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特開2022-55898消火具、消火具敷設方法、及び消火システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055898
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】消火具、消火具敷設方法、及び消火システム
(51)【国際特許分類】
   A62C 35/10 20060101AFI20220401BHJP
   H02G 9/06 20060101ALI20220401BHJP
   H02G 1/06 20060101ALI20220401BHJP
   H02G 1/08 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
A62C35/10
H02G9/06
H02G1/06
H02G1/08 060
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163594
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】593027716
【氏名又は名称】株式会社エステック
(71)【出願人】
【識別番号】503064969
【氏名又は名称】株式会社ニチボウ
(71)【出願人】
【識別番号】593126019
【氏名又は名称】高木綱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椙島 正樹
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇人
(72)【発明者】
【氏名】松尾 竜
(72)【発明者】
【氏名】甲賀 裕一
(72)【発明者】
【氏名】高木 敏光
【テーマコード(参考)】
2E189
5G352
5G369
【Fターム(参考)】
2E189BB01
2E189BC03
5G352CE02
5G352CE03
5G352CG01
5G352CK07
5G352DA04
5G369AA04
5G369BA04
5G369BB03
5G369CB05
5G369DC20
(57)【要約】
【課題】長距離に亘る収容施設への引き入れ敷設を可能とする消火具を提供すること。
【解決手段】収納施設内に引き入れにより敷設される消火具であって、外部からの熱により自身の外皮を破裂させて、自身の内部に充填された消火剤を放出する消火チューブ11と、消火チューブ11の周囲を巻回被覆する第1被覆材12と、第1被覆材12の外側に配設され、消火チューブ11と並行に延在する牽引用ロープ13と、消火チューブ11、第1被覆材12、及び牽引用ロープ13を一体的に保持するように、消火チューブ11、第1被覆材12、及び牽引用ロープ13の周囲を巻回被覆する第2被覆材14と、を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
収納施設内に引き入れにより敷設される消火具であって、
外部からの熱により自身の外皮を破裂させて、自身の内部に充填された消火剤を放出する消火チューブと、
前記消火チューブの周囲を巻回被覆する第1被覆材と、
前記第1被覆材の外側に配設され、前記消火チューブと並行に延在する牽引用ロープと、
前記消火チューブ、前記第1被覆材、及び前記牽引用ロープを一体的に保持するように、前記消火チューブ、前記第1被覆材、及び前記牽引用ロープの周囲を巻回被覆する第2被覆材と、
を備える消火具。
【請求項2】
前記第1被覆材及び前記第2被覆材は、それぞれ、互いに巻回方向が異なる少なくとも2本の糸により網目状に形成されている、
請求項1に記載の消火具。
【請求項3】
複数本の前記消火チューブを備え、
前記第1被覆材は、複数本の前記消火チューブを一体的に保持する、
請求項1又は2に記載の消火具。
【請求項4】
複数本の前記牽引用ロープを備え、
前記第2被覆材は、複数本の前記消火チューブ、前記第1被覆材、及び複数本の前記牽引用ロープを一体的に保持するように、複数本の前記消火チューブ、前記第1被覆材、及び複数本の前記牽引用ロープの周囲を巻回被覆する、
請求項3に記載の消火具。
【請求項5】
複数本の前記消火チューブと複数本の前記牽引用ロープとは、前記消火具の短手断面における周方向に沿って、前記消火チューブと前記牽引用ロープとが交互に並ぶように配置される、
請求項4に記載の消火具。
【請求項6】
前記消火チューブの本数は2本であり、前記牽引用ロープの本数は2本である、
請求項5に記載の消火具。
【請求項7】
前記第1被覆材、前記第2被覆材、及び前記牽引用ロープは、超高分子量ポリエチレン繊維によって形成されている、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の消火具。
【請求項8】
前記牽引用ロープは、一端に牽引機の牽引具を取り付け可能な係止部を有する、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の消火具。
【請求項9】
前記収容施設は、管路又はケーブルラックである、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の消火具。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の消火具を敷設する方法であって、
前記収納施設内の第1地点に、牽引具を有する牽引機を準備すると共に、前記収納施設内の第2地点に、前記消火具を有する消火具供給源を準備する第1工程と、
前記牽引機から前記牽引具を引き出して、前記収納施設内において、前記第1地点から前記第2地点まで移動させる第2工程と、
前記第2地点に到達した前記牽引具を前記消火具の一端に取り付ける第3工程と、
前記牽引機にて、前記牽引具を、前記第2地点から前記第1地点に向かって引き入れ、前記消火具を、前記収納施設内の前記第2地点から前記第1地点まで敷設する第4工程と、
を有する、消火具敷設方法。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の消火具を使用した消火システムであって、
前記消火具と、
前記消火具の一端又は他端の少なくとも一方に接続され、前記消火具内に消火剤を供給するボンベと、
を有する、消火システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、消火具、消火具敷設方法、及び消火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加圧した状態で消火剤が封入され、消火対象物の火災時に、当該消火対象物から曝される火炎により、自身の外皮を破裂させて、自身の内部に充填された消火剤を噴出する消火チューブが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
この種の消火チューブは、周囲に限られたスペースしかない収容施設において、消火対象物の近くにメンテナンスフリーの状態で長期間に亘って消火能力を備えた状態で設置することができ、且つ、火災の際には、火災を速やかに自動的に消火することができる点で、有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-196833号公報
【特許文献2】特開2019-161683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願の発明者等は、防災対策として、この種の消火チューブを、管路やケーブルラック等、長距離に亘って延在する収容施設に、消火対象物に隣接して敷設することを検討している。この種の収容施設としては、例えば、消火対象物たる電力ケーブルが配設されたGP管、FRP管、又はヒューム管等の管路が挙げられる。かかる防災対策により、この種の消火チューブを、収容施設の全域をカバーする消火設備として供することが可能である。
【0006】
但し、かかる防災対策を実現するためには、消火チューブの片側の端部をウインチで引っ張る等により、収容施設内に長距離に亘って消火チューブを引き入れる必要がある(後述する図8を参照)。かかる引き入れ時には、消火チューブがドラム巻きされた消火具供給源等から、消火チューブを引き出す必要があるため、消火チューブに大きな引っ張り荷重を作用させることになる。そして、消火チューブに作用する引っ張り荷重は、引き入れ距離が延びるほど大きくなる。消火チューブの外皮は、一般に、火災時に破裂し得るように、特殊な合成樹脂(例えば、ポリエチレン)で構成されており、引っ張り強度が小さく、許容以上の過大な引っ張り荷重が作用すると脆性的に破壊する。そのため、本願の発明者らは、この種の消火チューブを、長距離の収容施設内に引き入れる際には、消火チューブが破断するおそれがあるという課題に直面した。
【0007】
本開示は、上記問題点に鑑みてなされたもので、長距離に亘る収容施設への引き入れ敷設を可能とする消火具、消火具敷設方法、及び消火システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決する主たる本開示は、
収納施設内に引き入れにより敷設される消火具であって、
外部からの熱により自身の外皮を破裂させて、自身の内部に充填された消火剤を放出する消火チューブと、
前記消火チューブの周囲を巻回被覆する第1被覆材と、
前記第1被覆材の外側に配設され、前記消火チューブと並行に延在する牽引用ロープと、
前記消火チューブ、前記第1被覆材、及び前記牽引用ロープを一体的に保持するように、前記消火チューブ、前記第1被覆材、及び前記牽引用ロープの周囲を巻回被覆する第2被覆材と、
を備える消火具である。
【0009】
又、他の局面では、
上記の消火具を敷設する方法であって、
前記収納施設内の第1地点に、牽引具を有する牽引機を準備すると共に、前記収納施設内の第2地点に、前記消火具を有する消火具供給源を準備する第1工程と、
前記牽引機から前記牽引具を引き出して、前記収納施設内において、前記第1地点から前記第2地点まで移動させる第2工程と、
前記第2地点に到達した前記牽引具を前記消火具の一端に取り付ける第3工程と、
前記牽引機にて、前記牽引具を、前記第2地点から前記第1地点に向かって引き入れ、前記消火具を、前記収納施設内の前記第2地点から前記第1地点まで敷設する第4工程と、
を有する、消火具敷設方法である。
【0010】
又、他の局面では、
上記の消火具を使用した消火システムであって、
前記消火具と、
前記消火具の一端又は他端の少なくとも一方に接続され、前記消火具内に消火剤を供給するボンベと、
を有する、消火システムである。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る消火具によれば、長距離に亘る収容施設への引き入れ敷設が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る消火具を適用した消火システムの構成例を示す図
図2】本発明の一実施形態に係る消火具の構成例を示す図
図3】本発明の一実施形態に係る消火具の構成例を示す図
図4】本発明の一実施形態に係る消火具の外観を示す図
図5】本発明の一実施形態に係る消火具が有する内側被覆材及び外側被覆材の配設態様の一例
図6】本発明の一実施形態に係る消火具を製造する際、内側被覆材により消火チューブを被覆する工程の一例を示す図
図7】本発明の一実施形態に係る消火具1の製造装置において、第1ボビン及び第2ボビンの配置態様及び移動軌跡の一例を示す図
図8】橋梁に配設された管路内に、本発明の一実施形態に係る消火具を敷設する際の敷設方法の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<消火具の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る消火具1を適用した消火システムの構成例を示す図である。
【0015】
消火具1は、例えば、地中や橋梁に設置された管路To(例えば、GP管、FRP管、又はヒューム管)内に、送電用の電力ケーブルCa(例えば、OFケーブル)と共に敷設されている。図1に示すように、電力ケーブルCaは、管路To内において、管路Toの長手方向に沿って敷設されている。尚、電力ケーブルCaは、送配電設備等の故障や電力ケーブルCa同士の短絡に起因して、発熱や発火することがある。
【0016】
消火具1は、かかる管路To内において、電力ケーブルCaと隣接する位置に、管路Toの長手方向に沿って敷設される。消火具1は、後述するように、消火チューブを主体として構成され、電力ケーブルCaのいずれかの位置で火災が発生した際には、電力ケーブルCaの火災発生個所に向けて、消火チューブ内に充填された消火剤を噴出し、電力ケーブルCaの火災を自動的に速やかに消火する。
【0017】
図2図3図4は、本発明の一実施形態に係る消火具1の構成例を示す図である。図2は、消火具1の短手断面の断面図であり、図3は、消火具1の長手断面の断面図である。図4は、消火具1の外観を示す図である。
【0018】
図5は、消火具1が有する内側被覆材12及び外側被覆材14の配設態様の一例を示す図である。
【0019】
消火具1は、消火チューブ11、内側被覆材12、牽引用ロープ13、及び、外側被覆材14を備えている。尚、図3は、消火具1の一端側を示しており、消火チューブ11、内側被覆材12、牽引用ロープ13、及び、外側被覆材14は、消火具1の長手方向に沿って、消火具1の一端から他端まで(即ち、管路Toの一端から他端まで)延在する。
【0020】
消火チューブ11は、消火対象物(ここでは、電力ケーブルCa)の火災時に消火対象物から曝される火炎により自身の外皮を破裂させて、自身の内部に充填された消火剤を噴出する。消火チューブ11は、例えば、熱により溶融する樹脂(例えば、熱可塑性樹脂)で形成された外皮を有し、当該外皮内には、消火剤(例えば、CFCFC(O)CF(CFの化学式で示される物質(ISO登録名FK5-1-12))が加圧された状態で充填されている。尚、消火チューブ11としては、例えば、従来公知の消火チューブ(例えば、特許文献1を参照)と同様の構成のものを用いることができる。本実施形態に係る消火具1は、フェールセーフの観点から、互いに並行に配設された2本の消火チューブ11を有している。
【0021】
消火チューブ11は、典型的には、短手断面が円形状のチューブであるが、消火チューブ11の短手断面の形状は、円形状に限定されない。
【0022】
尚、本実施形態に係る消火チューブ11は、両端が消火剤注入用のボンベBo(図1には、一端側のボンベBoのみを示す)に接続された状態で配設され、火災時には、ボンベBoから供給される消火剤により、連続的に消火剤を火災発生個所に噴出し得るようになっている。
【0023】
内側被覆材12(本発明の「第1被覆材」に相当)は、2本の消火チューブ11の周囲をらせん状に巻回被覆し、2本の消火チューブ11を一体的に保持する。内側被覆材12は、2本の消火チューブ11が撚れ合うことを防止する。又、内側被覆材12は、自身と外側被覆材14との間に牽引用ロープ13を挟み込み、牽引用ロープ13の滑りを防止する役割を有する。
【0024】
内側被覆材12は、巻回方向が互いに異なる少なくとも2本の糸12a、12bを有し、当該2本の糸12a、12bによって、網目状に、2本の消火チューブ11の周囲を被覆している(図5を参照)。これによって、2本の消火チューブ11の保持状態の安定性を向上させると共に、内側被覆材12と外側被覆材14(及び牽引用ロープ13)との滑りに対する抑止力が向上する。
【0025】
尚、内側被覆材12は、消火チューブ11の長手方向に沿って、消火チューブ11の一端から他端までの略全域を被覆するのが好ましい。又、内側被覆材12の巻き付けピッチは、任意であるが、ピッチ数が多い方が好ましく、例えば、100回/m以上であるのが好ましい。これによって、消火チューブ11及び牽引用ロープ13の拘束力を高めることができる。
【0026】
牽引用ロープ13は、内側被覆材12の外側に配設され、消火チューブ11と並行に延在する。牽引用ロープ13は、消火具1を管路To内に引き入れる際に、牽引機に直接的に牽引される対象であり、消火具1を管路To内に引き入れる際に掛かる張力を負担する。牽引用ロープ13は、例えば、複数本の素線を撚り合わせて形成された撚り合わせロープである。
【0027】
本実施形態に係る消火具1は、牽引時に牽引用ロープ13一本当たりに掛かる張力を分散させる観点から、互いに並行に配設された複数本の牽引用ロープ13を有している。牽引用ロープ13の本数は、消火チューブ11との配置バランスを良好にする観点から、消火チューブ11の本数と同数に設定されており、ここでは、2本に設定されている。そして、2本の消火チューブ11及び2本の牽引用ロープ13は、消火具1の短手断面における周方向に沿って、消火チューブ11と牽引用ロープ13とが交互に並ぶように配置されている(図2を参照)。又、かかる配置によって、複数本の消火チューブ11が全体として周方向に均等に露出することになるため、消火具1が管路To内に敷設された際に、火災に曝されない方向が生じない。
【0028】
牽引用ロープ13は、一端に牽引機の牽引具を取り付け可能な係止部13aを有している(図3を参照)。係止部13aは、例えば、牽引用ロープ13の一端側に形成されたリング状のアイ加工部である。
【0029】
外側被覆材14(本発明の「第2被覆材」に相当)は、2本の消火チューブ11、内側被覆材12、及び2本の牽引用ロープ13を一体的に保持するように、2本の消火チューブ11、内側被覆材12、及び2本の牽引用ロープ13の周囲をらせん状に巻回被覆する。又、外側被覆材14は、自身と内側被覆材12との間に牽引用ロープ13を挟み込み、牽引用ロープ13の滑りを防止する役割を有する。
【0030】
外側被覆材14は、巻回方向が互いに異なる少なくとも2本の糸14a、14bを有し、当該2本の糸によって、網目状に、2本の消火チューブ11、内側被覆材12、及び2本の牽引用ロープ13の周囲を被覆している(図5を参照)。これによって、2本の消火チューブ11、内側被覆材12及び2本の牽引用ロープ13の保持状態の安定性を向上させると共に、外側被覆材14と内側被覆材12(及び牽引用ロープ13)との滑りに対する抑止力が向上する。
【0031】
尚、外側被覆材14は、消火チューブ11の長手方向に沿って、2本の消火チューブ11、及び2本の牽引用ロープ13の一端から他端までの略全域を被覆するのが好ましい。又、外側被覆材14の巻き付けピッチは、任意であるが、ピッチ数が多い方が好ましく、例えば、100回/m以上であるのが好ましい。これによって、牽引用ロープ13の拘束力を高めることができる。
【0032】
内側被覆材12及び外側被覆材14は、いずれも網目状に形成され、内側被覆材12の網目及び外側被覆材14の網目は、例えば、数mm程度の隙間を有する。そのため、火災発生時においては、消火チューブ11は、内側被覆材12及び外側被覆材14の隙間から、消火具1の外部に消火剤を噴き出すことになる。
【0033】
内側被覆材12、外側被覆材14、及び牽引用ロープ13の素材は、高強度繊維(例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン等の合成樹脂繊維)であれば、任意の素材であってよいが、これらの素材としては、超高分子量ポリエチレン繊維を用いるのが好ましい。
【0034】
超高分子量ポリエチレン繊維は、引っ張り強度が高いことに加え、引っ張りに対する変形(即ち、引張ひずみ)が極めて小さい、という特性を有する。つまり、内側被覆材12、外側被覆材14、及び牽引用ロープ13を、超高分子量ポリエチレン繊維で形成することによって、消火具1を管路To内へ引入れる際に作用する張力に対する、消火具1全体としての引っ張り強度を高めることが可能となる。加えて、これによって、牽引用ロープ13が牽引された際に、内側被覆材12、外側被覆材14、又は牽引用ロープ13のいずれかが伸縮変形してしまい、消火チューブ11、内側被覆材12、外側被覆材14、及び牽引用ロープ13の間で互いの位置ずれが生じてしまうことを抑制することができる。
【0035】
本実施形態に係る消火具1は、例えば、外径が略6mmの消火チューブ11、外径が略4mmの牽引用ロープ13により構成されており、2本の消火チューブ11と、内側被覆材12と、2本の牽引用ロープ13と、外側被覆材14とをあわせた全体としての外径が略13mmとなっている。
【0036】
尚、本実施形態では、消火具1の一例として、2本の消火チューブ11、内側被覆材12、2本の牽引用ロープ13、及び、外側被覆材14によって構成される態様を示しているが、消火チューブ11の本数、及び牽引用ロープ13の本数は、2本に限らない。例えば、消火具1が有する消火チューブ11は、1本であってもよいし、3本以上であってもよい。同様に、消火具1が有する牽引用ロープ13も、1本であってもよいし、3本以上であってもよい。但し、消火具1が有する消火チューブ11が1本のみの場合であっても、内側被覆材12と外側被覆材14との間に牽引用ロープ13を挟み込む必要があるため、内側被覆材12及び外側被覆材14は、いずれも必要である。
【0037】
但し、フェールセーフの観点から、消火チューブ11の本数は1本よりも複数本とすることが好ましい。一方、消火チューブ11を3本以上とすると、消火チューブ11を周方向で均等に並べつつ内側被覆材12で束ねることが困難になる。又、3本以上の消火チューブ11と同本数の牽引用ロープ13とを周方向に沿って交互配置すれば、個々の消火チューブ11において外部に曝される外皮部分の割合が小さくなる。そのため、消火チューブ11の本数、及び牽引用ロープ13の本数は、本実施形態に係る消火具1のように、2本ずつとするのが好ましい。
【0038】
<消火具の製造方法>
以下、図6図7を参照して、本発明の一実施形態に係る消火具1の製造方法の一例について説明する。
【0039】
図6は、内側被覆材12により、消火チューブ11を被覆する工程の一例を示す図である。尚、図6では、理解を容易にするため、各構成を簡略的に示している。
【0040】
消火具1の製造装置は、第1ボビンBaと、第2ボビンBbと、第1ボビンBa及び第2ボビンBbを各別に駆動する駆動装置(図示せず)を有している。
【0041】
消火具1の製造装置は、2本の消火チューブ11(図6では、1本のみを示す)を並行に配した状態で、第1ボビンBaを2本の消火チューブ11の周囲を周回移動させながら、第1ボビンBaに糸12aを供給させる。又、消火具1の製造装置は、第1ボビンBaと同様に、第2ボビンBbを、第1ボビンBaとは逆向きに、2本の消火チューブ11の周囲を周回移動させながら、第2ボビンBbに糸12bを供給させる。又、このとき、当該製造装置は、2本の消火チューブ11を、消火チューブ11の長手方向に沿って、徐々に移動させる。
【0042】
これによって、互いに巻回方向が異なる2本の糸12a、12bが、2本の消火チューブ11の周囲を巻回被覆し、これにより、2本の消火チューブ11を一体的に保持する内側被覆材12が構成される。換言すると、これにより、網目状に、2本の消火チューブ11の周囲を被覆した内側被覆材12を構成することができる。
【0043】
図7は、本発明の一実施形態に係る消火具1の製造装置において、第1ボビンBa及び第2ボビンBbの配置態様及び移動軌跡の一例を示す図である。尚、図7は、第1ボビンBa、第2ボビンBb、及び、2本の消火チューブ11の位置関係を平面視により示している。
【0044】
図6では、第1ボビンBa及び第2ボビンBbを、それぞれ、一個のみ示したが、消火具1の製造装置は、例えば、図7に示すように、第1ボビンBa及び第2ボビンBbを、それぞれ、8個ずつ有していてもよい。これによって、内側被覆材12の巻き付けピッチ数を多く確保することができる。尚、図7では、点線矢印で8個の第1ボビンBaの移動軌跡を示し、実線矢印で8個の第2ボビンBbの移動軌跡を示している。
【0045】
外側被覆材14により、2本の消火チューブ11、内側被覆材12、及び2本の牽引用ロープ13を被覆する工程は、上記と同様である。つまり、消火具1の製造装置は、2本の消火チューブ11、及び2本の牽引用ロープ13を並行に配した状態で、図6と同様に、互いに周回移動の方向が逆向きの第1ボビンBaと第2ボビンBbとから、糸14a、14bを供給させることによって、外側被覆材14を構成する。
【0046】
<消火具の敷設方法>
以下、図8を参照して、消火具1の敷設方法の一例について説明する。
【0047】
図8は、橋梁に配設された管路To内に、消火具1を敷設する際の敷設方法の一例を示す図である。尚、図8では、牽引機WQを用いた引き入れ敷設により、管路To内の第1地点To1(例えば、橋梁のマンホールの配設された位置)から管路To内の第2地点To2(例えば、橋梁のマンホールの配設された位置)まで、消火具1を敷設する態様を示している。
【0048】
消火具1を敷設する際には、まず、牽引機WQの牽引具WQaを、牽引機WQから引き出して、管路To内の第1地点To1から挿入し、管路To内の第2地点To2まで移動させる。牽引具WQaの移動方法は、従来公知の方法であってよく、例えば、管路To内の気流を利用して移動させる方法であってもよいし、管路To内への差し込みにより移動させる方法(例えば、特開2019-161683号を参照)であってもよい。尚、牽引具WQaは、例えば、牽引機WQにドラム巻きされたロープ等によって、牽引機WQから引き出し可能となっている。
【0049】
尚、管路To内の第2地点To2には、予め、消火具1がドラム巻きされた消火具供給源U1を載置しておく。
【0050】
牽引具WQaが管路Toの第2地点To2まで到達すると、作業者は、消火具供給源U1から消火具1の一端を引き出して、消火具1の牽引用ロープ13の係止部13aに対して、牽引具WQaを取り付ける。そして、作業者は、牽引機WQにて、管路To内の第2地点To2から第1地点To1側に向かって牽引具WQaを引き入れ、牽引具WQaを回収する。これにより、管路Toの中に、消火具1を引き込むことができる。そして、牽引機WQにて、牽引具WQaが第1地点To1まで回収されることにより、管路To内の第1地点To1から第2地点To2まで消火具1が敷設されることになる。
【0051】
ここで、従来の引き入れ敷設手法を用いた場合と、本実施形態に係る引き入れ敷設を用いた場合とで、消火チューブ11に作用する応力の相違について、説明する。
【0052】
従来の引き入れ敷設手法では、消火チューブ11に対して、牽引機WQの牽引具WQaを取り付けて、消火チューブ11を直接引っ張る形で、消火チューブ11を管路To内に引き入れる。そのため、牽引具WQaから消火チューブ11への引っ張り荷重は、消火チューブ11の軸方向に沿って集中的に作用する。その結果、消火チューブ11は、軸方向に破断するおそれがある。
【0053】
この点、本実施形態に係る引き入れ敷設では、消火具1の牽引用ロープ13(係止部13a)に対して、牽引具WQaを取り付けて、牽引用ロープ13を引っ張る形で、消火具1全体を、管路To内に引き入れる。このとき、牽引用ロープ13は、外側被覆材14と内側被覆材12との間に挟持され、且つ、外側被覆材14及び内側被覆材12は、互いに引っ掛かり合うため、牽引用ロープ13は、外側被覆材14及び内側被覆材12から滑ることなく、消火チューブ11、外側被覆材14及び内側被覆材12と一体となって管路To内に引き入れられる。
【0054】
つまり、本実施形態に係る引き入れ敷設では、牽引具WQaから消火チューブ11への引っ張り荷重は、内側被覆材12を介して、消火チューブ11と内側被覆材12との摩擦力として消火チューブ11に伝達する。そのため、消火チューブ11に作用する応力は、消火チューブ11の軸方向に沿った集中的なものではなく、様々な方向に分散したものとなる。その結果、消火チューブ11は、軸方向に破断することなく、管路To内に引き入れられることになる。
【0055】
<消火具の火災時の挙動>
消火具1の火災時の挙動は、従来公知の消火チューブの火災時の挙動と変わるところはない。
【0056】
消火具1は、管路To内に敷設された後には、そのままの状態で放置されることになる。消火チューブ11の内部は、外皮によって外部から遮蔽されているので、消火チューブ11が長期に亘って設置されたままでも、消火剤が外皮内から外部に透過・気散して失われてしまうことはなく、消火チューブ11内には消火剤が消火可能な容量が保持され、消火チューブ11はメンテナンスフリーの状態で、長期に亘って消火可能な状態に保たれる。
【0057】
電力ケーブルに火災が発生した場合、消火具1は火災の熱で熱せられ、まず、熱により、外側被覆材14及び内側被覆材12が断ち切られる。そして、消火チューブ11の外皮は、火災に近い部分が強く熱せられて機械的な強度が部分的に低下する。又、消火チューブ11の内部は、火災の熱で温められて膨張した気体部分の圧力と、気化した消火剤の蒸気圧によって高圧になる。これにより、消火チューブ11の外皮の火災の熱によって機械的な強度が弱くなった部分が破裂し、当該部分に穴が開く。そして、消火チューブ11の内部の圧力によって、破裂によって開いた穴から、火災発生箇所に向けて消火剤が噴出し、噴出した消火剤が火災を包み、火災に供給される。これにより、空気を遮断し、火災を冷却し、燃焼反応を化学的に抑制することにより火災を消火する。
【0058】
<効果>
以上のように、本実施形態に係る消火具1は、
外部から火炎に曝された際に、自身の外皮を破裂させて、自身の内部に充填された消火剤を放出する消火チューブ11と、
消火チューブ11の周囲を巻回被覆する内側被覆材12と、
内側被覆材12の外側に配設され、消火チューブ11と並行に延在する牽引用ロープ13と、
消火チューブ11、内側被覆材12、及び牽引用ロープ13を一体的に保持するように、消火チューブ11、内側被覆材12、及び牽引用ロープ13の周囲を巻回被覆する外側被覆材14と、
を備えている。
【0059】
従って、本実施形態に係る消火具1によれば、消火チューブ11の軸方向に集中的に応力が発生することを抑制することが可能である。これによって、消火具1全体として、高い引張強度を実現することが可能であり、長距離の管路To内にも、消火チューブ11を引き入れ敷設することができる。
【0060】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態に限らず、種々に変形態様が考えられる。
【0061】
上記実施形態では、消火具1の配設態様の一例として、消火チューブ11の端部が消火剤注入用のボンベBoに接続された状態で配設される態様を示した。しかしながら、消火具1は、必ずしも、消火剤注入用のボンベBoに接続されている必要はない。例えば、消火具1は、かかる態様に代えて、内部に消火剤を圧縮し、両端が蓋部材により閉止された状態で配設されてもよい。
【0062】
又、上記実施形態では、消火具1の適用対象の収納施設の一例として、管路Toを示した。しかしながら、消火具1は、管路Toに限らず、引き入れによる敷設作業が必要となる様々な収納施設に適用可能である。例えば、消火具1は、ケーブルラックにも適用可能である。又、消火具1が消火対象とするものも、電力ケーブルに限らず、通信ケーブル等であってもよい。
【0063】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本開示に係る消火具によれば、長距離に亘る収容施設への引き入れが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
1 消火具
11 消火チューブ
12 内側被覆材
13 牽引用ロープ
14 外側被覆材
To 管路
Ba 第1ボビン
Bb 第2ボビン
Bo ボンベ
WQ 牽引機
WQa 牽引具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8