(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056024
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】加工装置および加工装置の自動補正方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/02 20060101AFI20220401BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20220401BHJP
B23Q 17/12 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
B23Q15/02
G05B19/404 K
B23Q17/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163794
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺村 優
【テーマコード(参考)】
3C001
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KB01
3C001TA02
3C001TB08
3C001TC02
3C269AB02
3C269BB03
3C269EF10
3C269MN24
(57)【要約】
【課題】本発明は、センサを取付けても加工スペースを十分に確保でき、自動で寸法補正を行うことを目的とする。
【解決手段】被加工材2を回転可能に把持するチャック5と、チャック5を保持するチャック保持部6と、工具3と工具3を保持する工具保持部4と、主要構造部7に取り付けられた振動センサ11と、解析変換部12と、制御部13を有する加工装置1。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材と工具を相対的に移動または回転させることで外形状または内形状を加工する加工装置であって、
前記被加工材を保持するためのチャックと、
前記チャックに保持された前記被加工材を加工するための前記工具を少なくとも1つは保持する工具保持部と、
振動を検出するための振動センサと、
前記振動センサにより得た振動データを解析し、補正値に置き換え出力する解析変換部と、
前記解析変換部からの前記補正値を用いて補正する制御部と、
を有する事を特徴とする加工装置。
【請求項2】
前記振動センサを取り付ける位置は、前記工具保持部、または前記チャックを保持しているチャック保持部などの加工装置本体の主要構造部である事を特徴とする請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記工具保持部および前記被加工材の少なくとも一方の移動をコンピュータにより数値制御し、あらかじめプログラムされた軌道に前記解析変換部から出力された前記補正値を用いて補正した加工軌道に従って、加工を行う事を特徴とする請求項1または2に記載の加工装置。
【請求項4】
前記解析変換部は、前記被加工材と前記工具が接触する前にデータ収集を開始するデータ起点から前記被加工材と前記工具の接触により振動の波形が変動するデータ変動点までの間隔をもとに前記補正値を算出する事を特徴とする請求項1から3に記載の加工装置。
【請求項5】
前記振動センサは、1つにつき、複数個または複数種の前記工具の振動を検出する事を特徴とする請求項1から4に記載の加工装置。
【請求項6】
前記補正値は、前記被加工材の加工寸法を補正するための寸法値または、前記加工軌跡のずれを補正するための機械上の座標値であることを特徴とする請求項1から5に記載の加工装置。
【請求項7】
被加工材と工具を相対的に移動または回転させることで外形状または内形状を加工する加工装置の自動補正方法であって、
前記加工装置の主要構造部に取り付けられた振動センサによって、対象の前記工具について振動データを検出し、解析変換部に出力する処理と、
前記解析変換部によって、前記振動データをもとにデータ起点、データ変動点を検出し、前記データ起点、前記データ変動点より、測定データ間隔を算出し、前記測定データ間隔と基準データ間隔とを比較し変動点差異を算出し、前記変動点差異をもとに補正値を算出すし、制御部に出力する処理と、
前記制御部によって、前記補正値をもとに自動で補正を行う処理と、
を有することを特徴とする加工装置の自動補正方法。
【請求項8】
前記データ起点は、対象の前記工具の前記加工軌跡上で決められた箇所から前記振動データの検出が開始された点であることを特徴とする請求項7に記載の加工装置の加工装置の自動補正方法。
【請求項9】
前記データ起点は、対象の前記工具の加工プログラムによって決められたタイミングで前記振動データの検出が開始された点であることを特徴とする請求項7に記載の加工装置の自動補正方法。
【請求項10】
前記補正値は、前記被加工材の加工寸法を補正するための寸法値または、前記加工軌跡のずれを補正するための機械上の座標値であることを特徴とする請求項7から9に記載の加工装置の自動補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工後の寸法を制御する加工装置および自動補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動旋盤などの加工装置で、被加工材を複数個または複数種の工具で加工し、1つの製品を連続加工で生産する場合において、連続で加工される製品の加工後の寸法を管理することは一般的であり、所定の個数を加工した後に加工された製品を取出し、各寸法を計測し、目的の寸法からの差異を補正するために機械に補正値を入力するという管理方法を行っていた。
【0003】
特許文献1には、刃先と加工部の位置関係を把握するために、刃先が加工部に当たったことを接触検知センサで関知し、刃合わせを行う製造装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の製造装置を用いて刃先と加工部の位置関係を検知し、加工のずれを補正しようとすると、刃物が取り付けられている加工ヘッド(刃物ホルダ、工具ホルダ)内にセンサを設置するスペースを確保するために加工ヘッドを大きくしなければならないという問題があった。
【0006】
さらに、通常の自動旋盤などでは、1つの製品を加工するために複数の種類の工具を使用し加工する為、特許文献1の製造装置では1つの刃物に対し、1つのセンサが必要になることから、工具数に応じたセンサの数が必要になり、限られた加工スペース内には設置することが困難であった。また、補正自体も手動で行わなければならない。
【0007】
本発明は、センサを取付けても加工スペースを十分に確保でき、自動で寸法補正を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
被加工材と工具を相対的に移動または回転させることで外形状または内形状を加工する加工装置であって、被加工材を保持するためのチャックと、チャックに保持された被加工材を加工するための工具を少なくとも1つは保持する工具保持部と、振動を検出するための振動センサと、振動センサにより得た振動データを解析し、補正値に置き換え出力する解析変換部と、解析変換部からの補正値を用いて補正する制御部と、を有する事を特徴とする加工装置である。
【0009】
より好ましくは、振動センサを取り付ける位置は、工具保持部、またはチャックを保持しているチャック保持部などの加工装置本体の主要構造部である。
【0010】
より好ましくは、制御部は、工具保持部および被加工材の少なくとも一方の移動をコンピュータにより数値制御し、あらかじめプログラムされた軌道に、解析変換部から出力された補正値を用いて補正した加工軌道に従って加工を行う。
【0011】
より好ましくは、解析変換部は、被加工材と工具が接触する前にデータ収集を開始するデータ起点から被加工材と工具の接触により振動の波形が変動するデータ変動点までの間隔をもとに補正値を算出する。
【0012】
より好ましくは、振動センサは、1つにつき、複数個または複数種の前記工具の振動を検出する。
【0013】
また、被加工材と工具を相対的に移動または回転させることで外形状または内形状を加工する加工装置の自動補正方法であって、加工装置の主要構造部に取り付けられた振動センサによって、対象の工具について振動データを検出し、解析変換部に出力する処理と、解析変換部によって、振動データをもとにデータ起点、データ変動点を検出し、データ起点、データ変動点より、測定データ間隔を算出し、測定データ間隔と基準データ間隔とを比較し変動点差異を算出し、変動点差異をもとに補正値を算出し、制御部に出力する処理と、制御部によって、補正値をもとに自動で補正を行う処理と、を有することを特徴とする加工装置の自動補正方法である。
【0014】
より好ましくは、データ起点は、対象の工具の加工軌跡上で決められた箇所から振動データの検出が開始された点である。
【0015】
より好ましくは、データ起点は、対象の工具の加工プログラムによって決められたタイミングで振動データの検出が開始された点である。
【0016】
より好ましくは、補正値は、被加工材の加工寸法を補正するための寸法値または、加工軌跡のずれを補正するための機械上の座標値である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、振動センサの取り付け位置は加工装置本体の主要構造部であればよいため、加工ヘッドが大きくなることはなく、1つの刃物に対して1つのセンサではなく、複数の刃物を1つのセンサで検出する事が可能になることで、センサを取付けても加工スペースを十分に確保でき、自動で寸法補正を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態の加工装置1の全体を表した斜視図である。
【
図2】本実施形態の加工装置1の加工部側から見た正面図である。
【
図3】振動センサ11から得た振動データの波形について表した図で、(a)は所定の寸法で加工した場合の基準データ波形20aを表し、(b)は所定の寸法からずれた状態で加工した場合の測定データ波形20bを表した図である。
【
図4】本実施形態の加工装置1の上方から見た図で、被加工物2及びチャック5のみを抜き出した図であり、(a)は、所定の寸法を加工した場合の加工軌跡31を表し、(b)は、加工軌跡31からずれた場合の補正前加工軌跡32と補正前加工軌跡32を補正した後の補正後加工軌跡33を表した図である。
【
図5】本発明の別の実施形態の加工装置51の全体を表した斜視図である。
【
図6】本発明の別の実施形態の加工装置101の全体を表した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。各図面における装置の図は、説明に必要な部位を誇張してあるもので、実際の寸法や大小関係と異なるものとする。
【0020】
図1は、本実施形態の加工装置1の全体を表した斜視図であり、
図2は、加工装置1を加工部側から見た正面図である。加工部側とは、被加工材2や工具3があり、実際に加工がおこなわれる側の事である。
【0021】
加工装置1は、被加工材2を回転可能に把持するためのチャック5と、チャック5を保持するためのチャック保持部6と、被加工材2を加工するための工具3を保持する工具保持部4を有する。また、工具保持部4とチャック保持部6は基台8に搭載されており、それぞれがXYZ軸方向に相対的に移動可能となっている。主要構造部7は、チャック保持部6、工具保持部4、基台8からなる。また、加工装置1は被加工材2を連続加工し、製品を作るもので、被加工材2は、加工が終わると取り除かれ、別の被加工材2の加工が始まる。
【0022】
工具保持部4は、工具3を取付ける為の工具取付部4aと、工具取付部4aを移動可能に保持する工具取付基部4bを有する。工具取付部4aには、振動センサ11が取り付けられており、振動センサ11は、解析変換部12と配線14で繋がっており、振動センサ11で得られたデータを解析変換部12に出力する。また、解析変換部12は、制御部13と配線14で繋がっており、振動センサ11から入力されたデータをもとに補正値に変換し、制御部13に出力する。
【0023】
制御部13は、解析変換部12から入力された補正値をもとに補正を行い、被加工材2を所定の寸法範囲で加工する。また、制御部13は、チャック保持部6および工具保持部4の少なくとも一方を相対的に移動するよう制御する。
【0024】
図3は、振動センサ11から得た振動データの波形について表した図で、(a)は所定の寸法で加工した場合の基準データ波形20aを表し、(b)は所定の寸法からずれた状態で加工した場合の測定データ波形20bを表した図である。
図4は、本実施形態の加工装置1の上方から見た図で、被加工物2及びチャック5のみを抜き出した図であり、(a)は、所定の寸法を加工した場合の加工軌跡31を表し、(b)は、加工軌跡31からずれた場合の補正前加工軌跡32と補正前加工軌跡32を補正した後の補正後加工軌跡33を表した図である。また、
図4(b)では補正前加工軌跡32と補正後加工軌跡33を見やすくする為に補正後加工軌跡33をZ方向に少しずらして図示している。
【0025】
振動センサ11は、常に振動データを検出しているが、工具3の加工軌跡31上の決められた点または、加工プログラムによって決められたタイミングの少なくともどちらか一方をデータ起点21とし、振動データの波形が大きく変動する点をデータ変動点22a、22bとして検出する。
【0026】
図3(a)は、所定の寸法を加工した場合の基準データ波形20aを表しており、波形が大きく変動する点をデータ変動点22aとし、データ起点21からデータ変動点22aの間を基準データ間隔24としている。
図3(b)は、所定の寸法からずれた状態で加工した場合の測定データ波形20bを表しており、波形が大きく変動する点をデータ変動点22bとし、データ起点21からデータ変動点22bの間を測定データ間隔25としている。
【0027】
基準データ波形20aは、被加工材2を目標とする所定の寸法で加工した場合の基準データとなる波形であり、加工する箇所や使用する工具3毎に値および波形が異なるものであり、
図3(a)はその一例である。測定データ波形20bは、実際の連続加工時の内の1つの被加工材2を1つの工具3で加工した場合の波形であり、使用する工具3毎にそれぞれ波形を検出するものであり、
図3(b)はその一例である。
【0028】
基準データ間隔24は、連続加工がおこなわれる前に被加工材2を加工し、予め取得したものを用いても良く、連続加工がおこなわれた直後の1個で取得したものまたは複数個から取得したものの平均値を用いても良い。
【0029】
解析変換部12は、基準データ間隔24と測定データ間隔25との差異の間隔を変動点差異23とし、変動点差異23から補正値を算出し、制御部13に出力することで補正を行う。補正値は、被加工材2の寸法を補正するための寸法値と、工具3の加工軌跡31を補正するための加工装置1における座標値の少なくとも一方が選択され、制御部13に出力されることにより自動で補正が行われる。
【0030】
図4(a)は、被加工材2を所定の寸法で加工するために工具3を相対的に動かすための加工軌跡31を表している。
【0031】
図4(b)の補正前加工軌跡32は、工具の摩耗や装置の熱変位などが原因で、加工軌跡31からずれてしまった状態を表している。補正前加工軌跡32の状態で加工を行うと、振動センサ11が
図3(b)のような波形を出力し、上述した補正方法によって加工軌跡31に近づける補正を行い補正後加工軌跡33で加工されるようになる。
【0032】
上述した補正方法は、補正前加工軌跡32を加工軌跡31に近づけるための補正であるが、これに限定されず、被加工材2毎に得られる変動点差異23が一定値を超えた場合にあらかじめ定められた補正値を解析変換部12から制御部13に出力し、自動補正を行う方法でも良い。
【0033】
また、上述した補正方法で補正されるタイミングは実際に測定データ波形20bを検出した被加工材2に反映させるために被加工材2の加工途中でも良く、実際に測定データ波形20bを検出した被加工材2の次に加工される別の被加工材2に反映されるタイミングでも良い。
【0034】
図5、
図6はそれぞれ、本発明の別の実施形態の加工装置51、101の全体を表した斜視図である。
【0035】
図5は、
図1と同系統の加工装置51であり、振動センサ11がチャック保持部6に取り付けてあること以外は
図1と同じ構成となっている。また、振動センサ11の取付位置が異なっていても
図1の構成の場合と同様に振動データ波形を検出する事が可能であり、
図1の構成の場合と同様の処理によって寸法の自動補正が可能であり、同様の効果を得ることが出来る。
【0036】
図6は、被加工材2が長い棒状のバー材を加工するための加工装置101であり、被加工材2の加工が終わると、加工された部分が切り落とされ、新しく未加工部分が現れることで、その未加工部分が新たな被加工材2の加工対象部分となる。加工装置101は、加工部側にブッシュ40があり、ブッシュ40はブッシュ保持部41に保持されている。加工部側に対してZ方向で反対側には、被加工材2を回転可能に把持するチャック5と、チャック5を保持するためのチャック保持部6を有している。
【0037】
主要構造部7は、チャック保持部6、工具保持部4、ブッシュ保持部41、基台8からなる。また、チャック保持部6はZ方向、工具保持部4はX方向とY方向に移動可能となっている。また、振動センサ11の取付位置が異なっていても
図1の構成の場合と同様に振動データ波形を検出する事が可能であり、
図1の構成の場合と同様の処理によって寸法の自動補正が可能であり、同様の効果を得ることが出来る。
【0038】
図5、
図6の構成の加工装置51、101の場合でも、
図1の構成の加工装置1と同様の方法で、振動を検知し同様の処理によって自動補正を行う。
【0039】
なお、本実施形態における加工装置1、51、101は、自動旋盤の構成となっており、加工装置1、51は一般的なチャッカ―機、加工装置101は一般的な主軸移動型旋盤を用いて説明していたが、工具3と被加工材2の加工時における振動を検知できるものであれば、装置自体の系統は限定されない。一例として、フライス盤、研削盤などの装置でも同様の効果が得られる。その他、本発明の技術思想の範囲から逸脱しない様々な変更や構成の代替は、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1 加工装置
2 被加工材
3 工具
4 工具保持部
4a 工具取付部
4b 工具取付基部
5 チャック
6 チャック保持部
7 主要構造部
8 基台
11 振動センサ
12 解析変換部
13 制御部
14 配線
20a 基準データ波形
20b 測定データ波形
21 データ起点
22a、22b データ変動点
23 変動点差異
24 基準データ間隔
25 測定データ間隔
31 加工軌跡
32 補正前加工軌跡
33 補正後加工軌跡
40 ブッシュ
41 ブッシュ保持部
51 加工装置
101 加工装置