(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055912
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】マスク素材の製造方法及びマスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20220401BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20220401BHJP
D06M 15/15 20060101ALI20220401BHJP
D06M 101/32 20060101ALN20220401BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A62B18/02 C
D06M15/15
D06M101:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163618
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】520378632
【氏名又は名称】株式会社トーマン・トイズ
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健成
【テーマコード(参考)】
2E185
4L033
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185BA16
2E185CC73
4L033AA04
4L033AA07
4L033AB04
4L033AC07
4L033AC10
4L033CA08
(57)【要約】
【課題】合成繊維生地によるマスクの製造容易性、装着フィット性の利点を活かしつつ、保湿性の向上及び肌荒れの低減に寄与できるマスク素材の製造方法及びマスクを提供する。
【解決手段】ポリエステル(合成繊維)製のシート材1をシルクフィブロイン溶液7中に浸漬した後乾燥機13で乾燥させ、両面がシルクフィブロインの薄膜7aで被覆されたマスク素材の原反15を得る。原反15からマスク本体部を刃型で裁断し、裁断されたマスク本体部に耳掛け紐を取り付けてマスクを作製する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維製のシート材の両面のうちの少なくとも片方の面をシルクフィブロイン溶液で濡らした後乾燥させることを特徴とするマスク素材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載したマスク素材の製造方法において、
前記シート材を前記シルクフィブロイン溶液に浸漬し、両面を濡らすことを特徴とするマスク素材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載したマスク素材の製造方法において、
前記シルクフィブロイン溶液におけるシルクフィブロインの濃度が、前記合成繊維の公定水分率を少なくとも4倍以上に高める値であることを特徴とするマスク素材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載したマスク素材の製造方法において、
前記合成繊維がポリエステルであることを特徴とするマスク素材の製造方法。
【請求項5】
口と鼻の一部を覆う面積を有する合成繊維製のマスク本体部の少なくとも内面側が、シルクフィブロインで被覆されていることを特徴とするマスク。
【請求項6】
請求項5に記載したマスクにおいて、
前記合成繊維がポリエステルであることを特徴とするマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクの作製に用いられるマスク素材の製造方法及びマスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホコリや花粉対策、あるいはインフルエンザウイルスの予防対策等として、日常生活の中でマスクを着用することが従来から行われている。今日では、新型コロナウイルスに対する拡大抑制、予防対策としてマスクの装着が社会的なエチケットとなりつつある。
このような現状を受け、多種多様の形状、素材、構造のマスクが提供されている。
【0003】
新型コロナウイルスの収束時期が予測できない中で、マスクの装着が恒常的になってくると、マスクが生活必需品としての側面を持つようになってきている。
ポリエステルやポリウレタン等の合成繊維生地で作製されるマスクは、基本的に単層構成であるために製造が容易で、シワになりにくく柔軟性に富んでいるために顔への装着フィット性も高い。また、着色性の自由度が高くカラーの選択幅が広いことから、特に若者に人気となっている。
【0004】
ところで、マスクを日常的に使うことにより、乾燥や摩擦による肌荒れが問題として指摘されるようになってきている。一般的にマスク内は呼気により高温多湿となるが、ポリエステルやポリウレタン等の合成繊維生地は速乾性があるため保湿性が低く乾燥し易い。湿度が低くなる秋や冬では乾燥による肌荒れ問題が生じ易い。
この問題に対処すべく、特許文献1には、マスクの内側にぬれフィルタを着脱自在に設けた構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の構成では、保湿のための別部材を作製する必要があると共に、マスク側にもこれを着脱するための構成が必要であり、構成の複雑化を来して製造コストの上昇を避けられなかった。
また、会話等で口元を動かしたり、飲食のためにマスクをずらしたりすることにより、顔の皮膚表面とマスクとの摩擦で肌荒れが生じ易い。特許文献1に記載の構成のように、口近傍領域の保湿性を高めることによりこれが潤滑剤的に作用して摩擦低減に寄与し得るが、口近傍領域から遠ざかる領域、例えば頬の耳側ではこのような保湿による摩擦低減効果が期待できない。
また、合成繊維生地が肌質に合わない場合には、肌に直接接触することによるかゆみやかぶれが生じる懸念もある。
【0007】
本発明は上記従来の問題点に着目して為されたものであり、合成繊維生地によるマスクの製造容易性、装着フィット性の利点を活かしつつ、保湿性の向上及び肌荒れの低減に寄与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために為されたものであり、請求項1の発明は、合成繊維製のシート材の両面のうちの少なくとも片方の面をシルクフィブロイン溶液で濡らした後乾燥させることを特徴とするマスク素材の製造方法である。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載したマスク素材の製造方法において、前記シート材を前記シルクフィブロイン溶液に浸漬し、両面を濡らすことを特徴とするマスク素材の製造方法である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載したマスク素材の製造方法において、前記シルクフィブロイン溶液におけるシルクフィブロインの濃度が、前記合成繊維の公定水分率を少なくとも4倍以上に高める値であることを特徴とするマスク素材の製造方法である。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3に記載したマスク素材の製造方法において、前記合成繊維がポリエステルであることを特徴とするマスク素材の製造方法である。
【0012】
請求項5の発明は、口と鼻の一部を覆う面積を有する合成繊維製のマスク本体部の少なくとも内面側が、シルクフィブロインで被覆されていることを特徴とするマスクである。
【0013】
請求項6の発明は、請求項5に記載したマスクにおいて、前記合成繊維がポリエステルであることを特徴とするマスクである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、合成繊維生地によるマスクの製造容易性、装着フィット性の利点を活かしつつ、保湿性の向上及び肌荒れの低減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係るマスク素材の製造方法における工程の一部を示す図で、浸漬工程と乾燥工程の概要側面図である。
【
図2】
図1で示したマスク素材の製造方法における工程の一部を示す図で、裁断工程の概要側面図である。
【
図3】
図1で示したマスク素材の製造方法によって切り出されたマスク本体部を示す図で、(a)はマスク本体部と耳掛け紐の対応関係を示す平面図、(b)は(a)のV-V線での拡大断面図である。
【
図4】
図3で示したマスク本体部と耳掛け紐とから作製されたマスクの斜視図である。
【
図5】
図4で示したマスクの顔への装着状態を示す側面図である。
【
図6】耳掛け部をマスク本体部と一体に切り出したマスクの顔への装着状態を示す斜視図である。
【
図7】
図6で示したマスクの切り出し時点での平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態に係るマスク素材の製造方法及びマスクについて図面を参照して説明する。
【0017】
まず、
図1及び
図2に基づいて、本実施の形態に係るマスク素材の製造方法について説明する。
ロール状に巻成されたポリエステル(合成繊維)製のシート材1が駆動ローラを備えた搬送ローラ対3で繰り出され、容器5に収容されたシルクフィブロイン溶液7中に全体が潜るように浸漬される。符号9はガイドローラを示している。
シルクフィブロイン溶液7中への浸漬を終えたシート材1は、乾燥機13内を搬送されて乾燥される。シート材1は、シルクフィブロイン溶液7に浸漬され、その後乾燥されることにより、シート材1の内部にシルクフィブロインが分散して存在すると共に、図中部分的に拡大した断面図で示すように、両面がシルクフィブロインの薄膜7aで被覆されたマスク素材の原反15としてロール状に巻成される。
【0018】
原反15は所定の長さで切断され、
図2に示すように、裁断台17上に載せられる。裁断台17の上方にはガイドレール19が設けられており、該ガイドレール19には、後述するマスク本体部23を切り出す刃型21が原反15の長さ方向(矢印Y方向)と厚み方向(矢印Z方向)に移動可能に設けられている。
刃型21は、原反15の幅方向(矢印X方向)に複数の刃型が配置されたユニットとして構成されており、1回の下降動作でマスク本体部23を複数個同時に裁断できるようになっている。1回の裁断が終了すると、刃型21のユニットは上昇し、矢印Y方向に所定寸法移動した後下降して裁断する。この動作が繰り返される。
【0019】
図3(a)において、符号23は原反15から裁断されたマスク本体部を示している。このマスク本体部23は、仮想中心線25を基準に左右対称の形状を有している。
図3(b)に示すように、マスク本体部23の外面と内面はシルクフィブロインの薄膜7aで被覆されている。
マスク本体部23の両端部には、伸縮性を有する耳掛け紐24の自由端が熱溶着等の手段により固定される。
【0020】
図4に示すように、マスク本体部23の中心を重ねて熱溶着により筋23aを形成することにより、マスク本体部23と耳掛け紐24とからなる立体形状のマスク27が形成される。
【0021】
図5は、マスク27を顔に装着した状態を示している。マスク本体部23は、口29と鼻31の一部を覆う面積を有している。
上記のように、シルクフィブロイン溶液7へのシート材1の浸漬及びその後の乾燥により、水分が蒸発して、シート材1の内部にシルクフィブロインが分散して存在すると共に、両面にはシルクフィブロインの薄膜7aが形成される。すなわち、マスク本体部23は保湿性を有することになる。
【0022】
シルクには、フィブロインという蛋白質が約70%、セリシンという蛋白質が約30%含まれている。シルクからフィブロインのみを抽出したものがシルクフィブロインである。ここでは液状のシルクフィブロインを採用している。
シルクフィブロインは人体との親和性が高く、ナノレベルの多孔性の基本構造を有しており、創傷被覆材などに用いられている。
【0023】
ポリエステルは、耐久性が高く、耐候性に優れ、軽くてシワになりにくいというマスク素材としての利点を備えている一方で、速乾性があるために乾燥し易く、また、皮膚との直接接触による摩擦で肌荒れを起こし易い懸念もある。
【0024】
そこで、マスク本体部23の少なくとも内面側をシルクフィブロインで被覆することにより、下記の効果を得ることができる。
(1)多孔性構造により、ポリエステルの通気性(呼吸のし易さ)を阻害しない。
(2)高い保湿性を付与できる。
(3)人体に対する親和性により、(2)とも相まって、顔の皮膚に対する全ての接触領域で摩擦や直接接触による肌荒れを低減できる。
【0025】
本実施の形態では、シルクフィブロイン溶液7は、高松油脂株式会社製のナチュラスSP-5を水で希釈して質量パーセント濃度が10%の溶液とした。
その結果、ポリエステルの本来の公定水分率は0.4%であるが、シルクフィブロインで被覆したマスク本体部23の公定水分率は4~5倍となることが確認された。
すなわち、シルクフィブロインで被覆することにより、ポリエステルを基材としたマスク本体部23の保湿性を、乾燥による肌荒れが生じないレベルに改善できることが確認された。
【0026】
ここではシルクフィブロイン溶液7の質量パーセント濃度を10%としたが、これに限定されず、適宜の質量パーセント濃度とすることができる。例えば、シルクフィブロイン溶液7の質量パーセント濃度を8~12%の範囲としてもよい。
【0027】
マスク本体部23の内面側は全体に亘ってシルクフィブロインで被覆されているので、保湿性が顔との接触領域全体に亘って存在する。これにより、従来呼気による保湿効果があまり期待できなかった頬の耳側(
図5に示す領域A)においても乾燥による肌荒れ抑制効果を得ることができる。
また、摩擦や素材が直接接触することによる肌荒れをマスク本体部23の顔に対する接触領域全体に亘って抑制することができる。
【0028】
上記実施の形態では、シルクフィブロインで両面を被覆した原反15からマスク本体部23を切り出し、別部材としての耳掛け紐24を熱溶着することによりマスク27を作製したが、
図6に示すように、マスク本体部23と耳掛け部33とが一体になったマスク35を作製することもできる。
この場合、原反15からの切り出し形状は
図7に示す形状となる。このような切り出し形状とすれば、耳掛け紐を別途作製する手間とマスク本体部23に接合する手間を省くことができ、製造コストの低減を図ることができる。
さらに、耳掛け部33もシルクフィブロインで被覆されているので、何回も行われる耳掛け動作における摩擦等による肌荒れを低減できる利点を有している。
【0029】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、上記の実施の形態ではシート材1をシルクフィブロイン溶液7に浸漬して、シート材1の内部にシルクフィブロインを分散して存在させると共に、両面がシルクフィブロインの薄膜7aで被覆された構成としたが、両面のうちの片方の面(マスク本体部23の内面側となる面)のみを濡らすようにしてもよい。
また、塗布ローラやスプレー装置で両面のうちの少なくとも片方の面にシルクフィブロイン溶液7を塗布して濡らし、その後に乾燥させる構成としてもよい。
乾燥工程では、電気ヒータによる送風や、ヒータと送風の組み合わせ、常温の送風のみによるものなど種々の方式を採用できる。
また、上記の実施の形態では合成繊維としてポリエステルを例示したが、ポリウレタン等でも同様の機能、効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0030】
1…ポリエステルのシート材 5…容器 7…シルクフィブロイン溶液
7a…薄膜 13…乾燥機 15…原反 17…裁断台 19…ガイドレール
21…刃型 23…マスク本体部 23a…筋 24…耳掛け紐 27、35…マスク
33…耳掛け部