(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055746
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】クロスローラ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 19/36 20060101AFI20220401BHJP
【FI】
F16C19/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163338
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】川上 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】片渕 恵太
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA26
3J701AA34
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA69
3J701FA31
3J701FA38
3J701GA11
3J701GA32
3J701XB01
3J701XB03
3J701XB31
(57)【要約】
【課題】クロスローラ軸受の過剰な傾斜軌道面の加工を避けつつ、低トルク性及び転がり寿命の悪化原因を抑制する。
【解決手段】外輪1の傾斜軌道面1aの表面粗さRaを内輪2の傾斜軌道面2aの表面粗さRaよりも小さく設ける。傾斜軌道面1a、2aの表面粗さRaを0.3μm以下に設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する一対の傾斜軌道面を内周面に有する外輪と、互いに直交する一対の傾斜軌道面を外周面に有する内輪と、前記外輪の一対の傾斜軌道面と前記内輪の一対の傾斜軌道面との間に、周方向に交互に傾斜方向が変わるように配置された複数のローラとを備えるクロスローラ軸受において、
前記外輪の傾斜軌道面の表面粗さRaが前記内輪の傾斜軌道面の表面粗さRaよりも小さく設けられていることを特徴とするクロスローラ軸受。
【請求項2】
前記外輪の傾斜軌道面の表面粗さRa及び前記内輪の傾斜軌道面の表面粗さRaがそれぞれ0.3μm以下に設けられている請求項1に記載のクロスローラ軸受。
【請求項3】
前記外輪の傾斜軌道面の表面粗さRa及び前記内輪の傾斜軌道面の表面粗さRaがそれぞれ0.1μm以上に設けられている請求項2に記載のクロスローラ軸受。
【請求項4】
総ころ形式に設けられている請求項1から3のいずれか1項に記載のクロスローラ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外輪と内輪の間に周方向に交互に傾斜方向が変わるようにローラを組み込んだクロスローラ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
クロスローラ軸受は、外輪の内周面に形成された互いに直交する一対の傾斜軌道面と、内輪の外周面に形成された互いに直交する一対の傾斜軌道面との間に、複数のローラを軸受周方向に交互に傾斜方向が変わるように配したものである(例えば、特許文献1)。
【0003】
一般的なクロスローラ軸受では、内輪と外輪の各傾斜軌道面における表面粗さは同等である。
【0004】
クロスローラ軸受は、大きなラジアル荷重やスラスト荷重、モーメント荷重を支えることが可能なため、産業機械、例えば、特に高い剛性が必要とされるロボット用の減速機等に広く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロボット用減速機に搭載されるクロスローラ軸受には、低トルク性や、安定して使用し続けられる転がり寿命が要求される。
【0007】
しかしながら、クラスローラ軸受では、傾斜軌道面に対して各ローラの端面が滑り接触する摩擦抵抗がある。この摩擦抵抗は、低トルク性を阻害し、また、摩耗の原因となるので、転がり寿命に悪影響を及ぼす。
【0008】
また、ロボット用減速機に備わるクロスローラ軸受は、使用回転速度が遅いため、傾斜軌道面とローラ間の油膜パラメータが小さい希薄潤滑条件下で使用される。ここで、油膜パラメータは、弾性流体潤滑理論によって求められる転動する二面間の最小油膜厚さと、これら二面の二乗平均平方根粗さの二乗和の平方根との比を意味する。
【0009】
油膜パラメータが小さい程、ローラにピーリングが発生する可能性が高まる。ここで、ピーリングは、大きさが10μm程度、深さが数μmから10μm程度の微小はく離が密集した損傷のことをいう。ローラにピーリングが発生することは、転がり寿命を著しく悪化させる原因となる。希薄潤滑条件下で、かつ転動する二面間の表面粗さの差が大きい場合にピーリングが発生しやすいことが知られている。
【0010】
前述の滑り接触による摩擦抵抗の抑制やピーリングの発生を抑制するため、傾斜軌道面の表面粗さを小さくすることが好ましいが、加工性やコストの観点からすると、必要以上に表面粗さを小さくすることは好ましくない。
【0011】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、クロスローラ軸受の過剰な傾斜軌道面の加工を避けつつ、低トルク性及び転がり寿命の悪化原因を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を達成するため、この発明は、互いに直交する一対の傾斜軌道面を内周面に有する外輪と、互いに直交する一対の傾斜軌道面を外周面に有する内輪と、前記外輪の一対の傾斜軌道面と前記内輪の一対の傾斜軌道面との間に、周方向に交互に傾斜方向が変わるように配置された複数のローラとを備えるクロスローラ軸受において、前記外輪の傾斜軌道面の表面粗さRaが前記内輪の傾斜軌道面の表面粗さRaよりも小さく設けられている構成を採用したものである。ここで、表面粗さRaは、JIS B0601:2013(対応ISO4287:1997)で規定された粗さパラメータの算術平均粗さ:Raのことをいう。
【0013】
クロスローラ軸受の運転中に発生するローラの端面と軌道面の滑り接触は、外輪とローラ間で主に発生し、内輪とローラ間では殆ど発生しない。このため、外輪の傾斜軌道面の表面粗さRaを内輪の傾斜軌道面の表面粗さRaよりも小さく設ければ、低トルク性及び転がり寿命を悪化させる原因となる外輪とローラの端面間の摩擦抵抗が低減される一方、内輪の傾斜軌道面の表面粗さを過剰に小さくすることが避けられる。
【0014】
前記外輪の傾斜軌道面の表面粗さRa及び前記内輪の傾斜軌道面の表面粗さRaがそれぞれ0.3μm以下に設けられているとよい。このようにすると、ローラにおけるピーリングの発生を抑制することができる。
【0015】
内外輪の傾斜軌道面の加工コストを抑える観点からは、前記外輪の傾斜軌道面の表面粗さRa及び前記内輪の傾斜軌道面の表面粗さRaがそれぞれ0.1μm以上に設けられていることがより好ましい。
【0016】
総ころ形式に設けられていることが好ましい。このようにすると、特に高剛性のクロスローラ軸受にすることできる。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、上記構成の採用により、クロスローラ軸受の過剰な傾斜軌道面の加工を避けつつ、低トルク性及び転がり寿命の悪化原因を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明の実施形態に係るクロスローラ軸受を示す断面図
【
図2】
図1のII-II線の切断面でクロスローラ軸受の運転中の様子を示す部分断面図
【
図3】
図1の外輪の傾斜軌道面の初期摩耗状態における母線形状の測定例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づき、この発明の一例としての実施形態を説明する。
【0020】
図1に示すこのクロスローラ軸受は、外輪1と、内輪2と、外輪1と内輪2との間に単列に配置された複数のローラ3とを備える。このクロスローラ軸受は、特に、ロボット用の減速機に組み込まれるものを想定している。
【0021】
外輪1は、互いに直交する一対の傾斜軌道面1aを内周面に有する。内輪2は、互いに直交する一対の傾斜軌道面2aを外周面に有する。
【0022】
ローラ3は、円筒ころからなる。
【0023】
外輪1、内輪2及びローラ3は、それぞれ鋼を素材としたものである。その素材は、例えば、軸受鋼である。
【0024】
図1、
図2に示すように、複数のローラ3は、外輪1の一対の傾斜軌道面1aと内輪2の一対の傾斜軌道面2aとの間に、周方向に交互に傾斜方向が変わるように配置されている。
【0025】
このクロスローラ軸受は、総ころ形式に設けられている。ここで、総ころ形式とは、傾斜軌道面1aと2a間に一列に並ぶローラ3間のすきまの和が、ローラ3の直径を超えておらず、隣り合うローラ3間を隔てる軸受部品(保持器、スペーサ等)を備えていないが、軸受として機能するように隣り合うローラ3同士が接触可能に配置されていることを意味する。
【0026】
外輪1の一対の傾斜軌道面1aは、その軸方向断面において、外輪1の内周面の軸方向中央部に形成された逃げ溝1bから軸方向両側へ直線状に延び、そのうちの一方の傾斜軌道面1aがローラ3の転動面と直線的に接触する。同様に、内輪2の一対の傾斜軌道面2aは、その軸方向断面において、内輪2の外周面の軸方向中央部に形成された逃げ溝2bから軸方向両側へ直線状に延び、そのうちの一方の傾斜軌道面2aがローラ3の転動面と直線的に接触する。
【0027】
このクロスローラ軸受の傾斜軌道面1a、2aの表面粗さRaを変更したサンプルにて、一般的な使用条件で評価試験を行った。その評価内容は、触感による回転検査、ピーリング発生有無、および摩耗である。
【0028】
まず、サンプル組み立て後、触感による回転検査を行った。その結果、傾斜軌道面1a、2aの表面粗さRaが小さいものである程、滑らかに回転した。ただし、内輪2の傾斜軌道面2aの表面粗さRaの大小は、触感での回転検査の結果に殆ど影響を及ぼさず、外輪1の傾斜軌道面1aの表面粗さRaの大小は、触感での回転検査の結果に大きな影響を及ぼした。この理由は、運転中、
図2に示すように、ローラ3が外輪1側に寄り、ローラ3の進行方向に覆いかぶさった傾斜軌道面1aに対してローラ3の外輪1側の端面3aが狭い接触領域Pにおいて滑り接触する一方、このとき、ローラ3の内輪2側の端面3aが内輪2の傾斜軌道面2aに殆ど接触しないためである。
【0029】
実際に、摩耗評価試験の外輪1の傾斜軌道面1aの中央部には、
図1に示すように、初期摩耗による接触痕Iwが発生したが、内輪2の傾斜軌道面2aには初期摩耗による接触痕が殆ど発生しなかった。
図3に、摩耗評価試験を行った外輪1の傾斜軌道面1aの母線形状を例示する。
図3から明らかなように、初期摩耗状態の傾斜軌道面1aには、母線形状の中央部近傍にローラ3の端面3aの縁付近との接触による初期摩耗が認められる。なお、
図1では、初期摩耗による接触痕を大幅に誇張して描いている。
【0030】
次に、ピーリング発生有無の評価結果を表1に示す。各サンプルでは、外輪1の傾斜軌道面1a及び内輪2の傾斜軌道面2aを同等の表面粗さRaに仕上げた。サンプル間での傾斜軌道面1a、2aの表面粗さRaの差は、0.05μmに設定した。
【0031】
【0032】
表1の評価結果より、傾斜軌道面1a、2aが粗面である方がローラ3にピーリングが発生し易くなり、傾斜軌道面1a、2aの表面粗さRaを0.3μm以下にすることがピーリング発生を防止することに有効であると考えられる。
【0033】
また、上述の摩耗評価試験で行った触感による回転検査の結果からは、外輪1の傾斜軌道面1aの表面粗さRaを小さくすることは、外輪1とローラ3の端面3a間の接触抵抗を抑制し、ひいてはトルク低減及び摩耗による転がり寿命の悪化を抑制することに特に有効であるが、内輪2の傾斜軌道面2aの表面粗さRaを小さくすることは有効性に乏しいと考えられる。
【0034】
一方、傾斜軌道面1a、2aの表面粗さRaを小さくする程、加工が難しくなり、コストを要することになる。
【0035】
上述の試験結果を踏まえつつ加工面の負担を考慮して、外輪1の傾斜軌道面1aの表面粗さRaは、内輪2の傾斜軌道面2aの表面粗さRaよりも小さく設けられている。
【0036】
また、傾斜軌道面1aの表面粗さRa及び傾斜軌道面2aの表面粗さRaは、それぞれ0.1μm以上、0.3μm以下に設けられている。表1では0.15μm以上における評価結果が記載されているが、加工面のばらつきを考慮して、0.1μm以上とした。
【0037】
このクロスローラ軸受は、上述のように、外輪1の傾斜軌道面1aの表面粗さRaが内輪2の傾斜軌道面2aの表面粗さRaよりも小さく設けられているため、低トルク性及び転がり寿命を悪化させる原因となる外輪1の傾斜軌道面1aとローラ3の端面3a間の滑り接触部での摩擦抵抗が低減される一方、内輪2の傾斜軌道面2aの表面粗さRaを過剰に小さくすることが避けられる。したがって、このクロスローラ軸受は、過剰な傾斜軌道面の加工を避けつつ、低トルク性及び転がり寿命の悪化原因を抑制することができる。
【0038】
また、このクロスローラ軸受は、外輪1の傾斜軌道面1aの表面粗さRa及び内輪2の傾斜軌道面2aの表面粗さRaがそれぞれ0.3μm以下に設けられているため、ローラ3におけるピーリングの発生を抑制することができる。
【0039】
また、このクロスローラ軸受は、外輪1の傾斜軌道面1aの表面粗さRa及び内輪2の傾斜軌道面2aの表面粗さRaがそれぞれ0.1μm以上に設けられているため、前述のローラ3の端面3aと傾斜軌道面1a間の滑り接触部での摩擦抵抗を抑制してトルク低減を図り、この摩擦による摩耗やローラ3でのピーリング発生を抑制して転がり寿命の向上を図りつつも、傾斜軌道面1a、2aの過剰な加工を抑制して提供価格を抑えることもできる。
【0040】
また、このクロスローラ軸受は、総ころ形式に設けられているため、特に高剛性のものとすることができる。総ころ形式は、保持器やスペーサがなく、傾斜軌道面1aと2a間に収容可能な最大数のローラ3が組み込まれているので、隣り合うローラ3同士の接触が生じ、ローラ3の本数が多くなる。このため、総ころ形式のクロスローラ軸受は、使用回転速度が遅く、希薄潤滑条件下になり易い上に、ローラ3の端面3aと傾斜軌道面1aの滑り接触箇所の数も多くなる。上述のように傾斜軌道面1a、2aの表面粗さRaを適正化することにより、低トルク性や転がり寿命の向上を図りつつ、総ころ形式の採用により、軸受の高剛性化を図ることができ、これにより、ロボット用の減速機に特に好適なクロスローラ軸受にすることができる。
【0041】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
1 外輪
1a 傾斜軌道面
2 内輪
2a 傾斜軌道面
3 ローラ
3a 端面