(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055882
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】銅担持カルボキシメチル化セルロース繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 2/28 20060101AFI20220401BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
D01F2/28 Z
A61L9/01 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163571
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】大石 正淳
(72)【発明者】
【氏名】工藤 まどか
(72)【発明者】
【氏名】和才 昌史
【テーマコード(参考)】
4C180
4L035
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA07
4C180AA17
4C180BB03
4C180BB06
4C180BB12
4C180BB14
4C180CC01
4C180CC06
4C180CC16
4C180CC17
4C180EA39X
4C180EB30X
4C180EB30Y
4C180MM10
4L035AA04
4L035JJ04
4L035KK05
(57)【要約】
【課題】繊維製造時の金属製の器具の腐食の問題を低減しながら、高い消臭性を有する金属担持繊維を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】平均繊維径が1μm以上のカルボキシメチル化セルロース繊維の懸濁液に硫酸銅溶液を添加することにより、カルボキシメチル化セルロース繊維に銅を担持させて銅担持カルボキシメチル化セルロース繊維を製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅担持カルボキシメチル化セルロース繊維の製造方法であって、
平均繊維径が1μm以上のカルボキシメチル化セルロース繊維の懸濁液に硫酸銅溶液を添加して、カルボキシメチル化セルロース繊維に銅を担持させる工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記銅を担持させる工程の前に、
水を主とする溶媒下でセルロースをマーセル化剤で処理して、マーセル化セルロースを得る工程、及び
水と有機溶媒との混合溶媒下でマーセル化セルロースをカルボキシメチル化剤と反応させて、カルボキシメチル化セルロース繊維を得る工程、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カルボキシメチル化セルロース繊維を1%(w/v)水分散液とした際のB型粘度(25℃、30rpm)が10~50mPa・sである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
カルボキシメチル化セルロース繊維における無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、0.30以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記銅を担持させる工程において、前記硫酸銅溶液の添加の前に、前記カルボキシメチル化セルロース繊維の懸濁液のpHをpH8~10に調整することをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅を担持したカルボキシメチル化セルロース繊維を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消臭機能を有する繊維に関して、種々の検討が行われている。例えば、天然セルロースなどの親水性高分子の内部にゼオライトなどの無機多孔結晶を含有させ、そこに銀や銅などの金属を担持させた織物、不織布または紙が報告されている(特許文献1)。また、吸収性物品の吸収コアを被覆するコアラップシートとして、表面にカルボキシル基又はカルボキシレート基を有する酸化セルロース繊維にAg、Au、Cuなどから選ばれる1種以上の金属粒子を担持してなる金属担持セルロース繊維を含む薄葉紙を用いたことが報告されている(特許文献2)。
【0003】
また、カルボキシメチル化セルロース繊維に対し、Ag、Au、Cuなどから選ばれる1種以上の金属元素のイオンを含む水溶液を接触させることで金属イオン含有セルロース繊維を得ることも報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4149066号
【特許文献2】特開2015-43940号公報
【特許文献3】特開2019-199518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の繊維は、ゼオライトがセルロース繊維内に物理的に担持されているため、ゼオライトが脱落しやすく、十分に消臭機能が発現しない問題があるとともに、繊維の形状(径、長さ)のコントロールすることができない問題を有する。また、特許文献2に記載の繊維は、消臭機能を有する成分の脱落はなく、その形状をコントロールすることは可能であるが、繊維に残留する薬品が安全性に影響する懸念がある。
【0006】
これらに対し、特許文献3に記載の金属イオン含有セルロース繊維は、消臭性と安全性に優れた繊維である。しかし、特許文献3に記載の該繊維の製造方法では、金属元素のイオンを含む水溶液の種類によっては、製造時に用いる金属製の器具に腐食が生じることがあり、大量生産時に問題が生じるおそれがある。
【0007】
本発明は、特許文献3に記載の繊維の消臭力に匹敵するかそれよりも優れた消臭力を呈する繊維を製造でき、かつ、繊維製造時の金属製の器具の腐食の問題を低減した、金属担持繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、平均繊維径が1μm以上のカルボキシメチル化セルロース繊維の懸濁液に硫酸銅溶液を添加することによって、銅をカルボキシメチル化セルロース繊維に担持させることにより、消臭性が高められた銅担持カルボキシメチル化セルロース繊維を製造することができることを見出した。この銅担持カルボキシメチル化セルロース繊維は、消臭性が高いだけではなく、抗菌性、抗ウイルス性、及び抗アレルゲン性も有していることを見出した。また、この製造方法では、製造時に用いる金属製の器具の腐食が生じないことを見出し、本発明に至った。本発明は、以下を含む。
[1]銅担持カルボキシメチル化セルロース繊維の製造方法であって、
平均繊維径が1μm以上のカルボキシメチル化セルロース繊維の懸濁液に硫酸銅溶液を添加して、カルボキシメチル化セルロース繊維に銅を担持させる工程を含む、前記方法。
[2]前記銅を担持させる工程の前に、
水を主とする溶媒下でセルロースをマーセル化剤で処理して、マーセル化セルロースを得る工程、及び
水と有機溶媒との混合溶媒下でマーセル化セルロースをカルボキシメチル化剤と反応させて、カルボキシメチル化セルロース繊維を得る工程、
をさらに含む、[1]に記載の方法。
[3]前記カルボキシメチル化セルロース繊維を1%(w/v)水分散液とした際のB型粘度(25℃、30rpm)が10~50mPa・sである、[1]または[2]に記載の方法。
[4]カルボキシメチル化セルロース繊維における無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、0.30以上である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5]前記銅を担持させる工程において、前記硫酸銅溶液の添加の前に、前記カルボキシメチル化セルロース繊維の懸濁液のpHをpH8~10に調整することをさらに含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、消臭性が高いだけではなく、抗菌、抗ウイルス、抗アレルゲン機能を有する、銅担持カルボキシメチル化セルロース繊維を提供することができる。また、本発明の製造方法は、製造時に用いる金属製の器具を腐食しにくいという利点も有する。本発明の方法により製造される銅担持カルボキシメチル化セルロース繊維は、例えば、紙、不織布、フィルム、各種樹脂などに配合することにより、上記の効果を有する各種製品を製造することができる。本発明の銅担持カルボキシメチル化セルロース繊維は、例えば、マスク、ウェットまたはドライのワイプ用シートなどの衛生材料や、紙、不織布などの日用品、各種化粧品に配合して上記効果を付与するのに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<カルボキシメチル化セルロース繊維>
カルボキシメチル化セルロース繊維(以下、「カルボキシメチル」を「CM」と略すことがある。)は、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基の一部がCM基とエーテル結合した構造を有する繊維である。CM化セルロースは、塩の形態をとっていてもよい。CM化セルロースの塩としては、例えばCM化セルロースのナトリウム塩などの金属塩などが挙げられる。
【0011】
本発明に用いるCM化セルロース繊維は、平均繊維径が1μm以上の繊維である。パルプ由来のセルロースを原料とし、平均繊維径が1μm以上であるCM化セルロース繊維をCM化パルプと呼ぶことがある。
【0012】
CM化セルロース繊維の平均繊維径の上限は特に限定されない。通常100μm程度である。したがって、CM化セルロース繊維の平均繊維径は、好ましくは1~100μmであり、さらに好ましくは10~100μmであり、さらに好ましくは30~90μmである。CM化パルプの平均繊維長は、特に限定されないが、通常0.1~10mm程度である。CM化パルプの平均繊維径及び平均繊維長は、光学顕微鏡やマイクロスコープ等を用い、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより、測定することができる。
【0013】
CM化セルロース繊維は、高圧ホモジナイザーのような解繊装置を用いることにより、平均繊維径が1μm未満の繊維(セルロースナノファイバー(CNF))と呼ばれることがある)とすることもできるが、本発明ではCM化セルロース繊維として、CNFではなく、平均繊維径が1μm以上の繊維を用いる。CM化セルロース繊維として平均繊維径が1μm以上の繊維を用いることにより、各種製品に配合しやすい銅担持CM化セルロース繊維を製造することができる。また、平均繊維径を1μm以上とすると、製造時や輸送時のコストを低減することができ、また、銅担持CM化セルロース繊維としたときの歩留まりもよい。
【0014】
<CM化セルロース繊維の原料>
CM化セルロース繊維は、一般に、セルロースをアルカリで処理(マーセル化)した後、得られたマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を、CM化剤(エーテル化剤ともいう。)と反応させることにより製造することができる。本発明に用いるCM化セルロース繊維を製造するためのセルロース原料の種類は、特に限定されない。セルロースは、D-グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」ともいう。)がβ-1,4結合で連なった構造の多糖であり、一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類されるが、本発明では、これらのセルロースのいずれも、CM化セルロース繊維の原料として用いることができる。
【0015】
天然セルロースとしては、晒パルプ又は未晒パルプ;リンター、精製リンター;酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等が例示される。晒パルプ又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹、麻、ジュート、ケナフ等が挙げられる。また、晒パルプ又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、例えば、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合せた方法が挙げられる。製造方法により分類される晒パルプ又は未晒パルプとしては、例えば、メカニカルパルプ(サーモメカニカルパルプ(TMP)、砕木パルプ)、ケミカルパルプ(針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)等の亜硫酸パルプ;針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)等のクラフトパルプ)等が挙げられる。さらに、製紙用パルプの他に溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプは、化学的に精製されたパルプであり、主として薬品に溶解して使用され、人造繊維、セロハンなどの主原料となる。
【0016】
再生セルロースとしては、セルロースを銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体など何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸されたものが例示される。微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロース等のセルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等)して得られるものや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるものが例示される。
【0017】
<CM化セルロース繊維の製法>
CM化セルロース繊維は、上述の通り、一般に、上記のようなセルロース原料をアルカリで処理(マーセル化)した後、得られたマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を、CM化剤(エーテル化剤ともいう。)と反応させること(CM化)により製造することができる。一般には、マーセル化及びCM化の両方を水を溶媒として行う方法(水媒法)と、マーセル化及びCM化の両方を有機溶媒下又は有機溶媒と水との混合溶媒下で行う方法(溶媒法)が用いられる。
【0018】
本発明に用いるCM化セルロース繊維としては、通常の水媒法または溶媒法で製造したものを用いてもよい。しかし、以下に記載するようなマーセル化を水を主とする溶媒下で行い、その後、CM化を水と有機溶媒との混合溶媒下で行う方法を用いて製造されたCM化セルロース繊維は、本発明にしたがって銅を担持させた際により高い効果を示すため、好ましい。
【0019】
マーセル化を水を主とする溶媒下で行うとは、マーセル化の際に用いる溶媒を、水を50質量%より高い割合で含む溶媒とすることをいう。水を主とする溶媒中の水の割合は、好ましくは55質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。最も好ましくは水を主とする溶媒は、水が100質量%(すなわち、水)である。水を主とする溶媒中の水以外の(水と混合して用いることができる)溶媒としては、後段のCM化の際の溶媒として用いられる有機溶媒が挙げられる。例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの単独または2種以上の混合物を水に50質量%未満の量で添加して用いることができる。水を主とする溶媒中の有機溶媒は、好ましくは45質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。
【0020】
マーセル化剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が挙げられ、これらのいずれか1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。マーセル化剤は、これに限定されないが、これらのアルカリ金属水酸化物を、例えば、1~60質量%、好ましくは2~45質量%、より好ましくは3~25質量%の水溶液として反応器に添加することができる。マーセル化剤の使用量は、一実施形態において、セルロース100g(絶乾)に対して0.1モル以上2.5モル以下であることが好ましく、0.3モル以上2.0モル以下であることがより好ましく、0.4モル以上1.5モル以下であることがさらに好ましい。
【0021】
マーセル化の際の水を主とする溶媒の量は、原料の撹拌混合が可能な量であればよく特に限定されないが、セルロース原料に対し、1.5~20質量倍が好ましく、2~10質量倍であることがより好ましい。
【0022】
マーセル化処理は、セルロース原料と水を主とする溶媒とを混合し、反応器の温度を0~70℃、好ましくは10~60℃、より好ましくは10~40℃に調整して、マーセル化剤の水溶液を添加し、15分~8時間、好ましくは30分~7時間、より好ましくは30分~3時間撹拌することにより行う。これによりマーセル化セルロース(アルカリセルロース)を得る。
【0023】
マーセル化の際のpHは、9以上が好ましく、これによりマーセル化反応を進めることができる。該pHは、より好ましくは11以上であり、更に好ましくは12以上であり、13以上でもよい。pHの上限は特に限定されない。
【0024】
マーセル化は、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することができる反応機を用いて行うことができ、従来からマーセル化反応に用いられている各種の反応機を用いることができる。例えば、2本の軸で撹拌し、上記各成分を混合するようなバッチ型撹拌装置は、均一混合性と生産性の両観点から好ましい。
【0025】
マーセル化セルロースに対し、CM化剤(エーテル化剤ともいう。)を添加することにより、CM化セルロース繊維を得る。CM化剤としては、モノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、モノクロロ酢酸メチル、モノクロロ酢酸エチル、モノクロロ酢酸イソプロピルなどが挙げられる。これらのうち、入手しやすさという点でモノクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸ナトリウムが好ましい。CM化剤は、セルロースの無水グルコース単位当たり、0.5~1.5モルの範囲で添加することが好ましい。上記範囲の下限はより好ましくは0.6モル以上、さらに好ましくは0.7モル以上であり、上限はより好ましくは1.3モル以下、さらに好ましくは1.1モル以下である。CM化剤は、これに限定されないが、例えば、5~80質量%、より好ましくは30~60質量%の水溶液として反応器に添加することができるし、溶解せず、粉末状態で添加することもできる。
【0026】
マーセル化剤とCM化剤のモル比(マーセル化剤/CM化剤)は、カルボキシメチル化剤としてモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムを使用する場合では、0.9~2.45が一般的に採用される。その理由は、0.9未満であるとCM化反応が不十分となる可能性があり、未反応のモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムが残って無駄が生じる可能性があること、及び2.45を超えると過剰のマーセル化剤とモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムによる副反応が進行してグリコール酸アルカリ金属塩が生成する恐れがあるため、不経済となる可能性があることにある。CM化反応におけるマーセル化セルロースの濃度は、特に限定されないが、CM化剤の有効利用率を高める観点から、1~40%(w/v)であることが好ましい。
【0027】
CM化剤を添加するのと同時に、あるいはCM化剤の添加の前または直後に、反応器に有機溶媒または有機溶媒の水溶液を適宜添加し、又は減圧などによりマーセル化処理時の水以外の有機溶媒等を適宜削減して、水と有機溶媒との混合溶媒を形成することができる。上述の通り、CM化反応の際には、溶媒として、水と有機溶媒との混合溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒の添加または削減のタイミングは、マーセル化反応の終了後からCM化剤を添加した直後までの間であればよく、特に限定されないが、例えば、CM化剤を添加する前後30分以内が好ましい。
【0028】
CM化反応時の混合溶媒中に用いられる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの単独または2種以上の混合物と水との混合物をCM化の際の溶媒として用いることが好ましい。これらの有機溶媒の中では、水との相溶性に優れることから、炭素数1~4の一価アルコールが好ましく、炭素数1~3の一価アルコールがさらに好ましい。
【0029】
CM化の際の混合溶媒中の有機溶媒の割合は、水と有機溶媒との総和に対して有機溶媒が20~99質量%であることが好ましく、30~99質量%であることがより好ましく、40~99質量%であることがさらに好ましく、45~99質量%であることがさらに好ましく、50~99質量%であることがさらに好ましい。
【0030】
CM化の際の反応媒(セルロースを含まない、水と有機溶媒等との混合溶媒)は、マーセル化の際の反応媒よりも、水の割合が少ない(言い換えれば、有機溶媒の割合が多い)ことが好ましい。本範囲を満たすことで、得られるCM化セルロース繊維のCM置換度を高くしながら結晶化度も高めに維持することができるようになる。また、CM化の際の反応媒が、マーセル化の際の反応媒よりも水の割合が少ない(有機溶媒の割合が多い)場合、マーセル化反応からCM化反応に移行する際に、マーセル化反応終了後の反応系に所望の量の有機溶媒を添加するという簡便な手段でCM化反応用の混合溶媒を形成させることができるという利点も得られる。
【0031】
水と有機溶媒との混合溶媒を形成し、マーセル化セルロースにCM化剤を投入した後、温度を好ましくは10~40℃の範囲で一定に保ったまま15分~4時間、好ましくは15分~1時間程度撹拌する。マーセル化セルロースを含む液とCM化剤との混合は、反応混合物が高温になることを防止するために、複数回に分けて、または、滴下により行うことが好ましい。CM化剤を投入して一定時間撹拌した後、必要であれば昇温して、反応温度を30~90℃、好ましくは40~90℃、さらに好ましくは60~80℃として、30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化(CM化)反応を行い、CM化セルロース繊維を得る。
【0032】
CM化の際には、マーセル化の際に用いた反応器をそのまま用いてもよく、あるいは、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することが可能な別の反応器を用いてもよい。
反応終了後、残存するアルカリ金属塩を鉱酸または有機酸で中和してもよい。また、必要に応じて、副生する無機塩、有機酸塩等を含水メタノールで洗浄して除去し、乾燥、粉砕、分級してもよい。乾式粉砕で用いる装置としてはハンマーミル、ピンミル等の衝撃式ミル、ボールミル、タワーミル等の媒体ミル、ジェットミル等が例示される。湿式粉砕で用いる装置としてはホモジナイザー、マスコロイダー、パールミル等の装置が例示される。
【0033】
<CM化セルロース繊維のカルボキシメチル置換度>
CM置換度(エーテル化度ともいう。)とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基のうちCMエーテル基に置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのCMエーテル基の数)を示す。なお、CM置換度はDSと略すことがある。
【0034】
CM化セルロース繊維のCM置換度は、担持させる銅の効果を発揮させる観点から、0.01以上が好ましく、0.05以上がさらに好ましく、0.10以上がさらに好ましく、0.20以上がさらに好ましく、0.30以上が特に好ましい。また、繊維としての形状を維持させる観点からは、0.60以下が好ましく、0.50以下が好ましく、0.40以下がさらに好ましい。CM置換度は、反応させるCM化剤の量、マーセル化剤の量、水と有機溶媒の組成比率をコントロールすること等によって調整することができる。特に、繊維としての形状を維持しながらCM置換度が0.30以上となるCM化セルロース繊維は、例えば、上述した製法(マーセル化時に水を主とする溶媒を用い、CM化時に水と有機溶媒との混合溶媒を用いる方法)により得ることができる。
【0035】
CM置換度の測定方法は以下の通りである:
試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振盪して、CM化セルロースの塩(CMC)をH-CMC(水素型CM化セルロース)に変換する。その絶乾H-CMCを1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLでH-CMCを湿潤し、0.1N-NaOHを100mL加え、室温で3時間振盪する。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N-H2SO4で過剰のNaOHを逆滴定し、次式によってCM置換度(DS値)を算出する。
A=[(100×F’-0.1N-H2SO4(mL)×F)×0.1]/(H-CMCの絶乾質量(g))
CM置換度=0.162×A/(1-0.058×A)
F’:0.1N-H2SO4のファクター
F:0.1N-NaOHのファクター。
【0036】
<CM化セルロース繊維の粘度>
本発明に用いるCM化セルロース繊維におけるセルロースの粘度は、1%(w/v)水分散液とした際のB型粘度(25℃、30rpm)の数値が10~50mPa・sであることが好ましく、16~40mPa・sであることがさらに好ましい。粘度が著しく低い、もしくは著しく高いと、紙やフィルムへの内添、もしくは外添(塗工し)て使用する場合の加工適性が劣化し、また、塗工が可能な装置に制限が発生することがある。CM化セルロース繊維のB型粘度の測定は、BL型粘度計(東機産業社製)を用いて、25℃、30rpmの条件で1号ローターを用いて測定することができる。
【0037】
<CM化セルロース繊維の結晶化度>
本発明に用いるCM化セルロース繊維におけるセルロースの結晶化度は、結晶I型が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。セルロースの結晶性は、マーセル化剤の濃度と処理時の温度、並びにCM化の度合によって制御することができる。マーセル化及びCM化においては高濃度のアルカリが使用されるために、セルロースのI型結晶がII型に変換されやすいが、アルカリ(マーセル化剤)の使用量を調整するなどにより変性の度合いを調整することによって、所望の結晶性を維持させることができる。セルロースI型の結晶化度の上限は特に限定されない。現実的には90%程度が上限となると考えられる。
【0038】
一般に、CM置換度が高いと、繊維の溶解性が高くなり、結晶化度が下がることが知られているが、例えば上述した製法(マーセル化時に水を主とする溶媒を用い、CM化時に水と有機溶媒との混合溶媒を用いる方法)を用いることにより、CM置換度が高くまた結晶I型の割合も高いCM化セルロース繊維を製造することができる。
【0039】
CM化セルロース繊維のセルロースI型の結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10゜~30゜の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6゜の002面の回折強度と2θ=18.5゜のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する:
Xc=(I002c―Ia)/I002c×100
Xc=セルロースI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6゜、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5゜、アモルファス部分の回折強度。
【0040】
本発明に用いられるCM化セルロース繊維は、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されることが好ましい。すなわち、CM化セルロース繊維の水分散体を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができ、CM化セルロース繊維をX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができることが好ましい。
【0041】
<銅担持CM化セルロース繊維>
本発明の銅担持CM化セルロース繊維の製造方法では、上記CM化セルロース繊維に対し、硫酸銅溶液を接触させることにより、CM化セルロース繊維に銅を担持させる。CM化セルロース繊維中のCM基由来のカルボキシル基(-COOH)は、水溶液中でカルボキシレート基(-COO-)となり、銅イオンと結合する。CM化セルロース繊維のCM基由来のカルボキシレート基のカウンターイオンは特に限定されない。硫酸銅溶液からの銅イオンはこのカウンターイオンと置換してカルボキシレート基とイオン結合する。
【0042】
本発明では、CM化セルロース繊維に銅を担持させるために、硫酸銅溶液をCM化セルロース繊維と接触させる。硫酸銅溶液は好ましくは硫酸銅水溶液である。銅担持の際に、硫酸銅溶液を用いることにより、金属製の器具の腐食が抑えられるという利点が得られる。
【0043】
硫酸銅溶液を接触させる方法としては、予め調製したCM化セルロース繊維の懸濁液と硫酸銅溶液とを混合してもよいし、また、CM化セルロース繊維を含む懸濁液を基材の上に塗布して膜とし、当該膜に硫酸銅溶液を添加して含浸させてもよい。このとき、膜は基板上に固定されたままであってもよいし、基板から剥離された状態であってもよい。
【0044】
硫酸銅溶液の濃度は特に限定されることはなく、所望の効果が得られるように適宜調整してよい。好ましくは、絶乾1gのCM化セルロース繊維に対して、0.50~2.50mmolの硫酸銅となるような濃度であり、さらに好ましくは絶乾1gのCM化セルロース繊維に対して1.00~2.00mmolの硫酸銅となるような濃度である。一般的には、硫酸銅溶液の濃度が高いほど、CM化セルロース繊維に担持される銅の量が高くなる傾向がある。
【0045】
硫酸銅溶液とCM化セルロース繊維とを接触させる時間は適宜調整してよい。例えば、3分~3時間、好ましくは20分~1時間であってもよいが、これらに限定されない。接触の際には、上記の接触時間にわたり、撹拌を継続することが好ましい。接触させる際の温度は特に限定されないが15~40℃が好ましい。
【0046】
接触時のCM化セルロース繊維の懸濁液のpHは特に限定されないが、pHが低いと、CM基由来のカルボキシル基に銅イオンが結合しにくくなるため、pH6~12が好ましく、pH7~11がさらに好ましく、pH8~10が特に好ましい。
【0047】
接触時のCM化セルロース繊維の懸濁液の固形分濃度(CM化セルロース繊維の濃度)は特に限定されないが、撹拌の効率を考えると、10.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がさらに好ましく、3.0質量%以下がさらに好ましい。一方、繊維の固形分濃度が低いと得られる銅担持セルロース繊維の生産量が少なくなるため、製造の効率の観点からは、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましい。
【0048】
CM化セルロース繊維が銅(銅イオンまたは銅粒子)を担持していることは、走査型電子顕微鏡像及び/又は強酸による抽出液のICP発光分析で確認できる。銅イオンは走査型電子顕微鏡像のみでは存在を確認できないが、走査型電子顕微鏡像と元素マッピングを組み合わせることにより、あるいはICP発光分析を用いることにより確認することができる。また、銅イオンが還元されて銅粒子として存在している場合は、走査型電子顕微鏡像または透過型電子顕微鏡像でも銅粒子を確認することができる。
【0049】
銅イオン又は銅粒子は、CM化セルロース繊維のすべてのCM基に結合している必要はなく、一部のCM基に結合していればよい。銅イオン又は銅粒子が結合していないCM基も、臭い成分であるアンモニア等を中和するなどにより、消臭機能に寄与すると考えられる。
【0050】
本発明により得られる銅担持CM化セルロース繊維の銅(銅イオン及び銅粒子)の含有量は、CM化セルロース繊維に対して、40mg/g以上であることが好ましい。この量を担持させることにより、消臭効果が高まり、また、抗菌性、抗ウイルス性、及び抗アレルゲン性も発現するようになる。上記含有量は高いほど一般には上記効果が高まるので、好ましくは45mg/g以上であり、さらに好ましくは48mg/g以上であり、さらに好ましくは50mg/g以上である。上記含有量の上限は特に限定されない。通常、含有量が60mg/g程度で効果が最大化すると思われるので、含有量の上限は70mg/g以下程度でよいと考えられる。
【0051】
なお、銅担持CM化セルロース繊維に担持された銅イオンまたは銅粒子の含有量は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
<銅担持CM化セルロース繊維を含有する製品>
本発明のにより得られる銅担持CM化セルロース繊維は、消臭性が高いだけではなく、抗菌、抗ウイルス、抗アレルゲン機能を有しており、例えば、紙、不織布、フィルム、各種樹脂などに配合することにより、上記の効果を有する各種製品を製造することができる。本発明の銅担持CM化セルロース繊維を含有する製品としては、特に限定されないが、マスク、ウェットまたはドライのワイプ用シートなどの衛生材料、日用品、各種化粧品などが挙げられる。
【0052】
製品の形状は、特に限定されないが、加工のしやすさや、消臭等の効果が発揮しやすい点から、薄膜状、薄板状、フィルム状、織布又は不織布状などの、シート状の形状であることが好ましい。シート状の製品としては、例えば、これらに限定されないが、上述したマスクや、ワイプ用のウェットシートまたはドライシートなどが挙げられる。
【0053】
銅担持CM化セルロース繊維の製品への配合量は、用途や目的によって適宜調整可能であり、例えば、最大で60%程度まで配合することが可能である。銅担持CM化セルロース繊維の銅の担持量が多い場合、少量の配合でも製品に効果を付与することができるので、10質量%以下の配合量であってもよく、5質量%以下の配合量であってもよく、2質量%以下の配合量であってもよい。製品への配合量が少ないと、製品のコストアップを抑制することができ、また、製品が元々有する物性(強度、耐久性、色味など)をできる限り維持しながら製品を製造することができるという利点が得られる。製品への配合量の下限は、効果の十分な発現を考慮すると、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。
【実施例0054】
[実施例1]
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、水130部と、水酸化ナトリウム20部を水100部に溶解したものとを加え、広葉樹パルプ(日本製紙社製、LBKP)を100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつイソプロパノール(IPA)230部と、モノクロロ酢酸ナトリウム60部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間CM化反応をさせた。CM化反応時の反応媒中のIPAの濃度は、50%である。反応終了後、pH7になるまで酢酸で中和、含水メタノールで洗浄、脱液、乾燥、粉砕して、CM置換度が0.34、セルロースI型の結晶化度が70%、1%(w/v)水分散液とした際のB型粘度(BL型粘度計(東機産業社製)、25℃、30rpm)が38mPa・sのCM化セルロース繊維を得た。また、銅イオンを含む水溶液として、硫酸銅5水和物(富士フイルム和光純薬社製)を水に溶解した10%硫酸銅水溶液を調製した。
【0055】
温度を25℃に調整し、500~600rpmで攪拌している1000gの水中に、10gの上記CM化セルロース繊維(固形分92.7%)を少量ずつ添加した。次に1gのCM化セルロース繊維に対して1.00mmolに相当する硫酸銅となるように、送液ポンプを使用して10%硫酸銅水溶液を添加した。添加終了後、30分間攪拌を継続した後に、サンプリングした。
【0056】
[実施例2]
添加終了後60分間撹拌を継続した後にサンプリングした以外は、実施例1と同様に処理した。
【0057】
[実施例3]
添加終了後120分間撹拌を継続した後にサンプリングした以外は、実施例1と同様に処理した。
【0058】
[実施例4]
温度25℃、撹拌速度500~600rpmの1000gの水中に10gのCM化セルロース繊維を少量ずつ添加した後、10%硫酸銅水溶液を添加する前に、25%NaOH溶液を少量添加してpHを9.0に調整した以外は、実施例1と同様に処理した。
【0059】
[実施例5]
添加終了後60分間撹拌を継続した後にサンプリングした以外は、実施例4と同様に処理した。
【0060】
[実施例6]
添加終了後120分間撹拌を継続した後にサンプリングした以外は、実施例4と同様に処理した。
【0061】
[実施例7]
1gのCM化セルロース繊維に対して1.87mmolに相当する硫酸銅となるように10%硫酸銅水溶液を添加した以外は、実施例4と同様に処理した。
【0062】
[実施例8]
添加終了後60分間撹拌を継続した後にサンプリングした以外は、実施例7と同様に処理した。
【0063】
[実施例9]
添加終了後120分間撹拌を継続した後にサンプリングした以外は、実施例7と同様に処理した。
【0064】
[実施例10]
温度25℃、500~600rpmで攪拌した1000gの水中に、20gのCM化セルロース繊維を少量ずつ添加した以外は、実施例7と同様に処理した。
【0065】
[比較例1]
10%硫酸銅水溶液を添加しなかった以外は、実施例1と同様に処理した。
[比較例2]
パルプを混ぜることが出来る撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙社製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で111g加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算)添加した。30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、CM置換度が0.25、セルロースI型の結晶化度が69%、1%(w/v)水分散液とした際のB型粘度が15mPa・sのCM化セルロース繊維を得た。また、銅イオンを含む水溶液として、塩化銅5水和物(富士フイルム和光純薬社製)を水に溶解した10%塩化銅水溶液を調製した。
【0066】
温度25℃、500~600rpmで攪拌した1000gの水中に、10gの上記CM化セルロース繊維(固形分94.3%)を少量ずつ添加した。次いで、25%NaOH溶液を少量添加してpHを8.5に調整した。次に1gのCM化セルロース繊維に対して1.00mmolに相当する塩化銅となるように、送液ポンプを使用して10%塩化銅水溶液を添加した。添加終了後、15分間攪拌を継続した後に、サンプリングした。
【0067】
[比較例3]
10%硫酸銅水溶液を10%塩化銅水溶液に変更した以外は、実施例1と同様に処理した。
【0068】
[比較例4]
CM化セルロース繊維に代えて、広葉樹晒クラフトパルプ(日本製紙社製、LBKP、平均繊維長1.3mm、濾水度:450ml)を使用した以外は、実施例1と同様に処理した。
【0069】
[比較例5]
比較例2で得られた銅担持CM化セルロース繊維を、140MPaの高圧ホモジナイザーで3回処理し、平均繊維径が3.2nm、1%(w/v)水分散液とした際のB型粘度(BL型粘度計(東機産業社製)、25℃、30rpm)が1400mPa・sの銅担持CM化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
【0070】
[比較例6]
実施例1で得られた銅担持CM化セルロース繊維を、140MPaの高圧ホモジナイザーで3回処理し、平均繊維径が3.1nm、1%(w/v)水分散液とした際のB型粘度(BL型粘度計(東機産業社製)、25℃、30rpm)が2900mPa・sの銅担持CM化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
【0071】
[洗浄、脱水、及び乾燥]
得られた実施例1~10、及び比較例1~6の各サンプルを、3倍量の水を用いて洗浄し、遠心脱水機で脱水した。回収したケーキの一部を105℃で2時間乾燥した。
【0072】
[銅含有量の測定]
乾燥試料約0.1gを50mLビーカーにとった。濃硝酸(微量金属定量用)を別のビーカーに移し替えてからホールピペットで10mL取り、試料の入ったビーカーに入れ30分間静置した。得られたサンプル液をシリンジフィルターに通して繊維分を除去し、ろ過したサンプル液1mLをマイクロピペットで取り、49mLの超純水に加えて撹拌した(50倍希釈)。ICP-OES(島津製作所社製:ICPE-9000)を用いて液中の銅含有量を測定し(単位:ppm)、以下の式より1gのCM化セルロース繊維中の銅含有量を求めた:
Cu担持量(mg/g)=(Cu量(ppm)×50×10mL)/パルプ量(g)/1000
[シートの製造]
JIS P 8222に基づいて、以下の手順により、坪量が100g/m2程度の手抄きシートを製造した。広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、日本製紙社製)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、日本製紙社製)を8:2の質量比で混合し、シングルディスクリファイナー(SDR)を用いてカナダ標準濾水度を420mlに調整して得たパルプに、実施例1~10および比較例1~6の各サンプルからの乾燥試料を配合して(配合割合は、固形分の質量比で、パルプ:乾燥試料=99:1)、水を加えて固形分濃度0.5~0.8%の懸濁液とし、この懸濁液を用いて、シートを製造した。
【0073】
[消臭試験]
製造したシート(坪量:約100g/m2)を用いて、消臭特性を評価した。消臭試験に供するシートの大きさは100cm2(10cm×10cm)とした。消臭試験は、SEKマーク繊維製品認証基準(JEC301、繊維評価技術協議会)の方法に基づいて実施し、排泄臭や生ゴミ臭に該当する硫化水素を対象とした。
【0074】
臭気減少率(%)は、以下の式から算出し、70%以上を合格(〇)、70%未満を不合格(×)とした。結果として、実施例1~10のサンプルにおいて合格となることが確認された。
臭気減少率 (%)= (Sb - Sm) / Sb ×100
Sb:空試験の平均値
Sm:測定の平均値
[抗菌試験]
製造したシートを用いて抗菌特性を評価した。抗菌試験に供するシートの重さは0.4gとした。基準として、標準綿布を用いた。抗菌試験は、JIS L 1902に定める菌液吸収法(試験接種菌液を直接試験片上に接種する定量試験方法)にて実施した。試験菌種として黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC 12732)と大腸菌(Escherichia coli NBRC 3301)の2種類を使用し、18時間培養後の生菌数を混釈平板培養法にて測定した。試験手順を以下に示す。
1.試験片(上記シート)0.4gをバイアル瓶に入れ、試験菌液0.2ml(0.05%の界面活性剤(Tween80)を含む)を滴下後、バイアル瓶のふたをする。
2.バイアル瓶を37℃で18時間培養する。
3.洗い出し液20mlを加えて試験片から試験菌を洗い出し、洗い出し液中の生菌数を混釈平板培養法又は発光測定法により測定する。
4.下記の式に従い抗菌活性値を算出する。抗菌活性値が2.0以上とは、菌の死滅率が99%以上であることを意味する。
【0075】
抗菌活性値 = {log(対照試料の培養後生菌数) - log(対照試料の接種直後生菌数)} - {log(試験試料の培養後生菌数) - log(試験試料の接種直後生菌数)}
上記の式から、抗菌活性値が2.0以上を合格(〇)、2.0未満を不合格(×)とした。
【0076】
[抗ウイルス試験]
抗ウイルス試験は、JIS L 1922:2016 繊維製品の抗ウイルス性試験方法にて実施した。試験に供したシートの重さは0.4gとし、対照試料には標準綿布を用いた。試験ウイルス種としてネコカリシウイルス(Feline calicivirus;Strain:F-9 ATCC VR-782)を使用した。試験手順を以下に示す。
1.試験片(上記シート)0.4gをバイアル瓶に入れ、試験ウイルス液0.2mlを滴下後、バイアル瓶のふたをする。
2.バイアル瓶を25℃で2時間静置する。
3.洗い出し液20mlを加えて試験片からウイルスを洗い出し、プラーク測定法により感染価を算出する。
4.次の式によって抗ウイルス活性値(Mv)を計算する。なお、JISでは、Mv≧2.0で抗ウイルス効果が有り、Mv≧3.0で十分な抗ウイルス効果があると定められている。
抗ウイルス活性値(Mv) = Log(Vb)-Log(Vc)
Mv:抗ウイルス活性値
Log(Vb): 対照試料の2時間作用後の感染価常用対数(3検体の平均値)
Log(Vc): 抗ウイルス試料の2時間作用後の感染価常用対数(3検体の平均値)
上記の式から、抗ウイルス活性値(Mv)が2.0以上を合格(〇)、2.0未満を不合格(×)とした。
【0077】
[抗アレルゲン試験]
製造したシート(坪量:約100g/m2)を用いて、抗アレルゲン特性を評価した。評価の手順は以下の通りである。
【0078】
0.05%tween20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に、100ng/mLになるように精製Cry j1(生化学バイオビジネス社製)を溶解し、供試液を調製した。室温条件下、15mlプラスチックチューブの中に0.2gの試験片(上記シート)
を入れ、供試液1mlを接触させた。1時間静置後、試験片を指で搾って供試液を抽出し、10000×gで3分間遠心させ、上清中のアレルゲン濃度(Cry j1濃度)をサンドイッチELISA法で測定した。比較対照として供試液のみも測定を行った。
【0079】
アレルゲン濃度(Cry j1濃度)は、サンドイッチELISA法により、下記の条件で測定した。
・1検体につきn=2(2 well)
・測定機器:MULTISKAN FC(Thermo)
・測定波長:405nm
失活除去率(%)は以下の式より算出した。比較例1(銅添加なし)を対照として失活除去率を算出した。
「失活除去率(%)」=[1-(試験サンプルのアレルゲン残存量)/(対照サンプルのアレルゲン残存量)]×100
上記の式から、スギ花粉アレルゲン(Cry j1)の失活除去率が75%以上を合格(○)、75%未満を不合格(×)とした。
【0080】
[腐食性]
使用した金属製の実験器具(薬さじなど)を目視で確認し、変色や腐食がなければ合格(〇)、変色や腐食が確認された場合は不合格(×)とした。
【0081】
[結果]
上記の各試験の結果を表1に示す。硫酸銅溶液を用いてCM化パルプに銅を担持させた実施例1~10では、実験器具の腐食がみられず、また、得られた銅担持CM化繊維は、消臭性、抗菌性、抗ウイルス性、抗アレルゲン性が高かった。一方、塩化銅溶液を用いた比較例2及び3では、実験器具の腐食がみられた。
【0082】
CM化セルロース繊維への銅の担持の際には、前処理でpHを9.0に調整すること、添加する硫酸銅溶液の濃度を増加させること、また、硫酸銅溶液を添加した後の撹拌時間(接触時間)を増加させることで、銅の担持量を増加させることができることがわかった。
【0083】
本発明の銅担持CM化セルロース繊維の製造方法は、製造時に用いる金属製の器具の腐食を抑えながら、高い消臭性、抗菌性、抗ウイルス性、抗アレルゲン性を有する繊維を製造することができる。得られた銅担持CM化セルロース繊維は、上記の各種性能を有することから、紙や不織布、フィルム、樹脂などの素材に配合して、衛生材料を製造するのに好適である。