継続されると、各コイル101~103のうち、1つのコイルの温度が残りのコイルの温度よりも高くなりすぎるおそれがある。そこで、本実施形態では、電流指令値導出部21は、モータ回転角θを保持する状態の継続時間である停止保持状態の継続時間が継続時間判定値以上であるか否かを判定する。継続時間が継続時間判定値以上である場合は、各コイル101~103のうち、1つのコイルの温度が残りのコイルの温度よりも高くなりすぎている状態である過熱状態になる可能性あると見なす。一方、継続時間が継続時間判定値未満である場合は、過熱状態になる可能性があると見なさない。すなわち、指令値導出部20は、電気モータ100が過熱状態である可能性があるか否かを判定する過熱判定処理を実行するといえる。
【0039】
電気モータ100が過熱状態になる可能性があるとの判定がなされていない場合(S17:NO)、電流指令値導出部21は、処理をステップS15に移行する。一方、電気モータ100が過熱状態になる可能性があるとの判定がなされている場合(S17:YES)、電流指令値導出部21は、処理をステップS18に移行する。ステップS18において、電流指令値導出部21は、以下の条件(B1)及び(B2)の何れか一方が成立しているか否かを判定する。q軸電流目標値の前回値Iqa(n-1)とは、本処理ルーチンを前回実行した際に導出したq軸指令電流Iq*である。
(B1)q軸電流目標値の前回値Iqa(n-1)がq軸電流上限値Iqmax以上であること。q軸電流上限値Iqmaxは、q軸指令電流基準値Iq1にq軸電流変動許容値ΔIqmaxを足した値である。
(B2)q軸電流目標値の前回値Iqa(n-1)がq軸電流下限値Iqmin以下であること。q軸電流下限値Iqminは、q軸指令電流基準値Iq1からq軸電流変動許容値ΔIqmaxを引いた値である。
【0040】
条件(B1)及び(B2)の何れか一方が成立している場合(S18:YES)、電流指令値導出部21は、処理をステップS19に移行する。ステップS19において、電流指令値導出部21は、q軸電流補正値ΔIqの正負を逆転させる。すなわち、電流指令値導出部21は、q軸電流補正値ΔIqと「-1」との積を、新たなq軸電流補正値ΔIqとして導出する。ちなみに、q軸電流補正値ΔIqの大きさがq軸電流変動許容値ΔIqmaxの大きさよりも小さくなるように、q軸電流補正値ΔIqは設定されている。q軸電流補正値ΔIqの正負を逆転させると、電流指令値導出部21は、処理をステップS20に移行する。
【0041】
一方、ステップS18において、条件(B1)及び(B2)の何れもが成立していない場合(NO)、電流指令値導出部21は、処理をステップS20に移行する。
ステップS20において、電流指令値導出部21は、q軸電流目標値の前回値Iqa(n-1)とq軸電流補正値ΔIqとの和を、q軸電流目標値の最新値Iqa(n)として導出する。q軸電流補正値ΔIqが正の値である場合、q軸電流目標値の最新値Iqa(n)は前回値Iqa(n-1)よりも大きい。一方、q軸電流補正値ΔIqが負の値である場合、q軸電流目標値の最新値Iqa(n)は前回値Iqa(n-1)よりも小さい。
【0042】
続いて、ステップS21において、電流指令値導出部21は、q軸電流目標値の最新値Iqa(n)に応じたd軸電流Idを、d軸電流目標値の最新値Ida(n)として導出する。例えば、電流指令値導出部21は、以下の関係式を用いて導出する。関係式において、「Ld」は電気モータ100のd軸インダクタンスである。「Lq」は電気モータ100のq軸インダクタンスである。「Pn」は電気モータ100の極対数である。「Ψ」は電気モータ100の鎖交磁束である。また「TRa」には、トルク指令値TR*が代入される。
【0043】
【数1】
図3に示す回転座標において、ステップS20で導出されたq軸電流目標値の最新値Iqa(n)とステップS21で導出されたd軸電流目標値の最新値Ida(n)とで示す座標は、電流制限円CR1内であって且つトルク指令値TR*の等トルク線L1上の座標である。すなわち、本実施形態では、停止保持状態である場合に、電流指令値のベクトルである電流指令値ベクトルBCbを、所定トルク範囲内の複数の座標に対応するベクトルに変動させるベクトル変動制御が実施される。所定トルク範囲とは、トルク指令値TR*の等トルク線L1上の複数の座標を含む範囲である。なお、ベクトル変動制御では、ベクトル制御の回転座標において、トルク指令値TR*の等トルク線L1を含む所定トルク範囲内の座標を電流指令値ベクトルBCbが指すという条件下で電流指令値ベクトルBCbを変動させるともいえる。本処理ルーチンでは、ステップS18~S21の各処理が、ベクトル変動制御に対応する。
【0044】
なお、所定トルク範囲は、電気モータ100のモータトルクTRを実質的に変化させないように設定される。すなわち、回転座標において電流指令値ベクトルBCbが所定トルク範囲内の座標を指している場合、トルク指令値TR*の等トルク線L1上の座標を電流指令値ベクトルBCbが指していなくても、電気モータ100のモータトルクTRはトルク指令値TR*と等しいと見なせる。これは、電気モータ100には機械的損失が存在しているため、トルク指令値TR*が多少変わっても電気モータ100のアウトプットはほとんど変化しないためである。
【0045】
ちなみに、本実施形態では、以下の条件(C1)を満たすように所定トルク範囲が設定されている。
(C1)回転座標において、等トルク線L1上ではない座標を含んでいないこと。
【0046】
ステップS21においてd軸電流目標値の最新値Ida(n)が導出されると、電流指令値導出部21は、処理をステップS22に移行する。
ステップS22において、電流指令値導出部21は、d軸電流目標値の最新値Ida(n)をd軸指令電流Id*として設定し、q軸電流目標値の最新値Iqa(n)をq軸指令電流Iq*として設定する。そして、電流指令値導出部21は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0047】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
電気モータ100が停止保持状態である場合には、ベクトル変動制御によって電流指令値ベクトルBCbが変動される。そして、ベクトル変動制御によって得られた電流指令値ベクトルBCbを基に、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*が導出される。そして、d軸指令電流Id*を基にd軸指令電圧Vd*が導出され、q軸指令電流Iq*を基にq軸指令電圧Vq*が導出される。このように導出されたd軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*に基づいて電気モータ100が制御される。
【0048】
このように電流指令値ベクトルBCbを変動させることにより、U相電流IU、V相電流IV及びW相電流IWの大きさがそれぞれ変動する。そのため、各コイル101~103のうち、1つのコイルに流れる電流の大きさが残りのコイルに流れる電流の大きさよりも大きい状態が継続することを抑制できる。その結果、各コイル101~103のうち、1つのコイルの温度が残りのコイルの温度よりも高くなりすぎることを抑制できる。
【0049】
ベクトル変動制御では、ベクトル制御の回転座標において、所定トルク範囲内の複数の座標に対応するベクトルに電流指令値ベクトルBCbが変動される。より詳しくは、所定トルク範囲内の複数の座標のうち、変動前の電流指令値ベクトルBCbが指している座標とは別の座標を指すように、電流指令値ベクトルBCbが変動される。
【0050】
そのため、ベクトル変動制御によって得られた電流指令値ベクトルBCbが指す座標のd軸電流をd軸指令電流Id*として導出し、当該座標のq軸電流をq軸指令電流Iq*として導出し、これら各指令電流Id*,Iq*を基に電気モータ100を駆動させてもモータ回転角θは変化しない。仮にモータ回転角θが変化したとしても、その変化量は非常に少ない。したがって、モータ回転角θの変化を抑制しつつ、複数のコイル101~103のうちの1つのコイルの温度が残りのコイルの温度よりも高くなりすぎることを抑制できる。
【0051】
図3には、本実施形態においてベクトル変動制御を実施した場合のd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*の推移が図示されている。すなわち、回転座標において、トルク指令値TR*の等トルク線L1と最大トルク曲線CV1との交点を電流指令値ベクトルBCbが指していた場合、電流指令値ベクトルBCbが指す座標は、矢印Z1で示すように変化する。そして、q軸指令電流Iq*がq軸電流上限値Iqmax以上になると、矢印Z2で示すように、q軸指令電流Iq*が小さくなるように電流指令値ベクトルBCbが指す座標が変化する。この状態でq軸指令電流Iq*がq軸電流下限値Iqmin以下になると、矢印Z3で示すように、q軸指令電流Iq*が大きくなるように電流指令値ベクトルBCbが指す座標が変化する。
【0052】
すなわち、本実施形態では、電気モータ100が停止保持状態であって且つ電気モータ100が過熱状態になる可能性がある場合、図3で示したように、回転座標において、電流指令値ベクトルBCbの向き及び大きさが変動される。より詳しくは、回転座標において、電流指令値ベクトルBCbが指す座標を、上記基準座標を中心に揺動する。本実施形態において、基準座標とは、トルク指令値TR*の等トルク線L1と最大トルク曲線CV1との交点である。
【0053】
本実施形態では、以下に示す効果をさらに得ることができる。
電気モータ100が停止保持状態である場合には、停止保持状態の継続時間が継続時間判定値以上であることを条件にベクトル変動制御が実施され、ベクトル変動制御によって得られた電流指令値ベクトルBCbを基に、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*が導出される。すなわち、各コイル101~103のうち、1つのコイルの温度が残りのコイルの温度よりも高くなりすぎる状態になる可能性があるときに、ベクトル変動制御によって得られた電流指令値ベクトルBCbに基づいてd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*が導出される。したがって、複数のコイル101~103のうちの1つのコイルの温度が残りのコイルの温度よりも高くなりすぎることを抑制できる。
【0054】
ベクトル変動制御によって得られた電流指令値ベクトルBCbに基づいてd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*が導出される場合、モータ回転角θを保持するにも拘わらず、インバータ32の各スイッチング素子が動作することになる。この点、本実施形態では、電気モータ100が停止保持状態である場合であっても、継続時間が継続時間判定値未満であるときには、ベクトル変動制御が実施されない。そのため、モータ回転角θを保持する際にインバータ32の各スイッチング素子を動作させる機会の増大を抑制できる。
【0055】
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・トルク指令値TR*が大きい場合ほど、電気モータ100のコイルに流れる電流の最大値が大きくなりやすい。そこで、上記の継続時間判定値として、トルク指令値TR*が大きいほど小さい値を設定するようにしてもよい。
【0056】
・継続時間判定値は、所定値で固定してもよい。この場合、トルク指令値TR*が判定値以上であり、且つ停止保持状態の継続時間が継続時間判定値以上であるときに、電気モータ100が過熱状態になる可能性があるとの判定をなすようにしてもよい。
【0057】
・停止保持状態の継続時間が継続時間判定値以上である場合において、電気モータ100が特定状態であるときに、ベクトル変動制御を実施するようにしてもよい。特定状態とは、各コイル101~103のうち、1つのコイルに流れる電流の大きさのみがピーク判定値以上となる電気モータ100の状態である。特定状態が継続すると、各コイル101~103のうち、1つのコイルの温度が残りのコイルの温度よりも高くなりすぎてしまう。そのため、停止保持状態の継続時間が継続時間判定値以上である場合において、電気モータ100が特定状態であるときに、ベクトル変動制御を実施することにより、各コイル101~103のうち、1つのコイルの温度が残りのコイルの温度よりも高くなりすぎることを抑制できる。なお、この場合、停止保持状態の継続時間が継続時間判定値以上である場合であっても、電気モータ100が特定状態ではないときにはベクトル変動制御を実施しなくてもよい。
【0058】
図2に示した処理ルーチンにおいてステップS17の判定処理を省略してもよい。
・電気モータ100が停止保持状態になった場合、停止保持状態がある程度継続すると予測できるときには、停止保持状態の継続時間が継続時間判定値未満であっても、ベクトル変動制御によって得られたベクトルを基に、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を導出するようにしてもよい。
【0059】
・電気モータ100のモータトルクを実質的に変化させないように設定されるのであれば、所定トルク範囲を、トルク指令値TR*の等トルク線L1から外れた座標も含むように設定してもよい。
【0060】
・q軸電流変動許容値ΔIqmaxは、所定値で固定してもよいし、可変させてもよい。q軸電流変動許容値ΔIqmaxを可変させる場合、電気モータ100に対して外部から入力される負荷の大小によって、q軸電流変動許容値ΔIqmaxを可変させてもよい。例えば、当該負荷が小さい場合には、当該負荷が大きい場合よりも大きい値をq軸電流変動許容値ΔIqmaxとするとよい。また例えば、当該負荷が小さいと推測できる場合には、当該負荷が大きいと推測できる場合よりも大きい値をq軸電流変動許容値ΔIqmaxとするとよい。
【0061】
また、電気モータ100の使用環境の温度によってq軸電流変動許容値ΔIqmaxを可変させてもよい。
・上記実施形態において、トルク指令値TR*の等トルク線L1と最大トルク曲線CV1との交点とは異なる点(座標)で示すd軸電流Id及びq軸電流Iqを、d軸指令電流基準値Id1及びq軸指令電流基準値Iq1として設定してもよい。すなわち、上記基準座標を設定するに際し、上記条件(A3)を満たしていなくてもよい。例えば、等トルク線L1とq軸(制御軸)との交点を基準座標として設定してもよい。
【0062】
・指令値導出部20は、電流指令値導出部21でベクトル変動制御を実施した上でd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を導出するのであれば、電圧指令値導出部22を含まなくてもよい。この場合、制御部30には、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*が入力される。そのため、制御部30では、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*が、U相指令電圧VU*と、V相指令電圧VV*と、W相指令電圧VW*とに変換される。
【0063】
・電流指令値導出部21でベクトル変動制御を実施するのではなく、電圧指令値導出部22でベクトル変動制御を実施するようにしてもよい。この場合、電圧指令値導出部22では、ベクトル制御の回転座標において、電圧指令値のベクトルである電圧指令値ベクトルBVbを変動させるベクトル変動制御が実施される。そして、ベクトル変動制御によって得られたベクトルを基に、d軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*が導出される。
【0064】
図4を参照し、電圧指令値導出部22でベクトル変動制御を実施する場合について説明する。図4に示す例において、電流指令値導出部21では、d軸指令電流基準値Id1がd軸指令電流Id*として導出され、q軸指令電流基準値Iq1がq軸指令電流Iq*として導出されているものとする。この場合、d軸指令電流Id*に基づいて導出されるd軸電圧であるd軸指令電圧基準値Vd1と、q軸指令電流Iq*に基づいて導出されるq軸電圧であるq軸指令電圧基準値Vq1とで示される座標である基準座標が、回転座標において、トルク指令値TR*の等トルク線L2と最大トルク曲線CV2との交点となることがある。図4では、電圧指令値ベクトルBVbが基準座標を指している。なお、トルク指令値TR*の等トルク線L2とは、トルク指令値TR*に対応した回転座標上の複数の座標を繋いだ線である。
【0065】
そして、ベクトル変動制御では、図4の回転座標において電流制限円CR2の範囲であって、且つ電圧指令値ベクトルBVbが等トルク線L2上の座標を指すという条件を満たすように、電圧指令値ベクトルBVbが回転座標で変動される。すなわち、矢印で示す態様で電圧指令値ベクトルBVbが指す座標が変わるように、電圧指令値ベクトルBVbが変動される。言い換えると、所定トルク範囲内の複数の座標に対応するベクトルに電圧指令値ベクトルBVbが変動される。ここでいう所定トルク範囲とは、回転座標において、トルク指令値TR*に対応した複数の座標を含んでいる。このように電圧指令値ベクトルBVbを変動させた場合、回転座標で電圧指令値ベクトルBVbが指す座標における、d軸電圧がd軸指令電圧Vd*として導出され、q軸電圧がq軸指令電圧Vq*として導出される。
【0066】
こうしたd軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*が制御部30に入力される。この場合であっても、上記実施形態と同様に、モータトルクTRを実質的に保持しつつ、各コイル101~103に流れる電流の大きさを変動させることができる。したがって、モータ回転角θの変化を抑制しつつ、各コイル101~103のうち、1つのコイルの温度が残りのコイルの温度よりも高くなりすぎることを抑制できる。
【0067】
なお、図4に示した例では、トルク指令値TR*の等トルク線L2上の座標を指すという条件で電圧指令値ベクトルBVbを変動させている。しかし、等トルク線L2上の複数の座標を含む所定トルク範囲内で電圧指令値ベクトルBVbが指す座標が変わるという条件で、電圧指令値ベクトルBVbを変動させてもよい。この場合、所定トルク範囲は、モータトルクTRを実質的に変化させない範囲のことである。つまり、所定トルク範囲は、等トルク線L2上ではない座標を含んでいてもよい。
【0068】
・電流指令値導出部21でベクトル変動制御を実施した上で、電圧指令値導出部22でもベクトル変動制御を実施するようにしてもよい。
・電気モータ制御装置10は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
(a)電気モータ制御装置10は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
(b)電気モータ制御装置10は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
(c)電気モータ制御装置10は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【0069】
・上記実施形態では、車載のブレーキ装置の動力源であるモータを電気モータ100としている。しかし、ブレーキ装置以外の他の車載装置が備えるモータを、電気モータ100としてもよい。他の車載装置としては、例えば、電動ステアリング装置を挙げることができる。
【0070】
・車両に搭載されない駆動装置が備えるモータを、電気モータ100としてもよい。
・電気モータ制御装置10によって制御される電動モータは、ベクトル制御によって駆動させることができるのであれば、任意の構成のモータであってもよい。例えば、電動モータが有するコイルの相数は、3相でなくてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10…電気モータ制御装置
20…指令値導出部
30…制御部
100…電気モータ
101~103…コイル
図1
図2
図3
図4