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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055731
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20220401BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163316
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】709004846
【氏名又は名称】阿部 力也
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】特許業務法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 力也
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA01
5H770DA05
5H770DA12
5H770DA13
5H770DA22
5H770DA30
5H770DA44
5H770EA01
(57)【要約】
【課題】スイッチング回路とトランスを用いることによって、コイルの電流利用率が高い、直流と交流の双方向の変換を行う新たな方式の電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置としてのインバータ装置101は、スイッチング回路40と、トランス30を備える。トランス30は、例えば、9個のスロットおよび隣接する2つのスロットに収納された9個の一次側コイルA~Iを備えた一次側コア11と、9個の突極P1~P9と磁気結合し、二次側コイル22が卷回された3個の突極Pu~Pwを備えた二次側コア21とを備えている。一次側コイルA~Iの口出線は順次直列接続されて一つの閉回路を形成し、9個のハーフブリッジの接続点に接続されている。制御回路50が、スイッチング回路40の各トランジスタのオン・オフを切り換えることにより、二次側コイル22に交流電圧を発生させる。コンバータ装置として駆動することもできる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流と交流の双方向の変換を行う電力変換装置であって、
スイッチング回路と、
トランスを備え、
前記スイッチング回路は、直流側のプラス側ラインに接続された上アームのスイッチング素子と前記直流側のマイナス側ラインに接続された下アームのスイッチング素子からなるn(nは4以上の整数)個のハーフブリッジを有し、
前記トランスは、前記ハーフブリッジの前記上アームと前記下アームの2個の前記スイッチング素子の接続点間に接続されたn個の第1のコイルと、該第1のコイルのそれぞれと絶縁されて、n個の前記第1のコイルの内の複数の前記第1のコイルと磁気的に結合するm個(mは1以上の整数)の第2のコイルを有し、
n個の前記第1のコイルが直列接続されて閉回路を形成し、
前記第2のコイルが交流側のラインに接続されていることを特徴とする、
電力変換装置。
【請求項2】
制御回路をさらに備え、
該制御回路は、一の前記ハーフブリッジの前記上アームの前記スイッチング素子と他の前記ハーフブリッジの前記下アームの前記スイッチング素子を導通させるとともに、他の前記スイッチング素子が非導通となるように、前記スイッチング素子の導通・非導通を所定の周期で切り換えることを特徴とする、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御回路が、導通状態から非導通状態に切り換える前記スイッチング素子に対しては、パルス幅が漸減するゲート信号を、次に非導通状態から導通状態に切り換える前記スイッチング素子に対しては、パルス幅が漸増するゲート信号を、同時に出力することを特徴とする、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
n個の前記1のコイルにそれぞれコンデンサが並列接続されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記トランスが、第1共通磁路から突出してそれぞれ前記第1のコイルが卷回されたn個の第1磁路を備えた第1のコアと、第2共通磁路から突出して前記第1磁路と磁気結合しそれぞれ前記第2のコイルが卷回された第2磁路を備えた第2のコアとを有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
各前記第2磁路に対して、複数かつ同数の前記第1磁路が磁気結合していることを特徴とする請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記第1共通磁路と前記第2共通磁路のいずれかが環状に形成され、前記第1磁路と前記第2磁路とが径方向に位置していることを特徴とする、請求項5または6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記第1共通磁路と前記第2共通磁路とが環状に形成され、前記第1磁路と前記第2磁路とが軸方向に位置していることを特徴とする、請求項5または6に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記トランスが、それぞれ前記第1のコイルを卷回したn個のサブトランスからなり、該サブトランスのそれぞれに第2のサブコイルが卷回され、前記第2のコイルが、直列接続された複数の前記第2のサブコイルからなることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関し、詳しくは、直流と交流の双方向の変換を行う電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置として、例えば、インバータは交流出力電圧の周波数を可変制御できることから、電動機を含む各種のアクチュエータの速度制御に用いられている。電圧形インバータでは、トランジスタやサイリスタなどの半導体スイッチング素子を用いて直流をスイッチングし、方形波の交流電圧を得ている。三相交流電圧を出力する場合、三相ブリッジ回路を120度通電駆動あるいは180度通電駆動と呼ばれる通電角制御による駆動が行われる。
【0003】
例えば、120度通電駆動では、三相ブリッジ回路のすべての相のトランジスタを120度の期間オン状態にし、60度の期間オフ状態にすることを繰り返している。また、180度通電駆動では、各トランジスタを180度間隔でオン状態とオフ状態を繰り返している。そして、U,V,Wの各相に接続されたトランジスタのスイッチングのタイミングを、それぞれ電気角で120度位相をずらすことによってU,V,Wの各相に位相のずれた電流を供給している。
【0004】
また、出力をなるべく正弦波に近い電圧(または電流)とするために、例えば、特許文献1に開示されているように、PWM(パルス幅変調)制御によってスイッチング素子をスイッチングすることが行われている。PWM制御では、変調波の周波数が高いほどより正弦波に近い出力が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-10967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、各コイルに流れる電流は、例えば、最も一般的な120度通電駆動では、ゼロとなる期間があり、コイルに流す電流の利用率が直流を連続的に流す場合に比べて、3分の2程度に低くなるという問題がある。また、正弦波駆動を行う場合も、コイルに流れる電流は正弦波状に増減するため、コイルに流せる電流の利用率は、π分の2程度に低くなる。
【0007】
本発明は、これらの実情に鑑みてなされたものであり、多数のスイッチング素子とトランスを用い、コイルに直流を連続的に流すことによって、コイルの電流利用率が高い、直流と交流の双方向の変換を行う新たな方式の電力変換装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の技術手段は、直流と交流の双方向の変換を行う電力変換装置であって、スイッチング回路と、トランスを備え、前記スイッチング回路は、直流側のプラス側ラインに接続された上アームのスイッチング素子と前記直流側のマイナス側ラインに接続された下アームのスイッチング素子からなるn(nは4以上の整数)個のハーフブリッジを有し、前記トランスは、前記ハーフブリッジの前記上アームと前記下アームの2個の前記スイッチング素子の接続点間に接続されたn個の第1のコイルと、該第1のコイルのそれぞれと絶縁されて、n個の前記第1のコイルの内の複数の前記第1のコイルと磁気的に結合するm個(mは1以上の整数)の第2のコイルを有し、n個の前記第1のコイルが直列接続されて閉回路を形成し、前記第2のコイルが交流側のラインに接続されていることを特徴とするものである。
【0009】
第2の技術手段は、第1の技術手段において、制御回路をさらに備え、該制御回路は、一の前記ハーフブリッジの前記上アームの前記スイッチング素子と他の前記ハーフブリッジの前記下アームの前記スイッチング素子を導通させるとともに、他の前記スイッチング素子が非導通となるように、前記スイッチング素子の導通・非導通を所定の周期で切り換えることを特徴とするものである。
【0010】
第3の技術手段は、第2の技術手段において、前記制御回路が、導通状態から非導通状態に切り換える前記スイッチング素子に対しては、パルス幅が漸減するゲート信号を、次に非導通状態から導通状態に切り換える前記スイッチング素子に対しては、パルス幅が漸増するゲート信号を同時に出力することを特徴とするものである。
【0011】
第4の技術手段は、第1から第3のいずれか1の技術手段において、n個の前記1のコイルにそれぞれコンデンサが並列接続されていることを特徴とするものである。
【0012】
第5の技術手段は、第1から第4のいずれか1の技術手段において、前記トランスが、第1共通磁路から突出してそれぞれ前記第1のコイルが卷回されたn個の第1磁路を備えた第1のコアと、第2共通磁路から突出して前記第1磁路と磁気結合しそれぞれ前記第2のコイルが卷回された第2磁路を備えた第2のコアとを有することを特徴とするものである。
【0013】
第6の技術手段は、第5の技術手段において、各前記第2磁路に対して、複数かつ同数の前記第1磁路が磁気結合していることを特徴とするものである。
【0014】
第7の技術手段は、第5または第6の技術手段において、前記第1共通磁路と前記第2共通磁路のいずれかが環状に形成され、前記第1磁路と前記第2磁路とが径方向に位置していることを特徴とするものである。
【0015】
第8の技術手段は、第5または第6の技術手段において、前記第1共通磁路と前記第2共通磁路とが環状に形成され、前記第1磁路と前記第2磁路とが軸方向に位置していることを特徴とするものである。
【0016】
第9の技術手段は、第1から第4のいずれか1の技術手段において、前記トランスが、それぞれ前記第1のコイルを卷回したn個のサブトランスからなり、該サブトランスのそれぞれに第2のサブコイルが卷回され、前記第2のコイルが、直列接続された複数の前記第2のサブコイルからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数のスイッチング素子とトランスを用いることによって、コイルの電流利用率が高い、直流と交流の双方向の変換を行う新たな方式の電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置(インバータ装置)の概略を示す図である。
図2図1に示すインバータ装置の等価回路を示す図である。
図3図1あるいは図10に示すインバータ装置、図11に示すコンバータ装置のスイッチング素子のオン・オフ状態の遷移を示す図である。
図4図1に示すンバータ装置の一次側コイルに流れる電流と、二次側ユニットを削除した際に、各突極に現れる極性を示す図である。
図5図1に示すインバータ装置において、二次側ユニットを削除した際に、一次側コアの各突極に現れる極性の遷移を示す図である。
図6図1に示すインバータ装置の一次側ユニットを回転磁石に置き替えたモデルを示す図である。
図7図6に示す二次側ユニットの各コイルに発生する電圧を示す図である。
図8】本発明の第2の実施形態に係る電力変換装置(インバータ装置)のトランスの概略を示す図である。
図9】本発明の第3の実施形態に係る電力変換装置(インバータ装置)の概略を示す図である。
図10】本発明の第4の実施形態に係る電力変換装置(インバータ装置)の制御回路を除く等価回路を示す図である。
図11】本発明の第5の実施形態に係る電力変換装置(コンバータ装置)の制御回路を除く等価回路を示す図である。
図12】本発明の第6の実施形態に係る電力変換装置(インバータ装置)の制御回路を除く等価回路を示す図である。
図13】本発明の電力変換装置における、スイッチング素子へのゲート信号について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の電力変換装置に係る好適な実施形態として、まず、直流を交流に変換するインバータ装置について説明し、その後、交流を直流に変換するコンバータ装置について説明する。以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。なお、本発明はこれらの実施形態での例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内および均等の範囲内におけるすべての変更を含む。
【0020】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置(インバータ装置)の概略を示す図であり、図2は、図1に示すインバータ装置の等価回路を示す図である。本実施形態のインバータ装置101は、図1に示すように、一次側ユニット10と二次側ユニット20からなるトランス30と、スイッチング回路40を備えている。スイッチング回路40には直流電源60が接続される。また、インバータ装置101は、スイッチング回路40をスイッチング動作させるためのゲート信号を出力する制御回路50を備えている。
【0021】
本実施形態のインバータ装置101は、直流電源60から三相交流を得るためのインバータである。トランス30の一次側ユニット10は、環状のコアの内側にn(nは4以上の整数であり、本実施形態ではn=9)個のスロット(溝)をほぼ等間隔に形成した電磁鋼板を複数枚積層した一次側コア11と、一次側コア11の各スロットに収納した9個のコイル(一次側コイル)A~Iからなる一次側コイル12を備えている。本発明の電力変換装置をインバータ装置として機能させる場合、一次側コア11が本発明の第1のコアに相当し、一次側コイルA~Iが本発明の第1のコイルに相当する。
【0022】
また、二次側ユニット20は、中心部分からm(mは2以上の整数であり、本実施形態ではm=3)個の二次側の突極Pu~Pwをほぼ等間隔に形成した電磁鋼板を複数枚積層した二次側コア21と、3個の突極Pu~Pwのそれぞれに卷回した二次側コイル22u~22wからなる二次側コイル22とを備えている。一次側コア11と二次側コア21とは一体に形成されていてもよく、また、別体に形成されていてもよい。図1に示す破線は、一次側コア11と二次側コア21との境界を示している。本発明の電力変換装置をインバータ装置として機能させる場合、二次側コア21が本発明の第2のコアに相当し、二次側コイル22が本発明の第2のコイルに相当する。
【0023】
本実施形態で用いるトランス30は、一次側ユニット10の一次側コア11の周辺部の共通磁路となる部分を環状に形成し、一次側コア11の内側に二次側ユニット20を配置した構造となっているが、二次側ユニット20の二次側コア21を環状に形成し、二次側コア21の内側に一次側ユニット10を配置してもよい。いずれの場合も、一次側コア11の突極P1~P9と二次側コア21の突極Pu~Pwとは、径方向に位置することになる。
【0024】
一次側コア11は、9個のスロットによって形成された9個の突極P1~P9を有している。なお、一次側コア11の突極P1~P9は、本発明の第1磁路に相当する。また、一次側コア11の突極P1~P9と二次側コア21の突極Pu~Pwは、1個の二次側の突極Pu~Pwに対して隣接する3個の一次側の突極P1~P9が接触あるいは一体に形成されることで磁気的に結合している。本実施形態のインバータ装置101は、三相交流を出力する装置であり、二次側コイル22u~22wは外部の三相負荷に接続される。なお、二次側の突極Pu~Pwは、本発明の第2磁路に相当する。
【0025】
一次側コア11と二次側コア21のそれぞれに一次側コイルA~Iと二次側コイル22u~22wを設け易くするために、一次側コア11と二次側コア21を適宜の箇所で別体の部分コアに分けて形成し、各部分コアの接続箇所の積層断面を櫛形とし、各部分コアの櫛形の端部を互いに重ねて一体構造化することで、部分コア間の磁気抵抗の増加を防ぐことができる。
【0026】
例えば、一次側コア11は、第1部分コアとして、一次側コア11の周辺部の環状部分と各突極P1~P9とを有する部分、第2部分コアとして、二次側コア21の各突極Pu~Pwの先端の円弧状部分、第3部分コアとして、二次側コア21の中心部と各突極Pu~Pwの二次側コイル22u~22wを卷回したコイル卷回部分、の3つの部分コアに分けて形成する。そして、第1部分コアの各突極P1~P9の先端部分の積層鋼板の積層断面が櫛形となるように形成するとともに、第2部分コアには、それぞれ一次側コア11の突極P1~P9に向けて突出する突出部分を形成し、この突出部分の積層断面が櫛形となるように形成する。そして、第1部分コアと第2部分コアの断面が櫛形の積層コアの櫛形端部を互いに重ねた接触部とすることによって両者を一体化する。第2の部分コアと第3の部分コアの接触部についても同様に、積層断面が櫛形となるように積層し両者を一体化する。
【0027】
各部分コアを一体化する前に、一次側コア11の突極P1~P9および二次側コア21の突極Pu~Pwに、一次側コイルA~Iを卷回したボビンを装着するか、あるいは、一次側コイルA~Iを直接卷回しておく。そして、第1部分コアと第2部分コアとは、第1部分コアの内側から第2部分コアを径方向に押し付けることによって一体化を行い、第2部分コアと第3部分コアとは、第2部分コアに対して二次側コイル22u~22wを設けた第3部分コアを周方向に回転させることによって一体化ができる。このように、各部分コアの境界付近の接触部では、それぞれの電磁鋼板の接触部の積層断面を櫛形となるように形成し、接触部で櫛形コアが噛み合うように一体化することによって、各部分コアの結合強度が増すとともに接触部での磁気抵抗の増加を抑えることができる。したがって、一次側コア11と二次側コア21を別体に形成する場合は、一次側コア11と二次側コア21の境界は、実際の接触部と一致しない。
【0028】
一次側コア11の各スロットに収納した9個の一次側コイルA~Iは、隣接するスロット間にコイル収納された、いわゆる集中巻となっている。本明細書では、例えば、「一次側コイルA」は、2つの隣接するスロットに収納されたコイル辺Aおよびコイル辺aと、これらの2つのコイル辺A,aを接続するコイル端と、2本の口出線を有するものを意味し、「コイル辺A」が、一次側コイルAの2つのコイル辺の一方のコイル辺を示すものとする。
【0029】
一次側ユニット10の9個の一次側コイルA~Iは、9個のスロットによって形成される9個の突極P1~P9のそれぞれに卷回されているともいえる。このように、本実施形態では、一次側コイルA~Iは、一次側コア11に等間隔で設けられた9個のスロットに収納されているために、位相差2π/n(n=9)を有して設けられている。しかし、これに限定される必要はなく、例えば、9個のスロットの周方向長さを異ならせることによって、一次側コア11の突極P1~P9のそれぞれの間隔や幅が異なっていてもよい。
【0030】
なお、本実施形態では、一次側コイルA~Iのそれぞれは、9個のスロットの隣り合う2個のスロットに1個のコイルを巻く集中巻としているが、複数のスロットをまたいで1個のコイルを巻く分布巻としてもよい。分布巻を採用した場合、各突極P1~P9には全てのコイルの合成磁界による磁極が現れる。
【0031】
スイッチング回路40は、プラス側ライン61に接続された上アーム側(プラス電源側)の9個のトランジスタTA1~TI1と、マイナス側ライン62に接続された下アーム側(マイナス電源側)の9個のトランジスタTA2~TI2とを備えており、上アームの9個のトランジスタTA1~TI1と、下アームの9個のトランジスタTA2~TI2とは、それぞれ対をなしてハーフブリッジTA~TIを構成している。各トランジスタTA1~TI2は、それぞれフリーホイルダイオードを備えている。各トランジスタTA1~TI2は本発明のスイッチング素子に相当する。
【0032】
本発明では、スイッチング素子であるトランジスタTA1とTA2からなるハーフブリッジをハーフブリッジTAと呼ぶ、他のハーフブリッジについても同様であり、例えば、第1スイッチング素子のトランジスタTH1とTH2からなるハーフブリッジをハーフブリッジTHと呼ぶ。また、本発明では、ハーフブリッジのプラス側ライン61に接続され、負荷に電流を供給する側の回路を上アームと呼び、ハーフブリッジのマイナス側ライン62に接続され、負荷からの電流をマイナス側ライン62に引き込む回路を下アームと呼ぶ。
【0033】
そして、隣接する一次側コイルA~Iがそれぞれ直列接続されて、全体で一つの閉回路を形成している。具体的には、コイル辺aとコイル辺B、コイル辺bとコイル辺C、・・・、コイル辺iとコイル辺Aのそれぞれぞれの口出線が接続される。さらに、一次側コイルA~Iの各口出線の接続点は、図1または図2に示すように、スイッチング回路40の9個のハーフブリッジTA~TIの上アームと下アームの2個のトランジスタの各接続点に接続されている。
【0034】
さらに、本実施形態では、図1図2に示すように、一次側コイルA~IにそれぞれコンデンサCa~Ciが並列接続されている。各コンデンサCa~Ciは、各トランジスタのオン・オフ(導通・非導通)状態を切り換える際に、各一次側コイルA~Iに印加される急激な電圧の変化を緩和させるものである。
【0035】
本実施形態では、制御回路50は、トランス30から二次側ユニット20を取り除いたと仮定した際に、一次側ユニット10内にN極とS極の2極の磁極が現れるように、スイッチング回路40のプラス側ライン61に接続された上アーム側のトランジスタTA1~TI1、および、マイナス側ライン62に接続された下アーム側のトランジスタT12~T32のオン・オフ状態を切り換えている。これによって、各一次側コイルA~Iに流れる電流の方向が切り換わる。
【0036】
以下、本実施形態のインバータ装置の動作について説明するが、説明を簡単にするために、まず、トランス30から二次側ユニット20を取り除いたと仮定した際に、一次側コア11内に回転磁界が発生することについて説明する。
【0037】
図3は、図1に示すインバータ装置のスイッチング素子のオン・オフ状態の遷移を示す図であり、図4は、図1に示すンバータ電源装置の一次側コイルに流れる電流と、二次側ユニットを削除した際に、各突極に現れる極性を示す図である。図3において、t1からt10は時刻を示しており、上から下にかけて時間が経過する。また、それぞれの時刻においてオン状態にあるトランジスタを太枠で囲みハッチングを施している。また、図4には、時刻t1~t3における一次側コイルに流れる電流と、各突極に現れる極性を示している。
【0038】
一次側ユニット10内に、全体として、N極、S極の2個の磁極を形成する場合、一次側ユニット10の磁極ピッチは180°となる。制御回路50は、一次側ユニット10の磁極ピッチ(180°)に略等しいコイルピッチ離れた2個のコイルの口出線の接続点にそれぞれ接続される2個のハーフブリッジの内、一方のハーフブリッジの上アームのトランジスタと他方のハーフブリッジの下アームのトランジスタをオン状態にし、他のトランジスタをオフ状態にする。例えば、一次側コイルAに対して180°に略等しいコイルピッチ離れたコイルは、一次側コイルEまたは一次側コイルFとなる。
【0039】
図3の時刻t1で示すように、上アームのトランジスタTA1と下アームのトランジスタTE2がオン状態にあるとき、図2に示す直流電源60からの電流は、プラス側ライン61、トランジスタTA1を経由して、一次側コイルA,B,C,Dの直列回路を流れる経路と一次側コイルI,H,G,F,Eの直列回路を流れる経路に分かれ、さらに、下アームのトランジスタTE2、マイナス側ライン62を経由して流れる。
【0040】
図4(A)でコイルに付した矢印は、時刻t1において各一次側コイルA~Iを流れる電流を示したものであり、各一次側コイルA~Iを流れる電流によって生じた磁束は、図4(A)に示す一次側の突極P1~P9を流れる。そして、二次側ユニット20を削除したと仮定すると、突極P1~P4はS極となり、突極P5~P9はN極となる。このため、一次側コア11内に発生する磁界の方向は、図4(A)の矢印Xで示すように、突極P7から突極P2と突極P3の中間位置に向かう方向となる。
【0041】
次に、図3の時刻t2で示すように、下アームのトランジスタTE2がオン状態からオフ状態になり、下アームのトランジスタTF2がオフ状態からオン状態になると、図2に示す直流電源60からの電流は、プラス側ライン61、トランジスタTA1を経由して、一次側コイルA,B,C,D,Eの直列回路を流れる経路と一次側コイルI,H,G,Fの直列回路を流れる経路に分かれ、さらに、下アームのトランジスタTF2、マイナス側ライン62を経由して流れる。
【0042】
図4(B)でコイルに付した矢印は、時刻t2において各一次側コイルA~Iを流れる電流を示したものであり、各一次側コイルA~Iを流れる電流によって生じた磁束によって、二次側ユニット20を削除したと仮定すると、突極P1~P5はS極となり、突極P6~P9はN極となる。このため、一次側コア11内に発生する磁界の方向は、図4(B)の矢印Xで示すように、突極P7と突極P8の中間位置から突極P3に向かう方向となる。
【0043】
さらに、図3の時刻t3で示すように、上アームのトランジスタTA1がオン状態からオフ状態になり、上アームのトランジスタTB1がオフ状態からオン状態になると、図2に示す直流電源60からの電流は、プラス側ライン61、トランジスタTB1を経由して、一次側コイルB,C,D,Eの直列回路を流れる経路と、一次側コイルA,I,H,G,Fの直列回路を流れる経路に分かれ、さらに、下アームのトランジスタTF2、マイナス側ライン62を経由して流れる。
【0044】
図4(C)でコイルに付した矢印は、時刻t3において各一次側コイルA~Iを流れる電流を示したものであり、各一次側コイルA~Iを流れる電流によって生じた磁束によって、二次側ユニット20を削除したと仮定すると、突極P2~P5はS極となり、突極P6~P1はN極となる。このため、一次側コア11内に発生する磁界の方向は、図4(C)の矢印Xで示すように、突極P8から突極P3と突極P4の中間に向かう方向となる。
【0045】
このように、時刻t1から時刻t3において、一次側コア11内に生じる磁束の方向は、40°反時計方向に変化している。以降の動作についても同様であり、制御回路50は、図3の遷移図に示すように、各スイッチング素子のオン・オフ状態を周期的に切り換えることによって、一次側コア11内に回転磁界を発生させている。
【0046】
図5は、本実施形態のインバータ装置101において、二次側ユニット20を削除した際に、一次側コア11の各突極P1~P9に現れる極性の遷移を示す図である。図5に示す時刻t1~t10は、図3に示す遷移図の時刻t1~t10に対応しており、各突極P1~P9の極性が変化することで、一次側コア11内に2極の回転磁界が生じることを示している。
【0047】
一次側ユニット10と二次側ユニット20とは互いに一体または接触して固定されているが、磁気的には、二次側ユニット20の周囲を、一次側ユニット10が疑似的に外転型の2極永久磁石回転子15として回転しているモデルと同じと考えられる。図6は、図1に示すインバータ装置の一次側ユニット10を回転磁石に置き替えたモデルを示す図であり、図7は、図6に示す二次側ユニットの各コイルに発生する電圧を示す図である。
【0048】
図6に示すように、本実施形態のインバータ装置101のトランス30の一次側ユニット10は、環状のヨーク13内に、径方向に磁化されて、内周側がN極とS極の永久磁石14を2個備えた2極永久磁石回転子15として表される。2極永久磁石回転子15が回転することによって、二次側コア21の各突極Pu~Pwを流れる磁束が変化する。これにより、二次側コイル22u~22wに鎖交する磁束が変化し、二次側コイル22u~22wには、それぞれ電圧e~eの交流電圧が発生する。二次側ユニット20の各二次側の突極Pu~Pwは、本実施形態の場合、それぞれ120°の位相差を有しているため、二次側コイル22u~22wからは、直流電源60と絶縁された三相交流電圧が得られる。
【0049】
二次側コイル22u~22wは、Y(スター)結線あるいはΔ(デルタ)結線されて、二次側コイル22u~22wに生じた三相交流電圧は三相交流負荷に供給される。なお、図7に示す電圧波形は、回転磁石が作る磁場が周方向で正弦波状に変化する理想的な場合に発生する電圧波形を示しており、本実施形態のインバータ装置101の二次側コイル22u~22wから、正弦波電圧が得られるわけではない。インバータ装置101の出力電圧を正弦波状に変化させる方法については後述する。
【0050】
上記の説明では、本実施形態のインバータ装置の動作について、トランス30から二次側ユニット20を取り除いたモデルを用いて、二次側コイル22u~22wに三相交流電圧が発生することを述べた。実際のインバータ装置では、スイッチング素子のオン・オフ状態を切り替えることによって、各一次側コイルA~Iに流れる電流の方向を変化させ、一次側コア11の各突極P1~P9を通過する磁束の方向を変化させている。そして、一次側コア11の各突極P1~P9を通過する磁束の方向を順次変化させることによって、一次側コア11の各突極P1~P9と磁気的に結合した二次側コア21の各突極Pu~Pwを通過する磁束を変化させ、各突極Pu~Pwに卷回した二次側コイル22u~22wに鎖交する磁束を変化させている。
【0051】
例えば、二次側コア21の突極Puに卷回した二次側コイル22uに注目した場合、スイッチング素子であるトランジスタTA1~TI2を、図3に示すオン・オフ状態になるようにスイッチングさせることによって、二次側コア21の突極Puのコイル卷回部分を通過する磁束は次のようになる。
【0052】
まず、時刻t1では、図1に示すトランジスタTA1とトランジスタTE2がオン状態にあるため、一次側コイルA~Cには同じ方向に電流が流れる。そして、一次側コイルA~Cに流れる電流によって、一次側コア11の突極P1~P3には、全て径方向内側から径方向外側に向けた方向に磁束が通過する。このため、二次側コア21の突極Puのコイル卷回部分には、径方向内側から径方向外側に向けた方向に磁束が通過する。この時の突極Puのコイル卷回部分を通過する磁束の大きさは、一次側コア11の突極P1~P3を通過する磁束を加えたものになる。時刻t2においても、二次側コア21の突極Puのコイル卷回部分を通過する磁束は、時刻t1の場合と同じである。
【0053】
次に、時刻t3では、トランジスタTB1とトランジスタTF2がオン状態にあるため、一次側コイルAに流れる電流の方向が逆転する。これにより、一次側コア11の突極P2、P3を通過する磁束は、時刻t1、t2の場合と変わらないが、突極P1には、径方向外側から径方向内側に向けた方向に磁束が通過する。このように、突極P2,P3と突極P1を通過する磁束の方向が異なる。これにより、二次側コア21の突極Puのコイル卷回部分には、依然として径方向内側から径方向外側に向けた方向に磁束が通過するが、この時の突極Puのコイル卷回部分を通過する磁束の大きさは、時刻t1、t2の場合よりも小さくなる。時刻t4においても、二次側コア21の突極Puのコイル卷回部分を通過する磁束は、時刻t3の場合と同じである。
【0054】
次に、時刻t5では、トランジスタTC1とトランジスタTG2がオン状態にあるため、一次側コイルBに流れる電流の方向が逆転する。これにより、一次側コア11の突極P3を通過する磁束は、時刻t1~t4の場合と変わらないが、突極P1,P2には、径方向外側から径方向内側に向けた方向に磁束が通過する。これにより、二次側コア21の突極Puのコイル卷回部分を通過する磁束の方向が変わり、径方向外側から径方向内側に向けた方向に磁束が通過する。時刻t6においても、二次側コア21の突極Puのコイル卷回部分を通過する磁束は、時刻t5の場合と同じである。
【0055】
次に、図3では図示していないが、時刻t7において、トランジスタTD1とトランジスタTH2がオン状態にある。時刻t7では、時刻t6の状態に比べて、一次側コイルCに流れる電流の方向が逆転する。これにより、図1に示す一次側コイルA~Cに流れる電流によって、一次側コア11の突極P1~P3には、全て径方向外側から径方内外側に向けた方向に磁束が通過する。このため、二次側コア21の突極Puのコイル卷回部分には、径方向外側から径方向内側に向けた方向に磁束が通過する。この時の突極Puのコイル卷回部分を通過する磁束の大きさは、一次側コア11の突極P1~P3を通過する磁束を加えたものになり、時刻t5、t6における磁束よりも大きくなる。図3では図示していないがトランジスタTD1とトランジスタTI2がオン状態となる時刻t8においても、二次側コア21の突極Puのコイル卷回部分を通過する磁束は、時刻t7の場合と同じである。
【0056】
以降、図3では図示していないが、トランジスタTF1とトランジスタTA2がオン状態となる時刻t11までは一次側コイルA~Cに流れる電流の方向は変化しないため、二次側コア21の突極Puのコイル卷回部分を通過する磁束は、時刻t7の場合と同じとなる。このように、二次側コア21の突極Puのコイル卷回部分を流れる磁束は、スイッチング素子のオン・オフ状態を切り替えることにより、順次その方向と大きさが変化していく。これにより、二次側コイル22uには交流電圧が発生する。
【0057】
二次側コイル22u~22wに発生する交流電圧を正弦波に近づけるためには、二次側コイル22u~22wに鎖交する磁束の変化を滑らかにする必要がある。このため、二次側コア21の各突極Pu~Pwに磁気的に結合する一次側コア11の突極の数をある程度多くし、一次側コイル数を多くすることが望ましい。また、先述したように、一次側コイルA~IにそれぞれコンデンサCa~Ciを並列接続することによって、各トランジスタのオン・オフ状態を切り換える際に、各一次側コイルA~Iに印加される急激な電圧の変化を緩和させ、一次側コイルA~Iのスイッチング時の電流変化を滑らかにすることによって、二次側コイル22u~22wに鎖交する磁束の変化を滑らかにすることができる。
【0058】
以上、本実施形態のインバータ装置101について説明したが、トランス30の一次側コイルA~Iおよび二次側コイル22u~22wのインダクタンス成分によって、一次側コイルA~Iに流れる電流は急激に変化することがない。このため、交流出力電圧に含まれる高調波ノイズを抑えることができる。また、制御回路50によって、スイッチングの切り替え速度(周期)を変更することにより、交流出力電圧の周波数を可変制御することができる。
【0059】
[第2の実施形態]
図8は、本発明の第2の実施形態に係るインバータ装置のトランスの概略を示す図である。本実施形態のインバータ装置102は、第1の実施形態において、トランス30の代わりに、トランス30’を用いたものであり、他の構成については、第1の実施形態と同様である。このため、トランス30’以外の説明については省略する。
【0060】
第1の実施形態では、トランス30の一次側コア11の突極P1~P9と二次側コア21の突極Pu~Pwとが径方向に位置していたが、本実施形態で用いるトランス30’は、一次側コア11’の突極P1~P9と二次側コア21’の突極Pu~Pwとが軸方向に位置させている。
【0061】
図8に示すように、一次側ユニット10’の一次側コア11’は、軸方向に突出した突極P1~P9を備えており、巻鉄心(トロイダルコア)を用いて形成することができる。また、二次側ユニット20’の二次側コア21’も同様に巻鉄心から形成することができ、軸方向に突出した突極Pu~Pwを備えている。一次側コア11’と二次側コア21’とは別体に作製され、それぞれ一次側コイルA~Iおよび二次側コイル22u~22wを装着した後、一次側コア11’の突極P1~P9と二次側コア21’の突極Pu~Pwとを突き合わせて固着することによって、磁気的に結合され一体化される。
【0062】
この場合、一次側コア11’の突極P1~P9と二次側コア21’の突極Pu~Pwの接触部は、それぞれの積層方向の断面が櫛形となるように形成しておき、櫛形端部を互いに重ねて一体構造化することで、一次側コア11’と二次側コア21’間の磁気抵抗の増加を防ぐことが望ましい。第2の実施形態では、一次側コア11’および二次側コア21’への一次側コイルA~Iおよび二次側コイル22u~22wの実装を簡単に行うことができる。
【0063】
[第3の実施形態]
図9は、本発明の第3の実施形態に係るインバータ装置の概略を示す図である。本実施形態のインバータ装置103は、一次側ユニット10と二次側ユニット20からなるトランス30と、スイッチング回路40を備えている。スイッチング回路40には直流電源60が接続される。また、インバータ装置103は、スイッチング回路40をスイッチング動作させるための制御回路50を備えている。
【0064】
本実施形態のインバータ装置103は、直流電源60から単相交流を得るためのインバータである。トランス30の一次側ユニット10は、環状のコアの内側にn(nは4以上の整数であり、本実施形態ではn=8)個のスロットをほぼ等間隔に形成した電磁鋼板を複数枚積層した一次側コア11と、一次側コア11の各スロットに収納した8個の一次側コイルA~Hからなる一次側コイル12を備えている。
【0065】
また、二次側ユニット20は、中央のコア部分から2個の円弧状の突極Pa、Pbを形成した電磁鋼板を複数枚積層した二次側コア21と、中央のコア部分に卷回した二次側コイル22を備えている。一次側コア11と二次側コア21とは一体に形成されていてもよく、また、別体に形成されていてもよい。図9に示す破線は、一次側コア11’と二次側コア21’との境界を示している。また、二次側コア21’の突極Paと一次側コア11’の突極P1~P4とが磁気的に結合しており、二次側コア21’の突極Pbと一次側コア11’の突極P5~P8とが磁気的に結合している。一次側コア11’と二次側コア21’とは、一体に形成されていてもよく、別体に形成されて一体化されていてもよい。
【0066】
隣接する一次側コイルA~Hはそれぞれ直列接続されて、全体で一つの閉回路を形成している。一次側コイルA~Iの各口出線の接続点は、図9に示すように、スイッチング回路40の8個のハーフブリッジTA~THの各接続点に接続されている。
【0067】
このように、本実施形態のインバータ装置102は、第1の実施形態のインバータ装置101に比べて、トランス30’の構成やスイッチング回路40のハーフブリッジの数が異なっているが、その動作については、第1の実施形態のインバータ装置101と同様である。すなわち、制御回路50からのゲート信号よって、一のハーフブリッジの上アームのトランジスタTA1~TH1の一つと、他のハーフブリッジの下アームのトランジスタTA2~TH2の一つを順次オン状態にすることによって、一次側コイルA~Hを流れる電流の方向を切り換えている。
【0068】
具体的には、一のハーフブリッジの上アームのトランジスタと、一のハーフブリッジから4(8÷2)個離れたハーフブリッジの下アームのトランジスタをオン状態にし、他のトランジスタをオフ状態にする、これにより、一次側コア11’の突極P1~P8を通過する磁束の方向が切り換わるとともに、二次側コア21の突極Pa,Pb間を通過する磁束の大きさと方向が変化し、二次側中央のコア部分に卷回した二次側コイル22に単相の交流電圧が発生する。
【0069】
本実施形態では、磁気的なバランスをとるために、一次側コア11’の突極P1~P8の数を偶数とし、二次側コア21’の2つの突極Pa,Pbにそれぞれ磁気的に結合する一次側コア11’の突極数を等しくしているが、これに限定されない。
【0070】
また、各実施形態では、一次側コア11の外周部または一次側コア11’の軸方向端部を円環状に形成したものを示したが、一次側コア11の円環状の部分は、各突極P1~P9またはP1~P8の共通磁路になる部分であり、本発明の第1共通磁路に相当する。また、同様に、二次側コア21の中心部分や二次側コア21’の軸方向端部は、突極Pu~PwまたはPa,Pbの共通磁路となる部分であり、本発明の第2共通磁路に相当する。さらに、本発明において、環状は円環状のみを示すのではなく、閉ループを形成する形状を含む。
【0071】
[第4の実施形態]
図10は、本発明の第4の実施形態に係る電力変換装置(インバータ装置)の制御回路を除く等価回路を示す図である。第4の実施形態に係るインバータ装置104は、直流-三相交流変換を行うインバータ装置を構成している。第1の実施形態では、一次側コア11に複数の一次側コイルA~Iが設けられるとともに、二次側ユニット20の二次側コア21に複数の二次側コイル22u~22vを設けていたが、本実施形態では、トランス110として9個のサブトランスT1~T9を備えており、複数の一次側コイルA1~I1のそれぞれが、9個のサブトランスT1~T9のそれぞれに卷回されている。また、9個のサブトランスT1~T9には、二次側サブコイルA2~I2が卷回されている。なお、図10では制御回路を図示していないが、第1の実施形態と同様に、各スイッチング素子の導通・非導通を所定の周期で切り換える制御回路を有している。
【0072】
9個の一次側コイルA1~I1のそれぞれは順次直列接続されて、閉ループを形成している。また、二次側サブコイルA2~I2のうち、順次3個の二次側サブコイルが接続されて、3個の二次側コイル22u~22wを形成している。すなわち、3個の二次側サブコイルA2~C2が直列接続されて二次側コイル22uを構成しており、3個の二次側サブコイルD2~F2が直列接続されて二次側コイル22vを構成しており、また、3個の二次側サブコイルG2~I2が直列接続されて二次側コイル22wを構成している。本実施形態では、各二次側コイル22u~22wはΔ(デルタ)結線されて、同じくΔ(デルタ)結線された三相負荷Lu~Lwに接続されている。二次側サブコイルA2~I2は、本発明の第2のサブコイルに相当する。
【0073】
一次側コイルA1~I1と二次側サブコイルA2~I2のコイルの接続方向は、例えば、図10に示す一次側コイルA1~I1のドットを付した方向から電流が流れ込んだ際に、二次側サブコイルA2~I2のドットを付した方向から二次側の電流が流れ出るように接続される。
【0074】
スイッチング回路40は、9個のハーフブリッジTA~TIを構成する上アーム側の9個のトランジスタTA1~TI1と、下アーム側の9個のトランジスタTA2~TI2とを備えている。9個の一次側コイルA1~I1の口出し線は、それぞれ上アームのトランジスタTA2~TI2と下アームのトランジスタTA2~TI2の2個のトランジスタの接続点間に接続されており、個々の一次側コイルA~IにはそれぞれコンデンサCa~Ciが並列接続されている。上アーム側の9個のトランジスタTA1~TI1は共通のプラス側ライン61に接続され、下アーム側の9個のトランジスタTA2~TI2は共通のマイナス側ライン62に接続されている。プラス側ライン61とマイナス側ライン62には、直流電源60が接続される。
【0075】
図2に示す第1の実施形態のインバータ装置101と本実施形態のインバータ装置104とを比べると、例えば、二次側コイル22uに注目すれば、第1の実施形態のインバータ装置101では、図2の等価回路に示すように二次側コイル22uが複数の一次側コイルA~Cと磁気的に結合しているのに対して、本実施形態のインバータ装置104では、二次側コイル22uが複数の一次側コイルA~Cとそれぞれ磁気的に結合している複数の二次側サブコイルA2~C2を直列接続したものになっている。
【0076】
このため、一次側コイルA~Cを流れる電流が変化した際に、第1の実施形態のインバータ装置101では、二次側コイル22uに鎖交する磁束量が変化し、二次側コイル22に誘起される電圧が変化するが、本実施形態のインバータ装置104では、二次側コイル22uを構成する二次側サブコイルA2~C2のそれぞれに鎖交する磁束が変化し、これによって、二次側サブコイルA2~C2に誘起される電圧が変化し、これらの変化が二次側コイル22uに誘起される電圧変化として現れる。このため、結果的には、二次側コイル22uに現れる電圧は、第1の実施形態のインバータ装置101と本実施形態のインバータ装置104とでは同じになる。
【0077】
本実施形態のインバータ装置104のスイッチング素子のオン・オフ状態の遷移は、図1に示すインバータ装置101のスイッチング素子のオン・オフ状態の遷移と同様に、図3で示される。このため、本実施形態のインバータ装置104のトランジスタTA1~TI2を図3に示すようにスイッチングすることによって、二次側コイル22u~22wには、それぞれ電圧eu~ewで示す三相交流電圧が発生する。そして、制御回路50によってスイッチングの切り替え速度(周期)を変更することにより、交流出力電圧の周波数を可変制御することができる。
【0078】
[第5の実施形態]
図11は、本発明の第5の実施形態に係る電力変換装置(コンバータ装置)の制御回路を除く等価回路を示す図である。第5の実施形態に係るコンバータ装置105は三相交流を直流に変換するものである。コンバータ装置105は、入力側を一次側、出力側を二次側とした場合に、三相交流側が一次側、直流側が二次側となり、インバータ装置101と入出力の関係が反対になるが、本発明の電力変換装置は交流と直流の双方向の変換が可能であるため、各構成部材の名称は、第4の実施形態のインバータ装置104と同じ名称を用いて説明する。
【0079】
コンバータ装置105は、第4の実施形態のインバータ装置104と同様に、トランス110として9個のサブトランスT1~T9を備えており、複数の一次側コイルA1~I1のそれぞれが、9個のサブトランスT1~T9のそれぞれに卷回されている。9個のサブトランスT1~T9には、二次側サブコイルA2~I2が卷回されている。また、スイッチング回路40として、9個のハーフブリッジTA~TIを備えており、個々の一次側コイルA~IにはそれぞれコンデンサCa~Ciが並列接続されている。スイッチング回路40とトランス110の各コイルの接続関係は、第4の実施形態のインバータ装置104と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0080】
二次側サブコイルA2~I2のうち、順次3個の二次側サブコイルが接続されて、3個の二次側コイル22u~22wが形成されており、例えば、二次側コイル22uは三相交流電源のU相-V相間に、二次側コイル22vは三相交流電源のV相-W相間に、また、二次側コイル22wは三相交流電源のW相-U相間に接続されている。本実施形態では、このように各二次側コイル22u~22wは三相交流電源に対してΔ(デルタ)結線されているが、Y(スター)結線されていてもよい。
【0081】
スイッチング回路40の各上アームのトランジスタTA1~TI1は共通のプラス側ライン61に接続され、各下アームのトランジスタTA2~TI2は共通のマイナス側ライン62に接続される。プラス側ライン61とマイナス側ライン62間には、平滑用のコンデンサCsと負荷Lが接続される。
【0082】
図11では制御回路を図示していないが、各スイッチング素子の導通・非導通を所定の周期で切り換える制御回路を有している。そして、各上アームのトランジスタTA1~TI1と各下アームのトランジスタTA2~TI2のオン・オフ状態を切り換えることにより、三相交流電源から直流電圧を得ている。各トランジスタTA1~TI2のオン・オフ状態の切り換えの遷移は、第4の実施形態のインバータ装置104と同様であり、図4に示される。
【0083】
コンバータ装置105の場合、各トランジスタTA1~TI2のオン・オフ状態の切り換えのタイミングは、三相交流に同期させる必要があり、各トランジスタのオン・オフの切り換えのタイミングの位相を三相交流の電圧変化から決める必要がある。このため、本実施形態のコンバータ装置では、三相交流電源の相関電圧の変化を検出するための図示しないセンサを備えている。そして、センサからの信号に基づいて、三相交流に同期させて各トランジスタTA1~TI2のオン・オフ状態を切り換えることにより、三相交流電源から直流電圧Vを得ている。
【0084】
以上のように、第4の実施形態で示したインバータ装置104は、本実施形態のコンバータ装置105としても機能するものである。同様に、第1、第2の実施形態として示した直流-三相交流変換を行うインバータ装置101、102についても、二次側コイル22u~22wを三相交流電源に接続し、三相交流に同期させて各トランジスタTA1~TI2のオン・オフ状態を切り換えることにより、三相交流―直流変換のコンバータ装置として機能させることが可能である。
【0085】
[第6の実施形態]
図12は、本発明の第5の実施形態に係る電力変換装置(インバータ装置)の制御回路を除く等価回路を示す図である。本実施形態のインバータ装置106は、第3の実施形態のインバータ装置103(図9参照)と同様に、直流電源60から単相交流を得るためのインバータ装置であるが、トランス110の構成が、第4の実施形態のインバータ装置104と同様に、複数のサブトランスT1~T8を備えた構成となっている。
【0086】
一次側コイルA1~H1とスイッチング回路40の接続関係は、第3の実施形態のインバータ装置103と同様である。また、個々のサブトランスT1~T8に卷回された二次側サブコイルA2~H2については、4個の二次側サブコイルA2~D2を直列接続して第1のコイル群とするとともに、他の4個の二次側サブコイルE2~H2を直列接続して第2のコイル群とし、第1のコイル群と第2のコイル群のそれぞれの卷回方向が逆向きになるように直列接続して二次側コイル22を形成している。二次側コイル22には、負荷Lが接続される。
【0087】
そして、図示しない制御回路によって、一のハーフブリッジの上アームのトランジスタと、一のハーフブリッジから4(8÷2)個離れたハーフブリッジの下アームのトランジスタを順次オン状態にし、他のトランジスタをオフ状態にすることによって、直列接続した二次側サブコイルA2~I2を直列接続した二次側コイル22から単相交流を得る。インバータ装置106の場合、トランジスタのオン・オフ状態の切り替え速度(周期)を変更することにより、交流出力電圧の周波数を可変制御することができる。本実施形態のインバータ装置106では、第1のコイル群と第2のコイル群のそれぞれから単相交流電圧を得るようにしてもよい。
【0088】
第3の実施形態のインバータ装置103および本実施形態のインバータ装置106は、直流―単相交流変換のインバータ装置であるが、二次側コイル22を単相交流電源に接続し、単相交流電源に同期させて各トランジスタTA1~TH2のオン・オフ状態を切り換えることにより、単相交流―直流変換のコンバータ装置として機能させることが可能である。
【0089】
[スイッチング素子切り換え方法]
次に、本発明の電力変換装置において、オン状態にあるトランジスタを切り換える際の方法について説明する。例えば、図3に示す時刻t2から時刻t3にかけて、上アームのトランジスタTA1がオン状態からオフ状態に、また、これに伴い、上アームのトランジスタTB1がオフ状態からオン状態に切り換わる。これによって、一次側コイルAに流れる電流の方向が、時刻t2と時刻t3とでは反対方向に切り換わることになる。このため、一次側コイルAを流れる電流による電磁的なリアクションがトランジスタのスイッチングに問題となる場合がある。
【0090】
この場合、トランジスタTA1からTB1へオン状態の切り換え方法として、上アームのトランジスタTB1をオフ状態からオン状態にする際に、同時にオン状態にあるトランジスタTA1をオフ状態にするのではなく、トランジスタTB1をオン状態にした際に、トランジスタTA1については微小時間だけオン状態を保つようにし、その後、トランジスタTA1をオフ状態にすることが望ましい。これにより、一次側コイルAは、トランジスタの切り換え時に微小時間だけ短絡された状態となり、トランジスタTA1とトランジスタTB1とを同時に開閉する場合よりも、安定的にコイルに流れる電流を切り換えることができる。
【0091】
また、オン状態にあるトランジスタを切り換える際に、オン状態からオフ状態に切り換えるトランジスタに対しては、パルス幅が漸減するゲート信号を印加し、次にオフ状態からオン状態に切り換えるトランジスタに対しては、パルス幅が漸増するゲート信号を印加してもよい。
【0092】
図13は、本発明の電力変換装置における、スイッチング素子へのゲート信号について説明するための図である。図13では、トランジスタTA1から順次トランジスタTB1を経てトランジスタTC1へオン状態を切り換える際の、各トランジスタTA1~TC1へ印加するゲート信号の波形を示している。
【0093】
例えば、図1に示すインバータ装置101において、周波数50Hzの三相交流出力を得るためには、周期20msec(ミリ秒)の間に上アームの9個のトランジスタTA1からトランジスタTI1のオン・オフ状態を切り換えることになる。このため、例えば交流出力の1周期内における、上アームのトランジスタAT1からトランジスタTB1への切り換えの周期は、2.2msecとなる。そして、トランジスタTA1からトランジスタTB1へオン状態を切り換える際に、それぞれのトランジスタTA1,TB1へはパルス幅変調されたゲート信号を印加する。
【0094】
具体的には、トランジスタTA1には、パルス幅が漸次減少するゲート信号を印加し、トランジスタTB1には、パルス幅が漸次増大するゲート信号を印加する。トランジスタTA1,TB1へ印加されるゲート信号は、トランジスタTA1のオン期間あるいはトランジスタTB1のオフ期間で論理和をとった際に「1」となるように、一方のゲート信号を反転させたものになる。
【0095】
ゲート信号を生成するための具体例としては、図13に示す高周波数で変化する鋸歯状信号Saと,2.2msecの周期で変化するバイアスのかかった鋸歯状信号Sbとを比較することによって生成することができる。例えば、鋸歯状信号Saの周波数としては20kHzが用いられる。この場合、トランジスタTA1には、交流出力の1周期22.2msecの期間中の4.4msecの期間に、約89パルスのパルス幅変調されたゲート信号が印加される。これにより、スイッチング素子の切り替えによって電流方向が変化するコイルへの印加電圧をスムーズに変化させることができるため、コイルに並列接続したコンデンサの容量を小さく抑えることができる。なお、コンバータ装置においても、インバータ装置と同様に、パルス幅変調を行ったゲート信号を利用することができる。
【0096】
本発明によれば、二次側を三相または単相交流電源に接続し、一次側を直流電源または他のインバータ等による直流電圧回路に接続しているとき、二次側の周波数に、一次側のスイッチング素子の切り替え速度を同期させ、位相を進めることにより有効電力を一次側から二次側に送り出し、位相を遅らすことにより有効電力を二次側から一次側に吸収することができる。電力の値を計測することで目的の電力に合致するようにフィードバック制御することで系統連系モードの絶縁型双方向電力変換器を構成できる。
【0097】
また、一次側を直流電源または他のインバータ等による直流電圧回路に接続し、二次側を負荷に接続しているとき、一次側のスイッチ切り替え速度により任意の周波数の交流電源を供給することができる。この時の二次側電圧は、一次側直流電圧に比例するので、二次側電圧を測定し、フィードバック制御することにより、電圧源インバータを構築することができる。
【0098】
さらに、二次側を複数の自立運転インバータで並列運転するとき、一次側のスイッチング素子の切り替えタイミングを時刻同期させ、位相を制御することにより有効電力を所定の値に分担し、一次側電圧を制御することにより無効電力を所定の値に分担することで、絶縁型インバータ並列型電力系統を構築することできる。
【符号の説明】
【0099】
10,10'・・・一次側ユニット、11,11'・・・一次側コア、12・・・一次側コイル、13・・・ヨーク、14・・・永久磁石、15・・・2極永久磁石回転子、20,20'・・・二次側ユニット、21,21'・・・二次側コア、22,22u,22v,22w・・・二次側コイル、30,30'・・・トランス、40・・・スイッチング回路、50・・・制御回路、60・・・直流電源、61・・・プラス側ライン、62・・・マイナス側ライン、101~104,106・・・インバータ装置。105・・・コンバータ装置、110・・・サブトランス。
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