(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055836
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】金属塩凝集剤
(51)【国際特許分類】
B01D 21/01 20060101AFI20220401BHJP
C02F 1/52 20060101ALI20220401BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20220401BHJP
C02F 11/143 20190101ALI20220401BHJP
C02F 1/00 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
B01D21/01 102
C02F1/52 E ZAB
C02F11/00 F
C02F11/143
C02F1/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163496
(22)【出願日】2020-09-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年7月27日 第57回下水道研究発表会講演予稿集 40~42ページにおいて、文書をもって発表。
(71)【出願人】
【識別番号】000227250
【氏名又は名称】日鉄鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】糠谷禎治
(72)【発明者】
【氏名】戸嶋達郎
【テーマコード(参考)】
4D015
4D059
【Fターム(参考)】
4D015BA04
4D015BA11
4D015CA11
4D015DA04
4D015DA16
4D059AA01
4D059AA03
4D059AA23
4D059BE55
4D059BK03
4D059DA16
4D059DA23
(57)【要約】
【課題】
ポリ硫酸第二鉄とポリ塩化アルミニウムを混合して組み合わせることで、それぞれを単独で用いた場合に比較して、より高い保存安定性と凝集能力有し、さらに様々な特徴を有する広範囲の処理排液に対して適用できる、鉄イオンとアルミニウムイオンを含む金属塩凝集剤を提供すること。
【解決手段】
ポリ塩化アルミニウムとポリ硫酸第二鉄を所定の混合比で混合する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1リットル中にアルミニウムと鉄イオンの合計が5.7モル以下であり、モル比で塩素イオンと鉄イオンの比(Cl/Fe)が28以上、硫酸イオンと酸化アルミニウム換算でアルミニウムイオンのモル比(SO4/Al2O3)が0.15以下であることを特徴とする金属塩凝集剤。
【請求項2】
pHが3.7~4.2(100倍希釈溶液)、比重が1.35~1.45であることを特徴とする請求項1の金属塩凝集剤。
【請求項3】
請求項1または2の金属塩凝集剤を含有する凝集剤。
【請求項4】
請求項1または2の金属塩凝集剤を含有する水質改善剤。
【請求項5】
請求項1または2の金属塩凝集剤を含有する消臭剤。
【請求項6】
請求項1または2の金属塩凝集剤を含有する脱水剤。
【請求項7】
請求項1または2の金属塩凝集剤を含有する排水の色度低下剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理に使用される鉄イオンとアルミニウムイオンを含む金属塩凝集剤や各種薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理場やし尿処理場においては、放流水の水質改善、廃棄物量の削減、施設の円滑な運転や長寿命化を目的として、鉄系やアルミニウム系の金属塩凝集剤を被処理水等に対して投入して使用される。鉄系の凝集剤としては、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、硫酸第一鉄溶液が代表的な凝集剤であり、アルミニウム系としては、硫酸バンド、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウムが挙げられる。
【0003】
ポリ硫酸第二鉄は、鉄系の無機凝集剤の代表例の一つで、脱臭および脱リン効果を有することから、下水処理場およびし尿処理において広く使用されている。ポリ硫酸第二鉄は、一般式(〔Fe2(OH)n(SO4)3-n/2 〕m 但し0<n≦2、mは自然数)で示され、鉄系原料である硫酸第一鉄(FeSO4)溶液に対して触媒として亜硝酸ナトリウム及び酸化剤を添加して、酸化反応を進行させる等の方法により得ることが出来る(特許文献1)。
ポリ塩化アルミニウム(通称PAC)は、アルミニウム系の無機凝集剤の代表例の一つで、懸濁質や溶解性有機物の処理性が高く、最適pH範囲が広い、水温の影響を受けがたく、凝集剤添加濃度の節減が可能且つ処理後の水が着色しないことなどから、浄水処理場において広く使用されている。PACは、ある一定の塩基度(=m/3n×100)を有する凝集剤で(特許文献2)、一般式 Aln(OH)mCl3n-m(3n>m)で示され、塩酸または塩化アルミニウム溶液中に水酸化アルミニウムを加え、耐圧反応器内で加温・加圧させた方法によって得ることが出来る(特許文献3、4)。
【0004】
無機凝集剤は、一般的にその主たる無機成分の濃度が高いものが、凝集効果が高くなることから、薬剤使用量の削減をすることが可能となり、且つ輸送面でもメリットがある。
例えば、ポリ硫酸第二鉄についても通常品(全鉄濃度が11.0~12.5%)と比較して高濃度(全鉄濃度が12.5%以上)として含有水分が少なくすることにより、高い凝集能力と脱水性を有し、製品輸送コストを低減することができる。
【0005】
日本国内で製造・販売されている水処理凝集剤用途のポリ塩化アルミニウムは、Al2O3濃度として約10%(重量パーセント)以上のスペックである(以下、通常品)。Al2O3濃度が15%を超えるような高濃度製品は、溶液の安定性の問題より、日本国内では販売されていないが、Al2O3濃度が10%を超えるポリ塩化アルミニウムの高濃度製品に関する発明は既に報告されている(特許文献5、6)。特許文献5では、Al2O3濃度が5~25wt%である高塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法を開示し、特許文献6では、Al2O3濃度が16~25%である塩基性塩化アルミニウムを主体とする高濃度凝集剤を開示している。
【0006】
近年では、鉄系凝集剤とアルミニウム系凝集剤がそれぞれ有する特徴を発揮させるため、両者を混合して、鉄イオンとアルミニウムイオンを含む金属塩凝集剤として使用することが試みられるようになっている(特許文献7、8)。
特許文献7では、Al/Feの重量比が1/30~1/2である無機凝集剤を開示し、特許文献8では、Al/Feのモル比が0.06~1.0である含鉄廃塩酸を利用した凝集剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭51-17516号公報
【特許文献2】特公昭47-21401号公報
【特許文献3】特公昭49-21239号公報
【特許文献4】特開平09―142837号
【特許文献5】特開昭52-111496号公報
【特許文献6】特開2000-70609号公報
【特許文献7】特開昭63-7808号公報
【特許文献8】特開平1-180210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鉄イオンとアルミニウムイオンを含む金属塩凝集剤の使用例としては、還元性の排水に鉄系のポリ硫酸第二鉄を添加すると一部着色する場合があるので、これを防ぐために、塩化アルミニウムや硫酸バンドを配合した凝集剤を使用することが知られている。また、製紙工場等では、主として使用されるアルミニウム系の薬剤に対して、消臭効果を付帯させるために鉄系凝集剤を混合することがある。
しかしながら、その組み合わせによっては、問題が発生することも知られている。
例えば、塩化アルミニウムとポリ硫酸第二鉄の組合せでは、高い凝集効果は得られるものの、腐食性が強く且つ温度の低下によりミョウバンを析出するなどの保存安定性に問題があった。硫酸バンドとポリ硫酸第二鉄の組合せでは、腐食性が弱く、安定性にも優れているが、他の凝集剤に比べて薬剤の添加量が多くなり、経済性に難があった。
また、アルミニウム系で最も高い凝集力を有するポリ塩化アルミニウムに対し、鉄系の塩化第二鉄やポリ硫酸第二鉄を混合した、鉄イオンとアルミニウムイオンを含む金属塩凝集剤の調製がこれまでに試みられてきたが、短期間でゲル化するなど保存安定性が極度に悪く、市販化には至っていない。
更に、鉄イオンとアルミニウムイオンを含む金属塩凝集剤において、陽イオンの多くを鉄イオンが占め、アルミニウムイオンが鉄イオンに対して多量である組成をもった金属塩凝集剤(鉄含有ポリ塩化アルミニウム)の調製は、これまでには報告されていない。
【0009】
本発明は、共に高い凝集能力を有することが知られているポリ硫酸第二鉄とポリ塩化アルミニウムについて、これらを混合して組み合わせることで、それぞれを単独で用いた場合に比較して、より高い凝集能力を有しながら保存安定性にも優れ、さらに様々な特徴を有する広範囲の処理排液に対して適用可能な鉄イオンとアルミニウムイオンを含む金属塩凝集剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの課題を解決するため、本発明の金属塩凝集剤は、次の技術的手段から構成されるものである。
[1]1リットル中にアルミニウムと鉄イオンの合計が5.7モル以下であり、モル比で塩素イオンと鉄イオンの比(Cl/Fe)が28以上、硫酸イオンと酸化アルミニウム換算でアルミニウムイオンのモル比(SO4/Al2O3)が0.15以下であることを特徴とする金属塩凝集剤。
[2]pHが3.7~4.2(100倍希釈溶液)、比重が1.35~1.45であることを特徴とする[1]の金属塩凝集剤。
[3][1]または[2]の金属塩凝集剤を含有する凝集剤。
[4][1]または[2]の金属塩凝集剤を含有する水質改善剤。
[5][1]または[2]の金属塩凝集剤を含有する消臭剤。
[6][1]または[2]の金属塩凝集剤を含有する脱水剤。
[7][1]または[2]の金属塩凝集剤を含有する排水の色度低下剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属塩凝集剤は、高い凝集能力を有することが知られているポリ硫酸第二鉄とポリ塩化アルミニウムを混合して組み合わせることで、高い凝集能力を有しながらも保存安定性に優れ、さらに様々な特徴を有する広範囲の処理排液に対して適用可能な、鉄イオンとアルミニウムイオンを含む金属塩凝集剤を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、下水処理場の処理フロー(実機試験フィールド)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、ポリ塩化アルミニウムに対して、所定量のポリ硫酸第二鉄を添加・混合することで、保存安定性が高く、優れた水処理性能を有する鉄イオンとアルミニウムイオンを含む金属塩凝集剤が得られることを発見した。
一般的に、塩基度の高いポリ塩化アルミニウムに対して、塩基度の低いポリ硫酸第二鉄を配合すると、ポリ塩化アルミニウムはpHが下がることでゲル化反応が進行する。また、ポリ硫酸第二鉄における鉄イオンは、pHが上昇することで水酸化鉄を生成して不溶化する。しかし、本発明の金属塩凝集剤を構成するイオンの量的関係を所定範囲に調整することで、ポリ塩化アルミニウムの安定化に必要な硫酸イオンが補給され、ゲル化が抑制される。また、ポリ硫酸第二鉄の鉄イオンにとっては、アルカリの供給が低下することで安定性の維持が可能となる。
一般的に水処理剤が溶液の状態で安定的に存在できるか否か(保存安定性)は、陽イオン濃度、陽イオンに対する陰イオンのモル比によって決まる例が多い。そこで、Al+Fe[mol/L]、Cl/Fe(モル比)、SO4/Al2O3(モル比)を基準として、安定領域を定めた。なお、Cl/Al2O3とSO4/Feは使用薬剤(ポリ塩化アルミニウムとポリ硫酸第二鉄)で固有の値をとり、両薬剤の混合比を変えてもこれらモル比は変わらないことになるので、ここでは考慮する必要はない。
これにより、ポリ塩化アルミニウムを主成分とし、これにポリ硫酸第二鉄を添加・混合した鉄イオンとアルミニウムイオンを含む金属塩凝集剤を得ることができた。これは、本発明者らが見出した、従来技術にはない新たな知見である。
【0014】
上記したように、ポリ塩化アルミニウムに対して塩化第二鉄やポリ硫酸第二鉄を混合して高性能の凝集剤を製造することは、これまでも試みられてきたが、混合液の保存安定性が悪いため成功に至らなかった。このような長年の課題を、本発明においては陰イオン/陽イオン(モル比)を調整することで解決したが、本発明者らは、次のメカニズムによるものではないかと推測している。
【0015】
すなわち、凝集剤としてのポリ塩化アルミニウムには硫酸イオンが含まれていることが多く、この硫酸イオンはポリ塩化アルミニウムの凝集特性や化学的安定性に寄与していると考えられている。
本発明においては、硫酸イオンの含有量を調整してポリ硫酸第二鉄の形態で硫酸イオンを添加することにより、混合液の化学的安定性が向上するばかりではなく、確認はできていないが、アルミニウムイオンと鉄イオンによって形成される多核錯体(多量体)において、ある特定の多核錯体の存在割合が多くなっているのかもしれず、これが本発明の金属塩凝集剤の水処理特性の向上に寄与しているのではないかと推定している。
実際に、以下に具体的に述べるように、本発明の金属塩凝集剤は、広範囲にわたり顕著な作用効果を有する凝集剤となっている。
【0016】
本発明で使用するポリ塩化アルミニウムは、Al濃度が2~6mol/Lの範囲が好適である。また、ポリ硫酸第二鉄は、Fe濃度が2~4mol/Lの範囲が好適である。
ポリ硫酸第二鉄の添加量が少ないと、鉄含有ポリ塩化アルミニウムの安定性が悪く、良好な凝集能力を発揮することができない。また、当該添加量が多いと、ポリ硫酸第二鉄の加水分解が進行し、副産物として鉄系の殿物が析出してしまうので好ましくない。
本発明で得られる金属塩凝集剤は、pHが3.7~4.2(100倍希釈溶液)、比重が1.35~1.45である。
【0017】
混合して得られた金属塩凝集剤は、凝集剤としてばかりではなく、リン、窒素、CODあるいはSSの除去性能において優れており、消臭、脱水、色度低下、細菌やウイルスの除去、フッ素やTOC除去においても優れた性能を有する。このため、これらの特性を生かして、凝集剤ばかりではなく、様々で広範囲の排水処理剤として使用することができる。
【実施例0018】
(特性評価)
調製した金属塩凝集剤について、次の観点から特性を評価した。
(1)汚泥沈降性(SV値)
1リットルのメスシリンダー内に活性汚泥を充填し、これに評価対象の各薬剤を添加し、所定時間の静置後に固液分離した汚泥高さから、それぞれの薬剤の汚泥沈降性を評価した。ここで、SVnにおけるSVは汚泥量(Sludge volume)、nは静置後の経過時間(分)を表す。
(2)T-P、T-N、COD、SS成分の除去特性
活性汚泥に対して評価対象の各薬剤を添加して1時間静置後の上澄み水について、その水質を検査した。T-Pは全リン量、T-Nは全窒素量、CODは化学的酸素要求量、SSは懸濁物質を表す。これらの成分の残存量[mg/L]から、これらの成分に対する各薬剤の除去特性を評価した。
(3)消臭特性(硫化水素の抑制効果)
生汚泥に対して評価対象の各薬剤を添加して4時間静置し、その上澄み水に含まれる硫化水素濃度(H2S[ppm])を、ガス検知器を用いて測定した。上澄み水に残留する硫化水素濃度が低いほど消臭特性が優れていると評価できる。
(4)脱水
消化汚泥に対して評価対象の各薬剤を添加し、加圧・脱水後のケーキの含水率[%]を測定した。
(5)色度低下
下水処理場の生物反応槽に評価対象の各薬剤を添加し、最終沈殿池における越流水の色度を測定した。
[実施例1]
【0019】
(薬剤の調製と安定性評価)
Al濃度が5.08~5.87mol/Lの濃度が異なるポリ塩化アルミニウムに対して、Fe濃度が2.93mol/L、比重が1.484のポリ硫酸第二鉄をそれぞれの成分のSO4/Al2O3モル比として0.07~0.17の範囲で250mLポリ瓶内で混合・添加し、混合液200gを得た。得られたサンプルを、1g採取し、100mLの純水で希釈して溶液のpHを測定した。残りのサンプルは、比重を測定した後、常温下で1か月間保管して、その保存安定性を評価した。
ポリ塩化アルミニウムとポリ硫酸第二鉄との混合条件をそれぞれの成分モル量(AlおよびFe)で表示し、混合後の本発明の金属塩凝集剤の安定性を表1に示す。
【0020】
【0021】
表1にまとめた実験結果より、1L中にアルミニウムイオンと鉄イオンの合計で5.7モル以下であり、モル比で塩素イオンと鉄イオンの比(Cl/Fe)が28以上、硫酸イオンと酸化アルミニウム換算でアルミニウムイオンのモル比(SO4/Al2O3)が0.15以下の場合に、本発明の金属塩凝集剤は安定的に存在することがわかる。
[実施例2]
【0022】
(汚泥沈降性と各成分の除去特性)
下水処理場よりサンプリングした活性汚泥(TS:0.2%)を1Lメスシリンダーに1,000 mL採取し、ポリ塩化アルミニウム (M3+ 2.5 mol/L)、ポリ硫酸第二鉄 (M3+ 2.9 mol/L)、本発明の金属塩凝集剤(M3+ 5.3 mol/L (Al3+ 5.1 mol/L, Fe3+ 0.2 mol/L), Cl/Fe65, SO4/Al2O30.04) の各薬剤を表2の条件で添加・混合した。10分静置後、30分静置後における汚泥の沈降性(SV10, SV30)を測定した。ここで、M3+とは薬剤中に含まれる3価の金属イオン(即ちAl3+とFe3+)濃度の合計を表す。
さらに、1時間静置後の上澄み水について、残留するT-P、T-N、COD、SSの各成分の量を分析した。各薬剤の添加量は、表2で示す通り、M3+がいずれも等しくなるよう設定した。
試験結果は表2の通り。ここで、TSとは全蒸発残留物(Total solids)の略で、ここでは、固形物としての汚泥量を示す。
【0023】
【0024】
(汚泥沈降性の評価)
活性汚泥に対して各薬剤を添加した結果、本発明の金属塩凝集剤は、ポリ塩化アルミニウムやポリ硫酸第二鉄よりも少ない添加量で、汚泥沈降性(SV値)が最も良好であった。特にSV10の値に注目すると、初期の沈降速度に関してその差が顕著に見られたため、薬剤の即効性に優れていることが理解できる。
本発明の金属塩凝集剤の使用により、処理水の固液分離性が大きく向上することから、凝集を目的としたあらゆる水処理設備(例:凝集槽、生物反応槽、重力濃縮槽など)における利用が可能である。
【0025】
(T-P、T-N、COD、SS成分の除去特性の評価)
本発明の金属塩凝集剤では、ポリ塩化アルミニウムやポリ硫酸第二鉄よりも少ない添加量で、上澄み水からより多くのT-P、T-N、COD、SSの除去を行うことができた。
よって、本発明の金属塩凝集剤の使用により、上記成分の効率的な除去・回収が可能であるため、富栄養化対策や水質改善化に向けた効果が見込まれる。
[実施例3]
【0026】
(消臭・硫化水素抑制)
下水処理場よりサンプリングした生汚泥(TS1.1%)を1Lメスシリンダーに1,000 mL採取し、実施例2で使用したポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄、本発明の金属塩凝集剤の各薬剤を表3の条件で添加・混合した。4時間静置後、上澄み水を300mL三角フラスコに100mL採取・密栓・振とうした後、気相部の硫化水素濃度をガス検知管で測定した。薬剤の添加量は、上記と同様に3価の金属イオン濃度が等しくなるように設定した。
試験結果は、表3の通り。
【0027】
【0028】
(消臭特性の評価)
硫化水素の除去率は、ポリ塩化アルミニウム<本発明の金属塩凝集剤<ポリ硫酸第二鉄の順となった。一般的に、硫化水素の抑制には鉄イオンによる硫黄の固定化が大きく寄与するため、本発明の金属塩凝集剤は、通常のポリ塩化アルミニウムに比べて高い硫化水素抑制効果を示した。
したがって、本発明の金属塩凝集剤は水処理における消臭用途としての使用も可能である。使用例としては、下水処理場、排水処理施設、ポンプ場、送泥施設などが考えられる。
[実施例4]
【0029】
(脱水特性)
下水処理場よりサンプリングした消化汚泥(TS1.3%)を500mLビーカーに300mL採取し、実施例2で使用した各無機凝集剤(ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄、本発明の金属塩凝集剤)と高分子凝集剤(0.3wt%, 170ppm)を表4の条件で添加・混合した。60秒間ろ過後、加圧・脱水し、ケーキ含水率を測定した。薬剤の添加量は、上記と同様に3価の金属イオン濃度が等しくなるように設定した。
試験結果は、表4の通り。
【0030】
【0031】
(脱水特性の評価)
脱水性はポリ塩化アルミニウム<ポリ硫酸第二鉄<本発明の金属塩凝集剤の順に良好であった。本発明の金属塩凝集剤では、薬剤無添加時に比べてケーキの含水率が1.5ポイント低下した。
以上より、本発明の金属塩凝集剤は汚泥含水率の低下を目的とした脱水機への利用も可能であり、最終的に汚泥の運搬や処理費用の削減につながる。
[実施例5]
【0032】
(色度低下特性)
図 1 に示すフローの下水処理場(日平均流入水量:約33,000m3/日、標準活性汚泥法)の生物反応槽末端部に、実施例2で使用したポリ塩化アルミニウム(25mg/L)または本発明の金属塩凝集剤(14mg/L)を1週間連続注入した。薬剤は、ダイヤフラム式定量ポンプを用い、生物反応槽で液中添加した。薬剤の添加量は、上記と同様、3価の金属イオン濃度が等しくなるように設定した。生物反応槽の後段の最終沈殿池より、越流水を定期的にサンプリングし、色度を測定した。
試験結果は、表5の通り。ここで、色度の平均値および最小値は、週平均の値である。
【0033】
【0034】
(色度低下特性の評価)
本発明の金属塩凝集剤では、ポリ塩化アルミニウムよりも少ない添加量で色度低下が顕著に見られた。
したがって、本発明の薬剤は下水の他、上水や中水等の排水への利用も見込まれる。
【0035】
(その他の利点)
色度低下試験における実機試験より、本発明の金属塩凝集剤は、通常のポリ塩化アルミニウムと同設備で薬剤注入が可能であった。また、薬剤の使用量を抑えられるため、ローリーの運搬・受入頻度が減少し、これは必要労務や人件費の削減につながる。