(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055964
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】杭頭接合構造、杭頭接合構造の設計方法及び杭頭接合構造の設計プログラム
(51)【国際特許分類】
E02D 27/12 20060101AFI20220401BHJP
E02D 27/34 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
E02D27/12 Z
E02D27/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163705
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】515277300
【氏名又は名称】ジャパンパイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100193286
【弁理士】
【氏名又は名称】圷 正夫
(72)【発明者】
【氏名】桑山 晋一
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046CA03
2D046DA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】従来の剛接合とされている杭頭接合構造よりも杭頭発生曲げモーメントを低下させることが可能である一方、従来の半剛接合の杭頭接合構造よりも杭頭発生曲げモーメントの低下を抑制可能な杭頭接合構造、その設計方法、及び、その設計プログラムを提供する。
【解決手段】杭、杭の杭頭部に接合された定着筋、並びに、杭頭部及び定着筋を実質的に隙間無く囲むパイルキャップによって構成された杭頭接合構造において、最大設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントを最大杭頭発生曲げモーメントとし、最小設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントを最小杭頭発生曲げモーメントとしたときに、最小杭頭発生曲げモーメントが最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上95%以下になるように杭及び定着筋の仕様が設定されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭、前記杭の杭頭部に接合された定着筋、並びに、前記杭頭部及び前記定着筋を実質的に隙間無く囲むパイルキャップによって構成された杭頭接合構造において、
最大設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントを最大杭頭発生曲げモーメントとし、
最小設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントを最小杭頭発生曲げモーメントとしたときに、
前記最小杭頭発生曲げモーメントが前記最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上95%以下になるように前記杭及び前記定着筋の仕様が設定されている、
ことを特徴とする杭頭接合構造。
【請求項2】
軸力の増大に伴い前記杭頭接合構造の許容曲げモーメントが増大する範囲内に前記最小設計用軸力があるときに、前記最小杭頭発生曲げモーメントが前記最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上95%以下になるように前記杭及び前記定着筋の仕様が設定されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の杭頭接合構造。
【請求項3】
前記杭の杭頭の固定度が1であると仮定した場合における、前記最小設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントを固定杭頭発生曲げモーメントとしたときに、
前記固定杭頭発生曲げモーメントは前記許容曲げモーメントを超える
ことを特徴とする請求項2に記載の杭頭接合構造。
【請求項4】
前記杭頭発生曲げモーメントは、前記パイルキャップにおける仮想鉄筋コンクリート断面のM-θ関係に基づいて求められたものである
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の杭頭接合構造。
【請求項5】
杭、前記杭の杭頭部に接合された定着筋、並びに、前記杭頭部及び前記定着筋を実質的に隙間無く囲むパイルキャップによって構成された杭頭接合構造の設計方法において、
最大設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントを最大杭頭発生曲げモーメントとし、
最小設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントを最小杭頭発生曲げモーメントとしたときに、
前記最小杭頭発生曲げモーメントが前記最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上95%以下になるように前記杭及び前記定着筋の仕様を設定する
ことを特徴とする杭頭接合構造の設計方法。
【請求項6】
軸力の増大に伴い前記杭頭接合構造の許容曲げモーメントが増大する範囲内に前記最小設計用軸力があるときに、前記最小杭頭発生曲げモーメントが前記最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上95%以下になるように前記杭及び前記定着筋の仕様を設定する、
ことを特徴とする請求項5に記載の杭頭接合構造の設計方法。
【請求項7】
前記杭の杭頭の固定度が1であると仮定した場合における、前記最小設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントを固定杭頭発生曲げモーメントとしたときに、
前記固定杭頭発生曲げモーメントは前記許容曲げモーメントを超える
ことを特徴とする請求項6に記載の杭頭接合構造の設計方法。
【請求項8】
前記杭頭発生曲げモーメントは、前記パイルキャップにおける仮想鉄筋コンクリート断面のM-θ関係に基づいて求める
ことを特徴とする請求項5乃至7の何れか1項に記載の杭頭接合構造の設計方法。
【請求項9】
杭、前記杭の杭頭部に接合された定着筋、並びに、前記杭頭部及び前記定着筋を実質的に隙間無く囲むパイルキャップによって構成される杭頭接合構造の設計プログラムにおいて、
コンピュータに、
杭及び定着筋の仕様を仮設定する仕様仮設定機能と、
前記杭に作用する最大設計用軸力及び最小設計用軸力を設定する設計用軸力設定機能と、
杭頭発生曲げモーメントを設定する杭頭発生曲げモーメント設定機能と、
前記最大設計用軸力及び前記最小設計用軸力での前記杭頭発生曲げモーメントが前記杭頭接合構造の許容曲げモーメント以下であるか否かを判定する判定機能と、
を実現させるように構成され、
前記杭頭発生曲げモーメント設定機能において、前記杭頭発生曲げモーメントとして、前記最大設計用軸力及び前記最小設計用軸力に対応する最大杭頭発生曲げモーメント及び最小杭頭発生曲げモーメントをそれぞれ設定し、
前記判定機能において、前記最大杭頭発生曲げモーメントが前記杭頭接合構造の許容曲げモーメント以下になるか否か、及び、前記最小杭頭発生曲げモーメントが前記杭頭接合構造の許容曲げモーメント以下になるか否かを判定するとともに、前記最小杭頭発生曲げモーメントが前記最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上95%以下になるか否かを判定する、
ように構成されている
ことを特徴とする杭頭接合構造の設計プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は杭頭接合構造、杭頭接合構造の設計方法及び杭頭接合構造の設計プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
杭頭接合構造としては、従来、剛接合(固定度α=1)及び半剛接合(固定度α<1)のものが広く知られている。剛接合の杭頭接合構造では、一般的に、杭頭部に複数の定着筋の一端側が接合され、パイルキャップが杭頭部及び定着筋の他端側を実質的に隙間無く囲んでいる。また、半剛接合の杭頭接合構造としては、例えば特許文献1に示されるように、構造物基礎の底面に設けられた凹型支圧部内に杭頭部が嵌入され、杭頭部の外周に隙間が設けられているものが知られている。
【0003】
かかる特許文献1が開示するような半剛接合の杭頭接合構造にあっては、地震時に杭頭部に加わる曲げモーメントを低減することができ、剛接合の杭頭接合構造に比べ、杭頭部の損傷を抑制可能であると考えられている。
なお、特許文献2は、杭頭の回転を考慮した杭基礎の解析方法を開示しており、該解析方法によれば、半剛接合の杭頭接合構造を採用した場合における、地震時の杭の発生曲げモーメントを算出可能である。具体的には、該解析方法では、杭頭のM-θ関係を初期回転剛性及び最大抵抗モーメントに基づく双曲線関数で規定し、弾性支承上の梁理論に基づく杭の応力変形状態の算出結果がM-θ関係の関数に整合するように杭頭の回転剛性を変化させて収斂計算を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-162259号公報
【特許文献2】特開2007-247287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が開示する半剛接合の杭頭接合構造によれば、従来の剛接合とされている杭頭接合構造に比べ、地震時に杭頭部に加わる曲げモーメントを低減することができるが、その一方で、特に低軸力の場合に、地中で杭の中間部に加わる曲げモーメントが大きくなってしまうという問題がある。
上述の事情に鑑みて、本発明の目的は、従来の剛接合とされている杭頭接合構造よりも杭頭発生曲げモーメントを低下させることが可能である一方、従来の半剛接合の杭頭接合構造よりも杭頭発生曲げモーメントの低下を抑制可能な杭頭接合構造、その設計方法、及び、その設計プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、定着筋の一端側を杭頭部に接合し、他端側をパイルキャップに定着する従来の剛接合とされている杭頭接合構造においても、定着筋の本数を減らせば、地震時に杭頭の回転を許容する杭頭接合構造を実現可能であることを見出し、本発明に想到した。
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る杭頭接合構造は、
杭、前記杭の杭頭部に接合された定着筋、並びに、前記杭頭部及び前記定着筋を実質的に隙間無く囲むパイルキャップによって構成された杭頭接合構造において、
最大設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントを最大杭頭発生曲げモーメントとし、
最小設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントを最小杭頭発生曲げモーメントとしたときに、
前記最小杭頭発生曲げモーメントが前記最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上95%以下になるように前記杭及び前記定着筋の仕様が設定されている。
【0008】
パイルキャップが杭頭部及び定着筋を実質的に隙間無く囲んでいる従来の剛接合とされている杭頭接合構造は、杭頭の固定度が1であるとして設計されてきた。固定度が1であるとした場合、最大設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントと最小設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントは等しくなり、定着筋の本数が少ないと、最小設計用軸力にて、杭頭発生曲げモーメントが杭頭接合構造の許容曲げモーメントを超えてしまうことがある。このため、従来の剛接合とされている杭頭接合構造では、杭頭接合構造の許容曲げモーメントを大きくするために、定着筋の本数を多めに設定する必要があった。
【0009】
これに対し、本発明者は、パイルキャップが杭頭部及び定着筋を実質的に隙間無く囲んでいる杭頭接合構造においても、定着筋の本数を少なくすれば、杭頭の固定度を1未満にすることができ、最小杭頭発生曲げモーメントを最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上95%以下にすることができることを見出した。そしてこのように、最小杭頭発生曲げモーメントを最大杭頭発生曲げモーメントの95%以下にすることができれば、最小杭頭発生曲げモーメントが杭頭接合構造の許容曲げモーメントを上回ることを防止することができる。
つまり、上記構成(1)によれば、定着筋の本数を節約しながら、杭頭発生曲げモーメントを許容曲げモーメント以下にするという、杭頭接合構造に設計上求められる条件を満たすことができる。また、最小杭頭発生曲げモーメントを最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上にすることができれば、地中での杭の中間部の発生曲げモーメントの上昇を抑制することができ、杭の中間部の損傷も防止可能である。
また、定着筋の本数を従来よりも削減することができれば、定着筋を杭頭部に接合するための作業時間を短縮できるのみならず、材料コストも削減でき、更に、パイルキャップ内での過密配筋も抑制することができる。また、定着筋の本数が多い場合、過密配筋を回避するために杭径の拡大が必要になることもあったが、定着筋の本数を削減することによって、杭径の拡大を抑制することもできる。
【0010】
(2)幾つかの実施形態では、上記構成(1)において、
軸力の増大に伴い前記杭頭接合構造の許容曲げモーメントが増大する範囲内に前記最小設計用軸力があるときに、前記最小杭頭発生曲げモーメントが前記最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上95%以下になるように前記杭及び前記定着筋の仕様が設定されている。
【0011】
杭頭接合構造の許容曲げモーメントは、一般的に、NM曲線に示されるように軸力に応じて変化する。具体的には、杭頭接合構造の許容曲げモーメントは、引張軸力を負とし圧縮軸力を正とすると、最大引張軸力及び最大圧縮軸力では0であり、最大引張軸力から軸力が増大するのに伴い増大し、軸力が所定値になると最大値となり、更に軸力が増大して最大圧縮軸力に近づくのに伴い減少するという傾向を示す。このような傾向を考慮すれば、軸力の増大に伴い許容モーメントが増大する範囲内に最小設計用軸力がある場合というのは、杭に作用する最小設計用軸力が比較的小さい軸力であるということができる。
杭に作用する軸力が小さい場合、従来の半剛接合の杭頭接合構造では、杭頭発生曲げモーメントが小さくなり、地中での杭の中間部の発生曲げモーメントが過大になりやすい傾向がある。上記構成(2)によれば、杭に作用する軸力が小さい場合であっても、最小杭頭発生曲げモーメントが最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上であるので、地中での杭の中間部の発生曲げモーメントの上昇を抑制することができ、杭の中間部の損傷を防止可能である。
【0012】
(3)幾つかの実施形態では、上記構成(1)又は(2)において、
前記杭の杭頭の固定度が1であると仮定した場合における、前記最小設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントを固定杭頭発生曲げモーメントとしたときに、
前記固定杭頭発生曲げモーメントは前記許容曲げモーメントを超える。
【0013】
固定杭頭発生曲げモーメントが許容曲げモーメントを超えているということは、固定度が1であるとして定着筋の本数を評価した場合には、定着筋が不足しているということである。
このような場合であっても、最小杭頭発生曲げモーメントが最大杭頭発生曲げモーメントの95%以下であれば、最小杭頭発生曲げモーメントを許容曲げモーメント以下とすることができる。つまり、上記構成(3)によれば、パイルキャップが杭頭部及び定着筋を実質的に隙間無く囲んでいる杭頭接合構造において、固定度が1であるとした場合には成立しない構成を実現することができる。
【0014】
(4)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(3)の何れか1つにおいて、
前記杭頭発生曲げモーメントは、前記パイルキャップにおける仮想鉄筋コンクリート断面のM-θ関係に基づいて求められたものである。
上記構成(4)によれば、パイルキャップにおける仮想鉄筋コンクリート断面のM-θ関係に基づいて杭頭発生曲げモーメントを求めることで、杭頭発生曲げモーメントを容易且つ正確に求めることができる。
【0015】
(5)本発明の少なくとも一実施形態に係る杭頭接合構造の設計方法は、
杭、前記杭の杭頭部に接合された定着筋、並びに、前記杭頭部及び前記定着筋を実質的に隙間無く囲むパイルキャップによって構成された杭頭接合構造の設計方法において、
最大設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントを最大杭頭発生曲げモーメントとし、
最小設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントを最小杭頭発生曲げモーメントとしたときに、
前記最小杭頭発生曲げモーメントが前記最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上95%以下になるように前記杭及び前記定着筋の仕様を設定する。
【0016】
上記構成(5)によれば、定着筋の本数を節約しながら、設計上求められる条件を満たすように杭頭接合構造を設計することができる。また、最小杭頭発生曲げモーメントを最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上にすることができれば、地中での杭の中間部の発生曲げモーメントの上昇を抑制することができ、杭の中間部の損傷も防止される杭頭接合構造を設計可能である。
【0017】
(6)幾つかの実施形態では、上記構成(5)において、
軸力の増大に伴い前記杭頭接合構造の許容曲げモーメントが増大する範囲内に前記最小設計用軸力があるときに、前記最小杭頭発生曲げモーメントが前記最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上95%以下になるように前記杭及び前記定着筋の仕様を設定する。
【0018】
上記構成(6)によれば、杭に作用する軸力が小さい場合であっても、最小杭頭発生曲げモーメントが最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上であるので、地中での杭の中間部の発生曲げモーメントの上昇を抑制することができ、杭の中間部の損傷を防止可能である。
【0019】
(7)幾つかの実施形態では、上記構成(5)又は(6)において、
前記杭の杭頭の固定度が1であると仮定した場合における、前記最小設計用軸力での杭頭発生曲げモーメントを固定杭頭発生曲げモーメントとしたときに、
前記固定杭頭発生曲げモーメントは前記許容曲げモーメントを超える。
【0020】
上記構成(7)によれば、パイルキャップが杭頭部及び定着筋を実質的に隙間無く囲んでいる杭頭接合構造において、固定度が1であるとした場合には成立しない構成を実現することができる。
【0021】
(8)幾つかの実施形態では、上記構成(5)乃至(7)の何れか1つにおいて、
前記杭頭発生曲げモーメントは、前記パイルキャップにおける仮想鉄筋コンクリート断面のM-θ関係に基づいて求められたものである。
上記構成(8)によれば、パイルキャップにおける仮想鉄筋コンクリート断面のM-θ関係に基づいて杭頭発生曲げモーメントを求めることで、杭頭発生曲げモーメントを容易且つ正確に求めることができる。
【0022】
(9)本発明の少なくとも一実施形態に係る杭頭接合構造の設計プログラムは、
杭、前記杭の杭頭部に接合された定着筋、並びに、前記杭頭部及び前記定着筋を実質的に隙間無く囲むパイルキャップによって構成される杭頭接合構造の設計プログラムにおいて、
コンピュータに、
杭及び定着筋の仕様を仮設定する仕様仮設定機能と、
前記杭に作用する最大設計用軸力及び最小設計用軸力を設定する設計用軸力設定機能と、
前記杭頭発生曲げモーメントを設定する杭頭発生曲げモーメント設定機能と、
前記最大設計用軸力及び前記最小設計用軸力での前記杭頭発生曲げモーメントが前記杭頭接合構造の許容曲げモーメント以下であるか否かを判定する判定機能と、
を実現させるように構成され、
前記杭頭発生曲げモーメント設定機能において、前記杭頭発生曲げモーメントとして、前記最大設計用軸力及び前記最小設計用軸力に対応する最大杭頭発生曲げモーメント及び最小杭頭発生曲げモーメントをそれぞれ設定し、
前記判定機能において、前記最大杭頭発生曲げモーメントが前記杭頭接合構造の許容曲げモーメント以下になるか否か、及び、前記最小杭頭発生曲げモーメントが前記杭頭接合構造の許容曲げモーメント以下になるか否かを判定するとともに、前記最小杭頭発生曲げモーメントが前記最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上95%以下になるか否かを判定する、
ように構成されている。
【0023】
上記構成(9)によれば、定着筋の本数を節約しながら、設計上求められる条件を満たすように杭頭接合構造を設計することができる。また、最小杭頭発生曲げモーメントを最大杭頭発生曲げモーメントの70%以上にすることができれば、地中での杭の中間部の発生曲げモーメントの上昇を抑制することができ、杭の中間部の損傷も防止される杭頭接合構造を設計可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来の剛接合とされている杭頭接合構造よりも杭頭発生曲げモーメントを低下させることが可能である一方、従来の半剛接合の杭頭接合構造よりも杭頭発生曲げモーメントの低下を抑制可能な杭頭接合構造、その設計方法、及び、その設計プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】杭基礎及び杭基礎によって支持される上部構造を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の一本実施形態に係る、杭の杭頭部とパイルキャップの杭頭接合構造を説明するための概略的な断面図である。
【
図3】
図2中の杭の杭頭部及び該杭頭部に接合された定着筋を概略的に示す平面図である。
【
図4】本実施形態に係る杭頭接合構造の許容曲げモーメントMa、及び、地震時に杭頭接合構造の杭頭で発生する杭頭発生曲げモーメント(固定度α<1)を、SC杭の許容曲げモーメント及び固定度αを1と仮定したときの固定杭頭発生曲げモーメントMfとともに概略的に示すグラフである。
【
図5】最大設計用軸力Nmax及び最小設計用軸力Nminのそれぞれにおける、杭頭発生曲げモーメントMと杭頭の回転角θとの関係(M-θ関係)を概略的に示すグラフである。
【
図6】杭頭の回転と杭頭周辺のパイルキャップの部分の回転を説明するための概略図である。
【
図7】本発明の他の本実施形態に係る設計プログラムが実行する工程を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
【0027】
図1は、杭基礎1及び杭基礎1によって支持される上部構造3を概略的に示す図である。杭基礎1は、地盤に形成された杭穴5に埋設された複数の杭7、複数の杭7の杭頭部にそれぞれ接合される複数のパイルキャップ9、及び、パイルキャップ9同士を連結する梁(不図示)によって構成されている。なお各杭穴5に埋設される杭7は、単杭であっても連結杭であってもよい。
【0028】
図2は、杭7の杭頭部とパイルキャップ9の杭頭接合構造を説明するための概略的な断面図である。杭7は、例えば、複数の既製杭を連結した連結杭であり、最上位の上杭7aは、中空部を有する円筒形状のSC杭(外殻鋼管付きコンクリート杭)によって構成されている。
【0029】
杭7は、例えばセメントミルク工法によって杭穴5に埋設される。このため、
図2に示したように、上杭7aの中空部及び周囲には、ソイルセメント11が充填されている。ただし、杭頭接合のため、上杭7aの中空部については、上杭7aの上端面から所定深さまでソイルセメント11が除去されている。
【0030】
なお、
図2に示したように、SC杭は、円筒形状の外鋼管13と、外鋼管13の両端に固定された円環形状の2つの端板15(15a,15b)と、外鋼管13の内側に充填されたコンクリートによって構成された中空円筒形状のコンクリート部19とによって構成されている。
【0031】
杭7に接合されるパイルキャップ9は、ブロック部21及び中詰め部23を含む。ブロック部21及び中詰め部23は、杭7の埋設後に打設されたコンクリートによって一体に構成されている。ブロック部21は、杭7の杭頭部を囲むように配置され、例えば直方体形状の外形形状を有する。中詰め部23は、杭7の中空部の形状に対応して円柱形状を有する。従って、中詰め部23は、SC杭の内周面に接している。
なお、特許文献1の構造物基礎の支持構造では、杭頭部の回転を積極的に許容するために、根入れ部と杭頭部との間に隙間が設けられているが、本実施形態では、杭頭部とブロック部21の間にそのような隙間は設けられていない。
【0032】
杭7の杭頭部とパイルキャップ9の杭頭接合構造は、杭7及びパイルキャップ9に加え、更に、複数の定着筋27を備えている。複数の定着筋27は、それぞれ例えば棒形状の異形鉄筋(異形棒鋼)によって構成されている。複数の定着筋27は、それぞれ上下方向に延在しており、定着筋27の下端側は杭7の外周面に接合されている。定着筋27の上端側はパイルキャップ9内に埋設されており、杭7の杭頭部から突出している定着筋27の部分は、全域に渡ってパイルキャップ9に定着させられている。つまり、杭頭接合構造は、杭7、杭7の杭頭部に接合された定着筋27、並びに、杭7の杭頭部及び定着筋27を実質的に隙間無く囲むパイルキャップ9によって構成されている。
【0033】
図3は、杭7の杭頭部及び該杭頭部に接合された定着筋27を概略的に示す平面図である。複数の定着筋27は、平面でみて、杭7の杭頭部の外周に同心円上に配置されるように相互に離間して配置されている。
なお、本実施形態では、定着筋27は、杭頭部の外周面に例えば溶接によって直接接合されているが、定着筋27と杭頭部は、公知の接合部材を介して間接的に接合されていてもよい。
【0034】
ここで、
図4は、本実施形態に係る杭頭接合構造のN-M曲線(許容曲げモーメントMa)、及び、地震時に杭頭接合構造の杭頭で発生する杭頭発生曲げモーメントM(固定度α<1)を、SC杭の許容曲げモーメント及び固定度αを1と仮定したときの杭頭発生曲げモーメント(固定杭頭発生曲げモーメントMf)とともに示すグラフである。
杭頭接合構造の許容曲げモーメントMaは、定着筋27及びパイルキャップ9のコンクリートによって構成される仮想RC断面における許容曲げモーメントであり、公知の手法(例えば平面保持仮定に基づく断面解析)によって求めることができる。
杭頭発生曲げモーメントM及び固定杭頭発生曲げモーメントMfは、例えば、公知の弾性支承梁の式に適当な境界条件を与えることによってそれぞれ求めることができる。なお、Chang式は、弾性支承梁の式の境界条件を限定した式である。
【0035】
ここで、
図5は、最大設計用軸力Nmax及び最小設計用軸力Nminのそれぞれにおける、杭頭発生曲げモーメントMと杭頭の回転角θとの関係(M-θ関係)を示すグラフである。
各杭7の最大設計用軸力Nmaxは、各杭7に作用すると設計上予想される最大の軸力であり、支持すべき上部構造3の質量、並びに、杭7の仕様及び配置に基づいて決定可能である。同様に、各杭7の最小設計用軸力Nminは、各杭7に作用すると設計上予想される最小の軸力であり、支持すべき上部構造3の質量、並びに、杭7の仕様及び配置に基づいて決定可能である。
なお、
図5には、任意の中間軸力Nintでの杭頭発生曲げモーメントMと杭頭の回転角θとの関係(M-θ関係)も示している。最大設計用軸力Nmaxと最小設計用軸力Nminとの間にM―θ関係は略無数にあり、これに対応して、杭頭発生曲げモーメントMは、最大設計用軸力Nmaxと最小設計用軸力Nminとの間で略連続的に変化する。
【0036】
杭頭のM-θ関係は、例えば実験によって求めることができるが、計算によって求めることもできる。
図5の杭頭のM-θ関係は、計算によって求めたものである。
具体的には、杭頭のM-θ関係は、パイルキャップ9における仮想鉄筋コンクリート断面CvのM-θ関係として求めることができる。仮想鉄筋コンクリート断面Cvは、
図2に示すように、パイルキャップ9のコンクリートと定着筋27によって構成される直径Dvの仮想円柱の横断面であり、杭頭に接する部分での断面である。仮想鉄筋コンクリート断面Cvの直径Dvは、
図2に例示したように、杭7の直径Dpを1.25倍して100mm足したものである(Dv=1.25*Dp+100)。ただし、直径Dvの定義はこれに限定されることはない。
【0037】
仮想鉄筋コンクリート断面CvのM-θ関係を求めるには、まず、式:M=EIφ(ただし、Mは作用する曲げモーメント、Eはヤング係数、Iは断面二次モーメント、φは曲率である)に基づいて曲げモーメントMと曲率φの関係を求める。曲率φは杭軸に直角方向の曲げによって回転した変化であり、定着筋27とコンクリートの剛性に比例する。杭頭の端部を考えると軸方向の回転角θは端部の傾きなので短期許容応力の設計では回転角は十分に小さいと仮定し仮想鉄筋コンクリート断面Cvの曲率φと近似的に直交すると考えて回転角θ≒曲率φとする。これにより、仮想鉄筋コンクリート断面CvのM-θ関係に基づいて杭頭のM-θ関係を求めることができる。
【0038】
図6は、このようにして求められた杭頭のM-θ関係(杭頭の回転と杭頭周辺のパイルキャップ9の部分の回転)を説明するための概略的な図であり、回転角θ(鉛直方向と杭頭での杭7の軸線方向との角度)を誇張して描いたものである。仮想鉄筋コンクリート断面CvのM-θ関係を杭頭のM-θ関係として求めるということは、杭頭の回転と杭頭周辺のパイルキャップ9の部分の回転が等しいということを前提としており、このような前提に立っているのは、
図2の杭頭接合構造が、従来、剛接合と考えられているものをベースとしているからである。そして、このような前提に立つことにより、回転角θがそれほど大きくなく、杭頭とパイルキャップ9との間に隙間が生じないような場合でも、杭頭の回転角θ及び発生曲げモーメントMを正確に評価することができる。
なお、実際のM-θ関係は曲線関係になるが、数値計算では近似的に、ひび割れ、降伏、破壊などの3点を考慮したトリリニアモデルや、弾塑性モデルで計算することが一般的なので、
図5のM-θ関係はトリリニアモデルを採用している。
【0039】
本実施形態の杭頭接合構造における杭頭発生曲げモーメントMは、弾性支承梁の式に、杭頭の境界条件として、最大設計用軸力Nmax及び最小設計用軸力Nminの各々での杭頭接合構造のM-θ関係を導入することによって求められる。求められた杭頭発生曲げモーメントMのうち、最大設計用軸力Nmaxに対応する杭頭発生曲げモーメントMを最大杭頭発生曲げモーメントMmaxとし、最小設計用軸力Nminに対応する杭頭発生曲げモーメントMを最小杭頭発生曲げモーメントMminとする。
【0040】
杭頭接合構造の設計にあたっては、
図4に示したように、最大杭頭発生曲げモーメントMmax及び最小杭頭発生曲げモーメントMminが、杭頭接合構造の許容曲げモーメントMa以下になるように、杭7及び定着筋27の仕様を決定する必要がある。
更に、本実施形態では、最小杭頭発生曲げモーメントMminが最大杭頭発生曲げモーメントMmaxの70%以上95%以下、好ましくは80%以上90%以下になるように、杭7及び定着筋27の仕様が決定される。
なお、杭7の仕様は、杭種、杭径及び杭長等であり、定着筋27の仕様は、本数、太さ、長さ及び材質等である。本実施形態では、好ましい態様として、最小杭頭発生曲げモーメントMminが最大杭頭発生曲げモーメントMmaxの70%以上95%以下になるように、定着筋27の本数が決定される。
【0041】
パイルキャップ9が杭頭部及び定着筋27を実質的に隙間無く囲んでいる従来の剛接合とされている杭頭接合構造は、杭頭の固定度αが1であるとして設計されてきた。固定度αが1の場合、最大設計用軸力Nmaxでの杭頭発生曲げモーメントMfと最小設計用軸力Nminでの杭頭発生曲げモーメントMfは等しく、定着筋27の本数が少ないと、最小設計用軸力Nminにて、杭頭発生曲げモーメントMfが杭頭接合構造の許容曲げモーメントMaを超えてしまうことがある。このため、従来の剛接合とされている杭頭接合構造では、許容曲げモーメントMaを大きくするために、定着筋27の本数を多めに設定する必要があった。
【0042】
これに対し、本発明者は、パイルキャップ9が杭頭部及び定着筋27を実質的に隙間無く囲んでいる杭頭接合構造においても、定着筋27の本数を少なくすれば、杭頭の固定度αを1未満にすることができ、最小杭頭発生曲げモーメントMminを最大杭頭発生曲げモーメントMmaxの70%以上95%以下にすることができることを見出した。そしてこのように、最小杭頭発生曲げモーメントMminを最大杭頭発生曲げモーメントMmaxの95%以下にすることができれば、最小杭頭発生曲げモーメントMminが杭頭接合構造の許容曲げモーメントMaを上回ることを防止することができる。
【0043】
つまり、本実施形態の杭頭接合構造によれば、定着筋27の本数を節約しながら、杭頭発生曲げモーメントMを許容曲げモーメントMa以下にするという、杭頭接合構造に設計上求められる条件を満たすことができる。また、最小杭頭発生曲げモーメントMminを最大杭頭発生曲げモーメントMmaxの70%以上にすることができれば、地中での杭7の中間部の発生曲げモーメントの上昇を抑制することができ、杭7の中間部の損傷も防止可能である。特に、埋め立て地のように地表側の軟弱地盤が深くまで続き、支持層が深くに存在する場合であっても、杭7の中間部の損傷を防止可能である。
【0044】
また、定着筋27の本数を従来よりも削減することができれば、定着筋27を杭頭部に接合するための作業時間を短縮できるのみならず、材料コストも削減でき、更に、パイルキャップ9内での過密配筋も抑制することができる。また、定着筋27の本数が多い場合、過密配筋を回避するために杭径の拡大が必要になることもあったが、定着筋27の本数を削減することによって、杭径の拡大を抑制することもできる。
更に、杭の杭頭とパイルキャップが定着筋によって接続されている剛接合の杭頭接合構造は、従来から広く使用されており、定着筋27の本数を従来よりも削減した本実施形態の杭頭接合構造は、部材の入手や製造が容易である。
【0045】
本実施形態の好ましい態様として、
図4に示したように、軸力の増大に伴い許容曲げモーメントが増大する範囲(許容曲げモーメント増大範囲)内に最小設計用軸力Nminがあるときに、最小杭頭発生曲げモーメントMminが最大杭頭発生曲げモーメントMmaxの70%以上95%以下になるように杭7及び定着筋27の仕様が設定されている。
【0046】
杭頭接合構造の許容曲げモーメントMaは、一般的に、NM曲線に示されるように軸力に応じて変化する。具体的には、杭頭接合構造の許容曲げモーメントMaは、引張軸力を負とし圧縮軸力を正とすると、最大引張軸力及び最大圧縮軸力では0であり、最大引張軸力から軸力が増大するのに伴い増大し、軸力が所定値になると最大値となり、更に軸力が増大して最大圧縮軸力に近づくのに伴い減少するという傾向を示す。このような傾向を考慮すれば、軸力の増大に伴い許容曲げモーメントが増大する範囲内に最小設計用軸力がある場合というのは、杭に作用する最小設計用軸力が比較的小さい軸力であるということができる。
【0047】
杭に作用する軸力が小さい場合、従来の半剛接合の杭頭接合構造では、杭頭発生曲げモーメントが小さくなり、地中での杭の中間部の発生曲げモーメントが過大になりやすい傾向がある。これに対し、本実施形態の好ましい態様によれば、軸力の増大に伴い許容曲げモーメントが増大する範囲(許容曲げモーメント増大範囲)内に最小設計用軸力Nminがあり、杭に作用する軸力が小さい場合であっても、最小杭頭発生曲げモーメントMminが最大杭頭発生曲げモーメントMmaxの70%以上であるので、地中での杭7の中間部の発生曲げモーメントの上昇を抑制することができ、杭7の中間部の損傷を防止可能である。
【0048】
本実施形態の好ましい態様として、杭の杭頭の固定度αが1であると仮定した場合における、最小設計用軸力Nminでの杭頭発生曲げモーメントを固定杭頭発生曲げモーメントMfとしたときに、固定杭頭発生曲げモーメントMfは許容曲げモーメントMaを超える。
【0049】
固定杭頭発生曲げモーメントMfが許容曲げモーメントMaを超えているということは、固定度αが1であるとして定着筋27の本数を評価した場合には、定着筋27が不足しているということである。
このような場合であっても、最小杭頭発生曲げモーメントMminが最大杭頭発生曲げモーメントMaxの95%以下であれば、最小杭頭発生曲げモーメントMminを許容曲げモーメントMa以下とすることができる。つまり、本実施形態の好ましい態様によれば、パイルキャップ9が杭頭部及び定着筋27を実質的に隙間無く囲んでいる杭頭接合構造において、固定度αが1であるとした場合には成立しない構成を実現することができる。
【0050】
以下、本発明の他の実施形態として、上記構成の杭頭接合構造の設計方法(以下、単に設計方法ともいう)について説明する。
本実施形態の設計方法は、
図1に示したように、杭、前記杭の杭頭部に接合された定着筋27、並びに、前記杭頭部及び前記定着筋27を実質的に隙間無く囲むパイルキャップ9によって構成された杭頭接合構造の設計方法である。
そして、本実施形態の設計方法においては、最小杭頭発生曲げモーメントMminが最大杭頭発生曲げモーメントMmaxの70%以上95%以下になるように杭7及び定着筋27の仕様を設定する。
【0051】
上記設計方法によれば、定着筋27の本数を節約しながら、設計上求められる条件を満たすように杭頭接合構造を設計することができる。また、最小杭頭発生曲げモーメントMminを最大杭頭発生曲げモーメントMmaxの70%以上にすることができれば、地中での杭7の中間部の発生曲げモーメントの上昇を抑制することができ、杭7の中間部の損傷も防止される杭頭接合構造を設計可能である。
【0052】
本実施形態の好ましい態様として、軸力の増大に伴い許容曲げモーメントMaが増大する範囲内に最小設計用軸力Nminがあるときに、最小杭頭発生曲げモーメントMminが最大杭頭発生曲げモーメントMmaxの70%以上95%以下になるように杭7及び定着筋27の仕様を設定する。
【0053】
上記設計方法によれば、杭7に作用する軸力が小さい場合であっても、最小杭頭発生曲げモーメントMminが最大杭頭発生曲げモーメントMmaxの70%以上であるので、地中での杭7の中間部の発生曲げモーメントの上昇を抑制することができ、杭7の中間部の損傷を防止可能である。
【0054】
本実施形態の好ましい態様として、杭7の杭頭の固定度αが1であると仮定した場合における、最小設計用軸力Nminでの杭頭発生曲げモーメントを固定杭頭発生曲げモーメントMfとしたときに、固定杭頭発生曲げモーメントMfは許容曲げモーメントMaを超える。
【0055】
上記設計方法によれば、パイルキャップ9が杭頭部及び定着筋27を実質的に隙間無く囲んでいる杭頭接合構造において、固定度αが1であるとした場合には成立しない構成を実現することができる。
【0056】
以下、本発明の他の実施形態として、上記した杭頭接合構造の設計プログラム(以下、単に設計プログラムともいう)について説明する。
設計プログラムは、
図1に示したように杭7、杭7の杭頭部に接合された定着筋27、並びに、杭頭部及び定着筋27を実質的に隙間無く囲むパイルキャップ9によって構成された杭頭接合構造の設計プログラムである。
【0057】
図7は、設計プログラムが実行する工程を概略的に示すフローチャートである。設計プログラムは、仕様仮設定工程S1と、設計用軸力設定工程S2と、杭頭発生曲げモーメント設定工程S3と、判定工程S4とを実行するように構成されている。換言すれば、設計プログラムは、コンピュータに、仕様仮設定機能と、設計用軸力設定機能と、杭頭発生曲げモーメント設定機能と、判定機能とを実現させるように構成されている。
【0058】
コンピュータは、例えば、CPU(中央演算処理装置)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM(リードオンリーメモリ)、外部記憶装置、入出力用インターフェース等によって構成される。設計プログラムは外部記憶装置に格納されており、CPUはRAM及びROMと協働して設計プログラムを実行する。また、設計プログラムの利用者は、入出力用インターフェースを介して、設計に必要な情報をコンピュータに入力可能であるとともに、コンピュータの演算結果等を入手可能である。
【0059】
仕様仮設定工程S1では、杭7及び定着筋27の仕様等が仮設定される。杭7及び定着筋27の仕様等は、上部構造3の構成や地盤の性状等に応じて仮設定されるが、設計プログラムの利用者が入力してもよいし、上部構造3や地盤の情報に基づいて自動的に仮設定されるように構成されていてもよい。
なお、杭7の仕様とは、例えば、杭7の本数、配置、各杭7の種類、長さ、及び、杭径等である。定着筋27の仕様とは、例えば、定着筋27の数、太さ、材質、及び、長さ等である。
【0060】
設計用軸力設定工程S2では、地震時に杭7に作用する最大設計用軸力Nmax及び最小設計用軸力Nminが設定される。最大設計用軸力Nmax及び最小設計用軸力Nminは、設計プログラムの利用者が入力してもよいし、上部構造3の質量、及び、仮設定された杭7の仕様及び配置に基づいて自動的に設定されるように構成されていてもよい
【0061】
杭頭発生曲げモーメント設定工程S3では、地震時に杭7の杭頭に発生する杭頭発生曲げモーメントが設定される。
判定工程S4では、最大設計用軸力Nmax及び最小設計用軸力Nminでの杭頭発生曲げモーメントが杭頭接合構造の許容曲げモーメントMa以下であるか否かが判定される。
【0062】
本実施形態では、杭頭発生曲げモーメント設定工程S3において、杭頭発生曲げモーメントとして、最大設計用軸力Nmax及び最小設計用軸力Nminに対応する最大杭頭発生曲げモーメントMmax及び最小杭頭発生曲げモーメントMminがそれぞれ設定される。
【0063】
具体的には、杭頭発生曲げモーメントは、弾性支承梁の式を解くことによって求められるが、そのために、地震の大きさに応じて杭頭に作用する水平力Qが杭頭の境界条件として弾性支承梁の式に代入されるとともに、杭7に作用する軸力に依存する杭頭接合構造のM-θ関係が、杭頭の境界条件として弾性支承梁の式に導入される。杭頭発生曲げモーメント設定工程S3で用いられる杭頭接合構造のM-θ関係は、例えば、予め実験によって求められたもの(実験結果若しくは実験式)をデータベース化しておいたものであり、設計プログラムは、外部記憶装置に格納されたデータベースから、杭7及び定着筋27の仕様に応じて適当なM-θ関係を読み込むことができる。
あるいは、設計プログラムは、杭頭接合構造のM-θ関係を、杭7及び定着筋27の仕様に基づいて上述したように演算により導出するように構成されていてもよい。なお、杭7の仕様は、杭種、杭径及び杭長等であり、定着筋27の仕様は、本数、太さ、長さ及び材質等である。
【0064】
そして、判定工程S4において、最大杭頭発生曲げモーメントMmaxが杭頭接合構造の許容曲げモーメントMa以下になるか否か、及び、最小杭頭発生曲げモーメントMminが杭頭接合構造の許容曲げモーメントMa以下になるか否かが判定されるとともに、最小杭頭発生曲げモーメントMminが最大杭頭発生曲げモーメントMmaxの70%以上95%以下になるか否かが判定される。
【0065】
判定工程S4の判定結果が肯定的なものである場合、設計プログラムは終了してもよく、設計プログラムの利用者は、仕様仮設定工程S1で設定された杭7及び定着筋27の仮の仕様を正式な仕様として採用可能である。
一方、判定工程S4の判定結果が否定的なものである場合、設計プログラムは仕様仮設定工程S1を繰り返す。つまり、設計プログラムは、判定工程S4の判定結果が肯定的なものになるまで、仕様仮設定工程S1~判定工程S4を繰り返す。
【0066】
上記設計プログラムによれば、定着筋27の本数を節約しながら、設計上求められる条件を満たすように杭頭接合構造を設計することができる。また、最小杭頭発生曲げモーメントMminを最大杭頭発生曲げモーメントMaxの70%以上にすることができれば、地中での杭7の中間部の発生曲げモーメントの上昇を抑制することができ、杭7の中間部の損傷も防止される杭頭接合構造を設計可能である。
【0067】
最後に、本発明は上述した幾つかの実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
上杭7aは、SC杭に限定されることはなく、PC杭(コンクリート杭)、PHC杭(高強度プレストレストコンクリート杭)及びPRC杭(プレストレスト鉄筋コンクリート杭)等の既製杭であってもよい。
また、杭7は、定着筋27を介してパイルキャップ9と接続されるものであればよく、TB杭(場所打ち鋼管コンクリート杭)等の場所打ち杭であってもよい。
更に、上述した実施形態では、杭頭接合構造の許容曲げモーメントMaの設定、及び、発生曲げモーメントMの設定(M-θ関係の導出)の際に、杭7や定着筋27の仕様を考慮に入れたが、パイルキャップ9のコンクリートの仕様(強度)も考慮に入れてもよいのは勿論である。
【符号の説明】
【0068】
1 杭基礎
3 上部構造
5 杭穴
7 杭
7a 上杭
9 パイルキャップ
11 ソイルセメント
13 外鋼管
15、15a、15b 端板
19 コンクリート部
21 ブロック部
23 中詰め部
27 定着筋