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特開2022-56015荷役搬送経路生成方法、荷役搬送クレーン及び荷役運搬方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056015
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】荷役搬送経路生成方法、荷役搬送クレーン及び荷役運搬方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/48 20060101AFI20220401BHJP
   B66C 13/46 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
B66C13/48 G
B66C13/46 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163784
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】吉成 有介
(72)【発明者】
【氏名】山口 収
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA04
3F204CA01
3F204DA03
3F204DD09
(57)【要約】
【課題】荷役搬送クレーンによって任意の荷役初期位置から任意の荷役目標位置へ吊荷を搬送可能な荷役搬送経路生成方法、荷役搬送クレーン及び荷役運搬方法を提供すること。
【解決手段】クレーンアームのアーム先端部に吊り下げられた吊荷を、クレーンアームの旋回動作によって任意の荷役初期位置から任意の荷役目標位置まで搬送するための荷役搬送経路を生成する荷役搬送経路生成方法であって、荷役初期位置と、荷役目標位置と、クレーンアームのアーム最小旋回円の範囲と、に基づいて、少なくとも一部の荷役搬送経路において吊荷を少なくとも鉛直方向から視て直線軌道で搬送するための荷役搬送経路を算出する、荷役搬送経路生成方法。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンアームのアーム先端部に吊り下げられた吊荷を、前記クレーンアームの旋回動作によって任意の荷役初期位置から任意の荷役目標位置まで搬送するための荷役搬送経路を生成する荷役搬送経路生成方法であって、
前記荷役初期位置と、前記荷役目標位置と、前記クレーンアームのアーム最小旋回円の範囲と、に基づいて、少なくとも一部の荷役搬送経路において前記吊荷を少なくとも鉛直方向から視て直線軌道で搬送するための荷役搬送経路を算出する、荷役搬送経路生成方法。
【請求項2】
前記アーム最小旋回円の外側に中継点を設置し、前記荷役初期位置から中継点を経由して前記荷役目標位置まで前記吊荷を搬送する荷役搬送経路を生成する、請求項1に記載の荷役搬送経路生成方法。
【請求項3】
前記中継点は、鉛直方向から視て、前記荷役初期位置を通る前記アーム最小旋回円の接線と、前記荷役目標位置を通る前記アーム最小旋回円の接線との交点である、請求項2に記載の荷役搬送経路生成方法。
【請求項4】
前記中継点は、鉛直方向から視て、前記荷役初期位置を通る前記アーム最小旋回円の接線と、前記荷役目標位置を通る前記アーム最小旋回円の同心円との交点である、請求項2に記載の荷役搬送経路生成方法。
【請求項5】
鉛直方向から視て、前記荷役初期位置を通る前記アーム最小旋回円の接線と、前記荷役目標位置を通る前記アーム最小旋回円の接線との交点を第1中継点、前記荷役初期位置を通る前記アーム最小旋回円の接線と、前記荷役目標位置を通る前記アーム最小旋回円の同心円との交点を第2中継点とし、
前記中継点は、前記第1中継点を経由する第2搬送経路と、前記第2中継点を経由する第3搬送経路のうち、搬送時間が短い経路の中継点である、請求項2に記載の荷役搬送経路生成方法。
【請求項6】
旋回動作可能とされ、先端部に吊荷が吊り下げられるクレーンアームと、
前記クレーンアームを旋回させるアーム旋回機構と、
前記クレーンアームの起伏角を調整するアーム起伏機構と、
少なくとも一部の荷役搬送経路において前記吊荷の軌道が少なくとも鉛直方向から視て直線軌道となるように、前記アーム旋回機構及び前記アーム起伏機構を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、請求項1~5のいずれか1項に記載した荷役搬送経路生成方法を用いて荷役搬送経路を生成し、前記荷役搬送経路に基づいて前記吊荷を搬送する、荷役搬送クレーン。
【請求項7】
請求項6に記載した荷役搬送クレーンを用いて吊荷を搬送する、荷役運搬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷役搬送経路生成方法、荷役搬送クレーン及び荷役運搬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、製鉄所においてコイルなどの製品を船積みで出荷する際には、旋回式の荷役搬送クレーンを用いて搬送が行われる。この作業は、玉掛けを行う陸側作業者、クレーン操作を行うクレーンオペレータ、及びコイルの船内位置合わせ、固縛を行う船内作業者で行われており、人手のかかる作業となっている。そのため、今後の労働人口減少を鑑みると作業省力化のニーズがある。
【0003】
旋回式の荷役搬送クレーンにおける作業省力化の方法としては、例えば、クレーン操作の自動化が挙げられる。クレーン操作を自動化するためには、吊荷の現在位置である荷役初期位置と吊荷の搬送先である荷役目標位置とから荷役搬送経路を自動で算出する必要がある。これを行う方法として、従来では、タワークレーン(荷役搬送クレーン)の旋回体の旋回とジブの起伏とを制御して、最短距離となる直線軌道で吊荷を搬送する方法(特許文献1)などが取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-112178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、吊荷を直線軌道で搬送するため搬送距離が最短になる。しかし、荷役搬送クレーンには設備の構造上、最小の旋回半径が存在するため、荷役初期位置と荷役目標位置とを直線経路で結ぶと、途中で荷役搬送クレーンの旋回半径が設備制約の下限値を下回る(すなわち最小の旋回半径以下となる)搬送不可能なルートが生成されてしまう場合がある。例えば、吊荷の荷役初期位置と荷役目標位置とが荷役搬送クレーンを挟んで真反対に近い位置にある場合などには、搬送の途中で荷役搬送クレーンの旋回半径が設備制約の下限値を下回る、搬送不可能なルートが生成されてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、荷役搬送クレーンによって任意の荷役初期位置から任意の荷役目標位置へ吊荷を搬送可能な荷役搬送経路生成方法、荷役搬送クレーン及び荷役運搬方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、クレーンアームのアーム先端部に吊り下げられた吊荷を、上記クレーンアームの旋回動作によって任意の荷役初期位置から任意の荷役目標位置まで搬送するための荷役搬送経路を生成する荷役搬送経路生成方法であって、上記荷役初期位置と、上記荷役目標位置と、上記クレーンアームのアーム最小旋回円の範囲と、に基づいて、少なくとも一部の荷役搬送経路において上記吊荷を少なくとも鉛直方向から視て直線軌道で搬送するための荷役搬送経路を算出する、荷役搬送経路生成方法が提供される。
【0008】
本発明の一態様によれば、旋回動作可能とされ、先端部に吊荷が吊り下げられるクレーンアームと、上記クレーンアームを旋回させるアーム旋回機構と、上記クレーンアームの起伏角を調整するアーム起伏機構と、少なくとも一部の荷役搬送経路において上記吊荷の軌道が少なくとも鉛直方向から視て直線軌道となるように、上記アーム旋回機構及び上記アーム起伏機構を制御する制御装置と、を備え、上記制御装置は、上記の荷役搬送経路生成方法を用いて荷役搬送経路を生成し、上記荷役搬送経路に基づいて上記吊荷を搬送する、荷役搬送クレーンが提供される。
本発明の一態様によれば、上記の荷役搬送クレーンを用いて吊荷を搬送する、荷役運搬方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、荷役搬送クレーンによって任意の荷役初期位置から任意の荷役目標位置へ吊荷を搬送可能な荷役搬送経路生成方法、荷役搬送クレーン及び荷役運搬方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る荷役搬送クレーンを示す側面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る荷役搬送クレーンを示す平面図である。
図3】荷役搬送クレーンの荷役可能範囲を示す説明図である。
図4】本発明の一実施形態に係る荷役搬送経路生成方法を示すフローチャートである。
図5】第1搬送経路とアーム最小旋回円との関係を示す説明図である。
図6】第2搬送経路を示す説明図である。
図7】第3搬送経路を示す説明図である。
図8】振れ止め制御の加速度及び速度パターンを示すグラフであり、(A)は加速度パターンを示し、(B)は速度パターンを示す。
図9】第3搬送経路の変形例を示す説明図である。
図10】振れ止め制御の加速度パターンの変形例を示すグラフである。
図11】振れ止め制御の速度パターンの変形例を示すグラフである。
図12】実施例1における搬送経路を示す説明図である。
図13】実施例1における実際の搬送時間を示すグラフである。
図14】実施例2における搬送経路を示す説明図である。
図15】実施例2における実際の搬送時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の詳細な説明では、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0012】
<荷役搬送クレーン>
本発明の一実施形態に係る荷役搬送クレーン1について説明する。荷役搬送クレーン1は、図1及び図2に示すように、クレーンアーム2と、アーム起伏機構3と、アーム旋回機構4と、アーム伸縮機構5と、ワイヤー6とを備える。クレーンアーム2のワイヤー6が取り付けられた先端を、アーム先端部21ともいう。なお、図面において、x軸、y軸及びz軸は、互いに直交する軸であり、x軸及びy軸は水平方向に平行な軸であり、z軸は鉛直方向に平行な軸である。荷役搬送クレーン1は、ワイヤー6の先端に取り付けられる吊荷7を吊り上げ、荷役初期位置Aから荷役目標位置Aまで搬送する。なお、図3に示すように、荷役初期位置Aの座標は(x,y)[単位m]であり、荷役目標位置Aの座標は(x,y)[単位m]である。また、本実施形態では、一例として、吊荷7は、製鉄所で製造された製品であるコイルとする。
【0013】
アーム起伏機構3は、水平方向に対するクレーンアーム2の延在方向の角度である起伏角φ[deg]を調整する。アーム旋回機構4は、クレーンアーム2を旋回させることで、x軸方向に対するクレーンアーム2の延在方向の角度である旋回角θ[deg]を調整する。アーム伸縮機構5は、アーム旋回機構4が設けられたクレーンアーム2の支持位置からのクレーンアーム2の延在方向の突出長さであるアーム長さL[m]を調整する。なお、荷役搬送クレーン1は、アーム伸縮機構5を備えていなくてもよい。
【0014】
また、荷役搬送クレーン1には、ワイヤー6のアーム先端部21からのワイヤー長さを調整する巻き上げ装置(不図示)が設けられる。さらに、荷役搬送クレーン1には、吊荷7を荷役初期位置Aから荷役目標位置Aに搬送するため、アーム起伏機構3、アーム旋回機構4、アーム伸縮機構5及び巻き上げ装置を制御して、起伏角φ、旋回角θ、アーム長さL及びワイヤー長さを調整する制御装置(不図示)が設けられる。制御装置は、荷役初期位置と荷役目標位置と荷役搬送クレーン1の旋回半径とに応じて、吊荷7の軌道である荷役搬送経路を生成する。制御装置による荷役搬送経路の生成方法の詳細については後述する。その後、制御装置は、生成された荷役搬送経路と、最大速度vmax[m/s]と、吊荷振れ周期T[s]と、立ち上げ時間T[s]とを用いて、吊荷7の軌道が生成された荷役搬送経路となるように、クレーンアーム2の旋回角θ、起伏角φ及びアーム長さLを演算する。そして、制御装置は、演算した旋回角θ、起伏角φ及びアーム長さLとなるように、アーム旋回機構4、アーム起伏機構3及びアーム伸縮機構5を制御することで、吊荷7を搬送する。制御装置による荷役搬送クレーン1の振れ止め方法についての詳細は後述する。
【0015】
なお、鉛直方向の上側から視た図3に示すように、荷役搬送クレーン1において、荷役搬送クレーン1の荷役を搬送することができる荷役可能範囲Dは、旋回中心C(点C)を中心として、最小旋回半径rmin[m]以上、最大旋回半径rmax[m]以内の円環状の範囲となる。つまり、この荷役可能範囲D外の領域(旋回中心Cからの距離が最小旋回半径rmin未満又は最大旋回半径rmax超となる位置)では、荷役搬送クレーン1による荷役の搬送ができない。ここで、本実施形態では、荷役搬送クレーン1の荷役搬送経路について、図3のように鉛直方向から視た平面視で考える。この平面において、水平面に平行で互いに直交する軸をx軸及びy軸とし、荷役が通過する位置をx-y座標で示すものとする。
【0016】
<荷役搬送経路の生成方法>
図3を参照して、制御装置による、本実施形態に係る荷役搬送経路の生成方法について説明する。本実施形態では、まず、荷役搬送クレーン1の旋回中心Cと荷役初期位置Aとの第1距離d[m]が、荷役搬送クレーン1の最小旋回半径rmin以上、最大旋回半径rmax以内であるか否かが判定される(S100)。なお、ステップS100では、上述の判定の代わりに、荷役初期位置Aが荷役可能範囲D内に在るか否かが判定されてもよい。
【0017】
ステップS100にて、第1距離dが最小旋回半径rmin以上、最大旋回半径rmax以内である場合、荷役搬送クレーン1の旋回中心Cと荷役目標位置Aとの第2距離d[m]が、荷役搬送クレーン1の最小旋回半径rmin以上、最大旋回半径rmax以内であるか否かが判定される(S102)。なお、ステップS102では、上述の判定の代わりに、荷役目標位置Aが荷役可能範囲D内に在るか否かが判定されてもよい。
【0018】
ステップS100にて、第1距離dが最小旋回半径rmin未満若しくは最大旋回半径rmax超である場合、又は第2距離dが最小旋回半径rmin未満若しくは最大旋回半径rmax超である場合、エラーを出して荷役搬送経路の生成処理が終了する(S104)。ステップS104が処理される場合、現在の荷役初期位置A及び荷役目標位置Aの少なくとも一方に対して、荷役搬送クレーン1からのアクセスができない状態が生じている。このため、現在の荷役初期位置A及び荷役目標位置Aとする荷役搬送経路の形成が不可能となる。
【0019】
ステップS102にて、第2距離dが最小旋回半径rmin以上、最大旋回半径rmax以内である場合、第1搬送経路として、図5に示すように、荷役初期位置Aと荷役目標位置Aとを結んだ直線状の経路(直線L)が算出される(S106)。ステップS102では、第1搬送経路は、下記(1)式で示される直線軌道となる。なお、(1)式において、x及びyは、クレーンアーム2のアーム先端部21のx座標及びy座標をそれぞれ示す。
【0020】
【数1】
【0021】
ステップS106の後、旋回中心Cを中心とした半径が最小旋回半径rminとなる円Rと、直線Lとの交点の数が2点以上か否かが判定される(S108)。円Rは、下記(2)式で示される。また、円Rをクレーンアーム2のアーム最小旋回円ともいう。すなわち、ステップS108では、(1)式に(2)式を代入した方程式である(3)式の判別式((4)式)が、正の値をとる場合には交点の数が2点以上となり、そうでない場合には交点の数が2点未満であると判定される。なお、本実施形態では、旋回中心の点Cの座標を(0,y)とする。
【0022】
【数2】
【0023】
ステップS108の判定の結果、交点の数が1点以下と判定された場合、第1搬送経路が荷役搬送クレーン1の荷役可能範囲にあると判定され、第1搬送経路が最終的な荷役搬送経路として採用される(S110)。例えば、図5の荷役目標位置がA2a,A2bである場合に、円Rと直線L(L0a,L0b)との交点の数が1点以下となる。
【0024】
一方、ステップS108の判定の結果、交点の数が2点以上と判定された場合、第1中継点Aが算出される(S112)。例えば、図5の荷役目標位置がA2cである場合に、円Rと直線L(L0c)との交点の数が2点となる。第1中継点Aは、図6に示すように、荷役初期位置Aを通る円Rの第1接線Lと、荷役目標位置Aを通る円Rの第2接線Lとの交点である。第1接線L及び第2接線Lは、以下のようにして決定される。
【0025】
荷役初期位置Aを通り、円Rと接する直線L1a,L1bは傾きm1a,m1bを使って、下記の(5)式及び(6)式で示される。また、直線L1a,L1bと、点Cとの距離はrminであるので、傾きm1a,m1bは、(7)式の2つの解((8)式及び(9)式)により求められる。
【0026】
【数3】
【0027】
また、荷役目標位置Aを通り円Rと接する直線L2a,L2bについても荷役初期位置Aの場合と同様に計算され、直線L2a,L2bの傾きm2a,m2bは、(10)式及び(11)式により求められる。
【0028】
【数4】
【0029】
荷役初期位置Aを通り傾きがm1a,m1bとなる2本の直線、及び荷役目標位置Aを通り傾きがm2a,m2bとなる2本の直線の合計4本の直線の交点B(i=1~4)は、下記の(12)式~(15)式の座標で表される。なお、交点Bは、最大で4点あり、荷役初期位置A及び荷役目標位置Aは含まれない。
【0030】
【数5】
【0031】
そして、この複数の交点Bの座標の中から、荷役初期位置Aから交点Bまでの距離と荷役目標位置Aから交点Bまでの距離との合計の距離が最小となる交点Bを、第1中継点Aとする。例えば、図6の場合、4点ある交点B図6中ではB,Bのみを表示)のうち、直線L1aと直線L2aとの交点Bが第1中継点Aとして採用される。
第1中継点Aを経由する経路(図6の矢印で示す、荷役初期位置Aから第1中継点Aまで直線状に移動した後、第1中継点Aから荷役目標位置Aまで直線状に移動する経路)を第2搬送経路ともいう。第2搬送経路は、点Cを中心として半径がrmin未満となる円形状の領域を通過せず、一点の中継点を経由して荷役初期位置Aから荷役目標位置Aまで移動する経路のうち、距離が最小となる経路である。
【0032】
ステップS112の後、第2中継点Aが算出される(S114)。第2中継点Aの候補は、図7に示すように、点Cを中心として荷役目標位置Aを通る円Rと、荷役初期位置Aを通る円Rの接線である直線L1a,L1bとの交点C(j=1,2)となる。なお、円Rと直線L1a,L1bとの交点は、それぞれ2点ある交点のうちの荷役目標位置Aに近い方の交点となる。円Rは、下記(16)式で示され、荷役目標位置Aを通りアーム最小旋回円(円R)の同心円である。また、円Rと、直線L1a,L1bとの交点Cの座標は、下記の(17)式及び(18)式で表される。
【0033】
【数6】
【0034】
第2中継点Aを経由する経路(図7の矢印で示す、荷役初期位置Aから第2中継点Aまで直線状に移動した後、第2中継点Aから荷役目標位置Aまで円弧状に移動(旋回)する経路)を第3搬送経路ともいう。なお、本実施形態では、荷役搬送経路(第3搬送経路)において、少なくとも一部(荷役初期位置Aから第2中継点Aまで)が直線軌道であればよく、その他の部分(第2中継点Aから荷役目標位置Aまで)は円弧軌道であっても構わない。第3搬送経路は、第2搬送経路に比べて搬送する距離が長くなる。第2搬送経路で搬送を行う場合、第1中継点Aを中継して、後述する速度パターンでの振れ止め制御が2回行われる。これに対して、第3搬送経路では、速度パターンでの振れ止め制御は、荷役初期位置Aから第2中継点Aまでの区間でのみ行われる。このため、第2中継点Aから荷役目標位置Aまでの距離が短い場合には、第2中継点Aから荷役目標位置Aまでの移動を荷振れが起こらない遅い速度で旋回させても、第2搬送経路よりも短い時間で搬送できることがある。
【0035】
ステップS114の後、中継点が決定され、荷役搬送経路が決定される(S116)。ステップS116では、第2搬送経路で搬送した場合の第2搬送時間T[s]と、第3搬送経路で搬送した場合の第3搬送時間T[s]とが算出される。第2搬送時間T及び第3搬送時間Tは、下記の(19)式及び(20)式を用いて算出される。なお、Tはクレーン吊荷の振れ周期[s]、N:は振れが発生しない旋回速度[rpm]、θは終点でのクレーン旋回角[deg]、θは第2中継点でのクレーン旋回角[deg]、vmaxは振れ止め制御時最大速度[m/s]をそれぞれ示す。振れ周期Tは、下記(21)式で定義される。なお、(21)式において、lはワイヤー6の長さ[m]であり、Gは重力加速度[m/s]である。
【0036】
【数7】
【0037】
その後、ステップS116では、第2搬送時間Tと第3搬送時間Tとを比較し、T≦Tの場合には中継点として第1中継点Aを採用し、T>Tの場合には中継点として第2中継点Aを採用する。なお、T=Tの場合には、中継点として第2中継点を採用してもよい。そして、採用された中継点を経路とする搬送経路が、最終的な荷役搬送経路に採用される。つまり、ステップS116では、第2搬送経路と第3搬送経路について、搬送時間の短い方の経路が、最終的な荷役搬送経路に採用される。
【0038】
<荷役運搬方法>
本実施形態に係る荷役運搬方法では、荷役搬送クレーン1を用いて、上述の荷役搬送経路の生成方法により決定された荷役搬送経路で吊荷7を搬送する。この際、第2中継点Aから荷役目標位置Aまでの経路のように搬送経路が円弧状である場合、荷振れが起こらない程度の遅い搬送速度で吊荷が搬送される。一方、搬送経路が直線状である場合には、以下の振れ止め制御が行われる速度パターンで吊荷が搬送される。搬送経路が直線状となる場合とは、第1搬送経路で搬送する場合、第2搬送経路において荷役初期位置Aから第1中継点Aまで搬送する場合、第2搬送経路において第1中継点Aから荷役目標位置Aまで搬送する場合、及び第3搬送経路において荷役初期位置Aから第2中継点Aまで搬送する場合である。
【0039】
振れ止め制御の速度パターンとしては、例えば「大川ら、天井クレーンの自動化、NKK技報、1995年、No.149」に記載の速度パターンを適用することができる。具体的には、図8に示す速度及び加速度のパターンでクレーンアームのアーム先端部21の速度v[m/s]を制御する。図8に示すパターンでは、直線状の搬送経路において、搬送期間を(a)~(g)の7区間に分割し、搬送開始からの経過時間t[s]に応じた下記の(22)式~(28)式の速度とする。なお、amaxは最大加速度[m/s]、vmaxは最大速度[m/s]、tは最大速度vmaxでの吊荷搬送時間[s]をそれぞれ示す。図8(A)の0≦t≦(3/2)Tの期間における面積(=T・amax)がvmaxとなる。また、図8(B)の0≦t≦t+3Tの期間における面積(=(t+(3/2)T)vmax)が吊荷の搬送距離となる。
【0040】
【数8】
【0041】
本実施形態によれば、荷役初期位置Aと、荷役目標位置Aと、クレーンアーム2のアーム最小旋回円(円R)の範囲とに基づいて、少なくとも一部の荷役搬送経路において吊荷7を少なくとも鉛直方向から視て直線軌道で搬送するための荷役搬送経路が算出される。また、アーム最小旋回円の外側に中継点(第1中継点又は第2中継点)を設置し、荷役初期位置Aからこの中継点を経由して荷役目標位置Aまで吊荷7を搬送する荷役搬送経路を生成する。つまり、荷役初期位置A、荷役目標位置A並びに荷役搬送クレーン1の位置の座標及び最小旋回半径rminから、直接搬送できるパターンと中継点の経由を必要とするパターンとに分別できるようになる。このため、任意の荷役初期位置Aから任意の荷役目標位置Aへ吊荷を搬送可能な荷役搬送経路を自動生成できるようになる。
【0042】
また、中継点が必要な場合、搬送距離が最短ルートとなる中継点と速度パターンによる振れ止め制御が1度で済むルートとなる中継点を抽出し、搬送時間を計算することで、任意の荷役初期位置Aから任意の荷役目標位置Aへ吊荷を最短時間で搬送可能な荷役搬送経路を自動生成できるようになる。
また、特許文献1の搬送方法では、フィードバック制御のみで吊荷の振れ止め制御しているため、搬送開始時の加速によって大きな荷振れが発生し、振れ止め操作量も大きくなり、駆動系出力が大きい荷役搬送クレーンが必要となる。これに対して、本実施形態によれば、速度パターンによる振れ止め制御を行うことで、駆動系出力が小さい荷役搬送クレーンでも適用することができる。
【0043】
<変形例>
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態とともに種々の変形例を含む本発明の別の実施形態も明らかである。従って、特許請求の範囲に記載された発明の実施形態には、本明細書に記載したこれらの変形例を単独または組み合わせて含む実施形態も網羅すると解すべきである。
【0044】
例えば、上記実施形態では、第1中継点Aと第2中継点Aを求め、第2搬送経路と第3搬送経路のうち搬送時間が短くなる荷役搬送経路を採用としたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、ステップS112以降の処理において、第1中継点Aのみを求め、第2搬送経路を最終的な荷役搬送経路として採用してもよい。また、第2中継点Aのみを求め、第3搬送経路を最終的な荷役搬送経路として採用してもよい。
また、上記実施形態では、吊荷の振れ止め制御がクレーン先端の速度パターン制御によって行われるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。風等による外乱影響が大きい場合には、上述の速度パターン制御にフィードバック制御を組み合わせてもよい。
【0045】
さらに、上記実施形態では、ステップS114にて、第2中継点Aの候補が点Cを中心として荷役目標位置Aを通る円Rと、荷役初期位置Aを通る円Rの接線である直線L1a,L1bとの交点Cであるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、図9に示すように、第2中継点Aの候補を、点Cを中心として荷役初期位置Aを通る円Rと、荷役目標位置Aを通る円Rの接線である直線L2a,L2bとの交点Cとしてもよい。この場合においても、上記実施形態と同様な方法で、円R上の第2中継点Aが算出される。
【0046】
さらに、上記実施形態では、(22)式~(28)式の速度パターンを用いるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、図10及び図11のような加速度パターン及び速度パターンを用いてもよい。この場合、図10に示すように、まず、一定時間である立ち上げ時間T[s]で直線的に加速度aを立ち上げる。立ち上げ時間Tは、加速度aを変化させる所定の時間であり、設備仕様の範囲内でできるだけ短い時間とすることが好ましい。次いで、一定の加速度aで振れ周期Tのn(自然数)倍の時間(nT)をかけて加速を行う。なお、搬送時間は短い方が好ましいため、設備の出力的に実現可能であれば、n=1とすることが好ましい。さらに、Tの時間で加速度aを直線的に低減させて定速での搬送を行う。このようにすることで定速での搬送中は吊荷の振れ角が0となる。その後、停止時には、加速時と逆の操作を行い、振れ角0で目標位置に吊荷を停止させる。
【0047】
このような制御を行った場合、アーム先端部21の速度vは、図11に示すように変化する。図11において、tは吊荷搬送時間[s]であり、下記(29)式で示す、図10のグラフの斜線で囲まれた面積S(グラフの積分値)が荷役初期位置から荷役目標位置までの距離となるよう吊荷搬送時間tが設定される。また、各経過時間tにおけるアーム先端部21の速度vは、下記(30)式~(36)式で示される。なお、(30)式はt<Tとなる時間、(31)式はT≦t<nTとなる時間、(32)式はnT≦t<nT+Tとなる時間、(33)式はnT+T≦t<t-nT-Tとなる時間、(34)式はt-nT-T≦t<t-nTとなる時間、(35)式はt-nT≦t<t-Tとなる時間、(36)式はt-T≦t≦tとなる経過時間におけるアーム先端部21の速度vをそれぞれ示す。
【0048】
【数9】
【実施例0049】
本発明の効果を評価するため、上記実施形態に係る荷役搬送経路の生成方法にて経路生成を行い、荷役搬送クレーン1を用いて以下の試験を行った。
実施例1では、図1及び図2で示されるような荷役搬送クレーン1で振れ止め制御を行い、長さ10mのワイヤー6で吊った重量10tの熱延コイルを座標(x,y)[単位m]の(0,10)に旋回中心がある荷役搬送クレーン1で荷役初期位置A(25,5)から荷役目標位置A(-20,15)まで搬送する場合の経路生成を行った。この荷役搬送クレーン1の最小旋回半径rminは11m、最大旋回半径rmaxは45m、振れが発生しない旋回速度N=0.3rpm、振れ止め制御時最大速度vmax=1.5m/sである。
【0050】
実施例1では、図12に示すように、直線L1a,L1bと直線L2a,L2bとの交点B図12中ではB,Bのみを表示)のうち中継点としたときに最も経路が小さくなる交点B(2.01,22.24)が第1中継点Aとなる。さらに、直線L1a,L1bと円Rとの交点のうち中継点としたときに最も経路が小さくなる点C(-7.35,29.26)が、第2中継点Aとなる。これら2点を中継点とする第2搬送経路及び第3搬送経路について(19)式及び(20)式を用いて第2搬送時間T及び第3搬送時間Tを算出した。その結果、第1中継点Aを経由する第2搬送時間Tが53.6秒、第2中継点A4を経由する第3搬送時間Tが67.1秒となった。実際にこれらの搬送ルートで吊荷7を搬送した際の結果を図13に示す。旋回終了(運搬終了)までに要した時間は、第2搬送経路で53.1秒、第3搬送経路で66.6秒となり、計算値とほぼ一致し、交点Bを中継点とする最短経路が導出できることがわかった。
【実施例0051】
次に同じ荷役搬送クレーン1で、荷役初期位置A(35,15)から荷役目標位置A(-20,20)まで搬送する場合の経路生成を行った。
図14に示すように、直線L1a,L1bと直線L2a,L2bとの交点B図14中ではB,Bのみを表示)のうち中継点としたときに最も経路が小さくなる交点B(0.68,21.04)が第1中継点Aとなる。さらに、直線L1a,L1bと円Rとの交点のうち中継点としたときに最も経路が小さくなる点C(-17.26,24.21)が、第2中継点Aとなる。これら2点を中継点とする第2搬送経路及び第3搬送経路について(19)式及び(20)式を用いて第2搬送時間T及び第3搬送時間Tを算出した。その結果、第1中継点Aを経由する第2搬送時間Tが56.1秒、第2中継点A4を経由する第3搬送時間Tが52.1秒となった。実際にこれらの搬送ルートで吊荷7を搬送した際の結果を図15に示す。旋回終了(運搬終了)までに要した時間は、第2搬送経路で55.7秒、第3搬送経路で51.7秒となり、計算値とほぼ一致し、交点Cを中継点とする最短経路が導出できることがわかった。
【符号の説明】
【0052】
1 荷役搬送クレーン
2 クレーンアーム
21 アーム先端部
3 アーム起伏機構
4 アーム旋回機構
5 アーム伸縮機構
6 ワイヤー
7 吊荷
図1
図2
図3
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