(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055743
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】ポリカーボネート系樹脂発泡シート及びその製造方法、並びに樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
C08J 9/04 20060101AFI20220401BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163333
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】川守田 祥介
(72)【発明者】
【氏名】阿南 伸一
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA70
4F074AA98
4F074AB01
4F074BA32
4F074BC12
4F074CA22
4F074DA02
4F074DA08
4F074DA12
4F074DA13
4F074DA23
4F074DA32
4F074DA33
4F074DA59
(57)【要約】
【課題】外観を損なわずに耐衝撃性を向上できるポリカーボネート系樹脂発泡シートの提供。
【解決手段】ポリスチレン換算数平均分子量Mnが1.8万~2.2万、ポリスチレン換算質量平均分子量Mwが6.6万~7.4万、かつMw/Mnが3.1~4.0であるポリカーボネート系樹脂を含み、測定温度260℃における動的粘弾性の角周波数依存性を測定したとき、損失正接の測定値が1となるときの角周波数が70~170rad/sである、ポリカーボネート系樹脂発泡シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン換算数平均分子量Mnが1.8万~2.2万、ポリスチレン換算質量平均分子量Mwが6.6万~7.4万、かつMw/Mnが3.1~4.0であるポリカーボネート系樹脂を含み、
測定温度260℃における動的粘弾性の角周波数依存性を測定したとき、損失正接の測定値が1となるときの角周波数が70~170rad/sである、ポリカーボネート系樹脂発泡シート。
【請求項2】
前記ポリカーボネート系樹脂が、分岐型ポリカーボネートを含む、請求項1に記載のポリカーボネート系樹脂発泡シート。
【請求項3】
前記ポリカーボネート系樹脂が、分岐型ポリカーボネート及び直鎖型ポリカーボネートを含む、請求項2に記載のポリカーボネート系樹脂発泡シート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネート系樹脂発泡シートを製造する方法であって、
前記ポリカーボネート系樹脂と発泡剤とを含む原料樹脂組成物を押出し、発泡し、前記ポリカーボネート系樹脂発泡シートを得る、ポリカーボネート系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネート系樹脂発泡シートを成形した、樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート系樹脂発泡シート、前記ポリカーボネート系樹脂発泡シートの製造方法、及び前記ポリカーボネート系樹脂発泡シートを成形した樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート系樹脂は、低温での機械的特性に優れ、耐熱性にも優れることから、幅広い温度帯で使用される物品の原材料として利用できる。
ポリカーボネート系樹脂からなる発泡シートは、これを熱成形して各種成形品に加工することができる。
【0003】
一般的なポリカーボネート系樹脂は押出発泡に適していないため、例えば以下のような方法が提案されている。
特許文献1は、ポリカーボネート系樹脂発泡体の発泡倍率を高くし、発泡体を厚くすることを目的とし、芳香族ポリカーボネート系樹脂(ユーピロンE2000)100質量部に対して、粘度平均分子量が特定の範囲内であるアクリル系樹脂0.1質量部を混合した基材樹脂を、押出機を用いて高温高圧条件下で発泡剤と共に溶融混練し、次いで低圧域に押出発泡した例が記載されている。
【0004】
特許文献2は、押出方向に対する垂直断面の面積が大きく、見掛け密度が低く、圧縮強さが良好なポリカーボネート系樹脂押出発泡体を得ることを目的とし、溶融粘度及び溶融張力が特定の範囲であるポリカーボネート系樹脂を用いて、押出発泡体を製造する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3は、独立気泡率、外観、断熱性及び成形性を満足するポリカーボネート系樹脂発泡シートを得ることを目的とし、構造粘性指数(N値)が特定の範囲内であるポリカーボネート系樹脂を用いることによって、引張、曲げ及び圧縮に対する特性が良好な押出発泡シートを製造した例が記載されている。
特許文献3の実施例で使用されているポリカーボネート系樹脂は、いずれも多分散度(Mw/Mn)が2.79以下である。また、E-2000の多分散度が2.16であることも示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-206922号公報
【特許文献2】特許第4878120号公報
【特許文献3】特許第3631821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリカーボネート系樹脂発泡シートには耐衝撃性が求められる場合もあるが、引用文献1~3の発明では耐衝撃性が考慮されていない。
特許文献2に記載されている溶融粘度及び溶融張力の範囲では、押出工程において流動の不安定化(メルトフラクチャー)が起こり、シート表面の平滑性が損なわれやすい。
本発明は、外観を損なわずに耐衝撃性を向上できるポリカーボネート系樹脂発泡シート、その製造方法、及び前記ポリカーボネート系樹脂発泡シートを成形した樹脂成形品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1]ポリスチレン換算数平均分子量Mnが1.8万~2.2万、ポリスチレン換算質量平均分子量Mwが6.6万~7.4万、かつMw/Mnが3.1~4.0であるポリカーボネート系樹脂を含み、
測定温度260℃における動的粘弾性の角周波数依存性を測定したとき、損失正接の測定値が1となるときの角周波数が70~170rad/sである、ポリカーボネート系樹脂発泡シート。
[2] 前記ポリカーボネート系樹脂が、分岐型ポリカーボネートを含む、[1]のポリカーボネート系樹脂発泡シート。
[3] 前記ポリカーボネート系樹脂が、分岐型ポリカーボネート及び直鎖型ポリカーボネートを含む、[2]のポリカーボネート系樹脂発泡シート。
[4] 前記[1]~[3]のいずれか一項に記載のポリカーボネート系樹脂発泡シートを製造する方法であって、前記ポリカーボネート系樹脂と発泡剤とを含む原料樹脂組成物を押出し、発泡し、前記ポリカーボネート系樹脂発泡シートを得る、ポリカーボネート系樹脂発泡シートの製造方法。
[5] 前記[1]~[3]のいずれか一項に記載のポリカーボネート系樹脂発泡シートを成形した、樹脂成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐衝撃性が良好で、外観も良好なポリカーボネート系樹脂発泡シート、及び前記ポリカーボネート系樹脂発泡シートを成形した樹脂成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
数平均分子量(以下、Mnともいう。)、質量平均分子量(以下、Mwともいう。)、Z平均分子量(以下、Mzともいう。)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した、ポリスチレン(PS)換算質量平均分子量を意味する。
多分散度(以下、Mw/Mnともいう、)は質量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で割った値である。
【0011】
<ポリカーボネート系樹脂発泡シート>
本実施形態のポリカーボネート系樹脂発泡シート(以下、単に「発泡シート」ともいう。)は、ポリカーボネート系樹脂と発泡剤を含む原料樹脂組成物aを発泡してなる1層の発泡層からなる。
【0012】
発泡シートの厚みは、用途を勘案して決定できる。例えば、発泡シートが樹脂成形品(例えば容器、トレー等)を成形するための成形用(原反)である場合、厚みは、0.3~5.0mmが好ましく、0.4~3.0mmがより好ましく、0.5~2.5mmがさらに好ましい。厚みが上記下限値以上であると、樹脂成形品の耐衝撃性、剛性を高められる。厚みが上記上限値以下であると、発泡シートの成形性を高められる。
【0013】
発泡シートについて、測定温度260℃における動的粘弾性の角周波数依存性を測定したとき、損失正接の測定値が1となるときの角周波数(以下、「角周波数ω1」ともいう)は70~170rad/sであり、80~160rad/sが好ましい。
前記角周波数ω1の逆数は、原料樹脂組成物aの緩和時間と相関し、角周波数ω1の値が大きすぎると押出発泡時に気泡が充分に保持されず発泡不良となりやすい。一方、角周波数ω1の値が小さすぎるとメルトフラクチャーが生じやすい。
角周波数ω1を上記の範囲内とすることにより、メルトフラクチャーが抑制され、発泡シートの外観及び耐衝撃性能が向上する。
角周波数ω1は、原料樹脂組成物aに含まれる樹脂の分子量、分子量分布、分子構造等によって調整できる。
【0014】
≪ポリカーボネート系樹脂≫
発泡シートに含まれるポリカーボネート系樹脂は、カーボネート基を主鎖に有する重合体である。さらにカルボキシレート基を主鎖に有してもよい。
ポリカーボネート系樹脂は、主鎖中に芳香族炭化水素基を有する芳香族ポリカーボネート系樹脂でもよく、主鎖中に芳香族炭化水素基を有さない脂肪族ポリカーボネート系樹脂でもよく、これらの混合物でもよい。
ポリカーボネート系樹脂は、主鎖を構成する原料を反応させて得られる直鎖型ポリカーボネート系樹脂でもよく、主鎖を構成する原料と分岐化剤を反応させて得られる分岐型ポリカーボネート系樹脂でもよく、これらの混合物でもよい。
【0015】
芳香族ポリカーボネート系樹脂として、主鎖中にカーボネート基、カルボキシレート基及び芳香族炭素環式基を有するコポリエステル(芳香族ポリエステルカーボネート)を用いてもよい。
芳香族ポリエステルカーボネートにおいて、カルボキシレート基の少なくとも一部が、芳香族炭素環式基の環を構成する炭素原子に直接結合していることが好ましい。
このような芳香族ポリエステルカーボネートは、例えば、炭酸とビスフェノールの1種以上と芳香族ジカルボン酸の1種以上を含む原料を反応させて得られる。
【0016】
脂肪族ポリカーボネート系樹脂は、例えば、炭酸と、脂肪族ジオール及び脂環式ジオールから選ばれる1種以上とを原料として得られる。
【0017】
ポリカーボネート系樹脂は、ASTM D6866に準拠する方法で測定される植物度(バイオマス度)が、5%以上、好ましくは20%以上の樹脂であってもよい。
植物度の高いポリカーボネート系樹脂は、例えば、植物由来のジオール成分(第1ジオール)の1種以上、他のジオール成分(第2ジオール)の1種以上、及び、炭酸ジエステル成分の1種以上を反応させて得られる。
【0018】
ポリカーボネート系樹脂のMnは1.8万~2.2万であり、1.8万~2.1万が好ましい。前記Mnが上記範囲の下限値以上であると押出発泡時に適正な押出圧力を確保しやすく、上限値以下であると押出発泡時の押出圧力の過剰な上昇を抑えやすい。
ポリカーボネート系樹脂のMwは6.6万~7.4万であり、6.8万~7.3万が好ましい。前記Mwが上記範囲の下限値以上であるとポリカーボネート系樹脂発泡シートやその成型品の物性を確保しやすく、上限値以下であると押出発泡時の押出圧力の過剰な上昇を抑えやすい。
ポリカーボネート系樹脂のMw/Mnは3.1~4.0であり、3.2~4.0が好ましく、3.5~4.0がより好ましい。前記Mw/Mnが上記範囲の下限値以上であるとポリカーボネート系樹脂発泡シートの均一性がよくなり、上限値以下であるとポリカーボネート系樹脂発泡シートの物性が向上する。
発泡シートに2種以上のポリカーボネート系樹脂が含まれる場合、それらの混合物におけるMn、Mw、及びMw/Mnが上記範囲内であればよい。
【0019】
ポリカーボネート系樹脂のMzは12万~17万が好ましく、12万~16万がより好ましく、13万~16万がさらに好ましい。前記Mzが上記範囲の下限値以上であると押出発泡時に溶融張力を確保しやすく、上限値以下であると押出発泡時の押出圧力の過剰な上昇を抑えやすい。
発泡シートに2種以上のポリカーボネート系樹脂が含まれる場合、それらの混合物におけるMzが上記範囲内であればよい。
【0020】
発泡シートに含まれるポリカーボネート系樹脂は1種でもよく2種以上の混合物でもよい。既存のポリカーボネート系樹脂から、Mn、Mw、Mw/Mn及び角周波数ω1が前記の範囲内となるように、1種を選択して、又は2種以上を混合して用いることができる。
発泡シートは、少なくとも分岐型ポリカーボネート系樹脂の1種以上を含むことが好ましく、分岐型ポリカーボネート系樹脂の1種以上と直鎖型ポリカーボネート系樹脂の1種以上とを含むことがより好ましい。
分岐型ポリカーボネート系樹脂を含むと良好な発泡性が得られやすく、直鎖型ポカーボネート系樹脂を含むとメルトフラクチャーが抑制されやすい。
【0021】
発泡シートに含まれるポリカーボネート系樹脂の全質量に対して、分岐型ポリカーボネート系樹脂は20~100質量%が好ましく、30~90質量%がより好ましく、40~80質量%がさらに好ましい。上記の範囲内であると、角周波数ω1を前記の範囲内に調整しやすい。分岐型ポリカーボネート系樹脂の含有量が多くなると角周波数ω1が低くなる傾向がある。
【0022】
分岐型ポリカーボネート系樹脂として、分岐型芳香族ポリカーボネート系樹脂を用いることが好ましい。分岐型芳香族ポリカーボネート系樹脂の市販製品としては、パンライトZ-2601(帝人社製品名)、ノバレックスM7028(三菱エンプラ社製品名)が例示できる。
直鎖型ポリカーボネート系樹脂として、直鎖型芳香族ポリカーボネート系樹脂を用いることが好ましい。直鎖型芳香族ポリカーボネート系樹脂の市販製品としては、パンライトK-1300Y(帝人社製品名)、ユーピロンE-2000(三菱エンプラ社製品名)が例示できる。
市販製品を用いる場合は、Mn、Mw、Mw/Mn及び角周波数ω1が前記の範囲内となるようにグレードを選択することが好ましい。
市販製品の2種以上を組み合わせて用いる場合は、それらの混合物におけるMn、Mw、Mw/Mn及び角周波数ω1が前記の範囲内となるように、グレード及び配合割合を調節することが好ましい。
【0023】
発泡シートに含まれるポリカーボネート系樹脂の好ましい態様として、例えば以下の態様が挙げられる。
発泡シートに含まれるポリカーボネート系樹脂が、Mnが1万~3万、Mwが5万~10万、Mw/Mnが3~5である分岐型芳香族ポリカーボネート系樹脂の1種以上と、Mnが0.5万~3万、Mwが4万~8万、Mw/Mnが2~4である直鎖型芳香族ポリカーボネート系樹脂の1種以上の混合物からなる態様。
本態様において、分岐型/直鎖型の質量比は、これらの混合物のMn、Mw、Mw/Mnが前記の範囲内となり、かつ前記角周波数ω1が前記の範囲内となるように調整する。分岐型/直鎖型の質量比は、例えば90/10~30/70が好ましく、80/20~40/60がより好ましい。
【0024】
≪その他の樹脂≫
発泡シートは、前記角周波数ω1を満たす範囲で、ポリカーボネート系樹脂以外のその他の樹脂を含んでもよい。その他の樹脂は熱可塑性樹脂であり、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂等が挙げられる。
発泡シートに含まれる樹脂の総質量に対して、ポリカーボネート系樹脂は95質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0025】
≪任意成分≫
発泡シートは、ポリカーボネート系樹脂、その他の樹脂、及び発泡剤以外のその他成分(任意成分)を含有してもよい。
任意成分としては、気泡調整剤、安定剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤等が挙げられる。
これらはポリカーボネート系樹脂発泡シートにおいて公知の添加剤を適宜用いることができる。
【0026】
気泡調整剤としては、例えば、タルク、シリカ、マイカ、雲母等の無機粉末、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂粉末、多価カルボン酸等の酸性塩、多価カルボン酸と炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムとの混合物などが挙げられる。気泡調整剤は1種でよく2種以上併用してもよい。
気泡調整剤の含有量は、発泡シートに含まれる樹脂の総量(ポリカーボネート系樹脂とその他の樹脂の合計)100質量部に対して、例えば、0.01~5.0質量部が好ましい。
【0027】
上述の任意成分は、それぞれ1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
発泡シートに含まれる任意成分の総量は、発泡シートに含まれる樹脂の総質量100質量部に対して、0.01~5.0質量部が好ましい。
【0028】
≪物性≫
発泡シートの坪量は、例えば50~800g/m2が好ましく、100~700g/m2がより好ましく、200~600g/m2がさらに好ましい。上記下限値以上であると成型性を確保しやすく、上記上限値以下であると成型品の軽量性を確保しやすい。
【0029】
発泡シートの密度(見掛け密度)は、例えば0.1~0.5g/cm3が好ましく、0.15~0.5g/cm3がより好ましく、0.2~0.5g/cm3がさらに好ましい。上記下限値以上であると成型性や強度を確保しやすく、上記上限値以下であると成型品の断熱性、軽量性を確保しやすい。
【0030】
発泡シートの連続気泡率は、20%以下が好ましく、19%以下がより好ましく、18%以下がさらに好ましい。上記上限値以下であると成型性や強度を確保しやすい。
【0031】
本実施形態の発泡シートは耐衝撃性に優れる。具体的には、後述の方法で測定した坪量当たりの衝撃吸収エネルギー(衝撃吸収エネルギー/坪量)が0.002J/(g/m2)以上である発泡シートを実現できる。衝撃吸収エネルギー/坪量の値が大きいほど耐衝撃性に優れる。
【0032】
<ポリカーボネート系樹脂発泡シートの製造方法>
本実施形態の発泡シートは、ポリカーボネート系樹脂と、発泡剤と、必要に応じた任意成分とを含む原料樹脂組成物aを押出して発泡させる方法で製造できる。原料樹脂組成物aは、さらに前記その他樹脂を含んでもよい。
【0033】
≪発泡剤≫
発泡剤としては、公知の発泡剤を用いることができる。
発泡剤は物理発泡剤と化学発泡剤に大きく分けられるが、その中でも物理発泡剤は、高い発泡倍率が得られやすい点で好ましい。
物理発泡剤は、更に不活性ガス、飽和脂肪族炭化水素、飽和脂環族炭化水素、エーテル、ケトン等に分類されるが、本実施形態においてはそのいずれをも使用できる。
代表的な例を挙げると、不活性ガスとしては炭酸ガス、窒素等が例示できる。飽和脂肪族炭化水素としてはプロパン、ノルマル又はイソブタン、ノルマル又はイソペンタン、又はこれらの混合物が例示できる。飽和脂環族炭化水素としてはシクロヘキサン等が例示できる。エーテルとしてはジメチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル等が例示できる。ケトンとしてはアセトン等が例示できる。
発泡剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。例えば、化学発泡剤と物理発泡剤を組み合わせてもよい。
【0034】
発泡剤の使用量は特に限定されないが、例えば、原料樹脂組成物a中の樹脂の総量100質量部に対して0.1~12質量部が好ましい。
【0035】
原料樹脂組成物aを押出して発泡させる工程は、公知の手法を用いて行うことができる。
例えば、ダイ(フラットダイやサーキュラーダイ)を装着した押出機に、原料樹脂組成物aを構成する原料(樹脂、任意成分、発泡剤)を供給すると、前記ダイに向かって移送されながら溶融混合されて原料樹脂組成物aとなる。原料樹脂組成物aはダイから押出され、発泡剤が発泡して発泡シートとなる。
原料樹脂組成物aを構成する原料のうち発泡剤以外の成分を、予めドライブレンド法又はフルコンパウンド法等により混合し、得られた混合物を前記押出機に供給してもよい。
なお、発泡シートにおける見掛け密度や連続気泡率は、発泡剤や気泡調整剤の量、押出時の樹脂温度等によって調整できる。押出時の樹脂温度は、樹脂が溶融しかつ任意成分が変性しない範囲で設定できる。
【0036】
≪樹脂成形品≫
本実施形態の樹脂成形品は、本実施形態の発泡シートを成形してなる。樹脂成形品としては、食品用トレー、工業用部品搬送トレー等の容器、緩衝材、梱包材、断熱材、電気製品又は自動車等の工業部材、建築部材等が挙げられる。
本実施形態の樹脂成形品は、耐衝撃性に優れることから、例えば、搬送トレー、自動車等の車載部材、建築部材等に好適である。
【0037】
発泡シートを成形する方法としては、公知の熱成形の手法を用いることができる。例えば、以下の工程を有する方法で熱成形できる。
(1)発泡シートを加熱して熱成形可能な状態に軟化させる加熱工程、
(2)軟化した発泡シートを成形型の表面形状に追従するように変形させて製品形状を形成する成形工程、及び
(3)製品形状を形成した発泡シートの不要部分を切断して、目的の樹脂成形品を発泡シートから切り出すトリミング工程。
【0038】
前記(1)加熱工程は、例えば、輻射式加熱ヒーターなどを備えた加熱炉内を、発泡シートが一定時間かけて通過する方法で実施できる。
前記(2)成形工程は、加熱されて軟化した発泡シートを、成形型の表面に接触させて冷却する方法で実施できる。成形型としては、真空成形型、圧空成形型、真空圧空成形型、マッチモールド成形型など、一般的な成形型を使用できる。比較的大きな樹脂成形品を形成する場合は、雄雌一対となった成形型が好ましく、プラグアシスト真空成形型やマッチモールド成形型などを用いることが好ましい。深絞り成形においては、成形時に発泡シートが急激に冷却されて破れや薄肉化が生じる場合があるため、必要に応じて温度調整することが好ましい。
前記(3)トリミング工程は、トムソン刃型やパンチャー(打抜きパンチ)を用いた一般的手法を用いて実施できる。
【0039】
本実施形態によれば、耐衝撃性が良好で、外観も良好な樹脂成形品が得られる。
【実施例0040】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
以下の測定方法又は評価方法を用いた。
<測定方法・評価方法>
【0041】
[Mn、Mw、Mz、Mw/Mnの測定方法]
試料15mgをクロロホルム6mLに溶解し(浸漬時間:6±1.0時間(完全溶解))、非水系シリンジフィルター(ポアサイズ0.45μm、(株)島津ジーエルシー製)にて濾過し、下記の測定条件にてクロマトグラフを用いて測定し、予め作成しておいた標準ポリスチレン検量線に基づいて、試料のMn、Mw、Mzを求め、Mw/Mnを算出した。
・使用装置:東ソー(株)製「HLC-8320GPC EcoSEC」ゲル浸透クロマトグラフ(RI検出器・UV検出器内蔵)。
≪GPC測定条件≫
・カラム サンプル側:
ガードカラム(東ソー(株)製「TSK guardcolumn HXL-H(6.0mm×4.0cm)」×1本。
測定カラム(東ソー(株)製「TSKgel GMHXL(7.8mmI.D.×30cm)」×2本直列。
・カラム リファレンス側:抵抗管(内径0.1mm×2m)×2本直列。
・カラム温度:40℃。
・移動相:クロロホルム。
・移動相流量 サンプル側ポンプ:1.0mL/min。
・移動相流量 リファレンス側ポンプ:0.5mL/min。
・検出器:RI検出器。
・試料濃度:0.25質量%。
・注入量:50μL。
・測定時間:20分間。
・サンプリングピッチ:500msec。
【0042】
検量線用標準ポリスチレン試料は、昭和電工(株)製の製品名「STANDARD SM-105」および「STANDARD SH-75」で質量平均分子量が5,620,000、3,120,000、1,250,000、442,000、151,000、53,500、17,000、7,660、2,900、1,320のものを用いた。
上記検量線用標準ポリスチレンをA(5,620,000、1,250,000、151,000、17,000、2,900)およびB(3,120,000、442,000、53,500、7,660、1,320)にグループ分けした後、Aを(2mg、3mg、4mg、4mg、4mg)秤量後クロロホルム30mLに溶解し、Bも(3mg、4mg、4mg、4mg、4mg)秤量後クロロホルム30mLに溶解した。標準ポリスチレン検量線は、作成した各AおよびB溶解液を50μL注入して測定後に得られた保持時間から較正曲線(三次式)を作成することにより得られ、その検量線を用いてMn、Mw、Mzを求めた。
【0043】
[損失正接の測定値が1となるときの角周波数ω1の測定方法]
動的粘弾性の測定は、Anton Paar製「PHYSICA MCR301」粘弾性測定装置及び「CTD450」温度制御システムを用いて実施した。
まず、発泡シートを120℃の条件下で5時間真空乾燥後、230℃の熱プレス機で5分間潰すことで脱気してサンプルとした。次にサンプルを20~25mm角にカットし、測定開始温度260℃に加熱した粘弾性測定装置のプレート上に、厚さ3~4mmになるように重ねてセットし、窒素雰囲気下にて5分間加熱して溶融させた。その後、直径25mmのパラレルプレートにて間隔(厚さ)2mmまで押しつぶし、プレートからはみ出した樹脂を取り除いた。更に測定温度±1℃に達してから5分間加熱後、歪み0.2%、角周波数40~400(rad/s)、測定点の点数を51点(50点/桁)、測定温度260℃の条件下にて動的粘弾性測定を行い、装置付属のソフトを用いて損失正接を求めた。測定開始は低角周波数側(40rad/s)からとした。
【0044】
[溶融粘度の測定方法]
溶融粘度の測定は、CEAST社製「ツインボアキャピラリーレオメーターRheologic5000T」用いて実施した。
まず、発泡シートを120℃の条件下で5時間真空乾燥後、230℃の熱プレス機で潰すことで脱気し得られたプレートを直ちに真空包装して、測定するまでデシケーターで保管し、測定直前に裁断してサンプルとした。次にキャピラリーダイ(ダイ径1.0mm、ダイ長さ10mm、流入角度90°(コニカル))を取り付け、250℃に加熱されたバレル(バレル径15mm)にサンプルを充填して5分間予熱したのちに、上記キャピラリーダイからピストン降下速度0.05556mm/s(歪速度100s-1)に保持して紐状に押出しながら見かけ粘度を測定し、これを溶融粘度とした。測定点は、試験圧力が一定値に安定したところから行った。
【0045】
[溶融張力の測定方法]
溶融張力の測定は、CEAST社製「ツインボアキャピラリーレオメーターRheologic5000T」用いて実施した。
まず、発泡シートを120℃の条件下で5時間真空乾燥後、230℃の熱プレス機で潰すことで脱気し得られたプレートを直ちに真空包装して、測定するまでデシケーターで保管し、測定直前に裁断してサンプルとした。次にキャピラリーダイ(ダイ径2.095mm、ダイ長さ8mm、流入角度90°(コニカル))を取り付け、250℃に加熱されたバレル(バレル径15mm)にサンプルを充填して5分間予熱したのちに、上記キャピラリーダイからピストン降下速度0.0773mm/sに保持して紐状物を連続的に押出した。押出された紐状物を上記キャピラリーダイの下方27cmに位置する張力検出のプーリーを通過させた後、巻取りロールを用いて巻き取った。巻取り速度を初速4.0mm/s、加速度12mm/s2で徐々に増加させ、紐状物の切断点直前の極大値と極小値の平均を溶融張力とした。
【0046】
[衝撃吸収エネルギーの測定方法]
ASTM D-3763-15に準拠した衝撃試験により、衝撃吸収エネルギーを測定した。試験片のサイズは、長さ100mm×幅100mm×原厚み(押出成型により得た発泡シートの厚み)とした。落錘衝撃試験装置CEAST9350(CEAST社製)、計測ソフトCEAST VIEWを使い、落錘が試験片を打ち貫く際の全吸収エネルギー/Total Energy(J)を測定した。全吸収エネルギーは、測定で得られたグラフの積分値を開計測ソフトで自動計算して算出し、試験片7個の平均の全吸収エネルギーを衝撃吸収エネルギーとした。
測定条件は、試験速度:1.77m/sec、落錘荷重:1.9265kg、試験片支持スパン(内径)76mm、使用タップ:4.5kN計装化タップ(先端直径12.7mm半球状)、試験温度23℃とした。
試験片の温度を、ASTM D618-13 Procedure A(23±2℃、相対湿度50±10%)の環境で40時間かけて試験温度(23℃)に調節した後、同室温下で測定した。
得られた衝撃吸収エネルギーの値を坪量で割って、坪量当たりの衝撃吸収エネルギー(衝撃吸収エネルギー/坪量)を求めた。
【0047】
[厚みの測定方法]
発泡シートの幅方向の両端75mmを除き、幅方向100mm間隔で6点を測定点とした。この測定点について、ダイヤルシックネスゲージSM-112(テクロック社製)を使用し、厚みを最小単位0.01mmまで測定した。これらの測定値の平均値を厚み(mm)とした。
【0048】
[坪量の測定方法]
発泡シートの幅方向の両端25mmを除き、幅方向に等間隔に、10cm×10cmの切片6個を切り出し、各切片の質量(g)を0.001g単位まで測定した。各切片の質量(g)の平均値を1m2当たりの質量に換算した値を、坪量(g/m2)とした。
【0049】
[密度の測定方法]
発泡シートの密度は、厚み(mm)と坪量(g/m2)とから、次式により算出した。
密度(g/cm3)=坪量/(厚み×1000)
【0050】
[連続気泡率の測定方法]
発泡シートの連続気泡率は、体積測定空気比較式比重計を利用して求めた。具体的には、東京サイエンス社製の空気比較式比重計を用いて、発泡シートの試験片の体積Vを測定し、次式により算出した。
連続気泡率(%)=(V0-V)/V0×100
(上記式において、Vは空気比較式比重計で測定した試験片の体積(cm3)、V0は測定に使用した試験片の外形寸法から計算される試験片の見掛けの体積(cm3)である。)
【0051】
[発泡シート外観の評価方法]
発泡シートの表面を目視で観察し、平滑である場合を○、平滑でない場合を×とした。
【0052】
<材料>
ポリカーボネート系樹脂(1):パンライトZ-2601、帝人社製品名、分岐型芳香族ポリカーボネート系樹脂、Mn=18×103、Mw=74×103、Mz=176×103、Mw/Mn=4.11。
ポリカーボネート系樹脂(2):パンライトK-1300Y、帝人社製品名、直鎖型芳香族ポリカーボネート系樹脂、Mn=23×103、Mw=65×103、Mz=100×103、Mw/Mn=2.83。
気泡調整剤(1):タルク。
発泡剤(1):炭酸ガス(CO2)。
【0053】
(実施例1)
ポリカーボネート系樹脂(1)の80質量部と、ポリカーボネート系樹脂(2)の20質量部と、気泡調整剤(1)の0.30質量部の混合物を調製した。
スクリュー径50mmの押出機(上流側)と、スクリュー径65mmの押出機(下流側)とが連結されたタンデム押出機を用いた。下流側の押出機の先端には、円環状の吐出口を有するサーキュラーダイ(吐出口の口径70mm、スリット幅0.50mm)が装着されている。サーキュラーダイの下流側(押出方向前方)に円筒状の冷却用マンドレル(直径207mm)を配置した。
まず、上流側の押出機のホッパーに前記混合物を供給し、押出機内で、最高温度290℃で加熱溶融させて溶融混練した。
次いで、前記混合物中のポリカーボネート系樹脂の合計100質量部に対して0.30質量部の発泡剤(1)を上流側の押出機の途中で圧入し、さらに溶融混練して原料樹脂組成物aとした。
次いで、下流側の押出機のサーキュラーダイから、溶融状態の原料樹脂組成物aを押出して円筒状の発泡体を形成した。押出時の樹脂温度は279℃に設定した。
前記円筒状の発泡体を冷却用マンドレルによって拡径し、前記冷却用マンドレルの下流側に設けた引取機によって引き取った。冷却用マンドレルの外周面を発泡体の内周面に沿わせて発泡体を冷却すると共に、冷却用マンドレルの下流側において円筒状発泡体を押出方向に沿って切断して帯状とした。切断した発泡体を平坦な発泡シートにして引取機によりロール状に巻き取った。得られた発泡シートの、押出方向とは直交する方向(幅方向)の幅は650mmであった。発泡シートの物性及び評価を表1に示す。
【0054】
(実施例2~6、比較例1~3)
原料樹脂組成物aの配合を表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして発泡シートを製造した。得られた発泡シートの物性及び評価を表1に示す。
【0055】
【0056】
表1の結果に示されるように、実施例1~6で得られた発泡シートは、耐衝撃性が良好であり、外観も良好であった。
一方、Mw/Mnが大きく、角周波数ω1が小さい比較例1はメルトフラクションが生じ、外観と耐衝撃性が劣った。
Mnが高く、Mwが低く、Mw/Mnが小さく、角周波数ω1が大きい比較例2は、気泡が充分に保持されず、連続気泡が多くなり、発泡不良となった。
Mw/Mnが小さく、角周波数ω1が大きい比較例3は、気泡が十分に保持されず、連続気泡が多くなり、耐衝撃性と外観が劣った。