(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055886
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】炭素膜とその製造方法および成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/511 20060101AFI20220401BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20220401BHJP
C23C 16/26 20060101ALI20220401BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20220401BHJP
【FI】
C23C16/511
H05H1/46 B
C23C16/26
C01B32/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163577
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】笹井 建典
(72)【発明者】
【氏名】豊田 浩孝
【テーマコード(参考)】
2G084
4G146
4K030
【Fターム(参考)】
2G084AA04
2G084AA05
2G084BB11
2G084CC14
2G084CC33
2G084DD04
2G084DD20
2G084DD38
2G084DD44
2G084DD61
4G146AA01
4G146AB07
4G146AD30
4G146BA12
4G146BC09
4G146BC16
4G146BC23
4G146DA16
4G146DA23
4G146DA46
4K030AA09
4K030AA16
4K030BA27
4K030CA04
4K030CA12
4K030EA04
4K030FA01
4K030GA02
4K030JA05
4K030JA09
4K030JA11
4K030JA16
4K030JA17
4K030KA20
4K030KA23
4K030KA30
4K030KA46
(57)【要約】
【課題】 高い導電性を備える炭素膜とその製造方法および成膜装置を提供することである。
【解決手段】 成膜装置1000は、減圧可能なプラズマ生成室1250と、プラズマ生成室1250の内部に少なくとも原料ガスを供給するガス供給部1300と、プラズマ生成室1250の内部にマイクロ波を導入して原料ガスをプラズマ化するスロットアンテナ1230と、プラズマ生成室1250の内部に配置された基材載置部1400と、基材載置部1400に負のバイアスを印加するバイアス印加部1500と、を有する。バイアス印加部1500は、第1期間T1に第1バイアスを基材載置部1400に印加する。第1バイアスは、電圧の変化量が絶対値で1500V/μs以上10000V/μs以下であるピークを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧可能なプラズマ生成室と、
前記プラズマ生成室の内部に少なくとも原料ガスを供給するガス供給部と、
前記プラズマ生成室の内部にマイクロ波を導入して前記原料ガスをプラズマ化するスロットアンテナと、
前記プラズマ生成室の内部に配置された基材載置部と、
前記基材載置部に負のバイアスを一定間隔で繰り返し印加するバイアス印加部と、
を有し、
前記バイアス印加部は、
第1期間に第1バイアスを前記基材載置部に印加し、
前記第1バイアスは、
絶対値で1500V以上であるピークを有すること
を含む成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置において、
前記バイアス印加部は、
前記第1期間の直後の第2期間に第2バイアスを前記基材載置部に印加し、
前記第2期間の前後における前記第2バイアスの変化量は、
20%以下であること
を含む成膜装置。
【請求項3】
請求項2に記載の成膜装置において、
前記第2バイアスは、
-5000V以上-1500V以下であること
を含む成膜装置。
【請求項4】
プラズマ生成室の基材載置部に導電性基材または半導体基材を載置し、
前記プラズマ生成室の内部にベンゼンと希ガスとを含む原料ガスを供給し、
スロットアンテナにより前記プラズマ生成室の内部にマイクロ波を導入して前記原料ガスをプラズマ化し、
前記基材載置部に負のバイアスを一定間隔で繰り返し印加し、
第1期間では、
第1バイアスを前記基材載置部に印加し、
前記第1バイアスは、
絶対値で1500V以上であるピークを有すること
を含む炭素膜の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の炭素膜の製造方法において、
前記第1期間の直後の第2期間に第2バイアスを前記基材載置部に印加し、
前記第2期間の前後における前記第2バイアスの変化量は、
20%以下であること
を含む炭素膜の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の炭素膜の製造方法において、
前記第2バイアスは、
-5000V以上-1500V以下であること
を含む炭素膜の製造方法。
【請求項7】
導電性基材と、
前記導電性基材の上の炭素膜と、
を有し、
前記炭素膜は、
導電性であり、
前記炭素膜に含まれる水素原子の数が、
1cm3 あたり1.5×1022個以下であること
を含む炭素膜。
【請求項8】
請求項7に記載の炭素膜において、
体積抵抗が、
3×10-3Ω・cm以上1×10-2Ω・cm以下であること
を含む炭素膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、炭素膜とその製造方法および成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ技術は、電気、化学、材料の各分野に応用されている。プラズマは、電子、陽イオンの他に、化学反応性の高いラジカルや紫外線を発生させる。ラジカルは、例えば、成膜や半導体のエッチングに用いられる。紫外線は、例えば、殺菌に用いられる。このように豊富なプラズマ生成物が、プラズマ技術の応用分野の裾野を広げている。
【0003】
プラズマ技術は、成膜技術にも応用されている。例えば、特許文献1には、マイクロ波からプラズマを発生させる成膜装置が開示されている。スロットアンテナを用いてマイクロ波をプラズマ生成室に導入し、誘電体の箇所からプラズマを発生させる技術が開示されている(特許文献1の段落[0039])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基材の上に膜を成膜する場合には、必ずしも所望の性質の膜が成膜されるとは限らない。例えば、炭素膜を成膜する場合、導電性の炭素膜が成膜されるか、ダイヤモンド様の炭素膜が成膜されるか、それ以外の有機膜が成膜されるかについては予め予想することは困難である。
【0006】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、高い導電性を備える炭素膜とその製造方法および成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様における成膜装置は、減圧可能なプラズマ生成室と、プラズマ生成室の内部に少なくとも原料ガスを供給するガス供給部と、プラズマ生成室の内部にマイクロ波を導入して原料ガスをプラズマ化するスロットアンテナと、プラズマ生成室の内部に配置された基材載置部と、基材載置部に負のバイアスを一定間隔で繰り返し印加するバイアス印加部と、を有する。バイアス印加部は、第1期間に第1バイアスを基材載置部に印加する。第1バイアスは、絶対値で1500V以上であるピークを有する。
【0008】
この成膜装置は、基材載置部に強いバイアスを印加することができる。このため、基材の上に導電性を備える炭素膜を成膜することができる。
【発明の効果】
【0009】
本明細書では、高い導電性を備える炭素膜とその製造方法および成膜装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態の成膜装置1000の概略構成図である。
【
図2】第1の実施形態の成膜装置1000のバイアス印加部1500が基材載置部1400に印加するバイアスを示すグラフである。
【
図3】第1の実施形態の成膜装置1000の第1期間T1におけるバイアスの時間変化を示すグラフである。
【
図4】第1の実施形態の炭素膜体100の概略構成図である。
【
図5】バイアス印加部が基材載置部に印加するバイアスを示すグラフである。
【
図6】バイアス印加部が基材載置部にバイアスを印加したときに基材載置部に流れる電流を示すグラフである。
【
図7】バイアス印加部が基材載置部にバイアスを印加したときの電圧および電流を示すグラフである。
【
図8】第1の実施形態のバイアス印加部が印加するバイアスとパルスDCのバイアスとを比較するグラフである。
【
図9】炭素膜の断面を示す走査型顕微鏡写真(SEM画像)である。
【
図10】炭素膜の上面から視た走査型電子顕微鏡写真(SEM画像)である。
【
図12】印加するバイアスと炭素膜の表面抵抗との間の関係を示すグラフである。
【
図13】印加するバイアスと炭素膜の体積抵抗との間の関係を示すグラフである。
【
図14】印加するバイアスと炭素膜の成膜速度との間の関係を示すグラフである。
【
図15】印加するバイアスと炭素膜の水素濃度との間の関係を示すグラフである。
【
図16】炭素膜の表面抵抗を製造方法に応じて比較するグラフである。
【
図17】炭素膜の成膜速度を製造方法に応じて比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、具体的な実施形態について、炭素膜とその製造方法および成膜装置を例に挙げて図を参照しつつ説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
1.成膜装置
1-1.成膜装置の概略構成
図1は、第1の実施形態の成膜装置1000の概略構成図である。
図1に示すように、成膜装置1000は、減圧容器1100と、プラズマ発生部1200と、ガス供給部1300と、基材載置部1400と、バイアス印加部1500と、排気部1600と、を有する。
【0013】
減圧容器1100は、基材載置部1400を内部に収容している。成膜時における減圧容器1100の内圧は、例えば、0.1Pa以上100Pa以下である。
【0014】
プラズマ発生部1200は、減圧容器1100の内部にプラズマを発生させる。プラズマ発生部1200は、マイクロ波発生部1210と、導波管1220と、スロットアンテナ1230と、石英窓1240と、プラズマ生成室1250と、を有する。マイクロ波発生部1210はマイクロ波を発生させるためのものである。導波管1220はマイクロ波を伝播させるためのものである。スロットアンテナ1230は石英窓1240を介してプラズマ生成室1250の内部にマイクロ波を導入して原料ガスをプラズマ化する。石英窓1240は誘電体である。プラズマ生成室1250は、プラズマを発生させて成膜をするための部屋である。プラズマ生成室1250は、減圧容器1100の内部に位置しており、減圧可能である。プラズマ生成室1250は基材載置部1400を収容している。
【0015】
ガス供給部1300は減圧容器1100のプラズマ生成室1250の内部に原料ガスを供給するためのものである。原料ガスはベンゼンと希ガスとを含有する。希ガスは、He、Ne、Ar、Kr、Xe、Rn等のいずれであってもよいが、Arであると好ましい。ガス供給部1300は、プラズマ生成室1250に原料ガスを供給する。
【0016】
基材載置部1400は導電性基材を載置するためのものである。基材載置部1400は、バイアス印加部1500により負のバイアスを印加できるようになっている。基材載置部1400は金属製である。基材載置部1400は、減圧容器1100のプラズマ生成室1250の内部に配置されている。
【0017】
バイアス印加部1500は基材載置部1400に負のバイアスを一定間隔で繰り返し印加するためのものである。詳細については後述する。
【0018】
排気部1600は、減圧容器1100の内部のガスを排気するためのものである。排気部1600は、真空ポンプと接続されているとよい。排気部1600は、プラズマ生成室1250からガスを排気する。
【0019】
1-2.成膜装置の動作
マイクロ波発生部1210がマイクロ波を発生させる。マイクロ波の周波数は、例えば、2.45GHzである。マイクロ波は導波管1220を伝播する。マイクロ波はスロットアンテナ1230に進入し、定在波を生成する。定在波は、スロットアンテナ1230および石英窓1240を介してプラズマ生成室1250に進入する。定在波は、プラズマ生成室1250の内部のガスを電離させて、石英窓1240の周囲のプラズマ発生領域PG1にプラズマを発生させる。
【0020】
一方、ガス供給部1300は、プラズマ生成室1250の内部に原料ガスを供給する。原料ガスは、例えば、ベンゼンと希ガスとを含有する。ベンゼンは、プラズマ生成室1250の内部のプラズマにより電離され、炭素原子を含む陽イオンとなる。炭素原子を含む陽イオンは、バイアス印加部1500が印加する負のバイアスにより加速されて、基材載置部1400に向けて移動する。炭素原子を含む陽イオンは基材載置部1400の上の基材に衝突する。炭化水素系の陽イオンが基材に次々に衝突することにより、基材の上に炭素膜が成膜される。
【0021】
2.バイアス印加部
図2は、第1の実施形態の成膜装置1000のバイアス印加部1500が基材載置部1400に印加するバイアスを示すグラフである。バイアス印加部1500は負のバイアスを基材載置部1400に印加する。バイアス印加部1500は、例えば、IGBT、コンデンサーを有する。
【0022】
バイアス印加部1500が印加する負のバイアスは、次の第1期間T1、第2期間T2、第3期間T3、第4期間T4を有する。第2期間T2は第1期間T1の直後の期間である。第3期間T3は第2期間T2の直後の期間である。第4期間T4は第3期間T3の直後の期間である。第4期間T4の経過の後、再び第1期間T1が存在する。
【0023】
このため、バイアス印加部1500は、第1期間T1に第1バイアスを基材載置部1400に印加し、第2期間T2に第2バイアスを基材載置部1400に印加し、第3期間T3に第3バイアスを基材載置部1400に印加し、第4期間T4に第4バイアスを基材載置部1400に印加する。
【0024】
2-1.第1期間
図3は、第1の実施形態の成膜装置1000の第1期間T1におけるバイアスの時間変化を示すグラフである。第1期間T1においては負のバイアスは複数のピーク値を有する。ピーク値の絶対値は、例えば、2kV以上5kV以下である。第1期間T1は非常に短い。第1期間T1の長さは、例えば、5μs以上50μs以下である。第1期間T1は10μs程度であるとよい。
【0025】
第1バイアスは、絶対値で1500V以上10000V以下であるピークを有する。第1バイアスは、電圧の変化量が絶対値で1500V/μs以上10000V/μs以下であるピークを有する。好ましくは、絶対値で2000V/μs以上8000V/μs以下である。第1バイアスにおいては、バイアスの入力の開始からピーク値をとるまでの時間が、例えば、0.1μs以上3μs以下である。この場合には、バイアスの立ち上がり開始からピーク値までの経過時間が0.1μs以上3μs以下である。好ましくは、0.2μs以上2μs以下である。このように、第1バイアスは非常に短い時間内に電位が急激に変化する。
【0026】
図3に示すように、第1期間T1においては、バイアスは減衰振動しながら一定の電圧に収束する。この収束する電圧値が、設定値Vsである。減衰振動する振動回数は、例えば、2回以上10回以下である。
【0027】
第1期間T1内に基材載置部1400に流れる電流の絶対値の最大値が、3A以上である。第1期間T1内に基材載置部1400に流れる電流の絶対値の最大値は、50A以下であってもよい。また、場合によっては15A以下である。また、第1期間T1においては、正の電流が流れる期間と負の電流が流れる期間とが存在する。
【0028】
2-2.第2期間
バイアス印加部1500は、第1期間T1の直後の第2期間T2に第2バイアスを基材載置部1400に印加する。第2期間T2においては、バイアスは設定値Vsに近い値をとる。つまり、第2期間T2では、バイアスの値はほぼ一定である。第2期間T2の前後における第2バイアスの変化量は、20%以下である。好ましくは10%以下である。第2バイアスは、-5000V以上-1500V以下である。好ましくは、-4000V以上-1800V以下である。第2期間T2の長さは、例えば、0.05秒以上0.5秒以下である。
【0029】
2-3.第3期間
第3期間T3においてはバイアスはゼロに単調に近づく。つまり、第3期間T3では、バイアスの絶対値は単調減少する。第3期間T3の長さは、例えば、0.5秒以上3秒以下である。
【0030】
2-4.第4期間
第4期間T4においては、バイアスはゼロである。つまり、第4期間T4では、バイアスは一定値をとる。第4期間T4の長さは、例えば、0秒以上2秒以下である。
【0031】
3.炭素膜
図4は、第1の実施形態の炭素膜体100の概略構成図である。炭素膜体100は、基材S1と、炭素膜CF1と、を有する。基材S1は、導電性基材である。基材S1は、例えば、導電性基板または半導体基板である。炭素膜体100には、基材S1の一方の面の上に炭素膜CF1が形成されている。
【0032】
炭素膜CF1は、グラファイト様の物質である。すなわち、炭素膜CF1は導電性を備えている。炭素膜CF1の表面抵抗は、80Ω/□以上100Ω/□以下である。炭素膜CF1の体積抵抗は、3×10-3Ω・cm以上1×10-2Ω・cm以下である。炭素膜CF1の膜厚は特に限定されないが、例えば、100nm以上10μm以下である。
【0033】
炭素膜CF1に含まれる水素原子の数が、1cm3 あたり0.3×1022個以上1.5×1022個以下である。
【0034】
4.炭素膜の製造方法
まずは、基材S1を成膜装置1000の基材載置部1400の上に載置する。次に、プラズマ生成室1250の内部を減圧する。そのためにプラズマ生成室1250を真空引きすればよい。プラズマ生成室1250の内圧が成膜条件となったところで原料ガスをプラズマ生成室1250の内部に供給するとともにプラズマ発生部1200がプラズマを発生させる。成膜条件の内圧とは、例えば、0.1Pa以上100Pa以下である。原料ガスは、ベンゼンと希ガスとを含有する。
【0035】
具体的には、マイクロ波発生部1210はマイクロ波を発生させて、導波管1220にマイクロ波を伝播させる。マイクロ波はスロットアンテナ1230および石英窓1240を介してプラズマ生成室1250の内部に導入される。プラズマ生成室1250に導入されたマイクロ波は原料ガスを電離させる。このため、石英窓1240の近傍のプラズマ発生領域PG1にプラズマが発生する。このようにして原料ガスをプラズマ化する。
【0036】
プラズマは原料ガスに起因する。このため、減圧容器1100の内部のプラズマは、ベンゼンに起因する炭化水素系の陽イオンを含んでいる。
【0037】
そして、バイアス印加部1500は基材載置部1400に負のバイアスを一定間隔で繰り返し印加する。これにより、炭化水素系の陽イオンが基材S1に向かって加速され、その炭化水素系の陽イオンが基材S1に衝突する。これにより、基材S1の上に炭素膜CF1が成膜される。
【0038】
5.第1の実施形態の効果
5-1.成膜装置
第1の実施形態の成膜装置1000は、通常のパルスDCに比べて大きいバイアスを基材載置部1400に印加する。また、非常に短い時間の間に電圧が変化する。これにより、炭化水素系の陽イオンが基材載置部1400上の基材S1に強く加速される。このため、比較的高い運動エネルギーを持った炭化水素系の陽イオンが基材S1に衝突する。高い運動エネルギーを有する炭化水素系の陽イオンが炭素膜CF1を形成する。
【0039】
5-2.炭素膜
第1の実施形態の炭素膜の製造方法により製造される炭素膜CF1は、グラファイト様の膜である。そのため、炭素膜CF1は導電性を備えている。
【0040】
6.変形例
6-1.炭素膜
第1の実施形態の炭素膜体100は、基材S1の片面に炭素膜CF1を有する。しかし、炭素膜体は基材S1の両面に炭素膜CF1を有していてもよい。
【0041】
6-2.第4期間
バイアスの第4期間T4は無くてもよい。
【0042】
6-3.温度調整部
成膜装置1000は、基材載置部1400を加熱または冷却する温度調整部を有していてもよい。
【0043】
6-4.組み合わせ
上記の変形例を自由に組み合わせてもよい。
【0044】
(実験)
1.バイアス
1-1.電圧
図5は、バイアス印加部が基材載置部に印加するバイアスを示すグラフである。
図5の横軸は時刻である。
図5の縦軸は電圧である。
図5に示すように、バイアスの入力とともに非常に強い負の電位が基材載置部に付与され、その後ほぼ一定の電位をとり、そして、減衰する。
図5中の500V、1000V、1500V、1950Vの表記はバイアスの設定値である。また、バイアスの設定値の絶対値が大きくなるほど、バイアスの絶対値も大きい。
【0045】
1-2.電流
図6は、バイアス印加部が基材載置部にバイアスを印加したときに基材載置部に流れる電流を示すグラフである。
図6の横軸は時刻である。
図6の縦軸は電流である。
図6に示すように、バイアスに応じて電流値は大きくなる。このため、
図6の電流は
図5のバイアスと同様の傾向を示している。
【0046】
1-3.初期の振る舞い
図7は、バイアス印加部が基材載置部にバイアスを印加したときの電圧および電流を示すグラフである。
図7の横軸は時刻である。
図7の縦軸は電圧または電流である。
図7は、バイアスを印加した直後の初期を拡大した図である。つまり、
図7は、第1のバイアスを印加した10μsという短い時間における電圧および電流の振る舞いを示している。
【0047】
図7に示すように、バイアスの入力時から1μs程度という短い期間に電圧が-3.5kV程度まで大きく変化する。その後、電圧は小刻みな振動を繰り返しながら-2kV程度に収束していく。
【0048】
一方、バイアスの入力直後に-15A程度の大きな電流が流れる。そして、バイアスの時間変化とともに電流値も振動する。しかし、電流の振動の周期は電圧の振動の周期の2倍程度であり、電圧の振動の周期および電流の振動の周期は必ずしも一致しない。また、5A程度の大きな逆方向電流が流れる。
【0049】
1-4.従来のバイアスとの比較
図8は、第1の実施形態のバイアス印加部が印加するバイアスとパルスDCのバイアスとを比較するグラフである。
図8の横軸は時刻である。
図8の縦軸は電圧である。
【0050】
図8に示すように、第1の実施形態のバイアスは入力直後10μsの間に-3.5kV程度まで大きく変化しているのに対し、パルスDCのバイアスは入力直後10μsの間に-0.6kV程度しか変化していない。また、第1の実施形態のバイアスは20μs程度の周期で電圧が2kV以上変化している時間帯を有するのに対し、パルスDCのバイアスはそれほど変化しない。
【0051】
2.炭素膜
2-1.炭素膜の成膜
成膜装置の内部にベンゼンおよびアルゴンガスを供給しながらシリコン基板の上に炭素膜を成膜した。ベンゼンの流量は50sccmであった。アルゴンガスの流量は65sccmであった。成膜装置の減圧容器の内圧は13Paであった。マイクロ波発生部の電力は1.3kWであった。そして、基材載置部に印加するバイアスを変化させて炭素膜の性質を調べた。
【0052】
2-2.炭素膜のSEM観察
図9は、炭素膜の断面を示す走査型顕微鏡写真(SEM画像)である。
図10は、炭素膜の上面から視た走査型電子顕微鏡写真(SEM画像)である。
図9および
図10に示すように、シリコン基板の上に炭素膜が平坦かつ一様に形成されている。炭素膜の膜厚は、約5μm程度である。
【0053】
2-3.炭素膜のX線観察
図11は、炭素膜のX線回折チャートである。
図11の横軸は2θである。
図11の縦軸はX線の強度である。ここで、印加したバイアスの設定値は1950Vであった。また、縦線はグラファイトのピークを示している。
図11に示すように、炭素膜のX線回折チャートはグラファイトのピークと精度よく対応している。したがって、この製造方法により得られた炭素膜はグラファイトに近い炭素膜の性質を備えていると考えられる。
【0054】
2-4.炭素膜の表面抵抗
図12は、印加するバイアスと炭素膜の表面抵抗との間の関係を示すグラフである。
図12の横軸は印加するバイアスの設定値の絶対値である。
図12の縦軸は炭素膜の表面抵抗(Ω/□)である。
【0055】
図12に示すように、バイアスの設定値の絶対値が大きいほど、炭素膜の表面抵抗は小さくなり、バイアスの設定値の絶対値が1.5kV以上で炭素膜の表面抵抗は1×10
2 Ω/□程度になる。
【0056】
測定値を表1にまとめる。バイアスの設定値の絶対値は、第2バイアスの設定値Vsである。このため、実際には、設定値Vsよりも絶対値の大きい負のバイアスが基材載置部に瞬間的に印加されている。
【0057】
[表1]
バイアスの設定値 表面抵抗
絶対値(V) (Ω/□)
1150 1.6E+07
1350 1.7E+03
1500 9.7E+01
1750 8.5E+01
1950 8.7E+01
【0058】
2-5.炭素膜の体積抵抗
図13は、印加するバイアスと炭素膜の体積抵抗との間の関係を示すグラフである。
図13の横軸は印加するバイアスの設定値の絶対値である。
図13の縦軸は炭素膜の体積抵抗(Ω・cm)である。
【0059】
図13に示すように、バイアスの設定値の絶対値が大きいほど、炭素膜の体積抵抗は小さくなり、バイアスの設定値の絶対値が1.5kV以上で炭素膜の体積抵抗は1×10
-2Ω・cm以下になる。
【0060】
測定値を表2にまとめる。バイアスの設定値の絶対値は、第2バイアスの設定値Vsである。このため、実際には、設定値Vsよりも絶対値の大きい負のバイアスが基材載置部に瞬間的に印加されている。
【0061】
[表2]
バイアスの設定値 体積抵抗
絶対値(V) (Ω・cm)
500 1.0E+04
1000 7.9E+03
1150 1.1E+03
1350 9.5E-02
1500 5.2E-03
1750 4.5E-03
1950 4.2E-03
【0062】
2-6.炭素膜の成膜速度
図14は、印加するバイアスと炭素膜の成膜速度との間の関係を示すグラフである。
図14の横軸は印加するバイアスの設定値の絶対値である。
図14の縦軸は炭素膜の成膜速度(nm/s)である。
【0063】
図14に示すように、バイアスの設定値の絶対値が大きいほど、炭素膜の成膜速度は遅くなり、バイアスの設定値の絶対値が1500V程度より大きいと成膜速度は一定値をとる。
【0064】
2-7.炭素膜の水素濃度
図15は、印加するバイアスと炭素膜の水素濃度との間の関係を示すグラフである。
図15の横軸は印加するバイアスの設定値の絶対値である。
図15の縦軸は炭素膜における水素の含有量である。
【0065】
図15に示すように、バイアスの設定値の絶対値が大きいほど、炭素膜に占める水素原子の数は少なくなり、バイアスの設定値の絶対値が1500V以上で炭素膜に占める水素原子の数は一定値をとる。バイアスの設定値の絶対値が1500V以上の場合には、炭素膜CF1に含まれる水素原子の数が、1cm
3 あたり0.3×10
22個以上1.5×10
22個以下である。
【0066】
2-8.パルスDCとの比較
図16は、炭素膜の表面抵抗を製造方法に応じて比較するグラフである。
図16の横軸は印加するバイアスの設定値の絶対値である。
図16の縦軸は炭素膜の表面抵抗(Ω/□)である。
【0067】
図16に示すように、パルスDC型のバイアスを印加する場合には、導電性を有する炭素膜を成膜することはできない。一方、第1の実施形態のバイアスを印加する場合には、導電性を有する炭素膜を成膜することができる。
【0068】
図17は、炭素膜の成膜速度を製造方法に応じて比較するグラフである。
図17の横軸は印加するバイアスの設定値の絶対値である。
図17の縦軸は炭素膜の成膜速度(nm/s)である。
図17に示すように、印加するバイアスが同程度の場合には、成膜速度も同程度である。
【0069】
3.実験のまとめ
第1の実施形態のバイアスを印加する場合には、基材の上に平坦かつ一様な炭素膜が成膜される。第1の実施形態のバイアス印加部は10μsという短い時間に非常に高い電圧を印加する。これにより、基材の上に炭素膜を成膜することができる。この炭素膜はグラファイト様であり、高い導電性を備えている。
【0070】
(付記)
第1の態様における成膜装置は、減圧可能なプラズマ生成室と、プラズマ生成室の内部に少なくとも原料ガスを供給するガス供給部と、プラズマ生成室の内部にマイクロ波を導入して原料ガスをプラズマ化するスロットアンテナと、プラズマ生成室の内部に配置された基材載置部と、基材載置部に負のバイアスを一定間隔で繰り返し印加するバイアス印加部と、を有する。バイアス印加部は、第1期間に第1バイアスを基材載置部に印加する。第1バイアスは、絶対値で1500V以上であるピークを有する。
【0071】
第2の態様における成膜装置においては、バイアス印加部は、第1期間の直後の第2期間に第2バイアスを基材載置部に印加する。第2期間の前後における第2バイアスの変化量は、20%以下である。
【0072】
第3の態様における成膜装置においては、第2バイアスは、-5000V以上-1500V以下である。
【0073】
第4の態様における炭素膜の製造方法においては、プラズマ生成室の基材載置部に導電性基材または半導体基材を載置し、プラズマ生成室の内部にベンゼンと希ガスとを含む原料ガスを供給し、スロットアンテナによりプラズマ生成室の内部にマイクロ波を導入して原料ガスをプラズマ化し、基材載置部に負のバイアスを一定間隔で繰り返し印加する。第1期間では、第1バイアスを基材載置部に印加する。第1バイアスは、絶対値で1500V以上であるピークを有する。
【0074】
第5の態様における炭素膜の製造方法においては、第1期間の直後の第2期間に第2バイアスを基材載置部に印加する。第2期間の前後における第2バイアスの変化量は、20%以下である。
【0075】
第6の態様における炭素膜の製造方法においては、第2バイアスは、-5000V以上-1500V以下である。
【0076】
第7の態様における炭素膜は、導電性基材と、導電性基材の上の炭素膜と、を有する。炭素膜は、導電性である。炭素膜に含まれる水素原子の数が、1cm3 あたり1.5×1022個以下である。
【0077】
第8の態様における炭素膜においては、体積抵抗が、3×10-3Ω・cm以上1×10-2Ω・cm以下である。
【符号の説明】
【0078】
1000…成膜装置
1100…減圧容器
1200…プラズマ発生部
1210…マイクロ波発生部
1220…導波管
1230…スロットアンテナ
1240…石英窓
1250…プラズマ生成室
1300…ガス供給部
1400…基材載置部
1500…バイアス印加部
100…炭素膜体
S1…基材
CF1…炭素膜